説明

二酸化炭素冷媒ヒートポンプ式給湯機

【課題】二酸化炭素冷媒(CO2 )を用いたヒートポンプ式給湯機において、漏れ電流を容易に低減でき、低圧チャンバ方式圧縮機摺動部の耐摩耗性を確保できる、かつ環境に配慮したヒートポンプ式給湯機を提供する。
【解決手段】二酸化炭素冷媒を吸入圧縮する低圧チャンバ方式密閉型電動圧縮機と、前記圧縮機から吐出された冷媒を放熱する熱交換器と、前記熱交換器から流出する冷媒を減圧する減圧器と、前記減圧器にて減圧された冷媒を吸熱させる熱交換器を介し循環する冷凍サイクルにおいて、密閉型電動圧縮機の冷凍機油として、二酸化炭素と程よい相溶性を示し、かつ潤滑性に優れ、摩擦抵抗が少なく耐摩耗性が良好で、かつ超臨界炭酸に溶解し難く、さらに電気特性、特に誘電率の小さく吸水性が低い組成を有するポリオールエステル油、もしくはそれらの混合油を用いたことを特徴とするヒートポンプ式給湯機。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素冷媒を用いたヒートポンプ式給湯機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、冷凍サイクルの冷媒には自然冷媒である二酸化炭素(CO2 )が注目されている。適用可能な製品としては電動カーエアコン,寒冷地用暖房機器及び給湯機等が挙げられる。冷凍サイクルには、更なる省エネルギー化,高効率化が要求されている。
【0003】
給湯機には、ヒートポンプ式と一般家庭用給湯機の主流であるガス式とがある。ガス式に比して二酸化炭素を用いたヒートポンプ式はランニングコストが約1/5と低い。また、ヒートポンプ式は成績係数(COP:Coefficient of Performance)が3.0 以上であり、電気温水器と比べても高効率化が可能である。
【0004】
ヒートポンプ式給湯機にHFC(Hydro Fluoro Carbons)冷媒を適用すると、冷媒の熱物性から最高で約60℃の給湯しかできない。また、非常に高出力の圧縮機が必要である。一方、二酸化炭素冷媒を用いた場合、冷媒の熱物性から約90℃の出湯が可能である。二酸化炭素冷媒は、不燃性,低毒性であり、地球環境保全の観点からも好ましい。
【0005】
ヒートポンプサイクルを構成する密閉型電動圧縮機には、密閉容器内を吐出圧力する高圧チャンバ方式と、密閉容器内を吸入圧力とする低圧チャンバ方式とがある。密閉型電動圧縮機には冷凍機油が使用され、その摺動部の潤滑,密封,冷却等の役割を果たす。圧縮機の信頼性確保のため、潤滑性に優れ、省エネルギー化,高効率化に対応するための冷凍機油が要求されている。特に二酸化炭素冷媒を用いた圧縮機は、高温(120〜130℃),高圧(約15MPa)条件であり、冷凍機油は厳しい条件で使用される。
【0006】
特開平10−46169号(特許文献1)は、両末端がアルキル化されたポリアルキレングリコール油を開示する。両末端がアルキル化されたポリアルキレングリコール油は、冷媒との相溶性や熱化学安定性が優れるため、現在、二酸化炭素を冷媒としたヒートポンプ式給湯機に主として採用されている。
【0007】
特開2000−104084号(特許文献2)には、二酸化炭素と相溶性を持つ冷凍機油としてポリオールエステル油が開示されている。
【0008】
特開2001−294886号(特許文献3),特開2000−110725号(特許文献4),特開2003−336916号(特許文献5)には、二酸化炭素と相溶性を持つ冷凍機油として炭化水素油を用いることが開示されている。炭化水素油は、誘電率等の電気特性に優れており、吸水性が低い。
【0009】
【特許文献1】特開平10−46169号公報
【特許文献2】特開2000−104084号公報
【特許文献3】特開2001−294886号公報
【特許文献4】特開2000−110725号公報
【特許文献5】特開2003−336916号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載されているポリアルキレングリコール油は、抵抗値が低く、電気絶縁油としての体積抵抗率の規格である1013Ω・cmを大きく下回る。また、ポリアルキレングリコール油は、誘電率が約5.0 と非常に高いため、システム稼動時の漏れ電流が増大する。その結果、電気用品安全法に定められる漏れ(リーク)電流値1.0mA 以下を満足することが難しい。なお、電気用品安全法は、電気用品の製造,輸入,販売等を規制するとともに、電気用品の安全性の確保につき民間事業者の自主的な活動を促進することにより、電気用品による危険及び障害の発生を防止することを目的とするものである。
【0011】
特に前記した瞬間式の場合、大容量の圧縮機を始動時から高速回転させて出湯するため、漏れ電流が非常に大きくなる。この漏れ電流を抑制するために、始動時における圧縮機の回転数を抑制したり、漏洩電流低減回路(キャンセラ回路)を追加したりする必要が生じる。また、圧縮機内にはエステル系絶縁フィルム(主に耐熱PET:Poly Ethylene Terephtalate)が使用されている。二酸化炭素冷媒を用いた系内に水分が多量に存在すると、炭酸水素イオンとプロトンを生成するため絶縁フィルムの劣化が著しい。従って、二酸化炭素冷媒と組み合わせる冷凍機油の吸水性が低いことが好ましい。しかしポリアルキレングリコール油は非常に吸水性が高く、油中水分は圧縮機内のエステル系絶縁フィルムの加水分解に寄与してしまう。従って、ポリアルキレングリコール油は加水分解に対して安定であるが、使用には水分を管理するための設備や時間を要する。
【0012】
特許文献2に記載されるポリオールエステル油は、二酸化炭素冷媒との相溶性が高すぎ、圧縮機内での溶解粘度が大幅に低下することから封入する油粘度も非常に高くなり、圧縮部のシール性に問題があり圧縮効率の低下が起こってしまう。特に二酸化炭素を用いたヒートポンプサイクルは超臨界状態で運転されるため相溶性が高すぎると冷凍サイクルへの油流出が多くなり、圧力損失や熱交換効率が大幅に低下する恐れがある。
【0013】
特許文献3ないし5に記載される炭化水素油は、炭化水素油自体の潤滑性が低いため、潤滑性の低い二酸化炭素を冷媒とする過酷な摺動条件では不適切である。また、アルキルベンゼン油は粘度指数が小さいため冷凍サイクルの低温部での粘度が増大し滞留するため不向きである。ポリαオレフィン油は粘度指数が高く低温流動性に優れるが、圧縮機への油戻りの面で万全ではなく、圧縮機内の油量が減少することによる摺動部材の摩耗が増加もしくは焼付きを生じてしまう問題がある。
【0014】
上記した理由からヒートポンプ式給湯機には二酸化炭素と程好い相溶性を示し、かつ潤滑性に優れ、摩擦抵抗が少なく耐摩耗性が良好で、かつ超臨界炭酸に溶解し難く、さらに電気特性、特に誘電率の小さく吸水性が低い冷凍機油を用いることが好ましい。
【0015】
本発明は上記に鑑み、給湯機の漏れ電流を容易に低減でき、圧縮機の長期信頼性を確保しつつ、かつ省エネルギー化,高効率化が可能な環境に配慮した低圧チャンバ方式圧縮機搭載ヒートポンプ式給湯機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するための本願発明の特徴は請求項に記載の通りである。特に、下記化1〜化3の一般式(式中、Rは炭素数11〜19のアルキル基を表す。)のポリオールエステル油、もしくはそれらの混合油を二酸化炭素冷媒を用いた冷凍サイクルの冷凍機油として用いた点にある。
【0017】
【化1】

【0018】
【化2】

【0019】
【化3】

【発明の効果】
【0020】
上記本発明の構成によれば、圧縮機等の摩擦抵抗を低減し、熱交換効率を向上させ、かつ漏れ電流の抑制の容易な冷凍サイクルを提供可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
上記課題の具体的解決手段は、二酸化炭素を冷媒とする冷凍サイクルの密閉型圧縮機の潤滑油として、化1〜化3の構造式(式中、Rは炭素数11〜19のアルキル基を表す。)のポリオールエステル油、もしくはそれらの混合油を用いたことにある。
【0022】
【化4】

【0023】
【化4】

【0024】
【化5】

【0025】
その結果、圧縮機摺動部において摩耗を防止でき、製品の信頼性・耐久性が向上する。特に、ポリオールエステル油の動粘度が100℃で5〜20mm2/s の粘度範囲であり、かつ粘度指数が120以上である混合油を用いることが好ましい。粘度が5mm2/s 未満であると、二酸化炭素冷媒が溶解した粘度が低くなってしまい圧縮機摺動部での油膜が十分に保持されず潤滑性が保てない。さらに二酸化炭素は拡散係数が大きいことから圧縮部のシール性も保てない。一方、20mm2/s を超えると、粘性抵抗,摩擦抵抗等の機械損失が増大することから圧縮機効率を低下させ、更には粘性が大きくなり圧縮機への油戻り量が少なくなってしまう問題がある。上記の冷凍機油を用いることにより、圧縮機摺動部の摩耗を大幅に抑制できる。
【0026】
冷凍機油の粘度指数は、二酸化炭素では、フロン系冷媒対応油と比べて若干高めとすることが、冷凍サイクル低温部での冷凍機油の滞留を考慮し、圧縮機への油戻り量が確保しやすいため、潤滑性やシール性の上で好ましい。高めの粘度グレードの冷凍機油とは、具体的には、粘度指数(JIS K 2283で測定)は120以上である。式中Rにおける主成分の炭素数が11未満の脂肪酸を用いたポリオールエステル油であるとこれを満足しない。
【0027】
上記冷凍サイクルを用いたヒートポンプ式給湯機は、二酸化炭素冷媒を吸入圧縮する密閉型圧縮機と、圧縮機から吐出された冷媒を放熱する熱交換器と、熱交換器から流出する冷媒を減圧する減圧器と、減圧器にて減圧された冷媒を吸熱させる熱交換器とを備える。これらを冷媒が循環することにより、熱を発生させお湯を沸かすことができる。特に、ヒートポンプ式給湯機に2つのヒートポンプサイクルを設け、同時起動運転を行わせることが好ましい。圧縮機内の有機絶縁材料は、物理的及び化学的に劣化を受けにくい材料、例えば130℃以上の耐熱性を有するPETや、ポリエステルイミド−ポリアミドイミドとすることが好ましい。
【0028】
また、ヒートポンプ式給湯機のフィルタ回路の一方を交流電源とアースに接続し、もう一方の端子間の交流電圧を測定し、この電圧を1kΩで除した漏れ電流値を1mA以下とすることが好ましい。複雑な制御やキャンセラ回路を用いない場合でも漏洩電流を低減できる。
【0029】
二酸化炭素冷媒のヒートポンプ式給湯機の圧縮機では、高圧側で約15MPa、低圧側でも約3MPaの圧力がかかる非常に過酷な摺動条件である。二酸化炭素冷媒は、HFCなどハロゲン系の冷媒とは異なり、冷媒自身の潤滑保持力がない。従って、圧縮機の摺動部摩耗を増加させるため給湯機の長期信頼性が低下しやすい。更にはサイクル内に水分が存在すると、二酸化炭素冷媒が炭酸となるために密閉式電動圧縮機に使用するエステル系絶縁フィルムの大幅な機械強度や伸び低下を引き起こす。
【0030】
ヒートポンプ式給湯機には、予め沸かしたお湯をタンクに貯めておく貯湯方式と、お湯を使用する毎にヒートポンプサイクルを起動して必要量だけお湯を沸かして給湯する瞬間式との2通りの給湯方式がある。
【0031】
一般的には貯湯方式が主流である。貯湯方式では、ヒートポンプサイクルユニットと別に用途に応じた容量の貯湯タンクユニットを設け、お湯を沸かしてためておく。貯湯方式の給湯機は、事前にお湯を沸かしておくため、出力が小さい圧縮機を使用することができる。また、夜間に深夜電力を利用してヒートポンプサイクルを稼動し、家庭が一日で使用するお湯をタンク7に貯めておくことができる。また、貯湯方式では吐出温度をより高温にでき、水冷媒熱交換器でのお湯を早く作れるといった優位性もある。
【0032】
一方、瞬間式給湯機は、その都度運転し給湯するのでお湯の使用量の制限がなく、湯切れがないという優位性がある。また、給湯するまでの間のお湯を貯めておく補助的な小容量のタンクを用いるので、ヒートポンプサイクルと貯湯タンクを一体とすることが容易である。また、貯湯方式の給湯機に比べて設置スペースが小さくでき、軽量であるためマンションなど集合住宅にも設置し易い。また、貯湯方式と比べ稼働時間が大幅に少なくなるので、COPが向上し、省エネルギー化が図れる。
【0033】
ヒートポンプサイクルを構成する密閉型電動圧縮機には、密閉容器内を吐出圧力する高圧チャンバ方式と吸入圧力とする低圧チャンバ方式とがある。前記した瞬間式では、立ち上がりが早い低圧チャンバ方式を使用することが好ましい。例えばスクロール式圧縮機では、密閉容器内にスクロールラップが設けられた固定スクロールと、前記固定スクロールとかみ合い圧縮室を形成する旋回スクロールとを備え、サイクルからの冷媒を前記密閉容器内に戻し、前記圧縮室で圧縮された冷媒を吐出室に導き吐出室から吐出パイプを介してサイクルに冷媒を循環させる。
【0034】
ヒートポンプ式給湯機の密閉型圧縮機の例としては、スクロール式,ロータリー式圧縮機,ローラとベーンが一体化されたスイング式圧縮機が挙げられる。
【0035】
ポリオールエステル油は、多価アルコールと1価の脂肪酸とから合成される。特に、熱安定性に優れるヒンダードタイプが好ましい。例えば、多価アルコールとしては、ネオペンチルグリコール,トリメチロールプロパン,ペンタエリスリトールがある。1価の脂肪酸としては、炭素数が12〜20であり、n−ドデカン酸,n−トリデカン酸,n−テトラデカン酸,n−ペンタデカン酸,n−ヘキサデカン酸,n−ヘプタデカン酸,n−オクタデカン酸,n−ノナデカン酸,n−エイコサン酸,i−ドデカン酸,i−トリデカン酸,i−テトラデカン酸,i−ペンタデカン酸,i−ヘキサデカン酸,i−ヘプタデカン酸,i−オクタデカン酸,i−ノナデカン酸,i−エイコサン酸等があり、これら単独又は2種類以上の混合脂肪酸を用いる。
【0036】
ポリオールエステル油の粘度(JIS K 2283で測定)は、低圧チャンバ方式圧縮機の機構から100℃において5〜20mm2/s の範囲が好ましい。
【0037】
圧縮機内で使用される絶縁材料の用途は、分布巻モータの鉄心とのコイル絶縁にフィルム材,コイルの縛り糸,モータの口出し線の被覆材に繊維状の材料等が使用されている。
【0038】
電気絶縁の耐熱クラスはJEC−6147(電気学会電気規格調査標準規格)で規定されており、二酸化炭素冷媒用圧縮機に採用されている絶縁材料も例外なく前記規格の耐熱種により選定される。しかし、冷凍空調機器用の有機絶縁材料の場合、冷媒雰囲気中という特殊な環境で使用されるため、温度以外にも圧力による変形・変性を抑制すること、更には冷媒や冷凍機油といった有極性化合物にも接触するため耐溶剤性,耐抽出性,熱的・化学的・機械的安定性,耐冷媒性(クレージング(皮膜にストレスを与えた後、冷媒に浸漬すると発生する微細な蛇腹状クラック)、ブリスタ(皮膜に吸収された冷媒が、温度上昇によって引き起こされる皮膜の気泡))等も考慮しなくてはいけない。二酸化炭素冷媒が圧縮機内で超臨界状態になるヒートポンプ式給湯機では一般の冷凍・空調機器と比較して絶縁材料の使用環境が厳しい。このため、より高い耐熱クラス(B種130℃以上)の絶縁材料を使用する必要がある。
【0039】
圧縮機内で最も多く使用される絶縁材料はPET(ポリエチレンテレフタレート)である。用途としては、これ以外の絶縁フィルムとしては、PPS(ポリフェニレンサルファイド),PEN(ポリエチレンナフタレート),PEEK(ポリエーテルエーテルケトン),PI(ポリイミド),PA(ポリアミド)などが挙げられる。また、コイルの主絶縁被覆材料には、THEIC変性ポリエステル,ポリアミド,ポリアミドイミド,ポリエステルイミド,ポリエステルアミドイミド等が使用され、ポリエステルイミド−アミドイミドのダブルコートを施した二重被覆銅線が好ましく使用される。
【0040】
本発明では前記した冷凍機油に潤滑性向上剤,酸化防止剤,酸捕捉剤,消泡剤,金属不活性剤等を添加しても全く問題はない。特にポリオールエステル油は、水分共存下で加水分解に起因する劣化が生じる場合があり、酸化防止剤,酸捕捉剤の配合は必須である。酸化防止剤としては、フェノール系であるDBPC(2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール)が好ましい。酸捕捉剤としては、エポキシ系,カルボジイミド系などがあるが、脂肪族のエポキシ化合物が一般的に用いられる。
【0041】
本発明の冷凍機油の用途としては、二酸化炭素冷媒を用いたヒートポンプ式給湯機の他、同様に二酸化炭素冷媒を用いた電動カーエアコン,ルームエアコン及び寒冷地向暖房器具,自動販売器等がある。
【0042】
〔実施例〕
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではなく、二酸化炭素冷媒を用いたその他の用途にも適用される。
【0043】
本実施例で使用する瞬間式のヒートポンプ式給湯機について以下に説明する。ヒートポンプ式給湯機には前記したように2通りの給湯方式(貯湯方式と瞬間式)があるが、本実施例では特に漏れ電流や圧縮機の摩耗が問題になる高出力圧縮機を搭載した。なお、瞬間式は高出力を要求されるため冷媒サイクルが二系統のものを用いて説明しているが、これに限定されるものではない。
【0044】
図1は、ヒートポンプ式給湯機の基本的な構成例を示す図である。また、二酸化炭素冷媒が循環する冷媒サイクル(図中の実線)と、給水された水を加熱する水サイクル(図中の破線)とがある。図2は、ヒートポンプ式給湯機のおおよその配置を示す図である。
【0045】
まず、冷媒サイクルについて説明する。圧縮機1A,1Bは、低温,低圧の冷媒ガスを圧縮し、高温,高圧の冷媒ガスを吐出して水冷媒熱交換器2に送る。水冷媒熱交換器2に送られた冷媒ガスは、その熱を給水された低温の水に顕熱交換する。その後、電動膨張弁3を通り、低温,低圧となって空気側熱交換器4A,4Bへ送られる。空気側熱交換器4A,4Bに入った冷媒は周囲から熱を吸収して蒸発し、送風ファン5A,5Bにより冷気を放出する。空気側熱交換器4A,4Bを出た低温,低圧の冷媒ガスは再び圧縮機1A,1Bに吸込まれ、以下同じサイクルが繰り返される機構となっている。二酸化炭素冷媒は超臨界サイクルとなるため高圧側は臨界点を超え、圧力を任意で設定できることから容易に100℃近い高温水を得ることが可能である。
【0046】
次に水を加熱する水サイクルについて説明する。最初に給水口6から低温の水が供給され、水冷媒熱交換器2に送られて冷媒から熱を得てお湯になり、一度貯湯タンク7に送られて出湯口8から給湯される。その際に、給湯される水冷媒熱交換器2から送られてきたお湯の温度調節のため、給水口6から直接的に水を混合して使用してよい。
【0047】
また、水冷媒熱交換器2は、貯湯タンク7のお湯を再加熱し保温するサイクルの熱源にも使用される。さらに、図示はしていないが、直接給水される水以外にも、風呂浴槽の追い炊きや、床暖房や浴室暖房の熱源に水冷媒熱交換器2を使用し、家庭用のトータルエネルギーシステムの熱源とすることができる。
【0048】
図2では、設備のコンパクト化のため、瞬間式の熱源ユニットと容量が小さい補助タンクを用いた貯湯タンクユニットが一体化されている。貯湯方式ヒートポンプ式給湯機のように、大容量の貯湯タンクを用いる場合には、熱源ユニットと貯湯タンクユニットを別々に設けてもよい。
【0049】
ヒートポンプ式給湯機には、ロータリー式等容積形圧縮機が主として用いられる。図3は、本実施例の圧縮手段の例として、横置スクロール式電動圧縮機の縦断面の説明図を示す。密閉容器9内に、圧縮要素10と電動要素11が収納されている。圧縮要素10は固定スクロール12,旋回スクロール13および旋回スクロール13の自転を阻止するオルダムリング14からなる。固定スクロール12と旋回スクロール13は各々螺旋形状の渦巻体12a,13aと該渦巻体が直立する端板12b,13bより構成されている。13cは旋回スクロール13の背面部ボス部に形成された旋回軸受部,12cは固定スクロール12の略中心部に形成された吐出ポートである。15は旋回スクロール13を駆動するクランク軸で一端には電動要素11が嵌合固定されている。16はクランク軸15を軸支するフレームで軸受部16a,16bを有するとともに旋回スクロール13の端板13b背面空間に背圧室16cが形成されている。また、フレーム16にはシールリング17が取り付けられており、このシールリング17によって旋回軸受部13cや軸受部16a,16bに背圧室16c内のガスが漏れこまないように密封している。18は密閉容器1の底面部に貯留されている冷凍機油、19は吐出カバー、19aは吐出室、20は吐出パイプ、21は吸込パイプである。15aはクランク軸15内に形成された油通路、15bはクランク軸15の表面に形成されたスパイラル溝である。クランク軸15の端部には給油ポンプ22が設置されており、これにより各摺動部へ冷凍機油18を供給する。
【0050】
冷媒ガスは、吸込パイプ21から密閉容器1内に流入し圧縮要素10内で圧縮され、吐出ポート12cを通って吐出室19aに入り吐出パイプ20から外部の冷凍サイクルに流出する。旋回スクロール13には背圧室16cと任意の圧縮室とを連通する中間孔13eを設けており、背圧室の圧力を(吸込圧力×一定値)となるように制御している。
【0051】
上記のとおり、本実施例は吸込んだ冷媒ガスを密閉容器1内に流入させる低圧チャンバ方式である。低圧チャンバ方式では、密閉容器1の薄肉化が図れ、圧縮機を軽量化できる利点がある。特に、動作圧力が10MPa以上と高い二酸化炭素を冷媒として用いた場合に有効である。
【0052】
〔実施例1〕
高速高負荷条件
実施例1では前記した給湯機を用いて180日運転する実機試験を行った。給湯機を7℃(春秋期を想定)の恒温室内で運転し、給湯温度を約42℃で最も湯量が得られる条件(吐出圧力約9MPa,吐出温度80℃)において、高速高負荷での連続試験を行った。本実施例では冷凍機油としてポリオールがネオペンチルグリコール系であり、脂肪酸が炭素数18分岐鎖脂肪酸と炭素数16直鎖脂肪酸とのポリオールエステル油(化合物Aのポリオールエステル油(POE))を圧縮機に封入した。なお、モータの鉄心とのコイル絶縁には耐熱PETフィルム(B種130℃)を、コイル主絶縁には、ポリエステルイミド−アミドイミドのダブルコートを施した二重被覆銅線を用いた。
【0053】
上記化合物Aを含め、実施例1ないし4で使用した冷凍機油の密度,粘度を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
次に、本実施例の給湯機の評価項目について説明する。
【0056】
給湯機の信頼性を確保する上で、圧縮機の摩耗を抑制することが重要である。そのため給湯機の評価には圧縮機の摩耗状態に着眼し、試験前後での滑り主軸受け〜シャフト間の摩耗による隙間増加量を測定した。滑り軸受け〜シャフト間の隙間増加量が増えるほど摩耗量が大きいことを示しており、一般に隙間増加量が増えるに伴い振動や騒音が大きくなる。
【0057】
冷媒と冷凍機油の相溶性が劣ると、圧縮機への油戻り量が少なくなり、冷凍機油の減少により摺動部の潤滑不良を起こす。
【0058】
更に、漏れ電流を測定するため、フィルタ回路の一方を交流電源とアースに接続し、もう一方の端子間の交流電圧を測定し、この電圧を1kΩで除した値を漏れ電流として測定した。給湯機起動時に漏れ電流が多くなることから運転開始1分間で最も高い電流値を実施例に記載した。
【0059】
また、COP(Coefficient of Performance)を測定し、現在二酸化炭素用冷凍機油として一般的に使用されている化合物B(PAG:ポリアルキレングリコール油)を100%(基準)として比較例1に表示した。
【0060】
比較例2には、化合物C(PAO:ポリαオレフィン油)を取り上げた。化合物B,化合物Cは油種以外ではいずれも100℃における動粘度が5〜20mm2/s の範囲内で、粘度指数も120以上である。
【0061】
給湯機の目標値として、滑り軸受け〜シャフト間の摩耗による隙間増加量が10μm以下、漏れ電流値が1.0mA 以下であること、試験後の圧縮機内残油量が減少なきこと、COPが比較例1を100%とした場合に100%以上となることの全項目を満たすことを目標とした。実施例1及び比較例1,2の冷凍機の評価結果を表2に示す。表2には冷凍機油の動粘度(100℃)と粘度指数を併記した。
【0062】
【表2】

【0063】
表2から明らかなように、実施例1で示した本発明の給湯機は、摩耗量が少なく、漏れ電流値が低く抑制されている。さらに運転後の圧縮機の残油量も二酸化炭素冷媒と最適な相溶性を示すため十分な油戻りが確保されており、かつ比較例1と比べたCOPが大幅に向上していることがわかる。これに対して比較例1で示す給湯機は漏れ電流が非常に大きく、条件を満たしていない。漏れ電流は用いた冷凍機油の種類によって決まり、比較例1で取り上げたポリアルキレングリコール油は誘電率が5.0 と大きいために漏れ電流値が大きくなってしまう。比較例2では、二酸化炭素冷媒と非相溶性を示す冷凍機油であるため冷媒サイクルの低温部である電磁膨張弁3から空気側熱交換器4に大量に滞留してしまい圧縮機内の残油量が大幅に低下し、摩耗が増加したため試験を中断した。
【0064】
〔実施例2,3〕
中速高負荷条件
次に、給湯機の設置温度を実施例1より低い−5℃(冬期を想定)とし、給湯温度を約90℃で出湯する条件(吐出圧力約13MPa,吐出温度110℃)において、中速高負荷での断続試験を行った。
【0065】
実施例2は、実施例1において性能の向上を確かめられた化合物A、実施例3は、ポリオールがネオペンチルグリコール/ペンタエリスリトール混合系であり、脂肪酸が炭素数18分岐鎖脂肪酸と炭素数16直鎖脂肪酸とのポリオールエステル油(化合物Dのポリオールエステル油(POE))を冷凍機油として用いて、圧縮機に封入し、実機試験を行った例である。
【0066】
比較例3として、比較例1と同じ冷凍機油(化合物B)を用いCOPの基準とした。比較例4〜7は、全てポリオールエステル油であるが、100℃における動粘度が5〜20mm2/s 、及び粘度指数120以上の両方を満足していない化合物である。使用した冷凍機油は、ポリオールがペンタエリスリトールであり、脂肪酸が炭素数7分岐鎖脂肪酸と炭素数8分岐鎖脂肪酸とのポリオールエステル油(化合物Eのポリオールエステル油)、ポリオールがペンタエリスリトール/ジペンタエリスリトール混合系であり、脂肪酸が炭素数8分岐鎖脂肪酸と炭素数9分岐鎖脂肪酸とのポリオールエステル油(化合物Fのポリオールエステル油)、ポリオールがジペンタエリスリトールであり、脂肪酸が炭素数8分岐鎖脂肪酸と炭素数9分岐鎖脂肪酸とのポリオールエステル油(化合物Gのポリオールエステル油)、ポリオールがペンタエリスリトール/ジペンタエリスリトール混合系であり、脂肪酸が炭素数18分岐鎖脂肪酸と炭素数16直鎖脂肪酸とのポリオールエステル油(化合物Hのポリオールエステル油)である。これらを圧縮機に封入し、実施例2と同様の実機試験を実施した。実施例2,3及び比較例4〜7の結果を表3に示す。表3には冷凍機油の動粘度(100℃)と、粘度指数を併記した。
【0067】
【表3】

【0068】
表3から明らかなように、実施例2〜3で示した本発明の給湯機は、滑り軸受け〜シャフト間の隙間増加量を低減できた。また、比較例3と比べて漏れ電流を大幅に抑制できた。試験運転後の残油量も十分であり、比較例3を基準としたCOPも向上した。
【0069】
一方、比較例の化合物E〜Gのポリオールエステル油を用いた給湯機は、脂肪酸の炭素数が小さいため二酸化炭素冷媒が冷凍機油に溶け込み易い分子構造を有し、その結果溶解粘度が低下し、油膜強度が得られず摩耗が増加した。また、圧縮機の圧縮部での十分なシール性が保たれなくなっているのでCOPが低下している。超臨界炭酸に対する溶解性が大きいため、圧縮機から冷媒サイクルへの油上がり量が増大して熱交換効率を低下させた。特に比較例4の化合物Eでは、100℃における動粘度が5mm2/s 未満、粘度指数も120未満であって、最も性能が低い例であった。
【0070】
また、比較例7の化合物Hを用いた給湯機では、二酸化炭素冷媒と冷凍機油の相溶性は適切であって、油膜強度が保持されており、滑り軸受け〜シャフト間の隙間増加量を低減できている。しかしながら動粘度が100℃において20mm2/s を超えて高めであるため圧縮機の粘性抵抗,機械損失が増大した結果COPを低下させている。
【0071】
〔実施例4〕
(有機絶縁材料評価)
次に、実施例4では、冷凍機油として化合物Aを封入し、実施例1と同条件で圧縮機内の有機絶縁材料評価を行った。絶縁フィルムは耐熱グレード(B種130℃)のPETフィルムを、エナメル銅線にはポリエステルイミド−ポリアミドイミドの二重被覆線を用いた。比較例8では、冷凍機油として化合物Aを封入し、絶縁フィルムに汎用(E種120℃)のPETフィルムを、エナメル銅線には一般的なポリエステル被覆線を用いた。
【0072】
絶縁材料の評価項目について説明する。絶縁フィルムについては、試験前後での引張強度保持率並びに伸び保持率を測定した。保持率50%以上を目標とした。また、エナメル銅線に関しては外観変化や鉛筆硬度変化,巻付特性,絶縁破壊電圧(JIS C 3003)を測定し、耐冷媒性ではクレージングとブリスタを観察した。これらの項目については、試験前後で変化がないことを目標とした。実施例4及び比較例8の結果を表4に示す。
【0073】
【表4】

【0074】
実施例4の絶縁フィルムの引張強度保持率は80%、伸び保持率が60%であり問題がないことを確認した。また、エナメル銅線については、鉛筆硬度が5H、巻付特性が自己径に問題はなく良好であった。絶縁破壊電圧が初期値とほぼ同等の14.8kV であり、クレージングやブリスタが発生していないことを外観から確認した。
【0075】
これに対して、比較例8で示した給湯機の絶縁フィルムは、引張強度保持率と伸び保持率が50%以下であり、目標値を満足していなかった。
【0076】
また、PETのオリゴマー成分は、油側へ溶出しており、モータの勘合部に入り込み起動不良を引き起こす危険がある。また、エナメル銅線にもおいても、鉛筆硬度の低下がみられ、観察から耐冷媒性で問題になるクレージングやブリスタが発生していることを確認した。
【0077】
以上の実施例の結果から、本発明の給湯機は低圧チャンバ方式圧縮機の摩耗を抑制し、漏れ電流を大幅に抑制可能である。更に長期絶縁信頼性が十分に確保でき、かつ、COPを向上できる給湯機が得られる。本実施例では低圧チャンバ方式のスクロール式圧縮機を用いたが、この他、ロータリー式圧縮機やローラとベーンが一体化されたスイング式圧縮機でも同様な効果が得られる。また、実施例では低圧チャンバ方式圧縮機を用いることで、ヒートポンプサイクルの立ち上がりが早くできる瞬間式給湯機を説明したが、深夜電力を利用する貯湯方式(業務用に使用する高容量タイプも含む)のヒートポンプ式給湯機においても、二酸化炭素冷媒の吐出温度を高くできるため高効率化が図れ、かつ有機部材の長期信頼性が保てるなどの利点を有する。
【産業上の利用可能性】
【0078】
ヒートポンプ式給湯機以外にも二酸化炭素冷媒を用いた電動カーエアコン及び寒冷地向暖房器具,自動販売器等にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】給湯機を説明する概略図である。
【図2】給湯機ユニットの縦断面図である。
【図3】低圧チャンバ方式密閉型電動圧縮機を説明する断面図である。
【符号の説明】
【0080】
1 圧縮機
2 水冷媒熱交換器
3 電動膨張弁
4 空気側熱交換器
5 送風ファン
6 給水口
7 貯湯タンク
8 出湯口
9 密閉容器
10 圧縮要素
11 電動要素
12 固定スクロール
12a,13a 螺旋形状の渦巻体
12b,13b 端板
12c 吐出ポート
13 旋回スクロール
13c 旋回軸受部
14 オルダムリング
15 クランク軸
16 フレーム
16a,16b 軸受部
16c 背圧室
17 シールリング
18 冷凍機油
19 吐出カバー
19a 吐出室
20 吐出パイプ
21 吸込パイプ
22 給油ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素冷媒を吸入し圧縮する密閉型圧縮機と、前記圧縮機から吐出された冷媒に放熱させる第一の熱交換器と、前記熱交換器から流出した冷媒を減圧させる減圧器と、前記減圧器にて減圧された冷媒に吸熱させる第二の熱交換器とより構成されるヒートポンプを有し、前記冷媒をヒートポンプに循環させるヒートポンプ式給湯機において、
前記密閉型圧縮機は、低圧チャンバ方式の圧縮機であり、
前記密閉型圧縮機の冷凍機油は、(化1),(化2),(化3)のいずれかの一般式
(式中、Rは炭素数11〜19のアルキル基を表す。)で表されるポリオールエステル油のいずれか、または混合物よりなることを特徴とするヒートポンプ式給湯機。
【化1】

【化2】

【化3】

【請求項2】
請求項1に記載されたヒートポンプ式給湯機において、
前記冷凍機油の粘度範囲は、動粘度が100℃で5〜20mm2/s であり、かつ粘度指数が120以上であることを特徴とするヒートポンプ式給湯機。
【請求項3】
請求項1に記載されたヒートポンプ式給湯機において、
前記ヒートポンプを2サイクル有することを特徴とするヒートポンプ式給湯機。
【請求項4】
請求項3に記載されたヒートポンプ式給湯機において、
前記ヒートポンプ式給湯機は、前記2サイクルのヒートポンプを同時に起動し運転する瞬間式であることを特徴とするヒートポンプ式給湯機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−241086(P2008−241086A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−80454(P2007−80454)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(399048917)日立アプライアンス株式会社 (3,043)
【Fターム(参考)】