説明

二重巻きパイプ用高強度銅めっき鋼板及びその製造方法

【目的】二重巻きパイプ製造後に300MPa以上の降伏応力を呈し、しかも、二重巻きパイプの拡管加工、フレア加工、曲げ加工等に耐えられるような優れた延性と高い耐銅浸入性、かつ、優れた低温靭性を有する二重巻きパイプ用高強度銅めっき鋼板を提供する。
【構成】C:0.01〜0.10質量%,Mn:0.05〜1.0質量%,P:0.02〜0.2質量%以下,sol.Al:0.03〜0.10質量%,N:0.002〜0.008質量%,B:0.002〜0.005質量%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる成分組成を有する冷延焼鈍鋼板を基材とし、その表面に銅めっきが施されたもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のブレーキチューブや冷蔵庫の放冷管等として使用される二重巻きパイプを製造する際、セルフブレージング処理中にあっては耐銅浸入性に優れ、二重巻きパイプ製造後にあっても優れた耐圧性を示すべく高強度であり、しかも、二重巻きパイプの拡管加工、フレア加工、曲げ加工等に耐えられるような優れた延性、かつ、優れた低温靭性を有する高強度銅めっき鋼板とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のブレーキチューブや冷蔵庫の放冷管等には銅めっき鋼板を素材とした二重巻きパイプが使用されている。
二重巻きパイプは、所定幅に裁断しためっき鋼板を造管用ロールでパイプ状に二重に巻き重ねた後、めっき層の融点以上(例えば、めっき層がCuの場合は1130℃程度に加熱した窒素と水素の混合ガス雰囲気中)に1〜2分間保持して、Cuめっき層を溶融させ、その溶融しためっき層で巻き重ね面間を相互に融解接合させる、いわゆるセルフブレージング(自己ろう付)により製造されている。
【0003】
そして、図1に示されるような断面構造を有している。すなわち、1は素地鋼板(冷延鋼板)、2,3は銅めっき層,4はセルフブレージングにより形成された銅融着層である。巻き重ね面間の接合性の良否は、渦流探傷法や曲げ試験などにより検査される。二重巻きパイプの製造に使用される銅めっき鋼板は、セルフブレージングの熱処理で、素地鋼板の結晶組織が粗大化し過ぎないこと(耐粗粒化性)、素地鋼板中への溶融銅の浸透(鋼板の脆化を引き起こす)を生じにくいこと(耐銅浸透性)、及び二重巻きパイプ成形後に行われる拡管加工やフレア加工に耐える良好な延性、さらに、優れた低温靭性を有すること、等が要求されている。
【0004】
このため、従来から使用されてきた低炭素アルミキルド鋼においても、上記の要求に応えるため、様々な改良技術が提案されている。
例えば、本出願人も、耐銅浸入性及び加工性向上を目的として、鋼板表層に微細なAlN析出物を分散させる技術を提案した(特許文献1参照)。
また、他の出願人から、加工性と強度を兼ね具えさせるために、フェライト組織の平均結晶粒径を細かくしたものを用いることの提案もなされている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特許第3720185号公報
【特許文献2】特開2005−240101号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1,2で提案された技術も、それなりの効果を有しているので、重宝されてきた。しかしながら、最近の自動車に見られるように、軽量化、高機能化がますます進展している。これらの要求を満足させるためには、二重巻きパイプも薄肉化することが求められている。特許文献1,2で提案された技術は、上記要求には必ずしも十分に応えきれていない。従来の二重巻きパイプ用銅めっき鋼板は、強度よりもむしろ加工性の確保を主眼においている。このため、降伏応力が200MPa級の低炭素アルミキルド鋼が用いられている。このため、軽量化のために薄肉化すると所望の耐圧性を確保することができない。
また、他に、降伏応力300MPa以上の銅めっき鋼板で二重巻きパイプを製造する事例を紹介する文献は見当たらない。
【0006】
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、薄肉化した鋼板であっても、二重巻きパイプ製造後に優れた耐圧性を示すべく300MPa以上の降伏応力を呈し、しかも、二重巻きパイプの拡管加工、フレア加工、曲げ加工等に耐えられるような優れた延性と、優れた低温靭性、さらに、従来鋼よりも高い耐銅浸入性を有する二重巻きパイプ用高強度銅めっき鋼板を提供することを目的とする。
なお、本出願では、特許文献1,2に開示されているような従来の降伏強度が200MPa級の銅めっき鋼板に対して、本発明に従う降伏強度が300MPa級の銅めっき鋼板を高強度材と称することがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の二重巻きパイプ用高強度銅めっき鋼板は、その目的を達成するため、C:0.01〜0.10質量%,Mn:0.05〜1.0質量%,P:0.02〜0.2質量%以下,sol.Al:0.03〜0.10質量%,N:0.002〜0.008質量%,B:0.002〜0.005質量%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる成分組成を有する冷延焼鈍鋼板を基材とし、その表面に銅めっきが施されていることを特徴とする。
このような銅めっき鋼板は、上記の化学組成を有するスラブを熱間圧延し巻取温度450〜600で巻取り、圧下率50〜90%で冷間圧延した後、100〜200℃/hの加熱速度で450〜600℃に加熱してその温度で1h以上保持し、引き続き100〜200℃/hの加熱速度で700〜800℃に加熱してその温度で5h以上均熱保持し、その後炉冷する工程からなる箱焼鈍を施した後、当該鋼板に銅めっきを施すことにより製造される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、銅めっきを施す鋼板のP,Al,N及びBの含有量が細かく規定されている。このため、各成分の作用効果が十分に発揮され、高強度化とともに高延性化が図られた鋼板が提供される。しかも銅めっき後に二重巻きしてセルフブレージングする際にも効果的に溶融銅の粒界浸入を抑制することが可能になる。
これらの総合により、高強度で、かつ拡管加工、フレア加工、曲げ加工等に耐えられる二重巻きパイプが低コストで提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明者等は、二重巻きパイプ用銅めっき鋼板として、最適な鋼成分組成及び製造条件について、鋭意検討を重ねてきた。
その過程で次の知見を得た。
(1)低炭素アルミキルド鋼をベースに固溶強化元素であるPの含有量を増やして鋼板の降伏強度を高める。その結果として二重巻きパイプの板厚を薄くしても所定の耐圧性能が得られるので、二重巻きパイプを用いて製造される製品の軽量化が可能となる。また、含有Pは、後記のBと同様に、セルフブレージング処理時に結晶粒界に偏析し、溶融銅が粒界に浸入して脆化割れを起こすことを抑制する作用がある。
しかし、Pの含有量を増やすと低温靭性が低下するため、Bの添加により低温靭性の低下を抑制する。
【0010】
(2)特別な熱処理である箱焼鈍の450〜600℃と700〜800℃でのステップ焼鈍によって固溶Alと固溶NをAlNとして析出させ、鋼中の固溶Nが低減することにより鋼板の延性が向上する。その鋼板に銅めっきを施し二重巻きパイプを製造するので、鋼板の延性改善により二重巻きパイプの高延性化が図れる。
【0011】
(3)Bは、前述の低温靭性の低下を抑制する以外に、次の効果も呈する。セルフブレージング処理を行うために加熱する段階の950〜1100℃において、析出していたBNの一部が分解し、固溶Bを生成する。そして固溶Bは結晶粒界に偏析して溶融銅の粒界浸入を抑制する。また、一方、残存するBNは結晶粒の成長を抑制し、粗粒化を防止する。そしてこの耐粗粒化性は、上記の溶融銅の粒界浸入を抑制することにもなる。さらに、AlNとBNの溶解度積の差異により、セルフブレージングの約1130℃程度でAlNに比べてBNは分解しにくく、BNとして残存するものが多い。それにより、固溶NをBNとして固定する作用がAlNより強く、セルフブレージング後においても固溶Nを低減できる。そのため、二重巻きパイプの延性が向上する。
【0012】
以上の知見を総合した結果、本発明に到達したものである。特に、P含有量を従来よりも多くして強化を図るとともに粒界への偏析量を多くし、溶融銅に対する粒界脆化の抑制作用を利用したものである。
以下に、本発明を具体的に説明するが、本発明では、素地となる炭素鋼板の含有C,Mn,P,sol.Al,N及びB量が厳密に規定されていることを特徴としている。
本発明における素地鋼板の化学組成の限定理由は次のとおりである。
【0013】
C:0.01〜0.10質量%
C量が少ない程延性が高く、加工性は優れる。しかし、0.01質量%に満たない程まで脱炭することは、製鋼工程での脱炭時間が長くなり、製造コストが高くなる。また、粗粒となりやすく、耐銅浸入性が低下する。逆に、0.10質量%を超えるほどに多くなると、セルフブレージング処理後の冷却過程で、針状のフェライト組織が形成され易く、二重巻きパイプの延性の低下が顕著になる。
【0014】
Mn:0.05〜1.0質量%
Mnは鋼の熱間脆性の防止を目的として添加する。0.05質量%に満たないとその目的が達成できない。逆に1.0質量%を超えるほどに多くなると、セルフブレージング処理後の冷却過程で、針状のフェライト組織が形成され易く、二重巻きパイプの延性の低下が顕著になる。
【0015】
P:0.02〜0.2質量%
Pは延性を劣化させることなく、鋼板及び二重巻きパイプの高強度化に寄与する元素である。また、Pは、後記のBと同様に、結晶粒界に偏析して二重巻きパイプの溶融銅の粒界浸入を抑制する。また、これらの作用を発現するには0.02質量%以上が必要である。しかし、0.2質量%を超えて含有すると、結晶粒界に偏析して粒界の強度を低下させ、二重巻きパイプの延性を顕著に劣化させる。
【0016】
sol.Al:0.03〜0.10質量%
Alは、鋼の溶製工程の脱酸剤として添加される元素であるが、本発明では、それにとどまらず、二重巻きパイプの拡管加工、フレア加工、曲げ加工等に耐えられる良好な延性を確保するために必須の元素である。熱延板で固溶状態のAlとNは、特別な熱処理である箱焼鈍のステップ焼鈍過程において、AlNとして析出し鋼中の固溶Nが低減するとともに、(111)集合組織を発達させ、鋼板の延性を改善する作用を有する。鋼板の延性を改善することは二重巻きパイプの延性向上を導く。sol.Alが0.03質量%に満たないとその効果が得られず、逆に0.10質量%を超えるほどに多く含有させてもその効果は飽和する。
【0017】
N:0.002〜0.008質量%
Nは、前述のAlと同様に、二重巻きパイプの拡管加工、フレア加工、曲げ加工等に耐えられる良好な延性を確保するために必須の元素である。熱延板で固溶状態のAlとNは、箱焼鈍のステップ焼鈍過程において、AlNとして析出し鋼中の固溶Nが低減するとともに、(111)集合組織を発達させ、鋼板の延性を改善する作用を有する。鋼板の延性を改善することは二重巻きパイプの延性向上を導く。Nが0.002質量%に満たないとその効果は得られない。逆に0.008質量%を超えるほどに多く含有させると、後述するBを添加しても、セルフブレージング処理後の固溶N量が急激に増加し、その固溶Nにより二重巻きパイプの延性が極端に劣化する。
【0018】
B:0.002〜0.005%
Bは、固溶NとBNとして析出させ、鋼板及び二重巻きパイプにおいて固溶Nによる延性劣化を防止する。また、結晶粒界に偏析した固溶Bは二重巻きパイプの低温靭性を向上させる。この作用を発現させるためには0.002質量%以上の含有が必要である。しかし、0.005質量%の含有でその効果は飽和する。また、0.005質量%以上Bを含有させると、上述の箱焼鈍のステップ焼鈍過程において、AlNとして析出するN量が不足し、逆に鋼板及び二重巻きパイプの延性低下を招く。
【0019】
析出したBNは、950〜1100℃の温度で加熱するセルフブレージング処理時に一部分解し、固溶Bを生成する。固溶Bは結晶粒界に偏析し、溶融銅の粒界浸入抑制作用を呈する。また、結晶粒界に偏析した固溶Bは、低温靭性を向上させる。
さらに、残存するBNは、セルフブレージング処理過程で結晶粒成長を抑制し、粗粒化を防止する。この耐粗粒化性は、上述の溶融銅の粒界浸入を抑制することにも繋がる。セルフブレージング処理の過程で結晶粒の成長を抑制する作用は、BNだけでなくAlNにも認められる。しかしAlNよりも溶解度積が小さいBNのほうが、より効果的に作用する。
これらの作用を発揮させるためにも、0.001質量%以上のBが必要である。なお、0.005質量%を超えるB量では、BNという析出物の作用となる後者の耐粗粒化性には作用するものの、セルフブレージング処理時に固溶Bが生成しなくなり、耐銅浸入性が小さくなる。
【0020】
次に本発明の製造工程について説明する。まず製鋼炉で所定の化学組成に溶製された鋼を、造塊・分解圧延により、または連続鋳造によりスラブとし、スラブ表面手入れを適宜施した後、熱間圧延する。連続鋳造につづいて熱鋳片をそのまま加熱炉に装入して熱間圧延するようにしてもよい。熱間圧延は常法により行なわれる。熱延鋼板品質や熱延効率等の点から、仕上げ温度はAr3変態点直上の温度に調整されることが好ましい。
【0021】
巻取り温度は450〜600℃の範囲とする。
巻取り温度が600℃を超えると結晶粒が粗大化するとともに、AlNが全量析出し、鋼板及び二重巻きパイプの表面外観が著しく劣化する。また延性も低下する。逆に巻取り温度が450℃に満たないと、熱延鋼板の板形状が悪くなり、二重巻きパイプの造管性並びに二重巻きパイプの形状が不良となる。
熱延鋼板は、酸洗処理の後、冷間圧延に供する。冷間圧延により、結晶粒の粗大化が抑制されて延性の高い鋼板を得るためには、圧下率を50%以上とすることが必要である。圧下率が90%を超えると、延性を向上させる作用は飽和し、それ以上の圧下率は圧延負荷の増大による操業面の不利を招くだけである。したがって90%を上限とする。
【0022】
冷延された冷延鋼板は表面浄化された後、焼鈍処理に付される。本発明は、この焼鈍処理を2段階の温度範囲でステップ処理することを最大の特徴とする。
すなわち、100〜200℃/hの加熱速度で450〜600℃に加熱してその温度で1h以上保持し、引き続き100〜200℃/hの加熱速度で700〜800℃に加熱してその温度で5h以上均熱保持し、その後炉冷する工程からなる箱焼鈍を施すことを最大の特徴としている。
【0023】
特別な熱処理である箱焼鈍の450〜600℃、並びに700〜800℃での加熱なるステップ焼鈍によって、冷延鋼板中に固溶しているAlとNをAlNとして析出させ固溶Nを低減することにより、鋼板の延性をさらに改善させるとともに、二重巻きパイプの高延性化を図るために本条件が特に必要である。
第一ステップでの昇温速度が100℃/hに満たないと結晶粒が粗大化し、降伏応力や加工性が低下し、逆に200℃/hを超える程に速すぎると再結晶温度が上昇し、未再結晶組織が残存する。また、加熱温度が450℃以下および600℃以上になると、固溶Alと固溶NがAlNとして析出しないため、延性が低下する。
【0024】
第二ステップの焼鈍も条件を細かく規定する必要がある。
昇温速度が100℃/hに満たないと結晶粒が粗大化し、降伏応力や加工性が低下し、逆に200℃/hを超える程に速すぎると再結晶温度が上昇し、未再結晶組織が残存する。また、加熱温度が700℃に満たないと、未再結晶組織が残存する。また800℃を超える程に高すぎると結晶粒が粗大化し、降伏応力や加工性が低下する。
【0025】
焼鈍処理された鋼板は、常法に従って調質圧延等が施された後、連続電気めっき等による銅めっきが施され、二重巻きパイプ用銅めっき鋼板に仕上げられる。
得られた銅めっき鋼板は、二重巻きパイプに成形加工された後、巻き重ね面間を融着するセルフブレージング熱処理(処理温度:約1130℃程度)に付される。
セルフブレージング熱処理では、その初期段階で素地鋼板の再結晶(約900〜950℃)が生起する。表層部の微細なAlNの析出物がフェライトの再結晶におけるピン止め効果となり、極めて微細なフェライト組織(結晶粒度 FGS No.約10以上)が形成される。パイプの温度が銅の融点以上(約1100℃)に達すると、銅めっき層の溶融による巻き重ね面間の融着結合が生起する。このとき素地鋼板はすでに再結晶を完了し、表面層に極めて微細なフェライト組織が形成されており、その微細化の効果として、溶融銅の粒界浸入を抑制しつつ巻き重ね面間の融着を達成することができる。
【実施例】
【0026】
実施例1:
表1に示す組成を有するスラブを、熱延仕上げ温度900℃、巻取り温度550℃の条件にて板厚2.0mmまで熱間圧延し、酸洗の後、85%の冷延率で板厚0.25mmまで冷間圧延した。その後、ステップ焼鈍を行った。ステップ焼鈍は、150℃/hの加熱速度で500℃まで加熱し、その温度で2h均熱保持した後、引き続き同じ加熱速度で750℃まで加熱して8h均熱保持した後、炉冷した。
【0027】
いずれの供試材も、その後、電気銅めっき装置に通板して、付着量片側10μmの銅めっきを施し、二重巻きパイプ用銅めっき鋼板とした。
続いて二重巻きパイプ用銅めっき鋼板をスリットしてフープとし、二重巻き加工を施し、さらにセルフブレージングに相当する1130℃×60sの熱処理を施すことにより銅めっき層を溶融させて二重巻きパイプとした。その後、伸管加工を施し、外径4.8mmに仕上げた。このようにして製造した二重巻きパイプについて、機械的特性を行って降伏応力と全伸び、溶融銅の浸入深さ、および低温靭性を評価した。
【0028】
(1)パイプの機械的特性;パイプを長さ300mmに切り出し、JIS Z2241に従って引張試験を行い、降伏応力(YS)及び延性(T.El)を測定した。標点距離は50mmとした。延性が25%以下を不合格とした。
(2)溶融銅の浸入深さ;パイプの断面を5%ナイタールで腐食した後、XMA分析装置により、銅の溶着部のCu特性X線像を撮影して、浸入深さを測定した。浸入深さが15μm以上を不合格とした。
(3)低温靭性の評価;パイプを長さ300mmに切り出し、−40℃に冷却して引張試験を行い、引張強度(TS)を測定した。室温での引張強度に比べ90%以上の引張強度を示したものを合格(記号○)とし、90%未満を不合格(記号×)とした。
【0029】
表2に、二重巻きパイプの降伏応力と低温靭性の評価結果を示す。どの組成の素材から製造した二重巻きパイプも300N/mm2以上の降伏応力を示した。しかし、No.4と5はB量が本発明の規定する範囲よりも少ないため、低温靭性の評価で基準を満たさなかった。
図2は、二重巻きパイプの耐銅浸入深さに及ぼすB量の関係を示す。耐銅浸入深さはB量と強い関係があり、B量が本発明の規定する範囲より少なくても多くても浸入深さが15μm以上に及んでいる。また、図3は二重巻きパイプの全伸びに及ぼすB量の関係を示す。全伸びもB量と強い関係があり、B量が本発明の規定する範囲になければ、拡管加工、フレア加工、曲げ加工に必要とされる25%以上の伸びが得られない。
【0030】

【0031】

【0032】
実施例2:
表3に示す組成を有するスラブを素材とし、表4に示す熱延巻取り温度とステップ焼鈍の加熱速度と加熱温度を変化させて、素材鋼板を製造した。表4に示した以外の条件は実施例1と同様で、熱延仕上げ温度900℃、冷間圧延率85%、板厚は0.25mmである。製造した鋼板は、ステップ焼鈍と通常焼鈍のどちらかを実施し、引き続き実施例1と同様の工程で二重巻きパイプを製造した。表4には、焼鈍条件も示している。試験No.7〜16と、No.22〜31はステップ焼鈍である。No.17〜21は通常焼鈍であり、その条件は第一ステップの欄に記したとおりである。
そして、製造した二重巻きパイプについて、次の試験・評価を行った。表5にその結果を示している。
【0033】
(1)素材の機械的特性;JIS Z2241に従い、JIS5号試験片にて引張試験を行い、降伏応力(YS),引張強度(TS)及び延性(T.El)を測定した。
(2)二重巻きパイプの機械的特性;パイプを長さ300mmに切り出し、JIS Z2241に従って引張試験を行い、降伏応力(YS),引張強度(TS)及び延性(T.El)を測定した。標点距離は50mmとした。延性が25%以下を不合格とした。
(3)溶融銅の浸入深さ;パイプの断面を5%ナイタールで腐食した後、XMA分析装置により、銅の溶着部のCu特性X線像を撮影して、浸入深さを測定した。浸入深さが15μm以上を不合格とした。
(4)低温靭性の評価;パイプを長さ300mmに切り出し、−40℃に冷却して引張試験を行い、引張強度(TS)を測定した。室温での引張強度に比べ90%以上の引張強度を示したものを合格(記号○)とし、90%未満を不合格(記号×)とした。
【0034】
表5の結果から、適正な成分組成を有するNo.7〜13は、二重巻きパイプの降伏応力が300MPa以上、延性が25.8〜28.0%で、拡管加工、フレア加工、曲げ加工に必要とされる25%以上の延性を有している。また、二重巻きパイプの銅浸入深さは約2〜5μmと小さく、耐銅浸入性が高くなっている。さらに、ステップ焼鈍を施したNo.14〜16は、二重巻きパイプの延性が29.6〜30.9%と良好であり、しかも、二重巻きパイプの銅浸入深さは約2〜3μmと小さく、耐銅浸入性が高い。
【0035】
これに対して、No.17〜21は通常焼鈍であり、二重巻きパイプの延性が低くなっている。No.22は含有C量が多く含有B量が少ないために、二重巻きパイプの延性が低く、銅の浸入深さが大きくなっている。No.23は含有Mn量が多く含有B量が少ないために、二重巻きパイプの延性が低く、低温靭性が悪い。さらに、銅の浸入深さが大きくなっている。またNo.24は含有P量が多いために、二重巻きパイプの延性が低く、低温靭性が悪くなっている。No.25は含有N量が多いために、二重巻きパイプの延性が低くなっている。さらに、No.26は含有P量が少ないために二重巻きパイプの降伏応力が低いばかりでなく、銅の浸入深さが大きくなっている。さらにまた、No.27は含有C量が少ないために、銅の浸入深さが大きくなっている。
No.28は第2ステップの加熱温度が高いために、二重巻きパイプの降伏応力が低くなっている。No.29は第1ステップおよび第2ステップの昇温速度が速く、No.30は第1ステップの加熱温度が低く、No.31は熱延巻取り温度が高いために、二重巻きパイプの延性が低くなっている。
【0036】

【0037】

【0038】

【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】二重巻きパイプの構造を説明する断面図
【図2】B含有量と二重巻きパイプの特性(耐銅浸入深さ)の関係を示すグラフ
【図3】B含有量と二重巻きパイプの特性(延性)の関係を示すグラフ
【符号の説明】
【0040】
1 素地鋼板(冷延鋼板)
2 銅めっき層
3 銅めっき層
4 銅融着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.01〜0.10質量%,Mn:0.05〜1.0質量%,P:0.02〜0.2質量%以下,sol.Al:0.03〜0.10質量%,N:0.002〜0.008質量%,B:0.002〜0.005質量%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなる成分組成を有する冷延焼鈍鋼板を基材とし、その表面に銅めっきが施されていることを特徴とする二重巻きパイプ用銅めっき鋼板。
【請求項2】
C:0.01〜0.10質量%,Mn:0.05〜1.0質量%,P:0.02〜0.2質量%以下,sol.Al:0.03〜0.10質量%,N:0.002〜0.008質量%,B:0.002〜0.005質量%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなるスラブを熱間圧延し、巻取温度450〜600℃で巻取り、圧下率50〜90%で冷間圧延した後、100〜200℃/hの加熱速度で450〜600℃に加熱してその温度で1h以上保持し、引き続き100〜200℃/hの加熱速度で700〜800℃に加熱してその温度で5h以上均熱保持し、その後炉冷する工程からなる箱焼鈍を施した後、当該鋼板に銅めっきを施すことを特徴とする二重巻きパイプ用銅めっき鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−203506(P2009−203506A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−45532(P2008−45532)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】