説明

二重特異性抗ErbB抗体および腫瘍治療でのその使用

本発明は、新規な二重特異性抗体および腫瘍療法におけるその使用に関する。この新規な抗体は、多くの癌組織で過剰発現される受容体ErbB、好ましくは受容体ErbB1と結合する能力を有する。異なる特異性の抗原結合部位が同一または異なる受容体ErbBの結合ドメイン内の異なるエピトープに対するため、これらの抗体は受容体ErbBの阻害および下方制御、ならびに対応するシグナル伝達カスケードに関してさらに有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、新規な二重特異性抗体および腫瘍治療でのその使用に関する。この新規な抗体は、多くの癌組織で過剰発現している受容体ErbB、特に受容体ErbB1と結合する能力を有する。異なる特異性の抗原結合部位が、同一または異なる受容体ErbBの結合ドメイン内の異なるエピトープに向いているため、これらの抗体は受容体ErbBの阻害および下方制御、ならびに対応するシグナル伝達カスケードに関してさらに有効である。本発明は、前記二重特異性抗体またはその断片と、単一特異性抗体、免疫複合体および/または細胞傷害剤のような薬学的に有効な追加的な薬剤とを含む医薬組成物にも関する。
【0002】
(発明の背景)
腫瘍細胞表面に存在する種々の受容体および他の抗原に対するモノクローナル抗体(MAb)または他のタンパク質/ポリペプチドのような生体分子、ならびに低分子化学化合物は、20年以上前から腫瘍治療に適していることが知られている。抗体を使った取り組みに関しては、これらのMAbの大部分がキメラ化またはヒト化されてヒトの免疫系との許容性が改善している。Mabまたは上に指摘した化学実体は、腫瘍細胞上に存在する、そしてたいていの場合、正常組織にも存在する標的構造と特異的に結合し、それらのエピトープ特異性および/または特定の抗原の機能的特徴に応じて種々の作用を引き起こしうる。オーファン受容体または他の非機能的細胞表面分子に対するMAb、および機能的に活性な受容体(例えばキナーゼ活性を有する増殖因子受容体)のリガンド結合部位以外の構造に対するMAbは、標的細胞に対して一次免疫エフェクター機能(抗体依存性細胞性細胞傷害作用(ADCC)、補体依存性細胞傷害作用(CDC))を誘導することが期待されよう。さらに抗体の結合は、抗原とMAbの性質に応じて受容体の架橋を招く場合がある。その結果生じる受容体−抗体複合体のインターナリゼーションは、細胞表面の受容体密度の長期の下方モジュレーションを招きうる。
【0003】
リガンド結合部位内の、またはそのすぐ隣の、エピトープと結合するMAbは、それらの受容体に対する天然リガンドの結合と競合し、よってリガンドの結合を減少させるか、または完全に阻害し、すでに受容体と結合したリガンドをそれらの受容体から置き換えることができる。この受容体の遮断は、リガンドに依存する受容体の活性化および下流のシグナル伝達を阻害する。例えば、モノクローナル抗体による上皮増殖因子受容体(EGFR)のような受容体ErbBの遮断は、DNA合成および増殖の阻害、細胞周期の停止およびアポトーシスの誘導、ならびに抗転移作用および抗血管新生作用を含めた、細胞に対する多様な作用を招く。
【0004】
受容体ErbBは1980年代に癌に関係しているとみなされた典型的な受容体型チロシンキナーゼである。チロシンキナーゼは、タンパク質基質においてチロシン残基へのアデノシン三リン酸の末端リン酸の転移を触媒する酵素クラスである。チロシンキナーゼは、基質をリン酸化することによって多くの細胞機能のためのシグナル伝達に重大な役割を演じると考えられている。シグナル伝達の正確なメカニズムは依然不明であるが、チロシンキナーゼは細胞増殖、発癌および細胞分化に重要な寄与因子であることが示された。
【0005】
チロシンキナーゼは受容体型または非受容体型に分類できる。受容体型および非受容体型チロシンキナーゼの両方が細胞シグナル伝達経路に関係し、癌、乾癬および過免疫応答を含めた多数の病原状態を招く。チロシンキナーゼの多くが細胞増殖および血管新生に関与している。非受容体型チロシンキナーゼも、Src、Frk、Btk、Csk、Abl、Zap70、Fes/Fps、Fak、Jak、Ack、およびLIMKを含めた多数のサブファミリーを含む。これらのサブファミリーのそれぞれが、多様な受容体にさらに分けられる。例えばSrcサブファミリーは最も大きいサブファミリーの1つで、Src、Yes、Fyn、Lyn、Lck、Blk、Hck、Fgr、およびYrkを含んでいる。Srcサブファミリーの酵素は腫瘍形成と関連している。非受容体型チロシンキナーゼのさらに詳細な考察については、Bolen、Oncogene、8:2025〜2031(1993)を参照のこと。
【0006】
受容体型チロシンキナーゼには、細胞外部分、膜貫通部分、および細胞内部分があり、一方、非受容体型チロシンキナーゼは完全に細胞内に存在する。受容体と連結したチロシンキナーゼは、細胞外リガンド結合ドメイン、膜貫通配列、および細胞質チロシンキナーゼドメインを含む膜貫通タンパク質である。受容体型チロシンキナーゼは、多様な生体活性を有する多数の膜貫通受容体からなる。
【0007】
受容体型チロシンキナーゼの種々のサブファミリーが同定された。関係するチロシンキナーゼには、線維芽細胞増殖因子(FGF)受容体、ErbB主要クラスファミリーの上皮増殖因子(EGF)受容体、および血小板由来増殖因子(PDGF)受容体がある。神経成長因子(NGF)受容体、脳由来神経向性因子(BDNF)受容体、ならびにニューロトロフィン−3(NT−3)受容体およびニューロトロフィン−4(NT−4)受容体も関係している。
【0008】
HERまたはErbBサブファミリーと称する、ある受容体型チロシンキナーゼサブファミリーは、EGFR(ErbB1)、HER2(ErbB2またはp185neu)、HER3(ErbB3)、およびHER4(ErbB4またはtyro2)を含む。この受容体サブファミリーのリガンドには、上皮増殖因子(EGF)、TGF−a、アンフィレギュリン、HB−EGF、ベータセルリン、ヘレギュリンおよびニューレギュリンがある。PDGFサブファミリーは、キナーゼ挿入ドメイン受容体(KDR)を有するFLKファミリーを含んでいる。
【0009】
erbB1遺伝子がコードするEGFRは、ヒトの悪性疾患の原因に関係しているとみなされた。具体的にはEGFRの発現増加が乳癌、膀胱癌、肺癌、頭部癌、頚部癌、胃癌および神経膠芽腫で観察された。受容体EGFRの発現増加は、しばしば同じ腫瘍細胞によるEGFRリガンドである形質転換増殖因子α(TGF−a)の産生増加を伴い、オートクリン刺激経路による受容体活性化を生じる(BaselgaとMendelsohn、Pharmac.Ther. 64:127〜154(1994))。
【0010】
EGF受容体は分子量170000の膜貫通糖タンパク質で、多くの上皮細胞型にみられる。EGF受容体は少なくとも3つのリガンド、EGF、TGF−α(形質転換増殖因子α)およびアンフィレギュリンにより活性化される。上皮増殖因子(EGF)およびトランスフォーミング増殖因子α(TGF−a)がEGF受容体と結合し細胞増殖と腫瘍の成長を生じることが実証された。これらの増殖因子はHER2とは結合しない(UlrichとSchlesinger、1990、Cell 61, 203)。種々の増殖因子ファミリーがその二量体の性質によって受容体の二量体化を誘導する(例えばPDGF)こととは逆に、EGFのような単量体性増殖因子は受容体に対する結合部位を2つ含むため、隣接する2つのEGF受容体を架橋できる(Lemmonら、1997、EMBO J. 16、281)。受容体の二量体化は固有の触媒活性を刺激し、増殖因子受容体がチロシン残基で自己リン酸化するために必須である。後者の自己リン酸化は、多くのシグナル伝達カスケードを同時に開始する種々のアダプタータンパク質または酵素のドッキング部位として機能する。高等真核生物では、単純な直線経路から相互作用の豊富な多層化ネットワークへと進化し、そのネットワークでは構成要素の組み合わせ発現と活性化により発生全体にわたり状況に特異的な生体応答が可能となる。ErbBネットワークはそれ自体の入力だけでなく、ホルモン、リンホカイン、神経伝達物質およびストレス誘導因子を含めた異種シグナルも組み入れる場合もあろう。
【0011】
受容体型タンパク質チロシンキナーゼ(PTK)は、ホモ二量体化とヘテロ二量体化の両方を受けることが可能であると述べておくべきであろう。このときホモ二量体の組み合わせの受容体は、対応するヘテロ二量体の組み合わせよりも有糸分裂と形質転換作用が小さい(シグナル伝達が開始しないか微弱)。ErbB2を含むヘテロ二量体は最も強力な複合体である(YardenとSliwkowski、2001、Nature Reviews、Molecular cell Biology、第2巻、127〜137;TzaharとYarden、1998、BBA 1377、M25〜M37の総説を参照)。
【0012】
抗EGF受容体抗体は、EGF受容体へのEGFとTGF−aの結合を遮断する一方で、腫瘍細胞の増殖を阻害するようであることが実証された。これらの発見を考慮して、EGF受容体に対する多数のマウスおよびラットモノクローナル抗体が開発されインビトロおよびインビボで腫瘍細胞の増殖を阻害する能力が試験された(ModjtahediとDean、1994、J.Oncology 4、277)。ヒト化モノクローナル抗体425(hMAb425、US5558864;EP0531472)およびキメラモノクローナル抗体225(cMAb225、US4943533およびEP0359282)はどちらもEGF受容体に対し、臨床試験において有効性を示した。C225抗体(セツキシマブ(Cetuximab))はインビトロでEGFが介在する腫瘍細胞の増殖を阻害し、ヌードマウスを用いたインビボでヒト腫瘍の形成を阻害することが実証された。さらにこの抗体は、ある化学療法剤(すなわちドキソルビシン、アドリアマイシン、タキソールおよびシスプラチン)と特に相乗的に作用して、マウス異種移植モデルにおいてインビボでヒト腫瘍を根絶すると思われた。Yeら(1999、Oncogene 18、731)は、キメラMAb225と、受容体HER2に対するヒト化MAb4D5との組み合わせによってヒト卵巣癌細胞の治療に成功できると報告した。
【0013】
ErbBファミリーの2番目のメンバーであるHER2(ErbB2またはp185neu)は、化学処理されたラットの神経芽腫からの形質転換遺伝子産物として本来同定された。このneu癌原遺伝子の活性型は、それがコードするタンパク質の膜貫通領域における(バリンからグルタミン酸への)点突然変異により生じる。neuのヒトホモログの増幅が乳癌と卵巣癌で観察され、予後不良と相関している(Slamonら、Science、235;177〜182 (1987);Slamonら、Science、244:707〜712(1989);US4968603)。ErbB2(HER2)は分子量約185000であり、EGF受容体(HER1)とかなり相同性が高いが、HER2の特異的リガンドは今のところはっきりとは同定されていない。受容体HER2に対する抗体4D5は、ErbB2を過剰発現する乳房腫瘍細胞系を、TNFαによる細胞傷害作用に感受性にすることがさらに発見された(US5677171)。組換えヒト化版のマウス抗ErbB2抗体4D5(huMAb4D5−8、rhuMAbHER2またはHERCEPTIN(登録商標);US5821337)は、以前に広範囲の抗癌治療を受けた経験のある、ErbB2を過剰発現する転移性乳癌を有する患者において臨床的に活性である(Baselgaら、J.Clin.Oncol. 14:737〜744(1996))。HERCEPTIN(登録商標)には1998年に、ErbB2タンパク質を過剰発現している腫瘍を有する転移性乳癌患者の治療に対する販売許可が下りた。
【0014】
抗ErbB抗体以外に多数の低分子量化学分子があり、それらは受容体ErbB分子の強力な阻害剤であることが知られ、天然リガンド結合部位を遮断することによって(詳細な説明を参照のこと)、または受容体キナーゼの結合部位のチロシン残基を遮断することによって、リン酸化およびさらなるカスケード状シグナル伝達を防止する。臨床試験で高い有効性を示す1つの代表は、NSCLC(非小細胞肺癌)の適応に対して投与できるIressa(商標)(ZD−1839)である。
【0015】
開発中であったり市販されている有望な腫瘍の治療薬と治療方法がすでにいくつかあるが、性質が改善し有効性が増強したさらなる薬剤、医薬組成物および組み合わせは絶え間なく必要である。
【0016】
(発明の概要)
本発明は、罹患した細胞、例えば腫瘍細胞の表面で過剰発現される受容体ErbB分子のようなある受容体型チロシンキナーゼが天然リガンド結合ドメイン内に特異的エピトープ部位を有し、異なる抗体、または一般的にいうと異なる特異体が相互妨害なしに、または無視できる相互妨害だけでそのエピトープ部位に同時に結合できるという本発明者らの観察に基づく。明らかにこれらの抗体または特異体は、受容体分子の結合ドメインの全体の大きさに比べて三次元立体配置が比較的小さな結合エピトープを保有する。これらの抗体または特異体は、経路のシグナル伝達の下方モジュレーション活性の増加、好ましくは受容体ErbBの遮断の増加によるシグナル伝達カスケード全体の遮断の増加を誘導する。
【0017】
本発明は、二重特異性抗体またはその機能的に有効な断片を個体に投与するという腫瘍治療における新しい概念について初めて記載する。その二重特異性抗体またはその機能的に有効な断片は、前記二重特異性抗体の第一特異的抗原結合部位を同一または異なる受容体の第一エピトープと結合させ、第二特異的抗原結合部位を同一または異なる受容体の異なる第二エピトープと結合させることによって、受容体ErbB、好ましくはEGF受容体(EGFR)を遮断または阻害する。
【0018】
そのような二重特異性抗体は、2つの異なる抗原結合部位により、同一の受容体分子(例えばEGFRまたはHer−2)、または異なる受容体分子(例えばEGFRおよびHer−2)のどちらかの天然リガンド結合ドメイン内の異なるエピトープと同時に結合でき、その抗体の異なる抗原結合部位は重大な相互妨害を行わず、それによりその受容体上に抗体が高密度となることが可能となり、(EGFまたはTGFaのような天然(作動薬)リガンドと結合する能力が低いことにより)単量体ユニットまたは二量体ユニットとして対応する受容体分子のシグナル伝達カスケードをずっと大きく阻害するように影響することを発見できた。これは腫瘍の増殖の強い阻害および/または固形腫瘍または転移腫瘍のアポトーシスの増加を招くはずである。好ましい抗体は、以上および以下に詳述したように特に抗EGFR抗体および抗Her2抗体、ならびにその断片、好ましくは低分子量という理由で二重特異性F(ab')2断片である。本発明の好ましい実施形態では、ヒト化、キメラまたはマウス版のMAb425に由来する第一抗原結合部位と、ヒト化、キメラまたはマウス版のMAb225に由来する第二抗原結合部位と、からなる二重特異性抗体(断片)が開示されている(BAb<425,225>、F(ab'<425>,ab'<225>))。本発明の別の実施形態では、ヒト化、キメラまたはマウス版のMAb425に由来する第一抗原結合部位と、ヒト化、キメラまたはマウス版のMAb4D5に由来する第二抗原結合部位と、からなる二重特異性抗体(断片)が開示されている(BAb<425,4D5>、F(ab'<425>,ab'<4D5>))。本発明のさらなる実施形態では、ヒト化、キメラ、またはマウス版のMAb225に由来する第一抗原結合部位と、ヒト化、キメラまたはマウス版のMAb4D5に由来する第二抗原結合部位と、からなる二重特異性抗体(断片)が開示されている(BAb<225,4D5>、F(ab'<425>,ab'<4D5>))。上述の実施形態においてヒト化MAb425、キメラMAb225(CETUXIMAB(登録商標))およびヒト化4D5(HERCEPTIN(登録商標))が起源の抗体として好ましい。原則として本発明にはヘテロ抗体またはその断片も含まれる。そのような合成により製造されたヘテロ抗体は、3つの異なる抗EGFR抗体、またはその断片に由来する3つの異なる抗原結合部位部分からなる場合さえある(例えば<425,225,4D5>)。
【0019】
本発明の二重特異性抗体は、それぞれの単一特異性抗体と比べて、異なるまたは同一の受容体ErbBの架橋/二量体化の増強、受容体ErbBの遮断/阻害の増強、および受容体ErbB特異的経路のシグナル伝達のモジュレーションの誘導増強に影響できることが発見された。興味深いことにこの架橋の効果は、すでに記載したような二重特異性抗体(断片)と、この二重特異性抗体(断片)の前記第一または第二抗原結合部位と同一の抗原結合部位を好ましくは有する単一特異性抗ErB抗体(断片)とを含む混合物によりさらに増強できる。言い換えると、例えば(i)MAb425もしくはMAb225もしくはMAb4D5と、BAb<425,225>との混合物、または(ii)MAb425もしくはMAb225もしくはMAb4D5と、BAb<425,4D5>との混合物、または(iii)MAb425もしくはMAb225もしくはMAb4D5と、BAb<4D5,225>との混合物は、同濃度で単一薬剤として適用されたMAbまたはBAbと比べて受容体ErbBの阻害の増強と下方制御を誘発する。
【0020】
上記の観察は標的受容体分子としての受容体ErbBに対してなされたが、本発明者らにより発見され上と下に述べられた科学原理は、ErbB以外の他の生体受容体にも適用できる可能性があることだけは指摘しておくべきであろう。
【0021】
本発明の組成物は、上述の分子の有効性を支援かつ増強できる治療上活性な化合物も任意選択でさらに含む。そのような薬剤は細胞傷害剤の可能性があり、好ましくはチロシンキナーゼ拮抗薬、他のErbB拮抗薬、ホルモン受容体拮抗薬、プロテインキナーゼ拮抗薬または抗血管新生剤のような拮抗分子である。本発明に使用できるそのような分子については下にさらに詳しく明細に述べる。
【0022】
本発明によれば、この治療上活性な薬剤は、単一の、または分かれた容器に入った1つまたは複数の前記拮抗剤を有するパッケージを備えた医薬キットによっても提供されうる。この組み合わせを用いた治療は、任意選択で放射線を用いた治療も包含しうる。原則として放射線療法が投与に付随しうるが、放射線療法を薬物の投与と実質的に同時に、またはその前後に行うことができる。本発明に記載の組み合わせ療法の異なる薬剤も、実質的に同時または連続的に投与できる。腫瘍の血管の発生に関わる受容体を細胞表面に有するような腫瘍は、本発明の組み合わせ療法によりうまく治療されうる。
【0023】
腫瘍は自己の発生と増殖のために代替経路を導き出すことが知られている。ある経路が遮断されるならば、腫瘍は他の受容体と他のシグナル伝達経路を発現し使用することにより別の経路に切り替える能力をしばしば有する。よって、本発明の医薬組み合わせは、そのようないくつかの起こりうる腫瘍の発生戦略を遮断し、その結果様々な有益性をもたらしうる。本発明に記載の組み合わせは、腫瘍細胞表面に存在する関連性のあるホルモン受容体の活性化により発生し増殖するような腫瘍、腫瘍様障害、新形成障害、および転移腫瘍の治療および予防に有用である。好ましくは本発明の種々の組み合わせ薬剤を、低用量、すなわち臨床状況で従来使用されてきたよりも低い用量で、組み合わせて投与する。個体に投与される本発明の化合物、組成物、薬剤、および治療の用量を下げることの有益性には、高用量に伴う有害作用の発生率を減少させることがある。例えば、上記および下記の薬剤の用量を下げることによって、悪心と嘔吐の頻度と重症度が、高用量で観察されるものと比べて減少するであろう。有害作用の発生率を下げることによって癌患者の生活の質の改善が予想される。有害作用の発生率を下げることのさらなる有益性には、患者のコンプライアンスの改善、有害作用の治療に必要な入院加療数の減少、およびその有害作用に付随する疼痛を治療するのに必要な鎮痛剤の投与の減少がある。代わりに、本発明の方法と組み合わせは、高用量での治療効果も最大化しうる。
【0024】
上に指摘した組み合わせは、驚異的な相乗効果を示す。この薬物の組み合わせの投与では、臨床試験の際に腫瘍の真の萎縮と崩壊を観察できたが、薬物の有意な有害反応は検出できなかった。
【0025】
本発明は一般に以下に関する。
【0026】
・第一受容体ErbBの第一エピトープと結合する第一抗原結合部位と、第二受容体ErbBの第二エピトープと結合する異なる第二抗原結合部位とを有する二重特異性抗体またはその機能的に有効な断片。
【0027】
・前記第一および/または前記第二エピトープが前記受容体の天然リガンド結合ドメイン内に位置する、対応する二重特異性抗体またはその断片。
【0028】
・それぞれの単一特異性抗体に比べて、受容体ErbBの遮断および/または阻害の増強、ならびに受容体ErbB特異的経路のシグナル伝達の下方制御の誘導増強に影響する、対応する二重特異性抗体またはその断片。
【0029】
・同一または異なる特異性を有する受容体分子の架橋および/または二量体化の誘導増強に影響する、対応する二重特異性抗体またはその断片。
【0030】
・前記第一受容体ErbBの前記第一エピトープが第二受容体ErbBの第二エピトープとは異なる、対応する二重特異性抗体またはその断片。
【0031】
・前記第一受容体ErbBが前記第二受容体ErbBとは異なる、請求項5の二重特異性抗体またはその断片。
【0032】
・前記第一および第二受容体ErbBが全く同じである、対応する二重特異性抗体またはその断片。
【0033】
・前記第一受容体ErbBがEGF受容体(EGFR)である、対応する二重特異性抗体またはその断片。
【0034】
・前記第二受容体ErbBがErbB−2(Her−2)である、対応する二重特異性抗体またはその断片。
【0035】
・前記第一および第二受容体ErbBがEGF受容体(EGFR)である、対応する二重特異性抗体またはその断片。
【0036】
・前記第一抗原結合部位がヒト化、キメラまたはマウスMAb425に由来する、対応する二重特異性抗体またはその断片。
【0037】
・前記第一抗原結合部位がヒト化、キメラまたはマウスMAb225に由来する、対応する二重特異性抗体またはその断片。
【0038】
・前記第一抗原結合部位がヒト化、キメラまたはマウスMAb425に由来し、前記第二抗原結合部位がヒト化、キメラまたはマウスMAb225に由来し、各抗原結合部位が同一EGF受容体分子の天然リガンド結合ドメイン内の異なるエピトープと結合する、対応する二重特異性抗体またはその断片。
【0039】
・前記第一受容体ErbBがEGF受容体(EGFR)であり、前記第二受容体ErbBがErbB−2(Her−2)である、対応する二重特異性抗体またはその断片。
【0040】
・前記第一抗原結合部位がヒト化、キメラまたはマウスのMAb425またはMAb225に由来し、前記第二抗原結合部位がMAb4D5(Herceptin(登録商標))に由来する、対応する二重特異性抗体またはその断片。
【0041】
・前記断片がF(ab')2である、対応する二重特異性抗体またはその断片。
【0042】
・上記の請求項のいずれかに詳述した二重特異性抗体またはその機能的に有効な断片と、任意選択で薬学的に許容できる担体、希釈剤または添加剤とを含む医薬組成物。
【0043】
・単一特異性抗ErbB抗体またはその機能的に有効な断片をさらに含む、対応する医薬組成物。
【0044】
・前記単一特異性抗ErbB抗体またはその機能的に有効な断片がMAb425、MAb225、またはMAb4D5(Herceptin(登録商標))からなる群から選択される、対応する医薬組成物。
【0045】
・細胞傷害剤をさらに含む、対応する医薬組成物。
【0046】
・前記細胞傷害剤が化学療法剤である、対応する医薬組成物。
【0047】
・前記化学療法剤がシスプラチン、ドキソルビシン、ゲムシタビン、ドセタキセル、パクリタキセル、ブレオマイシンの群の化合物のいずれかから選択される、対応する医薬組成物。
【0048】
・前記細胞傷害剤が受容体ErbB阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、プロテインキナーゼA阻害剤または抗血管新生剤である、対応する医薬組成物。
【0049】
・(i)上記のような少なくとも1つの二重特異性抗体またはその機能的に有効な断片を有する第一パッケージと、
(ii)少なくとも1つの単一特異性抗ErbB抗体またはその機能的に有効な断片を有する第二パッケージと
を備えた医薬キット。
【0050】
・BAb<h425,c225>またはそのF(ab')2断片を有する第一パッケージと、ヒト化MAb425(h425)、キメラMAb225(c225)もしくはヒト化MAb4D5またはその機能的に有効な断片を有する第二パッケージとを備えた対応する医薬キット。
【0051】
・さらなる薬剤を有する第三パッケージをさらに備えた、対応する医薬キット。
【0052】
・前記さらなる薬剤が細胞傷害剤である、対応する医薬キット。
【0053】
・前記細胞傷害剤がシスプラチン、ドキソルビシン、ゲムシタビン、ドセタキセル、パクリタキセル、ブレオマイシン、受容体ErbB阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、プロテインキナーゼA阻害剤または抗血管新生剤の群の化合物のいずれかから選択される、対応する医薬キット。
【0054】
・受容体ErbBを過剰発現する腫瘍または転移腫瘍を治療するための薬剤の製造のための、上に定義した二重特異性抗体または医薬組成物/キットの使用。
【0055】
・個体において受容体ErbBを過剰発現する腫瘍および転移腫瘍の治療法であって、治療有効量の二重特異性抗体もしくはその機能的に有効な断片、または上および請求項に定義した医薬組成物/キットを前記個体に投与することを含む、治療法。
【0056】
・治療有効量の二重特異性抗体もしくはその機能的に有効な断片、または上に定義した医薬組成物/キットを個体に投与することによって、受容体ErbBを過剰発現する腫瘍における受容体ErbB特異的経路のシグナル伝達の下方制御を増強する方法。
【0057】
・その患者に有効量の細胞傷害薬を投与することをさらに含む、対応する方法。
【0058】
・前記細胞傷害剤が化学療法剤であって、シスプラチン、ドキソルビシン、ゲムシタビン、ドセタキセル、パクリタキセル、ブレオマイシンの群の化合物のいずれかから選択される、対応する方法。
【0059】
・前記細胞傷害薬が受容体ErbB阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、プロテインキナーゼA阻害剤または抗血管新生剤である、対応する方法。
【0060】
好ましい実施形態では、本発明の二重特異性抗体の一方の抗原結合部位が結合する第一受容体ErbBの型は受容体ErbB1(EGFR)である。よって、本発明はさらに詳しくは以下に関する。
【0061】
・同一または異なる型の受容体ErbB分子上に位置する異なるエピトープと結合する能力を有する二重特異性抗体またはその断片であって、前記抗体がErbB1である第一の型の受容体のエピトープと結合する第一抗原結合部位と、第二の型の受容体ErbB分子の異なるエピトープと結合する異なる第二の抗原結合部位とを有する二重特異性抗体またはその断片。
【0062】
・前記第二の型の受容体ErbB分子がErbB1(EGFR)である、二重特異性抗体。
【0063】
・前記第二の型の受容体ErbB分子がErbB2(Her−2)である、二重特異性抗体。
【0064】
・前記エピトープの少なくとも1つが受容体の結合ドメイン内に位置する、二重特異性抗体。
【0065】
・前記受容体の結合ドメインが前記受容体の天然リガンド結合ドメインである、二重特異性抗体。
【0066】
・第一または第二抗原結合部位が前記の型の受容体ErbB分子の天然リガンド結合ドメイン内のエピトープと結合する、二重特異性抗体。
【0067】
・第一および第二抗原結合部位が前記の型の受容体ErbB分子の天然リガンド結合ドメイン内のエピトープと結合する、二重特異性抗体。
【0068】
・前記抗原結合部位が同一の型の受容体ErbB分子上に位置する異なるエピトープと結合する、二重特異性抗体。
【0069】
・前記抗原結合部位が異なる型の受容体ErbB分子に位置する異なるエピトープと結合する、二重特異性抗体。
【0070】
・第一および第二抗原結合部位がそれぞれ前記型の受容体ErbB分子の天然リガンド結合ドメイン内の異なるエピトープと結合することによってその受容体を遮断および/または阻害する二重特異性抗体であって、その受容体ErbBの遮断および/または阻害、ならびに受容体ErbB特異的経路のシグナル伝達の下方制御の誘導がそれぞれの単一特異性抗体に比べて増強している、二重特異性抗体。
【0071】
・同一または異なる特異性を有する異なる受容体ErbB分子の架橋および/または二量体化の誘導が、同一の型の受容体ErbB分子のエピトープに対する結合に比べて増強している、二重特異性抗体。
【0072】
・前記第一抗原結合部位がヒト化、キメラ、またはマウスMAb425に由来する、二重特異性抗体。
【0073】
・前記第一抗原結合部位がヒト化、キメラ、またはマウスMAb225に由来する、請求項1〜11のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【0074】
・前記第一抗原結合部位がヒト化、キメラ、またはマウスMAb425に由来し、前記第二抗原結合部位がヒト化、キメラ、またはマウスMAb225に由来し、各抗原結合部位が受容体ErbB1(EGFR)分子上の異なるエピトープと結合する、「BAb<h425,c225>」と称する二重特異性抗体。
【0075】
・前記異なるエピトープが天然リガンド結合ドメイン内に位置する、二重特異性抗体。
【0076】
・前記第二抗原結合部位が受容体ErbB2分子(Her−2)またはVEGF受容体分子と結合する、二重特異性抗体。
【0077】
・前記第二抗原結合部位がMAb4D5(Herceptin(登録商標))に由来する、請求項16の二重特異性抗体。
【0078】
・上および請求項のいずれかに定義した二重特異性抗体に由来する、断片がF(ab')2である二重特異性抗体断片。
【0079】
・上および請求項に詳述した1つまたは複数の二重特異性抗体またはその断片と、任意選択で薬学的に許容できる担体、希釈剤または添加剤とを含む医薬組成物。
【0080】
・単一特異性抗ErbB抗体またはその機能的に有効な断片をさらに含む、医薬組成物。
【0081】
・前記単一特異性抗ErbB抗体またはその機能的に有効な断片がMAb425、MAb225またはMAb4D5(Herceptin(登録商標))からなる群から選択される、医薬組成物。
【0082】
・細胞傷害剤を追加的に含む、医薬組成物。
【0083】
・前記細胞傷害剤が化学療法剤である、医薬組成物。
【0084】
・前記化学療法剤がシスプラチン、ドキソルビシン、ゲムシタビン、ドセタキセル、パクリタキセル、ブレオマイシンの群の化合物のいずれかから選択される、医薬組成物。
【0085】
・前記細胞傷害剤が受容体ErbB阻害剤、VEGF受容体阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、プロテインキナーゼA阻害剤、抗血管新生剤、抗ホルモン剤またはサイトカインである、医薬組成物。
【0086】
・上に定義したような二重特異性抗体がそのC末端を介して直接またはリンカー分子を介して生物学的に有効なタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドと融合したものを含む免疫複合体であって、前記タンパク質またはポリペプチドが好ましくはサイトカインである、免疫複合体。
【0087】
・(i)上および請求項に詳述した少なくとも1つの二重特異性抗体または免疫複合体を有する第一パッケージと、(ii)少なくとも1つの単一特異性抗ErbB抗体またはその機能的に有効な断片を有する第二パッケージとを備えた医薬キット。
【0088】
・二重特異性抗体「BAb<h425,c225>」またはそのF(ab')2断片またはその免疫複合体を有する第一パッケージと、ヒト化MAb425(h425)、キメラMAb225(c225)またはヒト化MAb4D5、またはその機能的に有効な抗体断片もしくは免疫複合体を有する第二パッケージとを備えた医薬キット。
【0089】
・細胞傷害薬を有する第三パッケージを追加的に備える、医薬キット。
【0090】
・前記細胞傷害薬がシスプラチン、ドキソルビシン、ゲムシタビン、ドセタキセル、パクリタキセル、ブレオマイシン、受容体ErbB阻害剤、VEGF受容体阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、プロテインキナーゼA阻害剤、抗ホルモン剤、抗血管新生剤の群の化合物のいずれかから選択される、医薬キット。
【0091】
・受容体ErbBを過剰発現する腫瘍および転移腫瘍および関係する疾病の治療のための薬剤の製造のための、上に定義した二重特異性抗体または医薬組成物/キットの使用。
【0092】
(発明の詳細な説明)
本発明は異なる免疫原構造に対して特異性をもつ2つ以上のMAbが、妨害なしに、または取るに足りない妨害で同時にそれぞれのエピトープと結合できるという観察に基づく。そのエピトープは同一の受容体上に位置する可能性があり、同一の受容体ドメイン内、例えば同一のリガンド結合ドメイン内にさえ位置しうる。したがって、同一の受容体の異なるエピトープに対して特異性を有する二重特異性抗体は、それらの特異的エピトープの両方と結合することによって受容体−抗体二価複合体を形成しうる。その複合体は単一受容体に作用する単一特異性MAbではたいていの場合みられない。
【0093】
代わりに、そのような二重特異性抗体の抗原結合部位は隣接する他の全く同じ受容体と反応し、これらの受容体の間で複合体を形成しうる。さらに、同一または異なる受容体ファミリーの異なる受容体上の抗原構造に対する二重特異性抗体を、これらの受容体の間で複合体を形成させるために使用できる。
【0094】
1つまたは複数の二重特異性抗体の適用、または同一もしくは異なる受容体に対する単一特異性抗体および二重特異性抗体の組み合わせの適用は、1つだけの単一特異性抗体を用いた治療の有効性に比べて、治療有効性を大きく改善しうる。
【0095】
・二重特異性抗体の各抗原結合部位は標的受容体(例えばEGFR)上のそれぞれの特異的エピトープと独立して結合する。
【0096】
・二重特異性抗体の両抗原結合部位は、それぞれの特異的エピトープと反応し、それらのエピトープは同一受容体上に位置することがあり、同一の受容体ドメイン内または別の受容体上に位置する可能性がある。
【0097】
・二重特異性抗体は同一受容体上の2つの異なるエピトープと独立して結合しうる。このことは、たいていの場合で受容体に一価結合することに限られている単一特異性抗体のアビディティに比べて単一受容体に対する二重特異性抗体の全般的なアビディティを増加させる。
【0098】
・単一特異性MAbに比べ単一受容体に対してさらに高いアビディティを示すことから、より低濃度の二重特異性抗体が受容体を効果的に遮断するために必要とされる。
【0099】
・二重特異性抗体は単一特異性MAbよりも効果的に受容体を遮断することから、二重特異性抗体は受容体活性化および下流のシグナル伝達のさらに顕著な阻害を誘導する。
【0100】
・同様に、リガンド結合ドメイン内またはその近辺の異なるエピトープに対して特異性を有する1つまたは複数の二重特異性抗体、または単一特異性抗体と二重特異性抗体との混合物は、受容体の遮断に対する有効性を増加させる。
【0101】
・同一の受容体ドメインに対する2つ以上の単一特異性抗体および/または二重特異性抗体の組み合わせによる受容体の遮断は、ただ1つの単一特異性抗体または二重特異性抗体による受容体遮断よりも有効であるため、リガンドの結合のさらに効果的な阻害が達成され、それにより受容体のさらに効果的な不活性化が生じる。
【0102】
・この受容体のさらに効果的な不活性化は、下流の受容体のシグナル伝達のさらに効果的な阻害を生じ、その結果リガンドに依存した細胞機能に対する影響力が増加する。
【0103】
・この受容体のさらに効果的な遮断により、適用された単一特異性抗体および/または二重特異性抗体のそれぞれの用量(または濃度)を有効性を失わずに減らすことができる。これは、用量制限性の毒性を示すか、または最適治療用量よりも下ですでに副作用を示す治療用抗体が適用される場合、大いに関心がもたれうる。
【0104】
・同一細胞上の異なる受容体と結合する二重特異性抗体および単一特異性抗体はまず受容体−抗体二量体複合体を形成する。しかし、抗原特異性が異なることが原因で、二重特異性抗体は全く同じ受容体の二量体に限らない受容体−抗体複合体を形成しうる。よって、二重特異性抗体により形成される受容体凝集物は多数の、理論的には無限の数の受容体を含有しうる。
【0105】
・これらの大きな受容体−抗体複合体は受容体のインターナリゼーションを向上し、それによって、細胞表面からの受容体の除去と、その結果の受容体依存性の細胞機能の下方モジュレーションにさらに有効でありうる。
【0106】
・大きな受容体−抗体複合体の形成を、2つ以上の単一特異性抗体および/または二重特異性抗体の組み合わせによりさらに増強でき、それによって受容体のインターナリゼーションおよび受容体に依存する細胞機能の下方モジュレーションをさらに増強できる。
【0107】
・同一または異なる受容体に対する、二重特異性抗体ならびに2つ以上の単一特異性抗体および/または二重特異性抗体の組み合わせの使用は、適当な受容体を保有する腫瘍の処置に使用できる。EGFR陽性腫瘍は典型的な例であるが、本発明で記載された治療原理の適用はこの適応に限定されない。よって、他の受容体、受容体ファミリーまたは他の抗原構造を保有する広範囲の腫瘍を同原理を用いて治療できる。
【0108】
・二重特異性抗体を用いた治療、または同一もしくは異なる受容体上の異なる抗原に対する2つ以上の単一特異性抗体および/もしくは二重特異性抗体を用いた組み合わせ治療も、化学療法剤および/または放射線と共に組み合わせ療法に適用できる。
【0109】
・二重特異性抗体を用いた治療、または同一もしくは異なる受容体上の異なる抗原に対する2つ以上の単一特異性抗体および/もしくは二重特異性抗体を用いた組み合わせ治療を、ホルモン拮抗薬またはホルモン作動薬を用いた治療、血管新生阻害剤を用いた治療および他の治療を含めるがそれらに限定しない他の治療原理と組み合わせて同様に使用できる。
【0110】
同一もしくは異なる受容体上の異なる抗原構造に対して特異性を有する、二重特異性抗体または単一特異性抗体および二重特異性抗体の組み合わせを用いた組み合わせ治療の原理を、EGFR陽性腫瘍の治療について本明細書に例示的に述べる。しかし、本原理はEGFRに限定されず他のいかなる標的抗原での使用にも適用できる。
【0111】
別に指摘しない限り、本発明に使用する用語と成句は下に示す意味と定義を有する。さらに、これらの定義と意味は、好ましい実施形態を含めて本発明を詳細に説明している。
【0112】
「受容体」または「受容体分子」は、リガンドが結合して受容体−リガンド複合体を形成する1つまたは複数のドメインを有する可溶型または膜結合/膜関連型のタンパク質または糖タンパク質である。作動薬または拮抗薬でありうるリガンドと結合することによって、この受容体は活性化または不活性化して、経路のシグナル伝達を開始または遮断しうる。
【0113】
「受容体分子の型」または「受容体ErbB(ErbB1)分子の型」という用語は、この受容体の型の特定の単一分子ではなく、ErbB1、ErbB2などの特定の受容体の型を意味する。言い換えると、本発明の二重特異性抗体はその第一抗原結合部位により個々の受容体ErbB1分子の第一エピトープと結合できるが、この抗体の第二抗原結合部位は、同一の個々の受容体ErbB1分子の異なる第二エピトープと結合する。この抗体の第二抗原結合部位が同じ型(ErbB1)の別の個々の受容体分子の異なる第二エピトープと結合することも可能である。さらにこの抗体の第二抗原結合部位が異なる型の受容体ErbB分子(例えばErbB2)に属する別の個々の受容体分子の異なる第二エピトープと結合することも可能である。
【0114】
「リガンド」または「受容体リガンド」は、受容体分子と結合して受容体−リガンド複合体を形成する天然または合成化合物を意味する。リガンドという用語には、作動薬、拮抗薬、および部分作動薬/拮抗薬作用を有する化合物が含まれる。
【0115】
「作動薬」または「受動態作動薬」は、受容体と結合して、受容体−作動薬複合体を形成し、前記受容体および受容体−作動薬複合体をそれぞれ活性化することにより経路のシグナル伝達と、さらなる生体過程とを開始する天然または合成化合物である。
【0116】
「拮抗薬」または「受容体拮抗薬」により、作動薬とは逆の生体作用を有する天然または合成化合物を意味する。拮抗薬は受容体と結合し、受容体の獲得を受容体作動薬と競合することにより作動薬の作用を遮断する。拮抗薬は作動薬の作用を遮断する能力により定義される。受容体拮抗薬は抗体またはその免疫療法上有効な断片でもありうる。本発明に記載の好ましい拮抗薬を引用し下に論ずる。
【0117】
「受容体ErbB」は、すでに上に詳述したように受容体ErbBファミリーに属する受容体型タンパク質チロシンキナーゼであり、EGFR(ErbB1)、ErbB2、ErbB3およびErbB4という受容体類、ならびに将来同定されるこのファミリーの他のメンバーが含まれる。受容体ErbBは、ErbBリガンドと結合しうる細胞外ドメイン、親油性膜貫通ドメイン、保存された細胞内チロシンキナーゼドメイン、およびリン酸化できる数個のチロシン残基を保有するカルボキシ末端シグナル伝達ドメインを一般的に有する。受容体ErbBは、「天然配列」受容体ErbBまたはその「アミノ酸配列変異体」でありうる。受容体ErbBは、好ましくは天然配列のヒト受容体ErbBである。ErbB1はEGFRタンパク質産物をコードする遺伝子を指す。最も好ましいのはEGF受容体(EGFR、HER1)である。「ErbB1」および「HER1」および「EGFR」という表現は、本明細書において相互交換できるように使用され、ヒトHER1タンパク質を指す。「ErbB2」および「HER2」という表現は、本明細書において相互交換できるように使用され、ヒトHER2タンパク質を指す。本発明によれば受容体ErbB1(EGFR)が好ましい。
【0118】
「ErbBリガンド」は受容体ErbBと結合し、かつ/または同受容体を活性化するポリペプチドである。EGFRと結合するErbBリガンドには、例えばEGF、TGF−α、アンフィレギュリン、ベータセルリン、HB−EGFおよびエピレギュリン(epiregulin)があり、好ましくはEGFおよびTGF−αである。
【0119】
「受容体ErbBの結合ドメイン」は、本発明に関連して、天然リガンドまたは拮抗薬または作動薬が結合する受容体ErbBの局所領域(結合配列/ループ/ポケット)である。この領域は1つの特定の結合部位またはエピトープだけではなく2つ以上のエピトープおよび結合部位をそれぞれ有しうる。そのドメイン内の1つの特定の結合エピトープは、一種の拮抗薬、作動薬またはリガンドと結合する。それにもかかわらず、同一の型の受容体の結合ドメイン内またはそれにほぼ近接した異なるエピトープに対する異なる薬剤の結合が、阻害または活性化によって、前記受容体に典型的である別個で独特のシグナル伝達経路を一般的に引き起こすと考えられている。さらに、本説明および特許請求の範囲において使用される「結合ドメイン内」という成句は、それぞれの天然リガンドの真の結合ドメインに近接した位置も含むことを指摘しておくべきであろう。
【0120】
「ErbB結合エピトープまたは結合部位」は、リガンドまたは受容体拮抗薬/作動薬が結合する受容体ErbBの結合ドメイン内またはそれに近接したアミノ酸のコンホメーションおよび/または立体配置を意味する。
【0121】
「同一のErbB/受容体ErbB1分子」は必ずしも全く同じ受容体分子を意味せず、同じ型の別の受容体分子も含む。好ましくは全く同じ受容体分子を意味する。
【0122】
「受容体ErbB拮抗薬/阻害剤」という用語は、受容体ErbBと結合しそれを遮断または阻害する生物学的に有効な分子を指す。このように、この受容体を遮断することによって拮抗薬はErbBリガンド(作動薬)の結合と作動薬/リガンド受容体複合体の活性化を防止する。ErbB拮抗薬は、HER1(ErbB1、EGFR)、HER2(ErbB2)、ErbB3およびErbB4に対する場合もある。本発明の好ましい拮抗薬は、EGF受容体(EGFR、HER1)に対するものである。受容体ErbB拮抗薬は、抗体もしくはその免疫療法的に有効な断片、またはペプチド、ポリペプチド、タンパク質のような非免疫生体分子でありうる。化学分子も包含されるが、抗EGFR抗体および抗HER2抗体が、本発明によれば好ましい拮抗薬である。
【0123】
本発明の好ましい抗体は抗Her1抗体および抗Her2抗体であり、さらに好ましくは抗Her1抗体である。好ましい抗Her1抗体はMAb425であり、好ましくはヒト化MAb425(hMAb425、US5558864;EP0531472)およびキメラMAb225(CETUXIMAB(登録商標))である。最も好ましいのはモノクローナル抗体h425で、それは単一薬物療法で高い有効性と低い有害作用および副作用とを示した。最も好ましい抗HER2抗体は、ジェネンテック/ロシュが販売しているHerceptin(登録商標)である。本発明に記載の有効なEGF受容体拮抗薬は、天然または合成化学化合物でもありうる。この部類に属する好ましい分子のいくつかの例には、有機化合物、有機金属化合物、ならびに有機化合物および有機金属化合物の塩がある。受容体HER2の化学拮抗薬の例は、EGFR、PDGFRおよびFGFRファミリーの受容体を阻害する、スチリル置換基を有するヘテロアリール化合物(US5656655);ビス単環および/または二環アリールヘテロアリール化合物、炭素環式化合物、ならびに複素炭素環式化合物(US5646153);三環ピリミジン化合物(US5679683);受容体チロシンキナーゼ阻害活性を有するキナゾリン誘導体(US5616582);ヘテロアリールエテンジイル化合物またはヘテロアリールエテンジイラリル化合物(US5196466);6−(2,6−ジクロロフェニル)−2−(4−(2−ジエチル−アミノエトキシ)フェニルアミノ)−8−メチル−8H−ピリド(2,3)−5−ピリミジン−7−オンと称する化合物(Panekら、1997、J.Pharmacol.Exp.Therap. 283、1433)である。
【0124】
「チロシンキナーゼ拮抗薬/阻害剤」という用語は、本発明によれば受容体型チロシンキナーゼを含めたチロシンキナーゼを阻害または遮断することが可能である天然または合成薬剤を指す。よって、本用語は上に定義した受容体ErbB拮抗薬/阻害剤を本質的に包含する。上および下に指摘した抗受容体ErbB抗体を除いて、本定義に基づくさらに好ましいチロシンキナーゼ拮抗薬剤は、乳癌および前立腺癌の単一薬物療法において有効性を示した化学化合物である。適当なインドロカルバゾール型のチロシンキナーゼ阻害剤は、米国特許第5516771号、米国特許第5654427号、米国特許第5461146号、米国特許第5650407号のような書類にみられる情報を用いて入手できる。米国特許第5475110号、米国特許第5591855号、米国特許第5594009号およびWO96/11933はピロロカルバゾール型チロシンキナーゼ阻害剤および前立腺癌について開示している。これに関連して最も有望な抗癌剤はゲフィチニブ(IRESSA(登録商標)、アストラゼネカ)であり、これは非小細胞肺癌(NSCLC)ならびに進行した頭頚部癌の患者に顕著な治療有効性と優れた耐容性を保有することが報告されている。
【0125】
好ましくは、上に定義したようなチロシンキナーゼの化学阻害剤の用量は、1日あたり体重1kgあたり1pg〜1gである。さらに好ましくは、チロシンキナーゼ阻害剤の用量は1日あたり体重1kgあたり0.01mg〜100mgである。
【0126】
本発明に記載の生体分子は好ましくは抗体もしくはその断片、または免疫複合体のような抗体の変異体である。
【0127】
これに関連して、本明細書における「抗体」または「免疫グロブリン」という用語は最も広い意味で使用され、無傷モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、少なくとも2つの無傷抗体から形成された多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、および望みの生体活性を示す限りは抗体断片に特異的に及んでいる。本用語は、結合特異性が異なり共に連結した2つ以上の抗体またはその断片からなるヘテロ抗体も一般に含む。
【0128】
定常領域のアミノ酸配列に応じて、無傷抗体を種々の「抗体(免疫グロブリン)クラス」に割り振ることができる。無傷抗体にはIgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMの5つの主要クラスがあり、これらのうちいくつかを「サブクラス」(アイソタイプ)、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgAおよびIgA2にさらに分類できる。異なる抗体クラスに対応する重鎖の定常部ドメインはそれぞれα、δ、ε、γおよびμと呼ばれる。本発明に記載の好ましい抗体の主要クラスはIgGであり、さらに詳細にはIgG1およびIgG2である。
【0129】
通常、抗体は分子量約150000の糖タンパク質であり、2つの全く等しい軽(L)鎖と2つの全く等しい重(H)鎖から構成される。各軽鎖は1つのジスルフィド共有結合で重鎖と連結するが、重鎖間のジスルフィド結合の数は免疫グロブリンのアイソタイプによって異なる。それぞれの重鎖と軽鎖には規則正しく間隔が開いた鎖内ジスルフィド架橋もある。各重鎖は一方の末端に可変部ドメイン(VH)を有し、多数の定常部ドメインがそれに続く。各軽鎖は一方の末端に可変部ドメイン(VL)を、もう一方の末端に1つの定常部ドメインを有する。軽鎖の定常部ドメインは重鎖の第一定常部ドメインと整列し、軽鎖の可変部ドメインは重鎖の可変部ドメインと整列する。特定のアミノ酸残基が軽鎖と重鎖の可変部ドメイン間の界面を形成すると考えられている。脊椎動物種の抗体の「軽鎖」を、定常部ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)およびラムダ(λ)と呼ばれる2つの明らかに異なる型のどちらかに割り振ることができる。
【0130】
本明細書に使用するように「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に同種の抗体集団から得られる抗体を指す。すなわちその集団を構成する個々の抗体は、少量存在するおそれのある考えられる天然突然変異を除いて全く等しい。モノクローナル抗体は、単一の抗原部位に対するもので、特異性が高い。さらに、異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を含んでいるポリクローナル抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は抗原上の単一決定基に対するものである。モノクローナル抗体は、その特異性に加えて、他の抗体の混入なしに合成できる点で有利である。モノクローナル抗体を作製する方法には、KohlerとMilstein(1975、Nature 256、495)により、および「Monoclonal Antibody Technology、The Production and Characterization of Rodent and Human Hybridomas」(1985、Burdonら編、Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology、第13巻、Elsevier Science Publishers、アムステルダム)に記載されたハイブリドーマ法があり、十分に公知の組換えDNA法(例えばUS4816567参照)によっても作製できる。モノクローナル抗体は、例えばClacksonら、Nature、352:624〜628(1991)およびMarksら、J.Mol.Biol. 222:58、1〜597(1991)に記載された方法を用いてファージ抗体ライブラリーからも単離できる。
【0131】
「キメラ抗体」という用語は、重鎖および/または軽鎖の一部が、特定の種に由来するか、または特定の抗体クラスまたはサブクラスに属する抗体における対応する配列と全く等しいか相同である一方で、そ(れら)の鎖の残りは別の種に由来するか、または別の抗体クラスまたはサブクラスに属する抗体、および望みの生体活性を示す限りはそのような抗体の断片における対応する配列と全く等しいか相同である(例えばUS4816567;Morrisonら、Proc.Nat.Acad.Sci.USA、81:6851〜6855(1984))抗体を意味する。キメラ抗体およびヒト化抗体の作製法も当技術分野で公知である。例えば、キメラ抗体の作製法にはBoss(セルテック)による、およびCabilly(ジェネンテック)による特許に記載されている方法がある(US4816397;US4816567)。
【0132】
「ヒト化抗体」は、非ヒト免疫グロブリンに由来する配列を最も少なく含む非ヒト(例えばげっ歯動物)キメラ抗体の形態である。ヒト化抗体は、大部分がヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)であり、ヒト化抗体ではレシピエントの超可変部(CDR)の残基が望みの特異性、親和性および能力を有するマウス、ラット、ウサギまたは非ヒト霊長類のような非ヒト種(ドナー抗体)の超可変部からの残基と置換されている。一部の例では、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)の残基を、対応する非ヒト残基と置換する。さらに、ヒト化抗体はレシピエント抗体またはドナー抗体にはみられない残基を有することもある。抗体の性能をさらに高めるためにこれらの修飾を行う。一般に、ヒト化抗体は少なくとも1つの、概して2つの可変部ドメインの実質的に全てを有し、可変部ドメインでは超可変ループの全てまたは実質的に全てが非ヒト免疫グロブリンの超可変ループと対応し、FRの全てまたは実質的に全てがヒト免疫グロブリン配列のFRである。ヒト化抗体は、概してヒト免疫グロブリンのものである免疫グロブリン定常部(Fc)の少なくとも一部も任意選択で有するであろう。ヒト化抗体の作製法は、例えばWinter(US5225539)およびBoss(セルテック、US4816397)により記載されている。
【0133】
「抗体断片」は、無傷抗体の一部を有し、好ましくはその抗原結合部または可変部を有する。抗体断片の例にはFab、Fab'、F(ab')2、Fv断片、Fc断片、二重特異性抗体、線状抗体(linear antibody)、一本鎖抗体分子、および抗体断片から形成した多重特異性抗体がある。「無傷」抗体は、抗原と結合する可変領域、軽鎖定常部ドメイン(CL)ならびに重鎖定常部ドメインであるCH1、CH2およびCH3を有する抗体である。無傷抗体は好ましくは1つまたは複数のエフェクター機能を有する。抗体のパパイン分解により、「Fab」断片と呼ばれる2つの全く等しい抗原結合断片が生成し、各Fab断片は単一の抗原結合部位、CL部、CH1部、および残余の「Fc」断片を有する。Fcという名は容易に結晶化できる能力を表したものである。
【0134】
抗体の「Fc」領域は、通例IgG1またはIgG2抗体の主要クラスのCH2部、CH3部およびヒンジ部を有する。ヒンジ部はCH1部をCH2−CH3と結合させるアミノ酸約15残基の基である。
【0135】
ペプシン処理により、2つの抗原結合部位を有し抗原と依然として架橋できる「F(ab')2」断片が得られる。
【0136】
「Fv」は完全な抗原認識、抗原結合部位を含む最小の抗体断片である。この領域は、1つの重鎖と1つの軽鎖可変部ドメインが非共有結合的に密接に会合した二量体からなる。各可変部ドメインの3つの超可変部(CDR)が相互作用してVH−VL二量体の表面に抗原結合部位を規定するのはこの立体配置である。まとめると、6つの超可変部は抗体に対して抗原と結合する特異性を付与する。しかし、単一の可変部ドメイン(言い換えると抗原に対して特異的な超可変部を3つだけ含む、Fvの半分)も、結合部位全体よりも親和性は低いものの抗原を認識して結合する能力を有する。
【0137】
「Fab」断片は軽鎖の定常部ドメインおよび重鎖の第一定常部ドメイン(CH1)も含有し、抗原結合部位1つだけを有する。
【0138】
「Fab'」断片は、重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端に、抗体のヒンジ部からの1つまたは複数のシステインを含む2、3の残基が付加していることがFab断片とは異なる。
【0139】
F(ab')2抗体断片は、間にヒンジのシステインを有するFab’断片の対として本来製造された。抗体断片の他の化学的結合についても公知である(例えばHermanson、Bioconjugate Techniques、Academic Press、1996;US4342566参照)。
【0140】
「単鎖Fv」または「scFv」抗体断片は、抗体のVおよびVドメインを有し、これらのドメインが単鎖ポリペプチドとなって存在する。Fvポリペプチドは、scFvが抗原の結合について望みの構造を形成することを可能にするようなポリペプチドリンカーをVHおよびVLドメインの間にさらに有することが好ましい。単鎖FV抗体は、例えばPluckthun(The Pharmacology of Monoclonal Antibodies、第113巻、RosenburgとMoore編、Springer-Verlag、ニューヨーク、269〜315頁(1994))、WO93/16185;US5571894;US5587458;Hustonら(1988、Proc.Natl.Acad.Sci. 85, 5879)またはSkerraとPlueckthun(1988、Science 240、1038)から公知である。
【0141】
「可変」または「FR」という用語は、可変部ドメインのある部分は抗体の間で配列が広範囲にわたって異なるという事実を指し、特定の抗原に対するそれぞれの特定の抗体の結合と特異性に使用される。しかし、可変性は抗体の可変部ドメイン全体に均等に分布しているわけではない。可変性は軽鎖と重鎖の可変部ドメインの両方に存在する「超可変」部と呼ばれる3つのセグメントに集中している。可変部ドメインの比較的配列保存性の高い部分はフレームワーク部(FR)と呼ばれる。天然の重鎖と軽鎖の可変部ドメインはそれぞれ4つのFR(FR1〜FR4)を有し、それらのFRは主にβシート構造をとり、3つの超可変部により連結し、それらの超可変部はこのβシート構造と連結するループを形成し、場合によるとβシート構造の一部を形成する。各鎖の超可変部はFRに近接してまとまり、もう一方の鎖の超可変部と共に抗体の抗原結合部位の形成を担う(Kabatら、「Sequences of Proteins of Immunological Interest」第5版、Public Health Service、National Institutes of Health、ベセズダ、メリーランド州(1991)参照)。定常部ドメインは抗原に抗体が結合するのに直接関与せずに、抗体依存性細胞傷害作用(ADCC)への抗体の参加のような様々なエフェクター機能を示す。
【0142】
「超可変部」または「CDR」という用語は、本明細書において使用される場合、抗原との結合を担っている抗体のアミノ酸残基を指す。超可変部は、「相補性決定部」もしくは「CDR」のアミノ酸残基(例えば軽鎖可変部ドメインの残基24〜34(L1)、50〜56(L2)および89〜97(L3)ならびに重鎖可変部ドメインの31〜35(H1)、50〜65(H2)および95〜102(H3))、および/または「超可変ループ」のアミノ酸残基(例えば軽鎖可変部ドメインの残基26〜32(L1)、50〜52(L2)および91〜96(L3)ならびに重鎖可変部ドメインの26〜32(H1)、53〜55(H2)および96から101(H3);ChothiaとLesk、J.Mol.Biol. 196:901〜917(1987))を一般に有する。「フレームワーク部」または「FR」の残基は、本明細書において定義したような超可変部の残基以外の可変部ドメイン残基である。
【0143】
「単一特異性」という用語は、抗体の2つの結合部位が同じ特異性を有することによって受容体の同一エピトープと結合できるような本発明に記載の抗体を指す。本発明によれば、医薬組成物は好ましくは単一特異性抗体を含む。
【0144】
「二重特異性抗体」(BAb)は2つの異なる特異性の抗原結合部位を有する単一の二価抗体(またはその免疫治療学的に有効な断片)である。本発明によれば、BAbはBAb<MAb1、MAb2>という記号で表され、ここで<MAb1>および<MAb2>はMAb1およびMAb2に由来する抗原結合部位を意味する。例えば、第一抗原結合部位が血管新生受容体(例えばインテグリンまたはVEGF受容体)に対し、第二抗原結合部位が受容体ErbB(例えばEGFRまたはHER2)に対するものである。化学法(例えばKranzら(1981)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 78、5807参照)、「ポリドーマ」法(US4474893参照)または組換えDNA法により二重特異性抗体を製造できる。これらの方法の全てが本質的に公知である。さらなる方法がWO91/00360、WO92/05793およびWO96/04305に記載されている。二重特異性抗体は単鎖抗体からも調製できる(例えばHustonら(1988) Proc.Natl.Acad.Sci. 85、5879;SkerraとPlueckthun(1988) Science 240、1038を参照)。これらは単鎖ポリペプチドとして製造された、抗体可変部のアナログである。二重特異性結合剤を形成させるために、単鎖抗体を化学的にまたは当技術分野で公知である遺伝子操作法により結合させることができる。本発明の二重特異性抗体をロイシンジッパー配列を用いて製造することも可能である。採用される配列は、転写因子FosおよびJunのロイシンジッパー部に由来する(Landschulzら、1988、Science 240、1759;総説はManiatisとAbel、1989、Nature 341、24を参照)。ロイシンジッパーはロイシンが7残基毎に概してみられる約20〜40残基長の特異的アミノ酸配列である。そのようなジッパー配列は、ロイシン残基が疎水側に並んで二量体を形成する両親媒性のαらせんを形成する。FosおよびJunタンパク質のロイシンジッパーに対応するペプチドは、選択的にヘテロ二量体を形成する(O'Sheaら、1989、Science 245、646)。ジッパーを含有する二重特異性抗体およびそれらの製造法は、WO92/10209およびWO93/11162にも開示されている。
【0145】
「融合タンパク質」という用語は、上に定義したような1つまたは複数の生体分子からなる天然または合成分子を指す。ここで、異なる特異性を有する2つ以上のペプチド性分子または(糖タンパク質を含めた)タンパク質性分子を、任意選択で化学リンカー分子またはアミノ酸性リンカー分子と共に融合させる。(5'→3'方向で)C−N融合またはN−C融合により、好ましくはC−N融合により、この連結を達成できる。しかし、本発明に記載の好ましい融合タンパク質は下に定義するような免疫複合体である。
【0146】
「免疫複合体」という用語は融合タンパク質を指し、共有結合により非免疫学的に有効な分子と融合したそれぞれの抗体もしくは免疫グロブリンを、またはその免疫学的に有効な断片を意味する。好ましくはこの融合パートナーは、グリコシル化されている可能性のあるペプチドまたはタンパク質である。抗体の定常重鎖のC末端または可変軽鎖および/または重鎖のN末端に前記非抗体分子を連結できる。通例3〜15個のアミノ酸残基を含有するペプチドであるリンカー分子を介して融合パートナーを連結できる。本発明に記載の免疫複合体は、受容体ErbBに対する免疫グロブリンまたはその免疫治療学的に有効な断片と、好ましくはTNFα、TFNγもしくはIL−2のようなサイトカイン、または別の傷害剤と、からなる融合タンパク質である。好ましくは、これらのペプチド性分子またはタンパク質性分子のN末端を、前記免疫グロブリンのFc部分であるC末端と連結する。
【0147】
「ヘテロ抗体」は、通例の化学架橋剤により共に融合した2つ以上の抗体または抗体結合断片から本来なる融合タンパク質であり、前記抗体のそれぞれが異なる結合特異性を有する。ヘテロ抗体は2つ以上の抗体または抗体断片を互いに結合させることにより調製できる。好ましいヘテロ抗体は架橋したFab/Fab'断片からなる。多様な結合剤または架橋剤を、抗体を複合させるために使用できる。例は、プロテインA、カルボジイミド、N−スクシンイミジル−S−アセチル−チオアセテート(SATA)およびN−スクシンイミジル−3−(2−ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)である(例えばKarpovskyら(1984)J.EXP.Med. 160、1686;Liuら(1985) Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82、8648を参照)。他の方法にはPaulus、Behring Inst.Mitt.、第78号、118(1985);Brennanら(1985)Science 30、81またはGlennieら(1987)、J.Immunol.139、2367により記載された方法がある。別の方法は、3本のFab'断片を結合するためにo−フェニレンジマレイミド(oPDM)を使用する(WO91/03493)。多重特異性抗体も本発明に関連して適し、例えばWO94/13804およびWO98/50431の教示に従って調製できる。本発明に記載の好ましいヘテロ抗体は、すでに記載したように互いに連結した2つの抗EGFR抗体(各抗体は同一の受容体の異なるエピトープに対する)を有する融合タンパク質(例えばMAB425−MAB225)である。
【0148】
「サイトカイン」という用語は、1つの細胞集団により放出され、別の細胞上で細胞内伝達物質として作用するタンパク質の一般用語である。そのようなサイトカインの例は、リンホカイン、モノカインおよび従来のポリペプチドホルモンである。ヒト成長ホルモン、N−メチオニルヒト成長ホルモン、およびウシ成長ホルモンのような成長ホルモン;副甲状腺ホルモン;チロキシン;インスリン;プロインスリン;リラキシン;プロリラキシン;卵胞刺激ホルモン(FSH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、および黄体形成ホルモン(LH)のような糖タンパク質ホルモン;肝増殖因子;線維芽細胞増殖因子;プロラクチン;胎盤ラクトゲン;マウス性腺刺激ホルモン関連ペプチド;インヒビン;アクチビン;血管内皮増殖因子(VEGF);インテグリン;トロンボポイエチン(TPO);NGFβのような神経成長因子;血小板増殖因子;TGFαおよびTGFβのようなトランスフォーミング成長因子(TGF);エリスロポエチン(EPO);IFNα、IFNβおよびIFNγのようなインターフェロン;M−CSF、GM−CSFおよびG−CSFのようなコロニー刺激因子;IL−1、IL−1a、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12のようなインターロイキン;ならびにTNF−αまたはTNF−βがサイトカインに含まれる。本発明によれば、好ましいサイトカインはインターフェロン、TNFαおよびIL−2である。
【0149】
抗体の「エフェクター機能」は、抗体のFc部(天然配列Fc部またはFc部のアミノ酸配列変異体)を原因とできる生体活性を指す。抗体のエフェクター機能の例には補体依存性細胞傷害作用、Fc受容体の結合、抗体依存性細胞性細胞傷害作用(ADCC)、食作用、細胞表面受容体(例えばB細胞受容体)の下方制御などがある。
【0150】
「ADCC」(抗体依存性細胞性細胞傷害作用)という用語は、Fc受容体(FcR)を発現する非特異性の細胞傷害細胞(例えばナチュラルキラー(NK)細胞、好中球、およびマクロファージ)が標的細胞上に結合した抗体を認識し、続いて標的細胞の溶解を引き起こすという細胞性反応を指す。ADCCを仲介する一次細胞であるNK細胞は、FcγRIIIのみを発現するが、単球はFcγRI、FcγRIIおよびFcγRIIIを発現する。目的分子のADCC活性を評価するために従来技術(US5500362、US5821337)に記載されたようなインビトロADCCアッセイを実施できる。そのようなアッセイに有用なエフェクター細胞には末梢血単核細胞(PBMC)およびナチュラルキラー(NK)細胞がある。
【0151】
「Fc受容体」または「FcR」という用語は、抗体のFc部と結合する受容体を記述するために使用される。好ましいFcRは天然配列ヒトFcRである。さらに、好ましいFcRは、IgG抗体(γ受容体)と結合するFcRで、FcγRI、FcγRIIおよびRcγRIIIサブクラスの受容体類が含まれ、これらの受容体の対立遺伝子変異体および選択的スプライシング型も含まれる。例えばFcRはRavetchとKinet、Annu.Rev.Immunol 9:457〜92 (1991)に総説されている。
【0152】
本発明の治療アプローチには特異的な実施形態として、例えば腫瘍傷害もしくは腫瘍増殖抑制効果のような望みの効果を支援するか、または望ましくない副作用を減少または防止するような、治療上有効な薬剤のさらなる投与が含まれる。よって本発明には、そのような薬剤と、上および下に定義および請求した医薬組成物との組み合わせが含まれる。このとき前記薬剤は他の受容体ErbB拮抗薬、VEGF受容体拮抗薬、サイトカイン、サイトカイン免疫複合体、抗血管新生剤、抗ホルモン剤、または細胞傷害剤一般でありうる。本明細書において定義したような組成物を公知の方法に従った放射線療法と組み合わせることも本発明の目的である。
【0153】
本明細書に関連して使用される「細胞傷害剤」という用語は、非常に広く定義され、細胞の機能を阻害または抑制し、かつ/または細胞の破壊(細胞死)を引き起こし、かつ/または抗腫瘍/抗増殖作用を発揮する、例えば新生物腫瘍細胞の発生、成熟または拡散を直接または間接的に防止する物質を指す。本用語は、増殖抑制作用のみを引き起こし細胞傷害作用を引き起こさない薬剤も表現上包含する。本用語は下に詳述するような化学療法剤に加えて、(抗ErbB抗体のような)他のErbB拮抗薬、抗血管新生剤、チロシンキナーゼ阻害剤、プロテインキナーゼA阻害剤、サイトカインファミリーのメンバー、放射性同位体、および細菌、菌類、植物または動物起源の酵素的に活性な毒素のような毒素を包含する。
【0154】
「化学療法剤」という用語は、「細胞傷害剤」という用語の部分集団であり、好ましくは直接に、および生体応答の変更のようなメカニズムを介してさらに少ない割合で間接的に、腫瘍細胞に対して抗腫瘍作用を発揮する化学薬剤を特異的に意味する。本発明によれば、適した化学療法剤は、好ましくは天然または合成化学化合物である。商業的な使用、臨床評価および前臨床開発に利用できる多数の抗腫瘍化学薬剤があり、本発明に請求され記載された受容体拮抗薬を用いた組み合わせ療法による腫瘍/新生物の治療のためにそれらの薬剤を本発明に含めることができよう。任意選択で前記受容体ErbB拮抗薬、好ましくは本発明の前記抗EGFR抗体と共にこの化学療法剤を投与できることを指摘しておくべきであろう。
【0155】
化学療法剤の例には、例えばナイトロジェンマスタード、エチレンイミン化合物、スルホン酸アルキルのようなアルキル化剤、ならびにニトロソ尿素、シスプラチンおよびデカルバジンのようなアルキル化作用を有する他の化合物;例えば葉酸、プリンまたはピリミジン拮抗薬のような代謝拮抗物質;例えばビンカアルカロイドおよびポドフィロトキシン誘導体のような有糸分裂阻害剤;細胞傷害性抗生物質ならびにカンプトテシン誘導体がある。
【0156】
好ましい化学療法剤は、アミフォスチン(ethyol)、シスプラチン、ダカルバジン(DTIC)、ダクチノマイシン、メクロレタミン(ナイトロジェンマスタード)、ストレプトゾシン、シクロホスファミド、カルムスチン(BCNU)、ロムスチン(CCNU)、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、リポソーム型ドキソルビシン(ドキシル)、ゲムシタビン(ジェムザール)、ダウノルビシン、リポソーム型ダウノルビシン(daunoxome)、プロカルバジン、マイトマイシン、シタラビン、エトポシド、メトトレキサート、5−フルオロウラシル(5−FU)、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ブレオマイシン、パクリタキセル(タキソール)、ドセタキセル(タキソティア)、アルデスロイキン、アスパラギナーゼ、ブスルファン、カルボプラチン、クラドリビン、カンプトテシン、CPT−11、10−ヒドロキシ−7−エチル−カンプトテシン(SN38)、ゲフィチニブ(イレッサ)、ダカルバジン、フロキシウリジン、フルダラビン、ヒドロキシ尿素、イホスファミド、イダルビシン、メスナ、インターフェロンα、インターフェロンβ、イリノテカン、ミトキサントロン、トポテカン、ロイプロリド、メゲストロール、メルファラン、メルカプトプリン、プリカマイシン、ミトタン、ペガスペルゲーゼ、ペントスタチン、ピポブロマン、プリカマイシン、ストレプトゾシン、タモキシフェン、テニポシド、テストラクトン、チオグアニン、チオテパ、ウラシルマスタード、ビノレルビン、クロラムブチルおよびその組み合わせである。
【0157】
本発明によれば最も好ましい化学療法剤は、シスプラチン、ゲムシタビン、ドキソルビシン、パクリタキセル(タキソール)およびブレオマイシンである。
【0158】
「抗血管新生剤」は、血管の発生を遮断するか、またはある程度妨害する天然または合成化合物を指す。抗血管新生分子は、例えば血管新生増殖因子または増殖因子受容体と結合しそれを遮断する生体分子でありうる。本明細書において好ましい抗血管新生分子は、受容体、好ましくは受容体インテグリンまたはVEGF受容体と結合する。本用語は、本発明によれば前記抗血管新生剤のプロドラッグも包含する。本用語は、すでに述べたように有効で、同様に細胞傷害剤、好ましくは化学療法剤に分類される薬剤をさらに包含する。
【0159】
種々の構造と起源を有し、抗血管新生性を発揮する多数の分子がある。本発明に適する、最も関連性のあるクラスの血管新生阻害剤または遮断剤は、例えば
(i)フルオロウラシル、マイトマイシン−C、タキソールのような抗有糸分裂剤、
(ii)2−メトキシエストラジオールのようなエストロゲン代謝物、
(iii)亜鉛メタロプロテイナーゼというメタロプロテアーゼを阻害するマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)阻害剤(例えばベチマスタット(betimastat)、BB16、TIMP、ミノサイクリン、GM6001または「Inhibition of Matrix Metalloproteinases:Therapeutic Applications」(Golub、Annals of The New York Academy of Science、第878a巻;Greenwald、Zucker編、1999)に記載されたもの)、
(iv)IFNα(US4530901、US4503035、US5231176)、アンジオスタチンおよびプラスミノーゲン断片(例えばクリングル1−4、クリングル5、クリングル1−3(O'Reilly、M.S.ら、Cell(ケンブリッジ、マサチューセッツ州)79(2):315〜328、1994;Caoら、J.Biol.Chem. 271:29461〜29467、1996;Caoら、J.Biol.Chem. 272:22924〜22928、1997)、エンドスタチン(O'Reilly、M.S.ら、Cell88(2)、277、1997およびWO97/15666)、トロンボスポンジン(TSP−1;Frazier、1991、Curr Opin Cell Biol3(5):792)、血小板因子4(PF4)のような抗血管新生多機能剤および因子、
(v)プラスミノーゲン活性化因子/ウロキナーゼ阻害剤、
(vi)ウロキナーゼ受容体拮抗薬、
(vii)ヘパリナーゼ、
(Viii)TNP−470のようなフマギリン類似体、
(ix)SU10のようなチロシンキナーゼ阻害剤。上および下に指摘した受容体ErbB拮抗薬(EGFR/HER2拮抗薬)の多くもチロシンキナーゼ阻害剤であることから、これらの阻害剤は腫瘍の成長の阻害に至る抗EGF受容体遮断活性と、それぞれ血管と内皮細胞の発生の阻害に至る抗血管新生活性とを示しうる。
(x)スラミンおよびスラミン類似体、
(xi)血管新生抑制性ステロイド、
(xii)VEGF拮抗薬およびbFGF拮抗薬、
(xiii)抗VEGF受容体抗体(DC−101)のようなVEGF受容体拮抗薬、
(xiv)flk−1拮抗薬およびflt−1拮抗薬、
(xv)COX−IIのようなシクロオキシゲナーゼIIの阻害剤、
(xvi)例えば抗受容体αv抗体およびRGDペプチドである、αv拮抗薬および受容体αv拮抗薬などのインテグリン拮抗薬および受容体インテグリン拮抗薬。本発明によれば、(受容体)インテグリン拮抗薬が好ましい。「インテグリン拮抗薬/阻害剤」または「受容体インテグリン拮抗薬/阻害剤」という用語は、受容体インテグリンを遮断し阻害する天然または合成分子を指す。本用語は、前記受容体インテグリンのリガンド(αvβ3に対するビトロネクチン、フィブリン、フィブリノーゲン、フォンビルブラント因子、トロンボスポンジン、ラミニン;αvβ5に対するビトロネクチン;αvβ1に対するフィブロネクチンおよびビトロネクチン;αvβ6に対するフィブロネクチン)に対する拮抗薬を包含する場合もある。
【0160】
本発明によれば受容体インテグリンに対する拮抗薬が好ましい。(受容体)インテグリン拮抗薬は天然または合成ペプチド、非ペプチド、ペプチド模倣体、抗体もしくはその機能的断片のような免疫グロブリン、または免疫複合体(融合タンパク質)でありうる。
【0161】
本発明の好ましいインテグリン阻害剤は、αvインテグリンという受容体(例えばαvβ3、αvβ5、αvβ6およびサブクラス)に対するものである。好ましいインテグリン阻害剤はαv拮抗薬で、具体的にはαvβ3拮抗薬である。本発明によれば好ましいαv拮抗薬はRGDペプチド、ペプチド模倣体(非ペプチド)性拮抗薬および受容体αvを遮断する抗体のような抗受容体インテグリン抗体である。例えばUS5753230およびUS5766591の教示に、非免疫学的αvβ3拮抗薬が記載されている。好ましい拮抗薬はRGDを含有する直鎖または環状ペプチドである。環状ペプチドは通例、安定性が高く血清中半減期の延長を誘導する。しかし、本発明の最も好ましいインテグリン拮抗薬は、シクロ−(Arg−Gly−Asp−DPhe−NMeVal)(EMD121974、Cilengitide(登録商標)、メルクKgaA、ドイツ;EP0770622)であり、これは受容体インテグリンαvβ3、αvβ1、αvβ6、αvβ8、αIIbβ3の遮断に有効である。
【0162】
αvβ3vβ5vβ6インテグリンという受容体のペプチド性およびペプチド模倣体(非ペプチド)性拮抗薬の適当なものが、化学文献および特許文献の両方に記載されている。例えばHoekstraとPoulter、1998、Curr.Med.Chem.5、195;WO95/32710;WO95/37655;WO97/01540;WO97/37655;WO97/45137;WO97/41844;WO98/08840;WO98/18460;WO98/18461;WO98/25892;WO98/31359;WO98/30542;WO99/15506;WO99/15507;WO99/31061;WO00/06169;EP0853084;EP0854140;EP0854145;US5780426;およびUS6048861に参照がなされている。ベンゾアゼピン、ならびに関連するベンゾジアゼピンおよびベンゾシクロヘプテンである受容体αvβ3インテグリン拮抗薬も本発明の使用に適するが、それらを開示している特許には、WO96/00574、WO96/00730、WO96/06087、WO96/26190、WO97/24119、WO97/24122、WO97/24124、WO98/15278、WO99/05107、WO99/06049、WO99/15170、WO99/15178、WO97/34865、WO97/01540、WO98/30542、WO99/11626、およびWO99/15508がある。バックボーンのコンホメーションが環という制約をもつことを特徴とする他の受容体インテグリン拮抗薬は、WO98/08840、WO99/30709、WO99/30713、WO99/31099、WO00/09503、US5919792、US5925655、US5981546、およびUS6017926に記載されている。US6048861およびWO00/72801には強力な受容体αvβ3インテグリン拮抗薬である一連のノナン酸誘導体が開示された。他の低分子量化学分子性インテグリン拮抗薬(ほとんどがビトロネクチン拮抗薬)がWO00/38665に記載されている。他の受容体αvβ3拮抗薬は、血管新生の阻害に有効であることが示された。例えば、(SB−265123として公知である)(S)−10,11−ジヒドロ−3−[3−(ピリジン−2−イルアミノ)−1−プロピルオキシ]−5H−ジベンゾ[a,d]シクロヘプテン−10−酢酸のような受容体の合成拮抗薬が様々な哺乳動物モデル系で試験された(Keenanら、1998、Bioorg.Med.Chem.Lett. 8(22)、3171;Wardら、1999、Drug Metab.Dispos. 27(11)、1232)。拮抗薬としての使用に適したインテグリン拮抗薬を同定するためのアッセイが、例えばSmithら、1990、J.Biol.Chem. 265、12267および参照した特許文献に記載されている。抗受容体インテグリン抗体も十分に公知である。適当な抗インテグリン(例えばαvβ3、αvβ5、αvβ6)モノクローナル抗体を、F(ab)2、Fab、および工作したFvまたは単鎖抗体を含めたその抗原結合断片を包含するように修飾できる。受容体インテグリンαvβ3に対する適当で使用に好ましいモノクローナル抗体の1つは、LM609であると明らかにされている(Brooksら、1994、Cell 79、1157;ATCC HB9537)。強力な特異的抗αvβ5抗体であるP1F6がWO97/45447に開示され、これは本発明にも好ましい。さらなる適したαvβ6選択的抗体はMAb14D9.F8(WO99/37683、DSM ACC2331、メルクKGaA、ドイツ)、および受容体インテグリンのαv鎖に選択的に対するMAb17.E6(EP0719859、DSM ACC2160、メルクKGaA)である。別の適した抗インテグリン抗体は市販のVitraxin(登録商標)である。
【0163】
本明細書において使用するように、「抗ホルモン剤」という用語は、腫瘍に及ぼすホルモンの作用を制御または阻害するように作用する天然化合物または合成有機化合物またはペプチド化合物を含む。さらに詳細には、「抗ホルモン剤」は、(1)血清アンドロゲンの生成を阻害するか、(2)血清アンドロゲンがアンドロゲン受容体と結合するのを遮断するか、(3)テストステロンがDHTまたは2つ以上のそのような化合物の組み合わせに変換するのを阻害する。本発明に記載の抗ホルモン剤は一般にステロイド受容体拮抗薬を包含し、さらに詳細には、例えばタモキシフェン、ラロキシフェン、アロマターゼを阻害する4(5)−イミダゾール、4−ヒドロキシタモキシフェン、トリオキシフェン、ケオキシフェン、LY117018、オナプリストン、およびトレミフェン(フェアストン)を含めた抗エストロゲン;フルタミド、ニルタミド、ビカルタミド、ロイプロリド、およびゴセレリンのような抗アンドロゲン;ならびに薬学的に許容できる上のいずれかの塩、酸または誘導体を包含する。本用語は、卵胞刺激ホルモン(FSH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、ならびに黄体形成ホルモン(LH)およびLHRH(黄体形成ホルモン放出ホルモン)のような糖タンパク質ホルモンの作動薬および/または拮抗薬も包含する。本発明に有用なLHRH作動薬はZOLADEX(登録商標)(ゼネカ)として商業的に入手できる酢酸ゴセレリンである。有用なLHRH拮抗薬の別の例は、GANIRELIX(ロシュ/アクゾノーベル)である。ステロイド系抗アンドロゲンの例は、酢酸シプロテロン(CPA)およびMEGACE(登録商標)(ブリストルマイヤーズ Oncology)として商業的に入手できる酢酸メゲストロールである。ステロイド系抗アンドロゲンは前立腺アンドロゲン受容体を遮断することができ、LHの放出も阻害しうる。CPAを1日あたり100mg〜250mgの用量でヒト患者に等することが好ましい。非ステロイド系抗アンドロゲンはアンドロゲン受容体を遮断し、血清LHレベルおよび血清テストステロンレベルの増加も引き起こしうる。好ましい非ステロイド系抗アンドロゲンは、EULEXIN(登録商標)(Schering社)として商業的に入手できるフルタミド(2−メチル−N−[4−20ニトロ−3−(トリフルオロメチル)フェニル]プロパンアミド)である。フルタミドは、アンドロゲンの取込みを阻害することにより、標的組織においてアンドロゲンが核に結合することを阻害することにより、またはその両方により抗アンドロゲン作用を発揮する。別の非ステロイド系抗アンドロゲンはニルタミドであり、その化学名は5,5−ジメチル−3−[4−ニトロ−3−(トリフルオロメチル−4'−ニトロフェニル)−4,4−ジメチル−イミダゾリジン−ジオンである。本発明のいくつかの実施形態において、抗ホルモン剤は酢酸ロイプロリドのようなLHRH作動薬と、フルタミドまたはニルタミドのような抗アンドロゲンとの組み合わせである。例えば酢酸ロイプロリドを皮下、筋肉内または静脈内注射により投与でき、同時にフルタミドを経口投与できる。本発明に記載の抗ホルモン剤には、RAR、TR、VDRなどに対する拮抗薬のような非許容受容体に対する拮抗薬を含めた上に指摘したようなステロイド/甲状腺ホルモン受容体の拮抗薬がある。当業技術者は容易にわかるように、合成、天然の両方である多様なレチノイン酸受容体(RAR)拮抗薬を本発明に応じて使用できる。
【0164】
本発明の二重特異性抗体を他の薬剤と組み合わせることができる。これらの薬剤を好ましくは以下から選択できる。
【0165】
・Iressa(登録商標)のようなチロシンキナーゼ阻害剤、
・抗血管新生剤、好ましくはインテグリン阻害剤、さらに好ましくはシクロ−(Arg−Gly−Asp−DPhe−NMeVal)(Cilengitide(登録商標)、メルクKGaA)のような環状ペプチドを含めたRGDペプチド、
・DC−101またはVEGF拮抗薬のような抗VEGF受容体抗体、
・COX−II阻害剤、
・TNF−α、IFN−α、IFN−β、IFN−γ、IL−2のようなサイトカイン、
・HYB165を例とする混合バックボーンアンチセンスオリゴヌクレオチドのようなI型プロテインキナーゼA(PKAI)阻害剤(例えばTortoraら、1999、Clin.Cancer Res.、875〜881参照)、
・ゴセレリン、ボセレリン、ロイプロレイン、タモキシフェンのような抗ホルモン剤。
【0166】
「癌」および「腫瘍」という用語は、調整できない細胞増殖により概して特徴づけられる、哺乳動物における生理学的状態を指すか、または記述する。本発明の医薬組成物により、乳房、心臓、肺、小腸、結腸、脾臓、腎臓、膀胱、頭頚部、卵巣、前立腺、脳、膵臓、皮膚、骨、骨髄、血液、胸腺、子宮、精巣、頚部、および肝臓の腫瘍のような腫瘍を治療できる。さらに具体的には腫瘍は、腺腫、血管肉腫、星状細胞腫、上皮癌、胚細胞腫、神経膠芽腫、神経膠腫、過誤腫、血管内皮腫、血管肉腫、血腫、胚芽腫、白血病、リンパ腫、髄芽腫、黒色腫、神経芽腫、骨肉腫、網膜芽腫、横紋筋肉腫、肉腫および奇形腫からなる群から選択される。詳細には腫瘍は、末端部黒子黒色腫、光線角化症、腺癌、腺様嚢胞癌、腺腫、腺肉腫、腺扁平上皮癌、星状細胞腫瘍、バルトリン腺癌、基底細胞癌、気管支腺癌、毛細管、類癌腫、癌、癌肉腫、海綿体、胆管癌、軟骨肉腫、脈絡叢乳頭腫/癌、明細胞癌、嚢胞腺腫、内胚葉洞腫瘍、内膜増殖症、子宮内膜間質部肉腫、類内膜腺癌、上衣、類上皮、ユーイング肉腫、線維層板、限局性結節性過形成、ガストリノーマ、生殖細胞腫瘍、神経膠芽腫、グルカゴノーマ、血管芽腫、血管内皮腫、血管腫、肝腺腫、肝腺腫症、肝細胞癌、インスリノーマ、上皮内癌、上皮内扁平細胞癌、浸潤扁平細胞癌、大細胞癌、平滑筋肉腫、悪性黒子型黒色腫、悪性黒色腫、悪性中皮腫、髄芽腫、髄上皮腫、黒色腫、髄膜、中皮、転移性癌、粘液性類表皮癌、神経芽腫、感覚上皮腺癌、結節性黒色腫、えん麦細胞癌、乏突起膠細胞、骨肉腫、膵臓ポリペプチド、乳頭状漿液性腺癌、松果体細胞、下垂体腫瘍、プラスマ細胞腫、偽肉腫、肺芽腫、腎細胞癌、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、肉腫、漿液性癌、小細胞癌、軟部組織癌、ソマトスタチン分泌腫瘍、扁平癌、扁平上皮癌、中皮下、表在拡大型黒色腫、未分化癌、ブドウ膜黒色腫、いぼ状癌、ビポーマ、分化癌、およびウィルムス腫瘍からなる群から選択される。
【0167】
本発明の抗体分子で好ましくは治療できる腫瘍は、乳癌、前立腺癌、頭頚部癌、SCLC、膵臓癌のような受容体ErbB、具体的には受容体ErbB1を多量に発現する固形腫瘍または転移腫瘍である。
【0168】
「生物学的に/機能的に有効」または「治療上有効な(量)」という用語は、インビボまたはインビトロで生体機能を引き起こすか、または生体機能の変化を引き起こし、かつ哺乳動物、好ましくはヒトにおける疾病または障害を治療することが特定量で有効である薬物/分子を指す。癌の場合、治療有効量のその薬物は、癌細胞数を減少させ、腫瘍の大きさを縮小し、末梢臓器への癌細胞の浸潤を阻害し(すなわちある程度減速させ、好ましくは停止させ)、腫瘍の転移を阻害し(すなわちある程度減速させ、好ましくは停止させ)、腫瘍の増殖をある程度阻害し、かつ/または癌に伴う1つもしくは複数の症状をある程度緩和しうる。この薬物が増殖を防止し、かつ/または現存する癌細胞を死滅させる程度に応じて、その薬物は細胞増殖抑制性および/または細胞傷害性でありうる。癌の治療では、例えば疾病が進行するまでの時間(TTP)を評価すること、および/または応答速度(RR)を測定することにより有効性を測定できる。
【0169】
「免疫治療学的に有効な」という用語は、哺乳動物において免疫応答を引き起こす生体分子を指す。さらに具体的には、本用語は抗原を認識して結合しうる分子を指す。概して、抗原結合部位(相補性決定部、CDR)を有する抗体、抗体断片および抗体融合タンパク質は免疫治療学的に有効である。
【0170】
「放射線療法」:本発明によれば腫瘍を追加的に放射線または放射性医薬品で治療できる。放射線源は、治療を受ける患者の体内または体外のどちらかでありうる。線源が患者の体外にある場合の治療は対外放射線療法(EBRT)として知られている。線源が患者の体内にある場合の治療は近接照射療法(BT)と呼ばれる。使用された典型的な放射性原子の一部には、ラジウム、セシウム−137、イリジウム−192、アメリシウム−241、金−198、コバルト−57、銅−67、テクネチウム−99、ヨウ化物−123、ヨウ化物−131、およびインジウム−111がある。本発明に記載の薬剤を放射性同位体で標識することも可能である。今日、放射線療法は切除または手術できない腫瘍および/または転移腫瘍を抑制するための標準的な治療である。放射線療法を化学療法と組み合わせた場合に結果の改善がみられた。放射線療法は、標的領域に送達された高線量の放射線が腫瘍と正常組織の両方で再生する細胞の死滅をもたらすという原理に基づいている。放射線投与計画は、吸収線量(rad)、時間および分割により一般に規定され、腫瘍学者により慎重に規定されなければならない。患者が受ける放射線量は多様な事柄に依存するが、最も重要な事柄の2つは他の決定的な体の構造または臓器に関する腫瘍の位置と、その腫瘍が拡散している度合いである。放射線療法を受けている患者のための好ましい治療コースは、5〜6週間の治療スケジュールで総線量50〜60Gyを分割して1日に1.8〜2.0Gy、1週間に5日単回照射するものであろう。Gyはグレイ(Gray)の略語で、100radの線量を指す。放射線投与計画に関連して、本発明において記載したように抗ErbB抗体で腫瘍を治療するのならば、通常は陽性で相乗的でさえある効果を観察できる。言い換えると、前記化合物による腫瘍の増殖の阻害は、放射線および/または化学療法剤と組み合わせた場合に増強される。本発明によれば、放射線療法を任意選択で使用できる。本発明に記載の薬剤を十分量患者に投与できないような場合に、放射線療法は推奨され、かつ好ましい。
【0171】
「薬物治療」:本発明の方法は、複数のステップによって本発明を実施するための多様な様式を含む。例えば、本発明に記載の薬剤を同時に、連続的に、または別々に投与できる。さらに、約3週間以内の投与間隔で、すなわち第一活性薬剤の投与の実質的に直後から第一薬剤の投与後約3週間まで、その薬剤を別々に投与できる。外科的処置の後にこの方法を実施できる。代わりに、第一活性薬剤と第二活性薬剤の投与の合間にこの外科的処置を実施できる。この方法の例は、本発明の方法と外科的腫瘍除去の組み合わせである。この方法にしたがう治療は、概して1つまたは複数の投与サイクルで治療組成物を投与することを含む。例えば、同時投与が実施される場合、両薬剤を含む治療組成物を、約2日から約3週間の期間にわたって単一サイクルで投与する。その後、開業医の判断に従って必要ならばこの治療サイクルを繰り返すことができる。同様に、連続適用が企図される場合、各個々の治療薬の投与時間が同一の期間を概してカバーするように調整される。サイクルの間隔は約0から2カ月まで変化しうる。
【0172】
本発明の薬剤を注射により、または経時的な低速輸液により非経口的に投与できる。治療すべき組織は概して全身投与により体内にアクセスされるため、治療化合物の静脈内投与により治療される頻度が最も高いが、標的にされた組織が標的分子を含有しそうな見込みがある場合は他の組織および送達手段が熟慮される。よって、本発明の薬物を眼内、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、腔内、経皮、同所注射および同所輸液により投与でき、蠕動的な方法によっても送達できる。例えば本発明のインテグリン拮抗薬を含有する治療組成物は、例えば単位用量の注射のように、慣例的に静脈内注射される。
【0173】
本発明の治療組成物は、生理学的に耐えられる担体と、その担体に有効成分として溶解または分散した、本明細書において記載された関連する薬剤とを含有する。
【0174】
本明細書において使用するように、「薬学的に許容できる」という用語は、組成物、担体、希釈剤および試薬を指し、悪心、めまい、急性胃蠕動などのような望ましくない生理作用を引き起こさずに哺乳動物に投与できる物質を表す。活性成分が溶解または分散して中に含まれる医薬組成物の調製は、当技術分野において十分に理解され、処方に基づいて制限される必要はない。概してそのような組成物は、溶液または懸濁液のどちらかとして注射できるように調製されるが、使用前に液体に入れて溶液または懸濁液にすることに適した固形形態も調製できる。この調製物を乳化させることもできる。活性成分と薬学的に許容でき適合できる賦形剤と共に、本明細書において記載した治療法に使用するために適した量でその活性成分を混合できる。適した賦形剤は、例えば水、生理食塩水、デキストロース、グリセリン、エタノールなどおよびその組み合わせである。さらに、望むならば活性成分の有効性を増強する湿潤剤または乳化剤、pH調整剤などのような補助物質をその組成物に少量含有させることもできる。本発明の治療組成物は、本明細書における成分の薬学的に許容できる塩も包含し得る。薬学的に許容できる塩には、(ポリペプチドの遊離アミノ基と共に形成される)酸付加塩があり、それらは例えば塩酸もしくはリン酸のような無機酸、または酢酸、酒石酸、マンデル酸などのような有機酸を用いて形成される。遊離カルボキシル基と共に形成した塩も、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウムまたは水酸化鉄(III)のような無機塩基、およびイソプロピルアミン、トリメチルアミン、2−エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどのような有機塩基からも得られる。環状ポリペプチド性αv拮抗薬の調製に使用する場合に特に好ましいのはHCl塩である。生理学的に耐えうる担体は当技術分野で十分公知である。液体である担体の例は、有効成分と水以外にどのような物質も含有しないか、またはリン酸ナトリウムのような生理的pH値の緩衝液、生理食塩水、またはリン酸緩衝生理食塩水のように両方を含有する、滅菌水溶液である。さらに水性担体は1つを超える緩衝性塩、ならびに塩化ナトリウムおよび塩化カリウムのような塩、デキストロース、ポリエチレングリコールおよび他の溶質を含有しうる。液体組成物は、水以外に、および水を除外して液相も含有し得る。そのような追加的な液相の例は、グリセリン、綿実油のような植物油、および水−油エマルションである。
【0175】
概して、例えば受容体ErbB(ErbB1)遮断性二重特異性抗体、受容体インテグリン遮断抗体もしくは抗体断片もしくは抗体結合体または抗VEGF受容体遮断抗体、断片もしくは結合体の形態の免疫治療剤の治療有効量は、生理学的に耐えられる組成物にして投与された場合に1ミリリットル(ml)あたり約0.01マイクログラム(μg)から約100μg/ml、好ましくは約1μg/mlから約5μg/ml、通常は約5μg/mlの血漿中濃度を得るために十分な量である。別の言い方をすると、その用量は約0.1mg/kg〜約300mg/kg、好ましくは約0.2mg/kg〜約200mg/kg、最も好ましくは約0.5mg/kg〜約20mg/kgを1日に1回または複数回、1または数日間投与まで変動しうる。この免疫療法剤がモノクローナル抗体の断片または結合体の形態である場合、抗体全体の質量に対するその断片/結合体の質量に基づいてその量を容易に調整できる。抗体拮抗薬の好ましい血漿中モル濃度は約2マイクロモル濃度(μM)〜約5ミリモル濃度(mM)で、好ましくは約100μM〜1mMである。
【0176】
非免疫療法性ペプチドまたはタンパク質性ポリペプチドまたは他の類似分子量の生体分子である本発明の薬剤の治療有効量は、概して生理学的に耐えられる組成物を投与する場合に1ミリリットル(ml)あたり約0.1マイクログラム(μg)〜約200μg/ml、好ましくは約1μg/ml〜約150μg/mlの血漿中濃度を得るために十分なポリペプチドの量である。1モルあたり約500グラムの質量を有するポリペプチドに基づくと、ポリペプチド拮抗薬の好ましい血漿中モル濃度は約2マイクロモル濃度(μM)〜約5ミリモル濃度(mM)であり、好ましくは約100μM〜1mMである。
【0177】
好ましくは本発明に記載の化学細胞傷害剤または化学療法剤である(免疫療法剤でも非免疫療法性ペプチド/タンパク質でもない)活性薬剤の典型的な用量は、1日あたり体重1kgあたり10mg〜1000mg、好ましくは約20〜200mg、さらに好ましくは50〜100mgである。
【0178】
本発明の医薬組成物は、本発明の組み合わせ療法(「補助的療法」)に伴う副作用を減少させるかまたは避ける薬剤で被験者を治療することを包含する成句を含みうる。その薬剤には、例えば抗癌剤の毒性作用を減少させる薬剤、例えば骨吸収阻害剤、心保護剤があるがそれらに限定されない。前記補助的薬剤は化学療法、放射線療法または手術に伴う悪心および嘔吐の発生を防止または減少させるか、または骨髄抑制性の抗癌薬の投与に伴う感染の発生を減少させる。補助的薬剤は当技術分野で十分に公知である。本発明に記載の免疫療法剤は、BCGおよび免疫系刺激剤のようなアジュバントと共に追加的に投与できる。さらに、この組み合わせには、免疫療法剤または細胞傷害に有効な放射標識同位体を含有する化学療法剤、または細胞傷害性ペプチド(例えばサイトカイン)もしくは細胞傷害薬などのような他の細胞傷害剤を含む。
【0179】
腫瘍または転移腫瘍を治療するための「医薬キット」という用語は、パッケージと、通例は腫瘍および転移腫瘍を治療する方法に試薬を使用するための説明書とを指す。本発明のキットの中の試薬は、本明細書において記載するような治療組成物として概して製剤されるため、キットの形での配布に適した種々の形態のいずれかでありうる。そのような形態は、本発明の医薬分子、好ましくは抗ErbB1抗体を提供するための液剤、粉剤、錠剤、懸濁剤などの製剤を包含し得る。この試薬を、本方法に従って別々に投与することに適した別々の容器に入れて供給することが可能であるが、代わりにそのパッケージの中の単一容器に入った組成物と組み合わせて供給することも可能である。そのパッケージには、本明細書において記載する治療法に従った試薬の1回または複数回の投薬に十分な量を入れることができる。本発明のキットは、このパッケージに含まれる材料の「使用説明書」も含む。
【0180】
(実施例)
実施例1:
MAb425およびMAb225のF(ab')2断片の調製
抗EGFR抗体であるヒト化MAb425およびキメラMAb225を制限タンパク質分解によりF(ab')2断片に変換した。F(ab')2抗体の発生を各抗体について最適化する必要があった。製造に使用した一般案を下に示す。両抗体にはペプシン切断が最良であったが、パパイン切断も適用できる。残った完全な抗体とFc断片をプロテインAセファロースカラムで除去した。F(ab')2断片の収率は100%近くであった。活性を全く失わずにF(ab')2断片を−20℃で長期間貯蔵できる。
【0181】
一般案:
増殖用発酵→遠心分離→限外ろ過→プロテインAクロマトグラフィー→透析/限外ろ過→切断→プロテインAクロマトグラフィー→透析/限外ろ過→F(ab')2産物
詳細:
PBS、pH:7.4
タンパク質含量:5.06mg/ml(ピアス社)
試薬:クエン酸三ナトリウム二水和物、クエン酸、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、ペプシン、グリシン、塩化ナトリウム
緩衝溶液:
0.1M クエン酸Na緩衝液、pH3.5、
10mg/ml ペプシン(クエン酸Na緩衝液、pH3.5に溶解)、
1M Tris、pH11
1.5M グリシン+3M NaCl、pH8.9
0.1M クエン酸、pH2.5。
【0182】
ペプシンによる分解法:
0.1Mクエン酸ナトリウム(pH3.5)中で一晩MAbを透析することによりpHと緩衝液の条件を合わせた。ペプシンを1:33w/wの比となるように透析した免疫グロブリンに加えた。混合物を水浴に入れ、37℃で連続的に撹拌した。75分後に1Mトリス溶液7mlを加えて分解を終止させた。このステップで反応液のpHは約8.5に調製されているはずである。残余のIgGおよび/またはFc断片を除去するために、この混合液をプロテインAカラムに移した。
【0183】
プロテインAセファロース:
平衡化したプロテインAセファロースカラムにペプシン分解物をアプライし、クロマトグラムがベースラインに戻るまでカラムを平衡化緩衝液で洗浄した。通過した画分を回収し、アミコンチャンバー(YM30膜)で体積を減らしてから、PBS(pH7.4)で透析した。0.1Mクエン酸(pH2.5)を用いて、プロテインAセファロースカラムからFc断片または非修飾抗体のような潜在的な混入物質を溶離させた。
【0184】
クロマトグラフィー条件:
カラムのベッドサイズ5cm×2.5cm。IgG10mgと結合すると期待されるプロテインAセファロース1mlを1.5Mグリシン+3M NaCl(pH8.9)で平衡化し、流速:60ml/h、検出:OD280nm、吸光度範囲0.2/2.0、Uvicord SI1、チャート速度:0.1mm/minで、1画分5mlを回収した。
【0185】
F(ab')2調製物の収率(ピアス社)
Fc部分が分子のざっと3分の1であることを考慮すると、両抗体についてF(ab')2調製物の収率は100%近くであった。試料の濃度は6〜7mg/mlのはずである。F(ab')2調製物の純度をSDS−PAGEで監視した。
【0186】
実施例2:
二重特異性抗体BAb<425,225>の調製
Brennanら(Science、1985、229、81〜83)が記載したようにIgG断片の化学的組換えにより二重特異性抗体を作製した。本発明に記載の修正法の各ステップは以下のように一覧される;
F(ab')2産物→Fab'への還元→ゲルクロマトグラフィー→誘導体化→ゲルクロマトグラフィー→複合→ゲルクロマトグラフィー→限外ろ過→滅菌ろ過→BAb
両方の特異的F(ab')2断片をFab'断片に変換した。複合ステップが成功するかはエルマン修飾に適したFab'断片を選択することにかかっていた。MAb225/MAb425に由来するBAbの場合、<225>成分を修飾した。これらの修飾の導入後に個々のBAbの収率は20〜30%の範囲であった。抗225Fab'をエルマン試薬で修飾し、425に特異的なFab'と複合させた。ゲルろ過クロマトグラフィーにより二重特異性抗体を回収した。
【0187】
詳細:
このステップでは、両抗体をDTTで還元してFab'断片を作製した。MAb225に由来するFab'をエルマン試薬で修飾してから複合した。しかしながら、MAb425に由来するFab'をエルマン試薬で修飾することも可能である。
【0188】
断片:
(i) F(ab'<425>)2 7.4mg/ml
(ii) F(ab'<225>)2 6.9mg/ml
溶液/緩衝液:
PBS(pH7.4)、PBS+0.65M NaCl+2.5mM EDTA(pH7.4)、51mMジチオトレイトール(PBS溶液)、0.1Mリン酸Na緩衝液(pH8.0)、35mMエルマン試薬(0.1Mリン酸Na緩衝液溶液、pH8.0)、250mM EDTA(pH7.4)
試薬:
1,4−ジチオトレイトール、エルマン試薬、塩化ナトリウム、オルトリン酸二ナトリウム、リン酸二水素カリウム、EDTA、Titriplex III、Superdex200(26/60)ファルマシア。
【0189】
合成の第一ステップ:
MAb<225>Fab'−TNBの調製
6550μlのF(ab')2MAb225 40mg+65.4μlのDTT 51mM+65.4μlのEDTA 250mM
DTTの終濃度0.5mM、EDTAの終濃度2.5mM
反応物をアルゴン雰囲気にして、水浴に入れて30℃で40分間連続的に撹拌しながら温置した。温置後、エルマン試薬1120μlを反応混合物に加えた。このステップは生成するFab'の遊離SH基を可逆的に遮断する。反応物中のエルマン試薬の終濃度は5.0mMである。全てのSH基を遮断するために反応混合物を室温で30分間撹拌した。反応混合物の色は透明から黄色に変化する。Superdex200(26/60)カラムを用いてPBS+0.65M NaCl+2.5mM EDTAで反応混合物を精製し、還元したエルマン修飾Fab'分子と、未還元F(ab')2、Fab'および過剰の試薬のような潜在的混入物とを分離した。Fab−TNB断片をプールし、アルゴン雰囲気にして結合反応を行うまで氷冷保存した。
【0190】
合成の第二ステップ:
MAb<425>Fab'の調製
6135μlのF(ab')2MAb425 40mg+80μlのEDTA 250mM+80μlのDTT 51mM
開始:Fab−TNBの調製がほぼ終了するまでは反応を開始すべきではない。反応の終濃度はDTTが0.5mMでEDTAが2.5mMである。反応混合物をアルゴン雰囲気にして30℃で40分間温置した。温置直後に、平衡化したSuperdex200(26/60)カラムに反応混合物を移し、PBS+0.65M NaCl+2.5mM EDTA(pH7.4)緩衝液を用いて、Fab'と未還元のF(ab')2およびDTTとを分離した。緩衝液と回収用試験管をアルゴンでそれぞれ飽和させ、遊離SH基の酸化を防止した。Fab'含有断片をアルゴンで飽和した試験管に直接回収した。
【0191】
合成の第三ステップ:
Fab'<425>とFab'<225>−TNBとの複合
結合反応:0.9mg/mlのMAb225Fab'−TNB32.5ml、31.6mg+1.5mg/mlのMAb425 Fab'23.5ml、34.8mg。Fab'およびFab'−TNB抗体を合わせ、YM10膜を入れたアミコンチャンバーで(アルゴンを用い)体積を約5mlに減らした。反応混合物をアルゴン雰囲気にして4℃で一晩連続的に撹拌した。Superdex200(26/60)カラムを通過させて結合体を精製した。このとき緩衝液とカラムをヘリウムで飽和させた。二重特異性F(ab')2(ピーク1)を回収した。ピーク1:精製二重特異性抗体(166〜187ml)、ピーク2:残留Fab'。同一性と純度を確認するために非還元10%SDS−PAGEゲルに試料をアプライした。この典型的な例では、精製BAb<425,225>F(ab')2の収量は11mg(16.7%)であった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一または異なる受容体ErbB分子型上に位置する異なるエピトープと結合する能力を有する二重特異性抗体またはその断片であって、該抗体は、ErbB1である第一受容体型のエピトープと結合する第一抗原結合部位と、第二受容体ErbB分子型の異なるエピトープと結合する異なる第二抗原結合部位とを有する、二重特異性抗体またはその断片。
【請求項2】
前記第二受容体ErbB分子型がErbB1(EGFR)である、請求項1に記載の二重特異性抗体。
【請求項3】
前記第二受容体ErbB分子型がErbB2(Her−2)である、請求項1に記載の二重特異性抗体。
【請求項4】
前記エピトープの少なくとも1つが受容体の結合ドメイン内に位置する、請求項1〜3のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【請求項5】
前記受容体の結合ドメインが前記受容体ErbBの天然リガンド結合ドメインである、請求項4に記載の二重特異性抗体。
【請求項6】
前記第一または第二抗原結合部位が前記受容体ErbB分子型の天然リガンド結合ドメイン内のエピトープと結合する、請求項1〜3のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【請求項7】
前記第一および第二抗原結合部位が前記受容体ErbB分子型の天然リガンド結合ドメイン内のエピトープと結合する、請求項1〜3のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【請求項8】
前記両抗原結合部位が、同一の受容体ErbB分子型上に位置する異なるエピトープと結合する、請求項1〜7のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【請求項9】
前記両抗原結合部位が、異なる受容体ErbB分子型上に位置する異なるエピトープと結合する、請求項1〜7のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【請求項10】
前記第一および第二抗原結合部位が前記受容体ErbBの天然リガンド結合ドメイン内の異なるエピトープとそれぞれ結合することにより、前記受容体を遮断および/または阻害し、前記受容体ErbBの遮断および/または阻害、ならびに受容体ErbB特異的経路のシグナル伝達の下方制御の誘導がそれぞれの単一特異性抗体に比べて増強される、請求項8に記載の二重特異性抗体。
【請求項11】
同一または異なる特異性を有する異なる受容体ErbB分子の架橋および/または二量体化の誘導が、同一の受容体ErbB分子上のエピトープに対する二重特異性抗体の結合に比べて増強されている、請求項9に記載の二重特異性抗体。
【請求項12】
前記第一抗原結合部位がヒト化、キメラまたはマウスMAb425に由来する、請求項1〜11のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【請求項13】
前記第一抗原結合部位がヒト化、キメラまたはマウスMAb225に由来する、請求項1〜11のいずれかに記載の二重特異性抗体。
【請求項14】
前記第一抗原結合部位がヒト化、キメラまたはマウスMAb425に由来し、前記第二抗原結合部位がヒト化、キメラまたはマウスMAb225に由来し、各抗原結合部位が受容体ErbB1(EGFR)分子上の異なるエピトープと結合する、「BAb<h425,c225>」と称する請求項12または13に記載の二重特異性抗体。
【請求項15】
前記異なるエピトープが天然リガンド結合ドメイン内に位置する、請求項14に記載の二重特異性抗体。
【請求項16】
前記第二抗原結合部位が受容体ErbB2分子(Her−2)またはVEGF受容体分子と結合する、請求項12または13に記載の二重特異性抗体。
【請求項17】
前記第二抗原結合部位がMAb4D5(Herceptin(登録商標))に由来する、請求項16に記載の二重特異性抗体。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれかに定義された二重特異性抗体に由来する、F(ab')2である二重特異性抗体断片。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれかに記載の二重特異性抗体またはその断片が、そのC末端を介して、生物学的に有効なタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドと直接またはリンカー分子を介して融合したものを含む免疫複合体。
【請求項20】
前記タンパク質がサイトカインである、請求項19に記載の免疫複合体。
【請求項21】
請求項1〜20のいずれかに詳述した二重特異性抗体または免疫複合体と、任意選択で薬学的に許容できる担体、希釈剤または賦形剤とを含む医薬組成物。
【請求項22】
単一特異性抗ErbB抗体またはその機能的に有効な断片をさらに含む、請求項21に記載の医薬組成物。
【請求項23】
前記単一特異性抗ErbB抗体またはその機能的に有効な断片がMAb425、MAb225、またはMAb4D5(Herceptin(登録商標))からなる群から選択される、請求項22に記載の医薬組成物。
【請求項24】
細胞傷害剤を追加的に含む、請求項21〜23のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項25】
前記細胞傷害剤が化学療法剤である、請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項26】
前記化学療法剤が、シスプラチン、ドキソルビシン、ゲムシタビン、ドセタキセル、パクリタキセル、ブレオマイシンの群の化合物のいずれかから選択される、請求項25に記載の医薬組成物。
【請求項27】
前記細胞傷害剤が、受容体ErbB阻害剤、VEGF受容体阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、プロテインキナーゼA阻害剤、抗血管新生剤、抗ホルモン剤、またはサイトカインである、請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項28】
(i)請求項1〜20のいずれかに詳述した少なくとも1つの二重特異性抗体または免疫複合体を有する第一パッケージと、
(ii)少なくとも1つの単一特異性抗ErbB抗体またはその機能的に有効な断片を有する第二パッケージと
を備えた医薬キット。
【請求項29】
二重特異性抗体「BAb<h425、c225>」またはそのF(ab’)2断片を有する第一パッケージと、ヒト化MAb425(h425)、キメラMAb225(c225)もしくはヒト化MAb4D5またはその機能的に有効な抗体断片を有する第二パッケージとを備えた請求項28に記載の医薬キット。
【請求項30】
細胞傷害剤を含む第三パッケージを追加的に備えた請求項28または29に記載の医薬キット。
【請求項31】
前記細胞傷害剤が、シスプラチン、ドキソルビシン、ゲムシタビン、ドセタキセル、パクリタキセル、ブレオマイシン、受容体ErbB阻害剤、VEGF受容体阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、プロテインキナーゼA阻害剤、抗ホルモン剤、または抗血管新生剤の群の化合物のいずれかから選択される、請求項30に記載の医薬キット。
【請求項32】
受容体ErbBを過剰発現する腫瘍および転移腫瘍ならびに関係する疾病を治療するための薬物を製造するための、請求項1〜31のいずれかに定義した二重特異性抗体または医薬組成物/キットの使用。

【公表番号】特表2006−505546(P2006−505546A)
【公表日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−542466(P2004−542466)
【出願日】平成15年10月9日(2003.10.9)
【国際出願番号】PCT/EP2003/011165
【国際公開番号】WO2004/032961
【国際公開日】平成16年4月22日(2004.4.22)
【出願人】(591032596)メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフトング (1,043)
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D−64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
【Fターム(参考)】