説明

二重環縫いミシン

【課題】多本針に対する立振りルーパーを用いる場合もミシンアームおよびミシンベッドを大型化することなく、作業性の良い、またコンデンスステッチ、生地の逆送り、シャーリング縫いにおけるシャーリングの有無の切り替えを可能にするレバー式送り量調節機構を採用できる二重環縫いミシンを提供する。
【解決手段】ミシンベッド2の第1収容空間S1の先端側に並べて第3収容空間S3を形成し、この第3収容空間S3内にミシン主軸8の回転を送り軸9に伝動する第1送り機構16を収容配置し、ベッド先端壁2bの内外に亘って送り軸9の回転角度範囲をレバー操作により調節するレバー式送り量調節機構39を装着している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二重環縫いミシンに係り、更に詳しくは、多本針に対する立振りルーパーを備える場合にもレバー式の送り機構を備えることが可能な二重環縫いミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多本針に対する立振りルーパーを用いた二重環縫いミシンにおいて、レバー操作により送り量を変更できるレバー式送り機構を備えたものは存在しなかった。
【0003】
二重環縫いミシンに用いられるルーパーには、針糸の上下動に同期して、生地送り方向に対して左右方向に楕円運動を行って縫い目を作る横振りルーパー(例えば、特許文献1参照。)と、生地送り方向に対して平行に前後運動する立振りルーパー(例えば、特許文献2参照)とがある。立振りルーパーの場合はスプレッダーが併設され、このスプレッダーがルーパー糸を引っ掛けて縫い目を形成している。とくに立振りルーパーは多本針で縫製を可能にするという利点がある。
【0004】
しかしながら、多本針に対する立振りルーパーを用いた二重環縫いミシンでは、立振りルーパーが収容されるミシンベッド内の収容空間は、必然的にミシンベッドの延出方向(左右方向)に広く形成する必要があり、それに伴い各軸(主軸や送り軸、スプレッダー軸)を運動させる機構を収容する収容空間は狭くなり、部品の大きさや点数が限られていた。
すなわち、図20(a)(特許文献2の図1、図2参照)に示すように、多本針70に対する立振りルーパー71の収容配置が行われるミシンベッド72内の空間部を第1収容空間S1とし、この第1収容空間S1の右側位置にあって各軸に運動を伝える機構部品を収容配置するミシンベッド72内の空間部を第2収容空間S2とすると、針70の本数が多くなるにつれて第1収容空間S1の左右方向の幅X1は大きくなり、必然的に第2収容空間S2の左右方向の幅X2は狭くなる。かと言って、図20(b)に示すように、第2収容空間S2の幅X2を広くすると、ミシンアーム73の針棒74位置とミシンアーム73の立ち上がり部(基端部)との間の距離Wが長くなり、これによりミシンアーム73の巨大化につながり、ミシンアーム73およびミシンベッド72を含む全体の巨大化にもつながる。したがって、第2収容空間S2を拡大化することは望ましくない。
【0005】
このように、立振りルーパー又は横振りルーパーを用いる二重環縫いミシンでは、第2収容空間S2に収容する部品の大きさや点数が限られる関係上、この第2収容空間S2にレバー操作により送り量を変更できるレバー式送り量調節機構を備えることは得策ではないため、送り量調節機構には少スペースで取付け可能な可変偏心カムを用いたプッシュボタン式の送り量調節機構が採用されている(例えば、特許文献3,4,5(横振りルーパーを用いる二重環縫いミシン)、6(立振りルーパーを用いる二重環縫いミシン)参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平08−131682号公報
【特許文献2】特開平09−56955号公報
【特許文献3】特開昭51−5148号公報
【特許文献4】実開昭60−143571号公報
【特許文献5】実開昭60−140573号公報
【特許文献6】米国特許第2292258号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、立振りルーパーを用いる上記二重環縫いミシンにおいて、可変偏心カムを用いたプッシュボタン式の送り量調節機構を採用する場合、ミシンの運転を一旦止めて、プッシュボタンを押しつつ、ミシン主軸を回転させなければならないため、作業性の問題がある(特許文献4の請求項4、およびプッシュボタン47参照)。
また、プッシュボタン式の送り量調節機構ではミシン運転中に送り量を変更することができないので、コンデンスステッチ(糸ほつれを防止するために縫い終わり付近で送り量を小さくすることで、縫い目を小さくする縫製)、ほつれ防止縫いを可能にする生地の逆送り、送り量の変更によるシャーリング縫製の切り替えなどが行えないという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、上記のような問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、多本針に対する立振りルーパーを用いる場合もミシンアームおよびミシンベッドを大型化することなく、作業性の良い、またコンデンスステッチ、生地の逆送り、シャーリング縫いにおけるシャーリングの有無の切り替えを可能にするレバー式送り量調節機構を採用できる二重環縫いミシンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る二重環縫いミシンは、請求項1に記載のように、図1〜図19に付した符号を参照して説明すると、多本針糸の上下運動と同期して、生地送り方向とほぼ平行な前後方向にルーパー軸(19)回りに揺動して針糸に係合し得る立振りルーパー(13)と、多本針糸の上下運動と同期して、生地送り方向とほぼ直交する左右方向に往復駆動して立振りルーパー(13)のルーパー糸を引っ掛けて前記針糸方向に寄せるスプレッダー(14)、送り歯(15)、および送り歯(15)に送り動作を行わせる第2送り機構(18)とが収容配置される第1収容空間(S1)と、この第1収容空間(S1)のベッド基端側にあってミシン主軸(8)の回転をスプレッダー軸(17)に伝える機構部品が収容配置される第2収容空間(S2)とがミシンベッド(2)に並設されている二重環縫いミシンにおいて、第1収容空間(S1)のベッド先端側に並べて第3収容空間(S3)を形成し、ミシン主軸(8)が第1収容空間(S1)、第2収容空間(S2)、および第3収容空間(S3)に亘って架設され、またミシン主軸(8)と平行に送り軸(9)が第1収容空間(S1)および第3収容空間(S3)に亘って架設され、第3収容空間(S3)内にミシン主軸(8)の回転を送り軸(9)に伝動する第1送り機構(16)を収容配置するとともに、ベッド先端壁(2b)の内外に亘って送り軸(9)の回転角度範囲をレバー操作により調節するレバー式送り量調節機構(39)を装着していることに特徴を有するものである。
【0010】
上記構成の二重環縫いミシンでは、ミシン主軸(8)の回転を送り軸(9)に伝動する第1送り機構(16)は第3収容空間(S3)内に収容配置するとともに、レバー操作により調節するレバー式送り量調節機構(39)はベッド先端壁(2b)の内外に亘って装着しているので、多本針に対する立振りルーパー(13)を用いる場合でも第2収容空間(S2)を拡大化することなく、ミシンアームやミシンベッド(2)の大きさを変えることなく、レバー操作により送り量を変更できるレバー式送り量調節機構(39)を備えることが可能になる。
多本針に対する立振りルーパーを用いた二重環縫いミシンに、レバー式送り量調節機構(39)を備えることができるため、プッシュボタン式の送り量調節機構とは違って、作業性が良く、しかもコンデンスステッチ(糸ほつれを防止するために縫い終わり付近で送り量を小さくすることで、縫い目を小さくする縫製)、ほつれ防止縫いを可能にする生地の逆送り、シャーリング縫いにおけるシャーリングの有無の切り替え等を可能にする。
【0011】
請求項1記載の二重環縫いミシンは、請求項2に記載のように、第3収容空間(S3)は、第1収容空間(S1)と仕切られる仕切壁(2a)と、ベッド先端壁(2b)との間に形成され、ベッド先端壁(2b)には、第3収容空間(S3)の内外に貫通する部品組込み用開口(6)が形成され、この部品組込み用開口(6)はフレンジ(10)で塞がれ、このフレンジ(10)と仕切壁(2a)にミシン主軸(8)の軸受(11),(12)をそれぞれ設けるという構成を採用することができる。これによると、第3収容空間(S3)を可及的に左右方向幅を狭くコンパクトに形成している場合も第3収容空間(S3)内のミシン主軸(8)や送り軸(9)に対する部品の組込みを容易に行うことができる。
【0012】
請求項1又は2記載の二重環縫いミシンは、請求項3に記載のように、第1送り機構(16)は、第3収容空間(S3)内のミシン主軸(8)に固着した送り偏心カム(23)にベアリング(24)を介して外嵌した送りクランクロッド(25)、送りクランクロッド(25)に一端(26a)がピン(27)で連結された送り連結レバー(26)、送り連結レバー(26)の他端(26b)にベアリング(28)を介してピン(29)で連結されかつ送り軸(9)に挿通固定された送り前後レバー(30)とを備えてミシン主軸(8)の回転を送り軸(9)に伝動するように構成してあり、レバー式送り量調節機構(39)は、その一端部が送りクランクロッド(25)と送り連結レバー(26)とを連結するピン(27)上に回動可能に軸支され、他端部が送り調節レバー(41)の一端部の支軸(41a)に回動可能に連結された送りリンク(40)を備えており、送り調節レバー(41)の他端部に送り調節レバー軸(42)を連結固定し、送り調節レバー軸(42)には操作レバー(43)を備えるとともに、送り調節レバー軸(42)の角度を可変調整できる送り調節ダイヤル(47)を備えるという構成を採用することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、多本針に対する立振りルーパーを用いる場合もミシンアームおよびミシンベッドを大型化することなく、作業性の良い、またコンデンスステッチ、生地の逆送り、シャーリング縫いにおけるシャーリングの有無の切り替え等を可能にするレバー式送り量調節機構を採用できるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の好適な実施形態を図1〜図19に基づいて説明する。
本発明に係る二重環縫いミシンは、図13に示すように、ミシンアーム1と、このミシンアーム1の基端下部には該ミシンアーム1に対して平行状態で左側方へ向けて延設されたミシンベッド2とによりミシンフレームを構成している。ミシンアーム1の先端部には上下の軸受(図示省略する)を介して上下方向に往復運動可能に支持された針棒3の下端部に針株4を介して多数の針5が取り付けられる。
【0015】
図13〜図16に示すように、ミシンベッド2には、第1収容空間S1と、この第1収容空間S1の右側(ベッド基端側)に並べて形成される第2収容空間S2と、第1収容空間の左側(ベッド先端側)に並べて形成される第3収容空間S3とが形成される。第3収容空間S3は、第1収容空間S1と仕切る仕切壁2aと、ベッド先端壁2bとの間に形成される。ベッド先端壁2bには第3収容空間S3の内外に貫通する部品組込み用開口6が横長の楕円形等に形成される。この部品組込み用開口6は、後述するようにミシン主軸8や送り軸9への各部品の組込み後にフレンジ10で塞がれる。
【0016】
図17〜図19に示すように、ミシンベッド2には、ミシンモータ(図示せず)からの伝動によりプーリ7を介して軸心回りに回転するミシン主軸8が第1収容空間S1、第2収容空間S2、および第3収容空間S3に亘って左右方向に架設され、また図2に示すごとくミシン主軸8と平行に送り軸9が第1収容空間S1および第3収容空間S3に亘って架設される。
ミシン主軸8の左端側は、ベッド先端壁2bの部品組込み用開口6を塞ぐフレンジ10の内面側に固着される軸受11と仕切壁2aに介入した軸受12とで支持される。
【0017】
図1〜図5に示すように、第1収容空間S1には、多本針5に対する立振りルーパー13、スプレッダー14、送り歯15、および送り歯15に送り動作(前後動及び上下動)を行わせる第2送り機構18が収容配置される。第2収容空間S2には、ミシン主軸8の回転をスプレッダー軸17に伝える機構部品が収容配置される。図6に示すように、第3収容空間S3には、ミシン主軸8の回転を送り軸9に伝動する第1送り機構16が収容配置されるとともに、ベッド先端壁2bの内外に亘って送り軸9の回転角度範囲をレバー操作により調節するレバー式送り量調節機構39が装着される。
【0018】
先ず、第1収容空間S1に収容配置される、多本針5に対する立振りルーパー13、スプレッダー14、送り歯15、第2送り機構18、および第2収容空間S2に収容配置される、ミシン主軸8の回転をスプレッダー軸17に伝える機構部品について、具体的に説明する。
【0019】
図1、図2、図5に示すように、多本針5に対する立振りルーパー13は、生地送り方向(後方向)Yに直交させて往復駆動回転可能に第1収容空間S1および第2収容空間S2に亘って架設されたルーパー軸19の左端側に各基端部13Aが立振りルーパー台20を介して取付けられる。立振りルーパー13は、多数の針5の上下往復運動に同期するルーパー軸19の往復駆動回転に伴いルーパー糸通し孔(図示せず)を有する先端部13B側を基端部13Aよりも上位にして生地送り方向Yの所定の揺動範囲に亘って往復駆動揺動されるように構成されており、針糸(図示せず)に係合し得るものである。
【0020】
図1、図2、図5に示すように、スプレッダー14は立振りルーパー13の前側に配置される。スプレッダー14は、多数本の針5の上下運動と同期して、生地送り方向Yとほぼ直交する左右方向に往復駆動して立振りルーパー13のルーパー糸(図示せず)を引っ掛けて針糸方向に寄せるものである。このスプレッダー14は、糸引掛け用爪14aを有し、図1、図2に示すように第2収容空間S2内のスプレッダー駆動軸21やスプレッダー駆動レバー22等によるスプレッダー駆動機構により生地送り方向Yと直交する左右方向に往復運動可能に第1収容空間S1および第2収容空間S2に亘って架設されたスプレッダー軸17の左端側に取り付けられる。
【0021】
図5に示すように、送り歯15は立振りルーパー13の後方において針落ち位置の前後に配するように設置され、送り歯15に送り動作(前後動及び上下動)を行わせる第2送り機構18を備える。
【0022】
図2、図5、図8〜図12に示すように、第2送り機構18は、送り歯15を支持する送り歯取付台31を送り土台34にねじ33で一体的に結合し、第1収容空間S1に架設される送り軸9上に固定される送り元台32に、送り土台34の一端のボス部34aを取付けシャフト35を介して枢支連結し、その送り土台34の他端のボス部34bをミシン主軸8に固着する送り上下偏心カム36に外嵌するエキセンダルマ37にピン38を介して枢支連結する。かくして、送り軸9の揺動に伴い送り元台32が送り軸9回りに前後揺動し、この送り元台32の前後揺動により送り土台34を介して送り歯取付台31および送り歯15は前後に運動する。一方、ミシン主軸8の回転により送り上下偏心カム36と送り土台34を介して、送り歯取付台31および送り歯15は上下に運動する。送り歯15はこれらの前後運動と上下運動の合成により楕円運動を行い、針落ち位置に供給される縫製生地に、縫針(図示せず)の上下動に対応した間欠的な送りが加えられることになる。
【0023】
このように構成された第2送り機構18によれば、送り元台32、送り土台34および送り上下偏心カム36に外嵌したエキセンダルマ37により送り歯15に前後運動及び上下運動を確実に行わせることができ、これらの前後運動と上下運動の合成により楕円運動を保証できる。
【0024】
次に、第3収容空間S3に収容配置されてミシン主軸8の回転を送り軸9に伝動する第1送り機構16、およびベッド先端壁2bの内外に亘って装着されて送り軸9の回転角度範囲をレバー操作により調節するレバー式送り量調節機構39について、具体的に説明する。
【0025】
図2、図6、図8〜図12に示すように、第1送り機構16は、第3収容空間S3内のミシン主軸8に固着した送り偏心カム23にベアリング24を介して外嵌した送りクランクロッド25、送りクランクロッド25の二股部25aに一端26aがピン27で連結された送り連結レバー26、送り連結レバー26の他端26bにベアリング28を介してピン29で連結されかつ送り軸9の左端に挿通固定される送り前後レバー30とを備える。そして、ミシン主軸8の回転は、第1送り機構16を介して送り軸9に伝動され、送り軸9は軸心回りに揺動する。なお、ミシン主軸8が回転すると、送り偏心カム23に外嵌された送りクランクロッド25には送り偏心カム23の偏心量に応じたストロークの往復動が生じる。
【0026】
このような構造の第1送り機構16は、先ず、ミシン主軸8が一方向に回転すると、送り偏心カム23に連結された送りクランクロッド25には、送り偏心カム23の偏心量に応じたストロークの往復動が生じる。そして、送り連結レバー26を介して送り前後レバー30の先端部分が前後方向に押し引きされ、この送り前後レバー30に嵌合固定された送り軸9が軸心回りに所定角度範囲内で往復回転運動する。この送り軸9の往復回転運動により、既述のとおり、送り歯取付台31及び送り歯15が前後動することになる。
【0027】
次に、ベッド先端壁2bの内外に亘って装着され、送り軸9の回転角度範囲をレバー操作により調節するためのレバー式送り量調節機構39について説明する。
図8〜図12に示すように、レバー式送り量調節機構39は、送りリンク40、送り調節レバー41、送り調節レバー軸42等を備える。すなわち、送りリンク40は、その一端部が送りクランクロッド25と送り連結レバー26とを連結するピン27上に回動可能に軸支されており、他端部が送り調節レバー41の一端部の支軸41aに回動可能に連結される。送り調節レバー41は、その一端部において支軸41aを介して送りリンク40と連結し、他端部に送り調節レバー軸42の一端部が連結固定される。
【0028】
図7〜図12に示すように、送り調節レバー軸42には操作レバー43が直交状に一体的に備えられる。送り調節レバー軸42には捻りコイルばね44が巻装され、その捻りコイルばね44の一端44aがミシンベッド2のベッド先端壁2bに螺合固定されるばね受45に、他端44bが操作レバー43の送り調節レバー軸42より下方部位に螺合固定されるばね受46にそれぞれ係止されて、その捻りコイルばね44により送り調節レバー軸42が常に時計方向(図7中、矢印M方向)に回動付勢される。
【0029】
いま、図7において、送り調節レバー軸42の操作レバー43の下端部をフートペダルあるいはエアーシリンダーなどで前後方向(矢印N方向)に動かす回動操作を加えることにより、送り調節レバー41と送りリンク40とを連結する支軸41aの位置を変更できる。
ここで、上述のように、送りクランクロッド25は送りリンク40と連結しており、この送りリンク40は支軸41aにより軸支されている。したがって、送りクランクロッド25の往復動は、支軸41aを中心とした送りリンク40の回動軌跡に沿って決定される。また、送りリンク40の回動軌跡を変更するには、送り調節レバー41を回動させることで支軸41aの送りクランクロッド25に対する相対位置を変更する。即ち、送りリンク40の水平面に対する傾斜角を変更することで可能となる。したがって、送り調節レバー軸42を回動操作し、送り調節レバー41を所定量回動させることによって、支軸41aの位置が変更され、送りリンク40の回動軌跡が変化し、送りクランクロッド25の往復動の軌跡が変更される。
【0030】
そして、この送りクランクロッド25の往復動の軌跡の変更により送り連結レバー26の前後方向の移動量が変更され、送り前後レバー30に嵌合固定された送り軸9の軸心回りの回動角(揺動角)を変更できる。
【0031】
上記レバー式送り量調節機構39には、図7、図12に示すように、上記送り調節レバー軸42の角度を可変調整できる送り調節ダイヤル47が備えられる。送り調節ダイヤル47は、段付き軸部47aの前端につまみ47bを付けてなり、ベッド先端壁2bの外側に固定されるダイヤル支持板48に支持される。
すなわち、ダイヤル支持板48は送り調節レバー軸42の左側に操作レバー43と対向するよう前後方向に延びるよう配置され、ミシンベッド2の外部にボルト49などで固定される。ダイヤル支持板48にはこれの前後端に軸受部49,50が設けられ、この前後の軸受49,50に送り調節ダイヤル47の段付き軸部47aが軸心回りに回転自在に挿通支持される。またダイヤル支持板48の前後の軸受49,50間には前後方向に長い長孔51が設けられ、この長孔51にスライドピン52が前後方向に移動可能に嵌め込まれる。該スライドピン52は雌ねじ53を貫通状に形成してなり、この雌ねじ53に送り調節ダイヤル47の段付き軸部47aの中途部に設けた雄ねじ部47cが螺合される。スライドピン52は、図7に示すように捻りコイルばね44の付勢力により常に時計方向(図7中、矢印M方向)に回動付勢されている送り調節レバー軸42から操作レバー43より上方に操作レバー43と同一面上になるように延設した腕部54の先端部の前端側に当接するようになっている。
【0032】
送り調節レバー軸42には操作レバー43、腕部54とは異なる方向にそれら操作レバー43、腕部54と同一面上になるように延設した腕部55を設け、この腕55には、送り目盛板56に設けた円弧状溝57に左側方向から差し込まれる段付きねじ58の先端部が結合固定され、段付きねじ58には送りレバーナット59が螺合されて、この送りレバーナット59を締付けることで送り調節レバー軸42を所定角度に停止保持できるようにしてある。
【0033】
いま、送りレバーナット59を緩め、ミシンベッド2の前側に臨む送り調節ダイヤル47のつまみ47bをつかんで送り調節ダイヤル47を左回転又は右回転させることによりスライドピン52が長孔51の案内下で前後方向に移動する。このスライドピン52の後方移動により該スライドピン52が送り調節レバー軸42上の腕54に当接して送り調節レバー軸42を捻りコイルばね44の力に抗して後方へ押すことにより送り調節レバー軸42が反時計方向に回動し、スライドピン52の前方移動により送り調節レバー軸42が捻りコイルばね44の付勢力により時計方向(図2中、矢印M方向)に回動する。つまり、送り調節ダイヤル47を回転させることによりスライドピン52を介して送り調節レバー軸42を時計方向又は反時計方向に回動させることができ、送り調節レバー軸42の角度を可変調整でき、送り歯15による送り目の微調整が可能となり、運転中にも送り量を可変調整できることになる。
【0034】
このように、送りレバーナット59を緩めておけば、ミシン運転中に送り調節ダイヤル47を回して送り調節レバー軸42を反時計方向に回すことで、送り歯15による送り目は小さくなりコンデンスステッチが可能となる。また、送り調節レバー軸42の操作レバー43の下端部をフートペダルあるいはエアーシリンダーなどで反時計方向に回すことでも、送り歯15による送り目は小さくなりコンデンスステッチが可能となる。また、ほつれ防止縫いを可能にする生地の逆送りや、送り量の変更によるシャーリング縫製の切り替えなどを行うこともできる。
【0035】
ミシン主軸8に対する上記各部品、すなわち図12に示すベアリング24、送りクランクロッド25、送り連結レバー26、送りリンク40、および送り調節レバー41の組み付けと、送り軸9に対する送り前後レバー30およびピン29の組み付けとは、ベッド先端壁2bの部品組込み用開口6をフレンジ10で塞ぐ前、すなわちミシン主軸8の左端をフレンジ10の内面に固着した軸受11で支持する前段階で、部品組込み用開口6から容易に行われる。すなわち、第3収容空間S3を可及的に左右方向幅を狭くコンパクトに形成している場合もこれら部品の組込みを容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施例を示す二重環縫いミシンの透視外観斜視図である。
【図2】同ミシンのミシンベッド部分の平面図である。
【図3】同ミシンのミシンベッド部分の正面図である。
【図4】同ミシンのミシンベッド部分の背面図である。
【図5】図2におけるA−A線断面図である。
【図6】図2におけるB−B線断面図である。
【図7】同ミシンのミシンベッド部分の左側面図である。
【図8】同ミシンのミシン主軸、送り軸、送り歯、送り機構をセットした状態の斜視図である。
【図9】同ミシンのミシン主軸、送り軸、送り歯、送り機構をセットした状態の平面図である。
【図10】同ミシンのミシン主軸、送り軸、送り歯、送り機構をセットした状態の正面図である。
【図11】同ミシンのミシン主軸、送り軸、送り歯、送り機構をセットした状態の左側面図である。
【図12】同ミシンの各構成部品の分解斜視図である。
【図13】同ミシンのミシンフレームの正面図である。
【図14】同ミシンのミシンフレームの左側面図である。
【図15】図13におけるX−X線断面図である。
【図16】図14におけるZ−Z線断面図である。
【図17】同ミシンのミシン主軸を組み込んだ状態のミシンフレームの左側面図である。
【図18】図17におけるC−C線断面図である。
【図19】図17におけるD−D線断面図である。
【図20】(a)は従来例の二重環縫いミシンの縦断正面図、(b)は比較例の二重環縫いミシンの縦断正面図である。
【符号の説明】
【0037】
2 ミシンベッド
2a 仕切壁
2b ベッド先端壁
5 針
6 部品組込み用開口
8 ミシン支軸
9 送り軸
10 フレンジ
11,12 軸受
13 立振りルーパー
14 スプレッダー
15 送り歯
16 第1送り機構
17 スプレッダー軸
18 第2送り機構
23 送り偏心カム
24 ベアリング
25 送りクランクロッド
26 送り連結レバー
27 ピン
28 ベアリング
29 ピン
30 送り前後レバー
39 レバー式送り量調節機構
40 送りリンク
41 送り調節レバー
41a 支軸
42 送り調節レバー軸
43 操作レバー
44 ねじりコイルばね
45,46 ばね受
47 送る調節ダイヤル
Y 生地送り方向
S1 第1収容空間
S2 第2収容空間
S3 第3収容空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多本針糸の上下運動と同期して、生地送り方向とほぼ平行な前後方向にルーパー軸(19)回りに揺動して針糸に係合し得る立振りルーパー(13)と、多本針糸の上下運動と同期して、生地送り方向とほぼ直交する左右方向に往復駆動して立振りルーパー(13)のルーパー糸を引っ掛けて前記針糸方向に寄せるスプレッダー(14)、送り歯(15)、および送り歯(15)に送り動作を行わせる第2送り機構(18)とが収容配置される第1収容空間(S1)と、この第1収容空間(S1)のベッド基端側にあってミシン主軸(8)の回転をスプレッダー軸(17)に伝える機構部品が収容配置される第2収容空間(S2)とがミシンベッド(2)に並設されている二重環縫いミシンにおいて、
第1収容空間(S1)のベッド先端側に並べて第3収容空間(S3)を形成し、ミシン主軸(8)が第1収容空間(S1)、第2収容空間(S2)、および第3収容空間(S3)に亘って架設され、またミシン主軸(8)と平行に送り軸(9)が第1収容空間(S1)および第3収容空間(S3)に亘って架設され、第3収容空間(S3)内にミシン主軸(8)の回転を送り軸(9)に伝動する第1送り機構(16)を収容配置するとともに、ベッド先端壁(2b)の内外に亘って送り軸(9)の回転角度範囲をレバー操作により調節するレバー式送り量調節機構(39)を装着していることを特徴とする、二重環縫いミシン。
【請求項2】
第3収容空間(S3)は、第1収容空間(S1)と仕切られる仕切壁(2a)と、ベッド先端壁(2b)との間に形成され、ベッド先端壁(2b)には、第3収容空間(S3)の内外に貫通する部品組込み用開口(6)が形成され、この部品組込み用開口(6)はフレンジ(10)で塞がれ、このフレンジ(10)と仕切壁(2a)にミシン主軸(8)の軸受(11),(12)をそれぞれ設けている、請求項1記載の二重環縫いミシン。
【請求項3】
第1送り機構(16)は、第3収容空間(S3)内のミシン主軸(8)に固着した送り偏心カム(23)にベアリング(24)を介して外嵌した送りクランクロッド(25)、送りクランクロッド(25)に一端(26a)がピン(27)で連結された送り連結レバー(26)、送り連結レバー(26)の他端(26b)にベアリング(28)を介してピン(29)で連結されかつ送り軸(9)に挿通固定された送り前後レバー(30)とを備えてミシン主軸(8)の回転を送り軸(9)に伝動するように構成してあり、
レバー式送り量調節機構(39)は、その一端部が送りクランクロッド(25)と送り連結レバー(26)とを連結するピン(27)上に回動可能に軸支され、他端部が送り調節レバー(41)の一端部の支軸(41a)に回動可能に連結された送りリンク(40)を備えており、送り調節レバー(41)の他端部に送り調節レバー軸(42)を連結固定し、送り調節レバー軸(42)には操作レバー(43)を備えるとともに、送り調節レバー軸(42)の角度を可変調整できる送り調節ダイヤル(47)を備えている、請求項1又は2記載の二重環縫いミシン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2009−268723(P2009−268723A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−122032(P2008−122032)
【出願日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【特許番号】特許第4217755号(P4217755)
【特許公報発行日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【出願人】(391005123)株式会社森本製作所 (26)
【Fターム(参考)】