説明

亜炭の分解による機能的有効有機分子の製造

亜炭を過酸化水素またはアルカリ性過酸化水素で処理して、大部分の分子量が1000未満の様々な新規な機能的有効有機分子を製造する。分子量は過酸化水素濃度、反応時間、反応温度、亜炭/過酸化水素比、亜炭の質などの反応条件により変化する。これらの機能的有効有機分子は、過酸化水素またはアルカリ性過酸化水素処理による反応性の向上により、亜炭やレナーダイト(leonardite)に天然に存在する、亜炭の分解により生じる通常の有機分子(フミン酸、フルボ酸など)よりも機能的有効性が高く、農業や医薬などの様々な分野に利用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は材料科学の分野に関し、特に、亜炭(lignite)の分解による機能的有効有機分子(functionally effective organic molecule)の製造に関する。本発明はまた、医薬および農業などの様々な分野に利用される、亜炭由来の機能性有機分子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
亜炭(lignite)は褐炭とも呼ばれ、最も低品位の石炭であるため蒸気発電用燃料としてしかほぼ利用されていない。他の用途として、付加価値のある亜炭製品を製造しようとする試みがなされているものの、主に発電を目的として消費されている。炭素豊富なこの亜炭は、腐敗植物が数百年間に亘って加熱および圧縮された結果生じたものである。植物由来であるため、亜炭は様々な機能的有効有機分子を豊富に含み、これら有機分子の利用は有益であると考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述の機能的有効有機分子は、亜炭やレナーダイト(leonardite)に存在する、亜炭の分解により生じる通常の有機分子(フミン酸、フルボ酸など)よりも機能的有効性が高い。これは、過酸化水素またはアルカリ性過酸化水素で処理することにより反応性が向上するからである。
【0004】
よって、本発明は、亜炭を過酸化水素またはアルカリ性過酸化水素で分解して、亜炭から機能的有効有機分子を製造する方法を発明することを目的とする。
【0005】
したがって、本発明の第一の目的は、医薬および農業における様々な用途に有益な機能的有効有機分子を発明することである。本発明の他の目的は、亜炭から機能的有効有機分子を製造する方法を開発することである。
【0006】
本発明の更に他の目的は、ウイルス病などの様々な病気を治療するための医薬品に有用な、様々な分子量の機能的有効有機分子を発明することである。
【0007】
本発明の更に他の目的は、農業用途における栄養素の供給に有用な、様々な分子量の所望の分解物の製造に必須な方法を提供することである。この機能的有効有機分子は、植物保護と、二倍の栄養供給の両方を目的として使用可能である。
【0008】
本発明の更に他の目的は、汚染予防などの様々な分野で利用される様々な有機ハイブリッドを合成するための機能的有効有機分子を製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明は、治療用途、栄養用途、固定化用途など様々な分野での用途を有し、かつ優れた性能を得るための特異性および選択性を有する製品を設計できる有効成分である、亜炭由来の新規な機能的有効有機分子を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】亜炭からの機能的有効有機分子の製造方法に係る様々なステップを示す図である。
【図2】亜炭を過酸化水素で分解して生成された機能的有効有機分子のFTIR分析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の顕著な特徴を説明するために本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明の一実施形態では、亜炭を過酸化水素またはアルカリ性過酸化水素で分解して機能的有効有機分子が提供される。本発明の他の実施形態は、亜炭を過酸化水素またはアルカリ性過酸化水素と適切に反応させる、所望の分子量を有する機能的有効有機分子の製造方法に関する。
【0013】
前記製造方法はまた、病気治療、効果的な栄養素設計、有機/無機ハイブリッド合成などに利用される所望の1種および/または複数の物質と組み合わすことが可能な、可溶性の機能的有効有機分子を製造する。
【0014】
好適な実施形態において、本発明は、(a)亜炭を20μm未満のサイズに微細化するステップと、(b)前記微細化された亜炭を乾燥して、余分な水分を除去するステップと、(c)前記パウダー化された亜炭を過酸化水素またはアルカリ性過酸化水素で処理するステップと、(d)過酸化水素またはアルカリ性過酸化水素による分解反応の終了後、遠心・上清回収により機能的有効有機分子を抽出するステップと、(e)(パウダー状が望ましい場合)得られた溶液を乾燥機で乾燥するステップとを含む、亜炭からの有機分子の製造方法を提供する。
【0015】
他の実施形態において、亜炭のパウダー化はグラインダーを用いて行い、また亜炭の微細化はマイクロナイザーを用いて行い、所望の粒子サイズ(μmオーダー)とする。
【0016】
更なる一実施形態において、亜炭と過酸化水素またはアルカリ性過酸化水素との反応を温度および組成を変えて最適化し、所望の分子量の機能的有効有機分子を得る。
【0017】
他の実施形態において、亜炭を過酸化水素またはアルカリ性過酸化水素で分解して得られた溶液を遠心により精製する。
【0018】
他の実施形態において、前記溶液を限外ろ過して所望の分子量の分子を得る。
【0019】
亜炭を過酸化水素またはアルカリ性過酸化水素で処理することにより、小サイズの可溶性有機分子が生じる。
【0020】
以下、本発明の本質および本発明の実施方法を詳細に説明する。図1は、亜炭からの機能的有効有機分子の製造方法に係る様々なステップに関する。図2は、亜炭から生成されている機能的有効有機分子のFTIR分析に関する。液体サンプルを、フッ化カルシウムセル・アクセサリーを用いてFTIR分析した。波数1600±200(cm−1)において特徴的な吸収ピークが観察された。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0022】
亜炭の質に応じて、5〜25%過酸化水素を微細化亜炭に1:2〜1:5(v/w)の割合で添加した。添加前に、過酸化水素を−20℃で2〜3時間冷却した。10〜15℃で1時間反応させた後、20℃で3時間更に反応させた。反応終了後、亜炭の種類に応じて前記工程を2回、3回またはそれ以上の回数繰り返した。その後、50%過酸化水素を、室温(25〜30℃)で得られた処理液に1:1(v/w)の割合で直接添加した。得られた処理液を水で抽出し、次いで5000〜10000rpmで連続遠心することにより、可溶性の機能的有効有機分子を得た。反応時間の長期化、反応温度の上昇、過酸化水素の高濃度化、多量の過酸化水素による処理など、過酸化水素で激しく処理することにより、低分子量の機能的有効有機分子が得られる一方、機能的有効有機分子のサイズは亜炭と過酸化水素との反応条件に依存する。
【0023】
亜炭の質に応じて、アルカリ性過酸化水素(1〜10%のアルカリ、NaOHまたはKOHと、0.2〜20%の過酸化水素を含有)を亜炭に1:2〜1:5の割合で添加し、室温(25〜30℃)で反応させた。2〜6時間反応後、沈殿または遠心により機能的有効有機分子を得た。
【0024】
有機分子抽出液5mlを、濃度20ppmの硝酸ウラニル含有水500mlに添加した。適切に攪拌後、得られた溶液を5000rpmで遠心し、PAR試薬を用いた比色法によりウラン含有量を波長540nmで測定したところ、機能的有効有機分子は、ウランをppmレベルからppbレベルまで顕著に減少させて、除去した。
【0025】
機能的有効有機分子抽出液3mlを蒸留水100mlに添加した溶液を用いてイネ種子をペトリ皿内で発芽させた。約100個のイネ種子を、Whatman社製のフィルター紙を底に載置した、前記溶液100mlを含むペトリ皿(直径16cm)に入れた。10日後、発芽量15〜20%増という成長の増強が観察された。これは、機能的有効有機分子が成長増強性を有し、収穫量の増加に貢献しうることを示している。
【0026】
植物栄養素を機能的有効有機分子と反応させて、葉面塗布および土壌塗布用の高吸収・高利用効率キレート化植物栄養素を製造した。キレート化は、例えば、アルコールを添加または未添加の、硝酸銅溶液、硝酸亜鉛溶液または硝酸マグネシウム溶液を機能的有効有機分子抽出液に添加して行った。
【0027】
亜炭から得た機能的有効有機分子抽出液を、リン酸塩やDAPなどのリン酸肥料(1〜10% v/w)に添加して有機リン酸肥料を製造した。機能的有効有機分子をリン酸(1〜10% v/v)に添加し、得られた有機リン酸を好適なフィラーを用いてリン酸肥料とした。得られた有機リン酸肥料をワタ、ハマビシ、イネなどの農作物に塗布すると、通常のリン酸肥料と比較して、基本塗布量で収穫量が10〜20%増加した。リン酸肥料への機能的有効有機分子の添加により、植物のリン酸利用率が向上した。
【0028】
Amicon stirred ultrafiltration cell(ミリポア社製)を用いた限外ろ過により機能的有効有機分子のサイズを測定したところ、大部分の機能的有効有機分子の分子量は1000未満であった。
【0029】
可溶性の機能的有効有機分子を、アルコールを添加または添加しないで、少量の過酸化水素と共に様々な害虫に散布したところ、害虫数が減少して収穫量が増加した。
【0030】
これら機能的有効有機分子には、植物または動物のウイルス病を治す潜在的可能性がある。
【0031】
可溶性の機能的有効有機分子は滴下施肥製剤として使用可能である。
【0032】
様々な物質に固定化した可溶性の機能的有効有機分子は、金属、ペプチドなどの分子を封鎖した。
【0033】
可溶性の機能的有効有機分子は、溶液中の金属、タンパク質、ウイルスなどを沈殿させる性質を有する。
【0034】
有機または無機ポリマーや、金属と結合した機能的有効有機分子は、様々な分野で利用される材料となる。
【0035】
可溶性の機能的有効有機分子を回収した後の残余物質は、他の肥料とブレンドすることにより植物栄養素/肥料としての用途があり、農作物収穫量を増加させる。
【0036】
本発明は、亜炭を過酸化水素またはアルカリ性過酸化水素で分解することによる、様々な用途を有する新規な機能的有効有機分子の製造について説明する。
【0037】
本発明の結果から、亜炭から得られた機能的有効有機分子が医薬、農業などの様々な用途で使用されうることがわかる。
【0038】
以上、例示としての本発明を説明したが、本発明は上記説明に限定されず、他の用途でも同様に有効に使用される。
【0039】
特定の実施形態に基づいて本発明を説明したことが理解されるだろう。さらに、本発明の要旨から逸脱しない範囲で様々な組み合わせが可能であることが理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜炭と過酸化水素またはアルカリ性過酸化水素を反応させて、亜炭から抽出される機能的有効有機分子であって、前記機能的有効有機分子の製造方法は、
(a)亜炭を過酸化水素またはアルカリ性過酸化水素に添加するステップと、
(b)反応後、遠心または沈殿により、不溶性亜炭から可溶性の機能的有効有機分子を回収するステップとを含む、機能的有効有機分子。
【請求項2】
前記機能的有効有機分子は、過酸化水素またはアルカリ性過酸化水素処理による反応性向上により、亜炭に存在する、亜炭の分解により生じる通常の有機分子(フミン酸、フルボ酸など)よりも機能的有効性が高い、請求項1に記載の機能的有効有機分子。
【請求項3】
5〜25%過酸化水素を微細化亜炭に1:2〜1:5(v/w)の割合で添加し、添加前に、過酸化水素を−20℃で2〜3時間冷却し、10〜15℃で1時間反応させた後、20℃で3時間反応させ、反応終了後、前記工程を2回、3回またはそれ以上の回数繰り返し、その後、50%過酸化水素を、室温(25〜30℃)で得られた処理液に1:1(v/w)の割合で直接添加し、得られた処理液を水で抽出し、次いで5000〜10000rpmで連続遠心することにより得られる可溶性の機能的有効有機分子であって、反応時間の長期化、反応温度の上昇、過酸化水素の高濃度化、多量の過酸化水素の使用により、低分子量の機能的有効有機分子が得られ、機能的有効有機分子のサイズは亜炭と過酸化水素との反応条件に依存する、請求項1に記載の機能的有効有機分子。
【請求項4】
亜炭の質に応じて、アルカリ性過酸化水素(1〜10%のアルカリ、NaOHまたはKOHと、0.2〜20%の過酸化水素を含有)を亜炭に1:2〜1:5の割合で添加し、室温(25〜30℃)で反応させ、2〜6時間反応後、沈殿または遠心により抽出される、請求項1に記載の機能的有効有機分子。
【請求項5】
大部分の分子量は1000未満である、請求項1に記載の機能的有効有機分子。
【請求項6】
機能的有効有機分子を含む液体サンプルは、フッ化カルシウムセル・アクセサリーを用いてFTIR分析したとき、波数1600±200(cm−1)において特徴的な吸収ピークが観察される、請求項1に記載の機能的有効有機分子。
【請求項7】
ウランを含むアクチニド元素などの毒性重金属の分解能を有する、請求項1に記載の機能的有効有機分子。
【請求項8】
植物を成長させる性質および収穫量を増加させる性質を有する、請求項1に記載の機能的有効有機分子。
【請求項9】
リン酸系肥料とブレンドとすると、植物のリン酸利用率を増加させて収穫量を増加させる、請求項1に記載の機能的有効有機分子。


【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−509311(P2010−509311A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−535826(P2009−535826)
【出願日】平成19年11月2日(2007.11.2)
【国際出願番号】PCT/IB2007/003324
【国際公開番号】WO2008/053339
【国際公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(509128111)ビジャム バイオサイエンシス プライベート リミテッド (4)
【Fターム(参考)】