説明

亜酸化窒素の分解触媒、それを備える亜酸化窒素の分解装置およびそれを用いる亜酸化窒素の分解方法

【課題】簡便かつ低コストで亜酸化窒素を分解し得る分解触媒およびそれを備える小型の亜酸化窒素の分解装置ならびに前記分解触媒を用いる亜酸化窒素の分解方法を提供することを課題とする。
【解決手段】水素の酸化触媒成分と亜酸化窒素の還元触媒成分とが、両触媒成分間を電子が移動し得るように接合され、かつ前記接合とは別個に両触媒成分間をプロトンが移動し得るプロトン導電性固体電解質で接合されてなることを特徴とする水素の存在下で亜酸化窒素を分解する亜酸化窒素の分解触媒により、上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気中に放出される地球温暖化の原因とされる温室効果ガスの一種である亜酸化窒素(N2O)の亜酸化窒素の分解触媒、それを備える亜酸化窒素の分解装置およびそれを用いる亜酸化窒素の分解方法に関する。本発明は、酸素の余らない理論空燃比で運転・制御されるガソリンなどの内燃機関から大気中に放出される排気ガス中に含まれる亜酸化窒素の浄化に好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保護と大気汚染防止の観点から、排気ガス中の窒素酸化物(「NOx」ともいう)が問題とされ、その排出量が厳しく規制されている。排出規制の対象となる窒素酸化物は、人体に有害で、光化学スモッグや酸性雨の原因とされる一酸化窒素(NO)と二酸化窒素(NO2)であり、その解決策は広く検討され、普及している。
しかしながら、広義では窒素酸化物の一種とされる亜酸化窒素(N2O)は、排出規制の対象ではなく、未処理のままで大気中に放出されていた。
【0003】
このような状況の中で亜酸化窒素は、地球温暖化防止条約、京都議定書の発効により、大気中の二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、フロンなどと共に、温室効果ガスとして排出を抑制すべき温室効果ガスの一種として注目され、大気中への放出削減へ向けた関心が高まっている。
これまで温室効果ガスの排出抑制対策では二酸化炭素に重点がおかれてきたが、微量ガスとされていた亜酸化窒素の占める割合が増加し、温暖化寄与率が上昇していることから、その排出抑制対策が迫られている。
【0004】
亜酸化窒素は二酸化炭素の約310倍の温室効果を有するとされ、人為的発生源の内の40%が自動車などの酸素の余らない理論空燃比で運転・制御されるガソリンなどの内燃機関から排出されている。従来から自動車には、排気ガス中に含まれるNOx(NO、NO2)、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)の3つの有害物質を理論空燃比付近で同時に還元して除去する自動車用の排気ガス浄化用触媒が装備されている。
このような触媒としては、例えば、コージェライトなどからなる耐熱性のハニカム基材にγ−アルミナからなる多孔質担体層を形成し、その担体層にPt、Pd、Rhなどの貴金属を担持した三元触媒が広く知られている。
【0005】
しかしながら、自動車の走行距離が長くなると三元触媒の性能が劣化して亜酸化窒素の排出量が増加することに加えて、三元触媒の温度が低い自動車の初発進直後に高濃度の亜酸化窒素が排出されるので、触媒の劣化対策と併せて触媒活性の低温化が望まれる。
【0006】
また、亜酸化窒素の排出量は内燃機関の空燃比、触媒成分(担持金属)の種類、触媒温度などの影響を受けることから、亜酸化窒素の排出量を削減するためにこれらの条件を変更するとNOx、一酸化炭素、炭化水素の排出量に影響を与えてしまう。
そこで、上記の三元触媒を用いて処理された亜酸化窒素含有ガスをさらに処理する技術が考えられるが、その亜酸化窒素の浄化(分解)技術は確立されていない。
【0007】
そこで、亜酸化窒素の分解技術として化学工業などのプロセスにおける熱分解法、触媒分解法などが提案されている。
熱分解法は、処理温度が900℃以上の高温になり、大量のエネルギー消費を伴うと共に、低濃度の亜酸化窒素を処理する場合にはその処理温度によって副生成物として新たにNOxが生成されることから、コスト的および機能的に問題がある。
【0008】
一方、触媒法は、エネルギー消費が比較的少ない安価な方式として注目され、その研究が年々活発になっている。触媒法では、アンモニア(NH3)など還元剤の存在下で亜酸化窒素を選択的に分解する。
特開昭60−22922号公報(特許文献1)および特開平2−68120号公報(特許文献2)には、還元剤としてアンモニア、触媒として水素および/または鉄置換型モルデナイトを用いる触媒法が開示されている。
【0009】
還元剤としてアンモニア、触媒としてV25−TiO2を用い用いる触媒法では、80%以上の高いNOx除去率が得られ、広く実用に供されているが、亜酸化窒素に対する活性は低く、亜酸化窒素は分解されずにほとんどそのまま排出される。
しかも、この方法における亜酸化窒素の分解に必要な触媒温度(作動温度)は250〜550℃とされ、自動車の初発進直後やアイドリング時などの場合には亜酸化窒素は分解されずにそのまま排出される問題がある。また、毒性を有するアンモニアの取扱いが容易ではなく、設備の大型化や高い維持コストが必要であることから、自動車に適用することは極めて難しい。
【0010】
また、還元剤を用いない触媒法に関する研究も行われている。例えば、特開2002−253967号公報(特許文献3)には、Rh、Ru、Pdから選択される少なくとも1種を主成分とする触媒が開示されている。
しかしながら、この方法における亜酸化窒素の分解に必要な触媒温度(作動温度)は200〜600℃と高く、還元剤を用いる触媒法と同様に自動車に適用することは極めて難しい。そこで、より低温で亜酸化窒素を分解し得る方法が強く望まれている。具体的には、ガソリンエンジン搭載の自動車の全運転領域となる排気ガス温度よりも低温で、三元触媒を用いて処理されたガスをさらに後処理する亜酸化窒素の分解技術が強く望まれている。
【0011】
【特許文献1】特開昭60−22922号公報
【特許文献2】特開平2−68120号公報
【特許文献3】特開2002−253967号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記のように、亜酸化窒素の浄化(分解)技術は確立されていない。
したがって、本発明は、簡便かつ低コストで亜酸化窒素を分解し得る分解触媒およびそれを備える小型の亜酸化窒素の分解装置ならびに前記分解触媒を用いる亜酸化窒素の分解方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、水素の酸化触媒成分と亜酸化窒素の還元触媒成分とを、電子とプロトンとがそれぞれ別々に移動し得るように接合された触媒が水素の存在下で亜酸化窒素を効率よく分解し得ることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0014】
かくして、本発明によれば、水素の酸化触媒成分と亜酸化窒素の還元触媒成分とが、両触媒成分間を電子が移動し得るように接合され、かつ前記接合とは別個に両触媒成分間をプロトンが移動し得るプロトン導電性固体電解質で接合されてなることを特徴とする水素の存在下で亜酸化窒素を分解する亜酸化窒素の分解触媒が提供される。
【0015】
また、本発明によれば、上記の亜酸化窒素の分解触媒を含む触媒部、排気ガスを前記触媒部に導入する入口煙道および前記触媒部で処理された前記排気ガスを排出する出口煙道を備えることを特徴とする亜酸化窒素の分解装置が提供される。
さらに、本発明によれば、上記の亜酸化窒素の分解触媒で排気ガスを処理して、前記排気ガス中の亜酸化窒素を分解することを特徴とする亜酸化窒素の分解方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、簡便かつ低コストで亜酸化窒素を分解し得る分解触媒およびそれを備える小型の亜酸化窒素の分解装置ならびに前記分解触媒を用いる亜酸化窒素の分解方法を提供することができ、産業上極めて有用である。
特に、本発明によれば、200℃以下の低温で亜酸化窒素を分解することができ、Ptのような貴金属のみを用いた方法よりも亜酸化窒素の分解効率が高く、貴金属の使用量を低減できるので、低コスト化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の水素の存在下で亜酸化窒素を分解する亜酸化窒素の分解触媒は、水素の酸化触媒成分と亜酸化窒素の還元触媒成分とが、両触媒成分間を電子が移動し得るように接合され、かつ前記接合とは別個に両触媒成分間をプロトンが移動し得るプロトン導電性固体電解質で接合されてなることを特徴とする。
【0018】
本発明の亜酸化窒素の分解メカニズムは定かではないが、次式に示すような反応過程によるものと推察される。
アノード:H2 → 2H+ + 2e-
カソード:N2O + 2H+ + 2e- → N2 + H2
すなわち、水素の酸化触媒成分がアノードとして作用して水素をプロトン化し、生成されたプロトンがプロトン導電性固体電解質を介して、生成された電子が導電性物質からなる支持体を介するか、または直接、カソードとして作用する亜酸化窒素の還元触媒成分に移動し、吸着している亜酸化窒素を還元するものと推察される。
【0019】
本発明で使用される水素の酸化触媒成分は、Pt、Ru、Rh、PdおよびIrの白金族金属から選択される少なくとも1種の金属またはその化合物であるのが好ましい。
【0020】
本発明で使用される亜酸化窒素の還元触媒成分は、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Cd、Sn、PbおよびZnから選択される少なくとも1種の金属またはその化合物であるのが好ましい。
【0021】
本発明で使用される水素の酸化触媒成分と窒素酸化物の還元触媒成分との重量比は、処理対象となる窒素酸化物を含有する排気ガスの濃度や温度、その他の条件により、適宜設定すればよいが、通常、水素の酸化触媒成分1重量部に対して窒素酸化物の還元触媒成分が1〜500重量部であるのが好ましく、5〜200重量部であるのが特に好ましい。
水素の酸化触媒成分1重量部に対して窒素酸化物の還元触媒成分が1重量部未満の場合には、窒素酸化物の除去率が低下することもある。一方、窒素酸化物の還元触媒成分が500重量部を超える場合には、分解触媒を備える装置が大型化することもある。
【0022】
本発明で使用されるプロトン導電性固体電解質は、フッ素樹脂系のプロトン導電性固体高分子(例えば、パーフルオロスルホン酸系ポリマー)および炭化水素系のプロトン導電性固体高分子、ならびにバリウムセリウム系、バリウムジルコニウム系、カルシウムセリウム系、カルシウムジルコニウム系、ジルコニウムストロンチウム系およびセリウムストロンチウム系のペロブスカイト型酸化物から選択される少なくとも1種であるのが好ましい。
フッ素樹脂系のプロトン導電性固体高分子としては、例えばパーフルオロスルホン酸系ポリマー(デュポン社製、Nafion(登録商標))が挙げられ、炭化水素系の固体高分子としては、例えばスルホン酸化ポリイミドが挙げられる。
これらの中でも、低温での分解活性の点でフッ素樹脂系のプロトン導電性固体高分子が特に好ましい。
【0023】
本発明の亜酸化窒素の分解触媒において、(1)水素の酸化触媒成分と亜酸化窒素の還元触媒成分とが導電性物質からなる支持体の同一平面上に分散配置されているか、または(2)水素の酸化触媒成分が導電性を有する亜酸化窒素の還元触媒成分上に分散配置されて、両触媒成分間を電子が移動し得るように接合されているのが好ましい。
図1および2は、それぞれ配置形態(1)および(2)を有する本発明の亜酸化窒素の分解触媒の主要構成を示す模式断面図である。図中、1は水素の酸化触媒成分、2は亜酸化窒素の還元触媒成分、2(4)は導電性を有する亜酸化窒素の還元触媒成分、3はプロトン導電性固体電解質、4は導電性物質からなる支持体を示す。
【0024】
本発明で使用される導電性物質からなる支持体(担体)は、電気的接続部材としての機能するものであれば特に限定されない。具体的には、カーボンブラック、アセチレンブラック、活性炭、無定形炭素などのカーボン担体が挙げられる。
【0025】
配置形態(1)
水素の酸化触媒成分および亜酸化窒素の還元触媒成分とが導電性物質からなる支持体(担体)の同一平面上に分散配置(担持)させる方法としては、含浸法、沈殿法などの公知の方法が挙げられる。一般的には水素の酸化触媒成分および亜酸化窒素の還元触媒成分を溶剤に溶解させた溶液を担体に含浸させる含浸法が特に好ましい。
【0026】
水素の酸化触媒成分を溶剤に溶解させた溶液としては、例えばPtの場合には、ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和液、ジニトロジアンミン白金(II)硝酸溶液などが挙げられる。
亜酸化窒素の還元触媒成分を溶剤に溶解させた溶液としては、例えばNiの場合には、塩化ニッケル水溶液、硫酸ニッケル水溶液、硝酸ニッケル水溶液などが挙げられる。
【0027】
また、これらの溶液には、水素の酸化触媒成分および亜酸化窒素の還元触媒成分を支持体上に析出させるために、水素化ホウ素ナトリウム、エチルアルコールのようなアルコールなどの還元剤を添加してもよく、これらの中でも、工業的に入手し易く、取扱いが容易である点でエチルアルコールが特に好ましい。また、還元剤として水素ガスを使用してもよい。
【0028】
配置形態(2)
水素の酸化触媒成分が導電性を有する亜酸化窒素の還元触媒成分上に分散配置(担持)させる方法としては、例えば、水素の酸化触媒成分とプロトン導電性固体電解質の溶液またはスラリーの混合溶液を、導電性を有する亜酸化窒素の還元触媒成分上にコーティングする方法が挙げられる。
被コーティング材となる導電性を有する亜酸化窒素の還元触媒成分の形状としては、プレート状、ペレット状、ハニカム状、多孔体状などが挙げられ、これらの中でも、排気ガス流通時の圧力損失が低い点で導電性を有する亜酸化窒素の還元触媒成分の金属成分材料で一体成形された金属多孔体が好ましい。
また、水素の酸化触媒成分は、金属成分材料の単体でもよく、その金属成分材料をカーボン担体のような導電性を有する支持体に担持したものでもよい。
【0029】
本発明の亜酸化窒素の分解装置は、本発明の亜酸化窒素の分解触媒を含む触媒部、排気ガスを前記触媒部に導入する入口煙道および前記触媒部で処理された前記排気ガスを排出する出口煙道を備えることを特徴とする。
【0030】
図3および図4は、本発明の亜酸化窒素の分解装置の主要構成を示す模式図である。図中、11は分解装置、12は入口煙道、13は出口煙道、14は触媒部、15は水素ガス注入装置、Eは排気ガス、Hは水素ガス、矢符はガス気流を示す。
【0031】
本発明により実際の排気ガス中の亜酸化窒素を分解する場合には、触媒部は本発明の亜酸化窒素の分解触媒が三次元構造体に形成されているのが好ましい。その形成方法としては、例えばコーティングが挙げられる。
【0032】
図5は、本発明の亜酸化窒素の分解装置に使用する三次元構造体の触媒部の主要構成を示す模式断面図である。図中、5は三次元構造体(ハニカム担体)、6はセル(ガス流れ空間)、7は格子、8は担体層、9は触媒(図1参照)を示す。
【0033】
三次元構造体としては、ペレット状、ハニカム担体などが挙げられ、排気ガス流通時の圧力損失が低い点で一体成形のハニカム担体が好ましい。
ハニカム担体としては、セラミックハニカム担体のようなモノリスハニカム担体、メタルハニカム担体などが挙げられる。
セラミックハニカム担体としては、コージェライト、ムライト、α-アルミナ、ジルコニア、チタニア、炭化けい素などを材料とするハニカム担体が挙げられ、これらの中でも、軽量である点でコージェライトのハニカム担体が特に好ましい。
メタルハニカム担体としては、ステンレス鋼、Fe−Cr−Al合金などの酸化抵抗性の耐熱金属などを材料とする一体構造体が挙げられる。
【0034】
ハニカム担体における格子(セル)の形状および大きさは、亜酸化窒素を含有する排気ガスの気流を効率よく触媒部に接触させ得るものであれば特に限定されず、亜酸化窒素の処理容量などによって適宜設定すればよい。
ハニカム担体におけるセル数は、通常、100〜400セル/(25.4mm)2(100〜400cpsi)程度である。
【0035】
コーティング方法としては、例えば以下に示すような方法(a)〜(c)が挙げられるが、本発明の主旨に反しない限り、これらの方法に限定されない。
(a)水素の酸化触媒成分および亜酸化窒素の還元触媒成分を担持した支持体の混合溶液を無機酸化物に含浸させ、乾燥し、必要に応じて焼成する。得られた粉体に水などを加えて湿式粉砕してスラリーとし、これを三次元構造体に塗布して乾燥し、必要に応じて焼成する。
(b)無機酸化物に水などを加えて湿式粉砕してスラリーとし、三次元構造体に塗布して乾燥し、必要に応じて焼成する。得られた三次元構造体を、水素の酸化触媒成分および亜酸化窒素の還元触媒成分を担持した支持体の混合溶液に含浸させ、乾燥し、必要に応じて焼成する。
(c)水素の酸化触媒成分および亜酸化窒素の還元触媒成分を担持した支持体の混合溶液の一部を無機酸化物に含浸させ、乾燥し、必要に応じて焼成する。得られた粉体に水などを加えて湿式粉砕してスラリーとし、三次元構造体に塗布して乾燥し、必要に応じて焼成する。得られた三次元構造体に、水素の酸化触媒成分および亜酸化窒素の還元触媒成分を担持した支持体の混合溶液の残りを含浸させ、乾燥し、必要に応じて焼成する。
【0036】
コーティングに使用される無機酸化物としては、アルミナ、シリカ、チタニア、マグネシア、ジルコニアなどが挙げられ、これらの中でも、小型化の点でアルミナが特に好ましい。方法(a)〜(c)では無機酸化物を使用するが、触媒部が三次元構造体にコーティングされるのであれば、無機酸化物を使用しなくてもよい。
【0037】
次いで、水素の酸化触媒成分と亜酸化窒素の還元触媒成分とが両触媒成分間をプロトンが移動し得るように、両触媒成分間にプロトン導電性固体電解質を配置する。
具体的には、水素の酸化触媒成分および亜酸化窒素の還元触媒成分を担持した支持体をコーティングした三次元構造体に、前記のようなプロトン導電性固体電解質の溶液またはスラリーを塗布して乾燥し、必要に応じて焼成する。
【0038】
上記の方法では、プロトン導電性固体電解質を最終工程において形成したが、その形成手順は本発明の主旨に反しない限り、特に限定されない。例えば、水素の酸化触媒成分および亜酸化窒素の還元触媒成分を担持した支持体に、プロトン導電性固体電解質の溶液またはスラリーを含浸させ、乾燥し、必要に応じて焼成したものを、三次元構造体にコーティングしてもよい。
【0039】
本発明の亜酸化窒素の分解装置における入口煙道は、例えば、ガソリンエンジン搭載の自動車における三元触媒による処理装置からの排気ガス発生源に接続され、触媒部に排気ガスを導入する。
また、出口煙道は、触媒部で処理された排気ガス、すなわち亜酸化窒素を分解した後の残留ガスを分解装置の外に排出する。
【0040】
これらの入口煙道および出口煙道は、それぞれ排気ガスの気流を効率よく触媒部に導入し得るものおよび触媒部で処理された排気ガスを効率よく分解装置の外に排出し得るものであれば特に限定されず、材質や形状は亜酸化窒素の処理容量などによって適宜設定すればよい。
【0041】
本発明の亜酸化窒素の分解方法は、水素を還元剤として本発明の亜酸化窒素の分解触媒で排気ガスを処理して、前記排気ガス中の亜酸化窒素を分解することを特徴とする。
【0042】
排気ガスとしては、上記のように亜酸化窒素を含有するガスであれば特に限定されず、例えば、三元触媒を用いて処理されたガス、すなわちガソリンエンジン搭載の自動車における三元触媒による処理装置からの排気ガス発生源などから大気中に放出される排気ガスが挙げられる。
【0043】
本発明の方法では、水素を還元剤として使用する。
処理対象となる排気ガスが、水蒸気改質された燃料や一酸化炭素の水性ガスシフト反応などにより改質された燃料を燃焼させたガス、通常の空燃比よりも燃料過剰(リッチ)で燃焼させたガスのように、亜酸化窒素と共に適量の水素を含有する場合には排気ガスのみを本発明の方法で処理すればよい。
【0044】
例えば、亜酸化窒素を含有する排気ガスが三元触媒を用いて処理されたガスである場合には、三元触媒に酸化セリウム(CeO2)を助触媒成分として添加することにより水性ガスシフト反応が促進され、次式のようにCOの分解(浄化)作用に寄与することが知られている。
CO + H2O → CO2 + H2
しかし、処理対象となる排気ガスが亜酸化窒素と共に適量の水素を含有しない場合には、処理前の排気ガスに還元剤として水素を注入すればよい。
【0045】
排気ガス中の水素の量は、亜酸化窒素の濃度や排気ガスの温度、その他の条件により、適宜設定すればよいが、通常、排気ガス中の水素濃度が爆発下限界の4%未満で、亜酸化窒素に対して1〜100倍の範囲であればよい。
したがって、排気ガス中の水素の量が亜酸化窒素に対して1倍未満の場合には、分解装置の大きさやコストの面から分解効率の向上を図るために処理前の排気ガスに還元剤として水素を注入すればよい。
すなわち、分解装置には、図4に示すように入口煙道12と触媒部14との間に水素含有ガスを注入する水素ガス注入装置15が付帯されていてもよい。
ここで、水素含有ガスとは、水素ガスの他に、窒素ガス、不活性ガス(例えば、ヘリウム、アルゴン)などで水素ガスを希釈した混合ガスを意味する。
【0046】
水素ガス注入装置は、例えばボンベやタンクなどの水素貯蔵設備、触媒を用いた都市ガスまたはメタノールなどの改質により水素を生成する水素発生装置、プロトン導電性固体電解質を用いた水または水蒸気の電気分解により水素を生成する水素発生装置を備えていればよい。
【0047】
触媒部への水素ガスを含む排気ガスの導入量は、触媒部の亜酸化窒素の処理能力により適宜設定すればよい。
【0048】
本発明の方法は、排気ガス中に亜酸化窒素と共存する酸素との反応活性が低く、作動温度は、200℃以下の低温雰囲気下であることが好ましく、50〜100℃が特に好ましい。
排気ガス中の共存酸素濃度は、亜酸化窒素の除去効率の点で、0〜0.8%が好ましく、0〜0.5%がさらに好ましく、0〜0.3%が特に好ましい。
【実施例】
【0049】
本発明を実施例および比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
図1に示すような水素の酸化触媒成分、亜酸化窒素の還元触媒成分および導電性物質からなる支持体の構造を有する触媒部を作製した。
1.5wt%のPtを含有するジニトロジアミン白金(II)硝酸溶液300gに、導電性物質からなる支持体としてのカーボンブラック(ライオン株式会社製、商品名:ケッチェンブラックEC−600JD)10gを加えて攪拌混合した。得られた混合溶液に、還元剤としてエチルアルコール100mlを加えて、エチルアルコールの沸点(78℃)程度で約5時間撹拌混合した。次いで、得られた混合溶液を濾過し、60℃で乾燥させ、導電性物質からなる支持体(カーボン)上に水素の酸化触媒成分(Pt)を担持させた。
【0051】
次に、8wt%のNiを含有する塩化ニッケル溶液30gに、得られたPt担持カーボン5gを加えて撹拌混合した。得られた混合溶液に、エチルアルコール100mlを加えて、エチルアルコールの沸点(78℃)程度で約5時間撹拌混合した。次いで、得られた混合溶液を濾過し、60℃で乾燥させ、水素の酸化触媒成分(Pt)と同様に、導電性物質からなる支持体(カーボン)上に亜酸化窒素の還元触媒成分(Ni)を担持させた。なお、支持体上の水素の酸化触媒成分(Pt)と亜酸化窒素の還元触媒成分(Ni)との重量比率は、1:5であった。
【0052】
水素の酸化触媒成分(Pt)と亜酸化窒素の還元触媒成分(Ni)を分散担持した支持体(カーボン)2g、アルミナ2g、水5gを磁性ボールミルに投入し、1時間撹拌混合してスラリーを得た。得られたスラリーをコージェライト質のハニカム担体に塗布し、空気流で余分なスラリーを吹き飛ばし、130℃で2時間乾燥し、さらに400℃で1時間焼成して、ハニカム担体を得た。なお、ハニカム担体は、セル数400セル/(25.4mm)2(400cpsi)、体積4.8cm3であった。
次に、得られたハニカム担体に、5wt%のパーフルオロスルホン酸系ポリマー(デュポン社製、Nafion(登録商標):プロトン導電性固体電解質)を含有する溶液を塗布し、空気流で余分な溶液を吹き飛ばし、100℃で1時間乾燥して、亜酸化窒素を分解する触媒部を得た。
【0053】
(実施例2)
図2に示すような水素の酸化触媒成分および導電性を有する亜酸化窒素の還元触媒成分の構造を有する触媒部を作製した。
市販の50wt%Pt担持カーボン0.5g(田中貴金属工業株式会社製、品番:TEC10E50E)に、プロトン導電性固体電解質として5wt%のパーフルオロスルホン酸系ポリマーを含有する溶液1g、水8gを加え、攪拌混合してスラリーを得た。得られたスラリーにNiを主な組成とする金属多孔体(住友電気工業株式会社製、セルメット(登録商標))を浸漬し、金属多孔体にスラリーを付着させた後、空気流で余分なスラリーを吹き飛ばし、100℃で1時間乾燥して、亜酸化窒素を分解する触媒部を得た。なお、水素の酸化触媒成分(Pt)と導電性を有する亜酸化窒素の還元触媒成分(Ni)との重量比率は、1:150であった。
【0054】
(比較例)
γ−アルミナ30g、アルミナゾル(アルミナ含有率10wt%)10gおよび純水50gを加えて撹拌混合した。得られたスラリーにコージェライト質のハニカム担体を浸漬し引き上げて、空気流で余分なスラリーを吹き飛ばし、80℃で1時間乾燥し、300℃で1時間焼成して、アルミナ担体層(ハニカム担体1L当りの付着重量100g)を得た。なお、ハニカム担体は、セル数400セル/(25.4mm)2(400cpsi)、体積4.8cm3であった。
次に、ハニカム担体1L当りのPt担持量が2(g/L)となるように調製したジニトロジアミン白金(II)硝酸溶液に、アルミナ担体層を形成したハニカム担体を浸漬し引き上げて、空気流で余分な液滴を吹き飛ばし、80℃で1時間乾燥し、500℃で1時間焼成して、三元触媒を得た。
【0055】
(性能評価試験1)
実施例1および2で得られた触媒部をそれぞれ固定式流通反応装置に取り付け、下記の理論空燃比近傍で運転・制御されるガソリンエンジンからの排ガスを想定したガス組成の模擬ガスを、共存酸素濃度を0.1%、0.3%、0.5%、0.8%および1%に変化させ、下記の流通条件で流通させて、処理前後の亜酸化窒素濃度を測定し、その除去率を算出した。
得られた結果を図6に示す(□:実施例1、○:実施例2)。
【0056】
ガス組成 N2O:50ppm
2 :0.1〜1%
2 :1000ppm
CO :4000ppm
CO2:15%
2O:8%
2 :残部
SV(空間速度): 10000Hr-1
反応装置温度 :80℃
【0057】
処理前後の亜酸化窒素濃度をN2O用汎用型赤外線分析計(株式会社堀場製作所製、型式:VIA−510)を用いて測定した。
亜酸化窒素(N2O)の除去率を下記式により算出した。
2Oの除去率(%)
=[(処理前のN2O濃度)−(処理後のN2O濃度)]/(処理前のN2O濃度)×100
【0058】
図6の結果から、本発明の亜酸化窒素の分解触媒を含む触媒部、すなわち「水素の酸化触媒成分と亜酸化窒素の還元触媒成分とが導電性物質からなる支持体の同一平面上に分散配置されて、両触媒成分間を電子が移動し得るように接合され、かつ前記接合とは別個に両触媒成分間をプロトンが移動し得るプロトン導電性固体電解質で接合されてなる亜酸化窒素の分解触媒を含む触媒部」を用いた実施例1および「水素の酸化触媒成分が導電性を有する亜酸化窒素の還元触媒成分上に分散配置されて、両触媒成分間を電子が移動し得るように接合され、かつ前記接合とは別個に両触媒成分間をプロトンが移動し得るプロトン導電性固体電解質で接合されてなる亜酸化窒素の分解触媒を含む触媒部」を用いた実施例2の亜酸化窒素の除去率は、亜酸化窒素の除去効果を有し、特に共存酸素濃度が0〜0.3%の亜酸化窒素含有ガスに対して優れた効果を有することがわかる。
【0059】
(性能評価試験2)
図7に示すような装置を用いて試験した。
すなわち、三元触媒20として比較例で得られた三元触媒、触媒部21として実施例1で得られた触媒部、水素ガス注入装置22として水素濃度1000ppmになるように水素ガスを注入する装置、N2O測定装置23としてN2O用汎用型赤外線分析計(株式会社堀場製作所製、型式:VIA−510)およびNOx測定装置24として燃焼排ガス用NOx−O2測定装置(株式会社島津製作所製、型式:NOA−7000)を備えた装置に、下記のガス組成の模擬ガスを下記の流通条件で流通させて、処理前後の窒素酸化物(NOx)および亜酸化窒素濃度を測定しそれぞれ除去率(%)および含有率(%)を算出した。
【0060】
ガス組成 NO :500ppm
2 :0.2%
38 :600ppm
CO :0.24%
CO2 :14%
2O :10%
2 :残部
SV(空間速度):10000Hr-1(三元触媒10)
:10000Hr-1(触媒部11)
装置温度 :300℃(三元触媒10)
:80℃(触媒部11)
なお、三元触媒20の温度を低温(300℃)に設定することにより、亜酸化窒素の生成を促進させた。
比較例として、三元触媒20のみを備え、触媒部21および水素ガス注入装置22を備えない装置を用いて上記と同様にして試験した。
【0061】
NOxの除去(浄化)率および亜酸化窒素の含有率を下記式により算出した。
NOxの除去率(%)
=[(処理前のNOx濃度)−(処理後のNOx濃度)]/(処理前のNOx濃度)×100
2Oの含有率(%)
=(処理後のN2O濃度)/[(処理前のNOx濃度)−(処理後のNOx濃度)]×100
得られた結果を図8に示す(○:NOx浄化率、●:N2O含有率)。
【0062】
図8の結果から、実施例は比較例に比べて、N2O含有率に顕著な低下が認められると共にNOx浄化率が向上し、排気ガス中のN2O濃度が低下することがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の亜酸化窒素の分解触媒の主要構成(配置形態(1))を示す模式断面図である。
【図2】本発明の亜酸化窒素の分解触媒の主要構成(配置形態(2))を示す模式断面図である。
【図3】本発明の亜酸化窒素の分解装置の主要構成を示す模式図である。
【図4】本発明の亜酸化窒素の分解装置の主要構成を示す模式図である。
【図5】本発明の亜酸化窒素の分解装置における三次元構造体の触媒部の主要構成を示す模式断面図である。
【図6】本発明の亜酸化窒素の分解方法における共存酸素濃度(%)と亜酸化窒素除去率(%)との関係を示す図である。
【図7】性能評価試験2で用いた装置のブロック図である。
【図8】本発明の亜酸化窒素の分解方法と従来法(三元触媒)におけるNOxの除去(浄化)率(%)および亜酸化窒素の含有率(%)を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
1 水素の酸化触媒成分
2 亜酸化窒素の還元触媒成分
2(4) 導電性を有する亜酸化窒素の還元触媒成分
3 プロトン導電性固体電解質
4 導電性物質からなる支持体
【0065】
5 三次元構造体(ハニカム担体)
6 セル(ガス流れ空間)
7 格子
8 担体層
9 触媒
【0066】
11 分解装置
12 入口煙道
13 出口煙道
14 触媒部
15 水素ガス注入装置
E 排気ガス
H 水素ガス
【0067】
20 三元触媒
21 触媒部
22 水素ガス注入装置
23 N2O測定装置
24 NOx測定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素の酸化触媒成分と亜酸化窒素の還元触媒成分とが、両触媒成分間を電子が移動し得るように接合され、かつ前記接合とは別個に両触媒成分間をプロトンが移動し得るプロトン導電性固体電解質で接合されてなることを特徴とする水素の存在下で亜酸化窒素を分解する亜酸化窒素の分解触媒。
【請求項2】
前記水素の酸化触媒成分が、Pt、Ru、Rh、PdおよびIrの白金族金属から選択される少なくとも1種の金属またはその化合物である請求項1に記載の亜酸化窒素の分解触媒。
【請求項3】
前記亜酸化窒素の還元触媒成分が、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Cd、Sn、PbおよびZnから選択される少なくとも1種の金属またはその化合物である請求項1または2に記載の亜酸化窒素の分解触媒。
【請求項4】
前記プロトン導電性固体電解質が、フッ素樹脂系および炭化水素系のプロトン導電性固体高分子、ならびにバリウムセリウム系、バリウムジルコニウム系、カルシウムセリウム系、カルシウムジルコニウム系、ジルコニウムストロンチウム系およびセリウムストロンチウム系のペロブスカイト型酸化物から選択される少なくとも1種である請求項1〜3のいずれか1つに記載の亜酸化窒素の分解触媒。
【請求項5】
前記水素の酸化触媒成分1重量部に対して前記窒素酸化物の還元触媒成分が1〜500重量部である請求項1〜4のいずれか1つに記載の窒素酸化物の分解触媒。
【請求項6】
前記水素の酸化触媒成分と前記亜酸化窒素の還元触媒成分とが導電性物質からなる支持体の同一平面上に分散配置されているか、または前記水素の酸化触媒成分が導電性を有する前記亜酸化窒素の還元触媒成分上に分散配置されて、両触媒成分間を電子が移動し得るように接合されている請求項1〜5のいずれか1つに記載の亜酸化窒素の分解触媒。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の亜酸化窒素の分解触媒を含む触媒部、排気ガスを前記触媒部に導入する入口煙道および前記触媒部で処理された前記排気ガスを排出する出口煙道を備えることを特徴とする亜酸化窒素の分解装置。
【請求項8】
前記入口煙道と前記触媒部との間に水素含有ガスを注入する水素ガス注入装置をさらに備える請求項7に記載の亜酸化窒素の分解装置。
【請求項9】
水素を還元剤として請求項1〜6のいずれか1つに記載の亜酸化窒素の分解触媒で排気ガスを処理して、前記排気ガス中の亜酸化窒素を分解することを特徴とする亜酸化窒素の分解方法。
【請求項10】
前記排気ガスが、三元触媒を用いて処理されたガスである請求項9に記載の亜酸化窒素の分解方法。
【請求項11】
前記排気ガス中の共存酸素濃度が、0〜0.8%である請求項9または10に記載の亜酸化窒素の分解方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−22929(P2009−22929A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−191089(P2007−191089)
【出願日】平成19年7月23日(2007.7.23)
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)
【Fターム(参考)】