説明

亜鉛−ニッケル合金めっき方法

【課題】 めっき液の劣化を抑制し安定して長期操業が可能な亜鉛−ニッケル合金めっき方法を提供する。
【解決手段】 亜鉛イオン、ニッケルイオン、好ましくはアミン類等のニッケル錯化剤及びアルカリ成分を含有する、pH13以上の亜鉛−ニッケル系合金めっき液を使用する亜鉛−ニッケル合金の電気めっき方法であり、陰極槽と、アルカリ成分含有溶液である陽極液を収める陽極槽とをイオン交換膜等の隔膜によって分離し、陽極液にアルカリ成分を添加して陰極液のアルカリ成分濃度を制御するめっき方法を提供する。本発明では、電流量を指標として陽極液へ補給するアルカリ成分量を調節して上記めっき液をpH13以上に保持でき、陽極板はC、Fe、Cr、Ni及びこれらの合金でもよく、上記めっき液は更に、光沢剤、平滑剤、還元剤及び界面活性剤の群から選ばれる少なくとも1種を含有できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、pH13以上の亜鉛−ニッケル合金めっき浴による表面処理技術に関し、詳細にはめっき液の劣化なしに、長時間連続的に安定して亜鉛−ニッケル合金めっき被膜を形成できる亜鉛−ニッケル合金めっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛−ニッケル合金めっきは、他の亜鉛系めっきに比べて優れた耐食性を有することから、自動車部品、特に高温環境下に置かれるエンジン部品や、高い耐食性が要求される部品等に広範囲に使用されている。
従来のpH13以上の亜鉛−ニッケル合金めっき浴は適当なニッケル錯化剤を用いて亜鉛及び/又はニッケルを溶解させてめっき被膜に金属亜鉛と金属ニッケルを析出させており、錯化剤の種類を選定することによりめっき被膜中のニッケル含有率を調整していた。上記錯化剤として、例えば特開昭62−287092、特開平06−173073号公報等にはアミン類及びその反応物が記載されている。しかし、上記アミン系錯化剤をpH13以上の亜鉛−ニッケル合金めっき浴に使用する場合、通電時の陽極板近傍での錯化剤の酸化分解、めっき作業中めっき液がくみ出されて生じる不足分を補うために添加される高濃度のアルカリによる錯化剤の分解が生じる。その結果、亜鉛及び/又はニッケルの可溶性が変化したり、錯化剤自身から生じる劣化物の影響によりめっき液が劣化して、作業開始時に比べ徐々に電流効率が低下し、めっき膜厚の減少、めっき被膜中のニッケル含有率の低下、及びめっき被膜の光沢低下等の諸問題が発生する。
【0003】
一方、欧州特許EP1102875B1には、電極間にイオン交換膜を設けてアルカリ性の陰極液(めっき液)を用いる亜鉛−ニッケル合金めっき方法が提示されている。しかし、この方法では陽極液に硫酸等の酸性溶液を用いており、白金めっきされたチタン部材からなる高価な陽極を保護するため、めっき液補給のためには陰極液に高濃度のアルカリを添加せざるを得ず、めっき液の劣化を防止できない。更に隔膜が破損したときには、陽極側の酸性溶液と陰極側のアルカリ性溶液が混ざり合い化学反応を起こし、大事故につながるおそれがある。そして、この方法の場合、陽極液と陰極液とはそれぞれ別個に管理しなくてはならず工業的に使用する優位性に劣るものであった。
【特許文献1】特開昭62−287092号公報
【特許文献2】特開平06−173073号公報
【特許文献3】欧州特許EP1102875B1明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のとおり、従来技術では、亜鉛−ニッケル合金めっきのめっき液の安定化に対して工業的には根本的な解決はなされていないため、実際の操作工程ではめっき液の部分的な廃棄更新等によりこれら諸問題に対処しており地球環境に大きな負荷を与えている。
近年、亜鉛−ニッケル合金めっき浴分野ではめっき被膜中のニッケル含有率を10%〜15%に維持し、耐食性を向上させることが行なわれている。上記ニッケル含有率が達成できるニッケル錯化剤は限られており、そのためアルカリや酸化に弱く安定性に問題のあるニッケル錯化剤でもその使用が必要となる場合がある。上記より、pH13以上の亜鉛−ニッケル合金めっき浴の工業的実施においてめっき浴の安全性を満足し、環境に対する負荷を抑制し、継続的に安定して稼働できる技術が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、同一液量のめっき液に対する陽極板の大きさを変え、陽極電流密度を変化させて長時間電解(20℃、50時間)を行った後、このめっき液でめっきを行ったもののニッケル含有率を比較測定した。その結果、陽極電流密度の違いによりニッケル含有率が明らかに異なった。即ち、陽極電流密度が大きい(5A/dm2)とニッケル含有率は10〜15%であり、陽極電流密度が小さい(1A/dm2)とニッケル含有率は4〜6%であった。このことからめっき操作中、陽極とその近傍において種々の反応が起こり、その結果ニッケルの可溶性が変化したり、めっき液が劣化してニッケル含有率が低下すると考えられた。
【0006】
又、本発明者らは、アルカリ成分濃度を変化させた数種類のめっき液をそれぞれ調製し、調製直後及び長時間放置した後のめっき液を使用して、ハルセルめっき試験を行いめっき光沢を比較した。アルカリ成分濃度が大きいめっき液(水酸化ナトリウム濃度200g/L)を192時間放置後に使用した場合には放置前のめっき液を使用した場合に比較し、2A−20分ハルセルめっきしたハルセル板の電流密度にして6A/dm2以上に灰色のコゲが見られた。一方、アルカリ成分濃度が低いめっき液(水酸化ナトリウム濃度100g/L)を使用した場合、長時間放置前と放置後とでは2A−20分ハルセルめっきしたハルセル板でも余り光沢に差異が見られなかった。従って、劣化原因の一つとして強アルカリによる影響も大きいことが考えられた。
上記の通り、本発明者らは、亜鉛−ニッケル合金めっきの連続的工業的稼働を可能にすべく鋭意検討し、めっき液の経時劣化の原因のほとんどが陽極での錯化剤の酸化分解と、アルカリ成分補給時の高濃度アルカリ成分による錯化剤の分解であることを見いだし、陽極と陰極を隔離し、陽極液にアルカリを添加補給して結果的に陰極液を管理することで上記問題が解決され、工業的に継続して安定な状態でのめっき被膜が得られる本発明の方法を発明した。
【0007】
本発明は、亜鉛イオン、ニッケルイオン、ニッケル錯化剤及びアルカリ成分を含有する、pH13以上の亜鉛−ニッケル系合金めっき液(陰極液)を使用する亜鉛−ニッケル合金の電気めっき方法であり、上記陰極液を収める陰極槽と、アルカリ成分含有溶液である陽極液を収める陽極槽とを成分イオン及び電子の移動が可能な隔膜によって分離し、陽極液にアルカリ成分を添加して陰極液のアルカリ成分濃度を制御するめっき方法に関する。
上記めっき液中のニッケル錯化剤が、アミン類及びその他の含窒素化合物の群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
本発明の方法において、陽極及び陰極間に通電する電流量を指標として陽極液へ補給する総アルカリ量を調節し、上記陰極液をpH13以上に保持することができる。
上記隔膜はイオン交換膜でもよい。
上記陽極槽内の陽極板はC、Fe、Cr、Ni及びこれらの合金の群から選ばれる1つから構成されてもよい。
上記めっき液は更に、光沢剤、平滑剤、還元剤及び界面活性剤の群から選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明のpH13以上の亜鉛−ニッケル系合金めっき液(陰極液)を使用する亜鉛−ニッケル合金の電気めっき方法により、めっき液の劣化を抑制し、安定しためっき液成分で長期操業が可能となった。更に本発明の方法では、めっき液のアルカリ成分濃度の管理も工業的に容易である。本発明の方法により得られるめっき被膜中のニッケル含有率は安定した割合で保持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に使用できる装置の一例の概略図を図1に示す。
本発明の亜鉛−ニッケル系合金めっき液(陰極液)(2)を収める陰極槽(10)と陽極液(3)を収める陽極槽(6)は成分イオン及び電子の移動が可能な隔膜(4)によって分離されている。
陰極液(めっき液)について;
図1中の上記陰極液(2)は亜鉛イオン、ニッケルイオン、ニッケル錯化剤及びアルカリ成分を含有するpH13以上の溶液であり、めっき対象物(1)が浸漬されている。
pH13以上の陰極液には、通常使用されるアルカリ成分の水溶液が使用できる。アルカリ成分としては、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。陰極液に含まれるアルカリ成分と陽極液に添加される下記アルカリ成分とは同一でも異なっても良いが、めっき操作中、陽極液(3)中に含まれるカチオンが隔膜(4)を通して陰極液(2)中に移動して陰極液のアルカリ成分濃度を制御するため、同一成分が好ましい。
陰極液のアルカリ成分の濃度は、pH13以上となる範囲であれば良く、好ましい範囲はアルカリ成分種により異なるが、例えば水酸化ナトリウムの場合、通常50〜220g/L、好ましくは90〜150g/Lである。50g/L未満であるとめっき被膜の母材との密着性が悪化、均一電着性低下が起こり、一方、150g/Lを超えるとめっき被膜レベリング性が悪化する。
【0010】
本発明の陰極液(2)に含まれるニッケル錯化剤にはアミン類及びその反応物、並びに含窒素化合物及びその反応物が挙げられる。上記アミン類として;トリエタノールアミン、エチレンジアミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジアミノプロパン、ジエチレントリアミン、エチルアミノエタノール、アミノプロピルエチレンジアミン、ビスアミノプロピルピペラジン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ヘキサメチレンテトラミン、イソプロパノールアミン、アミノアルコール、ヒドロキシエチルアミノプロピルアミン、テトラメチルプロピレンジアミン、ジメチルアミノプロピルアミン等の脂肪族アミン;ポリアミンスルホン、ポリエチレンイミン、ポリアルキレンポリアミン及びポリアリルアミン等の脂肪族アミンポリマー;
下記構造式1
【0011】
【化1】

(但し、R1,R2は水素又はCが10以下のアルキルであり、nは1以上である。)で表されるポリマー、下記構造式2
【0012】
【化2】

(但し、R1,R2は水素、メチル、エチル、ブチル又はイソブチルであり、R3はCH2、C24又はC36でありnは1以上である。)で表されるポリマー、下記構造式3
【0013】
【化3】

(但し、R1,R2,R3,R4は水素又はCが5以下のアルキルであり、YはS又はOであり、Xは無機陰イオンであり、nは1以上である。)で表されるポリマー、下記構造式4
【0014】
【化4】

(R1,R2,R3,R4:水素、Cが5以下のアルキル、Y:S又はO,X:無機陰イオン、mおよびnは1以上)で表されるポリマー、又は下記構造式5
【0015】
【化5】

(R1,R2,R3,R4:水素、メチル、エチル、イソプロピル、2−ヒドロキシルエチル−CH2CH2(OCCH2CH2xOH(Xは0から6)、又は2一ヒドロキシルエチル−CH2CH2(OCH2CH2xOH(Xは0から6)から選ばれたもの、R5:(CH22−O−(CH22、(CH22−O−(CH22−O−(CH22、CH2−CHOH−CH2−O−CH2−CHOH−CH2から選ばれたもの、n:1以上、Y:S又はO,Z:1〜5)で表されるポリマー、これらのコポリマー、ブロックポリマーが挙げられる。
その他の含窒素化合物として、イミダゾール、ピコリン、ピペラジン、メチルピペラジン、モルホリン、ベンジルピリジニウムカルボキシレート、ポリアミド、チオアセトアミド、チオアセトアミド誘導体、チオ尿素、チオ尿素誘導体(アルキル化物等)、尿素、尿素誘導体(アルキル化物等)、ポリアリルアミン等及びこれら同士の反応物が挙げられる。
又、反応物としては、上記アミン類又はその他の含窒素化合物と、グリシジル化合物若しくはジエチルエーテル化合物との反応物;上記化合物のメチル化若しくはエチル化誘導体又は誘導体同士の反応物;等が挙げられる。
アミン類と反応物を生成するグルシジル化合物として、エピクロルヒドリン、アリルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、グリシドール、メチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、セカンダリーブチルフェノールジグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレート等が挙げられる。
【0016】
本発明の陰極液は光沢剤、平滑剤、還元剤及び界面活性剤の群から選ばれる少なくとも1種を添加してもよい。
上記光沢剤、平滑剤として、例えばアニスアルデヒド、バニリン、ヘリオトロピン、ベラトルアルデヒド等の芳香族アルデヒド類、又はこれらのメチル基置換体、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、アセチレン系アルコール、クマリン、ピリジン、キノリンこれらの誘導体、その他公知の亜鉛めっき用光沢剤が挙げられる。
上記還元剤として、例えばアスコルビン酸、クエン酸、没食子酸、カテコール、レゾルシノール、亜硫酸水素塩等が挙げられる。
上記界面活性剤として、主にノニオン系界面活性剤が挙げられ、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(又はエステル)、ポリオキシアルキレンフェニル(又はアルキルフェニル)エーテル、ポリオキシアルキレンナフチル(又はアルキルナフトチル)エーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルアミン、エチレンジアミンのポリオキシアルキレン縮合物付加物、ポリオキシアルキレン脂肪族アミド等が挙げられる。
本発明の亜鉛イオン、ニッケルイオン、ニッケル錯化剤を含有する陰極液(2)は酸化亜鉛をカ性ソーダ溶液で溶解させ、別槽で硫酸ニッケルを水で溶解させ、ここに上記ニッケル錯化剤を混合させた後、亜鉛イオンを含んだカ性ソーダ溶液と混ぜ合わせ製造できる。
【0017】
図1中の陽極槽(6)内部には陽極板(5)が配置されており、陽極槽(6)はめっき対象物に対して一つでもよく、又、図1のようにめっき対象物(1)の両側に2個配置してもよい。
本発明の陽極板には様々な材質のものを使用できるが、好ましくはアルカリ成分溶液中で不溶なものである。例えばC、Fe、Cr、Ni及びこれらの合金の群から選ばれる工業的に安価で入手しやすい金属で構成される部材を使用することが可能であり、例えばニッケル板、鉄板、ステンレス板、カーボン電極、が挙げられる。中でも鉄板が工業的操業に際しコスト面を考慮した場合好ましい。
上記陽極液(3)のアルカリ成分濃度は、アルカリ成分又はアルカリ成分溶液を直接陽極槽(6)に添加して制御してもよい。又、陽極槽(6)とアルカリ成分溶液を満たした別の補助槽(8)とをポンプ(7)を介した導管でつなぎ、陽極液(3)を循環させながら補助槽(8)からアルカリ成分溶液を補給することにより陽極液のアルカリ成分濃度を一定の範囲に保持してもよい。更に図1のように複数の陽極槽を導管でつなぎ、陽極液を循環させてもよい。
陽極液を構成し、又は陽極液へ添加される上記アルカリ成分の例として、陰極液をpH13以上の溶液とするために挙げられたものと同様のものが挙げられる。陽極液を構成する水溶液の濃度は例えば水酸化ナトリウムの場合、好ましくは50〜250g/L、更に好ましくは100〜200g/Lである。陽極槽又は補助槽へ補給されるアルカリ成分は、単体でも溶液の状態でも良いが、好ましくは水溶液である。補給用の水溶液の濃度は例えば水酸化ナトリウムの場合、好ましくは100〜500g/L、更に好ましくは200〜250g/Lである。
【0018】
陽極液へ補給する総アルカリ量は、陽極及び陰極間に通電する電流量を指標として調節してもよい。即ち、陽極及び陰極間に通電する電流量と、陽極液へ補給する総アルカリ量を一定割合で比例させる。陽極液中増加した成分は電流によりイオン化され、めっき及びくみ出しにより失われた陰極液(めっき液)中のアルカリ成分を補うために隔膜を通過する。その結果、陰極液(めっき液)のアルカリ成分濃度を制御してpH13以上に保持することができる。
【0019】
本発明で使用する隔膜(4)は、ナトリウム、カリウム、リチウムイオン等アルカリも通過できる多孔質膜又は隔壁である。隔膜としてイオン交換膜が好ましい。隔膜は、特に限定されるものではなく市販品でよく、好ましくはカチオン交換膜である。具体的には、例えばCR61ZL−386、CR61ZL−389(以上ユアサアイオニクス(株)製)、商品名ナフィオン112、117、324、350、424、551、1110、1135(以上デュポン株式会社製)、商品名ネオセプターCM1、CM2、CMS、CMX、CMB(以上株式会社トクヤマ製)、商品名アシプレックスS−1112、S−1104、S−1004、S−1002(以上旭化成工業株式会社製)等が挙げられる。隔膜はその機能を阻害しないパンチングプレート等の構造体で補強されてもよい。
【実施例】
【0020】
以下に本発明の方法の実施例を説明する。なお、特記しない場合はめっき用に陰極として使用する試験片は1dm2パネル(SPCC)を使用し、陽極板には鉄板(縦10cm×横5cm×厚み1mm)を使用した。又、陰極槽と陽極槽とは特記しない限り(株)トクヤマ製カチオン交換膜商品名ネオセプターCM1(面積150cm2)で分離した。又、ニッケル共析率はエネルギー分散型ケイ光X線分析装置を使用して測定し、その単位は重量%である。
下記実施例1及び比較例1において陽極液からのアルカリ成分補給と通電量との関係を調べた。
実施例1
陽極液として134.4g/L濃度の水酸化ナトリウム溶液を500mL用い、陰極液には下記浴組成1のめっき液を2L用いた。
めっき方法は工場操業ラインを基準とし、温度20℃で、合計20AH/L(アンペアアワー毎リットル)通電した。通電中、4AH/L毎に試験片を交換し、陰極槽と陽極槽の水酸化ナトリウム濃度を測定した。結果を表1に示す。
浴組成1;
金属亜鉛イオン;8g/L
ニッケルイオン;1.6g/L
水酸化ナトリウム;125.6g/L
錯化剤(日本表面化学(株)商品名NI−T、成分組成;脂肪族アミンとグリシジル化合物の反応物20重量%);120g/L
陽極槽内の水酸化ナトリウム量は、試験開始前の67.2gに対し終了時には40gとなり正味27.2g減少し、陽極液の水酸化ナトリウム濃度は80g/Lとなった。一方、陰極液の水酸化ナトリウム濃度は試験開始前の125.6g/Lに対し終了時の126.4g/Lとほぼ一定に保たれた。陽極液から陰極液へ隔膜を通して供給された水酸化ナトリウム量(陽極液からの減少量)は通電量あたりにすると約1.4g/AHとなった。同様の試験を4回行ったが、水酸化ナトリウムの供給量に著しい違いはなく1.0〜2.0g/AHの間であった(0.99g/AH、1.6g/AH、1.96g/AH)。
【0021】
比較例1
陽極液として50g/L濃度の硫酸溶液を500mL用い、陰極液には上記浴組成1のめっき液を2L用いた。実施例1と同様に陰極槽と陽極槽をカチオン交換膜で分離し、通電して4AH/L毎に試験片を交換し、陽極槽の硫酸濃度を測定した。結果を表1に示す。
陽極槽内の硫酸量は試験開始前の25gに対し終了時には18.8gとなり正味6.2g減少し、陽極液の硫酸濃度は37.7g/Lとなった。一方、陰極液の水酸化ナトリウム濃度は試験開始前の125.6g/Lに対し終了時の108.8g/Lと一方的に低下した。
【0022】
【表1】

【0023】
下記実施例2及び比較例2では、めっき操作中に陰極液(めっき液)成分を調節しながらハルセル試験を行なった。尚、表2中の通電前のハルセルパターン(ハルセルめっき試験で陰極として使用した試験片のめっきされた表面外観)とニッケル共析率は、2A−20分、0.2A−20分ハルセルめっきしたものに関する値である。又、ニッケル共析率は、試験片中、電流密度3A/dm2の位置で測定したものである。
実施例2
陽極液として130.0g/L濃度の水酸化ナトリウム溶液を500mL用い、陰極液には下記浴組成2のめっき液を2L用いた。温度20℃で20AH/L通電し、4AH/L毎に析出量にほぼ匹敵する量の、水酸化ナトリウム溶液中(水酸化ナトリウム濃度600g/L、金属亜鉛濃度169g/L)に溶解させた亜鉛、ニッケル−エチレンジアミン錯体溶液(ニッケル濃度100g/L)中のニッケルを陰極槽へ補給した。上記20AH/L通電後、光沢剤として商品名「ZN−202A」8mL/L、及び「ZN−202B」8mL/L(いずれも日本表面化学(株)製、「ZN−202A」成分組成;水溶性エポキシ樹脂22.9%含有)「ZN−202B」成分組成;芳香族アルデヒド誘導体1.0重量%含有)を添加し、ハルセルめっき試験(2A−20分、0.2A−20分)を行い、又、20AH/L通電しためっき液の錯化剤濃度を分析した。結果を表2に示す。
浴組成2;
金属亜鉛イオン ;8g/L
ニッケルイオン ;1.6g/L
水酸化ナトリウム;120g/L
錯化剤(日本表面化学(株)製NI−T);120g/L
【0024】
比較例2
陰極液に上記浴組成2のめっき液を2L用い、陽極液には50.0g/L濃度のリン酸水溶液を500mL用いた以外は実施例2と同様の操作を行なった。結果を表2に示す。
比較例3
陰極液に上記浴組成2のめっき液を2L用い、陽極と陰極は分離しない以外は実施例2と同様の操作を行なった。結果を表2に示す。
比較例4
陰極液に上記浴組成2のめっき液を2L用い、陰極槽と陽極槽をろ布(繊維商品名「パイレン」(ポリプロピレン系)、厚み1mm、面積150cm2)で分離した以外は実施例2と同様の操作を行なった。結果を表2に示す。
下記表2より、実施例2では通電後の錯化剤の減少量が少なく、ハルセルパターン全面に光沢が観察され、ニッケル共析率も初期の状態を維持できている。カチオン交換膜で陰極液と分離した陽極液にリン酸水溶液を使用した比較例2では、試験片のハルセルパターンの低電流部はめっきが不充分(ツキマワリ不良)であり、高電流部はコゲが観察された。又、陽極板には腐食が生じた。カチオン交換膜を使用しない比較例3及びろ布を使用した4でも同様の結果であった。
【0025】
【表2】

【0026】
実施例3
陽極液として130.0g/L濃度の水酸化ナトリウム溶液を500mL用い、陰極液には下記浴組成3のめっき液を2L用いた。温度20℃で、20AH/L通電し、4AH/L毎に、析出量にほぼ匹敵する量の、水酸化ナトリウム溶液中(水酸化ナトリウム濃度600g/L、金属亜鉛濃度169g/L)に溶解させた亜鉛、ニッケル−トリエチレンテトラミン錯体溶液(濃度100g/L)中のニッケルを陰極槽へ補給した。上記20AH/L通電後、光沢剤として商品名「ZN−203A」12mL/L及び「ZN−203B」6mL/L(いずれも日本表面化学(株)製、「ZN−203A」成分組成;水溶性エポキシ樹脂19.5重量%)「ZN−203B」成分組成;芳香族アミン誘導体2重量%、)を添加し、ハルセルめっき試験(2A−20分、0.2A−20分)を行い、又、20AH/L通電しためっき液の錯化剤濃度を分析した。結果を表3に示す。
浴組成3;
金属亜鉛イオン;8g/L
ニッケルイオン;1.3g/L
水酸化ナトリウム;120g/L
錯化剤(日本表面化学(株)、商品名「NI−W」成分組成;脂肪族アミンとグリシジル化合物の反応物40重量%);120g/L
【0027】
比較例5
陰極液に上記浴組成3のめっき液を2L用い、陽極液には50.0g/L濃度の硫酸水溶液を500mL用いた以外は実施例3と同様の操作を行なった。結果を表3に示す。
比較例6
陰極液に上記浴組成3のめっき液を2L用い、陽極と陰極は分離しない以外は実施例3と同様の操作を行なった。結果を表3に示す。
比較例7
陰極液に上記浴組成3のめっき液を2L用い、陰極槽と陽極槽を比較例4で使用したろ布で分離した以外は実施例3と同様の操作を行なった。結果を表3に示す。
【0028】
下記表3より、実施例3では通電後の錯化剤の減少量が少なく、ハルセルパターン全面に光沢が観察され、ニッケル共析率も初期の状態を維持できている。カチオン交換膜で陰極液と分離した陽極液に硫酸水溶液を使用した比較例5では、試験片のハルセルパターンの低電流部はめっきが不充分(ツキマワリ不良)であり、高電流部はコゲが観察された。又、陽極板には腐食が生じた。カチオン交換膜を使用しない比較例3及びろ布を使用した4でも同様の結果であった。
【0029】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例1に使用した本発明に使用できるめっき装置の一例の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛イオン、ニッケルイオン、ニッケル錯化剤及びアルカリ成分を含有する、pH13以上の亜鉛−ニッケル系合金めっき液(陰極液)を使用する亜鉛−ニッケル合金の電気めっき方法であり、上記陰極液を収める陰極槽と、アルカリ成分含有溶液である陽極液を収める陽極槽との間で陰極液と陽極液が互いに混合されることなく、成分イオン及び電子のみの移動が可能な隔膜によって分離し、陽極液にアルカリ成分を添加して陰極液のアルカリ成分濃度を制御するめっき方法。
【請求項2】
上記めっき液中のニッケル錯化剤が、アミン類及びその他の含窒素化合物の群から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1に記載のめっき方法。
【請求項3】
陽極及び陰極間に通電する電流量を指標として陽極液へ補給するアルカリ成分量を調節し、上記陰極液をpH13以上に保持する請求項1又は2に記載のめっき方法。
【請求項4】
上記隔膜がイオン交換膜である請求項1〜3いずれか1項に記載のめっき方法。
【請求項5】
上記陽極槽内の陽極板がC、Fe、Cr、Ni及びこれらの合金の群から選ばれる1つから構成される請求項1〜4いずれか1項に記載のめっき方法。
【請求項6】
上記めっき液は更に、光沢剤、平滑剤、還元剤及び界面活性剤の群から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1〜5いずれか1項に記載のめっき方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−2274(P2007−2274A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−180661(P2005−180661)
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【出願人】(000232656)日本表面化学株式会社 (29)
【Fターム(参考)】