説明

亜鉛めっき超高張力鋼板のアーク溶接方法

【課題】 引張強さが1.2GPa以上の亜鉛めっき超高張力鋼板を接合するアーク溶接方法であって、接合強度が高く、且つ、その接合強度のばらつきが少ないアーク溶接方法を提供する。
【解決手段】 亜鉛めっき超高張力鋼板の溶接時の溶け込み深さlが、その亜鉛めっき超高張力鋼板の厚さLの20%以上となるように溶接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引張強さが1.2GPa以上の亜鉛めっき超高張力鋼板をアーク溶接により接合する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
引張強さの高い鋼板は、自動車、家電、建材等の種々の分野で使用されている。特に、自動車分野においては、一般に超ハイテンと称される、引張強さが1GPa以上の超高張力鋼板(以下、1GPa級超高張力鋼板と略して表記することがある)が、車両の軽量化を目的として種々の部材に用いられている。ところが、最近ではさらなる軽量化を目指し引張強さが1.2GPa以上である超高張力鋼板を使用するケースも見られつつある。
【0003】
これらの鋼板は、溶接により接合して用いられることになるが、耐食性の観点から鋼板表面に亜鉛めっきを施した亜鉛めっき鋼板をアーク溶接により接合する場合には、種々の溶接課題があり、溶接部における接合強度は重要な課題の一つと言える。特許文献1には、亜鉛めっき鋼板のアーク溶接方法であり、溶接速度と亜鉛めっき皮膜の目付量を限定することにより、接合強度を高める方法が開示されている。
【0004】
しかしながら、従来技術を用いて引張強さが1.2GPa以上の亜鉛めっき超高張力鋼板(以下、1.2GPa級亜鉛めっき超高張力鋼板と略して表記することがある)を溶接すると、溶接による接合強度は従来と同程度か従来よりも低くなる。その結果、従来よりも引張強さの高い1.2GPa級亜鉛めっき超高張力鋼板を用いているにもかかわらず、接合部材としての強度は、従前用いられている1GPa級超高張力鋼板の接合部材と同等か、かえって低く、しかも強度のばらつきが大きいという重大な問題があった。したがって、溶接部にも高強度が必要な強度部材においては、1.2GPa級亜鉛めっき超高張力鋼板を使用することはできず、1.2GPa級亜鉛めっき超高張力鋼板の使用は、例えば、ピラーリンフォース、バンパーリンフォース等のボルトによる締結や、スポット溶接により接合される車両のボディ部材としての使用にとどまっており、アーク溶接を用いて溶接部を形成し、部材特性上、安定し、かつ高い接合強度が溶接部に必要とされる座席シートの骨格部材等には使用できないのが現状であった。
【0005】
【特許文献1】特開平5−305445号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の背景技術に鑑みて成されたものであり、引張強さが1.2GPa以上の亜鉛めっき超高張力鋼板を接合するアーク溶接方法であって、接合強度が高く、且つ、その接合強度のばらつきが少ないアーク溶接方法を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための手段は、以下の(1)〜(3)の発明である。
(1)亜鉛めっき超高張力鋼板のアーク溶接方法であって、前記亜鉛めっき超高張力鋼板の引張強さが1.2GPa以上であり、前記亜鉛めっき超高張力鋼板の溶接時の溶け込み深さが、その亜鉛めっき超高張力鋼板の厚さの20%以上であることを特徴とする、亜鉛めっき超高張力鋼板のアーク溶接方法。
(2)(1)に記載の亜鉛めっき超高張力鋼板のアーク溶接方法であって、溶接材料として、鋼板の引張強さが590MPa級用以上の溶接ワイヤを用いることを特徴とする、亜鉛めっき超高張力鋼板のアーク溶接方法。
(3)(1)または(2)に記載の亜鉛めっき超高張力鋼板のアーク溶接方法であって、前記亜鉛めっき超高張力鋼板は、亜鉛めっき皮膜の目付量が、片面当り25g/m以上40g/m以下であることを特徴とする、亜鉛めっき超高張力鋼板のアーク溶接方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の溶接方法によれば、引張強さが1.2GPa以上の亜鉛めっき超高張力鋼板をアーク溶接により接合したとき、より高い接合強度が得られ、しかもその接合強度のばらつきを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、亜鉛めっき超高張力鋼板のアーク溶接方法であって、具体的には、引張強さが1.2GPa以上の亜鉛めっき超高張力鋼板をアーク溶接により接合する方法に係るものである。以下、引張強さが1.2GPa以上の亜鉛めっき超高張力鋼板のことを、1.2GPa級亜鉛めっき超高張力鋼板、あるいは、単に母材と略して記載することがある。本発明において、亜鉛めっき超高張力鋼板の引張強さは、JIS Z 2241に従い測定することができる。また、本発明において、アーク溶接とは、母材と電極との間に発生させたアークにより母材および溶接材料(溶加材)を溶融させて接合する溶接方法全般を含むものであり、例えば、被覆アーク溶接や炭酸ガスアーク溶接等がこれに含まれる。
【0010】
本発明者らは、まず、溶接時の溶け込み深さに注目した。すなわち、1.2GPa級亜鉛めっき超高張力鋼板同士をアーク溶接により接合するとき、溶接時の溶け込み深さが、その母材の厚さの20%以上となるように溶接することによって、接合強度を増大させることができるということに注目した。
【0011】
[溶け込み深さ]
アーク溶接により亜鉛めっき超高張力鋼板を接合した場合には、その接合部には溶接ビードが形成される。亜鉛めっき超高張力鋼板の溶接時の「溶け込み深さ」とは、この溶接ビードの断面の深さのことである。以下、図1を参照しながら、この「溶け込み深さ」について具体的に説明する。
【0012】
図1(A)〜(C)は、アーク溶接により接合された重ね隅肉継手の断面を示しており、母材11の表面と母材12の端面とがアーク溶接により接合された状態を示している。母材11と母材12の接合部には、溶接ビード13a,13b,13cがそれぞれ形成されている。図1(A)〜(C)において、溶け込み深さlとは、表面側で溶接されている母材11の表面11aから、溶接ビード13a,13b,13cの最深部までの距離のことである。
【0013】
なお、本明細書では、溶け込み深さlを、下記の式(1)に従って%単位で表記する場合もある。
溶け込み深さ(%)=(l÷L)×100 ・・・ 式(1)
l:溶け込み深さ(mm)
L:母材の厚さ(mm)
【0014】
溶け込み深さが20%未満であると、溶接ビードが母材から剥離しやすくなる。例えば、重ね隅肉継手において溶け込み深さが20%未満であると、図1(C)に示すように、表面側から溶接されている母材11は、アーク溶接時にほとんど溶けておらず、溶接ビード13cが母材11の表面11aに単に付着しているような状態となる。このような状態であると、溶接ビード13cが母材11から剥離しやすくなり、母材11と母材12の接合強度が低くなる。
【0015】
一方、溶け込み深さが20%以上であると、アーク溶接時に母材の一部が溶融し、溶融した溶接材料(溶接ワイヤ)と溶け合った状態となる。このようにして形成された溶接ビードは母材から剥がれにくく、母材同士の接合強度が増大する。溶け込み深さは20%以上であればよく、図1(B)に例示するように、溶接ビード13bが母材11を貫通していてもよい。好ましくは、溶け込み深さが150%以下である。さらに、溶け込み深さが100%以下であれば、溶接ビードが母材を貫通しないため、裏面の外観がよく、より好ましい。なお、溶け込み深さは、溶接時の電流、電圧、溶接速度等を調節することにより制御することができる。
【0016】
つぎに、本発明者らは、溶接ビードによる接合部の強度がアーク溶接強度に大きく関係していること、およびアーク溶接時に発生したガスにより溶接ビード内に空洞(一般にブローホールと称される)が生じ、そのブローホールの部分から溶接ビードが破断することにより、アーク溶接の接合強度が低下したり、接合強度にばらつきが生じることに着目した。
【0017】
一般にアーク溶接においては、溶接材料として、溶接棒または溶接ワイヤが用いられる。溶接ワイヤは、溶接棒に比べて長く、溶接中に溶接材料を交換する頻度が少なくて済むという利点を有するため、大量に溶接を行う際には、溶接ワイヤが用いられている。ここで、溶接ワイヤとは、ソリッドワイヤと、フラックス入りワイヤの両方を含む。ソリッドワイヤとは、中空でない鋼製ワイヤである。フラックス入りワイヤとは、中空でその内部に、溶融金属中に含まれる酸素を低減するための脱酸剤や、アークを安定して発生させるアーク安定剤等を充填した鋼製ワイヤのことである。
【0018】
本発明において、溶接ワイヤを溶接材料として用いる場合は、鋼板の引張強さが590MPa級用以上(590MPa級鋼板用以上)の溶接ワイヤを用いることが好ましい。ここで、「鋼板の引張強さが590MPa級用以上の溶接ワイヤ」とは、例えばJIS Z 3213で規格化されているような一般に引張強さが590MPaの鋼板を溶接するのに推奨(適当と)されるアーク溶接用ワイヤを含み、それ以上の引張強さを有する鋼板の溶接に推奨されるアーク溶接用ワイヤを含む。例えば、引張強さが780MPaの鋼板を溶接するのに推奨されるアーク溶接ワイヤ(780MPa級鋼板用ワイヤ)はこの範囲に含まれる。これらのワイヤでは、溶接ビード部の強度を確保するために成分調整がなされており、1.2GPa級超高張力亜鉛めっき鋼板とアーク溶接することにより、溶接して形成された溶接ビード自体が、部材特性を維持する上で十分な強度を確保することができる。また、これらのワイヤのうち、亜鉛めっき鋼板用に市販されているものは、溶接ワイヤがアーク溶接時に溶融したときの粘度が高くなるために、アーク溶接時に母材の表面に被覆されている亜鉛めっきが蒸発して発生したガスが、溶融した溶接ワイヤ(溶接材料)の内部に侵入しにくくなる。これにより、溶接ビード内のブローホールの発生を減少させることができる。その結果、亜鉛めっき超高張力鋼板のアーク溶接による接合強度を高くすることができるのと同時に、接合強度のばらつきを小さくすることができる。
【0019】
一般に亜鉛めっき超高張力鋼板の亜鉛めっき被膜の目付量は、片面当り50g/m程度である。被膜を形成している亜鉛は溶接時に一部が気化し、それにより発生するガスがブローホールの原因となる。そこで、亜鉛めっき皮膜の目付量は、片面当り25g/m以上40g/m以下とするのが好ましい。亜鉛めっき皮膜の目付量を片面当り25g/m以上40g/mと規定することにより、ブローホールの発生が抑制され、それにより、接合強度を高くし、かつ接合強度のばらつきをより小さくすることができる。
【実施例】
【0020】
まず、表1に示した化学成分を有する板厚1.0mmの鋼板に、亜鉛めっきを施し、亜鉛めっき皮膜の目付量の異なる3種の鋼板を用意した。これらの鋼板を900℃で5分加熱した後、常温の金型において下死点で20秒保持してプレス焼入れ(熱間プレス)することにより強化し、強度レベルを1500MPa(1.5GPa)として超高張力鋼板を得た。得られた超高張力鋼板を母材として用いた。母材は、合金化亜鉛めっきにより片面当り50g/mの亜鉛めっき被膜が形成された超高張力鋼板(以下、GA50と記載する)、電気めっきにより片面当り40g/mの亜鉛めっき被膜が形成された超高張力鋼板(以下、EG40と記載する)、および電気めっきにより片面当り25g/mの亜鉛めっき被膜が形成された超高張力鋼板(以下、EG25と記載する)の3種である。別途、比較例として、車両のリクライニングシートの骨格部等の高強度が要求される部材として使用されることのある1GPa級超高張力鋼板(SPC980DU)を用意した。
【0021】
【表1】

【0022】
一方、溶接ワイヤとして、市販の490MPa級鋼板用ワイヤであるYR−25(株式会社トーキン製、直径1mm)、590MPa級鋼板用ワイヤであるMGS−63B(株式会社神戸製鋼所製、直径1.2mm)、および780MPa級鋼板用ワイヤであるMGS−80(株式会社神戸製鋼所製、直径1.2mm)の3種を用意した。各溶接ワイヤの鉄以外の化学成分を表2に示す。
【0023】
【表2】

【0024】
幅30mm、長さ100mmの2枚の母材を長手方向に30mm重なるように配置して、用意した溶接ワイヤを用い、炭酸ガスアーク溶接により母材の片面側から重ね隅肉溶接して、溶接長が母材の幅方向に30mmになるように接合(溶接始終端は除去)し、各実施例および比較例についてそれぞれ2〜20枚の試験片を作成した。各試験片の母材の種類、溶接ワイヤの種類、及び溶け込み深さの組み合わせを下記の表3に示す。なお、アーク溶接の条件は、前進角が20°であり、トーチ角が30°、ギャップ(重なった二枚の母材の間隔)が0、溶射の狙い位置が継手のルート部、母材の傾きが水平(0°)で実施した。また、シールドガスは、アルゴン(Ar)と20%二酸化炭素の混合ガスを使用した。アーク溶接時の電流、電圧、及び溶接速度については、下記の表4に示す条件にて実施した。
【0025】
【表3】

【0026】
【表4】

【0027】
作成した各試験片について接合強度を調べるために、下記の方法に従い最大引張応力の測定と破壊形態の調査を行った。
【0028】
[最大引張応力の測定]
最大引張応力はJIS Z 2241に従い測定し、測定結果の平均値および標準偏差(σ)を算出した。図2に、最大引張応力の測定結果の平均値と、標準偏差の3倍の値(3σ)の範囲を併せて示した。なお、3σは、一般に品質管理限界とされており、その値が大きいほど平均値に対するばらつきが大きく、その値が小さいほど、平均値に対するばらつきが小さいことを示す。
【0029】
[破壊形態の調査]
最大引張応力を測定した試験片の破壊形態を目視にて判定し、以下の4種に分類した。
A 母材が破断している(材料破壊)
B 溶接ビードの縁で母材が破断している(HAZ破断)
C 溶接ビードが破断している(ビード破断)
D 溶接ビードが母材から剥がれて破断している(剥離破断)
【0030】
1つの試験片で部分ごとに異なる破壊形態である場合は、その部分の割合を分数で示し、記号の前に付した。例えば、表中の「2/3B,1/3C」は、破断部分のうちの3分の2がB(HAZ破断)であり、3分の1がC(ビード破断)であることを示している。
【0031】
最大引張応力の測定結果および破壊形態の調査結果を表5〜表8に示す。
【0032】
【表5】

【0033】
【表6】

【0034】
【表7】

【0035】

【表8】

【0036】
比較例1と実施例1では、母材と溶接ワイヤは同じであるが、溶け込み深さが異なり、比較例1の溶け込み深さは5%、実施例1の溶け込み深さは20%以上(20%以上の範囲において試験片により異なる)である。比較例1の最大引張応力の平均値は498.6MPaであるのに対して、実施例1は669MPaであり、比較例1に比べて約1.3倍の高さであった。また、破壊形態については、比較例1は少なくとも一部が剥離破断(D)しているのに対し、実施例1は剥離破断(D)したものは一つもなく、ビード破壊(C)または、HAZ破断(B)した。この結果から、溶け込み深さを20%以上とすることにより、剥離破断(D)がなくなり、アーク溶接による接合強度が向上することが明らかとなった。
【0037】
比較例1、実施例2、および実施例3では、溶接ワイヤは同じYR−25であるが、亜鉛めっき皮膜の目付量と溶け込み深さが異なる。比較例1は亜鉛めっき被膜の目付量が50g/mで、溶け込み深さが5%であり、実施例2は亜鉛めっき被膜の目付量が40g/mで、溶け込み深さが20%以上であり、実施例3は亜鉛めっき被膜の目付量が25g/mで、溶け込み深さが20%以上である。実施例2および実施例3の最大引張応力の平均値は、比較例1と比べていずれも高い値であり、比較例1が498.6MPaであるのに対して、実施例2は647MPaであり、実施例3は646MPaであった。この結果より、溶け込み深さを20%以上とし、亜鉛めっき皮膜の目付量を25g/m以上40g/m以下とすることにより、接合強度が向上することが明らかとなった。
【0038】
実施例1、実施例4、および実施例7では、母材がGA50で、溶け込み深さが20%以上という点で同じであるが、溶接ワイヤの種類が異なり、実施例1では490MPa級鋼板用ワイヤ、実施例4は590MPa級鋼板用ワイヤ、実施例7では780MPa級鋼板用ワイヤを用いた。破壊形態については大差ないが、最大引張応力の平均値を見ると、実施例1に比べて実施例4および実施例7は高い値であり、実施例1が669MPaであるのに対し、実施例4は754MPa、実施例7は821MPaであった。この結果より、溶け込み深さが20%以上であることに加え、鋼板の引張強さが590MPa級以上の溶接ワイヤを溶接材料とすることにより溶接ビード部の引張応力が高くなり、その結果、接合強度がさらに高くなることが明らかとなった。
【0039】
また、実施例4および実施例7は、母材として1GPa級超高張力鋼板を用いた比較例2と比べても、最大引張応力の平均値が高いことが明らかとなった。この結果により、溶け込み深さが20%以上であることに加え、鋼板の引張強さが590MPa級以上の溶接ワイヤを溶接材料として亜鉛めっき超高張力鋼板をアーク溶接することにより、従前強度部材に用いられている1GPa級超高張力鋼板によりも高い接合強度が得られることが明らかとなった。
【0040】
上述の試験結果により、接合強度を高めるための以下の3つの条件が明らかとなった。
(1)溶け込み深さが20%以上となるように接合する。
(2)鋼板の引張強さが590MPa級以上の溶接ワイヤを用いる。
(3)母材の亜鉛めっき皮膜の目付量を25g/m以上40g/m以下とする。
なお、実施例5、実施例6、実施例8および実施例9は、上記の(1)から(3)の条件を全て満たしている。
【0041】
実施例5、実施例6、実施例8および実施例9と、比較例1の最大引張応力を比較すると、実施例5、実施例6、実施例8および実施例9の最大引張応力の平均値は、いずれも比較例1の約1.8倍であり、接合強度が飛躍的に高くなったことがわかる。
【0042】
また、実施例5、実施例6、実施例8および実施例9の最大引張応力は、他のどの実施例(実施例1〜実施例4、実施例7)と比べても高い値であった。破壊形態を見ると、他の実施例(実施例1〜実施例4、実施例7)ではビード破壊(C)または、HAZ破断(B)であったのに対し、実施例5、実施例6、実施例8および実施例9は、大半が材料破壊(A)であり、接合部分の引張応力が、母材の引張応力を上回っていることが判明した。それに加えて、最大引張応力の3σ(σ)の値が、他のどの実施例よりも低く、最大引張応力のばらつきが低減することが判明した。これらの結果より、上述の(1)〜(3)に記載の接合強度が高くなる3つの条件を全て満たすと、それらの相乗効果により、3つの条件のうち1つまたは2つを満たす場合の結果から予測される範囲を超えた顕著な効果が得られ、接合強度がより高いだけでなく、そのばらつきを極めて小さくすることができることが分かった。
【0043】
さらに、実施例5、実施例6、実施例8および実施例9の最大引張応力の平均値は、いずれも比較例2より高く、比較例2に比べて最低でも77MPa(実施例6)、最高では158MPa(実施例5、実施例8)も高い値であった。つまり、本発明の溶接方法により1.5GPa級亜鉛めっき超高張力鋼板を接合することにより、従前強度部材として用いられている1GPa級超高張力鋼板を溶接した場合と比較しても高い接合強度が得られることが明らかとなった。さらに、実施例8および実施例9の最大引張応力の3σ(σ)の値は、比較例2よりも小さく、よりばらつきが小さいことが明らかとなった。したがって、本発明の亜鉛めっき超高張力鋼板のアーク溶接方法を用いれば、従来よりも肉薄且つ軽量でありながら、しかも従来よりも強度が高く、その強度のばらつきが小さい部材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】(A)〜(C)は、重ね隅肉継手における、溶け込み深さを示す断面図である。
【図2】実施例および比較例の最大引張応力の測定値を示すグラフである。
【符号の説明】
【0045】
l 溶け込み深さ
L (溶け込み深さの対照となる亜鉛めっき超高張力鋼板の)厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛めっき超高張力鋼板のアーク溶接方法であって、
前記亜鉛めっき超高張力鋼板の引張強さが1.2GPa以上であり、
前記亜鉛めっき超高張力鋼板の溶接時の溶け込み深さが、その亜鉛めっき超高張力鋼板の厚さの20%以上であることを特徴とする、亜鉛めっき超高張力鋼板のアーク溶接方法。
【請求項2】
請求項1に記載の亜鉛めっき超高張力鋼板のアーク溶接方法であって、
溶接材料として、鋼板の引張強さが590MPa級用以上の溶接ワイヤを用いることを特徴とする、亜鉛めっき超高張力鋼板のアーク溶接方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の亜鉛めっき超高張力鋼板のアーク溶接方法であって、
前記亜鉛めっき超高張力鋼板は、亜鉛めっき皮膜の目付量が、片面当り25g/m2以上40g/m2以下であることを特徴とする、亜鉛めっき超高張力鋼板のアーク溶接方法。


【図1】
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【図2】
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