説明

亜鉛・鉛製錬法の排水処理工程の操業方法

【課題】亜鉛・鉛製錬法において、その排水処理工程で、中和沈殿法により製錬排水中の亜鉛その他の重金属イオンを除去する際、無機凝集剤として、金属亜鉛の使用量を削減して低コストで製造した硫酸亜鉛水溶液を用いる排水処理工程の操業方法を提供する。
【解決手段】亜鉛・鉛製錬法において、その排水処理工程において、中和沈殿法により製錬排水中の亜鉛その他の重金属イオンを除去する際、不純物として重金属イオンを含む硫酸カドミウム水溶液と金属亜鉛とを接触しセメンテーション反応によりカドミウムを析出するセメンテーション工程で産出する、亜鉛、カドミウムその他の重金属を含むセメンテーション終液と金属亜鉛とを96〜144時間接触し、スポンジ状金属と硫酸亜鉛水溶液からなる懸濁液を形成し、該懸濁液からスポンジ状金属を分離して得られた硫酸亜鉛水溶液を、無機凝集剤として用いることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛・鉛製錬法の排水処理工程の操業方法に関し、さらに詳しくは、亜鉛・鉛製錬法において、その排水処理工程において、中和沈殿法により製錬排水中の亜鉛その他の重金属イオンを除去する際、無機凝集剤として、金属亜鉛の使用量を削減して低コストで製造した硫酸亜鉛水溶液を用いる排水処理工程の操業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛・鉛製錬法として、鉛及び亜鉛を含有する原料から鉛と亜鉛を同時に回収するISP法(Imperial Smelting Process法)と呼ばれる製錬法が稼動されている。
ISP法は、主たる工程として、硫化亜鉛や硫化鉛を主成分として含有する硫化物原料を、石灰石、珪石、各種繰り返し物などと混合して品位調整し、それを造粒した後、焼結炉に装入して焼結塊を製造する焼結工程と、ここで製造された焼結塊を、コークス等と交互に熔鉱炉に装入し、熔鉱炉下部より熱風を吹き込み、熔錬に付す熔錬工程とからなる。
熔錬工程で、含銅粗鉛及びスラグは、熔鉱炉の炉底から排出され、一方、発生した亜鉛蒸気は、熔鉱炉廃ガスに随伴されて炉外に排出される。なお、亜鉛蒸気を含む熔鉱炉廃ガスは、スプラッシュコンデンサーに導入される。そこで、亜鉛蒸気と鉛スプラッシュとが接触し、亜鉛は熔融鉛に吸収される。その後、亜鉛を吸収した熔融鉛は、冷却されて熔融亜鉛と熔融鉛とに分離される。回収された熔融亜鉛(粗亜鉛と呼ばれる。)は電解精製に付され、製品となる電気亜鉛が製造される。
【0003】
ところで、前記焼結炉で発生する排ガス中には、二酸化イオウの他、三酸化イオウやダストが含まれている。したがって、そのままの状態で硫酸製造設備に導入することができないため、事前に、洗浄塔、ミストコットレル等から構成されるガス洗浄設備によって、二酸化イオウ以外の三酸化イオウやダストを排ガス中から除去している。さて、上記ガス洗浄設備で産出するガス洗浄液中には、原料中に含有されることに起因するカドミウムが含まれるため、前記ガス洗浄液からのカドミウム回収工程が必須である。
【0004】
例えば、上記ガス洗浄液からのカドミウム回収工程としては、上記ガス洗浄液を、シックナー等を用いて固液分離し、得られたオーバーフローをイオン交換樹脂と接触させてカドミウムを濃縮し、カドミウムを含む再生液を得、この再生液を炭酸ナトリウム等で中和し、固液分離してカドミウムを炭酸カドミウムとして回収し、次いでこの炭酸カドミウムを硫酸で溶解して得た硫酸カドミウム水溶液に、不溶解分を除去した後、粗カドミウムや電気亜鉛を投入し、セメンテーション反応によりスポンジカドミウムを得る方法が一般的である(例えば、特許文献1参照。)。すなわち、上記ガス洗浄液からのカドミウム回収工程は、通常バッチ操業で行われるものであり、ガス洗浄液からカドミウムを濃縮した中間物である硫酸カドミウム水溶液を製造する工程と、硫酸カドミウム水溶液からセメンテーション反応によりカドミウムを析出するセメンテーション工程とからなる。
【0005】
ここで、上記カドミウム回収工程で得られたスポンジカドミウムからは、これを熔融し粗カドミウムを得て、次いで蒸留して蒸留カドミウムを得て、最後にこれを鋳造して製品を得ることができる。また、上記カドミウム回収工程は、一般的には間欠的に行なわれる操業であること、通常電気亜鉛を用いてセメンテーション反応が行われるが、得られるセメンテーション終液中には亜鉛ばかりでなくカドミウム、鉛、タリウム等が比較的高濃度で含まれていることから、他の工程からの製錬排水の排水処理工程には合一せず、別途中和処理し、重金属イオンを中和殿物として回収し、焼結工程での繰り返し物の1つとして用いる。
【0006】
さらに、ISP法による亜鉛・鉛製錬において、製錬排水を集合して処理する排水処理工程では、対象となる排水中に鉛、亜鉛を始めとして各種の重金属イオンが含まれる。そのため、種々の重金属イオンを除去するため、汎用的なアルカリを用いた中和沈殿法が採用されている。ところが、生成する沈殿物が少なければ、フロックの成長がなく、凝集沈降性が悪くなり、そのままでは極めて大きなシックナー等の固液分離装置が必要とされるため、中和処理時には、無機凝集剤として硫酸亜鉛水溶液を用いて、生成する水酸化亜鉛により沈殿物を凝集させて沈降性を改善することが行なわれている。
【0007】
ここで、無機凝集剤として用いる硫酸亜鉛水溶液の製造方法としては、排水処理において問題となる重金属イオンの含有が少ない硫酸亜鉛水溶液を得るため、希硫酸に所定の亜鉛濃度となるように金属亜鉛インゴットを溶解する方法が採用されている。なお、前記排水処理工程で得られる沈殿物は、亜鉛を含有するので、焼結工程に繰り返えされ、亜鉛の回収に供されるが、一端、製品化した電気亜鉛等の金属亜鉛の一部を使用し、排水中和スラッジとして消費することになるため、製品仕上がりコストの低下を阻むものとなっている。
【0008】
以上の状況から、上記ISP法による亜鉛・鉛製錬法において、その排水処理工程で無機凝集剤として硫酸亜鉛水溶液を使用する際、製品となるべき電気亜鉛の自家消費量を削減して低コストで製造することができる硫酸亜鉛水溶液を用いることが求められている。
【特許文献1】特開2003−253352号公報(第1〜3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点に鑑み、亜鉛・鉛製錬法において、その排水処理工程において、中和沈殿法により製錬排水中の亜鉛その他の重金属イオンを除去する際、無機凝集剤として、金属亜鉛の使用量を削減して低コストで製造した硫酸亜鉛水溶液を用いる排水処理工程の操業方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために、亜鉛・鉛製錬法において、その排水処理工程で無機凝集剤として用いる硫酸亜鉛水溶液について、鋭意研究を重ねた結果、不純物として重金属イオンを含む硫酸カドミウム水溶液からセメンテーション反応によりカドミウムを析出するセメンテーション工程で産出する、亜鉛、カドミウムその他の重金属を含むセメンテーション終液から特定の条件で得られた硫酸亜鉛水溶液を、排水処理工程で無機凝集剤として用いたところ、従来の希硫酸に電気亜鉛を溶解する方法と比べて大幅に金属亜鉛の使用量を削減して低コストで製造した硫酸亜鉛水溶液が、無機凝集剤として十分な作用を発揮することを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、亜鉛・鉛製錬法において、その排水処理工程で、中和沈殿法により製錬排水中の亜鉛その他の重金属イオンを除去する際、
不純物として重金属イオンを含む硫酸カドミウム水溶液と金属亜鉛とを接触しセメンテーション反応によりカドミウムを析出するセメンテーション工程で産出する、亜鉛、カドミウムその他の重金属を含むセメンテーション終液と金属亜鉛とを96〜144時間接触し、スポンジ状金属と硫酸亜鉛水溶液からなる懸濁液を形成し、該懸濁液からスポンジ状金属を分離して得られた硫酸亜鉛水溶液を、無機凝集剤として用いることを特徴とする排水処理工程の操業方法が提供される。
【0012】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記硫酸亜鉛水溶液のカドミウム濃度は、0.1g/L以下であることを特徴とする排水処理工程の操業方法が提供される。
【0013】
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、前記スポンジ状金属を硫酸で溶解し、前記セメンテーション工程に繰り返すことを特徴とする排水処理工程の操業方法が提供される。
【0014】
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3いずれかの発明において、前記亜鉛・鉛製錬法は、亜鉛・鉛原料から焼結塊及びカドミウムその他の重金属を含むガス洗浄液を得る焼結工程、該焼結塊から粗鉛と粗亜鉛を得る熔錬工程、該ガス洗浄液から硫酸カドミウム水溶液を得る工程、該硫酸カドミウム水溶液からカドミウムを析出するセメンテーション工程、及び中和沈殿法により製錬排水中の亜鉛その他の重金属イオンを除去する排水処理工程を含むことを特徴とする排水処理工程の操業方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の亜鉛・鉛製錬法の排水処理工程の操業方法は、亜鉛・鉛製錬法の排水処理工程の操業方法に関し、さらに詳しくは、亜鉛・鉛製錬法において、その排水処理工程において、中和沈殿法により製錬排水中の亜鉛その他の重金属イオンを除去する際、無機凝集剤として、従来の希硫酸に電気亜鉛を溶解する方法と比べて金属亜鉛の使用量を大幅に削減して低コストで製造した硫酸亜鉛水溶液を用いるので、その工業的価値は極めて大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の亜鉛・鉛製錬法の排水処理工程の操業方法を詳細に説明する。
本発明の亜鉛・鉛製錬法の排水処理工程の操業方法は、亜鉛・鉛製錬法において、その排水処理工程で、中和沈殿法により製錬排水中の亜鉛その他の重金属イオンを除去する際、不純物として重金属イオンを含む硫酸カドミウム水溶液と金属亜鉛とを接触しセメンテーション反応によりカドミウムを析出するセメンテーション工程で産出する、亜鉛、カドミウムその他の重金属を含むセメンテーション終液と金属亜鉛とを96〜144時間接触し、スポンジ状金属と硫酸亜鉛水溶液からなる懸濁液を形成し、該懸濁液からスポンジ状金属を分離して得られた硫酸亜鉛水溶液を、無機凝集剤として用いることを特徴とする。
【0017】
本発明において、排水処理工程で無機凝集剤として硫酸亜鉛水溶液を使用する際、前記セメンテーション工程で産出する、亜鉛、カドミウムその他の重金属を含むセメンテーション終液を原液として用いて、セメンテーション剤として用いる金属亜鉛と接触させて、該セメンテーション終液中の亜鉛を無機凝集剤として活用するため液中に残留させるとともに、カドミウム、タリウム、鉛等の重金属を所定の濃度以下に除去して得た硫酸亜鉛水溶液を用いることが重要である。
これによって、排水処理工程の操業において、中和沈殿法により製錬排水中の亜鉛その他の重金属イオンを除去する際、無機凝集剤用として十分な作用を発揮する。しかも、セメンテーション終液を無機凝集剤としてそのまま使用する際のカドミウム、タリウム、鉛等の重金属の排水処理工程への導入に関わる問題点が解消されるとともに、硫酸亜鉛水溶液を製造する際の金属亜鉛の使用量を、従来の希硫酸に金属亜鉛を溶解する方法と比べて大幅に削減して低コストで製造することができる。なお、セメンテーション終液を無機凝集剤としてそのまま排水処理工程で使用するときには、排水処理での負荷金属量が大となり、放流される排水中の金属成分が規制値を超えてしまう恐れがある。
【0018】
すなわち、本発明の方法によれば、前記セメンテーション工程から払い出されるセメンテーション終液と金属亜鉛とを接触させて、セメンテーション終液中に残存するカドミウム、タリウム、鉛等を沈殿除去して得た硫酸亜鉛水溶液を、排水処理工程で無機凝集剤として使用する。このとき、硫酸亜鉛水溶液を製造するために必要とされる金属亜鉛量としては、セメンテーション終液中に含有されるカドミウム、タリウム、鉛等に見合う量でよい。これは、セメンテーション終液には、セメンテーション剤として用いられた亜鉛が、通常、95〜140g/Lという高濃度で含有されているので、無機凝集剤用の硫酸亜鉛水溶液として望ましい亜鉛濃度である100〜150g/Lに調整するためには、僅かな量の金属亜鉛の使用でよいことによるものである。したがって、従来の希硫酸に電気亜鉛を溶解する方法と比べて、無機凝集剤用の金属亜鉛の消費量を20分の1程度に抑えることができるので、大幅なコスト削減が達成される。
【0019】
また、副次的ではあるが、従来、別途処理により中和殿物として焼結工程に繰り返していたセメンテーション終液中の亜鉛が、排水処理工程で有効に利用されるので、全体として焼結工程への亜鉛の繰り返し量も大幅に低減することができる。
【0020】
上記方法において用いるセメンテーション終液としては、不純物として重金属イオンを含む硫酸カドミウム水溶液と金属亜鉛とを接触しセメンテーション反応によりカドミウムを析出するセメンテーション工程から産出されるものであるが、その組成としては、特に限定されるものではなく、例えば、亜鉛濃度が90〜130g/L、カドミウム濃度が3〜20g/L、タリウム濃度が0.3〜1.0g/L、及び鉛濃度が1〜5mg/Lである。
【0021】
上記硫酸カドミウム水溶液としては、特に限定されるものではなく、亜鉛・鉛製錬法の焼結工程で発生するガス洗浄液から回収された炭酸カドミウムを硫酸で溶解したものが用いられるが、この他にカドミウムを含むスポンジ金属等のカドミウムとともに亜鉛を含有する材料を硫酸で溶解したものを用いることができる。
例えば、上記方法で得られるスポンジ状金属を、前記セメンテーション工程に繰り返すことができる。これによって、従来中和殿物として焼結工程に繰り返していたセメンテーション終液中のカドミウム、タリウム及び鉛が、前記スポンジ状金属として回収され、セメンテーション工程へ循環されるので、焼結工程に直接装入されるカドミウム及びタリウムの量を抑えることができ、焼結工程操業上の利点も見られるので、より好ましい。
【0022】
上記方法で用いる排水処理工程としては、亜鉛・鉛製錬において、その製錬排水を集合して処理し、排水中の鉛、亜鉛を始めとして各種の重金属イオンを除去する排水処理工程であり、アルカリを添加する中和沈殿法が採用され、この際、生成する中和殿物の沈降性を改善するために硫酸亜鉛水溶液を無機凝集剤として使用しているものである。
【0023】
上記方法で用いるセメンテーション剤としては、亜鉛を所定の濃度に含有する硫酸亜鉛水溶液を製造するための還元剤として、金属亜鉛を用いる。すなわち、その硫酸亜鉛水溶液を排水処理工程に用いた際、中和処理後に放流される排水中の金属成分が規制値を超えることのないような純度の金属亜鉛が用いられる。上記金属亜鉛としては、市販の電気亜鉛インゴットが好ましい。
【0024】
上記方法で用いるセメンテーション時間としては、セメンテーション終液中に電気亜鉛を浸漬後、96〜144時間、好ましくは120〜144時間である。すなわち、セメンテーション反応により、亜鉛より卑な酸化還元電位を有するカドミウムとタリウムがスポンジ状金属として析出する。なお、析出したポンジ状金属は、反応槽内の液の流れにより、電気亜鉛インゴットから剥がれて液中に懸濁状態になる。
【0025】
ここで、上記セメンテーション反応にともなうセメンテーション終液中のカドミウム、タリウム及び鉛の濃度の経時変化を、図を用いて説明する。図1は、セメンテーション反応にともなうセメンテーション終液中のカドミウム、タリウム及び鉛の濃度の経時変化を表す。横軸は反応時間であり、縦軸は液中の金属イオン濃度である。
図1において、鉛イオン濃度は十分に低いこと、カドミウムイオン濃度は、反応開始後漸減し、72時間で0.3g/L、96時間で0.1g/L、120時間で0.01g/Lとなることが、また、タリウムイオン濃度は、カドミウムと同様に反応開始後漸減し、24時間で0.3g/L、72時間で0.1g/L、96時間で0.06g/L、120時間で0.02g/Lとなることが分かる。
【0026】
上記方法で得る硫酸亜鉛水溶液のカドミウム、タリウム濃度としては、主として硫酸亜鉛水溶液を無機添加剤として用いる排水処理設備の処理能力に依存して決められるものであり、硫酸亜鉛水溶液のカドミウム濃度を好ましくは0.1g/L以下、より好ましくは0.05g/L以下とすれば、通常の場合、その硫酸亜鉛水溶液を無機添加剤として排水処理工程で効果的に用いることができる。
【0027】
上記方法に用いる硫酸亜鉛水溶液の製造設備とその運転方法としては、特に限定されるものではないが、その一例を、図を用いて説明する。図2は、実機規模での操業に用いた硫酸亜鉛水溶液の製造装置の概要を示す。
図2において、セメンテーション工程の間欠操業で得られたセメンテーション終液(図中に記載していない。)は、硫酸亜鉛水溶液貯液槽1に貯められている。
まず、浄液槽2に所定量の電気亜鉛インゴットを装入する。続いて、循環ポンプ3を稼働させ、セメンテーション終液を浄液槽2に汲み上げ、浄液槽2内の電気亜鉛インゴットを浸漬させながら、浄液槽2と硫酸亜鉛水溶液貯液槽1の間の液循環を行なう。その後、セメンテーション反応が進行して、浄液槽2内の液中のカドミウム濃度が、0.1g/Lになったところで、バルブを切り替え、製造された硫酸亜鉛水溶液を、循環ポンプ3によりフィルタープレス4を経由して硫酸亜鉛水溶液貯液槽1を自己循環させ、液中に懸濁するスポンジ状金属を十分に除去して、無機凝集剤用の硫酸亜鉛水溶液を得る。
【0028】
上記亜鉛・鉛製錬法としては、特に限定されるものではないが、亜鉛・鉛原料から焼結塊及びカドミウムその他の重金属を含むガス洗浄液を得る焼結工程、該焼結塊から粗鉛と粗亜鉛を得る熔錬工程、該ガス洗浄液から硫酸カドミウム水溶液を得る工程、該硫酸カドミウム水溶液からカドミウムを析出するセメンテーション工程、及び中和沈殿法により製錬排水中の亜鉛その他の重金属イオンを除去する排水処理工程を含む製錬方法、例えばISP法が好適である。
【実施例】
【0029】
以下に、本発明の実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例で用いた金属の分析はICP発光分析法で行った。
【0030】
(実施例1)
図2に示した実機規模の硫酸亜鉛水溶液の製造装置により操業を行った。
まず、ISP法による亜鉛・鉛製錬法の実操業設備のカドミウム回収工程から得られたセメンテーション終液(亜鉛濃度:98g/L、カドミウム濃度:5.6g/L、タリウム濃度:0.5g/L、鉛濃度:2.9mg/L)10mを硫酸亜鉛水溶液貯液槽1に貯めた。そして、浄液槽2に電気亜鉛インゴット2000Kgを装入した。その後、循環ポンプ3を稼働させ、セメンテーション終液を浄液槽に汲み上げ、浄液槽2内の電気亜鉛インゴットと接触させながら、浄液槽2と硫酸亜鉛水溶液貯液槽1の間の液循環を行なった。この間、液中の重金属濃度を測定した。時間経過と共に液中の亜鉛濃度が上昇し、カドミウム、タリウム及び鉛濃度は減少した。これにともなってカドミウムとタリウムを主成分としたスポンジ金属が発生し、液中に懸濁した。液中のカドミウム濃度が0.1g/Lになったところで、バルブを切り替え、製造された硫酸亜鉛水溶液を、循環ポンプ3によりフィルタープレス4を経由して硫酸亜鉛水溶液貯液槽1を自己循環させ、液中に懸濁するスポンジ状金属を十分に除去して、硫酸亜鉛水溶液10mを得た。得られた無機凝集剤用の硫酸亜鉛水溶液の亜鉛濃度は、105g/Lであった。
ここで、得られた硫酸亜鉛水溶液は、ISP法による亜鉛・鉛製錬法の排水処理工程で無機凝集剤として使用した。その結果、排水処理上特に問題は起きなかった。
以上のような操業を3ヶ月間継続し、無機凝集剤用として使用した電気亜鉛量を、従来法である電気亜鉛を希硫酸に溶解して無機凝集剤用の硫酸亜鉛水溶液を製造する場合と比較した。その結果、実施例1では、無機凝集剤用として使用した電気亜鉛量が、従来法の20分の1で済むことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
以上より明らかなように、本発明の無機凝集剤用の硫酸亜鉛水溶液の製造方法は、ISP法による亜鉛・鉛製錬法において、排水処理工程で無機凝集剤として用いる硫酸亜鉛水溶液を、従来の希硫酸に電気亜鉛を溶解する方法と比べて電気亜鉛の使用量を大幅に削減して低コストで製造する方法として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】セメンテーション反応にともなうセメンテーション終液中のカドミウム、タリウム及び鉛の濃度の経時変化を表す図である。
【図2】実機規模での操業に用いた硫酸亜鉛水溶液の製造装置の概要を示した図である。
【符号の説明】
【0033】
1 硫酸亜鉛水溶液貯液槽
2 浄液槽
3 循環ポンプ
4 フィルタープレス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛・鉛製錬法において、その排水処理工程で、中和沈殿法により製錬排水中の亜鉛その他の重金属イオンを除去する際、
不純物として重金属イオンを含む硫酸カドミウム水溶液と金属亜鉛とを接触しセメンテーション反応によりカドミウムを析出するセメンテーション工程で産出する、亜鉛、カドミウムその他の重金属を含むセメンテーション終液と金属亜鉛とを96〜144時間接触し、スポンジ状金属と硫酸亜鉛水溶液からなる懸濁液を形成し、該懸濁液からスポンジ状金属を分離して得られた硫酸亜鉛水溶液を、無機凝集剤として用いることを特徴とする排水処理工程の操業方法。
【請求項2】
前記硫酸亜鉛水溶液のカドミウム濃度は、0.1g/L以下であることを特徴とする請求項1に記載の排水処理工程の操業方法。
【請求項3】
前記スポンジ状金属を硫酸で溶解し、前記セメンテーション工程に繰り返すことを特徴とする請求項1又は2に記載の排水処理工程の操業方法。
【請求項4】
前記亜鉛・鉛製錬法は、亜鉛・鉛原料から焼結塊及びカドミウムその他の重金属を含むガス洗浄液を得る焼結工程、該焼結塊から粗鉛と粗亜鉛を得る熔錬工程、該ガス洗浄液から硫酸カドミウム水溶液を得る工程、該硫酸カドミウム水溶液からカドミウムを析出するセメンテーション工程、及び中和沈殿法により製錬排水中の亜鉛その他の重金属イオンを除去する排水処理工程を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の排水処理工程の操業方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−13670(P2010−13670A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−172054(P2008−172054)
【出願日】平成20年7月1日(2008.7.1)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】