説明

亜鉛系めっき鋼板

【課題】プレス成形時の摺動性に優れる亜鉛系めっき鋼板を提供する。
【解決手段】めっき表面に結晶性の3Zn(OH)・ZnSO・xHOを有する酸化物層が形成され、該酸化物層の厚さが10nm以上である。結晶性の酸化物層が3Zn(OH)・ZnSO・3〜5HOである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、プレス成形における摺動性に優れた亜鉛系めっき鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
亜鉛系めっき鋼板は自動車車体用途を中心に広範な分野で広く利用され、そのような用途では、プレス成形を施されて使用に供される。しかし、亜鉛系めっき鋼板は冷延鋼板に比べてプレス成形性が劣るという欠点を有する。これはプレス金型での表面処理鋼板の摺動抵抗が冷延鋼板に比べて大きいことが原因である。すなわち、金型とビードでの摺動抵抗が大きい部分で表面処理鋼板がプレス金型に流入しにくくなり、鋼板の破断が起こりやすい。
【0003】
近年自動車車体の軽量化を目的として高張力鋼板の需要が増加しているが、高張力鋼板は、軟鋼板に比べプレス成形性が劣るため、金型とビードでの摺動抵抗が大きい部分での鋼板破断が起こりやすい。
【0004】
ここで合金化溶融亜鉛めっき鋼板は亜鉛めっき鋼板と比較して溶接性および塗装性に優れることから、自動車車体用としてはより好適に用いられる。
【0005】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、鋼板に亜鉛めっきを施した後、加熱処理を行い、鋼板中のFeとめっき層中のZnが拡散する合金化反応が生じることにより、Fe−Zn合金相を形成させたものである。このFe−Zn合金相は、通常、Γ相、δ相、ζ相からなる皮膜であり、Fe濃度が低くなるに従い、すなわち、Γ相→δ相→ζ相の順で、硬度ならびに融点が低下する傾向がある。このため、摺動性の観点からは、高硬度で、融点が高く凝着の起こりにくい高Fe濃度の皮膜が有効であり、プレス成形性を重視する合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、皮膜中の平均Fe濃度を高めに製造されている。
【0006】
しかしながら、高Fe濃度の皮膜では、めっき−鋼板界面に硬くて脆いΓ相が形成されやすく、加工時に、界面から剥離する現象、いわゆるパウダリングが生じ易い問題を有している。このため、特許文献1に示されているように、摺動性と耐パウダリング性を両立するために、上層に第二層として硬質のFe系合金を電気めっきなどの手法により付与する方法がとられている。しかし、この方法を用いて製造を行った場合、コストが高くつく問題点がある。
【0007】
亜鉛系めっき鋼板使用時のプレス成形性を向上させる方法としては、この他に、高粘度の潤滑油を塗布する方法が広く用いられている。しかし、この方法では、潤滑油の高粘性のために塗装工程で脱脂不良による塗装欠陥が発生したり、また、プレス成形時の油切れにより、プレス性能が不安定になる等の問題がある。従って、合金化溶融亜鉛めっき鋼板自身のプレス成形性が改善されることが強く要請されている。
【0008】
上記の問題を解決する方法として、特許文献2および特許文献3には、亜鉛系めっき鋼板の表面に電解処理、浸漬処理、塗布酸化処理、または加熱処理を施すことにより、ZnOを主体とする酸化膜を形成させて溶接性、または加工性を向上させる技術を開示している。
【0009】
特許文献4は、亜鉛系めっき鋼板の表面に、リン酸ナトリウム5〜60g/Lを含みpH2〜6の水溶液にめっき鋼板を浸漬するか、電解処理を行うか、または、上記水溶液を塗布することにより、P酸化物を主体とした酸化膜を形成して、プレス成形性及び化成処理性を向上させる技術を開示している。
【0010】
特許文献5は、亜鉛系めっき鋼板の表面に電解処理、浸漬処理、塗布処理、塗布酸化処理、または加熱処理により、Ni酸化物を生成させることにより、プレス成形性および化成処理性を向上させる技術を開示している。
【0011】
特許文献6には、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を酸性溶液に接触させることで鋼板表面にZnを主体とする酸化物を形成させ、めっき層とプレス金型の凝着を抑制し、摺動性を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平1−319661号公報
【特許文献2】特開昭53−60332号公報
【特許文献3】特開平2−190483号公報
【特許文献4】特開平4−88196号公報
【特許文献5】特開平3−191093号公報
【特許文献6】特開2003−306781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記特許文献の中でも特に特許文献6等の鋼板表面にZnを主体とする酸化物を形成させることによりプレス成形性を改善させた技術は、特許文献5のNi等を用いる技術に比較して、本来めっき鋼板に含有されるZnを主体として用いるために、製造コストや環境負荷の面で有利であるが、難成型部品等に使用される場合には高度なプレス成形性が必要とされ、更なる摺動特性の改善を要求される場合もある。
【0014】
本発明は、鋼板表面にZnを主体とする酸化物を形成させることによりプレス成形性を改善させた技術に対して、更にプレス成形時の摺動性に優れる亜鉛系めっき鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、合金化溶融めっき鋼板の摺動性について調査を行ったところ、以下の知見を得た。合金化溶融亜鉛めっき鋼板表面の平坦部は、周囲と比較すると凸部として存在する。プレス成形時に実際にプレス金型と接触するのは、この平坦部が主体となるため、この平坦部に結晶性の3Zn(OH)・ZnSO・3〜5HOを有する酸化物層が存在すると、めっき層と金型との凝着を防ぐことができることを見出した。更に、合金化溶融亜鉛めっき鋼板に限らず、合金化処理を施さない溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板においても、めっき表面に結晶性の3Zn(OH)・ZnSO・3〜5HOを有する酸化物層が存在すると、めっき層と金型との凝着を防ぐことができることを発見した。
【0016】
本発明は、以上の知見に基づいてなされたものであり、その要旨は、下記の通りである。
(1)めっき表面に結晶性の3Zn(OH)・ZnSO・xHOを有する酸化物層が形成され、該酸化物層の厚さが10nm以上であることを特徴とする亜鉛系めっき鋼板である。
(2) (1)において、結晶性の酸化物層が3Zn(OH)・ZnSO・3〜5HOであることを特徴とする亜鉛系めっき鋼板である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の亜鉛系めっき鋼板は、プレス成形時の摺動抵抗が小さく、安定して優れたプレス成形性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】摩擦係数測定装置を示す概略正面図。
【図2】図1中のビード形状・寸法を示す概略斜視図。
【図3】図1中のビード形状・寸法を示す概略斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を適用する一形態である合金化溶融めっき鋼板は、合金化処理時の鋼板−めっき界面の反応性の差により、表面に凹凸が存在する。しかしながら、調質圧延などの方法により表層を平坦化すると、めっき表面の凹凸が緩和される。従って、プレス成形時には、金型がめっき表面の凸部を押しつぶすのに必要な力が低下し、摺動特性を向上させることができる。
【0020】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板表面の平坦部は、プレス成形時に金型が直接接触する部分であるため、金型との凝着を防止する硬質かつ高融点の物質が存在することが、摺動性の向上には重要である。また、合金化溶融亜鉛めっき鋼板に比較して表面凹凸が少ない溶融亜鉛めっき鋼板や電気亜鉛めっき鋼板においても、当然表面はプレス成形時に金型が直接接触する部分であり、表層に硬質かつ高融点の物質が存在することが、摺動性の向上には重要である。
【0021】
この観点からも、表層に酸化物層を形成することは摺動特性の向上に有効であるが、なかでも結晶性の3Zn(OH)・ZnSO・xHOを有する酸化物層は非常に有効であり、特に、結晶性の3Zn(OH)・ZnSO・3〜5HOを有する酸化物層は非常に有効である。
【0022】
ここで、酸化物層に結晶性の3Zn(OH)・ZnSO・3〜5HOが存在するかどうかは、薄膜X線回折法を用いて酸化物層のX線回折パターンを測定し、ICDDカードの標準パターンと照合して調査した。その結果、回折角度(2θ)が約8°から約12°の間に酸化物に由来するピークが確認され、これらのピークは、結晶水がそれぞれ3、4、5である3Zn(OH)・ZnSO・3HO(ICDDカード:39−689)、3Zn(OH)・ZnSO・4HO(ICDDカード:44−673)、3Zn(OH)・ZnSO・5HO(ICDDカード:39−688)であると同定された。
【0023】
また、めっき表層の酸化物層の厚さを10nm以上とすることにより、良好な摺動性を示す亜鉛系めっき鋼板が得られるが、厚さを20nm以上とするとより効果的である。これは、金型と被加工物の接触面積が大きくなるプレス成形加工において、表層の酸化物層が磨耗した場合でも残存し、摺動性の低下を招くことがないためである。一方、厚さの上限は特に設けないが、200nmを超えるとZn−OH結合を有する酸化物層であっても、化成処理液によるエッチング速度が低下し、緻密で均一な化成皮膜の形成が困難になるため、200nm以下とするのが望ましい。
【0024】
亜鉛系めっき鋼板の表面に結晶性の3Zn(OH)・ZnSO・3〜5HOを有する酸化物層を形成させる方法としては水溶液による反応を利用する方法が最も効果的である。なかでもZnイオンおよび硫酸イオンを含有する溶液の液膜を鋼板表面に形成させ、所定時間放置することで、前述した結晶性の3Zn(OH)・ZnSO・3〜5HOを有する酸化物層を表面に形成することができる。Znイオンのみを含有する溶液を用いた場合は結晶性の3Zn(OH)・ZnSO・3〜5HOは形成されないが、Znイオンおよび硫酸イオンを含有する溶液では、硫酸イオン濃度が高くなるにつれて結晶性の3Zn(OH)・ZnSO・3〜5HOの形成が促される傾向にある。また、Znイオンおよび硫酸イオンの濃度が高くなるほど、形成される酸化膜厚も厚くなる傾向にある。
【0025】
表面に酸化物層が形成された亜鉛系めっき鋼板のめっき付着量は片面当たり20〜150g/mの範囲にあることが好ましい。これは、20g/m未満であると、付着量が少ないが故に本来の防錆鋼板としての機能が劣るためであり、また150g/mを超えると、防錆性は十分であるが、加工によるめっき層の剥離が問題となることがあるためである。特に、合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の特徴である溶接性および塗装性を満足するよう合金化処理を行った際に、めっき−鋼板界面においてΓ相の形成を回避することができず、パウダリングなどのめっき剥離を招くためである。
【0026】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、めっき皮膜中のFe濃度は6〜14質量%の範囲がよい。これは、Fe濃度が6質量%未満であると、表面に純Zn相(η相)が残存した状態であり、前述した溶接性および塗装性などを満足することができなくなるためであり、一方、14質量%を超えると、めっき−鋼板界面に厚いΓ相が形成され、めっき密着性に劣るためである。このようなFe濃度にコントロールするためには、めっき浴中にAlを適量含有させることが重要であり、Al濃度は0.05〜0.40質量%の範囲にあることが必要である。
【0027】
溶融亜鉛めっき鋼板は、めっき−鋼板界面に合金層を厚く生成させないためにめっき浴中にAlを適量含有させることが重要であり、Al濃度は0.15〜0.40質量%の範囲にあることが必要である。
【0028】
めっき表面における平坦部の面積率は、20〜80%とするのが望ましい。20%未満では、平坦部を除く部分(凹部)での金型との接触面積が大きくなり、実際に金型に接触する面積のうち、酸化物厚さを確実に制御できる平坦部の面積率が小さくなるため、プレス成形性の改善効果が小さくなる。また、平坦部を除く部分は、プレス成形時にプレス油を保持する役割を持つ。従って、平坦部を除く部分の面積率が20%未満になると(平坦部の面積率が80%を超えると)プレス成形時に油切れを起こしやすくなり、プレス成形性の改善効果が小さくなる。
【0029】
本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板または溶融亜鉛めっき鋼板を製造するに際しては、めっき浴中にAlが添加されていることが必要であるが、Al以外の添加元素成分は特に限定されない。すなわち、Alの他に、Pb、Sb、Si、Sn、Mg、Mn、Ni、Ti、Li、Cuなどが含有または添加されていても、本発明の効果が損なわれるものではない。
【0030】
本発明の電気亜鉛めっき鋼板を製造するに際しては、めっき浴は、亜鉛を主体として含有していればよく、その他の金属や酸化物等を含有しても本発明の効果が損なわれなければ構わない。
【0031】
本発明に係る亜鉛系めっき鋼板は、下地鋼板として高張力鋼板を使用すると軽量化等の効果を得ることができるので好適である。例えば、自動車車体の軽量化の考え方は、高張力鋼板を使用することで車体衝突性能は維持しつつ素材重量軽減(板厚低減)を狙うものである。しかしながら、一般的に引張強度の増加とともにプレス成形性は低下する傾向にあり、高張力鋼板はプレス成形性に劣ることが自明である。本発明者らは、高張力鋼板のプレス成形性を改善するために鋭意検討を重ねた結果、表層に結晶性の3Zn(OH)・ZnSO・3〜5HOを有する酸化物層を形成することで高張力鋼板のプレス成形性が格段に向上し、これまで成形性の点で高強度鋼板の適用が困難であった用途への高強度鋼板の適用が可能になり、上記の軽量化効果を達成し得ることを見出した。ここで、使用される鋼板の種類としては特に限定されるものではないが、充分な軽量化効果を得るためには引張強度:340MPa以上の高張力鋼板に適用するのが好ましい。
【0032】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明する。
【実施例1】
【0033】
板厚0.8mmの冷延鋼板上に、常法の合金化溶融亜鉛めっき法により、めっき付着量60g/m、Fe濃度:10質量%、Al濃度:0.20質量%のめっき皮膜を形成し、更に調質圧延を行った。なお、この際の平坦部の面積率は、採取位置により多少のばらつきが見られたが、全て40〜60%の範囲に含まれていた。
【0034】
この合金化溶融亜鉛めっき鋼板を、硫酸亜鉛七水和物を添加した水溶液に浸漬し、ゴム製のロールで表面の液膜量を10g/mに制御した後、大気中でそのまま放置し、10〜60秒経過後、水洗・乾燥する酸化処理を実施した。一部、比較のために硝酸亜鉛六水和物を添加した水溶液、または酢酸ナトリウムおよび硫酸第一鉄を含有する酸性溶液も使用した。処理に用いた溶液の温度はすべて35℃とした。
【0035】
また、板厚が0.8mmの下記の溶融亜鉛めっき鋼板と電気亜鉛めっき鋼板を準備した。溶融亜鉛めっき鋼板は常法の溶融亜鉛めっき方法により、めっき付着量70g/mのめっき皮膜を形成し、更に調質圧延を行なった。電気亜鉛めっき鋼板は常法の電気亜鉛めっき方法により、めっき付着量50g/mのめっき皮膜を形成した。
【0036】
この溶融亜鉛めっき鋼板と電気亜鉛めっき鋼板を、硫酸亜鉛七水和物を添加した水溶液に浸漬し、ゴム製のロールで表面の液膜量を10g/mに制御した後、大気中でそのまま放置し、10〜60秒経過後、水洗・乾燥する酸化処理を実施した。処理に用いた溶液の温度はすべて35℃とした。
【0037】
酸化処理しためっき鋼板の摩擦係数の測定、酸化膜厚の測定および3Zn(OH)・ZnSO・3〜5HOの分析を次のようにして行った。比較のために酸化処理を実施しなかったものについても同様の調査をした。
【0038】
(1)プレス成形性評価試験(摩擦係数測定試験)
プレス成形性を評価するために、各供試材の摩擦係数を以下のようにして測定した。
図1は、摩擦係数測定装置を示す概略正面図である。同図に示すように、供試材から採取した摩擦係数測定用試料1が試料台2に固定され、試料台2は、水平移動可能なスライドテーブル3の上面に固定されている。スライドテーブル3の下面には、これに接したローラ4を有する上下動可能なスライドテーブル支持台5が設けられ、これを押上げることにより、ビード6による摩擦係数測定用試料1への押付荷重Nを測定するための第1ロードセル7が、スライドテーブル支持台5に取付けられている。上記押付力を作用させた状態でスライドテーブル3を水平方向へ移動させるための摺動抵抗力Fを測定するための第2ロードセル8が、スライドテーブル3の一方の端部に取付けられている。なお、潤滑油として、スギムラ化学社製のプレス用洗浄油プレトン(登録商標)R352Lを試料1の表面に塗布して試験を行った。
【0039】
図2は使用したビードの形状・寸法を示す概略斜視図である。ビード6の下面が試料1の表面に押し付けられた状態で摺動する。図2に示すビード6の形状は幅10mm、試料の摺動方向長さ12mm、摺動方向両端の下部は曲率4.5mmRの曲面で構成され、試料が押し付けられるビード下面は幅10mm、摺動方向長さ3mmの平面を有する。
【0040】
摩擦係数測定試験は下に示す2条件で行った。
[条件1]
図2に示すビードを用い、押し付け荷重N:400kgf、試料の引き抜き速度(スライドテーブル3の水平移動速度):100cm/minとした。
[条件2]
図2に示すビードを用い、押し付け荷重N:400kgf、試料の引き抜き速度(スライドテーブル3の水平移動速度):20cm/minとした。
供試材とビードとの間の摩擦係数μは、式:μ=F/Nで算出した。
【0041】
(2)酸化物層の厚さの測定
酸化物層の厚さの測定には蛍光X線分析装置を使用した。測定時の管球の電圧および電流は30kVおよび100mAとし、分光結晶はTAPに設定してO−Kα線を検出した。O−Kα線の測定に際しては、そのピーク位置に加えてバックグラウンド位置での強度も測定し、O−Kα線の正味の強度が算出できるようにした。なお、ピーク位置およびバックグラウンド位置での積分時間は、それぞれ20秒とした。
【0042】
また、試料ステージには、これら一連の試料と一緒に、適当な大きさに劈開した膜厚96nm、54nmおよび24nmの酸化シリコン皮膜を形成したシリコンウエハーをセットし、これらの酸化シリコン皮膜からもO−Kα線の強度を算出できるようにした。これらのデータを用いて酸化膜厚さとO−Kα線強度との検量線を作成し、供試材の酸化物層の厚さを酸化シリコン皮膜換算での酸化膜厚さとして算出するようにした。
【0043】
(3)結晶性の3Zn(OH)・ZnSO・3〜5HOの存在確認
薄膜X線回折法により結晶性の3Zn(OH)・ZnSO・3〜5HOの存在を確認した。Cu−Kα線を用い入射角度を0.5°に設定して薄膜法によりX線回折図形を測定した。回折角度(2θ)が約8°から約12°の間に3Zn(OH)・ZnSO・3〜5HOの各結晶構造に対応する回折ピークが現われる。
【0044】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板の場合は、この回折ピークと約42°に現われる鉄亜鉛合金層の回折ピークとの強度比から結晶性の3Zn(OH)・ZnSO・3〜5HOの存在を確認した。それぞれのバッググランドを引いたピーク強度で、ピーク強度比、(3Zn(OH)・ZnSO・3〜5HOのピーク強度)/(鉄亜鉛合金層のピーク強度)が0.020以上になる場合に、結晶性の3Zn(OH)・ZnSO・3〜5HOを有する皮膜が形成していると判断した。
【0045】
溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板の場合は、回折角度(2θ)が約8°から約12°の間に3Zn(OH)・ZnSO・3〜5HOの各結晶構造に対応する回折ピークと、約36°に現われる亜鉛のη層の回折ピークの強度比から、結晶性の3Zn(OH)・ZnSO・3〜5HOの存在を確認した。それぞれのバッググランドを引いたピーク強度で、ピーク強度比、(3Zn(OH)・ZnSO・3〜5HOのピーク強度)/(亜鉛のη層のピーク強度)が0.020以上になる場合に、結晶性の3Zn(OH)・ZnSO・3〜5HOを有する皮膜が形成していると判断した。
【0046】
回折角度(2θ)が約8°から約12°の間のピークは、結晶水がそれぞれ3、4、5である3Zn(OH)・ZnSO・3HO(ICDDカード:39−689)、3Zn(OH)・ZnSO・4HO(ICDDカード:44−673)、3Zn(OH)・ZnSO・5HO(ICDDカード:39−688)に由来するピークであると判断された。
【0047】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板の酸化処理条件と得られた結果を表1に示す。溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板の酸化処理条件と得られた結果を表2に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
表1および表2から以下の事項がわかる。
【0051】
酸化処理を行わなかったNo.1、No.17、No.21は、酸化物層の厚さが10nm未満であり、平坦部に摺動性を向上させるのに十分な酸化膜が形成されておらず、摩擦係数が高い。
【0052】
No.2〜7、No.18〜20、No.22〜24は、ピーク強度比が0.020以上を示しており、結晶性の3Zn(OH)・ZnSO・3〜5HOを有する酸化物層が形成され、その厚さが10nm以上であるために摩擦係数が非常に低位安定しており、十分な摺動性向上が見られる。
【0053】
No.8〜16は、平坦部に厚さ10nm以上の酸化物層が形成されているものの、ピーク強度比が0.020未満で結晶性の3Zn(OH)・ZnSO・3〜5HOの形成は認められず、摩擦係数は高い値を示しており、十分な摺動性向上の効果は認められない。
【実施例2】
【0054】
鋼板強度レベルが異なる板厚1.2mmの合金化溶融亜鉛めっき鋼板を使用し、硫酸亜鉛七水和物(濃度20g/L)を添加した水溶液(pH5.5、温度35℃)に浸漬し、ゴム製のロールで表面の液膜量を10g/mに制御した後、大気中でそのまま放置し、10〜60秒経過後、水洗・乾燥する酸化処理を実施した。合金化溶融亜鉛めっきは、定法の合金化処理によりめっき付着量45〜50g/m、Fe含有率:10〜11質量%のめっき皮膜を形成し、平坦部面積率が40〜60%の範囲内になるように調質圧延を施した。
【0055】
酸化処理した合金化溶融亜鉛めっき鋼板の酸化膜厚の測定および3Zn(OH)・ZnSO・3〜5HOの分析を、実施例1に記載した方法で行った。さらに、母材鋼板の機械的特性の測定、プレス成形性の評価を行った。プレス成形性は、摩擦係数測定試験と張出し成形試験で評価した。比較のために酸化処理を実施しなかったものについて同様の調査をした。
【0056】
(1)機械的特性の測定
圧延方向と90°の方向を長手方向(引張方向)とするJIS Z2201の5号試験片を用い、JIS Z2241に準拠した引張試験を行い評価した。
【0057】
(2)プレス成形性評価試験(摩擦係数測定試験)
実施例1に記載した方法で下記条件3で各供試材の摩擦係数を測定した。
[条件3]
図3に示すビードを用い、押し付け荷重N:400kgf、試料の引き抜き速度(スライドテーブル3の水平移動速度):20cm/minとした。供試材とビードとの間の摩擦係数μは、式:μ=F/Nで算出した。
【0058】
(3)プレス成形性評価試験(張出し成形試験)
200mm×200mmの供試材に対してφ150mmのパンチ(ダイス径:φ153mm)を使用して球頭張出し試験を行い、供試材に破断が生じた際の最大成形高さを測定した。この時、供試材の流入を抑制する目的で100tonのしわ押え力をかけ、供試材に潤滑油としてスギムラ化学社製のプレス用洗浄油プレトン(登録商標)R352Lを塗布した。
【0059】
酸化処理条件と得られた結果を表3に示す。
【0060】
【表3】

【0061】
表3から以下の事項がわかる。
【0062】
酸化処理を行わなかったもの(比較例:No.2、No.4、No.6、No.8、No.10、No.12、No.14)は、酸化物層の厚さが10nm未満であり、摺動性を向上させるのに十分な酸化膜が形成されておらず、摩擦係数が高い。
【0063】
酸化処理を行ったもの(発明例:No.1、No.3、No.5、No.7、No.9、No.11、No.13)は、ピーク強度比が0.020以上を示しており、結晶性の3Zn(OH)・ZnSO・3〜5HOを有する酸化物層が形成され、その厚さが10nm以上であるために摩擦係数が非常に低位安定しており、十分な摺動性向上が見られる。
【0064】
同一の鋼板強度レベルの鋼板で比べたとき(No.1とNo.2、No.3とNo.4、No.5とNo.6、No.7とNo.8、No.9とNo.10、No.11とNo.12、No.13とNo.14)、酸化処理を行わなかったもの(比較例)に比べ、酸化処理を行ったもの(発明例)の方が成形高さが高く、十分なプレス成形性の向上が見られる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の亜鉛系めっき鋼板は、摺動性に優れることから、優れたプレス成形性を有しており、自動車車体用途を中心に広範な分野で適用できる。
【符号の説明】
【0066】
1 摩擦係数測定用試料
2 試料台
3 スライドテーブル
4 ローラ
5 スライドテーブル支持台
6 ビード
7 第1ロードセル
8 第2ロードセル
9 レール
N 押付荷重
F 摺動抵抗力
P 引張荷重

【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき表面に結晶性の3Zn(OH)・ZnSO・xHOを有する酸化物層が形成され、該酸化物層の厚さが10nm以上であることを特徴とする亜鉛系めっき鋼板。
【請求項2】
結晶性の酸化物層が3Zn(OH)・ZnSO・3〜5HOであることを特徴とする請求項1に記載の亜鉛系めっき鋼板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−87417(P2012−87417A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−22614(P2012−22614)
【出願日】平成24年2月6日(2012.2.6)
【分割の表示】特願2008−181082(P2008−181082)の分割
【原出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】