説明

亜鉛表面を有する金属部材の非クロム防錆処理方法及び非クロム防錆処理がされた亜鉛表面を有する金属部材

【課題】 シリカ質皮膜を形成する非クロム表面処理剤を塗布したとき、亜鉛表面に実用レベルの防錆性能を付与し難い亜鉛表面を有する金属部材に、実用性のある防錆性能を付与する非クロム表面処理方法を得る。
【解決手段】 予備処理として金属部材の亜鉛表面に燐酸亜鉛などの化成処理膜を形成し、その上にアルコール又は水とアルコールを溶媒とする非クロム表面処理剤を塗布してシリカ質皮膜を形成する。これにより水性(アルコールを含む)の表面処理剤などを塗布したときに塩水噴霧試験で72時間以上に亙って白錆の発生を抑止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は亜鉛めっき製品など亜鉛表面を有する金属部材の非クロム防錆処理方法と、非クロム防錆処理がされた亜鉛表面を有する金属部材に関する。本発明における亜鉛表面は亜鉛合金となった表面とすることができる。
【背景技術】
【0002】
化成処理は化学的または電気化学的な処理によって金属表面に安定な化合物を生成させる手段であり、リン酸塩処理、黒染め処理、クロメート処理などがあるとJIS規格の本に説明されている。金属製品に化成処理を施す主な目的は、防錆性能を向上させること、表面に塗布する塗料の密着性を向上させること、表面を着色することなどである。
【0003】
亜鉛表面を有する金属部材、例えば亜鉛めっきされた金属製品の表面には、従来クロメート処理などのクロム酸を含む水溶液を使った化成処理を施すか、クロム酸成分を含まない化成処理が施される。たいていさらにその表面に有機樹脂を主成分とする塗膜などを被覆して防錆性能を付与する方法が普及している。
【0004】
クロム酸が有毒で、発ガン性もあるため、欧州を発信源として六価クロムを含む製品を使わない方針が打ち出され、クロム酸(クロメート)成分を含まない表面処理剤の開発が活発に行われている。既に公開された特許文献中にもいくつか非クロム表面処理方法が提案されているが、現在は防錆を目的とする三価クロムを用いた亜鉛めっきの化成処理製品がようやく実用化の段階に入ったところである。しかし、三価クロム化成処理は液の管理が容易でなく、三価クロム成分の一部が六価クロムに変化して排水中に出るなどの問題点を抱えている。
【0005】
亜鉛表面を有する金属部材、例えば亜鉛めっきされた金属製品の表面に非クロムの化成処理を施し、さらにその上に水系のシリカその他を含む表面処理剤で皮膜を形成して防錆性能を向上させる方法も提案されている。
【0006】
例えば、特許文献1には亜鉛めっきした表面を化成処理して黒色化し、この化成処理表面に珪酸塩水溶液やコロイドシリカなどの水溶液を塗布して表面処理し、シリカ質皮膜で被覆して防錆性能を付与する方法が開示されている。しかし、この方法で防錆処理された亜鉛めっき鋼板はJISに規定された塩水噴霧試験において48時間足らずで白錆が発生し、防錆性能は実用上不充分である。
【0007】
特許文献2には、亜鉛系めっき鋼板の表面に燐酸塩化成処理を施し、主成分である有機樹脂の他にチオカルボニル基含有化合物や燐酸化合物、微粒シリカ、シランカップリング剤などを含む水溶液で処理表面に薄い皮膜を形成したもの、又は主成分である有機樹脂の他にバナジン酸化合物、チオカルボニル基含有化合物、燐酸化合物、微粒シリカ、シランカップリング剤などを含む水溶液で化成処理表面に薄い皮膜を形成したものが開示されている。この表面処理された亜鉛めっき鋼板のサンプルを塩水噴霧試験機中に168時間入れておいても変化がないと述べている。
【0008】
特許文献3には、亜鉛系めっき鋼板に非クロム化成処理を施し、この表面に非クロム防錆顔料を含むポリエステル系下塗り塗料(4〜25μm)と上塗り塗料を塗布した塗装金属板を開示しており、非クロム系防錆顔料として変性シリカ(シールデックス;富士シリシア化学(株)製シリカ微粉末)を例示している。
【0009】
特許文献4には、溶融亜鉛合金めっき(Al、Mgを含む)を施した鋼板に化成処理を施し、この表面に水性塗料を下塗りし、さらに上塗りを施した鋼板を開示している。化成処理液はアクリルエマルジョンなどの水性樹脂の他、ヘキサフルオロチタン酸やチタンフッ化水素酸などのチタン化合物、ヘキサフルオロジルコニウム酸などのジルコニウム化合物を含むもので、下塗りの塗料としてアクリルエマルジョンなどの水性樹脂を主成分とし、シリカ系防錆顔料(シールデックス)を分散させた水性塗料を例示している。上塗り塗料としてアクリルエマルジョンなどの水性樹脂を主成分として含み、酸化チタン顔料を分散させた水性塗料を塗布している。この実施例では、上塗り塗料まで塗布された状態のサンプル鋼板を塩水噴霧試験機に入れ、塗膜の膨れ具合で評価しているので防錆特性は明らかでない。
【0010】
また、特許文献5には、市販の亜鉛めっき鋼板(電気亜鉛めっき鋼板と溶融亜鉛めっき鋼板、市販品は通常クロメート処理がされている)に燐酸亜鉛化成処理を施し、この表面にノンクロム型皮膜を形成した鋼板が開示されている。この皮膜はフェノール系の水溶性有機樹脂と、チタンフッ化アンモニウムなどのチタン化合物又はジルコニウムフッ化水素酸などのジルコニウム化合物と、メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのシランカップリング剤を含む弱酸性水溶液を塗布した皮膜が形成されている。表面処理された亜鉛めっき鋼板のサンプルを塩水噴霧試験機中に72時間入れて置いたとき、白錆の発生がないサンプルがあると述べている。
【0011】
また、特許文献6には、アルコールとシリカを含む表面処理剤を化成処理した亜鉛めっき表面に塗布して防錆性能(耐白錆性)を向上させることが開示されている。しかし、その表面処理剤を塗布して形成される被膜は樹脂を主成分としており、表面処理剤の被膜はシリカ質とはいえない。実施例に記載されている例に拠れば、いずれもメラミン樹脂などの硬化剤樹脂を含む樹脂成分が51重量%以上含まれている。さらに、六価クロムを使ったクロメート処理を施した亜鉛めっき表面に表面処理剤を塗布した例のみが記載されている。
【0012】
特許文献7には、テトラエトキシシランのエタノール溶液に水と塩酸とを加えて加水分解して得たエタノール溶媒のシリカゾルを表面処理剤として使うことと、着色できる化成処理を施した溶融亜鉛めっき鋼板の表面にその表面処理剤に浸漬して塗布し焼付けることが開示されている。特許文献に開示された、塩水噴霧試験における表面処理鋼板の防錆性能では、シリカゾルを塗布したサンプルでは12時間で白錆が出ている。このプアな防錆性能の理由は、シリカ成分の濃度が5重量%よりうすいシリカゾル溶液を塗布しているために0.3μmよりも薄い膜厚の被膜が着いたためと考えられる。
【0013】
本発明者らは先の出願(特願2004−052991号)において、亜鉛めっきされた金属部材の表面に塗布すれば赤錆の発生を長時間抑止できるシリカ質の皮膜を形成する非クロム表面処理剤を提案している。この非クロム表面処理剤中には分散処理された一次粒子の平均粒径が70nm以下(好ましくは、40nm以下)である酸化チタン超微粉末が有効量配合されている。
【0014】
また特願2004−73736号において、特定の重量平均分子量を有するアルコキシシランオリゴマーを主成分とするアルコール溶液である白錆発生の抑止に効果のある表面処理剤を提案した。
【0015】
即ち、重量平均分子量が1000〜10000のアルコキシシランオリゴマーを主成分として含むアルコール溶液の表面処理剤を亜鉛めっき製品等の表面に塗布し、薄いシリカ質皮膜で亜鉛表面を被覆することにより赤錆の発生は勿論、白錆の発生を長時間抑止することができる。この場合、下地の亜鉛めっきとの相性が良ければ、塩水噴霧試験で300時間以上白錆の発生を抑止できる。
【0016】
表面処理剤の溶媒にはNON−VOCの水を使うのが好ましい。しかし、水のみを溶媒とする非クロム表面処理剤を亜鉛めっき製品の表面に塗布した場合、赤錆の発生を長時間抑止することはできても(特許文献1に記されているように)白錆の発生が早い。
【0017】
本発明者らは、複数の業者から種々の条件で白あげ亜鉛めっきされたボルト(クロメート処理なし)などの金属部材を取り寄せ、アルコキシシランオリゴマーを主成分として含むアルコール溶液の表面処理剤を塗布してみたところ、亜鉛めっきのめっき条件によって防錆性能が大きく変動することを知った。
【0018】
そこで、バレル亜鉛めっきの小型装置を導入し、ジンケート浴を建浴して亜鉛めっきしたボルトやねじに表面処理剤を塗布したときの防錆性能に差が出る原因の追求を試みた。しかし、光沢剤が添加された亜鉛めっき浴中の現象が非常に複雑なため、防錆性能に差が出る原因を解明できていないが、いくつかの因果関係を把握できた。例えば、クロメート処理を行う前に通常行われている希い硝酸で洗うピクリングを行うと、表面処理剤を塗布したときの防錆性能が損なわれることが分かった。
【0019】
また、亜鉛めっきを短時間で終えるように亜鉛めっきの電流密度を大きくすると表面処理剤を塗布したときの防錆性能が劣化することが分かった。
【0020】
さらに、ねじ部外径が3mm以下の小さいボルトやねじに、バレルめっき装置を使って亜鉛めっきすると、予め計算して求めた適当な電流密度で亜鉛めっきを施しても、表面処理剤を塗布したとき期待したレベルの防錆性能を付与できないことが分かった。
【特許文献1】特開昭61−253381号公報
【特許文献2】特開2000−248367号公報
【特許文献3】特開2001−81578号公報
【特許文献4】特開2002−317279号公報
【特許文献5】特開2003−253464号公報
【特許文献6】特開平05−001391号公報
【特許文献7】特開2001−64782号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明の目的は、シリカ質皮膜を形成する非クロム表面処理剤を塗布したとき実用レベルの防錆性能を付与し難い亜鉛表面を有する金属部材、例えば表面処理剤との相性が悪い亜鉛めっきされた金属部材の白錆に対する防錆性能を向上させる表面処理方法を提供することである。
【0022】
具体的には、シリカ質皮膜を形成する表面処理剤を塗布したとき、実用レベルの防錆性能を付与し難い亜鉛表面を有する金属部材の表面に、一手間加えて非クロム表面処理を施すことにより、JIS−Z−2371に規定された塩水噴霧試験において実用性ありとされる72時間以上の間白錆の発生を抑止できる非クロム防錆処理方法を提供することを目的とする。
【0023】
更には水性の表面処理剤を塗布した亜鉛めっき金属部材においても、実用レベルの白錆抑制性能を付与できる非クロム防錆処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明者らは、電気亜鉛めっき条件及び亜鉛めっきの前後の処理条件などを種々検討した結果、非クロム表面処理剤を塗布する前に一手間加えることによって亜鉛表面を有する金属部材の防錆性能を向上させる表面処理方法を見付け、本発明に到達した。
【0025】
本発明による亜鉛表面を有する金属部材の非クロム防錆処理方法は、亜鉛表面を有する金属部材の表面に化成処理を施して亜鉛表面に化成処理膜を形成し、この化成処理膜の表面に、アルコール溶媒又は水とアルコールとの混合溶媒中にシリカ成分又はシリカに変化する成分を含む非クロム表面処理剤溶液を塗布し、平均厚さが0.5〜3μmのシリカ質皮膜を形成することを特徴とする。本発明に用いる非クロム表面処理剤溶液は、シリカ成分又はシリカに変化する成分をシリカに換算して10〜25重量%含むことが好ましい。
【0026】
本発明による非クロム防錆処理方法を適用して亜鉛表面を有する金属部材の表面処理を行うと、JIS−Z−2371に準じた塩水噴霧試験における防錆性能が向上し、実用性があるとされる72時間以上白錆の発生を抑止できる。
【0027】
本発明の亜鉛表面を有する金属部材の非クロム防錆処理方法は、亜鉛表面を有する金属部材が亜鉛めっきあるいは亜鉛合金めっきされた金属部材又は亜鉛を主成分とする合金の鋳造品であることが好ましい。
【0028】
本発明の亜鉛表面を有する金属部材の非クロム防錆処理方法では、シリカ成分がコロイドシリカであり、溶媒を水とアルコールとの混合溶媒とすることができる。
【0029】
本発明の亜鉛表面を有する金属部材の非クロム防錆処理方法は、シリカに変化する成分がアルコキシシランモノマーを加水分解して縮重合させたアルコキシシランオリゴマーであり、溶媒をアルコールとすることができる。このアルコキシシランオリゴマーの重量平均分子量は1000〜10000であることが好ましい。
【0030】
本発明による亜鉛表面を有する金属部材の非クロム防錆処理方法において、非クロム表面処理剤溶液は分散処理された一次粒子の平均粒径が40nm以下である酸化チタン超微粉末を有効量含むことが好ましい。非クロム表面処理剤溶液は酸化チタン超微粉末を0.3〜2重量%、好ましくは0.5〜1.5重量%含む。
【0031】
本発明による亜鉛表面を有する金属部材の非クロム防錆処理方法において、非クロム表面処理剤溶液がシランカップリング剤を有効量含むことが好ましい。非クロム表面処理剤溶液は好ましくはシランカップリング剤を4〜16重量%、より好ましくは6〜14重量%含む。
【0032】
本発明による亜鉛表面を有する金属部材の非クロム防錆処理方法では、非クロム化成処理液として燐酸亜鉛を主成分とする水溶液を用いることができる。非クロム化成処理液が亜鉛イオンを0.5g/リットル〜5g/リットルと燐酸イオンを2.0g/リットル〜20g/リットル含んでいることが好ましい。
【0033】
本発明の非クロム防錆処理がされた亜鉛表面を有する金属部材は、亜鉛表面を有する金属部材の亜鉛表面に化成処理膜が形成されており、この化成処理膜の表面に一次粒子の平均粒径が40nm以下である酸化チタン超微粉末を有効量含む厚さ0.5〜3μmのシリカ質皮膜が被覆されていることを特徴とする。このシリカ質皮膜は2〜10重量%の酸化チタン超微粉末を含んでいるのが好ましく、シリカを65重量%以上含んでいることが好ましい。
【0034】
本発明による非クロム防錆処理がされた亜鉛表面を有する金属部材は、その亜鉛表面に燐酸亜鉛を主成分とする化成処理膜が形成されていることが好ましい。
【0035】
本発明による他の非クロム防錆処理がされた亜鉛表面を有する金属部材は、その亜鉛表面に化成処理膜が形成され、さらにその表面に、アルコキシシランオリゴマーのアルコール溶液を主成分とする表面処理剤溶液が塗布され、厚さ0.5〜3μmのシリカ質被膜で被覆されている。
【0036】
本発明による非クロム防錆処理がされた亜鉛表面を有する金属部材は、化成処理液がクエン酸を0.5〜5g/リットル含む水溶液であることが好ましい。さらに、本発明によるクエン酸を含む化成処理液が、クエン酸の他に水性シリカゾルをシリカに換算して2〜20g/リットル含み、亜鉛イオンを0.6〜6g/リットル含むものであることが好ましい。
【0037】
本発明による非クロム防錆処理がされた亜鉛表面を有する金属部材は、その化成処理膜が暗色であることができる。すなわち、マンセル表色系で明度が4以下であることが好ましい。
【0038】
本発明による非クロム防錆処理がされた亜鉛表面を有する金属部材は、金属部材がバレル法で電気亜鉛めっきされたねじ部外径が3mm以下の小ねじであることが好ましい。
【発明の効果】
【0039】
本発明の亜鉛表面を有する金属部材の非クロム防錆処理方法を適用することにより、亜鉛表面の亜鉛が酸化して生ずる白錆の発生を、単に非クロム表面処理剤のみを塗布したときと比べて長時間抑止することができる。この効果は表面処理剤を塗布したときに劣った防錆性能しか示さない亜鉛表面を有する金属部材に適用したときに顕著である。
【0040】
また、従来水性の非クロム表面処理剤による処理では困難であった白錆発生の防止を、本発明の非クロム防錆処理方法、即ち非クロム化成処理と水とアルコールとの混合溶媒を使った水性表面処理剤溶液とを組み合わせた表面処理方法の適用により、実用性があるとされる72時間以上に亙って白錆の発生を抑止できる。
【0041】
また、亜鉛めっきが施された小ねじ類においては、めっき電流密度が一部の表面に偏ることに起因して、白錆生成の抑止に有効なアルコール溶媒の非クロム表面処理剤溶液を塗布しても白錆の発生を長時間抑止できないという問題があったが、前処理として化成処理を施す本発明の非クロム防錆処理方法を適用することにより、白錆の発生を長時間抑止できるという効果が得られる。
【0042】
また、亜鉛を主成分とする合金のダイカスト部材についても、本発明の非クロム防錆処理方法を適用することにより、白錆の発生を長時間抑止できる。
【0043】
また、クエン酸系の化成処理剤を使うと、亜鉛表面を梨地にしないで化成処理でき、希い硝酸を使って洗うピクリング処理がされた亜鉛表面にクエン酸系の化成処理を行ってからアルコール溶媒の表面処理剤溶液を塗布することにより白錆が発生する迄の時間を延長できる。
【0044】
また、亜鉛めっき表面に燐酸亜鉛化成処理を施してから表面処理剤を塗布した鉄板では、耐光性試験に供した後において、塩水噴霧試験で評価したときの防錆性能の劣化が少なくなるという効果がある。耐光性試験は自動車の内部部品の評価に日本で一般に適用されている方法である。燐酸亜鉛化成処理を前処理として行うと、表面処理した亜鉛めっき鋼板は耐光性試験をした後でも優れた防錆性能を示す。
【0045】
さらに、水素脆性を避けるために行うベーキングによる黄色い着色をクエン酸系の化成処理剤で脱色することができ、その上にアルコール溶媒の表面処理剤溶液を塗布することによって実用性があるとされる72時間以上に亙って白錆の発生を抑止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
本発明者らは、金属部材の表面に非クロム化成処理、好ましくは燐酸亜鉛化成処理を行い、シリカ質皮膜を形成するアルコール溶媒又は水とアルコールとの混合溶媒を用いた表面処理剤溶液を塗布して金属部材の表面にシリカ質皮膜を形成すると、亜鉛表面を有する金属部材の白錆の発生に対する防錆性能を顕著に向上させられることを見出した。混合溶液は好ましくは15〜40重量%のアルコール成分を含む。
【0047】
本発明において、シリカ質皮膜の意味は、シリカ(SiO)を主成分とする皮膜、好ましくはシリカを65重量%以上含む皮膜である。
【0048】
シリカ質皮膜を形成するアルコール溶媒又は水とアルコールとの混合溶媒を用いた表面処理剤と処理される亜鉛表面との相性が悪いと、これら表面処理剤を塗布したとき、JISに基づく塩水噴霧試験において24時間以内に白錆が発生する。しかし、予め亜鉛表面に化成処理を施しておくと、塩水噴霧試験で白錆が発生するまでの時間を72時間以上にまで延長することができる。
【0049】
他方、塩水噴霧試験で赤錆が発生するまでの時間は、処理条件によって変動するが、亜鉛層が厚ければ長くなる。
【0050】
非クロム化成処理は、市販の化成処理剤を使って指定された処方で亜鉛表面を有する金属部材の表面に施すことができる。しかし化成処理剤の種類によって得られる最終製品の防錆性能に差が出るので、予め試験をして防錆性能を確実に向上させられる非クロム化成処理剤を選ぶのが好ましい。
【0051】
種々ある非クロム化成処理の内、比較的安定して防錆性能が向上するのは燐酸亜鉛化成処理である。めっきされた亜鉛表面に化成処理を施すと、亜鉛めっき層の厚さが消耗して赤錆の発生が早くなるので、厚い化成処理膜は形成しないのが好ましい。化成処理された亜鉛表面は、多くの場合梨地になって表面処理剤の皮膜との密着性が向上するので、これも化成処理を施すことによって表面処理剤を塗布したとき防錆性能が向上する一つの理由と考えられる。
【0052】
亜鉛表面の処理に使う非クロム化成処理剤の中には、亜鉛表面の色を暗色から黒色に着色できるものがある。本発明で用いる表面処理剤で形成される皮膜は無色透明であるので、化成処理で着色した色はそのまま製品の色とすることができる。着色する種類の化成処理を行えば、本発明の非クロム防錆処理方法を、亜鉛表面を有する金属部材の着色方法として利用することができる。
【0053】
亜鉛表面を有する金属部材として多いのは亜鉛めっきされた金属部材であり、亜鉛めっきには電気亜鉛めっきと溶融亜鉛めっきとがある。さらに、何れにも亜鉛合金めっきがある。亜鉛めっきや亜鉛合金めっきの他、亜鉛を主成分とする合金の鋳造品(ダイカスト品を含む)に対しても本発明の非クロム防錆処理方法を適用できる。
【0054】
シリカ質皮膜を形成する、アルコール溶媒の非クロム表面処理剤溶液は、重量平均分子量が1000〜10000のアルコキシシランオリゴマーをシリカに変化する成分として含むことが好ましい。アルコキシシランの重量平均分子量が1000より小さいと表面処理剤の防錆性能が低下し、10000より大きいと表面処理剤溶液が不安定になって表面処理剤のゲル化が起き易い。ゲル化が進行すると表面処理剤の防錆性能が損なわれ、ポットライフが尽きる。
【0055】
少し防錆性能は劣るが、重量平均分子量が1000より小さいアルコキシシランオリゴマーのアルコール溶液の他、市販のアルコール溶媒のコロイドシリカを、シリカ質皮膜を形成する表面処理剤溶液の主成分として使うことができる。
【0056】
重量平均分子量が1000〜10000のアルコキシシランオリゴマーは、例えばテトラエトキシシランなどのテトラアルコキシシラン、アルキルトリアルコキシシランなどのアルコール溶液(シリカ成分に換算した濃度を予め目標濃度となるようにイソプロピルアルコールなどで希釈しておくのが好ましい)中に塩酸、硝酸、硫酸、酢酸などの酸触媒を少量溶かした水を、オリゴマーが目標とする重量平均分子量になるように混合して加水分解し、縮重合させる。この合成反応は、例えば一昼夜攪拌しながら30〜40℃に保温しておくと縮重合が進んで重量平均分子量が飽和したアルコキシシランオリゴマーが合成される。
【0057】
テトラエトキシシランなどのモノマーを縮重合の原料とする代わりに、予めテトラエトキシシランなどを4量体程度まで縮重合してある市販のオリゴマーを原料に使ってさらに目標とする重量平均分子量となるように縮重合させることもできる。
【0058】
表面処理剤溶液中に配合するシリカ質皮膜を形成する成分は、シリカ成分に換算した量で10〜25重量%となるよう配合するのが好ましい。表面処理剤溶液中には、有効量のシランカップリング剤の他、分散処理された一次粒子の平均粒径が40nm以下である酸化チタン超微粉末を有効量配合するのが好ましい。シランカップリング剤はアルコキシシランオリゴマーのアルコール溶液と混合したとき不安定にならないものを選ぶのが好ましく、特にpHをほとんど変動させないエポキシ官能基を有するシランカップリング剤を使用するのが好ましい。表面処理剤溶液中のシランカップリング剤の好ましい配合量は4〜16重量%である。また、分散処理された酸化チタン超微粉末の好ましい配合量は0.3〜2重量%である。シランカップリング剤の配合量は少ないと防錆性能が小さく、多いとシランカップリング剤が比較的高価なので表面処理剤のコストが嵩む。酸化チタン超微粉末についても同様である。他に、表面処理剤溶液中にポリビニルブチラールなどアルコールに溶ける樹脂を0.2〜2重量%配合するのが好ましい。少量の樹脂成分の添加は、形成される皮膜の硬度を下げ、下地への密着性を向上させるのに有効である。樹脂の配合量が多いと不安定になってゲル化が起き易い。さらにまた、表面処理剤溶液中に分散している酸化チタン超微粉末などの凝集や沈降を防ぐため少量の分散剤を添加しておくのが好ましい。
【0059】
水とアルコールとの混合溶媒を溶媒とする表面処理剤溶液として、市販のコロイドシリカ水溶液を主成分とする表面処理剤溶液を使うことができる。アルコールとしては、イソプロピルアルコール、エチルアルコール、メチルアルコール、ブチルアルコールなどを混合して使うことができる。しかし、コロイドシリカ水溶液のpHがアルカリ側又は酸性側に調整されているため、混合時にpHが変動するとゲル化する傾向があるので、ゲル化を避けるように混合する必要がある。
【0060】
水のみを溶媒とした表面処理剤溶液と比べ、水とアルコールとの混合溶媒を溶媒とするシリカ質皮膜を形成する非クロム表面処理剤溶液を用いることにより、非クロム化成処理が施された亜鉛めっき表面に塗布したときに白錆の発生を抑制する防錆性能が明らかに向上する。本発明に使用する非クロム水性表面処理剤溶液では、その溶媒の少なくとも10重量%がアルコールであることが必要であり、溶媒中の水とアルコールとの混合割合(重量比)は、好ましくは6:4〜9:1、さらに好ましくは7:3〜8:2である。水とアルコールとを溶媒とする表面処理剤溶液においても、好ましくは分散処理された一次粒子の平均粒径が40nm以下である酸化チタン超微粉末を有効量配合する。さらに好ましくは、有効量のシランカップリング剤を配合する。
【0061】
好ましい酸化チタン超微粉末の表面処理剤溶液中への配合量は0.3〜2重量%、さらに好ましくは0.5〜1.5重量%である。分散処理された酸化チタン超微粉末を配合することにより、塩水噴霧試験における赤錆発生を長時間抑制する効果が得られる。酸化チタン超微粉末の配合量が多く、分散が完全でないときシリカ質皮膜が白く着色する傾向があり、表面処理剤がコスト高になる。この場合、シリカ質皮膜中における酸化チタン超微粉末の含有量を2〜10重量%とするのが好ましい。
【0062】
酸化チタン超微粉末は光触媒用として市販されているものを使用することができる。しかし、市販の光触媒用酸化チタン超微粉末は、通常10〜40nmの一次粒子が多数集まった二次粒子からなる粉末になっているので、少ない添加量で防錆性能を向上させる効果を得るため分散処理が必要である。分散処理は、市販の酸化チタン超微粉末を好ましくはエチルセロソルブやプロピレングリコールモノメチルエーテル、n−ブチルアルコールなどの高沸点アルコールと混合してスラリーとし、このスラリーをビーズミルなどにより分散処理する。表面処理剤溶液中への酸化チタン超微粉末の配合は分散処理したスラリーの状態で配合するのが好ましい。ミクロンサイズの二次粒子からなっている酸化チタン超微粉末をナノサイズの一次粒子に解砕することは容易でなく、酸化チタン超微粉末スラリーをビーズミルで分散処理しても平均粒径が100nmレベルの二次粒子に留まることが多い。しかし、分散処理を行うことによって少量の酸化チタン超微粉末の添加で表面処理剤による防錆性能の向上効果を得ることができる。
【0063】
表面処理剤溶液中への好ましいシランカップリング剤の配合量は、4〜16重量%である。シランカップリング剤を配合することによって、コロイドシリカ水溶液中にアルコールや酸化チタン超微粉末スラリーを混合するときのゲル化を抑制することができ、表面処理剤のポットライフを延長することができる。シランカップリング剤の配合量が少ないと配合した効果が得られず、配合量が多いと表面処理剤がコスト高になる。表面処理剤溶液中へのシランカップリング剤のさらに好ましい配合量は6〜14重量%である。
【0064】
表面処理剤溶液の亜鉛表面を有する金属部材への塗布は、亜鉛めっきされたボルトやナットなどの小物ではディップアンドスピン法で行うのが好ましい。ディップアンドスピン法を適用できないときにはディップドレイン法、スプレー法、ロールコーター法など種々の方法を利用できる。ディップアンドスピン法で行う塗布はワンコートワンベークで防錆性能を充分向上させられる。しかし、2回繰り返す(2コート、2ベーク)ことによって表面処理剤の皮膜で亜鉛の全表面を覆うことができ、これにより金属部材個々の防錆性能のバラツキを少なくすることができる。
【0065】
低分子量のアルコールは蒸発しやすいので、表面処理剤を塗布した後室内に放置しておけば乾いたシリカ質皮膜を形成できる。しかし、アルコールの気化に伴って結露が起きることがあるので、これを避けるため高沸点のアルコールを混合して蒸発を抑制するのが好ましい。好ましくは表面処理剤を90〜150℃で15分程焼付ける。焼付け温度が低いと防錆性能が低下し、高過ぎると表面処理剤の皮膜が剥離しやすくなる。
【0066】
亜鉛表面に形成する非クロム表面処理剤の皮膜の平均厚さは0.5〜3μmとする。0.5μmより薄いと防錆性能が低下し、3μmより厚くしても防錆性能の向上は見込めず、皮膜が厚いと皮膜が剥離しやすくなる傾向がある。より好ましい皮膜の平均厚さは1〜2μmである。塗布する非クロム表面処理剤の皮膜の厚さは、亜鉛表面を有する金属部材に要求される防錆性能のレベルによって変えることができる。
【0067】
外径が3mm以下の小さいボルトやねじなどにバレルで電気亜鉛めっきを施し、このめっき表面に表面処理剤を塗布したときに期待したレベルの防錆性能が得られない現象は、バレル中に仕込んだ多数のボルトやねじの一部の表面に大きな密度のめっき電流が偏って流れることに起因するものと考えられる。
【0068】
本発明者らは、表面処理剤を塗布しても期待したレベルの防錆性能を付与出来なかったこの小さな亜鉛めっきボルトに燐酸亜鉛化成処理を施し、この化成処理された表面にシリカ質の皮膜を形成する非クロム表面処理剤を塗布したところ、白錆に対する防錆性能が顕著に向上することを認めた。
【0069】
本発明において、防錆性能の評価はJIS−Z−2371に規定された塩水噴霧試験法に準じて行う。即ち、試験機内で5重量%濃度の食塩水を噴霧し、温度を35℃に保持し、24時間毎に白錆と赤錆の発生状況を調べる方法を採用した。従って、72時間以上白錆が出ないというのは、96時間以上で白錆の発生が認められた場合を言う。72時間以上白錆が出ないという条件が充たされれば、金属部材の使える用途が多く存在するので、72時間以上白錆の発生を抑止できるという条件を付けた。めっき条件を含む種々の表面処理条件の組み合わせが適切であれば144時間以上、さらには288時間以上白錆の発生を抑止できる金属部材を提供できる。
【0070】
防錆性能は表面処理条件の組み合わせの適否の他に、亜鉛めっきの厚さによっても変動する。例えば化成処理によって亜鉛めっき層が消耗されて薄くなると、めっき層が薄くなった分赤錆が早く発生する。このため化成処理膜は、必要な厚さを超える厚さにならないよう調節するのが好ましい。本発明の非クロム防錆処理方法で表面処理された亜鉛めっき金属部材を塩水噴霧試験機に入れたときの赤錆発生は、通常300時間から2000時間で起きる。
【実施例】
【0071】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0072】
試験に用いる非クロム表面処理剤溶液を以下の手順で調製した。先ず、酸化チタン超微粉末(昭和電工(株)製のスーパータイタニアF−6、一次粒子の平均粒径約15nm)1重量部に対してエチルセロソルブ5重量部を混合してスラリーとし、このスラリーをボールミル(容器に容量2リットルの広口ポリプロピレン瓶を用い、この容器に直径3mmと5mmのジルコニアボールを同重量混合した粉砕ボールを5kgと、ジルコニアボール層の上面と略同レベルとなる量のスラリーを入れて密封し、広口ポリプロピレン瓶が縦方向に回転するよう、約60RPMで回転する架台上に載せた容器中に収容)に入れて48時間分散処理を行い、酸化チタン超微粉末分散スラリー1を得た。
【0073】
同様にして、酸化チタン超微粉末(多木化学(株)製のタイノックA−100、一次粒子の平均粒径約10nm)1重量部に対しプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)を5重量部混合してスラリーとし、同様にボールミルで48時間分散処理して酸化チタン超微粉末分散スラリー2を得た。
【0074】
また、酸化チタン超微粉末(スーパータイタニアF−6)1重量部に対してイオン交換水5重量部を混合してスラリーとし、同様にしてボールミルで48時間分散処理をし、水系の酸化チタン超微粉末分散スラリー3を得た。ここで調製した酸化チタン超微粉末分散スラリー1,2および3の組成を表1に纏めて示す。
【0075】
【表1】

【0076】
次に、テトラエトキシシランのイソプロピルアルコール希釈液に少量の塩酸と水を加えて攪拌しつつ35℃に保温して加水分解と縮重合反応を24時間行い、重量平均分子量が約2200(ポリスチレン標準を使い、テトラヒドロフランを溶媒としてゲルパーミエイションクロマトグラフ(東ソー(株)製の型式HLC−8120GPC)で測定した。)のアルコキシシランオリゴマー(シリカ成分換算濃度が約20重量%、pH約3.5)を合成した。
【0077】
このアルコキシシランオリゴマー65重量部に対し、エポキシ基を有するシランカップリング剤(東芝GEシリコーン(株)のTSL8350、シリカ成分換算濃度が約25重量%)5重量部、ポリビニルブチラール(積水化学工業(株)製のエスレックBM−1)をエチルセロソルブに溶かした10重量%の溶液5重量部、エチルセロソルブ5重量部、イソプロピルアルコール5重量部、及び6重量部の酸化チタン超微粉末分散スラリー1を混合してアルコール溶媒の非クロム表面処理剤溶液1を得た。
【0078】
また、コロイドシリカ水溶液(日産化学工業(株)製のスノーテックスXS、コロイドシリカ粒子の平均粒径約5nm、pH約11、シリカ成分を約20重量%含む)60重量部に対し、シランカップリング剤(東芝GEシリコーン(株)のTSL8350)10重量部、イソプロピルアルコール10重量部、及び6重量部の酸化チタン超微粉末分散スラリー2を混合したものに、消泡剤を兼ねた濡れ剤としてダイノール604(日信化学工業(株)製)を0.05重量部添加して水とアルコールを溶媒とする非クロム表面処理剤溶液2を得た。
【0079】
さらに、コロイドシリカ水溶液(日産化学工業(株)製のスノーテックスXS)72重量部に対し、エポキシ基を有するシランカップリング剤(東芝GEシリコーン(株)のTSL8350)8重量部、水系の酸化チタン超微粉末分散スラリー3の6重量部を混合したものに、ダイノール604(日信化学工業(株)製)を0.06重量部添加して水を溶媒とする非クロム表面処理剤溶液3を得た。
【0080】
更に、非クロム表面処理剤溶液1に使用したのと同じ重量平均分子量が2200のアルコキシシランオリゴマーを123重量部、ポリビニルブチラール(積水化学工業(株)製のBL−1)をイソプロピルアルコールに溶かした10重量%溶液を9重量部、イソプロピルアルコール溶媒のシリカゾル液(日産化学工業(株)製のIPA−ST(シリカ成分を約30重量%含む))を14.7重量部、エチルセロソルブ17.1重量部およびイソプロピルアルコール14.6重量部を混合してアルコール溶媒の非クロム表面処理剤溶液4を調整した。ここで調製した非クロム表面処理剤溶液1、2、3および4の配合組成を表2に纏めて示す。
【0081】
【表2】

【0082】
次に試験用の化成処理液を調製した。亜鉛1.0g/リットル、ニッケル0.05g/リットル、マグネシウム1.0g/リットル、燐酸イオン4.0g/リットル、硝酸イオン2.5g/リットル、亜硝酸イオン0.05g/リットル、残部は水となるように燐酸亜鉛四水和物、塩基性炭酸ニッケル(II)水和物、第二燐酸マグネシウム、85重量%燐酸、60重量%硝酸、亜硝酸ナトリウム及びイオン交換水を混合して非クロム化成処理液1を得た。
【0083】
また、亜鉛0.8g/リットル、マグネシウム2.0g/リットル、燐酸イオン8.0g/リットル、硝酸イオン4.0g/リットル、亜硝酸イオン0.05g/リットル、フッ素イオン0.01g/リットル、残部は水となるように燐酸亜鉛四水和物、第二燐酸マグネシウム、85重量%燐酸、60重量%硝酸、亜硝酸ナトリウム、フッ化水素酸及びイオン交換水を混合して非クロム化成処理液2を得た。
【0084】
他に、ケミコート(株)製の燐酸亜鉛化成処理液(ケミコートNo.422、非クロム化成処理液3と呼ぶ)と表面調製剤のケミクロンS−2(ケミコート(株)製の前処理剤、チタニアゾルを含む)を準備した。表3に非クロム化成処理液1,2および3の組成を纏めて示す。
【0085】
【表3】

【0086】
亜鉛表面を有する金属部材表面への非クロム表面処理剤溶液の塗布は、塗装方法の一種であるディップアンドスピン法で行った。即ち、白あげ亜鉛めっきボルト等(クロメート処理なし)を表面処理剤溶液中に浸漬して濡らし、取り出して遠心分離機に取り付けたステンレス籠に移し、回転半径約15cm、回転数約500RPMで約4秒間回転させ、遠心力でボルト等の表面に付着している余分の表面処理剤溶液を振り落とす塗布方法で塗布した。
【0087】
防錆性能の評価は、JIS−Z−2371に基づく塩水噴霧試験機によって行い、24時間毎に肉眼でサンプルの表面(水シャワーで洗った)を観察して白錆と赤錆の発生をチェックした。各サンプルの防錆性能は、3本の内2本に白錆と赤錆が発生した時間で記録し、評価した。
【0088】
実施例1と比較例1
A社の塩化亜鉛浴による白あげ(クロメート処理なし)亜鉛めっきボルト(M8、半ねじ、ねじ部長さ約20mm)3本を前処理剤のケミクロンS−2に30秒間浸し、次いで60℃に保温した非クロム化成処理液3に30秒間浸して亜鉛表面に燐酸亜鉛化成処理を施し、水洗して乾かした。この亜鉛めっきボルトの表面は化成処理によって梨地になり、亜鉛めっきの光沢が消えていた。この化成処理した亜鉛めっきボルトに非クロム表面処理剤溶液1を前述のディップアンドスピン法で塗布し、80℃で10分保持後150℃に昇温して20分間この温度に保持し、非クロム表面処理剤を焼付けた(実施例1)。
【0089】
別途、A社の塩化亜鉛浴で亜鉛めっきされた白あげ亜鉛めっきボルト3本にアルコール溶媒の非クロム表面処理剤溶液1をディップアンドスピン法で塗布し、80℃で10分保持後150℃に昇温して20分間保持し、非クロム表面処理剤を焼付けた(比較例1)。
【0090】
実施例1と比較例1の非クロム表面処理をした亜鉛めっきボルトをJIS−Z−2371に基づく塩水噴霧試験機に入れて防錆性能を評価した。その結果、実施例1の非クロム表面処理をした亜鉛めっきボルトは、192時間で白錆が発生し、672時間で赤錆が発生した。他方、比較例1の亜鉛めっきボルトは48時間で白錆が発生し、600時間で赤錆が発生した。即ち、実施例1と比較例1とを比べ、非クロム表面処理剤との相性が悪い(非クロム表面処理剤溶液を塗布したときの防錆性能が不良)亜鉛めっきボルトであっても、燐酸亜鉛化成処理を施してから表面処理剤を塗布することによって、表面処理剤を塗布したとき白錆の発生に対する防錆性能が顕著に向上することが分かる。
【0091】
実施例2と比較例2
同じA社によるシアン浴の白あげ(クロメート処理なし)亜鉛めっきボルト(M8半ねじ、ねじ部長さ約20mm)3本を、実施例1と同様に前処理剤のケミクロンS−2に30秒浸し、次いで60℃に保温した非クロム化成処理液3中に30秒浸して亜鉛表面に燐酸亜鉛化成処理を施し、水洗して乾かした。この亜鉛めっきボルトの表面は化成処理で梨地になった。この化成処理をした亜鉛めっきボルトに非クロム表面処理剤溶液1を塗布し、80℃で10分保持し、次いで150℃に昇温して20分間保持し、非クロム表面処理剤を焼付けた(実施例2)。
【0092】
次に、同じA社によるシアン浴の白あげ(クロメート処理なし)亜鉛めっきボルト(非クロム表面処理剤との相性が悪い)3本に、比較例1と同様にしてアルコール溶媒の非クロム表面処理剤溶液1をディップアンドスピン法で塗布し、80℃に10分保持して乾かし、次いで150℃に昇温して20分間保持し、非クロム表面処理剤を焼付けた(比較例2)。実施例2と比較例2の非クロム表面処理をした亜鉛めっきボルトをJIS−Z−2371に基づく塩水噴霧試験機に入れて防錆性能を評価した。その結果、実施例2の非クロム表面処理をした亜鉛めっきボルトでは、192時間で白錆が発生し、624時間で赤錆が発生した。これに対し、比較例2の亜鉛めっきボルトでは48時間で白錆が発生し、648時間で赤錆が発生した。
【0093】
実施例3と実施例4
A社による塩化亜鉛浴の白あげ亜鉛めっきボルト(実施例1と同じ白あげ亜鉛めっきボルト)とシアン浴の白あげ亜鉛めっきボルト(実施例2と同じ白あげ亜鉛めっきボルト)各3本を前処理剤のケミクロンS−2に30秒浸し、次いで60℃に保温した非クロム化成処理液1で化成処理した(いずれも色が黒っぽく変色)。次にこれら化成処理した亜鉛めっきボルトに、非クロム表面処理剤溶液1を塗布し、80℃で10分保持して乾かし、150℃に昇温して20分間保持し、非クロム表面処理剤を焼付け、それぞれ実施例3と実施例4の非クロム表面処理をした亜鉛めっきボルトを得た。実施例3と実施例4の非クロム表面処理をした亜鉛めっきボルトを塩水噴霧試験機に入れ、防錆性能を調べた結果、実施例3のボルトは148時間で白錆が発生して576時間で赤錆が発生し、実施例4のボルトは148時間で白錆が発生して648時間で赤錆が発生した。
【0094】
実施例5と比較例3
B社による塩化亜鉛浴白あげ亜鉛めっきボルト(この亜鉛めっきボルトは表面処理剤との相性が比較的良好)3本をケミクロンS−2(前処理剤)に30秒間浸し、次いで60℃に保温した非クロム化成処理液2に30秒間浸して燐酸亜鉛化成処理を施した(このとき亜鉛めっき表面が梨地になった)。次に非クロム表面処理剤溶液1を実施例1と同様にして塗布し、実施例5の非クロム表面処理をした亜鉛めっきボルトを得た。別途、B社の塩化亜鉛浴白あげ亜鉛めっきボルト3本に非クロム表面処理剤溶液1を比較例1と同様にして塗布し、比較例3の非クロム表面処理をした亜鉛めっきボルトを得た。これらのボルト各3本を塩水噴霧試験機に入れ、防錆性能を調べた結果、実施例5のボルトは260時間で白錆が発生し、1680時間で赤錆が発生した。他方、比較例3の非クロム表面処理をした亜鉛めっきボルトは192時間で白錆が発生し、1704時間で赤錆が発生した。
【0095】
実施例6と比較例4
C社によるジンケート浴白あげ亜鉛めっきボルト(この亜鉛めっきボルトは表面処理剤との相性が比較的良好)3本をケミクロンS−2に30秒間浸し、次いで60℃に保持した非クロム化成処理液3に30秒間浸して燐酸亜鉛化成処理を施した(このとき亜鉛めっき表面は亜鉛の金属光沢が消えて梨地になった)。次に非クロム表面処理剤溶液1を実施例1と同様にして塗布し、実施例6の非クロム表面処理をした亜鉛めっきボルトを得た。別途、C社のジンケート浴白あげ亜鉛めっきボルト3本に非クロム表面処理剤溶液1を比較例1と同様にして塗布し、比較例4の非クロム表面処理をした亜鉛めっきボルトを得た。これらのボルト各3本を塩水噴霧試験機に入れ、防錆性能を調べた結果、実施例6のボルトは240時間で白錆が発生し、1200時間で赤錆が発生した。他方、比較例4の非クロム表面処理をした亜鉛めっきボルトは168時間で白錆が発生し、1704時間で赤錆が発生した。
【0096】
実施例7と比較例5
バレル容積が約2.9リットルの小型バレルめっき装置のバスにディップソール(株)製のジンケート亜鉛めっき浴を建浴した。次いで酸洗及びアルカリ脱脂処理したM8半ねじボルト(ねじ部長さ約20mm)80本(約1.7Kg)をバレル中に入れ、平均電流密度が0.8〜1.0A/dmとなるように設定し、めっき浴に浸したバレルを9RPMで回転させながらめっき電流を約30分間通じてボルト表面に平均厚さ約10μmの亜鉛めっきを施した。希硝酸洗い(ピクリング)を省略して水洗したこの亜鉛めっきボルト3本をケミクロンS−2に30秒間浸し、次いで60℃に保温した非クロム化成処理液3に30秒間浸して燐酸亜鉛化成処理を施した(このとき亜鉛めっき表面は亜鉛の金属光沢が消えて梨地になった)。水洗して乾燥後、非クロム表面処理剤溶液1を実施例1と同様にして塗布し、実施例7の非クロム表面処理をした亜鉛めっきボルトを得た。また、同じ種類の亜鉛めっきボルト3本に非クロム表面処理剤溶液1を比較例1と同様にして塗布し、比較例5の非クロム表面処理をした亜鉛めっきボルトを得た。
【0097】
これらのボルト各3本を塩水噴霧試験機に入れ、防錆性能を調べた結果、実施例7のボルトは216時間で白錆が発生し、1104時間で赤錆が発生した。他方、比較例5の非クロム表面処理をした亜鉛めっきボルトは192時間で白錆が発生し、1128時間で赤錆が発生した。
【0098】
実施例8と比較例6
容積1.6リットルのバレルを備えた小型バレルめっき装置にディップソール(株)製のジンケート亜鉛めっき浴を建浴し、M2.5の小ねじ約300gをバレルに入れて小ねじに亜鉛めっきを施した。めっき条件は平均電流密度が1.0A/dmとなるように設定し、めっき浴に浸したバレルを10RPMで回転させながら、約22分間めっき電流を流して小ねじ表面に平均厚さ約7μmの亜鉛めっきを施した。
【0099】
この亜鉛めっき小ねじ3本をケミクロンS−2に30秒間浸し、次いで60℃に保持した非クロム化成処理液3に30秒間浸して燐酸亜鉛化成処理を施した(このとき亜鉛めっき表面は亜鉛の金属光沢が消えて梨地になった)。水洗して乾燥後、非クロム表面処理剤溶液1を実施例1と同様にして塗布し、実施例8の非クロム表面処理をした亜鉛めっきボルトを得た。また、同じ種類の亜鉛めっき小ねじ3本に非クロム表面処理剤溶液1を比較例1と同様にして塗布し、比較例6の非クロム表面処理をした亜鉛めっきボルトを得た。
【0100】
これらの小ねじ各3本を塩水噴霧試験機に入れ、防錆性能を調べた結果、実施例8の小ねじは168時間で白錆が発生し、504時間で赤錆が発生した。他方、比較例6の非クロム表面処理をした亜鉛めっき小ねじは124時間で白錆が発生し、552時間で赤錆が発生した。
【0101】
実施例9と比較例7
D社の塩化浴で亜鉛めっきされたM2の小ねじ(ねじ部長さ3mm)3個をケミクロンS−2に30秒漬け、次いで60℃に保温した非クロム化成処理液3中に30秒間浸して化成処理を施した(表面が梨地になった)。この化成処理された表面に非クロム表面処理剤溶液1を実施例1と同様にして塗布し、焼き付け、実施例9の亜鉛めっき小ねじを得た。別途、D社の塩化浴で亜鉛めっきされたM2小ねじ3本に非クロム表面処理剤溶液1を比較例1と同様にして塗布し、比較例7の非クロム表面処理をした亜鉛めっき小ねじを得た。これらの小ねじ各3本を塩水噴霧試験機に入れ、防錆性能を調べた結果、実施例9の小ねじは168時間で白錆が発生し、216時間で赤錆が発生した。他方、比較例7の非クロム表面処理をした亜鉛めっき小ねじは24時間で白錆が発生し、144時間で赤錆が発生した。
【0102】
実施例10と比較例8
C社によるジンケート浴白あげ亜鉛めっきボルト(実施例6と同じボルト)3本をケミクロンS−2に30秒間浸し、次いで60℃に保持した非クロム化成処理液3に30秒間浸して燐酸亜鉛化成処理を施した(亜鉛めっき表面は金属光沢が消えて梨地になった)。水洗して乾燥後、水とアルコールの混合溶媒の非クロム表面処理剤溶液2を実施例1と同様にして塗布し、実施例10の非クロム表面処理をした亜鉛めっきボルトを得た。別途、C社のジンケート浴白あげ亜鉛めっきボルト3本に非クロム表面処理剤溶液2を比較例1と同様にして塗布し、比較例8の非クロム表面処理をした亜鉛めっきボルトを得た。これらのボルト各3本を塩水噴霧試験機に入れ、防錆性能を調べた結果、実施例10のボルトは120時間で白錆が発生し、1176時間で赤錆が発生した。他方、比較例8の非クロム表面処理をした亜鉛めっきボルトは24時間で白錆が発生し、1200時間で赤錆が発生した。
【0103】
比較例9と比較例10
C社によるジンケート浴亜鉛めっきボルト(白あげ)3本をケミクロンS−2に30秒間浸し、次いで60℃に保温した非クロム化成処理液3に30秒間浸して燐酸亜鉛化成処理を施した(亜鉛めっき表面は光沢が消え梨地になった)。次に水を溶媒とする非クロム表面処理剤溶液3を実施例1と同様にして塗布し、比較例9の非クロム表面処理をした亜鉛めっきボルトを得た。別途、C社のジンケート浴白あげ亜鉛めっきボルト3本に非クロム表面処理剤溶液3を比較例1と同様にして塗布し、比較例10の非クロム表面処理をした亜鉛めっきボルトを得た。これらのボルト各3本を塩水噴霧試験機に入れ、防錆性能を調べた結果、比較例9のボルトは24時間で白錆が発生し、1128時間で赤錆が発生した。他方、比較例10の非クロム表面処理をした亜鉛めっきボルトは24時間で白錆が発生し、1152時間で赤錆が発生した。
【0104】
実施例11と比較例11
亜鉛ダイカスト部材(直径約10mm、内径6mm、長さ約15mm)3個を脱脂処理後にケミクロンS−2に30秒間浸し、次いで60℃に保温した非クロム化成処理液3に30秒間浸して亜鉛表面に燐酸亜鉛化成処理を施した(表面が梨地になる)。次に非クロム表面処理剤溶液1を実施例1と同様にして塗布し、実施例11の非クロム表面処理をした亜鉛ダイカスト部材を得た。別途、同じ種類の亜鉛ダイカスト部材3個に非クロム表面処理剤溶液1を比較例1と同様にして塗布し、比較例11の非クロム表面処理をした亜鉛ダイカスト部材を得た。
【0105】
これらの亜鉛ダイカスト部材各3個を塩水噴霧試験機に入れ、防錆性能を調べた結果、実施例11の亜鉛ダイカスト部材は432時間で白錆が発生した(亜鉛なので赤錆は出ない)。他方、比較例11の非クロム表面処理をした亜鉛ダイカスト部材は192時間で白錆が発生した。
【0106】
上に述べた実施例1〜11と比較例1〜11とを纏めて表4に示す。
【0107】
【表4】

【0108】
実施例12から15及び比較例12から15
ジンケート浴で亜鉛めっきした鉄板(寸法50×50×2mm、めっき厚さ8μm)と塩化浴で亜鉛めっきした鉄板(寸法50×50×2mm、めっき厚さ7μm)を入手した。このジンケート浴で亜鉛めっきした鉄板について、非クロム化成処理液3で化成処理したサンプル(実施例12)と化成処理しないサンプル(比較例12)とを準備した。また、塩化浴で亜鉛めっきした鉄板を同様に非クロム化成処理液3で化成処理したサンプル(実施例13)と化成処理しないサンプル(比較例13)とを準備した。
【0109】
これら実施例12と13および比較例12と13のサンプルにアルコール溶媒系の非クロム表面処理剤溶液1をディップアンドスピン法で塗布して130℃で焼付けた。実施例12と13および比較例12と13からそれぞれ数個のサンプルをJASO M346に基づく耐光性試験装置に入れた。非クロム化成処理液3で化成処理をした実施例12と13のサンプルのうち耐光性試験で光曝射をしたサンプルをそれぞれ実施例14と15のサンプルとする。また、非クロム化成処理液3で化成処理をした比較例12と13のサンプルのうち耐光性試験で光曝射をしたサンプルをそれぞれ比較例14と15のサンプルとする。
【0110】
耐光性試験装置に入れたサンプルと耐光性試験装置に入れなかったサンプルを同時にJIS−Z−2371塩水に基づく噴霧試験機に入れて防錆性能を評価した。その結果を表5に示す。表5の結果から、化成処理を行った上で表面処理剤を塗布したサンプルは耐光性試験による白錆の発生に対する防錆性能の劣化が少ないことが分かる。
【0111】
【表5】

【0112】
なお、JASO M346は自動車内装部品のキセノンアークランプ(太陽光に近い人工光源)を使う促進耐光性試験方法であり、この試験方法では温度を89±3℃、湿度を50±5%に保持した雰囲気中で波長が300〜400nmの範囲にある光の積算放射露光量が100MJ/mとなるように放射露光する。
【0113】
実施例16と比較例16
イオン交換水1リットル中にクエン酸を1g、水性シリカゾル(日産化学工業(株)製のスノーテックス−O)を30g(シリカ換算で6g)及び塩化亜鉛を3g(亜鉛換算で1.44g)を溶かして表6に示すクエン酸系の非クロム化成処理液4を調製した。
【0114】
【表6】

【0115】
バレル容積が1.6リットルの小型バレルめっき装置にディップソール(株)製のジンケート浴の亜鉛めっき液を建浴し、M3ねじ(ねじ部長さが8mm)1.14Kgをめっき装置のバレルに入れ、めっきの平均電流密度が0.8〜1.0A/dmとなるように設定してバレルを10RPMで回転させ約40分間めっき電流を流し、水洗後乾燥してめっき厚さが9.5μmのM3ねじを得た。
【0116】
この亜鉛めっきしたM3ねじに、水素脆性を防ぐベーキング処理(200℃で4時間加熱)をしたところ、黄色く着色した。この着色したねじを25℃に保持した上記非クロム化成処理液4に10秒間浸し、水洗乾燥したところ、黄色い着色を脱色することができた。化成処理をしたねじ(実施例16)と化成処理をしなかったねじ(黄色に着色している)(比較例16)とにアルコール溶媒系の非クロム表面処理剤溶液1をディップアンドスピン法で塗布して120℃で10分間焼き付けた。
【0117】
実施例16と比較例16とのねじ各10本をJIS−Z−2371に基づく塩水噴霧試験機に入れて防錆性能を評価した結果を表7に示す。表7の結果から、化成処理を行うことによる防錆性能の向上効果は少ないが、この化成処理によって表面を梨地にしないで、ベーキングで発生した黄色い着色を脱色することができるという効果を得た。
【0118】
【表7】

【0119】
実施例17と比較例17
実施例16と同様にしてディップソール(株)製のジンケート浴で亜鉛めっきしたM2.6ねじ(ねじ部長さ14mm、めっき厚さ9.5μm)を、200℃に加熱するベーキング処理を4時間行い、次いで0.2%の希硝酸水溶液に浸すピクリング処理(黄色い着色の脱色)を行いそのまま乾燥したねじ(比較例17)と、ピクリング処理後に25℃の非クロム化成処理液4に10秒間漬けてから乾燥したねじ(実施例17)を準備した。先に準備しておいた非クロム表面処理剤溶液4を、亜鉛めっき後にベーキングしてピクリング処理した比較例17のねじと、ピクリング処理後さらに非クロム化成処理液4に漬けて乾かした実施例17のねじの両方にディップアンドスピン法で塗布した。表面処理を施したこれらのねじ各5本をJIS−Z−2371に基づく塩水噴霧試験機に入れて防錆性能を評価した。その結果、実施例17のねじは144時間後に5本中2本に白錆が認められたのに対し、比較例17のねじでは24時間後に5本中3本に白錆が認められた。この塩水噴霧試験結果も表7に併せて示している。
【0120】
亜鉛めっき後に希い硝酸で洗うピクリングを行った金属製品はアルコール系の非クロム表面処理剤溶液1あるいは4を塗布しても防錆性能が殆ど向上しないが、上記クエン酸系の非クロム化成処理液4で化成処理をしてからアルコール系の非クロム表面処理剤溶液1あるいは4を塗布すると、表面を梨地にしないで実用レベルの防錆性能を付与できることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛表面を有する金属部材の表面に非クロム化成処理液で化成処理を施して化成処理膜を形成し、化成処理膜の表面に、アルコール溶媒又は水とアルコールとの混合溶媒中にシリカ成分又はシリカに変化する成分を含む非クロム表面処理剤溶液を塗布し、平均厚さが0.5〜3μmのシリカ質皮膜を形成する亜鉛表面を有する金属部材の非クロム防錆処理方法。
【請求項2】
非クロム表面処理剤溶液が、シリカ成分又はシリカに変化する成分をシリカに換算して10〜25重量%含む請求項1に記載の亜鉛表面を有する金属部材の非クロム防錆処理方法。
【請求項3】
非クロム表面処理剤溶液が、分散処理された一次粒子の平均粒径40nm以下である酸化チタン超微粉末を0.3〜2重量%含む請求項2に記載の亜鉛表面を有する金属部材の非クロム防錆処理方法。
【請求項4】
非クロム表面処理剤溶液がシランカップリング剤を4〜16重量%含む請求項2に記載の亜鉛表面を有する金属部材の非クロム防錆処理方法。
【請求項5】
非クロム表面処理剤溶液が、水とアルコールとの混合溶媒中にシリカ成分としてコロイドシリカをシリカに換算して10〜25重量%含む請求項2に記載の亜鉛表面を有する金属部材の非クロム防錆処理方法。
【請求項6】
非クロム表面処理剤溶液が、アルコキシシランモノマーを加水分解して縮重合させたアルコキシシランオリゴマーを、シリカに変化する成分として、アルコール溶媒中にシリカに換算して10〜25重量%含む請求項2に記載の亜鉛表面を有する金属部材の非クロム防錆処理方法。
【請求項7】
アルコキシシランオリゴマーの重量平均分子量が1000〜10000である請求項6に記載の亜鉛表面を有する金属部材の非クロム防錆処理方法。
【請求項8】
非クロム化成処理液が燐酸亜鉛を含む水溶液である請求項1に記載の亜鉛表面を有する金属部材の非クロム防錆処理方法。
【請求項9】
非クロム化成処理液が燐酸亜鉛を含む水溶液である請求項2に記載の亜鉛表面を有する金属部材の非クロム防錆処理方法。
【請求項10】
非クロム化成処理液が燐酸亜鉛を含む水溶液である請求項5に記載の亜鉛表面を有する金属部材の非クロム防錆処理方法。
【請求項11】
非クロム化成処理液が燐酸亜鉛を含む水溶液である請求項6に記載の亜鉛表面を有する金属部材の非クロム防錆処理方法。
【請求項12】
非クロム化成処理液がクエン酸を0.5〜5g/リットル含む水溶液である請求項6に記載の亜鉛表面を有する金属部材の非クロム防錆処理方法。
【請求項13】
非クロム化成処理液が更に水性シリカゾルをシリカに換算して2〜20g/リットルと、亜鉛イオンを0.6〜6g/リットルとを含む請求項12に記載の亜鉛表面を有する金属部材の非クロム防錆処理方法。
【請求項14】
亜鉛表面を有する金属部材が亜鉛めっきあるいは亜鉛合金めっきされた金属部材又は亜鉛を主成分とする合金の鋳造品である請求項1に記載の亜鉛表面を有する金属部材の非クロム防錆処理方法。
【請求項15】
亜鉛表面を有する金属部材が、その表面に形成された化成処理膜と、その化成処理膜上に形成された、分散処理された一次粒子の平均粒径が40nm以下である2〜10重量%の酸化チタン超微粉末と65重量%以上のシリカとを含む厚さ0.5〜3μmのシリカ質皮膜で被覆されている非クロム防錆処理がされた亜鉛表面を有する金属部材。
【請求項16】
シリカがアルコキシシランオリゴマーから生成されている請求項15に記載の非クロム防錆処理がされた亜鉛表面を有する金属部材。
【請求項17】
化成処理膜が燐酸亜鉛からなる請求項15に記載の非クロム防錆処理がされた亜鉛表面を有する金属部材。
【請求項18】
化成処理膜が暗色である請求項15に記載の非クロム防錆処理がされた亜鉛表面を有する金属部材。
【請求項19】
金属部材がバレル法で電気亜鉛めっきされたねじ部外径が3mm以下の小ねじである請求項15に記載の非クロム防錆処理がされた亜鉛表面を有する金属部材。
【請求項20】
亜鉛表面を有する金属部材が、その表面に形成された化成処理膜と、その化成処理膜上に形成された、アルコキシシランオリゴマーから生成されている65重量%以上のシリカとを含む厚さ0.5〜3μmのシリカ質皮膜で被覆されている非クロム防錆処理がされた亜鉛表面を有する金属部材。
【請求項21】
化成処理膜が燐酸亜鉛からなる請求項20に記載の非クロム防錆処理がされた亜鉛表面を有する金属部材。
【請求項22】
化成処理膜が暗色である請求項20に記載の非クロム防錆処理がされた亜鉛表面を有する金属部材。
【請求項23】
金属部材がバレル法で電気亜鉛めっきされたねじ部外径が3mm以下の小ねじである請求項20に記載の非クロム防錆処理がされた亜鉛表面を有する金属部材。

【公開番号】特開2006−225761(P2006−225761A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−5537(P2006−5537)
【出願日】平成18年1月13日(2006.1.13)
【出願人】(000154794)株式会社放電精密加工研究所 (29)
【Fターム(参考)】