説明

交通情報処理装置及び交通情報処理方法

【課題】道路において突発事象が発生したか否かを正確に判定可能な交通情報処理装置と交通情報処理方法とを提供すること。
【解決手段】道路LKを複数の道路リンクL1〜道路リンクL5に区分けして交通情報を算出する交通情報処理装置1であって、車両により収集されたプローブ情報を取得するプローブ情報取得手段11と、プローブ情報取得手段11により取得された被測定車両4のプローブ情報に基づいて、被測定車両4の走行位置と予め算出された基準走行位置との差分値を、複数の連続する道路リンクL〜道路リンクLによって成る走行区間Lpqにわたって累積して差分累積値「SL」を算出し、この差分累積値「SL」と被測定車両4の走行速度とに基づいて、走行区間Lpqにおける突発事象の発生の有無を推定する推定手段15とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交通情報処理装置及び交通情報処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、車両の走行履歴情報を含むプローブ情報を用いた交通情報システムが実現されている。このような交通情報システムでは、車両においてプローブ情報が取得・蓄積され、このプローブ情報が路側機を介して収集される。そして、このようにして収集されたプローブ情報に基づいて、渋滞の有無や旅行時間等を含む道路交通情報が算出される。このような道路交通情報は、道路の管轄機関や警察機関等に送信され、安全な道路交通の実現・維持に利用される。例えば、特許文献1には、道路に突発事象(事故等)が発生しているか否かを示す道路交通情報を算出するための技術が開示されている。この場合、道路リンク毎の旅行時間の差異等に基づいて突発事象の発生の有無が判定される。
【特許文献1】特開2005−242424号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特許文献1に記載の技術では、道路リンク毎の旅行時間の差異は、交通量の多少に応じて異なる場合がある。このため、突発事象が発生していないにもかかわらず、単に交通量が多いことによって旅行時間が長くなり突発事象が発生したと判定される場合があり得る。また、突発事象が発生しているにもかかわらず、交通量が少なく車両の流れがスムーズであり旅行時間に大きな変化が生じていないために、突発事象は発生していないと判定される場合もあり得る。このように、旅行時間に基づく突発事象の判定は不正確である。
【0004】
そこで、本発明の目的は、道路において突発事象が発生したか否かを正確に判定可能な交通情報処理装置と交通情報処理方法とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の交通情報処理装置は、道路を複数の道路リンクに区分けして交通情報を算出する交通情報処理装置であって、車両により収集されたプローブ情報を取得するプローブ情報取得手段と、上記プローブ情報取得手段により取得された被測定車両のプローブ情報に基づいて、この被測定車両の走行位置を特徴付ける走行位置情報と、基準となる走行位置を特徴付ける基準走行位置情報との差分を算出し、この算出した差分と上記被測定車両の走行速度とに基づいて突発事象の発生の有無を推定する推定手段とを備える、ことを特徴とする。
【0006】
更に、本発明の交通情報処理装置では、上記走行位置情報は、上記被測定車両の走行位置を示す情報であり、上記基準走行位置情報は、基準となる走行位置を示す情報であってもよい。また、上記走行位置情報は、上記被測定車両の走行位置の標準偏差を示す情報であり、上記基準走行位置情報は、走行位置における基準となる標準偏差を示す情報であってもよい。
【0007】
また、本発明の交通情報処理方法は、道路を複数の道路リンクに区分けして交通情報を算出する交通情報処理方法であって、車両により収集されたプローブ情報を取得するプローブ情報取得工程と、上記プローブ情報取得工程において取得された被測定車両のプローブ情報に基づいて、この被測定車両の走行位置を特徴付ける走行位置情報と、基準となる走行位置を特徴付ける基準走行位置情報との差分を算出し、この算出した差分と上記被測定車両の走行速度とに基づいて突発事象の発生の有無を推定する推定工程とを有する、ことを特徴とする。
【0008】
事故等の突発事象が発生した場合には、被測定車両が突発事象を回避するために行う車線変更に加えて、被測定車両が突発事象を回避するために行う減速が予想できる。この点、本発明の交通情報処理装置及び交通情報処理方法によれば、被測定車両の走行位置を特徴付ける走行位置情報(例えば、走行位置や、走行位置の標準偏差)と、基準となる走行位置を表す基準走行位置情報(例えば、基準走行位置や、走行位置の基準標準偏差)との差分を算出する。このため、この差分を用いることによって、被測定車両が突発事象を回避するために行う車線変更が正確に推定可能となる。更に、被測定車両の走行速度が表す走行状態を用いることにより、被測定車両が突発事象を回避するために行う減速が正確に推定可能となる。従って、突発事象の発生の有無が正確に推定可能となる。このように、本発明の交通情報処理装置及び交通情報処理方法においては、実際の走行位置を特徴付ける走行位置情報や走行速度に基づいて突発事象の発生の有無を判定するので、旅行時間(走行時間)によって突発事象の発生の有無を判定する場合に比較して、より正確な判定が可能となる。
【0009】
本発明の交通情報処理装置は、道路を複数の道路リンクに区分けして交通情報を算出する交通情報処理装置であって、車両により収集されたプローブ情報を取得するプローブ情報取得手段と、上記プローブ情報取得手段により取得された被測定車両のプローブ情報に基づいて、この被測定車両の走行位置と、基準となる走行位置を表す基準走行位置との差分値を、複数の連続する道路リンクによって成る走行区間にわたって累積し、この差分値の累積値が、予め設定された基準差分累積値以上であるかを判定する走行位置判定手段と、上記被測定車両の走行速度が予め設定された基準速度以下となっている道路リンクが上記走行区間を含む測定区間に含まれるか、又は、この測定区間における上記被測定車両の走行速度の変動幅が予め設定された基準変動幅以上であるかを判定する走行速度判定手段と、上記走行区間における上記差分値の累積値が上記基準差分累積値以上であると上記走行位置判定手段により判定された場合に、上記被測定車両の走行速度が予め設定された上記基準速度以下となっている道路リンクが上記測定区間に含まれているか、又は、上記測定区間における上記被測定車両の走行速度の変動幅が予め設定された基準変動幅以上である、と上記走行速度判定手段により判定されると、上記走行区間に突発事象が生じたと推定する突発事象推定手段とを備える、ことを特徴とする。
【0010】
事故等の突発事象が発生した場合には、被測定車両が突発事象を回避するために行う車線変更に加えて、被測定車両が突発事象を回避するために行う減速が予想できる。この点、本発明の交通情報処理装置によれば、被測定車両の走行位置と、基準となる走行位置を表す基準走行位置との差分値を複数の連続する道路リンクによって成る走行区間にわたって累積する。このため、この累積した差分値を用いることによって、被測定車両が突発事象を回避するために行う車線変更が走行区間毎に正確に推定可能となる。更に、被測定車両の走行速度が表す走行状態として、走行速度が基準速度以下となっている道路リンクが測定区間内に含まれているか、或いは測定区間内において走行速度の変動幅が基準変動幅以上であるか、の判定結果を用いることにより、被測定車両が突発事象を回避するために行う減速が走行区間毎に正確に推定可能となる。従って、突発事象の発生の有無が正確に推定可能となる。
【0011】
本発明の交通情報処理装置では、上記走行位置判定手段は、予め定められた数の連続した道路リンクから成る走行区間にわたって上記差分値を累積するのが好ましいが、上記被測定車両の走行位置が走行方向に向かって上記基準走行位置の同一側にある連続した道路リンクから成る走行区間にわたって上記差分値を累積してもよい。例えばGPS信号を用いた位置測位のみに基づいて走行位置が算出される場合には、周辺に高層ビル等があるとGPS信号の受信状況が悪化するため、算出された走行位置の「ばらつき」は増大する。このように、走行位置の「ばらつき」が比較的大きい場合には、予め定められた数の連続した道路リンクから成る走行区間にわたって差分値を累積するのが好ましい。その一方で、GPS信号を用いた位置測位だけでなく、方位センサ、車速センサ、電子地図データ等を用いたリンクマッチング方法による位置測位をも併用する場合には、算出される走行位置の「ばらつき」は低減する。このように、走行位置の「ばらつき」が比較的小さい場合には、被測定車両の走行位置が走行方向に向かって基準走行位置の同一側にある連続した道路リンクから成る走行区間にわたって差分値を累積するのが好ましい。
【0012】
本発明の交通情報処理装置は、道路を複数の道路リンクに区分けして交通情報を算出する交通情報処理装置であって、車両により収集されたプローブ情報を取得するプローブ情報取得手段と、上記プローブ情報取得手段により取得された被測定車両のプローブ情報に基づいて、この被測定車両の走行位置の標準偏差を道路リンク毎に算出し、この標準偏差と、走行位置における基準となる標準偏差を表す基準標準偏差との差分値を算出し、この差分値が、予め設定された基準差分値以上であるかを道路リンク毎に判定する走行位置判定手段と、上記差分値が上記基準差分値以上であると上記走行位置判定手段により判定された一の道路リンク又は連続する複数の道路リンクがある場合、この一の道路リンク又は連続する複数の道路リンクによって成る走行区間を含む測定区間内に、上記被測定車両の走行速度が予め設定された基準速度以下となっている道路リンクが含まれているか、又は、この測定区間における上記被測定車両の走行速度の変動幅が予め設定された基準変動幅以上であるかを判定する走行速度判定手段と、上記被測定車両の走行速度が予め設定された上記基準速度以下となっている道路リンクが上記測定区間に含まれているか、又は、上記測定区間における上記被測定車両の走行速度の変動幅が予め設定された基準変動幅以上である、と上記走行速度判定手段により判定されると、上記走行区間に突発事象が生じたと推定する突発事象推定手段とを備える、ことを特徴とする。
【0013】
事故等の突発事象が発生した場合には、被測定車両が突発事象を回避するために行う車線変更に加えて、被測定車両が突発事象を回避するために行う減速が予想できる。この点、本発明の交通情報処理装置によれば、被測定車両の走行位置の標準偏差と、走行位置の基準となる標準偏差を表す基準標準偏差との差分値を道路リンク毎に算出する。このため、この算出した標準偏差を用いれば、被測定車両が突発事象を回避するために行う車線変更が走行区間毎に正確に推定可能となる。更に、被測定車両の走行速度が表す走行状態として、走行速度が基準速度以下となっている道路リンクが測定区間内に含まれているか、或いは測定区間内において走行速度の変動幅が基準変動幅以上であるか、の判定結果を用いることにより、被測定車両が突発事象を回避するために行う減速が走行区間毎に正確に推定可能となる。従って、突発事象の発生の有無が正確に推定可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、道路において突発事象が発生したか否かが正確に判定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(第1実施形態)
以下、図面を参照して、本発明に係る好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。まず、図1を参照して実施形態に係る交通情報処理装置1の構成を説明する。
【0016】
交通情報処理装置1は、プローブ情報取得手段11、DRM13、推定手段15、基準走行位置情報DB23、記憶手段33及び送信手段35を備える。プローブ情報取得手段11は、道路に設置された路側機3に接続されている。路側機3は、プローブ情報の収集機能及び送信機能を持つ車載器を搭載した車両2(被測定車両4)からプローブ情報を取得する。ここで、車両2は、測定対象の被測定車両4を含めた車両を意味する。プローブ情報は、車両2(被測定車両4)によって例えば15m間隔毎に収集される情報であり、車両2(被測定車両4)の走行位置情報(緯度、経度及び高度)や各種の走行状態(速度等)を表す情報と各種情報の取得時刻とを含む。路側機3は、車両2(被測定車両4)からプローブ情報を取得すると、このプローブ情報を交通情報処理装置1に送信する。
【0017】
DRM13は、DRM(DigitalRoad Map)データを格納するデータベースである。DRM13に格納されているDRMデータは、道路が複数の道路リンクに区分けされている。以下、説明に用いる道路を道路LKとする。そして、図示及び説明簡略化のため、五つの道路リンク(道路リンクL〜道路リンクL)のみを用いる。道路LKは、車線中央のライン(座標)を表している。道路LKは、実際の道路を表しており、実際には直線部分だけでなく曲線部分をも含んでいるが、以下の説明で用いる道路LKは、図示及び説明簡略のため、直線に変換されたものとなっている(図3を参照)。
【0018】
推定手段15は、CPU、ROM及びRAM等(何れも図示略)を有し、ROMやRAM等に格納されている各種プログラムをCPUに実行させることにより、交通情報処理装置1を統括的に制御する。推定手段15の有する各種機能を、走行位置算出手段17、走行速度算出手段19、基準走行位置情報算出手段21、走行位置判定手段27、走行速度判定手段29及び突発事象推定手段31として模式的に表す。
【0019】
特に、推定手段15は、走行位置算出手段17、走行速度算出手段19、基準走行位置情報算出手段21、走行位置判定手段27、走行速度判定手段29及び突発事象推定手段31を用いて図2のフローチャートに示す処理を実行する。すなわち、推定手段15は、プローブ情報取得手段11により取得された被測定車両4のプローブ情報に基づいて、被測定車両4の走行位置を特徴付ける走行位置情報(例えば、走行位置や走行位置の標準偏差など)と、基準となる走行位置を特徴付ける基準走行位置情報(例えば、基準走行位置や走行位置の基準標準偏差など)との差分を算出し、この算出した差分と被測定車両4の走行速度とに基づいて突発事象の発生の有無を推定する。
【0020】
基準走行位置情報DB23は、プローブ情報取得手段11により取得された車両2のプローブ情報に基づいて基準走行位置情報算出手段21により算出された上記基準走行位置情報を格納する。記憶手段33は、読み出し及び書き込みが自在なメモリである。記憶手段33は、プローブ情報取得手段11により取得されたプローブ情報や、送信手段35を介して送信する各種情報を格納する。送信手段35は、外部の道路管理機関や警察機関等に接続されており、推定手段15により算出された各種情報を、これら各機関に送信する。
【0021】
次に、図2を参照して、交通情報処理装置1の動作を説明する。まず、車両2(被測定車両4)からプローブ情報がプローブ情報取得手段11により取得されると(ステップS1)、プローブ情報が取得される毎に、走行位置算出手段17は、このプローブ情報に基づいて道路リンクL〜道路リンクL毎の走行位置を算出し、走行速度算出手段19は、道路リンクL〜道路リンクL毎の走行速度を算出する(ステップS2)。
【0022】
道路リンクL〜道路リンクL毎の走行位置は、下記数式(1)に従って算出される。
【数1】


ここで、「Irij」は、「i」番目の車両2(被測定車両4)の走行位置であり、「i」番目の車両2(被測定車両4)が道路リンクL(以下、「r」は1〜5の自然数)を通過する際に取得した「j」番目のプローブ情報である。「Iri」は、「i」番目の車両2(被測定車両4)のプローブ情報に基づいて算出される道路リンクLにおける平均の走行位置である。「Irij」及び「Iri」は、道路LKから道幅方向のズレを表す値である。以下、「i」は1〜nの自然数であり、「n」は、測定期間内に道路リンクLを通過する車両2(被測定車両4)の台数とする。「j」は1〜mの自然数であり、「m」は、測定期間内に車両2(被測定車両4)が道路リンクLを通過する際に収集したプローブ情報の数とする。
【0023】
ステップS2の後、基準走行位置情報算出手段21は、複数のプローブ情報から走行位置算出手段17により算出された複数の走行位置「Iri」に基づいて、道路リンクL毎の基準走行位置(基準走行位置情報)を算出する(ステップS3)。
【0024】
道路リンクL毎の基準走行位置は、下記数式(2)に従って算出される。
【数2】


ここで、「B」は、道路リンクLにおける基準走行位置であり、道路LKから道幅方向のズレを表す値である。得られた基準走行位置「B」を順次結ぶと、基準走行ラインT1が得られる(図3(a)を参照)。
【0025】
基準走行位置情報算出手段21は、数式(2)に従って基準走行位置を算出すると共に、下記数式(3)に従って基準走行位置「B」に係る標準偏差「σBr」を算出する。
【数3】


そして、基準走行位置情報算出手段21は、算出した基準走行位置「B」や標準偏差「σBr」を基準走行位置情報DB23に格納する。なお、基準走行位置情報算出手段21は、予め設定された基準値よりも大きな標準偏差「σBr」に係る基準走行位置「B」を破棄し、基準走行位置情報DB23には格納しない。
【0026】
ステップS3の後、走行位置判定手段27は、走行位置算出手段17により算出された被測定車両4(「a」番目の車両とする)の走行位置「Ira」と基準走行位置「B」との差分値「Ira−B」を道路リンクL毎に算出する(ステップS4)。走行位置「Ira」はステップS2において走行位置算出手段17により算出された走行位置の一つであり、道路LKから道幅方向のズレを表す値である。また、得られた走行位置「Ira」を順次結ぶと、被測定車両4の走行ラインT2が得られる(図3(b)を参照)。
【0027】
ステップS4の後、走行位置判定手段27は、上記のようにして算出した差分値を、下記数式(4)に従って、走行方向に連続する道路リンクL〜道路リンクL(「p」は1〜3の自然数であり、「q」は「p+2」の演算によって得られる自然数である)から成る走行区間Lpqにおいて累積し、この差分値の累積値(差分累積値「SL」)の絶対値が、予め設定された基準差分累積値「SL」以上であるかを判定する(ステップS5)。ここで走行区間は、複数の連続する道路リンクによって成るものを意味する。
【数4】


ここで、「Ika」は、道路リンクL(「k」は、p〜qまでの自然数)における「a」番目の被測定車両4の走行位置であり、「B」は、基準走行位置情報DB23に格納された道路リンクLにおける基準走行位置であり、「D」は、道路リンクLのリンク長である。
【0028】
「(Ika−B)×D」の絶対値は、図3(b)に示す道路リンクLの斜線部の面積に対応している。なお、「q」を、「p+s」(「s」は、1、又は3以上の自然数)の演算によって得られる自然数としてもよい。また、差分累積値「SL」の算出に際し、基準走行位置情報DB23に格納されていない(すなわち破棄された)基準走行位置「B」がある場合には、走行位置判定手段27は、この基準走行位置「B」に係る「(Ika−B)×D」を加えずに差分累積値「SL」を算出する。
【0029】
ステップS5の段階で、走行区間Lpqにおける差分累積値「SL」の絶対値が基準差分累積値「SL」以上であると走行位置判定手段27により判定された場合(ステップS5;Yes)、走行速度判定手段29は、被測定車両4の走行速度「V」が予め設定された基準速度「V」以下となっている道路リンクが測定区間Lxy(走行方向に道路リンクL〜道路リンクLの連続する区間)に含まれているか、又は、この測定区間Lxyにおける被測定車両4の走行速度の変動幅「ΔV」が予め設定された基準変動幅「ΔV」以上であるかを更に判定する(ステップS6)。ここで、「x」は、道路リンクLに対し走行方向とは逆方向に隣接する道路リンクを示し、「y」は、道路リンクLに対し走行方向に隣接する道路リンクを示している。また、走行速度の変動幅「ΔV」は、道路リンクL〜道路リンクLにおける走行速度「V」のうち、最大の走行速度と最小の走行速度との差である。
【0030】
ステップS6の段階で、被測定車両4の走行速度「V」が基準速度「V」以下となっている道路リンクが測定区間Lxyに含まれているか、又は、測定区間Lxyにおける被測定車両4の走行速度の変動幅「ΔV」が基準変動幅「ΔV」以上であると走行速度判定手段29により判定された場合には(ステップS6;Yes)、突発事象推定手段31は、走行区間Lpqに突発事象が生じたと推定する(ステップS7)。
【0031】
例えば、図3(b)を参照すれば、走行区間L24において差分累積値「SL」の絶対値が基準差分累積値「SL」以上であると走行速度判定手段29により判定された場合、被測定車両4の走行速度「V」が基準速度「V」以下となっている道路リンクが測定区間L15に含まれているか、又は、測定区間L15における被測定車両4の走行速度の変動幅「ΔV」が基準変動幅「ΔV」以上である、と走行速度判定手段29により判定された場合には、突発事象推定手段31は、走行区間L24に突発事象が生じたと推定する。
【0032】
なお、ステップS5において算出される差分累積値「SL」は、下記数式(5)に従って算出されてもよい。
【数5】


「Ita」は、道路リンクL(「t」は、「p」〜「z」までの自然数)における「a」番目の被測定車両4の走行位置であり、「B」は、基準走行位置情報DB23に格納された道路リンクLにおける基準走行位置であり、「D」は、道路リンクLのリンク長である。ここで、「z」番目の道路リンクLは、「(Ita−B)×D」を道路リンクLから道路リンクLまで順次加えることにより差分累積値「SL」を算出していく過程において、「(Ita−B)」の符号(正負)が変化しない範囲を表している。換言すれば、道路リンクL〜道路リンクLによって成る走行区間は、被測定車両4の走行位置が走行方向からみて基準走行位置に対して同一側にある道路リンクが連続して成る走行区間である。この場合、「z+1」(「s」と表す)番目の道路リンクLにおける「(Isa−B)」の符号は、道路リンクLから道路リンクLまでの「(Ita−B)」の符号の逆になっている。そして、走行位置判定手段27は、道路リンクLから道路リンクLまで順次加えて差分累積値「SL」を算出した後、道路リンクLから「(Iua−B)×D」(「u」は、「s」以上の自然数)を順次加えて新たな差分累積値「SL」を算出していく(「(Iua−B)」の符号は同一である)。
【0033】
この場合、ステップS5の段階で、「(Ita−B)」の符号(正負)が変化しない道路リンクによって成る走行区間Lpq(「p」及び「q」は、この走行区間の両端の道路リンクを示している)における差分累積値「SL」の絶対値が基準差分累積値「SL」以上であると走行位置判定手段27により判定された場合(ステップS5;Yes)、走行速度判定手段29は、被測定車両4の走行速度「V」が基準速度「V」以下となっている道路リンクが測定区間Lxyに含まれているか、又は、測定区間Lxyにおける被測定車両4の走行速度の変動幅「ΔV」が基準変動幅「ΔV」以上であるかを更に判定する(ステップS6)。なお、走行位置判定手段27は、ステップS5において、「(Ita−B)」の符号(正負)が変化しない走行区間Lpqに含まれる道路リンク数が予め設定された基準数を超える場合、このような走行区間Lpqにおいて算出した差分累積値「SL」を用いてステップS5の処理を行わない。
【0034】
例えば、図3(b)を参照すれば、道路リンクL〜道路リンクLでは、「(Ita−B)」の符号は正であり、道路リンクLでは、「(Ita−B)」の符号は負であり、そして、道路リンクLでは、「(Ita−B)」の符号は正である。従って、走行速度判定手段29は、道路リンクL〜道路リンクLにおける「(Ita−B)×D」を順次加えることにより一の差分累積値「SL」を算出し、道路リンクLにおける「(Ita−B)×D」を一の差分累積値「SL」として算出し、道路リンクLにおける「(Ita−B)×D」を一の差分累積値「SL」として算出する。すなわち、道路リンクL〜道路リンクLにおいては、三つの差分累積値「SL」が算出される。そして、道路リンクLにおける差分累積値「SL」の絶対値が基準差分累積値「SL」以上であると走行速度判定手段29により判定された場合、被測定車両4の走行速度「V」が予め設定された基準速度「V」以下となっている道路リンクが走行区間L35に含まれているか、又は、走行区間L35における被測定車両4の走行速度の変動幅「ΔV」が予め設定された基準変動幅「ΔV」以上であると走行速度判定手段29により判定された場合には、突発事象推定手段31は、道路リンクL4(走行区間L44)に突発事象が生じたと推定する。
【0035】
このような数式(5)による差分累積値「SL」の算出方法は、数式(4)による差分累積値「SL」の算出方法に比較して、走行位置の「ばらつき」が少ない場合に好適である。車両2(被測定車両4)では、プローブ情報のうち走行位置が、GPS衛星からのGPS信号を用いた位置測位に基づいて算出される。そして、GPS信号を用いた位置測位のみに基づいて走行位置が算出される場合には、周辺に高層ビル等があるとGPS信号の受信状況が悪化するため、結果として算出される走行位置の「ばらつき」は増大する。このように走行位置の「ばらつき」が比較的大きい場合には、数式(4)を用いて差分累積値「SL」を算出するのが好ましい。その一方で、GPS信号を用いた位置測位だけでなく、方位センサ、車速センサ、電子地図データ等を用いたリンクマッチング方法による位置測位も併用する場合には、結果として算出される走行位置の「ばらつき」は低減する。このように走行位置の「ばらつき」が比較的小さい場合には、数式(5)を用いて差分累積値「SL」を算出するのが好ましい。
【0036】
(第2実施形態)
なお、推定手段15は、図2に示すステップS3〜ステップS6の各処理を、以下に示すステップS3a〜ステップS6aに替えて行ってもよい。まず、ステップS1及びステップS2(図2のフローチャートを参照)の後、基準走行位置情報算出手段21は、「Irij」と「Iri」とに基づいて、道路リンクL毎の基準標準偏差(基準走行位置情報)「SB」を算出する(ステップS3a)。道路リンクL毎の基準標準偏差「SB」は、下記数式(6)に従って算出される。
【数6】

【0037】
ステップS3aの後、走行位置判定手段27は、被測定車両4(「a」番目の車両とする)の走行位置の標準偏差を、下記数式(7)に従って算出する。
【数7】


ここで、「SIra」は、道路リンクLにおける「a」番目の被測定車両4の走行位置の標準偏差である。走行位置判定手段27は、この「SIra」と基準標準偏差「SB」との差分値「SIra−SB」を道路リンクL毎に算出する(ステップS4a)。
【0038】
ステップS4aの後、走行位置判定手段27は、上記のようにして算出した差分値が、予め設定された基準差分値「SL」以上となっているか、すなわち、基準差分値「SL」以上となっている道路リンクがあるかを判定する(ステップS5a)。
【0039】
ステップS5aの段階で、ステップS4aにおいて算出した上記差分値が基準差分値「SL」以上となっている道路リンクがあると走行位置判定手段27によって判定された場合(ステップS5a;Yes)、走行速度判定手段29は、被測定車両4の走行速度「V」が予め設定された基準速度「V」以下となっている道路リンクが測定区間Lxyに含まれているか、又は、測定区間Lxyにおける被測定車両4の走行速度の変動幅「ΔV」が予め設定された基準変動幅「ΔV」以上であるかを更に判定する(ステップS6a)。ここで、「x」は、基準差分値「SL」以上の差分値となっている一の道路リンク又は連続する複数の道路リンクによって成る走行区間Lpq(「p」及び「q」は、この走行区間Lpqの両端の道路リンクを表している)に対し、走行方向とは逆方向に隣接する道路リンクを示しており、「y」は、この走行区間に対し、走行方向に隣接する道路リンクを示している。
【0040】
ステップS6aの段階で、被測定車両4の走行速度「V」が予め設定された基準速度「V」以下となっている道路リンクが測定区間Lxyに含まれているか、又は、測定区間Lxyにおける被測定車両4の走行速度の変動幅「ΔV」が予め設定された基準変動幅「ΔV」以上であると走行速度判定手段29により判定された場合には(ステップS6a;Yes)、突発事象推定手段31は、走行区間Lpqに突発事象が生じたと推定する(ステップS7)。
【0041】
例えば、道路リンクL及び道路リンクL(走行区間L34)における走行位置の標準偏差の各々が基準標準偏差「SB」、「SB」以上であると走行速度判定手段29により判定された場合、被測定車両4の走行速度「V」が予め設定された基準速度「V」以下となっている道路リンクが測定区間L25に含まれているか、又は、測定区間L25における被測定車両4の走行速度の変動幅「ΔV」が予め設定された基準変動幅「ΔV」以上であると走行速度判定手段29により判定された場合には、突発事象推定手段31は、走行区間L34に突発事象が生じたと推定する。
【0042】
以上説明したように、交通情報処理装置1によれば、被測定車両4の走行位置情報(例えば、走行位置や、走行位置の標準偏差)と、基準となる走行位置を表す基準走行位置情報(例えば、基準走行位置や基準標準偏差)との差分が算出され、この差分が予め設定された基準を満たすかが判定される。この判定結果によって、被測定車両4の車線変更が正確に推定可能となる。更に、上記差分が上記基準を満たす場合には、被測定車両4の走行速度が表す走行状態として、走行速度「V」が基準速度「V」以下となっている道路リンクがあるか、或いは走行速度「V」の変動幅「ΔV」が基準変動幅「ΔV」以上であるかが判定される。この判定結果により、被測定車両4の速度変化が正確に推定可能となる。従って、事故等の突発事象が発生した場合には、被測定車両4が突発事故を回避するために行う車線変更に加えて、被測定車両4が突発事項を回避するために行う減速が予想できるが、交通情報処理装置1によれば、このような突発事象の発生の有無や発生場所(走行区間や道路リンクを単位とする発生場所)が正確に推定可能となる。
【0043】
なお、第1及び第2実施形態においては、測定区間Lxyを、走行区間Lpqと、走行区間Lpqの前後の各一の道路リンクとを含んだ区間としたが、これに限らず、測定区間Lxyを、走行区間Lpqと、走行区間Lpqの前後の各二以上の道路リンクとを含んだ区間としてもよい
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施形態に係る交通情報処理装置の構成を示すブロック図である。
【図2】実施形態に係る交通情報処理装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【図3】実施形態に係る交通情報処理装置による交通情報処理を説明するための図である。
【符号の説明】
【0045】
1…交通情報処理装置、2…車両、3…路側機、4…被測定車両、11…プローブ情報取得手段、13…DRM、15…推定手段、17…走行位置算出手段、19…走行速度算出手段、21…基準走行位置情報算出手段、23…基準走行位置情報DB、27…走行位置判定手段、29…走行速度判定手段、31…突発事象推定手段、33…記憶手段、35…送信手段。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路を複数の道路リンクに区分けして交通情報を算出する交通情報処理装置であって、
車両により収集されたプローブ情報を取得するプローブ情報取得手段と、
前記プローブ情報取得手段により取得された被測定車両のプローブ情報に基づいて、この被測定車両の走行位置を特徴付ける走行位置情報と、基準となる走行位置を特徴付ける基準走行位置情報との差分を算出し、この算出した差分と前記被測定車両の走行速度とに基づいて突発事象の発生の有無を推定する推定手段と
を備える、ことを特徴とする交通情報処理装置。
【請求項2】
前記走行位置情報は、前記被測定車両の走行位置を示す情報であり、
前記基準走行位置情報は、基準となる走行位置を示す情報である、ことを特徴とする請求項1に記載の交通情報処理装置。
【請求項3】
道路を複数の道路リンクに区分けして交通情報を算出する交通情報処理装置であって、
車両により収集されたプローブ情報を取得するプローブ情報取得手段と、
前記プローブ情報取得手段により取得された被測定車両のプローブ情報に基づいて、この被測定車両の走行位置と、基準となる走行位置を表す基準走行位置との差分値を、複数の連続する道路リンクによって成る走行区間にわたって累積し、この差分値の累積値が、予め設定された基準差分累積値以上であるかを判定する走行位置判定手段と、
前記被測定車両の走行速度が予め設定された基準速度以下となっている道路リンクが前記走行区間を含む測定区間に含まれるか、又は、当該測定区間における前記被測定車両の走行速度の変動幅が予め設定された基準変動幅以上であるかを判定する走行速度判定手段と、
前記走行区間における前記差分値の累積値が前記基準差分累積値以上であると前記走行位置判定手段により判定された場合に、前記被測定車両の走行速度が予め設定された前記基準速度以下となっている道路リンクが前記測定区間に含まれているか、又は、前記測定区間における前記被測定車両の走行速度の変動幅が予め設定された基準変動幅以上である、と前記走行速度判定手段により判定されると、前記走行区間に突発事象が生じたと推定する突発事象推定手段と
を備える、ことを特徴とする交通情報処理装置。
【請求項4】
前記走行位置判定手段は、
予め定められた数の連続した道路リンクから成る走行区間にわたって前記差分値を累積する、ことを特徴とする請求項3に記載の交通情報処理装置。
【請求項5】
前記走行位置判定手段は、
前記被測定車両の走行位置が走行方向に向かって前記基準走行位置の同一側にある連続した道路リンクから成る走行区間にわたって前記差分値を累積する、ことを特徴とする請求項3に記載の交通情報処理装置。
【請求項6】
前記走行位置情報は、前記被測定車両の走行位置の標準偏差を示す情報であり、
前記基準走行位置情報は、走行位置における基準となる標準偏差を示す情報である、ことを特徴とする請求項1に記載の交通情報処理装置。
【請求項7】
道路を複数の道路リンクに区分けして交通情報を算出する交通情報処理装置であって、
車両により収集されたプローブ情報を取得するプローブ情報取得手段と、
前記プローブ情報取得手段により取得された被測定車両のプローブ情報に基づいて、この被測定車両の走行位置の標準偏差を道路リンク毎に算出し、この標準偏差と、走行位置における基準となる標準偏差を表す基準標準偏差との差分値を算出し、この差分値が、予め設定された基準差分値以上であるかを道路リンク毎に判定する走行位置判定手段と、
前記差分値が前記基準差分値以上であると前記走行位置判定手段により判定された一の道路リンク又は連続する複数の道路リンクがある場合、この一の道路リンク又は連続する複数の道路リンクによって成る走行区間を含む測定区間内に、前記被測定車両の走行速度が予め設定された基準速度以下となっている道路リンクが含まれているか、又は、当該測定区間における前記被測定車両の走行速度の変動幅が予め設定された基準変動幅以上であるかを判定する走行速度判定手段と、
前記被測定車両の走行速度が予め設定された前記基準速度以下となっている道路リンクが前記測定区間に含まれているか、又は、前記測定区間における前記被測定車両の走行速度の変動幅が予め設定された基準変動幅以上である、と前記走行速度判定手段により判定されると、前記走行区間に突発事象が生じたと推定する突発事象推定手段と
を備える、ことを特徴とする交通情報処理装置。
【請求項8】
道路を複数の道路リンクに区分けして交通情報を算出する交通情報処理方法であって、
車両により収集されたプローブ情報を取得するプローブ情報取得工程と、
前記プローブ情報取得工程において取得された被測定車両のプローブ情報に基づいて、この被測定車両の走行位置を特徴付ける走行位置情報と、基準となる走行位置を特徴付ける基準走行位置情報との差分を算出し、この算出した差分と前記被測定車両の走行速度とに基づいて突発事象の発生の有無を推定する推定工程と
を有する、ことを特徴とする交通情報処理方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−133589(P2007−133589A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−325043(P2005−325043)
【出願日】平成17年11月9日(2005.11.9)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】