説明

人体加熱装置及び暖房便座装置

【課題】 好適な温度感覚を使用者に提供できる接触型の人体加熱装置を提供する。
【解決手段】 ヒータと、ヒータの人体に対峙する面側に設けられ人体に接触可能な絶縁層と、ヒータの加熱量を制御する制御装置と、人体と絶縁層間又は人体とヒータ間の熱移動量を検出する熱移動量検出装置とを備え、制御装置は、人体と絶縁層間又は人体とヒータ間の熱移動量が所定値になるように、ヒータの加熱量を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接触型の人体加熱装置及び暖房便座装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
使用者を識別した後、予め学習した使用者の好みの温度に便座温度を自動制御する暖房便座装置が特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開平5−255965
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
使用者が暖房便座などの人体加熱装置に接触した時に感ずる快適感覚は、気温や体調等の諸条件により様々に変化するので、人体加熱装置により使用者に常に快適感を提供するのは難しい。一方、温度感覚は、気温や体調等の諸条件の影響を余り受けないことが知られている。従って、好適な温度感覚を使用者に提供する人体加熱装置の開発が望まれている。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、好適な温度感覚を使用者に提供できる接触型の人体加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明においては、ヒータと、ヒータの人体に対峙する面側に設けられ人体に接触可能な絶縁層と、ヒータの加熱量を制御する制御装置と、人体と絶縁層間又は人体とヒータ間の熱移動量を検出する熱移動量検出装置とを備え、制御装置は、人体と絶縁層間又は人体とヒータ間の熱移動量が所定値になるように、ヒータの加熱量を制御することを特徴とする接触型の人体加熱装置を提供する。
本発明の発明者は、鋭意研究の結果、人体と、人体に接触する人体加熱装置との間の熱移動量と温度感覚との間に、個人差の影響を受けない所定の相関が存在することを見出した。本発明は上記知見に基づいてなされたものであり、人体と、人体に接触する人体加熱装置との間の熱移動量を所定値に制御することにより、人体に過剰の熱を与えず人体から過剰の熱を奪わず、熱移動によるストレスを人体に与えず、個人差の影響を受けることなく普遍的に、使用者に好適な温度感覚を提供するものである。
【0005】
本発明の好ましい態様においては、制御装置は、人体と絶縁層間又は人体とヒータ間の熱移動量の時間変化量が略零になる前記熱移動の定常状態において、人体から絶縁層又はヒータへの熱移動量が0.005乃至0.015W/cm/secになるように、ヒータの加熱量を制御する。
人体から絶縁層又はヒータへの熱移動量が0.005乃至0.015W/cm/secであれば、使用者の温度感覚は中立状態、すなわち冷たいとも熱いとも感じない状態になる。温度感覚が中立状態にある時には、使用者は絶縁層を介して過剰の熱を供給されず、過剰の熱を奪われず、熱移動によるストレスを受けない。この結果、使用者の温度感覚は好適化される。
【0006】
本発明の好ましい態様においては、制御装置は、人体が絶縁層に接触した瞬間の人体から絶縁層又はヒータへの熱移動量が所定値よりも大きい場合に、定常状態での人体から絶縁層又はヒータへの熱移動量に応じて、ヒータの加熱量を増加させる。
人体が絶縁層に接触した瞬間の人体から絶縁層又はヒータへの熱移動量が大きい場合は、ヒータの温度が何らかの原因で異常に低下しているか、或いは運動や風邪などの原因で体温調節中枢のセットポイントが高温側へ移動し平常よりも人体の皮膚温度が上昇している場合である。係る場合、放出された熱を補給すべく人体は熱供給を必要としているので、人体から絶縁層又はヒータへの熱移動が定常状態になった後の熱移動量に応じて、ヒータの加熱量を増加させるのが望ましい。
【0007】
本発明の好ましい態様においては、熱移動検出装置は熱流束計である。
熱流束計は、人体と絶縁層間又は人体とヒータ間の熱移動量を瞬時に計測できるので、ヒータの加熱制御が高速化され、ひいては使用者の温度感覚の好適化が迅速化される。
【0008】
本発明の好ましい態様においては、ヒータは面状ヒータである。
面状ヒータの使用により、人体皮膚の絶縁層との接触部全面を均一に加熱でき、且つヒータを薄型化して人体加熱装置を小型化できる。
【0009】
本発明においては、上記の人体加熱装置を備える暖房便座装置を提供する。
上記の人体加熱装置を備える暖房便座装置は、個人差の影響を受けることなく普遍的に、使用者に好適な温度感覚を提供することができる。また、無駄な電力消費を抑制して省エネを実現できる。
【発明の効果】
【0010】
人体と、人体に接触する人体加熱装置との間の熱移動量を所定値に制御することにより、人体に過剰の熱を与えず人体から過剰の熱を奪わず、熱移動によるストレスを人体に与えず、個人差の影響を受けることなく普遍的に、使用者に好適な温度感覚を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の理論的背景を説明する。
(1)温度感覚と熱移動量との間の相関の検討
(A)人体とヒータとの間の熱流束と、温度感覚との相関を、実験に基づいて検討した。
実験1
実験方法:シート状の熱流束計を間に挟んで熱板ヒータを被検者の上腕部に押し当て、人体と熱板ヒータとの間の熱流束を計測すると共に、温度感覚を被検者に評価させた。
環境条件:空気温度23℃、相対湿度50%の室内で実験を行った。
被検者数:6名
熱板ヒータの寸法:20mm×50mm
熱板ヒータの温度:室温、30℃、32℃、33℃、34℃、36℃、38℃
実験の結果を図1に示す。図1は、接触直後と熱流束の時間変化量が略零になった定常状態の2状態での熱流束値と温度感覚との相関を示している。図1において、正の熱流束値は、熱板ヒータから人体へ流れる熱流束値を表し、負の熱流束値は、人体から熱板ヒータへ流れる熱流束値を示す。
図1から、接触直後では、熱流束値が+0.01乃至−0.01W/cm/secの範囲にあると、温度感覚は中立状態、すなわち冷たいとも熱いとも感じない状態の近傍にあるが、定常状態では、熱流束値が−0.005乃至−0.015W/cm/secの範囲にあると、温度感覚は中立状態の近傍にあることが分かる。
実験により得られたデータに基づいて、熱板ヒータの温度と、温度感覚との相関を調べた結果、熱板ヒータの温度が上昇するのにつれて、何れの被検者の温度感覚も冷たいから熱いに変化していることが分かり、温度感覚には個人差の影響が余り無いことが分かった。
【0012】
実験2
上面が着座面を形成する絶縁層の下面に面状ヒータを取付け、面状ヒータと絶縁層との間に熱流束計を配設した暖房便座装置に、実験1と同様の環境条件下で、3名の被検者を順次着座させ、人体と面状ヒータとの間の熱流束を計測すると共に、温度感覚を被検者に評価させた。
実験の結果を図2に示す。図2も、図1と同様に、着座直後と定常状態の2状態での熱流束値と温度感覚との相関を示している。図2においても、正の熱流束値は、面状ヒータから人体へ流れる熱流束値を表し、負の熱流束値は、人体から面状ヒータへ流れる熱流束値を示す。
図2から、着座直後では、熱流束値が−0.01乃至−0.03W/cm/secの範囲にあると、温度感覚は中立状態の近傍にあるが、定常時では、熱流束値が−0.003乃至−0.01W/cm/secの範囲にあると、温度感覚は中立状態の近傍にあることが分かる。
【0013】
(B)6人の被験者中の一人が、通常の室内で安静にしており、被検者の温度感覚が中立状態にある時に、手の母指球と空気との間の熱流束値を計測した。計測結果を図3に示す。図3から、温度感覚が中立状態にある時には、季節に関係無く、熱流束値は略−0.01W/cm/secであることが分かる。
【0014】
(2)人体加熱装置の使用者に好適な温度感覚を与えるための条件の検討
被検者の温度感覚が中立状態にある時には、被検者はヒータから過剰の熱を供給されず、過剰の熱を奪われず、熱移動によるストレスを受けていない。従って、被検者の温度感覚が中立状態にある時に、被検者は好適な温度感覚を得ていると考えるのが妥当である。上記(A)の実験結果と、(B)の計測結果とに鑑み、更に接触型の人体加熱装置を長時間使用する場合には定常状態の温度感覚を好適化するのが妥当であることを勘案すると、定常状態での人体と接触型の人体加熱装置との間の熱流束値を、−0.005乃至−0.015W/cm/secに制御すれば、人体加熱装置の利用者に好適な温度感覚を与えられると考えられる。
【実施例1】
【0015】
上記の理論的背景を踏まえて構成された、本発明の第1実施例に係る接触型の人体加熱装置を図4に示す。
図4(a)に示す床暖房装置Aは、面状ヒータ1と、面状ヒータ1の上面側、すなわち人体に対峙する面側に設けられた人体に接触可能な絶縁層2と、面状ヒータ1の加熱量を制御する制御装置3と、絶縁層2の上面に取り付けられたシート状の熱流束計4とを備えている。面状ヒータ1は電極5を介して制御装置3に接続され、熱流束計4も制御装置3に接続されている。
図4(b)に示す床暖房装置Bは、同一平面内で蛇行する湯配管により形成されたヒータ11と、ヒータ11の上面側、すなわち人体に対峙する面側に設けられた人体に接触可能な絶縁層12と、ヒータ11を流れる湯の加熱量を制御する制御装置13と、絶縁層12の上面に取り付けられたシート状の熱流束計14とを備えている。ヒータ11に湯を供給する図示しない給湯装置は制御装置13に接続され、熱流束計14も制御装置13に接続されている。
【0016】
図4(c)に示すホットカーペットCは、面状ヒータ21と、面状ヒータ21の上面側、すなわち人体に対峙する面側に設けられた人体に接触可能な絶縁層22と、面状ヒータ21の加熱量を制御する制御装置23と、絶縁層22の上面に取り付けられたシート状の熱流束計24とを備えている。面状ヒータ21は電極25を介して制御装置23に接続され、熱流束計24も制御装置23に接続されている。
図4(d)に示すホットカーペットDは、シート状の熱流束計24が絶縁層22の下面に取り付けられている点を除いて、ホットカーペットCと略同様の構成を有している。
図4(e)に示すホットカーペットEは、シート状の熱流束計24が面状ヒータ21に埋設されている点を除いて、ホットカーペットDと略同様の構成を有している。
【0017】
床暖房装置A、B、ホットカーペットCにおいては、制御装置3、13、23は、人体と絶縁層2、12、22間の熱移動量の時間変化量が略零になる定常状態において、人体から絶縁層2、12、22への熱流束値が0.005乃至0.015W/cm/secになるように、面状ヒータ1、21、ヒータ11の加熱量を制御する。
ホットカーペットD、Eにおいては、制御装置23は、人体と面状ヒータ21間の熱移動量の時間変化量が略零になる定常状態において、人体から面状ヒータ21への熱流束値が0.005乃至0.015W/cm/secになるように、面状ヒータ21の加熱量を制御する。
【0018】
上記制御により、床暖房装置A、B、ホットカーペットC、D、Eにおいては、使用者の温度感覚が、個人差の影響を受けることなく普遍的に好適化される。
【0019】
熱流束計4、14、24は、人体と絶縁層2、12、22間の熱移動量或いは人体と面状ヒータ21間の熱移動量を瞬時に計測できるので、面状ヒータ1、21、ヒータ11の加熱制御が高速化され、ひいては使用者の温度感覚の好適化が迅速化される。
面状ヒータ1、21の使用により、人体皮膚の絶縁層22との接触部全面を均一に加熱でき、且つヒータを薄型化して人体加熱装置を小型化できる。
【0020】
人体が絶縁層2、12、22に接触した瞬間の人体から絶縁層2、12、22或いは面状ヒータ21への熱移動量が所定値よりも大きい場合に、定常状態の人体から絶縁層2、12、22或いは面状ヒータ21への熱移動量に応じて、面状ヒータ1、21、ヒータ11の加熱量を増加させても良い。
人体が絶縁層2、12、22に接触した瞬間の人体から絶縁層2、12、22或いは面状ヒータ21への熱移動量が大きい場合は、前記ヒータの温度が何らかの原因で異常に低下しているか、或いは運動や風邪などの原因で体温調節中枢のセットポイントが高温側へ移動し平常よりも人体の皮膚温度が上昇している場合である。係る場合、放出される熱量を補うために人体は熱供給を必要としているので、人体から絶縁層2、12、22或いは面状ヒータ21への熱移動が定常状態になった後の当該熱移動量に応じて、前記ヒータの加熱量を増加させるのが望ましい。
【0021】
熱流束計の形状はシート状に限定されない。
熱流速計に代えてサーミスタを用いて熱移動量を計測しても良い。
面状ヒータ1、21、ヒータ11と絶縁層2、12、22との間に、均熱層や接着剤層を介在させても良い。
【実施例2】
【0022】
本発明に係る接触型の人体加熱装置を備える暖房便座装置を図5に示す。
暖房便座装置Fは、図5(a)、(b)に示すように、面状ヒータ31と、面状ヒータ31の上面側、すなわち人体に対峙する面側に設けられた人体に接触可能な絶縁層32と、面状ヒータ31の加熱量を制御する制御装置33と、絶縁層32と面状ヒータ31とに挟まれた状態で絶縁層32の下面に取り付けられたシート状の熱流束計34とを有する、構成が前述のホットカーペットEと同様の接触型の人体加熱装置を備えている。面状ヒータ31は図示しない電極を介して制御装置33に接続され、熱流束計34も制御装置33に接続されている。
暖房便座装置Fが備える接触型の人体加熱装置においても、制御装置33は、人体と面状ヒータ31間の熱移動量の時間変化量が略零になる定常状態において、人体から面状ヒータ31への熱流束値が0.005乃至0.015W/cm/secになるように、面状ヒータ31の加熱量を制御する。
上記制御により、暖房便座装置Fにおいては、使用者の温度感覚が、個人差の影響を受けることなく普遍的に好適化される。また、無駄な電力消費を抑制して省エネを実現できる。
熱の移動量を迅速に検出し、面状ヒータ31に供給する電力を迅速に調整するために、絶縁層32を薄くする必要がある。座面の強度を勘案して、絶縁層32の厚みを0.8〜2.0mm程度に設定するのが望ましい。
図5(c)に示すように、面状ヒータ31に代えて、略同一平面内で蛇行するチュービングヒータにより形成されたヒータ41を配設しても良い。
面状ヒータ31、ヒータ41と絶縁層32との間に均熱層や接着剤層を介在させても良い。
【0023】
本発明に係る接触型の人体加熱装置を、壁暖房装置、暖房背凭れ等として具現化しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、接触型の各種人体加熱装置に広く利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】熱板ヒータを上腕部に押し当てる実験により得られた、人体とヒータとの間の熱流束と、温度感覚との相関を示す図である。
【図2】暖房便座に着座する実験により得られた、人体とヒータ間の熱流束と、温度感覚との相関を示す図である。
【図3】安静時における手の母指球から空気への熱移動量の実測値を示す図である。
【図4】本発明の実施例に係る接触型の人体加熱装置の断面図である。(a)、(b)は床暖房装置を示し、(c)〜(e)はホットカーペットを示す。
【図5】本発明に係る接触型の人体加熱装置を備える暖房便座装置の構造図である。(a)は外観斜視図であり、(b)は(a)の線b−bに沿った断面図であり、(c)は変形例の断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1、21、31 面状ヒータ
11、41 ヒータ
2、12、22、32 絶縁層
4、14、24、34 シート状の熱流束計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒータと、ヒータの人体に対峙する面側に設けられ人体に接触可能な絶縁層と、ヒータの加熱量を制御する制御装置と、人体と絶縁層間又は人体とヒータ間の熱移動量を検出する熱移動量検出装置とを備え、制御装置は、人体と絶縁層間又は人体とヒータ間の熱移動量が所定値になるように、ヒータの加熱量を制御することを特徴とする人体加熱装置。
【請求項2】
制御装置は、人体と絶縁層間又は人体とヒータ間の熱移動量の時間変化量が略零となる定常状態において、人体から絶縁層又はヒータへの熱移動量が0.005乃至0.015W/cm/secになるように、ヒータの加熱量を制御することを特徴とする請求項1に記載の人体加熱装置。
【請求項3】
制御装置は、人体が絶縁層に接触した瞬間の人体から絶縁層又はヒータへの熱移動量が所定値よりも大きい場合に、定常状態での人体から絶縁層又はヒータへの熱移動量に応じて、ヒータの加熱量を増加させることを特徴とする請求項2に記載の人体加熱装置。
【請求項4】
熱移動検出装置は熱流束計であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の人体加熱装置。
【請求項5】
ヒータは面状ヒータであることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の人体加熱装置。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項に記載の人体加熱装置を備える暖房便座装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−66299(P2006−66299A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−249175(P2004−249175)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年2月28日 社団法人繊維学会関東支部主催の「第31回 繊維学会関東支部修士論文発表会」において文書をもって発表
【出願人】(000010087)東陶機器株式会社 (3,889)
【出願人】(502044027)
【Fターム(参考)】