説明

人工タンパク質複合体及びその利用

【課題】固相担体に対して配向制御して固定可能な人工タンパク質複合体を提供する。
【解決手段】人工タンパク質複合体を、αへリックス部分と該αへリックス部分に隣接するN末端ペプチド鎖及び/又はC末端ペプチド鎖をそれぞれ備える2つのポリペプチドがそれぞれのαへリックス部分で対合した二量体が環状に並んだ環状構造体を有し、共有結合性又は非共有結合性の相互作用を発揮可能なタグ部を前記環状構造体の一方の端部側に優勢的に備えるよう構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工タンパク質複合体、特に人工光収穫光反応中心タンパク質複合体に関し、詳しくは、固相担体に対して配向制御して固定化可能な人工タンパク質複合体、該人工タンパク質複合体の製造方法、固定化方法、該人工タンパク質複合体を保持する固定化体等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、植物や光合成細菌の光合成における光の利用反応システムを人工的に構築し、各種デバイスに利用する試みがなされるようになってきている。一般に、光合成膜では、いずれも膜タンパク質である、光収穫系(Light−Harvesting;LH)タンパク質複合体が光エネルギーの収穫とエネルギー移動とを担い、反応中心(Reaction Center;RC)タンパク質複合体が電荷分離を担っており、LHタンパク質複合体とRCタンパク質複合体とが一定の形態を採ることによって、光合成の第一段階である光収穫−電荷分離段階を行っている。したがって、光を利用した人工的デバイスを構築するには、これらの膜タンパク質複合体を、それぞれ配向制御して基板に固定化する必要がある。
【0003】
タンパク質を基板などの固相担体に固定化する手法としては、共有結合、静電的結合、配位結合、疎水性相互作用等を利用した結合手法がある。例えば、共有結合による場合としては、APS(3−アミノプロピルトリエトキシシラン)により基板表面にアミノ基を導入し、このアミノ基に対して共有結合によりタンパク質を固定化することが知られている(特許文献1)。また、光反応中心タンパク質複合体のH鎖のC末端にヒスチジンタグを付加し、固相担体表面に結合させた配位中心としてのニッケルにヒスチジンタグを配位結合させて固定化することも知られている(特許文献2)。
【特許文献1】特開平5−2267237号公報
【特許文献2】特開2001−83155号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらのいずれの手法においても、タンパク質複合体を配向制御して固相担体に固定することは困難であった。すなわち、タンパク質複合体は、2種類以上のペプチド鎖が機能的に共有結合や相互作用により一定の形態を採るものであり、鎖状構造を有するものではないため、単純に相互作用可能な官能基を導入しただけでは配向制御することは困難であった。したがって、上記のように単にタンパク質の末端にヒスチジンタグを付加したところで、タグによる配位結合のみでタンパク質を容易に配向制御できるものでもない。また、静電的相互作用によっても同様である。また、共有結合を利用する場合には、その反応条件によっては、タンパク質やその複合体の活性が損なわれるおそれがある。このように、タンパク質複合体についてその活性を維持して配向制御して固定することは困難であった。また、2種類以上のタンパク質複合体からなるタンパク質の高次複合体を固相担体へ配向制御して固定することについてはなおさらである。
【0005】
そこで、本発明は、固相担体に対して配向制御して固定可能な人工タンパク質複合体、その製造方法、固相担体に該人工タンパク質複合体が保持された固定化体及びその製造方法を提供することを一つの目的とする。また、本発明は、こうした人工タンパク質複合体を利用した人工光収穫−光反応中心タンパク質複合体、その製造方法、該人工タンパク質複合体を保持する固定化体及びその製造方法を提供することを他の一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、LHタンパク質複合体が、αへリックス部分で会合したポリペプチドの二量体が複数個配列して環状構造をとり、αへリックス部分の両末端が環状構造体の上下に露出されていることに着目し、この末端に固相担体表面と相互作用可能なタグ部を保持させることで、環状構造体を配向制御できることを見出した。さらに、配向制御可能な人工LHタンパク質複合体とRCタンパク質複合体との高次複合体も、人工LHタンパク質複合体によって配向制御可能であることを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づいて本発明を完成した。本発明によれば以下の手段が提供される。
【0007】
本発明によれば、人工タンパク質複合体であって、αへリックス部分と該αへリックス部分に隣接するN末端ペプチド鎖及び/又はC末端ペプチド鎖をそれぞれ備える2つのポリペプチドがそれぞれのαへリックス部分で対合した二量体が環状に並んだ環状構造体を有し、共有結合性又は非共有結合性の相互作用を発揮可能なタグ部を前記環状構造体の一方の端部側に優勢的に備える、複合体が提供される。
【0008】
この形態においては、前記非共有結合性の相互作用は、疎水結合、静電的結合、配位結合及び水素結合から選択されるいずれかを含むことができる。また、前記タグ部は、ヒスチジン−タグ、グルタチオンSトランスフェラーゼ−タグ、マルトース結合タンパク質−タグ及び抗原ペプチド−タグから選択することができる。さらに、前記二量体の間には少なくとも一つのポルフィリン化合物を有することができる。また、前記αヘリックス部分は光収穫系タンパク質複合体を構成するポリペプチドのαヘリックス部分のアミノ酸配列と同一であることが好ましい。こうした人工タンパク質複合体は、光収穫系タンパク質機能を有する光収穫系タンパク質複合体であることが好ましい。
【0009】
また、本発明の他の一つの形態によれば、人工光収穫−光反応中心タンパク質複合体であって、環状構造体を有する光収穫系タンパク質複合体であって、共有結合性又は非共有結合性の相互作用を発揮可能なタグ部を前記環状構造体の一方の端部側に優勢的に有する光収穫系タンパク質複合体と、該光収穫系タンパク質複合体からの光エネルギーを電荷分離可能に複合化された光反応中心タンパク質複合体と、を備える、複合体とすることもできる。
【0010】
この形態においても、前記非共有結合性の相互作用は、疎水結合、静電的結合、配位結合及び水素結合から選択されるいずれかを含むことができ、前記タグ部は、ヒスチジン−タグ、グルタチオンSトランスフェラーゼ−タグ、マルトース結合タンパク質−タグ及び抗原ペプチド−タグから選択することができる。
【0011】
本発明の他の一つの形態によれば、人工タンパク質複合体の製造方法であって、αへリックス部分と該αへリックス部分に隣接するN末端ペプチド鎖及び/又はC末端ペプチド鎖を備える二つのポリペプチドがそれぞれのαへリックス部分で対合した二量体が環状に並んだ環状構造体を形成可能であって、前記N末端ペプチド鎖又は前記C末端ペプチド鎖に共有結合性又は非共有結合性の相互作用を発揮可能なタグ部を有するポリペプチドをコードするコード領域を宿主染色体上又は宿主染色体外に保持する、少なくとも光収穫系タンパク質複合体を発現可能な宿主細胞を培養する工程と、該培養液から回収したクロマトフォアから人工タンパク質複合体を分離する工程と、を備える、製造方法が提供される。
【0012】
この形態においては、前記人工タンパク質複合体は、光収穫系タンパク質機能を有する光収穫系タンパク質複合体であることが好ましい。
【0013】
本発明の他の一つの形態によれば、人工光収穫−光反応中心タンパク質複合体の製造方法であって、光収穫系タンパク質複合体を形成可能なαへリックスポリペプチドであって、N末端ペプチド鎖又はC末端ペプチド鎖に共有結合性又は非共有結合性の相互作用を発揮可能なペプチドタグ部を有するタンパク質をコードするコード領域を宿主染色体上又は宿主染色体外に保持する、光収穫−光反応中心タンパク質複合体を発現可能な宿主細胞を培養する工程と、該培養液から回収したクロマトフォアから人工光収穫−光反応中心タンパク質複合体を分離する工程と、を備える、製造方法が提供される。この形態において、前記分離工程は、前記クロマトフォアを第1の濃度の界面活性剤で可溶化し遠心分離し、該沈殿物を前記第1の濃度よりも高い第2の濃度の界面活性剤で可溶化して遠心分離して、該上清として粗光収穫−光反応中心タンパク質複合体を分離する工程とすることができる。
【0014】
本発明の他の一つの形態によれば、αヘリックス部分と該αヘリックス部分に隣接するN末端ペプチド鎖及び/又はC末端ペプチド鎖とを有し、前記N末端ペプチド鎖又はC末端ペプチド鎖に共有結合性又は非共有結合性の相互作用を発揮可能なタグ部を有する、光収穫系タンパク質複合体様構造体を形成可能なポリペプチドが提供される。
【0015】
この形態においては、前記タグ部は、ヒスチジンタグとすることができる。また、前記αヘリックス部分は、配列番号1〜8のいずれかに記載のアミノ酸配列を有することができる。また、ポリペプチドは、配列番号9〜16のいずれかに記載のアミノ酸配列を有することができる。
【0016】
本発明の他の一つの形態によれば、形質転換体であって、少なくとも光収穫系タンパク質複合体を発現可能な宿主において、αへリックス部分と該αへリックス部分に隣接するN末端ペプチド鎖及び/又はC末端ペプチド鎖を備える二つのポリペプチドがそれぞれのαへリックス部分で対合した二量体が環状に並んだ環状構造体を形成可能であって、前記N末端ペプチド鎖又は前記C末端ペプチド鎖に共有結合性又は非共有結合性の相互作用を発揮可能なタグ部を有するポリペプチドをコードするコード領域を宿主染色体上又は宿主染色体外に保持する、形質転換体が提供される。
【0017】
この形態においては、前記宿主は、光収穫−光反応中心タンパク質複合体を発現可能であることが好ましく、前記光収穫系タンパク質のαへリックスタンパク質は、光収穫系タンパク質Iα、Iβ、IIα及びIIβから選択することができる。
【0018】
本発明の他の一つの形態によれば、発現ベクターであって、αヘリックス部分と該αヘリックス部分に隣接するN末端ペプチド鎖及び/又はC末端ペプチド鎖とを有し、前記N末端ペプチド鎖又はC末端ペプチド鎖に共有結合性又は非共有結合性の相互作用を発揮可能なタグ部を有する、光収穫系タンパク質複合体様構造体を形成可能なポリペプチドをコードするコード領域を保持する、発現ベクターが提供される。
【0019】
本発明の他の一つの形態によれば、タンパク質が固定化された固定化体であって、光収穫系タンパク質複合体様構造体を有し、共有結合性又は非共有結合性の相互作用を発揮可能なタグ部を前記複合体様構造体の環状構造体の一方の端部側に優勢的に備える人工タンパク質複合体と、表面に前記タグ部を前記相互作用により結合させるタグ結合部位を有する固相担体と、を備え、該固相担体上の前記タグ結合部位に前記タグ部を介して前記人工タンパク質複合体を保持している、固定化体が提供される。
【0020】
この形態においては、前記人工タンパク質複合体は、光収穫系タンパク質機能を有する光収穫系タンパク質複合体を含むことができ、前記人工タンパク質複合体は、前記光収穫系タンパク質複合体と、前記光収穫系タンパク質複合体からの光エネルギーを電荷分離可能に複合化された光反応中心タンパク質複合体とを備える光収穫系−光反応中心タンパク質複合体であってもよい。さらに、前記固相担体上には、光収穫系タンパク質複合体と、光収穫−光反応中心タンパク質複合体とを保持していてもよい。また、前記固相担体上には、複数の前記人工タンパク質複合体が、複数の前記タグ部と前記タグ結合部位との組み合わせに基づいて固定されていてもよい。なお、前記タグ部と前記タグ結合部位の組み合わせの一つは、ヒスチジンタグ部とヒスチジンをキレート可能な金属イオンとの組み合わせである。
【0021】
本発明の他の一つの形態によれば、タンパク質固定化体の製造方法であって、光収穫系タンパク質複合体様構造体を有し、共有結合性又は非共有結合性の相互作用を発揮可能なタグ部を前記複合体様構造体の環状構造体の一方の端部側に優勢的に備える人工タンパク質複合体を、表面に前記タグ部を前記相互作用により結合させるタグ結合部位を有する固相担体に前記相互作用可能に接触させる固定化工程を備える、製造方法が提供される。
【0022】
この形態においては、前記人工タンパク質複合体は、光収穫系タンパク質機能を有する光収穫系タンパク質複合体を含むことができ、前記人工タンパク質複合体は、前記光収穫系タンパク質複合体と、前記光収穫系タンパク質複合体からの光エネルギーを電荷分離可能に複合化された光反応中心タンパク質複合体と、を備える光収穫系−光反応中心タンパク質複合体とすることができる。また、複数の前記人工タンパク質複合体について、前記タグ部と前記タグ結合部位との組み合わせを異ならせて、該組み合わせ毎に異なる種類の前記人工タンパク質複合体の固定化工程を実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の人工タンパク質複合体は、αへリックス部分と該αへリックス部分に隣接するN末端ペプチド鎖及び/又はC末端ペプチド鎖をそれぞれ備える2つのポリペプチドがそれぞれのαへリックス部分で対合した二量体が環状に並んだ環状構造体を有し、共有結合性又は非共有結合性の相互作用を発揮可能なタグ部を前記環状構造体の一方の端部側に優勢的に備えられるように当該タグ部を前記N末端ペプチド鎖及び/又は前記C末端ペプチド鎖に備えていることを特徴としている。
【0024】
本発明の人工タンパク質複合体によれば、タグ部を前記相互作用により結合可能なタグ結合部位を表面に備える固相担体に結合させることができる。タグ部は環状構造体の一方の端部側に優勢的に備えられており、この一方の端部側で前記タグ結合部位に結合されやすくなり、この結果、環状構造体は一定の配向性で固相担体に固定化されることになる。なお、本発明を拘束するものではないが、この人工タンパク質複合体によれば、構造上一方の端部側に優勢的にかつ複数個のタグ部を容易に備えさせることができ、これにより配向制御性及び固定化能力が確保されるものと考えられる。
【0025】
本人工タンパク質複合体は、典型的には、光収穫系タンパク質複合体であるが、光収穫系タンパク質複合体に加えて光反応中心タンパク質複合体を備える光収穫−光反応中心タンパク質複合体の形態であってもよい。また、本人工タンパク質複合体は、必ずしもこうした機能を有するタンパク質複合体でなくてもよい。こうした機能を有していない場合であってもタグ部を備えていないもう一方の端部側の末端ペプチド鎖に他のタンパク質や他のタンパク質を結合するためのさらに他のタグ部を備えさせることで、配向制御用のタンパク質複合体としても用いることができる。以下、本発明の実施の形態について適宜図を参照しながら詳細に説明する。
【0026】
(人工タンパク質複合体)
本発明の人工タンパク質複合体の一例を図1に示す。本人工タンパク質複合体は、αへリックス部分と該αへリックス部分に隣接するN末端ペプチド鎖及び/又はC末端ペプチド鎖をそれぞれ備える2つのポリペプチドがそれぞれのαへリックス部分で対合した二量体(α体、β体)が環状に並んだ環状構造体を有している。こうした環状構造体としては、天然の光収穫系タンパク質複合体の改変体を用いることができる。なお、本明細書において、この環状構造体を、光収穫系タンパク質複合体様構造体というときもある。なお、天然の光収穫系タンパク質複合体においては、二量体の間には少なくとも一つのポルフィリン化合物を有している。さらに、天然の光収穫系タンパク質複合体においては、他のポリペプチドが複合化されることがある。したがって、光収穫系タンパク質複合体様構造体においても、天然の光収穫系タンパク質複合体における態様を備えることができる。
【0027】
天然の光収穫系タンパク質複合体を構成するタンパク質としては、、LH1タンパク質、LH2タンパク質、LH3タンパク質、pufXタンパク質が知られている。さらに、天然の光収穫系タンパク質複合体おいて二量体を構成する2つのポリペプチドは、通常α体及びβ体として知られている。例えば、R.sphaeroides、R.rubrum、R.acidophila 10050、R.viridisなどについて光収穫系タンパク質のα体及びβ体のアミノ酸配列が知られている。本発明においては、これらの天然の光収穫系タンパク質複合体構成タンパク質のアミノ酸配列(αヘリックス部分及び/又は末端ペプチド鎖部分)を適宜改変して利用することができる。[Bacon Ke,Advances in Photosynthesis volume10 Photosynthesis photobiochemistry and Photobiophysics,Kluwer Academic Publishers,Dordrecht,2001][Integral Membrane Peripheral Light Harvesting Complex From Rhodopseudomonas Acidophila Strain 10050,Protein Data bank 1KZU]
【0028】
光収穫系タンパク質複合体の改変体としては、これを構成するポリペプチドの改変体が挙げられる。ポリペプチドにおける改変としては、1個又は2個以上のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入及び付加のいずれかあるいはこれらの組み合わせが挙げられる。改変体としては、本人工タンパク質複合体において光収穫系タンパク質複合体機能が必要な場合には、当該機能、すなわち、光を捕集して光エネルギー移動を実現可能であって本発明における作用を維持可能な改変体であればよい。また、本人工タンパク質複合体がこうした光収穫系タンパク質複合体機能を必要としない場合には、本発明の作用を維持可能な範囲内で改変することができる。ポリペプチドの改変部分は、αヘリックス部分と該αヘリックスに隣接するN末端ペプチド鎖及びC末端ペプチド鎖のいずれであってもよいが、環状構造体の安定性を考慮するとαヘリックス部分でないことが好ましい。より好ましくはαヘリックス部分は光収穫系タンパク質複合体を構成するポリペプチドのαヘリックス部分のアミノ酸配列と同一である。
【0029】
天然の光収穫系タンパク質複合体におけるポリペプチドでは、αヘリックス部分の両側に末端ペプチド鎖を有しているが、本人工タンパク質複合体においては、少なくとも一方の末端ペプチド鎖を有していればよく、好ましくは双方の末端ペプチド鎖を有する。
【0030】
本人工タンパク質複合体は、共有結合性又は非共有結合性の相互作用を発揮可能なタグ部を備えている。タグ部は、共有結合性又は非共有結合性の相互作用が可能であればよい。共有結合性のタグ部としては、例えば、ジスルフィド結合を形成可能なシステイン残基を含むタグ部が挙げられる。また、非共有結合性のタグ部としては、疎水結合、静電的結合、配位結合及び水素結合から選択されるいずれかの相互作用を発揮可能なタグ部が挙げられる。これらのタグ部は、例えば、疎水性アミノ酸残基、親水性アミノ酸残基、正電荷アミノ酸残基、負電荷アミノ酸残基など各種のアミノ酸残基の性質に基づいてアミノ酸残基を選択して形成することができる。好ましくは、配位結合を利用するタグ部であり、典型的には、ヒスチジンタグが挙げられる。ヒスチジンタグとしては、ヒスチジン残基が2〜10個、好ましくは6個〜7個結合したペプチドである。
【0031】
また、この他のタグ部としては、グルタチオンSトランスフェラーゼ−タグ、マルトース結合タンパク質−タグ及び抗原ペプチド−タグが挙げられる。なお、タグ部は、ポリペプチドの末端ペプチド鎖に有していればよいが、天然の光収穫系タンパク質複合体のポリペプチドを利用する場合、該末端ペプチド鎖のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入を改変したものであってもよく、該末端ペプチド鎖の末端に付加することもできる。
【0032】
タグ部は、環状構造体の一方の端部側に優勢的に備えられている。図1にも例示するように、本人工タンパク質複合体においてはポリペプチドのαヘリックス部分の長軸が並列するようにして環状構造体を構成しているため、環状構造体はこの長軸に沿った方向性を有している。ここで「一方の端部側に優勢的に備える」とは、一方の端部側により多く備えることを意味するものであり、好ましくは、実質的に一方の端部側にのみ備えることを意味している。なお、「実質的に一方の端部側にのみ備える」とは、一方の端部側にのみタグ部を備える場合のほか、他方の端部側のタグ部が一方の端部側のタグ部の5%モル以下程度であることを意味している。
【0033】
タグ部を環状構造体の一方の端部側に備えるようにするには、二量体を構成するポリペプチドの少なくとも一方のポリペプチドが備えるC末端ペプチド鎖又はN末端ペプチド鎖にタグ部を備えるようにすればよい。タグ部を環状構造体のいずれの端部に備えるようにするかは、必要に応じて決定され、使用する環状構造体の構造等に応じて、いずれのポリペプチドのいずれの末端ペプチド鎖にタグ部を備えるようにするかが決定される。天然の光収穫系タンパク質複合体においては、二量体においてαヘリックス方向が同方向であるため、二量体のN末端ペプチド鎖とC末端とは同じ端部側に備えられているため、二つのポリペプチドの同じ末端側にタグ部を保持させてもよい。
【0034】
こうした人工タンパク質複合体は、光収穫系タンパク質複合体様構造体を有しており、光収穫系タンパク質複合体機能を発揮することができる場合、天然の光収穫系タンパク質複合体と同様に、さらに光反応中心タンパク質複合体と複合化されていてもよい。光反応中心タンパク質複合体は、環状構造体の中心に配置される。光反応中心タンパク質複合体が、光収穫系タンパク質複合体からの光エネルギーを電荷分離可能に複合化されていることにより、本人工タンパク質複合体は、光収穫−光反応中心タンパク質複合体となる。
【0035】
(ポリペプチド)
また、本発明のポリペプチドは、αヘリックス部分と該αヘリックス部分に隣接するC末端ペプチド鎖及び/又はN末端ペプチド鎖を有し、前記C末端ペプチド鎖又はN末端ペプチド鎖に共有結合性又は非共有結合性の相互作用を発揮可能なタグ部を有する、光収穫系タンパク質複合体様構造体を形成可能なポリペプチドである。このポリペプチドは、本人工タンパク質複合体を構成する要素である。好ましくは光収穫系タンパク質複合体様構造体は、光収穫系タンパク質複合体の機能を有している。このポリペプチドのαヘリックス部分は、天然の光収穫系タンパク質のポリペプチドのαヘリックス部分と同一であることが好ましい。天然の光収穫系タンパク質複合体は、LH1タンパク質であってもLH2タンパク質であってもよく、ポリペプチドはこれらのα体であってもβ体であってもよい。光収穫−光反応中心タンパク質複合体を得ようとする場合には、LH1タンパク質とすることが好ましい。こうしたαへリックス部分のアミノ酸配列としては、例えば、配列番号1〜8に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドを用いることができる。
【0036】
αヘリックス部分に隣接するC末端ペプチド鎖及び/又はN末端ペプチド鎖は、同じ生物体のポリペプチドの末端部分を改変してタグ部を形成したものであることが好ましい。こうしたポリペプチドとしては、例えば、配列番号9〜16に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドを用いることができる。また、タグ部は、既に説明したものを用いることができ、なかでも、ヒスチジンタグを好ましく用いることができる。タグ部は、天然由来のC末端ペプチド鎖やN末端ペプチドをアミノ酸残基による置換、挿入、欠失及び付加のいずれかあるいはこれらを組み合わせて改変してタグ部とすることができるが、天然由来の末端ペプチドの末端にタグ部を付加することが構造の安定性において好ましい場合がある。
【0037】
(人工タンパク質複合体の製造方法)
本人工タンパク質複合体は、例えば、上記本発明のポリペプチドをコードするコード領域を宿主染色体上又は宿主染色体外に保持する、少なくとも光収穫系タンパク質複合体を発現可能な宿主細胞を培養する工程と、該培養液から回収したクロマトフォアから人工タンパク質複合体を分離する工程と、を備える製造方法により製造される。本製造方法によれば、光収穫系タンパク質複合体を発現可能な宿主において、上記ポリペプチドを発現させることにより、この宿主内の内在性の光収穫系タンパク質複合体におけるポリペプチドの少なくとも一部が本発明のポリペプチドによって置換されて発現されるため、容易に光収穫系タンパク質複合体様構造体を得ることができる。したがって、光収穫系タンパク質複合体も容易に得ることができる。
【0038】
人工タンパク質複合体を製造するのにあたり、宿主染色体上の本ポリペプチドに対応する内在性のポリペプチドをコードするコード領域が欠損等により発現されないことが好ましい。こうすることでタグ部を高い比率で人工タンパク質複合体に保持させることができる。こうした欠損株は、天然あるいは人工の突然変異体を用いるほか、ノックアウト等のターゲティング手法により作製することもできる。
【0039】
また、光収穫−光反応中心タンパク質複合体を発現可能な宿主を用いることにより、光収穫−光反応中心タンパク質複合体を宿主内に発現させることができる。通常、光収穫系タンパク質複合体を発現可能な光合成細菌などの宿主は光収穫−光反応中心タンパク質複合体を発現する。したがって、光収穫系タンパク質複合体と光収穫−光反応中心タンパク質複合体とを同時に宿主内で発現させることもできる。なお、光合成細菌等では、通常、HL1タンパク質は光収穫−光反応中心タンパク質複合体を構成するが、LH2タンパク質は光収穫−光反応中心タンパク質複合体を構成しないで光収穫系タンパク質複合体としてのみ発現される。
【0040】
宿主としては、好ましくは光合成細菌であり、好ましくは光合成細菌であり、例えば、LH2などの光収穫系タンパク質複合体を発現させる場合には、R.sphaeroides、R.acidophila等を好ましく用いることができる。また、LH1などの光収穫系タンパク質複合体1又は光収穫−光反応中心タンパク質複合体を発現させる場合には、R.sphaeroides、R.rubrum、R.viridis等を好ましく用いることができる。
【0041】
人工タンパク質複合体を得るには、こうした形質転換体を培養し増殖させた上、培養液から培養体(菌体)を回収し、さらに菌体を可溶化して人工タンパク質複合体を分離回収する。培養方法は、宿主細胞の種類に応じ適切な培養条件を設定することができる。培養後、菌体内に生産された人工タンパク質複合体は菌体を破砕することにより抽出することができる。菌体の破砕は、超音波、フレンチプレス、ガラスビーズを使用するホモジナイザーなどを用いることができる。その後、クロマトフォアを分画し、さらに、これを可溶化して、本人工タンパク質複合体を回収する。例えば、LH2タンパク質を含む光収穫系タンパク質複合体を得る場合には、菌をPfennigらの方法に従い培養し、遠心分離により菌体を得て、ラウリルジメチルアミンオキサイド(Lauryldimethylamineoxide:LDAO)などの界面活性剤で可溶化を行った後、スクロースグラジエントで遠心分離を行って回収し、さらに、DE52カラムにより精製を行うことができる。
【0042】
また、LH1タンパク質を含む光収穫−光反応中心タンパク質複合体を得る場合には、
クロマトフォアを第1の濃度の界面活性剤で可溶化し遠心分離し、該沈殿物を前記第1の濃度よりも高い第2の濃度の界面活性剤で可溶化して遠心分離して、該上清として粗光収穫−光反応中心タンパク質複合体を分離することが好ましい。より低い界面活性剤濃度で可溶化して遠沈画分を採取し、その後、それよりも高い濃度で可溶化し上清を採取することで、光収穫−光反応中心タンパク質複合体の構造を維持して分離回収できる。なお、第1の界面活性剤濃度は、例えば、0.8w/v%以上1.0w/v%以下であることが好ましく、第2の界面活性剤濃度は、1.0w/v%以上2.0w/v%以下であることが好ましい。また、複合体の可溶化には界面活性剤としてオクチルグルコシド(n−Octyl−β−D−glucoside:OG)を用いることが好ましく、OGについては、第1の濃度中、0.5w/v%以上0.7w/v%以下であることが好ましく、また、第2の濃度中、1.0w/v%以上2.0w/v%以下であることが好ましい。
【0043】
なお、ヒスチジンタグを付与したタンパク質複合体はNi−NTAを担持したゲルマトリックスを用いることで容易に分離できる。また、タンパク質の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、前記培養物中から本発明に用いるタンパク質を単離精製することができる。
【0044】
(形質転換体)
本発明の形質転換体は、少なくとも光収穫系タンパク質複合体を発現可能な宿主において、本発明のポリペプチドをコードするコード領域を保持する、形質転換体である。本形質転換体は、既に説明した本人工タンパク質複合体の製造方法に用いることができる。形質転換体は、上記したコード領域を適当なプロモーター及び必要な転写制御因子などの制御下に保持している。コード領域は、宿主染色体上にあってもプラスミド等として宿主染色体外にあってもよい。
【0045】
こうした形質転換体は、プロモーター、本ポリペプチドをコードするコード領域、適切な転写因子を備える発現カセットを有する核酸コンストラクトを適切な宿主に導入することにより得ることができる。宿主は、上記製造方法において既に説明したものを利用できる。また、核酸コンストラクトは、プラスミド、コスミド、ファージ等の従来公知の発現ベクター形態を採ることができる。また、核酸コンストラクトの導入方法としては、宿主の種類に応じてトランスフェクション、接合法等従来公知の各種の方法が採用できる。
【0046】
(人工タンパク質複合体を固相担体上に保持する固定化体)
本発明の固定化体は、光収穫系タンパク質複合体様構造体を有し、共有結合性又は非共有結合性の相互作用を発揮可能なタグ部を前記複合体様構造体の環状構造体の一方の端部側に優勢的に備える人工タンパク質複合体と、表面に前記タグ部を前記相互作用により結合させるタグ結合部位を有する固相担体と、を備え、該固相担体上の前記タグ結合部位に前記タグ部を介して前記人工タンパク質複合体を保持している。本固定化体の例を図2に示す。図2に示すように、本固定化体によれば、人工タンパク質複合体を固相担体上のタグ結合部位に対してタグ部を介して結合し保持している結果、本人工タンパク質複合体がタグ部によって配向制御されて保持されている。また、本人工タンパク質複合体は、タグ結合部位に対して選択的に結合されているため、固相担体上の所望の位置に本人工タンパク質複合体が保持されている。こうした固定化体によれば、本人工タンパク質複合体が光収穫系タンパク質複合体又は光収穫−光反応中心タンパク質複合体である場合には、光捕集及び光エネルギー移動、あるいはこれに加えて電荷分離が可能な固定化体となっており、光電変換素子や光増感剤として用いることができる。
【0047】
なお、本人工タンパク質複合体が光収穫系タンパク質複合体や光収穫−光反応中心タンパク質複合体の機能を保持しない光収穫系タンパク質複合体様構造体の場合であっても、本人工タンパク質複合体は配向制御されて保持され、所望の端部を固相担体表面に露出させることができる。この結果、固相担体表面の表面状態、表面形状等が修飾された固定化体が提供される。さらに、こうした固定化体によれば、本人工タンパク質複合体の環状構造又はその端部に露出されるペプチド鎖により他のタンパク質の配向制御が可能な固定化体も提供される。
【0048】
固定化体における固相担体としては、その形状や材質は特に限定しない。形状としては、プレート状、フィルム状、球状又は不定形状等の粒子状が挙げられる。また、材質としては、ガラス、セラミックス、各種プラスチックのほか、光電変換素子等として用いる場合には、金、銀、銅、アルミニウム、白金などの導電性体を用いることが好ましい。また、ITO膜を備えるものであることも好ましい。
【0049】
また、固相担体表面にはタグ結合部位を備えている。タグ結合部位は、タグ部と共有結合性又は非共有結合性の相互作用により結合可能な部位である。タグ結合部位の態様は、タグ部の態様に対応している。タグ部が共有結合性である場合、タグ結合部位には、それに対応した共有結合性官能基を備える必要がある。例えば、タグ部にシステインなどのジスルフィド結合可能なSH基を有するアミノ酸残基を有する場合には、タグ結合部位としては、同様にSH基を有するかあるいはジスルフィド結合を有する官能基を導入しておくことができる。なお、チオール基は、固相担体表面に3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシラン等のアルキルシランなどのアミノ基を有するシランカップリング剤を付与し、さらに、このアミノ基を利用して導入できる。また、同様に、固相担体表面には、カルボキシル基、エポキシ、水酸基、酸無水物、チオール基などを導入できる。こうしたタグ結合部位と共有結合可能なアミノ基を有するアミノ酸を共有結合性のタグ部として保持させることもできる。
【0050】
また、タグ部がヒスチジンタグなど配位結合性である場合、タグ結合部位には、タグ中の配位結合性基を配位可能な金属イオンなどの中心イオンを有する分子を導入しておくことができる。例えば、タグ部がヒスチジンタグである場合には、固相体表面にニトリロトリ酢酸(NTA)やイミノジ酢酸(IDA)にニッケル等の金属をトラップさせたタグ結合部位を形成しておくことができる。NTAやIDAを表面に有する基板としては、NTAセンサーチップ(ビアコア社)等の市販のものを用いることができる。なお、NTAやIDAを表面に有する固相担体は必要に応じて調製することができる。NTA層等は、チオール基を有するニトリロトリ酢酸分子を用いるセルフアッセンブル法や、金属膜表面にニトリロトリ酢酸と反応し得る化学物質層を形成させた後、化学結合法によってニトリロトリ酢酸を固定化する方法等によって形成することができる。
【0051】
また、タグ部がグルタチオンSトランスフェラーゼ−タグである場合には、固相担体上にグルタチオンを有するタグ結合部位を形成することができ、タグ部がマルトース結合タンパク質−タグである場合には、マルトースを有するタグ結合部位を形成することができる。さらに、抗原ペプチドをタグ部として有するタンパク質に対しては、抗原ペプチドと抗原抗体反応する抗体を結合部位とすることができる。
【0052】
さらに、タグ部が正電荷アミノ酸又は負電荷アミノ酸に富む静電結合性の場合には、固相担体表面に負電荷又は正電荷のタグ結合部位を備えることができる。例えば、タグ部がアスパラギン酸やグルタミン酸などの負電荷アミノ酸を有する場合、タグ結合部位には、アミノ基などの正電荷を有する官能基を備えるようにする。こうした官能基は、例えば、アルキルシランなどのシランカップリング剤により容易に固相担体表面に導入することができる。
【0053】
固相担体表面のタグ結合部位はパターニングを施すことができる。こうすることで、パターニング部位に選択的に人工タンパク質複合体を固定化できる。
【0054】
本発明の固定化体は、人工タンパク質複合体におけるタグ部と固相担体上のタグ結合部位との間の共有結合性又は非共有結合性の相互作用により固相担体に保持されている。好ましくは非共有結合性の相互作用によって保持されている。本発明を拘束するものではないが、本人工タンパク質複合体における優れた固定化能力は以下のように推論できる。すなわち、本人工タンパク質複合体は、光収穫系タンパク質複合体様構造体を有しており、環状体の少なくとも一方の末端ペプチド鎖を備え、これらのペプチド鎖は、環状体を構成するポリペプチドに対応して存在する。このため、この人工タンパク質複合体においては、環状体の一方の端部側に複数個、好ましくは多数個のタグ部を容易に保持させることができる。このように複数個のタグを特定部位に保持させることができるため、非共有結合性の相互作用であっても選択性が高くしかも固定能力が高くなっているものと考えられる。
【0055】
固相担体上に保持される人工タンパク質複合体は、光収穫系タンパク質複合体であっても、光収穫−光反応中心タンパク質複合体であってもよいが、これらを双方有していてもよい。例えば、R.rubrumなどの光合成細菌では、光収穫−光反応中心タンパク質複合体(LH1−RC)のみを有しているが、R.sphaeroides、R.capsulatus、R.acidphila、R.viridisなどにおいては、光収穫−光反応中心タンパク質複合体(LH1−RC)の周囲に光収穫系タンパク質複合体であるLH2タンパク質複合体を備えている。図2(b)に示すように、本発明の固定化体によれば、こうした細菌の光利用システムを容易に模倣することができる。さらに、基板等の固相担体上でこれらの人工タンパク質複合体をパターンニングすることにより、光収穫機能を持つ光収穫系膜タンパク質・色素複合体と光電変換機能をもつ光収穫系−反応中心複合体を任意の割合で同一基板上に固定化することができ、効率の良い光電変換デバイスの構築が期待できる。
【0056】
なお、異なる種類の人工タンパク質複合体を固定化する場合には、好ましくは、異なるタグ部とタグ結合部位との組み合わせを用いる。こうすることでそれぞれの人工タンパク質複合体の固定化部位を自在に設計することができ、複数の人工タンパク質複合体に対して好ましい二次元配置を付与することができる。こうしたタグ部とタグ結合部位の一つとしては、ヒスチジンタグとヒスチジンをキレート可能な中心イオンとの組み合わせが挙げられる。
【0057】
(人工タンパク質複合体の固定化体の製造方法)
本発明の固定化体の製造方法は、光収穫系タンパク質複合体様構造体を有し、共有結合性又は非共有結合性の相互作用を発揮可能なタグ部を前記複合体様構造体の環状構造体の一方の端部側に優勢的に備える人工タンパク質複合体を、表面に前記タグ部を前記相互作用により結合させるタグ結合部位を有する固相担体に前記相互作用可能に接触させる固定化工程を備えている。本発明の製造方法によれば、人工タンパク質複合体が配向制御されて固定化された固定化体を容易に得ることができる。
【0058】
本製造方法において、固定化対象である人工タンパク質複合体は、上記のとおり、光収穫系タンパク質複合体機能を有していないものでもよいし、光収穫系タンパク質複合体、さらには光収穫−光反応中心タンパク質複合体であってもよい。複数種類の人工タンパク質複合体を固定化する場合には、タグ部と前記タグ結合部位との組み合わせを異ならせて、該組み合わせ毎に異なる種類の人工タンパク質複合体の固定化工程を実施することが好ましい。こうすることで容易にそれぞれの人工タンパク質複合体を所望の固定位置に配向制御して固定できる。
【0059】
固定化工程は、タグ部の種類に応じて実施する。例えば、ヒスチジンタグの場合、例えば、NTA化した固相担体表面にニッケル等の金属をトラップさせた上、固相担体表面に人工タンパク質複合体を供給する。静電的結合等の場合、適切なpHやイオン強度、温度等を設定した媒体を用いて固相担体に人工タンパク質複合体を供給することで相互作用により固定化させることができる。また、GST−タグの場合、グルタチオンが導入された固相担体と人工タンパク質複合体とを、生理的条件のリン酸緩衝液(たとえばPBS)や生理的条件のHepes緩衝液(たとえばHBS)中に共存させることで相互作用させて固定化できる。さらに、抗原ペプチドを有するタンパク質及び抗体を導入した固相担体を用いる場合も、同様に、生理的条件のリン酸緩衝液(たとえばPBS)や生理的条件のHepes緩衝液(たとえばHBS)中に共存させることで相互作用させて固定化させることができる。
【実施例】
【0060】
以下に実施例を挙げて、具体的に説明するが、これに限定されるものではない。
(実施例1)
(LH2複合体の調製)
Rps.acidophila10050のLH2複合体のα体及びβ体のアミノ酸配列を図3に示す。Rps.acidophila10050のLH2複合体の抽出方法は以下の通りである。菌をPfennigらの方法に従い培養し、遠心分離によりwhole cellを得て、界面活性剤LDAOを1%加え、20分間可溶化を行った後、50,000rpmで16時間スクロースグラジエントで遠心分離を行い、LH2を単離した。ついでDE52カラムにより精製を行った。
【0061】
(実施例2)
(LH2タンパク質複合体の固定化)
光合成細菌の光収穫系膜タンパク質・色素複合体を固定化する基板の3−アミノプロピルトリエトキシシランの修飾方法は以下の通りである。本実施例における固定化の概念図を図4に示し、処理の流れの一例を図5に示す。ガラス基板やITO電極などをピラニア溶液(硫酸/過酸化水素=7/3(v/v))に2分間浸漬し、洗浄を行った。その後、蒸留水、メタノールクロロホルムで、洗浄し、窒素ガスで乾燥させた。洗浄した基板を3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APS)を加えたベンゼン中(APS/ベンゼン=1/100(v/v))で窒素雰囲気下、4時間還流させ、メタノール、クロロホルムで洗浄し、窒素ガスにて乾燥させることによりAPSで修飾した基板を得た。光合成細菌の光収穫系膜タンパク質・色素複合体を固定化した基板は、タンパク質の緩衝溶液中にAPS処理をした基板を4℃、暗室条件下、一晩浸漬させることにより得た。
【0062】
(実施例3)
(タグ付き光収穫−光反応中心タンパク質複合体の調製)
光合成細菌のヒスチジンタグ付き光収穫系−反応中心複合体としては、Rb.sphaeroides由来でHis−tagを付加したLH1複合体を有するものを用いた。LH1複合体のα体及びβ体のアミノ酸配列及びヒスチジンタグの付加態様について図6に示し、本実施例の光収穫−光反応中心タンパク質複合体を用いた固定化の概念図を図7に示す。また、ヒスチジンタグ付きLH1βタンパク質複合体のアミノ酸配列を配列番号17及び18に示す。また、これらのヒスチジンタグ付きLH1複合体を発現する変異株の構築及び光収穫−光反応中心タンパク質複合体の調製については以下の通りに行った。
【0063】
(プラスミドDNAの構築)
His−tag挿入用のプラスミドDNAの構築はPCR法を用いて行った。図8に示すように、鋳型としてプラスミドp8RSDPUF(bchZ内のEcoRIサイトからorf641内SphIサイトまで(pufQ,pufK,pufB,pufA,pufL,pufM,pufXを含む)4051bpのインサートをプラスミドpUC118に挿入したもの)を用いた。今回使用したプライマー(配列番号19〜24)を表1に示す。図9に示すように、これらプライマーを用いて、bchZ内部のPstIサイトからpufL内のKpnIサイトまでを2回のPCRにより変異導入し、同サイトに戻した。
【表1】

【0064】
(PCR1回目)
C末端側への変異導入として表1の1−3,2−6、N末端側への変異導入として表1の1−5,4−6のプライマーの組み合わせで、98℃で30秒、55℃で60秒、72℃で60秒の順で30サイクルのPCRを行った。反応産物をアガロース電気泳動で確認後、目的のバンドを切り出して精製した。
【0065】
(PCR2回目)
1回目のPCRで切り出した2つのPCR産物をサーマルサイクラーにてアニーリングさせた後、プライマー1及び6を加えて、98℃で30秒、55℃で60秒、72℃で90秒で30サイクルのPCRを行った。反応産物をアガロース電気泳動で確認後、目的のバンドを切り出して精製した。切り出した反応産物を制限酵素KpnI,PstIで処理した。これをKpnI,PstI処理したプラスミドp8RSDPUFに挿入した(pSPAChis1,pSPANhis1)。
【0066】
(プラスミドDNAの導入)
プラスミドDNAのRb.sphaeroidesへの導入は、接合法を用いて行った。構築したプラスミドDNA(pSPAChis1,pSPANhis1)をRb.sphaeroidesが保持可能なコスミドpJRD215[J.Davison,M.Heusterspreute,N.Chevalier,V.Ha−Thi,F.Brunel,Gene51、275(1987)]に組み込んだ(pSPACH1FJ,pSPANH1FJ)。作製したコスミドをE.coliJM109に形質転換し、その菌から接合伝達にてコスミドをRb.sphaeroides DC7に導入し、Rb.sphaeroidesDC7pSPACH1FJ,DC7pSPANH1FJの変異株2株を得た。
【0067】
(Rb.sphaeroidesDC7pSPACH1FJからのLH1−RC複合体(C末端His−tagタイプ)の調製)
紅色光合成細菌Rb.sphaeroidesDC7pSPACH1FJのLH1−RC複合体の単離はWangらの方法を参考にした[Z.Y.Wang,M.Shimonaga,M.Kobayashi,T.Nozawa,FEBSLett.519164(2002)]。培養した細菌を遠心分離機で、4℃、4.5krpmで30分間処理することでWholecellを沈殿物として得た。得られたWhole cellに20mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)を適量加え、さらに、塩化マグネシウム六水和物、DeoxyribonucleaseIをそれぞれスパーテル一杯程度加えてホモジナイズを行い、50%duty cyclepulseで15分間超音波処理して細胞を破砕した。これを超遠心装置で4℃、2,300gで15分遠心分離し、得られた上清をさらに、4℃、148,000gで60分遠心分離してchromatophoreを沈殿物として得た。この沈殿を20mMTris−HCl緩衝液(pH8.0)でホモジナイズすることで溶液状のchromatophoreを調製した。Rb.sphaeroidesDC7 pSPACH1FJのchromatophoreをO.D.850=45程度になるように10mML−アスコルビン酸ナトリウムを含む50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.5)に分散させ、0.5%(w/v)になるようにn−Octyl−β−D−glucoside(OG,同仁化学研究所)を、0.3%(w/v)になるようにTritonX−100をそれぞれ加えて、4℃、遮光下で60分攪拌した。これを超遠心装置で4℃、148,000gで60分遠心分離した。得られた沈殿を10mML−アスコルビン酸ナトリウムを含む50mMTris−HCl緩衝液(pH8.5)で懸濁後、1.0%(w/v)になるようにOGを、0.3%(w/v)になるようにTritonX−100をそれぞれ加えて、4℃、遮光下で60分攪拌した。これを4℃、148,000 gで60分遠心分離し、上清を回収した。この上清を0.8%(w/v)OGを含む50mMTris−HCl緩衝液(pH8.5)で調製した0.6M,1.0Mスクロース溶液を重層したスクロースグラジエントにかけた(148,000g,4℃,12時間)。LH1−RC分画を分取した後、スクロースを除去するために外液に50mMTris−HCl緩衝液(pH8.5)を用いて6時間透析を行うことによりLH1−RC複合体を得た。
【0068】
(Rb.sphaeroidesDC7pSPANH1FJからのLH1−RC複合体(N末端His−tagタイプ)の調製)
紅色光合成細菌Rb.sphaeroidesDC7pSPANH1FJのLH1−RC複合体の単離は上記と同様Wangらの方法を参考にして行った。同様にして得られたRb.sphaeroidesDC7pSPANH1FJのchromatophoreをO.D.850=45程度になるように10mML−アスコルビン酸ナトリウムを含む50mMTris−HCl緩衝液(pH8.5)に分散させ、0.7%(w/v)になるようにOGを、0.3%(w/v)になるようにTritonX−100をそれぞれ加えて、4℃、遮光下で60分攪拌した。これを超遠心装置で4℃、148,000gで60分遠心分離した。得られた沈殿を10mML−アスコルビン酸ナトリウムを含む50mMTris−HCl緩衝液(pH8.5)で懸濁後、1.0%(w/v)になるようにOGを、0.3%(w/v)になるようにTritonX−100をそれぞれ加えて、4℃、遮光下で60分攪拌した。これを4℃、148,000gで60分遠心分離し、上清を回収した。この上清を0.8%(w/v)OGを含む50mMTris−HCl緩衝液(pH8.5)で調製した0.6M,1.0Mスクロース溶液を重層したスクロースグラジエントにかけた(148,000g,4℃,12時間)。LH1−RC分画を分取した後、スクロースを除去するために外液に50mMTris−HCl緩衝液(pH8.5)を用いて6時間透析を行うことにより精製物を得た。
【0069】
(実施例4)
(ヒスチジンタグ付き光収穫系−反応中心複合体の電極上への固定化)
実施例3で調製したヒスチジンタグ付き光収穫系−反応中心複合体 の基板上への固定化の概略図を図10に示す。タンパク質複合体を電極上に固定化するためには、表面にニトリロトリ酢酸基を形成させなければならない。本発明では電極基板に金を用いてチオール基を有するニトリロトリ酢酸分子を用いるセルフアッセンブル法により形成した。ニトリロトリ酢酸基は、他の手法により形成しても良い。ついで、固相担体を50mM硫酸ニッケルの水溶液に1時間浸漬させることにより、ニッケルイオンをニトリロトリ酢酸基に配位させた。その後、蒸留水で洗浄したのち各ヒスチジンタグ付き光収穫系−反応中心複合体の緩衝溶液に浸漬することにより、C末端ヒスチジンタグ付き光収穫系−反応中心複合体固定化電極とN末端ヒスチジンタグ付き光収穫系−光反応中心複合体固定化電極を得た。
【0070】
(実施例5)
(ヒスチジンタグ付き光収穫−反応中心タンパク質複合体固定化電極の光電流測定)。
2種類のヒスチジンタグ付き光収穫−反応中心タンパク質複合体固定化電極の光電流測定は3電極式の装置を用いて行い、全て880nmの単色光で光励起を行った。また電子アクセプターにはメチルビオロゲンを用いた。図7に示したようにLH1−RC複合体中ではスペシャルペア(SP)の光励起によりLH1のC末端側からN末端方向へ順次電子伝達が行われ、最終的に電子アクセプターのメチルビオロゲンへ電子が渡されることになる。ヒスチジンタグ付き光収穫系−反応中心複合体固定化電極の光電流測定の結果を図11に示す。
【0071】
(評価)
図11に示すように、SPが電極側にあるC−HisタグのものがN−Hisタグのものよりも高い電流応答を示した。なお、固定化タンパク質量はほぼ同じであった。以上の結果は、C−Hisタグ付き複合体とN−Hisタグ付き複合体の電極上における固定方向の差を示しているといえる。すなわち、C−Hisタグ付き複合体では、電極からLH1−RC複合体への電子の流れとRC複合体中での電子の流れが同一方向のため電子アクセプターへの電子伝達効率が良いのに対し、N−Hisタグ付き複合体ではRC複合体中での電子の流れが電極へ向かう方向となるため、電子アクセプターへの電子伝達の効率が低下したといえる。以上の結果から、ヒスチジンタグの付加によって、LH1−RC複合体の電極上での方向性の制御が達成されたことがわかった。
【配列表フリーテキスト】
【0072】
配列番号19〜24:合成プライマー
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】人工タンパク質複合体の構造の概略を示す図(a)と部分構造の概略を示す図(b)である。
【図2】人工タンパク質複合体を固定化した固定化体を例示する図である。
【図3】Rps.acidophila 10050のLH2複合体のα体及びβ体のアミノ酸配列を示す図である。
【図4】実施例2における人工タンパク質複合体の固定化の概念図である。
【図5】APSを用いた人工タンパク質複合体の固定化スキームの一例を示す図である。
【図6】LH1複合体のα体及びβ体のアミノ酸配列及びヒスチジンタグの付加態様を示す図である。
【図7】本実施例の光収穫−光反応中心タンパク質複合体を用いた固定化の概念図を示す図である。
【図8】鋳型として用いたプラスミドp8RSDPUF(bchZ内のEcoRIサイトからorf641内SphIサイトまで(pufQ, pufK, pufB, pufA, pufL, pufM, pufXを含む)4051bpのインサートをプラスミドpUC118に挿入したもの)のインサート部分を示す図である。
【図9】PCRの実施形態を示す図である。
【図10】ヒスチジンタグ付き光収穫系−反応中心複合体 の基板上への固定化の概略を示す図である。
【図11】ヒスチジンタグ付き光収穫系−反応中心複合体 を固定化した電極の光電流値の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工タンパク質複合体であって、
αへリックス部分と該αへリックス部分に隣接するN末端ペプチド鎖及び/又はC末端ペプチド鎖をそれぞれ備える2つのポリペプチドがそれぞれのαへリックス部分で対合した二量体が環状に並んだ環状構造体を有し、
共有結合性又は非共有結合性の相互作用を発揮可能なタグ部を前記環状構造体の一方の端部側に優勢的に備える、複合体。
【請求項2】
前記非共有結合性の相互作用は、疎水結合、静電的結合、配位結合及び水素結合から選択されるいずれかを含んでいる、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
前記タグ部は、ヒスチジン−タグ、グルタチオンSトランスフェラーゼ−タグ、マルトース結合タンパク質−タグ及び抗原ペプチド−タグから選択される、請求項1又は2に記載の複合体。
【請求項4】
前記二量体の間には少なくとも一つのポルフィリン化合物を有している、請求項1〜3のいずれかに記載の複合体。
【請求項5】
前記αヘリックス部分は光収穫系タンパク質複合体を構成するポリペプチドのαヘリックス部分のアミノ酸配列と同一である、請求項1〜4のいずれかに記載の複合体。
【請求項6】
前記人工タンパク質複合体は、光収穫系タンパク質機能を有する光収穫系タンパク質複合体である、請求項4又は5に記載の複合体。
【請求項7】
人工光収穫−光反応中心タンパク質複合体であって、
環状構造体を有する光収穫系タンパク質複合体であって、共有結合性又は非共有結合性の相互作用を発揮可能なタグ部を前記環状構造体の一方の端部側に優勢的に有する光収穫系タンパク質複合体と、
該光収穫系タンパク質複合体からの光エネルギーを電荷分離可能に複合化された光反応中心タンパク質複合体と、
を備える、複合体。
【請求項8】
前記非共有結合性の相互作用は、疎水結合、静電的結合、配位結合及び水素結合から選択されるいずれかを含んでいる、請求項7に記載の複合体。
【請求項9】
前記タグ部は、ヒスチジン−タグ、グルタチオンSトランスフェラーゼ−タグ、マルトース結合タンパク質−タグ及び抗原ペプチド−タグから選択される、請求項7又は8に記載の複合体。
【請求項10】
人工タンパク質複合体の製造方法であって、
αへリックス部分と該αへリックス部分に隣接するN末端ペプチド鎖及び/又はC末端ペプチド鎖を備える二つのポリペプチドがそれぞれのαへリックス部分で対合した二量体が環状に並んだ環状構造体を形成可能であって、前記N末端ペプチド鎖又は前記C末端ペプチド鎖に共有結合性又は非共有結合性の相互作用を発揮可能なタグ部を有するポリペプチドをコードするコード領域を宿主染色体上又は宿主染色体外に保持する、少なくとも光収穫系タンパク質複合体を発現可能な宿主細胞を培養する工程と、
該培養液から回収したクロマトフォアから人工タンパク質複合体を分離する工程と、
を備える、製造方法。
【請求項11】
前記人工タンパク質複合体は、光収穫系タンパク質機能を有する光収穫系タンパク質複合体である、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
人工光収穫−光反応中心タンパク質複合体の製造方法であって、
光収穫系タンパク質複合体を形成可能なαへリックスポリペプチドであって、N末端ペプチド鎖又はC末端ペプチド鎖に共有結合性又は非共有結合性の相互作用を発揮可能なペプチドタグ部を有するタンパク質をコードするコード領域を宿主染色体上又は宿主染色体外に保持する、光収穫−光反応中心タンパク質複合体を発現可能な宿主細胞を培養する工程と、
該培養液から回収したクロマトフォアから人工光収穫−光反応中心タンパク質複合体を分離する工程と、
を備える、製造方法。
【請求項13】
前記分離工程は、前記クロマトフォアを第1の濃度の界面活性剤で可溶化し遠心分離し、該沈殿物を前記第1の濃度よりも高い第2の濃度の界面活性剤で可溶化して遠心分離して、該上清として粗光収穫−光反応中心タンパク質複合体を分離する工程である、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
αヘリックス部分と該αヘリックス部分に隣接するN末端ペプチド鎖及び/又はC末端ペプチド鎖とを有し、
前記N末端ペプチド鎖又はC末端ペプチド鎖に共有結合性又は非共有結合性の相互作用を発揮可能なタグ部を有する、
光収穫系タンパク質複合体様構造体を形成可能なポリペプチド。
【請求項15】
前記タグ部は、ヒスチジンタグである、請求項14に記載のポリペプチド。
【請求項16】
前記αヘリックス部分は、配列番号1〜8のいずれかに記載のアミノ酸配列を有する請求項14又は15に記載のポリペプチド。
【請求項17】
配列番号9〜16のいずれかに記載のアミノ酸配列を有する、請求項14又は15に記載のポリペプチド。
【請求項18】
形質転換体であって、
少なくとも光収穫系タンパク質複合体を発現可能な宿主において、
αへリックス部分と該αへリックス部分に隣接するN末端ペプチド鎖及び/又はC末端ペプチド鎖を備える二つのポリペプチドがそれぞれのαへリックス部分で対合した二量体が環状に並んだ環状構造体を形成可能であって、前記N末端ペプチド鎖又は前記C末端ペプチド鎖に共有結合性又は非共有結合性の相互作用を発揮可能なタグ部を有するポリペプチドをコードするコード領域を宿主染色体上又は宿主染色体外に保持する、形質転換体。
【請求項19】
前記宿主は、光収穫−光反応中心タンパク質複合体を発現可能である、請求項18に記載の形質転換体。
【請求項20】
前記光収穫系タンパク質のαへリックスタンパク質は、光収穫系タンパク質Iα、Iβ、IIα及びIIβから選択される、請求項18又は19に記載の形質転換体。
【請求項21】
発現ベクターであって、
αヘリックス部分と該αヘリックス部分に隣接するN末端ペプチド鎖及び/又はC末端ペプチド鎖とを有し、前記N末端ペプチド鎖又はC末端ペプチド鎖に共有結合性又は非共有結合性の相互作用を発揮可能なタグ部を有する、光収穫系タンパク質複合体様構造体を形成可能なポリペプチドをコードするコード領域を保持する、発現ベクター。
【請求項22】
タンパク質が固定化された固定化体であって、
光収穫系タンパク質複合体様構造体を有し、共有結合性又は非共有結合性の相互作用を発揮可能なタグ部を前記複合体様構造体の環状構造体の一方の端部側に優勢的に備える人工タンパク質複合体と、
表面に前記タグ部を前記相互作用により結合させるタグ結合部位を有する固相担体と、を備え、
該固相担体上の前記タグ結合部位に前記タグ部を介して前記人工タンパク質複合体を保持している、固定化体。
【請求項23】
前記人工タンパク質複合体は、光収穫系タンパク質機能を有する光収穫系タンパク質複合体を含んでいる、請求項22に記載の固定化体。
【請求項24】
前記人工タンパク質複合体は、前記光収穫系タンパク質複合体と、前記光収穫系タンパク質複合体からの光エネルギーを電荷分離可能に複合化された光反応中心タンパク質複合体とを備える光収穫系−光反応中心タンパク質複合体である、請求項23に記載の固定化体。
【請求項25】
前記固相担体上には、光収穫系タンパク質複合体と、光収穫−光反応中心タンパク質複合体とを保持している、請求項23又は24に記載の固定化体。
【請求項26】
前記固相担体上には、複数の前記人工タンパク質複合体が、複数の前記タグ部と前記タグ結合部位との組み合わせに基づいて固定されている、請求項22〜25のいずれかに記載の固定化体。
【請求項27】
前記タグ部と前記タグ結合部位の組み合わせの一つは、ヒスチジンタグ部とヒスチジンをキレート可能な金属イオンとの組み合わせである、請求項22〜26に記載の固定化体。
【請求項28】
タンパク質固定化体の製造方法であって、
光収穫系タンパク質複合体様構造体を有し、共有結合性又は非共有結合性の相互作用を発揮可能なタグ部を前記複合体様構造体の環状構造体の一方の端部側に優勢的に備える人工タンパク質複合体を、表面に前記タグ部を前記相互作用により結合させるタグ結合部位を有する固相担体に前記相互作用可能に接触させる固定化工程を備える、製造方法。
【請求項29】
前記人工タンパク質複合体は、光収穫系タンパク質機能を有する光収穫系タンパク質複合体を含んでいる、請求項28に記載の製造方法。
【請求項30】
前記人工タンパク質複合体は、前記光収穫系タンパク質複合体と、前記光収穫系タンパク質複合体からの光エネルギーを電荷分離可能に複合化された光反応中心タンパク質複合体と、を備える光収穫系−光反応中心タンパク質複合体である、請求項29に記載の製造方法。
【請求項31】
複数の前記人工タンパク質複合体について、前記タグ部と前記タグ結合部位との組み合わせを異ならせて、該組み合わせ毎に異なる種類の前記人工タンパク質複合体の固定化工程を実施する、請求項28〜30のいずれか記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−70227(P2007−70227A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−255526(P2005−255526)
【出願日】平成17年9月2日(2005.9.2)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】