説明

人工器官コーティング

表面と、表面上に配置された高分子電解質を含む第1の層と、第1の層上に配置された複数のポリマー粒子と、複数のポリマー粒子上に配置された多孔質材のコーティングとを備えるステント(例えば薬剤溶出ステント)等の人工器官。複数のポリマー粒子の少なくとも1つの粒子がポリマーマトリクスとポリマーマトリクス内に分散された薬剤とを有する。さらに、この人工器官の製造方法も開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は人工器官のコーティングに関する。
【背景技術】
【0002】
人体内には、動脈等の血管や管腔等、様々な通路が存在する。これらの通路は、閉塞したり、脆弱になることがある。例えば、腫瘍により閉塞したり、プラークにより狭窄したり、動脈瘤により脆弱化することがある。このような場合、医療用人工器官を用いて通路を再開通、強化、さらには通路を人工器官と交換することもできる。人工器官は、人工の植え込み器具であり、一般的に体内の通路や管腔に配置される。多くの人工器官は、管状の部材であり、例としては、ステント、ステントグラフト、及び被覆されたステントが挙げられる。
【0003】
人工器官の多くは、カテーテルを用いて体内に搬送される。一般的に、カテーテルが補助する人工器官は、例えば管腔内の脆弱化部位又は閉塞部位である、体内の所望部位へ搬送される間は、縮小、即ち小型化されている。所望部位に到達した人工器官は、管腔の壁に接触するよう配置される。ステントの搬送に関しては、特許文献1にさらに詳細に記載されている。
【0004】
ある装着方法は、人工器官の拡張を伴う。人工器官を装着するための拡張機構は、人工器官を放射線状に拡張させるように動作する。例えば、体内における最終形状よりも縮小されたバルーン拡張式人工器官と共にバルーンを搬送するカテーテルが拡張される。バルーンの膨張により人工器官が変形及び/又は拡張し、管腔に接触する所定の位置に固定される。その後バルーンは収縮され、カテーテルが引き出される。
【0005】
植え込み後に所定の方法で体液に溶出可能な治療薬や薬剤を含んだ人工器官が所望される場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,290,721号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は人工器官のコーティングを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態は、表面と、表面上に配置された高分子電解質を含む第1の層と、 第1の層上に配置された複数のポリマー粒子と、 複数のポリマー粒子上に配置された多孔質材のコーティングとを備えるステント(例えば薬剤溶出ステント)等の人工器官に関する。複数のポリマー粒子の少なくとも1つの粒子がポリマーマトリクスとポリマーマトリクス内に分散された薬剤とを有する。
【0009】
本発明の他の実施形態は、人工器官の製造方法に関する。この製造方法は、表面に高分子電解質の第1の層を配置する工程と、第1の層に生体内分解性を有する複数の粒子を配置する工程と、粒子上に多孔質トップコーティングを形成する工程とを含む。
【0010】
いくつかの実施形態は、以下の特徴を1つ又は複数有する。人工器官は、コーティングと複数のポリマー粒子との間に配置された高分子電解質を含む第2の層をさらに備える。コーティングの多孔質材は第2の層内のin situでのゾルゲル法により形成される。第2の層はさらに多孔質材を含む。第1の層はさらに多孔質材を含む。ポリマーマトリクスは、生体内分解性を有するポリマーにより形成される。多孔質材は、チタン、イリジウム、ジルコニウム、ルテニウム、ハフニウム、シリコン、及びアルミニウムの酸化物及び水酸化物を含む。表面は金属により形成される。金属は、ステンレス鋼、ニチノール、タングステン、タンタル、レニウム、イリジウム、銀、金、ビスマス、プラチナ、又はこれらの合金である。少なくとも1つの粒子の直径は10nm〜1μmである。複数のポリマー粒子は厚さ10nm〜1μmの層を形成する。第1の層の厚さは1〜100nmである。多孔質材の多孔率は90%以下である。多孔質材の多孔率は30%以上である。
【0011】
いくつかの実施形態は、以下の特徴を1つ又は複数有する。製造方法は、粒子に高分子電解質の第2の層を配置する工程と、第2の層上に前駆体組成物を配置してin situでのゾルゲル反応により多孔質トップコーティングを形成する工程とを含む。生体内分解性を有する粒子の少なくとも1つは、ポリマーマトリクスとマトリクス内に分散された薬剤とを含む。製造方法は、マトリクス内に分散された薬剤を含むとともに生体内分解性を有する少なくとも1つの粒子を乳化重合により形成する工程をさらに含む。製造方法は、ゾルゲル前駆体組成物を施してウエットゲルを形成することにより多孔質トップコーティングを形成する工程を含む。製造方法は、ウエットゲルを乾燥させることによりウエットゲルをセラミック材又はセラミック様物質に変換する工程を含む。前駆体組成物は酸化金属前駆体を含む。酸化金属前駆体は、オルトケイ酸テトラエチル、チタンイソプロポキシド、又はイリジウムアセチルアセトネートである。製造方法は、交互積層法により第1の層及び粒子を配置する工程を含む。製造方法は、交互積層法により第2の層を配置する工程を含む。粒子の寸法は10nm〜1μmである。第1の層の厚さは1〜100nmである。多孔質トップコーティングの多孔率は90%以下である。多孔質トップコーティングの多孔率は30%以上である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の実施形態は、1つ又は複数の下記の効果を奏する。薬剤溶出ステント等の人工器官は、薬剤溶出を容易にするために多孔質のトップコーティングに覆われた、薬剤を含んだ粒子を複数有する。粒子をステントに配置する前に薬剤を粒子内に封入することができるため、ステントコーティングを施した後に薬剤を配置する面倒な作業を必要としない。粒子は、生体内分解性ポリマー等の生体内分解性材料を用いて形成できる。トップコーティングは、IROXやTiOx等のセラミックで形成することができ、よって、再狭窄の可能性の減少、内皮細胞増殖の促進等の治療効果がもたらされる。経時的な薬剤溶出様態は、トップコーティングの多孔率及び/厚さ、粒子の寸法、粒子内の薬剤の分散のいずれか又は全てを調整することにより選択可能である。例えば、多孔度が同一で厚さの異なるコーティングを比べると、厚いコーティングの薬剤溶出速度は、薄いコーティングよりも速くなる。また、厚い生体内分解性ポリマーに覆われた薬剤を含んだ粒子は、薄い生体内分解性ポリマーに覆われた粒子に後れて薬剤を放出する。多孔度の異なる複数層の多孔質材をトップコーティングに含めて、薬剤放出をさらに調節することもできる。複数種の薬剤を含んだ生体内分解性粒子を複数層にてステント表面に配置することにより、所望の治療効果をもたらし得る。人口器官は完全に内皮化される場合もあるし、生体内分解性を有していてもよい。そのため、植え込み後に管腔から除去する必要がない。
【0013】
他の様態、特徴、効果が以下の記載、図面、及び特許請求の範囲より明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1A】折り畳んだ状態のステントが搬送される状態を示すの断面図。
【図1B】ステントが拡張する状態を示す断面図。
【図1C】体内の管腔内でステントの配置状態を示す断面図。
【図2】ステントの一実施形態を示す斜視図。
【図3】ステントの表面を示す概略断面図。
【図4】ステントの製造方法の一実施形態を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
複数の図における同一の符号は、同一の構成要素を表す。図1A〜1Cに示すように、ステント10はカテーテル14の先端付近において搬送されるバルーン12上に配置される。そして、ステント10は、バルーン及びステントを搬送する部分が閉塞18の領域に到達するまで管腔15(図1A)内を進む。その後、バルーン12を膨張させることによりステント10が放射状に拡張し、管腔壁に押しつけられる。これにより、閉塞18が押され、閉塞18の周囲の管壁が放射状に拡張する(図1B)。その後バルーンからの圧力が解除され、カテーテルが管腔から引き出される(図1C)。
【0016】
図2に示すように、ステント10の壁23には、複数のせん孔22が形成されている。ステント10は、外面である反内腔側表面24、内面である内腔面26、及び複数のせん孔面28を含む複数の表面領域を有する。ステントは前述したようにバルーン拡張式ステントであってもよいし、もしくは自己拡張式ステントであってもよい。ステントの例は、特許文献1に記載されている。
【0017】
図3の断面図に示すように、一実施形態においては、ステント壁23は、例えば金属製のステント本体25を含み、以下に詳細に説明する方法等により反内腔側表面24等のステント表面上に形成された高分子電解質の複数の層301、303及び305の下コーティングを含む。高分子電解質層の上には、生体内分解性ポリマー等の粒子309が複数配置されており、粒子309は、多孔質材のトップコーティング311に覆われている。
【0018】
いくつかの実施形態においては、粒子309は球状であり、各粒子の直径は少なくとも約5ナノメートル(nm)であり、例えば、少なくとも約10nm、約100nm、約1マイクロメートル(ミクロン又はμm)、又は約5μmであり、さらに/もしくは、最大で約10μm(例えば、最大で約5μm、約1μm、約500nm、約100nm、約10nm)である。粒子309は、生体内分解性ポリマーマトリクス内に分散された薬剤を含む。薬剤は、所定の様態でポリマー粒子から放出されるようポリマー粒子内に分散され、分散は均等であってもよいし、不均等であってもよい。例えば、薬剤放出速度を安定して増加させるために、粒子の内部領域(例えば中心から粒径の3分の2までの領域)の薬剤の濃度が、粒子の表面領域(例えば粒径の3分の2から粒子表面までの領域)の薬剤濃度よりも高くなるように、例えば、薬剤濃度が内部領域では約60〜100%とし、表面領域では約0〜40%となるよう構成することができる。薬剤放出様態は、粒径を変えることにより調整することもできる。いくつかの実施形態においては、粒径は、均一であってもよいし、不均一であってもよい。例えば、径が大きく長時間にわたって溶出する粒子を用いると、より長い薬剤放出が可能となる。いくつかの実施形態においては、個々の粒子に1つ又は複数の薬剤が含まれる。他の実施形態においては、複数の粒子が用いられ、別の粒子に含まれるものとは異なる1種類の薬剤を各粒子が有する。粒子は、単一の層に配置してもよいし、複数層に配置してもよい。例えば、異なる層に異なる薬剤を含んだ複数層の粒子を用いて、特定の治療効果をもたらすことができる。別の例では、高分子電解質層と、薬剤を含んだポリマー粒子の層を交互に形成して、複数層を構成してもよい。1層または複数層の粒子層の厚さは、少なくとも約5nm(例えば少なくとも約10nm、約100nm、約500nm、又は約900nm)であり、さらに/もしくは最大で約1マイクロメートル(例えば、最大で約750nm、約500nm、約100nm、約50nm、約25nm)である。厚さは均一でも不均一でもよい。例えば、厚さは、人工器官の一端から他端に向かって全体的に直線的に増加してもよいし、全体的に非直線的に増加してもよい(例:全体的に放射状に増加、全体的に指数的に増加)。もしくは、段階的に増加してもよい。さらに/もしくは、粒子は、少なくとも一辺がナノメートルの範囲である(例えば、約1〜1000nmである)棒状、球状、長円状、コイル状等の形状を有していてもよい。また、粒子は荷電していてもよい。
【0019】
生体内分解性ポリマーの例としては、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、乳酸グリコール酸重合体(PLGA),ポリカプロラクトン(PCL)、ポリオルトエステル、ポリジオキサノン、ポリ(トリメチレンカーボネート)(PTMC)、ポリホスファゼン、ポリケタール、タンパク質(フィブリン、コラーゲン、ゼラチン等)、多糖類(キトサン、ヒアルロナン等)、ポリ酸無水物(ポリ(エステル無水物)、脂肪酸ベースのポリ酸無水物、アミノ酸ベースのポリ酸無水物等)、ポリエステル、ポリエステル−ポリ酸無水物混合物、ポリカーボネート−ポリ酸無水物混合物、及び/又はこれらの組み合わせが挙げられる。また、薬剤を含んだ生体内分解性粒子は、リポソーム(リン脂質小胞)及び固体脂質ナノ粒子(SLN)であってもよい。
【0020】
層301、303、305等の複数の高分子電解質層である下コーティングは、後述する交互積層法(Layer−by−layer(LbL)法)により施すことができる。高分子電解質の層数、つまり層の厚さは、荷電粒子等のポリマー粒子が後で沈着することができる適宜な電荷密度を有するように設定される。高分子電解質層の厚さは、少なくとも約1nm(例えば少なくとも約5nm、約10nm、約100nm、約500nm、又は約900nm)であり、さらに/もしくは最大で約1マイクロメートル(例えば、最大で約750nm、約500nm、約100nm、約50nm、又は約25nm)である。厚さは均一でも不均一でもよい。例えば、厚さは、人工器官の一端から他端に向かって全体的に直線的に増加してもよいし、全体的に非直線的に増加してもよい(例:全体的に放射線状に増加、全体的に指数的に増加)。もしくは、段階的に増加してもよい。いくつかの実施形態においては、高分子電解質層が部分的に人工器官の本体を覆っている。例えば、高分子電解質層は、人工器官本体の表面(反内腔側表面等)の面積の少なくとも約10%(例えば、少なくとも約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%又は約95%)を覆い、さらに/もしくは最大で100%(例えば、最大で約95%、約90%、約80%、約70%、約60%、約50%、約40%、約30%、約20%)を覆う。いくつかの実施形態においては、例えば交互積層法により、薬剤を含んだポリマー粒子上に複数層の高分子電解質である追加上コーティングを配置してもよい。
【0021】
トップコーティング311は、上コーティングである高分子電解質層及び/又は下コーティングである高分子電解質層におけるin situでのソルゲル反応により形成される多孔質材であってもよい。いくつかの実施形態においては、トップコーティング311の厚さは、約1〜500nmであり、例えば、約10〜50nmである。多孔質材は、連続多孔構造を有し、小孔が互いに連結されて、下に位置する薬剤を含んだ粒子309に体液が到達できる通路として機能してもよい。小孔の平均径は、約0.5〜500nmであり、例えば、約1〜100nmである。いくつかの実施形態においては、トップコーティング311の表面領域の総体積に対する小孔の体積の割合、即ち多孔率は、約90%以下(例えば、約80%、約70%、約60%、約50%、又はそれ以下)である。多孔質材は、ゾル状又はゲル状の無機物であってもよい。いくつかの実施形態においては、内皮細胞増殖促進等の治療効果をもたらし得る酸化イリジウム(IROX)を多孔質材として用いてもよい。IROX及び他のセラミックに関しては、アルト(Alt)他に付与された米国特許第5,980,566号明細書に記載されている。
【0022】
図4に示すように、ステントの形成においては、まず1層又は複数層の高分子電解質層の下コーティングがステントの表面に配置される(ステップ402)。次いで、荷電した生体内分解性ポリマーナノ粒子等の、薬剤を含んだ粒子が複数配置される(ステップ404)。次に、1層又は複数層の高分子電解質層の上コーティングが、ポリマー粒子上に任意で施され(ステップ406)、多孔質のトップコートが、例えばin situでのゾルゲル反応をもたらす前駆体を上コーティングに塗布することにより形成される(ステップ408)。
【0023】
ステップ402、404及び406においては、薬剤を含んだポリマー粒子を挟む、高分子電解質を含む電荷層は、反内腔側表面等のステント表面に、層が静電気に自己組織化する交互積層法(LBL法)により形成される。交互積層法においては、第1の正味表面荷電を有する第1の層が基礎となる基体上に配置され、次いで、第1の層の正味表面荷電とは符号が反対である第2の正味表面荷電を有する第2の層が配置される。したがって、外層の荷電は、連続する各層の配置により逆になる。さらに追加の第1及び第2の層が基体上に交互に配置され、所定又は所望の厚さの多層構造が構築される。例えば、ステップ402及び406において配置される下コーティング及び上コーティングは高分子電解質単分子層及び高分子電解質多層(PEM)のいずれでもよく、厚さは0.3nm〜1μmであり、例えば1〜500nmである。ステップ404においては、生体内分解性ポリマーナノ粒子等の、薬剤を含んだ荷電ポリマー粒子が配置されるが、この粒子は、下コーティング及び上コーティングの荷電とは反対の符号の正味表面荷電を有する。
【0024】
いくつかの実施形態においては、交互積層法は、選択された荷電基体(ステント等)を、交流正味電荷の化学種を含む溶剤又は懸濁液にさらすことにより行われる。この溶剤又は懸濁液の例としては、荷電した鋳型(ポリスチレン球等)、高分子電解質、及び任意で荷電した治療薬を含んだものが挙げられる。溶剤又は懸濁液内の荷電した化学種の濃度は、用いる化学種の種類にもよるが、例えば、約0.01〜約100mg/mL又は約0.01〜約50mg/mLや約0.01〜約30mg/mL)である。溶剤又は懸濁液のペーハー値は、鋳型、高分子電解質、及び任意の治療薬がそれぞれの電荷を維持できる値である。電荷の維持には緩衝系を用いることができる。荷電した化学種を含んだ溶剤又は懸濁液(鋳型、高分子電解質、又は荷電した治療薬等の任意の荷電化学種の溶剤/懸濁液等)は、様々な手法で荷電した基体の表面に塗布することができる。利用可能な手法の例としては、噴霧法、浸漬法、ロール及び刷毛を用いた塗布方法、空気浮遊等の力学的浮遊によるコーティング法、インクジェット法、スピンコーティング法、ウェブコーティング法、及びこれらの組み合わせが挙げられる。基礎となる基体上に層を形成するためには、荷電した化学種を含んだ溶剤又は懸濁液に基体(ステント等)を全て浸漬させてもよいし、基体の半分のみを溶剤又は懸濁液に浸漬させてから基体を反転させ、残りの半分を溶剤又は懸濁液に浸漬させてコーティングを完了してもよい。いくつかの実施形態においては、荷電した化学種を含む各層の塗布後に、外層の荷電を維持できるペーハー値を有する洗浄液等で基体が洗浄される。
【0025】
高分子電解質は、荷電した基(イオン解離性基等)を有するポリマーである。高分子電解質内のこのような基の数は、イオン解離状態にあるポリマー(ポリイオンとも呼ばれる)が極性溶剤(水を含む)に溶解可能となる程多数である。解離性基の種類に応じて、高分子電解質は、ポリ酸とポリ塩基とに分類される。解離されたポリ酸は、陽子が分裂したポリアニオンを形成する。ポリ酸には、無機物、有機物、及びバイオポリマーが含まれる。ポリ酸の例としては、ポリリン酸、ポリビニル硫酸、ポリビニルスルホン酸、ポリビニルホスホン酸、及びポリアクリル酸が挙げられる。ポリ塩と呼ばれる対応する塩の例としては、ポリリン酸塩、ポリビニル硫酸塩、ポリビニルスルホン酸塩、ポリビニルホスホン酸塩、及びポリアクリル酸塩が挙げられる。ポリ塩基は、酸との反応等により陽子を受容でき、これにより塩が形成される基を含む。骨格及び/又は側基に解離可能な基を有するポリ塩基の例としては、ポリアリルアミン、ポリエチリイミン、ポリビニルラミン、及びポリビニルピリジンが挙げられる。ポリ塩基は、陽子を受容することによりポリカチオンを形成する。いくつかの高分子電解質は、アニオン基とカチオン基の両方を有するが、正味の電荷は正電荷もしくは負電荷のいずれかである。
【0026】
高分子電解質は、バイオポリマーをベースとするものであってもよい。例としては、アルギン酸、アラビアガム、核酸、ペクチン及びタンパク質、カルボキシメチルセルロース及びリグニンスルホン酸塩等の化学修飾バイオポリマー、ポリメタクリル酸、ポリビニルスルホン酸、ポリビニルホスホン酸、ポリエチレンイミン等の合成ポリマーが挙げられる。線状高分子電解質及び分岐高分子電解質が使用可能である。分岐高分子電解質を使用すると、壁の多孔度が高く、密度の低い高分子電解質多層が形成される。いくつかの実施形態においては、高分子電解質分子は、各層内又は各層間で架橋される。これにより、例えばアミノ基をアルデヒドと架橋することにより、安定性が向上する。さらに、いくつかの実施形態においては、部分的に高分子電解質特性を有する両親媒性ブロック共重合体又は両親媒性ランダム共重合体等の両親媒性高分子電解質を用いて、極性小分子に対する透過性に作用を及ぼすこともできる。
【0027】
高分子電解質の他の例としては、低分子量型の高分子電解質(数百ダルトンの分子量を有する高分子電解質等)や、巨大分子の高分子電解質(数百万ダルトンの分子量を有する、合成又は生体起源の高分子電解質)が挙げられる。高分子電解質カチオン(ポリカチオン)の別の例としては、硫酸プロタミンカチオン、ポリ(アリルアミン)ポリカチオン(ポリ(アリルアミン塩酸塩)(PAH)等)、ポリジアリルジメチルアンモニウムポリカチオン、ポリエチレンイミンポリカチオン、キトサンポリカチオン、ゼラチンポリカチオン、スペルミジンポリカチオン、及びアルブミンポリカチオンが挙げられる。高分子電解質アニオン(ポリアニオン)の例としては、ポリ(スチレンスルホン酸)ポリアニオン(ポリ(ナトリウムスチレンスルホン酸)(PSS)等)、ポリアクリル酸ポリアニオン、ナトリウムアルギン酸ポリアニオン、EUDRAGIT(登録商標)ポリアニオン、ゼラチンポリアニオン、ヒアルロン酸ポリアニオン、カラゲナンポリアニオン、コンドロイチン硫酸ポリアニオン、及びカルボキシメチルセルロースポリアニオンが含まれる。
【0028】
高分子電解質及び交互積層法の他の例は、同一出願人による米国特許出願公開第2006/0100696号明細書に記載されている。
薬剤を含んだポリマー粒子(図3の粒子309等)は、分散重合、懸濁重合、乳化重合等の様々な重合手法により得られる。例えば、PLGA等の生体内分解性ポリマーで形成され、パクリタキセル等の薬剤を内部に封入するポリマーナノ粒子及び/又は微粒子は、従来の乳化性溶剤蒸着/抽出法により生成できる。これらの方法においては、両親媒性界面活性剤等の乳化剤(例えば、同一分子内に親水性の基と疎水性の基の両方を有する)を用いることにより、乳化プロセスで形成されるナノ粒子及び/又は微粒子が安定化される。乳化プロセスとは、例えば、2つの相(油/水)が分離して、乳濁液又は粒子が形成されるプロセスである。乳化剤の使用により、液体粒子の合体を防ぎ、粒子の粒径、形態特性、薬剤放出特性を調整することができる。乳化剤の例としては、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、D−αートコフェロールポリエチレングリコル1000コハク酸エステル(ビタミンE TPGS)、及びポロクサマー188(SYMPERSONIC(登録商標)F68)が挙げられる。薬剤を含んだポリマー粒子の生成に関しては、フォンセカ(Fonseca)他、ジャーナル・オブ・コントロールド・リリース(Journal of Controlled Release)、2002年、第83巻、p.273−286、ミュ(Mu)他、ジャーナル・オブ・コントロールド・リリース(Journal of Controlled Release)、2002年、第80巻、p.129−144、ミュ(Mu)他、ジャーナル・オブ・コントロールド・リリース(Journal of Controlled Release)、2003年、第86巻、p.33−48、及びフレイタス(Freitas)、インターナショナル・ジャーナル・オブ・ファーマスーティクス(International Journal of Pharmaceutics)、2005年、第295巻、p.201−211に記載されている。他の好適な薬剤搬送用生体内分解性マトリクス材には、前述したようにリポゾーム及び固体脂質ナノ粒子(SLN)が含まれる。SLNは固体脂質から成る粒子であり、直径は約50〜1000nmである。SLNの詳細は、ミュラー(Muller)他、ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・ファーマスーティクス・アンド・バイオファーマスーティクス(European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics)、2000年、第50巻、p.161−177に記載されている。
【0029】
薬剤を含んだ粒子は、生成時に荷電させてもよいし、例えば、ポリマー粒子を荷電した分子と結合させることにより荷電させてもよい。もしくは、粒子を高分子電解質でコーティングすることにより荷電させてもよい。その結果、ステップ404のように、交互積層法により粒子を下コーティングに配置できる。図3を参照すると、他の実施形態においては、薬剤を含んだ粒子309は電気的に中性であってよく、下コーティング(例えば1つ又は複数の層301、303、305)に吸収されることにより施されてもよい。例えば、疎水性又は超疎水性の下コーティングをステント表面に塗布し、疎水性を有する、薬剤を含んだSLNを表面に吸収または付着させてもよい。疎水性又は超疎水性の表面を生成する方法は多種存在する。その一例は交互積層法である。疎水性をもたらすためには、適宜な表面粗さが必要であり、これは交互積層法により1層または複数層の粒子を配置することにより可能となる。この目的に使用可能な粒子は多種あるが、例としては、板状、円柱状、管状、球状、又は他の形状の炭素粒子、セラミック粒子、金属粒子が挙げられる。いくつかの実施形態においては、荷電した粒子層は、相互積層法の一部として導入してもよい。粘土等の特定の粒子は、固有の表面電荷を有している。必要に応じて、吸収や共有結合等により、正味正電荷又は正味負電荷を有する化学種を表面に付着させることにより、表面荷電をもたらしてもよい。
【0030】
基礎となる基体に超疎水性表面を形成する相互積層法は、アール・エム・ジス(R.M.Jisr)他、「全フッ素置換された高分子電解質による疎水性及び超疎水性多層薄膜(Hydrophobic and Ultrahydrophobic Multilayer Thin Films from Perfluorinated Polyelectrolytes)」、アンゲヴァンテ・ケミー・インターナショナル・エディション(Angew.Chem.Int.Ed.)、2005年、第44巻、p.782−785に記載されている。使用される高分子電解質は、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム)(PDADMA)、ポリ(ビニルピリジン)から合成されたポリカチオン、及びフッ素化ヨウ化アルキルである。粒子層の形成には、針状の形態をなす負荷電した粘土であるアタパルジャイトが用いられる。相互積層法でよくみられるように、高分子電解質は、周囲条件において希釈溶液/懸濁液を用いて配置されている。ここで使用されているのはメタノールである。3組の二分子層が配置される。基体のすぐ上に配置される第1の組は、いくつかのPDADMA/PSS二分子層で構成される。次に、粘土粒子及びPDADMAの二分子層が配置され、これにより表面粗さが形成される。その後、フッ素化高分子電解質であるナフィロン及びPFPVPの二分子層が配置される。ここではアニーリングは不要である。得られる表面の前進及び後退水接触角度は、2ヶ月間水に浸漬した後でも140度を上回った。疎水性及び超疎水性表面の形成方法の他の例は、ウィーバー(Weber)他の米国特許出願公開第2007/0005024号明細書に記載されている。
【0031】
図4のステップ408に関して、いくつかの実施形態においては、多孔質トップコーティングは、in situでのゾルゲル反応用の前駆体を、高分子電解質層及び薬剤を含んだ粒子が配置されたステント表面上に塗布することにより形成できる。前駆体組成物は、高分子電解質層に浸透し、高分子電解質の間隙内でin situでのゾルゲル反応が起こり、多孔質材が形成される。形成される多孔質材は、ゾル状又はゲル状の無機物等(酸化物、窒化物、水酸化物等)である。他の実施形態においては、上コーティングが施されていない場合(ステップ406が省略された場合)でも、多孔質トップコーティングをゾルゲル法により形成できる。ゾルゲル法は、セラミック材及びガラス材を形成する多用途の溶解法である。一般的に、ゾルゲル法においては、液体である「ゾル」(ほぼコロイド状)から固体である「ゲル」相に系が変化する。ゾルの形成において原料となる前駆体としては、無機金属塩や金属アルコキシド等の金属有機化合物が一般的に用いられる。通常のゾルゲル法においては、前駆体は一連の加水分解反応及び/又は重合反応を経て、コロイド状の懸濁液即ちゾルを形成する。ゾルをさらに処理すると、形状の異なるセラミック材を得ることができる。例えば、ゾルのスピンコーティング、ロールコーティング、インクジェットプリンティング又は噴霧により、基体(例えばステントや、ステントの材料となる金属管)上に薄膜を形成できる。反内腔側表面のみのコーティング等、選択的なコーティングを施すためには、溶剤を用いたディップコーティングを行う代わりに、ステントの所望する表面にのみゾルをプリントすればよい。ゾル内のコロイド状粒子が新しい相で凝結すると、ウエットゲルが形成され、溶剤中に浸漬された固体高分子が形成される。続く乾燥及び熱処理により、ゲルは高密度のセラミック膜に変化する。いくつかの実施形態においては、ポリマー粒子に含まれる薬剤への熱ダメージを防ぐべく、ゾル状又はウエットゲル状の多孔質材を、粒子を覆うトップコートとして用いることができる。もしくは、真空溶媒抽出等の低温乾燥処理を行ってセラミック材又はセラミック様物質を形成することもできる。通常の場合、ゾルゲル法により抽出される多孔質セラミック層は、ポリエチレングリコル(PEG)、ポリビニルピロリドン(PVP)、高分子電解質材及び油乳剤等の、高温で除去しなければならない有機鋳型、又は鋳型として使用される界面活性剤を用いて生成される。いくつかの実施形態においては、薬剤の放出を調節して治療効果を高める層を形成するために他の薄膜処理が行われる。例としては、化学気相堆積法(CVD法)、物理的気相堆積法(PVD法)、及びゾルゲル処理により得られる多孔質薄膜と同様の多孔質薄膜を形成することできる他の処理が挙げられる。
【0032】
前駆体組成物の例としては、エタノールと前駆体の質量比が約1対16である、エタノールと前駆体(オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、チタンイソプロポキシド、イリジウムアセチルアセトネート等)の混合物が挙げられる。この混合物には少量の水を加えてもよい。ゾルゲル反応は、水和された水分子又は高分子電解質の間隙内に閉じ込められた水分子に前駆体が接触する際に起こり、分解により高分子電解質多層(PEM)内にゲル又はセラミック析出物が形成される。さらに/もしくは、高分子電解質の高い電荷密度が前駆体溶剤から水分子を引き出し、ゾルゲル反応又は加水分解を引き起こす程に局所含水量が増加し、高分子電解質の周囲、即ちPEM内にゲル又はセラミック析出物が析出される。例えば、15重量%の水分を含んだ純エタノールにTEOSを混合させたゾルゲル溶剤のin situ反応を行った場合、高分子電解質層は自らのイオン電荷により水分を引き寄せ、水分量が15重量%よりも高くなり、その結果ゾルゲル反応が起こる。この方法は非常に制御されており、層が飽和して電荷密度が減少すると自動的に終了する。
【0033】
使用可能な前駆体の例としては、チタニウム(IV)ビス(乳酸アンモニウム)ジヒドロキシド(TALH)、チタニウム(IV)ブトキシド(Ti(OBu))やチタニウムテトライソプロポキシド(TTIP)等のチタニウムアルコキシド等のチタンベースの物質が挙げられる。いくつの実施形態においては、前述したように、高温処理が望ましくない場合(特定のポリマーや薬剤等の熱に弱い要素がすでにステントにコーティングされている場合等)は、例えば約60〜80度程度の比較的低温の水分蒸発処理によりセラミック層を形成する。水蒸気にさらして結晶化度及び機械的性質を向上させるため、TiOゾルにシリカゾルを添加して、多孔質のTiOシリカ層を形成できる。この方法に関しては、今井他、ジャーナル・オブ・アメリカン・セラミック・ソサエティ(J.Am.Ceram.Soc.)、1999年、第82巻、p.2301−2304に記載されている。別の実施形態においては、高温の使用を避けるために、グルコース、フルクトース、尿素等の非界面活性剤等の高分子電解質ではない化合物を用いて多孔質セラミックコーティングを形成することができる。この方法に関しては、ゼン(Zheng)他、ジャーナル・オブ・ゾルゲル・サイエンス・アンド・テクノロジー(J.Sol−Gel Science and Tech.)、2002年、第24巻、p.81−88に記載されている。グルコース又は尿素は室温の水を用いて除去され、後には純粋な多孔質セラミックコーティングが残る。高分子電解質と同様に、高分子電解質ではない化合物を適宜に選択することにより、異なるサイズの孔を有する物質を形成することができ、所望の薬剤放出特性を得ることができる。例えば、尿素を使用すると、グルコースを使用する場合に比べて孔が大きくなる。非界面活性剤の多くは生体適合性を有し、ステントの搬送後に体内に生体侵食されるまでゾルゲル層に留めておくこともできる。
【0034】
セラミック酸化チタン(TiO)により多孔質材が形成される場合、層の親水性又は疎水性は、薬剤の封入を容易にすべく適宜選択可能である。TiOでコーティングされたステント、及びTiOをステントにコーティングする方法は、2006年6月29日出願の米国特許出願第60/808,101号明細書に記載されている。この明細書に記載されているように、疎水性及び/又は親水性のTiOを様々な組み合わせでステントにコーティングすることにより、ステントの特定の領域に生物学的に活性である様々な物質を配置することができる。TiOコーティングが施されたステント等の医療器具は、次いで、TiOコーティングが施された器具の特定の面に疎水性又は親水性を持たせる条件下におかれる(紫外線照射等)。いくつかの実施形態においては、多孔質材は、TiOに加えてTiOや、酸化イリジウム(IROX)及びシリカ等の他の酸化物を加えてもよいし、TiOとIROXの組み合わせ、TiOと酸化ルテニウム(RuO)の組み合わせ、又はTiOとIROXとRuOの組み合わせであってもよい。いくつかの実施形態においては、異なる多孔率を有する複数層の多孔質無機物をトップコーティングとして用いて、薬剤放出特性を調節してもよい。ゾルゲル法の例は、マノハラン(Manoharan)他、プロシーティング・オブ・エスピーアイイー(Proceedings of SPIE)、2000年、第3937巻、p.44−50及びグオ(Guo)他、サーフィス・アンド・コーティング・テクノロジー(Surface & Coating Technology)、2005年、第198巻、p.24−29にも記載されている。また、パルスレーザー析出のような他の低温手法も、セラミック材又はセラミック様物質からなる多孔質トップコーティングの形成に使用可能である。
【0035】
セラミック材又はセラミック様物質は、酸化イリジウム(IROX)、酸化チタン(TiO)、酸化ケイ素(シリカ)、ニオブ酸化物(Nb)、タンタル(Ta)、ルテニウム(Ru)、又はこれらの組み合わせであってよい。酸化物等の特定のセラミックは、平滑筋細胞の増殖をもたらす過酸化水素及び他の前駆体を触媒的に減少させることにより、再狭窄を抑制する。さらに酸化物は、血管内皮増殖を促進し、ステントの内皮化を促進する。ステントが生物学的環境(生体内等)に置かれた場合、体内に植え込まれたステント、特に血管内に植え込まれたステントに対する人体の最初の反応は、循環血液系の構成要素である白血球の活性化である。白血球の活性化により酸素化合物の生成が増加する。このプロセスで放出される化学種のひとつが過酸化水素Hであり、これは多種ある白血球のひとつである好中性顆粒球により放出される。Hにより、平滑筋細胞の増殖が促進され、内皮細胞機能が損なわれる。そして、表面結合タンパク質の発現が促進され、より炎症性の細胞の付着が促進される。IROX等のセラミックは、Hを触媒的に減少させる。セラミックの形態により触媒効果を向上させることができ、平滑筋細胞増殖の抑制が可能となる。いくつかの実施形態においては、コーティング32の形成にIROXが用いられ、これにより内皮細胞増殖の促進等の治療的効果が得られる。さらに、コーティング36の形成にはTiOが用いられ、これにより大量の薬剤を収容できる好適な多孔構造が得られる。マッズ(Matz)他、ボストン・サイエンティフィック・コーポレイション・インターナル・レポート(Boston Scientific Corporation internal report)、2001年、及びチガノフ(Tsyganov)他、サーフェス・アンド・コーティング・テクノロジー(Surf.Coat.Tech)、2005年、第200巻、p.1041−44に記載されているように、TiOコーティングは、血液適合性を有する。血液適合性を有する物質が、凝血塊の形成を誘発する可能性は低い。チェン(Chen)他、サーフェス・アンド・コーティング・テクノロジー(Surf.Coat.Tech)、2004年、第186巻、p.270−276に開示されているように、酸化チタンをベースとする表面はさらに内皮細胞付着を促進し、これにより、血管に搬送されるステントの血栓形成が抑制される。他のセラミックはアルト(Alt)他に付与された米国特許第5,980,566号明細書、及び2003年8月29日に出願された米国特許出願10/651,562号明細書に記載されている。
【0036】
いくつかの実施形態においては、薬剤を含んだ粒子は生体内分解性を有しないポリマーで形成され、よって、ゾルゲル処理後にポリマーが除去される。薬剤は、多孔質トップコーティングに覆われてその場に留まる。この除去は、室温ウェットエッチングや紫外線照射等の低温除去処理により行うことができる。いくつかの実施形態においては、塩濃度の高い攪拌された水溶液にポリマーを室温で長時間さらすことにより、生体内分解性を有しないポリマーを除去する。
【0037】
「治療薬」、「薬剤として有効な作用剤」、「薬剤として有効な物質」、「薬剤として有効な材料」、「薬剤」、及び関連する用語は、本明細書において区別なく使用され、小有機分子、ペプチド、オリゴペプチド、タンパク質、核酸、オリゴヌクレオチド、遺伝子治療薬、非遺伝子治療薬、遺伝子治療薬のベクター、細胞、及び例えば再狭窄を低減または防止する作用剤として血管治療レジメンの項目として認められうる治療薬等を意味するが、これに限定はされない。「小有機分子」は、炭素原子が50以下で、非水素原子が合計で100未満である有機分子を意味する。
【0038】
治療薬の例としては、抗血栓症薬(ヘパリン等)、抗増殖/抗有糸分裂薬(パクリタキセル、5−フルオロウラシル、シスプラチン、ビンブラスチン、平滑筋細胞増殖阻害剤(モノクローナル抗体等)、チミジンキナーゼ阻害剤)、抗酸化剤、抗炎症薬(デキサメタゾン、プレドニゾロン、コルチコステロン等)、麻酔薬(リドカイン、ブピバカイン、ロピバカイン等)、凝固阻害薬、抗菌剤(エリスロマイシン、トリクロサン、セファロスポリン、アミノグリコシド等)、内皮細胞の増殖及び/又は付着を促進する作用剤が挙げられる。治療薬は、非イオン系であってもよいし、本質的にアニオン系及び/又はカチオン系であってもよい。治療薬は単体で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。好適な治療薬は、再狭窄阻害剤(パクリタキセル等)、免疫抑制剤(エベロリムス、タクロリムス、シロリムス等)、増殖抑制剤(シスプラチン等)、及び抗生物質(エリスロマイシン等)である。他の治療薬の例は、米国特許出願公開第2005/0216074号明細書に記載されている。薬剤溶出コーティング用のポリマーに関しては、米国特許出願公開第2005/019265号明細書にも記載されている。
【0039】
本明細書に記載するステントは、冠血管系及び末梢血管系等の血管系、又は血管ではない管腔において使用されるべく構成される。例えば、食道や前立腺で使用されるべく構成される。他の管腔としては、胆管、肝臓管、すい臓管、及び尿道が挙げられる。
【0040】
ステントは、染色されていてもよいし、硫酸バリウム、プラチナ、金等の放射線不透過性物質を添加することや、放射線不透過性物質をコーティングすることにより、放射線を透過しないようにされていてもよい。いくつかの実施形態においては、前述したように、多孔質構造をステント本体上に直接形成してもよいし、ステント本体上のコーティング内に形成してもよい。コーティングは、例えば放射線不透過性金属のコーティングであってよい。
【0041】
ステントは、ステンレス鋼(316L、BioDur(登録商標)108(UNS S29108)、304Lステンレス鋼等)や、ステンレス鋼及び5〜60重量%の1つ又は複数の放射線不透過要素(米国特許出願公開第2003/0018380号明細書、米国特許出願公開第2002/0144757号明細書、及び米国特許出願公開第2003/0077200号明細書に記載されているようにPt、Ir、Au、W(PERSS(登録商標))等)を含んだ合金、ニチノール(ニッケルチタン合金)、Elgiloy(登録商標)等のコバルト合金、L605合金、MP35N、チタン、チタン合金(Ti−6A1−4V、Ti−50Ta、Ti−10Ir等)、プラチナ、プラチナ合金、ニオブ、ニオブ合金(Nb−IZr等)、Co−28Cr−6Mo、タンタル、及びタンタル合金等を含み得る(例えば、上記の物質から形成される)。物質の他の例は、同一出願人により2003年9月26日に出願された米国特許出願第10/672,891号明細書(米国特許出願公開第2005/0070990号明細書)、及び2005年1月3日出願の米国特許出願第11/035,316号明細書(米国特許出願公開第2006/0153729号明細書)に記載されている。他の物質としては、超弾性合金又は擬弾性合金等の生体適合性を有する弾性金属が挙げられる。これに関しては、例えば、シェスキー,L.マクドナルド(Schetsky,L.McDonald)、「形状記憶合金(Shape Memory Alloys)」、エンサイクロペディア・オブ・ケミカル・テクノロジー(Encyclopedia of Chemical Technology)、第3版、John Wiley & Sons、1982年、第20巻、p.726−736、及び同一出願人により2003年1月17日に出願された米国特許出願第10/346,487号明細書(米国特許出願公開第2004/0143317号明細書)に記載されている。
ステントの形状及び寸法は所望するものであってよい(冠状動脈ステント、大動脈ステント、末梢血管ステント、胃腸管ステント、泌尿器ステント、気管/気管支ステント、神経系ステント等)。用途に応じて、ステントの直径は、約1〜46mmの範囲で設定可能である。いくつかの実施形態においては、冠状動脈ステントの拡張時の直径は、約2〜6mmである。いくつかの実施形態においては、末梢血管ステントの拡張時の直径は、約4〜24mmである。いくつかの実施形態においては、胃腸管ステント及び/又は泌尿器ステントの拡張時の直径は、約6〜30mmである。いくつかの実施形態においては、神経系ステントの拡張時の直径は、約1〜12mmである。腹部大動脈瘤(AAA)ステント及び胸部大動脈瘤(TAA)ステントの直径は約20〜46mmである。ステントはバルーン拡張式であってもよいし、自己拡張式であってもよい。また、バルーン拡張式と自己拡張式を組み合わせたものであってもよい(米国特許第6,290,721号明細書等)。
【0042】
本明細書で言及されている全ての刊行物、特許出願、特許、及び参照文献は、言及することによりその内容のすべてが本明細書で開示されることとする。
他の実施形態は特許請求の範囲に記載される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面と、
表面上に配置された高分子電解質を含む第1の層と、
第1の層上に配置された複数のポリマー粒子と、
複数のポリマー粒子上に配置された多孔質材のコーティングとを備え、
複数のポリマー粒子の少なくとも1つの粒子がポリマーマトリクスとポリマーマトリクス内に分散された薬剤とを有する人工器官。
【請求項2】
コーティングと複数のポリマー粒子との間に配置された高分子電解質を含む第2の層を備える請求項1に記載の人工器官。
【請求項3】
コーティングの多孔質材が第2の層内のin situでのゾルゲル法により形成される請求項2に記載の人工器官。
【請求項4】
第2の層が多孔質材を含む請求項2に記載の人工器官。
【請求項5】
第1の層が多孔質材を含む請求項1に記載の人工器官。
【請求項6】
ポリマーマトリクスが生体内分解性を有するポリマーにより形成される請求項1に記載の人工器官。
【請求項7】
多孔質材がチタン、イリジウム、ジルコニウム、ルテニウム、ハフニウム、シリコン、及びアルミニウムの酸化物及び水酸化物を含む請求項1に記載の人工器官。
【請求項8】
表面が金属により形成される請求項1に記載の人工器官。
【請求項9】
金属がステンレス鋼、ニチノール、タングステン、タンタル、レニウム、イリジウム、銀、金、ビスマス、プラチナ、又はこれらの合金である請求項8に記載の人工器官。
【請求項10】
少なくとも1つの粒子の直径が10nm〜1μmである請求項1に記載の人工器官。
【請求項11】
複数のポリマー粒子が厚さ10nm〜1μmの層を形成する請求項1に記載の人工器官。
【請求項12】
第1の層の厚さが1〜100nmである請求項1に記載の人工器官。
【請求項13】
多孔質材の多孔率が90%以下である請求項1に記載の人工器官。
【請求項14】
多孔質材の多孔率が30%以上である請求項1に記載の人工器官。
【請求項15】
表面に高分子電解質の第1の層を配置する工程と、
第1の層に生体内分解性を有する複数の粒子を配置する工程と、
粒子上に多孔質トップコーティングを形成する工程とを含む人工器官の製造方法。
【請求項16】
粒子に高分子電解質の第2の層を配置する工程と、第2の層上に前駆体組成物を配置してin situでのゾルゲル反応により多孔質トップコーティングを形成する工程とを含む請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
生体内分解性を有する粒子の少なくとも1つがポリマーマトリクスとマトリクス内に分散された薬剤とを含む請求項15に記載の製造方法。
【請求項18】
マトリクス内に分散された薬剤を含むとともに生体内分解性を有する少なくとも1つの粒子を乳化重合により形成する工程を含む請求項17に記載の製造方法。
【請求項19】
ゾルゲル前駆体組成物を施してウエットゲルを形成することにより多孔質トップコーティングを形成する工程を含む請求項15に記載の製造方法。
【請求項20】
ウエットゲルを乾燥させることによりウエットゲルをセラミック材又はセラミック様物質に変換する工程を含む請求項19に記載の製造方法。
【請求項21】
前駆体組成物が酸化金属前駆体を含む請求項19に記載の製造方法。
【請求項22】
酸化金属前駆体がオルトケイ酸テトラエチル、チタンイソプロポキシド、又はイリジウムアセチルアセトネートである請求項21に記載の製造方法。
【請求項23】
交互積層法により第1の層及び粒子を配置する工程を含む請求項15に記載の製造方法。
【請求項24】
交互積層法により第2の層を配置する工程を含む請求項16に記載の製造方法。
【請求項25】
粒子の寸法が10nm〜1μmである請求項15に記載の製造方法。
【請求項26】
第1の層の厚さが1〜100nmである請求項15に記載の製造方法。
【請求項27】
多孔質トップコーティングの多孔率が90%以下である請求項15に記載の製造方法。
【請求項28】
多孔質トップコーティングの多孔率が30%以上である請求項15に記載の製造方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−521716(P2011−521716A)
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−511714(P2011−511714)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【国際出願番号】PCT/US2009/044597
【国際公開番号】WO2009/148821
【国際公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(506192652)ボストン サイエンティフィック サイムド,インコーポレイテッド (172)
【氏名又は名称原語表記】BOSTON SCIENTIFIC SCIMED,INC.
【Fターム(参考)】