説明

人工大理石への塗布材料

【課題】フッ素系樹脂化合物に艶消し材を添加することで、光沢の発生を低減させることができる人工大理石への塗布材料を提供する。
【解決手段】熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を主体とする重合体と無機充填材からなる人工大理石の表面に塗布する塗布材料において、フッ素樹脂化合物と、合成有機顔料または合成無機顔料とを添加し、前記合成有機顔料または合成無機顔料は、フッ素樹脂化合物固形分に対して2乃至30重量%添加した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂からなる人工大理石の表面に防汚機能をもたせるコーティング用フッ素系化合物を塗布するための人工大理石への塗布材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、優れた物性および高級感から、ビニルエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂の合成樹脂を主体とする人工大理石製の化粧板が広く壁材や台所用天板として用いられている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
人工大理石としては、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂に水酸化アルミニウムなどの無機充填材を添加した樹脂組成物がよく使用されており、この樹脂組成物を所定の厚みに形成し、用途に合わせて所定の大きさに切断した後、化粧面にあたる部分を必要に応じて研磨加工して用いられている。
【0004】
このように製造された人工大理石は、洗面カウンター、キッチンカウンター、浴槽、洗面ボールなどに商品化されて広く利用されている。
【特許文献1】特開2001−190344号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、人工大理石製品がトイレ、浴室、キッチン廻りなど水廻りと呼ばれる分野で使用される場合、使用による汚れ、あるいは洗剤による汚染、食品や油、化粧品等による汚れなどが付着し易く、清掃しても汚れがとれにくい、あるいは清掃しても汚れがとれないという状況が発生していた。これらのために、汚れが付きにくく、また汚れが取れ易い、という防汚性能の高い人工大理石の出現が切望されている。
【0006】
大理石は通常、表面に適度な光沢のある石材として用いられるもので、人工大理石製の化粧板もその表面を適度な光沢のあるように、または、柄表現のために、研磨して使用していた。人工大理石の表面を研磨すると、樹脂マトリックス中に含まれている無機充填材が表面に露出する。この無機充填材は、親水性とともに親油性をも有していることが多いため、人工大理石製の化粧板の表面に種々の液状汚染物質が付着すると、樹脂と無機充填材との界面にこの液状汚染物質が浸透して落ち難い汚れが付着するという問題があった。また、この無機充填材は、漂白剤などの薬品に侵されやすいという欠点もあった。
【0007】
そこで、本出願人は特願2004−216294において、フッ素系樹脂化合物をフッ素系溶媒にて希釈して生成した塗布材料を塗布することで、表面に汚れが付着し難く、また付着した汚れを除去し易くするフッ素系樹脂化合物からなる被膜を形成するための人工大理石の表面処理方法を提供した。
【0008】
しかし、人工大理石の表面にフッ素系樹脂化合物を塗布することで表面の光沢が増大して、人工大理石表面の研磨ムラが見え易くなってしまう、という問題が発生した。
【0009】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、フッ素系樹脂化合物に艶消し材を添加することで、光沢の発生を低減させることができる人工大理石への塗布材料を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために請求項1に係る発明にあっては、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を主体とする重合体と無機充填材からなる人工大理石の表面に塗布する塗布材料において、フッ素樹脂化合物と、合成有機顔料または合成無機顔料とを添加し、前記合成有機顔料または合成無機顔料は、フッ素樹脂化合物固形分に対して2乃至30重量%添加して成ることを特徴とするものである。
【0011】
このように顔料として合成顔料を用いたことで、天然系の顔料を用いた場合のように、粒度のばらつきの大きい顔料が起因して、防汚性は有するが光沢を消すことができない、といったことがなく、また顔料をフッ素樹脂化合物固形分に対して2乃至30重量%添加したことで、顔料添加量が多すぎることに起因して、表面に現れる顔料が多くなって防汚性がなくなったり、顔料添加量が少なすぎることに起因して、艶消し効果が小さくなり、光沢が高くなるといっがものがなくて、人工大理石の表面に充分な防汚性能を有するとともに、人工大理石の表面の光沢が発生して研磨ムラが見えやすくなるのを防止することができるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明にあっては、人工大理石の表面に充分な防汚性能を有するとともに干渉縞や塗り斑のないフッ素化合物の被膜を形成することが可能となる上に、艶消しのための有機又は無機合成顔料によって人工大理石の表面に光沢が発生して研磨ムラが見えやすくなるのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明における人工大理石は、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂と無機粉体とで成形される。熱硬化性樹脂としては、ビニルエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂等から選ばれる一種以上のものが好ましく、また、無機粉体としては、例えば珪酸カルシウム、タルク、カオリン、クレー、シリカ、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウムなどが挙げられるが特に限定されないものであり、前記の中では水酸化アルミニウムが好適であり、特に水酸化アルミニウム三水和物即ちギブサイトがより好適に用いられる。無機粉体の平均粒径は、0.1〜100μmであることが好ましく、0.5〜80μmであることがより好ましい。
【0014】
人工大理石のマトリックスにおける重合体と無機粉体との比率は、重合体100質量部に対し無機粉体50〜500質量部であることが好ましい。本発明の人工大理石のマトリックスには、必要に応じて着色剤や柄材等の添加剤を加えてもよい。着色剤としては、染料、有機顔料、無機顔料等、通常、人工大理石等の無機粉体含有樹脂成型物に用いられる着色剤であればどのようなものも用いることができる。柄材としては、例えば有機樹脂からなる粒子あるいは無機質の粒子等が挙げられるが特に限定されない。有機樹脂としては、例えばメタクリル酸メチル系樹脂、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール等が挙げられるが特にこれらに限定されないものであり、無機質粒子としては、例えば大理石粒子、シリカ、雲母等が挙げられるが特にこれらに限定されない。これらの粒子の最大寸法は、10mm以下であることが好ましく、5mm以下であることがより好ましい。
【0015】
上記のようにして人工大理石が製造されるが、本発明ではこの人工大理石の表面(少なくとも一面)に防汚性を持たせるための艶消し材を添加した低分子液状フッ素系化合物を塗布、浸透させて被膜を形成するものである。フッ素系化合物を塗布した後の乾燥工程は、室温で乾燥させてもよく、加熱しても良い。
【0016】
フッ素系樹脂化合物としては、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、テトラフルオロエチレンとヘテロ環含有フッ素系モノマーの共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、フルオロアルキル(メタ)アクリレート重合体、フルオロアルキル(メタ)アクリレートとその他アルキル(メタ)アクリレート共重合体、フッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンとテトラフロロエチレン共重合体、フッ化ビニリデンとパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体等が挙げられる。
【0017】
また、顔料のうち有機顔料は通常、アリザリンレーキ、アニリンブラック、フタロシアニンブルーなどがあり、無機顔料は通常、炭酸カルシウム、酸化チタン(チタンホワイト)、紺青、群青、酸化鉄、アルミペースト、ブロンズ粉、カーボンブラックなどがある。これらの顔料は合成有機顔料及び合成無機顔料であり、これらのいずれの顔料も微粉化して用いることができるものであり、これらは一種を単独で用いる他に、二種以上を同時に用いることもできる。
【実施例】
【0018】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳しく説明する。
【0019】
まず、人工大理石の樹脂組成物として、ビニルエステル樹脂(武田薬品(株)製「プロミネートP−311」)に、水酸化アルミニウム(住友化学(株)製「CW−308B」)を、ビニルエステル樹脂100質量部に対して200質量部配合し、硬化剤(日本油脂(株)製「パーキュアWO」)を適量添加し、攪拌機で混合することによって調製した。
【0020】
この樹脂組成物を2666Pa(20Torr)の減圧下で30分間減圧脱泡処理し、これを金型内に注入して金型を90℃で70分間加熱することによって樹脂組成物を硬化させ、10mm厚の平板として成形した人工大理石を得た。
【0021】
この人工大理石板を不織布研磨材(住友3M(株)製)で表面研磨した後、低分子状フッ素系樹脂(フロロテクノロジー(株)製「フロロサーフ」)を沸点80℃〜150℃(標準を100℃とする)に調製した一種類もしくは二種類以上の沸点の溶媒が混合されたHFPE(ハイドロフルオロポリエーテル)からなるフッ素系溶剤に3%(1%〜5%)の濃度で溶解したフッ素系樹脂化合物を調整するとともに、これに艶消し材として有機顔料又は無機顔料を前記フッ素系樹脂化合物固形分量に対して所定の割合を添加して生成した塗布材料をスプレーによるか、あるいは刷毛のようなもので塗布し、室温にて乾燥させ、被膜を表面に形成した。
【0022】
この表面処理を行った人工大理石のグロスの評価は60°において10未満を目標とし、10以上のものは不可とした。
【0023】
また、この表面処理を行った人工大理石について防汚性の評価を行った。防汚性は、紅茶(リプトン社製ティーパック)を使用して500mlの水で煮出し、それを人工大理石表面に滴下(湿布)後、24時間放置して水洗いしたものを、試験前後の色差を測定することで評価を行った。防汚性の有無の境界は色差1.0とした。
【0024】
更に仕上がり外観を確認し、艶消し材の析出、塗布ムラ等がないか評価した。
<試験条件>
実施例1及び実施例2では合成有機顔料を、実施例3〜実施例6では合成無機顔料を使用しており、顔料の上記フッ素系樹脂化合物に対する重量%は、実施例1〜実施例4では10%、実施例5では2%、実施例6では30%としている。
【0025】
また比較例1では、天然有機顔料をフッ素系樹脂化合物に対して10%添加したものを、比較例2では天然無機顔料をフッ素系樹脂化合物に対して10%添加したものを、比較例3では合成有機顔料をフッ素系樹脂化合物に対して35%添加したものを、比較例4では合成有機顔料をフッ素系樹脂化合物に対して1%添加したものを、比較例5では合成無機顔料をフッ素系樹脂化合物に対して35%添加したものを、比較例6では顔料として合成無機顔料をフッ素系樹脂化合物に対して1%添加した例を挙げている。
【0026】
実施例1〜実施例6の試験条件および評価結果について表1に、比較例1〜比較例6の条件および評価結果について表2に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
実施例1〜実施例6はいずれもグロス値が10未満で、色差も1未満で防汚性を維持したまま光沢を下げることができ、外観は良好であった。
【0030】
これに対し、比較例1及び比較例2は、防汚性は有するもののグロス値を下げることができず艶が高い状態となったが、これは、天然顔料を用いたために、粒度のばらつきの大きく数10μm以上の大きな粒子が混合されているため、均一に艶(光沢)を消すことができなかったためと考えられる。
【0031】
比較例3では、合成有機顔料の添加量が大き過ぎるために防汚性が低くなり、比較例4では、合成有機顔料の添加量が小さ過ぎるためにグロス値の低下が小さくなって艶が高くなった。
【0032】
比較例5では、合成無機顔料の添加量が大き過ぎるために防汚性が低くなり、比較例6では、合成無機顔料の添加量が小さ過ぎるためにグロス値の低下が小さくなって艶が高くなり、比較例3、比較例4の合成有機顔料の場合と同様の結果となった。
【0033】
以上の結果より、本発明のフッ素系樹脂化合物に合成有機顔料または合成無機顔料とを添加した艶消し材にて人工大理石化粧板の表面に防汚コート膜を形成したことで、撥水撥油性が向上し、優れた耐汚染性を発揮しながら光沢を下げることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を主体とする重合体と無機充填材からなる人工大理石の表面に塗布する塗布材料において、フッ素樹脂化合物と、合成有機顔料または合成無機顔料とを添加し、前記合成有機顔料または合成無機顔料は、フッ素樹脂化合物固形分に対して2乃至30重量%添加して成ることを特徴とする人工大理石への塗布材料。

【公開番号】特開2007−290915(P2007−290915A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−121314(P2006−121314)
【出願日】平成18年4月25日(2006.4.25)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】