説明

人工椎間板

この発明は、患者の二つの隣接する椎骨部の間に挿入することが可能であり、患者の図示されていない二つの椎骨部を関節形式により接続するための人工椎間板(1)に関する。人工椎間板(1)は、弾力的なリングとして実現された中間部材(2)を有し、この中間部材は、それぞれ金属板として実現された二つの外側部材(4)の成形部分(3)に嵌め込まれる。外側部材(4)は、固定用スパイク、特に人工股関節で周知のチタン製固定部品によって、椎骨部の骨格と接続される。凹状の成形部分(3)の直径(D)は、中間部材(2)の円形の横断面の直径(d)と比べて大きく、その結果特に、患者の動きによって引き起こされる中間部材(2)の圧縮に対して、所定の変形が実現可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、患者の二つの隣接する椎骨部の間に挿入することが可能であり、それぞれ一つの部材が各椎骨部の方を向いている人工椎間板であって、これらの部材は、中間部材を用いて、制限された形で関節形式により互いに接続されており、その中間部材を介して、捻り回転モーメントと剪断力の両方を伝達することが可能である椎間板に関する。
【背景技術】
【0002】
人間の脊椎、特に腰椎では、椎間板(椎間円板)が、上方の骨格製の椎骨部と下方の骨格製の椎骨部とを関節形式により接続している。
【0003】
そのような人工的な椎間板は、例えば、特許文献1により周知であり、そこでは、エラストマーのコア部によって、二つの板を互いに接続している。このエラストマーのコア部は、周りの表面を凹状に実現した中間部分を包み込む上方と下方部分を有する。そうすることによって、椎間板に曲げモーメント又は伝達力が作用する場合に、側面が真っ直ぐなコア部と比べて、板とコア部間の接触面に生じる力を低減しようとしている。
【0004】
特許文献2では、例えば、単一の部分から構成されており、外側の面が凹状となっている椎間板が記載されている。
【0005】
更に、特許文献3も、上方の平坦な板、下方の平坦な板及びこれらの板の間に包み込まれた平坦なエラストマーのコア部を有する人工的な椎間円板を記載している。
【0006】
特許文献4は、隣接する脊椎間に挿入するための人工的な椎間円板を記載しており、この椎間円板は、凹状の切り込みを持つ第一の構成部分と、この第一の構成部分の切り込みと合致する突起を持つ第二の構成部分とを有し、その結果第一と第二の構成部分間の制限の無い回転及び傾斜動作を実現している。
【0007】
更に、特許文献5〜16によって、別の人工的な椎間円板が周知である。
【0008】
これまでに周知のすべての人工的な椎間板では、自然な関節特性を不十分にしか実現することができないということが欠点であることが分かっている。そのように自然な形で自由に動かせる空間が制限されていることは、特に、複数の椎骨部を挿入している、従って人工的な椎間板の欠点となる特性が累積する場合には、患者にとって明らかに支障があるものと感じ取られる。
【特許文献1】欧州特許第0610837号明細書
【特許文献2】米国特許第3867728号明細書
【特許文献3】米国特許第5071437号明細書
【特許文献4】欧州特許第0747025号明細書
【特許文献5】ドイツ特許第10024922号明細書
【特許文献6】欧州特許公開第1041945号明細書
【特許文献7】国際特許公開第02/080818号明細書
【特許文献8】米国特許第6368350号明細書
【特許文献9】ドイツ特許第4213771号明細書
【特許文献10】欧州特許第0560140号明細書
【特許文献11】欧州特許公開第1344508号明細書
【特許文献12】欧州特許公開第1344507号明細書
【特許文献13】ドイツ特許公開第4208115号明細書
【特許文献14】欧州特許公開第1287795号明細書
【特許文献15】ドイツ特許公開第10242329号明細書
【特許文献16】ドイツ特許第19710392号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明の課題は、人工的な椎間板の患者に感じ取られる特性を大幅に改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題は、この発明にもとづき、請求項1の特徴を持つ人工的な椎間板によって解決される。従属請求項は、この発明の特に目的に適った改善構成に関する。
【0011】
即ち、この発明では、両方の部材が、成形部分を有し、その成形部分によって、両方の部材と中間部材とを形状を合わせた形で接続する人工的な椎間板を規定するものである。この場合、この発明は、中間部材が、これらの部材の各成形部分に形状を合わせた形で保持される場合(何故ならば、こうすることによって、そのために椎間板の良好な変形特性を断念すること無く、捻りモーメントと剪断力の両方を問題無く伝達することができるからである)に、人工的な椎間板によって、所望の自由に動ける空間を脊椎の自然な形で自由に動く空間に最適な手法により合致させることができるとの考えを出発点としている。こうすることによって、椎間板は、特に、これらの部材相互の相対的な動作性、即ち、特に傾斜動作を同時に大幅に最適化、即ち、動作性を改善することができる形態で実現することができる。言い換えると、隣接する椎骨部間において捻りモーメント及び剪断力を伝達する機能を、従来技術にもとづき中間部材の弾力的な特性によって不十分な形で画一的に、言わば異なる特性の妥協の産物として実現された、それぞれ椎骨部の方を向いた部材を関節形式により接続する機能とは異なる形態とすることによって、自由度が大幅に異なり、それに応じてそれぞれが最適化されることとなる。即ち、この発明にもとづき、自然な椎間板と同様の機械的な特性が実現される形で、隣接する椎骨部を関節形式により接続することが可能となる。
【0012】
この発明による椎間円板の特に有利な実施構成は、成形部分を凹状に実現することによって、並びに、例えば、形状を合わせた形で中間部材を収容するための切欠きを形成することによって実現される。この場合、接触面は、それぞれの場合において、剪断荷重及び捻り荷重が静止摩擦力を上回ることができないように構成される。
【0013】
ここで、実際には、成形部分が摩擦に関して最適化された表面特性を有するのが、それによって、簡単な手法で中間部材の材料が磨耗する可能性を低減又は防止することができるので、特に有望であることが分かっている。例えば、接触領域において、成形部分の表面を鏡面研磨すると、接触面での相対的な動きの際に中間部材での摩擦とそのため磨耗も最小限となる。
【0014】
それに対して、別の同様に特に実用的な変化形態は、成形部分が、両方の部材と中間部材間に摩擦を生じさせるために、少なくとも部分的に摩擦を増大させる表面構造又は粗さを有する場合に実現される。この手法により、それぞれの場合に剪断荷重と捻り荷重が静止摩擦力を上回らないような接触面の構造が実現される。
【0015】
更に、成形部分が、中間部材と比べて大きな曲率半径を有し、特に、患者の動きによって引き起こされる中間部材の圧縮に対して所定の変形を実現可能とすることが、特に実用的であることが分かっている。この場合、特に、成形部分の面の湾曲の度合いが、中間部材の横断面と比べて僅かに小さくなるようにして、その結果例えば、リング形状の中間部材の圧縮によって生じる変形に対して、その部材の面に対して平行な延びが実現可能である。
【0016】
中間部材は、相応に実現された成形部分に係合する膨らみを周縁領域に備えた円板として実現することができる。それに対して、特に有望な実施形態は、中間部材が、リング状の閉じた形状を有する場合に実現される。そうすることによって、動作の際に生じる捻りモーメントと剪断力を最適な手法により伝達することができ、その場合円形の他に、楕円形又は腎臓の形の中間部材は、円形からずれた基本形状のために、容易く捻りモーメントの形状を合わせた形の伝達を可能とするので、それらも適している。
【0017】
別の同様に特に有利な変化形態では、リング形状の中間部材は、部材間の最適な力の伝達を保証すると同時に、所望の動作性を実現するために、そのリング形状の中心軸に対して垂直な横断面が、少なくとも部分的に尖頭形、楕円形又は円形である。この場合、それと対応する成形部分は、少なくとも部分的に、特に、身体の異なる面に関して相応に形成されている。
【0018】
更に、中間部材が、そのリング形状の中心軸の方向に沿って、部分的に異なる横断面を有するのが特に有利であることが分かっており、その横断面は、相応に実現された成形部分と協力して動作して、中間部材と外側部材間の形状を合わせた形の接続によって捻りモーメントを生じさせることが可能である。そのために、例えば、部分的に括れを持たせることができる。この場合、リング形状の横断面の直径は、リングに沿って変化させることができ、その結果平面図で円形に構成されたリングの場合においても、板状の外側部材間におけるリングの回転動作を防止することができる。
【0019】
そのために、例えば、患者の矢状面、前頭面、水平面の中の一つ以上における横断面を部分的に広げることができる。
【0020】
基本的に、その時々の要求に応じて、材料特性を決定することができる。実際には、中間部材を、少なくとも部分的にポリマー、特に、ポリエチレンから構成して、それによって、摩擦に強くすると同時に、大きな強靭性と限定された弾力的な塑性を実現した実施形態が特に有利であることが分かっている。
【0021】
更に、特に信頼性の有る椎間板の結合形態では、部材は、骨格に固定するために、椎骨部の方を向いた側に固定用のスパイク又は部品を備えており、それは、移植の際に荷重により椎骨部内に固定される。
【0022】
この場合、有利には、部材は、その椎骨部の方を向いた側の固定用スパイク又は部材をチタン又はその他の生体適合性を持つ材料を被せられており、それによって、骨格への直接的な結合が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
この発明には、様々な実施構成が可能である。その基本原理を更に明確化するために、それらの実施構成の中の一つを図面に図示するとともに、以下において記述する。
【0024】
図1は、この発明による人工椎間板1の側方から見た断面図を示しており、この人工椎間板によって、患者の図示されていない二つの隣接する椎骨部が関節形式により接続される。人工椎間板1は、弾力的なリングとして実現された中間部材2を有し、これらの中間部材は、例えば、金属板として実現された二つの外側部材4の成形部分3にそれぞれ嵌め込まれる。外側部材4は、椎骨部の骨格と固定用スパイク5によって接続される、特に、人工股関節で周知のチタン製固定部品によって接続される。凹状の成形部分3の直径Dは、中間部材2の円形の横断面の直径dに対して、より大きくなっており、その結果特に患者の動きによって引き起こされる中間部材2の圧縮に対して、所定の変形が実現可能となっている。
【0025】
図2は、この発明による人工椎間板1の中間部材2の実現可能な様々な構成の平面図を示しており、それらは、それぞれリング状の閉じた基本形状を有する。例として、基本形状が円形、楕円形又は腎臓の形である中間部材2a,2b,2cが図示されている。当然のことながら、これらの基本形状は、同じ手法で、図示されていない開口部の無い中間部材により規定することもできる。
【0026】
図3は、中間部材2の例として挙げた様々な横断面形状を示しており、それらは、楕円形、円形又は両側に尖頭の有る形に実現することができる。図4に図示された中間部材2のリング形状の中心軸7の方向に沿って、その横断面を部分的に異なる形で実現することも可能である、例えば、図示されている異なる横断面の形状の間で変化させることができる。
【0027】
図2に図示した中間部材2の側面を拡大して示した図4にもとづき、そのような変化させた形の横断面形状を詳しく説明する。中間部材2のリング形状の中心軸7の方向に沿って、円形の横断面形状の規則正しい括れ6が有ることが分かり、それらによって、発生する捻りモーメントを、中間部材2と図1に図示された外側部材4との形状を合わせた形の接続によって伝達することができる。
【0028】
図5は、この発明による別の人工椎間板8の図1とは異なる実施構成を側方から見た断面図で図示している。この場合、図6に図示されている椎骨部11への組み込みを改善するために、椎間板8の外側部材9は、中央の切れ目10を持つ開口円板として実現されている。
【0029】
図6は、別に図示されていない脊椎の二つの椎骨部11間に図1に図示された人工椎間板1を配置した構成を図示している。椎間板1は、椎骨部11に固定するために、その椎骨部11の方を向いた外側に固定用スパイク5を備えており、それらのスパイクは、移植の際に荷重により椎骨部11内に固定される。この場合、椎骨部11の方を向いた側に配備された生体適合性を持つ被膜により、骨格に直接結合することが可能となっている。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明による人工椎間板の側方から見た断面図
【図2】この発明による人工椎間板用の異なる中間部材の平面図
【図3】図2に図示した中間部材の異なる横断面の形状
【図4】図2に図示した中間部材の一部だけを拡大して示した側面図
【図5】この発明による別の人工椎間板の側方から見た断面図
【図6】図1に図示した人工椎間板を脊椎の二つの椎骨部の間に配置した図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の二つの隣接する椎骨部(11)の間に挿入することが可能であり、それぞれ一つの部材(4,9)が各椎骨部(11)の方を向いている人工椎間板(1,8)であって、これらの部材(4,9)は、中間部材(2)を用いて、制限された形で関節形式により互いに接続されており、その中間部材を介して、捻り回転モーメントと剪断力の両方を伝達することが可能である椎間板において、
両方の部材(4,9)が、成形部分(3)を有し、その成形部分によって、これらの部材(4,9)が、中間部材(2)と形状を合わせた形で接続されていることを特徴とする椎間板。
【請求項2】
成形部分(3)が、凹状に実現されていることを特徴とする請求項1に記載の椎間板(1,8)。
【請求項3】
成形部分(3)が、切欠きを有することを特徴とする請求項1又は2に記載の椎間板(1,8)。
【請求項4】
成形部分(3)が、摩擦に対して最適な表面特性を有することを特徴とする請求項1から3までのいずれか一つに記載の椎間板(1,8)。
【請求項5】
成形部分(3)が、両方の部材(4,9)と中間部材(2)との間に摩擦を生成するために、少なくとも部分的に摩擦を高める表面構造又は粗さを有することを特徴とする請求項1から4までのいずれか一つに記載の椎間板(1,8)。
【請求項6】
特に、患者の動きにより引き起こされる中間部材(2)の圧縮に対して、所定の変形が実現可能であるように、成形部分(3)が、中間部材(2)と比べて大きな曲率半径を有することを特徴とする請求項1から5までのいずれか一つに記載の椎間板(1,8)。
【請求項7】
中間部材(2)が、リング状の閉じた形状を有することを特徴とする請求項1から6までのいずれか一つに記載の椎間板(1,8)。
【請求項8】
中間部材(2)が、円形、楕円形又は腎臓の形に実現されていることを特徴とする請求項1から7までのいずれか一つに記載の椎間板(1,8)。
【請求項9】
リング状の中間部材(2)は、そのリング形状の中心軸(7)に対して垂直な横断面が少なくとも部分的に尖頭形、楕円形又は円形であることを特徴とする請求項1から8までのいずれか一つに記載の椎間板(1,8)。
【請求項10】
中間部材(2)は、そのリング形状の中心軸(7)の方向に沿って、少なくとも部分的に異なった横断面(括れ(6))を有し、それらの横断面が、それに対応して実現された成形部分(3)と協力して作用することを特徴とする請求項1から9までのいずれか一つに記載の椎間板(1,8)。
【請求項11】
患者の矢状面、前頭面、水平面の中の一つ以上における横断面が、部分的に広がっていることを特徴とする請求項1から10までのいずれか一つに記載の椎間板(1,8)。
【請求項12】
中間部材(2)が、少なくとも部分的にポリマー、特にポリエチレンから構成されていることを特徴とする請求項1から11までのいずれか一つに記載の椎間板(1,8)。
【請求項13】
部材(4,9)は、その椎骨部(11)の方を向いた側に、骨格に固定するための固定用のスパイク(5)又は部品を備えていることを特徴とする請求項1から12までのいずれか一つに記載の椎間板(1,8)。
【請求項14】
部材(4,9)は、その椎骨部(11)の方を向いた側における骨格に固定するための固定用のスパイク(5)又は部品が、チタン又はその他の生体適合性を持つ材料でコーティングされていることを特徴とする請求項1から13までのいずれか一つに記載の椎間板(1,8)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−530183(P2007−530183A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−505362(P2007−505362)
【出願日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【国際出願番号】PCT/DE2005/000373
【国際公開番号】WO2005/094734
【国際公開日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(300005068)ハー・ヨット・エス・ゲレンク・ジステム・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング (2)
【Fターム(参考)】