説明

人工榾木による茸の散水栽培方法

【課題】茸栽培有効期間において過不足ない散水量で最大生産量を得ることのできる人工榾木による椎茸の散水栽培方法を提供する。
【解決手段】空調装置と散水装置を備えた栽培ハウス1内に、多段の栽培棚3を配置し、栽培棚3に多数の人工榾木Pを載置し、多数の散水ノズル5で棚上から散水するに際し、水圧2.0〜3.0kgf/cm、散水量0.8l/分で人工榾木Pの配列全体がその円形の噴霧範囲に覆われるように1日0.5〜3.0時間散水し、茸の発生分を除いて4〜6g/日以上人工榾木Pの重量減少が発生しないように管理を行う散水栽培方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、完熟した人工榾木を使用し、散水により茸を有効に発芽・発育させることのできる人工榾木による茸の散水栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人工榾木は、おが屑や米ぬか等に肥料を加えて水で練ってブロック状に成形したもので、原木に代わってこれを使用する栽培を菌床栽培という。現在、重労働であり生産性が低い原木栽培に代わって、その合理化をなしやすい菌床栽培が主流となっている。人工榾木による菌床栽培は管理しやすいハウス内で行われるもので、自然環境下で行われる原木栽培とは違って、椎茸の育成に必要な水の供給は逐次欠かせないが、これについては、浸水栽培と散水栽培とに分けれる。当初は浸水栽培がおこなわれていたが、これには浸水作業毎に人工榾木の移動が伴う等不都合な面があるため、本出願人等において改良し散水栽培を開発してきた(特許文献1)。
【0003】
人工榾木は、一般的に、その製造部門で材料の調整、ブロック状の成形および種菌の接種をした後、菌床全体に菌が蔓延するまで完熟させ、それを茸の製造部門又は生産者(農家等)に渡して茸の発芽・生育に専念させる分業体制がとられることが多いが、殊に農家等の生産者においては、不慣れなために散水する上での管理が難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3071329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
散水栽培は、栽培ハウス内において栽培棚に完熟人工榾木を配置し、上からスプリンクラーにより散水する方法であるので、ハウス内がコンパクトに有効利用され備投資額が少なくて済む。また浸水栽培に比して、重労働を要しなく作業性が良好であり、水管理もやりやすい面があった。しかし、最小の水の量で最大の収穫量を得るという具体的な面で分からないことが多かった。特に茸栽培を一般農家等を生産者としてそれに分業させる場合には、人工榾木を購入し又は配給された農家等では水管理の要領について熟知しないために、水の過剰により人工榾木にカビの発生があったり、収穫した茸が水っぽく傷みやすかったり、逆に水分不足により期待する収穫量がえられない等の事態を招くことがあり、また、このようなことのないよう指導することも容易ではなかった。この点について、本出願人において鋭意研究と実験を重ねてきた。
【0006】
この発明は、上記のような経緯にもとづいてなされたもので、人工榾木生産に後続する茸生産において、栽培有効期間で過不足ない散水量で最大生産量を上げうるとともに、その要領が容易で指導しやすい人工榾木による椎茸の散水栽培方法を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、この発明は、空調装置と散水装置を備えたハウス内に、多段の栽培棚を配置し、栽培棚に多数の完熟榾木を載置し、多数の散水ノズルで棚上から散水することにより茸を発芽・育成させる茸の生産者において、一個の散水ノズルは、1分間に水圧2.0〜3.0kgf/cmにて散水量が0.4〜0.8l/分であって、1日0.5〜3.0時間散水し、1個の重量が0.9〜1.3kgの完熟榾木について、茸の発生分を除いて4〜6g/日以上の減少が発生しないように散水管理を行うことを特徴とする茸の散水栽培方法を提供するものである。
【0008】
人工榾木による茸の散水栽培方法を上記のように構成したが、これは、有効栽培期間において、人工榾木は茸として失う重量の他に、自己生活に必要な基礎代謝に見合う重量の減少は避けられなく、ほゞこれに必要な減量はそのまま認めて、蒸発等により失われる水分を補充する均衡ある水分状態を保持できることに着眼したものであって、それが「茸の発生分を除いて4〜6g/日以上の減少が発生しないように」という事項が多くの実験や経験から結論となったものである。
【0009】
具体的には、サンプル採取により人工榾木の重量を逐次測定することにより補充的に散水を行うもので、ある日の散水開始時間において、前日の同時間よりも9g榾木の重量が減少しているとすれば、9g以内において例えば4g以上含水(重量の増加)があるように補充して散水する。そうすれば、4〜6g/日以内の減少で済むからである。しかし、その間に平均して1個の榾木について2gの茸の収穫があったとすると、重量の減少をその分だけ除いて7gと見て、例えば2g以上その近辺での重量の増加となるよう含水させる。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、この発明によれば、人工榾木生産に後続する茸生産において、その栽培有効期間で過不足ない散水量で人工榾木に常時適正な含水量を維持しつつ、弊害なく安定して最大生産量を上げ得るもので、多収穫となるように散水の要領を素人でも簡単に習得できるため、自社の茸生産部門ばかりでなく、特に農家等の生産者において実施させるのに適し、散水過剰のために人工榾木にカビが発生することがなく、指導も容易でのみこみやすく慣れやすいので、最小の経費で多収穫が期待できるという優れた効果がある。
【0011】
また、請求項2及び請求項3によれば、一層上記効果を上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明を実施する栽培ハウスの側面から見た模式的断面図である。
【図2】同ハウス内に装備される散水ノズルの構造を示す正面から見た説明図である。
【図3】同ハウス内における散水状況(散水ノズルによる散水範囲)を平面から見た説明図である。
【図4】同ハウス内における散水状況(散水ノズルによる散水範囲)を正面から見た説明図である。
【図5】有効栽培期間において、人工榾木が有効な水分を保持しつつ重量が減少する状態を示す「人工榾木重量モデル推移グラフ」である。
【図6】有効栽培期間を分けて有効水分を保持するための区間毎の散水量の割り出しに利用する「栽培散水管理モデル表」である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
この発明において、人工榾木Pの初期重量は0.9〜1.3kgとしたが、必ずしもこれに限定されることはなく、それ以上又は以下の重量であっても他の条件が相応して若干変えることによりこの発明を有効に適用できる。なお、後記実施例では、当該重量は1.1kgの人工榾木Pを使用した。
【0014】
散水に使用する一個の散水ノズルは、1分間に水圧2.0〜3.0kgf/cmにて散水量が0.4〜0.8l/分であって、1日0.5〜3.0時間散水することが望ましく、それ以上であると給水過剰を、以下であると給水不足を招きやすい。
【0015】
浸水栽培では、浸水時に飽和状態に近く水分を多量に含浸し、これが原因でカビの発生、不良な茸の発生が生じ、収穫量にも影響する。散水栽培でも過剰な散水により同じ弊害が発生する可能性がある。この発明はかかる弊害を除去するために、散水時間を日々調整することにより培地水分を安定化させる。すなわち、必要な分だけ水分供給することが可能となったもので、具体的には次の通りである。
【実施例1】
【0016】
(完熟人工榾木の製造工程)
【0017】
該工程は、自社工場生産工程とも言えるもので、農家等の椎茸生産者に熟成人工榾木を提供するまでの工程である。ここでは、従来と変わらない工程であって、まず、おが屑や米ぬか等の原料に肥料を混入し水で練って円柱状にブロック成形し、これに種菌を接種する。そして、水管理と温度調整した環境下において、6ヵ月程度養生し菌が蔓延した完熟状態に育成させる。完熟した人工榾木Pは生産者へ出荷する。この時の人工榾木Pの重量は1.1kgである。
【0018】
(椎茸の生産工程)
これは本発明の実施の要部に相当する。生産者においては次のように栽培環境が整備される。
【0019】
ハウス1内には栽培棚3が配置され(図1)、それぞれは1台7段(幅4.0×奥行0.65×高さ1.6m)で人工榾木P,P,・・を上下において千鳥状に配列できるものである(図3,図4)。
【0020】
棚3上部よりスプリンクラー5で散水できるようにそれが配管とともに配列される。スプリンクラー5は、図2に示すように、ノズル11に回転枠13が取り付けられ、それにはノズル11からの噴出水が突き当たる突起15が設けられているので、衝突した水は周囲に分散する(矢印参照)。散水量は0.6l/分であり、ノズル内径0.9mm、散水パターン360°回転範囲において、水圧2.5kgf/cmで散水直径1.1mであって、人工榾木P,P,・・の配列全体がその円形の噴霧範囲17に覆われる(図3,図4)。また、ハウス1内には空調設備が装備される。
【0021】
温度調整は24時間を通じて行われるが、散水については、1日1回、夕方に行うことを標準とする。散水量は通常0.5時〜3.0時間を目安とし、人工榾木Pの重量、弾力性、椎茸発生量等に応じて、タイマー制御により散水時間が増減して適量散水される。
【0022】
散水時間については栽培当初の人工榾木重量から、椎茸発生分を除いて一日に5g以上の減少をさせないように散水管理を行う。これは人工榾木の重量をサンプル採取により測定して割り出すが、参考のために人工榾木重量モデル推移グラフ7と、栽培散水管理モデル表9が使用される。
【0023】
人工榾木重量モデル推移グラフ7は、図5に示すように、椎茸の収穫期間を150日にとって、その間において最大収穫量を見込む適正な水分量となるように人工榾木Pの重量の減少推移をとったものである。これによると、人工榾木Pは、最初に約1,100gであったものが、150日目には、500gに減少している。減少分は約600gであって、一日にすると約4gに相当する。これは、椎茸の収穫量の他に、人工榾木Pの生命活動に伴う栄養成分量等を主に差し引いた量であり、この減量による重量が適正水分を保持している状態であるとしたものである。
【0024】
実際に利用するときに例えば30日目であると、人工榾木Pが980gを示しているので、サンプル採取によりそれよりも重いならば、散水時間を少なめになし、軽いならば散水時間を多めにすることで水分調整する。また、80日目であると760g、100日目であると700gを見てとれるので、それを目安に散水量を時間で調整する。
【0025】
栽培散水管理モデル表9は、図6に示すもので、150日の有効栽培日数を初期、中期、後期に分け、さらに、「栽培日数」の欄を設け、初期では0日、30日、45日毎に、中期では60日、90日、105日毎に、後記では120日、150日毎にそれぞれ区分し、各期の日数区分毎における適正な「ホダ木重量目安」の欄と、「収量目安」の欄とを設け、収量は榾木(ホダ)当り累計として表示した。適正榾木重量目安については、榾木重量+榾木当たり累積収穫量=1,000g前後となるように、その重量目安を設定した。
【0026】
人工榾木重量モデル推移グラフ7及び栽培散水管理モデル表9は、散水要領の適正な実施に役立つ。さらには前記(一日に5g以上の減少をさせない)の基本要領の修正、補正等の参考となるものである。
【0027】
ところで、散水栽培の場合であると、散水量を自由に設定できることから、栽培中途において、榾木Pを流水により洗浄する作業を棚置きのままで行うことができる利点がある。これには予め水分少なめにしておいて、外面の害菌・害虫の付着を多量の散水により一挙に洗い流す作業となるが、その後に適正水分量の算定について迷いが生じる事態となることがある。この場合に、上記の人工榾木重量モデル推移グラフ7及び栽培散水管理モデル表9を参考にして適正の散水要領に復帰することができるため、洗浄方法による無農薬栽培を画期的に進展させ得ることになる。
【符号の説明】
【0028】
P 人工榾木
1 栽培ハウス
3 栽培棚
5 散水ノズル
7 人工榾木重量モデル推移グラフ
9 栽培散水管理モデル表

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空調装置と散水装置を備えたハウス内に、多段の栽培棚を配置し、栽培棚に多数の完熟榾木を載置し、多数の散水ノズルで棚上から散水することにより茸を発芽・育成させる茸の生産者において、一個の散水ノズルは、1分間に水圧2.0〜3.0kgf/cmにて散水量が0.4〜0.8l/分であって、1日0.5〜3.0時間散水し、1個の重量が0.9〜1.3kgの完熟榾木について、茸の発生分を除いて4〜6g/日以上の減少が発生しないように散水管理を行うことを特徴とする茸の散水栽培方法。
【請求項2】
茸の栽培期間の経過日数を横軸に取り、その栽培期間に茸の最大収穫量となる場合について、榾木の逐次減少する重量を縦軸に取った人工榾木重量モデル推移グラフを作成し、これを併用して茸の発生分を除いて4〜6g/日以上の減少が発生しないように散水管理を行う参考として利用することを特徴とする請求項1記載の茸の散水栽培方法。
【請求項3】
茸の栽培期間を幾つかに区分し、区分毎に適正水分の榾木重量目安の欄と、榾木当たりの茸の収穫量の累計を示す収穫目安の欄とが表示される栽培散水管理モデル表を作成し、これを併用して茸の発生分を除いて4〜6g/日以上の減少が発生しないように散水管理を行う参考として利用することを特徴とする請求項1又は2記載の茸の散水栽培方法。











【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−10624(P2012−10624A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148506(P2010−148506)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(306009042)上田産業株式会社 (8)
【Fターム(参考)】