説明

人工生物膜貯蔵装置

本発明には、高密度情報を入力および出力するための生物膜を貯蔵および保存する方法および組成物が含まれる。本発明の1つの形態は、例えば極めて長期にわたり室温で安定性の乾燥薄膜を形成するために、基質に適用された生物学的材料を備える作製された生物膜貯蔵装置である。本発明のまた別の形態は、基質上での生物学的材料の整列を促進する条件下で生物学的材料が基質に適用される、生物膜貯蔵装置を作製する方法である。本発明の組成物、方法、およびキットは、生物学、磁気学、光学およびマイクロエレクトロニクスにおいて広範囲の用途を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本特許出願は、これによりその全体が参照として本明細書に組み入れられるLee et al.に対する米国特許仮出願第60/413,081号の優先権を主張する。
【0002】
連邦政府による研究支援に関する陳述
米国連邦政府は、全米科学財団(NSF)および米国陸軍研究事務所(ARO)の条件(補助金番号第DA 10-01-0456号)にしたがって、本発明に一定の所有権を有する。
【0003】
発明の分野
本発明は、一般には分子貯蔵装置の分野に、および詳細には、高密度情報を入力および出力するための人工生物膜の貯蔵および保存に向けられる。
【0004】
ヌクレオチドおよび/またはアミノ酸配列表は、コンピュータ読取り可能形式にある材料を参照として組み入れられる。
【背景技術】
【0005】
発明の背景
次世代マイクロエレクトロニクスデバイスを製造するための「生物学的」材料の使用は、慣習的な加工処理および貯蔵方法の制約を取り除くことを可能にする解決策を提供する。いわゆる有機-無機ハイブリッド材料の開発の成功を目指すこのアプローチにおいて極めて重要な要素は、生物学的材料および無機材料の適切な適合性および組み合わせの同定、適切な材料の合成および適用、ならびにこれらの生物学的貯蔵装置の長期貯蔵である。生物学的材料を適切に長期貯蔵できれば、特にそれが重量および貯蔵スペースを減少させ、さらに材料安定性を上昇または維持する場合は、経済的に極めて有益である。
【0006】
ウイルスおよびそれらの産物(例、DNAおよびタンパク質)などの生物学的材料、または他の生物学的材料を貯蔵するために使用される現代のテクノロジーには高額の費用がかかる、および/または広範囲に及ぶ扱いにくい化学修飾技術を必要とする。生物学的材料は、一般にそれらの環境に対して高度に感受性であるため、それらの安定性、活性、および寿命を保証するためには高度に特異的かつしばしば高価な材料を必要とする。大幅に長い期間にわたり室温で安定性である生物学的材料は少ない。実際に、生物学的材料は室温では不安定性であることが多いと考えられる。例えばウイルスおよび細菌は、温度および代謝産物に対して高感受性であり、活性を維持するためには持続的な栄養補給および適切な空気(ガス)条件を必要とし、さらに増殖および密度の変化について高頻度でモニターされなければならない。
【0007】
生物学的材料を貯蔵および保存するためには、数種の方法が存在する。一般には、低温貯蔵法またはフリーズドライ法(例、-20℃から-80℃のような低温下で10%グリセロール中に材料を懸濁させる)またはポリエチレングリコール修飾法が使用される。また別の選択肢には乾燥法があるが、乾燥法には利点と欠点のどちらも備わっている。乾燥法は高額の費用を必要としないが、大量生産(すなわち、工業的量での製造)を許容しない。他方、フリーズドライ法は大量生産に使用できる。しかし、この工程は高感受性の生物学的材料を極度に損傷させる。さらにフリーズドライ法は、材料を1つの施設から他の施設へ移す場合でさえ高価な物質(例、ドライアイスまたは他の冷却剤)を使用する必要があるため、非常に不便で、無菌性を保証できず、費用効果性が極めて低い。
【0008】
生物学的材料を保存および貯蔵するために使用されている現行方法にはいくつかの限界がある。現在の方法は長期については耐久性ではなく、貯蔵後の生物学的材料の回収率が極度に低いことが多く、回収された生物学的材料の品質および活性は概して低下する。このため、材料の安定性および活性を維持しながら、そして大量の材料またはその活性を消失することなく、生物学的材料を貯蔵および保存するための長期的かつ費用効果的な方法を提供する必要が依然として存在する。特に生物学的材料が半導体、光学記憶装置、およびその他のマイクロエレクトロニクス機器の代替品として使用される場合は、適切な長期貯蔵が不可欠である。
【発明の開示】
【0009】
発明の概要
本発明の対象には、工学技術により特別に設計および製造することのできる人工膜としての、様々な密度の有機および無機情報の貯蔵が含まれる。生物膜とも呼ばれる本明細書で使用する「生物学的材料膜作製物」は、一つまたは複数の生物学的材料からの有機および無機情報の両方を貯蔵するために使用できるが、一つまたは複数の生物学的材料はさらに他の有機分子または無機分子へ結合することができる。本発明の用途は、医薬、工学技術、コンピュータテクノロジーおよび光学にまで及ぶ。さらに、貯蔵される情報は、生物学的情報、電気的情報、磁気情報、光学情報、マイクロエレクトロニクス情報、機械的情報、およびそれらの組み合わせであってよい。
【0010】
1つの形態では、本発明は安定した膜を形成するために、接触面に塗布された生物学的材料でコーティングされた基質を含む人工生物膜貯蔵装置である。
【0011】
本発明のまた別の形態は、接触面上での生物学的材料の一様な整列を促進して安定した膜の形成を可能にする接触面を備える基質へ生物学的材料を適用する段階を含む生物膜貯蔵装置を作製する方法である。
【0012】
また別の形態では、本発明は表面を備える基質と、乾燥薄膜を形成するためにその表面に特異的に結合することのできる生物学的材料と、を含む生物膜貯蔵装置を作製するためのキットである。
【0013】
本発明のさらにまた別の形態は、表面を備える無機材料を含む基質と安定した薄膜を形成するためにその表面に適用された生物学的材料と、を含むハイブリッド人工膜貯蔵装置であり、この膜は生物学的に活性であってよい、または生物学的成分と相互作用してよい。
【0014】
発明の詳細な説明
本特許出願は、これにより詳細な説明、図面、例、および特許請求の範囲を含めてその全体が参照として本明細書に組み入れられるLee et al.に対する米国特許仮出願第60/413,081号の優先権を主張する。
【0015】
さらに、Belcher et al.に対する2002年5月29日に出願された米国特許出願第10/157,775号ならびに2001年10月2日に出願された優先権米国特許出願(provisional priority patent application)第60/326,583号は、これによりその全体が参照として本明細書に組み入れられる。詳細には、生物膜の調製および特性解析に関する実施例IIが参照として本明細書に組み入れられる。
【0016】
本発明の様々な態様の作成方法および使用方法について考察するが、本発明は多種多様な特定状況において実施されてよい数多くの進歩的概念を提供すると理解されたい。本明細書で考察する特異的態様は、本発明を作成および使用するための方法を単に例示しているだけであり、本発明の範囲を限定することは決して意図していない。
【0017】
本明細書で使用する用語は、一般に本発明が関連する分野における当業者に理解されている意味を有する。「1つの」および「その」などの用語は、単数の実体だけに関するとは意図されておらず、特定例を例として使用できる一般クラスが含まれる。本明細書における専門用語は本発明の特定態様を説明するために使用されているが、それらの使用は、特許請求の範囲に記述されたものを除いて、本発明を限定しない。本明細書の全体を通して使用するように、用語「膜」および「生物膜」は互換的に使用される。
【0018】
本明細書で使用する用語「生物学的材料」は、ウイルス、バクテリオファージ、細菌、ペプチド、タンパク質、アミノ酸、ステロイド、薬剤、発色団、抗体、酵素、一本鎖または二本鎖の核酸、ワクチン、およびそれらの化学修飾物を意味する。生物学的材料は、自己集合して基質の接触面上で乾燥薄膜を形成することができる。乾燥薄膜は、従来型の乾燥の検出限界内では完全に乾燥しているように実質的に溶媒を含有していない、または膜が固体様かつ自己支持性であるがそれでも溶媒からの残留湿潤度を有するように乾燥工程からの残留溶媒を維持している、のどちらかであってよい。多くの場合、膜は部分水和状態にとどまっていてよく、水和状態は所与の用途に合わせて最適化することができる。自己集合は、表面上の生物学的材料のランダムな配列または一様な整列を可能にする。さらに、生物学的材料は、溶媒濃度、電場および/または磁場の印加、光学機器、または化学的相互作用もしくは電場や磁場の相互作用によって外部から制御される乾燥薄膜を形成することができる。
【0019】
用語「無機分子」または「無機化合物」は、例えばインジウム錫酸化物、ドーピング剤、金属、鉱物、放射性同位体、塩、およびそれらの組み合わせなどの化合物を意味する。金属には、Ba、Sr、Ti、Bi、Ta、Zr、Fe、Ni、Mn、Pb、La、Li、Na、K、Rb、Cs、Fr、Be、Mg、Ca、Nb、Tl、Hg、Cu、Co、Rh、Sc、またはYが含まれてよい。無機化合物には、例えばチタン酸バリウムストロンチウム、ジルコン酸チタン酸バリウム、ジルコン酸チタン酸鉛、チタン酸鉛ランタン、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、フッ化バリウムマグネシウム、チタン酸ビスマス、ストロンチウムビスマスタンタライト、およびニオブ酸ストロンチウムビスマスタンタライト、または当業者に知られているそれらの変形が含まれてよい。
【0020】
用語「有機分子」または「有機化合物」は、炭素を単独で、またはヌクレオチド、ポリヌクレオチド、ヌクレオシド、ステロイド、DNA、RNA、ペプチド、タンパク質、抗体、酵素、炭水化物、脂質、導電性ポリマー、薬剤、およびそれらの組み合わせなどと組み合わせて含有する化合物を意味する。薬剤には、抗生物質、抗菌薬、抗炎症薬、鎮痛薬、抗ヒスタミン剤、および哺乳動物の病的(または潜在的に病的な)状態を治療または予防するために使用される薬剤が含まれてよい。
【0021】
本明細書で使用する用語「基質」は、共有結合または非共有結合のどちらかを通してそれに分子が付着する微細加工固体表面であってよく、例えばシリコン、ラングミュア・ブロジェット膜、機能性ガラス、ゲルマニウム、セラミック、半導体材料、PTFE、炭素、ポリカーボネート、雲母、マイラー、プラスチック、石英、ポリスチレン、ヒ化ガリウム、金、銀、金属、合金、織物、ならびにその表面上に組み込まれたアミノ基、カルボキシル基、チオール基もしくはヒドロキシル基などの官能基を有することのできるそれらの組み合わせであってよい。同様に、基質は、それに生物学的材料が付着できる表面を備えるタンパク質、哺乳動物の細胞、器官、もしくは組織などの有機材料であってよい。その表面は大きくても小さくてもよく、必ずしも一様である必要はないが、接触面(単層である必要はない)として機能しなければならない。基質は多孔性、平面状または非平面状であってよい。基質には、基質自体、または有機もしくは無機分子から作製されてそれに有機もしくは無機分子が接触できる第二層(例、接触面を備える基質または生物学的材料)であってよい接触面が含まれる。基質は円筒状または非平坦状であってよい。基質は、それらの機械的強度または表面積対体積比を向上させるために支持されてよい。アレイが作製されてよい。ガラスビーズやポリスチレンビーズを含む多孔性ビーズが使用されてよい。高密度で充填したピンが使用されてよい。基質表面は、溝を掘ったり、微細加工したり、さもなければ非平坦性に作製されてよい。
【0022】
一般に、生物膜は基質の接触面に生物学的材料を適用することによって作製される。この接触は生物学的材料の自己集合によってであってよい、または表面自体もしくは溶媒濃度、磁場、電場、光学素子、およびそれらの組み合わせなどの外部条件によって制御されてよい。一部の場合では、基質自体が接触面として機能でき、さらに生物学的材料の接触の性質および量を制御することができる。他の態様では、接触面はその接触面に適用され、それに生物学的材料が接触する一つまたは複数の有機および/または無機分子を含んでいてよい第二基質であってよい。
【0023】
本明細書で使用する用語「溶媒」には、生物学的材料の高密度アレイまたは配列を促進するために適切なイオン強度の溶液が含まれる。これらのアレイは規則化されてもランダムであってもよい。規則化される場合、溶媒(外部制御を行う場合または行わない場合)濃度は生物学的材料の液晶形成を促進する濃度であってよい。生物学的材料は接触面および/または一つまたは複数の有機分子もしくは無機分子と一緒にプレインキュベートされてよい。プレインキュベーションは、ナノメートルスケールでの微粒子形成を促進できる。このプレインキュベーションはさらに上記のような外部条件によってさらに制御することができる。
【0024】
本明細書で使用する全ての技術用語および科学用語は、他に特別に規定しない限り、本発明が属する当業者が一般に理解している意味と同一の意味を有する。本発明の実践または試験には本明細書に記載の方法および材料に類似または等価である方法および材料を使用できるが、以下では一般に使用される方法および材料について記載する。
【0025】
ナノ長さスケールで十分に規則化かつ十分に制御された二次元および三次元構造を構築かつ保存することは、次世代の光学材料、電子材料および磁気材料ならびに光学デバイス、電子デバイスおよび磁気デバイスを構築する主要目標である。多くの研究者や企業は、慣習的な材料(例、無機化合物)だけを使用してそのような構造を構築することに焦点を当ててきた。本明細書で開示するように、本発明者らは、軟質材料(例、有機材料および生物学的材料)がナノスケールレベルで有機材料および無機材料の両方を集合させる自己組織体として機能できることを証明した。しかし、これらの軟質(有機および無機)混合材料の貯蔵は、骨の折れる挑戦的課題であることが実証されている。
【0026】
本発明は、軟質混合材料から構成される費用効果的な長期貯蔵装置を提供する。本発明を医療、工学技術、材料化学および光学用途において使用することにはいくつかの利点がある。本発明には、以前の研究では容易に解決されなかったいくつかの効果が含まれる。第一に、乾燥薄膜作製法は多額の資金を必要とせず最小限の費用で実施できる。さらに、これらの膜は所要スペースが小さいために容易に貯蔵することができ、室温条件に順応性であり、このため特に費用効果的である。その上、これらの膜は活性、構造またはその他の重要な特性を長期にわたりほとんど損失することがないために大量生産するための労力を余り必要としない。最後に、本発明の薄膜作製物は高容量貯蔵装置である。例えば、バクテリオファージを用いて作製された生物膜は、1平方センチメートルの膜中に4×1013個を超えるウイルスを貯蔵できる。
【0027】
薄膜の膜厚は特別には限定されないが、例えば好ましくは約100nmから約100ミクロン、より好ましくは約500nmから約50ミクロン、およびさらにより好ましくは約1ミクロンから約25ミクロンであってよい。
【0028】
本発明者らは、以前に、ペプチドおよびバクテリオファージなどの生物学的材料が半導体材料に結合できることを証明した。これらの生物学的材料は、外観特異性を用いて他の有機および無機材料を認識かつ結合する、サイズ制限された結晶半導体材料に核形成させる、および核形成ナノ微粒子の結晶相を制御する能力を備えるそれらの自己集合を指示できる核形成ナノ粒子に発達させられた(Lee S-W,Mao C,Flynn CE,Belcher AM.Ordering of Quantum Dots Using Genetically Engineered Viruses.2002 Science 296:892-895を参照。自己支持性ポリマー膜、および細菌宿主に感染する能力の損失を伴わずに、そして力価の損失をほとんど伴わずに少なくとも7ヵ月間にわたる室温でのウイルス膜の貯蔵についての説明を含む、その中の関連する部分は参照して本明細書に組み込まれる)。さらに、ナノ粒子の縦横比は制御できるので、このため電気特性、磁気特性および光学特性も制御できる。生物学的材料が、1つの表面または同等に生物学的材料の薄層を形成する薄層基質(例、半導体材料)へ結合したものは生物膜と呼ばれる。
【0029】
一般に、本発明の生物膜は有機材料および/または無機材料(または分子)の両方を含有していてよい。この生物膜は、基質、有機層、第二有機層、および無機層、またはそれらの様々な組み合わせを含んでいてよい。各有機層は一つまたは複数の相違するタイプの生物学的材料および/または有機材料を含んでいてよい;同様に、各無機層は一つまたは複数の相違するタイプの無機材料を含んでいてよい。一般に、生物膜の表面は良好に規則化しており、その膜に生物学的特性、電気特性、磁気特性、および/または光学特性を提供できるので、その生物膜が生物学的情報、電気的情報、磁気情報、および/または光学情報を保持かつ貯蔵することが可能になる。
【0030】
実際には、生物膜は表面に付着した生物学的材料または微生物の群生であると定義されている。生物膜の成長は、生物学的材料または微生物(例、培養物)の年齢、潜在的に有害(毒性)な副産物または代謝産物の集積、ならびに成長、安定性または維持のための他の材料または栄養素の消費または使用に左右される。生物膜は、天然の、または遺伝子操作された生物学的材料から構成されてよい。特に関心対象であるのは、自己集合性の生物学的材料の使用である。例えば、他の材料(例、半導体材料)に結合するように遺伝子操作されるバクテリオファージはさらに良好に規則化された構造に組織化する。
【0031】
そこで、自己集合性の生物学的材料(例、バクテリオファージ)は、特定表面への特異的結合特性に基づいて選択することができ、選択された材料の良好に規則化された構造を作製するために使用できる。これらの良好に規則化された構造を使用すると、層を形成することができる、および/またはその膜へ生物学的特性、磁気特性、光学特性、または電気特性を付与することができる。そこで、この生物膜は、どちらも数ビットのデータを貯蔵したり読み取ったりするために使用できる情報記憶装置またはメモリ用の光学記憶媒体として機能でき、データは生物学的データ、磁気データ、光学データ、電気的データおよびそれらの組み合わせである。
【0032】
磁気的、光学的、または電気的条件を支持することで、本発明は特異的整列特性を備える生物学的材料貯蔵装置になる。例えば、特異的結合特性を有するM13バクテリオファージを使用すると、ネマチック相内の方向規則性、コレステリック相内のねじれネマチック構造、およびスメクチック相内での方向秩序および位置秩序両方の、3種中1種の液晶相で生物膜貯蔵装置を作製することができる。そこで良好に規則化された生物膜貯蔵装置は、例えば1つのタイプの薄膜トランジスタを作製するために、生物学的材料だけを用いて、または他の有機もしくは無機分子(材料)と組み合わせて作製される。
【0033】
化学組成に関して、バクテリオファージ(または対象となるいずれかのウイルスもしくは他の生物学的材料)は、それ自体に粘着性で付着して1つのタイプの薄膜表面を形成することのできる天然「生体高分子」の1つのタイプである。一般に、最高の生体高分子はそのサイズおよび化学組成を精密に制御できる生体高分子であり、1つの制御方法は遺伝子操作法である。制御された生体高分子は正確に分かっている構造および組成物を提供する。その結果として、制御された生体高分子を使用する膜作製物は必要に応じて特別設計することができる。例えばバクテリオファージは、2,700コピーの主要タンパク質単位(pVIIIとして知られる)によって被覆された表面を備えており、形状はフィラメント状(長さ880nmおよび幅6.6nm)である。以下の例では、本発明の生物膜作製法、装置およびキットについて記載する。
【0034】
生物膜作製物貯蔵装置の例
高濃度ウイルス懸濁液を得るために、以前に記載した方法を使用して109個のファージ集団を含有するNew England Biolab社から入手したPh.D.12mer系を使用してウイルス膜を大量に増幅させた(J.Sambrook,E.F.Fritsch,T.Maniatis,Molecular Cloning A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press:New York,ed.2,1989)。3.2mLのファージライブラリー懸濁液(濃度:ファージが少なくとも109個/μL)および4mLの一晩培養物を400mLのLB培地へ添加し、37℃で4時間半かけてインキュベートした。ファージの精製後、約30mgのペレットを入手した。このペレットを1mLのトリス緩衝液(TBS)(pH7.5)へ再懸濁させた。この高濃度懸濁液(約5mg/mL)を使用してウイルス膜を作製した。
【0035】
ウイルス膜は、デシケータ内での溶媒の蒸発による液相の勾配低下を用いて液体/固体界面上で作製した。溶媒が徐々に除去されるにつれて、ファージ粒子は固体基質表面上でエピタキシャル層ドメインを形成した。
【0036】
形成されたファージ層の偏光顕微鏡写真(POM)データは、センチメートルスケールへ続く約34μmの繰返しパターンを示した。図1BおよびCは各々、ウイルス膜のPOM画像および個別ファージ粒子のAFM画像を示している。図1Dは、膜に集合した場合のウイルスの規則化構造のAFM画像を示している。
【0037】
ファージ粒子が約500nmのドメインを形成することは明白である。さらに、ファージ粒子は相互に横向きに積み重なっている。これらの横向きの積み重なりは充填されたミクロドメインを形成し、バルク膜内で薄板状層を形成する(図1Dを参照)。これらの粒子から入手された配列を表1に示した。
【0038】
(表1)スクリーニング前の懸濁液からのシーケンス結果

【0039】
重要なのは、ウイルス膜が感染能力を失うことなく元来のファージライブラリーを完全に維持することである。これは、ウイルス膜を再懸濁させ、それをHis-Pro-Glnなどの特異的結合モチーフを有することが知られている標的であるストレプトアビジン標的に対して生物学的パンニング(バイオパンニング)するために使用することによって実証される。第2回のシーケンシング後の結果は、pIIIユニットの最後にHis-Pro-Gln配列が現れることを示している。第4回のスクリーニング後、全ペプチド配列がHis-Pro-Glnのコンセンサス配列を示すことが見出された。
【0040】
以下では、この膜における乾燥ファージの感染所要時間(時間依存性感染能力)について考察する。時間依存性力価数を比較するために、サイズの小さな10枚の膜を作製した。比較するために、1μLの上記の懸濁液を約1日間、デシケータ内でエッペンドルフチューブの無菌表面上で乾燥させた。各膜についての力価数は、5ヵ月間にわたり相違する日に1mLのTBS緩衝液(pH7.5)中へ各1μLの膜を懸濁させた後に測定した。測定した力価数は、少なくとも7週間にわたりほとんど変化を示さなかった(図2)。
【0041】
5ヵ月後、力価数は1日齢膜懸濁液から入手した力価数と比較して10%へ低下した。当業者であれば、過度の実験を行わずに、あらゆる生物膜の伸長および/または最適感染所要時間を容易に最大化できる。
【0042】
膜上の乾燥ファージが感染する持続的能力を含むバイオパンニングの結果は、この膜作製物法が分子情報の高度に効率的な貯蔵装置であることを証明している。例えば、この膜は長期にわたり高密度遺伝子操作DNAおよびタンパク質情報を容易に貯蔵する。さらに、細菌宿主を使用すると、ウイルス成分をいつでも容易に複製することができる。
【0043】
この生物膜は、一つまたは複数の相違するタイプのウイルスおよび/またはその構成要素を機能化するために役立つことができ、さらに特定のタンパク質またはタンパク質単位を発現させるために使用できる。この生物膜は、新薬発見、ハイスループットスクリーニング、一つまたは複数の病的状態の診断、および疾患の治療を最適化するためを含む数多くの治療手段において使用できるので、この技術の医療用途は広範囲に及ぶ。
【0044】
ストレプトアビジン標的に対するバイオパンニング
ファージ膜(図1A)をほぼ1cm×1cmの寸法に破砕し、1mLのTBS緩衝液中に懸濁させた。この懸濁液(1.1×109PFU)をPh.D.12merシステム(New England Biolab社性)が供給される方法によってストレプトアビジン固定化ペトリ板に暴露させた。第2回のバイオパンニング後、ランダムに選択したプラークはストレプトアビジンに対する特異的結合ペプチド配列である配列パターン、His-Pro-Glnを示し始めた(表2)。
【0045】
(表2)ストレプトアビジン標的を使用したシーケンシングの結果


配列内のイタリック体の文字はストレプトアビジン結合配列モチーフを表している。
【0046】
膜状態にある乾燥ファージの時間依存性感染能力
1μLの懸濁液をデシケータ内のエッペンドルフチューブの無菌表面上で乾燥させた。力価数は、5ヵ月間にわたり相違する日に1mLのTBS液(pH7.5)液中へこれらの1μLの膜を再懸濁させた後に計数した(図2)。
【0047】
ファージの乾燥薄膜の完全性は極めて高い。この薄膜は1平方センチメートル当たり4×1013個のファージを貯蔵する。さらに、貯蔵できるタンパク質単位数は4×1013個のファージの7200倍を超える。結果として、この乾燥膜作製法は、長期にわたり高度に組織化された方法で、例えばDNA、ペプチドおよびタンパク質などの極めて大量の生物学的材料を貯蔵するための安価かつ最適な方法を提起する。
【0048】
本明細書に記載したように、乾燥薄膜を作製することによって遺伝子操作ウイルスライブラリーを作製し、保存し、そして再使用することができる。遺伝子操作M13ファージライブラリーは、高濃度懸濁液から膜状で作製した。生物膜を適切な溶液中に再び懸濁させると、M13ファージは活性なままであり、細菌宿主に感染することができた。重要なのは、本発明を使用することにより、特定の生物学的材料が膜状で保存され、安定性で、さらになお活性であることにある。この生物膜は7ヵ月間より多く安定性のままであり、95%を超える感染能力によって証明されたように少なくとも5ヵ月間にわたりその活性を維持する。
【0049】
バイオパンニングの結果は、109個のファージライブラリー情報の大部分がこの膜上に保存されたことを示している。さらに、この生物膜の作製は、高密度遺伝子操作分子情報(例、DNA、ペプチドまたはタンパク質)を貯蔵するための容易に使用可能な用途を備える可逆的工程である。
【0050】
本発明の遺伝子操作生物膜を用いると、3つまでの空間寸法を有する三次元メモリを形成することができる。生物学的材料および/または生物学的材料と組み合わせた無機化合物もしくはナノ粒子の特性に依存して、複数のビット情報を生物学的データ、光学データ(色波長など)、磁気データ、または電気的データとして「読み取る」(出力する)ことができる。データは、特定の(例、ナノ粒子)場所で化学反応、光学反応、磁気反応、または電気的反応を作り出すことによって生物膜に「書き出される」(入力される)。本発明を使用すると、一つまたは複数のファージ添加物(または他の生物学的材料)を設計して、極めて特異的な結合パターンおよび/または配列パターンを備える膜を作製することができる。結果として生じる膜は、下記で詳細に記載するように、独特の光学特性、電気特性、および/または磁気特性を備える情報を(データビットとして)入力および出力するための記憶装置として機能する。生物学的材料が、例えばヒドロゲル状態におけるように多孔性である場合は、溶解性標識を用いて読取りおよび書込みを実施できる。
【0051】
ナノ粒子を用いて規則化された生物膜貯蔵装置の例
ウイルスまたはバクテリオファージ(ファージ)などの遺伝子操作生物学的材料は、接触面上のそれらの外観を規則化するのに役立つ一つまたは複数の特異的接触面をしばしば認識することができる。例えばバクテリオファージの場合は、これはコンビナトリアル・ファージディスプレイの選択を通して行われる。この例では、接触面の認識が、例えば硫化亜鉛(ZnS)などの追加の無機分子またはナノ粒子を含有している、または含有していない自己支持性生物膜内へのファージの規則化を生じさせる。ナノ粒子の存在は、ファージ整列を磁気的および電気的に制御するのに役立つ追加の利点を提供する。この外力による制御は追加の無機分子の存在を必ずしも必要としない;一部の生物学的材料は、無機化合物の支援なしに接触面上で外部から規則化することができる。
【0052】
基質の接触面(例、半導体表面)のファージ認識は、さらにまたペプチド認識成分などの第二生物学的材料で基質をプレコーティングすることによって制御することもできる。プレコーティングされた基質の例は、例えば、インジウム錫酸化物(ITO)などの追加の化合物でプレプレコーティングされた半導体表面である。この追加の化合物は、無機であっても無機でなくてもよい。例えば、一部の基質(例、ガラス)は、生物学的材料の規則化された整列を促進するために有機化合物(例、導電性ポリマー)でプレプレコーティングされてよい。例えば電場および/または磁場などの外部制御の適用もまた、生物学的材料の規則化された整列を促進するために、そして高度に一様な生物膜を作製するために使用できるが、一様性には接触表面(または基質)上での生物学的材料のランダムではない規則化が含まれる。本発明を使用すると、そのような本発明の生物膜が、安定性、活性、またはファージが宿主に感染する能力を失わずに6ヵ月間より多く保存できることが証明されている。以下では、生物学的材料を調製するために使用される方法の例を含む、生物学的材料を規則化することに関係するまた別の工程の例について説明する。
【0053】
ファージディスプレイライブラリー
ランダム有機層を提供する1つの方法は、M13大腸菌ファージのpIIIコートタンパク質に融合した7アミノ酸から12アミノ酸を含有するランダムペプチドのコンビナトリアルライブラリーに基づいて、様々なペプチドが結晶半導体構造と反応することを前提に、ファージディスプレイライブラリーを使用する。10〜16nmの粒子からなるファージ粒子の一方の端部には5コピーのpIIIコートタンパク質が位置している。このファージディスプレイ・アプローチは、ペプチド-基質相互作用とその相互作用をコードするDNAとの物理的結合を提供した。本明細書に記載の例では、例として5種の単結晶半導体:GaAs(100)、GaAs(111)A、GaAs(lll)B、InP(100)およびSi(100)を使用した。これらの基質はペプチド-基質相互作用の体系的評価を可能にし、様々な結晶構造についての本発明の方法の一般的適用性を確証した。
【0054】
特定の結晶へ首尾よく結合するタンパク質配列を表面から溶出させ、例えば100万倍に増幅させ、そしてよりストリンジェントな条件下で基質に対して反応させた。最も特異的な結合を備えるライブラリー内でファージを選択するために、この結合方法を5回繰り返した。例えば第3回、第4回、および第5回のファージ選択後に、結晶特異的ファージを単離し、それらのDNAについてシーケンシングした。結晶組成(例えば、GaAsには結合するがSiには結合しない)および結晶面(例えば、GaAs(100)には結合するが、GaAs(III)Bには結合しない)に対して選択的であるペプチド結合が同定された。
【0055】
GaAs表面へのエピトープ結合ドメインを決定するために、GaAs(100)から選択した20個のクローンを分析した。修飾されたpIIIまたはpVIIIタンパク質の部分ペプチド配列は図3(SEQ ID NO:1〜11)に示されており、この図からGaAsへ暴露させたペプチド間のアミノ酸配列が類似であることが明らかである。GaAs表面への暴露回数が増加するに伴って、非荷電極性およびルイス塩基官能基の数が増加した。第3回、第4回、および第5回シーケンシングからのファージクローンは平均して各々30%、40%、および44%の極性官能基を含有していたが、他方ルイス塩基官能基の割合は同時に41%から48%、そして55%へ増加した。使用されたライブラリーからのランダム12merペプチド中に官能基が34%しか占めていないルイス塩基中で観察された増加は、ペプチド上のルイス塩基とGaAs表面上のルイス酸部位との相互作用がこれらのクローンにより示された選択的結合を媒介する可能性があることを示唆した。
【0056】
このライブラリーから選択された修飾12merの予測される構造は大きな構造である可能性があるが、これは、ペプチドをGaAsの単位格子(5.65Å)よりはるかに長くする小さなペプチドについても同様であると思われる。このため、このペプチドがGaAs結晶を認識するために必要なのは小さな結合ドメインだけであろう。図3において強調表示したこれらの短いペプチドドメインは、アスパラギンおよびグルタミンなどのアミンルイス塩基の存在に加えて、セリンに富む、およびトレオニンに富む領域を含有している。正確な結合配列を決定するために、7merおよびジスルフィド拘束7merライブラリーを含む短いライブラリーを用いてスクリーニングした。結合ドメインのサイズおよび柔軟性を低下させるこれらの短いライブラリーを用いると、より小数のペプチド-表面相互作用が許容され、選択世代間の相互作用の強度において予測される増加が生み出される。
【0057】
ファージ(M13コートタンパク質に対するビオチン化抗体を通してファージへ結合したストレプトアビジン標識20nmコロイド状金粒子を用いて標識した)を使用して、特異的結合を定量的に評価した。金4f-電子シグナルの強度を通してファージ-基質相互作用をモニターする、X線光電子分光法(XPS)による元素組成決定を実施した(図4A〜C)。G1-3ファージが存在しない場合は、この抗体および金ストレプトアビジンはGaAs(100)基質に結合しなかった。このため金-ストレプトアビジン結合はファージに特異的であり、基質へのファージ結合の指標であった。XPSを使用して、GaAs(100)から単離されたG1-3クローンがGaAs(100)には特異的に結合するが、Si(100)には結合しないことも見出された(図4A参照)。S1クローンは、(100)Si表面に対してスクリーニングすると、相補的方法でGaAs(100)表面への不良な結合を示した。
【0058】
一部のGaAsクローンはさらに、別の閃亜鉛鉱構造であるInP(100)の表面にも結合した。選択的結合の原理が化学的、構造的、または電子的のいずれであるかについては、未だ研究中である。さらに、基質表面上の自然酸化物の存在は、ペプチド結合の選択性を変化させる可能性がある。
【0059】
GaAsの(111)A(末端がガリウム)表面または(111)B(末端がヒ素)表面に比較して優るGaAs(100)表面へのG1-3の優先的結合が証明された(図4Bおよび4C)。G1-3クローン表面濃度は、ガリウムに富む(111)A表面またはヒ素に富む(111)B表面上よりその選択に使用された(100)表面上の方が高かった。これらの相違する表面は相違する化学反応性を示すことが知られているので、様々な結晶面へのファージ結合において選択性が証明されたことは驚くことではない。両方の111表面のバルク末端は同一の幾何学的構造を与えるが、表面再構成を比較すると、GaまたはAs原子を有する表面二重層における最外層間の相違がより明白になる。様々なGaAs表面の酸化物の組成もまた相違すると予想されており、そしてこれは順にペプチド結合の性質に影響を及ぼす可能性がある。
【0060】
G1-3ファージクローンへ暴露させた基質からの結合エネルギーに対するGa 2p電子の強度は、図4Cにプロットされている。図4Bに示した結果から予測されるように、GaAs(100)表面、(lll)A表面および(111)B表面上で観察されたGa 2p強度は金濃度と反比例している。金-ストレプトアビジン濃度の上昇に伴う表面上のGa 2p強度の低下は、ファージによる表面被覆の増加に起因した。XPSはサンプリング深さが約30Åである表面技術である。このため、有機層の厚さが増加するにつれて、無機基質からのシグナルは減少する。この観察を使用して、金-ストレプトアビジンの強度が実際にGaAsの表面上に結晶特異的結合配列を含有するファージが存在することに起因したことが確認された。同数の特異的ファージクローンを同等の表面積を備える様々な半導体基質へ暴露させて、XPSデータと相関する結合試験を実施した。野生型クローン(非ランダムペプチド挿入断片)はGaAsに結合しなかった(プラークが検出されなかった)。G1-3クローンについては、溶出したファージ集団は、GaAs(lll)A表面からに比較してGaAs(100)表面からの方が12倍大きかった。
【0061】
原子間力顕微鏡(AFM)を使用して、GaAs(100)およびInP(100)へ結合したG1-3、G12-3およびG7-4クローンを描出した。InP結晶は、GaAsと同型構造である閃亜鉛鉱構造を有しているが、In-P結合はGaAs結合より大きなイオン性を有している。AFMで観察されたファージの10nmの幅および900nmの長さは透過型電子顕微鏡検査(TEM)によって観察されたM13ファージの寸法に一致しており、M13抗体に結合した金球がファージに結合していることが観察された(データは示していない)。InP表面は高濃度のファージを有していた。これらのデータは、原子のサイズ、電荷、極性および結晶構造を含む多数の要素が基質の認識(または接触面の認識)に関係することを示唆している。
【0062】
TEM画像では、G1-3クローン(ネガティブ染色)がGaAs結晶性ウェハーへ結合していることが明らかである。このデータは、この結合が主要コートタンパク質との非特異的相互作用を通してではなく、G1-3の修飾pIIIタンパク質によって指示されることを確証した。このため、本発明のペプチドを使用すると、ナノ構造およびヘテロ構造を組み立てる際の特異的ペプチド-半導体相互作用を指示することができる(図5E)。
【0063】
X線蛍光顕微鏡を使用すると、種々の化学組成および構造組成の表面の極めて近位においてファージが閃亜鉛鉱表面へ優先的に付着することが証明された。ネスト化四角形パターンをGaAsウェハー内にエッチングした;このパターンはGaAsの1μmのライン、および各ライン間にSiO2の4μmの間隔を含んでいた(図5Aおよび5B)。G12-3クローンをGaAs/SiO2パターン化基質と相互作用させ、洗浄して非特異的結合を減少させ、そして免疫蛍光プローブであるテトラメチルローダミン(TMR)を用いて標識した。標識化ファージは、GaAsにしか結合しないG12-3に対応して、図5Bでは、3本の赤いラインおよび中央のドットとして見出された。このパターンのSiO2領域はファージには未結合のままであり、暗色である。この結果は、ファージには暴露させず、一次抗体およびTMRに暴露させた対照では観察されなかった(図5A)。非ファージ結合G12-3ペプチドを使用した場合も、同様の結果が得られた。
【0064】
GaAsクローンG12-3は、AlGaAsよりもGaAsに対して基質特異的であることが観察された(図5C)。AlAsおよびGaAsは室温では各々5.66Åおよび5.65Åの実質的には同一の格子拘束を有しているので、そこでAlxGal-xAsの三元合金はGaAs基質上でエピタキシャル的に成長することができる。GaAsおよびAlGaAsは閃亜鉛鉱結晶構造を有するが、G12-3クローンはGaAsにしか結合しないことで選択性を示した。GaAsおよびAl0.98Ga0.02Asの交互層からなる多層基質を使用した。この基質材料を劈開させ、引き続いてG12-3クローンと反応させた。
【0065】
G12-3クローンを20nmの金-ストレプトアビジンナノ粒子により標識した。走査型電子顕微鏡(SEM)による検査は、ヘテロ構造内のGaAsおよびAl0.98Ga0.02Asの交互層を示している(図5C)。ガリウムおよびアルミニウムのX線元素分析を使用してヘテロ構造のGaAs層へ金-ストレプトアビジン粒子だけを対象にマッピングしたところ、化学組成に対する高度の結合特異性が証明された。図5Dでは、蛍光画像およびSEM画像において見られるように、半導体ヘテロ構造のためのファージを識別するためのモデルを表示した(図5A〜C)。
【0066】
本発明は、有機ペプチド配列と無機半導体基質との結合を同定する、発生させる、および増幅させるために、ファージディスプレイライブラリーの使用が極めて有効であることを証明している。この無機結晶のペプチド認識および特異性は、ペプチドライブラリーを使用してGaN、ZnS、CdS、Fe3O4、Fe2O3、CdSe、ZnSeおよびCaCO3を含む他の基質に拡大されてきた。現在は2成分認識を備える二価合成ペプチド(図5E)が設計されている。このようなペプチドは、ナノ粒子を半導体構造上の特定位置へ方向付ける能力を有している。これらの有機および無機対は、新世代の複雑かつ洗練された電子構造を作製するための強力な構築ブロックを提供する。特にバイオパンニング後の、CdS(図6〜9)、ZnS(図8、9)、およびPbS(図9〜10)結晶のペプチド認識についての特異的アミノ酸配列(SEQ ID NO:12〜95)の例は図6〜10に示されている。
【0067】
ペプチドの作製、単離、選択、および特性解析
ペプチドの選択
表面上のファージ間相互作用を減少させるために、ファージディスプレイまたはペプチドライブラリーを、0.1% TWEEN-20を含有するトリス緩衝液(TBS)中の半導体、またはその他の結晶と接触させた。室温で1時間にわたり振動させた後、トリス緩衝液(pH7.5)および0.1%から0.5%(v/v)へ濃度を増加させながらTWEEN-20へ10回暴露させて表面を洗浄した。グリシン-HCl(pH2.2)の添加によって10分間かけて表面からファージを溶出させた後、新しいチューブへ移し、次にトリス-HCl(pH9.1)を用いて中和した。溶出したファージを滴定し、結合効率を比較した。
【0068】
第3回の基質暴露後に溶出したファージをそれらの大腸菌ER2537と混合し、LB XGal/IPTG平板上でプレーティングした。ライブラリーファージはlacZα遺伝子を有するベクターM13mp19に由来したので、Xgal(5-ブロモ-4-クロロ-3-インドイル-β-D-ガラクトシド)およびIPTG(イソプロピル-β-D-チオガラクトシド)を含有する媒質上でプレーティングすると、ファージプラークは青色を呈した。青色/白色スクリーニングを使用して、ランダムペプチド挿入断片を備えるファージプラークを選択した。プラークを採取し、これらの平板からDNAをシーケンシングした。
【0069】
基質の調製
X線回折法により基質の配向性を確認し、適切な特異的化学エッチングにより自然酸化物を取り除いた。次のエッチング液:NH4OH:H2O(1:10)、HC1:H2O(1:10)、H3PO4:H2O2:H2O(3:1:50)について、GaAsおよびInP表面上で各々1分後および10分後に試験した。GaAsおよびInPのエッチング表面についての最高元素比および最小酸化物形成率(XPSを使用して)は、HCl:H2Oを1分間使用し、次に1分間にわたる脱イオン水による洗浄を行って入手した。ライブラリーの初期スクリーニングでは、GaAsに対して水酸化アンモニウムエッチング液を使用した。このエッチング液は、他の全てのGaAs基質標本に対しても使用できるが、当業者であれば使用可能なエッチング液を認識できる。Si(100)ウエハーは、HF:H2O(1:40)溶液中で1分間エッチングし、その後に脱イオン水による洗浄処理を実施した。表面は洗浄処理液から直接取り出し、直ちにファージライブラリーへ導入することができる。ファージに暴露させていない対照基質の表面を特性解析し、エッチング工程の有効性ならびにAFMおよびXPSのによる表面の形態についてマッピングした。
【0070】
GaAsの多層基質およびAl0.98Ga0.02Asの多層基質をGaAs(100)上への分子線エピタキシーにより成長させた。エピタキシャル成長層は、5×1017cm-3のレベルでSiドーピング(n型)した。
【0071】
抗体および金による標識化
XPS、SEMおよびAFM標本のために、基質をTBS中で1時間にわたりファージに暴露させ、次にFdファージのpIIIタンパク質に対する抗体である抗Fdバクテリオファージ-ビオチンコンジュゲート(リン酸緩衝液中で1:500、Sigma社製)へ30分間導入し、次にリン酸緩衝液中で洗浄処理した。ストレプトアビジン-20nmコロイド状金標識(リン酸緩衝液(PBS)中で1:200)をビオチン-ストレプトアビジン相互作用によりビオチン結合ファージへ付着させた。これらの表面を30分間にわたり標識へ暴露させ、次にPBSを用いて数回洗浄処理した。
【0072】
X線光電子分光法(XPS)
XPSにおいて見出された金シグナルがファージに結合した金からであり、GaAs表面との非特異的抗体相互作用からではないことを確認するために、XPS標本に対して次の対照実験を実施した。調製したGaAs(100)表面を次の、(1)ファージを含まない、抗体およびストレプトアビジン-金標識、(2)抗体を含まない、G1-3ファージおよびストレプトアビジン-金標識、および(3)G1-3ファージまたは抗体のどちらかを含まない、ストレプトアビジン-金標識に暴露させた。
【0073】
使用したXPS機器は、単色1,487eV X線を生成するアルミニウム陽極を備えるPhysical Electronics社製Phi ESCA 5700であった。全試料は、GaAs表面の酸化を制限するためにファージの金標識化後直ちにチャンバ内に導入し(上記のとおりに)、次にXPSチャンバ内での試料のガス放出を減少させるために高真空で一晩排気した。
【0074】
原子間力顕微鏡(AFM)
使用したAFMは、Gスキャナーを用いてチップ走査モードで作動するZeiss社製Axiovert 100s-2tv上に取り付けられたDigital Instruments社製Bioscopeであった。画像はタッピングモードを使用して空気中で撮影した。AFMプローブは、それらの200±400kHzの共鳴周波数の近くで駆動させた125mmカンチレバーおよび20±100Nm-1のバネ定数を用いてエッチングされたシリコンであった。スキャン速度はおよそ1±5mms-1であった。画像は、試料の傾斜を取り除くために一次平面を使用して水平にした。
【0075】
透過型電子顕微鏡検査(TEM)
TEM画像は、Philips社製EM208を60kVで使用して撮影した。Gl-3ファージ(TBS中の希釈率1:100)をGaAs細片(500mm)と一緒に30分間インキュベートし、遠心して未結合ファージから粒子を分離し、TBSを用いて洗浄処理し、TBS中に再懸濁させた。試料を2%酢酸ウラニルにより染色した。
【0076】
走査型電子顕微鏡検査(SEM)
G12-3ファージ(TBS中の希釈率1:100)を新しく劈開させたヘテロ構造表面と一緒に30分間インキュベートし、TBSを用いて洗浄処理した。G12-3ファージを20nmコロイド状金により標識した。Hitachi社製4700電界放出走査型電子顕微鏡上に取り付けたNorian社製検出システムを5kVで使用することによりSEMおよび元素マッピング画像を収集した。
【0077】
規則化されたバイブリッド生物膜貯蔵装置の作製
本発明者らは、有機-無機ハイブリッド材料(有機化合物および無機化合物の両方を含むハイブリッド材料)が新規の材料開発のための新しい手段を提供することを認識した。ナノスケール範囲にあるサイズ制御された構造(ナノ構造)は、マイクロエレクトロニクスにおいて特に有用であり、半導体などの材料へ調整可能な光学特性、磁気特性および電気特性を提供する。有機成分を備える生物学的材料は、特にナノスケールレベルにおいて、構造の無機形態、位相および核形成方向をさらに修飾することができる。このハイブリッドは、位置特異的情報またはデータを備える高度に独特の微小環境を作り出す。この情報を極めて長期にわたり貯蔵する能力は、情報を処理し、収集し、さらに分析するための貯蔵ツールとして成功するために極めて重要である。
【0078】
1つの例としてファージを使用すると、一般に単分散性質を備える生物学的材料がその中に様々な情報を貯蔵する独特の新規基準を新規材料に提供することが明らかになる。本発明を用いると、ナノメートルスケール規模の規則化を備える高度に規則化された構造が構成された。遺伝子操作自己集合性生物学的分子(例、特異的半導体表面の認識成分を有するM13バクテリオファージ)を使用したII-VI半導体材料の複合長スケール整列は、長期データ貯蔵のために最適なデバイスを作り出す。そこで、異方性形状を有する単分散バイオマテリアルは、良好に規則化された構造を構築するためのまた別の方法である。特異的半導体表面に対する認識成分(ペプチドまたはアミノ酸オリゴマー)を有する遺伝子操作M13バクテリオファージを使用して、II-VI半導体材料のナノ長さスケールおよび複合長スケール整列を実施した。
【0079】
位置秩序および方向秩序の両方を有するFdウイルススメクチック規則化構造は特性解析されている。Fdウイルスのスメクチック構造には、ナノメートルスケール(以下ナノ粒子と呼ぶ)において粒子の二次元(2D)および三次元(3D)整列を構築するための構造のマルチスケール規則化およびナノスケール規則化の両方において潜在的用途がある。バクテリオファージM13を使用したのは、遺伝子操作が可能であり、Fdウイルスと同一形状を有するように選択するのに成功しており、そしてII-VI半導体表面に対する特異的結合親和性を有するためであった。このため、M13は、ナノ粒子のマルチスケールおよびナノスケール規則化に役立つスメクチック構造にとって理想的供給源である。
【0080】
本発明者らは、コンビナトリアルスクリーニング法を使用して、半導体表面へ結合できるペプチド「挿入断片」を含有するM13バクテリオファージを見出した。これらの半導体表面は、硫化亜鉛、硫化カドミウムおよび硫化鉄などの材料を含有していた。当業者に知られている分子生物学の技術を使用して、特異的半導体材料表面に結合するバクテリオファージ・コンビナトリアルライブラリークローンなどの生物学的材料を使用した。一般に、生物学的材料は容易に大量に入手できる、または大量生産のために容易に増幅させることのできる材料である。ファージを増幅させ、クローン化し、液晶形成のために十分な高濃度まで増幅させた。
【0081】
生物学的選択性および自己集合性を使用することによって良好に規則化されたナノ粒子層を構築するための方法として、バクテリオファージの異方性形状を活用した。例えば、フィラメント状のバクテリオファージであるFdは、高濃度溶液中でバクテリオファージのリオトロピック液晶挙動を生じさせる長い棒状(長さ:880nm;直径:6.6nm)および単分散分子量(分子量:1.64×107)を有する。本発明では、類似のフィラメント状バクテリオファージであるM13を硫化亜鉛、硫化カドミウムおよび硫化鉄などのナノ粒子に結合するように遺伝子操作した。単分散バクテリオファージであるM13は、標準増幅法により調製した。
【0082】
ナノスケールおよびメソスケールでの規則化
ナノスケールおよびメソスケールレベル上でのバクテリオファージの規則化は、この生物学的材料がナノ粒子のナノスケールアレイを形成できることを証明している。これらのナノ粒子はさらに、ミクロンドメインおよびセンチメートル長さスケールに組織化される。半導体ナノ粒子は、量子閉込め作用を示し、そして液晶内で合成かつ規則化できる。
【0083】
標準分子生物学的技術を使用して、半導体表面への特異的結合特性を有する遺伝子操作M13バクテリオファージを増幅させ、精製した。質量増幅のために、3.2mLのバクテリオファージ懸濁液(濃度:ファージ〜107個/μL)および4mLの一晩培養液を400mLのLB培地へ添加した。増幅後、〜30mgのペレットが沈降した。懸濁液は、ZnCl2でドーピングしたA7ファージ懸濁液に室温でNa2S溶液を添加することによって調製した。最高濃度のA7-ファージ懸濁液は、各々〜30mgのファージペレットへ20μLの1mM ZnCl2およびNa2S溶液を添加することによって調製した。濃度は、269nmで3.84mg/mLの吸光係数を使用して測定した。
【0084】
等方性懸濁液の濃度が増加するにつれて、方向秩序を有するネマチック相、ねじれネマチック構造を有するコレステリック相、並びに方向秩序および位置秩序を同様に有するスメクチック相が観察された。これらの相は、ナノ粒子を有していないFdウイルス内で観察されていた。特異的ペプチド挿入断片を含有するM13バクテリオファージ懸濁液を作製し、特性解析した。全試料を通してナノ粒子の一様な2Dおよび3D規則化が観察された。
【0085】
原子間力顕微鏡(AFM)
使用したAFMは、以前に記載したものと同一であった。図11Aおよび11Bは、AFMを使用して観察されたM13ファージのスメクチック整列の略図である。さらに、M13バクテリオファージ懸濁液の5μLのM13懸濁液(濃度:30mg/mL)をデシケータ内で4時間にわたり3-アミノプロピルトリエチルシランによってシリル化された8mm×8mm雲母基質上で24時間かけて乾燥させた。画像はタッピングモードを使用して空気中で撮影した。長さ880nmおよび幅6.6nmのM13バクテリオファージの異方性形状のために、自己集合性規則化構造が観察された。図12Cでは、M13ファージは写真の平面内にあり、スメクチック整列を形成している。
【0086】
透過型電子顕微鏡検査(TEM)
TEM画像は以前に記載した通りに撮影した。
【0087】
走査型電子顕微鏡検査(SEM)
試料の調製およびSEMの使用は、以前に記載した通りである。バクテリオファージおよびZnSナノ粒子スメクチック懸濁液の臨界点乾燥試料(バクテリオファージ懸濁液の濃度:127mg/mL)を調製した。図12Dでは、ナノ粒子に富む領域およびバクテリオファージに富む領域が観察された。ナノ粒子とバクテリオファージとの分離の長さはバクテリオファージの長さに対応した。ZnSウルツ鉱結晶構造は、TEMを用いてスメクチック懸濁液の希釈試料を使用して電子回折パターンによって確証された。
【0088】
偏光顕微鏡検査(POM)
M13ファージ懸濁液をPOMによって特性解析した。各懸濁液を直径0.7mmのガラス製毛細管に充填した。高濃度懸濁液(127mg/mL)は、図12Aのように、平行偏光下で虹色[5]を示し、交差偏光下ではスメクチックテクスチャー構造を示した。図12Bから明らかなように、コレステリックピッチは表3に示したように懸濁液の濃度を変化させることにより制御できる。ピッチ長を測定し、顕微鏡写真は試料調製から24時間後に撮影した。
【0089】
(表3)コレステリックピッチと濃度との関係

【0090】
ナノ結晶生物膜の調製
バクテリオファージペレットは、400μLのトリス緩衝液(TBS、pH7.5)およびそれに1mM Na2Sを添加した200μLの1mM ZnCl2を用いて懸濁させた。室温で24時間振動させた後、1mLのエッペンドルフチューブ中に含まれていた懸濁液を1週間にわたりデシケータ内で緩徐に乾燥させた。チューブの内部で、膜厚〜15μmの半透明膜を形成させた。図13Aに示したこの膜は、ピンセットを使用して注意深く取り出した。
【0091】
SEMによるナノ結晶生物膜の観察
SEMを使用してA7-ZnS膜のバクテリオファージのナノスケール整列を観察した。SEM分析を実施するために、膜を切断し、アルゴン雰囲気中で真空蒸着法により2nmのクロムをコーティングした。試料全体で最密構造が観察された(図13Dを参照)。個々のファージの平均長895nmはファージの平均長880nmに合理的に類似している。この膜は、ナノ粒子層およびバクテリオファージ層間の周期性を示したスメクチックA様またはC様層状形態を示した。周期性の長さは、バクテリオファージの長さに対応していた。ナノ粒子の平均サイズは、TEMによる個別粒子についての観察に類似して〜20nmであった。
【0092】
TEMによるナノ結晶生物膜の観察
TEMを使用してZnSナノ粒子整列を調査した。この膜をエポキシ樹脂(LR white)内に1日間包埋し、10μLの促進剤を添加して重合させた。硬化後、Leica社製ウルトラミクロトームを使用して樹脂から薄切片を作製した。これらの〜50nm切片を蒸留水上に浮動させ、ブランク金格子上に取り上げた。略図におけるx-z平面に対応する、平行に整列したナノ粒子が少量観察された(図13E)。各バクテリオファージは5コピーのA7成分を有していたので、各A7は1個のナノ粒子(サイズ2〜3nm)を認識し、幅約20nmで整列し、長さは2μmより多く伸展した。2μm×20nmのバンドが平行に形成され、各バンドは〜700nmずつ離れていた。この不一致は、TEMにおける観察に比較してファージ層の傾斜したスメクチック整列から生じると思われる。y-z軸様ナノ粒子層平面もまた図5Fと同様に観察された。整列した粒子のSAEDパターンは、ZnS粒子がウルツ鉱の六方晶形構造を有することを証明した。
【0093】
AFMによるナノ結晶生物膜の観察
AFMを使用してウイルス膜の表面配向を調査した。図5Cでは、ファージがスメクチックOと称される表面の大部分で隣接ダイレクター標準(バクテリオファージ軸)間でほぼ直角を有する平行に整列したヘリンボーンパターンを形成していることが示されている。この膜は、数十μmまで持続する標準ダイレクターの広範囲の規則化を示した。2つのドメイン層が相互に交わる一部の領域では、2複合長スケールもしくは3複合長スケールのバクテリオファージが、スメクチックC規則化構造へ平行にかつ持続的に整列していた。
【0094】
本発明の認識および自己規則化の方法ならびに組成物を使用した半導体材料のナノ長さスケールおよび複合長スケール整列は、将来の電子デバイスの微細加工を増進する。これらのデバイスは、現在のフォトリソグラフィー能力を超える潜在能力を有する。これらの材料にとっての他の潜在的用途には、発光ディスプレイ、光学検波器、およびレーザーなどの光電子デバイス、高速相互接続器、ナノメートルスケールのコンピューター部品および生物学的センサーが含まれる。
【0095】
生物膜貯蔵装置の安定化および生物学的活性の維持
本発明の生物膜貯蔵装置を使用すると、酵素および抗体などの生物学的(例、有機)材料を貯蔵することができる。本発明の1つの態様では、それらの生物学的活性を保持する酵素などの生物学的分子が生物膜として貯蔵される。この活性は、酵素の知られている特性に基づいて経時的に容易にモニターされる。1つの態様では、レポーター酵素であるβ-ガラクトシダーゼが生物膜内で調製され、長期の酵素安定性および活性を保持することが見出されている。
【0096】
本発明のまた別の態様では、保存液(例、スクロース)が生物学的材料(例、酵素)の安定性および長期活性を強化するために使用される。その上、本例は、安定剤として使用される保存液の添加が生物膜貯蔵装置の保存を強化すること、そして生物学的活性がその生物膜の主要構成要素である場合には特に重要な可能性があることを例証している。
【0097】
生物膜貯蔵装置として使用される生物学的材料の構造および機能を視覚化するためには、生物学的材料またはその生物学的材料に付着する発光分子の光特性をモニターすることができる。例えば、生物学的材料(例、酵素または抗体)に付着させるために、509nmの最大発光波長で緑色光を発光する緑色蛍光タンパク質変異体(GFPuv)を使用することができる。その上に、発光特性は生物学的イメージングの分野の当業者に周知の器械を使用して描出できる。イメージング器械の1つの例は、共焦点顕微鏡である。
【0098】
本発明のまた別の態様では、貯蔵装置として使用される生物学的材料がまた別の生物学的材料と接触させられる。生物膜を必要に応じてカスタマイズするためには、どちらかの生物学的材料を全体として、または部分的に修飾することができる。例えば、バクテリオファージなどの生物学的材料を含む生物膜は、生物学的材料(例、バクテリオファージ)表面で表示されるタンパク質を変化させることによって、または生物学的材料に特異的に付着し、さらにまた他の標的(例、タンパク質、抗体、薬剤、もしくは核酸などの生物学的材料)または生物膜貯蔵装置の安定性の強化を生じさせる他の安定剤に付着できるペプチドをターゲティングすることによって修飾できる。
【0099】
貯蔵温度は、例えばほぼ室温であってよい。貯蔵温度は、例えば約10℃から約40℃、およびより特別には約20℃から約30℃であってよい。これらの貯蔵温度は、少なくとも7週間、少なくとも5ヵ月間、少なくとも6ヵ月間、または少なくとも7ヵ月間を含む期間にわたって維持できる。
【0100】
安定した酵素を含有する生物膜貯蔵装置の調製
濃度が0.5mg/mL β-ガラクトシダーゼ、5mg/mL グルコース、50mg/mL スクロース、および1.25mg/mL ファージを入手するために、リン酸緩衝液(PBS)(pH7.0)中の酵素β-ガラクトシダーゼをグルコース、スクロース、およびM13ファージのストック液と混合した。この溶液のアリコート(20μL)を1.5mLのエッペンドルフチューブに入れ、デシケータ内で2日間かけて乾燥させ、室温で保存した。乾燥させたウイルス膜を500μLのPBS溶液(pH7.0)中に懸濁させた。100μLの懸濁液および700μLのo-ニトロフェニルガラクトシド(ONPG)(1.5×10-2M)をディスポーザブルのキュベット内で結合した。酵素活性(単位数)は、30秒間隔で10分間にわたり420nmでo-ニトロフェノール(ONP)の吸光度の増加をモニターすることによって入手した。1単位の活性は、25℃で1分間中に1μmolのONPGからONPへの転換を触媒できる酵素の量として定義された(pH7.0)。
【0101】
生物膜中での生物学的活性および安定性のモニター
DNAをコードするGFPuv(Clontech社製)をPCRによって増幅させ、大腸菌中でGFPuv-FLAGを発現させるためにpFLAG-CTCベクター(Sigma社製)内にサブクローニングした。全細胞抽出物を調製し、抗FLAG M2アフィニティーゲルカラム(Sigma社製)を使用して、発現したGFPuv-FLAGを精製した。100μg/mLのGFPuv-FLAG、5mg/mLのファージ、5mg/mLのグルコース、および50mg/mLのスクロースの最終濃度を備えるGFPuv-FLAG、ファージ、およびグルコース:スクロース(1:10(w/w))の混合物を調製した。少なくとも約10μLの混合物をスライドガラス上に分散させ、1日間デシケータ内で乾燥させた。共焦点蛍光顕微鏡を使用して、GFPuv-FLAGの安定性をモニターした。グルコース:スクロースの濃度は2.5および25mg/mLであった。
【0102】
調製した生物膜貯蔵装置の貯蔵後に、保存液または安定剤としてグルコース:スクロースを添加した場合は測定したβ-ガラクトシダーゼの活性が向上することが見出された(図14Aおよび14B)。対照として使用した試料は、バクテリオファージおよび糖の不在下で上記のとおりに調製してデシケータ内で乾燥させた生物学的材料(例、β-ガラクトシダーゼ)であった。生物膜貯蔵装置としての酵素の貯蔵は明らかに酵素活性に影響を及ぼさなかった。β-ガラクトシダーゼを含有し、フリーズドライまたは風乾後に貯蔵した生物膜貯蔵装置は類似の酵素活性を示した。興味深いことに、酵素活性は他の生物学的材料(例、バクテリオファージ)の存在下ならびに安定剤(例、保存液)の存在下においても向上した。
【0103】
図15は、361nmでの励起後にGFPuvを用いた共焦点顕微鏡画像を示している。これらの画像は、グルコース:スクロース保存液などの安定剤の添加が生物膜表面を向上させ、作製(調製)工程中の生物学的材料の潜在的変形を防止することを例証している。図15Aは、強力なGFPuvシグナルおよび均質な生物膜表面を示している。グルコース:スクロース保存液の不在下では、この膜は膜表面で極めて多数の変形を示す(図15Bおよび15C)。
【0104】
さらに、生物学的材料が多数の表示部位を含む場合、生物学的材料は一つまたは複数のこれらの表示部位が修飾されるように遺伝子操作できる。例えば、M13バクテリオファージは、特異的結合ペプチドを含むためにpIII、P7、p8、またはp9部位で修飾できる。例えば、生物学的材料の一方の端部は表面に特異的に結合するように修飾でき、生物学的材料の他方の端部はワクチンまたは機能的タンパク質などの安定した貯蔵を目標として貯蔵される構成要素に結合するように修飾できる。
【0105】
そこで本発明は、全貯蔵期間を通して持続する活性を備える生物学的に活性な生物学的材料を貯蔵することができる。追加の修飾を用いると、生物膜の生物学的特性および/または他の活性特性(例、電気特性、磁気特性、光学特性、機械的特性)を必要に応じて容易に操作できる。活性は、表面結合特性を変化させることにより、貯蔵安定剤および/または阻害剤の添加を通して、および他の有機分子もしくは無機分子の添加によって、生物学的表面を変化させずに不要な実験を行わずにさらに修飾できる。生物学的材料を安定化させる保存液には、グルコース、スクロース、グリコール、グリセロール、ポリエチレングリコールなどの糖含有溶液が含まれる。
【0106】
本発明は、最初の情報および/または活性を維持しながら長期貯蔵できる生物学的材料(一つまたは複数の有機および/または無機材料を含む)から構成される安定した膜を作製することによって、生物膜テクノロジーを向上させる。遺伝子操作材料を使用すると、生物学的情報、電気情報、磁気情報、および/または光学情報を保持および貯蔵する、長期にわたる活性および安定性を備える規則化膜(生物膜)を作製することができる。より重要なことに、情報は特別仕立てすることができ、極めて高密度であるので、それによりナノスケールデータを貯蔵する効率的かつ費用効果的方法として機能する。これらの生物膜の使用は、一部の例として医療、エレクトロニクス、コンピュータテクノロジーおよび光学などの用途に及ぶ。
【0107】
本発明の組成物および方法を使用して、本明細書に記載の認識および自己規則化系を用いて半導体材料のナノ長さスケールおよび複合長スケールの整列が達成された。半導体の認識および自己規則化を使用すると、現在のフォトリソグラフィー能力を超える電子デバイスの微細加工を増強することができる。これらの材料の用途には、発光ディスプレイ、光学検波器、およびレーザーなどの光電子デバイス;高速相互接続器;ならびにナノメートルスケールのコンピューター部品および生物学的センサーが含まれる。本発明を使用して作製された生物膜のその他の使用には、一部の例として、良好に規則化された液晶ディスプレイ、有機-無機ディスプレイテクノロジー、およびハイスループットプロセッシング、スクリーニングおよび新薬発見のための膜、診断、医学的検査および分析用の装置;データ記憶および特異的データ認識のためのインプラント表面が含まれる。
【0108】
本発明の生物膜から開発された膜、ファイバーおよびその他の構造には、生物学的毒素を含む小分子を検出するための高密度センサーさえ含めることができる。その他の使用には、光学コーティングおよび光学スイッチが含まれる。任意で、医用インプラントのための足場または骨インプラントさえ、当業者には明白であるように、本明細書に開示した一つまたは複数の材料を単層または多層で、あるいは線条もしくはこれらのいずれかの組み合わせで使用して構築できる。本発明のその他の使用には電気界面および磁気界面、または例えば量子計算に使用するためのように高密度記憶のための3D電子ナノ構造の組織化さえ含まれる。または、例えば生物学的に適合するワクチン、アジュバントおよびワクチン容器などの医療用途のウイルスの様々な密度および安定した貯蔵は、本発明により作製された膜および/またはマトリックスを用いて作製できる。
【0109】
例えば国防総省による敵と味方の識別のような同定のための量子ドットパターンに基づく情報記憶を防護服の生地またはコード化に組み込むことができる。この生物膜はお金をコード化および識別するためにさえ使用できる。
【0110】
その他の用途には、例えば薬剤カプセル内の層状膜組立体を備えるDepomedなどの系を含む薬剤送達;医用装置コーティング剤;および例えば口臭除去ミントなどの徐放性用途が含まれる。
【0111】
追加の説明および例は、以下の態様Aおよび態様Bで提供される。態様Aには1組の参考文献が含まれ、態様Bにも1組の参考文献が含まれる。
【0112】
追加の説明および例(態様A)
論文Lee et al.「Chiral Smectic C Structures of Virus-Based Films」Langmuir,2003,19,1592-1598は、これにより要約、図面、表、緒言、実験の部、参考文献、結果および考察のセクションを含めてその全体が参照として本明細書に組み入れられる。
【0113】
貯蔵用途ならびに他の用途において膜として使用できる追加の材料を調製した。これらの追加の実験では、メニスカス現象を使用して整列かつ集合したM13ファージ(ウイルス)を使用して広範囲の規則化されたウイルスに基づく膜を作製した。それらの規則化された構造および形態は、偏光顕微鏡(POM)、原子間力顕微鏡(AFM)および走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して試験し、特性解析した。長さが880nmであるM13ウイルス粒子が、人工膜の基本構築ブロックであった。ウイルスは独特のマイクロメートル長さスケールをもつために、ウイルス粒子のスメクチック規則化は、従来型の顕微鏡検査技術を使用して容易に視覚化し、キラル液晶構造の理論モデルと比較することができた。POM、AFMおよびSEMの検査結果から、ウイルス膜はキラルスメクチックC構造を有すると決定された。ウイルス薄膜中で見出されたウイルス濃度の関数としての膜形成の規則化およびバンドル様ドメイン構造の形成を比較することによって、膜形成のメカニズムを提案することができる。これらのウイルスに基づく膜構造は複合長スケール上で組織化され、容易に作製され、そして整列した半導体および磁気ナノ結晶の統合を可能にする。これらの自己集合性ハイブリッド材料は、例えば超小型自己集合型電子デバイスに使用できる。
【0114】
ナノメートルスケール上で良好に規則化された欠陥のない二次元および三次元構造を構築することは、次世代の光学、電子および磁気の材料およびデバイスを構築するために極めて重要な問題となってきた1-5。新しく開発されたDNAリンカー系への慣習的な水素結合認識を含むスモール長さスケールでナノ粒子および他のナノメートルサイズの物体を組織化するための多数の技術が試みられてきたが、そのようなパターンをマイクロメートルスケールへ拡げるのは困難であることが実証されている6-7。生物学的材料の使用は、超小型ナノスケールデバイスを構築するための従来型作製法に対する代替手段を提供することができる5,8。生物学的系の望ましい幾つかの機能には、精確な自己集合構造を組織化する能力、有機および無機両方の材料に対する高度に進化した分子認識および無機材料を階層的構造に合成する能力が含まれる。複雑な構造のナノスケール組立体においては数種のタイプの生体材料が開発されている5,8-13。近年、ナノ結晶機能化M13ファージを使用して、規則化ナノ結晶膜内で量子ドットを自己集合させるための新規の方法が報告されている5。M13ウイルスの一方の端部で核形成させる、または所望の材料に結合させるためにM13ウイルスを遺伝子操作した。これらのナノ結晶機能化ウイルス液晶構築ブロックはハイブリッド規則化自己支持膜に成長させられた。結果として生じたナノ結晶ハイブリッド膜はナノメートルスケールおよびマイクロメートルスケールで72μm周期的パターンへ規則化された。ナノ結晶ハイブリッド膜の表面上のスメクチックO構造およびバルク内でのスメクチックAまたはC構造が報告された。
【0115】
ここで、ウイルス構築ブロックのキラル作用を含むこれらのウイルスに基づく膜の極めて広範囲の特性解析が報告されており、そしてこれはこれらのウイルスに基づく膜がキラルスメクチックC構造に組織化されるという強力な証拠を提供する。種々の濃度から作製されたウイルス膜は、膜厚に依存して様々な他のテクスチャーを提供する。ウイルス膜の結果を、以前に報告したZnSナノ結晶ハイブリッドウイルス膜と比較した。
【0116】
これは、広範囲に規則化されたリオトロピック液晶キラルスメクチックC膜の新規の例を表している。これはさらに、キラル分子から形成されたスメクチックC構造がキラルスメクチックC構造を有するというMeyerの理論的提案を支持している証拠である14。規則化液晶材料を視覚化するために数種の顕微鏡検査技術が使用されてきたが、液晶規則化構造の分子配向に関する理解は一般に従来型液晶材料のメソゲン単位の小さなサイズおよび柔らかさによって一般に制限されてきた15,16,30,34。しかしマイクロメートルスケールの生体分子(ウイルス)を使用すると、キラルスメクチックC構造の表面欠陥は容易に特性解析された。さらに、ウイルス構築ブロックを使用して欠陥のない良好に規則化された複雑な構造を作製するためには、これらの材料の表面およびバルク構造についての基本的理解が半導体のナノ結晶ハイブリッドウイルス膜のまた別の用途のために重要である。
【0117】
(表1)初期のバルク濃度の関数としてのウイルス膜の膜厚

【0118】
(表2)
A.偏光顕微鏡(POM)およびレーザー光回折によって測定したキラルスメクチックCピッチ

B.POMによって測定した周期的なジグザグのスメクチックAパターン

【0119】
実験(態様A)
ウイルス膜の調製
M13ファージは、以前に記載した増幅および精製に関する標準的な生物学的方法を使用して調製した5。表1に示されているように、12種の濃度のM13ファージ(各800μL)を調製した。エッペンドルフチューブ(径1cmおよび長さ4cm)へ移した後、懸濁液を3週間にわたりデシケータ内で乾燥させておいた(乾燥工程中の減量:1日につき〜l00mg)。溶媒が蒸発するにつれてエッペンドルフチューブの壁にキャスト膜が形成された。
【0120】
偏光顕微鏡検査
Olympus社製偏光顕微鏡を使用してPOM画像を入手した。顕微鏡写真は、SPOTデジタルカメラ(Diagnostic社製)を使用して撮影した。ポラライザーとアナライザーとの間の角度を変化させることによって光学活性もまた観察した。キラルスメクチックC間隔パターンは、偏光顕微鏡を使用して測定した。
【0121】
走査型電子顕微鏡
走査型電子顕微鏡(LEO1530)を使用してウイルス膜の表面形態を観察した。コントラストを増強して電子線下の表面荷電作用を回避するために、ウイルス膜はプラズマイオンビームスパッタリング装置を使用してクロムコーティングした。膜試料の膜厚を測定するために、試料ホルダーを水平面から〜80度傾斜させ、SEM試料ステージへ載せた。
【0122】
原子間力顕微鏡検査
原子間力顕微鏡(AFM)(Digital Instruments社製)を使用して、ウイルス膜の表面形態を試験した。画像はタッピングモードを使用して空気中で撮影した。AFMプローブは、それらの250〜350kHzの共鳴周波数の近くで駆動させた125μmのカンチレバーおよび20〜100N/mのバネ定数を備えるエッチングされたシリコンであった。スキャン速度はおよそ1〜40μm/sであった。
【0123】
レーザー光回折
レーザー光回折(He-Niレーザー:632.8nm)を使用してウイルス膜のキラルスメクチックCピッチを測定した。スクリーンと試料との間隔は200cmであった。回折パターンは、Sony社製Mavicaデジタルカメラによって記録した。間隔は、一次Bragg回折スポットを測定することによって計算した。
【0124】
膜の形成および膜厚
1.79〜9.93mg/mLの初期ウイルス濃度から作製されたキャスト膜は、自己支持性であり、ピンセットを用いて操作できた(図16A)。このウイルス材料に対してこれらの条件下では、〜1mg/mL未満の濃度から作製されたウイルス膜は一般に基質から取り外したときに自己支持性であるには薄すぎた。SEMを使用して測定された膜厚は、表1に示されている。一般に、膜厚はバルク懸濁液の初期濃度に比例していた。
【0125】
キラルスメクチックC規則化膜
初期濃度9.93mg/mL(試料1)から形成されたウイルス膜のPOM画像から、光学的に活性な明暗バンドパターンが明らかになった(図17A)。これらのパターンの周期的間隔は36.79±0.95μmであり、これらのパターンはセンチメートルスケールにわたって持続した。光学顕微鏡を使用して、光軸を通るフォーカスレベルをより高倍率で変化させると、1μmより小さな平行バンドパターンもまた観察された。これらの微細なバンドパターンは、M13ウイルス分子のスメクチック層構造に一致した。この膜は、ポラライザー間の角度が回転するにつれて交互の明暗バンドパターンの強度における変化によって明らかなように、光学的に活性であると決定された。
【0126】
これらの光学的に活性な明暗バンドパターンは、ウイルス膜についてのキラルスメクチックC構造と一致している。キラルスメクチックC構造では、分子長軸(ダイレクター:n)は層標準(z)に対して傾斜角(θ)を有する。これらの傾斜層は、図16Bに描出されている、1つの層から次の層へのらせん状回転(方位角:φ)を形成する17。このため、傾斜スメクチック層を通る配向秩序の連続的らせん状変化は平面偏光との様々な相互作用を引き起こし、さらに光学的に活性なバンドパターンを示す。このウイルス膜の反射偏光顕微鏡検査(RPOM)は、ポラライザーとアナライザーとの間の角度に依存して類似の光学的に活性な明暗バンドパターンを生じさせた。これらのRPOM画像は、表面上における脱キラル化ライン欠陥l7,35の存在を示唆している。脱キラル化ライン欠陥はらせん状の規則化バルク構造と表面張力作用との相互作用から発生する。らせん状の規則化キラルスメクチックC構造は、表面張力作用のために、表面の近くでは巻かれておらず、キラルスメクチックC構造の周期的ピッチに対応する明暗バンドパターンを生じさせる。
【0127】
走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して、ウイルス膜の脱キラル化ラインの欠陥を特性解析した(図17B)。ジグザグパターンの広範囲規則化構造が観察されたが、これはRPOMにおける明暗バンドパターンに対応した。交互のジグザグバンドパターン(〜37μm)は、層標準に比較して周期的な+45度から-45度までの変化を示した。ジグザグパターンの周期的間隔は、周期的POMおよびRPOMパターンと一致していた。ウイルス膜のジグザグタイプの形態は、ウイルス膜のキラルスメクチックC構造の表面欠陥から導入することができよう。キラルスメクチックC構造は、層標準に対する傾斜角(θ)および層状平面に対する方位角(φ)の2つの規則化パラメーターを有する17。キラルスメクチックC層のらせん状ピッチ方向が層平面に対して平行である場合は、ダイレクターの方位角(φ)を層状平面へ投影することができる18。表面上の追加のより高度の規則化特性のために、表面上の傾斜角(θ)は傾斜角と投影された方位角の合計より大きな角度を有する可能性がある19。このため、方位角(φ)の180度の位相差は図16Cおよび17Bのように広範囲ジグザグパターンに投影されている。
【0128】
AFMを使用して、ウイルス膜の自由表面上の傾斜スメクチックC形態を特性解析した(図17C)。M13ウイルス粒子は、620±27nmの平均間隔を有する傾斜層構造を作り出した。ウイルス粒子の分子長軸は層標準(z)に対して〜45度傾斜した。隣接する2層間でダイレクター(n)を通して測定された間隔(886±36nm)は、M13ファージ粒子の長さスケール(880nm)と対応した20。AFM画像からの平均層間隔およびPOM画像からのキラルスメクチックCピッチに基づくと、キラルスメクチックCピッチ内の層数は59.3層であると推定できる。方位角は1ピッチで360度変化するので、1ピッチ内の層数(59.3層)から推定できる。ウイルス膜試料1からの方位角(φ)は〜6度であった。
【0129】
ウイルス膜のらせん状周期的ピッチもまたレーザー光散乱を使用して測定した。明らかな回折パターン(図19E)は、POMおよびSEMからの周期的パターンと一致する35.8μmピッチを生じさせた。
【0130】
キラルスメクチックC規則化膜の歪み
膜の一定領域では、局所的に歪んだテクスチャーが観察された(図18A)。これらの歪んだ領域では、バンドパターンは以前に記載した規則化バンドパターンと平行であった。これらの領域における間隔は、不規則で変化することが観察された。膜の一番下の部分(図16Aにおけるc領域)上では、以前に報告されたキラルスメクチックAテクスチャー21に類似するグレーのバンドパターンが発生した(図15B)。AFMを使用すると、これらの歪んだバンドテクスチャー領域上でスメクチックA構造のねじれた変形が観察された。AFM画像(図18C)は、スメクチック層がねじれており、配向不連続性を示す回位線を形成することを示した。これらのキラルスメクチックAのPOMテクスチャーおよびねじれたスメクチック層形態は、キラルスメクチックC構造が、キラルスメクチックC相と等方相との間で形成されることが知られているねじれた結晶粒界(TGB)へ転移する可能性があることを示唆した21。グレーのPOM領域(図18B)から収集されたAFM画像は、不規則に歪んだスメクチックCドメインを示した。しかし、このグレーのパターンテクスチャー領域に微分干渉コントラスト(DIC)フィルターを適用すると、キラルスメクチックC周期的パターンに類似する周期的バンドパターンが観察された。これらの周期的DIC画像および歪んだAFM形態は、このグレーパターン領域がバルク内にキラルスメクチックC構造を有する可能性があること、そして歪みが表面領域に局在する可能性があることを示唆していた。
【0131】
6.38〜9.70mg/mL(試料2〜7)の濃度範囲から作製されたウイルス膜の特性は、上記の9.93mg/mLの濃度から作製されたウイルス膜(試料1)と類似であった。ピッチ長は9.93から7.60mg/mLへ徐々に減少し、そして5.09mg/mLまで増加した。この濃度(5.09mg/mL)では、スメクチックC構造はスメクチックA構造へ転移した。コレステリック相からスメクチック相への転移からも、転移点近くでの類似のピッチの拡大が観察された22。このため、キラルスメクチックC間隔の拡大は転移前駆現象に関係すると思われる。これらの膜は全部が、POMにおける周期的パターンに一致する明白な回折パターンを示した(表2)。
【0132】
構造の転移
様々なPOMバンドパターン(図4Aの上方部分)が、5.09mg/mL(試料7)の濃度から作製されたウイルス膜から観察された。試料7のPOM画像は、暗色のラインがポラライザーに対して平行である場合は、シュリーレンストライプラインによって分割された垂直の周期的な明るいバンドパターンを示した。アナライザーの角度を約5度変化させると、POMテクスチャーの強度は、キラルスメクチックCウイルス膜に類似してわずかに暗い、および明るいストライプパターンに変化した。この膜はさらにまた全バンドパターンを通してジグザグパターンのラインを示した。これらの垂直な周期的パターンの周期性は97.43±2.92μmであった。光軸を通して試料を回転させると、明るいバンドパターンは交互明暗ストライプパターンに変化した。ポラライザー間の角度変化および試料の回転の両方への強度依存性は、膜表面上の配向に周期的変化があることを示唆している。
【0133】
試料表面(5.09mg/mL)の中央部分(図16Aにおけるb領域)上では、POMテクスチャー(図4Aの下方部分および図19Bの上方部分)の段階的変化が観察された。試料1〜6では、垂直のストライプパターンが平行明暗ストライプパターンへ徐々に変化した(図19Bの下方部分)。これらの平行なストライプパターンは41.04±2.18μmの周期性を有していた。キラルスメクチックC構造の巻き戻し欠陥は、垂直ストライプが平行ストライプと交わる場所で観察された。シュリーレンラインテクスチャーは、メニスカス力の方向へ平行に広がった。この膜の下方部分近くの試料領域は、試料1で観察されたグレーのテクスチャーを示した。
【0134】
スメクチックA規則化膜
試料8〜10(4.39〜2.59mg/mL)のPOM画像は、試料7で観察されたものと同一の垂直の明るいバンドパターン(図19C)を示した。しかし、2本の垂直な暗色ライン間の間隔は表2に示したように変動した。表面上の広範囲周期的ジグザグパターンもまたSEMを使用して特性解析した。
【0135】
試料10からの低倍率SEM画像(図19C)は、この膜が規則的に発生する周期的なシェブロン様ひび割れパターンを有することを示した。これらのひび割れパターンの高倍率SEM画像(図19Cの挿入図)は、それらの方向がダイレクターの配向と平行であることを示した。ジグザグパターンの界面間では、POM画像(図19C)における垂直の暗いシュリーレンラインパターンに対応する回位線が観察された。AFMを用いると、同一領域においてスメクチックA規則化構造が観察された(図19D)。ウイルス粒子は〜980×800nmのドメインブロックを形成した。スメクチックドメインでは、ウイルス粒子の充填パターンは、分子が六方最密結晶アレイで配置された分子中心を備える層内に配列されているスメクチックB構造に近かった。これらのドメインブロックは、表面上で平行に整列したブックシェルフ様のスメクチックA構造を形成した。これら2層間で測定された平均間隔は、M13ウイルスの長さよりわずかに大きい977±25nmであった。
【0136】
ネマチック規則化膜
試料11のPOM画像は、無秩序なシュリーレンラインテクスチャー(図20A)を示した。屈曲した黒色ブラシラインパターンが20〜30μmドメイン内に不規則に広がっていた。明暗パターンは屈曲した黒色ブラシラインで分割されていた。黒色ブラシラインおよびこれらのパターンの明るさは膜の回転により変化したが、これはこれらのブラシラインが回位線であることを示唆していた。これらの領域のAFM画像は、スメクチックAバンドル様ドメインのネマチック規則化構造を示した(〜980nm×200nm)(図20B)。各スメクチックAドメインは、好ましい方向として分子長軸を通して方向付けられたネマチック様規則化構造を形成した。
【0137】
キラリティー(光学異性)に関する考察
最初にキラルスメクチックC構造について提案したのは、Meyerであった14。彼は、スメクチックC構造をキラル分子から形成すると、結果として生じる構造はキラルスメクチックC構造であると予測した。キラルスメクチックC構造を有する多くのキラルサーモトロピック液晶材料が合成されてきたl7,23,24。しかしリオトロピック液晶の配向が一様ではないために、リオトロピックのスメクチック構造のキラリティー作用をサーモトロピック液晶と比較して試験するのは困難な課題であった。リオトロピックのスメクチック液晶のキラリティーが報告されている20,25,26。Fdウイルスのねじれた結晶粒界層が観察された20。フィラメント状アクチン(F-アクチン)のキラルスメクチック相(SmC、SmI、SmF)の光学顕微鏡検査による証拠が報告されたが、F-アクチンは多分散性の性質を有するために、F-アクチンのキラルスメクチックC構造の広範囲規則化は観察できなかった25。さらに、外部場を用いずに広範囲規則化リオトロピック液晶構造を作製するのは困難であることが証明されている。ウイルス繊維およびウイルス懸濁液などの広範囲規則化試料は外部場作用から調製できる27,28。しかし、これらの試料は、外部場に反応してそれらのキラル特性を消失した。本論文で試験した単分散M13ファージから作製されたウイルス膜は、メニスカス力を利用して、外部場を使用せずに長さ数cmまでの広範囲規則化キラルスメクチックC構造を作り出した。ウイルス膜のPOM画像は、光学的に活性な明暗ストライプパターンを示した。SEM画像は、キラルスメクチックC構造の脱キラル化欠陥を示した。AFM画像は、傾斜したスメクチックC規則化構造を示した。これらの顕微鏡検査による証拠に基づくと、これらのウイルス膜がキラルスメクチックC構造を有することが結論された。
【0138】
ウイルス膜のキラルスメクチックC構造の膜厚の作用もまた観察された。〜360層のウイルス粒子層(粒子間距離:12nm)5を有していた膜厚が〜4.3μmへ減少すると、バルク膜全体で表面張力作用が優勢になると思われた。このため、キラルスメクチックC構造はスメクチックA様規則化構造へ転移した。分子長軸の配向はスメクチック層に対してほぼ垂直であった。しかし、ジグザグ様の周期的パターンもまた観察された。試料7から試料10において観察された垂直ジグザグパターンの形成は、バルクのらせん状構造および膜厚の両方から発生すると思われる。膜厚の作用のために、相対的に薄いウイルス膜(膜厚2〜4μm)はスメクチックAパターンで整列したが、これはスメクチック様規則化構造を有する薄いネマチック膜に類似している19。層を形成するウイルスの内因性キラル特性は、ブックシェルフ様スメクチックAパターン化構造の代わりにジグザグパターン化のスメクチックA構造を安定化させると思われる。
【0139】
自己規則化ウイルス膜形成についてのメカニズムは、未だ研究中である。歪んだスメクチックAドメインを示したネマチック規則化構造は、膜形成前に溶液中でバンドル様ドメインが形成されることを強力に示唆した。メニスカス領域におけるウイルス懸濁液の等方相はネマチック相へ緩徐に転移した。しかし、同一の配向秩序を有するウイルス粒子はバンドル様ドメイン構造を作り始めた。これらのドメイン行動は、それらの充填構造の修飾に対して依然として柔軟性である。これらのドメインは、最初は層状構造の基本的構築単位になる。層を形成した後、これらのスメクチックAドメインは溶媒が蒸発するにつれて最密性になる。溶媒が完全に蒸発すると、ウイルス膜のバルク構造が形成される。ウイルス膜厚は、バルク構造および表面構造の両方に極めて重要な作用を及ぼす。薄いウイルス膜の形成においては表面張力が優勢である。これらの相互作用は、バンドル様ドメインがスメクチックAパターンで整列するように推進する。しかし、厚いウイルス膜(ウイルス層が360層より多く)では、表面形態は表面張力とバルクキラル構造の両方から影響される。このため、薄膜試料では、スメクチックAの形態と比較してスメクチックCパターンが優勢である。液晶のキャスト膜を含む実験では、バンドル形成現象もまた観察されている29-31。雲母、SiO2、およびシリコン基質上で形成されたM13ウイルス膜から、膜形成の開始時ではM13バンドルが頻回に観察され、これらの基質上でウイルスを指向性沈着させるための核形成中心として機能すると思われた29
【0140】
ZnSナノ結晶ウイルスハイブリッド膜の形態については以前に報告されている5。ZnSナノ結晶ハイブリッド膜は、100% M13ウイルス膜に類似する光学的に活性な〜72μmの周期的な明暗のストライプPOMパターンを有する。しかし、ZnSナノ結晶ハイブリッドウイルス膜の表面形態はアンチスメクチックC構造(スメクチックO)を有しており、これは層標準方向を通して〜1.0μmの間隔を有するジグザグパターンで現れる。POMのピッチおよびAFMのジグザグ状の層間隔に基づくと、ZnSナノ結晶ハイブリッドウイルス膜は1ピッチ中に〜72層および〜5度の方位角を有している。これらの100%M13ウイルス制御膜およびZnSナノ結晶ハイブリッドフウイルス膜から見出された表面形態に基づくと、ZnSナノ結晶ハイブリッドウイルス膜は、20nmのZnSナノ結晶凝集体へ結合したM13ウイルスの相互に噛み合うドメインから構成されるキラルスメクチックC構造を有すると結論できる。相互に噛み合ったドメインは、ZnSナノ結晶ハイブリッドウイルス膜の大きな頭部形状の充填エネルギーを低下させることができる。アンチスメクチックC構造は、一般に膜の表面上でのみ観察され、一般には表面張力作用であると考えられた。
【0141】
M13ウイルス膜およびZnSナノ結晶ハイブリッドウイルス膜の観察された形態は、棒状ポリマー(ポリ(γ-ベンジルα,L-グルタミン酸)、(PBLG))およびウイルス系のおよそ1000分の1の大きさであるロッド-コイルブロックコポリマーの形態に極めて類似していた4,32,33。単分散棒状ポリマーはスメクチック膜構造を形成することが知られている32。高比率のロッド-コイル(frod-coil>0.96)ブロックコポリマーは、スメクチックCおよびO構造を示す二重層の相互に噛み合う形態を示している4。単分散PBLGから製造されたPBLG膜のTGB構造は、キラルスメクチック構造を有すると報告されている33。本発明の技術を使用して形成される同一の膜はキラルスメクチックC構造を産生できるので、したがってMeyerの予測も支持している。
【0142】
磁場または電場などの外部の力を使用すると、半導体または磁気ナノ結晶を用いてウイルスをハイブリダイゼーションした後に、これらの遺伝子操作ウイルスに基づく膜を用いて、例えば欠陥のない良好に規則化された超小型電子デバイスを構築することを助長できる。ホメオトロピック整列磁気ナノ結晶ハイブリッドウイルス薄膜は、例えば自己支持性の柔軟性かつ高度に統合された磁気メモリデバイスのために使用できる。
【0143】
追加の説明および例(態様A)のための参考文献


【0144】
追加の説明および例(態様B)
論文Lee et al.「Virus-Based Alignment of Inorganic,Organic,and Biological Nanosized Materials」Advanced Materials,2003,15,9,689-692は、図面、実験、ならびに結果および考察を含めてその全体が参照として本明細書に組み入れられる。
【0145】
貯蔵用途ならびに他の用途において膜として使用できる追加の材料を調製した。追加の態様では、ナノメートル長さスケールで組織化および自己集合し、センチメートル長さスケールへ続く無機ナノ粒子、有機小分子および生体高分子を含む様々な材料を組織化させるために新規のプラットフォームが提示される。ストレプトアビジンリンカーおよび抗ストレプトアビジンM13バクテリオファージ(ウイルス)を使用して、広範囲規則化材料(10nmの金ナノ粒子、フルオレセイン、フィコエリトリンタンパク質)を作製した。ストレプトアビジンに対する特異的認識成分を有する、自己規則化系の基礎を形成する抗ストレプトアビジンウイルスは、ファージディスプレイを使用して選択した。ナノサイズの材料は、事前にストレプトアビジンに結合させた。遺伝的に選択したウイルスの分子認識を通して、ナノサイズの材料を結合させ、自己支持性ハイブリッド膜へ自然に進化させた。
【0146】
機能化された液晶材料は、次世代の光学的、電子的、および磁気的な材料およびデバイスを構築するための、良好に規則化かつ良好に制御された二次元および三次元構造を構築するための様々な手段を提供できる[1-3]。数種のタイプの棒状ウイルスが良好に制御された液晶相を形成することは証明されている[4,5]。近年、ナノ結晶機能化M13ウイルスを使用する自己集合性規則化ナノ結晶膜作製法が報告された[3]。遺伝子操作技術を利用することにより、M13ウイルスの一方の端部は核形成するように、または所望の半導体材料へ結合するように機能化された。これらのナノ結晶機能化ウイルス液晶構築ブロックは規則化されたハイブリッド自己支持膜に成長させられた。結果として生じたナノ結晶ハイブリッド膜は、ナノスケールおよびマイクロメートルスケールで72μm周期的ストライプパターンドメインへ規則化された。以前の系では、容易に核形成することができ、ワンポット合成経路でII-VI半導体材料に対してナノ粒子を整列させることができた。金属および電気光学材料を含む他の材料を整列させるためには、ナノ粒子を整列させる前に各材料に対する生物学的選択およびその他の進化が必要とされる。ここで、ストレプトアビジンタンパク質単位へ結合するウイルスが最初に選択される、抗ストレプトアビジンウイルスを使用する新規のナノ粒子整列法が報告されている。これにより、ストレプトアビジンへ共有結合している材料を取り上げるためにこのウイルスの一般的取扱いが可能になった。そこでこの抗ストレプトアビジンウイルスの自己集合性の性質を利用すると、ハイブリッド材料を組織化させることができる。本明細書に提示した組織化ハイブリッド材料は、金ナノ粒子、蛍光分子(フルオレセイン)および大きな蛍光タンパク質(フィコエリトリン)の液晶膜である。
【0147】
ストレプトアビジンに対する特異的結合成分を有する抗ストレプトアビジンM13ウイルスはファージディスプレイライブラリーのスクリーニングを通して単離した(図21)[6,7]。ストレプトアビジンは、知られている特異的結合モチーフHis-Pro-Gln[6]を有している。His-Pro-Gln配列は、ストレプトアビジン標的に対するファージの第2回選択後にpIII挿入断片として単離した。第4回選択およびシーケンシング後には、His-Pro-Gln結合モチーフはpIII挿入断片の100%までを構成した。第4回選択後の優勢結合配列は、TRP ASP PRO TYR SER HIS LEU LEU GLN HIS PRO GLNであった。この抗ストレプトアビジンM13ウイルスを高濃度(〜l012pfu)へ増幅させ、そして事前にストレプトアビジンと結合させた10nmの金ナノ粒子(図2A)、フルオレセインおよびフィコエリトリンと反応させた。これらの高濃度懸濁液は液晶特性を示した。
【0148】
高濃度Au-ウイルス液晶懸濁液(〜83mg/mL)は、偏光顕微鏡(POM)を使用して分析すると、虹色の複屈折テクスチャーを示した(図2B)。この虹色の複屈折テクスチャーは、スメクチック液晶相構造に対応した。コレステリックフィンガープリントテクスチャー(76〜20mg/mL)およびネマチックテクスチャー(14mg/mL)は、懸濁液を系統的に希釈したときに観察された。
【0149】
ウイルスに結合した10nmの金ナノ粒子の個別メソゲン単位は、2%酢酸ウラニルを用いて染色する前に透過型電子顕微鏡(TEM)を使用して視覚化した。これらの個別Auおよびウイルス複合体(Au-ウイルス)は、スメクチック相懸濁液の0.01%希釈液から単離した(図22C)。0.1%の希釈液中では、Au-ウイルス複合体の凝集が観察された(図22D)。観察された大多数のメソゲン単位は、ウイルスのpIII端部で1個の10nmのAu粒子に結合した1個のウイルスを有していた。しかし、メソゲン単位の20%未満では未結合金ナノ粒子および未結合ウイルスの両方が観察された。さらに、1個のウイルスに結合した2個の金ナノ粒子および2個のウイルスに結合した1個の金ナノ粒子もまた観察された(〜5%未満)。ウイルス結合金ナノ粒子とストレプトアビジン結合金ナノ粒子との間のこれらの望ましくない結合挙動は、ウイルスおよびストレプトアビジン間の認識基の数におけるミスマッチによって引き起こされる可能性がある。M13ウイルスは、ウイルスの端部で5つのpIIIストレプトアビジン認識単位を有しており、ストレプトアビジンはビオチンに対して4つの結合部位を有することが知られている[8]。経験的化学量論的制御および位置作用のために、集団の大多数が1個のAuナノ粒子とともに1個のウイルスを含有するメソゲン単位を構築することができた。
【0150】
スメクチック規則化自己支持性Au-ウイルス膜(図23A)を希釈Au-ウイルス溶液(〜6mg/mL)から調製した。ウイルスおよびナノ結晶を膜の作製前に1週間攪拌した。この懸濁液をデシケータ内で2週間にわたり乾燥させておいた。ウイルスナノ結晶ハイブリッド膜は、かすかにピンクがかった色で透明であった。ウイルス膜の規則化形態は、POM、走査型電子顕微鏡(SEM)および原子間力顕微鏡(AFM)によって特性解析した。膜厚は5.68+0.65μmであった。
【0151】
光学的特性解析により、膜が〜l0μmのダークグレーの周期的水平ストライプパターンから構成されることが明らかになった(図23B)。これらのストライプは光学的に活性であり、それらの明暗パターンはポラライザーとアナライザーとの間の角度に依存して変化した。これらのPOMにより明らかなったストライプパターンの特性は、本発明者らが以前に報告したスメクチックウイルス膜に類似している[9]
【0152】
SEMを使用してこれらのストライプパターンの表面形態を特性解析した。SEM画像(図23C)は、Au-ウイルスハイブリッド膜が周期的パターンで10〜12層のスメクチック層から構成された広範囲規則化ジグザグ状の周期的形態を有することを示した。ジグザグ状の周期的バンドの平均間隔は、典型的ウイルス膜の1つのキラルスメクチックCピッチに対応しており[9]、9.34±0.78μmであった。AFM画像(図23D)は、ハイブリッド膜がスメクチックC構造を有することを証明した。2つの隣接層間の平均層間隔は833±12nmであった。分子長軸を通して測定された層間隔は977±65nmであった。平均傾斜角は層標準に対して〜54度であった。M13ウイルスの長さは880nmである。分子長軸を通して観察されたこの〜100nm超の間隔は、相互に噛み合った構造を支持する強力な証拠である[10]。長い尾部(有機M13ウイルス)を備える大きな頭部(無機金ナノ粒子)を有するメソゲン単位の形状は、相互に噛み合った構造を形成することによって低充填自由エネルギーを有する可能性がある。さらに、POMおよびSEM画像において観察された〜10μmの周期的ジグザグパターンは、Au-ウイルスハイブリッド膜もまたバルク中にキラルスメクチックC構造およびハイブリッド膜の表面上の脱キラル化欠陥を有することを強く示していた。
【0153】
さらに2種の有機材料をウイルス膜内で作製した。これらの有機材料を選択したのは、この技術は多目的に利用できるが、これらの材料は蛍光性であるためにおそらく1つのマイクロメーターの周期的な広範囲の規則化の容易な視覚化を可能にすることを証明するためであった。ストレプトアビジンおよび抗ストレプトアビジンM13ウイルスを使用して、フルオレセインおよびフィコエリトリンに結合したウイルスの薄いキャスト膜を作製した。表面近くでは液晶材料の規則化特性が強化されており、乾燥工程中には毛細管推進力が働くために、フルオレセイン複合ウイルス(F-ウイルス)およびフィコエリトリン複合ウイルス(P-ウイルス)のドロップキャスト薄膜からスメクチック層構造が容易に観察された(図23E)。これらの液晶ハイブリッド材料の規則化は、これらの材料の薄膜をキャスティングすることによって強化された。類似の現象において、ネマチック液晶材料は表面張力作用[11]のために表面安定化スメクチック相を形成し、キラルスメクチックC構造は薄膜内でスメクチックA構造[9]へ転移した。走査型レーザー顕微鏡を使用してF-ウイルス薄膜から光学的に切片作製した(図23F)。これらの薄膜は、スメクチック構造に対応する弱いストライプパターンを示した。類似の分析を蛍光性P-ウイルスの薄膜に適用すると(図23G)、極めて明瞭な1μmのストライプパターンが観察された。これらの1μmの蛍光パターンは、蛍光分子(フルオレセインおよびフィコエリトリン)がストレプトアビジンの結合によってウイルスに結合され、次にスメクチック層構造を形成することを示唆した。蛍光材料はウイルスの端部で付加されたので、それらの位置はスメクチック層界面境界間に局在した。
【0154】
本発明では、様々なナノサイズの材料を自己集合させるために抗ストレプトアビジンM13ウイルスを使用した。この抗ストレプトアビジンM13ウイルスは、様々なナノサイズ材料を自己集合性規則化構造へ組織化させるための便宜的方法を提供する。DNA挿入断片を修飾するとウイルス長の制御された修飾が可能になるので、スメクチック層における間隔を遺伝子操作によって制御できる[12]。他のナノサイズ材料(磁気ナノ粒子、II-VI半導体ナノ粒子、機能的化学物質など)をストレプトアビジンと結合させることによって、この抗ストレプトアビジン法は、スメクチック層によって規定される所望の長さスケールで様々なナノサイズ材料を整列させることができる。
【0155】
実験の部
抗ストレプトアビジンウイルスは、M13バクテリオファージライブラリー(New England Biolab社製)を使用するファージディスプレイ法によって選択した。このウイルスを大量に増幅させた(400mLスケール、7×107pfu)。このウイルス懸濁液をペレット内に沈降させた。1.0mLの10nm金ナノ粒子(Abs:520nmで2.5)を用いて20mgのウイルスペレットを懸濁させ、ストレプトアビジンのコロイド状懸濁液(Sigma社製)と結合させ、ロッカーを使用して1日間攪拌した。167μLのポリエチレングリコール溶液を添加することによって、金ナノ粒子と結合したウイルス(Au-ウイルス)を遠心した。〜20μLのトリス緩衝液(pH7.5)を使用して赤色ペレットを懸濁させると、Au-ウイルス液晶懸濁液が生成した(ウイルス濃度:83.2mg/mL)。Au-ウイルス膜を作製するために、Au-ウイルス懸濁液を〜6mg/mL(400μL)へ希釈し、2週間にわたりデシケータ内で乾燥させておいた。
【0156】
フルオレセイン-ウイルスキャスト膜の作製
20μLのウイルス懸濁液(トリス-HCl緩衝液(pH7.5)中で1.9×10-7M)を20μLの0.01mg/mL蛍光-ストレプトアビジン懸濁液(1.9×10-7M、MW:53,200)と混合した。1μLの懸濁液をキャスティングし、ガラス基質上で乾燥させた。UV-Vis分光計(吸光係数:268nmで1.2×108M-1cm-1)を使用してウイルス懸濁液のモル濃度を測定した[13]
【0157】
フィコエリトリン-ウイルスおよびキャスト膜の作製
20μLのウイルス懸濁液(〜6mg/mL、トリス-HCl緩衝液(pH7.5)中で1.9×10-7M、MW:292,800)を20μLの0.05mg/mLのR-フィコエリトリン-ストレプトアビジン(5%スクロースを含むトリス-HCl緩衝液(pH7.5)中で1.7×10-7M)と混合した。1μLの懸濁液をキャスティングし、ガラス基質上で乾燥させた。
【0158】
顕微鏡検査
POM画像は、Olympus社製偏光顕微鏡を使用して入手した。顕微鏡写真は、SPOTデジタルカメラ(Diagnostic社製)を使用して撮影した。走査型レーザー顕微鏡画像はLeica社製TCS 4Dを使用して入手し、SEM画像は1KVの加速電圧で作動するLEO1530を使用して入手した。TEM画像は、80kVの加速電圧で作動するPhilips 208および200kVの加速電圧で作動するJEOL 2010Fを使用して入手した。AFM画像は、タッピングモードを使用して空気中で撮影した(Digital Instruments社製)。AFMプローブは、125μmのカンチレバーおよびそれらの250〜350kHzの共鳴周波数の近くで駆動させると20〜100N/mのバネ定数を用いてエッチングされたシリコンであった。スキャン速度はおよそ1〜40μm/sであった。
【0159】
追加の説明および例(態様B)のための参考文献

【0160】
代表的な態様を参照しながら本発明について記載してきたが、この説明に限定的意味があると解釈されることは意図していない。本発明の代表的な態様の様々な修飾および組み合わせ、ならびにその他の態様は、本発明の説明を参照すれば、当業者には明白になるであろう。このため、添付の請求項にはそのような修飾または態様が含まれると意図されている。
【0161】
本明細書における参考文献についての言及は、これらの参考文献が本発明にとっての先行技術であると是認するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0162】
本発明の記載のおよびその他の利点は、添付の図面と結び付けて以下の説明を参照することによってより明瞭に理解できるが、様々な図面における対応する数字は対応する部分を表している。
(図1)本発明による、(A)生物膜の写真、(B)生物膜の偏光顕微鏡(POM)画像、(C)雲母表面(接触面)上の個別M13バクテリオファージの原子間力顕微鏡(AFM)画像、および(D)生物膜接触面の表面形態である。
(図2)本発明による生物膜作製後の力価数および経過日数の対数プロットを示している力価数と経過日数との関係を示した図である。
(図3)本発明によって選択されたランダムアミノ酸配列の図である。
(図4)本発明による構造のXPSスペクトルの図である。
(図5)本発明によるヘテロ構造のファージ認識を示した図である。
(図6〜10)本発明による特異的アミノ酸配列の図である。
(図11)本発明によるM13ファージのスメクチック整列の略図である。
(図12)A7-ZnS懸濁液を示した図である。(A)および(B)POM画像、(C)AFM画像、(D)SEM画像、(E)TEM画像、および(F)TEM画像(電子線回折挿入断片を使用)。
(図13)(A)膜の写真、(B)膜構造の略図、(C)AFM画像、(D)SEM画像、(E)および(F)x-z平面およびz-y平面に沿ったTEM画像を含む、M13バクテリオファージのナノ粒子生物膜の画像である。
(図14)(A)デシケータ内での乾燥後、および(B)フリーズドライ後における室温での貯蔵中のβ-ガラクトシダーゼ活性にグルコース/スクロースおよびファージが及ぼす作用を示した図である。(■-黒い四角)は糖にファージを加えたものと一緒に乾燥させたβ-ガラクトシダーゼであり、(▲-黒い三角)は糖と一緒に乾燥させたβ-ガラクトシダーゼであり、(●-黒丸)はファージと一緒に乾燥させたβ-ガラクトシダーゼであり、そして(▼-黒い逆三角)は添加物を加えずに乾燥させたβ-ガラクトシダーゼであり、第0日はフリーズドライ後またはデシケータ内での乾燥後に回復した活性を表す。
(図15)GFPuvおよびファージを用いた作製1日後の蛍光GFPuvウイルス膜の共焦点顕微鏡画像である。グルコース:スクロースにおける変動は(A)5mg/mL:50mg/mL、(B)2.5mg/mL:25mg/mL、および(C)グルコースまたはスクロースなしである。
(図16)(A)M13ウイルス膜の写真。(B)キラルスメクチックC規則化構造を有するバルク内のM13ウイルス膜構造の略図(z:ダイレクター(分子長軸);n:層標準;θ:傾斜角;φ:方位回転角)。(C)そのらせん状規則化構造が解かれて、表面張力作用のためにジグザグパターンを形成しているM13ウイルス膜の表面形態の略図。点線は回位線を表し、2本の隣接する回位線間の間隔はキラルスメクチックCらせん状パターンのハーフピッチ(1/2P)に対応する。
(図17)試料1(9.93mg/mL)からのウイルス膜のキラルスメクチックC構造の図である。(A)明暗ストライプパターンを示しているPOM画像(36.8μm)(スケールバー:100μm;×印はアナライザー(A)およびポラライザー(P)の方向を表す)、(B)表面上のジグザグパターンの脱キラル化欠陥を示しているウイルス膜のSEM画像(スケールバー:50μm)。(C)スメクチックC整列を示すウイルス膜表面のAFM画像(スケールバー:1μm)、(D)M13ウイルスのTEM画像(スケールバー:100nm)、および(E)ウイルス膜からのレーザー光回折パターン。
(図18)試料1からのスメクチック構造の歪みおよび相転移を示しているPOMおよびAFM画像。(A)ひずんだ明暗ストライプパターンを示しているPOM画像(スケールバー:100μm)、(B)相転移を示しているPOM画像、(C)、(D)各々(A)および(B)のPOM画像に対応するAFM画像。
(図19)垂直ストライプパターン(A)から水平ストライプパターン(B)へのテクスチャーの変化を示した試料7のPOM画像。試料10のスメクチックA形態。(C)垂直ストライプパターンを示しているPOM画像(62.4μm)(10倍スケールバー:100μm)、(D)スメクチックA整列を示しているウイルス膜表面のAFM画像。(スケールバー:1μm)、(E)差込み図におけるシェブロン状ひび割れパターンおよび高分解能SEM画像を示しているウイルス膜表面のSEM画像。
(図20)ウイルス膜のネマチック形態(試料11)。(A)屈曲した暗色のシュリーレンブラシパターンを示しているPOM画像(スケールバー:100μm)、(B)スメクチックドメインのネマチック規則化を示しているウイルス膜表面のAFM画像。
(図21)抗ストレプトアビジンM13ウイルスおよびストレプトアビジンリンカーを使用したナノ材料の整列を例示している略図である。
(図22)(A)ウイルスペレット(i)、ストレプトアビジン結合金ナノ粒子懸濁液(ii)、およびウイルス(Au-ウイルス)と結合した金ナノ粒子懸濁液(iii)の写真。(B)Au-ウイルス懸濁液のPOM画像。(C)10nm金ナノ粒子に結合したウイルスのTEM画像(スケールバー:100nm)および同一TEMグリッドからの金ナノ粒子の縞模様画像および高速フーリエ変換画像(差込み図、スケールバー:5nm)。(D)Au-ウイルス凝集物のTEM画像(スケールバー:500nm)。
(図23)(A)Au-ウイルス膜の写真。(B)Au-ウイルス膜のPOM画像(スケールバー:20μm)、(C)広範囲のジグザグパターンを示しているAu-ウイルス膜表面形態のSEM画像(スケールバー:5μm)。(D)Au-ウイルス膜のAFM画像(スケールバー:1μm)。(E)フルオレセイン-ウイルス(F-ウイルス)キャスト膜のDIC画像(F-virus)(スケールバー:10μm)、(F)フルオレセインと結合したウイルス(F-ウイルス)キャスト膜、および(G)1μmの蛍光ストライプパターンを示しているフィコエリトリンと結合したウイルス(P-ウイルス)キャスト膜の蛍光画像(スケールバー:10μm)。
【配列表】





























【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】

【図21】

【図22】

【図23A】

【図23B】

【図23C】

【図23D】

【図23E】

【図23F】

【図23G】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的材料を長期にわたり貯蔵するための人工生物膜貯蔵装置であって、
任意で、接触面を有する基質と、
任意の接触面上の生物学的材料とを含み、かつ安定した膜を形成し、膜が少なくとも7週間にわたり室温で安定性である人工生物膜貯蔵装置。
【請求項2】
基質が存在しており、かつ基質が、ラングミュア・ブロジェット膜、機能性ガラス、ゲルマニウム、シリコン、半導体材料、PTFE、ポリカーボネート、雲母、マイラー、タンパク質膜、プラスチック、石英、ポリスチレン、ヒ化ガリウム、金、銀、金属、合金、織物、哺乳動物組織、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1の人工生物膜貯蔵装置。
【請求項3】
安定した膜が自己支持性である、請求項1の人工生物膜貯蔵装置。
【請求項4】
安定した膜が、生物学的材料に加えて、一つまたは複数の有機分子または無機分子を含む、請求項1の人工生物膜貯蔵装置。
【請求項5】
有機分子が存在しており、かつ有機分子が、炭素、一本鎖核酸、二本鎖核酸、ペプチド、タンパク質、抗体、酵素、ステロイド、薬剤、発色団、導電性ポリマー、ワクチン、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項4の人工生物膜貯蔵装置。
【請求項6】
無機分子が存在しており、かつ無機分子が、インジウム錫酸化物、ドーピング剤、金属、合金、鉱物、半導体、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項4の人工生物膜貯蔵装置。
【請求項7】
生物学的材料が、ウイルス、バクテリオファージ、細菌、ペプチド、タンパク質、抗体、酵素、アミノ酸、ステロイド、薬剤、炭水化物、脂質、発色団、一本鎖または二本鎖の核酸、ワクチン、およびそれらの化学修飾物からなる群より選択される、請求項1の人工生物膜貯蔵装置。
【請求項8】
生物学的材料がワクチンをさらに含む、請求項1の人工生物膜貯蔵装置。
【請求項9】
膜が、生物学的特性、光学特性、電気特性、磁気特性、またはそれらの組み合わせを示す、請求項1の人工生物膜貯蔵装置。
【請求項10】
安定した膜が、診断、スクリーニング、分析、検査、情報収集、データ処理、新薬発見、マイクロエレクトロニクス、光学機器、データ記憶、研究、またはそれらの組み合わせに使用される、請求項1の人工生物膜貯蔵装置。
【請求項11】
生物膜貯蔵装置を作製する方法であって、
接触面を備える基質に生物学的材料を適用する段階であって、任意で接触面が接触面上の生物学的材料の一様な整列を促進する段階と;
少なくとも7週間にわたり室温で安定性である安定した膜の形成を可能にする段階と、を含む方法。
【請求項12】
生物学的材料がコンビナトリアルライブラリーである、請求項11の方法。
【請求項13】
生物膜貯蔵装置を作製する段階が可逆性である、請求項11の方法。
【請求項14】
生物学的材料が、ウイルス、バクテリオファージ、細菌、ペプチド、タンパク質、抗体、酵素、アミノ酸、ステロイド、薬剤、炭水化物、脂質、発色団、一本鎖または二本鎖の核酸、ワクチン、およびそれらの化学修飾物からなる群より選択される、請求項11の方法。
【請求項15】
少なくとも2つの生物学的材料が適用される、請求項11の方法。
【請求項16】
生物学的材料が、有機化合物、無機化合物、およびそれらの組み合わせと一緒に層形成される、請求項11の方法。
【請求項17】
生物膜貯蔵装置を作製するためのキットであって、
容器と;
少なくとも7週間にわたり室温で安定性である、生物学的材料を含む貯蔵膜と、を含むキット。
【請求項18】
薄膜が室温で高密度情報を貯蔵する、請求項17のキット。
【請求項19】
高密度情報が、診断、スクリーニング、分析、検査、情報収集、データ処理、マイクロエレクトロニクス、光学機器、研究、またはそれらの組み合わせに使用される、請求項18のキット。
【請求項20】
ハイブリッド人工膜貯蔵装置であって、
表面を含む基質と;
生物学的に安定した薄膜を形成するために表面に適用された生物学的材料であり、膜が無機材料をさらに含む生物学的材料を含むハイブリッド人工膜貯蔵装置。
【請求項21】
無機材料が、インジウム錫酸化物、ドーピング剤、金属、合金、鉱物、またはそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項20のハイブリッド人工膜貯蔵装置。
【請求項22】
一つまたは複数の有機分子または無機分子が、生物学的材料と一緒にプレインキュベートされる、請求項20のハイブリッド人工膜貯蔵装置。
【請求項23】
生物学的材料が、ウイルス、バクテリオファージ、細菌、ペプチド、タンパク質、アミノ酸、ステロイド、薬剤、発色団、一本鎖または二本鎖の核酸、ワクチン、およびそれらの化学修飾物からなる群より選択される、請求項20のハイブリッド人工膜貯蔵装置。
【請求項24】
安定した膜中にファージ粒子を含む貯蔵装置として使用するために作製されたウイルス膜であって、膜が少なくとも7週間にわたり室温で安定性であるウイルス膜。
【請求項25】
ファージ粒子と組み合わせて無機材料をさらに含む、請求項24のウイルス膜。
【請求項26】
膜が、ファージディスプレイライブラリーのファージ粒子を含み、ファージ粒子が生物学的分子への特異的結合を提供するために選択され、かつファージ粒子が生物学的分子に結合している、請求項24のウイルス膜。
【請求項27】
ウイルス膜を形成する方法であって、
溶媒中でウイルスファージ粒子の濃縮懸濁液を調製する段階と;
膜が少なくとも7週間にわたり室温で安定性である条件下でファージ粒子が膜を形成するように溶媒を除去する段階と、を含む方法。
【請求項28】
膜がファージ粒子と組み合わせて無機化合物をさらに含む、請求項27の方法。
【請求項29】
一つまたは複数の生物学的材料を含む貯蔵装置として使用するための自己支持膜であって、膜が少なくとも6ヵ月間にわたり安定性である自己支持膜。
【請求項30】
生物膜貯蔵装置の安定性および長期的活性を向上させるための方法であって、生物膜貯蔵装置中に生物膜貯蔵装置の安定性および長期的活性を向上させる保存液を含める段階を含む方法。
【請求項31】
貯蔵装置が酵素およびウイルスを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
生物学的材料の光特性をモニターする段階を含む、生物膜貯蔵装置として使用される生物学的材料の構造および機能を視覚化する方法。
【請求項33】
発光分子が蛍光である、請求項32の方法。
【請求項34】
ウイルス粒子が細菌宿主を感染させる能力を維持する貯蔵装置のためのウイルス薄膜を形成する方法であって、基質上でウイルス薄膜を形成するためにウイルス粒子の濃縮懸濁液から溶媒を除去する段階を含み、ウイルス粒子が少なくとも7週間後に力価数の測定に基づいて細菌宿主に対する感染能力を保持している方法。
【請求項35】
ウイルス粒子が膜形成前に遺伝子操作ファージライブラリーを含み、かつライブラリー情報が膜形式で保存される、請求項34記載の方法。

【公表番号】特表2006−506059(P2006−506059A)
【公表日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−546750(P2004−546750)
【出願日】平成15年9月24日(2003.9.24)
【国際出願番号】PCT/US2003/029761
【国際公開番号】WO2004/036992
【国際公開日】平成16年5月6日(2004.5.6)
【出願人】(503163480)ボード オブ リージェンツ ユニバーシティ オブ テキサス システム (7)
【Fターム(参考)】