説明

人工皮革の製造方法

【課題】 表面平滑性が良好で、天然皮革調のふくらみ感のある風合いをもつ人工皮革を提供する。
【解決手段】 平均単繊度が0.1dtex以下の極細繊維を発生する極細繊維発生型繊維Aを主体とする繊維質層と、長さが38mm以上で平均単繊度が2〜10dtexの水溶性繊維Bを主体とする繊維質層とからなる積層体を準備し、該積層体を絡合一体化して該繊維Aを主体として含む層Lと該繊維Bを主体として含む層Lとからなる絡合不織布とし、その内部に弾性重合体を含浸、凝固した後、該繊維Aから極細繊維を発生させると共に、該繊維Bを水で抽出して除去することを特徴とする人工皮革の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然皮革調の柔軟な風合いやふくらみ感を有し、表面平滑性も良好な人工皮革の製造方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
柔軟な人工皮革を製造する方法として、短繊維と水溶性繊維を混合して作製した不織布に弾性重合体を付与して人工皮革基体を作製した後に、水溶性繊維を除去する方法が提案されている。(例えば、特許文献1参照。)
【0003】
しかしながら、上記方法は、高速水流の噴射により構成繊維を絡合させるため、繊維の長さが15mm以下に限定されてしまう。水溶性繊維が除去されることで人工皮革が低密度化し柔軟にはなるものの、水溶性繊維が除去されたあとにできる空隙が細かく、連通孔になりにくいため、製品にしたときの天然皮革独特のふくらみ感が得られない。また、高速水流の噴射時に水溶性繊維が溶解してしまわないよう、使用する水溶性繊維が限定される。
【0004】
【特許文献1】特公昭56−48628号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、平均単繊度が0.1dtex以下の極細繊維と弾性重合体とからなる人工皮革において、表面平滑性が良好で、ふくらみ感の良好な人工皮革の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の水溶性繊維を積層体の一層として活用することにより解決できることを見出し、本発明に至った。
すなわち本発明は、(1)平均単繊度が0.1dtex以下の極細繊維を発生する極細繊維発生型繊維Aを主体とする繊維質層と、長さが38mm以上で平均単繊度が2〜10dtexの水溶性繊維Bを主体とする繊維質層とからなる積層体を準備し、該積層体を絡合一体化して該繊維Aを主体として含む層Lと該繊維Bを主体として含む層Lとからなる絡合不織布とし、その内部に弾性重合体を含浸、凝固した後、該繊維Aから極細繊維を発生させると共に、該繊維Bを水で抽出して除去する人工皮革の製造方法。
(2)水溶性繊維Bが110℃以上の熱水に可溶な繊維である上記(1)に記載の人工皮革の製造方法。
(3)層L内に含まれる水溶性繊維Bの割合が10質量%以上である上記(1)または(2)に記載の人工皮革の製造方法。
(4)弾性重合体含浸後の工程として表面に弾性重合体からなる被覆層を形成する工程を含む上記(1)〜(3)いずれか1つに記載の人工皮革の製造方法。そして、
(5)上記(1)〜(4)いずれか1つに記載の製造方法により得られる人工皮革である。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、表面平滑性が良好で、ふくらみ感のある天然皮革調の風合いをもつ人工皮革を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下本発明を詳細に説明する。まず、本発明の極細繊維とは、化学的または物理的性質の異なる少なくとも2種類の可紡性ポリマーからなる多成分系繊維の繊維形態を、弾性重合体を含浸させる前または後の適当な段階で、少なくとも1種類のポリマーを抽出除去するか、異種ポリマー界面で剥離させることにより変えることで得られる極めて細い繊維のことである。また、本発明の極細繊維発生型繊維Aとは、この極細繊維を発生させることのできる多成分系繊維のことであり、その代表例としては公知の海島型繊維や多層積層型繊維などが挙げられる。
【0009】
極細繊維発生型繊維Aの極細繊維成分、即ち海島型繊維においては島成分を構成するポリマーは、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン12に代表されるナイロン類、その他の可紡性のポリアミド類、ポリエチレンテレフタレートまたはそれを主体とする共重合体、ポリトリメチレンテレフタレートまたはそれを主体とする共重合体、ポリブチレンテレフタレートまたはそれを主体とする共重合体、脂肪族ポリエステルまたはその共重合体等の可紡性のポリエステル類、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレンなどのポリオレフィン類等の溶融紡糸可能なポリマー類から選ばれた少なくとも1種類のポリマ―である。
前記成分に組み合わされる成分、即ち海島型繊維においては海成分、多層積層型繊維においては前記成分に隣接して配置される成分を構成するポリマ―は、前記成分との親和性が小さなポリマーであって、かつ極細繊維を発生させる際に除去される成分の場合には、溶剤または分解剤に対する溶解性または分解性が前記成分とは異なるポリマ―であり、前記成分と同様のポリマーから選ばれた少なくとも1種類のポリマーが使用可能である。特に海島型繊維を構成する場合には、紡糸条件下で前記島成分の溶融粘度より小さい溶融粘度のポリマーか、表面張力の小さいポリマ―を選択する必要があるので、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレンプロピレン共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、スチレンエチレン共重合体、スチレンアクリル共重合体、ポリビニルアルコール系重合体などのポリマ―から選ばれた少なくとも1種類のポリマ―が好ましい。
【0010】
極細繊維発生型繊維A中に占める極細繊維成分の比率は、40〜80%が紡糸安定性や経済性の点で好ましい。極細繊維発生型繊維Aは、従来公知の種々の方法にて得ることができ、短繊維として使用する場合には、紡糸後の工程として延伸、捲縮、熱固定、カット、開繊などの処理工程を経て繊度2〜10dtexの繊維とする。極細繊維の平均単繊度は、0.1dtex以下であることが必要であり、好ましくは0.05dtex以下、より好ましくは0.0001以上0.01dtex以下である。平均単繊度が0.1dtexを越えると、柔軟性や諸物性においてバランスの良好な人工皮革が得られ難くなるばかりか、被覆層を形成させた場合に被覆層表面に太い繊維に起因する品位に欠ける凹凸が発生し易くなる。このような品位に欠ける凹凸は、人工皮革を靴の甲皮材や椅子の表皮材などの素材として使用した場合、裏面側から表面側へ押し出されて素材が膨らんだ状態になっている部分に特に顕著に現れて非常に目立つので、製品の価値を大きく下げてしまう。
極細繊維発生型繊維Aを短繊維として使用する場合の繊維長は、絡合不織布を製造するまでの何れの工程においても適しており、製造が困難でないような長さであればよく、特に制限されるものではない。但し、極細繊維発生型繊維Aを主体とする繊維質層を形成する際に後述する水溶性繊維Bと予め混合して形成する場合、例えばカード法により繊維質層を形成する場合には、該繊維Aの繊維長は該繊維Bと同程度の長さであるのが好ましい。また、該繊維Aを主体とする繊維質層と該繊維Bを主体とする繊維質層とを絡合一体化する際の絡合性においても、例えば後述するニードルパンチ法であれば同様に該繊維Aの繊維長は該繊維Bと同程度の長さであるのが好ましい。カード通過性やニードルパンチ絡合性の点から好ましい極細繊維発生型繊維Aの繊維長は、使用する水溶性繊維Bの繊維長の0.3〜3倍、より好ましくは0.5〜2.5倍である。
【0011】
水溶性繊維は、弾性重合体を付与した後の何れかの段階において水で選択的に抽出除去できるものであればよく、入手の容易さ、取り扱いの点から、公知の水溶性ポリビニルアルコール繊維が好ましく使用できる。水溶性繊維の平均単繊度は2〜10dtexの範囲において、目的とする人工皮革の風合いに応じて適宜調整するのが好ましい。2dtex未満だと、水溶性繊維を除去した後の連通孔が細すぎて柔軟な風合やふくらみ感が得られ難くなり、また層Lの形成方法としてカード法を採用した場合には、カード通過性の点においても問題が生じやすい。一方、10dtexを越えると、水溶性繊維が太すぎるのでこれを含む繊維質層が嵩高になりすぎ、また水溶性繊維を除去した後の連通孔が太すぎるので得られる人工皮革の厚さ方向の形態安定性に乏しくなる。さらに、絡合一体化においてニードルパンチ法を採用する場合には、極細繊維発生型繊維A、水溶性繊維それぞれの平均単繊度は、絡合性の点からは差が大きすぎないのが好ましく、より好ましくは同程度である。具体的には、極細繊維発生型繊維Aの平均単繊度に対する水溶性繊維の平均単繊度は、0.3〜3倍が好ましく、より好ましくは0.5〜2.5倍である。
水溶性繊維として水溶性ポリビニルアルコール繊維を使用するのであれば、その溶解性は重合度や鹸化度により調整することができ、製造工程上の種々の制約に応じて適宜使い分けることができる。製造工程上の制約の例としては、弾性重合体を溶液で含浸、凝固する場合には弾性重合体の溶剤を除去する工程において、また極細繊維発生型繊維Aの一成分を溶剤により抽出除去する場合には除去成分の溶剤を除去する工程において水を使用し、しかも70〜100℃程度の温度をかける場合が一般的であり、それら溶剤除去工程の段階で水溶性繊維をも除去すべきではないといった例があげられる。このような場合には、水溶性繊維の水への溶解温度の設定が前記のような溶剤除去工程で採用される水の温度を十分に越えた温度であればよく、具体的には溶解温度が100℃を越える温度、より好ましくは110℃以上の温度に設定されていれば、これらの工程中に水溶性繊維が溶解されてしまうことを防止することができる。
【0012】
極細繊維発生型繊維Aを主体とする繊維質層、水溶性繊維Bを主体とする繊維質層は、それぞれ極細繊維発生型繊維Aおよび水溶性繊維Bを主体とする繊維を使用して、短繊維であればカード法、長繊維であればスパンボンド法、メルトブローン法など従来公知の種々の方法により形成される。カード法であればそれぞれの繊維をカードで解繊してランダムウェバーまたはクロスラップウェバーを通してウェブを形成し、またスパンボンド法であればそれぞれの繊維を紡糸しつつネットへ集積してウェブを形成し、必要に応じて得られた同種のウェブを複数枚積層し、また必要に応じてニードルパンチやウォータージェット、熱ローラープレスなどにより軽く一体化させることによって、それぞれ所望の重さ、厚さの繊維質層を形成する。
【0013】
次いで、得られた極細繊維発生型繊維Aを主体とする繊維質層と水溶性繊維Bを主体とする繊維質層とを、トータルで所望の重さ、厚さになるように、所望の比率で積層して積層体を準備し、これを絡合一体化させる。積層する比率は、最終製品の用途に応じて任意に選択することができ、絡合一体化した後の絡合不織布において、該繊維Aを主体として含む層Lと該繊維Bを主体として含む層Lとの質量比率において、好ましくは層L/層L=30/70〜90/10、より好ましくは40/60〜80/20の範囲になるように適宜設定する。絡合不織布における層Lの比率が30%未満だと、水溶性繊維を除去すると人工皮革が厚さ方向に潰れすぎてしまうので結局は所望の厚さを得ることができず、また人工皮革としての必要な力学物性が得られ難くなる傾向にある。絡合不織布における層Lの比率が90%を越えると、除去される水溶性繊維が少なすぎるため、人工皮革としては目的とする風合いやふくらみ感が得られ難くなる傾向にある。また、絡合一体化した後の絡合不織布において、層L内に含まれる水溶性繊維Bの割合は、好ましくは5〜50質量%である。5質量%未満だと、人工皮革において層Lを経由して形成された層と層Lを経由して形成された層とで見かけ密度の差が大きくなり、人工皮革としての風合いが不自然となる傾向がある。一方、50質量%を越えると、人工皮革において層Lを経由して形成された層と層Lを経由して形成された層との差が殆ど無くなってしまい、また層Lを経由して形成された層が必要以上に厚さ方向に潰れたり、人工皮革の表面として層Lを経由して形成された層を選択した場合の平滑性が所望のレベルにはなり難くなったりするので、目的とする天然皮革調の充実感のある風合いや表面平滑性が得られ難くなってしまう。
【0014】
準備した積層体の絡合一体化は、ニードルパンチ法やウォータージェット法など、従来公知の種々の方法を単独、あるいは組み合わせることにより実施可能だが、積層体中に含まれる水溶性繊維の多くが絡合一体化時に溶解してしまうのは通常は好ましくないので、ニードルパンチ法を主体として絡合させる方法を採用するのが好ましい。
ニードルパンチ法の場合には、絡合一体化させるために必要なパンチ数は、使用する針の形状や積層体の重量、厚さなどによって異なるが、一般的に積層体の両面側から突き刺すパンチ数の合計で200〜2500パンチ/cmの範囲において設定される。特にニードルパンチ法を採用する場合には、使用する針のバーブの数が多かったり、バーブのキックアップやスロートデプスが大きかったり、あるいはパンチ数が多すぎたりして絡合一体化時の条件が強すぎると、繊維同士を絡合一体化させる効果よりもむしろ繊維を切断させる方向に作用してしまう傾向にあるので、結果として得られた絡合不織布、あるいは人工皮革において、引裂強力等の力学物性が所望のレベルに到達しないことになる。一方、絡合一体化時の条件が弱すぎると、得られた絡合不織布において、層Lと層Lとの界面の剥離強力等の力学物性が所望のレベルに到達しなかったり、人工皮革における極細繊維の見かけ密度が十分に高くならずに平滑性や外観、風合いなどが所望のレベルに到達しなかったりすることになる。
【0015】
また、ニードルパンチの際、水溶性繊維Bを主体とする繊維質層側から極細繊維発生型繊維Aを主体とする繊維質層側へ突き刺される針において、少なくとも第一バーブ(針先端に一番近いバーブ)が該繊維Aを主体とする繊維質層側の反対面へ少なくとも到達し、好ましくは突き出るように突き刺し深さを設定することで、該繊維Aを主体とする繊維質層内に該繊維Bが入り込む際に効率よく厚さ方向に対して平行に近い配向状態となり、また得られる絡合不織布の該繊維Aを主体として含む層L内に含まれる該繊維Bの割合がパンチ数を適宜設定することにより容易に調整可能となる。該層L内で該繊維Bを前記のような配向状態で存在させることで、該繊維Bを除去して得られる空隙としては、該層L内では厚さ方向に対して平行に近い配向状態で形成されたものが多数形成され、かつそれら空隙の多くが層L内から該繊維Bを主体として含む層L内へ連通した状態となる。これにより、得られる人工皮革において、層Lに起因して厚さ方向に対して平行な層状に形成される空隙が比較的少ない層内での空隙の偏りをより少なくすることができ、かつ層Lに起因して空隙が多い層と層Lに起因して空隙が比較的少ない層との間に生じ易い見かけ密度の差をより小さくすることができる。従って、全体として厚さ方向における見かけ密度の変化がよりなめらかに傾斜した状態になるので、空隙をより多く形成することでより風合いをソフトにする効果が得られるだけでなく、従来はこの効果とは相反する傾向にあった人工皮革を握ったときに感じられる厚さ方向の一体感や充実感をも向上させる効果が得られる。さらには、絡合不織布全体として繊維Aや繊維Bの一部が厚さ方向に対して平行に近い配向状態となることで、極細繊維はもちろんのこと、空隙の周囲に形成される弾性重合体や極細繊維による壁も厚さ方向に平行に近い配向状態として得られるので、層自体の見かけ密度における厚さ保持性や層表面の平滑性において、本発明によらない状態に対してより高い性能を得ることができる。
繊維Aを主体とする繊維質層側から繊維Bを主体とする繊維質層側へ突き刺される針においても、上記と同様に少なくとも第一バーブが反対面へ少なくとも到達し、好ましくは突き出るように突き刺し深さを設定することで、該繊維Bを主体とする繊維質層内に該繊維Aが入り込む際に効率よく厚さ方向に対して平行に近い配向状態となり、また得られる絡合不織布の該繊維Bを主体として含む層L内に含まれる該繊維Aの割合、絡合不織布全体としての該繊維Aの分布状態がパンチ数を適宜設定することにより容易に調整可能となる。
前記したような空隙の状態を得るためには、水溶性繊維Bの繊維長38mm以上にする必要がある。38mm未満だと、前記積層体を絡合一体化して得られる絡合不織布において、層Lから層Lへ跨り、かつ層L内で厚さ方向に対して平行に近い配向状態にさせるのが困難である。一方、繊維Bの繊維長の上限に関しては本発明の効果を得る上では特に限定されるものではないが、繊維Bを主体とする繊維質層を得る方法としてカード法を経由する方法を採用する場合には、繊維Bの繊維長が長すぎると解繊が不十分になり繊維質層、ひいては絡合不織布において繊維の不均一な分布による欠点が出やすくなるため、水溶性繊維Bの剛性等にもよるが、大凡の目安としては繊維Bの繊維長は100mm以下が好ましい。
【0016】
前記積層体を形成する際、極細繊維発生型繊維Aを主体とする繊維質層、水溶性繊維Bを主体とする繊維質層には、それぞれ水溶性繊維B、極細繊維発生型繊維Aを適宜混合することができる。このようにして絡合一体化前に予め混合状態を準備しておくことにより、絡合一体化によって各繊維質層内の繊維Aや繊維Bを他方の繊維質層へ入り込ませる以上に大きい割合で異種繊維の混合状態を形成できるので、得られる人工皮革の風合いを容易に調節することができる。
なお、人工皮革、あるいは最終製品、即ち人工皮革を加工して得られる各種素材が目的とする厚さによっては、人工皮革を厚さ方向に2分割、3分割等にスライスして使用する方法が従来行われているが、このような後加工を行なう場合には、積層体としては繊維Aを主体とする繊維質層と繊維Bを主体とする繊維質層とを何れかが表層となるように交互に組み合わせて複数層積層した状態、いわゆるサンドイッチ状態にすることにより、同様の構造の人工皮革を複数枚得ることも可能である。もちろん、前記サンドイッチ状態の積層体形成は、後加工としてスライスを行なう場合に限定されるものではない。
【0017】
積層体を準備してから絡合一体化するまでの間の工程、積層体を絡合一体化してから弾性重合体を含浸するまでの間の工程、弾性重合体を含浸してから凝固するまでの間の工程の何れかの段階で、必要に応じて積層体、または絡合不織布を厚さ方向にプレスしてもよい。前記の何れかの工程でプレスすることにより、絡合不織布の表面平滑性や見かけ密度を適宜制御することができるので、プレス後の工程における易処理性や、最終的に得られる人工皮革や後加工後の各種素材における表面平滑性、風合い、繊維の見かけ密度などを適宜調節することができる。プレスの方法としては、従来公知の方法、例えば一定圧力をかけた2本のロール間、または一定間隔を保った2本のロール間を通す方法、前記何れかの方法において少なくとも一方のロールを加熱する方法、前記何れかの方法においてプレス前に乾燥機等で予め加熱して少なくとも何れか一方のロールを冷却する方法などが何れも利用可能であり、目的に応じて適宜単独あるいは組み合わせて採用すればよい。
【0018】
前記のようにして得られた絡合不織布の内部に含浸する弾性重合体としては、従来から人工皮革の製造に好適に使用されている樹脂が何れも採用可能であり、例えばポリウレタン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、ポリアミノ酸系樹脂、シリコン系樹脂の単独やこれらの樹脂の混合物、共重合体などが挙げられ、もちろん凝固以降の何れかの段階で架橋するものであってもよい。本発明に好適な弾性重合体は、人工皮革としての風合いや物性、耐久性の点においてバランスに優れたものが得られる点で、前記した中でもポリウレタン系樹脂、あるいはポリウレタン系樹脂を主体とする弾性重合体組成物である。弾性重合体は、含浸する段階では当然ながら流動性を有する状態、即ち、溶液、分散液、融液などの含浸液の状態とする必要があり、本発明の効果を得る上では前記した何れの状態も採用可能だが、加工安定性等の点で有機溶剤溶液や水系エマルジョン、あるいはそれらを混合した状態で含浸するのが好ましい。なお、前記した何れかの弾性重合体は、1回で含浸しても、同種あるいは異種の弾性重合体を2回以上に分けて含浸してもよい。含浸した弾性重合体を流動性を有する状態から流動性を有しない状態へ凝固させる方法としては、有機溶剤溶液を主体とする状態で含浸したのであれば湿式凝固法、すなわち弾性重合体の非溶剤を主体とする浴中へ導入して溶剤を非溶剤で置換することで凝固させるのが一般的であり、水系エマルジョンを主体とする状態で含浸したのであれば乾式凝固法、すなわち熱風や赤外線などを当てて水を乾燥除去することで凝固させるのが一般的である。なお、前記の乾式凝固法の一形態として、水系エマルジョンの一成分として感熱ゲル化剤を使用して、乾燥除去前に予めエマルジョンを仮凝固状態にする方法もある。また、凝固させた後の弾性重合体の状態として多孔質状態を採用すると、多孔の大きさや形状、分布を調整することによって、得られる人工皮革の風合いやクッション性などを調節することも可能である。
弾性重合体の含浸液には、必要に応じて凝固調節剤、発泡剤、その他の処理剤、柔軟剤、難燃剤、着色剤等を単独あるいは組み合わせて添加するのも本発明においては好ましい。含浸液を絡合不織布へ含浸させる方法としては、絡合不織布を含浸液の浴中へ浸漬する工程を含む、いわゆる浸漬法や、絡合不織布へ含浸液を塗布する工程を含む、いわゆる塗布法や、絡合不織布へ含浸液を圧力等で強制的に押し込む工程を含む、いわゆる押込法などが挙げられ、それらの何れかの方法をも単独あるいは組み合わせて採用可能である。
【0019】
本発明に好適なポリウレタン系樹脂としては、従来公知のものは何れも採用可能であり、例えば、平均分子量500〜3000のポリエステル系ジオール、ポリエーテル系ジオール、ポリカーボネート系ジオールなどから選ばれた少なくとも1種類のポリマーポリオールと、4,4' −ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの、芳香族系、脂環族系、脂肪族系のポリイソシアネートから選ばれた少なくとも1種のポリイソシアネートと、2個以上の活性水素原子を有し、分子量300以下の低分子化合物、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール等の低分子ポリオールや、エチレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジン、フェニレンジアミン等の低分子ポリアミンや、アジピン酸ヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド等のヒドラジド類から選ばれた低分子化合物の少なくとも1種とを、適宜所定のモル比で反応させて得られるポリウレタン系樹脂が好適な例として挙げられる。ポリウレタン系樹脂を主体とする弾性重合体組成物としては、前記した他の弾性重合体の併用以外にも、合成ゴム、ポリエステルエラストマーなどの単独では使用できないような弾性重合体なども必要に応じて添加してもよい。
【0020】
弾性重合体を含浸、凝固した絡合不織布を、次いで溶剤または分解剤で処理するか、力学的な作用を与えることにより、極細繊維発生型繊維Aから極細繊維を発生させる。極細繊維を発生させる方法として繊維Aを溶剤または分解剤で処理する方法を採用する場合には、使用する溶剤または分解剤が含浸、凝固させた弾性重合体に対しては非溶剤または非分解剤であるのが好ましい。弾性重合体として本発明において好適なポリウレタン系樹脂を使用することができる方法の例としては、繊維Aの除去成分にポリエチレンやポリスチレンなどを選択して除去するための溶剤としてトルエンを選択する方法や、繊維Aの除去成分に水溶性ポリビニルアルコールなどを選択して除去するための溶剤として水を選択する方法、繊維Aの除去成分に変性ポリエステルなどを選択して除去するための分解剤としてアルカリを選択する方法などが挙げられる。繊維Aの除去成分に水溶性ポリビニルアルコールなどの水で除去可能な成分を選択すると、繊維Aから極細繊維を発生させる工程と後述する水溶性繊維Bを除去する工程とが一工程で実施可能となる利点がある。
【0021】
製造する人工皮革の厚さは、目的とする用途に応じて任意に選択でき、特に限定されるものではないが、風合いと物性とのバランスの点から従来の人工皮革一般と同様に0.5〜3.0mmの範囲が好ましく、特に好ましくは0.8〜2.0mmの範囲である。厚さが0.5mm未満だと、前記したような水溶性繊維を除去して得られる空隙の配向や分布が得られ難くなるので結果的に本発明が目的とする効果が得られ難くなる。一方で、厚さが3.0mmを越えると、本発明において天然皮革様の風合いを目的として採用する極細繊維を主体とする繊維質構造体では必要な厚さが保持でき難くなり見かけ密度を高くせざるを得なくなるので結果的に風合いが目的に対しては非常に硬いものとなってしまう。
また、人工皮革を構成する極細繊維と弾性重合体との比率は、任意に選択でき、特に限定されるものではないが、目的とする用途に好適な風合いや必要とされる物性などの点から従来の人工皮革一般と同様に質量比で85:15〜35:65の範囲が好ましい。比率がこの範囲を外れると、極細繊維と弾性重合体との複合体における種々のバランスが一方に偏ってしまうので、素材としての腰がなくなったり、ふくらみ感が得られなくなったり、あるいは必要な物性が得られなくなったりする。
【0022】
次いで、弾性重合体を凝固後の絡合不織布から水溶性繊維Bを除去する。除去する方法は、繊維Bを構成する樹脂が溶解する温度以上の水で絡合不織布を処理して溶解除去すればよい。処理方法としては、所定温度の水浴への浸漬と絞液を繰り返して繊維Bを除去する方法や、スチームを利用して高温多湿雰囲気下で繊維Bを除去する方法、その他従来染色に利用されるような公知の処理方法などが何れも使用可能である。染色に利用される方法の中でも、ウインス染色機や液流染色機のようなタイプの染色機を使用すると、繊維Bの除去工程が人工皮革の柔軟化処理を兼ねることができるので、リラックス処理された風合いを目的とするのであればより好ましい処理方法である。また、繊維Bを除去する工程の前または後の工程または同一の工程として、染色処理や各種処理剤の付与処理などの湿潤状態で行なう処理を行なうのも、乾燥工程を省略可能である点で好ましい態様である。
【0023】
以上のようにして本発明の人工皮革を製造することができるが、本発明の人工皮革の一形態として、表面に弾性重合体からなる被覆層が形成された、いやゆる銀付調の人工皮革や、表面に極細繊維からなる立毛が形成された、いわゆる立毛調(立毛の細さや長さ、密度などによって区別して、スエード調やベロア調、ヌバック調などともいう)の人工皮革などを製造するのも外観や風合いの多様化の点で好ましい。
本発明により得られる層Lに起因する層の表面、層Lに起因する層の表面の何れもが、同様の極細繊維と弾性重合体の比率でかつ同様の見かけ密度の層を従来の方法により得た場合に比べると表面平滑性や充実感に優れるので、目的とする用途において所望の外観、風合い、物性などが得られるのであれば、層Lに起因する層の表面と層Lに起因する層の表面の何れを被覆層形成面、または立毛層形成面に採用しても構わない。但し、被覆層を形成する場合においては、被覆層−層Lに起因する層−層Lに起因する層の3層構造だと、裏面側に水溶性繊維Bがより多く除去された層が配置されることとなり、層Lに起因する層側の触感としてはふくらみ感が感じられて好ましく、また層Lに起因する層側は表面平滑性に優れるので極めて平滑な被覆層を得ることができる点でも好ましいものの、被覆層側との硬さの差異が大きいので風合いにおいてバランスが崩れているように感じられ、用途やユーザーの好みによっては好ましくない評価結果となる場合がある。また、層Lに起因する層は極細繊維の比率が相対的に少ない層なので、その層の表面に立毛層を形成した場合、極細繊維の立毛密度や非立毛部分の露出状態の点で、目的とする立毛調の外観や触感が得られ難い場合がある。
【0024】
被覆層を形成させる方法としては、従来の人工皮革一般の被覆層に使用可能な弾性重合体を、溶液、分散液、融液、あるいはそれらの混合液など流動性を有する状態で、スプレーコート法、ナイフコート法、リバースロールコート法、グラビアコート法など従来公知のコーティング法によって、弾性重合体含浸後から水溶性繊維B除去後までの何れかの段階で絡合不織布表面に直接的に塗布して被覆層を形成させる方法や、離型紙など絡合不織布とは別の基材上に前記のような流動性を有する状態で弾性重合体を塗布してフィルムを作成し、このフィルムを弾性重合体凝固後から繊維B除去後までの何れかの段階で絡合不織布表面に接着剤層を介して一体化した後で離型紙などの基材を剥離する方法、あるいはそれらを組み合わせた方法やそれらから応用される方法など、従来公知の種々の方法が用いられる。また、被覆層形成の前あるいは後の工程として、染色等による極細繊維や弾性重合体の着色処理や、風合いを柔軟にするためのリラックス処理、被覆層形成面やその反対面の平滑性を向上させ、または被覆層の接着性を向上させるためのバフィング処理、複数枚の人工皮革を得るためのスライス処理などを施すことももちろん可能である。なお、形成された被覆層の平滑性の点からは、水溶性繊維B除去前に被覆層を形成するのであれば繊維B除去による被覆層面の陥没などの影響が顕在化しにくいので、前記したバランス面での問題を解消しうる意味で形成面は層L側の面が好ましく、繊維B除去後に被覆層を形成するのであれば層L側の面を形成面とするとより平滑な被覆層が形成可能である点で好ましい。
【0025】
被覆層に使用可能な弾性重合体としては、絡合不織布の内部に含浸する弾性重合体として前記したような弾性重合体や弾性重合体組成物が何れも使用可能であるが、目的とする用途における被覆層として必要な耐磨耗性や耐傷性などの表面物性や触感を得るために、一般的には含浸用よりはモジュラスが高めの弾性重合体が主剤として採用され、主剤の他にも耐屈曲性や耐候性、耐黄変性などの所望の耐久性を得るために、主剤よりモジュラスが低い弾性重合体を混合したり、耐候性に優れる分子構造を共重合するなどして主剤自体を変性したり、あるいは主剤に酸化防止剤などの各種処理剤を添加したり、さらには意匠性を付与する目的で着色剤を添加するのが好ましい。弾性重合体や弾性重合体組成物のモジュラス、即ちフィルムを100%伸長した時の応力値の一般的な目安は30〜100kg/cmの範囲であり、用途、風合い、表面感などに応じて適宜選択すればよい。被覆層の厚さは、使用する弾性重合体や弾性重合体組成物のモジュラスにもよるが、非孔質被覆層のみであれば目安としては10〜50μmの範囲から選択すれば、天然皮革調の風合いが得られ易いので好ましい。10μm未満だと一般的に必要とされる表面物性レベルすら得られ難くなり、一方で50μmを越えると前記した絡合不織布と弾性重合体とからなる複合構造との関係にもよるが、バランスが崩れて風合いが硬く感じられる傾向にあるので一般的には好ましくない場合が多いが、もちろん用途によってはこの限りではない。また、多孔質被覆層を含む場合であれば、被覆層の厚さの目安としては、多孔質層単体で20〜200μm、非孔質被覆層と多孔質被覆層との合計で25〜250μmの範囲から選択すれば、複合構造とのバランスにより天然皮革調の風合いが得られ易いので好ましい。
【0026】
立毛層を形成させる方法としては、繊維立毛を形成させることのできる針布やサンドペーパーを用いたバフィング処理やブラッシング処理などの人工皮革一般で従来公知の起毛方法が何れも採用可能であり、前記処理を絡合不織布製造後、弾性重合体凝固後、極細繊維発生後、水溶性繊維B除去後の何れかの段階で実施すればよいが、起毛状態の制御性の点からは少なくとも極細繊維発生後に実施するのが好ましく、より好ましくは繊維B除去後である。また、立毛層形成の前あるいは後の工程として、極細繊維、または含浸された弾性重合体の溶剤を含む処理液を立毛層形成面へ塗布して起毛処理性や立毛状態を調節したり、同様の処理液を立毛形成面の反対面へ塗布して繊維脱落を防止したり裏面平滑性を向上させたりする目止め処理、染色等による極細繊維や弾性重合体の着色処理や、風合いを柔軟にするためのリラックス処理、立毛層形成面とは反対面の平滑性を向上させるためのバフィング処理、複数枚の人工皮革を得るためのスライス処理などを施すことももちろん可能である。
【実施例】
【0027】
次に本発明を具体的に実施例で説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の部及び%は断わりのない限り質量に関するものである。また、
[平均単繊度]
繊維の平均単繊度は下記の方法で算出した。
平均単繊度=d×(R/2)×10
(但し、Rは、繊維の平均直径(cm)(基体断面を走査型電子顕微鏡で撮影し、無作為に50本程度の繊維を選び出し、各繊維の直径を測定し、得られる平均値)であり、dは、繊維を形成する樹脂の比重である。)
表面の平滑感および風合の判定は下記の方法で行った。
[表面の平滑感]任意に選出した20人のパネラーによるサンプルの評価結果
5:釣り込んだ時も平滑感良好
4:釣り込んだ時にやや凹凸あるが、平布では良好
3:釣り込んだ時に凹凸目立つ
2:平布状態でやや凹凸あり
1:平布状態で凹凸が目立つ
[風合い]任意に選出した20人のパネラーによるサンプルの評価結果
5:充実感、ふくらみ感とも良好で天然皮革並み
4:5と比べるとややふくらみ感に欠けるが良好
3:充実感はあるがふくらみ感不十分、またはふくらみ感はあるが充実感不十分
2:充実感はあるがふくらみ感なし
1:充実感なく、ゴムっぽい
【0028】
実施例1
海成分としてポリエチレンを50質量部、島成分としてナイロン6を50質量部準備し、これらを同一溶融系で溶融紡糸して、断面における平均島本数約300本、単繊維繊度10dtexの海島型の極細繊維発生型複合繊維Aを製造した。この複合繊維を3.0倍に延伸し、捲縮を付与した後、繊維長51mmに切断し、カードで解繊した後クロスラップウェバーで目付300g/mのウェブ(Wa)とした。別途、80℃以上の熱水に可溶な単繊維繊度5dtexの水溶性ビニロン繊維Bに捲縮を付与した後、繊維長51mmに切断し、カードで解繊した後クロスラップウェバーで目付200g/mのウェブ(Wb)とした。次に、ウェブ(Wa)とウェブ(Wb)をWa−Wb−Waの順に重ね合わせ、ニードルパンチ法により絡合不織布全体として繊維Aや繊維Bの一部が厚さ方向に対して平行に近い配向状態となるように絡合一体化させて目付約750g/mの絡合不織布とした。
ニードルパンチ法の処理条件は、第一バーブが先端から5mmの位置にある針を使用し、突き刺し深さ8mmで、両面から合計で1200パンチ/cmのパンチ数とした。続いて、この絡合不織布を120℃の乾燥機内で加熱し、複合繊維のポリエチレンが軟化した状態で2本の冷却したロールでプレスして、全体の厚さを2.0mmに調整した。
【0029】
ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートから重合して得られたポリウレタン13質量部、ジメチルホルムアミド87質量部、その他微量のカーボンブラックや凝固調節剤よりなるポリウレタン組成物溶液を調整し、前記により得られた絡合不織布に塗布しつつロールにより強制的に押し込む方法により含浸し、水浴中でポリウレタン組成物を湿式凝固させ、さらに水洗してジメチルホルムアミドを除去した後、複合繊維中のポリエチレンを85〜110℃のトルエン浴中で抽出除去した。引き続いて、90〜100℃の水浴中で水溶性ビニロン繊維を溶解して抽出除去すると共にトルエンを共沸除去し、これを乾燥することで、平均単繊度が約0.008dtexのナイロン6極細繊維束からなる絡合不織布構造内にポリウレタン系弾性重合体が含有された厚さが1.4mmの人工皮革とし、さらに厚さの中央でスライス処理により二分割した。
次いで、ポリカーボネート系ポリウレタンを主体とするポリウレタン組成物にカーボンブラックを加えて黒色に調色したポリウレタン組成物のジメチルホルムアミド溶液を牛革調のシボを有する離型紙上に塗布し、乾燥して厚さ20μmのフィルムを得た。得られたフィルム上に接着層として2液架橋型のポリウレタン組成物、ポリイソシアネート系硬化剤、アミン系触媒、ジメチルホルムアミドやメチルエチルケトン、トルエンなどを含む混合溶剤からなる溶液を塗布し、乾燥して、乾燥直後の粘着性を有する状態で、前記人工皮革のスライス処理により形成された面にプレスして貼り合わせた。貼り合わせたものを接着層の架橋を完了させるため60℃の雰囲気下で48時間処理した後、離型紙を剥がして、ポリウレタン組成物からなる黒色の被覆層が形成された人工皮革とした。
【0030】
実施例2
海成分としてポリエチレンを50質量部、島成分としてナイロン6を50質量部準備し、これらを同一溶融系で溶融紡糸して、断面における平均島本数約300本、単繊維繊度10dtexの海島型の極細繊維発生型複合繊維Aを製造した。この複合繊維を3.0倍に延伸し、捲縮を付与した後、繊維長51mmに切断し、カードで解繊した後クロスラップウェバーで目付300g/mのウェブ(Wa)とした。別途、110℃以上の熱水に可溶な単繊維繊度5dtexの水溶性ビニロン繊維Cに捲縮を付与した後、繊維長51mmに切断し、カードで解繊した後クロスラップウェバーで目付200g/mのウェブ(Wc)とした。次に、ウェブ(Wa)とウェブ(Wc)をWa−Wc−Waの順に重ね合わせ、ニードルパンチ法により絡合不織布全体として繊維Aや繊維Bの一部が厚さ方向に対して平行に近い配向状態となるように絡合一体化させて目付約750g/mの絡合不織布とした。 ニードルパンチ法の処理条件は、第一バーブが先端から5mmの位置にある針を使用し、突き刺し深さ8mmで、両面から合計で1200パンチ/cmのパンチ数とした。続いて、この絡合不織布を120℃の乾燥機内で加熱し、複合繊維のポリエチレンが軟化した状態で2本の冷却したロールでプレスして、全体の厚さを2.0mmに調整した。
【0031】
ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートから重合して得られたポリウレタン13質量部、ジメチルホルムアミド87質量部、その他微量のカーボンブラックや凝固調節剤よりなるポリウレタン組成物溶液を調整し、前記により得られた絡合不織布に塗布しつつロールにより強制的に押し込む方法により含浸し、水浴中でポリウレタン組成物を湿式凝固させ、さらに水洗してジメチルホルムアミドを除去した後、複合繊維中のポリエチレンを85〜110℃のトルエン浴中で抽出除去した。引き続いて、90〜100℃の水浴中でトルエンを共沸除去し、これを乾燥した後、厚さの中央でスライス処理により二分割した。二分割後にスチームを利用した120〜130℃の水浴中でリラックス処理しつつ水溶性ビニロン繊維を抽出除去して、平均単繊度が約0.008dtexのナイロン6極細繊維束からなる絡合不織布構造内にポリウレタン系弾性重合体が含有された厚さが0.7mmの人工皮革とした。
次いで、ポリカーボネート系ポリウレタンを主体とするポリウレタン組成物にカーボンブラックを加えて黒色に調色したポリウレタン組成物のジメチルホルムアミド溶液を牛革調のシボを有する離型紙上に塗布し、乾燥して厚さ20μmのフィルムを得た。得られたフィルム上に接着層として2液架橋型のポリウレタン組成物、ポリイソシアネート系硬化剤、アミン系触媒、ジメチルホルムアミドやメチルエチルケトン、トルエンなどを含む混合溶剤からなる溶液を塗布し、乾燥して、乾燥直後の粘着性を有する状態で、前記人工皮革のスライス処理により形成された面にプレスして貼り合わせた。貼り合わせたものを接着層の架橋を完了させるため60℃の雰囲気下で48時間処理した後、離型紙を剥がして、ポリウレタン組成物からなる黒色の被覆層が形成された人工皮革とした。
【0032】
比較例1
海成分としてポリエチレンを40質量部、島成分としてナイロン6を60質量部準備し、これらを別の溶融系で溶融した後で口金内で海島構造を形成させる複合紡糸法により紡糸して、断面における平均島本数5本、単繊維繊度10dtexの海島型極細繊維発生型複合繊維を製造し、これを使用した以外は実施例2と同様に処理を行い、ポリウレタン組成物からなる黒色の被覆層が形成された人工皮革を得た。得られた人工皮革における極細繊維の平均単繊度は約0.4dtexであった。
【0033】
比較例2
海成分としてポリエチレンを50質量部、島成分としてナイロン6を50質量部準備し、これらを同一溶融系で溶融紡糸して、断面における平均島本数約300本、単繊維繊度10dtexの海島型の極細繊維発生型複合繊維を製造した。この複合繊維を3.0倍に延伸し、捲縮を付与した後、繊維長51mmに切断して短繊維Aとした。別途、110℃以上の熱水に可溶な単繊維繊度5dtexの水溶性水溶性ビニロン繊維に捲縮を付与した後、繊維長51mmに切断して短繊維Cとした。得られた短繊維AおよびCを、短繊維A:短繊維C=40:60(質量比)で混合し、カードで解繊した後クロスラップウェバーで得られたウェブ(Wac)を積層して目付400g/mの積層体とした。得られた積層体をニードルパンチ法により処理して目付約370g/mの絡合不織布とした。ニードルパンチ法の処理条件は、実施例2と同様とした。以降、スライス処理を行なわない以外は実施例2と同様に処理して、ポリウレタン組成物からなる黒色の被覆層が形成された人工皮革を得た。
以下、実施例1〜2、比較例1〜2の評価結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明で得られる人工皮革、あるいはそれを用いた皮革様素材は、風合いが非常に柔軟で、厚さ方向のふくらみ感(例えば、適度な風合いと嵩高感・ボリューム感を併せ持つ状態)に優れるので、特に衣料、手袋やスポーツ靴などの身に付ける用途に使用する素材に適している。また、本発明によれば、従来の方法に比べて表面平滑性にも優れた人工皮革が得られるので、平滑な表面に表面被覆層を形成させたり、極細繊維立毛を形成させたりすることで、前記の優れた風合いと高品位な外観とを併せ持った、従来にない皮革様素材を得ることができ、衣料、手袋やスポーツ靴などの風合いのみならず外観をも重視される用途において非常に好適な素材を製造可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均単繊度が0.1dtex以下の極細繊維を発生する極細繊維発生型繊維Aを主体とする繊維質層と、長さが38mm以上で平均単繊度が2〜10dtexの水溶性繊維Bを主体とする繊維質層とからなる積層体を準備し、該積層体を絡合一体化して該繊維Aを主体として含む層Lと該繊維Bを主体として含む層Lとからなる絡合不織布とし、その内部に弾性重合体を含浸、凝固した後、該繊維Aから極細繊維を発生させると共に、該繊維Bを水で抽出して除去することを特徴とする人工皮革の製造方法。
【請求項2】
水溶性繊維Bが110℃以上の熱水に可溶な繊維である請求項1に記載の人工皮革の製造方法。
【請求項3】
層L内に含まれる水溶性繊維Bの割合が5〜50質量%である請求項1または2に記載の人工皮革の製造方法。
【請求項4】
弾性重合体含浸後、絡合不織布の表面に弾性重合体からなる被覆層を形成する工程を含む請求項1〜3いずれか1項に記載の人工皮革の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1項に記載の製造方法により得られる人工皮革。


【公開番号】特開2006−219788(P2006−219788A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−34594(P2005−34594)
【出願日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】