説明

人工関節置換術用緊張測定装置及び人工関節置換術用緊張測定方法

【課題】術者によるばらつきなく、関節部位の骨間での軟部組織による緊張力と骨間の距離とを容易且つ正確に把握することができ、その緊張力と骨間の距離との関係も容易且つ迅速に把握することができる、人工関節置換術用緊張測定装置を提供する。
【解決手段】骨間距離検出手段は、骨間距離変更手段11で変更された骨間の距離を検出する。骨間緊張力検出手段は、骨間の距離が変更されることで骨間において軟部組織によって生じた緊張力を検出する。記憶手段48は、骨間の距離の値である距離データと、緊張力の値である緊張力データとを、検出タイミングで対応させて記憶する。表示制御手段50は、記憶手段48の記憶内容に基づいて、距離データと緊張力データとがディスプレイ14に表示されるように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工関節置換術において用いられて人工股関節が適用される関節部位の骨間で軟部組織によって生じる緊張力と当該緊張力が生じているときにおける骨間の距離とを測定する人工関節置換術用緊張測定装置、及びこの人工関節置換術用緊張測定装置の作動方法である人工関節置換術用緊張測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、人工股関節置換術等のように、関節に異常が認められた患者に対してその関節を人工関節に置換する手術である人工関節置換術が行われている。このような人工関節置換術においては、人工関節を構成する骨コンポーネントを設置するに際して、適切なサイズの骨コンポーネントを適切な状態で配置することをトライアル部材を用いて検討する、人工関節の配置合わせの作業が行われる。この作業では、術者により、人工関節が適用される関節部位に配置されるトライアル部材が何度も取り替えられながらかかる人工関節の配置合わせの検討が行われ、関節部位の骨間での軟部組織(骨組織を除く線維組織、脂肪組織、血管等の結合組織)による緊張状態の決定や脱臼の確認が行われる。適切なサイズの骨コンポーネントが選択されておらず、軟部組織の緊張が不足している場合、人工関節の性能が損なわれることになり、脱臼が生じ易くなってしまう。一方、軟部組織の緊張が過多の場合、人工関節の早期摩耗や、痛みの発生、関節の可動域の制限といった問題を生じてしまうことになる。このため、人工関節置換術においては、人工関節が適用される関節部位の骨間での軟部組織によって生じる緊張力が適切に設定されることが重要となる。そして、人工股関節置換術では、上述のような術者による検討を経て、上記の緊張力とこの緊張力が生じているときにおける骨間の距離とが決定されることが多い。
【0003】
しかし、上述のように、トライアル部材を何度も取り替えながら上記の緊張力や骨間の距離を検討する場合、多くの作業時間を要することになり、更に低侵襲化を図るという観点からは望ましいとはいえない。また、術者が手の操作による感触によって軟部組織の緊張状態を評価するため、正確な感触を知るには術者のその分野における経験が必要となる。このため、術者による評価のばらつきが大きくなり易く、そのことに伴う不正確さを招き易いという問題がある。これに対して、特許文献1においては、人工関節が適用される骨間(大腿骨と骨盤との間)で軟部組織によって生じる緊張力とこの緊張力が生じているときにおける骨間の距離とを測定可能な人工関節置換術用緊張測定装置として、人工股関節置換術において用いられる均衡化装置が開示されている。
【0004】
特許文献1に開示された装置は、第1アームが設けられたフレームと、ラック及びピニオンで構成される駆動機構によって第1アームに対して相対移動可能な第2アームとを備えている。第1アーム及び第2アームにはそれぞれフォーク状部が設けられ、これらのフォーク状部が、大腿骨に係合するトライアル部材と骨盤の臼蓋に係合するトライアル部材との間に挿入される。また、特許文献1の装置には、上記のフレームに連結され、術者によるハンドル操作によって作動するトルクレンチが設けられた力付与器が備えられている。そして、特許文献1の装置では、上記のようにフォーク状部がトライアル部材の間に挿入された状態で上記の力付与器を術者が操作して第1アームに対して第2アームが相対移動することで、大腿骨と骨盤との間の距離が変更され、この骨間で軟部組織によって生じる緊張力も変化するように構成されている。また、特許文献1の装置では、フレームに設けられた目盛と第2アームに設けられた指標とからなる距離指示器によって、変更された骨間の距離を把握可能に構成されている。そして、トルクレンチに設けられた目盛盤と指針とからなる力指示器によって、骨間で軟部組織によって生じている緊張力を把握可能に構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−81905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された装置を用いることで、術者は、人工股関節が適用される股関節部位の骨間で軟部組織によって生じる緊張力とこの緊張力が生じているときの骨間の距離とを定量的に把握することができる。このため、術者による評価のばらつきが生じることに伴う不正確さを招くことを抑制することができる。しかしながら、軟部組織による緊張力を把握するためにはフレームに設けられた目盛を読み取る必要があり、骨間の距離を把握するためにはトルクレンチの目盛盤を読み取る必要がある。このため、人工関節置換術中において、上記の緊張力と骨間の距離とついての細かい目盛等をそれぞれ読み取るという煩雑な作業を要することになる。また、術者が特許文献1の装置を更に操作して骨間の距離を変更した場合、上記の緊張力と骨間の距離とについての測定結果が、測定タイミングごとに散発的に得られることになる。このため、術者は、上記の緊張力と骨間の距離との関係について術中に把握することが難しいという問題がある。尚、各測定タイミングの測定結果を随時記録しながら緊張力と骨間の距離との関係を把握することも考えられるが、この場合、煩雑で手間と時間を要する記録作業が必要となってしまう。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みることにより、術者による評価のばらつきが生じることに伴う不正確さを招くことを抑制できるとともに、関節部位の骨間での軟部組織による緊張力と骨間の距離とを容易且つ正確に把握することができ、更に、その緊張力と骨間の距離との関係も容易且つ迅速に把握することができる、人工関節置換術用緊張測定装置を提供することを目的とする。また、その人工関節置換術用緊張測定装置の作動方法である人工関節置換術用緊張測定方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための第1発明に係る人工関節置換術用緊張測定装置は、人工関節置換術において用いられ、人工関節が適用される関節部位の骨間で軟部組織によって生じる緊張力と当該緊張力が生じているときにおける骨間の距離とを測定する、人工関節置換術用緊張測定装置に関する。そして、第1発明に係る人工関節置換術用緊張測定装置は、少なくとも一部が骨間に配置され、骨間の距離を変更可能な骨間距離変更手段と、前記骨間距離変更手段で変更された骨間の距離を検出する骨間距離検出手段と、前記骨間距離変更手段で骨間の距離が変更されることで骨間において軟部組織によって生じた緊張力を検出する骨間緊張力検出手段と、前記骨間距離検出手段で検出された骨間の距離の値である距離データと、前記骨間緊張力検出手段で検出された前記緊張力の値である緊張力データとを、検出タイミングで対応させて記憶する記憶手段と、前記記憶手段に記憶された内容に基づいて、前記距離データと前記緊張力データとがディスプレイに表示されるように制御する表示制御手段と、を備えていることを特徴とする。
【0009】
この発明によると、骨間距離変更手段で人工関節が適用される関節部位の骨間の距離が変更され、この骨間の距離と骨間での軟部組織による緊張力とが検出される。検出された距離データ及び緊張力データは、検出タイミングで対応して記憶されてその記憶内容に基づいてディスプレイに表示される。このため、術者は関節部位の骨間での軟部組織による緊張力及び骨間の距離のデータ(緊張力データ及び距離データ)を定量的に把握でき、術者による評価のばらつきが生じることに伴う不正確さを招くことが抑制されることになる。そして、術者は、特許文献1に開示された装置を用いる場合のように緊張力と骨間の距離とについての細かい目盛等をそれぞれ読み取るという煩雑な作業を要することなく、ディスプレイの表示を確認するだけで関節部位の骨間での軟部組織による緊張力と骨間の距離とを容易且つ正確に把握することができる。また、術者が骨間距離変更手段を操作して骨間の距離を順次変更する場合、上記の緊張力と骨間の距離とについての測定結果が、すぐに自動的に且つ連続的にディスプレイに表示されることになる。このため、術者は、術中において、上記の緊張力と骨間の距離との関係について容易且つ迅速に把握することができる。そして、特許文献1に開示の装置を用いる場合のように各測定タイミングの測定結果を随時記録しながら緊張力と骨間の距離との関係を把握するという煩雑で手間と時間を要する記録作業も全く不要となる。
【0010】
従って、本発明によると、術者による評価のばらつきが生じることに伴う不正確さを招くことを抑制できるとともに、関節部位の骨間での軟部組織による緊張力と骨間の距離とを容易且つ正確に把握することができ、更に、その緊張力と骨間の距離との関係も容易且つ迅速に把握することができる、人工関節置換術用緊張測定装置を提供することができる。
【0011】
第2発明に係る人工関節置換術用緊張測定装置は、第1発明の人工関節置換術用緊張測定装置において、前記表示制御手段は、縦軸及び横軸のうちの一方を前記距離データに対応させ、縦軸及び横軸のうちの他方を前記距離データに検出タイミングが対応する前記緊張力データに対応させた状態で、前記距離データ及び前記緊張力データがディスプレイに2次元グラフとして表示されるように制御することを特徴とする。
【0012】
この発明によると、距離データが縦軸及び横軸の一方に対応し、距離データに対応する緊張力データが縦軸及び横軸の他方に対応した2次元グラフとして、これらの距離データ及び緊張力データがディスプレイに表示される。このため、術者は、骨間の距離の変化に伴う緊張力の連続的な変化の様子を簡単に且つ明瞭に把握でき、骨間の距離と緊張力との関係をさらに容易且つ正確に把握することができる。
【0013】
第3発明に係る人工関節置換術用緊張測定装置は、第1発明又は第2発明の人工関節置換術用緊張測定装置において、入力手段が操作されることによって入力された信号に基づいて、前記距離データと前記緊張力データとが検出されたときの状態を術者が判定するための判定データを発生させる判定データ発生手段を更に備え、前記記憶手段は、前記判定データを記憶するとともに、当該判定データに対応させて、前記距離データと前記緊張力データとを記憶し、前記表示制御手段は、前記記憶手段に記憶された内容に基づいて、前記距離データと前記緊張力データとが前記判定データに対応して区別された状態でディスプレイに表示されるように制御することを特徴とする。
【0014】
この発明によると、術者が距離データ及び緊張力データを検出するときの状態を変更して比較しながらデータの確認を行いたい場合、術者又は他の作業者が入力手段の操作を行う。これにより、距離データ及び緊張力データが検出されたときの状態を術者が判定するための判定データが発生し、距離データ及び緊張力データとともに記憶される。そして、距離データ及び緊張力データが、この判定データに対応して区別された状態でディスプレイに表示される。このため、術者は、ディスプレイを確認することで、距離データ及び緊張力データを検出するときの状態を変更することによる影響を比較しながら容易且つ正確に把握することができる。
【0015】
第4発明に係る人工関節置換術用緊張測定装置は、第3発明の人工関節置換術用緊張測定装置において、前記判定データが、人工関節が適用される関節部位において対向する骨と骨との相対位置関係である骨の姿勢の状態であって前記距離データと前記緊張力データとが検出されたときの骨の姿勢の状態を術者が判定するためのデータであることを特徴とする。
【0016】
この発明によると、術者が、距離データ及び緊張力データが検出されたときの骨の姿勢の状態を変更して比較しながらデータの確認を行いたい場合、例えば、関節を伸ばした状態や曲げた状態に変更して比較しながらデータの確認を行いたい場合、術者等が入力手段の操作を行う。これにより、距離データ及び緊張力データが検出されたときの骨の姿勢の状態を術者が判定するための判定データが発生し、距離データ及び緊張力データとともに記憶される。そして、距離データ及び緊張力データが、骨の姿勢の状態に対応して区別された状態でディスプレイに表示される。このため、術者は、ディスプレイを確認することで、距離データ及び緊張力データを検出するときの骨の姿勢の状態を関節を伸ばした状態や曲げた状態などに変更することによる影響を比較しながら容易且つ正確に把握することができる。
【0017】
第5発明に係る人工関節置換術用緊張測定装置は、第1発明乃至第4発明のいずれかの人工関節置換術用緊張測定装置において、前記骨間距離変更手段は、互いに対して相対変位が可能に連結されるとともに先端部分が骨間に配置される一対の変位部材を有し、前記骨間距離検出手段は、前記一対の変位部材における一方の部材に対する他方の部材の相対位置を検知する相対位置検知センサと、前記相対位置検知センサの検知結果に基づいて骨間の距離を演算する骨間距離演算手段と、を有し、前記骨間緊張力検出手段は、前記一対の変位部材に設けられて前記相対位置を維持可能な相対位置維持機構と、前記一対の変位部材から前記相対位置維持機構に作用する荷重を検知する荷重検知センサと、前記荷重検知センサの検知結果に基づいて前記緊張力を演算する骨間緊張力演算手段と、を有することを特徴とする。
【0018】
この発明によると、骨間距離変更手段における一対の変位部材の一方の部材に対する他方の部材の相対位置が検知され、この検知結果に基づいた演算により距離データが得られることになる。このため、一対の変位部材における相対位置を距離データに相関する物理量として検知することで、骨間の距離の値である距離データを容易に検出することができる。また、一対の変位部材に設けられた相対位置維持機構によって上記の相対位置が維持され、このときに一対の変位部材から相対位置維持機構に作用する荷重が検知され、この検知結果に基づいた演算により緊張力データが得られることになる。このため、相対位置維持機構に作用する荷重を緊張力データに相関する物理量として検知することで、緊張力の値である緊張力データを容易に検出することができる。
【0019】
第6発明に係る人工関節置換術用緊張測定装置は、第5発明の人工関節置換術用緊張測定装置において、前記一対の変位部材は、一方の部材に対して他方の部材が揺動することで相対変位が可能なように中途部分同士において連結された一対のレバー部材として設けられ、前記相対位置検知センサは、前記一対のレバー部材における一方の部材に対する他方の部材の揺動方向における相対角度を前記相対位置として検知し、前記相対位置維持機構は、前記相対角度を維持可能であることを特徴とする。
【0020】
この発明によると、一対の変位部材が中途部分同士で連結されて揺動する一対のレバー部材として設けられ、一対のレバー部材における所定の相対角度として相対位置が検知される。また、相対位置維持機構により上記の相対角度が維持され、相対位置維持機構に作用する荷重が検知される。このため、揺動自在に連結された一対のレバー部材を用いた簡素な構成によって、距離データ及び緊張力データを容易に検出することができる。
【0021】
第7発明に係る人工関節置換術用緊張測定装置は、第1発明乃至第6発明のいずれかの人工関節置換術用緊張測定装置において、人工関節が適用される関節部位における対向する骨と骨とのうちの一方に係合するように配置されて又は両方にそれぞれ係合するように一対配置されて人工関節の配置合わせの際に用いられるトライアル部材に取り付けられるとともに、前記骨間距離変更手段に取り付けられるアダプタ部材を更に備え、前記アダプタ部材として、前記トライアル部材に対する取付角度が異なる複数のアダプタ部材が設けられていることを特徴とする。
【0022】
この発明によると、人工関節を構成する骨コンポーネントを設置するに際して適切なサイズの骨コンポーネントを適切な状態で配置することを検討する人工関節の配置合わせの作業において用いられるトライアル部材に取り付けられるアダプタ部材が、骨間距離変更手段に取り付けられる。そして、このアダプタ部材として、トライアル部材に対する取付角度が異なるものが複数設けられる。このため、術者は、人工関節の配置合わせの検討において、上記取付角度の異なるアダプタ部材を簡単に取り替えて距離データ及び緊張力データを収集することができる。これにより、配置合わせの際に、人工関節が適用される関節部位の状態に適切に対応した骨コンポーネントの配置や形状、サイズを検討することが、より容易になる。
【0023】
第8発明に係る人工関節置換術用緊張測定装置は、第3発明の人工関節置換術用緊張測定装置において、人工関節が適用される関節部位における対向する骨と骨とのうちの一方に係合するように配置されて又は両方にそれぞれ係合するように一対配置されて人工関節の配置合わせの際に用いられるトライアル部材に取り付けられるとともに、前記骨間距離変更手段に取り付けられるアダプタ部材を更に備え、前記アダプタ部材として、前記トライアル部材に対する取付角度が異なる複数のアダプタ部材が設けられ、前記判定データは、複数の前記アダプタ部材のうちの前記トライアル部材に取り付けられた前記アダプタ部材の前記取付角度の状態であって前記距離データと前記緊張力データとが検出されたときの前記取付角度の状態を術者が判定するためのデータであることを特徴とする。
【0024】
この発明によると、第7発明と同様に、術者は、人工関節の配置合わせの検討において、トライアル部材に対する取付角度の異なるアダプタ部材を簡単に取り替えて距離データ及び緊張力データを収集することができる。これにより、配置合わせの際に、人工関節が適用される関節部位の状態に適切に対応した骨コンポーネントの配置や形状、サイズを検討することが、より容易になる。そして、本発明によると、術者が、距離データ及び緊張力データが検出されたときのアダプタ部材の取付角度の状態を変更して比較しながらデータの確認を行いたい場合、術者等が入力手段の操作を行う。これにより、距離データ及び緊張力データが検出されたときのアダプタ部材の取付角度の状態を術者が判定するための判定データが発生し、距離データ及び緊張力データとともに記憶される。そして、距離データ及び緊張力データが、アダプタ部材の取付角度の状態に対応して区別された状態でディスプレイに表示される。このため、術者は、ディスプレイを確認することで、距離データ及び緊張力データを検出するときのアダプタ部材の取付角度の状態を変更することによる影響を比較しながら容易且つ正確に把握することができる。
【0025】
第9発明に係る人工関節置換術用緊張測定装置は、第1発明乃至第8発明のいずれかの人工関節置換術用緊張測定装置において、人工股関節置換術において用いられ、人工股関節が適用される関節部位の骨盤と大腿骨との間で軟部組織によって生じる緊張力と当該緊張力が生じているときにおける骨盤と大腿骨との間の距離を測定することを特徴とする。
【0026】
この発明によると、術者による評価のばらつきが生じることに伴う不正確さを招くことを抑制できるとともに、股関節部位の骨盤と大腿骨との間での軟部組織による緊張力とこれらの骨間の距離とを容易且つ正確に把握することができ、更に、その緊張力と骨間の距離との関係も容易且つ迅速に把握することができる、人工股関節置換術用の緊張測定装置を提供することができる。
【0027】
また、前述の目的を達成するための第10発明に係る人工関節置換術用緊張測定方法は、人工関節置換術において、人工関節が適用される関節部位の骨間で軟部組織によって生じる緊張力と当該緊張力が生じているときにおける骨間の距離とを測定する、人工関節置換術用緊張測定方法であって、第1発明の人工関節置換術用緊張測定装置の作動方法として構成される。そして、第10発明に係る人工関節置換術用緊張測定方法は、骨間の距離を変更可能な骨間距離変更手段の少なくとも一部が骨間に配置される骨間距離変更手段配置ステップと、前記骨間距離変更手段で変更された骨間の距離を検出する骨間距離検出ステップと、前記骨間距離変更手段で骨間の距離が変更されることで骨間において軟部組織によって生じた緊張力を検出する骨間緊張力検出ステップと、前記骨間距離検出ステップで検出された骨間の距離の値である距離データと、前記骨間緊張力検出ステップで検出された前記緊張力の値である緊張力データとを、検出タイミングで対応させて記憶する記憶ステップと、前記記憶ステップにて記憶された内容に基づいて、前記距離データと前記緊張力データとがディスプレイに表示されるように制御する表示制御ステップと、を備えていることを特徴とする。
【0028】
この発明によると、第1発明の人工関節置換術用緊張測定装置の作動方法である、人工関節置換術用緊張測定方法が構成されることになる。よって、この発明によると、骨間距離変更手段で人工関節が適用される関節部位の骨間の距離が変更され、この骨間の距離と骨間での軟部組織による緊張力とが検出される。検出された距離データ及び緊張力データは、検出タイミングで対応して記憶されてその記憶内容に基づいてディスプレイに表示される。このため、術者は関節部位の骨間での軟部組織による緊張力及び骨間の距離のデータを定量的に把握でき、術者による評価のばらつきが生じることに伴う不正確さを招くことが抑制されることになる。そして、術者は、ディスプレイの表示を確認するだけで関節部位の骨間での軟部組織による緊張力と骨間の距離とを容易且つ正確に把握することができる。また、術者が骨間距離変更手段を操作して骨間の距離を順次変更する場合、上記の緊張力と骨間の距離とについての測定結果が、すぐに自動的に且つ連続的にディスプレイに表示されることになる。このため、術者は、術中において、上記の緊張力と骨間の距離との関係について容易且つ迅速に把握することができる。
【0029】
従って、この人工関節置換術用緊張測定方法の発明によると、術者による評価のばらつきが生じることに伴う不正確さを招くことを抑制できるとともに、関節部位の骨間での軟部組織による緊張力と骨間の距離とを容易且つ正確に把握することができ、更に、その緊張力と骨間の距離との関係も容易且つ迅速に把握することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によると、術者による評価のばらつきが生じることに伴う不正確さを招くことを抑制できるとともに、関節部位の骨間での軟部組織による緊張力と骨間の距離とを容易且つ正確に把握することができ、更に、その緊張力と骨間の距離との関係も容易且つ迅速に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施の形態に係る人工関節置換術用緊張測定装置の全体構成の概略を説明する概略図である。
【図2】人工股関節を示す断面図であり、大腿骨及び骨盤の断面の一部とともに示す図である。
【図3】図1に示す人工関節置換術用緊張測定装置における骨間距離変更器の斜視図である。
【図4】図3に示す骨間距離変更器の背面図である。
【図5】人工股関節置換術において術者によって操作されている図3に示す骨間距離変更器の状態を骨盤及び大腿骨等とともに示した図である。
【図6】図1に示す人工関節置換術用緊張測定装置におけるシェルアダプタについて、シェル部材とともに示す斜視図である。
【図7】図1に示す人工関節置換術用緊張測定装置におけるネックアダプタについて、トライアルステム部材とともに示す正面図である。
【図8】図7に示すネックアダプタを複数示す正面図である。
【図9】図1に示す人工関節置換術用緊張測定装置について制御装置及び演算装置の構成を機能ブロック図で示した図である。
【図10】図9に示す人工関節置換術用緊張測定装置におけるディスプレイの画面に表示された画像の例を示したものである。
【図11】図9に示す人工関節置換術用緊張測定装置におけるディスプレイの画面に表示された画像の例を示したものである。
【図12】図9に示す人工関節置換術用緊張測定装置におけるディスプレイの画面に表示された画像の例を示したものである。
【図13】図1に示す人工関節置換術用緊張測定装置の作動方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。本発明は、人工関節置換術において用いられて人工関節が適用される関節部位の骨間で軟部組織によって生じる緊張力と当該緊張力が生じているときにおける骨間の距離とを測定する人工関節置換術用緊張測定装置、及びこの人工関節置換術用緊張測定装置の作動方法である人工関節置換術用緊張測定方法として広く適用することができるものである。尚、以下の説明では、本発明が人工股関節置換術に適用される場合を例にとって説明するが、この例に限らず、人工股関節置換術以外の人工関節置換術(例えば、人工膝関節置換術や人工肘関節置換術など)において本発明を適用することもできる。
【0033】
図1は、本発明の一実施の形態に係る人工関節置換術用緊張測定装置1(以下、単に「緊張測定装置1」ともいう)の全体構成の概略を説明する概略図である。図1に示す緊張測定装置1は、人工股関節置換術において用いられる。一方、図2は、人工股関節を示す断面図であり、大腿骨100及び骨盤101の断面の一部とともに示している図である。人工股関節置換術においては、股関節部位に対して、図2に示す人工股関節が適用される。
【0034】
ここで、人工股関節について説明する。人工股関節は、その骨コンポーネントとして、ステム部材102、シェル部材103、ライナー部材104、骨頭ボール部材105を備えて構成されている。ステム部材102は、大腿骨100の髄腔部100aに一端側が埋植される棒状に形成される。そして、ボール状に形成された骨頭ボール部材105が、ステム部材102の他端側に取り付けられる。一方、半球殻状に形成されたシェル部材103は、骨盤101の臼蓋101aに配置され、シェル部材103の内側に、シェル部材103よりも小径の半球殻状に形成されたライナー部材104が配置される。そして、ライナー部材104の内面に対して骨頭ボール部材105が摺接するように配置されることで、人工股関節が構成されることになる。
【0035】
人工股関節置換術では、股関節を上述した人工股関節に置換する手術が行われるが、このとき、術者は、骨コンポーネント(102、103、104、105)を設置するに際して、適切なサイズの骨コンポーネントを適切な状態で配置することをトライアル部材を用いて検討する人工関節の配置合わせの作業をまず行う。この配置合わせの作業においては、人工股関節が適用される関節部位の骨盤101と大腿骨100との間で軟部組織(骨組織を除く線維組織、脂肪組織、血管等の結合組織)によって生じる緊張力が適切に決定される必要がある(図2では、軟部組織の図示を省略)。このため、適切な緊張力を生じさせる骨盤101と大腿骨100との間の距離が決定される必要があり、この距離を規定する寸法となるステム部材102の頸部102aの長さ寸法がとくに重要となる。そして、術者は、図1に示す緊張測定装置1を用いることで、骨盤101及び大腿骨100の間の軟部組織による緊張力とこの緊張力が生じているときにおける骨盤101及び大腿骨100の間の距離とを測定し、この測定結果に基づいて、適切な長さの頸部102aを有するステム部材102及び適切な内面テーパを有する骨頭ボール部材105を決定することになる。
【0036】
次に、緊張測定装置1について詳しく説明する。図1に示すように、緊張測定装置1は、骨間距離変更器(骨間距離変更手段)11と、制御装置12と、演算装置13と、ディスプレイ14と、キーボード或いはマウス等のポインティングデバイスで構成される入力手段15と、相対位置検知センサ24と、相対位置維持機構28と、ロードセル33と、シェルアダプタ35と、ネックアダプタ36と、を備えて構成されている。また、図3は骨間距離変更器11の斜視図を示したものであり、図4は図3とは反対側から見た骨間距離変更器1の背面図を示したものである。図3及び図4に示すように、骨間距離変更器11は、一対のレバー部材21と、連結軸34と、を備えて構成されている。
【0037】
一対のレバー部材21は、それぞれ湾曲する部分を有するように形成されるとともに線対称の配置状態で連結された一対の細長い部材(22、23)として設けられている。この一対のレバー部材21は、一方の部材22に対して他方の部材23が揺動することで互いに対して相対変位が可能なように中途部分同士において連結されている。そして、連結軸34は、一方の部材22と他方の部材23とが連結されているそれらの中途部分に配置されている。尚、連結軸34は、他方の部材23に形成された孔(図示せず)に対して回転自在な状態で貫通するとともに、その両端側においてそれぞれ一方の部材22に固定されている。このため、一方の部材22と他方の部材23とが連結軸34を中心として互いに揺動可能に構成されている。
【0038】
図5は、人工股関節置換術において術者によって操作されている骨間距離変更器11の状態を骨盤101及び大腿骨100等とともに示した図である。図5では、軟部組織の図示は省略している。この図5に示すように、骨盤101と大腿骨100との間の距離の測定の際には、一対のレバー部材21は、その先端部分、即ち、一方の部材22の先端部分22aと他方の部材23の先端部分23aとが、骨盤101と大腿骨100との間に配置されることになる。尚、本実施形態では、この一対のレバー部材21が、互いに対して相対変位が可能に連結されるとともに先端部分(22a、23a)が骨(100、101)間に配置される一対の変位部材を構成している。そして、骨間距離変更器11が、その一部(22a、23a)が骨(100、101)間に配置されて骨(100、101)間の距離を変更可能な本実施形態の骨間距離変更手段を構成している。
【0039】
図3及び図4に示す相対位置検知センサ24は、大径のスパーギア25と、小径のピニオンギア26と、ポテンショメータ27と、を備えて構成されている。スパーギア25は、連結軸34が配置される位置である一対のレバー部材21の揺動中心位置を中心として配置されており、連結軸34における一方の部材22から突出した端部に固定されている。ピニオンギア26は、その軸方向がスパーギア25の軸方向(即ち、連結軸34の軸方向)と平行に配置され、スパーギア25と噛み合うように配置されている。また、ピニオンギア26の軸は、スパーギア25と噛み合う側とは反対側の端部においてポテンショメータ27に取り付けられている。ポテンショメータ27は、ピニオンギア26の軸の回転角度を検知するロータリーポテンショメータとして構成され、一方の部材22に取り付けられている。このように、相対位置検知センサ24は、連結軸34に固定されたスパーギア25とスパーギア25に噛み合うピニオンギア26とピニオンギア26の回転角度を検知するポテンショメータ27とを備えているため、一対のレバー部材21における一方の部材22に対する他方の部材23の揺動方向における相対角度を検知できるように構成されている。尚、本実施形態では、上記の相対角度が、一対の変位部材21における一方の部材22に対する他方の部材23の相対位置として検知されることになる。
【0040】
図3及び図4に示す相対位置維持機構28は、一対のレバー部材21に設けられており、ハンドル29と、スクリュー軸30と、取付部材(31、32)と、を備えて構成されている。取付部材31は一方の部材22に対して揺動可能に取り付けられ、取付部材32は他方の部材23に対して揺動可能に取り付けられている。そして、スクリュー軸30は、一端側が取付部材32を貫通し、取付部材31に取り付けられたロードセル33に対して他端側が連結されている。また、スクリュー軸30における取付部材32を貫通する一端側の端部には、取付部材32に対して回転自在に保持されたハンドル29がその中心位置において螺合して取り付けられている。術者が、例えば一方の手で骨間距離変更器11を把持した状態で他方の手でハンドル29の回転操作を行うことで、ハンドル29がスクリュー軸30に対して回転する。これにより、取付部材(31、32)の間でスクリュー軸30及びロードセル33を介して連結された一方の部材22と他方の部材23との相対位置が変更されることになる。そして、ハンドル29の回転操作を停止すると、ハンドル29、スクリュー軸30及び取付部材(31、32)を備えて構成される相対位置維持機構28によって、一方の部材22に対する他方の部材23の相対位置である前述の相対角度が維持されることになる。
【0041】
図3及び図4に示すロードセル33は、例えば歪ゲージ式のロードセルとして構成されており、取付部材31に取り付けられている。そして、前述のように、スクリュー軸30におけるハンドル29が取り付けられた側とは反対側の端部がロードセル33に連結されており、ハンドル29の回転操作に伴って一方の部材22と他方の部材23との相対位置が変更されることによってスクリュー軸30に作用する荷重がこのロードセル33によって検知されるように構成されている。即ち、本実施形態では、ロードセル33が、一対のレバー部材21から相対位置維持機構28に作用する荷重を検知する荷重検知センサを構成している。
【0042】
図6は、シェルアダプタ35について、シェル部材103とともに示す斜視図である。尚、図6では、シェルアダプタ35をシェル部材103に取り付けるための手術用器具であって、ソケット部107aとハンドル部107bとが設けられたTレンチ107の斜視図もあわせて示している。図1、図5及び図6に示すシェルアダプタ35は、ブロック状の部材として設けられ、大腿骨100と骨盤101との間の距離を測定するために一対のレバー部材21の先端部分(22a、23a)が骨(100、101)間に挿入された際に、シェル部材103と先端部分22aとの間に配置される。シェルアダプタ35には、一方の端部にネジ部35aが設けられ、他方の端部に嵌合部35bが設けられている。ネジ部35aは、雄ネジ部分として形成され、半球殻状のシェル部材103の内側の中心部分においてネジ穴として形成された雌ネジ部分に対して、図6中に破線の矢印で示す方向において螺合可能に形成されている。嵌合部35bは、半球面状の部分として形成されており、一対のレバー部材21における一方の部材22の先端部分22aにおいて開口形成された半球状の内面を有する嵌合穴22b(図3参照)に嵌合可能に形成されている。
【0043】
シェルアダプタ35のシェル部材103と先端部分22aとの間への配置に際しては、まず、シェル部材103が臼蓋101aに取り付けられる。そして、シェルアダプタ35の嵌合部35bが図6中破線の矢印で示す方向においてTレンチ107のソケット部107aの穴に嵌め込まれた状態でネジ部35bがシェル部材103の上記の雌ネジ部分に合わせられる。この状態で、術者がTレンチ107のハンドル部107bを回転操作することで、ネジ部35aがシェル部材103の雌ネジ部分と螺合し、シェルアダプタ35がシェル部材103に取り付けられることになる。そして、一対のレバー部材21の先端部分(22a、23a)が骨(100、101)間に挿入され、一方の部材22の先端部分22aがその嵌合穴22bにおいて嵌合部35bに嵌合するように配置される。これにより、シェルアダプタ35が骨間距離変更器11に取り付けられ、一対のレバー部材21の揺動動作に伴ってシェルアダプタ35及びシェル部材103を介して骨盤101が一対のレバー部材21によって付勢されることになる。
【0044】
図7は、ネックアダプタ36について、トライアルステム部材106とともに示す正面図である。トライアルステム部材106は、人工股関節が適用される股関節部位における対向する大腿骨100と骨盤101とのうちの一方の大腿骨100に係合するように配置されて人工股関節の配置合わせの際に用いられるトライアル部材である。このトライアルステム部材106は、人工股関節の配置合わせの際に、図5に示すように、大腿骨100の髄腔部100aに挿入される。そして、トライアルステム部材106には、髄腔部100aに埋入される部分である本体部106aから突出するように形成されてネックアダプタ36が取り付けられる部分である取付突起部106bが設けられている。
【0045】
図1、図5及び図7に示すネックアダプタ36は、ブロック状の部材として設けられ、大腿骨100と骨盤101との間の距離を測定するために一対のレバー部材21の先端部分(22a、23a)が骨(100、101)間に挿入された際に、トライアルステム部材106と先端部分23aとの間に配置される。このネックアダプタ36は、トライアルステム部材106に取り付けられるとともに骨間距離変更器11に取り付けられる本実施形態におけるアダプタ部材を構成している。ネックアダプタ36には、嵌合部37、取付穴部38及び突起39が設けられている。
【0046】
ネックアダプタ36の嵌合部37は、縁部分に面取りが施された円柱状の端部として形成されており、一対のレバー部材21における他方の部材23の先端部分23aにおいて開口形成された円形断面の穴(図示せず)に嵌合可能に形成されている。取付穴部38は、ネックアダプタ36において嵌合部とは反対側の端部に開口する穴として設けられており、トライアルステム部材106の取付突起部106bが図7中破線の矢印で示す方向において嵌合可能に形成されている。このように取付穴部38が取付突起部106bと嵌合することで、ネックアダプタ36がトライアルステム部材106に対して取り付けられることになる。尚、嵌合部37の円柱中心線方向に対し、取付穴部38及び取付突起部106bの嵌合方向である取付穴部38の中心線方向は傾いており、この傾きによって、ネックアダプタ36のトライアルステム部材106に対する取付角度が規定されることになる。また、ネックアダプタ36における取付穴部38が開口する端部には、突起39が設けられている。この突起39は、トライアルステム部材106の本体部106aにおける取付突起部106bが突出する端部に形成された穴106cに嵌合可能に形成されている。取付突起部106bの端部に形成された穴106cと突起39とが嵌合することでトライアルステム部材106に対するネックアダプタ36の取付突起部106bを中心とした回転方向のずれを防止できるように(回転止めとなるように)構成されている。
【0047】
ネックアダプタ36のトライアルステム部材106と先端部分23aとの間への配置に際しては、術者によって、まず、トライアルステム部材106が大腿骨100の髄腔部100aに挿入される(図5参照)。次に、取付穴部38と取付突起部106bとが嵌合するとともに突起39と本体部106aの端部の穴とが嵌合するように、ネックアダプタ36がトライアルステム部材106に対して取り付けられる。そして、一対のレバー部材21の先端部分(22a、23a)が骨(100、101)間に挿入され、他方の部材23の先端部分23aがその円形断面の穴(図示せず)において嵌合部37に嵌合するように配置される。これにより、ネックダプタ36が骨間距離変更器11に取り付けられ、一対のレバー部材21の揺動動作に伴ってネックダプタ36及びトライアルステム部材106を介して大腿骨100が一対のレバー部材21によって付勢されることになる。
【0048】
また、緊張測定装置1においては、図8(a)乃至(c)に示すように、ネックアダプタ36として、トライアルステム部材106に対する前述の取付角度(嵌合部37の中心線L1の方向に対する取付穴部38の中心線L2の方向)が異なる複数(本実施形態では3個)のネックアダプタ(36a、36b、36c)が備えられている。尚、嵌合部37の中心線L1と取付穴部38の中心線L2とのなす角度(鋭角の方の角度)である取付角度として、図8(a)に示すネックアダプタ36aの取付角度はα°、図8(b)に示すネックアダプタ36bの取付角度はβ°、図8(c)に示すネックアダプタ36cの取付角度はγ°にそれぞれ設定された場合を示している。緊張測定装置1を使用する際、術者は、複数のネックアダプタ36(36a〜36c)のうち任意の1つを選択してトライアルステム部材106に取り付けることができ、また適宜、トライアルステム部材106取り付けたネックアダプタ36を取り外して他のネックアダプタ36に取り替えることもできる。尚、上記の取付角度(α°、β°、γ°)の具体的な値や組み合わせ、ネックアダプタ36の個数については、任意に設定することができる。
【0049】
次に、演算装置13及び制御装置12について説明する。演算装置13及び制御装置12は、骨間距離変更器11が図5に示すように配置されている状態で用いられる。図5に示す状態では、大腿骨100に配置されたトライアルステム部材106にネックアダプタ36が取り付けられ、臼蓋101aに配置されたシェル部材103にシェルアダプタ35が取り付けられている。そして、骨間距離変更器11における先端部分(22a、23a)が骨(100、101)間に配置されるとともに、先端部分22aがシェルアダプタ35に、先端部分23aがネックアダプタ36にそれぞれ取り付けられている。この状態において、電源が投入された演算装置13及び制御装置12が作動することになる。
【0050】
演算装置13は、図1に示すように、LED(Light Emitting Diode)表示部40、演算回路41、インターフェイス回路(I/F回路)42等を備えて構成されており、相対位置検知センサ24のポテンショメータ27及びロードセル33に接続されている。この制御装置13においては、ポテンショメータ27及びロードセル33で検知された電圧信号としての検知結果が入力され、この検知結果がインターフェイス回路42においてアナログ信号からデジタル信号に変換され、演算回路41にて後述する演算処理が行われる。また、演算回路41で処理された演算結果は、LED表示部40において所定のLEDが点灯(発光)することによってリアルタイムに表示される。図9は、緊張測定装置1について制御装置12及び演算装置13の構成を機能ブロック図で示した図である。図9に示すように、演算装置13内には、上記の演算回路41によって、骨間距離演算部(骨間距離演算手段)46と、骨間緊張力演算部(骨間緊張力演算手段)47とが構築されている。
【0051】
図9に示す骨間距離演算部46は、相対位置検知センサ24のポテンショメータ27の検知結果に基づいて、大腿骨100と骨盤101との間で軟部組織による緊張力が生じているときの骨(100、101)間の距離D(図5中において両端矢印で示す距離であり、以下単に「骨間の距離D」ともいう)を演算する。本実施形態では、骨間の距離Dが、半球状の内面を有する臼蓋101aの半球中心位置(半球殻状のシェル部材103の球殻の中心位置)と、大腿骨100の骨盤101に対向する端部の中心位置(トライアルステム部材106の本体部106bのネックアダプタ36が取り付けられる端部の中心位置)との間の距離として、骨間距離演算部46によって演算される場合を例示している。尚、骨間の距離Dとしては、上記の例示した距離に限らず、種々変更して設定することができる。例えば、シェルアダプタ35における半球面状の部分として形成された嵌合部35bの表面を球表面の一部として持つ球の中心位置と、大腿骨100の骨盤101に対向する端部の中心位置との間の距離が、骨間の距離Dとして設定されてもよい。
【0052】
骨間距離演算部46では、ポテンショメータ27で検知されたピニオンギア26の軸の回転角度に基づいて、ピニオンギア26及びスパーギア25のそれぞれの歯数やピッチ円の半径寸法、連結軸34の中心位置と先端部分(22a、23a)の中心位置との距離寸法、先端部分(22a、23a)の厚み寸法、シェルアダプタ35及びネックアダプタ36の寸法などの値を用い、骨間の距離Dが演算される。そして、演算装置13の作動中においては骨間距離演算部46では上述した骨間の距離Dの演算が常時行われる。このため、骨間距離変更器11が術者によって操作されて一対のレバー部材21が揺動して先端部分22aと先端部分23aとの間の隙間が変更されると、この骨間距離変更器11で変更された骨間の距離Dも常時検出されることになる。尚、相対位置検知センサ24と骨間距離演算部46とによって、骨間距離変更器11で変更された骨間の距離Dを検出する本実施形態の骨間距離検出手段が構成されている。この骨間距離検出手段によって骨間の距離Dが検出され、骨間の距離Dの測定結果が得られることになる。
【0053】
図9に示す骨間緊張力演算部47は、ロードセル33の検知結果に基づいて、大腿骨100と骨盤101との間で軟部組織によって生じる緊張力(以下単に「緊張力」ともいう)を演算する。この骨間緊張力演算部47では、ロードセル33で検知された相対位置維持機構28に作用する荷重に基づいて、取付部材31及び取付部材32のそれぞれの揺動中心位置と連結軸34の中心位置と先端部分(22a、23a)の中心位置との関係で特定される距離寸法などの値を用い、緊張力が演算される。そして、演算装置13の作動中においては骨間緊張力演算部47では上述した緊張力の演算が常時行われる。このため、骨間距離変更器11が術者によって操作されて骨間の距離Dが変更されると、それにより変化した緊張力も常時検出されることになる。尚、本実施形態では、相対位置維持機構28とロードセル33と骨間緊張力演算部47とによって、骨間距離変更器11で骨間の距離Dが変更されることで骨(100、101)間において軟部組織によって生じた緊張力を検出する本実施形態の骨間緊張力検出手段が構成されている。この骨間緊張力検出手段によって緊張力が検出され、緊張力の測定結果が得られることになる。
【0054】
制御装置12は、例えば汎用のパーソナルコンピュータ等を用いて構成することができ、図1に示すように、CPU(Central Processing Unit)43、メモリ44、インターフェイス回路(I/F回路)45等を備えて構成され、演算装置13とディスプレイ14と入力手段15とに接続されている。この制御装置12においては、演算装置13で処理された骨間の距離D及び緊張力についての演算結果の信号と入力手段15の操作で入力された信号とがインターフェイス回路45を介して入力され、メモリ44に記憶され、CPU43にて処理される。そして、CPU43での処理結果としての映像信号がインターフェイス回路45を介してディスプレイ14に出力され、ディスプレイの画面に所定の画像が表示される。また、メモリ44には、ディスプレイ14への表示を制御する制御装置12としての処理を行うためのプログラムが記憶されており、CPU43により読み出されて実行される。そして、図9に示すように、制御装置12内には、上記のCPU43とメモリ44とメモリ44に記憶されたプログラムとによって、記憶部(記憶手段)48と、判定データ発生部(判定データ発生手段)49と、表示制御部(表示制御手段)50とが構築されている。
【0055】
図9に示す記憶部48は、メモリ44によって構成されている。そして、この記憶部48は、前述の骨間距離検出手段で検出された骨間の距離Dの値である距離データと、前述の骨間緊張力検出手段で検出された緊張力の値である緊張力データとを、検出タイミングで対応させて記憶する。
【0056】
図9に示す表示制御部50は、所定のプログラムを読み出して実行するCPU43によって構成され、記憶部48に記憶された内容(検出タイミングで対応させて記憶された距離データや緊張力データ等)に基づいて、上記の距離データと緊張力データとがディスプレイ14に表示されるように制御する。図10は、表示制御部50の制御に基づいてディスプレイ14の画面に表示された画像の例を示したものである。図10の画像例に示すように、表示制御部50は、横軸を距離データに対応させ、縦軸を距離データに検出タイミングが対応する緊張力データに対応させた状態で、距離データ及び緊張力データがディスプレイ14に2次元グラフとして表示されるように制御する。尚、図10では、縦軸及び横軸の具体的な数値の図示については省略している。図10に例示するように、緊張測定装置1では、骨間距離変更器11と骨間距離検出手段と骨間緊張力検出手段とによって測定された距離データ及び緊張力データが制御装置12での制御に基づいてディスプレイ14の画面にそれらの相関関係を示す画像として表示されることになる。
【0057】
図9に示す判定データ発生部49は、術者や他の作業者によって入力手段15が操作されることによって(キーボード操作やマウス操作等が行われることによって)入力された信号に基づいて、距離データと緊張力データとが検出されたときの状態を術者が判定するための判定データを発生させる。この判定データは、記憶部48において記憶される。そして、記憶部48では、その判定データに対応させて、距離データと緊張力データとを記憶する。また、表示制御部50では、記憶部48に記憶された内容に基づいて、距離データと緊張力データとが判定データに対応して区別された状態でディスプレイ14に表示されるように制御する。
【0058】
図10の画像例は術者等(術者や他の作業者)が判定データを発生させるための入力手段15の操作を行っていない場合の例を示したものである。これに対し、図11及び図12の画像例は、術者等による入力手段15の操作が行われて判定データが発生し、距離データと緊張力データとが判定データに対応して区別された状態でディスプレイ14に表示された例を示したものである。そして、図11は、距離データと緊張力データとが検出されるときの状態を術者が任意に3パターンに変更した場合に、各状態の判定データに対応して区別されて距離データ及び緊張力データが表示された画像例を示している。この図11の例では、術者等による入力手段15の操作に基づいて3つの状態(状態A、状態B、状態C)に対応する判定データがそれぞれ発生し、各状態ごとに距離データと緊張力データとの相関を示す線画像が線の種類を変えることで区別して表示されている。即ち、状態Aに対応する距離データ及び緊張力データは実線で、状態Bに対応する距離データ及び緊張力データは一点鎖線で、状態Cに対応する距離データ及び緊張力データは破線で表示されている。尚、線の色を変えることで各状態に対応するデータが区別されて表示されるものであってもよい。
【0059】
上述の図11の画像例では、各状態(A、B、C)としてどのような状態を対応させるかについては、術者が任意に想定することができる。例えば、判定データを、人工股関節が適用される股関節部位において対向する大腿骨100と骨盤101との相対位置関係である骨の姿勢であって距離データと緊張力データとが検出されたときに骨の姿勢の状態を術者が判定するためのデータとして設定することもできる。具体的には、骨盤101に対向する大腿骨100の向きを変更した状態(例えば、股関節において足を真っ直ぐに伸ばした状態や角度を種々変更して曲げた状態)や、大腿骨100を骨盤101に対して種々回転方向の角度を変更して捩れの位置に配置した状態などに対応する種々の判定データに設定することができる。
【0060】
図12は、判定データが、複数のネックアダプタ36(36a、36b、36c)のうちトライアルステム部材106に取り付けられたネックアダプタ36の取付角度の状態であって距離データと緊張力データとが検出されたときの取付角度の状態を術者が判定するためのデータである場合の画像例である。この場合、制御装置12の判定データ発生部49及び入力手段15は、術者等がネックアダプタ36の取付角度(α°、β°、γ°)を選択する入力操作を行うことができ、その入力操作に基づいて判定データを発生させるように構成される。従って、術者は、トライアルステム部材106に取り付けられているネックアダプタ36(36a〜36cのいずれか)の取付角度(α°、β°、γ°のうちのいずれか)を選択する入力操作を行うことになる。また、術者がトライアルステム部材106に取り付けたネックアダプタ36を取付角度の異なる他のネックアダプタ36に取り替えた場合、再度、取付角度を選択する上記の入力操作が術者等によって行われる。この図12の例では、術者等による入力手段15の操作に基づいて選択操作された取付角度に対応する判定データがそれぞれ発生し、各取付角度の状態ごとに距離データと緊張力データとの相関を示す線画像が線の種類を変えることで区別して表示されている。即ち、α°の取付角度に対応する距離データ及び緊張力データは実線で、β°の取付角度に対応する距離データ及び緊張力データは一点鎖線で、γ°の取付角度に対応する距離データ及び緊張力データは破線で表示されている。
【0061】
次に、本発明の実施形態に係る人工関節置換術用緊張測定方法である緊張測定装置1の作動方法(以下、単に「緊張測定方法」ともいう)について説明する。この緊張測定方法は、人工股関節置換術において用いられ、人工股関節が適用される股関節部位の大腿骨100と骨盤101との間で軟部組織によって生じる前述した緊張力とこの緊張力が生じているときにおける骨間の距離Dとを測定する方法として用いられる。図13は、緊張測定方法を示すフローチャートである。図13に示すように、緊張測定方法は、骨間距離変更手段配置ステップS101と、骨間距離検出ステップS102と、骨間緊張力検出ステップS103と、記憶ステップS104と、表示制御ステップS105と、を備えて構成されている。
【0062】
緊張測定方法を実施する際、即ち、緊張測定装置1を作動させる際には、まず、大腿骨100にトライアルステム部材106が配置されるとともに、骨盤101の臼蓋101aにシェル部材103が配置される。次いで、トライアルステム部材106に対して術者が所望する取付角度のネックアダプタ36が取り付けられ、シェル部材103に対してシェルアダプタ35が取り付けられる。そして、骨間距離変更手段配置ステップS101において、骨間の距離Dを変更可能な骨間距離変更器11における一対のレバー部材21の先端部分(22a、23a)が骨間(100、101)に配置される。このとき、先端部分22aの嵌合穴22bにシェルアダプタ35の嵌合部35bが取り付けられ、先端部分23aにおける円形断面の穴にネックアダプタ36の嵌合部37が取り付けられる。
【0063】
骨間距離変更手段配置ステップS101が終了すると、骨間距離検出ステップS102において、前述したように、相対位置検知センサ24及び演算装置13の骨間距離演算部46で構成される骨間距離検出手段の作動によって、骨間距離変更器11によって変更された骨間の距離Dが検出される。そして、骨間緊張力検出ステップS103において、前述したように、相対位置維持機構28とロードセル33と演算装置13の骨間緊張力演算部47とで構成される骨間緊張力検出手段の作動によって、骨間距離変更器11で骨間の距離Dが変更されることで骨間(100、101)において軟部組織によって生じた緊張力が検出される。
【0064】
骨間距離検出ステップS102で骨間の距離Dが検出され、骨間緊張力検出ステップS103で緊張力が検出されると、続いて、制御装置12の作動によって、記憶ステップS104が行われる。記憶ステップS104においては、骨間の距離Dの値である距離データと緊張力の値である緊張力データとが、検出タイミングで対応して記憶される。尚、術者等による入力手段15の操作に伴う判定データ発生部49の作動があった場合には、判定データに対応して距離データ及び緊張力データが記憶される。そして、更に、制御装置12の作動によって、表示制御ステップS105が行われる。表示制御ステップS015においては、記憶ステップS104にて記憶された内容に基づいて、距離データと緊張力データとをディスプレイ14の画面に図10の画像例等のように表示するための制御が行われる。尚、このとき、判定データ発生部49の作動が行われていた場合には、距離データと緊張力データとが判定データに対応して区別された状態でディスプレイ14の画面に図11又は図12の画像例等のように表示されることになる。
【0065】
上記のステップS102からステップS105までが行われると、緊張測定装置1の作動を終了させるための終了操作が術者等によって行われているかどうかが制御装置12において判断される(ステップS106)。終了操作が行われていなければ(S106、No)、ステップS102からステップS105までの処理が繰り返されることになる。一方、終了操作が行われていれば(S106、Yes)、緊張測定装置1の作動方法である緊張測定方法が終了することになる。尚、ステップS102からステップS105までの処理は、所定の演算周期時間又は制御周期時間ごとに繰り返し行われる。
【0066】
以上説明した緊張測定装置1及びその作動方法である緊張測定方法によると、骨間距離変更器11で人工股関節が適用される股関節部位の骨(100、101)間の距離Dが変更され、この骨間の距離Dと骨(100、101)間での軟部組織による緊張力とが検出される。検出された距離データ及び緊張力データは、検出タイミングで対応して記憶されてその記憶内容に基づいてディスプレイ14に表示される。このため、術者は関節部位の骨(100、101)間での軟部組織による緊張力及び骨間の距離のデータ(緊張力データ及び距離データ)を定量的に把握でき、術者による評価のばらつきが生じることに伴う不正確さを招くことが抑制されることになる。そして、術者は、ディスプレイ14の表示を確認するだけで骨(100、101)間での軟部組織による緊張力と骨間の距離Dとを容易且つ正確に把握することができる。また、術者が骨間距離変更器11を操作して骨間の距離Dを順次変更する場合、緊張力と骨間の距離Dとについての測定結果が、すぐに自動的に且つ連続的にディスプレイ14に表示されることになる。このため、術者は、術中において、緊張力と骨間の距離Dとの関係について容易且つ迅速に把握することができる。
【0067】
従って、本実施形態によると、術者による評価のばらつきが生じることに伴う不正確さを招くことを抑制できるとともに、股関節部位の骨(100、101)間での軟部組織による緊張力と骨間の距離Dとを容易且つ正確に把握することができ、更に、その緊張力と骨間の距離Dとの関係も容易且つ迅速に把握することができる。
【0068】
また、緊張測定装置1によると、距離データが横軸に対応し、距離データに対応する緊張力データが縦軸に対応した2次元グラフとして、これらの距離データ及び緊張力データがディスプレイ14に表示される。このため、術者は、骨間の距離Dの変化に伴う緊張力の連続的な変化の様子を簡単に且つ明瞭に把握でき、骨間の距離Dと緊張力との関係をさらに容易且つ正確に把握することができる。
【0069】
また、緊張測定装置1によると、術者が距離データ及び緊張力データを検出するときの状態を変更して比較しながらデータの確認を行いたい場合、術者等が入力手段15の操作を行う。これにより、距離データ及び緊張力データが検出されたときの状態を術者が判定するための判定データが発生し、距離データ及び緊張力データとともに記憶される。そして、距離データ及び緊張力データが、この判定データに対応して区別された状態でディスプレイ14に表示される。このため、術者は、ディスプレイ14を確認することで、距離データ及び緊張力データを検出するときの状態を変更することによる影響を比較しながら容易且つ正確に把握することができる。
【0070】
また、緊張測定装置1によると、術者が、距離データ及び緊張力データが検出されたときの骨の姿勢の状態を変更して比較しながらデータの確認を行いたい場合、例えば、関節を伸ばした状態や曲げた状態に変更して比較しながらデータの確認を行いたい場合、術者等が入力手段15の操作を行う。これにより、距離データ及び緊張力データが検出されたときの骨の姿勢の状態を術者が判定するための判定データが発生し、距離データ及び緊張力データとともに記憶される。そして、距離データ及び緊張力データが、骨の姿勢の状態に対応して区別された状態でディスプレイ14に表示される。このため、術者は、ディスプレイ14を確認することで、距離データ及び緊張力データを検出するときの骨の姿勢の状態を関節を伸ばした状態や曲げた状態などに変更することによる影響を比較しながら容易且つ正確に把握することができる。
【0071】
また、緊張測定装置1によると、骨間距離変更器11における一対の変位部材21の一方の部材22に対する他方の部材23の相対位置が検知され、この検知結果に基づいた演算により距離データが得られることになる。このため、一対の変位部材21における相対位置を距離データに相関する物理量として検知することで、骨間の距離Dの値である距離データを容易に検出することができる。また、一対の変位部材21に設けられた相対位置維持機構28によって上記の相対位置が維持され、このときに一対の変位部材21から相対位置維持機構28に作用する荷重が検知され、この検知結果に基づいた演算により緊張力データが得られることになる。このため、相対位置維持機構28に作用する荷重を緊張力データに相関する物理量として検知することで、緊張力の値である緊張力データを容易に検出することができる。
【0072】
また、緊張測定装置1によると、一対の変位部材21が中途部分同士で連結されて揺動する一対のレバー部材21として設けられ、一対のレバー部材21における所定の相対角度として相対位置が検知される。また、相対位置維持機構28により上記の相対角度が維持され、相対位置維持機構28に作用する荷重が検知される。このため、揺動自在に連結された一対のレバー部材21を用いた簡素な構成によって、距離データ及び緊張力データを容易に検出することができる。
【0073】
また、緊張測定装置1によると、人工股関節を構成する骨コンポーネント(102〜105)を設置するに際して適切なサイズの骨コンポーネント(とくにステム部材102)を適切な状態で配置することを検討する人工股関節の配置合わせの作業において用いられるトライアルステム部材106に取り付けられるネックアダプタ36が、骨間距離変更器11に取り付けられる。そして、このネックアダプタとして、トライアルステム部材106に対する取付角度が異なるものが複数設けられる。このため、術者は、人工股関節の配置合わせの検討において、上記取付角度の異なるネックアダプタ36を簡単に取り替えて距離データ及び緊張力データを収集することができる。これにより、配置合わせの際に、人工股関節が適用される股関節部位の状態に適切に対応した骨コンポーネント(とくにステム部材102)の配置や形状、サイズを検討することが、より容易になる。
【0074】
また、緊張測定装置1によると、術者が、距離データ及び緊張力データが検出されたときのネックアダプタ36の取付角度の状態を変更して比較しながらデータの確認を行いたい場合、術者等が入力手段15の操作を行う。これにより、距離データ及び緊張力データが検出されたときのネックアダプタ36の取付角度の状態を術者が判定するための判定データが発生し、距離データ及び緊張力データとともに記憶される。そして、距離データ及び緊張力データが、ネックアダプタ36の取付角度の状態に対応して区別された状態でディスプレイ14に表示される。このため、術者は、ディスプレイ14を確認することで、距離データ及び緊張力データを検出するときのネックアダプタ36の取付角度の状態を変更することによる影響を比較しながら容易且つ正確に把握することができる。
【0075】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。例えば、次のように変更して実施してもよい。
【0076】
(1)本実施形態では、人工股関節置換術において用いられる人工関節置換術用緊張測定装置と人工関節置換術用緊張測定方法とを例にとって説明したが、この通りでなくてもよく、人工股関節置換術以外の人工関節置換術においても本発明を適用することができる。
【0077】
(2)本実施形態では、横軸に距離データを縦軸に緊張力データを対応させた2次元グラフとして距離データ及び緊張力データがディスプレイに表示される場合を例にとって説明したが、この通りでなくてもよい。例えば、横軸に緊張力データを縦軸に距離データを対応させて2次元グラフとして表示してもよい。また、距離データ及び緊張力データを縦軸に対応させ、横軸を時間軸とした時系列データとして表示してもよい。また、距離データと緊張力データとを異なるグラフとして並列に表示してもよい。
【0078】
(3)本実施形態では、判定データが骨の姿勢の状態やアダプタ部材の取付角度の状態に対応している場合を例にとって説明したが、この通りでなくてもよく、判定データとして、上記以外の種々の状態が選択され又は設定されるものであってもよい。
【0079】
(4)本実施形態では、人工関節が適用される関節部位における対向する骨と骨とのうちの一方にトライアル部材が係合するように配置される場合を例にとって説明したが、この通りでなくてもよい。即ち、人工関節が適用される関節部位における対向する骨と骨とのうちの両方にトライアル部材が係合するように一対配置される場合であっても、本発明を適用することができる。
【0080】
(5)本実施形態では、骨間距離変更手段が直接に術者の手によって操作される骨間距離変更器である場合を例にとって説明したが、この通りでなくもよい。骨間距離変更手段は、シリンダやロッド、ポンプ等の機器を適宜備え、油圧や水圧などの流体圧によって作動するアクチュエータとして構成されているものであってもよい。即ち、流体圧によって作動するアクチュエータが操作されることで、骨間の距離が変更される骨間距離変更手段であってもよい。
【0081】
(6)本実施形態では、中途部分同士において揺動自在に連結された一対のレバー部材を一対の変位部材として有する骨間距離変更手段を例にとって説明したが、この通りでなくてもよい。例えば、一対の変位部材が直線方向に沿って接近又は離間するように相対変位が可能に連結された骨間距離変更手段であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、人工関節置換術において用いられて人工股関節が適用される関節部位の骨間で軟部組織によって生じる緊張力と当該緊張力が生じているときにおける骨間の距離とを測定する人工関節置換術用緊張測定装置、及びこの人工関節置換術用緊張測定装置の作動方法である人工関節置換術用緊張測定方法として、広く適用することができるものである。
【符号の説明】
【0083】
1 人工関節置換術用緊張測定装置
11 骨間距離変更器(骨間距離変更手段)
14 ディスプレイ
24 相対位置検知センサ(骨間距離検出手段)
28 相対位置維持機構(骨間緊張力検出手段)
33 ロードセル(荷重検知センサ、骨間緊張力検出手段)
46 骨間距離演算部(骨間距離検出手段)
47 骨間緊張力演算部(骨間緊張力検出手段)
48 記憶部(記憶手段)
50 表示制御部(表示制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工関節置換術において用いられ、人工関節が適用される関節部位の骨間で軟部組織によって生じる緊張力と当該緊張力が生じているときにおける骨間の距離とを測定する、人工関節置換術用緊張測定装置であって、
少なくとも一部が骨間に配置され、骨間の距離を変更可能な骨間距離変更手段と、
前記骨間距離変更手段で変更された骨間の距離を検出する骨間距離検出手段と、
前記骨間距離変更手段で骨間の距離が変更されることで骨間において軟部組織によって生じた緊張力を検出する骨間緊張力検出手段と、
前記骨間距離検出手段で検出された骨間の距離の値である距離データと、前記骨間緊張力検出手段で検出された前記緊張力の値である緊張力データとを、検出タイミングで対応させて記憶する記憶手段と、
前記記憶手段に記憶された内容に基づいて、前記距離データと前記緊張力データとがディスプレイに表示されるように制御する表示制御手段と、
を備えていることを特徴とする、人工関節置換術用緊張測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の人工関節置換術用緊張測定装置であって、
前記表示制御手段は、縦軸及び横軸のうちの一方を前記距離データに対応させ、縦軸及び横軸のうちの他方を前記距離データに検出タイミングが対応する前記緊張力データに対応させた状態で、前記距離データ及び前記緊張力データがディスプレイに2次元グラフとして表示されるように制御することを特徴とする、人工関節置換術用緊張測定装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の人工関節置換術用緊張測定装置であって、
入力手段が操作されることによって入力された信号に基づいて、前記距離データと前記緊張力データとが検出されたときの状態を術者が判定するための判定データを発生させる判定データ発生手段を更に備え、
前記記憶手段は、前記判定データを記憶するとともに、当該判定データに対応させて、前記距離データと前記緊張力データとを記憶し、
前記表示制御手段は、前記記憶手段に記憶された内容に基づいて、前記距離データと前記緊張力データとが前記判定データに対応して区別された状態でディスプレイに表示されるように制御することを特徴とする、人工関節置換術用緊張測定装置。
【請求項4】
請求項3に記載の人工関節置換術用緊張測定装置であって、
前記判定データが、人工関節が適用される関節部位において対向する骨と骨との相対位置関係である骨の姿勢の状態であって前記距離データと前記緊張力データとが検出されたときの骨の姿勢の状態を術者が判定するためのデータであることを特徴とする、人工関節置換術用緊張測定装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の人工関節置換術用緊張測定装置であって、
前記骨間距離変更手段は、互いに対して相対変位が可能に連結されるとともに先端部分が骨間に配置される一対の変位部材を有し、
前記骨間距離検出手段は、前記一対の変位部材における一方の部材に対する他方の部材の相対位置を検知する相対位置検知センサと、前記相対位置検知センサの検知結果に基づいて骨間の距離を演算する骨間距離演算手段と、を有し、
前記骨間緊張力検出手段は、前記一対の変位部材に設けられて前記相対位置を維持可能な相対位置維持機構と、前記一対の変位部材から前記相対位置維持機構に作用する荷重を検知する荷重検知センサと、前記荷重検知センサの検知結果に基づいて前記緊張力を演算する骨間緊張力演算手段と、を有することを特徴とする、人工関節置換術用緊張測定装置。
【請求項6】
請求項5に記載の人工関節置換術用緊張測定装置であって、
前記一対の変位部材は、一方の部材に対して他方の部材が揺動することで相対変位が可能なように中途部分同士において連結された一対のレバー部材として設けられ、
前記相対位置検知センサは、前記一対のレバー部材における一方の部材に対する他方の部材の揺動方向における相対角度を前記相対位置として検知し、
前記相対位置維持機構は、前記相対角度を維持可能であることを特徴とする、人工関節置換術用緊張測定装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の人工関節置換術用緊張測定装置であって、
人工関節が適用される関節部位における対向する骨と骨とのうちの一方に係合するように配置されて又は両方にそれぞれ係合するように一対配置されて人工関節の配置合わせの際に用いられるトライアル部材に取り付けられるとともに、前記骨間距離変更手段に取り付けられるアダプタ部材を更に備え、
前記アダプタ部材として、前記トライアル部材に対する取付角度が異なる複数のアダプタ部材が設けられていることを特徴とする、人工関節置換術用緊張測定装置。
【請求項8】
請求項3に記載の人工関節置換術用緊張測定装置であって、
人工関節が適用される関節部位における対向する骨と骨とのうちの一方に係合するように配置されて又は両方にそれぞれ係合するように一対配置されて人工関節の配置合わせの際に用いられるトライアル部材に取り付けられるとともに、前記骨間距離変更手段に取り付けられるアダプタ部材を更に備え、
前記アダプタ部材として、前記トライアル部材に対する取付角度が異なる複数のアダプタ部材が設けられ、
前記判定データは、複数の前記アダプタ部材のうちの前記トライアル部材に取り付けられた前記アダプタ部材の前記取付角度の状態であって前記距離データと前記緊張力データとが検出されたときの前記取付角度の状態を術者が判定するためのデータであることを特徴とする、人工関節置換術用緊張測定装置。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の人工関節置換術用緊張測定装置であって、
人工股関節置換術において用いられ、人工股関節が適用される関節部位の骨盤と大腿骨との間で軟部組織によって生じる緊張力と当該緊張力が生じているときにおける骨盤と大腿骨との間の距離を測定することを特徴とする、人工関節置換術用緊張測定装置。
【請求項10】
人工関節置換術において、人工関節が適用される関節部位の骨間で軟部組織によって生じる緊張力と当該緊張力が生じているときにおける骨間の距離とを測定する、人工関節置換術用緊張測定方法であって、
骨間の距離を変更可能な骨間距離変更手段の少なくとも一部が骨間に配置される骨間距離変更手段配置ステップと、
前記骨間距離変更手段で変更された骨間の距離を検出する骨間距離検出ステップと、
前記骨間距離変更手段で骨間の距離が変更されることで骨間において軟部組織によって生じた緊張力を検出する骨間緊張力検出ステップと、
前記骨間距離検出ステップで検出された骨間の距離の値である距離データと、前記骨間緊張力検出ステップで検出された前記緊張力の値である緊張力データとを、検出タイミングで対応させて記憶する記憶ステップと、
前記記憶ステップにて記憶された内容に基づいて、前記距離データと前記緊張力データとがディスプレイに表示されるように制御する表示制御ステップと、
を備えていることを特徴とする、人工関節置換術用緊張測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−179033(P2010−179033A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−27178(P2009−27178)
【出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【出願人】(504418084)日本メディカルマテリアル株式会社 (106)
【Fターム(参考)】