説明

代謝工学および他の用途のためのマイクロ流体小滴

本発明は、一般的には、細胞もしくは他の種を培養および/またはアッセイするための小滴の使用に関する。いくつかの場合には、細胞または他の種は、培養および/またはアッセイの結果に基づいて選別され得る。いくつかの実施形態では、細胞または他の種が小滴の中にカプセル化され得、1種類または複数の作用剤(例えば、糖、指示色素など)に曝され得る。例えば、いくつかの場合には、細胞の作用剤への暴露により、例えば、アッセイされ得るかもしくは別の方法で決定され得る代謝産物または他の化合物(例えば、アミノ酸、タンパク質、有機酸など)の生産が生じ得る。いくつかの実施形態では、作用剤の、小滴の中の細胞および/または他の種との反応が、細胞または他の種の特性(例えば、糖の消費,増殖速度,作用剤への暴露に耐える能力など)を明らかにし得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、Wangらによる「Microfluidic Droplets for Metabolic Engineering and Other Applications」と題された、2008年6月27日に出願された米国仮特許出願第61/076,473号の利益を主張し、この米国仮特許出願の全体は、本明細書中に参考として援用される。
【0002】
政府資金
本発明の種々の態様に至る研究は、国立科学財団助成金番号BES−0331364により、少なくとも一部が支援された。合衆国政府は本発明に一定の権利を有する。
【0003】
発明の分野
本発明は、一般的には、細胞もしくは他の種を培養および/またはアッセイするための小滴の使用に関する。いくつかの場合には、細胞または他の種は、培養および/またはアッセイの結果に基づいて選別され得る。
【背景技術】
【0004】
背景
代謝工学は、産業および他への応用のための遺伝的株(genetic strains)の改良に有意に貢献してきた。例えば、生成物の生産に有用な遺伝子、または他のいわゆる遠位遺伝子(distal gene)が、様々な代謝工学技術を使用して、(例えば、速度論的効果または調節効果が原因で)生成物の生産に影響を与えるように操作され得る。いくつかの場合には、そのような遺伝子がコンビナトリアル法によって同定され得、この場合、1種類または複数の遺伝子および/またはそのような遺伝子の無作為な変異体、遺伝子ノックアウトの無作為な組み合わせ、過剰発現物(over−expressions)などを含むライブラリーが構築される。優れた特性を持つ細胞がこれらのライブラリーから選択され得、そして特別な遺伝子変化が逆代謝工学のようなプロセスを使用して同定される。多くの場合、これらのアプローチには、これらのライブラリーから所望されるクローンを選択するためのハイスループットスクリーニング法の使用による利点がある。多くのライブラリーについて、使用できる選択基準には、分泌型の代謝産物の生産または培地成分の消費が含まれる。クローンを区分するためのストラテジーは、個々のクローンを別の環境で増殖させる場合に有用であり得る。これにより、クローン特異的代謝産物の濃度などの測定が可能となり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
培養およびアッセイのためにマイクロウェルプレートのような機器を使用する従来の方法は、様々な区分ストラテジーに利用することができる。しかし、そのような方法では十分に高いスループットが得られない場合がある。したがって、改良された組成物および方法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、一般的には、細胞もしくは他の種を培養および/またはアッセイするための小滴の使用に関する。いくつかの場合には、細胞または他の種は、培養および/またはアッセイの結果に基づいて選別され得る。本発明の主題には、いくつかの場合には、相互関係のある生成物、特定の問題のための代替えの溶液、ならびに/あるいは1つもしくは複数のシステムおよび/または物品の多数の様々な用途が含まれる。
【0007】
1つの態様においては、本発明の方法は、細胞の富化された集団を生成する方法である。一連の実施形態においては、この方法には、マイクロ流体デバイスの中に含まれる小滴の第1の集団を提供する工程(これらの小滴の少なくとも一部は1つまたは複数の細胞をカプセル化し、これらの小滴の少なくとも一部は第1の細胞型を含み、これらの小滴の少なくとも一部は第2の細胞型を含む);これらの小滴の少なくとも一部について、それぞれの小滴の中の1つまたは複数の細胞の糖と反応する能力を決定する工程(ここで、第1の細胞型は、第2の細胞型よりも大きな程度にまで糖を代謝することができる);ならびに、上記決定に基づいて、第2の細胞型と比較して第1の細胞型についての、細胞小滴の富化された集団を生成する工程が含まれる。
【0008】
いくつかの実施形態では、この方法には、マイクロ流体デバイスの中に含まれる小滴の集団を提供する工程(これらの小滴の少なくとも一部は1つまたは複数の細胞をカプセル化し、これらの小滴の集団の小滴の少なくとも一部は第1の細胞型を含み、これらの小滴の少なくとも一部は第2の細胞型を含む);これらの小滴の少なくとも一部について、小滴の中の1つまたは複数の細胞の作用剤と反応する能力を決定する工程(ここで、上記第1の細胞型は、第2の細胞型が反応するよりも大きい程度まで上記作用剤と反応する);ならびに、上記決定に基づいて、第2の細胞型と比較して第1の細胞型についての、細胞小滴の富化された集団を生成する工程が含まれる。
【0009】
この方法は、別の態様によると、一般的には、同一種の富化された集団を生成する方法に関する。一連の実施形態においては、この方法には、マイクロ流体デバイスの中に含まれる小滴の集団を提供する工程(これらの小滴の少なくとも一部は、第1の種をカプセル化し、これらの小滴の集団の小滴の少なくとも一部は第2の種を含む);これらの小滴の少なくとも一部について、小滴の中の1つまたは複数の種の作用剤と反応する能力を決定する工程(ここで、第1の種は、第2の種が反応するよりも大きい程度まで上記作用剤と反応する);ならびに、上記決定に基づいて、第2の種を含む小滴と比較して、第1の種を含む小滴の富化された集団を生成する工程が含まれる。
【0010】
なお別の態様においては、この方法には、マイクロ流体デバイスの中に含まれる小滴の集団を提供する工程(これらの小滴の少なくとも一部は1つまたは複数の細胞をカプセル化し、これらの小滴の少なくとも一部には糖が含まれている);これらの小滴の少なくとも一部を糖と反応することができる酵素に曝す工程;ならびに、上記酵素の糖との反応の程度を決定する工程が含まれる。
【0011】
上記方法には、なお別の態様によると、マイクロ流体デバイスの中に含まれる小滴の集団(これらの小滴の少なくとも一部は1つまたは複数の細胞をカプセル化している)を、糖に対して、少なくとも、糖をこれらの小滴の少なくとも一部に侵入させるために十分な時間、曝す工程;これらの小滴の少なくとも一部を、糖と反応することができる酵素に曝す工程;ならびに、上記酵素の糖との反応の程度を決定する工程が含まれる。
【0012】
本発明の他の利点および新規の特徴は、添付の図面と併せて検討されると、本発明の様々な限定ではない実施形態についての以下の詳細な記載から明らかになるであろう。本明細書および引用により組み入れられる文献に、矛盾するおよび/または一致しない開示が含まれる場合は、本明細書が効力を持つものとする。引用により組み入れられる2つまたはそれ以上の文献に、互いに矛盾するおよび/または一致しない開示が含まれる場合は、より遅い発行日を持つ文献が効力を持つものとする。
【0013】
本発明の限定ではない実施形態は、添付の図面を参照して例として記載されるであろう。添付の図面は略図であり、縮尺どおりに記載されているものではない。これらの図においては、説明される個々の同一の構成部品またはほぼ同一の構成部品は、通常は、単数で示される。明確にするために、個々の図面に必ずしも全ての構成部品が記されているわけではなく、当業者が本発明を理解できるようにするためには説明が必要ではない場合には、本発明の個々の実施形態の必ずしも全ての成分が示されるというわけではない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、1つの実施形態にしたがうデバイスの略図である。
【図2】図2は、別の実施形態にしたがうデバイスの略図である。
【図3】図3Aは、なお別の実施形態にしたがうマイクロ流体ハイスループットスクリーニングプラットフォームの略図である。
【0015】
図3Bは、なお別の実施形態にしたがう、小滴を作製するデバイスの略図である。
【図4】図4は、1つの実施形態にしたがう、培養前に小滴の中にカプセル化された1つの細胞の光学画像である。
【図5】図5は、別の実施形態にしたがう、培養後に小滴の中にカプセル化された複数の細胞の光学画像である。
【図6】図6は、なお別の実施形態にしたがう、小滴の中でアッセイ反応を行わせるために使用したデバイスの略図である。
【図7】図7は、別の実施形態にしたがう、小滴の癒合(coalescence)のためのセクションを含む一体型デバイスの略図である。
【図8】図8は、別の実施形態における、2日間の培養後のH131株による蛍光検出データのプロットである。
【図9】図9は、なお別の実施形態における、2日間の培養後のH131株およびTAL1株による蛍光検出データのプロットである。
【図10】図10は、なお別の実施形態にしたがう、2日間の培養後のH131株およびTAL1株についての所定の蛍光範囲内にある細胞の割合のプロットである。
【図11】図11は、なお別の実施形態にしたがう、3日間の培養後のH131株およびTAL1株についての所定の蛍光範囲内にある細胞の割合のプロットである。
【図12】図12は、別の実施形態にしたがう、3日間の培養後のH131株およびTAL1株についての所定の蛍光範囲内にある細胞の割合のプロットである。
【図13】図13は、なお別の実施形態にしたがう、癒合、検出、および選別のためのセクションを含むデバイスの略図である。
【図14】図14は、一連の実施形態にしたがう、ゲノムDNAライブラリーの構築の模式的な説明である。
【図15】図15は、一連の実施形態にしたがう、H131−A31中のXYLA遺伝子構築物の模式的な説明を含む。
【図16】図16は、様々な蛍光範囲内にある小滴の割合を説明している例示的なプロットである。
【図17】図17は、様々な蛍光範囲内にある小滴の割合を説明している例示的なプロットである。
【図18】図18は、一連の実施形態にしたがう、富化培地および最少培地についてのキシロースの消費のプロットを含む。
【図19−1】図19A〜19Dは、一連の実施形態にしたがう、様々な変異体についてのキシロースの消費のプロットを含む。
【図19−2】図19A〜19Dは、一連の実施形態にしたがう、様々な変異体についてのキシロースの消費のプロットを含む。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(発明の詳細な説明)
本発明は、一般的には、細胞もしくは他の種を培養および/またはアッセイするための小滴の使用に関する。いくつかの場合には、細胞または他の種は、培養および/またはアッセイの結果に基づいて選別され得る。いくつかの実施形態では、細胞または他の種は小滴の中にカプセル化され得、1種類または複数の作用剤(例えば、糖、指示色素など)に曝され得る。例えば、いくつかの場合には、細胞の作用剤への暴露により、例えば、アッセイされ得るかもしくは別の方法で決定され得る、代謝産物または他の化合物(例えば、アミノ酸、タンパク質、有機酸など)の生産が生じ得る。いくつかの実施形態では、上記作用剤の、小滴中の細胞および/または他の種との反応により、細胞または他の種の特性(例えば、糖の消費、増殖速度、作用剤への暴露に耐える能力など)が明らかになり得る。一例として、所望される代謝産物を生産するか、または特定の特性を示す細胞が、選別技術によって他の細胞から分離され得る。本発明の他の態様は、そのような選別を実行するためのデバイスまたはキット、そのような技術を推進する方法などに関する。
【0017】
本発明の1つの態様は、一般的には、例えば、細胞の富化された集団を生成するための、細胞を選別するシステムおよび方法に関する。いくつかの場合には、細胞の1つの集団が複数の小滴の中に含まれ、そして細胞の富化された集団が生成されるようにこれらの小滴が選別される。以下で議論されるように、いくつかの場合には、細胞は、複数の細胞を含む小滴に送達された試薬とのそれらの反応に基づいて選別され得る。
【0018】
いくつかの実施形態では、本明細書中に記載される方法およびデバイスが、細胞または他の種の富化された集団を生成するために使用され得る。例えば、第1の細胞型と第2の細胞型を含む細胞の集団が、第2の細胞型と比較して第1の細胞型について富化された細胞の1つの集団を生じるように選別され得る。すなわち、結果として、細胞の総数に対する割合(%)として表される第1の細胞型の割合は、選別前よりも選別後のほうが高い。その後に続いて、細胞(または他の種)は、様々な用途において使用され得る。例えば、生成物が小滴から収集され得、これらの小滴が他の小滴と合わせて1つにされ、これらの種がさらに精製され得、細胞が培養され得るなどである。特別な例として、いくつかの実施形態では、細胞の富化された集団のDNAが、例えば、所望される遺伝子もしくは望ましくない遺伝子の存在および/または同一性を決定するために配列決定され得る。細胞のDNAを配列決定するための様々な方法(例えば、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)技術)は当業者に公知である。
【0019】
様々な実施形態において、選別後の細胞または他の種の富化の量は、いくつかの場合には、少なくとも約3倍、少なくとも約5倍、少なくとも約10倍、少なくとも約15倍、少なくとも約20倍、少なくとも約25倍、少なくとも約30倍、少なくとも約100倍、少なくとも約1000倍、または少なくとも約10,000倍、あるいはそれ以上であり得る。一連の実施形態においては、1つの細胞型について富化させられた細胞(または他の種)の1つの集団は、例えば、本明細書中で議論されるように、1回またはそれ以上の回数のスクリーニングに供され得る。これにより、その集団の中の他の型の細胞と比較して、1つの型の細胞のなおさらに高度な富化が生じ得る。
【0020】
本発明の特定の実施形態は、一般的には、小滴の中への1つまたは複数の細胞のカプセル化に関する。本明細書中で使用される場合は、「細胞」には、生物学において使用されるようなその通常の意味が与えられる。細胞は任意の細胞または任意の型の細胞であり得る。例えば、細胞は、バクテリアまたは他の単細胞生物、植物細胞、あるいは動物細胞であり得る。細胞が単細胞生物である場合は、細胞は、例えば、原生動物、トリパノソーマ、アメーバ、酵母細胞、藻類などであり得る。細胞が動物細胞である場合は、細胞は、例えば、無脊椎動物の細胞(例えば、ミバエ由来の細胞)、魚類の細胞(例えば、ゼブラフィッシュの細胞)、両生類の細胞(例えば、カエルの細胞)、爬虫類の細胞、鳥類の細胞、あるいは哺乳動物の細胞(例えば、霊長類の細胞、ウシの細胞、ウマの細胞、ブタの細胞、ヤギの細胞、イヌの細胞、ネコの細胞、またはげっ歯類(例えば、ラットもしくはマウス)由来の細胞)であり得る。細胞が多細胞生物に由来する場合は、細胞は、生物のいずれの部分に由来するものであってもよい。例えば、細胞が動物由来である場合は、細胞は、心臓細胞、線維芽細胞、ケラチノサイト、肝細胞(heptaocyte)、軟骨細胞(chondracyte)、神経細胞、骨細胞、筋細胞、血液細胞、内皮細胞、免疫細胞(例えば、T細胞、B細胞、マクロファージ、好中球、好塩基球、肥満細胞、好酸球)、幹細胞などであり得る。いくつかの場合には、細胞は遺伝子操作された細胞であり得る。特定の実施形態では、細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(「CHO」)細胞または3T3細胞であり得る。
【0021】
しかし、本発明が、小滴中に含まれる細胞を培養するおよび/または選別することだけには限定されず、小滴中に含まれ得る任意の他の種(例えば、生化学的な種(例えば、核酸(例えば、siRNA、RNAi、およびDNA)、タンパク質、ペプチド、または酵素))の選別にも適用できることが理解されるべきである。小滴の中に取り込ませることができるさらなる種としては、ナノ粒子、量子ドット、香料、タンパク質、指示薬、色素、蛍光種、化学物質などが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、第1の型の量子ドットと第2の型の量子ドットを含む小滴の集団が、本明細書中で議論されるように、例えば蛍光に基づいて選別され得る。したがって、本明細書中で議論されるように、小滴の中に含まれる細胞の使用は例にすぎない。
【0022】
いくつかの実施形態では、細胞または他の種は、作用剤(例えば、小滴の中に含まれる作用剤)と反応するそれらの能力に基づいて選別される。作用剤は、任意の適切な技術を使用して(例えば、担体溶液からの拡散により、細胞を含む小滴の上記作用剤を含む別の小滴との癒合によりなど)、小滴中の細胞または他の種に送達され得る。小滴の癒合に使用されるシステムおよび方法は、2006年2月23日に出願された、「Electronic Control of Fluidic Species」との表題の、2007年1月4日に米国特許出願公開番号2007/000342として公開された米国特許出願番号11/360,845に、または2007年1月24日に出願された、「Fluidic Droplet Coalescence」との表題の、米国特許出願番号11/698,298(それぞれが引用により本明細書中に組み入れられる)に記載されている。例えば、いくつかの場合には、担体相には、細胞と反応できる1種類または複数の作用剤が含まれ得る。いくつかの場合には、小滴の集団は、作用剤(例えば、糖)に対して、少なくとも、上記作用剤をこれらの小滴の少なくとも一部に侵入させるために十分な時間、曝される。
【0023】
いくつかの場合には、2種類以上の作用剤が小滴の中に導入され得る。例えば、第1の作用剤が小滴に導入され得、そして細胞または他の種と反応させられ得、その後、第2の作用剤が、第1の作用剤(例えば、反応後に小滴の中に存在する第1の作用剤の濃度または量)を決定するために、上記小滴に導入され得る。特別な例においては、上記作用剤には、細胞と、細胞によって生産された生成物と、ならびに/あるいは細胞におよび/または細胞を含む小滴に予め導入された別の種と反応できる化学物質が含まれ得る。別の例として、第2の作用剤には、例えば、小滴の形成の間に上記小滴の中に導入された糖(例えば、キシロース)と反応することができる酵素(例えば、オキシダーゼ)が含まれ得る。いくつかの実施形態では、第2の作用剤には、もとの作用剤への暴露前および/または暴露後に細胞によって生産された要素と反応することができる化学物質が含まれ得る。第2の作用剤には、もとの作用剤への暴露の前および/または後に細胞によって生産されるものと反応することができる化学物質が含まれ得る。第2の作用剤には、場合によっては、細胞が、小滴の形成の時期の間に導入されたもとの作用剤と反応した後、および/またはそのようなもとの作用剤と反応しなかった後にのみ、細胞と反応することができる化学物質が含まれ得る。
【0024】
いくつかの実施形態では、作用剤には、例えば、細胞から1種類または複数の代謝産物を生産させるために、細胞によって少なくとも部分的に代謝させることができる同一種が含まれる。例えば、作用剤には、糖(例えば、キシロース、デオキシリボース、スクロース、フルクトース、グルコース、ガラクトースなど)、または他の適切な炭水化物が含まれ得る。別の例として、いくつかの実施形態では、作用剤には、アミノ酸(例えば、アスパラギン酸、リジンなど)が含まれ得る。上記作用剤にはまた、いくつかの場合には、核酸(例えば、RNA、siRNA、RNAi、DNA、PNAなど)および/または他の種(例えば、タンパク質、ペプチド、酵素など)が含まれ得る。
【0025】
一連の実施形態においては、小滴には、糖と、この糖を酸化させることができるオキシダーゼが含まれ得る。例えば、オキシダーゼは、炭水化物オキシダーゼまたはオリゴ糖オキシダーゼ(例えば、ピラノースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼなど)であり得る。いくつかの場合には、作用剤にはまた、西洋ワサビペルオキシダーゼのようなさらなる酵素も含まれ得る。いくつかの場合には、上記作用剤にはまた、指示色素(例えば、Amplex UltraRed(Molecular Probes)、Amplex Red(Molecular Probes)、ジヒドロフルオレセイン、ジヒドロローダミンなど)も含まれ得る。例えば、いくつかの場合には、糖の酵素への暴露により、過酸化水素の生産が起こり得る。いくつかの場合には、その後、過酸化水素が糖を決定するためにアッセイされ得る。例えば、過酸化水素は、蛍光化合物(例えば、レゾルフィン(Resorufin))を生成するために、非蛍光化合物(例えば、Amplex UltraRed(Molecular Probes))と反応させられ得る。
【0026】
本発明の1つのシステムの限定ではない説明のための例が、図1を参照して以下で議論される。この例において示されるように、デバイス100には、入口チャンネル110と、2つの出口チャンネル112および114が含まれる。いくつかの場合には、デバイス100はマイクロ流体デバイスである。後でさらに詳細に記載されるように、このデバイスのチャンネルは、任意の深さ、幅、および/または高さであり得、このチャンネルがそれぞれ任意の経路(例えば、直線、蛇行など)を定義し得る。いくつかの場合(図1で説明される場合を含む)には、第1の細胞型116(または他の種)が小滴118の中にカプセル化される。加えて、第2の細胞型117もまた、例えば、随意チャンバー130の中に示される小滴の中にカプセル化され得る。他の場合は、小滴には、2つ以上の細胞が含まれ得るか、またはこれには細胞が全く含まれない場合もある。いくつかの実施形態では、個々の小滴に正確に1つの型の細胞が含まれ得、一方、他の実施形態においては、2種類以上の型の細胞が1つの小滴の中に含まれ得る。
【0027】
図1に示される例においては、作用剤が、チャンネル110の中の点120と122との間の小滴118に導入される。上記作用剤は、任意の適切な技術によって(例えば、拡散により、小滴118の作用剤を含む別の小滴との癒合によりなど)小滴に導入され得る。いくつかの場合には、細胞は作用剤と反応することができ、一方で他の場合には、細胞は反応しない場合もある。例えば、細胞の作用剤への暴露によって細胞死が生じ得る。あるいは、細胞は作用剤への暴露に耐え得、いくつかの場合には、細胞は、作用剤を代謝することができるか、または別の方法で作用剤を利用することができる。例えば、いくつかの場合には、細胞の作用剤への暴露により、細胞の増殖速度の変化、1種類または複数の代謝産物の生産の変化、あるいは、細胞の別の特性(例えば、蛍光、色、形態、大きさ、有糸分裂能力など)の変化が起こり得る。場合によっては、作用剤は、細胞に加えて、および/または細胞の代わりに、小滴の中の別の種(例えば、RNAもしくはDNAのような核酸、タンパク質、またはペプチド、酵素、抗体など)と反応し得る。いくつかの場合には、細胞および/または他の種との作用剤の反応により、小滴および/またはその内容物の特性における決定可能な変化(例えば、蛍光の変化、色の変化など)が生じ得る。
【0028】
作用剤と細胞および/または他の種との間での反応の程度は、例えば、マイクロ流体システムの中のいくつかの点で決定され得る。例えば、図1に説明される例においては、決定工程は点122で行われ得る。小滴の中で決定可能であり、本発明で使用できる特徴の例は、当業者によって同定され得、このような特徴の例としては、蛍光、分光(例えば、可視光線、赤外線、紫外線など)、放射活性、質量、容積、密度、温度、粘度、pH、物質(例えば、生物学的物質(例えば、タンパク質、核酸など))の濃度、小滴の中の1つまたは複数の細胞の生存性などが挙げられるが、これらに限定されない。当業者は、そのような特徴を決定するために適している方法(例えば、市販されているUV検出器、蛍光検出器、熱電温度計など)を知っているであろう。
【0029】
本明細書中に記載されるあらゆる実施形態において、小滴は、上記で議論されたような小滴の決定に少なくとも一部基づいて、例えば、選別またはスクリーニングの目的のために、デバイスの特定の領域に向けられ得る。例えば、流体小滴の特徴は、例えば、上記で記載されたようないくつかの様式(例えば、蛍光)で決定され得、これに応じて、本発明のデバイスの中の特定の領域(例えば、出口チャンネル)に対して、例えば、図1に説明されるようにチャンバー132または134に対して、小滴を向けるように、電場がかけられ得るか、または取り除かれ得る。電場は、電場の誘引、電場の反発、誘電泳動などが原因で、小滴の、特定のチャンネルまたは領域への移動を引き起こし得る。別の例として、作用剤と、小滴の中の細胞および/または他の種との相互作用により、続いて電場を使用して向けられ得る小滴上の電荷の置き換えが生じ得る。小滴をスクリーニングおよび/または選別するためのシステムと方法は、例えば、引用により本明細書中に組み入れられる、2006年2月23日に出願された、「Electronic Control of Fluidic Species」との表題の、2007年1月4日に米国特許出願公開番号2007/000342として公開された、米国特許出願番号11/360,845に開示されている。
【0030】
具体例として、1つまたは複数の細胞が、特定の条件が存在する場合に細胞に結合するかまたは別の方法で細胞と会合するマーカーあるいは他の作用剤(例えば、蛍光組成物)に曝され得る。例えば、作用剤は、同一種(例えば、糖)が一定の程度にまで、または一定の程度を超えて代謝される場合に、結合し得るかまたは別の方法で会合し得、タンパク質が発現されるか、あるいは、マーカーが、第2の細胞型ではなく第1の細胞型に結合し得る。例えば、マーカーは、図1においては、第1の細胞型116に結合できるが、第2の細胞型117には結合できない。いくつかの場合には、作用剤は、細胞の生存性(例えば、細胞が生存しているか死滅しているか)、細胞の発生もしくは分化の状態などの指標であり得る。細胞は、作用剤の存在および/または大きさ(magnitude)に基づいて方向づけられ得る。例えば、蛍光シグナルの検出により、第1の細胞型を、デバイスの1つの領域(例えば、図1の随意貯蔵チャンバー132)に向けさせることができる。一方、蛍光シグナルが存在しないことにより、第2の細胞型を、デバイスの別の領域(例えば、図1の随意廃棄チャンバー134)に向けさせることができる。したがって、この実施例では、細胞の1つの集団が、(例えば、生存している細胞、特定の増殖速度を示している細胞、特定のタンパク質を発現している細胞、特定の型の細胞などを選択するために)細胞の1つまたは複数の検出可能であるかもしくは標的化可能な特徴に基づいてスクリーニングならびに/あるいは選別され得る。いくつかの実施形態では、1つまたは複数の細胞の型のDNAが、引用により本明細書中に組み入れられる、2007年12月21日に出願された米国特許出願番号61/008,862において議論されているように配列決定され得る。
【0031】
次いで選別後に、細胞が収集され得、例えば、細胞の富化された集団が生成される。例えば、図1は、随意貯蔵チャンバー132を示す。この貯蔵チャンバーには、小滴を保持できる何らかの区画が含まれ得る。いくつかの実施形態では、貯蔵チャンバーは、マイクロ流体チャンネル110を含むデバイスに一体化され得、一方、他の実施形態では、貯蔵チャンバーは取り外し可能(例えば、取り外し可能なシリンジ、外部容器など)であり得る。本明細書中で使用される場合は、「一体化」は、互いに不可欠な複数の構成部品の複数の部分が、これらの構成部品を道具を使用することなしに、またはこれらの構成部品の少なくとも1つを切断もしくは破壊することなしには互いに手作業で分離させることができない方法で連結されていることを意味する。
【0032】
図1は、チャンバー130の中に2つの型の細胞を含む1つの実施形態を説明するが、いくつかの場合には、チャンバー130の中には3つ、4つ、またはそれ以上の型の細胞が含まれる場合があり、また場合によっては、2つまたはそれ以上のチャンバーが存在する場合もあることが理解されるはずである。いくつかの実施形態では、どれだけ多くの細胞のタイプおよび/または個々のタイプの細胞の数がチャンバー130中の小滴の集団の中に存在するかは推測によってもわかっていない。加えて、他の実施形態においては、先に記載されたように、細胞に加えて他の種も使用され得る。
【0033】
したがって、本発明は、図1に示すようなデバイスに限定されず、他のシステムおよび方法もさらに含まれる。例えば、図2には、別の例として、細胞または他の種を培養および/または選別する方法の概要を示している略図が含まれる。この一連の実施形態においては、第1のデバイス200には細胞チャンネル210と培養培地チャンネル211が含まれる。これらは合流して、単一のチャンネルを形成する。合流すると、細胞チャンネルからの細胞担体相と培養培地が混合して、合わせて1つになった細胞を取り囲む連続相213を形成する。いくつかの実施形態では、培養培地および/または細胞担体相には、細胞と反応できる1種類または複数の作用剤が含まれる。例えば、いくつかの実施形態では、1種類または複数の作用剤には、糖(例えば、キシロース、デオキシリボース、スクロース、フルクトースなど)または他の炭水化物が含まれ得る。合わせて1つになった連続相は、第2の担体チャンネル214を通過させられ得る。第2の担体チャンネルは、合わせて1つになった細胞を取り囲む連続相と非混和性である第2の担体相を注入するために使用される。合わせて1つになった担体相が担体チャンネル214から注入されると、小滴215が形成させられる。
【0034】
上記のシステムのようなシステムでの使用に適している小滴を形成させるためのシステムおよび方法は、2006年2月23日に出願された、「Electronic Control of Fluidic Species」との表題の、2007年1月4日に米国特許出願公開番号2007/000342として公開された米国特許出願番号11/360,845、2006年3月3日に出願された、「Method and Apparatus for Forming Multiple Emulsions」との表題の、2006年9月14日にWO2006/096571として公開された国際特許出願番号PCT/US2006/007772(それぞれが引用により本明細書中に組み入れられる)を含む様々な文献に記載されている。場合によっては、これらの小滴には少なくとも1つの細胞(または他の種)が含まれ得、一方、他の例においては、小滴には、細胞も種も含まれない場合がある。
【0035】
図2の例においては、小滴は出口チャンネル216から収集され、貯蔵容器220に溜められる。この貯蔵容器には、この例においてはシリンジが含まれる。他の実施形態では、貯蔵容器は、小滴を保持することができる任意の他の容器であり得る。いくつかの場合には、貯蔵容器はデバイス200に一体化され得(例えば、このデバイスの中にある1つのウェル)、一方、他の場合は、貯蔵容器は分離した状態にあり得る(例えば、このデバイスから物理的に分離した状態にあるバッグ、バイアル、マイクロウェルプレート、瓶、タンクなど)。小滴が溜まると、これらの小滴は収集され得、そして(これらの小滴が細胞を含む場合は)この貯蔵容器の中で(例えば、インキュベーターに移すことによって)培養され得る。例えば、シリンジが使用される場合は、シリンジには、例えば、蓋がされ得、インキュベーターに移動させられ得る。小滴は、任意の適切な時間(例えば、少なくとも1時間、少なくとも約2時間、少なくとも約3時間、少なくとも8時間、少なくとも1日間、少なくとも2日間、少なくとも3日間、少なくとも7日間、少なくとも1週間、少なくとも1カ月などを含む)培養され得る。
【0036】
図2に示される例に再び言及すると、貯蔵容器の中の細胞が、小滴流入チャンネル232を介してデバイス230の中に注入され得る。いくつかの実施形態では、デバイス230は、単一の基体上にあるデバイス200に一体化される。他の実施形態では、デバイス230とデバイス200は、物理的に分離した状態にある。状況に応じて、作用剤流入チャンネル234が、作用剤小滴232を注入するために使用され得る。作用剤小滴232には、細胞213と相互作用し得る1種類または複数のさらなる作用剤が含まれ得る。第2の作用剤が使用される場合は、作用剤小滴232は小滴215と癒合し得る。いくつかの実施形態では、癒合は、電磁場をかけると起こり得る。他の場合は、癒合は、外部刺激なしで起こり得る。
【0037】
小滴の癒合に使用されるシステムおよび方法は、2006年2月23日に出願された、「Electronic Control of Fluidic Species」との表題の、2007年1月4日に米国特許出願公開番号2007/000342として公開された米国特許出願番号11/360,845に、または2007年1月24日に出願された、「Fluidic Droplet Coalescence」との表題の米国特許出願番号11/698,298(それぞれが引用により本明細書中に組み入れられる)に記載されている。場合によっては、作用剤小滴232を介して第2の作用剤を導入する代わりに、またはそれに加えて、第2の作用剤は、チャンネル110の連続相の中に導入され得る。いくつかの場合には、これらの小滴の少なくとも一部が、少なくとも、第2の作用剤をこれらの小滴の少なくとも一部に侵入させるために十分な時間、第2の作用剤に曝される。
【0038】
作用剤と、小滴の中の細胞および/または他の種との間での反応の程度はまた、例えば、1つのチャンネルの中のいくつかの点で決定され得る。いくつかの場合には、このチャンネルは、例えば、決定が行われる前に反応を起こすことができる時間を長くするために、かなり長くすることができる(例えば、蛇行)。図2に説明される一連の実施形態における特別な例として、決定は点122で行われる。小滴の中で決定することができ、本発明で使用できる特徴の例は当業者によって同定され得、そのような特徴の例としては、例えば、蛍光、分光(例えば、可視光線、赤外線、紫外線など)、放射活性、質量、容積、密度、温度、粘度、pH、物質(例えば、生物学的物質(例えば、タンパク質、核酸など))の濃度、小滴の中の1つまたは複数の細胞の生存性などが挙げられるが、これらに限定されない。図2に説明される一連の実施形態は、細胞の富化された集団を生成するために使用され得る。
【0039】
小滴は、いくつかの場合には1工程で形成させられ得、これには多くの場合は正確な再現性が伴い、1つの小滴の中に1個、2個、3個、またはそれ以上の細胞を含むように適合させることができる。用語「小滴」は、本明細書中で使用される場合は、第2の流体に取り囲まれている第1の流体の単離された部分をいう。ここで、第1の流体と第2の流体は、本発明のデバイスが使用される時間的尺度(例えば、流体小滴を特定のシステムまたはデバイスに流すために要する時間)では非混和性である。本明細書中で使用される場合は、用語「流体」は、一般的には、流れ、その容器の外形にしたがう傾向がある物質をいう。典型的には、流体は、静的な剪断応力に抵抗することができない材料(material)であり、剪断応力が加えられると、流体は、持続的かつ永久的に湾曲させられる。流体は、少なくとも流体の一部が流れることを可能にする任意の適切な粘度を有し得る。流体の限定ではない例としては、液体および気体が挙げられるが、これにはまた、自由に浮遊している固体粒子(例えば、細胞、小胞など)、粘弾性流体なども含まれ得る。このような小滴の作製および使用(様々な化学的、生物学的、または生化学的設定での使用を含む)、ならびにそのような小滴の中に細胞をカプセル化するための技術は、以下を含む様々な文献に記載されている:2006年3月3日に出願された、「Method and Apparatus for Forming Multiple Emulsions」との表題の、2006年9月14日にWO2006/096571として公開された国際特許出願番号PCT/US2006/007772、または2004年4月9日に出願された、「Formation and Control of Fluidic Species」との表題の、2004年10月28日にWO2004/091763として公開された国際特許出願番号PCT/US2004/010903(それぞれが引用により本明細書中に組み入れられる)。
【0040】
特定の場合には、小滴は、運搬流体の中に(例えば、流体の流れの中に)含まれ得る。流体の流れは、一連の実施形態においては、以下で詳細に議論されるマイクロ流体システムを使用して作製される。いくつかの場合には、小滴は、均一な直径の分布を有するであろう。すなわち、小滴は、約10%、約5%、約3%、約1%、約0.03%、または約0.01%を超えない小滴が、これらの小滴の平均直径の約10%、約5%、約3%、約1%、約0.03%、または約0.01%を上回る平均直径を有する直径の分布を有し得る。このような均一な直径の分布を得るための技術もまた、2004年4月9日に出願された、Linkらによる「Formation and Control of Fluidic Species」との表題の、2004年10月28日にWO2004/091763として公開された国際特許出願番号PCT/US2004/010903(引用により本明細書中に組み入れられる)、および以下に記載される他の参考文献に開示されている。
【0041】
本明細書中に記載されるデバイスおよび方法は、細胞および/または小滴のハイスループットスクリーニングならびに/あるいは選別に使用され得る。いくつかの場合には、1秒あたり少なくとも約10個の小滴が、そのような様式で決定および/または選別され得、他の場合は、1秒当たり少なくとも約20個の小滴、1秒あたり少なくとも約30個の小滴、1秒あたり少なくとも約100個の小滴、1秒あたり少なくとも約200個の小滴、1秒あたり少なくとも約300個の小滴、1秒あたり少なくとも約500個の小滴、1秒あたり少なくとも約750個の小滴、1秒あたり少なくとも約1000個の小滴、1秒あたり少なくとも約1500個の小滴、1秒あたり少なくとも約2000個の小滴、1秒あたり少なくとも約3000個の小滴、1秒あたり少なくとも約5000個の小滴、1秒あたり少なくとも約7500個の小滴、1秒あたり少なくとも約10,000個の小滴、1秒あたり少なくとも約15,000個の小滴、1秒あたり少なくとも約20,000個の小滴、1秒あたり少なくとも約30,000個の小滴、1秒あたり少なくとも約50,000個の小滴、1秒あたり少なくとも約75,000個の小滴、1秒あたり少なくとも約100,000個の小滴、1秒あたり少なくとも約150,000個の小滴、1秒あたり少なくとも約200,000個の小滴、1秒あたり少なくとも約300,000個の小滴、1秒あたり少なくとも約500,000個の小滴、1秒あたり少なくとも約750,000個の小滴、1秒あたり少なくとも約1,000,000個の小滴、1秒あたり少なくとも約1,500,000個の小滴、1秒あたり少なくとも約2,000,000個またはそれ以上の小滴、1秒あたり少なくとも約3,000,000個またはそれ以上の小滴が、そのような様式で決定および/または選別され得る。
【0042】
いくつかの実施形態では、先に記載されたように、流体小滴が、本発明のデバイスの中で、小滴を含む液体の流動特性を実質的に変化させることなく、例えば、任意の機械的な流動制御デバイス(例えば、バルブ、ポンプ、ピストンなど)を使用することなく、スクリーニングまたは選別され得る。例えば、液体は、実質的に一定の原則で(すなわち、時間に伴って実質的に変化することがない)、またはデバイス全体をあらかじめ決定された原則で流れ得、液体の中の流体小滴は、先に記載されたような電場を使用して、液体の流れを実質的に変えることなくデバイスの中の様々な位置に向けられ得る。
【0043】
一連の実施形態においては、複数の流体小滴においては、それらの小滴の一部に目的の同一種が含まれ、小滴の一部には目的の種は含まれない。流体の小滴は、これらの種を含むそのような流体小滴についてスクリーニングまたは選別され得、いくつかの場合には、小滴は、目的の種のものを特定の数または範囲で含んでいるそのような流体小滴についてスクリーニングまたは選別され得る。小滴をスクリーニングおよび/または選別するためのシステムおよび方法は、例えば、引用により本明細書中に組み入れられる、2006年2月23日に出願された、「Electronic Control of Fluidic Species」との表題の、2007年1月4日に米国特許出願公開番号2007/000342として公開された米国特許出願番号11/360,845に開示されている。
【0044】
したがって、いくつかの場合には、複数の、または一連の流動性のある小滴(そのうちの一部には上記種が含まれており、小滴の一部には含まれない)は、上記種を含む小滴の割合を、いくつかの場合には、例えば、少なくとも約2倍、少なくとも約3倍、少なくとも約5倍、少なくとも約10倍、少なくとも約15倍、少なくとも約20倍、少なくとも約50倍、少なくとも約100倍、少なくとも約125倍、少なくとも約150倍、少なくとも約200倍、少なくとも約250倍、少なくとも約500倍、少なくとも約750倍、少なくとも約1000倍、少なくとも約2000倍、または少なくとも約5000倍、あるいはそれ以上、富化させる(または枯渇させる)ことができる。他の場合は、富化(または枯渇)は、少なくとも約10倍、少なくとも約10倍、少なくとも約10倍、少なくとも約10倍、少なくとも約10倍、少なくとも約10倍、少なくとも約1010倍、少なくとも約1011倍、少なくとも約1012倍、少なくとも約1013倍、少なくとも約1014倍、少なくとも約1015倍、またはそれ以上であり得る。例えば、特定の種を含む流動性のある小滴は、様々な種を含む流動性のある小滴のライブラリーから選択され得る。この場合、ライブラリーには、約10、約10、約10、約10、約10、約1010、約1011、約1012、約1013、約1014、約1015、またはそれ以上の要素が含まれ得、例えば、DNAライブラリー、RNAライブラリー、タンパク質ライブラリー、組み合わせ化学ライブラリーなどから選択され得る。特定の実施形態では、上記種を含む小滴は、その後、本明細書中にさらに記載されるように、例えば、反応を開始させるかまたは決定するために、融合させられ得るか、反応させられ得るか、または別の方法で使用もしくは処理され得る。
【0045】
全ての実施形態ではないが、一部の実施形態においては、本明細書中に記載されるシステムおよび方法の全ての構成部品がマイクロ流体である。「マイクロ流体」は、本明細書中で使用される場合は、1mm未満の断面寸法と、少なくとも3:1の最大断面寸法に対する長さの比を有している少なくとも1つの流体チャンネルを含むデバイス、装置、またはシステムをいう。「マイクロ流体チャンネル」は、本明細書中で使用される場合は、これらの基準を満たしているチャンネルである。
【0046】
チャンネルの「断面寸法」は、流体の流れの方向に対して垂直に測定される。本発明の構成部品の中のほとんどの流体チャンネルは2mm未満の最大断面寸法を有し、いくつかの場合には、1mm未満の最大断面寸法を有する。一連の実施形態においては、本発明の実施形態を含む全ての流体チャンネルはマイクロ流体であるか、または2mm以下、もしくは1mm以下の最大断面寸法を有する。別の実施形態では、流体チャンネルは、単一の構成部品(例えば、プリント基板または成形ユニット(molded unit))によって一部が形成され得る。もちろん、さらに大きなチャンネル、チューブ、チャンバー、レザーバーなどが、流体をバルクで保存するために、および本発明の構成部品に流体を送達するために使用され得る。一連の実施形態においては、本発明の実施形態を含むチャンネル(単数または複数)の最大断面寸法は、500ミクロン未満、200ミクロン未満、100ミクロン未満、50ミクロン未満、または25ミクロン未満である。
【0047】
「チャンネル」は、本明細書中で使用される場合は、流体の流れを少なくとも部分的に指示する物品(基板)の上の、またはその中の特徴を意味する。チャンネルは、何らかの断面の形状(円形、卵形、三角形、不規則、四角形、または長方形など)を有し得、覆われていても、覆われていなくてもよい。完全に覆われている実施形態においては、このチャンネルの少なくとも1部分が、完全に閉じた断面を有し得るか、またはチャンネル全体が、その入り口(単数または複数)と出口(単数または複数)を除くその全長に沿って完全に閉じている場合もある。チャンネルはまた、少なくとも2:1、より典型的には少なくとも3:1、5:1、または10:1、あるいはそれ以上のアスペクト比(平均断面寸法に対する長さ)を有し得る。開口チャンネルには、一般的には、流体の輸送の制御を容易にする特徴(例えば、構造的特徴(長いくぼみ)および/または物理的もしくは化学的特徴(疎水性対親水性)、あるいは流体に対して力(例えば、含有力(containing force))を発揮することができる他の特徴が含まれるであろう。チャンネルの中の流体はこのチャンネルを部分的または完全に満たし得る。開口チャンネルが使用されるいくつかの場合には、流体は、チャンネルの中に、例えば、表面張力(すなわち、凹面または凸面のメニスカス)を使用して保持され得る。
【0048】
チャンネルは任意の大きさであり得、例えば、約5mm未満、または2mm未満、または約1mm未満、または約500ミクロン未満、約200ミクロン未満、約100ミクロン未満、約60ミクロン未満、約50ミクロン未満、約40ミクロン未満、約30ミクロン未満、約25ミクロン未満、約10ミクロン未満、約3ミクロン未満、約1ミクロン未満、約300nm未満、約100nm未満、約30nm未満、あるいは約10nm未満の、流体の流れに対して垂直な最大寸法を有している。いくつかの場合には、チャンネルの寸法は、流体がその物品または基板全体を自由に浮遊できるように選択され得る。チャンネルの寸法はまた、例えば、チャンネルの中での流体の一定の容量測定による流量または直線的な流量が可能であるように選択され得る。当然、チャンネルの数およびチャンネルの形状は、当業者に公知の任意の方法により変えることができる。
【0049】
本明細書中で使用される場合は、閉じたループが第2の要素だけによって第1の要素が囲まれているように描かれ得る場合に、第1の要素が第2の要素に「取り囲まれている」。第2の要素だけによって続く閉じたループが、方向を問わず第1の要素を囲むように描かれる場合には、第1の要素は、「完全に取り囲まれている」。1つの態様では、第1の要素は細胞であり得、例えば、培地中に懸濁させられた細胞は培地に取り囲まれている。別の態様においては、第1の要素は粒子である。本発明のなお別の態様においては、上記要素はいずれも流体であり得る。例えば、親水性の液体が疎水性の液体の中に懸濁させられ得る、疎水性の液体が親水性の液体に懸濁させられ得る、気泡が液体中に懸濁させられ得るなどである。典型的には、疎水性の液体と親水性の液体は互いに実質的に非混和性であり、この場合、親水性の液体は、水に対して疎水性の液体よりも大きな親和性を有する。親水性の液体の例として、水、および水を含む他の水溶液(例えば、細胞または生物学的培地、エタノール、塩溶液など)が挙げられるが、これらに限定されない。疎水性の液体の例として、油(例えば、炭化水素、シリコーン油、フッ化炭素油、有機溶媒など)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
用語「決定」は、本明細書中で使用される場合は一般的に、同一種の(例えば、定量的もしくは定性的)分析または測定、あるいは、複数の種が存在するかしないかの検出をいう。「決定」はまた、2種類またはそれ以上の種の間での相互作用の(例えば、定量的もしくは定性的)、あるいは、相互作用が存在するかしないかを検出することによる、分析または測定も意味し得る。例示的な技術としては、分光法(例えば、赤外線、吸収、蛍光、UV/可視光、FTIR(「フーリエ変換赤外分光法」)、またはRaman);重量法;偏光解析法;圧電測定法;免疫アッセイ;電気化学的測定法;光学的測定法(例えば、可視光線の密度測定);円偏光二色性;光散乱測定法(例えば、擬電場光散乱法(quasielectric light scattering);偏光分析法;屈折率測定法;あるいは、濁度測定法が挙げられるが、これらに限定されない。
【0051】
多数の小滴が存在する場合は、小滴は、それぞれが実質的に同じ形状および/または大きさであり得る(「単分散」)。小滴の形状および/または大きさは、例えば、小滴の平均直径または他の特徴的な寸法を測定することにより決定することができる。小滴(および/または複数の小滴もしくは一連の小滴)の平均直径は、例えば、いくつかの場合には、約1mm未満、約500マイクロメートル未満、約200マイクロメートル未満、約100マイクロメートル未満、約75マイクロメートル未満、約50マイクロメートル未満、約25マイクロメートル未満、約10マイクロメートル未満、または約5マイクロメートル未満であり得る。平均直径はまた、特定の場合には、少なくとも約1マイクロメートル、少なくとも約2マイクロメートル、少なくとも約3マイクロメートル、少なくとも約5マイクロメートル、少なくとも約10マイクロメートル、少なくとも約15マイクロメートル、少なくとも約20マイクロメートル、または少なくとも約100マイクロメートルであり得る。
【0052】
小滴の集団の「平均直径」は、それらの小滴の直径の相加平均である。当業者は、例えば、レーザー光散乱法または他の公知の技術を使用して、小滴の集団の平均直径を決定することができるであろう。小滴の直径は、球形ではない小滴においては、表面全体を横断的に積分した、小滴の数学的に定義される平均直径である。限定ではない例として、小滴の平均直径は、約1mm未満、約500マイクロメートル未満、約200マイクロメートル未満、約100マイクロメートル未満、約75マイクロメートル未満、約50マイクロメートル未満、約25マイクロメートル未満、約10マイクロメートル、または約5マイクロメートル未満であり得る。小滴の平均直径はまた、特定の場合には、少なくとも約1マイクロメートル、少なくとも約2マイクロメートル、少なくとも約3マイクロメートル、少なくとも約5マイクロメートル、少なくとも約10マイクロメートル、少なくとも約15マイクロメートル、または少なくとも約20マイクロメートルであり得る。
【0053】
様々な材料および方法を、本発明の特定の態様において、システムの構成部品を形成させるために使用することができる。いくつかの場合には、選択された様々な材料自体が、様々な方法に役立つ。例えば、本発明の構成部品は、その中に、マイクロマシニング、膜蒸着プロセス(例えば、スピンコーティングおよび化学的蒸着、レーザー加工(laser fabrication)、フォトリソグラフィー技術、エッチング法(ウェットケミカルエッチング法またはプラズマプロセスなどを含む)によってチャンネルを形成させることができる固体材料から形成され得る。例えば、Angellら、Scientific American 248:44−55(1983)を参照のこと。1つの実施形態では、このシステムの少なくとも一部が、シリコーンチップの中に特徴をエッチングすることによってシリコーンから形成される。シリコーンからの本発明のデバイスの正確かつ効率的な加工のための技術は公知である。別の実施形態においては、そのようなセクション(または他の複数のセクション)がポリマーから形成され得、そしてそのようなセクションは、弾性ポリマーまたはポリテトラフルオロエチレン(PTFE、Teflon(登録商標))などであり得る。
【0054】
様々な構成部品が様々な材料から加工され得る。例えば、底壁と側壁を含むベース部は、シリコーンのような不透明な材料から加工され得、そして上部は、流体の処理の観察および制御のために、ガラスまたは透明なポリマーのような、透明な材料から加工され得る。構成部品は、チャンネルの内壁に接触する流体に対して、所望される化学的機能を曝すようにコーティングされ得る。この場合、ベースを支える材料は、正確な所望される機能を有さない。例えば、説明されるような、別の材料でコーティングされたチャンネルの内壁を持つ構成部品が加工され得る。
【0055】
本発明のデバイスを加工するために使用される材料、または流体チャンネルの内壁をコーティングするために使用される材料は、このデバイス全体を流体が流れることによって悪影響を及ぼさないか、またはそれにより影響を受けることがないであろう材料(例えば、このデバイスの中で使用される流体の存在下では化学的に不活性である材料(単数または複数))から選択され得ることが望ましい。そのようなコーティングの限定ではない例は、引用により本明細書中に組み入れられる、2008年3月28日に出願された、「Surfaces,Including Microfluidic Channels,With Controlled Wetting Properties」との表題の、米国特許出願番号61/040,442の中で開示されている。
【0056】
1つの実施形態では、本発明の構成部品は、ポリマー材料および/または可塑性材料および/または弾性材料から加工され、簡単に硬化性流体の形態をなし得、それにより、成形(例えば、レプリカ成形、射出成形、注型成形など)による加工が容易になり得る。硬化性流体は、ネットワーク構造の中で、またはネットワーク構造とともに使用されるように意図される流体を含み、運搬することができる固体になるように、固体化を誘導することができるか、あるいは自発的に固体化する、原則として全ての流体であり得る。1つの実施形態では、硬化性流体には、重合性の液体または液体である重合性の前駆物質(すなわち、「プレポリマー」)が含まれる。適している重合性の液体としては、例えば、熱可塑性ポリマー、熱硬化性ポリマー、またはそれらの融点よりも高温に加熱されたそのようなポリマーの混合物;あるいは、適切な溶媒中の1種類または複数のポリマーの溶液(この溶液は、溶媒が(例えば、蒸発によって)除去されると固体の重合性材料を形成する)が挙げられ得る。例えば、融解した状態から、または溶媒の蒸発により固体化させることができるそのような重合性材料は、当業者に周知である。様々な重合性材料(その多くには弾性がある)が適しており、これらはまた、マスター鋳型(mold masters)の一方または両方が弾性材料からなる実施形態については、鋳型(mold)またはマスター鋳型を形成させるためにも適している。そのようなポリマーの例の限定ではないリストには、シリコーンポリマー、エポキシポリマー、およびアクリレートポリマーの一般的なクラスのポリマーが含まれる。エポキシポリマーは、エポキシ基、1,2−エポキシド、またはオキシランと一般的に呼ばれている3員環のエーテル基の存在を特徴とする。例えば、ビスフェノールAのジグリシジルエーテルが、芳香族アミン、トリアジン、および脂環式骨格をベースとする化合物に加えて使用され得る。別の例としては、周知のNovolacポリマーが挙げられる。本発明にしたがう使用に適しているシリコーンエラストマーの例としては、クロロシラン(例えば、メチルクロロシラン、エチルクロロシラン、およびフェニルクロロシランなど)を含む前駆物質から形成されたものが挙げられる。
【0057】
ある一連の実施形態では、シリコーンポリマー(例えば、シリコーンエラストマーポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)が好ましい。例示的なポリジメチルシロキサンポリマーとしては、Dow Chemicals Co.,Midland,MIによるSylgard、特に、Sylgard 182、Sylgard 184、およびSylgard 186の商標名で販売されているものが挙げられる。PDMSを含むシリコーンポリマーは本発明のマイクロ流体構造体の加工を単純化するいくつかの有益な性質を有する。例えば、そのような物質は安価であり、容易に入手でき、熱で硬化させることによってプレポリマー液から固体化することができる。例えば、PDMSは、一般的には、例えば約1時間の暴露時間の間、例えば約65℃から約75℃の温度にプレポリマー液をさらすことによって硬化させることができる。また、PDMSのようなシリコーンポリマーには弾性があり、したがって本発明の特定の実施形態で必要な比較的アスペクト比の高い非常に小さな特徴を形成するために有用であり得る。可塑性の(例えば、弾性のある)鋳型またはマスターはこの点に関しては好都合であり得る。
【0058】
シリコーンポリマー(例えば、PDMS)から本発明のマイクロ流体構造体のような構造体を形成することの1つの利点は、例えば、空気プラズマのような酸素を含むプラズマにさらすことによって酸化されるそのようなポリマーの能力である。その結果、酸化された構造体は、他の酸化されたシリコーンポリマー表面または様々な他の重合性および非重合性材料の酸化された表面に架橋できる化学基をそれらの表面に含む。したがって、構成部品が加工され得、次いで酸化させられ得、別の接着剤または他の封着手段を必要とすることなく、他のシリコーンポリマー表面、または酸化されたシリコーンポリマー表面と反応する他の基板の表面に本質的に不可逆的に封着され得る。ほとんどの場合、酸化されたシリコーン表面を別の表面に接触させることによって、封着を形成させるために補助的な圧力を加える必要もなく、簡単に封着を完了することができる。すなわち、あらかじめ酸化されたシリコーン表面は、適切な合わせ面に対して付着接着剤として作用する。特に、自身に不可逆的に封着可能であることに加えて、酸化されたシリコーン(例えば、酸化されたPDMS)はさらに、例えば、PDMS表面と同様の様式で(例えば、酸素を含むプラズマへの暴露により)酸化させられたガラス、ケイ素、酸化ケイ素、石英、窒化ケイ素、ポリエチレン、ポリスチレン、ガラス状炭素、およびエポキシポリマーを含む、自身を除く広い範囲の酸化された材料に不可逆的に封着することもできる。本発明の状況において有用な酸化および封着の方法、ならびに全体的な成形技術は、引用により本明細書中に組み入れられる、Duffyら、Rapid Prototyping of Microfluidic Systems and Polydimethylsiloxane,Analytical Chemistry,第70巻、474−480頁、1998に記載されている。
【0059】
酸化されたシリコーンポリマーから本発明のマイクロ流体構造(または内部の流体接触表面)を形成させることの別の利点は、これらの表面が一般的な弾性ポリマーの表面よりもはるかに親水性が高くなり得ること(親水性の内部表面が望ましい場合)である。そのような親水性のチャンネル表面は、したがって、一般的な酸化されていない弾性ポリマーまたは他の疎水性材料から構成された構造体よりも、より簡単に水溶液で満たし、湿らせることができる。
【0060】
1つの実施形態では、底壁は、側壁または上壁の1つまたは複数、あるいは他の構成部品とは異なる材料で形成される。例えば、底壁の内表面はシリコーンウエハまたはマイクロチップの表面、あるいは他の基板を含み得る。上記で記載されたように、他の構成部品は、そのような代替基板に封着することができる。シリコーンポリマー(例えば、PDMS)を含む構成部品を異なる材料の基板(底壁)に封着させることが望まれる場合には、酸化されたシリコーンポリマーを不可逆的に封着させることができる材料の群(例えば、酸化されたガラス、ケイ素、酸化ケイ素、石英、窒化ケイ素、ポリエチレン、ポリスチレン、エポキシポリマー、およびガラス状炭素表面)から基板が選ばれることが好ましい。あるいは、当業者に明らかであるように、他の封着技法(別の接着剤、熱結合、溶剤結合、超音波溶接などの使用を含むが、これらに限定されない)を使用することができる。
【0061】
本発明の特定の態様は、上記で議論されたデバイスの1つまたは複数を含むキットに関する。「キット」は、本明細書中で使用される場合は、一般的には、本発明の装置、および/または例えば上記に記載されたような本発明と関係がある他の装置のうちの1つもしくは複数を含むパッケージあるいはアセンブリを定義する。本発明のキットには、いくつかの場合には、当業者がその説明が本発明の装置と関係があることを理解できるような方法で、本発明の装置と組み合わせて提供される任意の形態の説明書が含まれ得る。例えば、これらの説明書には、キットと関係がある装置および/または他の装置の使用、改良、アセンブリ、保存、パッケージング、および/または調製についての説明が含まれ得る。いくつかの場合には、説明書にはまた、例えば、試料についての、例えば特定の使用のための説明書も含まれ得る。これらの説明書は、任意の様式で提供されるそのような説明を含めるための適切な媒体(例えば、文書または出版物、言語(verbal)、可聴式のもの(例えば、電話による)、デジタル形式のもの、光学的なもの、視覚的なもの(例えば、ビデオテープ、DVDなど)、または電子通信(インターネット、またはウェブによる通信を含む))として、当業者が理解できる任意の形態で提供され得る。
【0062】
本発明の1つの態様により、本明細書中に開示される実施形態の1つまたは複数を推進する方法が提供される。本明細書中で使用される場合は、「推進する」には、本明細書中に開示される本発明のシステム、装置、方法、キットなどと関係がある、販売方法、宣伝方法、分担(assigning)方法、ライセンス方法、契約方法、指示方法、教育方法、研究方法、輸入方法、輸出方法、交渉方法、融資方法、お金を貸す(loaning)方法、取引方法、自動販売(vending)方法、再販方法、流通方法、補修方法、交換方法、付保(insuring)方法、訴訟を起こす(suing)方法、特許をとる方法などを含むがこれらに限定されない、ビジネスを行う全ての方法が含まれる。推進の方法は、任意のパーティー(party)(個人のパーティー、ビジネス(公の、または個人的な)、パートナーシップ(partnership)、法人、委託、契約機関または非契約機関、教育機関(例えば、単科大学および総合大学)、研究機関、病院、または他の臨床の施設、政府機関などを含むがこれらに限定されない)によって行われ得る。推進活動には、本発明と明らかに関係がある任意の形態の通信(例えば、文書通信、口頭での通信、および/または電気通信、例えば、限定ではないが、電子メール、電話、インターネット、ウェブによる通信など)が含まれ得る。
【0063】
一連の実施形態においては、推進の方法には、1つまたは複数の説明書が含まれ得る。本明細書中で使用される場合は、「説明書」は、教育の用途(例えば、指示、指針、警告、ラベル、注記、FAQ(すなわち、「一般的な質問」)など)のための構成要素を定義し得、これには典型的には、本発明についてのまたは本発明と関係があるおよび/または本発明のパッケージングと関係がある、印刷された説明書が含まれる。説明書にはまた、使用者が、この説明が、例えば本明細書中で議論されるような本発明と関係があることを明らかに理解するであろう任意の様式で提供される、任意の形態の教育用の通信(例えば、口頭による通信、電子による通信、可聴式の通信、デジタルの通信、光学的通信、視覚的通信など)も含まれ得る。
【0064】
以下の出願は、それぞれが引用により本明細書中に組み入れられる:2008年6月27日に出願された、Wangらによる「Microfluidic Droplets for Metabolic Engineering and Other Applications」との表題の、米国特許仮出願番号61/076,473;1993年10月4日に出願された、Kumarらによる「Formation of Microstamped Patterns on Surfaces and Derivative Articles」との表題の、米国特許出願番号08/131,841(現在は、1996年4月30日に発行された米国特許第5,512,131号);1998年1月8日に出願された、Kimらによる「Method of Forming Articles including Waveguides via Capillary Micromolding and Microtransfer Molding」との表題の、米国特許出願番号09/004,583(現在は、2002年3月12日に発行された米国特許第6,355,198号);1996年3月1日に出願された、Whitesidesらによる「Microcontact Printing on Surfaces and Derivative Articles」との表題の、1996年6月26日にWO96/29629として公開された、国際特許出願番号PCT/US96/03073;2001年5月25日に出願された、Andersonらによる「Microfluidic Systems including Three−Dimensionally Arrayed Channel Networks」との表題の、2001年11月29日にWO01/89787として公開された国際特許出願番号PCT/US01/16973;2005年10月7日に出願された、Linkらによる「Formation and Control of Fluidic Species」との表題の、2006年7月27日に米国特許出願公開番号2006/0163385として公開された米国特許出願番号11/246,911;2004年12月28日に出願された、Stoneらによる「Method and Apparatus for Fluid Dispersion」との表題の、2005年8月11日に米国特許出願公開番号2005/0172476として公開された、米国特許出願番号11/024,228;2006年3月3日に出願された、Weitzらによる「Method and Apparatus for Forming Multiple Emulsions」との表題の、2006年9月14日にWO2006/096571として公開された、国際特許出願番号PCT/US2006/007772;2006年2月23日に出願された、Linkらによる「Electronic Control of Fluidic Species」との表題の、2007年1月4日に米国特許出願公開番号2007/000342として公開された、米国特許出願番号11/360,845;および2006年3月3日に出願された、Garsteckiらによる「Systems and Methods of Forming Particles」との表題の米国特許出願番号11/368,263。
【0065】
以下の実施例は、本発明の特定の実施形態を説明するために意図され、本発明の全ての範囲を実証するものではない。
【実施例】
【0066】
(実施例1)
本実施例は、非混和性のフッ素化油相に取り囲まれているナノリットルの水滴の中に酵母細胞をカプセル化するためにマイクロ流体を利用する、ハイスループットスクリーニングプラットフォームを記載する。本実施例に記載するシステムは、細胞培養、蛍光酵素アッセイを伴う目的の代謝産物の測定、および選別のためのモジュールを含む。本実施例では、高キシロース消費細胞(high xylose−consuming cell)の集団を、2種類のSaccharomyces cerevisiae(酵母)株の混合物から21倍以上に富化させた。本実施例に記載するこのシステムと方法は、代謝工学への応用のために、複数のライブラリーから複数の株を選択するためにより一般的に適用されるように拡張することができる。任意の蛍光アッセイシステムを本実施例で使用することができる。さらに、本明細書中に記載される酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ/Amplex UltraRed)は例にすぎず、他の酵素(例えば、自然界に存在している他のオキシダーゼ酵素)も同様に使用することができる。
【0067】
本実施例には、例えば、バイオ燃料の分野で注目を集めている、S.cerevisiaeによるキシロースの消費が含まれる。リグノセルロース質の原料(例えば、トウモロコシ茎葉)には、相当量のキシロースが含まれている。しかし、グルコースをエタノールに容易に変換するS.cerevisiaeは、自然にキシロースを発酵させることはできない。結果として、キシロースを容易に利用できるS.cerevisiae株を操作することが、様々なリグノセルロース質のエタノール処理を開発することにおける重要なステップである。
【0068】
H131およびTAL1と本明細書中で呼ぶ2種類のS.cerevisiae株を本実施例で使用した。H131はF1702(BF−264−15Daub誘導体)に由来する。F1702は、H131は、MAT_a、leu2、ura3、arg4、ade1、trp1、his2である。H131の遺伝子型は、MAT_a、leu2、ura3、arg4、ade1::ADE1−GPD−PsTAL1、trp1::TRP1−GPD−ScRKI1−ScRPE1、his2::HIS2−GPD−ScTKL1であり、プラスミドPRS426−GPD−XYL1−XYL2−XYL3−CYCを持つ。TAL1は、MAT_alpha、trp1、leu2::LEU2−GAPDHP−XYL1 ura3::URA3−GAPDHP−XYL2 Ty3::NEO−XYL3である遺伝子型を持つYSX3から作製された。TAL1は、pRS424TEF−PsTAL1プラスミドを持つYSX3である。
【0069】
キシロース濃度の定量のために、細胞を含まない培養上清を、0.2マイクロメートルの孔の大きさのポリテトラフルオロエチレンメンブレンシリンジフィルター(polytetrafluoroethylene membrane syringe filters)(VWR International)に通して濾過し、Waters 410屈折率検出器(Waters)と接続したWaters 2690 Separationsモジュールを用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析に使用した。試料を、有機酸の分析のためのBioRad Aminex HPX−87Hイオン排除カラム上で、移動相として14mMの硫酸を0.7mL/分の流速で用いて分離させた。細胞密度の決定のために、培養物と細胞を含まない培養上清の光学密度を、Ultrospec 2100 pro UV/可視分光光度計(Amersham Biosciences)を使用して600nmで測定した。アッセイ混合物には、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)、Amplex UltraRed(Invitrogen)、ピラノースオキシダーゼ(Sigma)、および西洋ワサビペルオキシダーゼ(Sigma)を含めた。アッセイ小滴中の成分の濃度は、4U/mLのピラノースオキシダーゼ、0.4U/mLの西洋ワサビペルオキシダーゼ、および0.2mMのAmplex UltraRedであった。デバイスにアッセイ試薬を供給するために使用した管は、アッセイ混合物中の成分が管に付着しないように、1%のウシ血清アルブミンで5分間予め処理した。
【0070】
マイクロ流体デバイスは、例えば、引用により本明細書中に組み入れられる1997年9月18日に公開された国際特許出願公開番号WO97/33737の中で議論されているような、標準的な周知のソフトリソグラフィー技術を使用することにより加工した。SU−8 2025および2050フォトレジスト(MicroChem)を、3インチのテストグレードのシリコーンウエハの上に、25マイクロメートルまたは75マイクロメートルのいずれかの厚みでスピンコーティングした。これらのチャンネルパターンは、20,000dpi(1インチあたりのドット数)でプリントしたフィルムマスクにより、フォトリソグラフィーにより定義した。フォトレジストの現像後、10:1のシリコーン対架橋剤の比のポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)(Dow ChemicalによるSylgard 184 Silicone Elastomer Kit)をこのウエハの上に注いだ。10分間の脱気と65℃で一晩の硬化の後、これらのデバイスを鋳型から切り出し、入口と出口を生検パンチを用いて形成させ、酸素プラズマを用いてガラススライドに接着させた。電極を持つデバイス用の2インチ×3インチのガラススライドには、このデバイスの反対側の表面上にインジウムスズ酸化物のコーティング(Delta Technologies)を含めた。電極もまたデバイスの中に加工した。電極チャンネルは、最初に、アセトニトリル(Sigma)の中に溶解させた0.1Mの(3−メルカプトプロピル)トリメトキシシラン(Sigma)でコーティングし、その後、溶液を除去するために空気を吹き付けた。その後、残っている溶液を全て除去するために、このデバイスを65℃でベークした。デバイスを80℃のホットプレートの上に置いたら、Indalloy 19はんだ(52%のIn、32.5%のBi、16.5%のSn:Indium Corporationによる0.020インチの直径のワイヤー)を電極の入り口に置き、溶かした。はんだが出口に達したら、22ゲージのワイヤーを出口の中に置いた。全ての他のデバイスでは、平面状の2インチ×3インチのSwiss Glassスライドを使用した。これらのデバイスを使用する前に、PDMSチャンネルの表面を、Aquapel(PPG)をチャンネルの中に注入し、その後、Aquapelを除去するために空気を吹き付けることによって疎水性にした。
【0071】
液体を、PE−20(Intramedic)またはPEEK(VICI Valco)管でNE−500シリンジポンプ(New Era)につないだシリンジによって、マイクロ流体デバイスに供給した。商標権で守られたフッ素化油および界面活性剤はRaindance Technologiesより供給されたが、あらゆる適しているフッ素化油および/または界面活性剤(例えば、引用により本明細書中に組み入れられる、2008年2月21日に公開された国際特許出願公開番号WO2008/021123の中で開示されているもの)もまた使用することができる。マイクロ流体デバイスの機能をモニターするために、Ultima 512(Photron)をMotic AE30倒立顕微鏡につないだ。癒合電極(coalescence electrode)をインバーターとDC電力供給装置につなぎ、一方、選別電極(sorting electrode)を高電圧増幅器(TREK)につないだ。蛍光の検出は、励起のための50mWの488nmのレーザー(Picarro)と、593nmのフィルター(Semrock)を持つ光電子増倍管(Hamamatsu)を使用して行った。シリンジを、Lab−Lineコンパクトインキュベーターの中でインキュベートした。
【0072】
本実施例のハイスループットスクリーニングプラットフォームは、酵母細胞を含む小滴を区分する、細胞を培養する、細胞を含む小滴の内容物を蛍光酵素アッセイと混合する、得られた蛍光を測定する、およびその測定に基づいて小滴を選別する能力を有する。これらの機能の全てを行うために、2つのマイクロ流体デバイスとシリンジを、図3Aに示すように利用した(しかし、他の実施形態では、マイクロ流体デバイスは一緒に1つに合わせられ得る)。第1のデバイスは、PBS中の酵母細胞を細胞培養培地と混合するために使用し、その水流を、フッ素化油と界面活性剤の混合物を含む2つの流れと合わせて1つにすることによって小滴を形成させた。このデバイスの中で形成させた小滴をシリンジの中に収集した。シリンジが一杯になれば、空気が入ってきて小滴と接触し、微好気性培養を起こすことを防ぐために、シリンジに蓋をした。その後、シリンジを30℃のインキュベーターの中に置き、細胞を培養した。予め決定した時間の後、これらのシリンジを使用して、小滴を第2のデバイスに再度注入した。この中で、小滴を、蛍光酵素アッセイ試薬を含む別の小滴のセットと合わせて1つにした。小滴の癒合の後、得られた小滴を、長いチャンネルを30秒間かけて通り抜けるように流して、アッセイ反応を進行させた。その後、レーザーと光電子増倍管システムを、蛍光の励起と発光の検出測定のために使用した。この測定に基づいて、小滴を、2つの「瓶(bin)」の1つに選別した(しかし、他の場合には、3つ以上の瓶が使用される場合もある)。
【0073】
このプラットフォームの機能を明らかにするために、Saccharomyces cerevisiaeによるキシロースの消費をスクリーニングの測定基準として選択した。デバイスの複数の部分を、これらを完全なデバイスに組み立てる前に、これらが正常に機能することを確認するために、最初に別々に試験した。
【0074】
簡単なコフロー(coflow)小滴作製機を使用して、図3Bに示すように、酵母細胞を含む小滴を作製した。このデバイスの中のチャンネルは、25マイクロメートルの高さであった。このデバイスによって形成させた小滴は、直径およそ90マイクロメートルであり、これにより1nL未満の容積が生じた。およそ3個の小滴に1個の細胞をカプセル化するために、流入してくる細胞のOD600細胞密度は0.075とした。図4は、小滴の中の個々の細胞を示す。小滴作製機の中で形成させた小滴をシリンジの中に収集し、シリンジに蓋をすることによって微好気的に培養した。図5は、3.5日後の、培養したTAL1細胞を含む小滴を示す。
【0075】
試験した第2のデバイスの第1の部分は、遅延線を経た小滴の中でのアッセイ反応であった。試験に使用したマイクロ流体デバイスの模式図を図6に示す。このデバイスの中のチャンネルは、75マイクロメートルの高さであった。このデバイスは、2つの水性の流入(一方はキシロースを含み、他方はアッセイ混合物を含む)を混合した。一般的に、アッセイ反応は以下のように示すことができる。
【0076】
【化1】

キシロースを検出するための使用したアッセイには、2U/mLのピラノースオキシダーゼ、0.4U/mLの西洋ワサビペルオキシダーゼ、および0.2mMのAmplex UltraRed(Molecular Probes)を含めた。アッセイ反応は以下のように示される:
【0077】
【化2】

生産された蛍光レゾルフィンの量は、溶液中のキシロースの濃度に比例していた。
【0078】
デバイスにアッセイ試薬を供給するために使用した管は、アッセイ混合物中の成分が管に付着しないように、1%のウシ血清アルブミンで5分間予め処理した。これにより、デバイスに供給される実際の濃度が下がるであろう。小滴は、水流(上記で議論した、キシロースとアッセイ試薬との混合物)が油流と接触すると形成する。その後、小滴を長いマイクロ流体チャンネル遅延線を経て流して、アッセイを進行させた。マイクロ流体遅延線を管の代わりに選択した。なぜなら、蛍光分布は、管を使用した場合ほど詰まっていないことを観察したからである。このデバイスを、蛍光を、最適な測定点を決定するために遅延線に沿って様々な位置で測定できるように設計した。
【0079】
キシロース濃度を変えたいくつかの実験をこのデバイスを使用して行った。蛍光は、キシロース濃度の増大に伴って強くなった。得られた蛍光分布は比較的狭かった。蛍光とキシロース濃度との間での相関関係もまた、比較的直線的であり、以下の方程式によって記載することができた:
蛍光=(0.1879キシロース濃度)+0.1211 [1]
方程式1の相関関係により、0.9455のR値が得られた。
【0080】
次のステップは、遅延線を持つ小滴癒合デバイスを作製することであった。小滴への細胞の再注入、アッセイを含む小滴の生産、2つのタイプの小滴の癒合、遅延線、および蛍光を測定する点を含むデバイスの設計を図7に示す。このデバイスのチャンネルは75マイクロメートルの高さであった。
【0081】
癒合デバイスにおいては、再注入された小滴とアッセイ小滴が、デバイスにつながるチャンネルの中に交互様式で、このデバイスに供給された。アッセイ小滴は225マイクロメートルの直径を有し、これは、90マイクロメートルの再注入された小滴より大きかった。このデバイスを使用する場合は、必要以上の小さい小滴ではなく、予備の必要以上の大きな小滴が観察されることがより望ましい。なぜなら、癒合していないアッセイ小滴を有することが、2つの再注入された小滴のアッセイ小滴との癒合よりもよいからである。このチャンネルでの放射線速度プロフィール(parabolic velocity profile)が原因で、再注入された小滴はアッセイ小滴よりも早く流れ、結果として、この小滴が癒合電極に達するまでに、これらは互いに接触した。例えば、引用により本明細書中に組み入れられる2007年8月9日に公開された国際特許出願公開番号WO2007/089541を参照のこと。この電極により、20kHzの周波数の1kVのAC電位を加え、これによって小滴の接触面を不安定化させて、小滴の癒合を起こさせた。
【0082】
小滴を遅延線に30秒間流した後、488nmの波長のブルーレーザースポットを、蛍光色素であるレゾルフィンを励起させるために、このチャンネルの中央に置いた。この色素は光を発光し、これを、593nmに中心があるフィルターを持つ光電子増倍管によって検出した。LabViewで記載されたカスタムソフトウェアプログラムを使用して検出データを分析し、その結果、レゾルフィンの蛍光ピークの最大強度を記録することができた。
【0083】
このデバイスの機能を明らかにするために、キシロース消費細胞の2種類の株を小滴の中で培養し、得られたキシロース濃度を様々な時点で測定した。それぞれの時点によるデータは、2つのシリンジに由来する小滴からのものであり、これらのシリンジは、その後の時点については再使用しなかった。この実験に使用した2種類の株はH131とTAL1であった。H131株は、TAL1株よりもキシロースを迅速に消費した。消費速度を決定するために、50mLの円錐管の中の25mLの培養物の嫌気発酵を行った。ここで、HPLCを使用して濃度を測定した。1日の培養後、キシロースの濃度は、H131株については約5.1g/Lから約4.5g/Lに低下したが、TAL1株については有意には低下しなかった。3日間の培養後には、キシロースの濃度は、H131株については、(約5.1g/Lから)約1.1g/Lに低下したが、TAL1株については、(これもまた約5.1g/Lから)約3.8g/Lまでしか低下しなかった。
【0084】
図8は、2日間の培養後のH131株についての生の蛍光分布データを示す。この一連の実験においては、いずれの細胞も含まない小滴の割合が常に存在し、したがって、5g/Lの最初のキシロース濃度を含む集団を分析した。最も高い蛍光値を有していた分布中のピークは、細胞を含まない小滴の集団に対応しており、一方、低い蛍光値を有していた分布中のピークは、細胞を含む小滴に対応していた。空の小滴の存在により、そのピークの平均蛍光値によって全ての蛍光データを正規化することができた。図8に見ることができるように、空の小滴で正規化された蛍光は1の平均値を有している。データの第2の正規化を、2つのデータセットの中の小滴の数が同じであることを確認するために行った。
【0085】
残っているキシロース濃度についての小滴の測定を、HPLC上で測定したより大きな培養物による測定と比較する方法を決定するために、図8を、横座標を、方程式1の検量線データを使用することによって概算したキシロース濃度に変換するように再度プロットした。細胞を含む小滴の平均キシロースは2.5g/Lであると推定した。この値は、明らかに大きな培養物の2.7g/LのHPLC測定値に近かった。
【0086】
次の段階は、2種類の株を検出データに基づいて区別できるかどうかを決定することであった。図9は、H131株においては、蛍光値が低ければ低いほど、定性的により多い小滴が存在することを示す。しかし、2種類の株のキシロースの消費もまた、特定の閾値未満の蛍光値を有している小滴の割合を計算することによって定量的に比較することができた。図9では、閾値は自己判断で0.6に設定した。
【0087】
図10および図11は、それぞれ、2日間および3日間の培養後に収集したデータについてこの分析を行った結果を示す。2日後および3日後のデータについては、0〜0.5、0〜0.6、および0〜0.7の蛍光範囲が、これらの2種類の株の間で統計的に有意な差を示した。さらに、これらの範囲にあるTAL1小滴に対するH131小滴の比は、25にものぼると計算した。この比は、小滴をこれらの範囲に基づいて選別し、流入してくる集団が2種類の株について等しい細胞濃度である場合の、流出してくる集団の概算であった。
【0088】
図12においては、4つの異なる時点での2種類の株について、0〜0.6の蛍光範囲についてのデータだけを示す。小滴の割合はいずれの株においても増大したが、この比は2日後には小さくなった。なぜなら、TAL1株に由来するより多くの小滴が、相当量のキシロースを消費し、一方、H131細胞のほとんどはすでにその瓶の中にあったからである。
【0089】
流入してくる細胞の集団に、2種類の株に由来する細胞が同数含まれている実験もまた行って、2種類の株を一緒に混合することによる結果は期待した結果を生じなかったことを確認した。50/50のTAL1/H131混合物は、別々のH131の実験とTAL1の実験についてのそれぞれ24.3%および0.9%と比較して、0〜0.6の瓶の中に小滴の16.6%を有していた。この混合物による割合は、別々での実験についての割合の中間に近い。
【0090】
完全なハイスループットスクリーニングデバイスを作製するための最後のステップは、選別デバイスの組み込みであった。このデバイスの設計を図13に示す。このデバイスの中のチャンネルは、75マイクロメートルの高さであった。
【0091】
このデバイスの選別部分は2つの排水チャンネルを有する。これらのチャンネルのうちの一方には、これがより大きな流体力学的抵抗を有するようにする狭窄が含まれる。結果として、小滴は自然に他方のチャンネルに流れた。このチャンネルは「望ましくない」小滴チャンネルとなった。小滴は、検出システムが予め決定された範囲内にある蛍光を測定した場合にのみ、高い流体力学的抵抗(すなわち「所望される」)小滴チャンネルに流れた。その後、このLabViewソフトウェアによって、電極に900Hzで2kVのACパルスをかけた。生じたAC場は、チャンネルの全域で電位の傾きを作製し、小滴は、電極に向かって「所望される」小滴チャンネルに入るように、誘電泳動を使用して移動した。チャンネル全体を浮遊している小滴に十分な間隔があいていない場合は、「望ましくない」小滴が「所望される」チャンネル内に流れるであろう。したがって、流入の流速を調整することが効率的な分離に有用であった。2つのチャンネルの中の小滴を、1mLのフィルターを持たないピペットチップを使用して収集した。
【0092】
しかし、再注入される小滴の流速を最適化すること、および間隔を制御できるアッセイ小滴によってはまた、小滴の対を癒合前に互いに接触させるために必要な時間が長くなった。結果として、一部の実施形態においては、より長いチャンネルが必要であった。
【0093】
デバイス全体は、TAL1株に対してH131株を富化させることによって明らかにした。流入してくる細胞の集団には、両方の株を同数含めた。異なる選別ゲートを使用した2つの選別の実行を行った。第1の実験では、0.7未満の蛍光値の小滴を、「所望される」チャンネルに選別し、そして第2の実験では、0.6未満の蛍光値のゲーティング値を使用した。H131株はロイシン欠失培地の中では増殖できないが、TAL1株は増殖できる。結果として、「所望される」選別された集団を、2つのタイプの寒天プレート上で増殖させた。2つの寒天プレートのうちの一方にはロイシンを含めた。この中では、いずれの株も増殖することができる。もう一方のプレートにはロイシンは含めず、これによってTAL1の増殖だけを可能にした。プレートの培養後、それぞれのタイプのプレート上のコロニーの数をカウントした。対照として、流入してくる細胞の集団もまたプレート上で増殖させた。0.6未満の蛍光を持つ小滴を選別した場合には、この集団は18倍を上回って富化された。0.7未満の蛍光を持つ小滴を使用した場合には、富化は21倍を上回った。いずれの場合にも、最初の集団と選別された集団との間には統計学的に有意な(p<0.05)差があった。
【0094】
嫌気性培養をH131株とTAL1株を使用して行った。1時間の培養後、細胞密度(OD600)は、TAL1については約0.5であり、H131については約1.9であった。2時間後、細胞密度は、H131については約4.1であり、TAL1については約1.3であった。3時間後、細胞密度は、H131については約5.7であり、TAL1については約2.2であった。これらの結果に基づいて、H131とTAL1の間での細胞増殖の差だけによる富化は、わずか3.2倍であった。伝統的には、高キシロース消費は、流入してくる細胞の集団を連続して継代培養することによってスクリーニングされてきた。このハイスループットスクリーニングプラットフォームは、2日以内に21倍富化させることができ、このことは、これがより効率的なスクリーニング方法であることを示している。
【0095】
多くの場合には、細胞のライブラリーには、細胞集団全体の中に所望される細胞は極少数しか含まれていない。したがって、1:1,000および1:10,000の、流入してくる所望される(H131)細胞集団の望ましくない(TAL1)細胞集団に対する比を持つ2つの試験ライブラリーを、0〜0.7の範囲に蛍光を有している小滴が「所望される」瓶に選別されるようにスクリーニングした。1:2.5の目的とする最終的な集団比を定義した(すなわち、5個のクローンを無作為に選択した場合には、H131細胞を1個見つけることができると思われる)。この目的は、1:1,000のライブラリーを用いた場合にはわずかに1回のスクリーニングの後に、1:10,000のライブラリーを用いた場合には2回のスクリーニングの後に達成された。1回のスクリーニングのための順序は、流入してくる細胞の前培養、振盪フラスコ培養(これにより、指数増殖期の初期にまで増殖させた)、小滴への細胞のカプセル化、および低いキシロース濃度を持つ小滴の選択であった。1回のスクリーニングにより、1:1,000のライブラリーを420倍富化させ、そして2回のスクリーニングにより、1:10,000のライブラリーを42,600倍富化させた。
【0096】
(実施例2)
本実施例では、進化の結果として一部の株が獲得した優れたキシロース取り込み能力の根底にある遺伝子修飾(単数または複数)の性質を調べた。本実施例で使用したH131−A31株は、以下の1つの重要な相違点を除いてH131と同様であった:XYL1遺伝子とXYL2遺伝子の代わりに、H131−A31には、D−キシロースをD−キシルロースに変換するキシロースイソメラーゼ酵素をコードするPiromyces sp.E2 XYLA遺伝子が含まれている。この株は、最初に無視できる程度の増殖とキシロースの消費速度を示した。これを数ヶ月間にわたり増殖と連続継代培養によって進化させた後、高い増殖速度(μ〜0.2hr−1)と高いキシロース消費速度(2日で14g/L)を特徴とする株H131E−A31が得られた。
【0097】
H131E−A31株の改善された能力の原因となる遺伝的要素を同定するために、この株のゲノムライブラリーを構築し、H131−A31に形質転換した。H131−A31は、その遺伝子型が、MAT_a、leu2、ura3、arg4、ade1::ADE1−GPD−PsTAL1、trp1::TRP1−GPDP−ScRKI1−ScRPE1、his2::HIS2−GPDP−ScTKL1であり、pRS426−GPDP−XYLACYCT−GPDP−XYL3−CYCTを持つことを除き、H131と同じである。XYLAは、Piromyces sp.E2由来のキシロースイソメラーゼ遺伝子である。H131EA31は、H131−A31の進化したバージョンである。
【0098】
ゲノムDNAライブラリー構築物を図14にまとめる。その中にライブラリーを形質転換した遺伝的バックグラウンドはH131−A31株である。このライブラリーは、H131E−A31のゲノムDNAプレップをWizard Genomic DNA精製キット(Promega)を使用して行い、DNAをSau3AI(New England Biolabs)で部分的に消化することによって構築した。3kbより大きい断片をアガロースゲル上で選択し、DNAをゲル精製し、エタノール沈殿で再度精製した。pRS415をバックボーンとして使用し、SalIで消化した。挿入断片とバックボーンの両方をDNAポリメラーゼIのクレノウ断片および適切なdNTPとともにインキュベートして、突出の長さを4塩基対から2塩基対まで短くして自己連結の頻度を下げた。また、バックボーンを脱リン酸化して、自己連結を防いだ。T4リガーゼを用いてこの断片とバックボーンを連結させた後、得られたプラスミドをElectroMAX(商標)DH5α−E(Invitrogen)に形質転換し、アンピシリン耐性寒天ペトリ皿にプレートした。このDH5αライブラリーには、10個のコロニーが含まれていた。このプラスミドをミニプレップし、進化していないH131−A31株に、Frozen−EZ Yeast Transformation II(商標)キット(Zymo Research)を使用して形質転換した。得られた酵母のライブラリーには、5×10個のコロニーが含まれていた。
【0099】
このライブラリーは、個々の挿入断片が高い確率で少なくとも1つのオープンリーディングフレームを含むように構築した。改善されたキシロース同化速度を持つ細胞を得るためには、複数の変異の組み合わせではなく単一の変異で十分であると仮定すると、このシステムは、このライブラリーで形質転換された細胞の集団をスクリーニングすることによってゲノム断片を1つ持つ変異体を単離することができた。このライブラリーには、5×10個のクローンが含まれていた。わずか1回のスクリーニングの後、変異体W2が、最も早いキシロース消費速度を有している変異体として単離された。4日間にわたる累積のキシロースの消費を、空のプラスミド(対照)を形質転換した株H131−A31、変異体W2、および変異体W2から単離したプラスミドを持つ株H131−A31(再度形質転換したW2)について測定した。この対照は、4日間の間に約0g/Lのキシロースを消費した。再度形質転換したW2は、1日後には約0.2g/L、2日後には約1g/L、3日後には約1.8g/L、そして4日後には約2.6g/Lを消費した。対照は、4日間にわたり約0g/Lのキシロースを消費した。変異体W2は、1日後には約0.8g/L、2日後には約2.2g/L、3日後には約3.7g/L、4日後には約4.7g/Lを消費した。生物学的複製をこれらの測定において使用した。4日間の培養後の再度形質転換されたW2株と変異体W2についてのキシロースの消費の差は、背景の変異もまたW2変異体において起こったことを示唆していた。しかし、いずれも、対照よりも多くのキシロースを消費し、これにより、対照を上回る利点を提供した変異がプラスミド上に存在することを確認した。
【0100】
配列決定と制限酵素消化分析により、W2株から単離したプラスミドに、短縮型のXYLA配列が隣接しているXYLA遺伝子構築物の3つの全長のコピーが含まれていることを決定した(図15)。H131E−A31中のXYLAコピーの正確な数は明らかではないが、おそらく、H131−A31中の最初の1コピーから増えた、少なくとも5コピーが含まれていた。H131−A31Eには、W2プラスミドの中に見られる3つの全長のXYLA遺伝子が含まれているはずである。なぜなら、この遺伝子の複製は、ほぼおそらく、ライブラリーの数日間の増殖とは対照的に、数ヶ月間の進化の間に起こった。部分的なXYLA遺伝子についての短縮部位がSau3AI(H131E−A3からDNAを部分的に消化するために使用される酵素)の制限酵素部位と一致していたので、XYLA遺伝子のより大きな断片は、おそらく、その株の中に存在していた。全長の遺伝子構築物の複製がすでに観察されているので、これらのより大きな断片は、ほぼおそらく、総コピー数を5に増大させる全長の構築物であった。
【0101】
キシロースイソメラーゼ遺伝子は、細胞によるキシロースの同化を開始させる反応を触媒した。XYLAのさらなるコピーは、キシロースの取り込みと細胞増殖を増大させるであろう。最初のH131−A31株の増殖はキシロース上では比較的遅かったので、培地中の唯一の炭素源であるキシロースの選択圧により、XYLAのコピー数が増えた細胞の富化に至った。なぜなら、そのような細胞には、キシロース培地中で良好である(enjoy)という増殖の利点があるからである。XYLAのこれらの複数のコピーは、同じではない位置を有している2つの部位の間で組み換えが起こる、自然に起こるタンデムな遺伝子の複製のプロセスによりこれらが作製されるように連結された。典型的には、遺伝子の複製は、点変異とほぼ同じ速度で起こる。H131−A31株由来のpRS426プラスミドには、プロモーターとターミネーターが隣接しているXYLA遺伝子だけではなく、同じ隣接領域を持つP.stipitis XYL3も含まれていた。これらの相同隣接領域は、プラスミドの複製の間にタンデムな遺伝子複製を起こすであろう。さらに、pRS426プラスミドはまたマルチコピープラスミドでもあるので、その複製は、複製事象の確率を高めるであろう有糸分裂よりも頻繁に起こる。定量的PCRを、H131−A31株およびH131E−A31株中のXYLAのコピー数を決定するために行った。PGK遺伝子のコピー数に対して正規化すると、H131−A31中には1.3±0.3コピーが存在し、そしてH131E−A31中には47.9±9.0コピーが存在していた。これによってはまた、進化後のXYLAのコピー数の増大も確認した。
【0102】
また、DNAの配列決定により、キシロースイソメラーゼ酵素中のセリンのチロシンへの点変異(Ser19Tyr、すなわち、S19Y)を同定した。Thermotoga Neapolitana由来のキシロースイソメラーゼのタンパク質結晶構造(株H131−A31の構築に使用したPiromyces由来のキシロースイソメラーゼに対して52%のアミノ酸配列同一性を有している)は解明されている。これは、酵素の活性の影響を受けるとは考えられない、活性部位から離れたタンパク質の外殻上に存在している。さらに、S19Y変異を持つH131−A31のバージョンを作製した場合には、この株は、変異していないXYLAを持つ株と比較して、増殖の改善を示さなかった。したがって、XYLA遺伝子構築物の遺伝子複製は、このライブラリーからの改善されたW2株のための主原因となっている可能性がある。
【0103】
(実施例3)
本実施例は、高グルコース消費株を同定することによる、S.cerevisiaeの高エタノール生産株を同定する方法を記載する。グルコースの消費とエタノールの生産には相関関係がある。例えば、ATCC24858は、グルコースの濃度を約4.6g/Lから、3時間後には約4.2g/Lに、5時間後には約3.3g/Lに、7時間後には約2g/Lに、そして9時間後には約0.5g/Lに低下させることができる。同時に、エタノール濃度は、5時間後には約0.06%、7時間後には約0.18%、そして9時間後には約0.25%に上昇する。ATCC24858はより多くのグルコースを消費し、またより多くのエタノールを生産するが、一方、adh1ノックアウト株(adh1 KO)は極めて少量しかグルコースを消費せず、無視できるほどの量のエタノールしか生産しない。PDC1−GFPは、培地を生産し、かつ消費する株(medium producing and consuming strain)である。したがって、選択の間接的測定を使用するとの仮定が妥当である。本実施例では、スクリーニングを行うために、Amplex UltraRedをグルコースオキシダーゼを検出するために使用する。
【0104】
本実施例で使用した3つの株は以下である:ATCC24858、BY4741 PDC1−GFP(PDC1−GFP)、およびBY4741 Δadh1(adh1 KO)。ATCC24858は、工業用の倍数性S.cerevisiae株である(Ness,Lavallee,Dubourdieu,Aigle,& Dulau,1993)。BY4741 PDC1−GFPは、ピルビン酸デカルボキシラーゼ(PDC1)遺伝子(Huhら、2003)に連結させられた緑色蛍光タンパク質(GFP)を持つBY4741である。BY4741 Δadh1は、主要なアルコールデヒドロゲナーゼ(adh1)遺伝子の欠失を持つBY4741株である(Winzelerら、1999)。
【0105】
本実施例においては、酵母の発酵は、250mLの三角フラスコの中で、30℃で、225rpmのオービタルシェーカーの回転速度を使用して行った。微好気性発酵は、振盪フラスコの内容物全体に窒素を泡立てること、および針のついたゴム製のストッパーで封着することによって行った。培養培地には、6.7g/Lの、アミノ酸を含まないイーストニトロゲン基礎培地(Difco)、プラスミドを維持するための適切なアミノ酸のドロップアウト(dropout)を含む完全な合成培地(MP Biomedicals)、および5g/Lのグルコースを含めた。
【0106】
小滴中の培養培地には、アミノ酸を含まない1×イーストニトロゲン基礎培地(Difco)、プラスミドを維持するための適切なアミノ酸のドロップアウトを含む完全な合成培地(MP Biomedicals)、および5g/Lのグルコースを含めた。小滴の微好気性培養は、蓋をした1mLのシリンジの中で30℃で行った。
【0107】
実施例1に記載したマイクロ流体小滴スクリーニングシステムを使用して小滴中の酵母細胞を培養し、Amplex UltraRed/グルコースオキシダーゼ酵素システムを使用して残っているグルコースの量を測定し、そして高グルコース消費株を選択した。
【0108】
振盪フラスコからのグルコース濃度とエタノール濃度の定量のために、細胞を含まない培養上清を、0.2μmの孔の大きさのポリテトラフルオロエチレンメンブレンシリンジフィルター(VWR International)に通して濾過した。これらの試料を、Waters 410屈折率検出器(Waters)に接続したWaters 2690 Separationsモジュールを用いて、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)システムにおいて分析した。試料を、有機酸の分析のためのBioRad Aminex HPX−87H イオン排除カラム上で、14mMの硫酸を移動相として0.7mL/分の流速で用いて分離させた。細胞密度の決定のために、培養物の光学密度をUltrospec 2100 pro UV/可視分光光度計(Amersham Biosciences)を使用して600nmで測定した。
【0109】
小滴中で培養した株のグルコース消費を、振盪フラスコ中で培養した株のグルコース消費に対して比較した。蛍光分布を、事前の実験で収集した検量線を使用することにより、概算したグルコース分布に変換した。これらの分布のデータを、生物学的複製実験から収集した。細胞を含む小滴の分布は、キシロースでの実験における細胞の分布より広かった。これらの株によるグルコース消費は、操作されたキシロース株のキシロースの消費よりもはるかに速かったので、より速い糖の消費速度がこれらのより幅の広い分布に関与している可能性がある。
【0110】
3時間後のATCC24858株の平均グルコース消費はおよそ4g/Lであり、これは、同じ時点での4.3g/Lの振盪フラスコのグルコース濃度と同様であった。同様の分析をBY4741 PDC−1 GFP株について行った。7時間の培養後、小滴中の平均グルコース濃度は3g/Lであり、これは、3.4g/Lの振盪フラスコの濃度に近かった。
【0111】
個々の株を培養し、様々な時点での蛍光検出データを分析することにより、このスクリーニングシステムによって複数の株を識別することができるかどうかを決定することができる。3種類の酵母株による0.6未満の蛍光値を持つ小滴の割合を、数時間にわたり分析した。ATCC24858については、この範囲に蛍光を持つ小滴の割合は、2時間後には約3%、3時間後には約10%、そして4時間後には約14%であった。PDC−1 GFPについては、3時間後および4時間後には、小滴の約1%が0.0〜0.6の蛍光の範囲に入り、5時間後には約8%、6時間後には約14%、そして7時間後には約18.5%がこの範囲に入った。adh1KOについては、5時間後には、小滴の約1%が0.0〜0.6の蛍光の範囲に入り、そして7時間後には約2.5%がこの範囲に入った。これらの値は、それぞれの時点について計算し、振盪フラスコでの実験による測定値と比較して同じグルコースの消費傾向を示した。この傾向は、最も早く消費する株から最も遅く消費する株への順序が、ATCC24858、BY4741 PDC1−GFP、そしてBY4741 Δadh1であることを示している。
【0112】
BY4741 PDC1−GFP株は、この株とBY4741 Δadh1株との等しい割合での混合物から富化させた。実際の富化実験を行う前に、それぞれの株を、生物学的複製を用いて7時間、小滴の中で別々に増殖させ、様々な蛍光範囲にある小滴の割合について得られた蛍光データを分析した(図16)。0〜0.5、0〜0.6、および0〜0.7の範囲のデータについては、2種類の株の間に統計学的な差があった。瓶の範囲についての割合比(percentage ratio)が、選別の誤りがない場合には、PDC1−GFPの理想的な富化である。統計学的に有意な範囲についての最も大きな比は、0〜0.5および0〜0.6であった。したがって、これらの範囲を、富化実験のための選別閾値として選択した。富化実験用の細胞を7時間培養した。増殖が原因である富化は、PDC1−GFP株がΔadh1よりも速く増殖したので、およそ19倍であった。0.0〜0.5の蛍光帯を使用した場合には、選別によりこの富化は42倍に改善された。加えて、0.0〜0.6の蛍光帯を使用した場合は、選別によってこの富化はさらに3倍改善され、全体としては54倍の富化であった。
【0113】
ATCC24858とBY4741 PDC1−GFPの混合物について、第2の富化実験を行った。それぞれの株を別々に培養した場合の検出データの分析は、0.3未満から0.7の蛍光範囲が全て、2種類の株の間で統計学的に有意な差を示したことを示していた(図17)。さらに、0〜0.4の瓶の範囲は、最大量の理想的な富化を示し、これを、実際の選別実験に使用する範囲として選択した。これによっては、ATCC24858株は6×を上回るほどに富化させられた。選別を行わなかった場合には4時間を超える実質的な富化がなかったことが明らかになったことによって、富化への増殖の寄与がないこともまた観察された。
【0114】
(実施例4)
本実施例では、Escherichia Coli株を、高キシロース消費株を単離するためにハイスループットスクリーニングシステムを使用してスクリーニングした。いくつかの場合には、多量のエタノールを生産するE.coli株を同定することが所望され得る。しかし、いくつかのシステムにおいては、エタノールの生産を測定することは困難であり得る。代わりに、キシロースの消費を測定することができる。上記E.coliライブラリーの研究により、キシロースの消費とエタノールの生産との間に比較的強い相関関係が存在することが示されており、これは以下のように表わすことができる:
キシロースの消費(g/L)=(2.2408キシロース濃度(g/L))+0.0664 [2]
方程式2の相関関係により、0.9244のR値が得られた。
【0115】
本実験で使用した親株はXZ030であり、これはVerenium Corporationから提供された。この株はKO11株と同様である(Yomanoら、1998)。Errorprone PCRを使用して、rpoAライブラリーとrpoDライブラリーを作製した。rpoAライブラリーとrpoDライブラリーは、それぞれ、プラスミドpCL1920とプラスミドpHACMを使用して構築した。rpoAライブラリーについての変異はC末端ドメインを標的とした。
【0116】
本実施例で使用したE.coliの微好気性発酵は、アルミホイルで覆ったKingFisher 24ウェルディープウェルプレート(Thermo Fisher)の中で5.5mLの培地を用いて、35℃で、225rpmのオービタルシェーカー回転速度を使用して行った。全ての培養培地に、プラスミドを維持するための適切な抗生物質と、所望される濃度のキシロースを含めた。富化培養培地(rich culturing medium)には、5%のコーンスティープリカーと全量で140g/Lのキシロースを含むサトウキビ由来のオーバーリムされた(overlimed)加水分解物(pH6.5)を含めた。最少培地は、30g/Lのエタノールと、10g/Lまたは20g/Lのいずれかのキシロースを含むAM1である(Martinezら、2007)。小滴中での細胞の微好気性培養は、蓋をした1mLのシリンジの中で37℃で行った。
【0117】
rpoAライブラリーを、細胞を、5%のコーンスティープリカー、100g/Lのキシロース、および80g/Lのエタノールを含むサトウキビ由来のオーバーリムされた加水分解物(pH6.5)中で4時間増殖させることによって、マイクロ流体小滴のスクリーニングの前に予備スクリーニングした。rpoDライブラリーを50g/Lのエタノールを使用し、細胞をその環境に6時間曝したことを除き、同じ方法で予備スクリーニングした。
【0118】
マイクロ流体小滴のスクリーニングシステムを、小滴中で細菌細胞を培養し、ピラノースを示すためにAmplex UltraRedを使用して残っているキシロースの量を測定し、そして高キシロース消費株を選択するために使用した。振盪フラスコからのキシロース濃度の定量のために、細胞を含まない培養上清を、0.2μmの孔の大きさのポリテトラフルオロエチレンメンブレンシリンジフィルター(VWR International)に通して濾過した。これらの試料を、Waters 410屈折率検出器(Waters)と接続したWaters 2690 Separationsモジュールを用いる高速液体クロマトグラフィー(HPLC)システムで分析した。試料を、有機酸の分析のためのBioRad Aminex HPX−87Hイオン排除カラム上で、移動相として14mMの硫酸を0.7mL/分の流速で用いて分離させた。細胞密度の決定のために、培養物の光学密度を、Ultrospec 2100 pro UV/可視分光光度計(Amersham Biosciences)を使用して600nmで測定した。
【0119】
1つのE.coli細胞を光学顕微鏡で視覚化することは困難であり得るので、superfolder緑色蛍光タンパク質を発現するE.coli株を使用して流入してくる細胞の最適密度を決定して、2〜3個の小滴あたり1個の細胞が存在することを確実にした(Pedelacq,Cabantous,Tran,Terwilliger,& Waldo,2006)。放射されるこの株の強い蛍光により、必要である、小滴中の細胞の低倍率での画像化が可能となった。なぜなら、これらの小滴は直径75μmであったが、細胞はわずか1μmの幅、数ミクロンの長さであったからである。顕微鏡上で細胞と小滴を同時に視覚化することにより、最適な細胞密度がOD600=0.003であると決定した。
【0120】
バルクでの培養を、140g/Lのキシロースを含む富化培地の中で行った。Amplex UltraRed/ピラノースオキシダーゼ酵素システムは富化培地とは適合しなかった。なぜなら、これらには、西洋ワサビペルオキシダーゼ酵素と反応するであろう化合物が含まれ、高いバックグラウンドシグナルを生じるからである。さらに、この培地は不透明でもあり、これは、蛍光の検出の際に問題となり得る。したがって、このスクリーニングシステムにおいては、細胞を培養するためには最少培地を使用した。AM1最少培地がエタノール生産性細菌株を培養するために開発されており、小滴中で細胞を培養するために使用されてきた(Martinezら、2007)。さらに、140g/Lのキシロースは、このアッセイシステムにおいては測定しづらかった。キシロース濃度が高ければ高いほど、蛍光強度は下がる。ピラノースオキシダーゼ酵素の濃度が、蛍光が強くなるか、または高いキシロース濃度で一定にとどまるレベルに下がると、バックグラウンドの蛍光に対するピークの比は、10の理想的な比よりも有意に低くなった。これにより、最初の20g/Lのキシロース濃度が、このアッセイシステムとともに使用できる最大濃度であると決定した。140g/Lのキシロースはまた細胞にストレスを与えたので、30g/Lのエタノールを、細胞に対する別のストレスとして培養培地に添加した。140g/Lのキシロースを含む富化培地中での高いキシロース消費が、20g/Lのキシロースと30g/Lのエタノールを含む最少培地中と同様に行われることを確認するために、rpoAライブラリーに由来する5種類の株を両方の培地の中で72時間培養し、キシロースの消費を測定した(図18)。2つのタイプの培地の間には良好な相関関係があった。
【0121】
rpoAライブラリーには5×10個のコロニーが含まれていた。ライブラリーの大きさを小さくするために、これを、細胞を、5%のコーンスティープリカー、100g/Lのキシロース、および80g/Lのエタノールを含むサトウキビ由来のオーバーリムされた加水分解物(pH6.5)の中で、4時間増殖させることによって、マイクロ流体小滴のスクリーニングの前に予備スクリーニングした。得られたライブラリーには、ストレス後に、4.2×10個のコロニーが含まれていた。これらのコロニーを、マイクロ流体小滴システム中で、60.5時間の培養時間を用い、10g/Lのキシロースと30g/Lのエタノール(これは、細胞に対するストレスとして添加した)を含むAM1最少培地を使用してスクリーニングし、14.2%の小滴を選択した。60個の選択したクローンを、24ウェルディープウェルプレート中で、オーバーリムされた加水分解物/コーンスティープリカー富化培地混合物(140g/Lのキシロースを含む)中で72時間培養した。
【0122】
野生型rpoAを持つプラスミドを含む対照は、平均で104.3g/Lのキシロースを消費し、46g/Lのエタノールを生産した。最も優れた変異体は、113.6g/Lのキシロース消費と48.9g/Lのエタノール生産を有しており、これらはそれぞれ対照の平均よりも8.9%および6.3%高かった(図19A〜19B)。グラフ中の水平方向の黒い線は対照株の平均濃度である。さらに、60個の変異体のうちの93.7%が、対照よりも高いキシロース消費とエタノール生産を有していた。
【0123】
選択したrpoA変異体のうちの20個もまた、20g/Lのキシロースと30g/Lのエタノールを含むAM1最少培地中で72時間、微好気的に増殖させた。この実験では、対照には、挿入断片を持たないプラスミド(pCL1920)または野生型rpoA(pCL1920/rpoA)を含め、上記株の全てが対照よりも高いキシロース消費を示した。
【0124】
選択した変異体集団によるキシロースの消費は6.2±0.3g/Lであったが、ブランクプラスミドを持つ株については、キシロースの消費は2.0±0.1g/Lであり、野生型rpoAを含むプラスミドを持つ株については0.2±0.1g/Lであった(図19C)。相当量のエタノールが培地中の成分であるので、異なる株の間でのエタノール濃度には有意な差はなかった。
【0125】
rpoDライブラリーを、50g/Lのエタノールを使用し、細胞をその環境に6時間曝したことを除いて、rpoAライブラリーと同様の方法で予備スクリーニングした。rpoAライブラリーと同じ方法での小滴のスクリーニングを行い、小滴のうちの2.6%を選択した後、20個の株をディープウェルプレート中で72時間培養した。最も優れた株は、109.5g/Lのキシロースを消費し、47.8g/Lのエタノールを生産したが、プラスミド上に余分な野生型rpoDを持つ株は、109.7g/Lのキシロースを消費し、そして47.3g/Lのエタノールを生産した。この場合、最も優れた株は対照と同じであった。
【0126】
しかし、これらの株のうちの20個を、20g/Lのキシロースと30g/Lのエタノールを含むAM1最少培地の中で72時間増殖させた場合には、これらの株のうちの19個が、対照よりも相当高いキシロースの消費を有していた(図19D)。2つの対照株には、挿入断片を持たないプラスミド(pHACM)または野生型rpoDを持つプラスミド(pHACM/rpoD)を含めた。これらの結果は、rpoAでの実験において観察した結果と類似していた。株D14を除き、スクリーニングした株の集団のキシロースの消費は4.2±0.5g/Lであり、一方、対照は、ブランクプラスミドおよび野生型rpoA株についてそれぞれ、2.3±0.1g/Lおよび2.1±0.0g/Lであった。相当量のエタノールが培地中の成分であるので、異なる株の間でのエタノール濃度には有意な差はなかった。
【0127】
本発明のいくつかの実施形態が本明細書中に記載され、説明されているが、当業者は、本明細書中に記載される機能を行う、ならびに/あるいは、結果および/もしくは1つまたは複数の利点を得るための様々な他の手段および/または構造を容易に想定するであろう。そしてそのようなバリエーションおよび/または改変のそれぞれが本発明の範囲内にあると考えられる。より一般的には、当業者は、本明細書中に記載される全てのパラメーター、寸法、材料、および立体配置の全てが例示と意味され、実際のパラメーター、寸法、材料、および/または立体配置は、それについての本発明の教示(単数または複数)が使用される特別な用途(単数または複数)に応じて様々であることを容易に理解するであろう。当業者は、日常的に行われている実験以上の実験を使用することなく、本明細書中に記載した特別な実施形態と等価な多くの実施形態を認識するか、または確認することができるであろう。したがって、上記実施形態は、例として示されているにすぎないこと、具体的に記載されており、特許請求される以外の本発明が、添付の特許請求の範囲およびその等価物の範囲内で実施され得ることが理解されるべきである。本発明は、本明細書中に記載される個々のそれぞれの特徴、システム、物品、材料、キット、および/または方法に関する。加えて、2つまたはそれ以上のそのような特徴、システム、物品、材料、キット、および/または方法の任意の組み合わせが、そのような特徴、システム、要素、材料、キット、および/または方法が互いに矛盾しない場合は、本発明の範囲内に含まれる。
【0128】
不定冠詞「a」および「an」は、明細書および特許請求の範囲において本明細書中で使用される場合は、反対であると明記されない限りは、「少なくとも1つ」を意味すると理解されるべきである。
【0129】
表現「および/または」は、明細書および特許請求の範囲において本明細書中で使用される場合は、そのように一緒にくくられた要素の「いずれか、または両方」を意味する、すなわち、いくつかの場合には接合的に(conjunctively)存在し、他の場合には離接的に(disjunctively)存在する要素を意味すると理解されるべきである。他の要素は、状況に応じて、「および/または」の箇条によって具体的に特定された要素以外にも存在する場合があり、これは、反対のことが具体的に明記されない限りは、具体的に特定されたそのような要素と関係があるかないかは問わない。したがって、限定ではない例として、「Aおよび/またはB」との言及は、「含む」のような制約のない用語と組み合わせて使用される場合は、1つの実施形態では、Bを伴わないA(状況に応じてB以外の要素を含む)を、別の実施形態においては、Aを伴わないB(状況に応じて、A以外の要素を含む)を、なお別の実施形態においては、AとBの両方(状況に応じて他の要素を含む)などをいうことができる。
【0130】
明細書中および特許請求の範囲において本明細書中で使用される場合は、「または」は、上記で定義された「および/または」と同じ意味を有すると理解されるべきである。例えば、リストの中の要素を分ける場合には、「または」または「および/または」は、包括的、すなわち、少なくとも1つの要素を含み、2つ以上の要素、多数の要素、または要素のリストも、そして状況に応じて、さらなる列挙されていない要素を含むと解釈されるべきである。対照的に、明確に特定された要素だけ(例えば、「〜の1つだけ」または「〜の正確に1つ」、または特許請求の範囲において使用される場合は、「〜からなる」)は、多数の要素または要素のリストのうちの正確に1つの要素が含まれることをいうであろう。一般的には、用語「または」は、本明細書中で使用される場合は、排他的な用語(例えば、「いずれか」、「〜の1つ」、「〜の1つだけ」、または「〜の正確に1つ」)が先行する場合にのみ、排他的な代替物(すなわち、「一方または他方であるが、両方ではない」)を示すとのみ解釈されるべきである。「原則として〜からなる」は、特許請求の範囲において使用される場合は、特許法の範囲において使用されるその通常の意味を有するべきである。
【0131】
本明細書中、および特許請求の範囲の中で使用される場合は、表現「少なくとも1つ」は、1つまたは複数の要素のリストへの言及においては、要素のリストの中の複数の要素のうちの任意の1つまたは複数から選択された少なくとも1つの要素を意味すると理解されるべきである。しかし、要素のリストの中に具体的に列挙された個々の全ての要素の少なくとも1つが必ずしも含まれるわけではなく、要素のリストの中の要素の任意の組み合わせも排除されない。この定義により、それについて「少なくとも1つ」と言われる要素のリストの中に具体的に特定された要素以外に複数の要素が状況に応じて存在し得、これらは、具体的に特定されたそのような要素と関係があるかないかは問わない。したがって、限定ではない例として、「AおよびBの少なくとも1つ」(または同等に、「AまたはBの少なくとも1つ」、または同等に「Aおよび/またはBの少なくとも1つ」)は、1つの実施形態では、状況に応じて2つ以上を含む少なくとも1つの、Bを伴わないA(および状況に応じてB以外の要素を含む)、別の実施形態においては、状況に応じて2つ以上を含む少なくとも1つの、Aを伴わないB(および状況に応じてA以外の要素を含む)、なお別の実施形態においては、状況に応じて2つ以上を含む少なくとも1つのAと状況に応じて2つ以上を含む少なくとも1つのB(および状況に応じて他の要素を含む)などを意味し得る。
【0132】
特許請求の範囲および上記の明細書中では、全ての移行句、例えば、「含む(comprising)」、「含む(including)」、「持つ(carrying)」、「有する(having)」、「含む(containing)」、「含む(involving)」、「保持する(holding)」などは、制限がない、すなわち、含むが限定されないことを意味すると理解される。移行句「〜からなる」および「原則として〜からなる」だけが、United States Patent Office Manual of Patent Examining Proceduresのセクション 2111.03に示されているように、それぞれ、閉鎖された移行句、または半閉鎖移行句であるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞の富化された集団を生成する方法であって、以下の工程:
マイクロ流体デバイスの中に含まれる小滴の第1の集団を提供する工程であって、該小滴の少なくとも一部は1つまたは複数の細胞をカプセル化し、該小滴の少なくとも一部は第1の細胞型を含み、そして該小滴の少なくとも一部は第2の細胞型を含む、工程;
該小滴の少なくとも一部について、該各小滴の中の1つまたは複数の細胞が糖と反応する能力を決定する工程であって、ここで、該第1の細胞型は、該第2の細胞型よりも大きな程度まで糖を代謝することができる、工程;ならびに、
該決定に基づいて、該第2の細胞型と比較して該第1の細胞型の細胞小滴の富化された集団を生成する工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記糖がキシロースである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記糖がグルコースである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第2の細胞型と比較した前記第1の細胞型の富化の量が少なくとも約10倍である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第2の細胞型と比較した前記第1の細胞型の富化の量が少なくとも約100倍である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第2の細胞型と比較した前記第1の細胞型の富化の量が少なくとも約1000倍である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記第2の細胞型と比較して前記第1の細胞型の細胞小滴の富化された集団を生成する工程は、前記第1の細胞型の少なくとも一部を、マイクロ流体デバイスの中の第1の位置に向けさせる工程、および前記第2の細胞型の少なくとも一部を、マイクロ流体デバイスの中の第2の位置に向けさせる工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
細胞に電場を加えることにより、前記細胞が前記第1の位置および/または前記第2の位置に向けられる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の細胞型のDNAを配列決定する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の細胞型と前記第2の細胞型が同じ種に由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の細胞型と前記第2の細胞型が異なる種に由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記小滴中の1つまたは複数の細胞が糖と反応する能力を決定する工程は、該1つまたは複数の細胞が糖と反応する能力を蛍光を使用して決定する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記細胞小滴の富化された集団の少なくとも一部を培養する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
細胞の富化された集団を生成する方法であって、以下の工程:
マイクロ流体デバイスの中に含まれる小滴の集団を提供する工程であって、該小滴の少なくとも一部は1つまたは複数の細胞をカプセル化し、該小滴の集団の小滴の少なくとも一部は第1の細胞型を含み、そして該小滴の少なくとも一部は第2の細胞型を含む、工程;
該小滴の少なくとも一部について、該小滴の中の1つまたは複数の細胞が作用剤と反応する能力を決定する工程であって、ここで、該第1の細胞型は、該第2の細胞型が反応するよりも大きな程度まで該作用剤と反応する工程;ならびに、
該決定に基づいて、該第2の細胞型と比較して該第1の細胞型の細胞小滴の富化された集団を生成する工程
を含む、方法。
【請求項15】
前記第2の細胞型と比較して前記第1の細胞型についての細胞小滴の富化された集団を生成する工程は、該第1の細胞型の少なくとも一部をマイクロ流体デバイスの中の第1の位置に向けさせる工程、および該第2の細胞型の少なくとも一部をマイクロ流体デバイスの中の第2の位置に向けさせる工程を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
細胞に電場を加えることにより、前記細胞が前記第1の位置および/または前記第2の位置に向けられる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記作用剤が、少なくとも第1の細胞型によって代謝される糖である、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記作用剤がキシロースである、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記作用剤がグルコースである、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記第1の細胞型のDNAを配列決定する工程をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
前記小滴の集団が、前記第2の細胞型に対する前記第1の細胞型の第1の比を有し、そして前記富化された小滴の集団が、該第2の細胞型に対する該第1の細胞型の第2の比を有し、ここで、該第1の比は該第2の比よりも少なくとも10倍大きい、請求項14に記載の方法。
【請求項22】
前記小滴の中の1つまたは複数の細胞が作用剤と反応する能力を決定する工程の前に、少なくとも約1時間、該小滴の中の細胞を培養する工程をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項23】
前記小滴の中の1つまたは複数の細胞の作用剤と反応する能力を決定する工程の前に、少なくとも約1日、前記小滴の中の細胞を培養する工程をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項24】
前記第1の細胞型と前記第2の細胞型が同じ種に由来する、請求項14に記載の方法。
【請求項25】
前記第1の細胞型と前記第2の細胞型が異なる種に由来する。請求項14に記載の方法。
【請求項26】
前記小滴が担体流体中に含まれる、請求項14に記載の方法。
【請求項27】
前記小滴が約200マイクロメートル未満の平均直径を有する、請求項14に記載の方法。
【請求項28】
前記小滴が約100マイクロメートル未満の平均直径を有する、請求項14に記載の方法。
【請求項29】
前記小滴が約1マイクロメートル未満の平均直径を有する、請求項14に記載の方法。
【請求項30】
前記小滴が約100nm未満の平均直径を有する、請求項14に記載の方法。
【請求項31】
前記小滴の中の1つまたは複数の細胞が作用剤と反応する能力を決定する工程は、1つまたは複数の細胞の作用剤と反応する能力を、蛍光を使用して決定する工程を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項32】
前記小滴の中の1つまたは複数の細胞が作用剤と反応する能力を決定する工程は、前記作用剤を第2の作用剤に曝すこと、および前記第2の作用剤を決定する工程を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項33】
前記第2の作用剤が前記小滴を懸濁している担体流体の中に含まれる、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記第2の作用剤が第2の小滴の中に含まれる、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
前記小滴の中の1つまたは複数の細胞が作用剤と反応する能力を決定する工程は、該小滴と第2の小滴とを融合させる工程を含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
細胞小滴の富化された集団の少なくとも一部を培養する工程をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項37】
以下の工程:
マイクロ流体デバイスの中に含まれる小滴の集団を提供する工程であって、該小滴の少なくとも一部は1つまたは複数の細胞をカプセル化し、そして該小滴の少なくとも一部は糖を含む、工程;
該小滴の少なくとも一部を糖と反応することができる酵素に曝す工程;ならびに、
該酵素の該糖との反応の程度を決定する工程
を含む、方法。
【請求項38】
前記酵素がオキシダーゼである、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記酵素がピラノースオキシダーゼである、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記糖がキシロースである、請求項37に記載の方法。
【請求項41】
前記糖がグルコースである、請求項37に記載の方法。
【請求項42】
前記反応の程度を決定する工程は、以下の工程:
前記小滴をマイクロ流体チャンネルを通り抜けるように促す工程、および
該マイクロ流体チャンネルの中での該小滴の位置を決定して、反応の程度を決定する工程
を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項43】
前記酵素の前記糖との反応の程度を決定する工程は、該酵素を該糖に曝して過酸化水素を生成する工程を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項44】
前記過酸化水素を非蛍光化合物に曝して蛍光化合物を生成する工程をさらに含む、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記非蛍光化合物がAmplex UltraRedである、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記小滴の少なくとも一部を前記酵素に曝す前に、前記糖の少なくとも一部を代謝するための時間を前記細胞に与える工程をさらに含む、請求項37に記載の方法。
【請求項47】
前記小滴の少なくとも一部を糖と反応することができる酵素に曝す工程は、以下の工程:
複数の第2の小滴を提供する工程であって、該第2の小滴の少なくとも一部は該酵素を含む工程;および
該小滴の少なくとも一部と該第2の小滴の一部とを融合させ、それにより1つまたは複数の細胞を該酵素に曝す工程
を含む、請求項37に記載の方法:
【請求項48】
以下の工程:
マイクロ流体デバイスの中に含まれる小滴の集団を、糖に対して、少なくとも該糖を該小滴の少なくとも一部に侵入させるために十分な時間、曝す工程であって、該小滴の少なくとも一部は1つまたは複数の細胞をカプセル化する、工程;
該小滴の少なくとも一部を糖と反応することができる酵素に曝す工程;ならびに、
該酵素の該糖との反応の程度を決定する工程
を含む方法。
【請求項49】
前記酵素がオキシダーゼである、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記酵素がピラノースオキシダーゼである、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記糖がキシロースである、請求項48に記載の方法。
【請求項52】
前記糖がグルコースである、請求項48に記載の方法。
【請求項53】
前記反応の程度を決定する工程は、以下の工程:
前記小滴をマイクロ流体チャンネルを通り抜けるように促す工程、および
該マイクロ流体チャンネルの中での該小滴の位置を決定して、反応の程度を決定する工程
を含む、請求項48に記載の方法。
【請求項54】
前記酵素の前記糖との反応の程度を決定する工程は、該酵素を該糖に曝して過酸化水素を生成する工程を含む、請求項48に記載の方法。
【請求項55】
前記過酸化水素を非蛍光化合物に曝して蛍光化合物を生成する工程をさらに含む、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記非蛍光化合物がAmplex UltraRedである、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
前記小滴の少なくとも一部を前記酵素に曝す前に、前記糖の少なくとも一部を代謝するための時間を前記細胞に与える工程をさらに含む、請求項48に記載の方法。
【請求項58】
前記小滴の少なくとも一部を前記糖と反応することができる酵素に曝す工程は、以下の工程:
複数の第2の小滴を提供する工程であって、該第2の小滴の少なくとも一部は該酵素を含む工程;および
該小滴の少なくとも一部と該第2の小滴の一部とを融合させ、それにより1つまたは複数の細胞を該酵素に曝す工程
を含む、請求項48に記載の方法。
【請求項59】
富化された種の集団を生成する方法であって、以下の工程:
マイクロ流体デバイスの中に含まれる小滴の集団を提供する工程であって、該小滴の少なくとも一部は第1の種をカプセル化し、そして該小滴の集団の小滴の少なくとも一部は第2の種を含む、工程;
該小滴の少なくとも一部について、該小滴の中の1つまたは複数の種が作用剤と反応する能力を決定する工程であって、ここで、該第1の種は、該第2の種よりも大きい程度まで該作用剤と反応する工程;ならびに、
該決定に基づいて、該第2の種を含む小滴と比較して、該第1の種を含む小滴の富化された集団を生成する工程
を含む、方法。
【請求項60】
前記第2の種と比較した前記第1の種の富化された種の小滴の集団を生成する工程は、前記第1の種の少なくとも一部をマイクロ流体デバイスの中の第1の位置に向けさせる工程、および前記第2の種の少なくとも一部をマイクロ流体デバイスの中の第2の位置に向けさせる工程を含む、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
前記小滴の集団が、前記第2の種に対する前記第1の種の第1の比を有し、そして前記富化された小滴の集団が、該第2の種に対する該第1の種の第2の比を有し、ここで、該第2の比は該第1の比よりも少なくとも10倍大きい、請求項59に記載の方法。
【請求項62】
前記小滴の中の1つまたは複数の種が作用剤と反応する能力を決定する工程は、前記作用剤を第2の作用剤に曝す工程、および該第2の作用剤を決定する工程を含む、請求項59に記載の方法。
【請求項63】
前記第2の作用剤が小滴を懸濁している担体流体の中に含まれる、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
前記第2の作用剤が第2の小滴の中に含まれる、請求項62に記載の方法。
【請求項65】
前記小滴の中の1つまたは複数の種が作用剤と反応する能力を決定する工程は、該小滴と前記第2の小滴とを融合させる工程を含む、請求項64に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19−1】
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【図19−2】
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【公表番号】特表2011−525811(P2011−525811A)
【公表日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−516319(P2011−516319)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【国際出願番号】PCT/US2009/003822
【国際公開番号】WO2009/158024
【国際公開日】平成21年12月30日(2009.12.30)
【出願人】(596060697)マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー (233)
【出願人】(502072134)プレジデント アンド フェロウズ オブ ハーバード カレッジ (92)
【氏名又は名称原語表記】President and Fellows of Harvard College
【Fターム(参考)】