仮設橋の架設方法
【課題】災害時や有事において、河川や濠に迅速に橋を渡して車両等の通行を可能にするための仮設橋の架設方法を提供する。
【解決手段】作業側岸1側の支点チューブキャップ3にガスで膨張させる空気チューブ4、テンションスリング5、圧縮ストラット7を通し、先端部を対岸側の支点チューブキャップ3に接続して送り出しジャッキ6で圧縮ストラット7を送り出し、支点チューブキャップ3を対岸13に到達させて接地させ、空気ポンプ8により空気チューブ4を膨張させた後、支持体9の上面に床版パネル10を作業側岸1から順に並べて敷設し、最後に両端に踏掛け板11を設置して仮設橋を完成させる。
【解決手段】作業側岸1側の支点チューブキャップ3にガスで膨張させる空気チューブ4、テンションスリング5、圧縮ストラット7を通し、先端部を対岸側の支点チューブキャップ3に接続して送り出しジャッキ6で圧縮ストラット7を送り出し、支点チューブキャップ3を対岸13に到達させて接地させ、空気ポンプ8により空気チューブ4を膨張させた後、支持体9の上面に床版パネル10を作業側岸1から順に並べて敷設し、最後に両端に踏掛け板11を設置して仮設橋を完成させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、災害時や有事など必要な場合に、河川や濠に迅速に橋を渡して車両等の通行を可能にするための仮設橋の架設方法に関する。
【背景技術】
【0002】
陸上自衛隊には、有事において部隊の移動の支障となる河川や堀、地峡に仮設橋を架けて車両や人員を対岸に渡すための架設用機材や架設用車両が配備されている。また、大震災や巨大な津波等により既設の橋梁が倒壊、流失した場合などには、初期の救助活動の移動経路を確保するために、架設用車両を用いて緊急に仮設橋を架設して利用する。
【0003】
従来の仮設橋として、例えば特許文献1に応急橋及びその架設方法が開示されている。図10に示すとおり、特許文献1に記載された応急橋は、架設ノーズ、橋梁主桁と道床からなる橋節を複数連結して架設するものである。橋梁の運搬、架設を担う架設車には、架設碗と支持装置が備わっている。
【0004】
開示の方法では、架設碗が先ず架設ノーズを対岸まで順次接続しながら繰り出して対岸に到達させ、接地させる。続いて橋節を連結しながら、架設ノーズに支持させて対岸まで繰り出し、両端を着地させて応急橋を完成する。複数の架設車により架設ノーズと橋節の部材を輸送し、現地で連結しながら長大な仮設橋を構成できるようになっている。
【0005】
この方法によれば、主桁より軽量な架設ノーズを対岸まで繰り出して仮の支持橋を架設するため、片岸から片持ちで架設する場合でも、架設車に掛かる反力を比較的小さくすることができる。また、安定化のため車両の重量を増したり、巨大なカウンターウエイトを用いたりしなくても架設作業を行うことができる。
【0006】
なお、従来の応急橋梁では、橋脚を河床から立ち上げて橋梁を支持していたため、河床の地盤強度が不足する場合は架設できなかったり、河川の流速に影響されたりする問題があった。しかし、特許文献1に記載の応急橋では、橋脚が不要であるため、このような問題が生じない。
【0007】
一方、橋梁の自重と橋梁を渡る車両の荷重を支持する必要から、橋梁主桁の重量や桁高が大きくなる問題があった。例えば、特許文献1に記載の技術を発展させて製品化した機動支援橋(陸上自衛隊保有)は、最大スパン60mの橋梁を架設するために総重量25トンの架設車が必要になっている。
【0008】
特許文献2には、別の手法による非常用橋の架設方法が開示されている。図11、図12に示したとおり、河川の片岸に、送り出し架設用の補助橋および、駆動ピニオンを備えた送り出し装置を設置し、補助橋を支える転倒防止用支えを後方に固定する。送り出し装置により補助橋を対岸まで繰り出して接地させ、本橋架設用の仮設橋を確保する。
【0009】
その後、転倒防止用支えを取り外して支え台に取り替えると共に、送り出し装置を対岸に移動して補助橋の先端に取り付ける。また、補助橋の末端に本橋を接続する。その後、送り出し装置により補助橋を対岸側に引き抜くと、それに伴って末端に接続された本橋が対岸側に繰り寄せられ、応急橋が河川上に架け渡される。本橋の両岸側に本橋脚と本橋スロープを取り付け、架設が完了する。
【0010】
特許文献2に開示された技術によれば、特許文献1に開示された応急橋梁に比べ、より簡素な構造により橋梁を架設することができる。しかし、本橋の機械的強度で荷重を支持しなければならないことに変わりはなく、本橋の剛性を確保するために橋梁主桁の重量や桁高が大きくなる問題は解決されない。
【0011】
そこで、本願発明者は、総重量が小さい仮設橋を形成する部材として、特許文献3に公開された空気的構造要素に着目した。
図13に示したとおり、特許文献3に開示された空気的構造要素は、円筒形の空気チューブに1本の圧縮ストラットと少なくとも1対の張力ワイヤが配された形態である。圧縮ストラットは空気チューブとほぼ同長の棒体であり、空気チューブの上部表面に固定されている。1対の張力ワイヤは、両端の結節点で圧縮ストラットと接続され、それぞれ右回りと左回りで空気チューブを対称的に取り巻いている。
【0012】
特許文献3に開示された空気的構造要素は、圧縮ストラットの圧縮力および張力ワイヤの張力とバランスさせて荷重を支持し座屈に抵抗する。例えば図14に示すように、圧縮ストラットの中央に上方から荷重Fmが掛かった場合、空気チューブが変形するため張力ワイヤが引張り力Fzで引っ張られて圧縮力Fsが結節から圧縮ストラットに加えられる。この圧縮力Fsと引張り力Fz、および荷重Fmと結節に掛かる支持力Faのベクトル成分が常にゼロに釣り合うことから、空気的構造要素全体として、大きな剛性と座屈抵抗を備え、荷重を支持できる。
【0013】
この構成により、圧縮ストラットが必要とする機械的剛性は、圧縮ストラットが単独で荷重に抗する場合に比べて著しく小さくなる。したがって、圧縮ストラットを例えばアルミ合金で組成するなど、軽量で小断面のものとすることができる。
【0014】
その他の部材についても重量物を使用するものではないため、全体の重量は従来型の応急橋梁に比べて著しく小さくなる。さらに、空気チューブは圧縮空気を抜けば折り畳むことができるし、張力ワイヤも巻き取ることができるため、嵩張らず、保管・運搬コストを大幅に節約できる。
特許文献3開示の空気的構造要素を利用した橋梁では、図15に表したように、複数の空気的構造要素を並置し結節部分にヨークと呼ばれる結節部材を配して横方向に連結し、上面に木製の板などの床版パネルを配設して橋梁とすることができる。
【0015】
また、特許文献3開示の空気的構造要素を発展させたものとして、同発明者による特許文献4に流体力を使ったアーチ型支持体が開示されている。特許文献4開示のアーチ型支持体は、図16に図示したとおり、中央で太く両端部に向かってテーパ状になった側面舟形の空気チューブの上面に道路構造体を、下面に引張要素を備えた形状になっている。
【0016】
特許文献4開示のアーチ型支持体によれば、特許文献3に開示された空気的構造要素に比べて高い荷重支持能力を持つことに加え、圧縮ストラットの代わりに床版パネルなどの道路構成体を使ってそのまま車両走行路面とするなど、材料消費が少なく、重量、桁高を抑えるという面で有利である。
しかし、特許文献3、特許文献4のいずれにおいても、橋梁に適用するときの構造的技術について架設された状態は開示されているが、空気的構造要素ないしアーチ型支持体の特性を生かした効率的な架設方法および手順について開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開平7−259013号公報
【特許文献2】特開平4−169611号公報
【特許文献3】特許第3906079号公報
【特許文献4】特表2006−528288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、有事や災害時に利用する仮設橋について、軽量で運搬及び架設が容易な仮設橋の架設方法、特に、空気的構造要素の特性を活用した緊急の仮設橋の架設方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するため、本発明の仮設橋の架設方法は、ガスで膨張させるチューブと圧縮ストラットとテンションスリングを備え、圧縮ストラットをチューブの上側に配置し、テンションスリングで圧縮ストラットの端点同士を結合し、チューブを圧縮ストラットとテンションスリングの間に配置して、チューブを膨張させることにより剛性化させた支持体を使って荷重を支持するようにした仮設橋を作業側岸と対岸の間に架設する方法であって、圧縮ストラットの先端に第1支点チューブキャップを固定し、圧縮ストラットの終端に第2支点チューブキャップを配置し、第1支点チューブキャップを対岸に渡して、第1支点チューブキャップを対岸に固定すると共に第2支点チューブキャップを作業側岸に固定し、剛性化した支持体の上に床版パネルを配設することを特徴とする。
【0020】
ここで、テンションスリングは、2点間に張力を働かせるひも状のもので、幅のあるベルト状であっても、実質的に幅のないワイヤなどであってもよく、また、ひも状のものは弾性体でも剛性体でもよい。
さらに、支点チューブキャップは、仮設橋を構成する1個または複数のチューブの端部を固定して端部構造を保護しチューブ同士の一体化を図ると共に、剛性化した支持体を地面に固定するために使用される。
【0021】
本発明の仮設橋の架設方法では、作業側岸に送り出しジャッキを設置して、圧縮ストラットを根本側から継ぎ足しながら送り出しジャッキにより繰り出すようにすることができる。
このとき、圧縮ストラットと一緒にチューブとテンションスリングを繰り出し、圧縮ストラットの先端に固定した第1支点チューブキャップを対岸に着地させて固定し、その後にガスでチューブを膨張させるようにしてもよい。
【0022】
また、作業側岸に旋回台を設置して、作業側岸において架橋に必要な長さを有する変位及び座屈に対して耐性を持たせた支持体を形成し、支持体の先端に第1支点チューブキャップを固定し終端に第2支点チューブキャップを固定し、第2支点チューブキャップを旋回台に支持して、支持体を旋回させて第1支点チューブキャップを対岸に着地させ、第2支点チューブキャップを作業側岸の旋回台から地面に降ろして、第1支点チューブキャップと第2支点チューブキャップを地面に固定する手順であってもよい。
なお、架設橋の端における路面が地面から離れている場合には、人や車両が容易に利用できるように支点チューブキャップの外側にスロープを持った踏掛け板を設けたり、ステップを設けたりすることが好ましい。
【0023】
本発明の仮設橋の架設方法に適用する支持体は、テンションスリングが互いにチューブの周りを反対方向に螺旋を描いて緊縛するように対称的に配置された対として設置された、ほぼ円筒形をなすチューブで構成される。また、支持体は、圧縮ストラットの下側で端部の間にテンションスリングを渡して、両者の間にチューブが挟まった構成で、ガスでチューブを膨張させることにより、中央部の高さが高く両端で低くなるアーチ形をなし、撓みと座屈に対して耐性を持ったアーチ型支持体を適用してもよい。
【0024】
また、2本以上の支持体を平行に配置し、並置された支持体の上に床版パネルを配設して仮設橋としてもよい。この場合、支持体同士が分離しないように、支持体をあらかじめ連結するか、床版パネルが支持体同士を連結する機能を持つように構成するとよい。
【0025】
本発明の架設方法により架設した仮設橋は、トラス構造によって負荷を圧縮ストラットへの圧縮力とテンションスリングへの引張力に変換して抗力を発生する。ガスで膨張させるチューブは圧縮ストラットに掛かる負荷をテンションスリングに伝える鉛直材の役割を果たす。
【0026】
圧縮ストラットはガスで膨張したチューブに支持されることで座屈抗力が降伏荷重より大きくなっているため、圧縮ストラットもしくはテンションスリングの降伏荷重が理論上の最大荷重となる。したがって、圧縮ストラットへの曲げ応力を考慮する必要が無く、圧縮ストラットの断面積を小さくすることができる。さらに素材に高い剛性を求める必要がないため、圧縮ストラットには軽量で安価な素材を用いることができる。
【0027】
また、チューブがテンションスリングに緊縛されているため、チューブに封入する空気の超過圧が数100mbar程度の低圧で十分になる。したがって、チューブを形成する布素材を薄くでき、チューブの重量を軽減できる。
本構成の支持体は、長さ20mのものが100〜200kg程度と軽量であるにもかかわらず、数10tの荷重を支持できる。
以上のように、本発明に適用する支持体は、圧縮ストラット、テンションスリング、チューブの3点の構成要素から、軽量、安価に屈強な橋梁を架設することができる。
【0028】
本発明は、上記の支持体を河川や地峡の片岸から迅速に展開する架設方法を提供する。本発明の仮設橋の架設方法では、支持体、支点チューブキャップ、床版パネル、踏掛け板と空気ポンプ、送り出しジャッキをトラックや装甲車両で河岸に運搬し、組立および架橋をする。
【0029】
第1の架設方法では、作業側岸で一方の支点チューブキャップに圧縮ストラット、テンションスリング、チューブを取り付けて、作業側岸に設置した送り出しジャッキにより部材を繰り出し、支点チューブキャップが対岸に到達したら、作業側岸の端部に別の支点チューブキャップを取り付け、両岸に着地させる。その後、ポンプやボンベを使ってガスでチューブを膨張させて支持体を剛性化し、床版パネルを配設し、必要があれば踏掛け板を両端部に設置して、仮設橋を完成する。圧縮ストラットは、短い数本の部材を継手で連結するものとし、順次継ぎ足しながら送り出して完成するものであってもよい。
【0030】
支持体は、河川や地峡に十分に掛け渡せる長さのものを使用する。支持体の全長を展開して橋梁としてもよいが、空気チューブを河川の幅に合わせた適当な長さでクリッピングし、一部のみを膨張させて仮設橋としてもよい。その場合、圧縮ストラットをロッドあるいはパネルなどの部材を継手で連結するなどの形態とし、一部の部材だけを使用して圧縮ストラットの長さを調整し、さらに長さを調整したテンションスリングを両端に接続して組み立てるようにするとよい。
【0031】
第2の架設方法では、送り出しジャッキの代わりに旋回台を用意する。作業側岸で河川に平行に圧縮ストラットを延展し、圧縮ストラットに沿ってガスで膨張するチューブを取り付け両端にテンションスリングを結接し、支点チューブキャップを接続する。片側の支点チューブキャップは旋回台に載置しておく。その後、チューブに空気などのガスを注入して支持体を剛性化する。ここまでを作業側岸で行った後、旋回台を作動させて支持体を90°回転し、対岸に届いた先端の支点チューブキャップを着地させて固定する。さらに、作業側岸の旋回台を撤去して支点チューブキャップを地面に固定して、河川を跨いで固定された支持体に床版パネルを載置し、踏掛け板を配置して仮設橋を完成する。
【0032】
以上のように、本発明の仮設橋の架設方法では、軽量の支持体を簡易、迅速に組み立てて仮設橋を架設することができる。架設作業に大型の重機類が必要ないため、有事や災害時でも必要な場所に速やかに仮設橋を架設することができる。
【0033】
なお、複数の支持体を平行に並べ、互いを連結して一体の支持体としてもよい。例えば円筒形の支持体を使用する場合、支持体が1本では橋梁の幅が制限されるため、2〜5本程度の支持体を連接して使用することで橋梁の幅を確保するとよい。支持体は縫合や接着などで支持体同士を接続してもよいが、床版パネルに連結機能を持たせ、床版パネルを載置することで支持体が分離しないように固定されるようにしてもよい。
【0034】
支持体に用いるチューブの材質は、PVCコーティングポリエステル等の安価な素材を使用できる。軍事用途に適用する場合、PVCコーティングポリエステルを用いると、火炎で燃焼することが懸念される。また、弾丸による穿孔で破裂することはないが、刃物による剪断で容易に破壊される。したがって、適用用途に応じてアラミド繊維や超高強力ポリエチレン繊維(商品名:ダイニーマ・東洋紡績株式会社製)等の剪断抵抗力が大きい素材を選択するとよい。
【0035】
圧縮ストラットは、アルミ合金やジュラルミン、FRP等の軽量素材を用いるとよい。また、木の板を薄い鉄板で挟んだサンドイッチ構造の軽いデッキパネルを使うこともできる。テンションスリングについても、スチールワイヤー等の一般的な素材を用いて構成してよい。また、ポリアミド系合成樹脂などでベルト状に形成した張力部材であってもよい。
【0036】
圧縮ストラットをチューブに取り付ける方法として、接着剤を用いて接着したり、固定テープで固定したり、チューブに設けた固定袋に挿入して固定したりする形態など、多様な形態を採用することができる。圧縮ストラットとテンションスリングを接続する方法についても、公知の多様な接続方法を適用することができる。
【0037】
支持体は、円筒形の他、例えば中央部の高さが高く両端で低くなるアーチ形のものを使用することができる。ガスで膨張させるとアーチ形になるチューブの稜線に沿って圧縮ストラットを密着させ、底部にテンションスリングを張り渡す形態で支持体を形成する。また、支持体を扁平の舟形とし、上面に板状の圧縮ストラットを底面に幅広のテンションスリングを配す形態としてもよい。本形態では、一体の幅広支持体を用いて橋梁としてもよいし、数体の支持体を平行に並べて橋梁を形成してもよい。
【発明の効果】
【0038】
本発明の仮設橋の架設方法では、軽量の仮設橋を簡易な作業で展開することができるため、有事や災害時など、条件の悪い作業環境でも河川や濠に迅速に架設して車両等の通行を可能にするための仮設橋を架設することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1実施例に係る送り出し工法による仮設橋の架設方法の手順を示す説明図である。
【図2】第1実施例に係る仮設橋の架設方法を説明する手順図である。
【図3】第1実施例の支持体および床版パネルの断面図である。
【図4】図3のA−A断面における側面図である。
【図5】本発明に適用した支持体における断面力図である。
【図6】従来のケーブルトラス桁における断面力図である。
【図7】圧縮ストラットが連続的なバネに支持されている状態を示す概念図である。
【図8】本発明の第2実施例に係る旋回工法による仮設橋の架設方法の手順を示す説明図である。
【図9】第2実施例に係る仮設橋の架設方法を説明する手順図である。
【図10】従来の応急橋及びその架設方法を表す概要図である。
【図11】従来の非常用橋の架設方法を表す流れ図である。
【図12】従来の非常用橋の架設方法を表す流れ図である。
【図13】従来の空気的構造要素の側面図である。
【図14】従来の空気的構造要素の断面力を示す概念図である。
【図15】従来の空気的構造要素の使用形態を示す一部概略図である。
【図16】従来のアーチ型支持体の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【実施例1】
【0041】
図1は第1実施例の送り出し工法における方法の作業手順を示す説明図、図2はその手順を説明する流れ図である。
仮設橋の架設は、作業側岸にトラックで架橋に用いる資材を集積するところから始まる(S11)。図1に示すように、作業側岸1に、作業側岸用と対岸用の支点チューブキャップ3、空気チューブ4、テンションスリング5、送り出しジャッキ6、圧縮ストラット7を搬入する。本実施例ではチューブを膨張させるガスとして空気ポンプで送入する空気を使っている。このため、ガスで膨張させるチューブを空気チューブと呼ぶ。
【0042】
空気チューブ4とテンションスリング5は一体として解き易いコイルの形に巻き取られており、圧縮ストラット7は分割された短いロッド状の部材になっている。1本の空気チューブ4、2本のテンションスリング5、1連の圧縮ストラット7で形成される空気的構造要素あるいは流体力を利用する円柱型支持体が3組準備されており、支点チューブキャップ3は3組の支持体を水平方向に並べて相互に固定するよう形成されている。なお、本実施例では、代表して円柱形の支持体を用いた場合について表示しているが、円柱型支持体に限らず他の形態を有する、たとえば図16に示したようなアーチ型支持体なども、同じように利用することができる。以下、支持体という場合は、これら流体力を利用する支持体を含めて表すものとする。
また、図には3組の支持体で構成された場合が表示されているが、支持体は1組以上、幾組を用いて構成してもよい。
【0043】
次に、支点チューブキャップを支持体の先端部にセットする(S12)。ここでは、作業側岸用の支点チューブキャップ3の孔にそれぞれ、空気を入れていない空気チューブ4、テンションスリング5、圧縮ストラット7を一緒に通し、さらに各組の先端部を並べて対岸用の支点チューブキャップ3に固定する。先端部では、圧縮ストラット7先端の結節部にテンションスリング5が固結されている。
【0044】
その後、送り出し装置を用いて、先端に支点チューブキャップが固接された未膨張の支持体を対岸13に向かって延伸させる(S13)。
ここで、送り出しジャッキ6で圧縮ストラット7を送り出す。圧縮ストラット7が繰り出されると支点チューブキャップ3が対岸13に向かって移動し、空気チューブ4とテンションスリング5も圧縮ストラット7と共に延伸する。圧縮ストラット7は作業ヤードが狭い場合にも対応できるように短いロッドに分割されているため、順次継ぎながら延伸させる。
【0045】
未膨張の支持体が両岸を跨いだら、先端部の支点チューブキャップを両岸それぞれの地面に固定する(S14)。
このステップにおける手順例について詳しく説明すると、対岸用の支点チューブキャップ3が対岸13に到達したら、作業側岸側の先端部で圧縮ストラット7の結節部にテンションスリング5を固結し、空気チューブ4と共に支点チューブキャップ3に接続する。その後、送り出しジャッキ6を撤去し、両岸の支点チューブキャップ3を降ろして地面に固定する。
【0046】
続いて、空気チューブを膨らまして支持体を剛性化する(S15)。
ここでは、作業側岸1で空気チューブ4に空気ポンプ8を接続して空気を送入し、空気チューブ4を膨張させる。空気チューブ4が膨張すると、空気チューブ4がテンションスリング5を緊張させるとともに、空気チューブ4の上面が圧縮ストラット7に密着し、剛性のある支持体9が成形される。2本のテンションスリング5は両端がそれぞれ圧縮ストラット7に固結されており、左右対称の螺旋状に空気チューブ4を緊縛する。なお、圧縮ストラット7は、支持体9の延伸方向に移動するようになっていても差し支えない。
【0047】
さらに、支持体の上に床版パネルを配設して橋梁を形成する(S16)。
支持体9が硬く形成されたのち、支持体9の上面に床版パネル10を作業側岸から順に並べて配設し、必要に応じて両端に踏掛け板11や欄干12を設置して仮設橋が完成する。
【0048】
図3は床版パネルを配設して形成した橋梁を橋軸方向に見た断面図、図4は図3のA−A断面における側面図である。
本実施例の支持体9は、3本の支持体9が平行に並べて配置されている。床版パネル10の下面には3個の接合金具20が着設されており、それぞれ圧縮ストラット7と咬合して支持体9を固定する。なお、床版パネル10には、防弾のため、支持体9の側部を覆う防弾パネル21を取り付けてもよい。
【0049】
本実施例の仮設橋の架設方法に使用する支持体9は、床版パネル10に掛かる荷重を、圧縮ストラット7の圧縮力とテンションスリング5の引張力に変換して支持する。
図5,6に、本発明により架設する仮設橋に使用する支持体と、一般的なケーブルトラス桁をモデル的に比較する断面力図を示した。図5は本発明に適用した支持体の断面力図、図6は比較のために示したケーブルトラス桁モデルの断面力図である。
【0050】
共に、長さLの圧縮ストラットの両端にテンションスリングが接続されている。支持体では2本のテンションスリングが高さDの空気チューブに螺旋状に巻き付けられている。ケーブルトラス桁では、多数の鉛直ストラットの先端にテンションスリングが接続され、吊下されている。
【0051】
橋長Lに対して桁高Dが十分に小さい場合(γ=L/D>>1)、支持体とケーブルトラス桁において、荷重qが載荷された場合のテンションスリングにかかる引張力Tは共に以下の式で近似できる。
T=1/8・qLγ ・・・(1)
【0052】
テンションスリングは両端で圧縮ストラットに接続しているため、引張力Tにより、圧縮ストラットに圧縮力Pが発生する。圧縮力Pが座屈抗力を超えると圧縮ストラットが座屈する。ケーブルトラス桁において、座屈抗力Pbは以下のように示される。
Pb=(n+1)2π2EI/L2 ・・・(2)
【0053】
ここで、Iは圧縮ストラットの断面2次モーメント、Eは弾性係数、nは鉛直ストラットの本数である。式2に表されるように、座屈抗力は鉛直ストラットの設置間隔L/(n+1)の2乗に反比例する。したがって、座屈抗力を増強するためには鉛直ストラットの本数を増やさなくてはならない。しかし、鉛直ストラットの本数を増すと橋梁の自重が大きくなり、荷重に抗する余力が小さくなるジレンマがある。
【0054】
反面、流体力を利用した支持体では圧縮ストラットが空気チューブに密着して保持されているため、無数の鉛直ストラットに支持されていると考えることができ、鉛直ストラットの本数nへの依存から解放される。したがって、軽量の空気チューブを配することで、鉛直ストラットが不要になり、橋梁の自重を著しく軽量にすることができる。
【0055】
支持体では、図7に示すように、圧縮ストラットが連続的なバネに支持されていると仮定すると、バネ定数kを用いて。
Pb=2√(kEI) ・・・(3)
と表すことができる。すなわち、空気チューブが全長に渡って圧縮ストラットを支持するため、圧縮ストラットの座屈抗力は橋長Lにも影響されない。
【0056】
支持体では、仮想バネのバネ定数kは空気チューブの空気圧に依存している。バネ定数kを空気チューブの空気与圧pを用いてk=πpとすると、
Pb=2√(πpEI) ・・・(4)
となる。
断面2次モーメントIと空気与圧pを適切に選択すると、座屈抗力Pbは圧縮ストラットの降伏荷重より大きくなる。したがって、圧縮ストラットに関して、座屈抗力を考慮せず、降伏荷重まで圧縮力をかけることが可能になるため、長手の圧縮ストラットにおいても、材質・形状の自由度が大きくなる。すなわち、圧縮ストラットに掛かる横方向の応力を考慮する必要が無いため、圧縮ストラットの断面積を小さくすることができ、非常に軽量に構成することができる。
【0057】
流体力を利用した支持体では、空気チューブの空気与圧が重要なパラメータとなる。
圧縮ストラットおよびテンションスリングを装着しない単純な円筒形空気チューブの場合、応力(面積当たりの荷重)qaに対して必要となる空気与圧pは以下の通りとなる。
p=2/π・qaγ2 ・・・(5)
【0058】
γは空気チューブの太さに対する長さの比を表す(γ=L/D)。空気チューブに必要となる空気与圧pは空気チューブの形状γに強く依存し、橋梁に使用する細長形状においては、空気与圧pを相当程度高くしなければならない。例えば、γ=30の空気チューブにおいては、qa=1kN/m2の応力に耐えるために、約570kN/m2の空気与圧が必要になる。
【0059】
一方、本発明で適用する支持体に使用した空気チューブでは、応力qaに抗するために必要な空気与圧pは以下の式で与えられる。
p=π2/2・qa ・・・(6)
【0060】
例えば、qa=1kN/m2の応力に耐えるために必要な空気与圧pは約5kN/m2(50mbar)である。このように、支持体に適用した空気チューブは、スパンによらず、低い空気圧で荷重に抗することができる。流体力を利用した支持体では、荷重に対する抗力を圧縮ストラットとテンションスリングが担っており、空気圧はテンションスリングにプレテンションを与える作用と、圧縮ストラットを固定する作用を担っているため、細長い空気チューブでも低い空気圧で十分に実用に耐えうる。
【0061】
必要な空気圧が数100mbarと小さいため、空気チューブ布素材に機密性が特に高いものを使用する必要が無く、安価に入手できる材質のものでよい。また、空気チューブが損傷した場合も、破裂のおそれが無く、損傷部位から空気が漏れるだけである。そのため、空気チューブは特殊な素材を使用する必要がなく、薄く、軽量、安価に作成することができる。また、損傷した場合も、損傷部分をパッチで塞ぐか、漏れ出す空気量以上の空気を空気ポンプで加給することで対処できる。そのため、安全性が高く、維持が容易である。
なお、本実施例では最も容易に利用できる空気ポンプを使ってチューブを膨張させているが、圧縮空気を利用することもできる。また、窒素やアルゴン、炭酸ガスなど他のガスを利用して膨張させてもよいことはいうまでもない。
【0062】
本実施例に用いた支持体は、アルミ合金の圧縮ストラットと、鋼製ワイヤーロープのテンションスリングと、PVCコーティングポリエステルの空気チューブで形成することができる。本実施例の方法で架設する仮設橋は、例えば20mのもので数10〜100t程度の荷重に耐えることができる。それにもかかわらず、1本の支持体が20mで130kg程度と非常に軽量であり、3本の支持体と床版パネル等を含む橋梁全体の自重も500〜700kgである。同様の最大荷重を持つ従来のトラス橋に比べて10分の1以下の重量である。
【0063】
したがって、本実施例の仮設橋の架設方法は、橋梁の展開を簡単、スムーズに行うことができ、作業環境が劣悪な状況でも速やかに仮設橋を架設することができる。また、使用する部材が軽量であり、必要とする空気圧も低いため、架設機材としての送り出しジャッキや空気ポンプなども小型のもので十分である。したがって、架設に必要な部材、工具の総重量が小さく、運搬が非常に容易であるうえ、複数の橋梁に亘る資材を搬送することも苦にならない。
【実施例2】
【0064】
図8は本発明の第2実施例の旋回工法による仮設橋の架設方法の作業手順を示す説明図、図9はその方法を説明する手順図である。本実施例は、橋梁構造体が軽量なことを利用し、作業側岸で橋梁構造体を形成した上で旋回台を用いて先端を対岸に渡すようにして、簡易に架設する方法であり、図には第1実施例と異なる部分について分かり易く表示している。
【0065】
本実施例の仮設橋の架設は、作業側岸にトラックで仮設橋の架設に用いる資材を集積するところから始まる(S21)。
図8に示すように、作業側岸1に、作業側岸用と対岸用の支点チューブキャップ3、空気チューブ4、テンションスリング5、圧縮ストラット7、床版パネル10、旋回台31、さらに必要に応じて踏掛け板11や防弾パネルなどを搬入する。
【0066】
次に、作業側岸1で支持体を形成する(S22)。
作業側岸1において、空気チューブ4を必要数並設し、空気チューブ4の上側表面上に圧縮ストラット7を掛け継いで一体化するように配設し、テンションスリング5の端部を圧縮ストラット7の端部に結合して、図示しない空気ポンプで空気チューブ4を膨張させて剛性を持った1体あるいは複数体の支持体9を形成する。さらに、支点チューブキャップ3を並設された支持体9の端部に接続して仮設橋の構造体14とする。
【0067】
作業側岸に設置した旋回台31に仮設橋の構造体14の支点チューブキャップ3の部分を載置し、旋回台31を旋回して構造体14の先方端を対岸13に到達させ(S23)、両端の支点チューブキャップ3を地面に固定して橋梁を完成させる(S24)。
ここでは、構造体14の作業側岸用の支点チューブキャップ3を旋回台31に載置し、旋回台31をほぼ90°旋回して構造体14の先方端を対岸に届かせて、両端の支点チューブキャップ3を地面に下ろして固定し、旋回台31を撤去して構造体14を両岸に渡し、さらに、床版パネル10を構造体14の上に設置し、さらに必要に応じて踏掛け板11や防弾パネル21、欄干などを設置して仮設橋を完成させる。
【0068】
なお、本実施例では、構造体14を架設した後に床版パネル10などを配設しているが、事前に作業側岸1において床版パネル10類を構造体14にセットしてから、旋回台31に構造体14を取り付けて旋回させて対岸に渡すようにしてもよい。構造体14自体が軽量なので、床版パネル10をセットした構造体14でも簡略な旋回台31で十分片持ち状態で旋回させることができる場合がある。
予め作業側岸1で組立を完了させることができれば、作業能率が大いに向上することになり、さらに有利である。
【0069】
なお、上記実施例ではいずれも、円柱状の支持体を使用して仮設橋を架設する態様について説明したが、図16に示したような扁平舟形のアーチ型支持体を使用することもできる。アーチ型支持体は、円柱型の支持体より耐荷重性能が高く、例えば20mの橋梁で数100tの荷重に耐えることができる。したがって、大型重機や主力戦車を渡すための仮設橋にも適用することができ、利用範囲が広い。
なお、アーチ型支持体を使用する場合は、圧縮部材として圧縮床版パネルを直接利用して圧縮ストラットを省略することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の仮設橋の架設方法は、軽量の空気チューブ橋を簡易、迅速に展開することができるため、災害時や有事の時などに河川や濠に架設して車両等の通行を可能にするための仮設橋の架設方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 作業側岸
2 トラック
3 支点チューブキャップ
4 空気チューブ
5 テンションスリング
6 送り出しジャッキ
7 圧縮ストラット
8 空気ポンプ
9 支持体
10 床版パネル
11 踏掛け板
12 欄干
13 対岸
14 構造体
20 接合金具
21 防弾パネル
31 旋回台
【技術分野】
【0001】
本発明は、災害時や有事など必要な場合に、河川や濠に迅速に橋を渡して車両等の通行を可能にするための仮設橋の架設方法に関する。
【背景技術】
【0002】
陸上自衛隊には、有事において部隊の移動の支障となる河川や堀、地峡に仮設橋を架けて車両や人員を対岸に渡すための架設用機材や架設用車両が配備されている。また、大震災や巨大な津波等により既設の橋梁が倒壊、流失した場合などには、初期の救助活動の移動経路を確保するために、架設用車両を用いて緊急に仮設橋を架設して利用する。
【0003】
従来の仮設橋として、例えば特許文献1に応急橋及びその架設方法が開示されている。図10に示すとおり、特許文献1に記載された応急橋は、架設ノーズ、橋梁主桁と道床からなる橋節を複数連結して架設するものである。橋梁の運搬、架設を担う架設車には、架設碗と支持装置が備わっている。
【0004】
開示の方法では、架設碗が先ず架設ノーズを対岸まで順次接続しながら繰り出して対岸に到達させ、接地させる。続いて橋節を連結しながら、架設ノーズに支持させて対岸まで繰り出し、両端を着地させて応急橋を完成する。複数の架設車により架設ノーズと橋節の部材を輸送し、現地で連結しながら長大な仮設橋を構成できるようになっている。
【0005】
この方法によれば、主桁より軽量な架設ノーズを対岸まで繰り出して仮の支持橋を架設するため、片岸から片持ちで架設する場合でも、架設車に掛かる反力を比較的小さくすることができる。また、安定化のため車両の重量を増したり、巨大なカウンターウエイトを用いたりしなくても架設作業を行うことができる。
【0006】
なお、従来の応急橋梁では、橋脚を河床から立ち上げて橋梁を支持していたため、河床の地盤強度が不足する場合は架設できなかったり、河川の流速に影響されたりする問題があった。しかし、特許文献1に記載の応急橋では、橋脚が不要であるため、このような問題が生じない。
【0007】
一方、橋梁の自重と橋梁を渡る車両の荷重を支持する必要から、橋梁主桁の重量や桁高が大きくなる問題があった。例えば、特許文献1に記載の技術を発展させて製品化した機動支援橋(陸上自衛隊保有)は、最大スパン60mの橋梁を架設するために総重量25トンの架設車が必要になっている。
【0008】
特許文献2には、別の手法による非常用橋の架設方法が開示されている。図11、図12に示したとおり、河川の片岸に、送り出し架設用の補助橋および、駆動ピニオンを備えた送り出し装置を設置し、補助橋を支える転倒防止用支えを後方に固定する。送り出し装置により補助橋を対岸まで繰り出して接地させ、本橋架設用の仮設橋を確保する。
【0009】
その後、転倒防止用支えを取り外して支え台に取り替えると共に、送り出し装置を対岸に移動して補助橋の先端に取り付ける。また、補助橋の末端に本橋を接続する。その後、送り出し装置により補助橋を対岸側に引き抜くと、それに伴って末端に接続された本橋が対岸側に繰り寄せられ、応急橋が河川上に架け渡される。本橋の両岸側に本橋脚と本橋スロープを取り付け、架設が完了する。
【0010】
特許文献2に開示された技術によれば、特許文献1に開示された応急橋梁に比べ、より簡素な構造により橋梁を架設することができる。しかし、本橋の機械的強度で荷重を支持しなければならないことに変わりはなく、本橋の剛性を確保するために橋梁主桁の重量や桁高が大きくなる問題は解決されない。
【0011】
そこで、本願発明者は、総重量が小さい仮設橋を形成する部材として、特許文献3に公開された空気的構造要素に着目した。
図13に示したとおり、特許文献3に開示された空気的構造要素は、円筒形の空気チューブに1本の圧縮ストラットと少なくとも1対の張力ワイヤが配された形態である。圧縮ストラットは空気チューブとほぼ同長の棒体であり、空気チューブの上部表面に固定されている。1対の張力ワイヤは、両端の結節点で圧縮ストラットと接続され、それぞれ右回りと左回りで空気チューブを対称的に取り巻いている。
【0012】
特許文献3に開示された空気的構造要素は、圧縮ストラットの圧縮力および張力ワイヤの張力とバランスさせて荷重を支持し座屈に抵抗する。例えば図14に示すように、圧縮ストラットの中央に上方から荷重Fmが掛かった場合、空気チューブが変形するため張力ワイヤが引張り力Fzで引っ張られて圧縮力Fsが結節から圧縮ストラットに加えられる。この圧縮力Fsと引張り力Fz、および荷重Fmと結節に掛かる支持力Faのベクトル成分が常にゼロに釣り合うことから、空気的構造要素全体として、大きな剛性と座屈抵抗を備え、荷重を支持できる。
【0013】
この構成により、圧縮ストラットが必要とする機械的剛性は、圧縮ストラットが単独で荷重に抗する場合に比べて著しく小さくなる。したがって、圧縮ストラットを例えばアルミ合金で組成するなど、軽量で小断面のものとすることができる。
【0014】
その他の部材についても重量物を使用するものではないため、全体の重量は従来型の応急橋梁に比べて著しく小さくなる。さらに、空気チューブは圧縮空気を抜けば折り畳むことができるし、張力ワイヤも巻き取ることができるため、嵩張らず、保管・運搬コストを大幅に節約できる。
特許文献3開示の空気的構造要素を利用した橋梁では、図15に表したように、複数の空気的構造要素を並置し結節部分にヨークと呼ばれる結節部材を配して横方向に連結し、上面に木製の板などの床版パネルを配設して橋梁とすることができる。
【0015】
また、特許文献3開示の空気的構造要素を発展させたものとして、同発明者による特許文献4に流体力を使ったアーチ型支持体が開示されている。特許文献4開示のアーチ型支持体は、図16に図示したとおり、中央で太く両端部に向かってテーパ状になった側面舟形の空気チューブの上面に道路構造体を、下面に引張要素を備えた形状になっている。
【0016】
特許文献4開示のアーチ型支持体によれば、特許文献3に開示された空気的構造要素に比べて高い荷重支持能力を持つことに加え、圧縮ストラットの代わりに床版パネルなどの道路構成体を使ってそのまま車両走行路面とするなど、材料消費が少なく、重量、桁高を抑えるという面で有利である。
しかし、特許文献3、特許文献4のいずれにおいても、橋梁に適用するときの構造的技術について架設された状態は開示されているが、空気的構造要素ないしアーチ型支持体の特性を生かした効率的な架設方法および手順について開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開平7−259013号公報
【特許文献2】特開平4−169611号公報
【特許文献3】特許第3906079号公報
【特許文献4】特表2006−528288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、有事や災害時に利用する仮設橋について、軽量で運搬及び架設が容易な仮設橋の架設方法、特に、空気的構造要素の特性を活用した緊急の仮設橋の架設方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するため、本発明の仮設橋の架設方法は、ガスで膨張させるチューブと圧縮ストラットとテンションスリングを備え、圧縮ストラットをチューブの上側に配置し、テンションスリングで圧縮ストラットの端点同士を結合し、チューブを圧縮ストラットとテンションスリングの間に配置して、チューブを膨張させることにより剛性化させた支持体を使って荷重を支持するようにした仮設橋を作業側岸と対岸の間に架設する方法であって、圧縮ストラットの先端に第1支点チューブキャップを固定し、圧縮ストラットの終端に第2支点チューブキャップを配置し、第1支点チューブキャップを対岸に渡して、第1支点チューブキャップを対岸に固定すると共に第2支点チューブキャップを作業側岸に固定し、剛性化した支持体の上に床版パネルを配設することを特徴とする。
【0020】
ここで、テンションスリングは、2点間に張力を働かせるひも状のもので、幅のあるベルト状であっても、実質的に幅のないワイヤなどであってもよく、また、ひも状のものは弾性体でも剛性体でもよい。
さらに、支点チューブキャップは、仮設橋を構成する1個または複数のチューブの端部を固定して端部構造を保護しチューブ同士の一体化を図ると共に、剛性化した支持体を地面に固定するために使用される。
【0021】
本発明の仮設橋の架設方法では、作業側岸に送り出しジャッキを設置して、圧縮ストラットを根本側から継ぎ足しながら送り出しジャッキにより繰り出すようにすることができる。
このとき、圧縮ストラットと一緒にチューブとテンションスリングを繰り出し、圧縮ストラットの先端に固定した第1支点チューブキャップを対岸に着地させて固定し、その後にガスでチューブを膨張させるようにしてもよい。
【0022】
また、作業側岸に旋回台を設置して、作業側岸において架橋に必要な長さを有する変位及び座屈に対して耐性を持たせた支持体を形成し、支持体の先端に第1支点チューブキャップを固定し終端に第2支点チューブキャップを固定し、第2支点チューブキャップを旋回台に支持して、支持体を旋回させて第1支点チューブキャップを対岸に着地させ、第2支点チューブキャップを作業側岸の旋回台から地面に降ろして、第1支点チューブキャップと第2支点チューブキャップを地面に固定する手順であってもよい。
なお、架設橋の端における路面が地面から離れている場合には、人や車両が容易に利用できるように支点チューブキャップの外側にスロープを持った踏掛け板を設けたり、ステップを設けたりすることが好ましい。
【0023】
本発明の仮設橋の架設方法に適用する支持体は、テンションスリングが互いにチューブの周りを反対方向に螺旋を描いて緊縛するように対称的に配置された対として設置された、ほぼ円筒形をなすチューブで構成される。また、支持体は、圧縮ストラットの下側で端部の間にテンションスリングを渡して、両者の間にチューブが挟まった構成で、ガスでチューブを膨張させることにより、中央部の高さが高く両端で低くなるアーチ形をなし、撓みと座屈に対して耐性を持ったアーチ型支持体を適用してもよい。
【0024】
また、2本以上の支持体を平行に配置し、並置された支持体の上に床版パネルを配設して仮設橋としてもよい。この場合、支持体同士が分離しないように、支持体をあらかじめ連結するか、床版パネルが支持体同士を連結する機能を持つように構成するとよい。
【0025】
本発明の架設方法により架設した仮設橋は、トラス構造によって負荷を圧縮ストラットへの圧縮力とテンションスリングへの引張力に変換して抗力を発生する。ガスで膨張させるチューブは圧縮ストラットに掛かる負荷をテンションスリングに伝える鉛直材の役割を果たす。
【0026】
圧縮ストラットはガスで膨張したチューブに支持されることで座屈抗力が降伏荷重より大きくなっているため、圧縮ストラットもしくはテンションスリングの降伏荷重が理論上の最大荷重となる。したがって、圧縮ストラットへの曲げ応力を考慮する必要が無く、圧縮ストラットの断面積を小さくすることができる。さらに素材に高い剛性を求める必要がないため、圧縮ストラットには軽量で安価な素材を用いることができる。
【0027】
また、チューブがテンションスリングに緊縛されているため、チューブに封入する空気の超過圧が数100mbar程度の低圧で十分になる。したがって、チューブを形成する布素材を薄くでき、チューブの重量を軽減できる。
本構成の支持体は、長さ20mのものが100〜200kg程度と軽量であるにもかかわらず、数10tの荷重を支持できる。
以上のように、本発明に適用する支持体は、圧縮ストラット、テンションスリング、チューブの3点の構成要素から、軽量、安価に屈強な橋梁を架設することができる。
【0028】
本発明は、上記の支持体を河川や地峡の片岸から迅速に展開する架設方法を提供する。本発明の仮設橋の架設方法では、支持体、支点チューブキャップ、床版パネル、踏掛け板と空気ポンプ、送り出しジャッキをトラックや装甲車両で河岸に運搬し、組立および架橋をする。
【0029】
第1の架設方法では、作業側岸で一方の支点チューブキャップに圧縮ストラット、テンションスリング、チューブを取り付けて、作業側岸に設置した送り出しジャッキにより部材を繰り出し、支点チューブキャップが対岸に到達したら、作業側岸の端部に別の支点チューブキャップを取り付け、両岸に着地させる。その後、ポンプやボンベを使ってガスでチューブを膨張させて支持体を剛性化し、床版パネルを配設し、必要があれば踏掛け板を両端部に設置して、仮設橋を完成する。圧縮ストラットは、短い数本の部材を継手で連結するものとし、順次継ぎ足しながら送り出して完成するものであってもよい。
【0030】
支持体は、河川や地峡に十分に掛け渡せる長さのものを使用する。支持体の全長を展開して橋梁としてもよいが、空気チューブを河川の幅に合わせた適当な長さでクリッピングし、一部のみを膨張させて仮設橋としてもよい。その場合、圧縮ストラットをロッドあるいはパネルなどの部材を継手で連結するなどの形態とし、一部の部材だけを使用して圧縮ストラットの長さを調整し、さらに長さを調整したテンションスリングを両端に接続して組み立てるようにするとよい。
【0031】
第2の架設方法では、送り出しジャッキの代わりに旋回台を用意する。作業側岸で河川に平行に圧縮ストラットを延展し、圧縮ストラットに沿ってガスで膨張するチューブを取り付け両端にテンションスリングを結接し、支点チューブキャップを接続する。片側の支点チューブキャップは旋回台に載置しておく。その後、チューブに空気などのガスを注入して支持体を剛性化する。ここまでを作業側岸で行った後、旋回台を作動させて支持体を90°回転し、対岸に届いた先端の支点チューブキャップを着地させて固定する。さらに、作業側岸の旋回台を撤去して支点チューブキャップを地面に固定して、河川を跨いで固定された支持体に床版パネルを載置し、踏掛け板を配置して仮設橋を完成する。
【0032】
以上のように、本発明の仮設橋の架設方法では、軽量の支持体を簡易、迅速に組み立てて仮設橋を架設することができる。架設作業に大型の重機類が必要ないため、有事や災害時でも必要な場所に速やかに仮設橋を架設することができる。
【0033】
なお、複数の支持体を平行に並べ、互いを連結して一体の支持体としてもよい。例えば円筒形の支持体を使用する場合、支持体が1本では橋梁の幅が制限されるため、2〜5本程度の支持体を連接して使用することで橋梁の幅を確保するとよい。支持体は縫合や接着などで支持体同士を接続してもよいが、床版パネルに連結機能を持たせ、床版パネルを載置することで支持体が分離しないように固定されるようにしてもよい。
【0034】
支持体に用いるチューブの材質は、PVCコーティングポリエステル等の安価な素材を使用できる。軍事用途に適用する場合、PVCコーティングポリエステルを用いると、火炎で燃焼することが懸念される。また、弾丸による穿孔で破裂することはないが、刃物による剪断で容易に破壊される。したがって、適用用途に応じてアラミド繊維や超高強力ポリエチレン繊維(商品名:ダイニーマ・東洋紡績株式会社製)等の剪断抵抗力が大きい素材を選択するとよい。
【0035】
圧縮ストラットは、アルミ合金やジュラルミン、FRP等の軽量素材を用いるとよい。また、木の板を薄い鉄板で挟んだサンドイッチ構造の軽いデッキパネルを使うこともできる。テンションスリングについても、スチールワイヤー等の一般的な素材を用いて構成してよい。また、ポリアミド系合成樹脂などでベルト状に形成した張力部材であってもよい。
【0036】
圧縮ストラットをチューブに取り付ける方法として、接着剤を用いて接着したり、固定テープで固定したり、チューブに設けた固定袋に挿入して固定したりする形態など、多様な形態を採用することができる。圧縮ストラットとテンションスリングを接続する方法についても、公知の多様な接続方法を適用することができる。
【0037】
支持体は、円筒形の他、例えば中央部の高さが高く両端で低くなるアーチ形のものを使用することができる。ガスで膨張させるとアーチ形になるチューブの稜線に沿って圧縮ストラットを密着させ、底部にテンションスリングを張り渡す形態で支持体を形成する。また、支持体を扁平の舟形とし、上面に板状の圧縮ストラットを底面に幅広のテンションスリングを配す形態としてもよい。本形態では、一体の幅広支持体を用いて橋梁としてもよいし、数体の支持体を平行に並べて橋梁を形成してもよい。
【発明の効果】
【0038】
本発明の仮設橋の架設方法では、軽量の仮設橋を簡易な作業で展開することができるため、有事や災害時など、条件の悪い作業環境でも河川や濠に迅速に架設して車両等の通行を可能にするための仮設橋を架設することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1実施例に係る送り出し工法による仮設橋の架設方法の手順を示す説明図である。
【図2】第1実施例に係る仮設橋の架設方法を説明する手順図である。
【図3】第1実施例の支持体および床版パネルの断面図である。
【図4】図3のA−A断面における側面図である。
【図5】本発明に適用した支持体における断面力図である。
【図6】従来のケーブルトラス桁における断面力図である。
【図7】圧縮ストラットが連続的なバネに支持されている状態を示す概念図である。
【図8】本発明の第2実施例に係る旋回工法による仮設橋の架設方法の手順を示す説明図である。
【図9】第2実施例に係る仮設橋の架設方法を説明する手順図である。
【図10】従来の応急橋及びその架設方法を表す概要図である。
【図11】従来の非常用橋の架設方法を表す流れ図である。
【図12】従来の非常用橋の架設方法を表す流れ図である。
【図13】従来の空気的構造要素の側面図である。
【図14】従来の空気的構造要素の断面力を示す概念図である。
【図15】従来の空気的構造要素の使用形態を示す一部概略図である。
【図16】従来のアーチ型支持体の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【実施例1】
【0041】
図1は第1実施例の送り出し工法における方法の作業手順を示す説明図、図2はその手順を説明する流れ図である。
仮設橋の架設は、作業側岸にトラックで架橋に用いる資材を集積するところから始まる(S11)。図1に示すように、作業側岸1に、作業側岸用と対岸用の支点チューブキャップ3、空気チューブ4、テンションスリング5、送り出しジャッキ6、圧縮ストラット7を搬入する。本実施例ではチューブを膨張させるガスとして空気ポンプで送入する空気を使っている。このため、ガスで膨張させるチューブを空気チューブと呼ぶ。
【0042】
空気チューブ4とテンションスリング5は一体として解き易いコイルの形に巻き取られており、圧縮ストラット7は分割された短いロッド状の部材になっている。1本の空気チューブ4、2本のテンションスリング5、1連の圧縮ストラット7で形成される空気的構造要素あるいは流体力を利用する円柱型支持体が3組準備されており、支点チューブキャップ3は3組の支持体を水平方向に並べて相互に固定するよう形成されている。なお、本実施例では、代表して円柱形の支持体を用いた場合について表示しているが、円柱型支持体に限らず他の形態を有する、たとえば図16に示したようなアーチ型支持体なども、同じように利用することができる。以下、支持体という場合は、これら流体力を利用する支持体を含めて表すものとする。
また、図には3組の支持体で構成された場合が表示されているが、支持体は1組以上、幾組を用いて構成してもよい。
【0043】
次に、支点チューブキャップを支持体の先端部にセットする(S12)。ここでは、作業側岸用の支点チューブキャップ3の孔にそれぞれ、空気を入れていない空気チューブ4、テンションスリング5、圧縮ストラット7を一緒に通し、さらに各組の先端部を並べて対岸用の支点チューブキャップ3に固定する。先端部では、圧縮ストラット7先端の結節部にテンションスリング5が固結されている。
【0044】
その後、送り出し装置を用いて、先端に支点チューブキャップが固接された未膨張の支持体を対岸13に向かって延伸させる(S13)。
ここで、送り出しジャッキ6で圧縮ストラット7を送り出す。圧縮ストラット7が繰り出されると支点チューブキャップ3が対岸13に向かって移動し、空気チューブ4とテンションスリング5も圧縮ストラット7と共に延伸する。圧縮ストラット7は作業ヤードが狭い場合にも対応できるように短いロッドに分割されているため、順次継ぎながら延伸させる。
【0045】
未膨張の支持体が両岸を跨いだら、先端部の支点チューブキャップを両岸それぞれの地面に固定する(S14)。
このステップにおける手順例について詳しく説明すると、対岸用の支点チューブキャップ3が対岸13に到達したら、作業側岸側の先端部で圧縮ストラット7の結節部にテンションスリング5を固結し、空気チューブ4と共に支点チューブキャップ3に接続する。その後、送り出しジャッキ6を撤去し、両岸の支点チューブキャップ3を降ろして地面に固定する。
【0046】
続いて、空気チューブを膨らまして支持体を剛性化する(S15)。
ここでは、作業側岸1で空気チューブ4に空気ポンプ8を接続して空気を送入し、空気チューブ4を膨張させる。空気チューブ4が膨張すると、空気チューブ4がテンションスリング5を緊張させるとともに、空気チューブ4の上面が圧縮ストラット7に密着し、剛性のある支持体9が成形される。2本のテンションスリング5は両端がそれぞれ圧縮ストラット7に固結されており、左右対称の螺旋状に空気チューブ4を緊縛する。なお、圧縮ストラット7は、支持体9の延伸方向に移動するようになっていても差し支えない。
【0047】
さらに、支持体の上に床版パネルを配設して橋梁を形成する(S16)。
支持体9が硬く形成されたのち、支持体9の上面に床版パネル10を作業側岸から順に並べて配設し、必要に応じて両端に踏掛け板11や欄干12を設置して仮設橋が完成する。
【0048】
図3は床版パネルを配設して形成した橋梁を橋軸方向に見た断面図、図4は図3のA−A断面における側面図である。
本実施例の支持体9は、3本の支持体9が平行に並べて配置されている。床版パネル10の下面には3個の接合金具20が着設されており、それぞれ圧縮ストラット7と咬合して支持体9を固定する。なお、床版パネル10には、防弾のため、支持体9の側部を覆う防弾パネル21を取り付けてもよい。
【0049】
本実施例の仮設橋の架設方法に使用する支持体9は、床版パネル10に掛かる荷重を、圧縮ストラット7の圧縮力とテンションスリング5の引張力に変換して支持する。
図5,6に、本発明により架設する仮設橋に使用する支持体と、一般的なケーブルトラス桁をモデル的に比較する断面力図を示した。図5は本発明に適用した支持体の断面力図、図6は比較のために示したケーブルトラス桁モデルの断面力図である。
【0050】
共に、長さLの圧縮ストラットの両端にテンションスリングが接続されている。支持体では2本のテンションスリングが高さDの空気チューブに螺旋状に巻き付けられている。ケーブルトラス桁では、多数の鉛直ストラットの先端にテンションスリングが接続され、吊下されている。
【0051】
橋長Lに対して桁高Dが十分に小さい場合(γ=L/D>>1)、支持体とケーブルトラス桁において、荷重qが載荷された場合のテンションスリングにかかる引張力Tは共に以下の式で近似できる。
T=1/8・qLγ ・・・(1)
【0052】
テンションスリングは両端で圧縮ストラットに接続しているため、引張力Tにより、圧縮ストラットに圧縮力Pが発生する。圧縮力Pが座屈抗力を超えると圧縮ストラットが座屈する。ケーブルトラス桁において、座屈抗力Pbは以下のように示される。
Pb=(n+1)2π2EI/L2 ・・・(2)
【0053】
ここで、Iは圧縮ストラットの断面2次モーメント、Eは弾性係数、nは鉛直ストラットの本数である。式2に表されるように、座屈抗力は鉛直ストラットの設置間隔L/(n+1)の2乗に反比例する。したがって、座屈抗力を増強するためには鉛直ストラットの本数を増やさなくてはならない。しかし、鉛直ストラットの本数を増すと橋梁の自重が大きくなり、荷重に抗する余力が小さくなるジレンマがある。
【0054】
反面、流体力を利用した支持体では圧縮ストラットが空気チューブに密着して保持されているため、無数の鉛直ストラットに支持されていると考えることができ、鉛直ストラットの本数nへの依存から解放される。したがって、軽量の空気チューブを配することで、鉛直ストラットが不要になり、橋梁の自重を著しく軽量にすることができる。
【0055】
支持体では、図7に示すように、圧縮ストラットが連続的なバネに支持されていると仮定すると、バネ定数kを用いて。
Pb=2√(kEI) ・・・(3)
と表すことができる。すなわち、空気チューブが全長に渡って圧縮ストラットを支持するため、圧縮ストラットの座屈抗力は橋長Lにも影響されない。
【0056】
支持体では、仮想バネのバネ定数kは空気チューブの空気圧に依存している。バネ定数kを空気チューブの空気与圧pを用いてk=πpとすると、
Pb=2√(πpEI) ・・・(4)
となる。
断面2次モーメントIと空気与圧pを適切に選択すると、座屈抗力Pbは圧縮ストラットの降伏荷重より大きくなる。したがって、圧縮ストラットに関して、座屈抗力を考慮せず、降伏荷重まで圧縮力をかけることが可能になるため、長手の圧縮ストラットにおいても、材質・形状の自由度が大きくなる。すなわち、圧縮ストラットに掛かる横方向の応力を考慮する必要が無いため、圧縮ストラットの断面積を小さくすることができ、非常に軽量に構成することができる。
【0057】
流体力を利用した支持体では、空気チューブの空気与圧が重要なパラメータとなる。
圧縮ストラットおよびテンションスリングを装着しない単純な円筒形空気チューブの場合、応力(面積当たりの荷重)qaに対して必要となる空気与圧pは以下の通りとなる。
p=2/π・qaγ2 ・・・(5)
【0058】
γは空気チューブの太さに対する長さの比を表す(γ=L/D)。空気チューブに必要となる空気与圧pは空気チューブの形状γに強く依存し、橋梁に使用する細長形状においては、空気与圧pを相当程度高くしなければならない。例えば、γ=30の空気チューブにおいては、qa=1kN/m2の応力に耐えるために、約570kN/m2の空気与圧が必要になる。
【0059】
一方、本発明で適用する支持体に使用した空気チューブでは、応力qaに抗するために必要な空気与圧pは以下の式で与えられる。
p=π2/2・qa ・・・(6)
【0060】
例えば、qa=1kN/m2の応力に耐えるために必要な空気与圧pは約5kN/m2(50mbar)である。このように、支持体に適用した空気チューブは、スパンによらず、低い空気圧で荷重に抗することができる。流体力を利用した支持体では、荷重に対する抗力を圧縮ストラットとテンションスリングが担っており、空気圧はテンションスリングにプレテンションを与える作用と、圧縮ストラットを固定する作用を担っているため、細長い空気チューブでも低い空気圧で十分に実用に耐えうる。
【0061】
必要な空気圧が数100mbarと小さいため、空気チューブ布素材に機密性が特に高いものを使用する必要が無く、安価に入手できる材質のものでよい。また、空気チューブが損傷した場合も、破裂のおそれが無く、損傷部位から空気が漏れるだけである。そのため、空気チューブは特殊な素材を使用する必要がなく、薄く、軽量、安価に作成することができる。また、損傷した場合も、損傷部分をパッチで塞ぐか、漏れ出す空気量以上の空気を空気ポンプで加給することで対処できる。そのため、安全性が高く、維持が容易である。
なお、本実施例では最も容易に利用できる空気ポンプを使ってチューブを膨張させているが、圧縮空気を利用することもできる。また、窒素やアルゴン、炭酸ガスなど他のガスを利用して膨張させてもよいことはいうまでもない。
【0062】
本実施例に用いた支持体は、アルミ合金の圧縮ストラットと、鋼製ワイヤーロープのテンションスリングと、PVCコーティングポリエステルの空気チューブで形成することができる。本実施例の方法で架設する仮設橋は、例えば20mのもので数10〜100t程度の荷重に耐えることができる。それにもかかわらず、1本の支持体が20mで130kg程度と非常に軽量であり、3本の支持体と床版パネル等を含む橋梁全体の自重も500〜700kgである。同様の最大荷重を持つ従来のトラス橋に比べて10分の1以下の重量である。
【0063】
したがって、本実施例の仮設橋の架設方法は、橋梁の展開を簡単、スムーズに行うことができ、作業環境が劣悪な状況でも速やかに仮設橋を架設することができる。また、使用する部材が軽量であり、必要とする空気圧も低いため、架設機材としての送り出しジャッキや空気ポンプなども小型のもので十分である。したがって、架設に必要な部材、工具の総重量が小さく、運搬が非常に容易であるうえ、複数の橋梁に亘る資材を搬送することも苦にならない。
【実施例2】
【0064】
図8は本発明の第2実施例の旋回工法による仮設橋の架設方法の作業手順を示す説明図、図9はその方法を説明する手順図である。本実施例は、橋梁構造体が軽量なことを利用し、作業側岸で橋梁構造体を形成した上で旋回台を用いて先端を対岸に渡すようにして、簡易に架設する方法であり、図には第1実施例と異なる部分について分かり易く表示している。
【0065】
本実施例の仮設橋の架設は、作業側岸にトラックで仮設橋の架設に用いる資材を集積するところから始まる(S21)。
図8に示すように、作業側岸1に、作業側岸用と対岸用の支点チューブキャップ3、空気チューブ4、テンションスリング5、圧縮ストラット7、床版パネル10、旋回台31、さらに必要に応じて踏掛け板11や防弾パネルなどを搬入する。
【0066】
次に、作業側岸1で支持体を形成する(S22)。
作業側岸1において、空気チューブ4を必要数並設し、空気チューブ4の上側表面上に圧縮ストラット7を掛け継いで一体化するように配設し、テンションスリング5の端部を圧縮ストラット7の端部に結合して、図示しない空気ポンプで空気チューブ4を膨張させて剛性を持った1体あるいは複数体の支持体9を形成する。さらに、支点チューブキャップ3を並設された支持体9の端部に接続して仮設橋の構造体14とする。
【0067】
作業側岸に設置した旋回台31に仮設橋の構造体14の支点チューブキャップ3の部分を載置し、旋回台31を旋回して構造体14の先方端を対岸13に到達させ(S23)、両端の支点チューブキャップ3を地面に固定して橋梁を完成させる(S24)。
ここでは、構造体14の作業側岸用の支点チューブキャップ3を旋回台31に載置し、旋回台31をほぼ90°旋回して構造体14の先方端を対岸に届かせて、両端の支点チューブキャップ3を地面に下ろして固定し、旋回台31を撤去して構造体14を両岸に渡し、さらに、床版パネル10を構造体14の上に設置し、さらに必要に応じて踏掛け板11や防弾パネル21、欄干などを設置して仮設橋を完成させる。
【0068】
なお、本実施例では、構造体14を架設した後に床版パネル10などを配設しているが、事前に作業側岸1において床版パネル10類を構造体14にセットしてから、旋回台31に構造体14を取り付けて旋回させて対岸に渡すようにしてもよい。構造体14自体が軽量なので、床版パネル10をセットした構造体14でも簡略な旋回台31で十分片持ち状態で旋回させることができる場合がある。
予め作業側岸1で組立を完了させることができれば、作業能率が大いに向上することになり、さらに有利である。
【0069】
なお、上記実施例ではいずれも、円柱状の支持体を使用して仮設橋を架設する態様について説明したが、図16に示したような扁平舟形のアーチ型支持体を使用することもできる。アーチ型支持体は、円柱型の支持体より耐荷重性能が高く、例えば20mの橋梁で数100tの荷重に耐えることができる。したがって、大型重機や主力戦車を渡すための仮設橋にも適用することができ、利用範囲が広い。
なお、アーチ型支持体を使用する場合は、圧縮部材として圧縮床版パネルを直接利用して圧縮ストラットを省略することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の仮設橋の架設方法は、軽量の空気チューブ橋を簡易、迅速に展開することができるため、災害時や有事の時などに河川や濠に架設して車両等の通行を可能にするための仮設橋の架設方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 作業側岸
2 トラック
3 支点チューブキャップ
4 空気チューブ
5 テンションスリング
6 送り出しジャッキ
7 圧縮ストラット
8 空気ポンプ
9 支持体
10 床版パネル
11 踏掛け板
12 欄干
13 対岸
14 構造体
20 接合金具
21 防弾パネル
31 旋回台
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスで膨張させるチューブと圧縮ストラットとテンションスリングを備え、前記圧縮ストラットを前記チューブの上側に配置し、前記テンションスリングで前記圧縮ストラットの端点同士を結合し、前記チューブを前記圧縮ストラットと前記テンションスリングの間に配置して、前記チューブを膨張させることにより剛性化した支持体を使って荷重を支持するようにした仮設橋を作業側岸と対岸の間に架設する方法であって、
前記圧縮ストラットの先端に第1支点チューブキャップを固定し、前記圧縮ストラットの終端に第2支点チューブキャップを配置し、前記第1支点チューブキャップを対岸に渡して対岸に固定すると共に前記第2支点チューブキャップを作業側岸に固定し、剛性化した前記支持体の上に床版パネルを配設することを特徴とする、
仮設橋の架設方法。
【請求項2】
作業側岸に送り出しジャッキを設置して、前記圧縮ストラットを根本側から継ぎ足しながら前記送り出しジャッキにより対岸に向けて繰り出させることを特徴とする請求項1記載の仮設橋の架設方法。
【請求項3】
前記チューブと前記テンションスリングを前記圧縮ストラットと一緒に繰り出し、少なくとも前記第1支点チューブキャップと前記第2支点チューブキャップのうちいずれか一方を地面に固定した後に前記チューブをガスで膨張させて前記支持体を剛性化することを特徴とする請求項2記載の仮設橋の架設方法。
【請求項4】
作業側岸に旋回台を設置して、作業側岸において剛性化させた前記支持体の先端に前記第1支点チューブキャップを固定し、終端に前記第2支点チューブキャップを固定し、前記第2支点チューブキャップを前記旋回台に支持して、該支持体を旋回させて前記第1支点チューブキャップを対岸に着地させ、作業側岸の旋回台を移動して前記第2支点チューブキャップを地面に降ろし、前記第1支点チューブキャップおよび前記第2支点チューブキャップをそれぞれ地面に固定することを特徴とする請求項1記載の仮設橋の架設方法。
【請求項5】
前記支持体は、前記テンションスリングが互いに前記チューブの周りを反対方向に螺旋を描いて緊縛するように対称的に配置された対として設置された、ほぼ円筒形をなす前記チューブで構成されることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の仮設橋の架設方法。
【請求項6】
前記支持体を2本以上平行に配置し、該2本以上の支持体の上に前記床版パネルを配設することを特徴とする、請求項5記載の仮設橋の架設方法。
【請求項7】
前記支持体は、前記圧縮ストラットの下側で端部の間に前記テンションスリングを渡して、両者の間に前記チューブが挟まった構成で、前記チューブを膨張させることにより中央部の高さが高く両端で低くなるアーチ形をなすことを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の仮設橋の架設方法。
【請求項1】
ガスで膨張させるチューブと圧縮ストラットとテンションスリングを備え、前記圧縮ストラットを前記チューブの上側に配置し、前記テンションスリングで前記圧縮ストラットの端点同士を結合し、前記チューブを前記圧縮ストラットと前記テンションスリングの間に配置して、前記チューブを膨張させることにより剛性化した支持体を使って荷重を支持するようにした仮設橋を作業側岸と対岸の間に架設する方法であって、
前記圧縮ストラットの先端に第1支点チューブキャップを固定し、前記圧縮ストラットの終端に第2支点チューブキャップを配置し、前記第1支点チューブキャップを対岸に渡して対岸に固定すると共に前記第2支点チューブキャップを作業側岸に固定し、剛性化した前記支持体の上に床版パネルを配設することを特徴とする、
仮設橋の架設方法。
【請求項2】
作業側岸に送り出しジャッキを設置して、前記圧縮ストラットを根本側から継ぎ足しながら前記送り出しジャッキにより対岸に向けて繰り出させることを特徴とする請求項1記載の仮設橋の架設方法。
【請求項3】
前記チューブと前記テンションスリングを前記圧縮ストラットと一緒に繰り出し、少なくとも前記第1支点チューブキャップと前記第2支点チューブキャップのうちいずれか一方を地面に固定した後に前記チューブをガスで膨張させて前記支持体を剛性化することを特徴とする請求項2記載の仮設橋の架設方法。
【請求項4】
作業側岸に旋回台を設置して、作業側岸において剛性化させた前記支持体の先端に前記第1支点チューブキャップを固定し、終端に前記第2支点チューブキャップを固定し、前記第2支点チューブキャップを前記旋回台に支持して、該支持体を旋回させて前記第1支点チューブキャップを対岸に着地させ、作業側岸の旋回台を移動して前記第2支点チューブキャップを地面に降ろし、前記第1支点チューブキャップおよび前記第2支点チューブキャップをそれぞれ地面に固定することを特徴とする請求項1記載の仮設橋の架設方法。
【請求項5】
前記支持体は、前記テンションスリングが互いに前記チューブの周りを反対方向に螺旋を描いて緊縛するように対称的に配置された対として設置された、ほぼ円筒形をなす前記チューブで構成されることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の仮設橋の架設方法。
【請求項6】
前記支持体を2本以上平行に配置し、該2本以上の支持体の上に前記床版パネルを配設することを特徴とする、請求項5記載の仮設橋の架設方法。
【請求項7】
前記支持体は、前記圧縮ストラットの下側で端部の間に前記テンションスリングを渡して、両者の間に前記チューブが挟まった構成で、前記チューブを膨張させることにより中央部の高さが高く両端で低くなるアーチ形をなすことを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の仮設橋の架設方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2013−2152(P2013−2152A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134719(P2011−134719)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】
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