説明

伏目処理方法

【課題】 編成への影響が少なく、簡単に均一な伏目を得ることができる伏目処理方法を提供する。
【解決手段】 V首セーター編地1は、後身頃編成処理2の終了後に、左肩および右肩をそれぞれ前身頃と後身頃とを重ねて閉じる左肩伏目処理4および右肩伏目処理6を行う。
左肩伏目処理4の前に、伏目処理を行う領域の両外方間で、左肩用渡り糸掛け渡し処理3を行う。渡り糸を掛け渡す際には、ループプレッサなど、供給される糸の押え込みができる装置を使用してもよい。また、渡り糸を掛け渡す際に伏目処理を行う領域内の空針に掛け目を行っても、領域外で支持してから、領域内で掛け目を払うようにすればよい。左肩伏目処理4で伏目を形成する際に編針から外れる編目を、渡り糸で受けて吊持し、伏目の大きさを均一にして安定化を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、横編機の伏目処理を均一に行うための伏目処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、少なくとも二枚の針床が歯口を挟んで対向する横編機で筒状に編地を編成する場合などには、伏目処理で編地の最終コースを閉じるようにしている(たとえば、特許文献1参照)。筒状の編地は、対向する針床でそれぞれ編地を編成し、編成される編地の編幅の端部が針床間で連結するように、編糸を供給しながら行われる。編地の最終コースが編成されても、連結されている端部を除いて、各針床の編針で係止される編地は分離している。編地の最終コースを閉じるための伏目処理では、一方の針床の編針で係止されている編地の編目を他方の針床の編針で係止されている編地の編目に目移しで重ね、重ねた編目に新たな編目を形成し、その編目を隣接する重ねた編目に重ねて伏目を形成することを繰返す。
【0003】
伏目処理の過程では、針床間で重ねた編目を係止する編針から編目が払われる過程が段階的に繰返される。編地には、自重や、歯口下方に引下げる巻下げ装置などによる引下げ力が作用している。しかしながら、伏目処理で編目が段階的に払われると、編地を係止する編針の本数が段階的に減少し、新たに形成する伏目に掛かる負荷は増大し、伏目の大きさが揃わず、不均一になるおそれがある。
【0004】
伏目処理でも伏目が不揃いにならずに均一化する方法として、伏目処理の際には編針から払われる編目を吊持するように、渡り糸を歯口に張り渡す技術が知られている(たとえば、特許文献2および特許文献3参照)。特許文献2には、伏目処理を行う編針の範囲に空針を設けて、吊下用編糸を伏目処理の際に編針で重ね目を係止する側の針床に設ける空針に掛けて吊持する方法が開示されている。空針を設けるためには、総針で編成した編地を、あえて針抜きの状態にしている。特許文献3には、吊下用編糸を、歯口を挟む両側の針床の編針にジグザグ状に掛けて吊持し、伏目処理後に払い落す方法が開示されている。
【特許文献1】特開平2−91254号公報
【特許文献2】独国特許発明第3939584号明細書
【特許文献3】特開平7−133561号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2や特許文献3の方法では、伏目処理で均一な大きさの伏目を得るために、吊下用編糸を、伏目処理を行う編針の範囲内の編針で吊持する。吊下用編糸は、編針のフックに掛けて、歯口で編目の編成処理を行う位置に近く比較的高い位置で支持されているので、伏目の種類によっては、目移しの際に、歯口に渡る吊下用編糸の影響を受けるおそれがある。また、特許文献2の方法については、総針で編成した編地を、空針を設けるために、あえて針抜きの状態にするので、形成される伏目が大きくなり、見栄えが落ちてしまう。特許文献3の方法では、空針を設ける必要はないけれども、吊下用編糸を、編目を係止する編針にタックして吊持するので、編成後にはベースとなる編地の編目には影響を与えないように慎重に外すなどの糸始末の作業が必要となる。
【0006】
本発明の目的は、編成への影響が少なく、簡単に均一な伏目を得ることができる伏目処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、横編機の歯口を挟んで対向する両側の針床の編針でそれぞれ係止する編地に対し、対向する編地端部の編目を重ねて編地間を閉じる伏目処理方法であって、
伏目処理前に、該両側の針床の編針で編地をそれぞれ係止しながら、一方の針床で、伏目処理に使用する編針で形成する領域を超える長さの渡り糸を、該領域の一外方の空針に掛け目して始端としてから、該領域の他外方の空針に終端を掛け目するように掛け渡して、少なくとも伏目処理を行う際には、該領域内の編針に該渡り糸が掛からないようにしておき、
伏目処理を行う際に、編針から払われる編目を、該渡り糸で支持し、
該渡り糸は、伏目処理の終了後に、該始端および該終端を、該空針から払い落すことを特徴とする伏目処理方法である。
【0008】
また本発明で、前記渡り糸は、前記空針への掛け目の後、該掛け目を形成した編針に対するニット編成を行って、複数本を掛け渡すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、伏目処理で使用する編針で形成する領域の一外方から他外方に、領域を超える長さの渡り糸を掛け渡して跨いだ状態にしておくので、伏目処理で編針から外れる編目を渡り糸で支持することができる。渡り糸による支持で、伏目処理の過程で編地を支持する編針の本数が減少しても、伏目に掛る負荷の増大を避けることができるので、伏目の均一化を図ることができる。伏目処理に使用する編針で形成する領域の外方で渡り糸を支持し、少なくとも伏目処理の際にはその領域内の編針には渡り糸を掛けないので、編目を支持する範囲では、渡り糸の位置がフックの位置よりも下がり、目移しの際に影響を受けないようにすることができる。また、編地端部の編目を係止する編針にはタックなどで掛る部分が残らないので、編成後の糸始末を簡単化することができる。伏目処理の過程で編目を支持する渡り糸は、伏目処理に使用する編針で形成する領域の外方の空針に掛け目して始端および終端を支持し、伏目処理後に始端および終端を払い落すので、伏目処理した編地の両側に始端および終端が引き出されている状態で横編機から取出すことができ、編地から容易に引抜くことができる。
【0010】
また本発明によれば、伏目処理の過程で編目を支持する渡り糸の本数が多くなるので、確実な支持を行うことができる。渡り糸は、掛け目ではなく、編目を形成する状態で編針に支持されるので、渡り糸の位置を下げて、伏目処理を良好な条件で行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、本発明の実施の一形態である伏目処理方法を、V首セーター編地1を一体的に編成する場合の主要部分の編成状態で簡略に示す。横方向はキャリッジが往復走行するコース方向を示し、キャリッジに搭載されるカム装置によって選択的に駆動される編針が並設されている。縦方向は、順次的なコース編成に伴って進行する時間に対応する。V首セーター編地1は、図示を省略している前身頃とともに、後身頃を、前後に針床を備える横編機で、前針床および後針床にそれぞれ付属させて、下方から筒状に編成する。前身頃は、V首の部分で、左右に分けて編成する。図では、後身頃を編成する後身頃編成処理2の終端付近の状態から示す。V首の部分で左右に分けられる前身頃は既に編成されているものとする。後身頃編成処理2の終了後には、左肩および右肩をそれぞれ前身頃と後身頃とを重ねて閉じる伏目処理を行う。
【0012】
まず、後身頃編成処理2の最終コースの次には、左肩用渡り糸掛け渡し処理3を行う。左肩用渡り糸掛け渡し処理3では、次の左肩伏目処理4で使用する編針で形成する領域の編幅の範囲外で両端を支持し、伏目処理を行う際にその領域内の編針には、編目、タック目、掛け目などで係止しないようにする。渡り糸を掛け渡す際には、ループプレッサなど、供給される糸の押え込みができる装置を使用してもよい。また、渡り糸を掛け渡す際に伏目処理を行う領域内の空針に掛け目を行っても、領域外で支持してから、領域内で掛け目を払うようにすればよい。伏目処理の際に領域内で渡り糸を係止していなければ、目移しには影響しないので、伏目処理の容易化を図ることができる。領域内では編針で係止していなくても、領域の両外方で渡り糸の始端および終端を支持しているので、左肩伏目処理4で伏目を形成する際に編針から外れる編目を、渡り糸で受けて吊持し、伏目の大きさを均一にして安定化を図ることができる。
【0013】
左肩伏目処理4が終了すると、右肩用渡り糸掛け渡し処理5を行う。右肩用渡り糸掛け渡し処理5では、次の右肩伏目処理6で使用する編針で形成する領域の外方で両端を支持し、左肩用渡り糸掛け渡し処理3と同様に、伏目処理を行う際にその領域内の編針には、編目、タック目、掛け目などで係止しないようにする。右肩伏目処理6でも、左肩伏目処理4と同様に、目移しを容易に行い、編針から外れる編目を渡り糸で吊持して、伏目の安定化を図ることができる。
【0014】
図2は、図1の左肩用渡り糸掛渡し処理3についての実施例を示す。編成に使用する横編機としては、歯口を挟んで上下二段の針床が前後で対向する四枚ベッド機を使用する場合を想定する。四角の枡目は編針を示し、前下、前上、後下、後上は、前針床の下段側、前針床の上段側、後針床の下段側、後針床の上段側をそれぞれ示す。ABC…Qの符号は編針の位置を示す。枡目内の丸印は、編針に編目を係止している状態を示す。枡目内のV印は、空針に掛け目されている状態を示す。実線の曲線は糸を示す。太い曲線および黒く塗りつぶしている丸印は、そのコースで新たに生じている状態を示す。三角印は給糸口を示し、黒の塗りつぶしは、編針に編糸を供給した直後であることを示す。左肩に関する編成なので、右肩に関する編成などを行う各針床の領域は、図の左方となるけれども、図示を省略する。また、図示している範囲でも、使用する編針の本数は便宜的なものであり、必要に応じて変更しうるのはもちろんである。枡目の右側の矢印は、キャリッジの走行方向を示す。
【0015】
S1は、地糸用編糸10で、図1の後身頃編成処理2の最終コースとなる後身頃終端11を、キャリッジの右行で、後針床の下段側で編成した状態を示す。地糸用編糸10を供給する地糸用給糸口12は、後針床の下段側の編針Lを過ぎた位置に停止する。前針床の下段側の編針F〜Kには、先に編成されている左前身頃終端13が係止されている。なお、破線の矢印で示すように、編成には使用しないでキャリッジを左行させておく。
【0016】
S2は、吊下用編糸20を、前針床の下段側に掛け渡す状態を示す。後述する伏目処理では、前針床の下段側で、編針F〜Kまでで形成する領域を使用する。したがって、吊下用編糸20は、前針床の下段側で編針F〜Kの範囲外となる領域の空針、たとえば編針C,Nに掛け目して掛け渡し、領域内に渡り糸21を形成する。吊下用編糸20は、地糸用編糸10と同じ糸でもよいけれども、地糸用給糸口12とは別の吊下用糸給糸口22から供給する。吊下用編糸20は、弾性糸など、地糸用編糸10とは別の糸を使用することが好ましい。渡り糸21は、空針となっている編針C,Nに掛け目23,24を形成して支持する。
【0017】
S3は、吊下用編糸20で、渡り糸25を掛け渡す処理を示す。渡り糸25の両端は、空針となっている編針O,Dに掛け目26,27を形成して支持する。前身頃は、V首となるので、左前身頃終端13と図示を省略している右前身頃終端との間に空針が生じる。この間の空針となる編針C,Dに掛け目23,27を形成し、渡り糸21,25の支持に使用する。掛け目24,26は、編地全体の編幅外の空針に形成している。
【0018】
S4は、吊下用編糸20で渡り糸31を形成するために、編針C,Oに係止される掛け目23,26に続けて新たな編目32,33をそれぞれ形成した状態を示す。S5は、吊下用編糸20で渡り糸35を形成するために、編針N,Dに係止される掛け目24,27に続けて新たな編目36,37をそれぞれ形成した状態を示す。前身頃の編地は、渡り糸21,25,31,35の前側、後身頃の編地は渡り糸21,25,31,35の後側にそれぞれ垂下がるので、上端を伏目処理で連結すれば、編針から外れても、渡り糸21,25,31,35で吊持することができる。
【0019】
このような二往復程度の渡り糸21,25,31,35を掛け渡しておくことによって、伏目処理中の編目の吊持を確実に行うことができる。特に、吊下用編糸20として弾性糸などを使用して、張力を大きくとれば、編目をしっかりと支えることができる。また、掛け目23,24,26,27にニット編成で編目32,36,33,37をそれぞれ形成するので、渡り糸21,25,31,35は下方に下がり、伏目処理で目移しなどに影響を与えない条件を、さらに良くすることができる。なお、以下に示すような伏目処理を行うためには、破線の矢印で示すように、編成には使用しないでキャリッジを右行させておく。
【0020】
図3は、図1の左肩伏目処理4についての実施例を部分的に示す。S6は、図2のS5に続き、後身頃終端11の最外側の編目を係止する後針床下段側の編針Kに、キャリッジの左行で、地糸用給糸口12から地糸用編糸10を給糸し、新たな編目40を形成した状態を示す。S7は、後針床の下段側の編針Kから前針床の下段側の編針Kに編目40を目移しして重ね目41を形成した状態を示す。後針床の編針Kからは編目40が外され、伏目が形成される。キャリッジに、ニット用カムを含むカムシステムと目移し用カムを含むカムシステムとが搭載されていれば、一行程で編目形成(S6)とその編目の目移し(S7)とを行うことができる。
【0021】
S8は、前針床に対して後針床を1ピッチ分だけ右に振り、前針床の下段側の編針Kに係止している重ね目41に対して、地糸用編糸10で新たな編目42を形成した状態を示す。S7で形成した重ね目41は、ノックオーバされて編針Kから外れるけれども、編目42に対しては旧ループとなり、編目42を介して編針Kで係止される。
S8に続くS9では、編目42を前針床の編針Kから後針床の編針Jで係止する編目に重ねるように目移して重ね目43を形成し、前針床の編針Kからは編目42を外して伏目を形成する処理が行われる。以下、キャリッジの左行と右行とで、S6およびS7とS8およびS9とそれぞれ同様な処理を繰返して、伏目を形成しながら編目を前針床および後針床の編針K〜Fから外す。
【0022】
このような伏目処理は一例であり、伏目処理には、種々の方法が知られているので、どのような方法を用いてもよい。いずれの方法の伏目処理でも、編目を係止する編針を減少させて、S10に示すように、左肩の部分を伏目処理で全部閉じて終了する。伏目処理の過程で編目を係止する編針が減少しても、編針から外れた編目を渡り糸21,25,31,35で吊持するので、伏目の大きさの均一化を図ることができる。
【0023】
図1の伏目の安定化方法では、左肩伏目処理4および右肩伏目処理6に対応する左肩用渡り糸掛け渡し処理3および右肩用渡り糸掛け渡し処理5を、分けて行っている。さらに、V首の部分では後身頃のみ端部に伏目処理が必要となるので、同様に渡り糸を掛け渡す必要がある。そこで、両肩の外側で共通の渡り糸を支えるようにすれば、渡り糸の掛渡しと払いとの処理回数を減らすことができる。ただし、タートルネックセーターなどでは、共通の渡り糸を使用すると、編地の下がりを悪化させるおそれがあるので、分けるようにすることが好ましい。
【0024】
なお、図2および図3に示す実施例では、説明を簡単にするために、伏目処理の対象を表目のみの平編みの編地にして、上段側の針床は使用していない。裏目も含む編地では、四枚ベッドの横編機の上段側の針床も使用する。また、上段側の針床の代りにトランスファジャックベッドを備える横編機を使用することもできる。なお、平編みの編地のみで形成する筒状の編地であれば、歯口を挟んで前後に対抗する針床を備えるのみの二枚ベッドの横編機でも同様に編成することができる。また、二枚ベッドの横編機でも針抜き編成を行えば、裏目を含む編地を編成して伏目処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の一形態である伏目の安定化方法を、V首セーター編地1を一体的に編成する場合の主要部分の編成状態で簡略に示す図である。
【図2】図1の左肩用渡り糸掛け渡し処理3の実施例を示す編成図である。
【図3】図1の左肩伏目処理4の実施例の一部を示す編成図である。
【符号の説明】
【0026】
1 V首セーター編地
2 後身頃編成処理
3 左肩用渡り糸掛け渡し処理
4 左肩伏目処理
5 右肩用渡り糸掛け渡し処理
6 右肩伏目処理
10 地糸用編糸
20 吊下用編糸
21,25,31,35 渡り糸
23,24,26,27 掛け目
32,33,36,37,40,42 編目
41,43 重ね目

【特許請求の範囲】
【請求項1】
横編機の歯口を挟んで対向する両側の針床の編針でそれぞれ係止する編地に対し、対向する編地端部の編目を重ねて編地間を閉じる伏目処理方法であって、
伏目処理前に、該両側の針床の編針で編地をそれぞれ係止しながら、一方の針床で、伏目処理に使用する編針で形成する領域を超える長さの渡り糸を、該領域の一外方の空針に掛け目して始端としてから、該領域の他外方の空き針に終端を掛け目するように掛け渡して、少なくとも伏目処理を行う際には、該領域内の編針に該渡り糸が掛からないようにしておき、
伏目処理を行う際に、編針から払われる編目を、該渡り糸で支持し、
該渡り糸は、伏目処理の終了後に、該始端および該終端を、該空針から払い落すことを特徴とする伏目処理方法。
【請求項2】
前記渡り糸は、前記空針への掛け目の後、該掛け目を形成した編針に対するニット編成を行って、複数本を掛け渡すことを特徴とする請求項1記載の伏目処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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