伝動ベルト駆動系の振動解析方法及び設計支援方法並びに伝動ベルトの摩耗率予測方法
【課題】エンジンのクランク軸上のクランクプーリと、オルタネータ軸上のオルタネータプーリとの間にVリブドベルトからなる補機駆動ベルトが巻き掛けられ、ベルトの張力を付与するオートテンショナを備えたエンジン補機駆動系の振動解析モデルにより振動解析を行う場合、各プーリとベルトとの間のスリップを良好に再現して予測し、振動解析の精度のさらなる向上を図る。
【解決手段】補機駆動ベルト8の心線9を梁要素で、またゴム層10,11を平面歪み要素で、さらに帆布12をトラス要素でそれぞれモデル化することにより、ベルト8を厚さを有するモデルとする。
【解決手段】補機駆動ベルト8の心線9を梁要素で、またゴム層10,11を平面歪み要素で、さらに帆布12をトラス要素でそれぞれモデル化することにより、ベルト8を厚さを有するモデルとする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転変動やトルク変動が加わったときの伝動ベルト駆動系の振動を解析する方法及び設計を支援する方法、並びに伝動ベルトの摩耗率を予測する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、伝動ベルトを用いて動力伝達を行う駆動系を設計する場合においては、負荷、ベルト張力、プーリ回転数、ベルト速度、プーリ径、プーリレイアウト等を考慮して、伝動ベルトが短寿命にならないようにする工夫が行われる。その工夫とは、例えばベルトレイアウト、プーリ径、ベルト種類の変更、或いはベルト幅やベルト本数の変更等が挙げられる。
【0003】
中でも、自動車等に用いられるエンジン用の補機(エアコン用コンプレッサ、パワーステアリング用オイルポンプ、冷却水用ウォータポンプ、発電用オルタネータ、エンジン潤滑用オイルポンプ等)を駆動するエンジン補機駆動系や、カムシャフトを駆動するタイミングベルトを用いたカムシャフトベルト駆動系では、エンジンのクランク軸を駆動源としているため、エンジンの間欠的な燃焼に起因して、エンジン点火周期に応じた回転変動が生じたり、クランク軸の捩り振動や各プーリでのトルク変動が生じたりする。特に、ディーゼルエンジンや直噴エンジンといったクランク軸の回転変動が大きいエンジンにおいては、補機駆動ベルトが大きな回転変動を受けながらオルタネータやウォータポンプ等の補機を駆動している。この回転変動やトルク変動によって、補機駆動ベルトは回転しながらベルト長手方向に繰り返して振動を受けることになり、この繰返し刺激により、ベルトの最大張力が増大して短寿命化を招き、或いはベルト張力の低下により補機プーリと補機駆動ベルトとの間で滑りが生じてその役割を果たさなくなり、ベルトスリップの増大によるスリップ音発生、或いはスリップによる発熱や短寿命化等の問題が生じる。
【0004】
また、上記補機駆動ベルトの張力を保持するためにテンショナが用いられているが、補機のレイアウトやエンジンの特性によりベルトに作用する系が異なるので、正確に設計することが難しく、多くの検証実験を必要としている。
【0005】
これらの問題に対し、ベルト異音の発生原因となるスリップ率を検出する方法として、伝動ベルト駆動系全体を振動モデル化し、固有値解析によりモーダルパラメータを算出し、これを用いて変動張力計算を行い、静的張力計算結果と併せて合成張力計算を行う方法が知られている。
【0006】
しかし、この従来の方法では、変動張力が大きくなって、合成張力が零以下になったときに、伝動ベルトは圧縮荷重を支えるように計算されてしまう。
【0007】
一般に、伝動ベルトは、その心線にワイヤ、撚糸(コード)、布、フィルム等を用いているため、引張り荷重を保持することはできても圧縮荷重を保持することはできない。つまり、伝動ベルトは曲げ剛性が小さいために、圧縮荷重を加えると容易に座屈してしまい、圧縮荷重については殆ど保持することができない。
【0008】
以上のことから、実際の現象では、伝動ベルトは圧縮荷重を保持できないにも拘らず、計算上では圧縮荷重が加わるという差異が生じる問題がある。このため、上記従来のベルト張力の計算では、ベルト張力が零になった状態では、伝動ベルト駆動系に加わる力が実際に近い状態にはならず、計算結果と実測値とで差異が生じることになり、ベルトの張力変動等を正確に判断することはできない。
【0009】
そこで、ベルトスパン部分のばねを計算の途中で変更する構成とし、ベルトスパン部分のばね要素に加わる歪が引張り歪である場合には、ベルトスパン部分のばね定数がばね要素の値として計算を行う一方、ベルトスパン部分のばね要素に加わる歪が圧縮歪である場合には、ベルトスパン部分のばね定数をベルトスパン部分のばね定数よりも低い値か、もしくは零にしてしまい、又は圧縮歪が生じたときだけそのばね要素を取り除いてしまった状態で計算を行うことが知られている。
【0010】
また、この他、特許文献1に示されるように、伝動ベルト駆動系の振動を解析する際、プーリをレイアウトどおりに配置して伝動ベルトを巻き掛け、その巻き掛けられた伝動ベルトを長さ方向に微小区間に節点分割して、節点間を弾性体要素又は剛性要素で連結した振動解析モデルにより振動解析を行うことにより、伝動ベルトがプーリに接離するようにモデル化して、プーリの回転及びベルトの回行を自由に設定できるようにし、伝動ベルトの駆動系の解析をさらに高い精度で正確に行い、ベルトの張力変動や従動側の回転変動等を正確に解析することも知られている。
【0011】
このものでは、プーリ及びベルト間の動力伝達を摩擦伝動することで、実際に近い状態で解析できるが、摩擦伝動による解析であるにも拘わらず、プーリ及びベルト間のスリップ特性については十分な解析精度を確保しているとは言い難い。
【0012】
具体的には、プーリ回転数やベルト張力について設計に要する精度が必要であり、解析に要する計算時間を短縮すること等を考慮し、解析モデルでは、ベルトを梁でモデル化し、プーリとベルトとの間の摩擦係数を一定としているため、伝動ベルトが例えばリブ部により使用形態で変化するVリブドベルトであったとしても、その伝動状態が考慮されておらず、スリップ現象を十分に再現することができない。
【0013】
さらに、特許文献2に示されるように、伝動ベルト駆動系の振動解析モデルにおけるプーリとベルトとの間の摩擦係数として、面圧依存特性を持つものを用いることが提案されている。
【特許文献1】特開2001−311456号公報
【特許文献2】特開2004−093490号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところが、上記提案のものでは、計算条件によっては、期待する解析精度を十分に得ることが困難である(図19〜図21参照)。さらには、ベルトの摩耗のように、プーリとベルトとの滑り挙動の再現がより一層重要となる解析を行うには不十分であり、さらに改良する余地があった。
【0015】
本発明は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、伝動ベルト駆動系の振動解析モデルに改良を加えることで、伝動ベルト駆動系の振動解析の精度をさらに向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するために、この発明では、伝動ベルト駆動系の振動解析モデルにおける伝動ベルトを厚さを持ったモデルとするようにした。
【0017】
具体的には、請求項1の発明では、少なくとも駆動及び従動プーリからなるプーリと、これらプーリに巻き掛けられた伝動ベルトとを備えた伝動ベルト駆動系の振動を解析する方法が対象である。
【0018】
そして、上記プーリをレイアウトどおりに配置して伝動ベルトを巻き掛け、その巻き掛けられた長さ方向に微小区間に節点分割して、節点間を弾性体要素で連結し、かつ上記プーリと伝動ベルトとの間に両者間の面圧に応じて変化する面圧依存特性を有する摩擦係数を設定し、さらに上記伝動ベルトの構成要素をモデル化することで伝動ベルトを厚さを有するモデルとした振動解析モデルにより振動解析を行うことを特徴とする。
【0019】
上記の構成によると、伝動ベルト駆動系の振動解析を行うに当たり、プーリがレイアウトどおりに配置されて伝動ベルトが巻き掛けられ、その巻き掛けられた伝動ベルトが長さ方向に微小区間に節点分割されて節点間が弾性体要素で連結された振動解析モデルが用いられるので、ベルトがプーリに接触したり離れたりするものとでき、プーリの回転及びベルトの回行を自由に設定することができ、例えば駆動プーリの回転特性を直接に入力するだけで伝動ベルト駆動系の振動解析が得られる。従って、伝動ベルト駆動系に加わる張力、加速度、速度、変位等がさらに精度よく解析できるようになり、伝動ベルト駆動系の振動解析を実際に即してさらに高い精度で正確に行うことができる。
【0020】
しかも、上記振動解析モデルでは、プーリと伝動ベルトとの間の摩擦係数として、一定値ではなく、両者間の面圧に応じて変化する面圧依存特性を有する摩擦係数が用いられるので、伝動ベルト駆動系におけるプーリとベルトとの間のスリップを良好に再現して予測できる。しかも、振動解析モデルでは、伝動ベルトがその構成要素のモデル化によって厚さを有するモデルであるので、伝動ベルトから受けるプーリの面圧分布特性が実際のものと近似するようになり、ベルトとプーリとのスリップ状態を正確に再現できる。これらによって、伝動ベルト駆動系の振動解析の精度をさらに向上させることができる。
【0021】
請求項2の発明では、伝動ベルトの心線を梁要素で、またゴムを平面歪み要素で、さらに帆布をトラス要素でそれぞれモデル化する。このことで、伝動ベルトの構成要素のモデル化を適正に行うことができる。
【0022】
請求項3の発明では、ベルトを円形状にモデル化し、ベルトに正掛け状態で巻き掛けられるプーリは上記ベルトの内側に、また逆掛け状態で巻き掛けられるプーリはベルトの外側にそれぞれ初期配置する。このことで、解析でのベルトの初期剛性を実際のベルトに合わせることができる。
【0023】
請求項4の発明では、上記摩擦係数は、プーリと伝動ベルトとの間の面圧が大きくなるのに伴って小さくなる面圧依存特性を有するものとする。こうすれば、好適な摩擦係数が得られる。
【0024】
請求項5の発明では、プーリ及び伝動ベルト間の接触を剪断剛性及び摩擦力によりモデル化し、プーリを、回転もしくは振動し又は回転しながら振動する弾性体又は剛体としてモデル化する。この場合、上記剪断剛性とは、伝動ベルトにおける心線のプーリとの間の構成要素のモデルの剪断剛性を意味する。そして、プーリ及び伝動ベルト間の接触が剪断剛性及び摩擦力により、またプーリが回転、振動又は回転及び振動を行う弾性体又は剛体としてそれぞれモデル化されるので、振動解析モデルが実際の伝動ベルト駆動系の動作に近くなり、伝動ベルト駆動系の振動の解析を高精度で行うことができる。
【0025】
請求項6の発明では、伝動ベルト駆動系は、伝動ベルトに張力を付与するオートテンショナを備えており、そのオートテンショナを、降伏後も弾塑性を持つ要素としてモデル化する。こうすると、上記振動解析モデルにおけるオートテンショナが弾塑性体でモデル化されるので、そのオートテンショナのモデルが実際のオートテンショナにより近似したものとなり、伝動ベルト駆動系の振動解析をより一層高い精度で正確に行うとができる。
【0026】
請求項7の発明では、伝動ベルト駆動系は、エンジンのクランク軸に設けられたVリブドプーリからなるクランクプーリを駆動プーリとし、補機の軸に設けられたVリブドプーリからなる補機プーリを従動プーリとし、少なくとも上記クランク及び補機プーリ間に巻き掛けられたVリブドベルトからなる補機駆動ベルトを伝動ベルトとするエンジン補機駆動系とする。こうすると、エンジン補機駆動系の振動解析をさらに高い精度で正確に行うことができる。
【0027】
請求項8の発明は伝動ベルト駆動系の設計支援方法であり、この発明では、請求項1〜7のいずれか1つの伝動ベルト駆動系の振動解析方法の解析結果に基づいて伝動ベルト駆動系の設計を支援することを特徴とする。この発明によると、伝動ベルト駆動系の設計を高精度で正確に行うことができる。
【0028】
請求項9の発明は伝動ベルトの摩耗率予測方法であり、この発明では、請求項1〜7のいずれか1つの伝動ベルト駆動系の振動解析方法の解析結果により、その伝動ベルト駆動系の摩擦滑り仕事量を求め、その摩擦滑り仕事量に基づいて伝動ベルトの摩耗率を求めることを特徴とする。この発明によると、伝動ベルト駆動系におけるベルトの摩耗率を高精度で予測することができる。
【発明の効果】
【0029】
以上説明したように、請求項1の発明によれば、少なくとも駆動及び従動プーリからなるプーリと、これらプーリに巻き掛けられた伝動ベルトとを備えた伝動ベルト駆動系の振動を解析するとき、プーリをレイアウトどおりに配置して伝動ベルトを巻き掛け、その巻き掛けられた伝動ベルトを長さ方向に微小区間に節点分割して、節点間を弾性体要素で連結し、かつ上記プーリと伝動ベルトとの間に、両者間の面圧に応じて変化する面圧依存特性を有する摩擦係数を設定し、さらに伝動ベルトの構成要素をモデル化することで伝動ベルトを厚さを有するモデルとした振動解析モデルにより振動解析を行うことにより、伝動ベルトの駆動系の解析を高い精度で正確に行い、ベルトの張力変動や従動側の回転変動等を正確に解析して、振動解析の信頼性の向上や実験工数の削減による開発期間の短縮化を図るとともに、伝動ベルト駆動系におけるプーリとベルトとの間のスリップを良好に再現して予測でき、伝動ベルト駆動系の振動解析精度のより一層の向上を図ることができる。
【0030】
請求項2の発明によると、伝動ベルトの構成要素として、その心線を梁要素で、またゴムを平面歪み要素で、さらに帆布をトラス要素でそれぞれモデル化することにより、伝動ベルトの構成要素のモデル化を適正に行うことができる。
【0031】
請求項3の発明によると、ベルトを円形状にモデル化し、このベルトのベルトの内側に、正掛け状態で巻き掛けられるプーリを、またベルトの外側に逆掛け状態で巻き掛けられるプーリをそれぞれ初期配置することにより、解析でのベルトの初期剛性を実際のベルトに合わせることができる。
【0032】
請求項4の発明によると、摩擦係数は、プーリと伝動ベルトとの間の面圧が大きくなるのに伴って小さくなる面圧依存特性を有するものとしたことにより、好適な摩擦係数が得られる。
【0033】
請求項5の発明によると、プーリ及び伝動ベルト間の接触を剪断剛性及び摩擦力によりモデル化し、プーリを、回転もしくは振動し又は回転しながら振動する弾性体又は剛体としてモデル化することにより、伝動ベルト駆動系の振動の解析を高精度で行うことができる。
【0034】
請求項6の発明によると、伝動ベルト駆動系がオートテンショナを備えている場合に、そのオートテンショナを降伏後も弾塑性を持った要素としてモデル化したことにより、オートテンショナのモデルを実際のオートテンショナにより近似したモデルとでき、伝動ベルト駆動系の振動解析をより一層高い精度で正確に行うとができる。
【0035】
請求項7の発明によれば、伝動ベルト駆動系は、エンジンのクランク軸に設けられたVリブドプーリからなるクランクプーリと、補機の軸に設けられたVリブドプーリからなる補機プーリと、少なくともクランク及び補機プーリ間に巻き掛けられたVリブドベルトからなる補機駆動ベルトとを備えたものとしたことにより、エンジン補機駆動系の振動解析をさらに高い精度で正確に行うことができる。
【0036】
請求項8の発明によれば、上記振動解析方法の解析結果に基づいて伝動ベルト駆動系の設計を支援することにより、伝動ベルト駆動系の実際に即した設計を高精度で正確に行うことができる。
【0037】
請求項9の発明によると、上記振動解析方法の解析により伝動ベルト駆動系の摩擦滑り仕事量を求め、その摩擦滑り仕事量に基づいて伝動ベルトの摩耗率を求めることにより、伝動ベルト駆動系におけるベルトの摩耗率を高精度で予測することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明の最良の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0039】
図4は本発明の実施形態に係る伝動ベルト駆動系としてのエンジン補機駆動系Tを概略的に示し、この補機駆動系Tは、エンジン(全体を図示せず)によってその補機を駆動する。すなわち、エンジン補機駆動系Tは、駆動プーリとしてのクランクプーリ1と、このクランクプーリ1の斜め上方に配置支持された従動プーリとしてのオルタネータプーリ2と、このオルタネータプーリ2の側方にそれよりも少し低い高さ位置に配置支持された第1アイドラプーリ3と、クランクプーリ1及びオルタネータプーリ2の間に配置支持された第2アイドラプーリ4とを備え、これら4つのプーリ1〜4はいずれもVリブドプーリからなり、各々の回転軸心は互いに平行となっている。
【0040】
上記クランクプーリ1は、エンジンのクランク軸5上に回転一体に取り付けられたもので、エンジンの運転に伴い所定の回転変動をもって図で時計回り方向に回転する。上記オルタネータプーリ2は、エンジンに取付固定された補機としてのオルタネータ(図示せず)の入力軸であるオルタネータ軸6に回転一体に取り付けられている。これらプーリ1〜4の間には、伝動ベルトとしての補機駆動ベルト8が正掛け状態(内面掛け状態)にて巻き掛けられており、そのレイアウトはサーペンタインドライブレイアウトとされている。そして、クランクプーリ1の回転に伴い補機駆動ベルト8が図4で時計回り方向に走行(回行)する。
【0041】
上記補機駆動ベルト8は、図1(a)に示すように、心線9が埋め込まれた接着ゴム層10と、この接着ゴム層10の下面(ベルト内周面)に一体に成形されたリブゴム層11と、接着ゴム層10の上面(ベルト外周面)に一体的に接着された帆布12とを有し、リブゴム層11に複数のリブ13,13,…が形成されたVリブドベルトからなる。
【0042】
上記クランクプーリ1と第2アイドラプーリ4との間には、図4で時計回り方向に走行する補機駆動ベルト8の緩み側スパン8aをベルト8の内面側に向かって常時押圧してベルト張力を自動調整する比例減衰乾式オートテンショナ15が設けられている。
【0043】
上記オートテンショナ15は公知のものであり、例えば図6に拡大詳示するように、上記クランク軸5と平行に配置されて例えばエンジンに回転不能に取付固定される先細りテーパ円筒状のスピンドル16を備え、このスピンドル16の基端にはリアカップ部17が一体に形成されている。上記スピンドル16には2重円筒状の回動部材19が先端側から回動可能に外嵌合されている。この回動部材19は、スピンドル16に樹脂製インサートベアリング18を介して外嵌合された内筒部20と、この内筒部20の外側に同心に配置された外筒部21と、内外筒部20,21同士を基端側(スピンドル16先端側)で接続するフランジ部22とが一体形成されたもので、この回動部材19は、スピンドル16先端部にかしめ結合した円板状のフロントプレート23により上記フランジ部22にて抜け止めされて結合され、このフランジ部22とフロントプレート23との間には樹脂製スラストワッシャ24が介在されている。上記回動部材19の外筒部21には半径方向に延びるアーム25が一体に形成され、このアーム25の先端部に、上記クランク軸5と平行な回転軸心の平プーリからなるテンションプーリ26がベアリング27を介して回転可能に支持されており、このテンションプーリ26に上記補機駆動ベルト8の緩み側スパン8aが逆掛け状態(外面掛け状態)にて巻き掛けられる。
【0044】
さらに、上記回動部材19の内筒部20外面には、スピンドル16のリアカップ部17に接触するフランジ部28aを備えた円筒状のスプリングサポート28が外嵌合されている。回動部材19の内外筒部20,21内にはスプリングサポート28の周りに捻りコイルばねからなるスプリング29が配置され、このスプリング29の両端部は、スピンドル16のリアカップ部17と回動部材19の外筒部21基端側とに係合されており、このスプリング29の捻りばね力によりテンションプーリ26を回動部材19及びアーム25と共にスピンドル16回りに一方向(図4で反時計回り方向)に回動付勢して補機駆動ベルト8の緩み側スパン8aを常時押圧する一方、スプリング29のばね力や補機駆動ベルト8からの反力により回動部材19、アーム25及びテンションプーリ26がスピンドル16回りに回動したときに、その回動をインサートベアリング18及びスラストワッシャ24により所定のダンピング率で減衰制動させることにより、ベルト張力を自動調整するようにしている。
【0045】
以上の構成を持つエンジン補機駆動系Tのベルト長手方向の振動解析モデルにより振動解析を行う方法、その解析結果からエンジン補機駆動系Tの設計を支援する方法、及び解析結果から補機駆動ベルト8の摩耗率を求めるについて説明する。
【0046】
図7は上記エンジン補機駆動系Tの振動解析システムを概略的に示し、この解析システムは演算部30を有する。この演算部30には、エンジン特性、補機(オルタネータ)の特性、ベルト8自体の特性、オートテンショナ15の特性及びエンジン補機駆動系Tのレイアウトをそれぞれデータとして入力するようになっている。具体的に、上記エンジン特性のデータとしては、エンジンの気筒数、燃焼行程のサイクル数、回転数及び回転変動又は回転速度の波形が、また補機特性のデータとしては、オルタネータの平均負荷、変動負荷及び慣性が、さらにベルト特性のデータとしては、その引張剛性、剪断剛性、ダンピング及び密度が、さらにまたテンショナ特性のデータとしては、スプリング率、ダンピング率及び慣性がそれぞれ挙げられる。また、レイアウトのデータとしては、プーリの位置、オートテンショナ15の位置及びベルト張力がある。
【0047】
そして、上記演算部30においては、振動解析モデルによりエンジン補機駆動系Tの振動解析を行うとき、クランクプーリ1、オルタネータプーリ2、アイドラプーリ3,4及びオートテンショナ15のテンションプーリ26を上記図4に示す実際のレイアウトどおりに配置して、それらプーリ1〜4,26間に補機駆動ベルト8を巻き掛け、その巻き掛けられた補機駆動ベルト8を長さ方向に微小区間に節点分割して、節点間を弾性体要素で連結した振動解析モデルにより振動解析を行う。
【0048】
そのとき、振動解析モデルの初期配置では、図5に示すように、ベルト8の初期形状を円形状とし、ベルト8に正掛け状態で巻き掛けられるプーリ1〜4はベルト8の内側に、また逆掛け状態で巻き掛けられるテンションプーリ26はベルト8の外側にそれぞれ配置する。そして、各プーリ1〜4,26を所定の位置に移動させることで、所定のレイアウト形状を作成する。
【0049】
また、この振動解析モデルでは、上記各プーリ1〜4,26と補機駆動ベルト8との間の摩擦係数(動摩擦係数)として、両者間の面圧に応じて変化する面圧依存特性を有する摩擦係数を設定する。具体的には、図10に示すように、この摩擦係数の面圧依存特性は、各プーリ1〜4,26と補機駆動ベルト8との間の面圧比が大きくなるのに伴って摩擦係数比が小さくなるもの(各プーリ1〜4,26と補機駆動ベルト8との間の面圧が大きくなるのに伴って摩擦係数が小さくなる)とする。尚、面圧比及び摩擦係数比はいずれも、リブ数が6リブのVリブドベルトを、プーリ径120mmの駆動プーリと、プーリ径120mmの従動プーリとにおのおの巻付け角度180°で巻き付けて掛け渡し、そのベルトの張力を29.4N/リブとしたときを「1」としたものである。
【0050】
そして、上記補機駆動ベルト8の構成要素をモデル化することで、該ベルト8を厚さを有するモデルとする。具体的には、図1(b)に示すように、ベルト8の心線9を梁要素で、また接着ゴム層10及びリブゴム層11を共に平面歪み要素で、さらに帆布12をトラス要素でそれぞれモデル化する。
【0051】
さらに、各プーリ1〜4,26とベルト8との間の接触は剪断剛性(ベルト8において心線9のプーリ1〜4,26との間のゴム層11のモデルである平面歪み要素の剪断剛性)及び摩擦力によりモデル化し、プーリ1〜4,26は、回転もしくは振動し又は回転しながら振動する弾性体又は剛体としてモデル化する。一方、オートテンショナ15は、降伏後も弾塑性を持つ要素としてモデル化する。
【0052】
そして、このような振動解析モデルによる振動解析により例えばベルト8の張力、オルタネータプーリ2の変位、速度及び加速度、ベルト8及び各プーリ1〜4,26間のスリップ、レイアウトの固有振動数、オートテンショナ15の変位、速度、加速度等を出力する。また、このエンジン補機駆動系Tの振動解析方法の解析結果に基づいて同駆動系Tの設計を支援するようになっている。
【0053】
具体的に、図2は上記エンジン補機駆動系Tの振動解析を行うときに用いられる振動解析モデルを示し、この振動解析モデルではベルト8のスパン部分をばねK1〜K5によってモデル化している。また、エンジン補機駆動系Tの中で、ベルト8におけるばねとして置き換えられる箇所として、プーリ1〜4,26に巻き付いている部分のベルト8の心線9とプーリ1〜4,26との間に位置するゴム部分(接着ゴム層10の一部及びリブゴム層11)もばねとして働くので、このプーリ1〜4,26に巻き付いている部分のベルト8の心線9とプーリ1〜4,26との間のゴム部分でのばねK6〜K10を付加している。さらに、振動モデルの内部減衰を表現するための減衰要素C1〜C10と、摩擦を表現するための摩擦要素S1〜S5とを付加し、ベルト8と各プーリ1〜4,26との間で接触を定義して、摩擦力にて駆動するモデルとしている。また、オートテンショナ15についても、ばねK11と摩擦要素S6とを付加しており、これらの摩擦要素S1〜S6に、各プーリ1〜4,26と補機駆動ベルト8との間の面圧が大きくなるのに伴って小さくなる面圧依存特性を有する摩擦係数を設定する。
【0054】
図3は図2の解析モデルをFEM解析モデル(有限要素解析モデル)にしたものである。このFEM解析モデルにおける各部位は表1のとおりであり、その詳細について以下に説明する。
【0055】
【表1】
【0056】
(1)補機駆動ベルト
補機駆動ベルト8については、図1(b)に示すように、心線9を梁要素で、また接着ゴム層10及びリブゴム層11を共に平面歪み要素で、さらに帆布12をトラス要素でそれぞれモデル化している。補機駆動ベルト8は、面内の長手方向で非常に剛性が高く、面外方向には小さい剛性しか示さないので、引張剛性と曲げ剛性とを両立させるために、梁の断面形状を非常に薄いものとしている。尚、梁要素の長さは補機駆動ベルト8の最小プーリ巻付き長さ以下とする。
【0057】
(2)オルタネータプーリ
オルタネータプーリ2(補機プーリ)は、剛体によりモデル化している。オルタネータプーリ2の外径は、補機駆動ベルト8がプーリ1〜4,26に巻き付いた状態での心線9の位置で設定する。
【0058】
(3)補機慣性モーメント
ここでの補機の慣性モーメントは、オルタネータ本体、オルタネータプーリ2及びオルタネータ軸6を含む慣性モーメントを1つの慣性要素で表現したものである。
【0059】
(4)オートテンショナの減衰特性
比例減衰乾式オートテンショナ15は、スプリング29及び摩擦摺動によって図8のような摩擦減衰特性を示す。公称長さの補機駆動ベルト8を補機レイアウトにかけたとき、ベルト張力とテンショナ15の張り力とが釣り合った状態のテンショナ15のアーム25の回転角度を公称角度といい、そのときのテンショナ15がベルト8に与えるトルクを公称トルクAで表す。また、スプリング率はテンショナ15のアーム25の回転角度の増加に伴って、テンショナ15のベルト8ヘの張り力が増加する割合を表す。さらに、ダンピング率は、テンショナ15の減衰量を表すもので、次式により求められる。Bは載荷時及び除荷時のトルクの差である。
【0060】
ダンピング率(%)=(B/2A)×100
オートテンショナ15の減衰特性は、テンショナ15の揺動中心から紙面と垂直な方向に延びる梁要素を設定し、この梁要素に材料特性として図9に示すような降伏後も弾塑性を持った要素を与えてモデル化することにより、図3のようなばね剛性と摩擦減衰とを持った特性を再現している。尚、図9は図8の斜線部分を代用している。
【0061】
(5)摩擦特性
補機駆動ベルト8と各プーリ1〜4,26との間の摩擦係数μは、上記の如く、両者間の面圧が大きくなるのに伴って小さくなる面圧依存特性を有する摩擦係数を用いる。
【0062】
ここで、上記(4)オートテンショナ15の特性について詳述する。オートテンショナ15は、ダンピングを摩擦により加える方式であるので、テンションプーリ26に加わる力と変位との関係は図8に示すように、載荷時に点P1,P2を、また除荷時に点P3,P4をそれぞれ通る。力の方向が変わったときには点P1,P2及び点P3,P4をそれぞれ結ぶ線上の傾斜よりも大きな傾斜の線上を通って上下の線に繋がる運動を行うようになる。前者の点P1,P2及び点P3,P4をそれぞれ結ぶ線上の動きは、オートテンショナ15のアーム25が動いて摩擦部材(インサートベアリング18及びスラストワッシャ24)がスリップ力を発生させている状態であり、後者は摩擦部材が滑らずに他の部材が変形している状態である。
【0063】
このようなテンショナ15のばねの状態をモデル化するのに以下の条件を設ける。
(A) 摩擦部材が滑る際のばね定数をモデル化するのに材料の塑性変形のモデル化を行った移動硬化則を用いる。
(B) 捩りばねからなるスプリング29を表現するのにピボット上に捩り棒を立ててモデル化する。
(C) 点P1,P2及び点P3,P4をそれぞれ結ぶ線上の履程は、塑性状態(Plastic状態)として取り扱い、これら上下の履程を繋ぐ変形を弾性状態(Elastic状態)として取り扱う。
(D) 弾塑性でモデルを定義するだけでは、ベルト8の初張力が零になってしまうので、その初張力に相当するだけの捩り力をアーム25のピボットに外力として加える。
【0064】
このようなモデル化により、オートテンショナ15の減衰特性として、トルク及び捩り角度の履歴が実際のオートテンショナ15に略一致した特性が得られる。
【0065】
また、ベルト8の摩耗率を求める場合、以上の振動解析方法により、そのエンジン補機駆動系Tの摩擦滑り仕事量Wを求め、その摩擦滑り仕事量Wに基づいてベルト8の摩耗率を求める。
【0066】
上記摩擦滑り仕事量Wは式1によって計算される積算値で、ベルト8の摩耗率と比例関係にあり、摩擦滑り仕事量Wを解析によって求めることで、ベルト8の摩耗率が得られる。式1中、τiはi時間でのベルト8及びプーリ1〜4,26間の界面剪断応力、Liはi時間でのベルト8及びプーリ1〜4,26間の相対滑り量、n0は積算開始時間、nは積算終了時間、iは解析刻み時間、n−n0は積算時間である。
【0067】
【数1】
【0068】
したがって、この実施形態においては、エンジン補機駆動系Tの振動解析を行うに当たり、振動解析モデルとして、クランクプーリ1、オルタネータプーリ2及びアイドラプーリ3,4とオートテンショナ15とが実際のレイアウトどおりに配置されてそれらにVリブドベルトからなる補機駆動ベルト8が巻き掛けられ、そのベルト8が長さ方向に微小区間に節点分割されて節点間が弾性体要素で連結されたモデルが用いられるので、その補機駆動ベルト8は各プーリ1〜4,26に接触したり離れたりするものとでき、プーリ1〜4,26の回転及びベルト8の回行を自由に設定することができる。このため、例えばクランクプーリ1の回転特性、従ってエンジンの回転特性を直接に入力するだけでエンジン補機駆動系Tの振動解析が得られる。
【0069】
また、上記振動解析モデルでは、プーリ1〜4,26とベルト8との間の摩擦係数として、一定値ではなく、プーリ1〜4,26とベルト8との間の面圧が大きくなるのに伴って小さくなるように変化する面圧依存特性を有する摩擦係数が用いられるので、エンジン補機駆動系Tにおけるプーリ1〜4,26とベルト8との間のスリップを良好に再現して予測でき、エンジン補機駆動系Tの振動解析の精度をさらに向上させることができる。
【0070】
しかも、上記各プーリ1〜4,26及び補機駆動ベルト8の間の接触は剪断剛性及び摩擦力によりモデル化され、プーリ1〜4,26は回転、振動又は回転及び振動をする弾性体又は剛体としてモデル化されるので、振動解析モデルは実際のエンジン補機駆動系Tの動作に近くなる。
【0071】
さらに、上記振動解析モデルでは、ベルト8の構成要素である心線9を梁要素で、また接着ゴム層10及びリブゴム層11を平面歪み要素で、さらに帆布12をトラス要素でそれぞれモデル化して、ベルト8が厚さを有するモデルとされているので、ベルト8から受ける各プーリ1〜4,26の面圧分布特性が実際のものと近似するようになり、ベルト8とプーリ1〜4,26とのスリップ状態を正確に再現することができる。
【0072】
また、上記振動解析モデルにおけるオートテンショナ15は、降伏後も弾塑性を持った要素でモデル化されているので、そのオートテンショナ15のモデルも実際のオートテンショナ15により近似したものとなる。
【0073】
そして、上記振動解析モデルの初期配置では、図5に示すように、ベルト8の初期形状を円形状とし、ベルト8に正掛け状態で巻き掛けられるプーリ1〜4はベルト8の内側に、また逆掛け状態で巻き掛けられるテンションプーリ26はベルト8の外側にそれぞれ配置し、各プーリ1〜4,26を所定の位置に移動させて所定のレイアウト形状を作成するので、解析でのベルト8の初期剛性を実際のベルト8に合わせることができる。
【0074】
以上のことから、エンジン補機駆動系Tに加わる張力、加速度、速度、変位等がさらに精度よく解析できるようになり、補機駆動ベルト8の駆動系Tの振動解析及び設計を実際に即してさらに高い精度で正確に行って、解析及び設計の信頼性の向上や実験工数の削減による開発期間の短縮化を図ることができる。
【0075】
また、上記の振動解析方法により、エンジン補機駆動系Tの摩擦滑り仕事量Wを求め、その摩擦滑り仕事量Wに基づいてベルト8の摩耗率を求めるので、ベルト8の摩耗率を容易に予測することができる。
【0076】
尚、上記実施形態では、オルタネータを補機としているが、その他、自動車のパワーステアリング装置用ポンプ、エアコン用コンプレッサ、ウォータポンプ、オイルポンプ等を補機としてもよい。
【0077】
また、上記実施形態では、オートテンショナ15を備えたエンジン補機駆動系Tについて説明しているが、本発明は、オートテンショナ15が具備されていないエンジン補機駆動系や、上記実施形態の如きエンジン補機駆動系T以外の伝動ベルト駆動系に対しても適用できるのは勿論である。
【実施例】
【0078】
次に、具体的に実施した実施例について説明する。
【0079】
(伝動能力試験)
プーリとベルトとの間の摩擦係数の面圧依存特性について試験するために、図11に示す伝動能力試験装置を用意した。図11中、31はVリブドプーリからなる駆動プーリ、32は同様の従動プーリで、両プーリ31,32間にはVリブドベルト33が正掛け状態(内面掛け状態)で巻き掛けられている。両プーリ31,32間に位置するベルト33の一方(図で上側)のスパン側には両プーリ31,32と平行な軸を持つ1対の固定アイドラプーリ34,35が配置され、これらのアイドラプーリ34,35間を通ってベルト33のスパンが各アイドラプーリ34,35に対し逆掛け状態(外面掛け状態)で巻き掛けられた状態で引き出されている。このベルト33の引出し部分には荷重用アイドラプーリ36が正掛け状態(内面掛け状態)で巻き掛けられ、この荷重用アイドラプーリ36はベルトスパンの引出し方向に沿って移動可能で該引出し方向に可変の静荷重DWで付勢されている。
【0080】
また、従動プーリ32と該従動プーリ32側の固定アイドラプーリ35との間には巻付角変更用プーリ37が従動プーリ32の軸心周りを移動可能に配置され、この巻付角変更用プーリ37に上記ベルト33が正掛け(内面掛け)で巻き付けられており、この巻付角変更用プーリ37の位置を従動プーリの周りで(I)〜(IV)に変えることで、従動プーリ32に対するベルト33の巻付け角度を45°,90°,135°,180°に変更するようにしている。
【0081】
そして、駆動プーリ31及び従動プーリ32を図11で時計回り方向に回転させてベルト33を他のプーリ34〜37との間で走行させるとともに、その従動プーリ32に負荷(トルク)をかけ、荷重用アイドラプーリ36に対する静荷重DWを変えてベルト張力を29.4〜98N/リブとなるように変更することで従動プーリ32とベルト33との面圧を変え、従動プーリ32の回転負荷を測定して摩擦係数を求めた。尚、従動プーリ32のプーリ径は50〜120mmの範囲で変更した。また、この場合も、面圧比及び摩擦係数比はいずれも、リブ数が6リブのVリブドベルトを、プーリ径120mmの駆動プーリと、プーリ径120mmの従動プーリとにおのおの巻付け角度180°で巻き付けて掛け渡し、そのベルトの張力を29.4N/リブとしたときを「1」としたものである。
【0082】
一方、解析による摩擦係数として、上記伝動能力試験での5%スリップ状態を基準とし、そのスリップ状態を再現できる負荷に対応する摩擦係数を求めた。この摩擦係数比とそのときの面圧比との関係を、標準条件のときの面圧及び摩擦係数をそれぞれ「1」とした比で表すと、図13に示すようになり、面圧比に対して相関性の高い摩擦係数比の設定を行い得ることが判る。
【0083】
これら試験及び解析の結果から、面圧と摩擦係数との間で相関の高い近似式が得られ、この近似式は図10に示すように、面圧の上昇と共に摩擦係数が低下する関係になる。
【0084】
さらに、図12は、図10に示すように上記従動プーリ32とベルト33との摩擦係数に面圧依存特性を持たせた本発明の実施例について、上記図11に示す伝動能力試験装置を用いて伝動能力を解析した結果を実験例と共に示したものであり、図12(a)は従動プーリ32のプーリ径が50mmの場合を、また図12(b)は同プーリ径が120mmの場合をそれぞれ示している。いずれの場合も、従動プーリ32へのベルト巻付け角度は18°であり、ベルト張力は3kgf/リブである。
【0085】
この図12の結果を見ると、図10に示す如き面圧依存性を有する摩擦係数を振動解析モデルに加えて解析することにより、プーリ径の大小に拘わらず、より実験値と合致した解析結果が得られる。よって、本発明の方法により、計算時間を増大させることなく、伝動ベルト駆動系の設計精度を向上させ、延いては開発期間を短縮できることが判る。
【0086】
また、上記図4に示すエンジン補機駆動系Tについて、本発明の実施形態に係る解析モデルにより解析した結果を図14〜図16に示す。併せて、従来の解析モデルにより解析した結果を図19〜図21に示す。図14は図19に対応し、オルタネータが発電電流0Aの無負荷状態の場合を示す。また、図15は図20に対応し、オルタネータが発電電流40Aの中負荷状態の場合を示す。さらに、図16は図21に対応し、オルタネータが発電電流70Aの高負荷状態の場合を示す。各図(a)はクランクプーリ1の回転数の、また各図(b)はアイドラプーリ3の回転数の、さらに各図(c)はオルタネータプーリ2の回転数のそれぞれ時間的変化を示している。また、各図(d)はベルト8の張り側スパンのベルト張力の、また各図(e)は緩み側スパン8aのベルト張力のそれぞれ時間的変化を示している。さらに、各図(f)はオートテンショナ15(テンションプーリ26)の変位量の時間的変化を示している。いずれの図においても実線は解析値を、また破線は実験値をそれぞれ示す。
【0087】
この図14〜図16をそれぞれ図19〜図21と対比すると、オルタネータの負荷がいずれの負荷状態にあっても解析精度が向上している。すなわち、本発明のように、ベルト8のモデルに厚さを持たせることで、ベルト8から受けるプーリ1〜4,26の面圧分布が実際のものと近くなり、ベルト8とプーリ1〜4,26とのスリップ状態を正確に再現できている。
【0088】
(摩耗試験)
摩擦滑り仕事量Wとベルトの摩耗率との関係について試験するために、図17に示す摩耗試験装置を用意した。この摩耗試験装置は、Vリブドプーリからなる駆動及び従動プーリ40,41と、Vリブドプーリからなる第1アイドラプーリ42と、平プーリからなる第2アイドラプーリ43と、これらプーリ40〜43の間に巻き掛けられたVリブドベルト44とを備えた伝動ベルト駆動系であり、第1アイドラプーリ42は駆動及び従動プーリ40,41間のベルト44の緩み側スパン44aに正掛け状態で、また第2アイドラプーリ43は駆動及び従動プーリ40,41間のベルト44の張り側スパン44bに逆掛け状態でそれぞれ巻き掛けられている。また、第1アイドラプーリ42は第2アイドラプーリ43から離れる方向に移動可能であり、この第1アイドラプーリ42に第2アイドラプーリ43から離れる方向の静荷重DWをかけることにより、ベルト44に所定の張力を付与する。
【0089】
そして、従動プーリ41に図で時計回り方向の回転の負荷(トルク)をかけながら、駆動プーリ40を図で反時計回り方向に回転させてベルト44を走行させ、表2に示すように、第1アイドラプーリ42に対するデッドウェイトDWと従動プーリ41に対する負荷とをそれぞれ変える条件の変更を行ってベルト44の摩耗率を求めた。
【0090】
【表2】
【0091】
一方、上記伝動ベルト駆動系のモデルを解析して上記条件毎に摩擦滑り仕事量W(式1参照)を計算した。そして、積算時間n−n0を0.2秒としたときの上記摩擦滑り仕事量Wと上記ベルト44の摩耗率との関係を示したものが図18である。この図18によれば、解析による摩擦滑り仕事量Wとベルト44の摩耗率とが高い相関性を有し、摩擦滑り仕事量Wを用いることで、ベルト44の摩耗率を精度良く予測することができる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、伝動ベルト駆動系の振動を解析する場合に、ベルトから受けるプーリの面圧分布を実際のものと近くしてベルトとプーリとのスリップ状態を正確に再現できるので、極めて有用であり、産業上の利用可能性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係るエンジン補機駆動系におけるベルトのモデルを説明するための図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態に係るエンジン補機駆動系の振動解析モデルを示す図である。
【図3】図3は、エンジン補機駆動系の有限要素解析モデルを示す図である。
【図4】図4は、エンジン補機駆動系を示す概略図である。
【図5】図5は、ベルト及びプーリの初期配置を示す図である。
【図6】図6は、オートテンショナの拡大断面図である。
【図7】図7は、エンジン補機駆動系の振動解析システムの構成を示す図である。
【図8】図8は、オートテンショナのダンピング特性を示す図である。
【図9】図9は、オートテンショナの摩擦板スリップ力をモデル化するときの計算例で用いるための図である。
【図10】図10は、摩擦係数の面圧依存特性を示す図である。
【図11】図11は、摩擦係数の面圧依存特性を試験するための伝動能力試験装置を示す図である。
【図12】図12は、面圧依存特性を持つ摩擦係数を用いたときの解析結果を示す図である。
【図13】図13は、面圧依存特性を持つ摩擦係数の解析値を示す図である。
【図14】図14は、オルタネータの無負荷状態での本発明の解析結果を実験値と共に示す図である。
【図15】図15は、オルタネータの中負荷状態での本発明の解析結果を実験値と共に示す図である。
【図16】図16は、オルタネータの高負荷状態での本発明の解析結果を実験値と共に示す図である。
【図17】図17は、ベルトの摩耗率について試験するための摩耗試験装置を示す図である。
【図18】図18は、摩擦滑り仕事量と摩耗率との関係のデータを示す図である。
【図19】図19は、従来の解析結果を示す図14相当図である。
【図20】図20は、従来の解析結果を示す図15相当図である。
【図21】図21は、従来の解析結果を示す図16相当図である。
【符号の説明】
【0094】
T エンジン補機駆動系(伝動ベルト駆動系)
1 クランクプーリ(駆動プーリ)
2 オルタネータプーリ(従動プーリ)
3 第1アイドラプーリ
4 第2アイドラプーリ
5 クランク軸
6 オルタネータ軸
8 補機駆動ベルト(伝動ベルト)
9 心線
10 接着ゴム層(ゴム層)
11 リブゴム層(ゴム層)
12 帆布
13 リブ
15 オートテンショナ
25 アーム
26 テンションプーリ
30 演算部
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転変動やトルク変動が加わったときの伝動ベルト駆動系の振動を解析する方法及び設計を支援する方法、並びに伝動ベルトの摩耗率を予測する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、伝動ベルトを用いて動力伝達を行う駆動系を設計する場合においては、負荷、ベルト張力、プーリ回転数、ベルト速度、プーリ径、プーリレイアウト等を考慮して、伝動ベルトが短寿命にならないようにする工夫が行われる。その工夫とは、例えばベルトレイアウト、プーリ径、ベルト種類の変更、或いはベルト幅やベルト本数の変更等が挙げられる。
【0003】
中でも、自動車等に用いられるエンジン用の補機(エアコン用コンプレッサ、パワーステアリング用オイルポンプ、冷却水用ウォータポンプ、発電用オルタネータ、エンジン潤滑用オイルポンプ等)を駆動するエンジン補機駆動系や、カムシャフトを駆動するタイミングベルトを用いたカムシャフトベルト駆動系では、エンジンのクランク軸を駆動源としているため、エンジンの間欠的な燃焼に起因して、エンジン点火周期に応じた回転変動が生じたり、クランク軸の捩り振動や各プーリでのトルク変動が生じたりする。特に、ディーゼルエンジンや直噴エンジンといったクランク軸の回転変動が大きいエンジンにおいては、補機駆動ベルトが大きな回転変動を受けながらオルタネータやウォータポンプ等の補機を駆動している。この回転変動やトルク変動によって、補機駆動ベルトは回転しながらベルト長手方向に繰り返して振動を受けることになり、この繰返し刺激により、ベルトの最大張力が増大して短寿命化を招き、或いはベルト張力の低下により補機プーリと補機駆動ベルトとの間で滑りが生じてその役割を果たさなくなり、ベルトスリップの増大によるスリップ音発生、或いはスリップによる発熱や短寿命化等の問題が生じる。
【0004】
また、上記補機駆動ベルトの張力を保持するためにテンショナが用いられているが、補機のレイアウトやエンジンの特性によりベルトに作用する系が異なるので、正確に設計することが難しく、多くの検証実験を必要としている。
【0005】
これらの問題に対し、ベルト異音の発生原因となるスリップ率を検出する方法として、伝動ベルト駆動系全体を振動モデル化し、固有値解析によりモーダルパラメータを算出し、これを用いて変動張力計算を行い、静的張力計算結果と併せて合成張力計算を行う方法が知られている。
【0006】
しかし、この従来の方法では、変動張力が大きくなって、合成張力が零以下になったときに、伝動ベルトは圧縮荷重を支えるように計算されてしまう。
【0007】
一般に、伝動ベルトは、その心線にワイヤ、撚糸(コード)、布、フィルム等を用いているため、引張り荷重を保持することはできても圧縮荷重を保持することはできない。つまり、伝動ベルトは曲げ剛性が小さいために、圧縮荷重を加えると容易に座屈してしまい、圧縮荷重については殆ど保持することができない。
【0008】
以上のことから、実際の現象では、伝動ベルトは圧縮荷重を保持できないにも拘らず、計算上では圧縮荷重が加わるという差異が生じる問題がある。このため、上記従来のベルト張力の計算では、ベルト張力が零になった状態では、伝動ベルト駆動系に加わる力が実際に近い状態にはならず、計算結果と実測値とで差異が生じることになり、ベルトの張力変動等を正確に判断することはできない。
【0009】
そこで、ベルトスパン部分のばねを計算の途中で変更する構成とし、ベルトスパン部分のばね要素に加わる歪が引張り歪である場合には、ベルトスパン部分のばね定数がばね要素の値として計算を行う一方、ベルトスパン部分のばね要素に加わる歪が圧縮歪である場合には、ベルトスパン部分のばね定数をベルトスパン部分のばね定数よりも低い値か、もしくは零にしてしまい、又は圧縮歪が生じたときだけそのばね要素を取り除いてしまった状態で計算を行うことが知られている。
【0010】
また、この他、特許文献1に示されるように、伝動ベルト駆動系の振動を解析する際、プーリをレイアウトどおりに配置して伝動ベルトを巻き掛け、その巻き掛けられた伝動ベルトを長さ方向に微小区間に節点分割して、節点間を弾性体要素又は剛性要素で連結した振動解析モデルにより振動解析を行うことにより、伝動ベルトがプーリに接離するようにモデル化して、プーリの回転及びベルトの回行を自由に設定できるようにし、伝動ベルトの駆動系の解析をさらに高い精度で正確に行い、ベルトの張力変動や従動側の回転変動等を正確に解析することも知られている。
【0011】
このものでは、プーリ及びベルト間の動力伝達を摩擦伝動することで、実際に近い状態で解析できるが、摩擦伝動による解析であるにも拘わらず、プーリ及びベルト間のスリップ特性については十分な解析精度を確保しているとは言い難い。
【0012】
具体的には、プーリ回転数やベルト張力について設計に要する精度が必要であり、解析に要する計算時間を短縮すること等を考慮し、解析モデルでは、ベルトを梁でモデル化し、プーリとベルトとの間の摩擦係数を一定としているため、伝動ベルトが例えばリブ部により使用形態で変化するVリブドベルトであったとしても、その伝動状態が考慮されておらず、スリップ現象を十分に再現することができない。
【0013】
さらに、特許文献2に示されるように、伝動ベルト駆動系の振動解析モデルにおけるプーリとベルトとの間の摩擦係数として、面圧依存特性を持つものを用いることが提案されている。
【特許文献1】特開2001−311456号公報
【特許文献2】特開2004−093490号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところが、上記提案のものでは、計算条件によっては、期待する解析精度を十分に得ることが困難である(図19〜図21参照)。さらには、ベルトの摩耗のように、プーリとベルトとの滑り挙動の再現がより一層重要となる解析を行うには不十分であり、さらに改良する余地があった。
【0015】
本発明は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、伝動ベルト駆動系の振動解析モデルに改良を加えることで、伝動ベルト駆動系の振動解析の精度をさらに向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するために、この発明では、伝動ベルト駆動系の振動解析モデルにおける伝動ベルトを厚さを持ったモデルとするようにした。
【0017】
具体的には、請求項1の発明では、少なくとも駆動及び従動プーリからなるプーリと、これらプーリに巻き掛けられた伝動ベルトとを備えた伝動ベルト駆動系の振動を解析する方法が対象である。
【0018】
そして、上記プーリをレイアウトどおりに配置して伝動ベルトを巻き掛け、その巻き掛けられた長さ方向に微小区間に節点分割して、節点間を弾性体要素で連結し、かつ上記プーリと伝動ベルトとの間に両者間の面圧に応じて変化する面圧依存特性を有する摩擦係数を設定し、さらに上記伝動ベルトの構成要素をモデル化することで伝動ベルトを厚さを有するモデルとした振動解析モデルにより振動解析を行うことを特徴とする。
【0019】
上記の構成によると、伝動ベルト駆動系の振動解析を行うに当たり、プーリがレイアウトどおりに配置されて伝動ベルトが巻き掛けられ、その巻き掛けられた伝動ベルトが長さ方向に微小区間に節点分割されて節点間が弾性体要素で連結された振動解析モデルが用いられるので、ベルトがプーリに接触したり離れたりするものとでき、プーリの回転及びベルトの回行を自由に設定することができ、例えば駆動プーリの回転特性を直接に入力するだけで伝動ベルト駆動系の振動解析が得られる。従って、伝動ベルト駆動系に加わる張力、加速度、速度、変位等がさらに精度よく解析できるようになり、伝動ベルト駆動系の振動解析を実際に即してさらに高い精度で正確に行うことができる。
【0020】
しかも、上記振動解析モデルでは、プーリと伝動ベルトとの間の摩擦係数として、一定値ではなく、両者間の面圧に応じて変化する面圧依存特性を有する摩擦係数が用いられるので、伝動ベルト駆動系におけるプーリとベルトとの間のスリップを良好に再現して予測できる。しかも、振動解析モデルでは、伝動ベルトがその構成要素のモデル化によって厚さを有するモデルであるので、伝動ベルトから受けるプーリの面圧分布特性が実際のものと近似するようになり、ベルトとプーリとのスリップ状態を正確に再現できる。これらによって、伝動ベルト駆動系の振動解析の精度をさらに向上させることができる。
【0021】
請求項2の発明では、伝動ベルトの心線を梁要素で、またゴムを平面歪み要素で、さらに帆布をトラス要素でそれぞれモデル化する。このことで、伝動ベルトの構成要素のモデル化を適正に行うことができる。
【0022】
請求項3の発明では、ベルトを円形状にモデル化し、ベルトに正掛け状態で巻き掛けられるプーリは上記ベルトの内側に、また逆掛け状態で巻き掛けられるプーリはベルトの外側にそれぞれ初期配置する。このことで、解析でのベルトの初期剛性を実際のベルトに合わせることができる。
【0023】
請求項4の発明では、上記摩擦係数は、プーリと伝動ベルトとの間の面圧が大きくなるのに伴って小さくなる面圧依存特性を有するものとする。こうすれば、好適な摩擦係数が得られる。
【0024】
請求項5の発明では、プーリ及び伝動ベルト間の接触を剪断剛性及び摩擦力によりモデル化し、プーリを、回転もしくは振動し又は回転しながら振動する弾性体又は剛体としてモデル化する。この場合、上記剪断剛性とは、伝動ベルトにおける心線のプーリとの間の構成要素のモデルの剪断剛性を意味する。そして、プーリ及び伝動ベルト間の接触が剪断剛性及び摩擦力により、またプーリが回転、振動又は回転及び振動を行う弾性体又は剛体としてそれぞれモデル化されるので、振動解析モデルが実際の伝動ベルト駆動系の動作に近くなり、伝動ベルト駆動系の振動の解析を高精度で行うことができる。
【0025】
請求項6の発明では、伝動ベルト駆動系は、伝動ベルトに張力を付与するオートテンショナを備えており、そのオートテンショナを、降伏後も弾塑性を持つ要素としてモデル化する。こうすると、上記振動解析モデルにおけるオートテンショナが弾塑性体でモデル化されるので、そのオートテンショナのモデルが実際のオートテンショナにより近似したものとなり、伝動ベルト駆動系の振動解析をより一層高い精度で正確に行うとができる。
【0026】
請求項7の発明では、伝動ベルト駆動系は、エンジンのクランク軸に設けられたVリブドプーリからなるクランクプーリを駆動プーリとし、補機の軸に設けられたVリブドプーリからなる補機プーリを従動プーリとし、少なくとも上記クランク及び補機プーリ間に巻き掛けられたVリブドベルトからなる補機駆動ベルトを伝動ベルトとするエンジン補機駆動系とする。こうすると、エンジン補機駆動系の振動解析をさらに高い精度で正確に行うことができる。
【0027】
請求項8の発明は伝動ベルト駆動系の設計支援方法であり、この発明では、請求項1〜7のいずれか1つの伝動ベルト駆動系の振動解析方法の解析結果に基づいて伝動ベルト駆動系の設計を支援することを特徴とする。この発明によると、伝動ベルト駆動系の設計を高精度で正確に行うことができる。
【0028】
請求項9の発明は伝動ベルトの摩耗率予測方法であり、この発明では、請求項1〜7のいずれか1つの伝動ベルト駆動系の振動解析方法の解析結果により、その伝動ベルト駆動系の摩擦滑り仕事量を求め、その摩擦滑り仕事量に基づいて伝動ベルトの摩耗率を求めることを特徴とする。この発明によると、伝動ベルト駆動系におけるベルトの摩耗率を高精度で予測することができる。
【発明の効果】
【0029】
以上説明したように、請求項1の発明によれば、少なくとも駆動及び従動プーリからなるプーリと、これらプーリに巻き掛けられた伝動ベルトとを備えた伝動ベルト駆動系の振動を解析するとき、プーリをレイアウトどおりに配置して伝動ベルトを巻き掛け、その巻き掛けられた伝動ベルトを長さ方向に微小区間に節点分割して、節点間を弾性体要素で連結し、かつ上記プーリと伝動ベルトとの間に、両者間の面圧に応じて変化する面圧依存特性を有する摩擦係数を設定し、さらに伝動ベルトの構成要素をモデル化することで伝動ベルトを厚さを有するモデルとした振動解析モデルにより振動解析を行うことにより、伝動ベルトの駆動系の解析を高い精度で正確に行い、ベルトの張力変動や従動側の回転変動等を正確に解析して、振動解析の信頼性の向上や実験工数の削減による開発期間の短縮化を図るとともに、伝動ベルト駆動系におけるプーリとベルトとの間のスリップを良好に再現して予測でき、伝動ベルト駆動系の振動解析精度のより一層の向上を図ることができる。
【0030】
請求項2の発明によると、伝動ベルトの構成要素として、その心線を梁要素で、またゴムを平面歪み要素で、さらに帆布をトラス要素でそれぞれモデル化することにより、伝動ベルトの構成要素のモデル化を適正に行うことができる。
【0031】
請求項3の発明によると、ベルトを円形状にモデル化し、このベルトのベルトの内側に、正掛け状態で巻き掛けられるプーリを、またベルトの外側に逆掛け状態で巻き掛けられるプーリをそれぞれ初期配置することにより、解析でのベルトの初期剛性を実際のベルトに合わせることができる。
【0032】
請求項4の発明によると、摩擦係数は、プーリと伝動ベルトとの間の面圧が大きくなるのに伴って小さくなる面圧依存特性を有するものとしたことにより、好適な摩擦係数が得られる。
【0033】
請求項5の発明によると、プーリ及び伝動ベルト間の接触を剪断剛性及び摩擦力によりモデル化し、プーリを、回転もしくは振動し又は回転しながら振動する弾性体又は剛体としてモデル化することにより、伝動ベルト駆動系の振動の解析を高精度で行うことができる。
【0034】
請求項6の発明によると、伝動ベルト駆動系がオートテンショナを備えている場合に、そのオートテンショナを降伏後も弾塑性を持った要素としてモデル化したことにより、オートテンショナのモデルを実際のオートテンショナにより近似したモデルとでき、伝動ベルト駆動系の振動解析をより一層高い精度で正確に行うとができる。
【0035】
請求項7の発明によれば、伝動ベルト駆動系は、エンジンのクランク軸に設けられたVリブドプーリからなるクランクプーリと、補機の軸に設けられたVリブドプーリからなる補機プーリと、少なくともクランク及び補機プーリ間に巻き掛けられたVリブドベルトからなる補機駆動ベルトとを備えたものとしたことにより、エンジン補機駆動系の振動解析をさらに高い精度で正確に行うことができる。
【0036】
請求項8の発明によれば、上記振動解析方法の解析結果に基づいて伝動ベルト駆動系の設計を支援することにより、伝動ベルト駆動系の実際に即した設計を高精度で正確に行うことができる。
【0037】
請求項9の発明によると、上記振動解析方法の解析により伝動ベルト駆動系の摩擦滑り仕事量を求め、その摩擦滑り仕事量に基づいて伝動ベルトの摩耗率を求めることにより、伝動ベルト駆動系におけるベルトの摩耗率を高精度で予測することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明の最良の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0039】
図4は本発明の実施形態に係る伝動ベルト駆動系としてのエンジン補機駆動系Tを概略的に示し、この補機駆動系Tは、エンジン(全体を図示せず)によってその補機を駆動する。すなわち、エンジン補機駆動系Tは、駆動プーリとしてのクランクプーリ1と、このクランクプーリ1の斜め上方に配置支持された従動プーリとしてのオルタネータプーリ2と、このオルタネータプーリ2の側方にそれよりも少し低い高さ位置に配置支持された第1アイドラプーリ3と、クランクプーリ1及びオルタネータプーリ2の間に配置支持された第2アイドラプーリ4とを備え、これら4つのプーリ1〜4はいずれもVリブドプーリからなり、各々の回転軸心は互いに平行となっている。
【0040】
上記クランクプーリ1は、エンジンのクランク軸5上に回転一体に取り付けられたもので、エンジンの運転に伴い所定の回転変動をもって図で時計回り方向に回転する。上記オルタネータプーリ2は、エンジンに取付固定された補機としてのオルタネータ(図示せず)の入力軸であるオルタネータ軸6に回転一体に取り付けられている。これらプーリ1〜4の間には、伝動ベルトとしての補機駆動ベルト8が正掛け状態(内面掛け状態)にて巻き掛けられており、そのレイアウトはサーペンタインドライブレイアウトとされている。そして、クランクプーリ1の回転に伴い補機駆動ベルト8が図4で時計回り方向に走行(回行)する。
【0041】
上記補機駆動ベルト8は、図1(a)に示すように、心線9が埋め込まれた接着ゴム層10と、この接着ゴム層10の下面(ベルト内周面)に一体に成形されたリブゴム層11と、接着ゴム層10の上面(ベルト外周面)に一体的に接着された帆布12とを有し、リブゴム層11に複数のリブ13,13,…が形成されたVリブドベルトからなる。
【0042】
上記クランクプーリ1と第2アイドラプーリ4との間には、図4で時計回り方向に走行する補機駆動ベルト8の緩み側スパン8aをベルト8の内面側に向かって常時押圧してベルト張力を自動調整する比例減衰乾式オートテンショナ15が設けられている。
【0043】
上記オートテンショナ15は公知のものであり、例えば図6に拡大詳示するように、上記クランク軸5と平行に配置されて例えばエンジンに回転不能に取付固定される先細りテーパ円筒状のスピンドル16を備え、このスピンドル16の基端にはリアカップ部17が一体に形成されている。上記スピンドル16には2重円筒状の回動部材19が先端側から回動可能に外嵌合されている。この回動部材19は、スピンドル16に樹脂製インサートベアリング18を介して外嵌合された内筒部20と、この内筒部20の外側に同心に配置された外筒部21と、内外筒部20,21同士を基端側(スピンドル16先端側)で接続するフランジ部22とが一体形成されたもので、この回動部材19は、スピンドル16先端部にかしめ結合した円板状のフロントプレート23により上記フランジ部22にて抜け止めされて結合され、このフランジ部22とフロントプレート23との間には樹脂製スラストワッシャ24が介在されている。上記回動部材19の外筒部21には半径方向に延びるアーム25が一体に形成され、このアーム25の先端部に、上記クランク軸5と平行な回転軸心の平プーリからなるテンションプーリ26がベアリング27を介して回転可能に支持されており、このテンションプーリ26に上記補機駆動ベルト8の緩み側スパン8aが逆掛け状態(外面掛け状態)にて巻き掛けられる。
【0044】
さらに、上記回動部材19の内筒部20外面には、スピンドル16のリアカップ部17に接触するフランジ部28aを備えた円筒状のスプリングサポート28が外嵌合されている。回動部材19の内外筒部20,21内にはスプリングサポート28の周りに捻りコイルばねからなるスプリング29が配置され、このスプリング29の両端部は、スピンドル16のリアカップ部17と回動部材19の外筒部21基端側とに係合されており、このスプリング29の捻りばね力によりテンションプーリ26を回動部材19及びアーム25と共にスピンドル16回りに一方向(図4で反時計回り方向)に回動付勢して補機駆動ベルト8の緩み側スパン8aを常時押圧する一方、スプリング29のばね力や補機駆動ベルト8からの反力により回動部材19、アーム25及びテンションプーリ26がスピンドル16回りに回動したときに、その回動をインサートベアリング18及びスラストワッシャ24により所定のダンピング率で減衰制動させることにより、ベルト張力を自動調整するようにしている。
【0045】
以上の構成を持つエンジン補機駆動系Tのベルト長手方向の振動解析モデルにより振動解析を行う方法、その解析結果からエンジン補機駆動系Tの設計を支援する方法、及び解析結果から補機駆動ベルト8の摩耗率を求めるについて説明する。
【0046】
図7は上記エンジン補機駆動系Tの振動解析システムを概略的に示し、この解析システムは演算部30を有する。この演算部30には、エンジン特性、補機(オルタネータ)の特性、ベルト8自体の特性、オートテンショナ15の特性及びエンジン補機駆動系Tのレイアウトをそれぞれデータとして入力するようになっている。具体的に、上記エンジン特性のデータとしては、エンジンの気筒数、燃焼行程のサイクル数、回転数及び回転変動又は回転速度の波形が、また補機特性のデータとしては、オルタネータの平均負荷、変動負荷及び慣性が、さらにベルト特性のデータとしては、その引張剛性、剪断剛性、ダンピング及び密度が、さらにまたテンショナ特性のデータとしては、スプリング率、ダンピング率及び慣性がそれぞれ挙げられる。また、レイアウトのデータとしては、プーリの位置、オートテンショナ15の位置及びベルト張力がある。
【0047】
そして、上記演算部30においては、振動解析モデルによりエンジン補機駆動系Tの振動解析を行うとき、クランクプーリ1、オルタネータプーリ2、アイドラプーリ3,4及びオートテンショナ15のテンションプーリ26を上記図4に示す実際のレイアウトどおりに配置して、それらプーリ1〜4,26間に補機駆動ベルト8を巻き掛け、その巻き掛けられた補機駆動ベルト8を長さ方向に微小区間に節点分割して、節点間を弾性体要素で連結した振動解析モデルにより振動解析を行う。
【0048】
そのとき、振動解析モデルの初期配置では、図5に示すように、ベルト8の初期形状を円形状とし、ベルト8に正掛け状態で巻き掛けられるプーリ1〜4はベルト8の内側に、また逆掛け状態で巻き掛けられるテンションプーリ26はベルト8の外側にそれぞれ配置する。そして、各プーリ1〜4,26を所定の位置に移動させることで、所定のレイアウト形状を作成する。
【0049】
また、この振動解析モデルでは、上記各プーリ1〜4,26と補機駆動ベルト8との間の摩擦係数(動摩擦係数)として、両者間の面圧に応じて変化する面圧依存特性を有する摩擦係数を設定する。具体的には、図10に示すように、この摩擦係数の面圧依存特性は、各プーリ1〜4,26と補機駆動ベルト8との間の面圧比が大きくなるのに伴って摩擦係数比が小さくなるもの(各プーリ1〜4,26と補機駆動ベルト8との間の面圧が大きくなるのに伴って摩擦係数が小さくなる)とする。尚、面圧比及び摩擦係数比はいずれも、リブ数が6リブのVリブドベルトを、プーリ径120mmの駆動プーリと、プーリ径120mmの従動プーリとにおのおの巻付け角度180°で巻き付けて掛け渡し、そのベルトの張力を29.4N/リブとしたときを「1」としたものである。
【0050】
そして、上記補機駆動ベルト8の構成要素をモデル化することで、該ベルト8を厚さを有するモデルとする。具体的には、図1(b)に示すように、ベルト8の心線9を梁要素で、また接着ゴム層10及びリブゴム層11を共に平面歪み要素で、さらに帆布12をトラス要素でそれぞれモデル化する。
【0051】
さらに、各プーリ1〜4,26とベルト8との間の接触は剪断剛性(ベルト8において心線9のプーリ1〜4,26との間のゴム層11のモデルである平面歪み要素の剪断剛性)及び摩擦力によりモデル化し、プーリ1〜4,26は、回転もしくは振動し又は回転しながら振動する弾性体又は剛体としてモデル化する。一方、オートテンショナ15は、降伏後も弾塑性を持つ要素としてモデル化する。
【0052】
そして、このような振動解析モデルによる振動解析により例えばベルト8の張力、オルタネータプーリ2の変位、速度及び加速度、ベルト8及び各プーリ1〜4,26間のスリップ、レイアウトの固有振動数、オートテンショナ15の変位、速度、加速度等を出力する。また、このエンジン補機駆動系Tの振動解析方法の解析結果に基づいて同駆動系Tの設計を支援するようになっている。
【0053】
具体的に、図2は上記エンジン補機駆動系Tの振動解析を行うときに用いられる振動解析モデルを示し、この振動解析モデルではベルト8のスパン部分をばねK1〜K5によってモデル化している。また、エンジン補機駆動系Tの中で、ベルト8におけるばねとして置き換えられる箇所として、プーリ1〜4,26に巻き付いている部分のベルト8の心線9とプーリ1〜4,26との間に位置するゴム部分(接着ゴム層10の一部及びリブゴム層11)もばねとして働くので、このプーリ1〜4,26に巻き付いている部分のベルト8の心線9とプーリ1〜4,26との間のゴム部分でのばねK6〜K10を付加している。さらに、振動モデルの内部減衰を表現するための減衰要素C1〜C10と、摩擦を表現するための摩擦要素S1〜S5とを付加し、ベルト8と各プーリ1〜4,26との間で接触を定義して、摩擦力にて駆動するモデルとしている。また、オートテンショナ15についても、ばねK11と摩擦要素S6とを付加しており、これらの摩擦要素S1〜S6に、各プーリ1〜4,26と補機駆動ベルト8との間の面圧が大きくなるのに伴って小さくなる面圧依存特性を有する摩擦係数を設定する。
【0054】
図3は図2の解析モデルをFEM解析モデル(有限要素解析モデル)にしたものである。このFEM解析モデルにおける各部位は表1のとおりであり、その詳細について以下に説明する。
【0055】
【表1】
【0056】
(1)補機駆動ベルト
補機駆動ベルト8については、図1(b)に示すように、心線9を梁要素で、また接着ゴム層10及びリブゴム層11を共に平面歪み要素で、さらに帆布12をトラス要素でそれぞれモデル化している。補機駆動ベルト8は、面内の長手方向で非常に剛性が高く、面外方向には小さい剛性しか示さないので、引張剛性と曲げ剛性とを両立させるために、梁の断面形状を非常に薄いものとしている。尚、梁要素の長さは補機駆動ベルト8の最小プーリ巻付き長さ以下とする。
【0057】
(2)オルタネータプーリ
オルタネータプーリ2(補機プーリ)は、剛体によりモデル化している。オルタネータプーリ2の外径は、補機駆動ベルト8がプーリ1〜4,26に巻き付いた状態での心線9の位置で設定する。
【0058】
(3)補機慣性モーメント
ここでの補機の慣性モーメントは、オルタネータ本体、オルタネータプーリ2及びオルタネータ軸6を含む慣性モーメントを1つの慣性要素で表現したものである。
【0059】
(4)オートテンショナの減衰特性
比例減衰乾式オートテンショナ15は、スプリング29及び摩擦摺動によって図8のような摩擦減衰特性を示す。公称長さの補機駆動ベルト8を補機レイアウトにかけたとき、ベルト張力とテンショナ15の張り力とが釣り合った状態のテンショナ15のアーム25の回転角度を公称角度といい、そのときのテンショナ15がベルト8に与えるトルクを公称トルクAで表す。また、スプリング率はテンショナ15のアーム25の回転角度の増加に伴って、テンショナ15のベルト8ヘの張り力が増加する割合を表す。さらに、ダンピング率は、テンショナ15の減衰量を表すもので、次式により求められる。Bは載荷時及び除荷時のトルクの差である。
【0060】
ダンピング率(%)=(B/2A)×100
オートテンショナ15の減衰特性は、テンショナ15の揺動中心から紙面と垂直な方向に延びる梁要素を設定し、この梁要素に材料特性として図9に示すような降伏後も弾塑性を持った要素を与えてモデル化することにより、図3のようなばね剛性と摩擦減衰とを持った特性を再現している。尚、図9は図8の斜線部分を代用している。
【0061】
(5)摩擦特性
補機駆動ベルト8と各プーリ1〜4,26との間の摩擦係数μは、上記の如く、両者間の面圧が大きくなるのに伴って小さくなる面圧依存特性を有する摩擦係数を用いる。
【0062】
ここで、上記(4)オートテンショナ15の特性について詳述する。オートテンショナ15は、ダンピングを摩擦により加える方式であるので、テンションプーリ26に加わる力と変位との関係は図8に示すように、載荷時に点P1,P2を、また除荷時に点P3,P4をそれぞれ通る。力の方向が変わったときには点P1,P2及び点P3,P4をそれぞれ結ぶ線上の傾斜よりも大きな傾斜の線上を通って上下の線に繋がる運動を行うようになる。前者の点P1,P2及び点P3,P4をそれぞれ結ぶ線上の動きは、オートテンショナ15のアーム25が動いて摩擦部材(インサートベアリング18及びスラストワッシャ24)がスリップ力を発生させている状態であり、後者は摩擦部材が滑らずに他の部材が変形している状態である。
【0063】
このようなテンショナ15のばねの状態をモデル化するのに以下の条件を設ける。
(A) 摩擦部材が滑る際のばね定数をモデル化するのに材料の塑性変形のモデル化を行った移動硬化則を用いる。
(B) 捩りばねからなるスプリング29を表現するのにピボット上に捩り棒を立ててモデル化する。
(C) 点P1,P2及び点P3,P4をそれぞれ結ぶ線上の履程は、塑性状態(Plastic状態)として取り扱い、これら上下の履程を繋ぐ変形を弾性状態(Elastic状態)として取り扱う。
(D) 弾塑性でモデルを定義するだけでは、ベルト8の初張力が零になってしまうので、その初張力に相当するだけの捩り力をアーム25のピボットに外力として加える。
【0064】
このようなモデル化により、オートテンショナ15の減衰特性として、トルク及び捩り角度の履歴が実際のオートテンショナ15に略一致した特性が得られる。
【0065】
また、ベルト8の摩耗率を求める場合、以上の振動解析方法により、そのエンジン補機駆動系Tの摩擦滑り仕事量Wを求め、その摩擦滑り仕事量Wに基づいてベルト8の摩耗率を求める。
【0066】
上記摩擦滑り仕事量Wは式1によって計算される積算値で、ベルト8の摩耗率と比例関係にあり、摩擦滑り仕事量Wを解析によって求めることで、ベルト8の摩耗率が得られる。式1中、τiはi時間でのベルト8及びプーリ1〜4,26間の界面剪断応力、Liはi時間でのベルト8及びプーリ1〜4,26間の相対滑り量、n0は積算開始時間、nは積算終了時間、iは解析刻み時間、n−n0は積算時間である。
【0067】
【数1】
【0068】
したがって、この実施形態においては、エンジン補機駆動系Tの振動解析を行うに当たり、振動解析モデルとして、クランクプーリ1、オルタネータプーリ2及びアイドラプーリ3,4とオートテンショナ15とが実際のレイアウトどおりに配置されてそれらにVリブドベルトからなる補機駆動ベルト8が巻き掛けられ、そのベルト8が長さ方向に微小区間に節点分割されて節点間が弾性体要素で連結されたモデルが用いられるので、その補機駆動ベルト8は各プーリ1〜4,26に接触したり離れたりするものとでき、プーリ1〜4,26の回転及びベルト8の回行を自由に設定することができる。このため、例えばクランクプーリ1の回転特性、従ってエンジンの回転特性を直接に入力するだけでエンジン補機駆動系Tの振動解析が得られる。
【0069】
また、上記振動解析モデルでは、プーリ1〜4,26とベルト8との間の摩擦係数として、一定値ではなく、プーリ1〜4,26とベルト8との間の面圧が大きくなるのに伴って小さくなるように変化する面圧依存特性を有する摩擦係数が用いられるので、エンジン補機駆動系Tにおけるプーリ1〜4,26とベルト8との間のスリップを良好に再現して予測でき、エンジン補機駆動系Tの振動解析の精度をさらに向上させることができる。
【0070】
しかも、上記各プーリ1〜4,26及び補機駆動ベルト8の間の接触は剪断剛性及び摩擦力によりモデル化され、プーリ1〜4,26は回転、振動又は回転及び振動をする弾性体又は剛体としてモデル化されるので、振動解析モデルは実際のエンジン補機駆動系Tの動作に近くなる。
【0071】
さらに、上記振動解析モデルでは、ベルト8の構成要素である心線9を梁要素で、また接着ゴム層10及びリブゴム層11を平面歪み要素で、さらに帆布12をトラス要素でそれぞれモデル化して、ベルト8が厚さを有するモデルとされているので、ベルト8から受ける各プーリ1〜4,26の面圧分布特性が実際のものと近似するようになり、ベルト8とプーリ1〜4,26とのスリップ状態を正確に再現することができる。
【0072】
また、上記振動解析モデルにおけるオートテンショナ15は、降伏後も弾塑性を持った要素でモデル化されているので、そのオートテンショナ15のモデルも実際のオートテンショナ15により近似したものとなる。
【0073】
そして、上記振動解析モデルの初期配置では、図5に示すように、ベルト8の初期形状を円形状とし、ベルト8に正掛け状態で巻き掛けられるプーリ1〜4はベルト8の内側に、また逆掛け状態で巻き掛けられるテンションプーリ26はベルト8の外側にそれぞれ配置し、各プーリ1〜4,26を所定の位置に移動させて所定のレイアウト形状を作成するので、解析でのベルト8の初期剛性を実際のベルト8に合わせることができる。
【0074】
以上のことから、エンジン補機駆動系Tに加わる張力、加速度、速度、変位等がさらに精度よく解析できるようになり、補機駆動ベルト8の駆動系Tの振動解析及び設計を実際に即してさらに高い精度で正確に行って、解析及び設計の信頼性の向上や実験工数の削減による開発期間の短縮化を図ることができる。
【0075】
また、上記の振動解析方法により、エンジン補機駆動系Tの摩擦滑り仕事量Wを求め、その摩擦滑り仕事量Wに基づいてベルト8の摩耗率を求めるので、ベルト8の摩耗率を容易に予測することができる。
【0076】
尚、上記実施形態では、オルタネータを補機としているが、その他、自動車のパワーステアリング装置用ポンプ、エアコン用コンプレッサ、ウォータポンプ、オイルポンプ等を補機としてもよい。
【0077】
また、上記実施形態では、オートテンショナ15を備えたエンジン補機駆動系Tについて説明しているが、本発明は、オートテンショナ15が具備されていないエンジン補機駆動系や、上記実施形態の如きエンジン補機駆動系T以外の伝動ベルト駆動系に対しても適用できるのは勿論である。
【実施例】
【0078】
次に、具体的に実施した実施例について説明する。
【0079】
(伝動能力試験)
プーリとベルトとの間の摩擦係数の面圧依存特性について試験するために、図11に示す伝動能力試験装置を用意した。図11中、31はVリブドプーリからなる駆動プーリ、32は同様の従動プーリで、両プーリ31,32間にはVリブドベルト33が正掛け状態(内面掛け状態)で巻き掛けられている。両プーリ31,32間に位置するベルト33の一方(図で上側)のスパン側には両プーリ31,32と平行な軸を持つ1対の固定アイドラプーリ34,35が配置され、これらのアイドラプーリ34,35間を通ってベルト33のスパンが各アイドラプーリ34,35に対し逆掛け状態(外面掛け状態)で巻き掛けられた状態で引き出されている。このベルト33の引出し部分には荷重用アイドラプーリ36が正掛け状態(内面掛け状態)で巻き掛けられ、この荷重用アイドラプーリ36はベルトスパンの引出し方向に沿って移動可能で該引出し方向に可変の静荷重DWで付勢されている。
【0080】
また、従動プーリ32と該従動プーリ32側の固定アイドラプーリ35との間には巻付角変更用プーリ37が従動プーリ32の軸心周りを移動可能に配置され、この巻付角変更用プーリ37に上記ベルト33が正掛け(内面掛け)で巻き付けられており、この巻付角変更用プーリ37の位置を従動プーリの周りで(I)〜(IV)に変えることで、従動プーリ32に対するベルト33の巻付け角度を45°,90°,135°,180°に変更するようにしている。
【0081】
そして、駆動プーリ31及び従動プーリ32を図11で時計回り方向に回転させてベルト33を他のプーリ34〜37との間で走行させるとともに、その従動プーリ32に負荷(トルク)をかけ、荷重用アイドラプーリ36に対する静荷重DWを変えてベルト張力を29.4〜98N/リブとなるように変更することで従動プーリ32とベルト33との面圧を変え、従動プーリ32の回転負荷を測定して摩擦係数を求めた。尚、従動プーリ32のプーリ径は50〜120mmの範囲で変更した。また、この場合も、面圧比及び摩擦係数比はいずれも、リブ数が6リブのVリブドベルトを、プーリ径120mmの駆動プーリと、プーリ径120mmの従動プーリとにおのおの巻付け角度180°で巻き付けて掛け渡し、そのベルトの張力を29.4N/リブとしたときを「1」としたものである。
【0082】
一方、解析による摩擦係数として、上記伝動能力試験での5%スリップ状態を基準とし、そのスリップ状態を再現できる負荷に対応する摩擦係数を求めた。この摩擦係数比とそのときの面圧比との関係を、標準条件のときの面圧及び摩擦係数をそれぞれ「1」とした比で表すと、図13に示すようになり、面圧比に対して相関性の高い摩擦係数比の設定を行い得ることが判る。
【0083】
これら試験及び解析の結果から、面圧と摩擦係数との間で相関の高い近似式が得られ、この近似式は図10に示すように、面圧の上昇と共に摩擦係数が低下する関係になる。
【0084】
さらに、図12は、図10に示すように上記従動プーリ32とベルト33との摩擦係数に面圧依存特性を持たせた本発明の実施例について、上記図11に示す伝動能力試験装置を用いて伝動能力を解析した結果を実験例と共に示したものであり、図12(a)は従動プーリ32のプーリ径が50mmの場合を、また図12(b)は同プーリ径が120mmの場合をそれぞれ示している。いずれの場合も、従動プーリ32へのベルト巻付け角度は18°であり、ベルト張力は3kgf/リブである。
【0085】
この図12の結果を見ると、図10に示す如き面圧依存性を有する摩擦係数を振動解析モデルに加えて解析することにより、プーリ径の大小に拘わらず、より実験値と合致した解析結果が得られる。よって、本発明の方法により、計算時間を増大させることなく、伝動ベルト駆動系の設計精度を向上させ、延いては開発期間を短縮できることが判る。
【0086】
また、上記図4に示すエンジン補機駆動系Tについて、本発明の実施形態に係る解析モデルにより解析した結果を図14〜図16に示す。併せて、従来の解析モデルにより解析した結果を図19〜図21に示す。図14は図19に対応し、オルタネータが発電電流0Aの無負荷状態の場合を示す。また、図15は図20に対応し、オルタネータが発電電流40Aの中負荷状態の場合を示す。さらに、図16は図21に対応し、オルタネータが発電電流70Aの高負荷状態の場合を示す。各図(a)はクランクプーリ1の回転数の、また各図(b)はアイドラプーリ3の回転数の、さらに各図(c)はオルタネータプーリ2の回転数のそれぞれ時間的変化を示している。また、各図(d)はベルト8の張り側スパンのベルト張力の、また各図(e)は緩み側スパン8aのベルト張力のそれぞれ時間的変化を示している。さらに、各図(f)はオートテンショナ15(テンションプーリ26)の変位量の時間的変化を示している。いずれの図においても実線は解析値を、また破線は実験値をそれぞれ示す。
【0087】
この図14〜図16をそれぞれ図19〜図21と対比すると、オルタネータの負荷がいずれの負荷状態にあっても解析精度が向上している。すなわち、本発明のように、ベルト8のモデルに厚さを持たせることで、ベルト8から受けるプーリ1〜4,26の面圧分布が実際のものと近くなり、ベルト8とプーリ1〜4,26とのスリップ状態を正確に再現できている。
【0088】
(摩耗試験)
摩擦滑り仕事量Wとベルトの摩耗率との関係について試験するために、図17に示す摩耗試験装置を用意した。この摩耗試験装置は、Vリブドプーリからなる駆動及び従動プーリ40,41と、Vリブドプーリからなる第1アイドラプーリ42と、平プーリからなる第2アイドラプーリ43と、これらプーリ40〜43の間に巻き掛けられたVリブドベルト44とを備えた伝動ベルト駆動系であり、第1アイドラプーリ42は駆動及び従動プーリ40,41間のベルト44の緩み側スパン44aに正掛け状態で、また第2アイドラプーリ43は駆動及び従動プーリ40,41間のベルト44の張り側スパン44bに逆掛け状態でそれぞれ巻き掛けられている。また、第1アイドラプーリ42は第2アイドラプーリ43から離れる方向に移動可能であり、この第1アイドラプーリ42に第2アイドラプーリ43から離れる方向の静荷重DWをかけることにより、ベルト44に所定の張力を付与する。
【0089】
そして、従動プーリ41に図で時計回り方向の回転の負荷(トルク)をかけながら、駆動プーリ40を図で反時計回り方向に回転させてベルト44を走行させ、表2に示すように、第1アイドラプーリ42に対するデッドウェイトDWと従動プーリ41に対する負荷とをそれぞれ変える条件の変更を行ってベルト44の摩耗率を求めた。
【0090】
【表2】
【0091】
一方、上記伝動ベルト駆動系のモデルを解析して上記条件毎に摩擦滑り仕事量W(式1参照)を計算した。そして、積算時間n−n0を0.2秒としたときの上記摩擦滑り仕事量Wと上記ベルト44の摩耗率との関係を示したものが図18である。この図18によれば、解析による摩擦滑り仕事量Wとベルト44の摩耗率とが高い相関性を有し、摩擦滑り仕事量Wを用いることで、ベルト44の摩耗率を精度良く予測することができる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、伝動ベルト駆動系の振動を解析する場合に、ベルトから受けるプーリの面圧分布を実際のものと近くしてベルトとプーリとのスリップ状態を正確に再現できるので、極めて有用であり、産業上の利用可能性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係るエンジン補機駆動系におけるベルトのモデルを説明するための図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態に係るエンジン補機駆動系の振動解析モデルを示す図である。
【図3】図3は、エンジン補機駆動系の有限要素解析モデルを示す図である。
【図4】図4は、エンジン補機駆動系を示す概略図である。
【図5】図5は、ベルト及びプーリの初期配置を示す図である。
【図6】図6は、オートテンショナの拡大断面図である。
【図7】図7は、エンジン補機駆動系の振動解析システムの構成を示す図である。
【図8】図8は、オートテンショナのダンピング特性を示す図である。
【図9】図9は、オートテンショナの摩擦板スリップ力をモデル化するときの計算例で用いるための図である。
【図10】図10は、摩擦係数の面圧依存特性を示す図である。
【図11】図11は、摩擦係数の面圧依存特性を試験するための伝動能力試験装置を示す図である。
【図12】図12は、面圧依存特性を持つ摩擦係数を用いたときの解析結果を示す図である。
【図13】図13は、面圧依存特性を持つ摩擦係数の解析値を示す図である。
【図14】図14は、オルタネータの無負荷状態での本発明の解析結果を実験値と共に示す図である。
【図15】図15は、オルタネータの中負荷状態での本発明の解析結果を実験値と共に示す図である。
【図16】図16は、オルタネータの高負荷状態での本発明の解析結果を実験値と共に示す図である。
【図17】図17は、ベルトの摩耗率について試験するための摩耗試験装置を示す図である。
【図18】図18は、摩擦滑り仕事量と摩耗率との関係のデータを示す図である。
【図19】図19は、従来の解析結果を示す図14相当図である。
【図20】図20は、従来の解析結果を示す図15相当図である。
【図21】図21は、従来の解析結果を示す図16相当図である。
【符号の説明】
【0094】
T エンジン補機駆動系(伝動ベルト駆動系)
1 クランクプーリ(駆動プーリ)
2 オルタネータプーリ(従動プーリ)
3 第1アイドラプーリ
4 第2アイドラプーリ
5 クランク軸
6 オルタネータ軸
8 補機駆動ベルト(伝動ベルト)
9 心線
10 接着ゴム層(ゴム層)
11 リブゴム層(ゴム層)
12 帆布
13 リブ
15 オートテンショナ
25 アーム
26 テンションプーリ
30 演算部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも駆動及び従動プーリからなるプーリと、これらプーリに巻き掛けられた伝動ベルトとを備えた伝動ベルト駆動系の振動を解析する方法であって、
上記プーリをレイアウトどおりに配置して伝動ベルトを巻き掛け、その巻き掛けられた長さ方向に微小区間に節点分割して、節点間を弾性体要素で連結し、かつ上記プーリと伝動ベルトとの間に両者間の面圧に応じて変化する面圧依存特性を有する摩擦係数を設定し、さらに上記伝動ベルトの構成要素をモデル化することで伝動ベルトを厚さを有するモデルとした振動解析モデルにより振動解析を行うことを特徴とする伝動ベルト駆動系の振動解析方法。
【請求項2】
請求項1の伝動ベルト駆動系の振動解析方法において、
伝動ベルトの心線を梁要素で、またゴムを平面歪み要素で、さらに帆布をトラス要素でそれぞれモデル化することを特徴とする伝動ベルト駆動系の振動解析方法。
【請求項3】
請求項1又は2の伝動ベルト駆動系の振動解析方法において、
ベルトを円形状にモデル化し、
ベルトに正掛け状態で巻き掛けられるプーリは上記ベルトの内側に、また逆掛け状態で巻き掛けられるプーリはベルトの外側にそれぞれ初期配置することを特徴とする伝動ベルト駆動系の振動解析方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つの伝動ベルト駆動系の振動解析方法において、
摩擦係数は、プーリと伝動ベルトとの間の面圧が大きくなるのに伴って小さくなる面圧依存特性を有することを特徴とする伝動ベルト駆動系の振動解析方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つの伝動ベルト駆動系の振動解析方法において、
プーリ及び伝動ベルト間の接触を剪断剛性及び摩擦力によりモデル化し、
プーリを、回転もしくは振動し又は回転しながら振動する弾性体又は剛体としてモデル化することを特徴とする伝動ベルト駆動系の振動解析方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つの伝動ベルト駆動系の振動解析方法において、
伝動ベルト駆動系は、伝動ベルトに張力を付与するオートテンショナを備えており、
上記オートテンショナを、降伏後も弾塑性を持つ要素としてモデル化することを特徴とする伝動ベルト駆動系の振動解析方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つの伝動ベルト駆動系の振動解析方法において、
伝動ベルト駆動系は、エンジンのクランク軸に設けられたVリブドプーリからなるクランクプーリを駆動プーリとし、補機の軸に設けられたVリブドプーリからなる補機プーリを従動プーリとし、少なくとも上記クランク及び補機プーリ間に巻き掛けられたVリブドベルトからなる補機駆動ベルトを伝動ベルトとするエンジン補機駆動系であることを特徴とする伝動ベルト駆動系の振動解析方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1つの伝動ベルト駆動系の振動解析方法の解析結果に基づいて伝動ベルト駆動系の設計を支援することを特徴とする伝動ベルト駆動系の設計支援方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1つの伝動ベルト駆動系の振動解析方法により、その伝動ベルト駆動系の摩擦滑り仕事量を求め、その摩擦滑り仕事量に基づいて伝動ベルトの摩耗率を求めることを特徴とする伝動ベルトの摩耗率予測方法。
【請求項1】
少なくとも駆動及び従動プーリからなるプーリと、これらプーリに巻き掛けられた伝動ベルトとを備えた伝動ベルト駆動系の振動を解析する方法であって、
上記プーリをレイアウトどおりに配置して伝動ベルトを巻き掛け、その巻き掛けられた長さ方向に微小区間に節点分割して、節点間を弾性体要素で連結し、かつ上記プーリと伝動ベルトとの間に両者間の面圧に応じて変化する面圧依存特性を有する摩擦係数を設定し、さらに上記伝動ベルトの構成要素をモデル化することで伝動ベルトを厚さを有するモデルとした振動解析モデルにより振動解析を行うことを特徴とする伝動ベルト駆動系の振動解析方法。
【請求項2】
請求項1の伝動ベルト駆動系の振動解析方法において、
伝動ベルトの心線を梁要素で、またゴムを平面歪み要素で、さらに帆布をトラス要素でそれぞれモデル化することを特徴とする伝動ベルト駆動系の振動解析方法。
【請求項3】
請求項1又は2の伝動ベルト駆動系の振動解析方法において、
ベルトを円形状にモデル化し、
ベルトに正掛け状態で巻き掛けられるプーリは上記ベルトの内側に、また逆掛け状態で巻き掛けられるプーリはベルトの外側にそれぞれ初期配置することを特徴とする伝動ベルト駆動系の振動解析方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つの伝動ベルト駆動系の振動解析方法において、
摩擦係数は、プーリと伝動ベルトとの間の面圧が大きくなるのに伴って小さくなる面圧依存特性を有することを特徴とする伝動ベルト駆動系の振動解析方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つの伝動ベルト駆動系の振動解析方法において、
プーリ及び伝動ベルト間の接触を剪断剛性及び摩擦力によりモデル化し、
プーリを、回転もしくは振動し又は回転しながら振動する弾性体又は剛体としてモデル化することを特徴とする伝動ベルト駆動系の振動解析方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つの伝動ベルト駆動系の振動解析方法において、
伝動ベルト駆動系は、伝動ベルトに張力を付与するオートテンショナを備えており、
上記オートテンショナを、降伏後も弾塑性を持つ要素としてモデル化することを特徴とする伝動ベルト駆動系の振動解析方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つの伝動ベルト駆動系の振動解析方法において、
伝動ベルト駆動系は、エンジンのクランク軸に設けられたVリブドプーリからなるクランクプーリを駆動プーリとし、補機の軸に設けられたVリブドプーリからなる補機プーリを従動プーリとし、少なくとも上記クランク及び補機プーリ間に巻き掛けられたVリブドベルトからなる補機駆動ベルトを伝動ベルトとするエンジン補機駆動系であることを特徴とする伝動ベルト駆動系の振動解析方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1つの伝動ベルト駆動系の振動解析方法の解析結果に基づいて伝動ベルト駆動系の設計を支援することを特徴とする伝動ベルト駆動系の設計支援方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1つの伝動ベルト駆動系の振動解析方法により、その伝動ベルト駆動系の摩擦滑り仕事量を求め、その摩擦滑り仕事量に基づいて伝動ベルトの摩耗率を求めることを特徴とする伝動ベルトの摩耗率予測方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2007−278787(P2007−278787A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−104099(P2006−104099)
【出願日】平成18年4月5日(2006.4.5)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年4月5日(2006.4.5)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】
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