説明

伝動用ベルト

【課題】ゴム硬度を過度に高くしなくても、耐側圧性、耐久性を維持するとともに、屈曲疲労性、省燃費性(曲げ剛性と摺動性の両方)を向上できる伝動用ベルトを提供する。
【解決手段】伝動用ベルトは、ベルトの長手方向に心線2を埋設した接着ゴム層1と、この接着ゴム層の一方の面に形成された圧縮ゴム層3と、前記接着ゴム層の他方の面に形成された伸張ゴム層4とを備えており、少なくとも前記圧縮ゴム層3は、ゴム成分(クロロプレンゴムなど)、脂肪酸アマイド(飽和又は飽和高級脂肪酸アマイド)と、短繊維(接着処理されたアラミド短繊維など)とを含んでいる。ゴム100質量部に対して、脂肪酸アマイドの割合は0.5〜10質量部程度、短繊維の割合は10〜40質量部程度であってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Vベルト、Vリブドベルトなどの伝動用ベルトに関し、詳しくは耐久性能と伝達効率に優れた伝動用ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、Vベルト、Vリブドベルトなどの伝動用ベルトの耐側圧性を向上させるため、圧縮ゴム層に補強剤として短繊維が配合されている。例えば、特公平5−63656号公報(特許文献1)には、コードが埋設された接着弾性体層と、この接着弾性体層の上下側に位置する保持弾性体層(圧縮ゴム層)とを備えたベルトにおいて、保持弾性体層が、クロロプレンゴム、補強性充填剤、金属酸化加硫剤、ビスマレイミド及びアラミド短繊維を含み、アラミド短繊維がベルトの幅方向に配列したゴムVベルトが開示されている。この文献には、アラミド繊維の配列により、列理方向(短繊維の配向方向)の弾性率を高くして、耐側圧性を維持し、耐久性を向上させている。
【0003】
特開2009−150538号公報(特許文献2)には、圧縮ゴム層および伸張ゴム層を有し、かつ長手方向に沿って心線を埋設したコグドVベルトにおいて、伸張ゴム層のゴム硬度(JIS−A)が85〜92、圧縮ゴム層のゴム硬度(JIS−A)が90〜98の範囲内であり、圧縮ゴム層のゴム硬度を伸張ゴム層のゴム硬度よりも3〜10(JIS−A)以上高く設定したコグドVベルトが開示され、伸張ゴム層及び圧縮ゴム層にカーボンブラック及びアラミド短繊維を含有させることが記載されている。
【0004】
特開平10−238596号公報(特許文献3)には、伸張及び圧縮ゴム層の少なくとも一方のゴム硬度を90〜96°、接着ゴム層のゴム硬度を83〜89°の範囲に設定し、伸張及び圧縮ゴム層にはアラミド短繊維をベルト幅方向に配列させた伝動用Vベルトが開示されている。この文献では、早期にクラックや各ゴム層及びコードのセパレーション(剥離)の発生を防止し、耐側圧性を向上させて高負荷伝動能力を向上させている。
【0005】
ところで、近年、伝動用ベルトには上記耐側圧性や耐久性以外に、ベルトの伝動ロスを低減して、燃費性を改善するため、省燃費性を向上させることが求められている。例えば、特許文献3の段落[0005]には、ベルトのゴム硬度を上げると曲げ剛性が高くなり、小プーリ径では伝動ロスが生じることが記載されている。このため、Vベルトの内周側または内周側と外周側(背面側)の両方にコグを設け、ベルトの曲げ剛性を低くして伝動ロスを抑える試みがなされている。この種のベルトとして、一般的にコグドVベルトが知られている。
【0006】
耐側圧性や耐久性の向上に対しては、前記特許文献1〜3に記載のように、アラミド繊維などの高弾性率の短繊維やカーボンブラックなどの補強剤を増量してゴム硬度を高めることが有効な手段である。しかし、ゴム硬度を高めるとベルトの曲げ剛性の上昇に繋がり、屈曲疲労性の低下や、小プーリ径においてはベルトの伝動ロスが大きくなり、省燃費性を低下させる。一方、屈曲疲労性や省燃費性を向上させるため、ゴム硬度を下げると、耐側圧性が低下してベルトが早期に寿命となる虞がある。すなわち、耐側圧性、耐久性の一連の特性と、屈曲疲労性、省燃費性の一連の特性とは二律背反の関係にある。なお、Vベルトの内周側または内周側と外周側の両方にコグを設けることにより屈曲疲労性、省燃費性を向上させることができる。しかし、耐側圧性、耐久性を維持すべくゴム硬度を高くしているため、省燃費性は未だ十分ではないのが現状である。そのため、好ましいゴム組成物(特に圧縮ゴム層のゴム組成物)が望まれている。
【0007】
なお、この種のVベルトとして無段変速機に用いられる変速ベルトがある。この変速ベルトにおいて、変速比(駆動プーリと従動プーリとの回転比)を変えるためには、ベルトがそのプーリ上をプーリ半径方向に上下動(又は進退動)する。この移動がスムーズに行なわれないと、プーリからの剪断力が強く作用してゴム層間(接着ゴム層と圧縮ゴム層)や接着ゴム層と心線間とで剥離が生じたり、省燃費性(曲げ剛性に起因する省燃費性ではなく、摺動性の低下に基づく省燃費性)が低下する。この点、短繊維やカーボンブラックなどの補強剤を多く配合してゴム硬度を高めたり、短繊維を摩擦伝動面から突出させることにより、摩擦係数を低減させることが可能であるが、補強剤を多く配合すると上記の問題が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平5−63656号公報(特許請求の範囲、発明の効果)
【特許文献2】特開2009−150538号公報(特許請求の範囲、段落[0027][0028])
【特許文献3】特開平10−238596号公報(特許請求の範囲、段落[0005])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、伝動ロスを低減できる伝動用ベルトを提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、ゴム硬度を過度に高くしなくても、耐側圧性、耐久性を維持するとともに、屈曲疲労性、省燃費性(曲げ剛性と摺動性の両方)を向上できる伝動用ベルトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、伝動用ベルトの圧縮ゴム層を、ゴム成分と脂肪酸アマイドと短繊維とを含むゴム組成物で形成すると、脂肪酸アマイドが短繊維の分散性及び配向性を向上させるとともにゴム成分と短繊維との密着性を改善すること、脂肪酸アマイドが圧縮ゴム層の表面(プーリと接触する摩擦伝動面)にブルーム(析出)又はブリードアウトし、ゴム層表面の摩擦係数を低下させ、伝動性(伝達効率)を向上させることを見いだし、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の伝動用ベルトは、ベルトの長手方向に心線を埋設した接着ゴム層と、この接着ゴム層の一方の面に形成された圧縮ゴム層と、前記接着ゴム層の他方の面に形成された伸張ゴム層とを備えている。このような構造の伝動用ベルトにおいて、少なくとも前記圧縮ゴム層が、脂肪酸アマイドと短繊維とを含んでいる。
【0013】
このような伝動用ベルトでは、脂肪酸アマイドが短繊維の分散剤として作用し、ゴム組成物中の短繊維の分散性及び短繊維の配向性(ベルト幅方向に対して平行な方向)を向上でき、圧縮ゴム層の耐側圧性や耐摩耗性を向上できる。また、脂肪酸アマイドにより短繊維と圧縮ゴム層を構成するゴム組成物(マトリックスゴム:短繊維を除くゴム組成物)との接着性を向上できる。特に、接着処理された短繊維を用いると、その表面(外層)の接着成分が脂肪酸アマイドと化学的に相互作用し、短繊維と圧縮ゴム層を構成するゴム組成物(マトリックスゴム)との接着性を高めることができる。そのため、モジュラスや引張強さ、引裂強さに優れた圧縮ゴム層を形成できる。さらに、脂肪酸アマイドは、マトリックスゴムのモジュラスを低下させる(又は柔軟にする)内部潤滑剤としても作用するが、前記短繊維との併用により、このモジュラスの低下を抑制できる。すなわち、脂肪酸アマイドと短繊維とを併用すると、圧縮ゴム層のマトリックス成分を柔軟にするとともに、力学特性に優れた圧縮ゴム層を形成でき、圧縮ゴム層の硬度を高めることなく、ベルトの屈曲疲労性や省燃費性を向上できる。さらに、脂肪酸アマイドは圧縮ゴム層の表面(プーリと接触する摩擦伝動面)にブルーム(析出)又はブリードアウトして外部潤滑剤として作用し、ゴム層表面の摩擦係数を低減し、ゴム層表面とプーリとの摩擦を円滑にし、ベルトの耐久性、省燃費性(特に、変速ベルトでの省燃費性)を向上する。そのため、本発明では、耐側圧性及び耐久性の特性と、屈曲疲労性及び省燃費性の特性とを両立できる。
【0014】
脂肪酸アマイドは、飽和又は不飽和長鎖脂肪酸アマイド及び飽和又は不飽和長鎖脂肪酸エステルアマイドから選択された少なくとも一種を含んでいてもよい。また、短繊維は、少なくとも接着処理された短繊維を含む場合が多く、短繊維は、少なくともアラミド繊維を含んでいてもよい。より具体的には、圧縮ゴム層のゴム成分はクロロプレンゴムであってもよく、脂肪酸アマイドは少なくとも炭素数10〜26の飽和又は不飽和脂肪酸モノアマイドであってもよく、短繊維(例えば、短繊維の周り(外層又は表面)の少なくとも一部)には、少なくともレゾルシンとホルマリンとの初期縮合物及びラテックスを含む接着成分が付着していてもよい。さらに、短繊維には、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン三元共重合体を含む接着成分が付着していてもよい。
【0015】
脂肪酸アマイド及び短繊維の使用量は、圧縮ゴム層の力学特性を高めつつ、その表面の摩擦係数を適度に低下できるとともに、圧縮ゴム層の硬度を過度に高めることがなく、曲げ応力を低減でき、屈曲疲労性や省燃費性を向上できる範囲から選択できる。圧縮ゴム層を構成するゴム組成物において、脂肪酸アマイドの割合は、例えば、原料ゴム100質量部に対して、0.5〜10質量部程度であってもよく、短繊維の割合は、例えば、原料ゴム100質量部に対して、10〜40質量部程度であってもよい。
【0016】
本発明は、伝動用ベルトの圧縮ゴム層及び伸張ゴム層から選択された少なくとも1つのゴム層を形成するためのゴム組成物であって、ゴム成分と脂肪酸アマイドと短繊維とを含むゴム組成物も包含する。この組成物において、短繊維は、少なくとも接着処理された短繊維を含む場合が多い。さらには、本発明は、伝動用ベルトの圧縮ゴム層を、前記ゴム組成物で形成し、伝動ロスを低減する方法(伝動性又は伝達効率を向上させる方法)も包含する。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、圧縮ゴム層が脂肪酸アマイドと短繊維とを含むため、伝動用ベルトによる伝動ロスを低減でき、伝達効率を向上できる。また、ゴム硬度を過度に高くしなくても、耐側圧性、耐久性を維持できるとともに、屈曲疲労性、省燃費性(曲げ剛性と摺動性の両方)を向上できる。特に、相反する特性、すなわち、耐側圧性及び耐久性の特性と、屈曲疲労性及び省燃費性の特性とを両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は伝動用ベルトの一例を示す概略断面図である。
【図2】図2は伝達効率の測定方法を説明するための概略図である。
【図3】図3は実施例での曲げ応力の測定方法を説明するための概略図である。
【図4】図4は実施例での摩擦係数の測定方法を説明するための概略図である。
【図5】図5は実施例での高負荷走行試験を説明するための概略図である。
【図6】図6は実施例での高速走行試験を説明するための概略図である。
【図7】図7は実施例での耐久走行試験を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のゴム組成物は伝達効率を高めるのに有用であり、ベルトの圧縮ゴム層及び伸張ゴム層から選択された少なくとも1つのゴム層(特に、少なくとも圧縮ゴム層)を形成するのに有用である。このゴム組成物は、ゴム成分と、脂肪酸アマイドと、短繊維とを含んでいる。
【0020】
ゴム成分
ゴム組成物のゴム成分としては、加硫又は架橋可能なゴム、例えば、ジエン系ゴム(天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(ニトリルゴム)、水素化ニトリルゴムなど)、エチレン−α−オレフィンエラストマー、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、アルキル化クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、アクリル系ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴムなどが例示できる。これらのゴム成分は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0021】
好ましいゴム成分は、エチレン−α−オレフィンエラストマー(エチレン−プロピレンゴム(EPR)、エチレン−プロピレン−ジエンモノマー(EPDMなど)などのエチレン−α−オレフィン系ゴム)、クロロプレンゴムである。特に好ましいゴム成分は、クロロプレンゴムである。クロロプレンゴムは、硫黄変性タイプであってもよく、非硫黄変性タイプであってもよい。
【0022】
脂肪酸アマイド
脂肪酸アマイドは、その分子内に長鎖脂肪酸基(例えば、炭素数が10〜40程度の脂肪酸基)とアミド基とを有し、熱・化学的に安定な固体界面活性剤である。脂肪酸アマイドとしては、高級脂肪酸モノアマイド、例えば、ベヘン酸アマイド、アラキン酸アマイド、ステアリン酸アマイド、ヒドロキシステアリン酸アマイド、パルミチン酸アマイド、ミリスチン酸アマイド、ラウリン酸アマイド、エルカ酸アマイド、オレイン酸アマイド、リシノール酸アマイドなどの飽和又は不飽和高級脂肪酸アマイド又はモノアマイド);飽和又は不飽和高級脂肪酸ビスアマイド、例えば、アルキレンビス飽和又は不飽和高級脂肪酸アマイド(例えば、メチレンビスステアリン酸アマイド、メチレンビスラウリン酸アマイド、メチレンビスヒドロキシステアリン酸アマイド、メチレンビスオレイン酸アマイド、エチレンビスベヘン酸アマイド、エチレンビスステアリン酸アマイド、エチレンビスカプリル酸アマイド、エチレンビスカプリン酸アマイド、エチレンビスラウリン酸アマイド、イソステアリン酸アマイド、エチレンビスエルカ酸アマイド、エチレンビスオレイン酸アマイド、テトラメチレンビスステアリン酸アマイド、ヘキサメチレンビスベヘン酸アマイド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アマイド、へキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アマイド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アマイドなどのC1−10アルキレンビス飽和又は不飽和高級脂肪酸アマイドなど)、ジカルボン酸と飽和又は不飽和高級アミンとのビスアマイド(例えば、N,N’−ジステアリルアジピン酸アマイド、N,N’−ジステアリルセバシン酸アマイド、N,N’−ジオレイルアジピン酸アマイド、N,N’−ジオレイルセバシン酸アマイドなどのC6−12アルカンジカルボン酸と飽和又は不飽和高級アミンとの反応により生成するビスアマイドなど)などが例示できる。
【0023】
また、脂肪酸アマイドには、芳香族ビスアマイド(キシリレンビスステアリン酸アマイドなどの芳香族ジアミンと飽和又は不飽和高級脂肪酸とのビスアマイド、N,N’−ジステアリルフタル酸アマイドなどの芳香族ジカルボン酸と飽和又は不飽和高級アミンとのビスアマイドなど)の他、置換アマイド(N−ラウリルラウリン酸アマイド、N−パルミチルパルミチン酸アマイド、N−ステアリルステアリン酸アマイド、N−ステアリルオレイン酸アマイド、N−オレイルステアリン酸アマイド、N−ステアリルエルカ酸アマイド、N−ステアリルヒドロキシステアリン酸アマイドなどのアミド基の窒素原子に飽和又は不飽和高級脂肪酸残基がアミド結合した高級脂肪酸アマイド)、エステルアマイド(エタノールアミンジベへネート、エタノールアミンジステアレート、エタノールアミンジパルミテート、プロパノールアミンジステアレート、プロパノールアミンジパルミテートなどのアルカノールアミンのヒドロキシル基と高級脂肪酸とがエステル結合し、アルカノールアミンのアミノ基と高級脂肪酸とがアミド結合したエステルアマイド)、アルカノールアマイド(メチロールステアリン酸アマイド、メチロールベヘン酸アマイドなどのメチロール高級脂肪酸モノアマイドなどのメチロールアマイド類;ステアリン酸モノエタノールアマイド、エルカ酸モノエタノールアマイドなどのN−ヒドロキシC2−4アルキル高級脂肪酸モノアマイド)、置換尿素(N−ブチル−N’−ステアリル尿素、N−フェニル−N’−ステアリル尿素、N−ステアリル−N’−ステアリル尿素、キシリレンビスステアリル尿素、トルイレンビスステアリル尿素、ヘキサメチレンビスステアリル尿素、ジフェニルメタンビスステアリル尿素などの尿素の窒素原子に高級脂肪酸がアミド結合した置換尿素)などが例示できる。なお、これらの脂肪酸アマイドにおいて、高級脂肪酸及び高級アミンの炭素数は、10〜34(例えば、10〜30、好ましくは10〜28、さらに好ましくは12〜24)程度であってもよい。これらの脂肪酸アマイドは単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0024】
脂肪酸アマイドの融点は、50〜200℃程度の範囲から選択でき、通常、65〜150℃、好ましくは75〜130℃(例えば、80〜120℃)、さらに好ましくは90〜110℃(例えば、95〜105℃)程度であってもよい。
【0025】
脂肪酸アマイドは短繊維の分散剤として機能し、ゴム組成物中の短繊維の分散性及び配向性(ベルト幅方向の配向性)を高め、圧縮ゴム層の耐側圧性や耐摩耗性を向上させるのに有利である。さらに、脂肪酸アマイドは、分散剤としての機能に加えて、ゴム組成物中では内部潤滑剤としても機能し、マトリックスゴム成分のモジュラスを低下させマトリックス成分を柔軟にする傾向にあるが、短繊維との組合せにより、前記モジュラスの低下を抑制できる。すなわち、脂肪酸アマイドと短繊維との組合せにより、圧縮ゴム層のマトリックス成分を柔軟にするとともに、力学特性に優れた圧縮ゴム層を形成できる。特に、脂肪酸アマイドと短繊維との組合せにより、短繊維やカーボンブラックなどの補強剤を多量に配合して圧縮ゴム層の硬度を高める必要がなく、ベルトの屈曲疲労性や省燃費性(特に、ベルトが小プーリに巻き付いて走行した場合の省燃費性)を向上できる。
【0026】
さらに、脂肪酸アマイドは圧縮ゴム層の内部からその表面(プーリと接触する摩擦伝動面)にブルーム(析出)又はブリードアウトして外部潤滑剤として機能し、ゴム層表面の摩擦係数を低下させる。しかも、脂肪酸アマイドが圧縮ゴム層の表面に長期間に亘りブルーム又はブリードアウトするため、低い摩擦係数を長期に亘って維持できる。そのため、ゴム層表面とプーリとが円滑に摩擦し、ベルト走行時にプーリにより過剰な剪断力がゴム層に作用するのを防止し、ベルトの耐久性を向上できる。さらに、プーリ半径方向にベルトがプーリ上を上下に移動する変速ベルトとして使用すると、省燃費性をさらに有効に向上できる。なお、摩擦係数が高いと、プーリから受ける剪断力が高まり、圧縮ゴム層の大きな変形などにより、剥離や亀裂が生じ、ベルトの早期寿命に繋がる。また、例えば、ゴム層表面に潤滑剤を塗布した形態では、ベルト走行初期は潤滑剤による摩擦低減効果が認められるが、ベルトを長時間走行させると、潤滑剤は飛散又は摩損して摩擦低減効果が失われる。
【0027】
脂肪酸アマイドの中でも、アルキレンビスアマイドに比べて、脂肪酸モノアマイド、例えば、長鎖脂肪酸残基を構成する炭素数が、例えば、10〜26(特に、12〜24)程度と少なく、末端にアミド基を有する脂肪酸モノアマイドが好ましい。その理由は明確ではないが、長鎖脂肪酸残基が長い構造、すなわち炭素数が多くなると分子内のアミド基の濃度が相対的に低減し、脂肪酸アマイドのアミド基と短繊維の接着成分との化学的な相互作用が小さくなること、また、アルキレンビスアマイドのように両側に長鎖脂肪酸基(例えば、合計の炭素数が40を超えて多い)が存在すると、脂肪酸アマイドのアミド基と短繊維の接着成分との化学的相互作用が小さくなり、短繊維とゴム組成物との接着性が低減するためであると推測される。なお、脂肪酸アマイドのうち、エステルアマイドも好ましい。この点から、短繊維とゴム組成物との接着性などには脂肪酸アマイドの融点や熱的特性も関係している可能性がある。
【0028】
脂肪酸アマイドの割合は、ゴム成分100質量部に対して、0.5〜10質量部、好ましくは1〜8質量部、さらに好ましくは1.5〜7.5質量部(例えば、2〜7質量部)程度であり、通常、1〜6質量部程度である。脂肪酸アマイドの使用量が少なすぎると、ゴム層表面へのブルームが少なくなり、摩擦係数の低減効果が小さく、多すぎると、短繊維(接着処理された短繊維)との相互作用に関与しない余剰の脂肪酸アマイドが内部潤滑剤として機能し、マトリックス成分のモジュラス(特に圧縮方向のモジュラス)が大きく低下する虞がある。なお、脂肪酸アマイドの使用量が多すぎても、それに見合う摩擦低減効果が得られず、経済的に不利である。
【0029】
短繊維
短繊維の種類としては、ポリオレフィン系繊維(ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維など)、ポリアミド繊維(ポリアミド6繊維、ポリアミド66繊維、ポリアミド46繊維、アラミド繊維など)、ポリアルキレンアリレート系繊維[ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維などのC2−4アルキレンC6−14アリレート系繊維など]、ビニロン繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維などの合成繊維;綿、麻、羊毛などの天然繊維;炭素繊維などの無機繊維が汎用される。これらの短繊維は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの短繊維のうち、合成繊維や天然繊維、特に合成繊維(ポリアミド繊維、ポリアルキレンアリレート系繊維など)、中でも剛直で高い強度、モジュラスを有する点から、少なくともアラミド繊維を含む短繊維が好ましい。アラミド短繊維は、高い耐摩耗性をも有している。アラミド繊維は、例えば、商品名「コーネックス」、「ノーメックス」、「ケブラー」、「テクノーラ」、「トワロン」などとして市販されている。
【0030】
短繊維は、プーリからの押圧に対するベルトの圧縮変形を抑制するため、ベルト幅方向に配向して圧縮ゴム層中に埋設される。また、圧縮ゴム層の表面より短繊維を突出させることにより、表面の摩擦係数を低下させてノイズ(発音)を抑制したり、プーリとの擦れによる摩耗を低減ができる。短繊維の平均長さは、例えば、1〜20mm、好ましくは2〜15mm、より好ましくは3〜10mmであり、1〜5mm(例えば、2〜4mm)程度であってもよい。短繊維の平均長さが1mm未満では、列理方向の力学特性(例えばモジュラスなど)を十分に高めることができず、一方、20mmを越えると、ゴム組成物中の短繊維の分散不良が生じ、ゴムに亀裂が発生してベルトが早期に損傷する虞がある。
【0031】
短繊維の割合は、ゴム成分100質量部に対して、5〜50質量部程度の範囲から選択でき、通常、10〜40質量部、好ましくは15〜35質量部、さらに好ましくは20〜30質量部程度、特に15〜30質量部(15〜25質量部)程度であってもよい。短繊維の使用量が少なすぎると、圧縮ゴム層の力学特性が不十分であり、多すぎると、圧縮ゴム層の屈曲疲労性が低下(圧縮ゴム層が硬くなり、曲げ応力が大きくなる)するため、ベルト巻き付き径の小さい状態では屈曲による損失が大きくなり、省燃費性が低下する問題がある。また、短繊維の使用量が多すぎると、短繊維のゴム組成物中の分散性が低下して分散不良が生じ、その箇所を起点にして圧縮ゴム層に亀裂が早期に発生する虞がある。
【0032】
なお、前記脂肪酸アマイドがアミド結合と長鎖脂肪酸残基とを有するためか、短繊維と圧縮ゴム層を構成するゴム組成物(マトリックスゴム:短繊維を除くゴム組成物)との接着性を向上できる。特に、短繊維として、接着処理された短繊維を用いると、その表面(外層)の接着成分が脂肪酸アマイドと化学的に相互作用し、短繊維と圧縮ゴム層を構成するゴム組成物(マトリックスゴム)との接着性を高めることができる。そのため、圧縮ゴム層のモジュラスや引張強さ、引裂強さをさらに向上できる。
【0033】
ゴム組成物中の短繊維の分散性や接着性の観点から、少なくとも短繊維は接着処理(又は表面処理)するのが好ましい。なお、全ての短繊維が接着処理されている必要はなく、接着処理した短繊維と、接着処理されていない短繊維(未処理短繊維)とが混在し又は併用されていてもよい。
【0034】
短繊維の接着処理では、種々の接着処理、例えば、フェノール類とホルマリンとの初期縮合物(ノボラック又はレゾール型フェノール樹脂のプレポリマーなど)を含む処理液、ゴム成分(又はラテックス)を含む処理液、前記初期縮合物とゴム成分(ラテックス)とを含む処理液、シランカップリング剤、エポキシ化合物(エポキシ樹脂など)、イソシアネート化合物などの反応性化合物(接着性化合物)を含む処理液などで処理することができる。好ましい接着処理では、短繊維は、前記初期縮合物とゴム成分(ラテックス)とを含む処理液、特に少なくともレゾルシン−ホルマリン−ラテックス(RFL)液で処理する。このような処理液は組み合わせて使用してもよく、例えば、短繊維を、慣用の接着性成分、例えば、エポキシ化合物(エポキシ樹脂など)、イソシアネート化合物などの反応性化合物(接着性化合物)で前処理した後、RFL液で処理してもよい。
【0035】
このような処理液、特にRFL液で処理すると、短繊維とゴム組成物とを強く接着できる。RFL液は、レゾルシンとホルムアルデヒドとの初期縮合物と、ゴムラテックスとの混合物である。レゾルシンとホルムアルデヒドとのモル比は、ゴムと短繊維との接着性を向上できる範囲、例えば、前者/後者=1/0.5〜1/3、好ましくは1/0.6〜1/2.5、さらに好ましくは1/0.7〜1/1.5程度に設定でき、1/0.5〜1/1(例えば、1/0.6〜1/0.8)程度であってもよい。ラテックスの種類は特に限定されず、接着対象となるゴム成分の種類に応じて、前記ゴム成分から適宜選択できる。例えば、接着対象となるゴム組成物がクロロプレンゴムを主成分とする場合、ラテックスは、ジエン系ゴム(天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレン−ブタジエン−ビニルピリジン三元共重合体、アクリロニトリルブタジエンゴム(ニトリルゴム)、水素化ニトリルゴムなど)、エチレン−α−オレフィンエラストマー、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、アルキル化クロロスルフォン化ポリエチレンゴムなどであってもよい。これらのラテックスは単独で又は2種以上組み合わせてもよい。好ましいラテックスは、ジエン系ゴム(スチレン−ブタジエン−ビニルピリジン三元共重合体、クロロプレンゴム、ブタジエンゴムなど)、クロロスルホン化ポリエチレンゴムであり、接着性を一層向上させる上ではスチレン−ブタジエン−ビニルピリジン三元共重合体が好ましい。短繊維を少なくともビニルピリジン・スチレン・ブタジエン三元共重合体を含む処理液(RFL液など)で接着処理すると、ゴム組成物(クロロプレンゴム組成物など)と短繊維との接着性を向上できるとともに、脂肪酸アマイドと組み合わせることにより、ゴム組成物と短繊維との接着性をさらに高めることができる。
【0036】
レゾルシンとホルマリンとの初期縮合物の割合は、ラテックスのゴム分100質量部に対して10〜100質量部(例えば、12〜50質量部、好ましくは15〜30質量部)程度であってもよい。なお、RFL液の全固形分濃度は、5〜40質量%の範囲で調整できる。
【0037】
短繊維に対する接着成分(固形分)の付着率は、例えば、1〜25質量%、好ましくは3〜20質量%、より好ましくは5〜15%質量であり、3〜10質量%(例えば、4〜8質量%)程度であってもよい。接着成分の付着率が1質量%未満では、短繊維のゴム組成物中の分散性や、短繊維とゴム組成物との接着性が不十分であり、一方、25質量%を越えて高いと、接着成分が繊維フィラメント同士を強固に固着し、却って分散性が低下する虞がある。
【0038】
接着処理された短繊維の調製方法は特に限定されず、例えば、マルチフィラメントの長繊維を接着処理液に含浸し、乾燥させた後に所定長さにカットする方法、未処理短繊維を接着処理液に所定時間浸漬し、次いで、遠心分離などの方法で余剰の接着処理液を除去した後、乾燥させる方法などが利用できる。
【0039】
加硫剤などの添加剤
ゴム組成物には、必要により、加硫剤又は架橋剤(又は架橋剤系)、共架橋剤、加硫助剤、加硫促進剤、加硫遅延剤、金属酸化物(例えば、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化鉄、酸化銅、酸化チタン、酸化アルミニウムなど)、増強剤(カーボンブラック、含水シリカなどの酸化ケイ素など)、充填剤(クレー、炭酸カルシウム、タルク、マイカなど)、軟化剤(パラフィンオイル、ナフテン系オイルなどのオイル類など)、加工剤又は加工助剤(ステアリン酸、ステアリン酸金属塩、ワックス、パラフィンなど)、老化防止剤(酸化防止剤、熱老化防止剤、屈曲き裂防止材、オゾン劣化防止剤など)、着色剤、粘着付与剤、可塑剤、カップリング剤(シランカップリング剤など)、安定剤(紫外線吸収剤、熱安定剤など)、難燃剤、帯電防止剤などを含んでいてもよい。なお、金属酸化物は架橋剤として作用してもよい。
【0040】
加硫剤又は架橋剤としては、ゴム成分の種類に応じて慣用の成分が使用でき、例えば、前記金属酸化物(酸化マグネシウム、酸化亜鉛など)、有機過酸化物(ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアルキルパーオキサイドなど)、硫黄系加硫剤などが例示できる。硫黄系加硫剤としては、例えば、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄、塩化硫黄(一塩化硫黄、二塩化硫黄など)などが挙げられる。これらの架橋剤又は加硫剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。ゴム成分がクロロプレンゴムである場合、加硫剤又は架橋剤として金属酸化物(酸化マグネシウム、酸化亜鉛など)を使用してもよい。なお、金属酸化物は他の加硫剤(硫黄系加硫剤など)と組合せて使用してもよく、金属酸化物及び/又は硫黄系加硫剤は単独で又は加硫促進剤と組み合わせて使用してもよい。
【0041】
加硫剤の使用量は、加硫剤及びゴム成分の種類に応じて、ゴム成分100質量部に対して、1〜20質量部程度の範囲から選択できる。例えば、加硫剤としての有機過酸化物の使用量は、ゴム成分100質量部に対して、1〜8質量部、好ましくは1.5〜5質量部、さらに好ましくは2〜4.5質量部程度の範囲から選択でき、金属酸化物の使用量は、ゴム成分100質量部に対して、1〜20質量部、好ましくは3〜17質量部、さらに好ましくは5〜15質量部(例えば、7〜13質量部)程度の範囲から選択できる。
【0042】
共架橋剤(架橋助剤、又は共加硫剤co-agent)としては、公知の架橋助剤、例えば、多官能(イソ)シアヌレート[例えば、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアリルシアヌレート(TAC)など]、ポリジエン(例えば、1,2−ポリブタジエンなど)、不飽和カルボン酸の金属塩[例えば、(メタ)アクリル酸亜鉛、(メタ)アクリル酸マグネシウムなど]、オキシム類(例えば、キノンジオキシムなど)、グアニジン類(例えば、ジフェニルグアニジンなど)、多官能(メタ)アクリレート[例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなど]、ビスマレイミド類(脂肪族ビスマレイミド、例えば、N,N’−1,2−エチレンビスマレイミド、1,6’−ビスマレイミド−(2,2,4−トリメチル)シクロヘキサンなど;アレーンビスマレイミド又は芳香族ビスマレイミド、例えば、N−N’−m−フェニレンビスマレイミド、4−メチル−1,3−フェニレビスマレイミド、4,4’−ジフェニルメタンビスマレイミド、2,2−ビス[4−(4−マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’−ジフェニルエーテルビスマレイミド、4,4’−ジフェニルスルフォンビスマレイミド、1,3−ビス(3−マレイミドフェノキシ)ベンゼンなど)などが挙げられる。これらの架橋助剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの架橋助剤のうち、ビスマレイミド類(N,N’−m−フェニレンジマレイミドなどのアレーンビスマレイミド又は芳香族ビスマレイミド)が好ましい。ビスマレイミド類の添加により架橋度を高め、粘着摩耗などを防止できる。
【0043】
共架橋剤(架橋助剤)の割合は、固形分換算で、ゴム成分100質量部に対して、例えば、0.01〜10質量部程度の範囲から選択でき、0.1〜5質量部(例えば、0.3〜4質量部)、好ましくは0.5〜3質量部(例えば、0.5〜2質量部)程度であってもよい。
【0044】
加硫促進剤としては、例えば、チウラム系促進剤[例えば、テトラメチルチウラム・モノスルフィド(TMTM)、テトラメチルチウラム・ジスルフィド(TMTD)、テトラエチルチウラム・ジスルフィド(TETD)、テトラブチルチウラム・ジスルフィド(TBTD)、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド(DPTT)、N,N’−ジメチル−N,N’−ジフェニルチウラム・ジスルフィドなど]、チアゾ−ル系促進剤[例えば、2−メルカプトベンゾチアゾ−ル、2−メルカプトベンゾチアゾ−ルの亜鉛塩、2−メルカプトチアゾリン、ジベンゾチアジル・ジスルフィド、2−(4’−モルホリノジチオ)ベンゾチアゾールなど)など]、スルフェンアミド系促進剤[例えば、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド(CBS)、N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミドなど]、ビスマレイミド系促進剤(例えば、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、N,N’−1,2−エチレンビスマレイミドなど)、グアニジン類(ジフェニルグアニジン、ジo−トリルグアニジンなど)、ウレア系又はチオウレア系促進剤(例えば、エチレンチオウレアなど)、ジチオカルバミン酸塩類、キサントゲン酸塩類などが挙げられる。これらの加硫促進剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの加硫促進剤のうち、TMTD、DPTT、CBSなどが汎用される。
【0045】
加硫促進剤の割合は、固形分換算で、ゴム成分100質量部に対して、例えば、0.1〜15質量部、好ましくは0.3〜10質量部、さらに好ましくは0.5〜5質量部程度であってもよい。
【0046】
増強剤(カーボンブラック、シリカなど)の使用量は、ゴム成分の総量100質量部に対して、10〜100質量部(好ましくは20〜80質量部、さらに好ましくは30〜70質量部)程度であってもよい。また、軟化剤(ナフテン系オイルなどのオイル類)の使用量は、ゴム成分の総量100質量部に対して、例えば、1〜30質量部、好ましくは3〜20質量部(例えば、5〜10質量部)程度であってもよい。老化防止剤の使用量は、ゴム成分の総量100質量部に対して、例えば、0.5〜15質量部、好ましくは1〜10質量部、さらに好ましくは2.5〜7.5質量部(例えば、3〜7質量部)程度であってもよい。
【0047】
ベルトの構造
伝動用ベルトの構造は特に制限されず、プーリと接触可能な前記圧縮ゴム層を有するベルトであればよい。伝動用ベルトは、ベルトの長手方向に心線を埋設した接着ゴム層と、この接着ゴム層の一方の面に形成された圧縮ゴム層とを備えている場合が多く、さらに、前記接着ゴム層の他方の面に形成された伸張ゴム層とを備えていてもよい。なお、前記圧縮ゴム層及び伸張ゴム層は、前記ゴム組成物で形成してもよい。
【0048】
図1は伝動用ベルトの一例を示す概略断面図である。この例では、接着ゴム層1内に心線2が埋設されており、接着ゴム層1の一方の表面には圧縮ゴム層3が積層され、接着ゴム層1の他方の表面には伸張ゴム層4が積層されている。なお、心線2は一対の接着ゴムシートに挟持された形態で一体に埋設されている。さらに、圧縮ゴム層3には補強布5が積層され、コグ付き成形型によりコグ部6が形成されている。圧縮ゴム層3と補強布5との積層体は、補強布と圧縮ゴム層用シート(未加硫ゴムシート)との積層体を加硫することにより一体に形成されている。
【0049】
なお、前記の例では、コグドVベルトの例が図示されているが、前記構造に限らず、前記圧縮ゴム層を有する種々のベルト(例えば、ローエッジベルト、Vリブドベルトなど)に適用できる。
【0050】
接着ゴム層
接着ゴム層を形成するためのゴム組成物は、前記ゴム組成物と同様に、ゴム成分(クロロプレンゴムなど)、加硫剤又は架橋剤(酸化マグネシウム、酸化亜鉛などの金属酸化物、硫黄などの硫黄系加硫剤など)、共架橋剤又は架橋助剤(N,N’−m−フェニレンジマレイミドなどのマレイミド系架橋剤など)、加硫促進剤(TMTD、DPTT、CBSなど)、増強剤(カーボンブラック、シリカなど)、軟化剤(ナフテン系オイルなどのオイル類)、加工剤又は加工助剤(ステアリン酸、ステアリン酸金属塩、ワックス、パラフィンなど)、老化防止剤、接着性改善剤[レゾルシン−ホルムアルデヒド共縮合物、アミノ樹脂(窒素含有環状化合物とホルムアルデヒドとの縮合物、例えば、ヘキサメチロールメラミン、ヘキサアルコキシメチルメラミン(ヘキサメトキシメチルメラミン、ヘキサブトキシメチルメラミンなど)などのメラミン樹脂、メチロール尿素などの尿素樹脂、メチロールベンゾグアナミン樹脂などのベンゾグアナミン樹脂など)、これらの共縮合物(レゾルシン−メラミン−ホルムアルデヒド共縮合物など)など]、充填剤(クレー、炭酸カルシウム、タルク、マイカなど)、着色剤、粘着付与剤、可塑剤、カップリング剤(シランカップリング剤など)、安定剤(紫外線吸収剤、熱安定剤など)、難燃剤、帯電防止剤などを含んでいてもよい。なお、接着性改善剤において、レゾルシン−ホルムアルデヒド共縮合物及びアミノ樹脂は、レゾルシン及び/又はメラミンなどの窒素含有環状化合物とホルムアルデヒドとの初期縮合物(プレポリマー)であってもよい。
【0051】
なお、このゴム組成物において、ゴム成分としては、前記圧縮ゴム層のゴム組成物のゴム成分と同系統(ジエン系ゴムなど)又は同種(クロロプレンゴムなど)のゴムを使用する場合が多い。また、加硫剤又は架橋剤、共架橋剤又は架橋助剤、加硫促進剤、増強剤、軟化剤及び老化防止剤の使用量は、それぞれ、前記圧縮ゴム層のゴム組成物と同様の範囲から選択できる。また、接着ゴム層のゴム組成物において、加工剤又は加工助剤(ステアリン酸など)の使用量は、ゴム成分100質量部に対して、0.1〜10質量部、好ましくは0.5〜5質量部、さらに好ましくは1〜3質量部程度であってもよい。また、接着性改善剤(レゾルシン−ホルムアルデヒド共縮合物、ヘキサメトキシメチルメラミンなど)の使用量は、ゴム成分100質量部に対して、0.1〜20質量部、好ましくは1〜10質量部、さらに好ましくは2〜8質量部程度であってもよい。
【0052】
心線を構成する繊維としては、前記と同様の繊維が例示できる。前記繊維のうち、高モジュラスの点から、エチレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレートなどのC2−4アルキレンアリレートを主たる構成単位とするポリエステル繊維(ポリアルキレンアリレート系繊維)、アラミド繊維などの合成繊維、炭素繊維などの無機繊維などが汎用され、ポリエステル繊維(ポリエチレンテレフタレート系繊維、エチレンナフタレート系繊維)、ポリアミド繊維が好ましい。繊維はマルチフィラメント糸であってもよい。マルチフィラメント糸の繊度は、例えば、2000〜10000デニール(特に4000〜8000デニール)程度であってもよい。
【0053】
心線としては、通常、マルチフィラメント糸を使用した撚りコード(例えば、諸撚り、片撚り、ラング撚りなど)を使用できる。心線の平均線径(撚りコードの繊維径)は、例えば、0.5〜3mm、好ましくは0.6〜2mm、さらに好ましくは0.7〜1.5mm程度であってもよい。心線はベルトの長手方向に埋設され、ベルトの長手方向に平行に所定のピッチで並列的に埋設してもよい。
【0054】
ゴム成分との接着性を改善するため、心線は、前記短繊維と同様の種々の接着処理、例えば、レゾルシン−ホルマリン−ラテックス液(RFL液)による接着処理に供してもよい。接着処理では、一般的に、繊維をRFL液に浸漬後、加熱乾燥して表面に均一に接着層を形成することが行うことができる。RFL液のラテックスとしては、例えば、前記RFL液のラテックスと同様のゴム成分が例示でき、クロロプレン、スチレン−ブタジエン−ビニルピリジン三元共重合体などが好ましい。心線は、RFL処理前にエポキシ化合物、イソシアネート化合物などの反応性化合物による前処理(プレディップ)や、RFL処理後にゴム糊処理(オーバーコーティング)などの接着処理した後に、ゴム層に埋設してもよい。
【0055】
なお、伝動用ベルトにおいて、前記圧縮ゴム層及び/又は前記伸張ゴム層の表面には、補強布を積層してもよい。補強布は、例えば、織布、広角度帆布、編布、不織布などの布材(好ましくは織布)を圧縮ゴム層及び/又は伸張ゴム層の表面に積層することにより形成でき、必要であれば、前記接着処理、例えば、RFL液で処理(浸漬処理など)したり、接着ゴムを前記布材にすり込むフリクションや、前記接着ゴムと前記布材とを積層(コーティング)した後、圧縮ゴム層及び/又は伸張ゴム層の表面に積層してもよい。
【0056】
伝達効率
前記圧縮ゴム層を備えた伝動用ベルトを用いると、伝達効率を大きく向上できる。伝達効率とは、ベルトが駆動プーリからの回転トルクを従動プーリに伝える指標であり、この伝達効率が高いほどベルトの伝動ロスが小さく、省燃費性に優れることを意味する。図2に示す駆動プーリ(Dr.)12と従動プーリ(Dn.)13との二つのプーリにベルト11を掛架した二軸レイアウトにおいて、伝達効率は以下のようにして求めることができる。
【0057】
駆動プーリの回転数をρ、プーリ半径をrとしたとき、駆動プーリの回転トルクTは、ρ×Te×rで表すことができる。Teは張り側張力(ベルトが駆動プーリに向かう側の張力)から緩み側張力(ベルトが従動プーリに向かう側の張力)を差し引いた有効張力である。同様に、従動プーリの回転数をρ、プーリ半径をrとしたとき、従動プーリの回転トルクTは、ρ×Te×rで示される。そして、伝達効率T/Tは、従動プーリの回転トルクTを駆動プーリの回転トルクTで除して算出され、次式で表すことができる。
【0058】
/T=(ρ×Te×r)/(ρ×Te×r)=(ρ×r)/(ρ×r
なお、実際は伝達効率が1以上の値になることはないが、1に近いほどベルトの伝動ロスが小さく、省燃費性に優れていることを表す。
【0059】
ベルトの製造方法は特に制限されず、慣用の方法が採用できる。例えば、前記図1に示すベルトは、心線が埋設され、かつ前記形態の未加硫ゴム層の積層体を成形型で形成し、加硫してベルトスリーブを成形し、この加硫ベルトスリーブを所定サイズにカッティングすることにより形成できる。
【実施例】
【0060】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0061】
実施例1〜7及び比較例1〜2
ゴム層の形成
表1(圧縮ゴム層、伸張ゴム層)及び表2(接着ゴム層)のゴム組成物は、それぞれ、バンバリーミキサーなど公知の方法を用いてゴム練りを行い、この練りゴムをカレンダーロールに通して圧延ゴムシート(圧縮ゴム層用シート、伸張ゴム層用シート、接着ゴム層用シート)を作製した。実施例1と実施例3は、アラミド短繊維の含有量の異なる例を示し、実施例2〜6は、脂肪酸アマイドの含有量が異なる例(0.5〜10質量部)を示し、実施例7と実施例4はアラミド短繊維とカーボンブラックの含有量が異なる例を示している。また、比較例1は、実施例3の処方において、脂肪酸アマイドに代えてステアリン酸を用いた例、比較例2は、実施例7の脂肪酸アマイドに代えて、半分の量のステアリン酸を用いた例を示している。
【0062】
なお、実施例及び比較例では、脂肪酸アマイドとして、ステアリン酸アマイド(構造式C1837NO)(日本化成(株)製「アマイドAP−1」、融点101℃)、短繊維としてアラミド短繊維(平均繊維長3mm、帝人テクノプロダクツ(株)製「コーネックス短繊維」)を用いた。なお、短繊維は、RFL液(レゾルシン及びホルムアルデヒドと、ラテックスとしてのビニルピリジン−スチレン−ブタジエンゴムラテックスとを含有)で接着処理し、固形分の付着率6質量%の短繊維を用いた。RFL液として、レゾルシン2.6質量部、37%ホルマリン1.4質量部、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス(日本ゼオン(株)製)17.2質量部、水78.8質量部を用いた。さらに、可塑剤としてセバケート系オイルであるDOS(DIC(株)製)、カーボンブラックとしてシースト3(東海カーボン(株)製)、老化防止剤としてノンフレックスOD3(精工化学(株)製)を用いた。また、シリカとしてNipsil VN3(東ソー・シリカ(株)製)を用いた。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
ベルトの製造
補強布と圧縮ゴム層用シート(未加硫ゴム)との積層体を、補強布を下にして歯部と溝部とを交互に配した平坦なコグ付き型に設置し、75℃でプレス加圧することによってコグ部を型付けしたコグパッド(完全には加硫しておらず、半加硫状態にある)を作製した。次に、このコグパッドの両端をコグ山部の頂部から垂直に切断した。
【0066】
円筒状の金型に歯部と溝部とを交互に配した内母型を被せ、この歯部と溝部に係合させてコグパッドを巻き付けてコグ山部の頂部でジョイントし、この巻き付けたコグパッドの上に接着ゴム層用シート(未加硫ゴム)を積層した後、心線を螺旋状にスピニングし、この上に接着ゴム層用シート(上記接着ゴム層用シートと同じ)と伸張ゴム層用シート(未加硫ゴム)を順次巻き付けて成形体を作製した。その後、ジャケットを被せて金型を加硫缶に設置し、温度160℃、時間20分で加硫してベルトスリーブを得た。このスリーブをカッターでV状に切断して、図1に示す構造のベルト、すなわち、ベルト内周側にコグを有する変速ベルトであるローエッジコグドVベルト(サイズ:上幅22.0mm、厚み11.0mm、外周長800mm)を作製した。
【0067】
加硫ゴム物性の測定
1)硬度、引張試験、引裂試験
圧縮ゴム層用シートを温度160℃、時間20分でプレス加硫し、加硫ゴムシート(長さ100mm、幅100mm、厚み2mm)を作製した。硬度はJIS K6253に準じ、加硫ゴムシートを3枚重ね合わせた積層物を試料とし、デュロメータA形硬さ試験機を用いて硬度を測定した。
【0068】
引張試験はJIS K6251に準じて行い、加硫ゴムシートをダンベル形に打ち抜いて試料を調製し、試料を引張試験機にて引張り、100%伸張させたときの応力(100%伸張応力)と、破断時の強力(破断強度)及び伸び(破断伸度)を測定した。この測定において、引張方向に対して、短繊維が平行に配向した試料と、短繊維が垂直に配向した試料について引張試験を行い、平行方向に短繊維が配向した試料ついては破断強度、垂直方向に短繊維が配向した試料ついては100%伸張応力、破断強度並びに破断伸度を測定した。
【0069】
引裂試験はJIS K6252に準じて行い、加硫ゴムシートをアングル形に打ち抜いた後、得られた試料を引張試験機で引張り引裂力を測定した。この測定において、引張方向に対して垂直方向(すなわち、引裂方向に対して平行方向)に短繊維が配向した状態で測定した。
【0070】
2)圧縮応力
圧縮ゴム層用シートを温度160℃、時間20分でプレス加硫し、加硫ゴム成形体(長さ25mm、幅25mm、厚み12.5mm)を作製した。短繊維は圧縮面に対して垂直方向(厚み方向)に配向させた。この加硫ゴム成形体を2枚の金属製の圧縮板で上下に挟み込み(加硫成形体が圧縮板で押圧されていない挟み込み状態で、上側の圧縮板の位置を初期位置とする)、上側の圧縮板を10mm/分の速度で加硫ゴム成形体に押圧(押圧面25mm×25mm)して加硫ゴム成形体を20%歪ませ、この状態で1秒間保持した後、圧縮板を上方に初期位置まで戻した(予備圧縮)。この予備圧縮を3回繰り返した後、4回目の圧縮試験(条件は予備圧縮と同じ)で測定される応力−歪み曲線より、加硫ゴム成形体の厚み方向の歪が10%となったときの応力を圧縮応力として測定した。なお、測定データのバラツキを小さくするため予備圧縮を3回行なった。
【0071】
3)曲げ応力
圧縮ゴム層用シートを温度160℃、時間20分でプレス加硫し、加硫ゴム成形体(長さ60mm、幅25mm、厚み6.5mm)を作製した。短繊維は加硫ゴム成形体の幅と平行方向に配向させた。図3に示すように、この加硫ゴム成形体21を、20mmの間隔を空けて回転可能な一対のロール(6mmφ)22a,22b上に置いて支持し、加硫ゴム成形体の上面中央部において幅方向(短繊維の配向方向)に金属製の押さえ部材23を載せた。押さえ部材23の先端部は、10mmφの半円状の形状を有しており、その先端部で加硫ゴム成形体21をスムーズに押圧可能である。また、押圧時には加硫ゴム成形体21の圧縮変形に伴って、加硫ゴム成形体21の下面とロール22a,22bとの間に摩擦力が作用するが、ロール22a,22bを回転可能とすることにより、摩擦による影響を小さくしている。押さえ部材23の先端部が加硫ゴム成形体21の上面に接触し、かつ押圧していない状態を「0」とし、この状態から押さえ部材23を下方に100mm/分の速度で加硫ゴム成形体21の上面を押圧し、加硫ゴム成形体21の厚み方向の歪が10%となったときの応力を曲げ応力として測定した。
【0072】
ベルト物性の測定
1)摩擦係数測定
ベルトの摩擦係数は、図4に示すように、切断したベルト31の一方の端部をロードセル32に固定し、他方の端部に3kgfの荷重33を載せ、プーリ34へのベルトの巻き付け角度を45°にしてベルト31をプーリ34に巻き付けた。そして、ロードセル32側のベルト31を30mm/分の速度で15秒程度引張り、摩擦伝動面の平均摩擦係数を測定した。なお、測定に際して、プーリ34は回転しないように固定した。
【0073】
2)高負荷走行試験
この走行試験では、ベルトが大きく曲げられた状態(小プーリに巻き付いた状態)で走行させたときのベルトの伝達効率を評価した。
【0074】
高負荷走行試験は、図5に示すように、直径50mmの駆動(Dr.)プーリ42と、直径125mmの従動(Dn.)プーリ43とからなる2軸走行試験機を用いて行なった。次に、各プーリ42,43にローエッジコグドVベルト41を掛架し、駆動プーリ42の回転数3000rpmで、従動プーリ43に3N・mの負荷を付与し、室温雰囲気下にてベルト41を走行させた。そして、走行させて直ちに従動プーリ43の回転数を検出器より読取り、前記計算式より伝達効率を求めた。表3では、比較例1の伝達効率を「1」とし、各実施例及び比較例の伝達効率を相対値で示しており、この値が1より大きければベルト41の伝達効率、すなわち省燃費性が高いと判断した。
【0075】
3)高速走行試験
この走行試験では、ベルトがプーリ上をプーリ半径方向外側に摺動させた状態で走行させたときのベルトの伝達効率を評価した。特に、駆動プーリの回転数が大きくなると、ベルトに遠心力が強く作用する。また、駆動プーリの緩み側(図6参照)の位置ではベルト張力が低く作用しており、上記遠心力との複合作用により、この位置でベルトはプーリ半径方向外側に飛び出そうとする。この飛び出しがスムーズに行なわれない、すなわちベルトの摩擦伝動面とプーリとの間に摩擦力が強く作用すると、その摩擦力によりベルトの伝動ロスが生じ、伝達効率が低下することになる。
【0076】
高速走行試験は、図6に示すように、直径95mmの駆動(Dr.)プーリ52と、直径85mmの従動(Dn.)プーリ53とからなる2軸走行試験機を用いて行なった。次に、各プーリ52,53にローエッジコグドVベルト51を掛架し、駆動プーリ52の回転数5000rpm、従動プーリ53に3N・mの負荷を付与し、室温雰囲気下にてベルト51を走行させた。そして、走行させて直ちに従動プーリ52の回転数を検出器より読取り、前記計算式より伝達効率を求めた。表3では、比較例1の伝達効率を「1」とし、各実施例及び比較例の伝達効率を相対値で示しており、この値が1より大きければ伝達効率、すなわち省燃費性が高いと判断した。
【0077】
4)耐久走行試験
耐久走行試験は、図7に示すように、直径50mmの駆動(Dr.)プーリ62と、直径125mmの従動(Dn.)プーリ63とからなる2軸走行試験機を用いて行なった。次に、各プーリ62,63にローエッジコグドVベルト61を掛架し、駆動プーリ62の回転数5000rpm、従動プーリ63に10N・mの負荷を付与し、雰囲気温度80℃にてベルト61を最大60時間走行させた。ベルト61が60時間走行すれば耐久性は問題ないと判断した。また、走行後の圧縮ゴム側面(プーリと接する面)を目視観察して亀裂の有無を調べた。
【0078】
結果
加硫ゴム物性とベルト物性を表3に示す。
【0079】
【表3】

【0080】
表3から明らかなように、実施例では、硬度を大きくしなくても、破断強度(短繊維平行方向)、100%伸張応力、引裂力及び破断伸度が高く、伝達効率(高負荷走行、高速走行)及び耐久性が高く、省燃費性に優れていた。また、硬度が高くても、破断強度、引裂力が高く、伝達効率(高負荷走行、高速走行)及び耐久性が高い。より詳細には、以下の通りである。
【0081】
1)加硫ゴム物性
実施例2〜6から、脂肪酸アマイドの含有量が多くなると、硬度の低下が若干認められたが顕著な差ではなかった。短繊維及びカーボンブラックの含有量の多い実施例7及び比較例2では、硬度が94°と非常に高くなった。実施例3と比較例1との対比から、脂肪酸アマイドをステアリン酸に変更しても硬度は変わらなかった。
【0082】
実施例2〜6から、脂肪酸アマイドの増量に伴って破断強度(短繊維平行方向)、100%伸張応力、引裂力が高くなる傾向にある。この理由は、脂肪酸アマイドと短繊維の接着成分とが化学的に相互作用し、短繊維とゴム組成物との接着性が向上したためと考えられる。特に、短繊維の弾性率が反映されにくい短繊維垂直方向の100%伸張応力が増大していることから、前記相互作用を裏付けていると思われる。また、実施例3と比較1との対比から、脂肪酸アマイドは、ステアリン酸に比べて、破断強度(短繊維平行、垂直方向)、100%伸張応力、引裂力の何れも高い値を示した。破断伸度は脂肪酸アマイドの配合量が増えるに伴い低下傾向にある。この理由は、短繊維とゴム組成物との接着性が向上してモジュラスが高くなったためと考えられる。
【0083】
脂肪酸アマイドが内部潤滑剤として作用し、マトリックスゴムが柔軟になったためか、圧縮応力と曲げ応力は、脂肪酸アマイドの増量に伴って、低下する傾向が認められた。短繊維及びカーボンブラックの含有量の多い実施例7及び比較例2では、圧縮応力と曲げ応力が非常に高くなった。
【0084】
2)ベルト物性
圧縮ゴム層の表面に脂肪酸アマイドがブルームしたため、脂肪酸アマイドの増量に伴って摩擦係数が低下する傾向にあるが、所定量(実施例4の4質量部程度)を超えると、摩擦係数に大きな差異がみられなかった。
【0085】
比較例1に比べて実施例1〜6では、伝達効率(高負荷走行、高速走行)が高く、省燃費性に優れていた。また、脂肪酸アマイドの配合量が多いほど、伝達効率が高い。
【0086】
短繊維及びカーボンブラックの含有量の多い実施例7及び比較例2では、いずれも非常に高い曲げ応力を示しているものの、比較例2では伝達効率が最も低いのに対して、実施例7では高い伝達効率を示した。
【0087】
実施例1〜7では脂肪酸アマイドが圧縮ゴム層の表面にブルームするためか、高速走行性が向上し、ベルトのプーリ半径方向外側への飛び出しがスムーズとなり、ベルトの伝動ロスが小さくなった。
【0088】
耐久走行については、実施例1〜7は60時間走行し、圧縮ゴム層には亀裂が生じておらず、高い耐久性を示した。これに対して、比較例1では、圧縮ゴム層と接着ゴム層との間に剥離が生じ、25時間で寿命となり、比較例2では60時間走行したが、短繊維及びカーボンブラックの含有量が多く、硬度が大きく、引裂力が低いため、圧縮ゴム層に亀裂が生じた。
【0089】
実施例8及び比較例3
脂肪酸アマイド及びステアリン酸と短繊維の種類との関係について検討するため、加硫ゴム物性を評価した。デニム未処理品(長さ6mm程の短繊維)を前記実施例1で用いたRFL液に10分間浸漬処理(ラテックスはビニルピリジン−スチレン−ブタジエン三元共重合体)した後、余剰のRFL液を遠心分離して除去し、160℃、1時間の条件で乾燥オーブンにて乾燥させてデニム処理品を作製した。得られたデニム処理品のRFL成分の付着率は13質量%であった。
【0090】
上記デニム処理品(以下、処理デニム)を用いるとともに、実施例8では脂肪酸アマイドを用い、比較例3では脂肪酸アマイドに変えてステアリン酸を用い、実施例3と同様にして、圧延ゴムシートを作製した。この圧延ゴムシートを温度160℃、時間20分でプレス加硫を行い、加硫ゴムシート(長さ100mm、幅100mm、厚み2mm)を作製した。
【0091】
上記と同様にして、加硫ゴム物性として、硬度、100%伸張応力、破断強度、破断伸度、引裂力を測定した。結果を表4に示す。
【0092】
【表4】

【0093】
表から、処理デニム(実施例8)を用いると、短繊維平行方向の破断強度、短繊維垂直方向の100%伸張応力、破断強度、引裂力が何れも高い値を示し、破断伸度は低下した。また、ステアリン酸(比較例5)に比べて、脂肪酸アマイド(実施例8)では、短繊維平行方向の破断強度、短繊維垂直方向の100%伸張応力、破断強度、引裂力が何れも高く、破断伸度は低かった。なお、このような傾向は、前記アラミド短繊維(実施例3と比較例1との比較)でも確認されており、繊維種には無関係であることが判明した。
【0094】
実施例9〜10
脂肪酸アマイドとして、ビスアマイド(エチレンビスオレイン酸アマイド(構造式C3872)、日本化成(株)製「スリパックスO」、融点119℃)、エステルアマイド(エタノールアミンジステアレート、日本化成(株)製「スリエイドS」、融点100℃)を用いる以外、実施例3と同様にして、加硫ゴムシートを作製した。加硫ゴム物性の結果を表5に示す。なお、参考までに実施例3及び比較例1のデータも併記する。
【0095】
【表5】

【0096】
脂肪酸アマイドを用いた実施例3、9、10では、ステアリン酸を用いた比較例1に比べて、短繊維平行方向の破断強度、短繊維垂直方向の100%伸張応力、破断強度、引裂力が何れも高い値を示し、破断伸度は低下した。脂肪酸アマイドに関して、概ね、ビスアマイド、脂肪酸エステルアマイド、脂肪酸モノアマイドの順に、短繊維平行方向での100%伸張応力、破断強度が高かった。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明の伝動用ベルトは、伝動ロスが求められる種々のベルトとして利用でき、摩擦伝動用ベルトであるのが好ましい。摩擦伝動用ベルトとしては、例えば、断面がV字形状のローエッジベルト、ローエッジベルトの内周側又は内周側及び外周側の両方にコグを設けたローエッジコグドVベルト、Vリブドベルトなどが例示できる。特に、ベルト走行中に変速比が無段階で変わる変速機に使用されるベルト(変速ベルト)に適用するのが好ましい。
【符号の説明】
【0098】
1…接着ゴム層
2…心線
3…圧縮ゴム層
4…伸張ゴム層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルトの長手方向に心線を埋設した接着ゴム層と、この接着ゴム層の一方の面に形成された圧縮ゴム層と、前記接着ゴム層の他方の面に形成された伸張ゴム層とを備えた伝動用ベルトであって、少なくとも前記圧縮ゴム層が、脂肪酸アマイドと短繊維とを含む伝動用ベルト。
【請求項2】
短繊維が、少なくとも接着処理された短繊維を含む請求項1記載の伝動用ベルト。
【請求項3】
脂肪酸アマイドが、飽和又は不飽和長鎖脂肪酸アマイド及び飽和又は不飽和長鎖脂肪酸エステルアマイドから選択された少なくとも一種を含む請求項1又は2記載の伝動用ベルト。
【請求項4】
短繊維が、少なくともアラミド繊維を含む請求項1〜3のいずれかに記載の伝動用ベルト。
【請求項5】
圧縮ゴム層のゴムがクロロプレンゴムであり、脂肪酸アマイドが少なくとも炭素数10〜26の飽和又は不飽和脂肪酸モノアマイドであり、短繊維に少なくともレゾルシンとホルマリンとの初期縮合物及びラテックスを含む接着成分が付着している請求項1〜4のいずれかに記載の伝動用ベルト。
【請求項6】
短繊維に、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン三元共重合体を含む接着成分が付着している請求項1〜5のいずれかに記載の伝動用ベルト。
【請求項7】
圧縮ゴム層を構成するゴム組成物が、原料ゴム100質量部に対して、脂肪酸アマイド0.5〜10質量部、短繊維10〜40質量部の割合で含む請求項1〜6のいずれかに記載の伝動用ベルト。
【請求項8】
伝動用ベルトの圧縮ゴム層及び伸張ゴム層から選択された少なくとも1つのゴム層を形成するためのゴム組成物であって、ゴム成分と脂肪酸アマイドと短繊維とを含むゴム組成物。
【請求項9】
短繊維が、少なくとも接着処理された短繊維を含む請求項8記載のゴム組成物。
【請求項10】
伝動用ベルトの圧縮ゴム層を、請求項8又は9記載のゴム組成物で形成し、伝動ロスを低減する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−241831(P2012−241831A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113777(P2011−113777)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】