説明

伝導ノイズ抑制構造体および配線回路基板

【課題】電源線路を伝わる伝導ノイズを抑制でき、電源電圧の安定化を図るとともに、電源線路またはグランド層を介在して伝わる信号伝送線路クロストークを、抵抗層に影響されることなく低減できる伝導ノイズ抑制構造体および配線回路基板を提供する。
【解決手段】同一面上に互いに離間して設けられた電源線路11および信号伝送線路12と、電源線路11および信号伝送線路12と離間して対向配置されたグランド層13と、電源線路11およびグランド層13と離間して対向配置された抵抗層14とを有し、抵抗層14の幅W2が電源線路11の幅W1より狭く、抵抗層14が電源線路11と対向している領域(I)および電源線路11と対向していない領域(II)を有し、抵抗層14と信号伝送線路12とが離間している伝導ノイズ抑制構造体10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝導ノイズ抑制構造体およびこれを備えた配線回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ユビキタス社会が訪れ、情報処理機器(サーバ、ワークステーション、パソコン、ゲーム機器等。)、通信機器(携帯電話等。)等の電子機器にあっては、光モジュールによる光/電気変換による信号伝送速度の向上、小型化が進んでいる。また、MPU(マイクロプロセッサユニット)の高速化、多機能化、複合化、ならびに記録装置(メモリ等。)の高速化が進行している。
【0003】
しかし、これらの機器から放射されるノイズ、または機器内の導体を伝導するノイズがもたらす、自身または他の電子機器への誤作動が問題となってきている。これらノイズとしては、レーザーダイオード、フォトダイオード、MPU、電子部品等における、配線回路基板内の信号伝送線路等とのインピーダンス不整合に基づくノイズ、各線路間のクロストーク、MPU等の半導体素子の同時スイッチングによる電源層とグランド層との層間の平行平板共振によって誘起されるノイズ等がある。
【0004】
これらノイズを抑制する配線回路基板としては、下記のものが提案されている。
(i)表面に搭載された電子部品に電源を供給するために用いられる、電源層とグランド層とを有する配線回路基板において、電源層を、配線回路化した低抵抗導体層と高抵抗導体層との積層体で構成した配線回路基板(特許文献1)。
(ii)電源層とグランド層との平行平板構造を有する配線回路基板において、電源層またはグランド層を、抵抗性導体膜と電子部品電流供給パターンとの一体化物で構成し、抵抗性導体膜の厚さを、電子部品電流供給パターンの1/10以下とした配線回路基板(特許文献2)。
【0005】
(i)、(ii)の配線回路基板はいずれも、電源層に高抵抗の損失層(前記高抵抗導体層または抵抗性導体膜)を接続させることによって、電源層中に流れる高周波ノイズ電流(伝導ノイズ)を損失させて、電源層とグランド層との平行平板共振を抑え、電源電圧の変動を抑えようとするものである。
【0006】
しかし、電源層に接続された高抵抗の損失層は、大きな面積を占有してしまう。実際の電子機器の配線回路基板は実装密度が高いため、電源層を回路パターン化した電源線路の近傍にも信号伝送線路が存在する。このため、電源線路に高抵抗の損失層を接続して設けると、信号伝送線路へのクロストーク、信号伝達の遅延、電圧が低下して閾値を超えることができない等、信号波形の品質が低下しやすい問題がある。そのため、(i)、(ii)の配線回路基板は、実用化に至っていない。
【特許文献1】特開2003−283073号公報
【特許文献2】特開2006−49496号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、電源線路を伝わる伝導ノイズを抑制でき、電源電圧の安定化を図るとともに、電源線路またはグランド層を介在して伝わる信号伝送線路クロストークを、抵抗層に影響されることなく低減できる伝導ノイズ抑制構造体、および該伝導ノイズ抑制構造体を備えた配線回路基板を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の伝導ノイズ抑制構造体は、同一面上に互いに離間して設けられた電源線路および信号伝送線路と、電源線路および信号伝送線路と離間して対向配置されたグランド層と、電源線路およびグランド層と離間して対向配置された抵抗層とを有し、電源線路の幅方向における電源線路の幅W1と、電源線路の幅方向における抵抗層の幅W2とが、下記式(1)を満足し、抵抗層が、電源線路と対向している領域(I)および電源線路と対向していない領域(II)を有し、電源線路の幅方向において、抵抗層と信号伝送線路とが離間していることを特徴とする。
W1≧W2 ・・・(1)。
【0009】
本発明の伝導ノイズ抑制構造体は、さらに、隣り合う電源線路と信号伝送線路との間に設けられたグランド線路を有していてもよく、この際、電源線路の幅方向における抵抗層と信号伝送線路との間隙の幅Dと、電源線路の幅方向におけるグランド線路と信号伝送線路との線間距離L2とが、下記式(2)を満足することが好ましい。
D>L2 ・・・(2)。
【0010】
本発明の伝導ノイズ抑制構造体においては、電源線路の幅方向における抵抗層と信号伝送線路との間隙の幅Dと、電源線路の厚さ方向における電源線路と抵抗層との距離Tと、電源線路の幅W1と、電源線路の幅方向における電源線路と信号伝送線路との距離Lとが、下記式(3)を満足することが好ましい。
3T≦D<(L+W1) ・・・(3)。
【0011】
抵抗層は、電源線路とグランド層の間に設けられ、電源線路の厚さ方向における電源線路と抵抗層との距離Tと、電源線路の厚さ方向におけるグランド層と抵抗層との距離Tgとが、下記式(4)を満足することが好ましい。
T<Tg ・・・(4)。
【0012】
電源線路の厚さ方向における電源線路と抵抗層との距離Tは、2〜100μmであることが好ましい。
抵抗層は、物理的蒸着により形成された、厚さ5〜300nmの層であることが好ましい。
本発明の配線回路基板は、本発明の伝導ノイズ抑制構造体を具備するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の伝導ノイズ抑制構造体および配線回路基板によれば、電源線路の伝導ノイズを抑制でき、電源電圧の安定化を図るとともに、電源線路またはグランド層を介在して伝わる信号伝送線路クロストークを、抵抗層に影響されることなく低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本明細書において「対向」しているとは、上面から見たときに少なくとも一部が重なり合う状態をいう。
また、本明細書においては、電源線路の幅方向を「X方向」、電源線路の長さ方向を「Y方向」、電源線路の厚さ方向を「Z方向」と記す。
【0015】
<伝導ノイズ抑制構造体>
(第1の実施形態)
図1は、本発明の伝導ノイズ抑制構造体の第1の実施形態を示す断面斜視図である。
伝導ノイズ抑制構造体10は、いわゆる両面基板であり、該基板の表面(同一面)上に互いに離間してY方向に併走して設けられた電源線路11および2本の信号伝送線路12と、絶縁層15を介することによって電源線路11および信号伝送線路12と離間して対向配置された、基板の裏面全体を覆う表面グランド層13と、絶縁層15を介することによって電源線路11およびグランド層13と離間して対向配置された、Y方向に延びる2つの抵抗層14とを有する。
【0016】
2つ抵抗層14は、同一面上に互いに離間して設けられ、それぞれの抵抗層14は、電源線路11と対向している領域(I)および電源線路11と対向していない領域(II)を有し、かつ抵抗層14は、X方向において信号伝送線路12と離間している。
【0017】
伝導ノイズ抑制構造体10においては、X方向における電源線路11の幅W1と、X方向における各抵抗層14の幅W2とは、下記式(1)を満足する、すなわち、各抵抗層14の幅は、常に電源線路11の幅以下であることが必要である。
W1≧W2 ・・・(1)。
【0018】
抵抗層14は、その一部が領域(I)にて電源線路11と対向すれば、電源線路11の伝導ノイズを抑制できることから、配線回路基板の実装密度を高めるために、抵抗層14はできるだけ面積を小さくすることが好ましい。したがって、各抵抗層14の幅は、常に電源線路11の幅以下とする。
【0019】
伝導ノイズ抑制構造体10においては、電源線路11を流れる高周波ノイズ電流(伝導ノイズ)を以下のように抑制するものと考えられる。
すなわち、電源線路11を流れる高周波ノイズ電流は、電源線路11の縁端部に集中して流れているため、該電流によって発生する磁束は、電源線路11の縁端部から外方に広がり、該磁束の一部は抵抗層14と鎖交する。これにより抵抗層14と電源線路11とが電磁結合するため、抵抗層14と鎖交する磁束密度が変化すると、該磁束密度の変化を打ち消す逆の磁束密度が起きるように、抵抗層14中に渦電流が発生する。抵抗層14中に流れる電流は、抵抗によって熱に変化し、結果として電源線路11を流れる元の高周波ノイズ電流のエネルギーを損失させるものと考えられる。
【0020】
前記メカニズムから、抵抗層14は、電源線路11の縁端部(すなわち、磁束密度の変化が起きている箇所)に対向して配置することが必要で、電源線路11の中央部分の直下(例えば、図1中、抵抗層14が分断されている箇所)に抵抗層14を設けても、伝導ノイズ抑制効果に何も寄与しない。
よって、抵抗層14が電源線路11の縁端部に対向して配置されるようにするためには、抵抗層14は、電源線路11と対向している領域(I)および電源線路11と対向していない領域(II)を有する必要がある。
【0021】
この際、抵抗層14が信号伝送線路12とグランド層13との間に存在すると、信号伝送線路12を伝わる信号も抑制することとなるため、図1に示すように、信号伝送線路12と対向する位置に抵抗層14を設けることは避けなければならない。また、抵抗層14には高周波ノイズ電流が流れ、該抵抗層14から、特にはその縁端部から、電磁界放射が行われているため、抵抗層14の近くに信号伝送線路12があると、電源線路11の高周波ノイズ電流が抵抗層14を介して信号伝送線路12に影響するおそれがある。このため、抵抗層14の縁端部と信号伝送線路12の縁端部とを離間させることが必要となる。
【0022】
伝導ノイズ抑制構造体10においては、X方向における、信号伝送線路12に近い方の抵抗層14と抵抗層14に近い方の信号伝送線路12との間隙の幅Dと、Z方向における電源線路11と抵抗層14との距離Tと、X方向における電源線路11の幅W1と、X方向における電源線路11と電源線路11に近い方の信号伝送線路12との距離Lとが、下記式(3)を満足することが好ましい。
3T≦D<(L+W1) ・・・(3)。
【0023】
Dが、3Tより小さいと、電源線路11を伝わる伝導ノイズが、信号伝送線路12に伝わりやすくなる。信号伝送線路12はマイクロストリップ構造を有し、決められたインピーダンスを持つように構造が決定されており、抵抗層14が近くなると、信号伝送線路12のインピーダンスが変化するため、その影響を最小にするためにも、Dを3T以上とすることが好ましい。
【0024】
Dが(L+W1)以上であると、電源線路11と抵抗層14とが対向しなくなる。そうなると、電源線路11の縁端部より生じる磁束密度の変化を抵抗層14で捕捉することができなくなるため、抵抗層14を設けることによる伝導ノイズ抑制効果は全くなくなる。伝導ノイズ抑制効果の点からは、Dは、Lより小さいほうが好ましい。
【0025】
伝導ノイズ抑制構造体10においては、Z方向における電源線路11と抵抗層14との距離Tと、Z方向におけるグランド層13と抵抗層14との距離Tgとが、下記式(4)を満足することが好ましい。
T<Tg ・・・(4)。
【0026】
電源線路11とグランド層13との間に存在する絶縁層15において、抵抗層14がグランド層13より電源線路11に近くなるように抵抗層14を設けることによって、伝導ノイズ抑制効果が高くなる。
【0027】
Tは、基板の厚さにもよるが、2〜100μmが好ましく、5〜50μmがより好ましい。Tが2μm未満では、絶縁性の保持が困難となり、例えば電圧の異なる電源線路が隣接して設けられている場合にはリークが発生し不都合となる。Tが100μmを超えると、電源線路11からの磁束密度の変化が弱まることから、伝導ノイズ抑制効果が弱まる。
【0028】
Lは、個別のパターン設計によるが、10〜5000μmが好ましく、100〜1000μmがより好ましい。
【0029】
(第2の実施形態)
図2は、本発明の伝導ノイズ抑制構造体の第2の実施形態を示す断面斜視図である。
伝導ノイズ抑制構造体20は、いわゆる両面基板であり、該基板の表面(同一面)上に互いに離間してY方向に併走して設けられた電源線路11および2本の信号伝送線路12と、絶縁層15を介することによって電源線路11および信号伝送線路12と離間して対向配置された、基板の裏面全体を覆う表面グランド層13と、絶縁層15を介することによって電源線路11およびグランド層13と離間して対向配置された、Y方向に延びる抵抗層14と、隣り合う電源線路11と信号伝送線路12との間に、これらと離間してY方向に併走して設けられた2本のグランド線路16とを有する。
【0030】
抵抗層14は、電源線路11と対向している領域(I)および電源線路11と対向していない領域(II)を有し、かつ抵抗層14は、X方向において信号伝送線路12と離間している。
【0031】
伝導ノイズ抑制構造体20においては、伝導ノイズ抑制構造体10おける理由と同じ理由から、X方向における電源線路11の幅W1と、X方向における抵抗層14の幅W2とは、下記式(1)を満足する、すなわち、抵抗層14の幅は、常に電源線路11の幅より狭いことが必要である。
W1≧W2 ・・・(1)。
【0032】
伝導ノイズ抑制構造体20においては、電源線路11を流れる高周波ノイズ電流(伝導ノイズ)を、伝導ノイズ抑制構造体10と同じメカニズムによって抑制するものと考えられる。
【0033】
伝導ノイズ抑制構造体20においては、X方向における抵抗層14と抵抗層14に近い方の信号伝送線路12との間隙の幅Dと、X方向におけるグランド線路16と信号伝送線路12との線間距離L2とが、下記式(2)を満足することが好ましい。
D>L2 ・・・(2)。
【0034】
DがL2以下となると、電源線路11と信号伝送線路12との間のクロストークが強まり、電源線路11に乗っている高周波ノイズが信号伝送線路12に伝搬される。
【0035】
伝導ノイズ抑制構造体20においては、伝導ノイズ抑制構造体10おける理由と同じ理由から、X方向における、抵抗層14と抵抗層14に近い方の信号伝送線路12との間隙の幅Dと、Z方向における電源線路11と抵抗層14との距離Tと、X方向における電源線路11の幅W1と、X方向における電源線路11と電源線路11に近い方の信号伝送線路12との距離Lとが、下記式(3)を満足することが好ましい。
3T≦D<(L+W1) ・・・(3)。
【0036】
信号伝送線路12はコプレーナ構造を有し、決められたインピーダンスを持つように構造が決定されており、抵抗層14が、グランド線路16を超えて信号伝送線路12に近くなると、信号伝送線路12のインピーダンスが変化するおそれがある。その影響を最小にするためにも、Dを3T以上とすることが好ましい。
【0037】
伝導ノイズ抑制構造体20においては、伝導ノイズ抑制構造体10おける理由と同じ理由から、Z方向における電源線路11と抵抗層14との距離Tと、Z方向におけるグランド層13と抵抗層14との距離Tgとが、下記式(4)を満足することが好ましい。
T<Tg ・・・(4)。
【0038】
以上説明した本発明の伝導ノイズ抑制構造体にあっては、同一面上に互いに離間して設けられた電源線路および信号伝送線路と、電源線路および信号伝送線路と離間して対向配置されたグランド層と、電源線路およびグランド層と離間して対向配置された抵抗層とを有し、抵抗層が、電源線路と対向している領域(I)および電源線路と対向していない領域(II)を有するため、抵抗層の幅W2を電源線路の幅W1よりも狭くしても、電源線路を伝わる伝導ノイズを抑制できる。また、グランド層を伝わる伝導ノイズも抑制される。また、電源線路を伝わる伝導ノイズが抑制されることによって、電源電圧が安定化され、その結果、電源系からの放射ノイズの発生も抑えられる。
【0039】
さらに、X方向において、抵抗層と信号伝送線路とが離間しているため、信号伝送線路クロストーク等を引き起こす近傍界の放射電磁界強度を、信号波形品質を損なうことなく低減できる。
すなわち、実装密度が高いために、電源線路と同一面上で、かつ電源線路の近傍に信号伝送線路が存在する場合であっても、抵抗層を電源線路に接続して設けることなく電源線路を伝わる伝導ノイズを抑制できることから、抵抗層を信号伝送線路から離間して設けることが可能となり、抵抗層の影響によって発生する信号伝送線路クロストーク等の信号波形品質の低下を抑えることができる。
【0040】
<配線回路基板>
本発明の伝導ノイズ抑制構造体は、電源線路、信号伝送線路およびグランド層を有しており、該構造体自体を配線回路基板として用いることができる。
また、本発明の伝導ノイズ抑制構造体の上面および/または下面に、さらに絶縁層を介して銅箔を積層し、回路を形成して多層配線回路基板を構成することもできる。このとき、上層の導体と下層の導体とを連結するためのビア等が抵抗層を貫通する場合は、抵抗層にアンチパッドを形成して、絶縁性を確保することが好ましい。
【0041】
(導体層)
電源線路、信号伝送線路、グランド線路およびグランド層は、それぞれ導体層からなる。導体層としては、金属箔;金属粒子を高分子バインダー、ガラス質バインダー等に分散させた導電粒子分散体膜等が挙げられる。金属としては、銅、銀、金、アルミニウム、ニッケル、タングステン等が挙げられる。
配線回路基板における導体層は、通常、銅箔である。銅箔の厚さは、通常3〜35μmである。銅箔は、絶縁層との接着性を向上させるために、粗面化処理、またはシランカップリング剤等による化成処理が施されていてもよい。
【0042】
(抵抗層)
抵抗層は、金属材料または導電性セラミックスを含む厚さ5〜300nmの物理的蒸着により形成された薄膜であることが好ましい。抵抗層の厚さが5nmより小さいと抵抗層の形成が不充分となりやすく、伝導ノイズ抑制効果が充分に得られない。抵抗層の厚さが300nmを超えると、表面抵抗が小さくなって金属反射が強まり、伝導ノイズ抑制効果も小さくなる。
抵抗層の厚さは、Z方向に沿う断面の高分解能透過型電子顕微鏡像をもとにして、5箇所の厚さを電子顕微鏡像上で測定し、平均することにより求める。
【0043】
抵抗層の表面抵抗は、1×10〜1×10Ωが好ましい。抵抗層が均質な薄膜である場合は、体積抵抗率の高い限られた材料が必要となるが、体積抵抗率がそれほど高くない材料を用いる場合は、抵抗層に金属材料または導電性セラミックスが存在しない物理的な欠陥を設けて不均質な薄膜とすること、または後述のマイクロクラスターの連鎖物からなる膜とすることによって、表面抵抗を上昇させることができる。
【0044】
抵抗層の表面抵抗は、以下のように測定する。
石英ガラス上に金等を蒸着して形成した、2本の薄膜金属電極(長さ10mm、幅5mm、電極間距離10mm)を用い、該電極上に被測定物を置き、被測定物上に、大きさ10mm×20mmを50gの荷重で押し付け、1mA以下の測定電流で電極間の抵抗を測定する。この値を持って表面抵抗とする。
【0045】
図3は、絶縁層の表面に物理的蒸着法によって形成された金属材料からなる厚さ50nmの抵抗層の表面を観察した原子間力顕微鏡像である。抵抗層は、複数のマイクロクラスターの集合体として観察される。マイクロクラスターには物理的な欠陥があって、均質な薄膜となっておらず、抵抗を有する構造となる。また、欠陥を通してエポキシ樹脂等の接着性成分が貫通し、適切な接着強度を有するものとなっている。
【0046】
抵抗層に用いられる金属材料としては、強磁性金属、常磁性金属が挙げられる。強磁性金属としては、鉄、カルボニル鉄;Fe−Ni、Fe−Co、Fe−Cr、Fe−Si、Fe−Al、Fe−Cr−Si、Fe−Cr−Al、Fe−Al−Si、Fe−Pt等の鉄合金;コバルト、ニッケル;これらの合金等が挙げられる。常磁性金属としては、金、銀、銅、錫、鉛、タングステン、ケイ素、アルミニウム、チタン、クロム、モリブデン、それらの合金、強磁性金属との合金等が挙げられる。これらのうち、酸化に対して抵抗力のある点で、ニッケル、鉄クロム合金、タングステン、貴金属が好ましい。しかし、貴金属は高価であるため、実用的にはニッケル、鉄クロム合金、タングステンが好ましく、ニッケルまたはニッケル合金が特に好ましい。
【0047】
抵抗層に用いられる導電性セラミックスとしては、金属と、ホウ素、炭素、窒素、ケイ素、リンおよび硫黄からなる群から選ばれる1種以上の元素とからなる合金、金属間化合物、固溶体等が挙げられる。具体的には窒化ニッケル、窒化チタン、窒化タンタル、窒化クロム、窒化ジルコニウム、炭化チタン、炭化ケイ素、炭化クロム、炭化バナジウム、炭化ジルコニウム、炭化モリブデン、炭化タングステン、ホウ化クロム、ホウ化モリブデン、ケイ化クロム、ケイ化ジルコニウム等が挙げられる。
【0048】
導電性セラミックスは、金属よりも体積抵抗が高いため、導電性セラミックスを含む抵抗層は、表面抵抗を厚さによって管理する精度が高まり、さらに、化学安定性が高く、保存安定性が高い等の利点を有する。導電性セラミックスとしては、物理的蒸着法において、窒素ガス、メタンガス等の反応性ガスを用いることによって容易に得られる窒化物または炭化物が、特に好ましい。
【0049】
抵抗層の形成方法としては、物理的蒸着法が用いられる。この方法においては、条件や用いる材料によっても異なるが、厚さの制御が出力と時間で簡単に精度よく行えるため、薄膜の成長を初期の段階で終了することにより、均質な薄膜とならず、微細な物理的な欠陥を有する不均質な薄膜を容易に形成できる。
また、均質な薄膜を酸等によりエッチングして欠陥を形成する方法、レーザーアブレーションにより均質な薄膜に欠陥を形成する方法によっても、不均質な薄膜を形成でき表面抵抗を調整できる。
【0050】
(絶縁層)
絶縁層は、一般的な有機または無機の絶縁材料を用いて構成できる。例えば、エポキシ樹脂、BTレジン、フッ素樹脂、ポリイミド等の有機材料を、必要があれば、ガラスネット等の補強材と一体化した材料を用いることができる。または、シリコン、アルミナ、ガラス等の無機材料も用いることができる。
【0051】
(製造方法)
本発明の伝導ノイズ抑制構造体は、例えば以下のようにして製造される。
まず、銅箔上にエポキシ系ワニス等を塗布し、乾燥、硬化させ、第1の絶縁層を形成する。該絶縁層上に抵抗層となる層を、EB蒸着、高周波イオンプレーティング、高周波マグネトロンスパッタリング、DCマグネトロンスパッタリング、対向ターゲット型マグネトロンスパッタリング等の物理的蒸着法で形成し、レーザーアブレーションを施して所定のパターン形状の抵抗層を形成する。抵抗層となる層は薄膜であるため不要な部分を容易に除去してパターニングすることができる。
【0052】
ついで、抵抗層上に、エポキシ樹脂等をガラス繊維等に含浸させてなるプリプレグおよび銅箔を順に積層し、プリプレグを硬化させて第2の絶縁層とする。こうして表面および裏面が銅箔からなる両面基板が得られる。
ついで、フォトリソグラフィー法等により銅箔を所定のパターン形状にエッチングして、電源線路、信号伝送線路、グランド線路等を形成し、伝導ノイズ抑制構造体を得る。
【0053】
その後、必要であれば伝導ノイズ抑制構造体の片面または両面上にプリプレグを介して銅箔を貼り合わせ、公知の方法でパターニングすることにより多層配線回路基板を製造することができる。
【実施例】
【0054】
(抵抗層の厚さ)
透過型電子顕微鏡(日立製作所社製、H9000NAR)を用いて抵抗層の断面を観察し、5箇所のノイズ抑制層の厚さを測定し、平均した。
【0055】
(表面抵抗)
石英ガラス上に金等を蒸着して形成した、2本の薄膜金属電極(長さ10mm、幅5mm、電極間距離10mm)を用い、該電極上に被測定物を置き、被測定物上に、大きさ10mm×20mmを50gの荷重で押し付け、1mA以下の測定電流で電極間の抵抗を測定し、この値を持って表面抵抗とした。
【0056】
(伝導ノイズ抑制効果、クロストーク)
伝導ノイズ抑制効果の確認として、図4または図5に示すポート1、ポート2間のS21パラメータを評価した。
また、抵抗層の信号伝送路への影響の確認として、図4または図5に示すポート1、ポート3間(近端クロストーク)のS31パラメータ、および図4または図5に示すポート1、ポート4間(遠端クロストーク)のS41パラメータを評価した。
1GHz以上の高い周波数帯域での実測は困難を極めるため、これらの評価は、3D電磁界シミュレータ(アジレント社製、製品名:EMDS)を用いて解析する方法で行った。導電率は80000S/mを用いた。
【0057】
〔実施例1〕
図4に示す、電源線路、信号伝送線路、グランド層および抵抗層を有する伝導ノイズ抑制構造体(マイクロストリップ構造)を作製した。
まず、片面に銅箔(厚さ18μm)が設けられたポリイミドフィルムを2枚用意し、一方のフィルムのポリイミドからなる面上に、ニッケル金属を、窒素ガスを流入しながら反応性スパッタリング法にて蒸着して薄膜を形成し、該薄膜をエッチングして2つの抵抗層14(厚さ:25nm)を形成した。抵抗層14の表面抵抗は100Ωであった。
【0058】
ついで、抵抗層14を形成した面上に、他方のフィルムのポリイミドからなる面を、ポリイミド系接着剤を介して重ね合わせ、貼り合わせた。
ついで、フォトリソグラフィー法により一方の銅箔を図4に示すパターン形状にエッチングして、電源線路11および信号伝送線路12を形成し、伝導ノイズ抑制構造体を得た。
【0059】
得られた伝導ノイズ抑制構造体における各寸法を図4に示す。
信号伝送線路12に近い方の抵抗層14の、信号伝送線路12側の縁端部の位置をずらして抵抗層14の幅W2を変化させることによって、間隙の幅Dを0mm、0.1mm、0.2mm、0.3mm、および0.4mmと変化させて5種類の伝導ノイズ抑制構造体を作製した。
【0060】
各伝導ノイズ抑制構造体について、S21パラメータ、S31パラメータ、およびS41パラメータを評価した。S21パラメータを図6に、S31パラメータを図7に、S41パラメータを図8に示す。図7および図8においては、基板(伝導ノイズ抑制構造体)の長さ方向の共振ピークが存在するため、20GHzまでの総エネルギーを比較するため、各周波数での減衰量(dB)の総和(擬似積分値)を求めた。結果を表1および表2に示す。
【0061】
〔比較例1〕
抵抗層14を設けない以外は、実施例1と同様にして、図5に示す構成の両面基板を作製し、実施例1と同様にして評価した。結果を図6〜8、表1および表2に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
実施例1および比較例1の結果より、伝導ノイズ抑制効果(S21)は、抵抗層が設けられ、間隙の幅Dが小さいほど、すなわち抵抗層の幅が広いほど大きな伝導ノイズ抑制効果を示した。周波数特性では、周波数が上がるほど大きな伝導ノイズ抑制効果を示した。
近端クロストーク(S31)および遠端クロストーク(S41)は、ほぼ同様の結果を示し、間隙の幅Dが0mmのときは、抵抗層がない比較例1の状態より抵抗層と信号伝送線路はクロストークを起こしている。間隙の幅Dが0.1mm以上ではクロストークの影響はあるものの、0mmのときよりは抑制されている。
【産業上の利用可能性】
【0065】
高密度に実装された情報処理機器、通信機器等、特に光モジュールやワークステーション、携帯電話、ゲーム機器等のCPU等の電源周囲の高周波ノイズを、近傍に配線される信号伝送線路の信号品質を落とすことなく抑制することができる伝導ノイズ抑制構造体を提供することができ、産業上非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の伝導ノイズ抑制構造体の第1の実施形態を示す断面斜視図である。
【図2】本発明の伝導ノイズ抑制構造体の第2の実施形態を示す断面斜視図である。
【図3】抵抗層の表面を観察した原子間力顕微鏡像である。
【図4】実施例1における伝導ノイズ抑制構造体の斜視図である。
【図5】比較例1における両面基板の斜視図である。
【図6】実施例1、比較例1における伝導ノイズ抑制効果(S21)を示すグラフである。
【図7】実施例1、比較例1における近端クロストーク(S31)を示すグラフである。
【図8】実施例1、比較例1における遠端クロストーク(S41)を示すグラフである。
【符号の説明】
【0067】
10 伝導ノイズ抑制構造体
11 電源線路
12 信号伝送線路
13 グランド層
14 抵抗層
15 絶縁層
16 グランド線路
20 伝導ノイズ抑制構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一面上に互いに離間して設けられた電源線路および信号伝送線路と、
電源線路および信号伝送線路と離間して対向配置されたグランド層と、
電源線路およびグランド層と離間して対向配置された抵抗層とを有し、
電源線路の幅方向における電源線路の幅W1と、電源線路の幅方向における抵抗層の幅W2とが、下記式(1)を満足し、
抵抗層が、電源線路と対向している領域(I)および電源線路と対向していない領域(II)を有し、
電源線路の幅方向において、抵抗層と信号伝送線路とが離間している、伝導ノイズ抑制構造体。
W1≧W2 ・・・(1)。
【請求項2】
さらに、隣り合う電源線路と信号伝送線路との間に設けられたグランド線路を有し、
電源線路の幅方向における抵抗層と信号伝送線路との間隙の幅Dと、電源線路の幅方向におけるグランド線路と信号伝送線路との線間距離L2とが、下記式(2)を満足する、請求項1記載の伝導ノイズ抑制構造体。
D>L2 ・・・(2)。
【請求項3】
電源線路の幅方向における抵抗層と信号伝送線路との間隙の幅Dと、電源線路の厚さ方向における電源線路と抵抗層との距離Tと、電源線路の幅W1と、電源線路の幅方向における電源線路と信号伝送線路との距離Lとが、下記式(3)を満足する、請求項1または2に記載の伝導ノイズ抑制構造体。
3T≦D<(L+W1) ・・・(3)。
【請求項4】
抵抗層が、電源線路とグランド層の間に設けられ、
電源線路の厚さ方向における電源線路と抵抗層との距離Tと、電源線路の厚さ方向におけるグランド層と抵抗層との距離Tgとが、下記式(4)を満足する、請求項1〜3のいずれかに記載の伝導ノイズ抑制構造体。
T<Tg ・・・(4)。
【請求項5】
電源線路の厚さ方向における電源線路と抵抗層との距離Tが、2〜100μmである、請求項1〜4のいずれかに記載の伝導ノイズ抑制構造体。
【請求項6】
抵抗層が、物理的蒸着により形成された、厚さ5〜300nmの層である、請求項1〜5のいずれかに記載の伝導ノイズ抑制構造体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の伝導ノイズ抑制構造体を具備する、配線回路基板。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate