説明

位相差フィルムの製造方法および位相差フィルムロール

【課題】長手方向に対して傾いた遅相軸を有し、従来よりもNZ係数が1に近く、二軸延伸性が弱い(一軸延伸性が強い)帯状の位相差フィルムを提供する。
【解決手段】本発明の製造方法では、帯状の原フィルムにおける双方の周辺縁部を把持する一対のクリップ群と、延伸ゾーンを有する加熱延伸装置とを用いる。ここで、クリップ群が原フィルムを把持する際に、一対のクリップ群の走行速度は互いに等しい。延伸ゾーンは、当該ゾーンに走行移動してきた一方のクリップ群の走行速度を順に減少させる第1の区間と、第1の区間より後に、第1の区間を経て走行移動してきた上記一方のクリップ群の走行速度を順に回復させる第2の区間とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差フィルムの製造方法に関し、特に、液晶表示装置(LCD)、有機電界発光(EL)表示装置のような画像表示装置への使用に好適な位相差フィルムの製造方法に関する。また、本発明は、帯状の位相差フィルムが巻回された位相差フィルムロールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置(LCD)の大画面化が進み、その使用環境が広がっている。これらの状況に基づき、LCDの視認性の向上が強く求められている。しかし、液晶セル本体の改良のみでは、視認性の向上に対する要求は十分に満たされない。画像表示装置の視認性の向上には、位相差フィルムのような、当該装置が備える光学フィルムの性能の向上が大きく寄与する。
【0003】
位相差フィルムの一種に1/4波長板(λ/4板)がある。λ/4板は、例えば、偏光フィルムと組み合わせて、円偏光板として使用される。円偏光板におけるλ/4板と偏光フィルムとは、λ/4板の面内の遅相軸と偏光フィルムの透過軸との間の角度がおよそ45°となるように積層されている必要がある。帯状のλ/4板と帯状の偏光フィルムとを連続的に積層、例えば、ロールtoロールで積層できれば、円偏光板の生産性が向上する。このような連続的な積層を行うためには、λ/4板の面内の遅相軸が、その長手方向に対しておよそ45°傾いていることが必要である。
【0004】
位相差フィルムには、非晶性の熱可塑性樹脂が主に使用される。熱可塑性樹脂は、複屈折性を示さないことを目的として選択された組成の樹脂を除き、一般に、延伸によって複屈折性を示す。特開2008-242426号公報は、アクリル樹脂により構成される原フィルムを二軸延伸して得た、耐熱性および可撓性の両立した位相差フィルムを開示する。この位相差フィルムは、当該フィルムを構成するアクリル樹脂の特性に基づき、高い光線透過率および低い光弾性率を有する。この位相差フィルムは、光学特性だけではなく、機械的特性をはじめとする各種の特性のバランスにも優れ、画像表示装置への使用に好適である。
【0005】
しかし、特開2008-242426号公報に開示されている位相差フィルムは、帯状の原フィルムをその長手方向および幅方向に二軸延伸して形成される。当該位相差フィルムを用いて円偏光板を形成するためには、延伸により得た帯状の位相差フィルムを、その長手方向に対して斜め45°の方向に切り出し、得られた個々のフィルム片を個別に偏光板に貼付しなければならない。これは、偏光フィルムの吸収軸が、通常、当該フィルムの長手方向を向いている一方、位相差フィルム面内の遅相軸が、延伸方向または当該方向に垂直な方向、すなわち当該フィルムの長手方向または幅方向を向いているからである。このため、この位相差フィルムを用いた、ロールtoロール積層による円偏光板の製造はできない。これに加えて、アクリル樹脂、特に、主鎖に環構造を有するアクリル重合体を含むアクリル樹脂は、光学フィルムに一般的に使用される熱可塑性樹脂のなかでも、フィルムとしたときに硬く、脆い傾向がある。この傾向は、フィルム片を切り出す際に、割れ、欠けおよびヒビの発生を招く。この観点からも、長手方向に対して傾いた遅相軸を有する、帯状の位相差フィルムが望まれる。
【0006】
長手方向に対して傾いた遅相軸を有する帯状の位相差フィルムを得る方法が、以下の各文献に開示されている。特許第4557188号公報は、屈曲したテンターレールを備えるテンター横延伸機を用いた方法を開示する。この方法では、原フィルムを延伸機に繰り出す方向と、延伸フィルムを巻き取る方向との間に、例えば、40〜50°の角度を設定することにより、長手方向に対して傾いた遅相軸を有する帯状の位相差フィルムが製造される(当該公報の図1参照)。特開2009-143208号公報は、テンター横延伸機を用いた延伸方法であって、原フィルムの幅方向に対する一方の端部の延伸速度と、他方の端部の延伸速度との間に差を設けるとともに、延伸したフィルムを、双方の前記延伸速度よりも早い速度で巻き取る方法を開示する。特開2008-23775号公報は、右側のレールに接続された複数個の可変ピッチ型クリップと左側のレールに接続された複数個の可変ピッチ型クリップとが、原フィルムの両長辺縁部を把持した状態でレール上を走行する、同時二軸延伸機を用いた方法を開示する。具体的に、この方法では、クリップピッチが拡大を開始する位置が、左側のクリップと右側のクリップとの間で原フィルムの進行方向に対して異なっている、あるいは左右のクリップピッチの拡大率が互いに異なっている。これにより、長手方向に対して傾いた遅相軸を有する帯状の位相差フィルムが製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008-242426号公報
【特許文献2】特許第4557188号公報
【特許文献3】特開2009-143208号公報
【特許文献4】特開2008-23775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
円偏光板は、画像表示装置において、例えば、外光の反射防止のため、あるいは3次元(3D)表示を実現するために、使用される。これらの用途では、画面に正対する方向の光への円偏光機能だけではなく画面に対して斜め方向の光への円偏光機能を、円偏光板が備えることが必要である。これは、例えば、LCDを斜めから見たときにも、外光の反射が防止される、あるいは3D表示が実現される要請に基づく。位相差フィルムを通過する光の経路の長さは、当該フィルムを斜め方向に通過する光の方が厚さ方向に通過する光に比べて大きい。位相差フィルムの二軸延伸性が強い場合、当該フィルムを斜め方向に通過する光に生じるリターデーションの大きさ(位相差の大きさ)と、厚さ方向に通過する光に生じるリターデーションの大きさとの差が大きくなる。画像表示装置における光学的な設計は、画面に正対する方向の光に対してなされるため、当該差が大きくなると、斜め方向から見たときの光学特性が担保できなくなる。このため、位相差フィルムの二軸延伸性は小さければ小さいほど好ましい。
【0009】
テンター横延伸機を用いた延伸方法では、原フィルムの幅方向の延伸に伴って、その長手方向に収縮力が発生する。しかし、原フィルムは、その両端部が把持されているため長手方向に収縮できず、結果として、長手方向にも延伸されることになる。このため、テンター横延伸機を用いて延伸したフィルムは、強い二軸延伸性を示す。これは、特許第4557188号公報および特開2009-143208号公報に開示されている方法においても同様である。一方、特開2008-23775号公報に開示されている方法では、同時二軸延伸機が使用される。しかし、当該方法においても、原フィルムの長手方向に当該フィルムを延伸しており、得られた位相差フィルムは強い二軸延伸性を示す。
【0010】
位相差フィルムの二軸延伸性および一軸延伸性は、当該フィルムが示すNZ係数により評価しうる。NZ係数は、位相差フィルムの面内における遅相軸方向の屈折率をnx、当該フィルムの面内における進相軸方向の屈折率をny、当該フィルムの厚さ方向の屈折率をnzとしたときに、式(nx−nz)/(nx−ny)によって求めることができる。また、NZ係数は、位相差フィルムが示す面内位相差Reおよび厚さ方向の位相差Rthから、式|Rth|/|Re|+0.5により求めることができる。具体的に本明細書では、位相差フィルムのNZ係数を後者の式により求める。RthおよびReは、例えば波長590nmの光に対する値である。NZ係数の値が1に近いほど、位相差フィルムの二軸延伸性が弱く(一軸延伸性が強く)なる。
【0011】
本発明の目的は、長手方向に対して傾いた遅相軸を有する帯状の位相差フィルムであって、従来よりもNZ係数が1に近く、二軸延伸性が弱い位相差フィルムを製造する方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の位相差フィルムの製造方法は、複数個のクリップにより構成される一対のクリップ群によって、帯状の原フィルムにおける双方の長辺縁部をそれぞれ把持し、前記クリップ群によって把持された前記原フィルムを、当該クリップ群の走行によって、加熱延伸装置に導びくとともに、当該装置における予熱ゾーン、延伸ゾーンおよび熱処理ゾーンをこの順に通過させ、ここで、前記クリップ群が前記原フィルムを把持する際に、前記一対のクリップ群から選ばれる一方のクリップ群の走行速度v1と他方のクリップ群の走行速度v2との比v1/v2を0.98以上1.02以下に保持し、前記延伸ゾーンは、前記予熱ゾーンから走行移動してきた前記一方のクリップ群の走行速度v1を順に減少させる第1の区間を有し、当該第1の区間において、前記他方のクリップ群に対する前記一方のクリップ群の走行遅れを発生させ、発生した当該遅れに基づいて前記原フィルムを当該フィルムの長手方向に対して斜めに延伸し、前記延伸ゾーンは、前記第1の区間より後に、前記第1の区間を経て走行移動してきた前記一方のクリップ群の走行速度を順に回復させる第2の区間をさらに有し、当該第2の区間において、前記一方のクリップ群の走行速度v1と前記他方のクリップ群の走行速度v2との比v1/v2を0.98以上1.02以下に戻して、フィルム面内の遅相軸が当該フィルムの長手方向に対して10°以上80°以下傾いた帯状の位相差フィルムを得る方法である。
【0013】
本発明の位相差フィルムロールは、帯状の位相差フィルムが巻回されている位相差フィルムロールであって、前記位相差フィルムは、主鎖に環構造を有するアクリル重合体を含む熱可塑性樹脂により構成される層を有する。前記位相差フィルム面内の遅相軸は、当該フィルムの長手方向に対して10°以上80°以下傾いている。前記位相差フィルムが示すNZ係数は、0.95以上1.25以下である。NZ係数は、前記位相差フィルムが示す波長590nmの光に対する厚さ方向の位相差Rthおよび波長590nmの光に対する面内位相差Reから、式|Rth|/|Re|+0.5により求められる値である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、長手方向に対して傾いた遅相軸を有し、従来よりもNZ係数が1に近く、二軸延伸性が弱い帯状の位相差フィルムおよび当該フィルムを巻回した位相差フィルムロールが得られる。
【0015】
本発明の方法により得た位相差フィルムは、他の帯状の光学フィルム、例えば偏光フィルム、とロールtoロールで積層しうる。この積層により、例えば、帯状の円偏光板および楕円偏光板ならびにこれらのロールを製造しうる。ロールtoロール積層を用いた製造では、帯状の位相差フィルムから特定の方向に斜めにフィルム片を切り出す工程、および切り出したフィルム片をその光軸を調整しながら積層する工程を省略しうる。この省略は、円偏光板の製造時における位相差フィルムの面積使用効率を向上させるとともに、位相差フィルムがアクリル樹脂により構成される場合に、アクリル樹脂フィルムに特有の硬さおよび脆さに由来する悪影響を小さくする。アクリル樹脂が、主鎖に環構造を有するアクリル重合体を含む場合に、特に後者の効果が大きくなる。本発明の方法により得た位相差フィルムは、これらの特徴に加えて、二軸延伸性が弱い(一軸延伸性が強い)というさらなる特徴を有する。当該位相差フィルムにより、例えば、画面に対して斜め方向からの視聴においても、視野角特性に優れる画像表示装置が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の製造方法を実施しうる加熱延伸装置における、左右のクリップ群の走行状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書における「樹脂」は「重合体」よりも広い概念である。樹脂は、1種または2種以上の重合体を含みうるし、必要に応じて、重合体以外の材料、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、フィラー、相溶化剤、安定化剤のような添加剤を含みうる。
【0018】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明は、以下に示す具体的な実施形態に限定されない。
【0019】
[位相差フィルムの製造方法]
本発明の製造方法について、図1を参照しながら説明する。図1は、本発明の製造方法を実施しうる加熱延伸装置1における、左右のクリップ群の走行状態を模式的に示している。図1に示す装置1では、複数個のクリップにより構成される左側クリップ群および複数個のクリップにより構成される右側クリップ群の各々に属するクリップが、クリップイン部(CIL,CIR)からL1〜L10,R1〜R9を経てクリップアウト部(COL,COR)に達し、左側クリップレールLRおよび右側クリップレールRRを経て、再びクリップイン部(CIL,CIR)に戻る走行を繰り返している。図1では原フィルムの図示が省略されているが、クリップイン部(CIL,CIR)において、帯状の原フィルムにおける左右の長辺縁部が、それぞれ左側クリップ群および右側クリップ群によって把持される。原フィルムは、当該フィルムを把持する左右のクリップ群の走行によって、加熱延伸装置1に導かれるとともに、当該装置1における予熱ゾーンZ1、前段延伸ゾーンZ2、後段延伸ゾーンZ3および熱処理ゾーンZ4をこの順に通過する。
【0020】
本発明の製造方法では、クリップ群が帯状の原フィルムを把持する際に、すなわち、クリップイン部(CIL,CIR)において、左右双方のクリップ群の走行速度が互いに等しい。クリップインの際に左右のクリップ群の走行速度が等しくない場合、原フィルムが、走行速度が大きいクリップ側に引っ張られることにより、加熱延伸装置1への原フィルムの移動安定性および加熱延伸装置1における原フィルムの移動安定性が低下する。このため、望む光学特性を有する位相差フィルムが得られないことがある。最も悪いケースでは、原フィルムが破断し、帯状の位相差フィルムが製造できないことがある。
【0021】
ここで、「等しい」とは、完全に同一である状態だけではなく、僅かな差がある状態を含む。現実には、斜め方向に原フィルムを延伸する際に発生する応力によって、相対的に先行するクリップに対して引き戻す力が加わり、相対的に遅れるクリップに対して前に進める力が加わる。このため、クリップイン時における左側クリップ群の走行速度と、右側クリップ群の走行速度とを、常に、完全に同一となるようにコントロールすることは難しい。これを考慮し、本発明の製造方法では、クリップイン時における左側クリップ群の走行速度v1と、右側クリップ群の走行速度v2との比v1/v2を0.98以上1.02以下に保持する。比v1/v2は、好ましくは0.99以上1.01以下、より好ましくは0.995以上1.005以下である。
【0022】
クリップインの際に左右のクリップ間に走行速度差があったとしても、クリップイン部(CIL,CIR)の直前に配置されている原フィルムの搬送ロールから当該クリップイン部までの区間において原フィルムの流れ方向に張力を与えることで、走行速度差により生じる原フィルムのシワまたは弛みを緩和して、当該フィルムの移動安定性を改善する方法が考えられる。しかし、この方法は、以下の理由1,2から、現実には実施できない。
【0023】
1.室温に保持されている当該区間で原フィルムに張力をかけたとしても、原フィルムに生じるシワおよび弛みの緩和は難しい。さらに、アクリル重合体、特に主鎖に環構造を有するアクリル重合体、を含む熱可塑性樹脂により構成されるフィルムは脆い傾向があり、張力をかけると破断することがある。
【0024】
2.当該区間に加熱装置を配置し、原フィルムを加熱しながら張力をかけた場合、当該フィルムがその長手方向に延伸される。この延伸は、後に加熱延伸装置1においてなされる斜め方向の延伸を打ち消す。これにより、目的とする光学特性が得られないだけではなく、得られた位相差フィルムが示す二軸延伸性が増大する。
【0025】
左側クリップと右側クリップとが原フィルムの周辺縁部を把持するタイミングは、同時でありうるが、必ずしも同時でなくてもよい。
【0026】
左側クリップが原フィルムを把持するクリップイン部(CIL)と、右側クリップが原フィルムを把持するクリップイン部(CIR)とを結ぶ直線が、原フィルムの長手方向(流れ方向)に対して垂直であることが好ましい。この場合、クリップイン部(CIL,CIR)から予熱ゾーンZ1への原フィルムの移動安定性が向上する。特に、左側クリップと右側クリップとの間で、原フィルムの周辺縁部を把持するタイミングが同時でないことがある場合に、上記直線が、原フィルムの長手方向に対して垂直であることが好ましい。
【0027】
予熱ゾーンZ1では、加熱延伸装置1に供給された原フィルムが、後に通過する延伸ゾーン(前段延伸ゾーンZ2および後段延伸ゾーンZ3)において延伸可能となる温度にまで加熱される。原フィルムの加熱が不十分なまま延伸を開始すると、原フィルムが破断することがある。このため、例えば、加熱延伸装置における予熱ゾーンZ1の温調の設定温度あるいは予熱ゾーンZ1における原フィルムが通過する雰囲気の温度を、当該延伸可能となる温度に設定する。予熱ゾーンZ1において原フィルムが加熱される温度は、延伸ゾーンZ1における原フィルムの延伸温度と等しい温度または僅かに高い温度であることが好ましい。予熱ゾーンZ1では、基本的に、原フィルムの延伸は実施されない。ただし、加熱によって原フィルムに弛みまたは収縮が生じることがあり、当該弛みまたは収縮を取り除くために、各クリップ群における隣り合うクリップ間の間隔(原フィルムの長手方向におけるクリップ間の間隔)および/またはクリップ群間の間隔(原フィルムの幅方向におけるクリップ間の間隔)を調整しうる。
【0028】
延伸ゾーンは、予熱ゾーンから走行移動してきた一方のクリップ群の走行速度v1を順に減少させる第1の区間を有する。図1に示す例では、前段延伸ゾーンZ2が第1の区間に対応する。前段延伸ゾーンZ2では、予熱ゾーンZ1から走行移動してきた左側クリップ群の走行速度v1が順に減少する。これにより、前段延伸ゾーンZ2において、右側クリップに対する左側クリップの走行遅れが発生し、隣り合う左側クリップ間の間隔が、走行速度v1の減少に比例して徐々に狭くなる。そして、発生した当該走行遅れに基づいて、原フィルムが、当該フィルムの長手方向に対して斜めに延伸される。この延伸は、縦延伸(フィルム長手方向の延伸)と横延伸(フィルム幅方向の延伸)とのベクトル和による延伸とは異なり、一軸延伸性が強い。これにより、長手方向に対して傾いた遅相軸を有する(斜め延伸された)帯状の位相差フィルムであって、従来よりもNZ係数が1に近く、二軸延伸性が弱い(一軸延伸性が強い)位相差フィルムが製造される。
【0029】
従来、加熱延伸装置の延伸ゾーンにおいて、原フィルムを把持するクリップ群の走行速度を減少させて(隣り合うクリップ間の間隔を狭めて)、延伸フィルムである位相差フィルムを製造する技術、少なくとも、斜め延伸された位相差フィルムを製造する技術、は存在しない。当業者の技術常識によれば、延伸ゾーンでは、あくまでもクリップ群の走行速度が増大する(隣り合うクリップ間の間隔が広がる)。本発明の製造方法は、このような当業者の技術常識に反してなされた方法である。
【0030】
第1の区間において一方のクリップ群の走行速度v1が減少した後の当該速度v12が、第1の区間において走行速度v1が減少する前の当該速度v11の30%以上95%以下であることが好ましい。この値(速度比v12/v11)は、第1の区間における、上記一方のクリップ群の減速度に対応する。減速度の好ましい範囲は、原フィルムを構成する熱可塑性樹脂の種類、原フィルムの幅、および加熱延伸装置における第1の区間の長さなどにより、変化する。具体的には、好ましい減速度の上限(好ましい上記速度比v12/v11の下限)は、例えば、一方のクリップ群の減速によって原フィルムの周辺縁部を中心に発生するシワの影響および当該シワによる原フィルムの破断の回避といった要件により定められる。ここで、主鎖に環構造を有するアクリル重合体を含む熱可塑性樹脂により原フィルムが構成される場合、フィルムとしたときの当該樹脂の「脆さ」から、好ましい減速度の上限が小さくなる。原フィルムの幅が広い場合、一方のクリップ群の減速によって原フィルムに発生するシワの影響が当該フィルムの中央部にまで及びにくくなるとともに、端部にとどまるシワは後に切除しうるため、好ましい減速度の上限が大きくなる。速度比v12/v11の下限は30%が好ましく、33%(第1の区間において一方のクリップ群の速度v1および隣り合うクリップ間の間隔が1/3となる)がより好ましく、40%(第1の区間において一方のクリップ群の速度v1および隣り合うクリップ間の間隔が1/2.5となる)がさらに好ましい。原フィルムがシワにより破断し難い熱可塑性樹脂により構成される場合、さらに高い減速度を好ましい範囲として採用しうることがある。一方、好ましい減速度の下限(好ましい上記速度比v12/v11の上限)は、例えば、第1の区間の長さの影響を受けやすい。第1の区間の長さが長いほど、小さい減速度で斜め延伸の効果が得られるためである。しかし、現実の加熱延伸装置においてとりうる第1の区間の長さには限度があり、当該限度を考慮すると、速度比v12/v11は95%以下が好ましい。
【0031】
図1に示す例では、速度v12は、第1の区間である前段延伸ゾーンZ2が終了するポイントL6における左側クリップの走行速度である。速度v11は、第1の区間である前段延伸ゾーンZ2が始まる直前のポイントL3における左側クリップの走行速度である。ポイントL6では、隣り合う左側クリップ間の間隔が最も狭くなる。本明細書において、走行速度v1が減少する前のポイントL3における隣り合う左側クリップ間の間隔に対する、ポイントL6における隣り合う左側クリップ間の間隔の比を、前段延伸ゾーンZ2における左側クリップ倍率(M−LB)と呼ぶ。M−LBの値は、速度比v12/v11に等しい。同様に、前段延伸ゾーンZ2における右側クリップ倍率(M−RB)が定められる。
【0032】
第1の区間では、他方のクリップ群(図1に示す例では、右側クリップ群)の走行速度v2が保持されることが好ましい。このとき、前段延伸ゾーンZ2における右側クリップ倍率(M−RB)が1である。他方のクリップ群の走行速度を変化させると、原フィルムに対して、その長手方向に延伸する力(縦延伸の力)が加わる。これは、得られた位相差フィルムの二軸延伸性が強くなる要因となるし、当該フィルムの幅方向に対する光学特性の均一性が低下する要因となる。
【0033】
延伸ゾーンは、上記第1の区間より後に、第1の区間を経て走行移動してきた上記一方のクリップ群の走行速度を順に回復させる第2の区間をさらに有する。図1に示す例では、後段延伸ゾーンZ3が第2の区間に対応する。後段延伸ゾーンZ3では、前段延伸ゾーンZ2から走行移動してきた左側クリップ群の走行速度が順に増加し、左側クリップ群の走行速度v1と右側クリップ群の走行速度v2とが互いに等しくなる。具体的には、左側クリップ群の走行速度v1と、右側クリップ群の走行速度v2との比v1/v2が、0.98以上1.02以下、好ましくは0.99以上1.01以下、より好ましくは0.995以上1.005以下となる。
【0034】
第2の区間において、双方のクリップ群の走行速度は、第2の区間が終了したポイントにおいて互いに等しい状態にあれば、任意の経過を辿ることができる。図1に示す例を用いて説明すると、左側クリップ群および右側クリップ群は、例えば、以下の経過を辿る。
【0035】
(1)左側クリップ群の走行速度v1を、第1の区間である前段延伸ゾーンに移動する直前の速度v11にまで戻さず、その分、右側クリップ群の走行速度v2を減少させる。この経過では、左右双方のクリップ群における隣り合うクリップ間の間隔は、原フィルムが延伸ゾーンに移動する前の時点よりも狭くなる。
【0036】
(2)右側クリップ群の走行速度v2を、前段延伸ゾーンZ2および後段延伸ゾーンZ3の間、一定に保ち、左側クリップ群の走行速度v1を、第1の区間である前段延伸ゾーンZ2に移動する直前の速度v11にまで戻す。この経過では、左右双方のクリップ群における隣り合うクリップ間の間隔は、原フィルムが延伸ゾーンに移動する前の時点と同一である。
【0037】
(3)右側クリップ群の走行速度v2を、後段延伸ゾーンZ3において僅かに増大させ、これに合わせるように、左側クリップ群の走行速度v1を増大させる。この経過では、左右双方のクリップ群における隣り合うクリップ間の間隔は、原フィルムが延伸ゾーンに移動する前の時点よりも広くなる。
【0038】
すなわち、図1に示す例において、左側クリップ群の走行速度は、前段延伸ゾーンZ2に移動する直前の時点と、後段延伸ゾーンZ3が終了した直後の時点との間で、必ずしも同一でなくてもよい(同一でもよい)。ただし、本発明の製造方法では、第2の区間において上記一方のクリップ群の走行速度v1が回復した後の当該速度v14が、第1の区間において上記走行速度v1が減少する前の当該速度v11の90%以上110%以下であることが好ましい。この値は、第2の区間における、上記一方のクリップ群の走行速度の回復度に対応する。図1に示す例では、速度v14は、第2の区間である後段延伸ゾーンZ3が終了するポイントL9における左側クリップの走行速度である。回復度が90%に満たない場合、前段延伸ゾーンZ2において、隣り合ったクリップ間の間隔が狭まることによって発生したシワの除去が不十分になることがある。回復度が110%を超える場合、得られた位相差フィルムの二軸延伸性が増す。
【0039】
図1に示す例では、左右双方のクリップ群は、上記(2)の経過を辿っている。具体的には、後段延伸ゾーンZ3に移動してきた直後(L6およびR5)では、左右のクリップ間で走行速度に差があるが、後段延伸ゾーンZ3において左側クリップの走行速度が回復し、当該ゾーンZ3の末端(L9およびR7)では、左右のクリップの走行速度が互いに等しくなる。右側クリップの走行速度は、前段延伸ゾーンZ2および後段延伸ゾーンZ3を通して同一である。M−RBと同様に、後段延伸ゾーンZ3における左側クリップ倍率(M−LC)を定めると、図1に示す例では、(M−LB)×(M−LC)=1となる。すなわち、図1に示す例では、延伸ゾーンに移動する前の時点と、延伸ゾーンから移動した後の時点との間で、左右の双方のクリップ群ともに、隣り合うクリップ間の間隔が等しい(ただし、クリップイン時における左右クリップの走行速度の同一性で説明したように、斜め延伸による応力がクリップに加わるため、(M−LB)×(M−LC)=1であったとしても、走行速度の同一性と同様のずれが生じることがある)。延伸ゾーン内では、左側クリップ群のみ、隣り合うクリップ間の間隔が狭くなる。前段延伸ゾーンZ2と後段延伸ゾーンZ3の境界であるポイントL6において、当該間隔は最も狭くなり、左側クリップの走行速度は最も遅くなる。
【0040】
本発明の製造方法では、延伸ゾーンが、第1の区間と第2の区間とを有する。第2の区間は、第1の区間の後(原フィルムの下流側)にある。本発明の効果が得られる限り、延伸ゾーンは、第1の区間にも第2の区間にも属さない他の区間、例えば、左右のクリップが走行速度の差を保ったまま走行する区間、を有しうる。
【0041】
前段延伸ゾーンおよび後段延伸ゾーンにおけるこのような延伸は、独立に加減速しうる複数のクリップにより構成される一対のクリップ群を備えた同時二軸延伸機により実施しうる。ただし、通常の延伸機は、フィルムの延伸時にクリップを減速させる状態を想定していない。このため、必要に応じて、延伸機の構造および/または延伸機の制御プログラムの改良が必要になることがある。当業者であれば、本発明の製造方法に関する本明細書の記載に従うことで、このような改良を実施しうる。
【0042】
図1に示す例では、クリップ群の走行速度を減少させる第1の区間が左側クリップ側に設けられているが、本発明の製造方法はこの例に限定されず、例えば、右側クリップ側に第1の区間が設けられていてもよい。
【0043】
本発明の製造方法では、延伸ゾーンにおいて、原フィルムの幅方向に対する左右双方のクリップ群間の間隔を増大させて、原フィルムをさらに横延伸してもよい。
【0044】
横延伸は、前段延伸ゾーンZ2および/または後段延伸ゾーンZ3にて実施しうる。横延伸を併用することによって、得られた位相差フィルムが示す光学特性(例えば、光軸の向き、および位相差値、特に光軸の向き)の制御の自由度が高くなる。
【0045】
例えば、図1に示す例において、フィルム面内の遅相軸が当該フィルムの長手方向に対して45°傾いた位相差フィルムを得る場合、横延伸を併用することが好ましい。
【0046】
横延伸を併用する場合、前段延伸ゾーンZ2での横延伸の倍率をT−Z2、後段延伸ゾーンZ3での横延伸の倍率をT−Z3として、式(M−LB)×(T−Z2)1/2<1が満たされるように延伸倍率を設定することが好ましい。原フィルムを、ある方向に延伸倍率X倍で一軸延伸した場合、当該方向と垂直な方向にX1/2倍だけ収縮する力が働く。上記式が満たされるように横延伸の倍率を設定することにより、この力による原フィルムの収縮が抑えられ、得られた位相差フィルムにおける二軸延伸性の増加が抑えられる。通常のテンター横延伸では、この収縮が、得られた位相差フィルムにおけるボウイング現象および強い二軸延伸性の原因となる。
【0047】
本発明の製造方法は、さらに、得られた位相差フィルムの幅方向における光学特性(例えば、位相差、光軸の向き、およびNZ係数で表される一軸延伸性)の均一性を向上させる点からも有利である。
【0048】
熱処理ゾーンにおける熱処理温度は、通常、延伸ゾーンにおける延伸温度未満である。仮に、従来の方法と同じように、前段延伸ゾーンおよび後段延伸ゾーンにおいて原フィルムを把持する左側クリップの間隔が広がり続けている場合、右側クリップが熱処理ゾーンに移動した後も、左側クリップの間隔が広がり続けることになる(例えば、図1におけるL8−R8において、左側クリップの間隔が広がり続ける状態にある)。この状態では、未だ延伸ゾーンにある左側クリップの近傍では原フィルムが積極的に延伸される一方で、既に熱処理ゾーンに移動した右側クリップの近傍では、原フィルムの温度が低く、当該フィルムが延伸されない。これは、得られた位相差フィルムにおける幅方向の光学特性のムラにつながる。これに対して、本発明の製造方法では、後段延伸ゾーンにおいて左側クリップの走行速度が増加するが、これは、前段延伸ゾーンにおいて減少した走行速度が回復しているだけであり、回復に従って、走行遅れに伴う斜め延伸の力が弱くなっていく。このため、得られた位相差フィルムにおける幅方向の光学特性の均一性が向上する。
【0049】
延伸ゾーンにおける延伸温度は、原フィルムを構成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)を基準に、好ましくはTg−20℃〜Tg+60℃であり、より好ましくはTg−10℃〜Tg+30℃である。延伸温度がTg−20℃未満の場合、延伸の際に原フィルムの破断が起こりやすくなる。延伸温度がTg+60℃を越える場合、延伸ゾーンにおける原フィルムの弛みが大きくなって、当該フィルムと加熱延伸装置とが接触したり、原フィルムの破断が起こりやすくなる。延伸温度は、例えば、加熱延伸装置における延伸ゾーンの温調の設定温度あるいは延伸ゾーンにおける原フィルムが通過する雰囲気の温度である。原フィルムが複数の層からなる場合、最も高いTgを示す熱可塑性樹脂層のTgが、延伸温度の基準となる。
【0050】
延伸ゾーンにおける延伸速度(斜め延伸方向の延伸速度)は、例えば、10〜20000%/分であり、好ましくは100〜10000%/分である。延伸速度が10%/分よりも小さい場合、延伸を完了するまでに必要な時間が長くなり、位相差フィルムの製造コストが増大する。これに加えて、延伸ゾーンに必要な長さが長大となり、そのような加熱延伸装置は現実的でない。延伸速度が20000%/分よりも大きい場合、原フィルムの破断が起きやすくなる。
【0051】
熱処理ゾーンZ4では、延伸ゾーンにおいて延伸された原フィルムが、延伸ゾーンにおける延伸温度以下の特定の温度(熱処理温度)に保持される。これにより、当該フィルムに含まれる重合体の分子配向が安定し、当該フィルムの歪みが軽減されて、最終的に得られた位相差フィルムが示す特性、例えば、光学特性および機械的特性、の安定化が図られる。熱処理温度は、延伸ゾーンにおける延伸温度未満が好ましい。熱処理ゾーンの全域にわたって、同一の熱処理温度に保持されている必要は必ずしもない。熱処理ゾーンにおける少なくとも一部の熱処理温度が、延伸ゾーンにおける延伸温度未満の温度であることが好ましい。原フィルムが延伸温度未満になると、収縮する。このとき、原フィルムに生じる収縮応力を適切に保つことによって、延伸によって生じた原フィルム中の分子配向が大きく損なわれることなく安定し、最終的に得られた位相差フィルムが示す特性の安定化が図られる。熱処理ゾーンにおける収縮応力を適切に保つために、例えば、原フィルムの長手方向におけるクリップ間の間隔、および/または原フィルムの幅方向におけるクリップ間の間隔を調整しうる。調整方法は、例えば、収縮応力が大きい場合に、フィルムの破断を防ぐためにクリップ間の間隔を狭める方向である。熱処理温度は、延伸ゾーンにおける、熱処理ゾーンに隣接する部分の延伸温度をT℃として、好ましくはT−80℃〜T−1℃であり、より好ましくはT−40℃〜T−2℃である。熱処理温度は、例えば、加熱延伸装置における熱処理ゾーンの温調の設定温度あるいは熱処理ゾーンにおける原フィルムが通過する雰囲気の温度である。
【0052】
熱処理ゾーンを通過した後、原フィルムが左右双方のクリップ群から解放される(クリップアウト)。本発明の製造方法では、延伸後の原フィルムをクリップ群が離す際、すなわち、クリップアウト部(COL,COR)において、左右双方のクリップ群の走行速度が互いに等しい。クリップアウトの際に左右のクリップの走行速度が等しくない場合、クリップアウトしてから原フィルムが最初に接するガイドロールまでの区間において、フィルムに片弛みが生じる(走行速度が速いクリップ側に、弛みが生じる)。
【0053】
クリップアウトの際に左右のクリップの走行速度差があったとしても、クリップアウトしてから原フィルムが最初に接するガイドロールまでの区間において原フィルムの流れ方向に張力を与えることで、走行速度差により生じる原フィルムのシワまたは弛みを緩和して、当該フィルムの移動安定性を改善する方法が考えられる。しかし、この方法は、以下の理由1〜3から、現実には実施できない。
【0054】
1.室温に保持されている当該区間で原フィルムに張力をかけたとしても、原フィルムに生じるシワおよび弛みの緩和は難しい。さらに、アクリル重合体、特に主鎖に環構造を有するアクリル重合体、を含む熱可塑性樹脂により構成されるフィルムは脆い傾向があり、当該フィルムの端部(クリップが把持していた部分)をニップして張力をかけると、フィルムが破断する。
【0055】
2.当該区間に加熱装置を配置し、原フィルムを加熱しながら張力をかけたとしても、加熱条件によっては弛みを緩和しうるものの、膜厚の大きいフィルム端部(クリップが把持していた部分)をニップして張力をかけるため、膜厚の薄いフィルム中央部はニップされず、シワの緩和は難しい。
【0056】
3.当該区間に加熱装置を配置し、原フィルムを加熱しながら張力をかけた場合、当該フィルムがその長手方向に延伸される。この延伸は、加熱延伸装置1においてなされた斜め方向の延伸を打ち消す。これにより、目的とする光学特性が得られないだけではなく、得られた位相差フィルムが示す二軸延伸性が増大する。
【0057】
上述したクリップイン部(CIL、CIR)と同様の理由に基づき、左側クリップ群のクリップアウト部(COL)と右側クリップ群のクリップアウト部(COR)とを結ぶ直線が、原フィルムの長手方向(流れ方向)に対して垂直であることが好ましい。この場合、加熱延伸装置1における原フィルムの移動安定性が向上する。特に、左側クリップと右側クリップとが原フィルムの周辺縁部を把持するタイミングが同時でないことがある場合に、上記直線が、原フィルムの長手方向に対して垂直であることが好ましい。
【0058】
本発明の製造方法では、加熱延伸装置における原フィルムの移動方向を、延伸ゾーンの前後において略並行に保つことが好ましい。言い換えれば、原フィルムを把持する際のクリップの走行方向は、延伸されたフィルムを解放する際のクリップの走行方向と略平行であることが好ましい。クリップの走行方向は、原フィルムに対して横延伸をさらに加える場合を考慮し、一方の長辺縁部を把持または解放するクリップの走行方向と、他方の長辺縁部を把持または解放するクリップの走行方向とのベクトルの和の方向を意味する。特開2005-319660号公報および特開2010-266723号公報には、延伸の前後で原フィルムの移動方向が異なる、屈曲したテンターレールを有するテンター横延伸機を用いた斜め延伸が開示されている。フィルムの長手方向に対する遅相軸の角度が異なる2種以上の帯状の位相差フィルムを製造する場合、延伸倍率など、加熱延伸装置における延伸条件を変更する必要がある。上記のような、延伸の前後でフィルムの移動方向が異なる延伸機を用いた場合、延伸条件を変更するたびに、得られた位相差フィルムを巻き取る巻取り機の設置場所の変更や原フィルムを供給するロールの平行度の調整(芯だし)などが必要になり、位相差フィルムの生産性が低下する。さらに、テンターレールが屈曲しているため、延伸装置の設置に必要な面積の確保が難しい。一方、原フィルムの移動方向を、延伸ゾーンの前後において略並行に保つ場合、延伸条件を変更したときにおいてもこのような調整を省略でき、帯状の位相差フィルムおよび位相差フィルムロールの生産性が向上する。この構成は、例えば、同時二軸延伸機により実現可能である。
【0059】
本発明の製造方法によって得られた帯状の位相差フィルムは、続いて、任意の工程に供給しうる。例えば、ロールに巻回して位相差フィルムロールを得てもよいし、コーティング層の形成あるいは他のフィルムとの積層のような後工程に供給してもよい。
【0060】
本発明の製造方法によって得られた帯状の位相差フィルムは、例えば、当該位相差フィルムと、帯状の偏光フィルムとを連続的に積層しうる(より具体的な例として、ロールtoロールで積層しうる)ため、効率よい楕円偏光板の製造に好適である。
【0061】
本発明の製造方法は、本発明の効果が得られる限り、上述した以外の任意の工程を含んでいてもよい。当該工程は、例えば、形成された位相差フィルムの光学特性および機械的特性を安定させるために実施される熱処理(アニーリング)工程である。
【0062】
原フィルムは、典型的には、未延伸フィルムである。ただし、本発明の効果が得られる限り、既に延伸されたフィルムを原フィルムとして使用しうる。
【0063】
原フィルムを構成する熱可塑性樹脂(A)は、主鎖に環構造を有する重合体(B)を含むことが好ましい。すなわち、原フィルムは、主鎖に環構造を有する重合体(B)を含む熱可塑性樹脂(熱可塑性樹脂組成物)(A)からなることが好ましい。これにより、得られた位相差フィルムのガラス転移温度(Tg)が向上する。高いTgを有する位相差フィルムは、電源、光源、回路基板などの発熱体が狭い空間に集積された構造を有する、LCDなどの画像表示装置への使用に好適である。これに加えて、環構造の種類によっては、得られた位相差フィルムが示す位相差が増大する。
【0064】
樹脂(A)における重合体(B)の含有率は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは60重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上である。
【0065】
重合体(B)は、アクリル重合体、シクロオレフィン重合体およびセルロース誘導体から選ばれる少なくとも1種が好ましい。アクリル重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単位を、全構成単位の50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上有する重合体である。ただし、アクリル重合体が、(メタ)アクリル酸エステル単位の誘導体である環構造を含む場合、当該環構造の含有率も、(メタ)アクリル酸エステル単位の含有率に含まれる。シクロオレフィン重合体は、シクロオレフィン単位を、全構成単位の50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上有する重合体である。セルロース誘導体は、トリアセチルセルロース(TAC)単位、セルロースアセテートプロピオネート単位、セルロースアセテートブチレート単位、セルロースアセテートフタレート単位などの繰り返し単位を、全構成単位の50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上有する重合体である。シクロオレフィン重合体およびセルロース誘導体は、主鎖に環構造を有する。
【0066】
重合体(B)は、アクリル重合体が好ましい。アクリル重合体は、透明度が高く、表面強度などの機械的特性に優れる。このため、アクリル重合体を用いることにより、LCDなどの画像表示装置への使用に好適な位相差フィルムが得られる。
【0067】
原フィルムは、単層フィルムまたは複数の熱可塑性樹脂層の積層フィルムでありうる。原フィルムは、主鎖に環構造を有するアクリル重合体を含む熱可塑性樹脂により構成される層を有することが好ましい。原フィルムは、主鎖に環構造を有するアクリル重合体を含む熱可塑性樹脂からなる一つの層により構成されうる。原フィルムは、当該層と、シクロオレフィンのような、アクリル重合体以外の他の重合体を含む熱可塑性樹脂層との積層体でありうる。
【0068】
主鎖に環構造を有するアクリル重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する構成単位と環構造とを含む。当該アクリル重合体における(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する構成単位と環構造との含有率の合計は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは90重量%、特に好ましくは95重量%以上、最も好ましくは99重量%以上である。環構造の含有率は、好ましくは5重量%以上、より好ましくは10重量%以上、さらに好ましくは15重量%以上である。環構造の含有率が40重量%を超えると、そのような環構造の含有率を有する重合体の形成が難しくなったり(環化反応を進行させる際にゲルが生じやすくなる)、当該重合体を含む熱可塑性樹脂の成形性およびハンドリング性が低下して、原フィルムの生産性が低下したりすることがある。
【0069】
(メタ)アクリル酸エステル単位は、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルなどの単量体に由来する構成単位である。アクリル重合体は、これらの構成単位を2種類以上有しうる。アクリル重合体はメタクリル酸メチル(MMA)単位を有することが好ましく、この場合、位相差フィルムの熱安定性が向上する。
【0070】
アクリル重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単位以外の構成単位を有しうる。当該構成単位は、例えば、水酸基および/またはカルボン酸基を有する構成単位である。水酸基および/またはカルボン酸基を有する構成単位は、その種類によっては、重合後の環化反応によって重合体の主鎖に位置する環構造に変化する。アクリル重合体には、環構造に変化しなかった、未反応のこれらの構成単位が残りうる。水酸基を有する構成単位は、例えば、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸メチルの各単量体に由来する構成単位である。カルボン酸基を有する構成単位は、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸、2−(ヒドロキシエチル)アクリル酸の各単量体に由来する構成単位である。アクリル重合体は、これらの構成単位を2種類以上有しうる。
【0071】
アクリル重合体が有しうる、(メタ)アクリル酸エステル単位以外のさらなる構成単位は、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、α−ヒドロキシメチルスチレン、α−ヒドロキシエチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、メタリルアルコール、アリルアルコール、エチレン、プロピレン、4−メチル−1−ペンテン、酢酸ビニル、2−ヒドロキシメチル−1−ブテン、メチルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾールの各単量体に由来する構成単位である。アクリル重合体は、これらの構成単位を2種類以上有しうる。
【0072】
環構造の種類は特に限定されず、例えば、ラクトン環構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造、マレイミド構造および無水マレイン酸構造から選ばれる少なくとも1種である。なかでも、成形時における耐熱性の観点から、ラクトン環構造、グルタルイミド構造およびマレイミド構造から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0073】
アクリル重合体が主鎖に有していてもよいラクトン環構造は特に限定されず、例えば、4から8員環であってもよいが、環構造の安定性に優れることから5員環または6員環であることが好ましく、6員環であることがより好ましい。6員環であるラクトン環構造は、例えば、特開2004−168882号公報に開示されている構造であるが、前駆体の重合収率が高いこと、前駆体の環化反応により、高いラクトン環含有率を有するアクリル重合体が得られること、MMA単位を構成単位として有する重合体を前駆体にできること、などの理由から以下の式(1)に示される構造が好ましい。
【0074】
【化1】

【0075】
式(1)において、R1、R2およびR3は、互いに独立して、水素原子または炭素数1から20の有機残基である。有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。
【0076】
式(1)における有機残基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基のような炭素数1から20の範囲のアルキル基;エテニル基、プロペニル基のような炭素数1から20の不飽和脂肪族炭化水素基;フェニル基、ナフチル基のような炭素数1から20の芳香族炭化水素基である。上記アルキル基、不飽和脂肪族炭化水素基および芳香族炭化水素基は、水素原子の一つ以上が、水酸基、カルボキシル基、エーテル基およびエステル基から選ばれる少なくとも1種の基により置換されていてもよい。
【0077】
アクリル重合体が主鎖にラクトン環構造を有する場合、当該重合体におけるラクトン環構造の含有率は特に限定されない。含有率は、例えば5〜90重量%であり、好ましくは10〜80重量%であり、より好ましくは10〜70重量%であり、さらに好ましくは20〜60重量%である。アクリル重合体における環構造の含有率が過度に小さくなると、得られた位相差フィルムにおいて、環構造の存在により期待される特性、例えば、耐熱性、耐溶剤性、表面硬度および光学特性が不十分となることがある。環構造の含有率が過度に大きくなると、アクリル重合体および当該重合体を含む熱可塑性樹脂の成形性およびハンドリング性が低下して、原フィルムおよび位相差フィルムの生産性が低下する。
【0078】
アクリル重合体におけるラクトン環構造の含有率は、公知の方法により評価しうる。具体的には、例えば、アクリル重合体に対してダイナミックTG測定を実施し、150℃から300℃に加熱したときの重量減少率(実測重量減少率)を求める。この重量減少率は、評価対象であるアクリル重合体に残留する水酸基の量に対応する。150℃は、アクリル重合体に残留する未反応の(環化しなかった)水酸基が再び環化反応を開始する温度であり、300℃は、アクリル重合体が分解を始める温度である。この実測重量減少率と、環化反応前の前駆体が有する全ての水酸基(前駆体の組成から算出しうる)が脱アルコール環化反応したと仮定したときの理論重量減少率とから、ラクトン環構造の含有率を算出しうる。すなわち、ラクトン環構造を有するアクリル重合体のダイナミックTG測定において、150℃から300℃までの間の実測重量減少率(X)の測定を行う。これとは別に、当該重合体の組成から、その組成に含まれる全ての水酸基がラクトン環の形成(脱アルコール環化反応)に関与すると仮定したときの理論重量減少率(Y)を求める。理論重量減少率(Y)は、より具体的には、重合体中の脱アルコール環化反応に関わる構造(水酸基)を有する単量体のモル比、すなわち当該単量体の含有率から算出しうる。これらの値X,Yを式{1−(実測重量減少率(X)/理論重量減少率(Y))}×100(%)に代入して、脱アルコール反応率Aが得られる。次に、求めた脱アルコール反応率Aに対応する割合で環化反応が進行したと仮定して、式B×A×MR/Mmにより、ラクトン環の含有率が求められる。Bは、前駆体(ラクトン環化反応が進行する前の重合体)における、上記水酸基を有する単量体の含有率であり、MRは、環化反応により形成されるラクトン環構造の式量であり、Mmは、上記水酸基を有する単量体の分子量であり、Aは、脱アルコール反応率である。
【0079】
主鎖に環構造を有するアクリル重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは8万以上、より好ましくは10万以上である。分子量の分散度は、好ましくは3.5以下であり、より好ましくは3以下である。これらの場合、アクリル重合体に存在する分岐構造が少なく、加工時の熱安定性が向上するとともに、得られた位相差フィルムの強度および外観が向上する。Mwおよび分散度は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)を用いて、ポリスチレン換算により求めうる。分散度は、重合体の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)の比Mw/Mnである。Mnも、GPCを用いて求めうる。
【0080】
主鎖に環構造を有するアクリル重合体のガラス転移温度Tgは、例えば、110℃以上であり、115℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましい。一方、Tgが200℃を越えると、溶融製膜が困難になるなど、フィルムへの成形性およびフィルムの延伸性が低下する。主鎖に環構造を有さない一般的なアクリル重合体のTgは100℃程度である。
【0081】
主鎖に環構造を有するアクリル重合体は、公知の方法により製造しうる。環構造が無水グルタル酸構造またはグルタルイミド構造であるアクリル重合体は、例えば、WO2007/26659号公報またはWO2005/108438号公報に記載されている方法により製造しうる。環構造が無水マレイン酸構造またはN−置換マレイミド構造であるアクリル重合体は、例えば、特開昭57-153008号公報または特開2007-31537号公報に記載されている方法により製造できる。環構造がラクトン環構造であるアクリル重合体は、例えば、特開2006-96960号公報、特開2006-171464号公報または特開2007-63541号公報に記載されている方法により製造できる。
【0082】
原フィルムを構成する熱可塑性樹脂は、上述した以外の他の重合体を含みうる。熱可塑性樹脂における当該重合体の含有率は、好ましくは0〜50重量%、より好ましくは0〜25重量%、さらに好ましくは0〜10重量%である。当該重合体は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)のようなオレフィン系ポリマー;塩化ビニル、塩素化ビニル樹脂のような含ハロゲン系ポリマー;ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンブロック共重合体のようなスチレン系ポリマー;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートのようなポリエステル;ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートのような生分解性ポリエステル;ポリカーボネート;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610のようなポリアミド;ポリアセタール;ポリフェニレンオキシド;ポリフェニレンスルフィド;ポリエーテルエーテルケトン;ポリエーテルニトリル;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリオキシペンジレン;ポリアミドイミド;ポリブタジエン系ゴムまたはアクリル系ゴムを配合したABS樹脂またはASA樹脂のようなゴム質重合体;である。原フィルムを構成する熱可塑性樹脂が、主鎖に環構造を有するアクリル重合体を含む場合、当該アクリル重合体との相溶性の観点から、他の重合体はスチレン−アクリロニトリル共重合体であることが好ましい。ゴム質重合体は、当該アクリル重合体と相溶し得る組成を有するグラフト部を表面に有することが好ましい。ゴム質重合体の平均粒子径は、位相差フィルムとしての透明性の向上の観点から、例えば、400nm以下であり、好ましくは200nm以下であり、より好ましくは100nm以下であり、さらに好ましくは70nm以下である。
【0083】
原フィルムを構成する熱可塑性樹脂は、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を構成単位として有する重合体を含みうる。この場合、熱可塑性樹脂の組成によっては、得られた位相差フィルムが示す複屈折の波長分散性の制御の自由度が高くなり、例えば、逆波長分散性を示す位相差フィルムが得られる。逆波長分散性は、少なくとも可視光域において、波長が短くなるほど複屈折が小さくなる(位相差が小さくなる)波長分散性である。複素芳香族基は、例えば、カルバゾール基、ピリジン基、チオフェン基およびイミダゾール基から選ばれる少なくとも1種である。複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位は、例えば、N−ビニルカルバゾール単位、ビニルピリジン単位、ビニルチオフェン単位およびビニルイミダゾール単位から選ばれる少なくとも1種である。なかでも、N−ビニルカルバゾール単位が好ましく、この場合、位相差フィルムが良好な逆波長分散性を示しうる。逆波長分散性を示す位相差フィルムによって、高い反射防止効果を示す楕円偏光板が実現する。
【0084】
複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を構成単位として有する重合体は、主鎖に環構造を有するアクリル重合体でありうる。原フィルムを構成する熱可塑性樹脂は、主鎖に環構造を有するアクリル重合体とは異なる重合体として、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を構成単位として有する重合体を含みうる。
【0085】
逆波長分散性を示す位相差フィルムは、主鎖に環構造を有するアクリル重合体と、複素芳香族基を有するα,β−不飽和単量体単位を構成単位として有する重合体とを原フィルムが同一の層に含む場合だけではなく、双方の重合体を別々の層に含む場合(各重合体を含む層の積層構造を有する場合)にも、実現しうる。
【0086】
原フィルムを構成する熱可塑性樹脂は、公知の添加剤を含みうる。添加剤は、例えば、紫外線吸収剤;酸化防止剤;位相差上昇剤および位相差低減剤のような位相差調整剤;位相差安定剤、耐光安定剤、耐候安定剤および熱安定剤のような安定剤;ガラス繊維および炭素繊維のような補強材;近赤外線吸収剤;トリス(ジブロモプロピル)ホスフェ−ト、トリアリルホスフェ−トおよび酸化アンチモンのような難燃剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤に代表される帯電防止剤;無機顔料、有機顔料、染料のような着色剤;有機フィラ−、無機フィラ−;樹脂改質剤;アンチブロッキング剤;マット剤;酸補足剤;金属不活性化剤;可塑剤;滑剤;難燃剤;ASAおよびABSのようなゴム質重合体;その他、位相差フィルムの光学特性および/または機械的特性を調整する材料である。添加剤の添加量は、例えば、0〜10重量%であり、好ましくは0〜5重量%であり、より好ましくは0〜2重量%であり、さらに好ましくは0〜0.5重量%である。
【0087】
原フィルムの表面に、熱可塑性樹脂層ではない機能性層を設けうる。機能性層は、例えば、ハードコート層、易接着層、帯電防止層、反射防止層およびアンチブロッキング層である。
【0088】
原フィルムの左右の端部(幅方向の端部)に、ナーリング加工のような機能性加工が施されうる。機能性加工は、原フィルムの破断防止または原フィルムへのアンチブロッキング性の付与を目的とする、テープの貼付でありうる。テープは、例えば、積水化学製のタフライトテープ(商品名)である。
【0089】
原フィルムを製造する方法は特に限定されない。原フィルムは、例えば、溶液製膜法(溶液流延法、キャスト成形法)、溶融製膜法(溶融押出法、押出成形法)、プレス成形法のような公知の手法により製造しうる。なかでも、環境負荷が小さく生産性に優れる観点から、溶融製膜法による原フィルムの製造が好ましい。
【0090】
溶液製膜法では、例えば、原フィルムを構成する熱可塑性樹脂と良溶媒とを撹拌混合して均一な混合液とし、得られた混合液を支持フィルムまたはドラムにキャストしてキャスト膜を形成し、形成したキャスト膜を予備乾燥して自己支持性を有するフィルムとし、このフィルムを支持フィルムまたはドラムから剥がして乾燥し、原フィルムを形成する。原フィルムを構成する熱可塑性樹脂は、必要ならば添加剤のような材料を含む。これは、他の製膜法においても同じである。溶液製膜法に用いられる溶媒は、例えば、クロロホルム、ジクロロメタンのような塩素系溶媒;トルエン、キシレン、ベンゼンおよびこれらの混合溶媒のような芳香族系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノールのようなアルコール系溶媒;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフォキシド、ジオキサン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、アセトン、酢酸エチル、ジエチルエーテル;である。溶媒として、これらの1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。溶液製膜法を実施する装置は、例えば、ドラム式キャスティングマシン、ベルト式キャスティングマシンである。
【0091】
溶融製膜法では、例えば、原フィルムを構成する熱可塑性樹脂の各成分をオムニミキサーのような混合機を用いてプレブレンドし、得られた混合物を混練機により混練した後、押出成形して原フィルムを形成する。別途形成した熱可塑性樹脂を溶融押出成形して原フィルムを形成してもよい。混練機は特に限定されず、例えば、単軸押出機、二軸押出機、加圧ニーダーのような公知の混練機である。
【0092】
押出成形は、例えば、Tダイ法、インフレーション法である。押出成形の温度(成形温度)は、好ましくは200〜350℃、より好ましくは250〜300℃、さらに好ましくは255℃〜300℃、特に好ましくは260℃〜300℃である。Tダイ法によれば、押出機の先端部にTダイを取り付け、当該Tダイから押し出して得たフィルムを巻き取ることによって、ロールに巻回した原フィルム(原フィルムロール)が得られる。
【0093】
押出成形に用いる押出機の種類は特に限定されず、単軸、二軸、多軸のいずれの押出機も使用しうる。熱可塑性樹脂を十分に可塑化して良好な混練状態を得るために、押出機のL/D値(Lは押出機のシリンダの長さ、Dはシリンダ内径)は、好ましくは10以上100以下であり、より好ましくは15以上80以下であり、さらに好ましくは20以上60以下である。L/D値が10未満の場合、熱可塑性樹脂が十分に可塑化されず、良好な混練状態が得られないことがある。L/D値が100を超える場合、熱可塑性樹脂に対して過度に剪断発熱が加わることにより、樹脂に含まれる重合体が熱分解することがある。
【0094】
押出機のシリンダの設定温度は、好ましくは200℃以上300℃以下であり、より好ましくは250℃以上300℃以下である。シリンダの設定温度が200℃未満の場合、樹脂の溶融粘度が過度に高くなり、原フィルムの生産性が低下しやすい。シリンダの設定温度が300℃を超える場合、樹脂に含まれる重合体が熱分解することがある。
【0095】
押出機の形状は、特に限定されない。押出機は、1個以上の開放ベント部を有することが好ましい。この場合、押出機の開放ベント部から分解ガスを吸引でき、得られた原フィルムに残存する揮発成分の量が低減する。開放ベント部から分解ガスを吸引するためには、例えば、開放ベント部を減圧状態にすればよい。減圧状態にある開放ベント部の圧力は、1.3〜931hPaが好ましく、13.3〜798hPaがより好ましい。開放ベント部の圧力が931hPaより高いと、揮発成分ならびに重合体の分解により発生する単量体成分が樹脂中に残存しやすい。開放ベント部の圧力を1.3hPaより低く保つことは、工業的に困難である。
【0096】
原フィルムの製造には、ポリマーフィルターにより濾過した熱可塑性樹脂を使用することが好ましい。ポリマーフィルターを用いた濾過により、樹脂中に存在する異物が除去され、位相差フィルムの光学欠点および外観上の欠点が低減される。濾過は、溶液濾過または溶融濾過である。
【0097】
溶融濾過の際、樹脂は高温の溶融状態となる。ポリマーフィルターを通過する際に樹脂に含まれる成分が劣化すると、劣化により発生したガス成分あるいは着色劣化物が流れ出し、得られた原フィルムに、穴あき、流れ模様、流れスジのような欠点が観察されることがある。これらの欠点は、特に、原フィルムの連続成形時に観察されやすい。溶融濾過時の樹脂の劣化は、樹脂の溶融粘度を低下させ、ポリマーフィルターにおける樹脂の滞留時間を短くすることによって防ぎうる。この観点から、ポリマーフィルターにより溶融濾過した樹脂の成形温度は、例えば、255〜320℃であり、260〜300℃が好ましい。
【0098】
ポリマーフィルターの構成は特に限定されない。ハウジング内に多数枚のリーフディスク型フィルターを配したポリマーフィルターが好適に用いられる。リーフディスク型フィルターの濾材は、金属繊維不織布を焼結したタイプ、金属粉末を焼結したタイプ、金網を数枚積層したタイプ、またはそれらを組み合わせたハイブリッドタイプのいずれであってもよく、なかでも、金属繊維不織布を焼結したタイプが最も好ましい。
【0099】
ポリマーフィルターの濾過精度は特に限定されないが、通常15μm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下である。濾過精度が1μm以下の場合、ポリマーフィルターにおける樹脂の滞留時間が長くなるため、樹脂に含まれる重合体が熱劣化しやすい。さらに、原フィルムの生産性も低下する。濾過精度が15μmを超える場合、樹脂中の異物を除去することが難しくなる。
【0100】
ポリマーフィルターの形状は特に限定されず、例えば、複数の樹脂流通口を有し、センターポール内に樹脂の流路を有する内流型;断面が複数の頂点もしくは面においてリーフディスクフィルターの内周面に接し、センターポールの外面に樹脂の流路がある外流型;である。なかでも、樹脂の滞留箇所の少ない外流型が好ましい。
【0101】
ポリマーフィルターにおける樹脂の滞留時間は、好ましくは20分以下、より好ましくは10分以下、さらに好ましくは5分以下である。濾過時におけるフィルター入口圧および出口圧は、例えば、それぞれ3〜15MPaおよび0.3〜10MPaであり、圧力損失(フィルターの入口圧と出口圧の圧力差)は、1MPa〜15MPaが好ましい。圧力損失が1MPa以下の場合、樹脂がフィルターを通過する流路に偏りが生じやすく、得られたフィルムの品質が低下する傾向がある。圧力損失が15MPaを超えると、ポリマーフィルターの破損が起こり易くなる。
【0102】
ポリマーフィルターに導入される樹脂の温度は、その溶融粘度に応じて適宜設定すればよく、例えば250〜300℃であり、好ましくは255〜300℃であり、さらに好ましくは260〜300℃である。
【0103】
ポリマーフィルターを用いた溶融濾過により、異物および着色物の少ない原フィルムを得るための具体的な手順は、特に限定されない。例えば、(1)クリーン環境下で樹脂の形成および濾過処理を行い、引き続いてクリーン環境下で成形を行うプロセス、(2)異物または着色物を有する樹脂をクリーン環境下で濾過処理した後、引き続いてクリーン環境下で成形を行うプロセス、(3)異物または着色物を有する樹脂を、クリーン環境下で濾過処理すると同時に成形を行うプロセス、が採用される。それぞれの工程毎に、複数回、濾過処理を実施しうる。
【0104】
ポリマーフィルターによって樹脂を溶融濾過する際には、押出機とポリマーフィルターとの間にギアポンプを設置して、フィルター内の樹脂の圧力を安定化させることが好ましい。
【0105】
[位相差フィルム、位相差フィルムロール]
本発明の位相差フィルムロールでは、帯状の位相差フィルムが巻回されている。この位相差フィルム面内の遅相軸は、当該フィルムの長手方向に対して10°以上80°以下傾いている。一つの例は、フィルム面内の遅相軸が当該フィルムの長手方向に対して45°傾いた位相差フィルムである。この位相差フィルムは、帯状の偏光フィルムとのロールtoロール積層による円偏光板の製造に好適である。位相差フィルムは、主鎖に環構造を有するアクリル重合体を含む熱可塑性樹脂により構成される層を有する。
【0106】
本発明の位相差フィルムロールが備える帯状の位相差フィルムは、例えば、本発明の製造方法により製造される。このとき、原フィルムは、主鎖に環構造を有するアクリル重合体を含む熱可塑性樹脂により構成される層を有しうる。
【0107】
本発明の位相差フィルムロールが備える位相差フィルムの構成は、斜め方向に延伸されている以外、基本的に、原フィルムの構成と同じである。ただし、位相差フィルムには、延伸前の原フィルムにない層、例えば、延伸後の工程により付加された層、または延伸時もしくは延伸後の工程において変性した層、が存在しうる。
【0108】
本発明の位相差フィルムロールは、例えば、本発明の製造方法により製造した帯状の位相差フィルムを巻回して製造しうる。
【0109】
以下、本発明の位相差フィルムロールが備える位相差フィルムについて説明する。
【0110】
当該位相差フィルムは二軸延伸性が弱く、そのNZ係数は、0.95以上1.25以下である。原フィルムの構成および位相差フィルムの製造条件によっては、NZ係数は、0.95以上1.2以下、さらには0.95以上1.15以下となる。NZ係数が1.0のとき、位相差フィルムの二軸延伸性は最も弱くなる。本発明の製造方法により製造した、二軸延伸性が弱い位相差フィルムにより、例えば、画面に対して斜め方向からの視聴においても、良好な反射防止特性および/または3D表示特性を示す、視野角特性に優れる画像表示装置が実現する。
【0111】
位相差フィルムが示す面内位相差Reは、波長590nmの光に対する値にして、例えば、20nm以上500nm以下であり、30nm以上320nm以下が好ましい。位相差フィルムが示す面内位相差Reの値は、例えば、原フィルムの延伸条件により制御しうる。面内位相差Reは、1/4波長板または1/2波長板のような、位相差フィルムの具体的な用途に応じて、適宜、設定しうる。面内位相差Reは、位相差フィルム面内における遅相軸方向の屈折率をnx、位相差フィルム面内における進相軸方向の屈折率をny、位相差フィルムの厚さをdとして、式(nx−ny)×dにより与えられる値である。厚さ方向の位相差Rthは、さらに位相差フィルムの厚さ方向の屈折率をnzとして、式{(nx+ny)/2−nz}×dにより与えられる値である。NZ係数は、式|Rth|/|Re|+0.5により与えられる値である。
【0112】
位相差フィルムは、その構成によっては、逆波長分散性を示す。この場合、例えば、当該位相差フィルムを画像表示装置に用いたときに、当該装置の視認性、コントラスト特性が向上する。この特性の向上は、例えば、黒色表示における青みの低減をもたらす。なお、従来、位相差フィルムには、ポリカーボネート、シクロオレフィン重合体が主に用いられてきたが、これら一般的な重合体から構成される位相差フィルムは、光の波長が短くなるほど位相差が大きくなる波長分散性(順波長分散性)を示す。
【0113】
逆波長分散性の指標は、以下のとおりである。波長447nmの光に対する位相差フィルムの面内位相差をRe(447)、波長590nmの光に対する位相差フィルムの面内位相差ReをRe(590)、波長750nmの光に対する面内位相差をRe(750)としたときに、例えば、Re(447)、Re(590)およびRe(750)が、式Re(447)/Re(590)≦0.98かつ式Re(750)/Re(590)≧1.01を満たす。好ましくは、0.50以上0.98以下のRe(447)/Re(590)かつ1.01以上1.50以下のRe(750)/Re(590)であり、より好ましくは、0.60以上0.95以下のRe(447)/Re(590)かつ1.02以上1.40以下のRe(750)/Re(590)であり、さらに好ましくは、0.70以上0.93以下のRe(447)/Re(590)かつ1.03以上1.30以下のRe(750)/Re(590)である。
【0114】
本発明の製造方法により製造した位相差フィルムは、幅方向における光学特性の均一性に優れている。当該位相差フィルムをその幅方向に見たときに、光学的な配向角の最大値と最小値との差(光軸精度ΔR)は、例えば、2.5°以下であり、原フィルムの構成および位相差フィルムの製造条件によっては1°以下となる。当該位相差フィルムを、その幅方向に見たときに、波長590nmの光に対する面内位相差Re(590)の最大値と最小値との差は、例えば、4nm以下であり、原フィルムの構成および位相差フィルムの製造条件によっては2nm以下となる。当該位相差フィルムを、その幅方向に見たときに、NZ係数の最大値と最小値との差は、例えば、0.10以下であり、原フィルムの構成および位相差フィルムの製造条件によっては0.05以下、さらには0.02以下となる。
【0115】
位相差フィルムの厚さは、例えば、10μm〜500μmであり、好ましくは20μm〜300μmであり、より好ましくは30μm〜150μmである。
【0116】
位相差フィルムの全光線透過率は、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは91%以上である。全光線透過率は、位相差フィルムの透明性の目安となる。全光線透過率が85%未満の位相差フィルムは、光学用フィルムとして適さない。
【0117】
位相差フィルムのTgは、好ましくは110℃以上、より好ましくは115℃以上、さらに好ましくは120℃以上である。Tgの上限は限定されないが、位相差フィルムの生産性およびハンドリング性を考慮すると、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下である。
【0118】
位相差フィルムを構成する樹脂の組成は、原フィルムを構成する樹脂の組成と基本的に同じである。
【0119】
位相差フィルムの表面には、必要に応じて、各種の機能性コーティング層が形成されていてもよい。機能性コーティング層は、例えば、帯電防止層、粘接着剤層、接着層、易接着層、防眩(ノングレア)層、光触媒層などの防汚層、反射防止層、ハードコート層、紫外線遮蔽層、熱線遮蔽層、電磁波遮蔽層、ガスバリヤー層である。機能性コーティング層の形成は、延伸前の原フィルムに対して行われてもよく、延伸により得た位相差フィルムに対して行われてもよい。
【0120】
本発明の製造方法により得た位相差フィルムと偏光フィルムとを積層することによって、例えば、楕円偏光板が得られる。楕円偏光板は、例えば、LCDやEL発光表示装置の反射防止膜として好ましく使用される。偏光フィルムは、例えば、偏光子の少なくとも一方の主面に偏光子保護フィルムが積層された構造を有する。位相差フィルムを、偏光子保護フィルムに接するように偏光フィルムと積層する場合、当該位相差フィルムの表面に予め易接着層を形成しておくことが好ましい。
【0121】
本発明の製造方法により得た位相差フィルムは、各種の光学部材として好適に用いることができる。光学部材は、例えば、光学用保護フィルム、具体的には、各種の光ディスク(VD、CD、DVD、MD、LDなど)の基板の保護フィルム、LCDなどの画像表示装置が備える偏光板に用いる偏光子保護フィルムである。視野角補償フィルム、光拡散フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、タッチパネル用導電フィルムなどに使用してもよい。
【実施例】
【0122】
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0123】
最初に、各実施例および比較例において作製した重合体およびフィルムの特性の評価方法を示す。
【0124】
[ガラス転移温度(Tg)]
重合体、樹脂およびフィルムのガラス転移温度(Tg)は、JIS K7121の規定に準拠して求めた。具体的には、示差走査熱量計(リガク製、Thermo plus EVO DSC−8230)を用い、窒素ガス雰囲気下、約10mgのサンプルを常温から200℃まで昇温(昇温速度20℃/分)して得られたDSC曲線から、始点法により評価した。リファレンスには、α−アルミナを用いた。
【0125】
[重量平均分子量]
重合体の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて、以下の条件で求めた。
システム:東ソー製GPCシステム HLC−8220
展開溶媒:クロロホルム(和光純薬工業製、特級)、流量:0.6mL/分
標準試料:TSK標準ポリスチレン(東ソー製、PS−オリゴマーキット)
測定側カラム構成:ガードカラム(東ソー製、TSKguardcolumn SuperHZ−L)、分離カラム(東ソー製、TSKgel SuperHZM−M)2本直列接続
リファレンス側カラム構成:リファレンスカラム(東ソー製、TSKgel SuperH−RC)
【0126】
[固有複屈折]
フィルムを構成する熱可塑性樹脂の固有複屈折の正負は、以下のように評価した。最初に、作製した未延伸の原フィルムから80mm×50mmのフィルム片を切り出し、加温室を備えたオートグラフ(島津製作所製)を用いて、原フィルムのTg+3℃にて、延伸倍率2倍で一軸延伸し、延伸フィルムを得た。このとき、フィルム片における長手方向の両端部のそれぞれ20mmをチャックの取り付けしろとしたため、実質的には、フィルム片における40mm×50mmの部分に対して延伸が実施された。次に、全自動複屈折計(王子計測機器製、KOBRA−WR)を用いて、得られた延伸フィルムの配向角を求め、これによりフィルムを構成する樹脂の固有複屈折の正負を決定した。測定された配向角が0°近傍であれば(すなわち、樹脂の配向方向が延伸方向と略平行であれば)、フィルムを構成する樹脂の固有複屈折は正である。測定された配向角が90°近傍であれば(すなわち、樹脂の配向方向が延伸方向と略垂直であれば)、フィルムを構成する樹脂の固有複屈折は負である。
【0127】
[屈折率異方性]
作製した位相差フィルムの、波長590nmの光に対する面内位相差Re(590)、波長447nmの光に対する面内位相差Re(447)、波長750nmの光に対する面内位相差Re(750)および波長590nmの光に対する厚さ方向の位相差Rthならびに光軸の方向(フィルム面内における遅相軸の方向)は、位相差フィルム・光学材料検査装置(大塚電子製、RETS−100)を用いて評価した。測定の際に当該装置に入力する位相差フィルムの厚さdは、デジマチックマイクロメーター(ミツトヨ製)により、位相差フィルムの平均屈折率はアッベ屈折率計により、それぞれ測定した。Rthは式{(nx+ny)/2−nz}×dにより与えられる値を用いた。Rthを測定する際には、測定対象である位相差フィルムを傾斜させるが、その傾斜軸は、当該フィルムの遅相軸および進相軸のうち、遅相軸を傾斜軸として測定した面内位相差Re(S40°)と、進相軸を傾斜軸として測定した面内位相差Re(F40°)とを比較して大きい値が得られる方とした。位相差フィルムの一軸延伸性は、NZ係数(NZ=|Rth|/|Re(590)|+0.5)により評価した。位相差フィルムの波長分散性は、Re(447)/Re(590)およびRe(750)/Re(590)の値により評価した。
【0128】
位相差フィルムの光軸Rの方向(フィルム面内の遅相軸の方向)は、作製した帯状の位相差フィルムから、当該フィルムを幅方向に横切る、帯状の評価用フィルムを切り出し、切り出した評価用フィルムの短辺を上記装置の基準バーに合わせて基準軸がぶれないようにして測定した。光軸Rの方向は、基準方向となる位相差フィルムの長手方向を0°として、当該方向からの角度をもって表現した。光軸Rの方向は、フィルムの上流側から下流側を見たときに光軸が左側(左側クリップ側)を向いている場合を「左側」、右側(右側クリップ側)を向いている場合を「右側」とした。
【0129】
精度を評価するときを除き、位相差フィルムの光学特性は、作製した帯状の位相差フィルムにおける幅方向の中央部を評価した。
【0130】
作製した位相差フィルムにおける幅方向の光学特性の均一性(位相差精度ΔRe(590)、光軸精度ΔR、一軸延伸性の精度ΔNZ)は、作製した帯状の位相差フィルム(幅500mm)の幅方向に、50mm間隔で11点、各光学特性(Re(590)、光軸Rの方向およびNZ係数)の測定ポイントを設け、各ポイントにおいて測定した最大値と最小値との差により評価した。位相差精度ΔRe(590)に関しては、測定したRe(590)の最大値と最小値との差が4nm以下であれば良(○)とした。光軸精度ΔRに関しては、測定した光軸Rの方向の最大値と最小値との差が1°以下であれば良(○)とした。一軸延伸性の精度ΔNZに関しては、測定したNZ係数の最大値と最小値との差が0.10以下であれば良(○)とした。
【0131】
(製造例1)
撹拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入管および滴下ロートを備えた反応容器に、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)15重量部、メタクリル酸メチル(MMA)27重量部、アクリル酸メチル(MA)10重量部、N−ビニルカルバゾール(NVCz)6重量部ならびに重合溶媒としてトルエン37重量部およびメタノール2重量部を仕込んだ。反応容器に窒素ガスを導入しながら95℃まで昇温し、還流が始まったところで、重合開始剤としてt−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(アルケマ吉富製、商品名:ルペロックス575)0.029重量部を添加した。これと同時に、MHMA15重量部、MMA27重量部、トルエン17重量部および上記t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.082重量部の混合溶液の滴下を開始し、当該溶液を8時間かけて滴下しながら、約90℃〜100℃の還流下で溶液重合を進行させた。これに加えて、重合開始から5時間が経過後、23.3重量部のトルエンを3時間かけて滴下し、重合溶液を希釈した。
【0132】
次に、このようにして得た重合溶液に、環化反応の触媒としてリン酸2−エチルヘキシル(堺化学製、商品名:Phoslex A−8)0.24重量部を添加し、80℃〜105℃の還流下で2時間、ラクトン環構造を形成する環化縮合反応を進行させた。次に、得られた重合溶液を熱交換器に通して240℃まで昇温し、バレル温度250℃、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個およびフォアベント数4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)、先端部にリーフディスク型のポリマーフィルター(濾過精度5μm)が配置されたベントタイプスクリュー二軸押出機(L/D=52)に、樹脂量換算で100重量部/時の処理速度で導入し、脱揮を行った。その際、別途準備しておいた酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液を1.5重量部/時の投入速度で第2ベントの後ろから、イオン交換水を0.5重量部/時の投入速度で第3ベントの後ろから、それぞれ投入した。酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液として、10重量部の酸化防止剤(5重量部のチバジャパン製、イルガノックス1010と、5重量部のADEKA製、アデカスタブAO−412Sとの混合物)と、失活剤として80重量部のオクチル酸亜鉛(日本化学産業製、商品名:ニッカオクチクス亜鉛3.6%)とを、トルエン65重量部に溶解させた溶液を用いた。
【0133】
脱揮完了後、溶融状態にある樹脂を押出機から押し出して、主鎖にラクトン環構造を有するアクリル重合体を含むアクリル樹脂(4A)のペレットを得た。アクリル樹脂(4A)の重量平均分子量は11万、Tgは132℃、固有複屈折は正であった。
【0134】
次に、アクリル樹脂(4A)のペレットを、ポリマーフィルター(濾過精度5μm)を備えるとともにTダイを先端に備えた単軸押出機を用いて、成形温度270℃で溶融押出成形して、厚さ250μm、幅570mmの帯状の未延伸フィルム(4A−F1)を作製した。
【0135】
(製造例2)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応容器に、MHMA15重量部、MMA30重量部、メタクリル酸n−ブチル(BMA)5重量部および重合溶媒としてトルエン50質量部を仕込んだ。反応容器に窒素ガスを導入しながら105℃まで昇温し、還流が始まったところで、重合開始剤としてt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、商品名:ルペロックス570)0.03重量部を添加した。これと同時に、上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.06重量部の滴下を開始し、これを2時間かけて滴下しながら、約105℃〜110℃の還流下で溶液重合を進行させた。滴下終了後も、さらに4時間の加温を続けた。この時点での重合反応率は92.9%であり、形成した重合体におけるMHMA単位の含有率は30.2重量%であった。
【0136】
次に、このようにして得た重合溶液に、環化反応の触媒としてリン酸2−エチルヘキシル(堺化学製、商品名:Phoslex A−8)0.1重量部を添加し、80℃〜105℃の還流下で2時間、ラクトン環構造を形成する環化縮合反応を進行させた。次に、得られた重合溶液を熱交換器に通して240℃まで昇温し、バレル温度250℃、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個およびフォアベント数4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)、先端部にリーフディスク型のポリマーフィルター(濾過精度5μm)が配置されたベントタイプスクリュー二軸押出機(L/D=52)に、樹脂量換算で100重量部/時の処理速度で導入し、脱揮を行った。その際、別途準備しておいた酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液を1.5重量部/時の投入速度で第2ベントの後ろから、イオン交換水を0.5重量部/時の投入速度で第3ベントの後ろから、それぞれ投入した。酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液として、10重量部の酸化防止剤(5重量部のチバジャパン製、イルガノックス1010と、5重量部のADEKA製、アデカスタブAO−412Sとの混合物)と、失活剤として80重量部のオクチル酸亜鉛(日本化学産業製、商品名:ニッカオクチクス亜鉛3.6%)とを、トルエン65重量部に溶解させた溶液を用いた。
【0137】
脱揮完了後、溶融状態にある樹脂を押出機から押し出して、主鎖にラクトン環構造を有するアクリル重合体を含むアクリル樹脂(5A)のペレットを得た。アクリル樹脂(5A)の重量平均分子量は11万、Tgは132℃、固有複屈折は正であった。
【0138】
次に、アクリル樹脂(5A)のペレットを、ポリマーフィルター(濾過精度5μm)を備えるとともにTダイを先端に備えた単軸押出機を用いて、成形温度270℃で溶融押出成形して、厚さ250μm、幅570mmの帯状の未延伸フィルム(5A−F1)を作製した。
【0139】
(製造例3)
撹拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応容器に、MHMA10重量部、MMA40重量部、重合溶媒としてトルエン50重量部および酸化防止剤としてアデカスタブ2112(ADEKA製)0.025重量部を仕込んだ。次に、反応容器に窒素ガスを導入しながら105℃まで昇温し、還流が始まったところで、重合開始剤としてt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、商品名:ルペロックス570)0.05重量部を添加した。これと同時に、上記t−アミルパーオキシイソノナノエート0.1重量部の滴下を開始し、これを3時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させた。滴下終了後、反応容器を4時間加温し続けて、熟成を行った。
【0140】
次に、このようにして得た重合溶液に、環化反応の触媒としてリン酸2−エチルヘキシル(堺化学製、商品名:Phoslex A−8)0.05重量部を添加し、約90℃〜105℃の還流下で2時間、ラクトン環構造を形成する環化縮合反応を進行させた。次に、得られた重合溶液を熱交換器に通して240℃まで昇温し、先端部にリーフディスク型のポリマーフィルター(濾過精度5μm)が配置されたベントタイプスクリュー二軸押出機(L/D=52)に、樹脂量換算で70重量部/時の処理速度で導入して、重合溶液を脱揮した。用いたベントタイプスクリュー二軸押出機のリアベント数は1個、フォアベント数は4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)とし、第3ベントと第4ベントとの間にサイドフィーダーを配置し、バレル温度は240℃、減圧度は13.3〜400hPa(10〜300mmHg)とした。脱揮の際、別途準備しておいた酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液を1.05重量部/時の投入速度で第1ベントの後ろから、イオン交換水を1.05重量部/時の投入速度で第2および第3ベントの後ろから、それぞれ投入した。酸化防止剤/環化触媒失活剤の混合溶液として、5重量部の酸化防止剤(チバスペシャリティケミカルズ製、イルガノックス1010)と、環化触媒失活剤として46重量部のオクチル酸亜鉛(日本化学産業製、商品名:ニッカオクチクス亜鉛3.6%)とをトルエン54重量部に溶解させた溶液を用いた。さらに、上記サイドフィーダーから、スチレン−アクリロニトリル共重合体(スチレン単位/アクリロニトリル単位の比率が73重量%/27重量%、重量平均分子量22万)のペレットを、投入速度30重量部/時で投入した。その後、押出機内にある溶融状態の樹脂を押出機の先端から吐出し、ペレタイザーによりペレット化して、主鎖にラクトン環構造を有するアクリル重合体と、スチレン−アクリロニトリル共重合体とを含む熱可塑性樹脂(6A)のペレットを得た。樹脂(6A)のTgは122℃であり、固有複屈折は負であった。
【0141】
次に、ポリマーフィルター(濾過精度5μm)を備えるとともにTダイを先端に備えた単軸押出機を用いて、成形温度270℃でペレット(6A)を溶融押出成形して、厚さ200μm、幅570mmの帯状の未延伸フィルム(6A−F1)を作製した。
【0142】
(製造例4)
攪拌機を備えた耐圧反応容器に、脱イオン水70重量部、ピロリン酸ナトリウム0.5重量部、オレイン酸カリウム0.2重量部、硫酸第一鉄0.005重量部、デキストロース0.2重量部、p−メンタンハイドロパーオキシド0.1重量部および1,3−ブタジエン28重量部からなる反応混合物を加え、65℃に昇温して、2時間、重合を進行させた。次に、得られた反応混合物にp−ハイドロパーオキシド0.2重量部を加え、さらに、1,3−ブタジエン72重量部、オレイン酸カリウム1.33重量部および脱イオン水75重量部の混合溶液を2時間、連続滴下した。開始から21時間、重合を進行させて、平均粒子径0.240μmのブタジエン系ゴム重合体ラテックスを得た。
【0143】
次に、冷却器および攪拌機を備えた重合容器に、脱イオン水120重量部、上記作製したブタジエン系ゴム重合体ラテックス50重量部(固形分換算)、オレイン酸カリウム1.5重量部およびソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート(SFS)0.6重量部を仕込み、重合容器内を窒素ガスで十分に置換した。
【0144】
次に、重合容器の内温を70℃に昇温した後、スチレン36.5重量部およびアクリロニトリル13.5重量部からなる混合モノマー溶液と、クメンハイドロキシパーオキサイド0.27重量部および脱イオン水20重量部からなる重合開始剤溶液とを、個別に、2時間かけて連続滴下しながら、重合を進行させた。滴下終了後、容器の内温を80℃に昇温して、さらに2時間、重合を継続させた。次に、容器の内温が40℃になるまで冷却した後、内容物を300メッシュの金網に通し、弾性有機微粒子の乳化重合液を得た。
【0145】
次に、得られた乳化重合液を塩化カルシウムで塩析し、凝固させた後、水洗および乾燥して、粉体状の弾性有機微粒子(7G、平均粒子径:0.260μm、軟質重合体層の屈折率:1.516)を得た。
【0146】
(製造例5)
製造例1で作製したアクリル樹脂(4A)、製造例4で作製した弾性有機微粒子(7G)およびスチレン−アクリロニトリル共重合体(AS樹脂:スチレン単位/アクリロニトリル単位の比率が73重量%/27重量%、質量平均分子量が22万)を、81:14:5の重量比となるように、二軸押出機を用いて240℃で混練し、透明な熱可塑性樹脂(8A)のペレットを作製した。樹脂(8A)のTgは129℃であった。
【0147】
次に、樹脂(8A)のペレットを、ポリマーフィルター(濾過精度5μm)を備えるとともにTダイを先端に備えた単軸押出機を用いて、成形温度270℃で溶融押出成形して、厚さ200μm、幅570mmの帯状の未延伸フィルム(8A−F1)を作製した。
【0148】
(製造例6)
主鎖にグルタルイミド構造を有するアクリル重合体のペレット(エボニックデグサ製、プレキシイミド8813、Tgが126℃)を、ポリマーフィルター(濾過精度5μm)を備えるとともにTダイを先端に備えた単軸押出機を用いて、成形温度270℃で溶融押出成形して、厚さ200μm、幅570mmの帯状の未延伸フィルム(9A−F1)を作製した。
【0149】
(実施例1)
実施例1では、製造例3で作製した未延伸フィルム(6A−F1)を原フィルムとして、本発明の製造方法に従って斜め延伸した。
【0150】
加熱延伸装置には、複数個のクリップにより構成されるクリップ群が走行する一対のレール(左側クリップレールおよび右側クリップレール)と、原フィルムの上流側から下流側に向かって順に、予熱ゾーン、前段延伸ゾーン、後段延伸ゾーンおよび熱処理ゾーンが設定された加熱炉と、を備える同時二軸延伸機を用いた。左側クリップレールの形状と右側クリップレールの形状とは、同時二軸延伸機の上方から見て、原フィルムを幅方向に二分割する、原フィルムの長手方向に伸長する直線に対称とした。換言すれば、左側クリップレールおよび右側クリップレールにおける、予熱ゾーンの入り口から等距離にある点を互いに結ぶ線分の中点が、常に、上記直線上にあるようにした。左右の両レールにおける各ゾーンの境界部には、レール間隔を調整し、前段延伸ゾーンおよび後段延伸ゾーンにおいて原フィルムの幅方向の延伸を可能とするための関節部が設けられた。左側レールを走行するクリップの速度を減少させる区間として前段延伸ゾーンを使用し、左側レールを走行するクリップの速度を回復させる区間として後段延伸ゾーンを使用した。帯状の原フィルムを把持する際の左右のクリップ群の走行速度(左右のクリップイン部でのクリップ走行速度)は、ともに2.0m/分とした。クリップが原フィルムを把持する位置は、当該フィルムの幅方向の端部から25mmの位置とした。
【0151】
実施例1では、以下の表1,2に示す延伸条件に従って、原フィルムの斜め延伸を実施した。原フィルムを延伸した後にクリップを解放する際の左右のクリップ群の走行速度(左右のクリップアウト部でのクリップ走行速度)は、それぞれ、表2に示される「左側(右側)クリップ倍率/トータル」の欄に記載されている数値に、左側(右側)のクリップイン部におけるクリップ走行速度を掛けた値となる。実施例1では、トータルのクリップ倍率が、左右のクリップともに1.00倍であるため、クリップアウト部でのクリップ走行速度は、左右のクリップともに2.0m/分であった。
【0152】
予熱ゾーンおよび熱処理ゾーンでは、原フィルムの流れ方向および幅方向ともに、加熱による原フィルムの弛みの解消および冷却時にフィルムに生じる収縮応力の調整を目的とした、クリップ走行速度の微調整を実施した。ただし、微調整は、クリップアウト部における左右のクリップ走行速度の比が必ず0.98以上1.02以下となるように、実施した。特に記載がない限り、以降の実施例および比較例においても、同様である。
【0153】
表1を含め、以降の表におけるTgは、原フィルムのTg(原フィルムを構成する樹脂のTg)である。
【0154】
【表1】

【0155】
【表2】

【0156】
表2における「トータル」の欄は、左側クリップ倍率、右側クリップ倍率および横延伸倍率のそれぞれにおいて、前段延伸ゾーンでの倍率と後段延伸ゾーンでの倍率とを掛けた値を示す。以降の表においても同様である。表2の条件では、左側クリップの走行速度は、前段延伸ゾーンにおいて、当該ゾーンに入る前の0.67倍(1/1.50倍)になるまで減少し(隣り合うクリップ間の間隔は0.67倍となる)、後段延伸ゾーンにおいて、前段延伸ゾーンから移動してきたときの1.50倍となっている(隣り合うクリップ間の間隔も1.50倍となる)。これらの数値の積(トータル値)は1.00倍であり、すなわち、左側クリップは、前段延伸ゾーンで減速した後、後段延伸ゾーンで元の走行速度に回復した(隣り合うクリップの間隔が元に戻った)ことになる。一方、右側クリップの走行速度は、前段延伸ゾーンおよび後段延伸ゾーンを通して積極的に変化させていない。すなわち、右側クリップにおける隣り合うクリップ間の間隔は、前段延伸ゾーンおよび後段延伸ゾーンを通してほぼ一定であった。クリップレールは、左右ともに、前段延伸ゾーンおよび後段延伸ゾーンを通じて直線に設定した。しかし、横延伸に関して、表2では、前段延伸ゾーンにおける倍率と後段延伸ゾーンにおける倍率とが異なっている。これは、後段延伸ゾーンにおける倍率が、前段延伸ゾーンでの横延伸後の原フィルムの幅を基準にしているためである。横延伸の延伸倍率に関して、以降の表においても同様である。
【0157】
このようにして得た位相差フィルム(6A−F2)の光学特性を、以下の表3に示す。位相差フィルム(6AF−2)は、光軸が長手方向に対して45°の方向を向いた、二軸延伸性の低い位相差フィルムであり、幅方向における光学特性の均一性に優れていた。
【0158】
【表3】

【0159】
(実施例2〜7)
延伸倍率を以下の表4に示すように設定した以外は、実施例1と同様にして、斜め延伸の位相差フィルムを得た。
【0160】
【表4】

【0161】
このようにして得た位相差フィルム(6A−F3〜8)の光学特性を、以下の表5に示す。位相差フィルム(6A−F3〜8)は、光軸が長手方向に対して傾いた、二軸延伸性の低い位相差フィルムであり、幅方向における光学特性の均一性に優れていた。
【0162】
【表5】

【0163】
(実施例8〜10、13)
実施例8では、製造例1で作製した未延伸フィルム(4A−F1)を、実施例9では、製造例2で作製した未延伸フィルム(5A−F1)を、実施例10では、製造例5で作製した未延伸フィルム(8A−F1)を、実施例13では、製造例6で作製した未延伸フィルム(9A−F1)を、それぞれ原フィルムとして用いた以外は、実施例1と同様にして、斜め延伸の位相差フィルムを得た。
【0164】
このようにして得た位相差フィルム(4A−F2、5A−F2、8A−F2、9A−F2)の光学特性を、以下の表6に示す。位相差フィルム(4A−F2、5A−F2、8A−F2、9A−F2)は、光軸が長手方向に対して45°の方向を向いた、二軸延伸性の低い位相差フィルムであり、幅方向における光学特性の均一性に優れていた。
【0165】
【表6】

【0166】
(実施例11)
製造例1で作製したアクリル樹脂(4A)のペレットと、シクロオレフィン重合体(10A)としてポリノルボルネン(JSR製、ARTON RX4500、Tg:132℃、固有複屈折は正)のペレットとを準備し、それぞれ、60℃で12時間乾燥させた。
【0167】
樹脂(4A)を単軸押出機A(φ=30mm、L/D=25、シリンダー温度280℃)に、樹脂(10A)を単軸押出機B(φ=30mm、L/D=25、シリンダー温度280℃)にそれぞれ投入し、単軸押出機AおよびBの吐出量を調整し、マルチマニホールドダイを用いることによって、樹脂(10A)/樹脂(4A)/樹脂(10A)の積層構造を有する未延伸フィルム(11A−F1)を得た。各層の厚さは、5μm/90μm/5μmとした。
【0168】
次に、未延伸フィルム(11A−F1)を原フィルムとして用いた以外は、実施例1と同様にして、斜め延伸の位相差フィルム(11A−F2)を得た。
【0169】
このようにして得た位相差フィルム(11A−F2)の光学特性を、以下の表7に示す。位相差フィルム(11A−F2)は、光軸が長手方向に対して45°の方向を向いた、二軸延伸性の低い位相差フィルムであり、幅方向における光学特性の均一性に優れていた。
【0170】
【表7】

【0171】
(実施例12)
製造例5で作製した熱可塑性樹脂(8A)のペレットと、シクロオレフィン重合体(10A)としてポリノルボルネン(JSR製、ARTON RX4500、Tg:132℃、固有複屈折は正)のペレットとを準備し、それぞれ、60℃で12時間乾燥させた。
【0172】
樹脂(8A)を単軸押出機A(φ=30mm、L/D=25、シリンダー温度280℃)に、樹脂(10A)を単軸押出機B(φ=30mm、L/D=25、シリンダー温度280℃)にそれぞれ投入し、単軸押出機AおよびBの吐出量を調整し、マルチマニホールドダイを用いることによって、樹脂(10A)/樹脂(8A)/樹脂(10A)の積層構造を有する未延伸フィルム(12A−F1)を得た。各層の厚さは、10μm/80μm/10μmとした。
【0173】
次に、未延伸フィルム(12A−F1)を原フィルムとして用いた以外は、実施例1と同様にして、斜め延伸の位相差フィルム(12A−F2)を得た。
【0174】
このようにして得た位相差フィルム(12A−F2)の光学特性を、以下の表8に示す。位相差フィルム(12A−F2)は、光軸が長手方向に対して45°の方向を向いた、二軸延伸性の低い位相差フィルムであり、幅方向における光学特性の均一性に優れていた。
【0175】
【表8】

【0176】
(比較例1)
実施例1で使用した延伸機を用い、原フィルムを把持する際の左右のクリップの走行速度(クリップイン部における左右のクリップ走行速度)を、左側クリップが1.95m/分および右側クリップが2.0m/分と、互いに異なるように制御した以外は実施例1と同様にして、斜め延伸の位相差フィルムの製造を試みた。しかし、右側クリップの方へ引っ張られることで原フィルムの移動が安定せず、最終的に原フィルムが破断したため、帯状の位相差フィルムを製造することができなかった。
【0177】
これまでの例では、図1に示すCILおよびCIRにて原フィルムの把持を実施していたが、比較例1では、予熱ゾーン(図1に示すZ1)の入口、すなわち、図1に示すL1およびR1にて左右のクリップによる原フィルムの把持を実施した。そして、左側クリップは、当該クリップがCILを通過した後、L1に達するまでに減速させた。比較例1においても、これまでの例と同様、CILおよびCIRを通過する左右のクリップの走行速度は同一とした。
【0178】
(比較例2)
実施例1で使用した延伸機を用い、以下の表9,10に示す延伸条件に従い、クリップアウトを後段延伸ゾーンにおける下流側(左側クリップについて図1に示すL8、右側クリップについて図1に示すR6とR7との間)で実施した以外は実施例1と同様にして、斜め延伸の位相差フィルムの製造を試みた。クリップが原フィルムを離す際における(クリップアウト時における)左右のクリップの走行速度は、左側クリップが1.87m/分、右側クリップが2.0m/分であった。
【0179】
【表9】

【0180】
【表10】

【0181】
しかし、右側クリップのクリップアウト後、原フィルムに弛みが生じるとともに、加熱延伸機の下流に配置された最初のガイドロールを通過する際に、この弛みからシワが発生して最終的にフィルムが破断したため、帯状の位相差フィルムを製造することができなかった。
【0182】
(比較例3)
延伸倍率を以下の表11に示すように設定した以外は、実施例1と同様にして、斜め延伸の位相差フィルムの製造を試みた。
【0183】
【表11】

【0184】
しかし、加熱延伸装置における延伸に原フィルムが耐え切れず破断したため、帯状の位相差フィルムを製造することができなかった。
【0185】
(比較例4、5)
延伸条件を以下の表12,13に示すように設定した以外は、実施例1と同様にして、斜め延伸の位相差フィルムを得た。
【0186】
【表12】

【0187】
【表13】

【0188】
このようにして得た位相差フィルム(6A−F9,10)の光学特性を、以下の表14に示す。位相差フィルム(6A−F9)は、光軸が長手方向に対して45°の方向を向いているものの、NZ係数が大きく二軸延伸性が高いとともに、光軸精度が低かった。位相差フィルム(6A−F10)は、二軸延伸性は位相差フィルム(6A−F9)に比べると低いものの依然として高く、幅方向の光学特性のムラが大きかった。
【0189】
【表14】

【産業上の利用可能性】
【0190】
本発明の方法により作製した位相差フィルムは、従来の位相差フィルムと同様の用途、例えば、液晶表示装置(LCD)、エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ、プラズマディスプレイ(PD)、電界放出ディスプレイ(FED)のような各種の画像表示装置における偏光子保護フィルム、視野角補償フィルム、光拡散フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルムおよびタッチパネル用導電フィルムに好適に使用できる。
【符号の説明】
【0191】
1 加熱延伸装置
Z1 予熱ゾーン
Z2 前段延伸ゾーン
Z3 後段延伸ゾーン
Z4 熱処理ゾーン
CIL 左側クリップのクリップイン部
CIR 右側クリップのクリップイン部
COL 左側クリップのクリップアウト部
COR 右側クリップのクリップアウト部
LR 左側クリップレール
RR 右側クリップレール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個のクリップにより構成される一対のクリップ群によって、帯状の原フィルムにおける双方の長辺縁部をそれぞれ把持し、
前記クリップ群によって把持された前記原フィルムを、当該クリップ群の走行によって、加熱延伸装置に導びくとともに、当該装置における予熱ゾーン、延伸ゾーンおよび熱処理ゾーンをこの順に通過させ、
ここで、前記クリップ群が前記原フィルムを把持する際に、前記一対のクリップ群から選ばれる一方のクリップ群の走行速度v1と他方のクリップ群の走行速度v2との比v1/v2を0.98以上1.02以下に保持し、
前記延伸ゾーンは、前記予熱ゾーンから走行移動してきた前記一方のクリップ群の走行速度v1を順に減少させる第1の区間を有し、当該第1の区間において、前記他方のクリップ群に対する前記一方のクリップ群の走行遅れを発生させ、発生した当該遅れに基づいて前記原フィルムを当該フィルムの長手方向に対して斜めに延伸し、
前記延伸ゾーンは、前記第1の区間より後に、前記第1の区間を経て走行移動してきた前記一方のクリップ群の走行速度を順に回復させる第2の区間をさらに有し、当該第2の区間において、前記一方のクリップ群の走行速度v1と前記他方のクリップ群の走行速度v2との比v1/v2を0.98以上1.02以下に戻して、
フィルム面内の遅相軸が当該フィルムの長手方向に対して10°以上80°以下傾いた帯状の位相差フィルムを得る、位相差フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記第1の区間において、前記他方のクリップ群の走行速度v2を保持する請求項1に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記第1の区間において前記一方のクリップ群の走行速度v1が減少した後の当該速度v12が、前記第1の区間において前記走行速度v1が減少する前の当該速度v11の30%以上95%以下である請求項1または2に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記第2の区間において前記一方のクリップ群の走行速度v1が回復した後の当該速度v14が、前記第1の区間において前記走行速度v1が減少する前の当該速度v11の90%以上110%以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記延伸ゾーンにおいて、前記原フィルムの幅方向に対する前記双方のクリップ群間の間隔を増大させる請求項1〜4のいずれか1項に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記原フィルムが、主鎖に環構造を有するアクリル重合体を含む熱可塑性樹脂により構成される層を有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項7】
帯状の位相差フィルムが巻回されている位相差フィルムロールであって、
前記位相差フィルムは、主鎖に環構造を有するアクリル重合体を含む熱可塑性樹脂により構成される層を有し、
前記位相差フィルム面内の遅相軸が、当該フィルムの長手方向に対して10°以上80°以下傾いており、
前記位相差フィルムが示すNZ係数が0.95以上1.25以下である、位相差フィルムロール。
ここでNZ係数は、前記位相差フィルムが示す波長590nmの光に対する厚さ方向の位相差Rthおよび波長590nmの光に対する面内位相差Reから、式|Rth|/|Re|+0.5により求められる値である。
【請求項8】
前記環構造が、ラクトン環構造、無水グルタル酸構造、無水マレイン酸構造、グルタルイミド構造およびマレイミド構造から選ばれる少なくとも1種である請求項7に記載の位相差フィルムロール。
【請求項9】
前記環構造が、以下の式(1)で表されるラクトン環構造である請求項7に記載の位相差フィルムロール。
【化1】

式(1)において、R1、R2およびR3は、互いに独立して、水素原子または炭素数1から20の有機残基である。
【請求項10】
前記位相差フィルムが示す、波長590nmの光に対する面内位相差Reが20nm以上500nm以下である請求項7〜9のいずれか1項に記載の位相差フィルムロール。
【請求項11】
前記位相差フィルムが示す、波長447nm、590nmおよび750nmのそれぞれの光に対する面内位相差Re(447)、Re(590)およびRe(750)が、式Re(447)/Re(590)≦0.98かつ式Re(750)/Re(590)≧1.01を満たす請求項7〜10のいずれか1項に記載の位相差フィルムロール。
【請求項12】
前記位相差フィルムの幅方向の光軸精度が2.5°以下である請求項7〜11のいずれか1項に記載の位相差フィルムロール。


【図1】
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【公開番号】特開2013−54338(P2013−54338A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−109461(P2012−109461)
【出願日】平成24年5月11日(2012.5.11)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】