説明

位相差フィルムの製造方法

【課題】Reが30nm以上、Rthが100nm以上である位相差フィルムを製造する。
【解決手段】ポリマーフィルムの両側端部をクリップ65aで把持し、1.2〜1.7倍に拡幅する。延伸の間は、フィルム62の温度を(Tg−10)〜(Tg+80)℃の範囲に保持するようにフィルム62を加熱する。拡幅したポリマーフィルム62を加熱室69で加熱する。加熱の条件は(1)Tg−20≦T<Tg−15、50≦F≦150、240≦t≦360、(2)Tg−15≦T<Tg−10、50≦F≦100、180≦t≦300、(2)Tg−10≦T<Tg−5、50≦F≦70、30≦t≦150のいずれかとする。なお、Tはフィルム62の温度(℃)、Fは搬送張力(N/m)、tは温度保持時間(秒)であり、搬送張力Fは、フィルム62の幅方向1mあたりの値である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
位相差フィルムは、液晶ディスプレイにおける液晶層の位相差と合わせることにより、液晶層を通過した後の楕円偏光を直線偏光に近い状態へ変換するものである。そして、液晶層の位相差は一律ではなく、様々である。そのために、用いる液晶層に応じて、組み合わせるべき位相差フィルムを選択する必要がある。
【0003】
位相差フィルムとして用いられるポリマーフィルムには、様々なものがあり、例えば、セルロースアシレートフィルム、環状ポリオレフィンフィルム、ポリカーボネートフィルム等がある。これらのポリマーフィルムは、所定の方向に引っ張るという延伸工程を経て、位相差フィルムとされる。
【0004】
長尺のポリマーフィルムを連続的に延伸する場合には、例えば、ポリマーフィルムの側端部をクリップ等の保持手段により保持して、幅方向に張力を付与する。
【0005】
延伸工程は、フィルムの製造過程で、あるいは製造された後に、実施される。ポリマーフィルムの製造方法としては、周知のように、溶融製膜方法と溶液製膜方法とがあり、溶融製膜方法は、ペレットや粉末等のポリマーを、加熱して溶融し、これを薄膜状に成形し、押出機から押し出されたポリマーフィルムを搬送しながら冷却する方法である。一方、溶液製膜方法では、ポリマーを溶剤に溶解してつくったドープを、流延支持体に流延して流延膜を形成し、この流延膜を流延支持体から剥がす。流延膜は溶媒が蒸発しきらないうちに流延支持体から剥がされ、搬送されながら乾燥される。溶融製膜における製造過程で延伸工程を実施する場合には、押出機から押し出されたポリマーフィルムにつき延伸工程を実施する。溶液製膜における製造過程で延伸工程を実施する場合には、溶媒残留率が極めて小さくなった後に延伸工程を実施することが多い。また、延伸工程を、製造されたポリマーフィルムに関して実施する場合には、ロール状に巻かれたポリマーフィルムを送出手段により繰り出して、加熱下で延伸する(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開平04−204503号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年では様々な液晶層が提案されてきており、最近では、面方向におけるレタデーションReと厚み方向におけるレタデーション値Rthとがともに従来よりも高い、高Reかつ高Rthの位相差フィルムが望まれる場合がある。例えば、Reが35nm以上、Rthが100nm以上である位相差フィルムが望まれる場合がある。なお、ReとRthとは下記の式(1)、(2)で表される。
Re=(Nx−Ny)×d ・・・(1)
Rth={(Nx+Ny)/2−Nz}×d ・・・(2)
ここで、Nxはポリマーフィルムの面での任意の一方向であるX軸における屈折率であり、Nyはポリマーフィルムの前記面内でX軸と垂直に交差するY軸における屈折率であり、Nzは、X軸とY軸とのいずれにも垂直なZ軸における屈折率である。
【0007】
ポリマーフィルムのReとRthとをともに高くするためには、延伸工程において、幅方向にフィルムを延伸する。しかし、この方法では、保持手段により保持を解除するときにはポリマーフィルムの温度が例えばTg以上と非常に高い温度となっており、把持を解除すると、与えられた熱エネルギーによってポリマーフィルムは収縮してしまう。そこで、Tg以下にまで温度を下げてから把持を解除する。しかし、Tg以下にまで温度を下げてから把持を解除すると、フィルムには歪が残ってしまう。この残留歪は、製品等に組み込まれた後や使用時においてフィルムに熱がかけられたときに、フィルムが大きく収縮してしまう原因となる。そこで、ReやRthが下がる原因となるポリマー分子の配向の緩和(以降、配向緩和と称する)を抑制して、収縮の緩和(以降、収縮緩和と称する)のみを促進することが必要となる。
【0008】
配向緩和が起こるとポリマーフィルムのRe、Rthとが小さくなってしまうが、配向緩和をできるだけ抑制して収縮緩和のみを起こさせる方法はこれまで提案されていない。
【0009】
そこで、本発明では、上記問題に鑑み、Reが30nm以上でありRthが100nm以上というともに高い値の位相差フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、ポリマーフィルムの両側端部を保持手段により保持して前記ポリマーフィルムを搬送しながら幅方向に伸ばす延伸工程と、この延伸工程を経た前記ポリマーフィルムをローラにより支持しながら加熱手段により加熱する加熱工程と、を有する位相差フィルムの製造方法において、ポリマーフィルムのポリマーのガラス転移点をTg、ポリマーフィルムの温度をT(単位;℃)、ポリマーフィルムの搬送方向における幅1mあたりの張力をF(単位;N/m)、ポリマーフィルムの前記加熱の時間をt(単位;秒)とするときに、延伸工程では、ポリマーフィルムの温度Tを(Tg−10)℃以上(Tg+80)℃以下の範囲に保持するように加熱しながら、幅が1.2倍〜1.7倍の範囲になるようにポリマーフィルムを伸ばし、前記加熱工程では、
(1)(Tg−20)℃≦T<(Tg−15)℃、
50(N/m)≦F≦150(N/m)、
240秒≦t≦360秒
(2)(Tg−15)℃≦T<(Tg−10)℃、
50(N/m)≦F≦100(N/m)、
180秒≦t≦300秒
(3)(Tg−10)℃≦T<(Tg−5)℃、
50(N/m)≦F≦70(N/m)、
30秒≦t≦150秒
のうちいずれかひとつの条件を満たすように加熱をすることを特徴として構成されている。
【0011】
上記の製造方法においては、ポリマーが溶剤に溶解されたポリマー溶液を、支持体に連続的に流延して流延膜を形成する流延膜形成工程と、溶媒の含有率が150重量%以上320重量%以内であるときに流延膜を支持体からポリマーフィルムとして剥がす剥がし工程と、を有し、ポリマーフィルムにおける溶媒の含有率が0.1重量%以上10重量%以内の範囲であるときに前記保持手段による保持を開始することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
Reが30nm以上80nm以下の範囲でありRthが100nm以上300nm以下の範囲という、ReとRthとがともに高い位相差フィルムを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の実施様態について詳細に説明する。ただし、本発明はここに挙げる実施様態に限定されるものではない。
【0014】
本発明は、従来フィルムとすることができた公知のポリマーについて適用することができ、ポリマーの種類は特に限定されないが、セルロースアシレート、環状ポリオレフィン、セルロースプロピオネートである場合には効果が大きく、セルロースアシレートである場合に特に効果が大きい。
【0015】
セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基をカルボン酸でエステル化している割合、つまりアシル基の置換度(以下、アシル基置換度と称する)が下記式(I)〜(III)の全ての条件を満足するものがより好ましい。なお、(I)〜(III)において、A及びBはともにアシル基置換度であり、Aにおけるアシル基はアセチル基であり、Bにおけるアシル基は炭素原子数が3〜22のものである。
2.5≦A+B≦3.0 ・・・(I)
0≦A≦3.0 ・・・(II)
0≦B≦2.9 ・・・(III)
【0016】
セルロースを構成しβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部がエステル化されて、水酸基の水素が炭素数2以上のアシル基に置換された重合体(ポリマー)である。なお、グルコース単位中のひとつの水酸基のエステル化が100%されていると置換度は1であるので、セルロースアシレートの場合には、2位、3位および6位の水酸基がそれぞれ100%エステル化されていると置換度は3となる。
【0017】
ここで、グルコース単位の2位のアシル基置換度をDS2、3位のアシル基置換度をDS3、6位のアシル基置換度をDS6とする。DS2+DS3+DS6で求められる全アシル基置換度は2.00〜3.00であることが好ましく、2.22〜2.90であることがより好ましく、2.40〜2.88であることがさらに好ましい。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は0.32以上であることが好ましく、0.322以上であることがより好ましく、0.324〜0.340であることがさらに好ましい。
【0018】
アシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上であってもよい。アシル基が2種類以上であるときには、そのひとつがアセチル基であることが好ましい。2位、3位及び6位の水酸基の水素のアセチル基による置換度の総和をDSAとし、2位、3位及び6位におけるアセチル基以外のアシル基による置換度の総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は2.2〜2.86であることが好ましく、2.40〜2.80であることが特に好ましい。DSBは1.50以上であることが好ましく、1.7以上であることが特に好ましい。そして、DSBはその28%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましいが、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは31%以上、特に好ましくは32%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましい。また、セルロースアシレートの6位のDSA+DSBの値が0.75以上であることが好ましく、0.80以上であることがより好ましく、0.85以上であることが特に好ましい。以上のようなセルロースアシレートを用いることにより、溶解性が好ましいドープや、粘度が低く、ろ過性がよいドープを製造することができる。特に非塩素系有機溶媒を用いる場合には、上記のようなセルロースアシレートが好ましい。
【0019】
炭素数が2以上であるアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく、特に限定されない。例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどがあり、これらは、それぞれさらに置換された基を有していてもよい。プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などを挙げることが出来る。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、プロピオニル基、ブタノイル基が特に好ましい。
【0020】
なお、セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号公報の[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載は本発明にも適用することができる。
【0021】
また、溶媒及び可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤,光学異方性コントロール剤,染料,マット剤,剥離剤等の添加剤についても、同じく同じく特開2005−104148号公報の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。可塑剤としては、周知のトリフェニルフォスフェート(TPP)や、ビフェニルジフェニルフォスフェート(BDT)等を特に好ましく用いることができる。
【0022】
流延すべきセルロースアシレートドープをつくるための溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが例示される。
【0023】
セルロースアシレートドープの溶媒としては、これらの溶媒の中でも炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく、ジクロロメタンが最も好ましい。そして、TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度、フィルムの光学特性等の特性の観点から、炭素原子数1〜5のアルコールを一種ないし数種類を、ジクロロメタンに混合して用いることが好ましい。このとき、アルコールの含有量は、溶媒全体に対し2重量%〜25重量%であることが好ましく、5重量%〜20重量%であることがより好ましい。アルコールの好ましい具体例としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノール等が挙げられるが、中でも、メタノール,エタノール,n−ブタノール、あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0024】
環境に対する影響を最小限に抑えることを目的にした場合には、ジクロロメタンを用いずにドープを製造してもよい。この場合の溶媒としては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステルが好ましく、これらを適宜混合して用いることがある。これらのエーテル、ケトン及びエステルは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン及びエステルの官能基(すなわち、−O−,−CO−及び−COO−)のいずれかを二つ以上有する化合物も、溶媒として用いることができる。また、溶媒は、例えばアルコール性水酸基のような他の官能基を化学構造中に有するものであってもよい。
【0025】
[位相差フィルム製造設備及び方法]
溶液製膜過程で延伸と延伸後の加熱とをして位相差フィルムを製造する方法を例に挙げて本発明を説明する。図1は溶液製膜設備40を示す概略図である。溶液製膜設備40には、ドープ24を流延してセルロースアシレートフィルム(以下、単にフィルムと称する)62とする流延室63と、フィルム62の両側端部を複数のピンで保持してフィルム62を搬送しながら乾燥するピンテンタ64と、フィルム62の両側端部を保持する保持手段としてクリップ65aが備えられこのクリップ65aで把持してフィルム62を搬送しながら加熱するクリップテンタ65と、フィルム62の両側端部を切り離す耳切装置67と、フィルム62を複数のローラ68に掛け渡して搬送しながら加熱する加熱室69と、加熱室を出た位相差フィルム71を冷却するための冷却室72と、位相差フィルム71を巻き取る巻取室76とが備えられる。
【0026】
流延室63には、ドープ24を流出する流延ダイ81と、周面にドープ24が流延される支持体としての流延ドラム82とを備える。流延ダイ81の下方のドラム82は、駆動手段(図示せず)により回転する。
【0027】
ドラム82には、伝熱媒体をドラム82の内部に供給してドラムの表面温度を制御する伝熱媒体循環装置87が備えられる。ドラム82の内部には、伝熱媒体の流路(図示せず)が形成されており、その流路中を、所定の温度に保持されている伝熱媒体が通過することにより、ドラム82の周面の温度が所定の値に保持されるものとなっている。ドラム82の表面温度は、溶媒の種類、固形成分の種類、ドープ24の濃度等に応じて適宜設定する。
【0028】
ドラム82に代えて、回転ローラ(図示せず)とこの回転ローラに支持されて搬送されるバンド(図示せず)とを用い、このバンドを流延用の支持体として用いることもできる。
【0029】
流延ダイ81の近傍には、減圧チャンバ90が備えられる。減圧チャンバ90は、流延ダイ81からドラム82にかけて形成される流延ビードの、ドラム82回転方向における上流側のエリアの空気を吸引して減圧する。流延室63には、その内部温度を所定の値に保つための温調装置97が設けられる。
【0030】
流延室63からピンテンタ64に至る渡り部101には、送風機(図示せず)が備えられてもよい。ピンテンタ64とクリップテンタ65との間には、耳切装置(図示せず)が備えられることが好ましい。この耳切装置は、ピンテンタ64においてピンで保持されたフィルム62の両側端部を切断除去するものである。これにより、クリップテンタ65のクリップ65aによる把持を、より確実に行うことができる。クリップテンタ65の下流側の耳切装置67には、切り取られたフィルム62の側端部屑を細かく切断処理するためのクラッシャ103が備えられる。
【0031】
加熱室69には、フィルム62から蒸発して発生した溶媒ガスを吸着回収するための吸着回収装置(図示無し)が取り付けられてある。加熱室69の下流には冷却室72が設けられており、加熱室69と冷却室72との間に位相差フィルム71の含水量を調整するための調湿室(図示しない)がさらに設けられてもよい。巻取室76の内部には、位相差フィルム71を巻き取るための巻取ロール107と、その巻き取り時のテンションを制御するためのプレスローラ108とが備えられている。
【0032】
次に、溶液製膜設備40により位相差フィルム71を製造する方法の一例を以下に説明する。ドープ24は、流延ダイ81からドラム82に流延される。流延時におけるドープ24の温度は30〜35℃の範囲で一定、ドラム82の表面温度は−10〜10℃の範囲で一定とされることが好ましい。流延室63の温度は、温調装置97により10℃〜30℃とされることが好ましい。なお、流延室63の内部で蒸発した溶媒は回収装置(図示せず)により回収された後、再生させてドープ製造用の溶媒として再利用される。
【0033】
流延ダイ81からドラム82にかけては流延ビードが形成され、ドラム82上には流延膜24aが形成される。流延ビードの様態を安定させるために、このビードに関し上流側のエリアは、所定の圧力値となるように減圧チャンバ90で制御される。ビードに関して上流側のエリアの圧力は、下流側のエリアよりも2000Pa〜10Pa低くすることが好ましい。なお、減圧チャンバ90にジャケット(図示しない)を取り付けて、内部温度が所定の温度を保つようにすることが好ましい。この温度は、ドープの溶媒の凝縮点以上であることが好ましい。
【0034】
剥ぎ取りは、流延膜24aの溶媒の含有率すなわち溶媒残留率の高低に関わらず、流延膜24aが搬送に十分な硬さとなっていれば行うことができる。しかし、溶媒残留率ができるだけ高いうちに、具体的には150重量%以上320重量%以下の範囲のときに流延膜24aをドラム82から剥ぎ取ることが好ましい。320重量%よりも高いときには、剥ぎ取りが事実上困難であるからである。一方、150重量%よりも小さくなってから剥ぎ取るとすると、流延膜24aを乾燥空気の吹きつけ等で乾燥させねばならない時間が長くなり、そのため、流延膜24aの表面が粗くなってしまうことがある。このように溶媒残留率が高いうちに流延膜24aを剥ぎ取ることにより、後工程、具体的にはクリップテンタ65によるセルロースアシレート分子の配向制御をより効果的に行うことができる。なお、溶媒残留率は乾量基準の値であり、具体的には、溶媒の重量をx、流延膜24aの重量をyとするときに、{x/(y−x)}×100で求める値である。
【0035】
溶媒残留率ができるだけ高いうちに流延膜24aを剥ぎ取るためには、流延膜24aをドラム82により冷却してゲル状にし、固化させることが好ましい。そして、流延膜24aが自己支持性をもつようになったら、剥取ローラ109で支持しながらドラム82から剥ぎ取る。生産速度を50m/分以上の高速とする場合には、溶媒残留率が250%以上320%以下の範囲でも剥ぎ取りが可能なように冷却を急速に行うことが好ましい。生産効率を考慮すると、冷却により流延膜24aの露出面が十分に固まったならば、流延膜24aの近傍に乾燥空気を流す等の手段を講じることにより、剥ぎ取り後の搬送安定性をより向上することができる。
【0036】
湿潤フィルム、つまり溶媒を含んだ状態のフィルム62は、ピンテンタ64に送られる。ピンテンタ64に送られたフィルム62は、その両端部がピンにより保持されて、ピンの走行により搬送される。そしてフィルム62は搬送されながらテンタ64内に設けられた送風ダクト74からの乾燥風により乾燥される。
【0037】
フィルム62は、ピンテンタ64で、溶媒残留率が0.1重量%以上10重量%以下となるまで乾燥することが好ましい。これは、クリップテンタ65での把持を、溶媒残留率が0.1重量%以上10重量%以下の範囲のときに開始するためである。溶媒残留率が150重量%以上320重量%以下の範囲のときに流延膜24aを剥ぎ取り、ピンテンタ64で溶媒残留率が上記範囲となるまで乾燥することにより、クリップテンタ65におけるセルロースアシレート分子の配向制御がさらに効果的に行われる。すなわち、クリップテンタ65での後述の工程での、遅相軸の方向制御効果と、Re,Rthを高める効果と、光学ムラの改良効果とが高まる。
【0038】
クリップテンタ65では、フィルム62の側端部をクリップで把持する。クリップ65aは、搬送路を動くチェーンに取り付けられており、チェーンの移動により走行する。そして、フィルム62の一方の側端部を把持するクリップ65aと他方の側端部を把持するクリップ65aとの距離を大きくすることにより、フィルム62は幅方向に引っ張られ、幅が拡げられる。以降の説明においては、フィルム62の幅を大きくすることを拡幅と称する。
【0039】
クリップ65aで把持を開始されたときのフィルム62の幅をW1とし、拡幅した後のフィルム62の幅をW2とする。本発明では、W2/W1で求める拡幅率が1.2以上1.7以下の範囲となるように、テンタクリップ65で拡幅する。拡幅率が1.7よりも大きいと、ヘイズが悪化したりフィルムが破れることがあり、1.2よりも小さいと、ReやRth等の所望の光学特性を発現させることができないことがある。
【0040】
フィルムのポリマー成分であるセルロースアシレートのガラス転移点をTgとおくと、拡幅は、フィルム62の温度を(Tg−10)℃以上(Tg+80)℃以下の範囲に保持した状態で実施することが好ましい。拡幅時におけるフィルム62の温度を(Tg+80)℃よりも高くすると、厚みが不均一すなわち厚みムラが悪くなってしまうことがあり、(Tg−10)℃未満とすると、光学特性や厚み等が均一となるように延伸することができず、かつ、破断しやすくなってしまうことがある。
【0041】
フィルム62の温度を上記範囲に保持するための制御は、フィルム62の搬送路の上方に備えられる送風ダクト75により為される。この送風ダクト75には、フィルム62の幅方向に延び、乾燥空気が出るスリットがフィルム搬送路方向に複数並んで形成されている。また、送風ダクト75の内部はフィルム62の搬送方向で複数に区画されており、送風ダクト75に接続する送風機(図示無し)からは区画毎に温度が異なる空気が送り込まれる。これにより、区画毎に、スリットから出される空気の温度が変えられる。この空気の温度を調整することにより、フィルム62の温度を維持または変化させる等の温度制御が行われるとともに、フィルム62の乾燥を進める。
【0042】
クリップテンタでの拡幅率のより好ましい範囲は、1.25以上1.65以下の範囲であり、さらに好ましい範囲は、1.3以上1.5以下の範囲である。また、拡幅時におけるフィルム62の温度範囲のより好ましい範囲は、(Tg−5)℃以上(Tg+75)℃以下の範囲であり、さらに好ましい範囲は、Tg以上(Tg+70)℃以下の範囲である。
【0043】
把持の開始は、溶媒含有率が0.1重量%以上10重量%以下の範囲のときであることが好ましい。0.1重量%よりも小さいと、クリップテンタ64における延伸に必要なエネルギーが大きくなりそのためコストが大幅に増加してしまうことがあり、10重量%よりも大きいと、延伸による分子配向の制御効果が小さくなってしまうことがあるからである。
【0044】
把持は、フィルム62の厚みが40〜120μmであるときに開始することが好ましく、本発明の効果が特に大きい。
【0045】
クリップテンタ65を出たフィルム62は、その両側端部が耳切装置67により切断除去される。切り離された両側端部はカッターブロワ(図示なし)によりクラッシャ103に送られる。クラッシャ103により、細長い側端部は細かくされてチップとなる。このチップはドープ製造用に再利用されるので、原料の有効利用を図ることができる。なお、この両側端部の切断工程については省略することもできるが、前記流延工程から前記フィルムを巻き取る工程までのいずれかで行うことが好ましい。
【0046】
一方、両側端部を切断除去されたフィルム62を、加熱室69に送り、加熱する。この加熱工程は、フィルム62をローラ68に巻き掛けて搬送しながら実施する。加熱室69の内部には、乾燥空気を吹き出す送風ダクト(図示なし)が備えられ、ローラ68はフィルム62と接触する周面の温度を変える加熱機構を備える。フィルム62の温度制御は、送風ダクトからの乾燥空気の温度制御と、ローラ68の周面の温度制御との少なくともいずれか一方により実施することができるものとしている。ただし、フィルム62の温度の制御方法は、これらに限定されない。例えばフィルム62の搬送路の近傍に、遠赤外線や近赤外線等をフィルム62に照射する照射手段等を備え、これによりフィルム62の温度制御を実施してもよい。
【0047】
加熱室69では、以下の条件(1)〜(3)の条件のうち、いずれかひとつの条件を満たすようにフィルム62を加熱する。以下の条件(1)〜(3)において、Tはフィルム62の温度(単位;℃)、Fはフィルム62をT(℃)に保持している間にフィルム62に付与しておくべき搬送方向における張力(以降、搬送張力と称する)(単位;N/m)、tはフィルム62をT(℃)に保持する時間(以降、温度保持時間と称する)(単位;秒)を意味する。
(1)Tg−20≦T<Tg−15、50≦F≦150、240≦t≦360
(2)Tg−15≦T<Tg−10、50≦F≦100、180≦t≦300
(3)Tg−10≦T<Tg−5、50≦F≦70、30≦t≦150
なお、Fは、フィルム62の幅方向1mあたりの値である。したがって、フィルム62の幅がn(nは正)(単位;m)である場合には、(1)〜(3)におけるFの各値につきn倍の力(単位;N)が張力となる。
【0048】
クリップテンタ65での延伸工程に加えて、上記(1)〜(3)のいずれかひとつの条件を満たすようにフィルム62を加熱室69で加熱することにより、ポリマー分子を配向緩和させることなしに収縮緩和させ、熱収縮を抑止することができる。そして、Reが35nm以上80nm以下であり、Rthが100nm以上300nm以下である位相差フィルム71を得ることができる。
【0049】
温度保持時間tは、連続した時間でなくてもよい。例えば、上記保持温度とすることを間欠的に実施し、各実施時間の和が上記(1)〜(3)のtの範囲となっていてもよい。温度保持時間が(1)〜(3)の各tの下限値よりも短いと、ポリマー分子の収縮緩和が不十分となり、各tの上限値よりも長いと収縮緩和のみならず配向緩和まで起きてしまう。
【0050】
フィルム62の温度Tが(1)〜(3)の各下限値未満であると収縮緩和が起こりにくく、各Tの上限値よりも高いと配向緩和が起こりやすくなる。
【0051】
搬送張力Fが(1)〜(3)の各下限値未満であると搬送の安定性が悪くなる傾向があり、例えばエア同伴等が起こるようになる。また、(1)〜(3)の各Fの上限値よりも高いと幅方向と搬送方向とに配向が進みReが低くなってしまう。複数のローラ68のうち、最も上流側のひとつと最も下流側のひとつとを駆動ローラとし、後者の回転速度を前者の回転速度よりも大きくすることにより搬送張力を付与することができ、両者の回転速度差を調節することにより搬送張力の大きさを制御することができる。ただし、搬送張力の制御方法はこれに限定されない。例えば、ローラ68を変位させることによっても搬送張力を制御することができる。
【0052】
配向緩和が起きてしまうと、得られる位相差フィルムのReが35nmよりも小さくなり、Rthが100nmよりも小さくなる。収縮緩和が不十分であると、使用時等においてフィルムに熱を加えた際の熱収縮率が大きく、品質上問題となる。
【0053】
加熱室69の内部温度は、特に限定されるものではないが、50〜160℃とすることが好ましい。なお、加熱室69によるフィルム62の加熱は、溶媒残留率が3重量%以下となった後に実施することが好ましい。これにより、配向緩和を抑え、安定した搬送をすることができるという効果がある。溶媒残留率が3重量%よりも多いときに加熱室69での加熱を開始すると、配向緩和が進んでしまい、ReとRthとが大きく低下してしまう場合がある。また、加熱の開始時における溶媒残留率は、ゼロでもよい。
【0054】
なお、加熱室69は、送風温度を搬送方向で変化させるために、フィルム62の搬送方向で複数の区画に分割されていることがより好ましい。また、耳切装置67と加熱室69との間に予備乾燥室(図示せず)を設けてフィルム62を予備乾燥すると、加熱室69でフィルム温度が急激に上昇することが防止されるので、加熱室69でのフィルム62の形状変化を抑制することができる。本実施形態のように溶液製膜過程で加熱室69での加熱を実施した場合には、フィルム62から溶媒が蒸発する。このような場合には、蒸発して発生した溶媒ガスを、吸着回収装置(図示無し)により吸着回収する。そして溶媒成分が除去された空気を、加熱室69の内部に乾燥風として再度送るとよい。
【0055】
以上のようにして、35nm以上のReと100nm以上のRthとを有する位相差フィルム71が得られる。この位相差フィルム71は、冷却室72で略室温にまで冷却される。
【0056】
位相差フィルム71は、巻取室76の巻取ロール107で巻き取られる。プレスローラ108で所望のテンションを位相差フィルム71に付与しつつ巻き取ることが好ましい。巻き取られる位相差フィルム71の幅は600mm以上であることが好ましく、1400〜2500mm以下であることが好ましい。しかし、2500mmよりも幅が大きい場合でも本発明は適用される。
【0057】
流延ダイ、減圧チャンバ、支持体などの構造、共流延、剥離法、延伸、各工程の乾燥条件、ハンドリング方法、カール、平面性矯正後の巻取り方法から、溶媒回収方法、フィルム回収方法まで、特開2005−104148号公報の[0617]段落から[0889]段落に詳しく記述されている。これらの記載は本発明に適用することができる。
【0058】
また、溶融製膜過程で延伸と延伸後の加熱とを実施することにより、位相差フィルムを製造することができる。溶融製膜設備は、公知の溶融押出機の下流に図1に示すクリップテンタ65と加熱室69と巻取室76とを備える。溶融押出機は、供給されたポリマーを加熱して溶融するための加熱部と、加熱部で溶融したポリマーをフィルムの形状で外部へ押し出す押出部とを備え、加熱部には、ポリマーを混合あるいは練るための混練部材が備えられる。本発明においては、溶融押出機としては市販の溶融押出機を用いてよい。溶融押出機から押し出されたポリマーフィルムを、クリップテンタ65に案内する。そしてクリップテンタ65での延伸工程を経た後に加熱室69におくり加熱工程を実施する。クリップテンタ65でのフィルムの温度と拡幅率、及び加熱室69でのフィルムの温度Tと搬送張力Fと温度保持時間tとの条件を、先の実施形態である溶液製膜過程での該条件と同じとするとよい。これにより、配向緩和を起こすことなる収縮緩和のみをさせ、35nm以上80nm以下のReと100nm以上300nm以下のRthとを有する位相差フィルムを製造することができる。
【0059】
また、溶液製膜方法または溶融製膜方法により製造されたポリマーフィルムから35nm以上80nm以下のReと100nm以上300nm以下のRthとを有する位相差フィルムを製造することができる。例えば、ポリマーフィルムがロール状に巻かれたフィルムロールを送出機で繰り出して、クリップテンタ65と加熱室69とにより、先の条件と同じ条件で延伸工程と加熱工程とを実施する方法がある。
【0060】
(溶融製膜設備)
次に、溶融製膜方法によりポリマーフィルムを製造する製造設備(以下、溶融製膜設備と称す)の概要について説明する。溶融製膜設備410は、図2に示すように、液晶表示装置等に使用できる熱可塑性フィルムFを製造する装置である。熱可塑性フィルムFの原材料であるペレット状の熱可塑性樹脂を乾燥機412に導入して乾燥させた後、このペレットを押出機414によって押し出し、ギアポンプ416によりフィルタ418に供給する。次いで、フィルタ418により異物がろ過され、ダイ420から溶融樹脂(溶融した熱可塑性樹脂)が押し出される。溶融樹脂は、第1キャスティングロール428とタッチロール424で挟まれて押圧成形された後、第1キャスティングロール428にて冷却固化されて所定の表面粗さのフィルム状とされ、さらに、第2キャスティングロール426、第3キャスティングロール427によって搬送されることで未延伸フィルムFaが得られる。この未延伸フィルムFaは、この段階で巻き取られてもよいし、連続的に長スパン延伸を行う横延伸部442に供給されてもよい。また、一度巻き取られた未延伸フィルムFaを再度横延伸部442に供給しても、連続的に長スパン延伸を行う横延伸部442に供給した場合と同様の効果が得られる。
【0061】
横延伸部442では、未延伸フィルムFaが搬送方向(以下、MD方向と称する)と直交する幅方向(以下、TD方向と称する)に延伸され、横延伸フィルムFbとされる。横延伸部442の上流側に予熱部436を設けてもよいし、横延伸部442の下流側に熱固定部444を設けてもよい。これにより、延伸中のボーイング(光学軸のズレ)を小さくできる。予熱温度は横延伸温度より高いこと、熱固定温度は横延伸温度より低いことが好ましい。すなわち、通常、ボーイングは幅方向中央部が進行方向に向かって凹となるが、予熱温度>横延伸温度、横延伸温度>熱固定温度とすることによりボーイングを低減できる。予熱処理、熱固定処理はどちらか一方でもよく、両方行ってもよい。
【0062】
横延伸の後に後熱処理を行なった後、熱処理ゾーン446でMD方向に横延伸フィルムFbを収縮させる。熱処理ゾーン446では、図3に示すように、横延伸フィルムFbの側端部をチャックで把持しない状態で、TD方向の収縮が起こらずに、MD方向の収縮のみが起こるように複数のロール448a〜448dで横延伸フィルムFbを搬送する。このとき、図4に示すように、複数のロール448a〜448dは、ロールラップ長(D)とロール間長(G)の比(G/D)が0.01以上3以下となるように配置される。これにより横延伸フィルムFbと各ロール448〜448dとの摩擦によりTD方向の収縮が抑制される。そして、横延伸フィルムFbは、上流側のロール448aによる周速度(V1)と下流側のロール448dによる周速度(V2)の比(V2/V1)が0.6以上0.999以下で搬送しながら熱処理される。つまり、横延伸フィルムFbは熱処理ゾーンにてMD方向に収縮する。
【0063】
横延伸フィルムFbが熱処理ゾーンにて熱処理されることで、配向角、レターデーションが調整された最終製品である熱可塑性フィルムFが製造される。このフィルムFは巻取部449によって巻き取られる。
【0064】
TD方向への延伸の前又は後にMD方向の延伸を行ってもよい。MD方向の延伸は、MD方向に並ぶ複数のニップロール対を用いてフィルムを搬送し、上流側のニップロール対の周速度より下流側のニップロール対の周速度を速くすることで達成できる。MD方向におけるニップロール間の距離(L)と上流側のニップロール対でのフィルム幅Wの比(L/W)の大きさで延伸方式が異なり、L/Wが小さいと特開2005−330411号公報、特開2006−348114号公報記載のようなMD方向の延伸方式を採用できる。この方式は、Rthが大きくなり易いが装置をコンパクトにすることができる。一方、L/Wが大きい場合は特開2005−301225号公報記載のようなMD方向の延伸方式を用いることができる。この方式はRthを小さくできるが、装置が長大になり易い。
【0065】
溶融製膜方法に用いることのできるポリマーは、熱可塑性樹脂であれば特に限定されず、例えば、セルロースアシレート、ラクトン環含有重合体、環状オレフィン、ポリカーボネイト等が挙げられる。中でも好ましいのがセルロースアシレート、環状オレフィンであり、中でも好ましいのがアセテート基、プロピオネート基を含むセルロースアシレート、付加重合によって得られた環状オレフィンであり、さらに好ましくは付加重合によって得られた環状オレフィンである。
【0066】
(環状オレフィン)
環状オレフィンはノルボルネン系化合物から重合されるものが好ましい。この重合は開環重合、付加重合いずれの方法でも行える。付加重合としては例えば特許3517471号公報記載のものや特許3559360号公報、特許3867178号公報、特許3871721号公報、特許3907908号公報、特許3945598号公報、特表2005−527696号公報、特開2006−28993号公報、国際公開第2006/004376号パンフレットに記載のものが挙げられる。特に好ましいのは特許3517471号公報に記載のものである。
【0067】
開環重合としては国際公開第98/14499号パンフレット、特許3060532号公報、特許3220478号公報、特許3273046号公報、特許3404027号公報、特許3428176号公報、特許3687231号公報、特許3873934号公報、特許3912159号公報記載のものが挙げられる。なかでも好ましいのが国際公開第98/14499号パンフレット、特許3060532号公報記載のものである。
【0068】
これらの環状オレフィンの中でも付加重合のものの方がより好ましい。
【0069】
(ラクトン環含有重合体)
下記(一般式1)で表されるラクトン環構造を有するものを指す。
【0070】
【化1】

【0071】
(一般式1)中、R、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を表す。なお、有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。
【0072】
(一般式1)のラクトン環構造の含有割合は、好ましくは5〜90重量%、より好ましくは10〜70重量%、さらに好ましくは10〜50重量%である。
【0073】
(一般式1)で表されるラクトン環構造以外に、(メタ)アクリル酸エステル、水酸基含有単量体、不飽和カルボン酸、下記(一般式2)で表される単量体から選ばれる少なくとも1種を重合して構築される重合体構造単位(繰り返し構造単位)が好ましい。
【0074】
【化2】

【0075】
(一般式2)中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Xは水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、−OAc基、−CN基、−CO−R基、又は−C−O−R基を表し、Ac基はアセチル基を表し、R及びRは水素原子又は炭素数1〜20の有機残基を表す。
【0076】
例えば、国際公開第2006/025445号パンフレット、特開2007−70607号公報、特開2007−63541号公報、特開2006−171464号公報、特開2005−162835号公報記載のものを用いることができる。
【実施例1】
【0077】
(実験1〜3)
下記の処方のセルロースアシレートドープ24をつくった。
セルローストリアセテート 100重量部
(置換度2.94、粘度平均重合度305.6%、ジクロロメタン溶液6質量%
の粘度 350mPa・s)
ジクロロメタン(溶媒の第1成分) 390重量部
メタノール(溶媒の第2成分) 60重量部
可塑剤 12重量部
レタデーション上昇剤 7重量部
クエン酸エステル混合物(クエン酸、モノエチルエステル、ジエチルエステル、トリエ
チルエステル混合物) 0.006重量部
微粒子(二酸化ケイ素(平均粒径15nm)、モース硬度 約7) 0.05重量部
【0078】
上記ドープを用いて、溶液製膜設備40の加熱室69での条件を変えた実験1〜3でそれぞれ位相差フィルム71を製造した。いずれの実験でも、テンタ65における拡幅率は1.2〜1.7の範囲とし、この延伸の間は、フィルムの温度Tが(Tg−10)℃以上(Tg+80)℃以下の範囲に保持されるようにフィルムを加熱した。加熱室69におけるフィルムの温度Tと、搬送張力Fと、温度保持時間tは、それぞれ表1の「温度T」欄と「張力F」欄と「時間t」欄とに示す。なお、得られた位相差フィルム71からサンプリングしガラス転移点Tgを測定すると140℃であった。
【0079】
実験1〜3でそれぞれ得られた位相差フィルム71につき、幅方向における熱収縮率と、Reの変化率とを測定した。熱収縮率は、位相差フィルム71を90℃、5%RH、120時間加熱し、加熱前における寸法をA1、加熱後における寸法をA2とするときに、100×(A1−A2)/A1で求める値であり、新東科学製の自動ピンゲージで寸法を測定した。
【0080】
熱収縮率が−0.2以上である場合には、配向緩和を起こすことなく収縮緩和を起こすことができたとして「○」と評価し、−0.2よりも小さい場合には、収縮緩和が起きていないまたは収縮緩和のみならず配向緩和をも起こしてしまったとして「×」と評価した。また、Re変化率は、加熱室69での加熱工程を実施する前におけるReの値をRe1、加熱工程を実施した後のReの値をRe2とするときに、Re2/Re1で求める値である。そして、Re変化率が0.9以上である場合には、Reの低下は許容範囲であり良好であるとして「○」と評価し、Re変化率が0.9よりも小さい場合には、Reの低下が大きく良好ではないとして「×」と評価した。測定結果と評価結果とについては表1に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
(比較実験1〜15)
本発明に対する比較実験として、比較実験1〜15を実施し、位相差フィルムを製造した。加熱室69での条件を表1に記載の条件にし、他の条件については実験1〜3と同じにした。
【0083】
比較実験1〜15で得られた位相差フィルムについても、実施例1〜3と同様に、熱収縮率とRe変化率とを測定した。測定結果及び評価結果については表1に示す。なお、得られた位相差フィルムからサンプリングしガラス転移点Tgを測定すると140℃であった。
【0084】
実験1〜3で得られた位相差フィルム71は熱収縮率とRe変化率との両方がいずれも良好であり、配向緩和を起こすことなく収縮緩和を起こして、35〜80nmの高Reと100〜300nmの高Rthとを有する位相差フィルムとなった。一方、比較実験1〜15で得られた位相差フィルムは、熱収縮率あるいは加熱前後でのReの変化率が大きく、位相差フィルムとしての所望の品質を満たさないものであることがわかる。以上の実施例により、本発明によると、Re,Rthが上記のように高い位相差フィルムを製造することができることがわかる。
【0085】
(実験21及び比較実験21)
溶液製膜方法を用いて、特開2001−188128の実施例1に記載のフィルムNo.1(セルロースアセテートプロピオネート:厚み120μm)を得たこと、得られたフィルムに対し、クリップテンタ65にて延伸工程(拡幅率は1.6)を行い、その後加熱室69にて加熱工程を行ったこと、及び各条件を表2に示す値としたこと以外は、実験1と同様にして、実験21及び比較実験21を行った。なお、得られた位相差フィルムからサンプリングしガラス転移点Tgを測定すると135℃であった。測定結果及び評価結果については表2に示す。
【0086】
(実験31及び比較実験31)
国際公開第2006/025445号パンフレット記載の実施例1に従って溶融製膜方法を行い、ラクトン環含有重合体樹脂からなるポリマーフィルム(厚み100μm)を得たこと、得られたフィルムに対し、クリップテンタ65にて延伸工程(拡幅率は2)を行い、その後加熱室69にて加熱工程を行ったこと、及び各条件を表2に示す値としたこと以外は、実験1と同様にして、実験31及び比較実験31を行った。なお、得られた位相差フィルムからサンプリングしガラス転移点Tgを測定すると122℃であった。測定結果及び評価結果については表2に示す。
【0087】
(実験41及び比較実験41)
溶融製膜方法を行い、シクロオレフィン樹脂Aからなるポリマーフィルム(厚み100μm)を得たこと、得られたフィルムに対し、クリップテンタ65にて延伸工程(拡幅率は1.4)を行い、その後加熱室69にて加熱工程を行ったこと、及び各条件を表2に示す値としたこと以外は、実験1と同様にして、実験41及び比較実験41を行った。なお、得られた位相差フィルムからサンプリングしガラス転移点Tgを測定すると145℃であった。測定結果及び評価結果については表2に示す。
シクロオレフィン樹脂A(付加重合系):ポリプラスチックス(株)製TOPAS6013
【0088】
実験41及び比較実験41における溶融製膜方法の詳細は次の通りである。シクロオレフィン樹脂Aを110℃の真空乾燥機で乾燥し含水率を0.1%以下とした後、1軸混練押出し機を用い260℃で溶融しギアポンプから送り出した後、濾過精度5μmのリーフディスクフィルタにて濾過し、スタティックミキサーを経由してスリット間隔0.8mm、270℃のハンガーコートダイから、(Tg−5)℃、Tg℃、(Tg−10)℃に設定した3連のキャストロール上にメルト(溶融樹脂)を押出した。この時、最上流側のキャストロールに面圧0.1MPaでタッチロールを接触させ、厚み100μmの未延伸フィルムを製膜した。タッチロールは特開平11−235747号公報の実施例1に記載のもの(二重抑えロールと記載のあるもの)を用い、Tg−5℃に調温した(但し薄肉金属外筒厚みは2mmとした)。
【0089】
この後、巻き取り直前に両端(全幅の各3%)をトリミングした後、両端に幅10mm、高さ20μmの厚みだし加工(ナーリング)をつけた。各水準とも、幅は1.5mで30m/分で3000m巻き取った。
【0090】
【表2】

【0091】
以上の各実験より、本発明によれば、各種のポリマーフィルムにおいて、Re,Rthが上記のように高い位相差フィルムを製造することができることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明を実施した溶液製膜設備の概略図である。
【図2】溶融製膜設備の概要を示す説明図である。
【図3】熱処理ゾーンにおける複数のロールの配置状態を示す斜視図である。
【図4】熱処理ゾーンにおける複数のロールのロールラップ長(D)及びロール間長(G)を示す説明図である。
【符号の説明】
【0093】
62 フィルム
65 クリップテンタ
65a クリップ
69 加熱室
71 位相差フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーフィルムの両側端部を保持手段により保持して前記ポリマーフィルムを搬送しながら幅方向に伸ばす延伸工程と、この延伸工程を経た前記ポリマーフィルムをローラにより支持しながら加熱手段により加熱する加熱工程と、を有する位相差フィルムの製造方法において、
前記ポリマーフィルムのポリマーのガラス転移点をTg、前記ポリマーフィルムの温度をT(単位;℃)、前記ポリマーフィルムの搬送方向における幅1mあたりの張力をF(単位;N/m)、前記ポリマーフィルムの前記加熱の時間をt(単位;秒)とするときに、
前記延伸工程では、前記ポリマーフィルムの温度Tを(Tg−10)℃以上(Tg+80)℃以下の範囲に保持するように加熱しながら、幅が1.2倍〜1.7倍の範囲になるように前記ポリマーフィルムを伸ばし、
前記加熱工程では、
(1)(Tg−20)℃≦T<(Tg−15)℃、
50(N/m)≦F≦150(N/m)、
240秒≦t≦360秒
(2)(Tg−15)℃≦T<(Tg−10)℃、
50(N/m)≦F≦100(N/m)、
180秒≦t≦300秒
(3)(Tg−10)℃≦T<(Tg−5)℃、
50(N/m)≦F≦70(N/m)、
30秒≦t≦150秒
のうちいずれかひとつの条件を満たすように加熱をすることを特徴とする位相差フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記ポリマーが溶剤に溶解されたポリマー溶液を、支持体に連続的に流延して流延膜を形成する流延膜形成工程と、
前記溶媒の含有率が150重量%以上320重量%以内であるときに前記流延膜を前記支持体から前記ポリマーフィルムとして剥がす剥がし工程と、
を有し、
前記ポリマーフィルムにおける前記溶媒の含有率が0.1重量%以上10重量%以内の範囲であるときに前記保持手段による保持を開始することを特徴とする請求項1記載の位相差フィルムの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−98656(P2009−98656A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−242028(P2008−242028)
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】