説明

位相差フィルム用保護フィルム、及び積層位相差フィルム

【課題】ハンドリング時やヒートショック試験時等における耐割れ性が良い積層位相差フィルム、及びこのような積層位相差フィルムを得ることができる位相差フィルム用保護フィルムに関する。
【解決手段】破断強度10〜50MPa、破断伸度300〜1500%、面衝撃破壊エネルギー5×10−4J/μm以上、且つ−40℃での周波数1Hzにおける動的貯蔵弾性率及び動的損失弾性率1×10〜2×10Paの熱可塑樹脂組成物(B)で作で作られており、且つ光学的に略等方性である、位相差フィルム用保護フィルムとする。また、破断強度20〜80MPa、破断伸度0.5〜8%、且つ面衝撃破壊エネルギー9×10−5J/μm以下の熱可塑樹脂組成物(A)で作られている位相差フィルムの両面に、この保護フィルムが積層されてなる、積層位相差フィルムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層位相差フィルム、及び位相差フィルム用保護フィルムに関する。更に詳しくは、本発明は、ハンドリング時やヒートショック試験時等における耐割れ性が良い積層位相差フィルム、及びこのような積層位相差フィルムを得ることができる位相差フィルム用保護フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置(LCD)の表示性能を向上させる部材として、位相差フィルムが重要な役割を果たしている。位相差フィルムには、液晶を配向させたフィルムなど様々なものが知られているが、中でも製造効率に優れることから、樹脂フィルムを延伸により配向させて得られる延伸フィルムが広く用いられてきた。
【0003】
延伸フィルムに用いる樹脂としては、ポリカーボネートを始めとして種々の重合体が挙げられる。しかしながらこれらの延伸フィルム用樹脂の中には、フィルム状に成形したときに機械的強度に劣り、それによって延伸したときに容易に破断が生じてしまい、製造効率に劣るといった欠点を有するものも存在している。
【0004】
例えば、延伸フィルムのための樹脂としては、ポリカーボネートのような正の光学異方性を有する材料と並んで、負の光学異方性を有する材料を用いることが提案されている。負の光学異方性を有する材料としては、透明性に優れ、STN型等のLCDに対する視野角補償に効果が大きいスチレン系重合体からなる樹脂を用いたフィルムが注目されている(引用文献1)。ところが、スチレン系重合体は、フィルム状に成形すると機械的強度に劣るために、延伸したときに容易に破断が生じてしまい、製造効率に劣るといった欠点が指摘されていた。
【0005】
なお、本発明において、負の光学異方性を有する材料とは、この材料のフィルムを一軸延伸した場合の延伸方向の屈折率、すなわち化学構造的に高分子主鎖の配向方向の屈折率が最小となる材料を言う。また、正の光学異方性を有する材料とは、化学構造的に高分子主鎖の配向方向の屈折率が最大となる材料を言う。
【0006】
【特許文献1】特開平2−256023号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ある種の位相差フィルム用樹脂、例えばスチレン系重合体、ポリメタクリル酸メチル系重合体は、機械的に脆いので、ハンドリング時やヒートショック試験時等における耐割れ性が悪く、その利用に制限があった。
【0008】
したがって本発明の目的は、ハンドリング時やヒートショック試験時等での耐割れ性が良い積層位相差フィルム、及びこのような積層位相差フィルムを得るために用いることができる位相差フィルム用保護フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本件発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、下記の本発明に想到した。
【0010】
〔1〕破断強度10〜50MPa、破断伸度300〜1500%、面衝撃破壊エネルギー5×10−4J/μm以上、且つ−40℃での周波数1Hzにおける動的貯蔵弾性率及び動的損失弾性率1×10〜2×10Paの熱可塑樹脂組成物(B)で作られており、且つ光学的に略等方性である、位相差フィルム用保護フィルム。
【0011】
〔2〕破断強度20〜80MPa、破断伸度0.5〜8%、且つ面衝撃破壊エネルギー9×10−5J/μm以下の熱可塑樹脂組成物(A)で作られている位相差フィルムの両面に、上記〔1〕項記載の位相差フィルム用保護フィルムが積層されてなる、積層位相差フィルム。
【0012】
〔3〕前記積層位相差フィルムの全体厚みを基準として、前記位相差フィルムの厚み比率が95〜60%であり、且つ前記位相差フィルム用保護フィルムの厚み比率が5〜40%であることを特徴とする、上記〔2〕項記載の積層位相差フィルム。
【0013】
〔4〕前記熱可塑樹脂組成物(A)が、ポリスチレン系樹脂(A−1)、ポリメタクリル酸メチル系樹脂(A−2)、又はその組み合わせであり、且つ前記熱可塑樹脂組成物(B)が、エチレン系共重合樹脂であることを特徴とする、上記〔2〕又は〔3〕項記載の積層位相差フィルム。
【0014】
〔5〕上記〔2〕〜〔4〕項のいずれか記載の積層位相差フィルムを具備する液晶表示装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ハンドリング時やヒートショック試験時等における耐割れ性が良い積層位相差フィルム、及びこのような積層位相差フィルムを得るために用いることができる位相差フィルム用保護フィルムが提供される。この本発明の積層位相差フィルムは、位相差フィルムとして、液晶表示装置、有機EL表示装置に広く適用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
<各種の測定値>
本発明及び本明細書で示される実施例に関し、各種の測定値は下記のようにして得られるものである。
【0017】
(1)破断強度
破断強度は、JIS C2151−1990に準拠した方法で23℃において幅10mmの試料フィルムを、試長間100mm、引張り速度200mm/分の条件で引っ張り試験を行い、フィルムが破断した時の応力から求められる値である。
【0018】
(2)破断伸度
破断伸度は、JIS C2151−1990に準拠した方法で23℃において幅10mmの試料フィルムを、試長間100mm、引張り速度200mm/分の条件で引っ張り試験を行い、フィルムが破断した時の歪み(伸び率)から求められる値である。
【0019】
(3)面衝撃破壊エネルギー(50%衝撃破壊エネルギー)
面衝撃破壊エネルギーは、周囲を固定したサンプル中央にピン(サイズφ4.0mm)をセットし、その上から重錘(重量0.5kg(保護フィルムの場合)または0.02kg(位相差フィルムの場合))を落下させ、JIS K7211−1のデータ処理方法(ステアケース法)により、フィルム厚み当たりの破壊エネルギーを算出することによって得られる値である。
【0020】
(4)動的貯蔵弾性率及び動的損失弾性率
レオメトリックス社製RSA―IIを用いて、引張モードにて測定温度−40℃、周波数1Hzにおいて測定される値である。
【0021】
(5)積層位相差フィルムの層間剥離強度
JIS K6854−2に準拠し、引張速度100mm/minで180度剥離試験を行って得られる値である。
【0022】
(6)面内レターデーション(Re)、及び光弾性係数
複屈折Δnと厚みdの積である位相差Re値(Δnd値)及び光弾性係数は、偏光解析法を位相差測定手段にしている日本分光(株)製の商品名『M150』により測定される値である。
【0023】
(7)位相差フィルム用保護フィルム、及び位相差フィルムの厚さ
幅方向に10mm間隔でサンプルを採取(10mm×10mmに切断)、積層フィルムをエポキシ樹脂に包埋したのち、ミクロトームを用いて0.05μmにスライスし、透過型電子顕微鏡を用いて断面を観察し、測定される値である。
【0024】
(8)積層位相差フィルムの厚さ
アンリツ社製の電子マイクロで測定される値である。
【0025】
(9)全光線透過率、及びヘーズ
日本工業規格JIS K 7105『プラスチックの光学的特性試験方法』に準じ積分球式透過率測定装置により測定される値である。実施例においては、評価装置としては、日本電色工業(株)製の濁度測定器(商品名『NDH2000』)を用いた。
【0026】
(10)ガラス転移点温度(Tg)
TA Instruments社製の商品名『DSC2920Modulated DSC』の示差走査熱量計により測定される値である。条件はサンプル重量10mg、昇温速度20℃/minとした。
【0027】
<位相差フィルム>
本発明の位相差フィルム用保護フィルムで保護することを意図する位相差フィルム、及び本発明の積層位相差フィルムを構成する位相差フィルムは、破断強度20〜80MPa、破断伸度0.5〜8%、且つ面衝撃破壊エネルギー9×10−5J/μm以下の熱可塑樹脂組成物(A)で作られている。上記の破断強度、破断伸度及び面衝撃破壊エネルギーの値から理解されるように、熱可塑樹脂組成物(A)は、比較的小さい機械的強度を有する。
【0028】
位相差フィルムのための熱可塑性樹脂組成物(A)では、破断強度が20MPa以上であり、好ましくは40MPa以上である。破断強度が20MPaを下回ると、本発明の積層位相差フィルムを得るために延伸した際に、フィルムに亀裂が生ずるおそれがある。位相差フィルムのための熱可塑性樹脂組成物(A)では、破断強度が80MPa以下である。破断強度が80MPaを上回ると、この熱可塑性樹脂組成物(A)から得られる位相差フィルムが、それ単独で十分な機械的強度を有することがあり、したがって本発明の位相差フィルム用保護フィルムによる効果を有効に得ることができないことがある。
【0029】
位相差フィルムのための熱可塑性樹脂組成物(A)では、破断伸度が0.5%以上であり、好ましくは2%以上である。破断伸度が0.5%を下回ると、本発明の積層位相差フィルムを得るために延伸した際に、フィルムに亀裂が生ずるおそれがある。位相差フィルムのための熱可塑性樹脂組成物(A)では、破断伸度が8%以下である。破断伸度が8%を上回ると、この熱可塑性樹脂組成物(A)から得られる位相差フィルムが、それ単独で十分な機械的強度を有することがあり、したがって本発明の位相差フィルム用保護フィルムによる効果を有効に得ることができないことがある。
【0030】
位相差フィルムのための熱可塑性樹脂組成物(A)では、面衝撃破壊エネルギーが、9×10−5J/μm以下、特に6×10−5J/μm以下、より特に4×10−5J/μm以下である。面衝撃破壊エネルギーが大きい場合には、この熱可塑性樹脂組成物(A)から得られる位相差フィルムが、それ単独で十分な機械的強度を有することがあり、したがって本発明の位相差フィルム用保護フィルムによる効果を有効に得ることができないことがある。
【0031】
熱可塑性樹脂組成物(A)の未延伸時の光弾性係数は、好ましくは−10×10−12〜+10×10−12/Pa、さらに好ましくは−7×10−12〜+7×10−12/Pa、とりわけ好ましくは−5×10−12〜+5×10−12/Paである。未延伸時の光弾性係数が、この範囲にあることにより、偏光板保護フィルム、位相差フィルム等の光学用途に好適に用いることができる。
【0032】
熱可塑樹脂組成物(A)は、上記の条件を満たすいずれの熱可塑樹脂組成物であってもよいが、その例としては、ポリスチレン系樹脂(A−1)、ポリメタクリル酸メチル系樹脂(A−2)、またはその両方を含有するものが好適に挙げられる。
【0033】
<位相差フィルム−ポリスチレン系樹脂(A−1)>
熱可塑樹脂組成物(A)は、ポリスチレン系樹脂(A−1)であってよい。ポリスチレン系樹脂(A−1)は、スチレン系単量体成分を重合体の構成成分として含有する樹脂であり、例えばスチレン系単量体成分の含有率が、50質量%超、60質量%超、70%質量超、又は80質量%超の樹脂である。
【0034】
ここで、スチレン系単量体とは、その構造中にスチレン骨格を有する単量体をいい、スチレンのほかo−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレンなどの核アルキル置換スチレン、α−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレンなどのα−アルキル置換スチレンなどのビニル芳香族化合物単量体が挙げられ、代表的なものはスチレンである。
【0035】
ポリスチレン系樹脂(A−1)としては、スチレン系単量体成分に他の単量体成分を共重合したものも挙げることができる。スチレン系単量体と共重合可能な単量体としては、メチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、メチルフェニルメタクリレート、イソプロピルメタクリレートのようなアルキルメタクリレート、及びメチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレートのようなアルキルアクリレート等の不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体;メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、桂皮酸等の不飽和カルボン酸単量体;無水マレイン酸、イタコン酸、エチルマレイン酸、メチルイタコン酸、クロルマレイン酸などの無水物である不飽和ジカルボン酸無水物単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル単量体、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン等の共役ジエンを挙げることができる。これらの単量体のうちの2種以上を、スチレン系単量体と共重合させることも可能である。
【0036】
本発明で好適に用いることができるポリスチレン系樹脂(A−1)としては、特にスチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、及びスチレン−無水マレイン酸共重合体が挙げられ、特にはスチレン−無水マレイン酸共重合体が好ましい。これらは、耐熱性、透明性等の光学材料に求められる特性を有しているため好ましい。
【0037】
また、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、及びスチレン−無水マレイン酸共重合体は、ポリメタクリル酸メチル系樹脂(A−2)と組み合わせて用いた場合、ポリメタクリル酸メチル系樹脂(A−2)との相溶性が高いため、透明性が高く、使用中に相分離を起こして透明性が低下することがない成形体を得られることからも好ましい。
【0038】
スチレン−無水マレイン酸共重合体は、共重合体中の無水マレイン酸含量が0.1〜50質量%であることが好ましく、より好ましい範囲は0.1〜40質量%であり、さらに好ましい範囲は0.1質量%〜30質量%である。共重合体中の無水マレイン酸含量が0.1質量%以上であると耐熱性に優れ、50質量%以下の範囲であれば透明性に優れるので好ましい。
【0039】
ポリスチレン系樹脂(A−1)は組成、分子量など異なる種類のものを併用することができる。これらは公知のアニオン、塊状、懸濁、乳化または溶液重合方法により得ることができる。また、スチレン系樹脂においては、共役ジエン、スチレン系単量体のベンゼン環の不飽和二重結合が水素添加されていても良い。水素添加率は核磁気共鳴装置(NMR)によって測定できる。本発明において、ポリスチレン系樹脂とはスチレン系単量体を50重量%を超えて含む樹脂成分をいう。
【0040】
<位相差フィルム−ポリメタクリル酸メチル系樹脂(A−2)>
熱可塑樹脂組成物(A)は、ポリメタクリル酸メチル系樹脂(A−2)であってよい。ポリメタクリル酸メチル系樹脂(A−2)は、メタクリル酸メチル系単量体成分を重合体の構成成分として含有する樹脂であり、例えばポリメタクリル酸メチル系単量体成分の含有率が、50質量%超、60質量%超、70%質量超、又は80質量%超の樹脂である。
【0041】
ポリメタクリル酸メチル系樹脂(A−2)は例えば、メタクリル酸メチルの単独重合体、又はメタクリル酸メチルと他の単量体との共重合体であってよい。メタクリル酸メチルと共重合可能な単量体としては、他のメタリル酸アルキルエステル類;アクリル酸アルキルエステル類;スチレン及びo−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレンのようなアルキル置換スチレン、及びα−メチルスチレン,α−メチル−p−メチルスチレンのようなα−アルキル置換スチレン等の芳香族ビニル化合物類;アクリロニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類;N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド類;無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸無水物類;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸等の不飽和酸類が挙げられる。
【0042】
また、これらメタクリル酸メチルと共重合可能な単量体の中でも、特にアクリル酸アルキルエステル類は耐熱分解性に優れる点で好ましく、またアクリル酸アルキルエステル類を共重合させて得られるメタクリル系樹脂は、成形加工時の流動性が高い点で好ましい。メタクリル酸メチルにアクリル酸アルキルエステル類を共重合させる場合のアクリル酸アルキルエステル類の使用量は、耐熱分解性の観点から0.1重量%以上であることが好ましく、耐熱性の観点から15重量%以下であることが好ましい。この場合のアクリル酸アルキルエステル類の使用量は、0.2重量%以上14重量%以下であることがさらに好ましく、1重量%以上12重量%以下であることがとりわけ好ましい。このアクリル酸アルキルエステル類の中でも、特にアクリル酸メチル及びアクリル酸エチルは、少量のみメタクリル酸メチルと共重合させた場合であっても改良効果が著しく、最も好ましい。上記メタクリル酸メチルと共重合可能な単量体は、一種または二種以上組み合わせて使用することもできる。
【0043】
ポリメタクリル酸メチル系樹脂(A−2)の重量平均分子量は5万〜20万のものが望ましい。重量平均分子量は成形品の強度の観点から5万以上が望ましく、成形加工性、流動性の観点から20万以下が望ましい。さらに望ましい重量平均分子量範囲は7万〜15万である。また、本発明においてはアイソタクチックポリメタクリル酸エステルとシンジオタクチックポリメタクリル酸エステルを同時に用いることもできる。
【0044】
アクリル系樹脂を製造する方法として、例えばキャスト重合、塊状重合、懸濁重合、溶液重合、乳化重合、アニオン重合等の一般に行われている重合方法を用いることができるが、光学用途としては微小な異物の混入はできるだけ避けるのが好ましく、この観点からは懸濁剤や乳化剤を用いない塊状重合や溶液重合が望ましい。溶液重合を行う場合には、単量体の混合物をトルエン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素の溶媒に溶解して調整した溶液を用いることができる。塊状重合により重合させる場合には、通常行われるように加熱により生じる遊離ラジカルや電離性放射線照射により重合を開始させることができる。
【0045】
重合反応に用いられる開始剤としては、一般にラジカル重合において用いられる任意の開始剤を使用することができ、例えばアゾビスイソブチルニトリル等のアゾ化合物、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等の有機過酸化物が用いられる。特に90℃以上の高温下で重合を行わせる場合には、溶液重合が一般的であるので、重合反応に用いられる開始剤は、10時間半減期温度が80℃以上でかつ用いる有機溶媒に可溶である過酸化物、アゾビス開始剤などが好ましい。
【0046】
具体的には重合反応に用いられる開始剤としては、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、シクロヘキサンパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、1,1−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル等を挙げることができる。これらの開始剤は0.005〜5wt%の範囲で用いられる。
【0047】
重合反応に必要に応じて用いられる分子量調節剤は、一般的なラジカル重合において用いる任意のものが使用され、例えばブチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸2−エチルヘキシル等のメルカプタン化合物が特に好ましいものとして挙げられる。これらの分子量調節剤は、重合度が上記の範囲内に制御されるような濃度範囲で添加される。
【0048】
ポリメタクリル酸メチル系樹脂(A−2)の製造方法は、特公昭63−1964等に記載されている方法等を用いることができる。ポリメタクリル酸メチル系樹脂(A−2)は、分子量、組成等が異なる2種以上のものを同時に用いることもできる。
【0049】
<位相差フィルム−ポリスチレン系樹脂(A−1)及びポリメタクリル酸メチル系樹脂(A−2)の組み合わせ>
熱可塑樹脂組成物(A)は、ポリスチレン系樹脂(A−1)とポリメタクリル酸メチル系樹脂(A−2)との組み合わせであってよい。この場合、ポリスチレン系樹脂(A−1)とポリメタクリル酸メチル系樹脂(A−2)よりなる熱可塑性樹脂組成物(A)では、熱可塑性樹脂組成物(A)全体の重量に基づいて、ポリスチレン系樹脂(A−1)の含有比率(重量部)が、耐熱性の点から、99〜50%であることが好ましく、99〜60%であることがさらに好ましく、99〜70%であることがとりわけ好ましい。
【0050】
<位相差フィルム−他の成分>
また、熱可塑性樹脂組成物(A)は、ポリスチレン系樹脂(A−1)及び/又はポリメタクリル酸メチル系樹脂(A−2)に加えて又はこれらに代えて、本発明の目的を損なわない範囲で他の成分を含有することができる。熱可塑性樹脂組成物(A)が含有することができる他の成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリオレフィン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、及びポリアセタール等の熱可塑性樹脂、並びにフェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂などの少なくとも1種以上を挙げることができる。
【0051】
さらに、本発明の効果を著しく損なわない範囲内で、熱可塑性樹脂組成物(A)は、各種目的に応じて任意の添加剤を含有することができる。添加剤の種類は、樹脂やゴム状重合体の配合に一般的に用いられるものであれば特に制限はない。添加剤としては、二酸化珪素等の無機充填剤;酸化鉄等の顔料;ステアリン酸、ベヘニン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、エチレンビスステアロアミド等の滑剤;離型剤;パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、パラフィン、有機ポリシロキサン、ミネラルオイル等の軟化剤・可塑剤;ヒンダードフェノール系酸化防止剤;りん系熱安定剤等の酸化防止剤;紫外線吸収剤;ヒンダードアミン系光安定剤;難燃剤;帯電防止剤;有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属ウィスカ等の補強剤;着色剤;その他添加剤;又はこれらの混合物等が挙げられる。
【0052】
<位相差フィルム用保護フィルム(B)>
本発明の位相差フィルム用保護フィルムは、破断強度10〜50MPa、破断伸度300〜1500%、面衝撃破壊エネルギー5×10−4J/μm以上、且つ−40℃での周波数1Hzにおける動的貯蔵弾性率及び動的損失弾性率1×10〜2×10Paの熱可塑樹脂組成物(B)で作られており、且つ光学的に略等方性である。上記の破断強度、破断伸度、面衝撃破壊エネルギー、動的貯蔵弾性率、及び動的損失弾性率の値から理解されるように、熱可塑樹脂組成物(B)は、比較的大きい機械的強度及び弾性を有する。
【0053】
熱可塑性樹脂組成物(B)は、破断強度が10MPa以上であり、20MPa以上であることが好ましい。破断強度が10MPaを下回ると、熱可塑性樹脂組成物(B)で作られた位相差フィルム用保護フィルムを有する積層位相差フィルムにおいての延伸において、フィルムに亀裂が生ずるおそれがあり、またこの熱可塑性樹脂組成物(B)から得られる位相差フィルム用保護フィルムが、位相差フィルムのための保護フィルムとして十分に機能しないことがある。
【0054】
熱可塑性樹脂組成物(B)は、破断伸度が300%以上であり、500%以上であることが好ましい。破断伸度が300%を下回ると、熱可塑性樹脂組成物(B)で作られた位相差フィルム用保護フィルムを有する積層位相差フィルムにおいての延伸において、フィルムに亀裂が生ずるおそれがあり、またこの熱可塑性樹脂組成物(B)から得られる位相差フィルム用保護フィルムが、位相差フィルムのための保護フィルムとして十分に機能しないことがある。
【0055】
熱可塑性樹脂組成物(B)では、面衝撃破壊エネルギーが、5×10−4J/μm以上、特に8×10−4J/μm以上である。面衝撃破壊エネルギーが小さい場合には、この熱可塑性樹脂組成物(B)から得られる位相差フィルム用保護フィルムが、位相差フィルムのための保護フィルムとして十分に機能しないことがある。
【0056】
熱可塑性樹脂組成物(B)の−40℃での周波数1Hzにおける動的貯蔵弾性率及び動的損失弾性率は共に、1×10〜2×10Paであり、5×10〜5×10Paであることが好ましい。これらの値が1×10Paを下回ると、フィルムを巻き取った場合の貼り付きが大きくなるおそれがある。熱可塑性樹脂組成物(B)で作られる位相差フィルム用保護フィルムは、本発明の積層位相差フィルムの両側に存在するので、位相差フィルム用保護フィルムの貼り付きを抑制することは重要である。また、これらの値が、2×10Paを超えると、熱可塑性樹脂組成物(B)で作られる位相差フィルム用保護フィルムを有する積層位相差フィルムにおいて、ヒートサイクルテストで割れが生じるおそれがある。
【0057】
熱可塑性樹脂組成物(B)の未延伸時の光弾性係数は、好ましくは−10×10−12〜+10×10−12/Pa、さらに好ましくは−7×10−12〜+7×10−12/Pa、とりわけ好ましくは−5×10−12〜+5×10−12/Paである。未延伸時の光弾性係数がこの範囲にあることにより、偏光板保護フィルム、位相差フィルム等の光学用途に好適に用いることができる。
【0058】
熱可塑樹脂組成物(B)は、上記の条件を満たすいずれの熱可塑樹脂組成物であってもよいが、その例としては、エチレン系共重合樹脂(B−1)、スチレンからなる重合体ブロックとブタジエンからなる重合体ブロック若しくはイソプレンからなる重合ブロックとを有する共重合体、又はその共重合体の水素化物重合体(B−2)を含有するものが好適に挙げられる。
【0059】
<位相差フィルム用保護フィルム−エチレン系共重合樹脂(B−1)>
熱可塑性樹脂組成物(B)は、エチレン系共重合樹脂(B−1)であってよい。エチレン系共重合樹脂(B−1)は、単量体成分としてのエチレンを重合体の構成成分として含有する樹脂であり、例えば単量体成分としてのエチレンの含有率が、30質量%超、40質量%超、50質量%超、60質量%超、70%質量超、又は80質量%超の樹脂である。
【0060】
エチレン系共重合樹脂(B−1)としては、単量体成分としてのエチレンと他の単量体成分とが共重合したものも挙げることができる。具体的には、エチレン系共重合樹脂(B−1)としては、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸プロピル共重合体、エチレン−アクリル酸ブチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸プロピル共重合体、エチレン−メタクリル酸ブチル共重合体などを挙げることができる。
【0061】
エチレン系共重合樹脂(B−1)としては、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体として、エチレンと(メタ)アクリル酸エステルに、さらに他の共重合可能な単量体を共重合した三元以上の共重合体を用いることもできる。他の共重合可能な単量体としては、例えば、プロピレン、1−ブテンなどのα−オレフィン、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのカルボキシル基を有する単量体、スチレン、酢酸ビニルなどのビニル単量体などを挙げることができる。
【0062】
エチレン系共重合樹脂(B−1)としては、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合樹脂の(メタ)アクリル酸エステル構造単位の割合が、5〜50重量%であることが好ましく、10〜30重量%であることがより好ましい。(メタ)アクリル酸エステル構造単位の割合が5重量%未満であると、各層間の接着強度が低下するおそれがある。(メタ)アクリル酸エステル構造単位の割合が50重量%を超えると、エチレン系共重合樹脂(B−1)で作られる位相差フィルム用保護フィルムの強度が低下して皺が発生するおそれがある。
【0063】
<位相差フィルム用保護フィルム−スチレンからなる重合体ブロックとブタジエンからなる重合体ブロック若しくはイソプレンからなる重合ブロックとを有する共重合体、又はその重合体の水素化物重合体(B−2)>
スチレンからなる重合体ブロックとブタジエンからなる共重合体ブロック若しくはイソプレンからなる重合ブロックとを有する共重合体、又はその共重合体の水素化物重合体(B−2)としては、スチレンと共役ジエン(ブタジエン、イソプレン等)とのブロック又はランダム共重合体、スチレンと水素添加共役ジエン(ブタジエン、イソプレン等)とのブロック又はランダム共重合体等を挙げることができる。
【0064】
共重合体(B−2)は、好ましくは5〜80重量%、より好ましくは10〜70重量%、更に好ましくは15〜50重量%のスチレンからなる重合体ブロックと、好ましくは95〜20重量%、好ましくは90〜30重量%、更に好ましくは85〜50重量%のブタジエン若しくはイソプレンからなる重合体ブロック又はその水素化物重合体ブロックとから構成される共重合体からなる。
【0065】
この共重合体において、スチレンからなる重合体ブロックの含有割合が5重量%を下回ると、位相差フィルム用保護フィルムと位相差フィルムとの密着性が低下するおそれがある。他方で、この共重合体において、スチレンからなる重合体ブロックの含有割合が80重量%を上回ると、本発明の積層フィルムを共押出しにより製膜する際に、位相差フィルム用保護フィルムと位相差フィルムとの界面が乱れ、特にこれらのフィルムの膜厚が不均一になるおそれがあり、またこれらの層の間の接着強度が経時的に低下し、本発明の積層位相差フィルムに皺が発生するおそれがある。
【0066】
ここで、スチレンの単量体とブタジエン又はイソプレンの単量体とのブロック構造については特に制限がなく、これらから得られる共重合体は例えば、一般式:S−D;S−D−S;D−S−D−S;S−D−S−D−S等で表されるブロック共重合体であってよい(式中、Sはスチレンからなる重合体ブロックを示し、Dはブタジエン又はイソプレンからなる重合体ブロックを示し、また重合体ブロックDの二重結合は、部分的又は完全に水素添加されていてもよい)。D−S−Dで表されるトリブロック共重合体が特に好ましい。
【0067】
<位相差フィルム用保護フィルム−他の成分>
熱可塑性樹脂組成物(B)は、必要に応じて、熱可塑性樹脂組成物(A)説明で記載した添加剤等を、発明の効果が損なわれない範囲で含有することができる。
【0068】
<面内レターデーション>
位相差フィルム用保護フィルムは、光学的に略等方性であり、例えば下記の式を満たす:
|Re(B)|≦20nm、特に10nm、より特に5nm
(式中、
Re(B):波長400〜700nmの光で測定した位相差フィルム用保護フィルムの面内レターデーション(位相差フィルム用保護フィルムが複数存在する場合には全ての位相差フィルム用保護フィルムの面内レターデーションの総和))。
【0069】
また、好ましくは、位相差フィルムは、下記の式を満たす:
|Re(A)|>|Re(B)|
(式中、
Re(A):波長400〜700nmの光で測定した位相差フィルムの面内レターデーション(位相差フィルムが複数存在する場合には全ての位相差フィルムの面内レターデーションの総和))。
【0070】
本発明におけるRe(面内レターデーションの値)は、フィルムの遅相軸方向の屈折率n、遅相軸に面内で直交する方向の屈折率n、及び厚み方向の屈折率n、フィルムの平均厚みTとしたときに、(n−n)×Tで定義される値である。
【0071】
位相差フィルム用保護フィルムが光学的に略等方性であることは、この位相差フィルム用保護フィルムと位相差フィルムとを有する積層位相差フィルムが、主として位相差フィルムに起因する光学的特性を有することを可能にし、それによって積層位相差フィルムの光学的制御を容易に達成することができる。
【0072】
また、|Re(A)|>|Re(B)|で、且つ|Re(B)|が20nm以下であることにより、光学的に調整を行った位相差フィルムの光学特性を効果的に利用することができ、また効率良く、下述の係数Nzを0.4以下にすることができる。
【0073】
Nz=(n−n)/(n−n
(式中、
:遅相軸方向の屈折率
:遅相軸に面内で直交する方向の屈折率
:厚み方向の屈折率)
【0074】
これに対して、|Re(A)|≦|Re(B)|となると、該位相差フィルムの光学補償機能が十分に発現しないおそれがある。また、位相差フィルム用保護フィルムが光学的に略等方性ではなく、例えば|Re(B)|が20nmを超えると、位相差フィルムの光学補償機能が十分に発現しないおそれがある。
【0075】
<厚み比率>
本発明の積層位相差フィルムの全体厚みを基準とすると、熱可塑樹脂組成物(A)で作られている位相差フィルムの厚み比率は95〜60%であることが好ましく、90〜60%であることが更に好ましい。位相差フィルムの厚み比率が95%を超えると、本発明の積層位相差フィルムのヒートサイクルテストで割れが生じるおそれがあり、また位相差フィルムの厚み比率が60%以下であると、本発明の積層位相差フィルムの位相差安定性が悪くなるおそれがある。
【0076】
本発明の積層位相差フィルムの全体厚みを基準とすると、熱可塑樹脂組成物(B)からなる位相差フィルム用保護フィルムの厚み比率は、5〜40%であることが好ましく、10〜40%であることがさらに好ましい。位相差フィルム用保護フィルムの厚み比率が40%を超えると、本発明の積層位相差フィルムの位相差安定性が悪くなるおそれがある。また位相差フィルム用保護フィルムの厚み比率が5%以下であると、積層位相差フィルムのヒートサイクルテストで割れが生じるおそれがある。
【0077】
<製造方法>
本発明の位相差フィルム用保護フィルム及び積層位相差フィルムの製造方法には特に制限はない。例えば、位相差フィルムのための熱可塑性樹脂組成物(A)と位相差フィルム用保護フィルムのための熱可塑性樹脂組成物(B)から別々にフィルムを製膜し、そして得られた未延伸のフィルムを、接着剤を用いドライラミネーションにより積層し、このようにして得られた未延伸の積層フィルムを延伸して、積層位相差フィルムを得ることができる。位相差フィルムのための熱可塑性樹脂組成物(A)と位相差フィルム用保護フィルムのための熱可塑性樹脂組成物(B)から、共押出により未延伸の積層フィルムを製膜し、このようにして得られた未延伸の積層フィルムを延伸して、積層位相差フィルムを得ることができる。
【0078】
これらの方法の中で、共押出による製膜は、層間剥離強度が大きい積層位相差フィルムが得られ、また経済的に積層位相差フィルムを製造することができるので、好適に実施することができる。共押出成形法としては、フラットなダイを用いたフラットダイ共押出成形法と、円筒形のダイを用いた共インフレーション成形法とがあるが、フラットダイ共押出成形法が好ましい。
【0079】
フラットダイ共押出成形法は、樹脂を押出機で加熱溶融後、フラットダイから共押し出し連続的にフィルム形状の成形品を得る方法である。フラットダイとしては、樹脂の分配流路の構造別に、Tダイ、コートハンガーダイ、フィッシュテールダイなどが挙げられる。押出機は樹脂を加熱混練して、一定押出量でダイよりフィルム形状で溶融体を押し出す。通常押出機とダイとの間にスクリーンやフィルタを入れて、ゲルや異物を除去することが好ましい。また使用される樹脂は、押出機に投入する前に乾燥し、水や揮発性溶剤の含有量を減らしておくことがフィッシュアイや気泡の発生を防止する上で好ましい。
【0080】
共押出し温度は、熱可塑性樹脂(A)及び(B)のガラス転移温度よりも10〜100℃高い温度にすることが好ましく、熱可塑性樹脂(A)及び(B)のガラス転移温度よりも10〜50℃高い温度にすることがより好ましい。押出機での溶融温度が過度に低いと樹脂の流動性が不足するおそれがあり、逆に溶融温度が過度に高いと樹脂が劣化する可能性がある。
【0081】
<フィルム形状>
未延伸の積層フィルムは長尺状であることが好ましい。長尺状とは、フィルムまたは積層体の幅方向に対し少なくとも5倍程度以上の長さを有するものを言い、好ましくは10倍もしくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻回されて保管または運搬される程度の長さを有するものを言う。
【0082】
<層間剥離強度>
本発明の積層位相差フィルムは、位相差フィルムと位相差フィルム用保護フィルムの間の層間剥離強度が8N/25mm以上であることが好ましく、10N/25mm以上であることがより好ましい。積層位相差フィルムの層間剥離強度が8N/25mm未満であると、積層位相差フィルムを得るための一軸延伸の際に剥離を生ずるおそれがある。
【0083】
<フィルム厚み>
未延伸の積層フィルムの厚みは、得られる積層位相差フィルムの使用目的などに応じて適宜決定することができる。未延伸の積層フィルムの厚みは、安定した延伸処理による均質な延伸フィルムが得られる観点から、好ましくは30〜200μm、より好ましくは50〜150μmである。
【0084】
<延伸方法>
本発明の積層位相差フィルムは、未延伸の積層フィルムを一軸延伸して得られる。未延伸の積層フィルムの層間剥離強度が大きく、それによって一軸延伸しても層間剥離を起こすことがないと、フィルム厚みの均一性に優れた位相差フィルムを得ることができる。未延伸の積層フィルムを一軸延伸する方法に特に制限はなく、例えば、ロール間の周速の差を利用して縦方向に一軸延伸することができ、あるいは、テンターを用いて横方向に一軸延伸することもできる。これらの中で、縦方向の一軸延伸が好適である。一軸延伸の延伸倍率に特に制限はないが、1.1〜3倍であることが好ましく、1.2〜2.2倍であることがより好ましい。
【0085】
本発明の積層位相差フィルムは、面内レターデーション(Re)のばらつきが10nm以内、好ましくは5nm以内、さらに好ましくは2nm以内である。Reのばらつきを、上記範囲にすることにより、各種表示装置に用いた場合に表示品質を良好なものにすることが可能になる。
【0086】
ここで、Reのばらつきは、面内レターデーションをフィルムの幅方向に測定したときの、そのReの最大値と最小値との差である。
【0087】
<用途>
本発明の積層位相差フィルムに、紫外線硬化型樹脂、液晶ポリマー(硬化前の液晶モノマーも含む)、光反射防止剤などを塗布して、硬化樹脂層や液晶ポリマー層を積層形成することもできる。
【0088】
本発明の積層位相差フィルムは、液晶表示装置、有機EL表示装置、プラズマ表示装置、FED(電界放出)表示装置、SED(表面電界)表示装置などに広く応用が可能である。液晶表示装置としては、例えば、インプレーンスイッチング(IPS)モード、バーチカルアラインメント(VA)モード、マルチドメインバーチカルアラインメント(MVA)モード、コンティニュアスピンホイールアラインメント(CPA)モード、ハイブリッドアラインメントネマチック(HAN)モード、ツイステッドネマチック(TN)モード、スーパーツイステッドネマチック(STN)モード、オプチカルコンペンセイテッドベンド(OCB)モードなどを挙げることができる。この中でも、特にIPSモードの液晶表示装置に対して、視野角補償効果が大きい。
【実施例】
【0089】
本発明を、実施例を示しながら、さらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお部及び%は特に断りのない限り重量基準である。
【0090】
また、実施例及び比較例において、破断強度、破断伸度、面衝撃破壊エネルギー、動的貯蔵弾性率、動的損失弾性率、積層位相差フィルムの層間剥離強度、面内レターデーション(Re)、光弾性係数、位相差フィルム用保護フィルム及び位相差フィルムの厚さ、積層位相差フィルムの厚さ、全光線透過率及びヘーズ、ガラス転移点温度(Tg)は、上記のようにして測定した。
【0091】
また、ヒートショック試験は下記のようにして評価した。すなわち、積層位相差フィルムを、粘着剤を介して平坦なソーダガラス基板上に貼付けたサンプルを10個用意し、このサンプルに対して、−40℃(30分)及び85℃(30分)を1サイクルとするヒートショック試験を100サイクル行い、そして位相差フィルムの割れの有無を、下記のようにして評価した。
○:割れ無
×:割れ有(割れが一個でもあった場合)
【0092】
なお、実施例及び比較例において、位相差フィルムのための熱可塑性樹脂組成物(A)、及び位相差フィルム用保護フィルムのための熱可塑性樹脂組成物(B)として、下記重合体及び樹脂を用いた。
【0093】
(位相差フィルムのための熱可塑性樹脂組成物(A))
A−1−1:ポリスチレン系樹脂(ノバ・ケミカル社製、商品名「Daylark D332」)
A−2−1:ポリメタクリル酸メチル系樹脂(クラレ社製、商品名「パラペットG」)
【0094】
(位相差フィルム用保護フィルムのための熱可塑性樹脂組成物(B))
B−1−1:エチレン系共重合樹脂(住友化学工業社製、商品名「アクリフトWH206」)
B−1−2:エチレン系共重合樹脂(三菱化学社製、商品名「モディックAP A543」)
B−2−1:スチレンからなる重合体ブロックとブタジエンからなる重合体(旭化成ケミカルズ社製、商品名「タフプレン126」)
【0095】
(実施例1)
ポリスチレン系樹脂(A−1−1)[ノバ・ケミカル社製、商品名「Daylark D332」、ガラス転移温度134℃]からなる未延伸の位相差フィルムの両面に、エチレン系共重合樹脂(B−1−1)[住友化学工業社製、商品名「アクリフトWH206」]からなる未延伸の位相差フィルム用保護フィルムを有する、未延伸の積層フィルムを共押出成形により得た。ここでこの未延伸の積層フィルムは、下記の構成を有していた:未延伸の位相差フィルム用保護フィルム(20μm)−未延伸の位相差フィルム(160μm)−未延伸の位相差フィルム用保護フィルム(20μm)。
【0096】
この未延伸の積層フィルムを、延伸温度140℃、延伸速度5m/分、延伸倍率2倍でテンター横延伸し、厚さ100μmの積層位相差フィルムを得た。この積層位相差フィルムを、粘着剤を介して平坦なソーダガラス基板上に貼付けた。ヒートショック試験による積層位相差フィルムの割れの有無を評価した。
【0097】
この実施例1の積層位相差フィルムの評価結果を表1に示す。この表1から明らかなように、実施例1の積層位相差フィルムは、層間剥離強度が強く、位相差特性が良好であり、ヒートショック試験での位相差フィルムの割れが無く、良好だった。
【0098】
(実施例2〜7)
位相差フィルムのための熱可塑性樹脂組成物(A)、及び位相差フィルム用保護フィルムのための熱可塑性樹脂組成物(B)として、表1に記載の樹脂を用いた以外は実施例1と同様にして、未延伸の積層フィルムを作成し、この未延伸の積層フィルムを延伸して、積層位相差フィルムを作成した。全ての評価結果を表1に示した。
【0099】
この表1から明らかなように、実施例2〜7の積層位相差フィルムは、層間剥離強度、位相差特性、及びヒートショック試験での耐割れ性が良好だった。
【0100】
(比較例1)
実施例1の位相差フィルム用保護フィルムを積層しない以外は、実施例1と同様にして未延伸の位相差フィルムを作成し、そしてこの未延伸の位相差フィルムを延伸して、位相差フィルムを作成した。全ての評価結果を表1に示した。この比較例1の位相差フィルムは、ヒートショック試験で割れが発生し、位相差フィルムとしての使用に耐えないものであった。
【0101】
(比較例2)
実施例1で用いた位相差フィルム用保護フィルムを低密度ポリエチレン(三井化学社製、商品名「エボリューSP2520」に変更する以外は実施例1と同様にして積層フィルムを作成し、延伸を行い位相差フィルムを作成した。全ての評価結果を表1に示した。位相差フィルムは、層間剥離強度が弱く、また面内位相差が大きく、したがって位相差フィルムとしての使用に耐えないものであった。
【0102】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
破断強度10〜50MPa、破断伸度300〜1500%、面衝撃破壊エネルギー5×10−4J/μm以上、且つ−40℃での周波数1Hzにおける動的貯蔵弾性率及び動的損失弾性率1×10〜2×10Paの熱可塑樹脂組成物(B)で作られており、且つ光学的に略等方性である、位相差フィルム用保護フィルム。
【請求項2】
破断強度20〜80MPa、破断伸度0.5〜8%、且つ面衝撃破壊エネルギー9×10−5J/μm以下の熱可塑樹脂組成物(A)で作られている位相差フィルムの両面に、請求項1記載の位相差フィルム用保護フィルムが積層されてなる、積層位相差フィルム。
【請求項3】
前記積層位相差フィルムの全体厚みを基準として、前記位相差フィルムの厚み比率が95〜60%であり、且つ前記位相差フィルム用保護フィルムの厚み比率が5〜40%であることを特徴とする、請求項2記載の積層位相差フィルム。
【請求項4】
前記熱可塑樹脂組成物(A)が、ポリスチレン系樹脂(A−1)、ポリメタクリル酸メチル系樹脂(A−2)、又はその組み合わせであり、且つ前記熱可塑樹脂組成物(B)が、エチレン系共重合樹脂であることを特徴とする、請求項2又は3記載の積層位相差フィルム。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか記載の積層位相差フィルムを具備する液晶表示装置。

【公開番号】特開2009−286910(P2009−286910A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−141568(P2008−141568)
【出願日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】