説明

位相差フィルム

【課題】本発明の目的は、芳香族系ポリカーボネートからなり熱ムラの発生を抑えた位相差フィルムを提供することにある。
【解決手段】芳香族系ポリカーボネートから構成され逆波長分散特性を有する位相差フィルムであって、該フィルムの光弾性係数(Pa−1)と厚み(nm)との積が3.0×10−6(nm/Pa)以下であり、かつガラス転移点温度が120℃以上であることを特徴とする位相差フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は位相差フィルムに関する。更に詳しくは、外部応力に対して位相差変化の小さい芳香族系ポリカーボネートからなり、例えば液晶表示装置、発光素子、反射防止フィルム、光記録装置、偏光ビームスプリッター等の光学素子において用いられる位相差フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置用の位相差フィルムとしてはいくつかの種類のフィルムが使用されている。その1つとして逆波長分散特性を有する芳香族系ポリカーボネートからなる位相差フィルムは優れた特性を有しているため、液晶表示装置の広帯域化、色補償、視野角拡大等を実現するために必要不可欠な存在となっている。
【0003】
通常の位相差フィルムの複屈折率絶対値は波長に対して単調減少するが、逆波長分散特性とは、この波長依存性が逆のものを指し、波長に対して複屈折率の絶対値が単調に増加する。本発明では逆波長分散特性を下記式(7)を満足するλ(nm)が存在するものと定義する。
|Δn(λ)|<|Δn(λ)| (7)
ここで、Δn(λ)は波長λにおける複屈折率を示し、400nm<λ<λ<700nm の関係がある。
【0004】
このような条件を満足する位相差フィルムとしては下記特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特許第3325560号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
液晶表示装置の高性能化の要求に伴い、コントラストが従来の100:1程度から500:1さらには1000:1、あるいは5000:1程度に改善されようとしている。このようなコントラスト向上により、従来問題とならなかった各部品、部材の問題点が指摘されるようになりつつある。
【0006】
液晶表示装置は一般に高温、低温下おいては、様々な原因により目的の性能が達成できない場合や、表示ムラ等の性能低下を引き起こすことが知られている。液晶表示装置には多くの部材、部品が使用されており、ある特定の部材や部品に原因がある場合や複数の部材間の複合的な原因により、この性能低下が発生する場合も考えられる。高温、低温下における表示ムラの1つに『熱ムラ』といった現象が知られている。この現象は、高温、低温下において、特に黒表示時の液晶表示装置画面の縁において光が漏れる現象である。液晶表示装置の部材として用いられる位相差フィルムは、その位相差値によって任意に偏光を変換させるための光学素子である。この位相差フィルムにおけるなんらかの変化が『熱ムラ』を引き起こす原因の1つではないかと考えられている。
【0007】
逆波長分散特性を有する芳香族系ポリカーボネートからなる配向フィルムは、光学特性や機械的強度等に優れており、広く液晶表示装置用の位相差フィルムとして利用されている。本発明はこの『熱ムラ』の発生を抑えた芳香族系ポリカーボネートを用いた位相差フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
位相差フィルムは、一般に偏光フィルムとともに液晶セルのガラス基板に粘着剤を介して積層された状態で液晶表示装置中にて使用されている。このような環境において位相差フィルムが『熱ムラ』を引き起こす原因について鋭意検討した結果、ガラス基板と高分子からなる位相差フィルムの線膨張係数が大きく異なるために、例えば高温時においては位相差フィルムだけが膨張し、また、低温時においては位相差フィルムだけが収縮することにより、その両者の変形の違いにより位相差フィルムに応力がかかり、その結果位相差値が変化し『熱ムラ』が発生することがあることが原因の1つであることがわかった。
【0009】
このような現象を防ぐために位相差フィルムの素材における改善方法は、少なくとも2つ考えられる。1つは、線膨張係数をガラスと同じ素材からなる位相差フィルムを用いることである。しかしながら、線膨張係数は材料起因であり、一般に無機物であるガラスと有機高分子からなる位相差フィルムの値は大きく異なるのが普通であり、線膨張係数をガラスと同じにすることは容易ではない。もう一方の方策としては、応力が加わっても位相差フィルムの位相差値が変化しないようにする方法が考えられる。一般に、物質の弾性変形内においては、応力(σ)と複屈折率(Δn)の関係は以下の式で表されることが知られている。
Δn=Cσ (3)
【0010】
ここで、Cp(Pa−1)は光弾性係数と呼ばれ物質固有の値をとる。上記式(3)によれば、Cpが小さい方が応力に対して複屈折率が変化し難いことを示すことがわかる。芳香族系ポリカーボネートは優れた光学特性や機械特性等を有するが、一般にこのCpは高い。Cpは材料固有のものであるから、芳香族系ポリカーボネートにおいてこのCpを大幅に低減させることは不可能ではないが容易ではない。
【0011】
そこで、本発明者らはこのCpが高くても『熱ムラ』を抑える方法について鋭意検討した。液晶表示装置の透過率は、2枚の偏光板に挟まれた光学部材の位相差値等の偏光パラメータによって決定される。したがって、前記した『熱ムラ』は複屈折率変化によって発現するものではなく、位相差変化によって発現するものであると考えられる。『熱ムラ』を引き起こす位相差(Δnd)変化は下記式(4)で概ね近似できると考えられる。
Δnd=Cpdσ (4)
ここでdは位相差フィルムの厚み(nm)である。
【0012】
上記式(4)による仮説を基に、実験を行ったところ位相差フィルムの厚みと熱ムラの間には明らかな相関があり、厚みが小さいほど熱ムラは抑えられることがわかった。次に、目視観察により『熱ムラ』の許容範囲を検討した結果、フィルムの光弾性係数(Pa−1)と厚み(nm)との積が特定値以下であることが重要であることを見出し、これに基づき本発明に到達した。
【0013】
すなわち本発明は以下のとおりのものである。
〔1〕芳香族系ポリカーボネートから構成され逆波長分散特性を有する位相差フィルムであって、該フィルムの光弾性係数(Pa−1)と厚み(nm)との積が3.0×10−6(nm/Pa)以下であり、かつガラス転移点温度が120℃以上であることを特徴とする位相差フィルム。
〔2〕厚みが10〜70μmの範囲である、上記〔1〕の位相差フィルム。
【0014】
〔3〕芳香族系ポリカーボネートが、下記式(1)
【化1】

(上記式(1)において、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子及び炭素数1〜6の炭化水素基から選ばれ、Xは
【化2】

である。)
で示される繰り返し単位と、下記式(2)
【化3】

(上記式(2)において、R〜R16はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子及び炭素数1〜3の炭化水素基から選ばれ、Yは下記式群
【化4】

(ここで、Y中のR17〜R19、R21およびR22はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子及び炭素数1〜22の炭化水素基から選ばれ、R20及びR23はそれぞれ独立に炭素数1〜20の炭化水素基から選ばれ、Arは炭素数6〜10のアリール基から選ばれる))
で示される繰り返し単位とからなり、かつ上記式(1)で表される繰り返し単位は該ポリカーボネート全体の40〜80モル%を占め、上記式(2)で表される繰り返し単位は60〜20モル%を占めるポリカーボネートであることを特徴とする上記〔1〕、〔2〕の位相差フィルム。
【0015】
〔4〕偏光フィルムと上記〔1〕〜〔3〕の位相差フィルムを含んでなる積層偏光フィルム。
〔5〕上記〔1〕〜〔3〕の位相差フィルムを用いてなる液晶表示装置。
〔6〕半透過反射型の垂直配向モードの液晶表示装置において、上記〔4〕の積層偏光フィルムを円偏光フィルムとして液晶セルの両側に設置したことを特徴とする上記〔5〕の液晶表示装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、優れた諸物性を有しかつ応力による位相差変化が少ない逆波長分散特性を有する位相差フィルムが実現される。この位相差フィルムを偏光フィルムと積層し、あるいは位相差フィルム単独で液晶表示装置に適用することにより、温度特性に優れた表示品位の高い液晶表示装置を得ることができるといった効果が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の位相差フィルムは、芳香族系ポリカーボネートから構成され逆波長分散特性を有する位相差フィルムであって、該フィルムの光弾性係数(Pa−1)と厚み(nm)との積が3.0×10−6(nm/Pa)以下であり、かつガラス転移点温度が120℃以上である。
【0018】
ここで、フィルムの光弾性係数(Pa−1)と厚み(nm)との積が特定値以下である。すなわち、下記式(5)を満足する。
Cpd≦3.0×10−6(nm/Pa) (5)
Cp(Pa−1)はフィルムで測定した光弾性係数であり、dは位相差フィルムの厚み(nm)である。好ましくはCpdが2.5×10―6以下であり、より好ましくは2.0×10−6以下であり、さらに好ましくは1.9×10−6以下であり、最も好ましくは1.8×10−6以下である。
【0019】
また、本発明の位相差フィルムは芳香族系ポリカーボネートからなることが必要であるが、この芳香族系ポリカーボネートは成形性を考慮して非結晶性であることが好ましい。
また、本発明の位相差フィルムのガラス転移点温度は120℃以上であることが必要である。ガラス転移点温度が120℃未満では、高温時においてフィルムが塑性変形し位相差値が恒久的に変化してしまう場合がある。ガラス転移点としては好ましくは、140℃以上、より好ましくは160℃以上、さらに好ましくは180℃以上である。
【0020】
本発明の位相差フィルムは逆波長分散特性を示す。ここで、前記したように、通常の位相差フィルムの複屈折率絶対値は波長に対して単調減少するが、逆波長分散特性とは、この波長依存性が逆のものを指し、波長に対して複屈折率の絶対値が単調に増加する。本発明では逆波長分散特性を下記式(7)を満足するλ(nm)が存在するものと定義する。
|Δn(λ)|<|Δn(λ)| (7)
ここで、Δn(λ)は波長λにおける複屈折率を示し、400nm<λ<λ<700nm の関係がある。
【0021】
芳香族系ポリカーボネートは、一般に他のポリマーに比べて、位相差フィルムに必要とされる割れ易さ等に起因するハンドリング性、延伸性、複屈折率の波長分散制御性等を有するが、光弾性係数が高いのが難点であると言われてきた。しかし、上記式(5)を満足させれば、上記芳香族系ポリカーボネートの優れた特性と、『熱ムラ』問題の両立は可能である。これらの優れた特性を満足するための、芳香族系ポリカーボネートの好ましい構造を以下に記す。
【0022】
すなわち、下記式(1)
芳香族系ポリカーボネートが、下記式(1)
【化5】

(上記式(1)において、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子及びメチル基、エチル基、イソプロピル基等の炭素数1〜6の炭化水素基から選ばれ、Xは
【化6】

であるフルオレン環である。)
で示される繰り返し単位と、下記式(2)
【化7】

(上記式(2)において、R〜R16はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子及びエチル基等の炭素数1〜3の炭化水素基から選ばれ、Yは下記式群
【化8】

(ここで、Y中のR17〜R19、R21およびR22はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子及びイソプロピリデン等の炭素数1〜22の炭化水素基から選ばれ、R20及びR23はそれぞれ独立に炭素数1〜20の炭化水素基から選ばれ、Arはフェニル基等の炭素数6〜10のアリール基から選ばれる)
で示される繰り返し単位とからなる。
【0023】
上記式(1)で表される繰り返し単位は芳香族系ポリカーボネートを構成する繰り返し単位の合計を基準として40〜80モル%を占め、上記式(2)で表される繰り返し単位は60〜20モル%を占めるポリカーボネートであることが好ましい。
【0024】
特に本発明における芳香族系ポリカーボネートが、上記繰り返し単位(1)と繰り返し単位(2)を有する共重合体、混合物またはそれらの組合せである場合、その繰り返し単位の比率により複屈折率の波長依存性を制御できるといった他の高分子においては容易に得難い優れた光学特性を得ることができる。可視光において複屈折率の絶対値が波長に対して単調に増加するような特性を得るためにより好ましく、上記式(1)で表される繰り返し単位は該ポリカーボネート全体の50〜75モル%を占め、上記式(2)で表される繰り返し単位は50〜25モル%を占めるポリカーボネートであることが好ましい。
【0025】
位相差フィルムの厚みは上記式(5)により、Cp値に合わせて決定されるが、70μm以下であることが好ましく、より好ましくは60μm以下、さらに好ましくは50μm以下、最も好ましくは40μm以下であり下限は10μmである。10μm未満では支持体として用いることができないといった問題が発生する場合がある。
【0026】
上記芳香族系ポリカーボネートとして、より好ましくは下記式(1−1)
【化9】

で示される繰り返し単位と、下記式(2)
【化10】

(上記式(2)において、R〜R16はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子及びエチル基等の炭素数1〜3の炭化水素基から選ばれ、Yは下記式群
【化11】

(上記式群中、R17〜R19、R21、R22はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子及び炭素数1〜22の炭化水素基から選ばれ、R20及びR23はそれぞれ独立に炭素数1〜20の炭化水素基から選ばれ、また、Arはフェニル基等の炭素数6〜10のアリール基から選ばれる。))
で示される繰り返し単位とからなるポリカーボネートからなり、上記式(1−1)で表される繰り返し単位は該ポリカーボネート全体の50〜75モル%を占め、上記式(2)で表される繰り返し単位は50〜25モル%を占めるポリカーボネートである。
【0027】
上記式(2)で表わされる繰り返し単位としては、下記式(2−1)
【化12】

(上記式(2−1)においてR26及びR27はそれぞれ独立に水素原子及びメチル基から選ばれ、Zは下記式群
【化13】

から選ばれる少なくとも一種の基である。)
で示される繰り返し単位が好ましい。このなかで、R26及びR27は水素原子であるものがより好ましい。
【0028】
上記ポリカーボネートにおいて、上記式(1−1)で表される繰り返し単位は、該ポリカーボネート全体、すなわち上記式(1−1)及び(2−1)で表わされる繰り返し単位の合計に基づき55〜75モル%を占め、上記式(2−1)で表される繰り返し単位は45〜25モル%を占める。
上記ポリカーボネートの製造方法としては、例えばジヒドロキシ化合物とホスゲンとの界面重縮合、溶融重縮合法等が好適に用いられる。
【0029】
本発明における芳香族系ポリカーボネートが2種類以上のポリカーボネートをブレンドしたものを用いる場合は、相溶ブレンドが好ましいが、完全に相溶しなくても成分間の屈折率を合わせれば成分間の光散乱を抑え、透明性を向上させることが可能である。
【0030】
本発明の位相差フィルムは、フィルムの面内方向あるいは厚み方向に光学異方性を有する。フィルム面内に光学異方性を有する場合には、下記式で示されるリターデーション値(R値)は0〜600nmの範囲であることが好ましい。また厚み方向に光学異方性を有する場合には、その指標として下記式で表されるK値が20〜600nmの範囲にあるものがよい。
R=(n−n)×d
K=((n+n)/2−n)×d
上記中、n、n、nは位相差フィルムの三次元屈折率であり、それぞれフィルム面内におけるx軸方向、y軸方向、フィルムに垂直なz軸方向の屈折率である。また、dはフィルムの厚み(nm)である。
【0031】
このようにn、n、nはフィルムの光学異方性を表す指標である。特に本発明におけるフィルムの場合には
:フィルム面内における最大屈折率
:フィルム面内における最大屈折率を示す方向に直交する方位の屈折率
:フィルム法線方向の屈折率
とする。
【0032】
本発明の位相差フィルムは、前記したような芳香族系ポリカーボネートからなるフィルムを製膜し、または製膜後に延伸(配向)によって製造することができる。フィルム製膜法としては公知の溶融押し出し法、溶液キャスト法等が用いられる。溶液キャスト法における溶剤としては、メチレンクロライド、ジオキソラン等が好適に用いられる。
【0033】
また、延伸方法も公知の縦一軸、横一軸、二軸延伸等の延伸方法を使用し得る。延伸性を向上させる目的で、延伸前のフィルム中に、公知の可塑剤であるジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート等のフタル酸エステル、トリブチルフォスフェート等のりん酸エステル、脂肪族二塩基エステル、グリセリン誘導体、グリコール誘導体等を配合することができる。先述のフィルム製膜時に用いた有機溶剤をフィルム中に残留させ延伸しても良い。この有機溶剤の量としてはポリマー固形分対比1〜20重量%であることが好ましい。
【0034】
位相差フィルム作製の延伸条件としては、フィルムのガラス転移点温度の−30℃から+50℃の範囲で行うことが好ましい。このガラス転移点温度は例えば溶剤等の添加物が含まれている場合にはそれらを含んだ状態でのガラス転移点温度を指すものとする。好ましくはガラス転移点温度の−10℃から+20℃の範囲である。また、位相差フィルムの三次元屈折率楕円体近似における3つの屈折率のうち、最大または最小の屈折率方位が膜厚方向である位相差フィルムを作製する場合には、製膜工程のみでいわゆる一般の一軸、二軸延伸工程が不要な場合もある。
【0035】
さらに、位相差フィルム中にはフェニルサリチル酸、2-ヒドロキシベンゾフェノン、トリフェニルフォスフェート等の紫外線吸収剤や、色味を変えるためのブルーイング剤、酸化防止剤等を添加してもよい。
【0036】
前記の添加物の量としては高分子材料対比10重量%以下であることが好ましい。これら添加物が光学的に異方性を有している場合には、位相差フィルムのリタデーションに影響を与える場合がある。
【0037】
本発明の位相差フィルムは透明であることが好ましく、へーズ値は3%以下、全光線透過率は85%以上であることが好ましい。さらに、無色透明であることが好ましく、JIS Z−8729記載のL*a*b*表色系のうち、2度視野、C光源を用いた測定でb*が1.2以下、より好ましくは1以下である。
【0038】
本発明の位相差フィルムは他の位相差フィルムと組み合わせて、積層偏光フィルム中や液所表示装置中に用いても良い。他の位相差フィルムとしては硬化型のデイスコチック液晶やねじれ構造を有する高分子液晶、非晶性オレフィン、セルロース誘導体、ポリイミド等からなる位相差フィルムと組み合わせて用いても良い。
【0039】
本発明の位相差フィルムは、例えば、通常のヨウ素や染料等の二色性吸収物質を含有する偏光フィルムや、誘電体多層膜やコレステリック高分子液晶からなる片側の偏光だけを反射または散乱させるような反射型偏光板等と貼り合せ位相差フィルム一体型偏光フィルムとしてもよい。この場合には偏光フィルムの視角特性も改善することが可能である。
【0040】
位相差フィルム、偏光フィルム、液晶表示装置への実装は粘着剤が必要だが、粘着剤としては公知のものが用いられる。粘着剤の屈折率は積層するフィルムの屈折率が中間のものは、界面反射を抑える点で好ましい。
【0041】
上述した位相差フィルムや位相差フィルム一体型偏光フィルムを液晶表示装置等に使用することにより『熱ムラ』問題を解消し画質の向上が実現可能である。また、ガラス基板の代わりに本発明の位相差フィルムを使用しても良い。この場合、液晶表示装置の光学部材を減らすことが出来る上、ガラス基板の欠点である厚みを薄く出来るので、特に反射型液晶表示装置で問題となるガラスの厚みに起因する視差による画像のぼけを防ぐことが可能であるし、ガラス基板の割れ易さを補うことができるといった効果を有する。
【0042】
本発明の位相差フィルムと他の位相差フィルムは粘着剤を介して貼り合せたものを用いても良いし、また、液晶表示装置内において両者が離れていてもよい。
例えば特に垂直配向液晶表示装置においてはコントラストが高く、かかる『熱ムラ』問題は顕著となる場合があるが、そのような場合でも本発明の位相差フィルムは、温度特性に安定な表示品位を保つことができる。垂直配向液晶表示装置とは黒表示時に液晶がガラス基板に対してほぼ垂直に配向したものである。一例として半透過反射モードの垂直配向液晶表示装置の構成概略図を図2に記す。図中の位相差フィルムは4分の1波長フィルムであるが、測定波長を550nmとした場合、位相差値は110〜160nmの間であることが好ましい。また偏光フィルムの吸収軸と位相差フィルム遅相軸の角度は絶対値で45°と図2では記載しているが、44〜46°の範囲であることが好ましい。逆波長分散特性を有しない4分の1波長フィルムを用いた場合は、位相差特性を広帯域化させるために少なくとも2枚の位相差フィルムを用いる必要があるが、一般にそれらは視野角が悪くまた2枚使用するため薄型化が困難であるといった問題がある。一方、逆波長分散型の位相差フィルムを用いればこれらの問題も容易に解決することができる。
【実施例】
【0043】
以下に実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(評価法)
本明細書中に記載の材料特性値等は以下の評価法によって得られたものである。
(1)位相差Δndおよび光弾性定数の測定
複屈折Δnと厚みdの積である位相差Δnd値(R値)および光弾性係数は、偏光解析法を位相差測定手段にしている日本分光(株)製の商品名『M150』により測定したものである。
(2)全光線透過率及びヘーズの測定
日本工業規格JIS K 7105『プラスチックの光学的特性試験方法』に準じ積分球式透過率測定装置により測定した。評価装置としては、日本電色工業(株)製の色差・濁度測定器(商品名『COH−300A』)を用いた。
(3)高分子共重合比の測定
日本電子社製の商品名『JNM−alpha600』のプロトンNMRにより測定した。特にビスフェノールAとビスクレゾールフルオレンの共重合体の場合には、溶媒として重ベンゼンを用い、それぞれのメチル基のプロトン強度比から算出した。
(4)ガラス転移点温度(Tg)の測定
TA Instruments社製の商品名『DSC2920Modulated DSC』の示差走査熱量計により測定した。
(5)高分子の極限粘度測定
ウベローデ粘度管を用い、メチレンクロライド中20℃で極限粘度を求めた。
(6)フィルム膜厚測定
アンリツ社製の電子マイクロで測定した。
(7)『熱ムラ』の評価
図1に示す対角寸法2.2インチの垂直配向型液晶表示装置構成にて、位相差フィルムによる『熱ムラ』の観察を行った。該液晶表示装置を65℃と−30℃の高温槽に3時間投入し、取り出し直後の状態を目視にて観察した。
【0044】
また、以下の実施例、比較例で用いたポリカーボネートのモノマー構造を以下に記す。ポリマーの分析はプロトンNMR法を用いて行った。
【化14】

【0045】
[実施例1]
攪拌機、温度計及び還流冷却器を備えた反応槽に水酸化ナトリウム水溶液及びイオン交換水を仕込み、これに上記構造を有するモノマー[A]と[B]を表1のモル比で溶解させ、少量のハイドロサルファイトを加えた。次にこれに塩化メチレンを加え、20℃でホスゲンを約60分かけて吹き込んだ。さらに、p−tert−ブチルフェノールを加えて乳化させた後、トリエチルアミンを加えて30℃で約3時間攪拌して反応を終了させた。反応終了後有機相分取し、塩化メチレンを蒸発させてポリカーボネート共重合体を得た。得られた共重合体の組成比はモノマー仕込み量比とほぼ同様であった。
【0046】
この共重合体をメチレンクロライドに溶解させ、固形分濃度19重量%のドープ溶液を作製した。このドープ溶液からキャストフィルムを作製し、寸法を固定させた状態で乾燥させ、その後、延伸倍率2倍で縦一軸延伸を行った。このフィルムの特性を表1に記す。次に図1に示す構成にて『熱ムラ』観察を行った。熱ムラの発生は少なく問題のないレベルであった。
【0047】
[実施例2]
実施例1と表1記載のモノマーを使った以外は同様の方法にてポリカーボネート共重合体を得た。得られた共重合体の組成比はモノマー仕込み量比とほぼ同様であった。実施例1と同様に位相差フィルムを作製した。このフィルムの特性を表1に記す。次に図1に示す構成にて『熱ムラ』観察を行った。熱ムラの発生は少なく問題のないレベルであった。
【0048】
[実施例3]
実施例1と表1記載のモノマーを使った以外は同様の方法にてポリカーボネート共重合体を得た。得られた共重合体の組成比はモノマー仕込み量比とほぼ同様であった。延伸倍率を1.9倍とした以外は実施例1と同様に位相差フィルムを作製した。このフィルムの特性を表1に記す。次に図1に示す構成にて『熱ムラ』観察を行った。熱ムラの発生は少なく問題のないレベルであった。
【0049】
[実施例4]
実施例1と表1記載のモノマーを使った以外は同様の方法にてポリカーボネート共重合体を得た。得られた共重合体の組成比はモノマー仕込み量比とほぼ同様であった。延伸倍率を1.7倍とした以外は実施例1と同様に位相差フィルムを作製した。このフィルムの特性を表1に記す。次に図1に示す構成にて『熱ムラ』観察を行った。熱ムラの発生は少なく問題のないレベルであった。
【0050】
[比較例1]
実施例1と表1記載のモノマーを使った以外は同様の方法にてポリカーボネートホモ重合体を得た。溶液キャスト後の膜厚調整および延伸倍率を1.1倍とした以外は実施例1と同様に位相差フィルムを作製した。このフィルムの特性を表1に記す。次に図1に示す構成にて『熱ムラ』観察を行った。熱ムラが発生し、表示品位を低下させていることがわかった。
【0051】
[比較例2]
実施例1と表1記載のモノマーを使った以外は同様の方法にてポリカーボネート共重合体を得た。得られた共重合体の組成比はモノマー仕込み量比とほぼ同様であった。溶液キャスト後の厚み調整および延伸倍率を2.1倍とした以外は実施例1と同様に位相差フィルムを作製した。このフィルムの特性を表1に記す。次に図1に示す構成にて『熱ムラ』観察を行った。熱ムラが発生し、表示品位を低下させていることがわかった。
【0052】
【表1】

Δnd(550):測定波長550nmにおける位相差値
Δn(λ):測定波長λ(nm)における複屈折率
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は実施例、比較例において『熱ムラ』評価に用いた液晶表示装置の構成概略図である。
【図2】図2は、半透過反射モードの垂直配向液晶表示装置の構成概略図である。
【符号の説明】
【0054】
1:偏光フィルム
2:位相差フィルム
3:垂直配向型液晶セル
4:位相差フィルム
5:偏光フィルム
6:吸収軸
7:遅相軸
8:遅相軸
9:吸収軸
10:バックライト
21:偏光フィルム
22:位相差フィルム(4分の1波長フィルム)
23:負のCプレート
24:液晶セル
25:負のCプレート
26:位相差フィルム(4分の1波長フィルム)
27:偏光フィルム
28:バックライト
29:吸収軸
30:遅相軸
31:遅相軸
32:吸収軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族系ポリカーボネートから構成され逆波長分散特性を有する位相差フィルムであって、該フィルムの光弾性係数(Pa−1)と厚み(nm)との積が3.0×10−6(nm/Pa)以下であり、かつガラス転移点温度が120℃以上であることを特徴とする位相差フィルム。
【請求項2】
厚みが10〜70μmの範囲である、請求項1記載の位相差フィルム。
【請求項3】
芳香族系ポリカーボネートが、下記式(1)
【化1】

(上記式(1)において、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子及び炭素数1〜6の炭化水素基から選ばれ、Xは
【化2】

である。)
で示される繰り返し単位と、下記式(2)
【化3】

(上記式(2)において、R〜R16はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子及び炭素数1〜3の炭化水素基から選ばれ、Yは下記式群
【化4】

(ここで、Y中のR17〜R19、R21およびR22はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子及び炭素数1〜22の炭化水素基から選ばれ、R20及びR23はそれぞれ独立に炭素数1〜20の炭化水素基から選ばれ、Arは炭素数6〜10のアリール基から選ばれる))
で示される繰り返し単位とからなり、かつ上記式(1)で表される繰り返し単位は該ポリカーボネート全体の40〜80モル%を占め、上記式(2)で表される繰り返し単位は60〜20モル%を占めるポリカーボネートであることを特徴とする請求項1または2記載の位相差フィルム。
【請求項4】
偏光フィルムと請求項1〜3のいずれかに記載の位相差フィルムを含んでなる積層偏光フィルム。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の位相差フィルムを用いてなる液晶表示装置。
【請求項6】
半透過反射型の垂直配向モードの液晶表示装置において、請求項4記載の積層偏光フィルムを円偏光フィルムとして液晶セルの両側に設置したことを特徴とする請求項5記載の液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−171756(P2007−171756A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−371725(P2005−371725)
【出願日】平成17年12月26日(2005.12.26)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】