説明

位相差膜の製造方法及び液晶装置

【課題】幅広い材料に適用できて耐熱性及び耐久性に優れ、良好な光学性能を有する位相差膜を容易に得ることのできる、位相差膜の製造方法及び液晶装置を提供する。
【解決手段】互いに直交する3つの磁化軸(X,X,X)に対応する3つの磁化率(Mx,My,Mz)が異なる膜材料と、膜材料を分散させる分散媒と、からなる液状体を基板上に供給する工程と、液状体が供給された基板に、強度及び方向のうち少なくとも一方が時間的に変動する磁場を印加する工程と、磁場を印加した状態で分散媒を除去する工程と、を備え、分散媒を除去して残存した前記膜材料から位相差膜を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差膜の製造方法及び液晶装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半透過反射型の液晶装置は携帯電話や携帯情報端末等の表示デバイスとして広く用いられている。半透過反射型の液晶装置では、反射表示と透過表示とを単一の液晶層を用いて実現するために、表示モード間での位相差の調整が必要である。
そこで、反射表示領域に位相差膜を設け、適切な反射表示及び透過表示を得られるようにした液晶装置が提案されている。液晶装置に組み込まれる位相差膜としては、通常、高分子フィルムを一定方向に延伸することにより作製されたものが用いられる(特許文献1参照)。
最近では、このような位相差フィルムを液晶パネルの内部に形成し、液晶パネルの薄型化、軽量化を達成した液晶装置が提案されている。
【特許文献1】特開2006−126864号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1記載によれば、位相差フィルムとして、高屈折率異方性を有する高分子フィルムが用いられており、プロジェクターの偏光素子として使用した場合に、入射光からの高い光エネルギーの特性及び膜構造が経時的に劣化していく虞がある。
そこで、耐熱性や耐久性に優れた無機材料からなる位相差膜が提案されている。このような位相差膜は、斜方蒸着法やスパッタ法等を用いて成膜するため、基板の成膜に寄与しない材料が発塵源となる他、材料の利用効率も良くない。これらが要因となって、性能及び歩留まりの低下を招いているという問題がある。
また、位相差膜として、高屈折率を有する材料の中でも、さらに真空蒸着が可能な材料に限定されてしまうという問題もある。
【0004】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み成されたものであって、幅広い材料に適用できて耐熱性及び耐久性に優れ、良好な光学性能を有する位相差膜を容易に得ることのできる、位相差膜の製造方法及び液晶装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の位相差膜の製造方法は、上記課題を解決するために、互いに直交する3つの磁化軸に対応する3つの磁化率が異なる膜材料と、前記膜材料を分散させる分散媒と、からなる液状体を基板上に供給する工程と、前記液状体が供給された前記基板に、強度及び方向のうち少なくとも一方が時間的に変動する磁場を印加する工程と、磁場を印加した状態で前記分散媒を除去する工程と、を備え、前記分散媒を除去して残存した前記膜材料から位相差膜を得ることを特徴とする。
【0006】
本発明の位相差膜の製造方法によれば、磁化軸を有する膜材料と、膜材料を分散させる分散媒からなる液状体が供給(塗布)された基板に、磁場を印加することによって、膜材料の磁化軸を所定の方向に配向させることができる。
本発明によれば、一定の磁場強度の下、磁場の方向を変動(回転)させることによって円磁場が形成される。また、磁場の回転に伴って磁場強度も変動(変化)させることによって楕円磁場が形成される。
このような円磁場あるいは楕円磁場を印加することによって膜材料の配向規制を行うことが可能となる。詳しくは後述するが、楕円磁場及び円磁場によって膜材料の二軸配向が可能となる。
そして、所定の方向に膜材料を配向させた後、磁場を印加したまま分散媒を蒸発させると膜材料が固定される。これにより、配向性に優れた位相差膜を形成することができる。磁場を印加することにより、膜材料を所望の方向に直接配向させることができるため、従来に比して格段に配向性を高めることが可能となる。したがって、所望とする膜構造を有した位相差膜を得ることができ、光学用途に適したものとなる。
また、液状体(膜材料の磁化率、膜材料の大きさ、分散媒の種類等)に応じて印加する磁場を調整することによって、所望の配向精度を有した位相差膜を得ることができる。
また、所定量の成膜材料を基板上に確実に供給することが可能なため、材料の使用効率を高めることができる。
【0007】
また、前記磁場において、最大磁場強度と最小磁場強度との差が1T以上であることが好ましい。
このような製造方法によれば、全ての膜材料を短時間で所望の方向に配向させることができる。なお、磁場変動の強度差が1テスラ以下であった場合には、膜材料を配向させるのに長時間を要する虞がある。
【0008】
また、前記磁場は、超伝導磁石によって形成されることが好ましい。
このような製造方法によれば、膜材料の磁化軸を配向させるために必要な強度の磁場を容易に発生することができる。
【0009】
また、前記膜材料の平均的な大きさが1μm程度であることが好ましい。
このような製造方法によれば、膜材料の平均的な大きさを1μm程度とすることで、位相差膜の膜厚を1μm程度とすることができる。このように、膜材料の大きさを予め設定しておくことにより、所望の膜厚を有する位相差膜を得ることができる。また、1μm程度の膜厚を有する位相差膜であっても、光偏光作用を効果的に発揮する。
【0010】
また、前記膜材料は、シリコン(Si)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、及びチタン(Ti)のいずれかを含む、屈折率異方性を有する無機材料であることが好ましい。
このような製造方法によれば、無機材料からなる位相差膜を得ることができるので、耐光性及び耐熱性に優れた位相差膜を得ることができる。
【0011】
また、前記液状体中における前記膜材料の含有率が、50%以下であることが好ましい。
このような製造方法によれば、基板上への液状体の供給を良好に行うことができる。
【0012】
また、前記液状体は、ゾルゲル材料あるいは有機金属分解(MOD)材料をさらに含むことが好ましい。
このような製造方法によれば、膜材料の表面にゾルゲル材料が結晶化して膜材料を結晶成長させることができるので、所望の膜構造を有する位相差膜を得ることができる。
【0013】
本発明の液晶装置は、上記した位相差膜の製造方法によって得られた位相差膜を有することが好ましい。
本発明の液晶装置によれば、光学特性に優れた位相差膜を備えているので、表示性能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、液晶装置などに用いられる位相差フィルム(位相差膜)の製造方法に関するものであって、以下、図面で示す実施形態に基づいて説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0015】
本発明は、3つの磁化率(Mx,My,Mz)が異なる、又はそのうちの2つが等しい粒子(膜材料)を有した成膜材料(液状体)に外部磁場を印加することにより、基板上における全粒子の配向方向が揃った位相差フィルムを得ることを目的とする。
図1は、粒子(膜材料)の磁化率を表す図であり、図2は、粒子を配向させる外部磁場を表す図である。図に示すxy平面が基板面に相当する。
【0016】
<粒子>
まず、図1を参照し、位相差フィルムの材料である粒子について詳述する。
図1に示すように、位相差フィルムの原材料である粒子は、無機からなる斜方晶、単斜晶、三斜晶等の二軸結晶が含まれ、互いに直交する3つの磁化軸(X,X,X)に対応する3つの磁化率(Mx,My,Mz)が異なっている。粒子が有する任意の磁化率Mは、M=(Mx,My,Mz)=(Mx,0,0)+(0,My,0)+(0,0,Mz)で表され、Mx,My,Mz≧0となっている。ここで、磁化Mxは磁化容易軸、磁化Mzは磁化困難軸である。
【0017】
<外部磁場>
次に、図1及び図2を参照し、外部磁場について詳述する。
本発明では、粒子80の配向に必要なエネルギーを磁場によって与える。磁場は、基板の外側から印加することのできる外部磁場Bであって、超伝導磁石等を用いて発生させる。
【0018】
外部磁場Bは、時間的変動磁場(時間的に変動する外部磁場)であり、xy平面(基板面)上で楕円又は円を描く磁場である。外部磁場Bは、B=(B1cosωt,B2sinωt,0)=(B1cosωt,0,0)+(0,B2sinωt,0)で表される。すなわち、磁場方向の軌跡は、磁場のx成分及びy成分を用いて、Bx=B1cosωt、By=B2sinωtにより描かれる。
【0019】
ここで、外部磁場Bは磁場強度(T:テスラ)で表され、ωは角速度、tは時間(秒)であり、磁場の回転範囲は0≦ωt<2πである。また、B1はx軸方向の磁場成分、B2はy軸方向の磁場成分であり、B1及びB2によってxy平面における磁場の形状(楕円・円)が表される。
【0020】
B1>B2の場合、図2(a)に示すように、長軸(B1)と短軸(B2)とからなる楕円磁場となり、図2(b)に示すように、B1=B2の場合、軸B1(軸B2)からなる円磁場となる。
【0021】
時間的変動磁場とは、強度が各々B1・cos(ωt)、B2・sin(ωt)で時間的に変化する楕円磁場、磁場方向がxy平面内で時間的に変化する円磁場(回転磁場)である。楕円磁場の印加は、超伝導磁石のxy面上での回転に応じて電流値を変動させることにより実現でき、円磁場の印加は、例えば、一定の磁場強度の下、xy平面内において超伝導磁石を回転させることにより実現できる。また、磁場の回転角の正弦または余弦の関数となるωtの変位が0°〜45°となっており、磁場の回転が0°〜45°で往復するようになっている。
【0022】
磁場の回転速度は、粒子80の磁化容易軸Mxが静磁場(固定磁場)下で配向する時間よりも早いことが好ましい。つまり、磁場の回転が低速であった場合には、粒子80の磁化容易軸Mxが磁場の回転に追従して回転してしまうことになるが、磁場の回転速度が、粒子80が静磁場(停止磁場)下で配向する時間よりも早い回転であった場合には、時間的に平均化されたポテンシャルエネルギー下に置かれることになる。
【0023】
すると、磁化容易軸Mxが楕円の長軸(磁場の強い方向)に平行な方向(x軸方向)に規制力を受け、粒子80の磁化困難軸Mzは磁場形成面(xy平面)に対して垂直方向(z軸方向)に規制力を受けることになり、粒子80は回転磁場に追従して回転することなく、磁化安定方向に配向する。
【0024】
粒子80に磁場が印加されたときのポテンシャルエネルギーEは、
【数1】

で表される。
【0025】
エネルギーが最小になる条件は、
【数2】

【0026】
【数3】

【0027】
すなわち、
【数4】

【0028】
よって、粒子80は、xy平面内において、0<ωt<π/4の範囲で安定(配向)する。すなわち、粒子80は、x軸から0<ωt<π/4ずれたところで安定する。
なお、粒子80の配向方向は、磁化成分Mx,Myと磁場成分B1,B2との関係によって規定される。
【0029】
楕円磁場の場合、超伝導磁石による磁場の大きさは、変動の最大値、つまり、B1(最大磁場強度)とB2(最小磁場強度)との差が1テスラ以上であることが好ましい。磁場変動の強度差が1テスラ以下であった場合には、磁場配向に長時間を要するだけでなく、配向方向を揃えることができない虞もあり、現実的ではない。
【0030】
磁場の強度は、粒子80の大きさ及び溶媒の粘度に応じて適宜設定される。また、磁場B(B1,B2)は、粒子80の熱エネルギーよりも大きいことが好ましい。
【0031】
[位相差フィルムの製造方法]
図3は、位相差フィルムの製造方法のフローチャート図、図4は、図3のフローチャート図に基づく製造工程図、図5は、図3及び図4に対応する粒子の配向状態を示す図である。以下、適宜図1及び図2を参照し、図3〜図5を用いて位相差フィルムの製造方法について詳述する。
本実施形態では、3つの磁化率がMx>My>Mzという関係を有する粒子80を、磁場を印加することにより二軸配向させて位相差フィルムを製造する。
まず、ガラス、石英などからなる基板82と、エタノールからなる分散媒中に粒子80(位相差フィルム材料)を分散させてなる成膜材料81と、さらに外部磁場を発生させる手段としてコイルからなる超伝導磁石83を用意する。
【0032】
粒子80は、シリコン(Si)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、及びチタン(Ti)のいずれかを含む、屈折率異方性を有する無機材料である。
また、粒子80は、後述する時間的変動磁場によって誘起される運動が熱揺動により妨げられない大きさ(形状)を有していることが好ましい。
【0033】
分散媒としては、粒子80に影響を与えない溶液が好ましく、例えば上記エタノールの他にアセトンや水であってもよい。また、成膜材料81内には、ゾルゲル材料あるいは有機金属分解(MOD:Metal Organic Decomposition Method)材料(以下、単にMOD材料と言う)が含まれる。
【0034】
ゾルゲル材料、MOD材料の固体成分としては、Pb(ZrTi)O、(PbLa)(ZrTi)O、PbTiO、PbZrO、SrTiO、BaTiO、(BaSr)TiO、ZrO、ZnO、TiO等が挙げられる。ゾルゲル材料は、アルコキシド等を加水分解、重合によりコロイド状にさせて溶液中に分散させたものである。このような成膜材料には、粒子80及びゾルゲル材料(MOD材料)の固体成分が、全体の50%以下の割合で含有されている。
なお、成膜材料の濃度が低いほど低粘度であることから、基板上に塗布し易くなる。
【0035】
図4(a)に示すように、基板82の表面に、スキャン法、スリット法などにより上記成膜材料81を塗布する(ステップSA1)。このとき、基板82上に塗布された成膜材料81中の複数の粒子80は、各々の3軸方位がランダムな方向を向いている(図5(a)参照)。
【0036】
図5(a)に示したような初期配向状態にある粒子80に、所定の強度及び時間でx軸方向に静磁場Bを印加する(ステップSA2)。図4(b)に示すように、磁場の印加は、超伝導磁石83であるコイルの空芯部分に基板82を配置した状態で行う。コイルの軸心に基板面が沿うように配置することで、コイルにより発生する磁場が粒子80に効果的に作用する。
【0037】
静磁場Bを印加すると、各粒子80の磁化容易軸Mxがx軸方向に向かい、基板82上で一軸配向する(図5(b)参照)。粒子80の大きさによって粒子80の熱エネルギーによる揺動の影響は違ってくるものの、使用する粒子80の熱エネルギーよりも大きい強度の静磁場Bを印加することによって、粒子80の熱揺動が抑制され、磁化容易軸Mxを特性方向(x軸)に配向(拘束)させることが可能となる。また、静磁場Bは、磁化容易軸Mxを誘起可能とする強度に設定される。
【0038】
次に、一軸配向状態にある粒子80に、xy平面内で回転する時間的変動磁場を印加し(ステップSA3)、二軸配向(すなわち、三軸配向)させる。以下、楕円磁場を用いて二軸配向させる場合、円磁場を用いて二軸配向させる場合についてそれぞれ述べる。
【0039】
「楕円磁場(B1>B2)」
図4(c)に示すように、基板82の中心を軸としてxy平面内で超伝導磁石83(コイル)を回転させるとともに、超伝導磁石83の回転に応じて流す電流値を変動させることにより楕円磁場が実現される。具体的には、xy平面内で超伝導磁石83を回転させる際、x軸方向からy軸方向にかけて電流値を漸次小さくすることによって、図5(c)に示すように、B1(x軸方向)>B2(y軸方向)の楕円磁場(図2(a)も適宜参照)が形成される。B1は、磁化容易軸Mxを誘起可能とする強度であって、上記静磁場Bと同様かそれ以上の強度に設定する(B1≧静磁場B)。また、B2は、磁化Myを誘起可能とする最小の強度である。
【0040】
このとき、粒子80が静磁場(停止磁場)下で配向する時間よりも早い速度で超伝導磁石83(コイル)を回転させ、粒子80の磁化容易軸Mxをx軸方向に拘束したまま、他の二軸(My、Mz)の方向を規定する。つまり、磁化容易軸Mxは、回転により時間的に平均化されたポテンシャルエネルギーの下、楕円の長軸(B1)に平行する方向に規制力を受けることになり、磁場の回転に追従することなくx軸方向への配向状態が維持される。
【0041】
楕円磁場の場合、磁化Mxと磁化Myとの差があまりなくても、B1とB2の磁場強度の差が1テスラ以上(B1−B2>1T)という関係により、各粒子80の磁化容易軸Mxがx軸方向に短時間で配向する。
【0042】
一方、磁場の回転により、磁化困難軸Mzはz軸方向へ向くような拘束を受け、xy平面上における磁場形成面(xy平面)に対して略垂直状態となる。一端、z軸方向に配向した磁化困難軸Mzは、磁場に略直交しているので、回転トルクの影響を受けることなくz軸方向への配向状態が維持される。
【0043】
楕円磁場により、磁化容易軸Mxの他に磁化困難軸Mzの配向方向が規定されて粒子80は二軸配向となり、したがって、Myの配向方向が規定されて、基板82上に塗布された成膜材料81中のすべての粒子80の磁化軸の方向が揃った配向となる。
【0044】
「円磁場(B=B1=B2)」
一定の磁場強度の下、基板82の中心を軸としてxy平面内で超伝導磁石83(コイル)を回転させることによって、図6に示すように、B1(x軸方向)=B2(y軸方向)の円磁場(図2(b)参照)が実現される。
また、B1,B2は、磁化Myを誘起可能とする最小の強度であって、静磁場Bよりも小さい強度に設定する(静磁場B>B1,B2)。
【0045】
このような円磁場を印加することにより、粒子80の磁化容易軸Mxをx軸方向に拘束したまま、他の二軸(My、Mz)の方向を規定することができる。つまり、静磁場B>B1,B2の円磁場は、磁化容易軸Mxを誘起できるほどの強度ではないため、磁化容易軸Mxは、磁場の回転に追従することなくx軸方向への配向状態が維持される。
【0046】
一方、磁場の回転により、磁化困難軸Mzはz軸方向へ向くような拘束を受け、xy平面上における磁場形成面(xy平面)に対して略垂直状態となる(二軸配向)。
【0047】
よって、円磁場により、磁化容易軸Mxのx軸方向への配向状態を維持したまま、磁化Myをy軸方向、磁化Mzをz軸方向に向けることができ、基板82上に塗布された成膜材料81中のすべての粒子80の磁化率の方向が揃った三軸配向となる。
【0048】
円磁場の場合、磁化Mxと磁化Myとの差が大きいとき、磁化容易軸Mxがx軸方向に配向する。
【0049】
なお、粒子80の磁場配向において、厳密には、磁化容易軸Mxがx軸方向からdE/dt=0を満たす角度だけずれたところで安定する。そのため、このような配向の誤差を見込んで磁場方向を規定することにより、所望とする方向に粒子80を配向させることが可能となる。
【0050】
また、磁場の回転速度や回転に伴う磁場の強度変化、あるいは分散媒やゾルゲル材料、MOD材料の種類や濃度、粘性等により、基板面(xy平面)に対して粒子80を斜めに配向させることが可能である。例えば、楕円磁場を印加した場合、磁場の回転に伴って磁場強度がB1からB2へと変化することにより、磁化率Mxのx軸方向への規制力を保持されたまま、粒子80が基板82に対して若干立ち上がるように配向する。つまり、粒子80の磁化容易軸Mxがx軸方向に向いた状態で、基板面(xy平面)に対して粒子80の磁化容易軸Mxが斜めに保持される。
【0051】
このようにして基板面に対する粒子80の起立状態(すなわち、基板面と磁化容易軸Mxとのなす角)を調整することにより、所望とする膜構造に適宜製造することが可能である。
【0052】
次に、図4(d)に示すように、基板82を所定の温度で加熱して、分散媒を蒸発させることにより除去する(ステップSA4)。本実施形態では、磁場を印加した状態のまま、80℃程度の温度で基板82を加熱する。加熱により分散媒であるエタノールを除去すると粒子80が固定される。粒子80が二軸配向(磁場配向)している状態で分散媒を除去することにより、粒子80を所望の配向状態で固定することができる。
【0053】
成膜材料81中には、ゾルゲル材料あるいはMOD材料が含まれているので、続けて基板82を所定の温度で加熱して、粒子80をゾルゲル材料あるいはMOD材料によって結晶成長させる(ステップSA5)。本実施形態の成膜材料81は、ゾルゲル材料あるいはMOD材料を含んでおり、ゾルゲル法あるいはMOD法を用いて基板82を、例えば200℃程度の温度で加熱する。加熱温度は、ゾルゲル法、MOD法によって適宜設定する。
【0054】
このようにして基板82を加熱することにより、ゾルゲル材料あるいはMOD材料が粒子80の表面上に結晶化して粒子80を結晶成長させる。このようにして位相差フィルムが完成する。
【0055】
上記各実施形態によれば、互いに直交する3つの磁化軸に対応する3つの磁化率(Mx,My,Mz)が異なる粒子80と、粒子80を分散させる分散媒と、からなる成膜材料81が供給(塗布)された基板82に、磁場強度や磁場方向が時間的に変動する円磁場あるいは楕円磁場を印加することによって、粒子80を二軸配向させることができる。所定の方向に粒子80が磁場配向した後、磁場を印加したまま分散媒を除去することで粒子80が固定され、基板82上における粒子80の配向方向が揃った位相差フィルムが得られる。
このように、磁場を印加することにより、粒子80を所望の方向に直接配向させることができるため、従来に比して格段に配向性を高めることが可能となる。よって、所望とする膜構造を有した位相差フィルムを得ることができ、安定した光学特性を確保できる。
【0056】
また、成膜材料81に応じて印加する磁場を調整することによって所望の方向に粒子80を安定させることができ、配向精度の優れた位相差フィルムを得ることができる。つまり、粒子80の磁化率、粒子80の大きさ、分散媒の種類等により、楕円磁場、円磁場などの磁場印加方法を適宜選択することで、粒子80の配向方向を適宜制御することができる。これにより、所望の膜構造及び性能を有した位相差フィルムを形成することができる。
【0057】
また、本実施形態においては、超伝導磁石83によって、粒子80配向に必要な強磁場が低コストで簡単に得られるので、多くの種類の粒子80に対して磁場配向を施すことが可能となる。
また、楕円磁場における最大磁場強度を最小磁場強度の差を1テスラ以上とすることにより、基板82上の各粒子80を短時間で所望の方向に配向させることができる。また、最小磁場強度も1テスラ以上であることが好ましい。変動磁場の強度差及び最小磁場強度が1テスラ以下であった場合、磁場配向に長時間を要するだけでなく、粒子80の配向不良が発生する虞があるが、変動磁場の強度差及び最小磁場強度を1テスラ以上とすることにより、短時間で確実に粒子を所望の方向に配向させることができる。
【0058】
また、本実施形態においては、粒子80の表面にゾルゲル材料あるいはMOD材料を結晶化させることにより、粒子80を結晶成長させている。これにより、各粒80の大きさが異なっていたとしてもこれを補完でき、また径の小さい粒子80であっても光学特性の優れた位相差フィルムを形成することができる。
【0059】
また、本実施形態においては、成膜に必要な量の成膜材料を基板上へ直接供給しており、従来におけるスパッタ等による成膜方法よりも、材料の使用効率を格段に向上させることができる。これにより、材料が無駄になるのを防止してコストの削減を図ることができる。また、発塵等による性能低下も防止することできる。
【0060】
さらに、磁場強度が粒子80の熱エネルギーよりも大きいため、粒子80の熱エネルギーによる揺動を抑えることができる。また、従来よりも低温で製造することができるので、粒子80の熱エネルギーによる揺動に起因する配向不良を防止できる。
【0061】
なお、楕円磁場の長軸と短軸の比(B1及びB2の比)を3つの磁化率(Mx,My,Mz)の値に応じて適切に設定すればさらに均一な抑制が可能である。
また、回転磁場(円磁場・楕円磁場)は、固定された基板82に対して超伝導磁石83が基板82の周りを回転することにより実現できるが、固定された超伝導磁石83に対して基板82が回転することによっても実現できる。
また、変動磁場は、ある時間ごとに、x軸方向、y軸方向への静磁場の印加を繰り替えすことによっても実現可能である。
【0062】
また、無機材料から構成することにより、耐熱性及び耐光性に優れた位相差フィルムとすることができる。
【0063】
<液晶装置>
次に、上述の位相差膜の製造方法によって形成された位相差フィルムを備えた液晶装置について説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさをするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
図 は、本実施形態に係る液晶装置(液晶表示装置)1を模式的に示す断面図である。
【0064】
図 において、液晶装置1は、アレイ基板(TFTアレイ基板)2と、アレイ基板2と対向するように配置された対向基板(カラーフィルタ基板)3と、アレイ基板2と対向基板3との間に配置された液晶層4と、アレイ基板2に設けられた第1配向膜5と、アレイ基板2に設けられた第1偏光膜6と、対向基板3に設けられた第2配向膜7と、対向基板3に設けられた第2偏光膜8とを備えている。
また、液晶装置1は、アレイ基板2に設けられた第1位相差フィルム9と、対向基板3に設けられた第2位相差フィルム10と、対向基板3に設けられた反射防止膜11とを備えている。
【0065】
アレイ基板2は、基材、及び基材の液晶層4側の面にマトリクス状に形成された画素電極を含む。また、アレイ基板2は、上記画素電極に接続された薄膜トランジスタ(TFT)、蓄積コンデンサ、及び画素に電気信号等を供給する配線等を含む。また、アレイ基板2は、基材上に形成された種々の金属膜、絶縁膜、半導体層、及び不純物層等を含む。
【0066】
第1配向膜5は、アレイ基板2の液晶層側4の面に配置されている。第1位相差フィルム9は、アレイ基板2のうち、第1配向膜5が配置された面とは反対側の面、すなわち液晶層4と反対側の面に配置されている。第1偏光膜6は、第1位相差フィルム9のアレイ基板2と反対側の面に配置されている。
【0067】
対向基板3は、基材、及び基材の液晶層4側の面に形成された共通電極を含む。また、対向基板3は、ブラックマトリクス、及び保護膜等を含む。
【0068】
第2配向膜7は、対向基板3の液晶層4側の面に配置されている。第2位相差フィルム10は、対向基板3のうち、第2配向膜7が配置された面とは反対側の面、すなわち液晶層4と反対側の面に配置されている。反射防止膜11は、第2位相差フィルム10の対向基板3と反対側の面に配置されている。第2偏光膜8は、反射防止膜11の第2位相差フィルム10と反対側の面に配置されている。
【0069】
基材は、透明基板であって、例えば石英等の硝材で形成される。なお、基材は、ポリエチレンテレフタレート等の合成樹脂で形成することもできる。
【0070】
画素電極及び共通電極は、透明電極であって、例えばインジウムティンオキサイド(ITO)で形成される。なお、画素電極及び共通電極は、インジウムオキサイド(IO)、酸化スズ(SnO)等で形成することもできる。
【0071】
第1配向膜5及び第2配向膜7は、液晶層4を挟むように配置されている。第1配向膜5及び第2配向膜7は、SiOx(SiO、SiOなど)等の珪素酸化物、Al、ZnO、MgO等の金属酸化物等を含む無機材料で形成可能である。
【0072】
液晶層4は、液晶分子を含む。液晶分子は、ネマチック液晶、スメクチック液晶など、配向可能なものであればいかなる液晶分子でも構わない。
【0073】
第1偏光膜6及び第2偏光膜8は、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)等で形成可能である。
【0074】
第1位相差フィルム9及び第2位相差フィルム10は、無機材料の酸化物で形成されている。無機材料としては、シリコン(Si)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、及びチタン(Ti)等が上げられ、例えばSiO、Al、PZT、SBT、BLT、ZnO、TiO、ZrO、BaTiO等で形成可能である。
【0075】
上記した液晶装置では、第1位相差フィルム9及び第2位相差フィルム10として、無機材料を主成分とする位相差フィルムを採用しており、その位相差フィルムが、上記位相差フィルムの製造方法を用いて形成されている。すなわち、第1位相差フィルム9及び第2位相差フィルム10は、上述したように磁性を有する粒子80を磁場配向することによって形成したものであり、従来のように真空蒸着法を用いて製造した場合に問題となっていた、発塵等に伴う歩留まりの低下や性能の低下を防止したものである。そのため、所望とする光学特性(位相差)を付与することができ、コントラストの良好な液晶装置とすることができる。
したがって、上記実施形態に係る位相差フィルムの製造方法によって得られる位相差フィルムを採用することにより、液晶装置の表示品位の向上及び製造効率の向上が可能となる。
【0076】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもなく、上記各実施形態を組み合わせても良い。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0077】
位相差フィルムは、光学補償フィルム、補償シート等とも呼ばれ、様々な用途がある。上記実施形態では、液晶装置を一例として説明したが、例えば、導波型光デバイス、偏波ビームスプリッター、サーキュレーター、有機EL表示装置等に用いることができる。特に画像表示装置全般に重要な部材として使用され、光学補償によりコントラスト向上や視野角範囲の拡大を実現するために使用される。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】粒子(膜材料)の磁化率を表す図である。
【図2】粒子を配向させる外部磁場を表す図である。
【図3】位相差フィルムの製造方法のフローチャート図である。
【図4】図3のフローチャート図に基づく製造工程図である。
【図5】図3及び図4に対応する粒子の配向状態を示す図である。
【図6】図3及び図4に対応する粒子の配向状態を示す図である。
【図7】位相差フィルムを備えた液晶装置の概略構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0079】
1…液晶装置、9,10…位相差フィルム、80…粒子(膜材料)、81…成膜材料(液状体)、82…基板、83…超伝導磁石(コイル)、X,X,X…磁化軸、Mx,My,Mz…磁化率、Mx…磁化容易軸、Mz…磁化困難軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに直交する3つの磁化軸に対応する3つの磁化率が異なる膜材料と、前記膜材料を分散させる分散媒と、からなる液状体を基板上に供給する工程と、
前記液状体が供給された前記基板に、強度及び方向のうち少なくとも一方が時間的に変動する磁場を印加する工程と、
磁場を印加した状態で前記分散媒を除去する工程と、を備え、
前記分散媒を除去して残存した前記膜材料から位相差膜を得ることを特徴とする位相差膜の製造方法。
【請求項2】
前記磁場において、最大磁場強度と最小磁場強度との差が1T以上であることを特徴とする請求項1に記載の位相差膜の製造方法。
【請求項3】
前記磁場は、超伝導磁石によって形成されることを特徴とする請求項1または2記載の位相差膜の製造方法。
【請求項4】
前記膜材料の平均的な大きさが1μm程度であることを特徴とする請求項1記載の位相差膜の製造方法。
【請求項5】
前記膜材料は、シリコン(Si)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、及びチタン(Ti)のいずれかを含む、屈折率異方性を有する無機材料であることを特徴とする請求項1または4記載の位相差膜の製造方法。
【請求項6】
前記液状体中における前記膜材料の含有率が、50%以下であることを特徴とする請求項1、5または4記載の位相差膜の製造方法。
【請求項7】
前記液状体は、ゾルゲル材料あるいは有機金属分解(MOD)材料をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の位相差膜の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の位相差膜の製造方法によって得られた位相差膜を有する液晶装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−42453(P2009−42453A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−206632(P2007−206632)
【出願日】平成19年8月8日(2007.8.8)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】