説明

位置出し方法、測定方法、および座標系の設定方法。

【課題】位置出しの際に毎回キャリブレーションが要求され位置決めの方向が決められるとともに、相当の時間を要する。
【解決手段】自動工具交換装置で測定子を主軸に装着し、測定子を装着した主軸を回転させて測定子の振れを測定して測定値を得て測定値に基づきオフセットデータを計算しておく。測定子を回転させながら被加工物と絶縁された測定子に所定の電圧を印加して測定子と被加工物とを相対移動させて接触させ、測定子と被加工物との接触を電気的に検出して測定子と被加工物との接触位置を検出する。接触位置とオフセットデータとに基づいて主軸の被加工物に対する相対位置を決定する。複数の相対位置を得て被加工物の座標系の設定等を自動的に行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械における主軸に装着された測定子と被加工物との接触を電気的に検出し接触位置に基づいて相対位置を決定する位置出し方法に関する。また、測定子と被加工物との接触を電気的に検出し複数の接触位置に基づいて被加工物の形状、寸法、ピッチ、穴内径などを測定する測定方法または被加工物の座標系を設定する座標系の設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回転する工具を用いて切削加工や研削加工を行なう工作機械において、主軸に測定子を装着して、測定子と被加工物とを相対移動させて測定子の接触位置を検出し、接触位置に基づいて主軸の被加工物に対する相対位置を決定することが広く行なわれている。そして、検出された複数の相対位置に基づいて被加工物の形状、寸法、ピッチ、穴内径などを測定し、あるいは被加工物の座標系を設定している。
【0003】
測定子と被加工物との接触位置を検出する方式としていくつかあげられる。具体的には、例えば、被加工物と絶縁された測定子に所定の電圧を印加し、電圧や電流の変動を検出することによって測定子と被加工物との接触を検出し、そのときの位置座標値から主軸の被加工物に対する相対位置を得る方式がある。また、例えば、特許文献1に示されるように、検出子の変位と現在位置とから接触位置を検出する方式がある。種々の測定子と被加工物との接触位置を検出する方式には、それぞれ一長一短があるが、その詳細な説明は省略する。
【0004】
【特許文献1】特開平7−204990号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1に示されるように、近年、自動工具交換装置(ATC)を利用して、主軸に自動的に測定子を取り付ける方式が行なわれるようになってきている。このように自動工具交換装置で測定子を取り付ける場合、接触検出方式の違いに関わらず、主軸の中心と測定子先端の検出部位の水平各軸方向(X軸およびY軸)の位置に誤差が生じる可能性が高い。そのため、1回の測定毎に被加工物と同じ台上に取付固定された基準球を用いて主軸の中心と測定子先端の検出部位との各軸方向の位置の誤差を測定しておく、いわゆるキャリブレーションを行なう必要がある。また、キャリブレーションを行なって位置の誤差を測定した場合は、キャリブレーションを行なった方向と同じ方向から測定子を相対移動させて被加工物と接触させるようにする必要がある。したがって、位置出しに時間と手間を要する。また、その結果、被加工物の形状などの測定や座標系の設定に相当の時間が要求され、作業性を低下させている。
【0006】
本発明は、位置出しに要する時間をより短縮して作業性を向上させる新規な位置出し方法、被加工物の形状、寸法、ピッチ、穴内径などを測定する測定方法または被加工物の座標系を設定する座標系の設定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の位置出し方法は、主軸に装着される測定子と被加工物との接触位置を検出することによって主軸の被加工物に対する相対位置を検出する位置出し方法において、被加工物と絶縁された測定子に所定の電圧を印加するとともに測定子を回転させながら測定子と被加工物とを相対移動させて測定子と被加工物との接触を電気的に検出し測定子と被加工物との接触位置に基づいて相対位置を決定するようにする。
【0008】
また、測定子を装着した主軸を回転させる工程と、測定子の振れを測定して測定値を得る工程と、測定値に基づきオフセットデータを計算する工程と、被加工物と絶縁された測定子に所定の電圧を印加する工程と、測定子と被加工物とを相対移動させて接触させる工程と、測定子と被加工物との接触を電気的に検出して測定子と被加工物との接触位置を検出する工程と、接触位置とオフセットデータとに基づいて主軸の被加工物に対する相対位置を決定する工程とを含んでなる。
【0009】
また、本発明の測定方法は、自動工具交換装置によって主軸に測定子を装着する第1の工程と、主軸を回転させる第2の工程と、測定子の振れを測定して測定値を得る第3の工程と、測定値に基づきオフセットデータを計算する第4の工程と、被加工物と絶縁された測定子に所定の電圧を印加する第5の工程と、測定子と被加工物とを水平方向に相対移動させて接触させる第6の工程と、測定子と被加工物との接触を電気的に検出して測定子と被加工物との接触位置を検出する第7の工程と、接触位置とオフセットデータとに基づいて主軸の被加工物に対する相対位置を決定する第8の工程と、第6の工程ないし第8の工程を繰返し複数の相対位置を得る第9の工程と、複数の相対位置に基づいて被加工物の形状、寸法、ピッチ、穴内径を測定する第10の工程を含んでなる。
【0010】
また、本発明の座標系の設定方法は、自動工具交換装置によって主軸に測定子を装着する第1の工程と、主軸を回転させる第2の工程と、測定子の振れを測定して測定値を得る第3の工程と、測定値に基づきオフセットデータを計算する第4の工程と、被加工物と絶縁された測定子に所定の電圧を印加する第5の工程と、測定子と被加工物とを水平方向に相対移動させて接触させる第6の工程と、測定子と被加工物との接触を電気的に検出して測定子と被加工物との接触位置を検出する第7の工程と、接触位置とオフセットデータとに基づいて主軸の被加工物に対する相対位置を決定する第8の工程と、第6の工程ないし第8の工程を繰返し複数の相対位置を得る第9の工程と、複数の相対位置に基づいて被加工物の座標系を設定する第10の工程を含んでなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の位置出し方法は、測定子と被加工物との接触を電気的に検出するので測定子を回転させながら被加工物に接触させることができる。そして、測定子を回転させながら被加工物とを接触させて接触位置を得て相対位置を決定するようにするので、測定子の先端部位がどの方向に傾いていても主軸の中心から等距離離れた位置で測定子の先端部位と被加工物とが接触する。したがって、測定子を被加工物に接触させる方向を考慮することがない。そのため、位置出しのたびにキャリブレーションを行なう必要がない。その結果、位置出しにかかる時間を短縮することができる効果を有する。
【0012】
また、測定子の振れを測定して測定値からオフセットデータを計算し、測定子を回転させながら被加工物に接触させ電気的に接触位置を検出するので、測定子の先端部位がどの方向に傾いていても主軸の中心から等距離離れた位置で測定子の先端部位と被加工物とが接触し、誤差を補正してより精確な位置を容易に得ることができる。したがって、測定子を被加工物に接触させる方向を考慮することがない。そのため、位置出しのたびにキャリブレーションを行なう必要がない。その結果、位置出しにかかる時間を短縮することができるとともに、自動工具交換装置によって測定子を取り付けて行なうことができ、位置出しを自動的により容易に行なうことができる効果を有する。
【0013】
また、本発明の測定方法は、測定子の振れを測定して測定値からオフセットデータを計算し、測定子を回転させながら被加工物に接触させ電気的に接触位置を検出するので、測定子の先端部位がどの方向に傾いていても主軸の中心から等距離離れた位置で測定子の先端部位と被加工物とが接触し、誤差を補正してより精確な位置を容易に得ることができる。したがって、測定子を被加工物に接触させる方向を考慮することがない。そのため、位置出しのたびにキャリブレーションを行なう必要がない。その結果、複数回の位置出しによって得られる被加工物の形状、寸法、ピッチ、穴内径を測定する時間を短縮することができるとともに、自動工具交換装置によって測定子を取り付けて行なうことができ、測定を自動的により容易に行なうことができる効果を有する。
【0014】
また、本発明の座標系の設定方法は、測定子の振れを測定して測定値からオフセットデータを計算し、測定子を回転させながら被加工物に接触させ電気的に接触位置を検出するので、測定子の先端部位がどの方向に傾いていても主軸の中心から等距離離れた位置で測定子の先端部位と被加工物とが接触し、誤差を補正してより精確な位置を容易に得ることができる。したがって、測定子を被加工物に接触させる方向を考慮することがない。そのため、位置出しのたびにキャリブレーションを行なう必要がない。その結果、複数回の位置出しによって得られる被加工物の座標系を設定する時間を短縮することができるとともに、自動工具交換装置によって測定子を取り付けて行なうことができ、座標系の設定を自動的により容易に行なうことができる効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1に、本発明の好ましい実施の形態のプロセスが示される。図2は、図1のプロセス中の接触動作を示すフローチャットである。また、図3に、本発明の方法で使用される測定子の構成を示す。以下に、本発明の座標系の設定方法を説明する。
【0016】
最初に、自動工具交換装置によって図3に示されるような主軸10に、測定子22が絶縁ブッシュ24で主軸10側と絶縁された状態で取り付けられるホルダ20を装着する(S1)。次に、主軸10を回転させて測定子を回転させる(S2)。そして、機械のテーブル上に予め取付固定されている図示しない振れ測定器に主軸に取り付けられた測定子を移動させて測定子の振れを測定して測定値として最大外径を得る(S3)。得られた最大外径は主軸が回転しているときであるから、最大外径の2分の1の値は水平方向における主軸の中心の位置と測定子が傾いているときの測定子の先端部位の位置との差の最大値である。したがって、測定値の2分の1の値を計算しオフセットデータとして計算する(S4)。
【0017】
次に、図3に示される通電ブラシ30をエアシリンダによって前進させホルダ20の側面に押し当てる。そして、被加工物と絶縁された測定子22に所定の電圧を印加する(S5)。そして、主軸を十分な回転数(例えば2000min−1)で回転させ測定子22を回転させながら送り速度を比較的高速(例えば、20mm/mim)に設定して接触動作をさせる(S6)。そして、測定子22と被加工物とが接触したことを電圧または電流の変化をみて電気的に検出して測定子22と被加工物との接触位置を検出して記憶装置に記憶させる(S7)。
【0018】
上記測定子と被加工物との接触動作は、より具体的には、図2に示されるプロセスで行なわれる。最初に、主軸を設定速度で相対移動させて測定子を被加工物に接触させ(S51)、数値制御装置が測定子と被加工物の接触を電気的に検出したら移動を直ちに停止する(S52)、そして、停止したときの現在位置情報を取得して数値制御装置の変数に取り込んでおく(S53)。そして、接触させたときの方向と反対の方向に数mm移動させて戻しておく(S54)。
【0019】
このようにして、主軸を回転させ測定子22を回転させながら送り速度を比較的中速(例えば、5mm/min)に設定して図2に示される接触動作を行なう(S8)。そして、測定子22と被加工物との接触を電気的に検出してその接触位置を記憶装置に記憶させる(S9)。同様に、主軸を回転させ測定子22を回転させながら送り速度を比較的低速(2mm/min)に設定して測定子22と被加工物とを水平方向に移動させて接触させる(S10)。そして、測定子22と被加工物との接触を電気的に検出してその接触位置を記憶装置に記憶させる(S11)。
【0020】
次に、取得した接触位置のデータを平均して得られた接触位置のデータにオフセットデータを減算して相対位置を決定する(S12)。このとき、接触位置のデータは位置座標値であり、オフセットデータは方向を含むので、測定子を被加工物に相対移動させたときの接触方向が考慮されている。したがって、測定子を被加工物に接触させる方向を考慮することがない。そのため、位置出しのたびにキャリブレーションを行なう必要がない。また、取付誤差があってもオフセットデータによって修正され精確な位置が得られるので、自動工具交換装置によって自動的に位置出しを自動的により容易に行なうことができる。
【0021】
次に、ステップS6からステップS12までを繰り返して所定の複数の相対位置を得る(S13)。例えば、最初にX軸方向の位置出しを行なってから次にY軸方向の位置出しを行なう。また、被加工物の形状測定をするときは、各軸方向に予め設定されている回数の位置出しを行ない複数の相対位置を得る。このとき、同じ位置で測定子と被加工物を接触させると精確な位置を得ることができないので、各軸方向においてその軸方向と直交する方向に所定距離移動した位置から測定子を被加工物に対して相対移動させる。
【0022】
実施の形態の座標系の設定方法の場合は、被加工物の位置出しで得られたX軸方向の位置座標値とY軸方向の位置座標値に基づいて数値制御装置において被加工物の座標系を設定する(S14)。
【0023】
被加工物の測定方法は、上述した座標系の設定方法におけるステップS1からステップS12まで同様にして行なう。そして、例えば、被加工物の形状を測定するときは、複数のX軸方向の位置座標値とY軸方向の位置座標値を得て、それらの位置座標値を最小二乗法などの公知の演算手法を用いて輪郭線を得る。被加工物の寸法や穴内形を得るときもまた、得られた複数のX軸方向の位置座標値とY軸方向の位置座標値に基づいて公知の演算手法によって得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、切削機械や研削機械のような工作機械に適用される。本発明は、位置出しの時間、その位置出しに基づく被加工物の測定もしくは被加工物の座標系の設定に要求される時間を短縮し、作業効率を向上させることに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態の主要なプロセスを示すフローチャートである。
【図2】本発明の実施の形態の接触動作を示すフローチャートである。
【図3】本発明に用いられる測定子を示す側面図である。
【符号の説明】
【0026】
10 主軸
20 ホルダ
22 測定子
24 絶縁ブッシュ
30 通電ブラシ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸に装着される測定子と被加工物との接触位置を検出することによって主軸の被加工物に対する相対位置を検出する位置出し方法において、前記被加工物と前記被加工物と絶縁された測定子に所定の電圧を印加するとともに前記測定子を回転させながら前記測定子と前記被加工物とを相対移動させて前記測定子と前記被加工物との接触を電気的に検出し前記測定子と前記被加工物との接触位置に基づいて前記相対位置を決定する位置出し方法。
【請求項2】
測定子を装着した主軸を回転させる工程と、前記測定子の振れを測定して測定値を得る工程と、前記測定値に基づきオフセットデータを計算する工程と、被加工物と絶縁された測定子に所定の電圧を印加する工程と、前記測定子と前記被加工物とを相対移動させて接触させる工程と、前記測定子と前記被加工物との接触を電気的に検出して前記測定子と前記被加工物との接触位置を検出する工程と、前記接触位置と前記オフセットデータとに基づいて前記主軸の前記被加工物に対する相対位置を決定する工程とを含んでなる位置出し方法。
【請求項3】
自動工具交換装置によって主軸に測定子を装着する第1の工程と、前記主軸を回転させる第2の工程と、前記測定子の振れを測定して測定値を得る第3の工程と、前記測定値に基づきオフセットデータを計算する第4の工程と、被加工物と絶縁された測定子に所定の電圧を印加する第5の工程と、前記測定子と前記被加工物とを水平方向に相対移動させて接触させる第6の工程と、前記測定子と前記被加工物との接触を電気的に検出して前記測定子と前記被加工物との接触位置を検出する第7の工程と、前記接触位置と前記オフセットデータとに基づいて前記主軸の前記被加工物に対する相対位置を決定する第8の工程と、前記第6の工程ないし前記第8の工程を繰返し複数の前記相対位置を得る第9の工程と、前記複数の相対位置に基づいて被加工物の形状、寸法、ピッチ、穴内径を測定する第10の工程を含んでなる測定方法。
【請求項4】
自動工具交換装置によって主軸に測定子を装着する第1の工程と、前記主軸を回転させる第2の工程と、前記測定子の振れを測定して測定値を得る第3の工程と、前記測定値に基づきオフセットデータを計算する第4の工程と、被加工物と絶縁された前記測定子に所定の電圧を印加する第5の工程と、前記測定子と前記被加工物とを水平方向に相対移動させて接触させる第6の工程と、前記測定子と前記被加工物との接触を電気的に検出して前記測定子と前記被加工物との接触位置を検出する第7の工程と、前記接触位置と前記オフセットデータとに基づいて前記主軸の前記被加工物に対する相対位置を決定する第8の工程と、前記第6の工程ないし前記第8の工程を繰返し複数の前記相対位置を得る第9の工程と、前記複数の相対位置に基づいて被加工物の座標系を設定する第10の工程とを含んでなる座標系の設定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−113942(P2007−113942A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−302980(P2005−302980)
【出願日】平成17年10月18日(2005.10.18)
【出願人】(000132725)株式会社ソディック (197)
【Fターム(参考)】