説明

位置検出装置

【課題】位置検出装置の高精度化と高速化を両立でき得る位置検出装置を提供する。
【解決手段】位置検出装置は、互いに位相が90度異なる2つの正弦波状の信号を出力する検出コイル2,3と、検出コイル2,3からの出力信号DCA,DSCに含ま
れるオフセット成分を除去する減算器8,9と、オフセット成分除去後の2つの信号DCA,DSCを位置情報IPに変換する内挿演算器12と、検出コイル2,3から
の2つの信号DC,DSの自乗和の平方根を演算する半径演算器10と、半径演算器10の出力の変動成分RDAとオフセット成分除去後の信号DCA,DSCとをそれ
ぞれ乗算する相関演算器17,18と、相関演算器17,18の出力値のDC成分を抽出する低域通過フィルタ(LPF)19,20と、当該LPF19,20の出力値
COMDC,SOMDCに基づいて、オフセット変位分を含むオフセット成分を出力する手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定変位に対して正弦波状に変化するとともに互いに90度位相が異なる2つの信号を出力する位置センサからの出力信号を位置情報に変換する位置検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
測定変位に対応して正弦波状に変化する90度位相の異なる2つの信号を出力する位置センサからの出力信号に含まれるオフセット成分を、前記2つの信号の自乗和の平方根を演算する半径演算手段を用いて求め、前記オフセット成分を自動的に除去し、高精度な位置情報に変換する位置検出装置としては、例えば、特許文献1などに開示されている。
【0003】
図4は特許文献1を引用した図であり、本発明に関して必要性がない装置等に関しては省略している。図4のロータ1は、外周部に波長λ=10度のピッチで1回転内に36個の凹凸を有する磁性体からできており、回転軸に固定されている。そして回転軸が回転するとロータ外周部の凹凸によるリラクタンス変化により、2種類の検出コイル2と3では、回転変位θ/36の余弦波アナログ信号ACと正弦波アナログ信号ASが発生する。これらの信号は、それぞれAD変換器4,5により、デジタル信号DC,DSに変換される。電源投入時、記憶器6と7には、位置検出装置製造時に測定されたオフセット成分が記憶されており、減算器8,9により、デジタル信号DC,DSに含まれるオフセット成分を除去した信号DCA,DSCが出力される。内挿演算器12で、信号DCA,DSCは2変数を入力とする逆正接演算が行われ、回転軸の1/36回転内の回転量を示す位置信号IPに変換される。
【0004】
電源投入後、オフセット成分を除去した信号DCA,DSCは、半径演算器10により、式1の計算が行われ、半径量RDが出力される。なお、SQRTは平方根、^2は2乗を表す。
RD=SQRT(DCA^2+DCC^2) ・・・ 式1
【0005】
フーリエ解析器(FFT)11では、回転位置がλ変化するごとに、内挿演算器12が出力した内挿値IPと、λ/2(nは3以上の整数)の位置変化ごとの半径量RDに相当する値に基づき、フーリエ解析が行われる。そして、フーリエ解析結果の1次成分である余弦成分C1,正弦成分S1と記憶器6,7が記憶するオフセット成分CO,SOとが加算器13,14により加算され、フーリエ解析器11から出力される記憶指令信号SETが記憶器6,7に入力されるタイミングで、記憶器6,7に記憶されているオフセット成分CO,SOが随時更新される。なお、フーリエ解析結果の1次成分がオフセット変位量に相当する原理は特許文献1に記載されているため、ここでは説明を省略する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−232649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されている半径量RDより、オフセット成分を演算する方法では、フーリエ解析を行うために波長λピッチ内で1/2の位置変化ごとの半径量RDに相当する値を、算出しなければならない。そのため、ADサンプル周期あたり、λ/2以上位置が変化する速度では、フーリエ解析を行うことが出来ないため、オフセット成分を抽出することが出来ないという問題がある。
【0008】
本発明は上述のような事情から成されたものであり、本発明の目的は、測定変位に対して正弦波状に変化するとともに互いに90度位相が異なる2つの信号に含まれる、内挿精度を悪化させるオフセット成分を高速回転時でも同定し、内挿精度を向上させることにある。また、これによって、位置検出装置の高精度化と高速化を両立させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の位置検出装置は、測定変位に応じた位置情報を出力する位置検出装置において、測定対象物の変位に伴い正弦波状に変化するとともに互いに位相が90度異なる2つの信号を出力する位置センサと、前記位置センサからの出力信号に含まれるオフセット成分を、当該出力信号から除去するオフセット成分除去手段と、前記オフセット成分除去後の2つの信号を位置情報に変換する内挿演算手段と、前記位置センサからの2つの信号又は、前記オフセット成分除去後の2つの信号の自乗和の平方根を演算する半径演算手段と、前記半径演算手段の出力の変動成分と前記位置センサからの2つの信号とをそれぞれ乗算する相関演算手段と、前記相関演算手段の出力値のDC成分を抽出するDC成分抽出手段と、前記DC成分注出手段の出力値に基づいて、オフセット変位分を含んだオフセット成分を出力する手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
好適な態様では、さらに、前記内挿演算手段からの位置情報を微分して、速度信号に変換する速度変換手段と、前記オフセット成分を記憶するオフセット記憶手段と、を有し、前記DC成分抽出手段は前記相関演算手段の出力を入力とする低域通過フィルタから成り、前記オフセット記憶手段は、前記速度信号の値が規定の閾値より大きい場合に、前記オフセット変位分を含んだオフセット成分を新たなオフセット成分として記憶する。
【0011】
他の好適な態様では、前記位置センサの出力信号の1サイクル変化する移動量をλとすると、前記DC成分抽出手段は、前記位置情報がλ/m(mは2以上の整数)変化するごとの前記相関演算手段の出力値を入力とし、前記位置情報がλ移動する間に入力されたm個の前記相関演算手段の出力値の平均値に基づきDC成分を抽出する。
【0012】
他の好適な態様では、さらに、前記相関演算手段は、前記半径演算手段の出力値のDC成分を出力する低域通過フィルタと、前記半径演算手段の出力値から前記低域通過フィルタから出力されたDC成分を除去する減算器と、を備え、前記減算器からの出力が前記半径演算手段の出力の変動成分として前記相関演算手段に入力される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、フーリエ変換を用いずとも、半径演算手段の出力と位置センサの2つの信号の相関演算により、オフセット成分に相当する成分を抽出できるため、特許文献1記載の技術と同様にオフセットを高精度に同定することが可能である。またAD変換器のサンプル周期あたり、λ/2以上位置が変化する回転速度の場合でも高精度にオフセットを同定することが可能である。したがって、高速回転でもオフセットの経時変化を、正確に同定し、かつ精度悪化成分を除去し、内挿精度を大幅に向上させることが可能である。これによって、位置検出装置の高精度化と高速化を両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第一実施形態を示す位置検出装置のブロック図である。
【図2】本発明の第二実施形態を示す位置検出装置のブロック図である。
【図3】本発明の第三実施形態を示す位置検出装置のブロック図である。
【図4】従来の位置検出装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第一実施形態)
以下、図面に基づいて本発明の第一実施形態を説明する。図1は、本発明の第一実施形態である位置検出装置の構成を示すブロック図である。同図で図4と同じ機能のものは同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0016】
図1に示すとおり、2種類の検出コイル2,3から出力されたアナログ信号AC,ASは、AD変換器4,5によりデジタル信号DC,DSに変換される。このデジタル信号DC,DSから、製造時に測定されたオフセット成分CO,SOが減算器8,9により減算された信号DCA,DSCが半径演算器10に入力される。半径演算器では、式1の計算が行われ、半径量RDが出力される。
【0017】
半径演算器10から出力される半径量RDは低域通過フィルタ(LPF)15に入力され、半径量RDのDC成分である信号RDDが出力される。そして半径RDから信号RDDが減算器16により減算され、半径RDの変動成分である信号RDAが出力される。乗算器17,18は信号RDAとデジタル信号DC,DSからオフセット成分CO,SOを除去した信号DCA,DSAを、それぞれ乗算する相関演算をし、信号COM,SOMを出力する。
【0018】
DC成分抽出手段である低域通過フィルタ(LPF)19,20に信号COM,SOMが入力され、信号COM,SOMのDC成分COMDC,SOMDCが出力される。位置センサ出力信号AC,ASの変化周波数が、低域通過フィルタ19,20のカットオフ周波数より十分高い回転速度では、この信号COMDC,SOMDCは信号COM,SOMのDC成分に相当する。また、信号COMDC,SOMDCは信号DCA,DSAの振幅成分に比例しているため、演算器21,22にて、信号DCA,DSAの振幅成分と同等である半径のDC成分RDDで除算し、2倍することにより信号DCA,DSCに含まれるオフセット変位分CODF,SODFが出力される。
【0019】
加算器13,14では、記憶器6,7が記憶する信号DC,DSのオフセット成分を除去するための信号CO,SOと、演算器21,22により出力されたオフセット変位分CODF,SODFが加算される。そして、記憶器6,7には、加算器13,14が出力するオフセット変位分を含んだオフセット成分が設定される。このオフセット成分の設定により、位置センサ出力信号AC,ASの変化周波数が、低域通過フィルタ19,20のカットオフ周波数より十分高い回転速度では、適切なオフセット成分が得られることになる。
【0020】
ここで、位置センサ出力信号AC,ASの変化周波数が、低域通過フィルタ19,20のカットオフ周波数よりも低い回転速度では、低域通過フィルタ19,20はDC成分を抽出できない。そのため、低速回転ではオフセットの設定を止める必要がある。そこで、内挿演算器12が出力した内挿値IPの差分演算により、速度変換器23では速度信号VELを出力する。速度信号VELは記憶器24に記憶されている設定速度と比較器25にて比較され、速度信号VELが設定速度よりも大きい速度の場合、比較器25は記憶指令信号SETを出力する。記憶器6,7では記憶指令信号SETが入力された時、加算器13,14が出力するオフセット変位分を含んだオフセット成分を記憶器6,7に設定する。逆に、記憶指令信号SETが入力されない場合、記憶器6,7は、オフセット変位分を含んだオフセット成分の設定を行わない。これにより、低域通過フィルタ19,20のカットオフ周波数より十分高い回転速度の場合のみ、オフセット成分CO,SOが更新されることになる。
【0021】
(第二実施形態)
次に第二実施形態について説明する。図2は、第二実施形態である位置検出装置の構成を示す図である。第一実施形態では、半径演算器10の入力として、オフセット成分除去後の信号DCA,DSAを使用したが、本実施形態では、図2に示すように半径演算器10の入力として、オフセット成分除去前の信号DC,DSを入力としている。この場合、演算器21,22が出力する値は、信号DC,DSのオフセット成分CO,SOとなるため、図1記載の加算器13,14は不要となる。ただし、この構成では、位置センサ出力信号に含まれるオフセット成分が大きい場合に、オフセットの同定精度が低下する可能性がある。
【0022】
(第三実施形態)
次に第三実施形態について説明する。図3は、第三実施形態である位置検出装置の構成を示す図である。第一実施形態ではでは、乗算器17,18より出力される信号COM,SOMのDC成分を抽出する手段として低域通過フィルタ19,20を使用したが、第三実施形態では、図3に示すように、位置センサの出力信号が1サイクル変化した時の平均値をDC成分として抽出している。
【0023】
より具体的に説明すると、平均化処理器26,27は、内挿演算器12より出力される内挿値IPがλ/m(λはロータ1の1ピッチの移動量、mは2以上の整数)変化するごとの乗算器17,18より出力される信号COM,SOMの値のm個分を平均化した信号ACOMDC,ASOMDCを出力する。この信号ACOMDC,SOMDCはCOM,SOMのDC成分となる。演算器21,22はACOMDC,SOMDCを入力として、第一実施形態と同様の演算を行い、信号DCA,DSCに含まれるオフセット変位分CODF,SODFを出力する。
【0024】
そして内挿値IPの移動量がλである時に、平均化処理器26,27は記憶指令信号SETを出力し、第一実施形態と同様の原理で記憶器6,7に記憶されているオフセット成分CO,SOが随時更新される。
【0025】
以上の説明から明らかなように、上述の三種類の実施形態の構成により、信号DC,DSのオフセット成分を高精度に同定し、信号DC,DSから除去することが可能である。なお、上述の説明では、半径RDのDC成分を除去し変動成分を抽出するために低域通過フィルタ15を使用したが、あらかじめ位置検出装置製造時に半径量のDC成分を測定し、不揮発性メモリに値を記憶させ、減算器16により、半径量RDの変動成分を抽出することも可能である。また、第一実施形態または第二実施形態と、第三実施形態と、を組み合わせ、低速では第三実施形態、高速では第一実施形態または第二実施形態と切り替えてオフセット成分を同定することも可能である。
【符号の説明】
【0026】
1 ロータ、2,3 検出コイル、4,5 AD変換器、6,7,24 記憶器、8,9,16 減算器、10 半径演算器、11 フーリエ解析器、12 内挿演算器、13,14 加算器、15,19,20 低域通過フィルタ、17,18 乗算器、21,22 演算器、23 速度変換器、25 比較器、26,27 平均化処理器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定変位に応じた位置情報を出力する位置検出装置において、
測定対象物の変位に伴い正弦波状に変化するとともに互いに位相が90度異なる2つの信号を出力する位置センサと、
前記位置センサからの出力信号に含まれるオフセット成分を、当該出力信号から除去するオフセット成分除去手段と
前記オフセット成分除去後の2つの信号を位置情報に変換する内挿演算手段と、
前記位置センサからの2つの信号又は、前記オフセット成分除去後の2つの信号の自乗和の平方根を演算する半径演算手段と、
前記半径演算手段の出力の変動成分と前記位置センサからの2つの信号とをそれぞれ乗算する相関演算手段と、
前記相関演算手段の出力値のDC成分を抽出するDC成分抽出手段と、
前記DC成分注出手段の出力値に基づいて、オフセット変位分を含んだオフセット成分を出力する手段と、
を備えることを特徴とする位置検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の位置検出装置であって、さらに、
前記内挿演算手段からの位置情報を微分して、速度信号に変換する速度変換手段と、
前記オフセット成分を記憶するオフセット記憶手段と、
を有し、
前記DC成分抽出手段は前記相関演算手段の出力を入力とする低域通過フィルタから成り、
前記オフセット記憶手段は、前記速度信号の値が規定の閾値より大きい場合に、前記オフセット変位分を含んだオフセット成分を新たなオフセット成分として記憶する、
ことを特徴とする位置検出装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の位置検出装置であって、
前記位置センサの出力信号の1サイクル変化する移動量をλとすると、
前記DC成分抽出手段は、前記位置情報がλ/m(mは2以上の整数)変化するごとの前記相関演算手段の出力値を入力とし、前記位置情報がλ移動する間に入力されたm個の前記相関演算手段の出力値の平均値に基づきDC成分を抽出する、
ことを特徴とする位置検出装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の位置検出装置であって、さらに、
前記相関演算手段は、前記半径演算手段の出力値のDC成分を出力する低域通過フィルタと、
前記半径演算手段の出力値から前記低域通過フィルタから出力されたDC成分を除去する減算器と、
を備え、
前記減算器からの出力が前記半径演算手段の出力の変動成分として前記相関演算手段に入力される、
ことを特徴とする位置検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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