説明

位置検出装置

【課題】記憶回路の冗長性を確保すると共に、電源電圧が低下した場合に所望の出力を得ることの可能な位置検出装置を提供する。
【解決手段】位置検出装置としての磁気検出IC10は、通常動作モードの際、磁気検出素子11から出力された信号をDSP13によって処理した後、F/F14に記憶し、D/A16を経由して外部へ出力する。その際、F/F14の出力値をメモリ17が記憶する。モニタ回路40は、電源瞬断モードを検知すると、F/F14とメモリ17との間の信号、およびF/F14とD/A16との間の信号を遮断する。そして更新を止めたメモリ17の信号をD/A16へ出力する。一方、モニタ回路40は、長時間電源落ち込みモードを検知すると、メモリ17の信号をHiまたはLoに固定し、D/A16へ出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検出体の回転角度又はストローク量を検出する位置検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両に用いられる電子制御スロットルの備えるスロットルバルブの回転角度、アクセルペダルモジュールの備えるアクセルペダルの回転角度、又はクラッチアクチュエータのストローク量などを検出する位置検出装置が知られている。
位置検出装置は、被検出体となるスロットルバルブなどに設けられた磁石の生じる磁気をホールICなどの磁気検出ICにより検出し、被検出体の回転角度又はストローク量を検出する。なお、磁気検出ICとは、磁気検出素子とその磁気検出素子から出力された信号を処理する集積回路とを一体にした電子部品である。
【0003】
特許文献1に記載の位置検出装置は、磁気検出素子620からA/D変換回路622を経由した信号をDSP(デジタルシグナルプロセッサ)626によって処理し、その処理した信号をD/A変換回路676を経由して外部へ出力している。この位置検出装置では、DSP626とD/A変換回路676との間に、DSP626から出力されたデータを記憶するメモリ640が設けられている。また、各回路に供給される電源の瞬断をモニタする回路642、646、654、670が設けられている。
A/D変換回路622またはDSP626に供給される電源の瞬断がモニタ回路によって検出されると、メモリ640はデータの更新を止め、電源が瞬断される前のデータを保持し、そのデータをD/A変換回路676から外部に出力する。これにより、位置検出装置は、電源の瞬断が生じた場合に正常出力を維持している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第7369969号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、メモリ640がA/D変換回路622とD/A変換回路676との間に配置されている。このため、特許文献1のメモリ640が劣化などにより故障した場合、位置検出装置は所望の出力挙動を確保することができなくなることが懸念される。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、記憶回路の冗長性を確保すると共に、電源電圧が低下した場合に所望の出力を得ることの可能な位置検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明によると、被検出体に設けられた磁気発生手段の発生する磁気に基づき被検出体の位置を検出する位置検出装置は、磁気検出素子、信号処理回路、第1記憶回路、出力回路、第2記憶回路、第1電源供給回路、第2電源供給回路、故障検知回路および信号経路変更回路を備える。
磁気検出素子は、磁気発生手段の磁気に応じた信号を出力する。
信号処理回路は、磁気検出素子から出力された信号を処理する。第1記憶回路は、信号処理回路によって処理された信号を記憶する。出力回路は、通常動作モードのとき、第1記憶回路から出力された信号を外部へ出力する。第2記憶回路は、通常動作モードのとき、第1記憶回路の出力値を記憶する。
第1電源供給回路は、信号処理回路および第1記憶回路に電源を供給する。第2電源供給回路は、第2記憶回路および故障検知回路に電源を供給する。
故障検知回路は、第1電源供給回路の電源が瞬断する電源瞬断モードを検知する。
信号経路変更回路は、故障検知回路により電源瞬断モードが検知されると、第1記憶回路と第2記憶回路との間の信号、および第1記憶回路と出力回路との間の信号を遮断すると共に、一定時間第2記憶回路の更新を止め、更新の止まった第2記憶回路の信号を出力回路へ出力する。
この構成により、故障検知回路が電源瞬断モードを検知したとき、信号経路変更回路は、第1記憶回路のデータを使用することなく、更新を止めた第2記憶回路のデータを出力回路へ出力するように、信号の伝達経路を変更する。このため、電源瞬断により第1記憶回路から出力できなくなった場合、または、電源瞬断により第1記憶回路のデータに異常が生じた場合にも、正常な第2記憶回路のデータが出力回路へ出力される。したがって、位置検出装置は、記憶回路の冗長性を確保すると共に、電源電圧が低下した場合に正常出力を維持することができる。
【0007】
請求項2に係る発明によると、故障検知回路は、第1電源供給回路が信号処理回路および第1記憶回路に電源を供給しているとき通常動作モードを検知する。
信号経路変更回路は、故障検知回路が通常動作モードを検知しているとき、第1記憶回路と第2記憶回路との間の信号を導通し、第1記憶回路と出力回路との間の信号を導通し、信号処理回路と第2記憶回路との間の信号を遮断し、第2記憶回路と出力回路との間の信号を遮断する。
これにより、通常動作モードのとき、第2記憶回路は、第1記憶回路のデータをミラーして記憶することができる。
【0008】
請求項3に係る発明によると、位置検出装置は、遅延回路、第1比較回路および第2比較回路を備える。
遅延回路は、第1電源供給回路に接続される。
第1比較回路は、第1電源供給回路から信号処理回路および第1記憶回路に供給される電圧と、信号処理回路および第1記憶回路が動作可能な電圧以上に設定されたリファレンス電圧とを比較する。第2比較回路は、第1電源供給回路から遅延回路を経由した電圧と、リファレンス電圧とを比較する。
故障検知回路は、第1比較回路により第1電源供給回路から供給される電圧がリファレンス電圧よりも低いことが検出され、かつ、第2比較回路により第1電源供給回路から遅延回路を経由した電圧がリファレンス電圧よりも高いことが検出された場合、第1電源供給回路の電源が瞬断する電源瞬断モードを検知する。
電源瞬断時には、第1電源供給回路の電圧が低下し、その一方で、第1電源供給回路から遅延回路を経由した電圧は低下していない。このため、故障検知回路は、第1比較回路と第2比較回路の信号により、電源瞬断モードを検知することができる。
【0009】
請求項4に係る発明によると、故障検知回路は、第1比較回路により第1電源供給回路から供給される電圧がリファレンス電圧よりも低いことが検出され、かつ、第2比較回路により第1電源供給回路から遅延回路を経由した電圧がリファレンス電圧よりも低いことが検出された場合、長時間電源落ち込みモードを検知する。
信号経路変更回路は、故障検知回路により長時間電源落ち込みモードが検知されると、第1記憶回路と第2記憶回路との間の信号、第1記憶回路と出力回路との間の信号、および信号処理回路と第2記憶回路との間の信号を遮断すると共に、第2記憶回路から出力される信号をHiまたはLoに固定し、その固定された第2記憶回路の信号を出力回路へ出力するように第2記憶回路と出力回路との間の信号を導通する。
位置検出装置を車両の各センサに用いた場合、長時間電源落ち込み時に位置検出装置から出力される信号を車両を安全側に制御可能なHiまたはLoに予め設定しておくことで、位置検出装置は長時間電源落ち込みに対応することができる。
【0010】
請求項5に係る発明によると、位置検出装置は、電源瞬断モードまたは長時間電源落ち込みモードから電源が復帰した後、所定時間内に信号処理回路および第1記憶回路をリセットする第1リセット回路を備える。
信号経路変更回路は、電源復帰から所定時間が経過した後、第1記憶回路と第2記憶回路との間の信号を導通し、第1記憶回路と出力回路との間の信号を導通し、第2記憶回路と出力回路との間の信号を遮断することで、信号の伝達経路を通常動作モードに戻す。
これにより、位置検出装置は、信号処理回路および第1記憶回路のリセット動作中の信号が出力回路に出力されることを防ぐことができる。
ここで、所定時間とは、第1リセット回路が信号処理回路および第1記憶回路をリセットするのに必要な時間である。
【0011】
請求項6に係る発明によると、位置検出装置は、長時間電源落ち込みモードから電源が復帰してから所定時間が経過した後、第2記憶回路をリセットする第2リセット回路を備える。
これにより、位置検出装置は、電源復帰後に第2記憶回路を正常に動作させることができる。また、通常動作モードに戻した後に第2記憶回路をリセットすることで、第2記憶回路のリセット動作中の信号が出力回路に出力されることを防ぐことができる。
【0012】
請求項7に係る発明によると、第2電源供給回路は、第1電源供給回路に接続されるツェナーダイオードと、そのツェナーダイオードとグランドとの間に設けられるキャパシタとから構成される。電源瞬断モードおよび長時間電源落ち込みモード開始時にキャパシタの電圧が第2記憶回路に供給される電源の供給源となる。
これにより、第2電源供給回路を簡素に構成することができる。
【0013】
請求項8に係る発明によると、位置検出装置は、第3比較回路および第4比較回路を備える。
第3比較回路は、信号処理回路の出力値と第1記憶回路の出力値とを比較する。
第4比較回路は、信号処理回路の出力値と第2記憶回路の出力値とを比較する。
故障検知回路は、第3比較回路により信号処理回路の出力値と第1記憶回路の出力値とが異なることが検出され、第4比較回路により信号処理回路の出力値と第2記憶回路の出力値とが同一であることが検出された場合、第1記憶回路の故障モードを検知する。
信号経路変更回路は、故障検知回路により第1記憶回路の故障モードが検知されると、第1記憶回路と第2記憶回路との間の信号、および第1記憶回路と出力回路との間の信号を遮断すると共に、信号処理回路と第2記憶回路との間の信号、および第2記憶回路と出力回路との間の信号を導通することで、信号処理回路の出力を第1記憶回路を経由することなく第2記憶回路に出力し、第2記憶回路から出力回路へ信号を出力するように信号の伝達経路を変える。
これにより、第1記憶回路が劣化などにより故障した場合、信号経路変更回路は、信号処理回路から第2記憶回路を経由して出力回路へ信号が伝達されるように信号の経路を変更する。したがって、位置検出装置は、第2記憶回路を使用して所望の出力挙動を維持することが可能となるので、耐用期間を長くすることができる。
【0014】
請求項9に係る発明によると、被検出体に設けられた磁気発生手段の発生する磁気に基づき被検出体の位置を検出する位置検出装置は、磁気検出素子、信号処理回路、第1記憶回路、出力回路、第2記憶回路、故障検知回路および信号経路変更回路を備える。
磁気検出素子は、磁気発生手段の磁気に応じた信号を出力する。信号処理回路は、磁気検出素子から出力された信号を処理する。第1記憶回路は、信号処理回路によって処理された信号を記憶する。出力回路は、通常動作モードのとき、第1記憶回路から出力された信号を外部へ出力する。第2記憶回路は、通常動作モードのとき、第1記憶回路の出力値を記憶する。
故障検知回路は、第1記憶回路の故障モードを検知する。
信号経路変更回路は、故障検知回路により第1記憶回路の故障モードが検知されると、第1記憶回路と第2記憶回路との間の信号、および第1記憶回路と出力回路との間の信号を遮断すると共に、信号処理回路と第2記憶回路との間の信号、および第2記憶回路と出力回路との間の信号を導通することで、信号処理回路の出力を第1記憶回路を経由することなく第2記憶回路に出力し、第2記憶回路から出力回路へ信号を出力するように信号の伝達経路を変える。
これにより、第1記憶回路が劣化などにより故障した場合、位置検出装置は第2記憶回路を使用して所望の出力挙動を維持することができる。
【0015】
請求項10に係る発明によると、位置検出装置は、第3比較回路および第4比較回路を備える。
第3比較回路は、信号処理回路の出力値と第1記憶回路の出力値とを比較する。
第4比較回路は、信号処理回路の出力値と第2記憶回路の出力値とを比較する。
故障検知回路は、第3比較回路により信号処理回路の出力値と第1記憶回路の出力値とが異なることが検出され、第4比較回路により信号処理回路の出力値と第2記憶回路の出力値とが同一であることが検出された場合、第1記憶回路の故障モードを検知する。
信号処理回路から出力された信号は、第1記憶回路を経由した後、第2記憶回路に入力されるので、第2記憶回路には遅延した信号が入力される。このため、第1記憶回路が故障すると、信号処理回路の出力値と第1記憶回路の出力値とが異なり、信号処理回路の出力値と第2記憶回路の出力値とが同一となる。したがって、故障検知回路は、第3比較回路と第4比較回路の信号により、第1記憶回路の故障モードを検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態による位置検出装置の模式図である。
【図2】本発明の一実施形態による位置検出装置の回路のブロック図である。
【図3】本発明の一実施形態による位置検出装置のモニタ回路の回路図である。
【図4】本発明の一実施形態による位置検出装置の論理回路の判定表である。
【図5】本発明の一実施形態による位置検出装置の長時間電源落ち込み時に出力する信号を説明したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
(一実施形態)
本発明の一実施形態による位置検出装置は、車両の内燃機関の気筒内に吸入される空気量を制御する電子制御スロットルの回転角センサとして用いられる。回転角センサは、スロットルバルブの開度を示す電圧信号を車両の電子制御装置(ECU)に出力する。その電圧信号に応じてECUは、スロットルバルブが内燃機関の運転状態に適切な開度になるよう、スロットルバルブを駆動するモータに駆動信号を出力する。これにより、モータが目標とする開度にスロットルバルブを駆動し、吸気量が調節される。
【0018】
図1に示すように、被検出体としてのスロットルバルブ1の一端には、円筒状のヨーク2と、そのヨーク2の径内側に2個の永久磁石3、4が固定されている。永久磁石3、4は、特許請求の範囲に記載の「磁気発生手段」に相当する。図1では、2個の永久磁石3、4の間を流れる磁束を概念的に矢印で示している。
回転角センサは、永久磁石3、4およびヨーク2に対して相対回転可能に設けられた磁気検出IC10である。磁気検出IC10は、磁気検出素子11とその磁気検出素子11から出力された信号を処理する集積回路とを一体にした電子部品である。磁気検出素子11は、例えばホール素子または磁気抵抗効果素子などが例示される。
回転角センサと永久磁石3、4とが相対回転すると、磁気検出素子11の感磁面を通過する磁束密度が変化する。磁気検出素子11は、その磁束密度の変化に応じた信号を出力する。
【0019】
磁気検出IC10の回路を図2及び図3に示す。なお、図2では、センサ信号の経路を実線で示し、指令信号の経路を破線で示し、供給電源の経路を太線で示している。
磁気検出IC10は、磁気検出素子11、アナログ−デジタル変換回路(以下「A/D」という)12、信号処理回路としてのデジタルシグナルプロセッサ(以下「DSP」という)13、第1記憶回路としてのフリップフロップ(以下「F/F」という)14、出力回路15を構成するデジタル−アナログ変換回路(以下「D/A」という)16、および第2記憶回路としてのメモリ17などを備えている。
A/D12は、磁気検出素子11から出力されたアナログ信号をデジタル信号に変換する。
DSP13は、A/D12によりデジタル信号に変換された信号に対し、補正処理および回転角演算処理などを行う。
F/F14は、DSP13から出力された信号を記憶し、D/A16とメモリ17に出力する。
D/A16は、F/F14から出力されたデジタル信号をアナログ信号に変換し、その信号を外部に設置される図示しないECUに出力する。
メモリ17は、F/F14から出力されたデジタル信号をミラーして記憶する。メモリ17には、時間カウンタまたは遅延回路18が接続されている。
【0020】
第1電源供給回路(以下「Vdd」という)19は、A/D12、DSP13、F/F14、D/A16および時間カウンタ18などに電源を供給する。Vdd19の電圧は、例えば5Vである。なお、図2において、Vdd19が各回路に電源を供給する配線は省略している。
第2電源供給回路20は、Vdd19に接続されるツェナーダイオード21と、そのツェナーダイオード21とグランドとの間に設けられたキャパシタ22とから構成されている。第2電源供給回路20は、メモリ17およびモニタ回路40に電源を供給する。電源瞬断時および長時間電源落ち込み開始時にメモリ17およびモニタ回路40に供給される電源の供給源は、キャパシタ22に蓄えられた電圧である。
F/F14とメモリ17とを接続する配線に第1スイッチ31が設けられ、F/F14とD/A16とを接続する配線に第2スイッチ32が設けられ、メモリ17とD/A16とを接続する配線に第3スイッチ33が設けられ、DSP13とメモリ17とを接続する配線に第4スイッチ34が設けられている。第1〜第4スイッチ31、32、33、34は、例えば電界効果トランジスタから構成される。
【0021】
モニタ回路40の詳細を図3に示す。
モニタ回路40は、第1〜第4比較回路としての第1〜第4コンパレータ41、42、43、44および論理回路45などから構成されている。論理回路45は、特許請求の範囲に記載の「故障検知回路」および「信号経路変更回路」として機能する。
第1〜第4コンパレータ41、42、43、44および論理回路45は、第2電源供給回路20から電源が供給される。
第1コンパレータ41は、Vdd19から各回路に供給される電圧とリファレンス電圧とを比較する。ここで、リファレンス電圧は、A/D12、DSP13、F/F14、D/A16などが動作可能な電圧以上の電圧(例えば3.5V)に設定されている。第1コンパレータ41は、Vdd19の電圧がリファレンス電圧よりも高いとき「0」を出力し、Vdd19の電圧がリファレンス電圧よりも低いとき、「1」を出力する。
【0022】
第2コンパレータ42は、Vdd19からローパスフィルタ50を経由した電圧とリファレンス電圧とを比較する。ローパスフィルタ50は、Vdd19に直列する抵抗器51と、Vdd19に並列するコンデンサ52とから構成されるフィルタ回路である。ローパスフィルタ50は特許請求の範囲に記載の「遅延回路」に相当する。第2コンパレータ42は、Vdd19からローパスフィルタ50を経由した電圧がリファレンス電圧よりも高いとき「0」を出力し、Vdd19からローパスフィルタ50を経由した電圧がリファレンス電圧よりも低いとき「1」を出力する。
【0023】
第3コンパレータ43は、DSP13の出力値とF/F14の出力値とを比較する。第3コンパレータ43は、DSP13の出力値とF/F14の出力値とが同一であるとき「0」を出力し、DSP13の出力値とF/F14の出力値とが異なるとき「1」を出力する。
第4コンパレータ44は、DSP13の出力値とメモリ17の出力値とを比較する。第4コンパレータ44は、DSP13の出力値とメモリ17の出力値とが同一であるとき「0」を出力し、DSP13の出力値とメモリ17の出力値とが異なるとき「1」を出力する。
【0024】
論理回路45は、第1〜第4コンパレータ41、42、43、44の出力により、「通常動作モード」、「電源瞬断モード」、「長時間電源落ち込みモード」および「F/F故障モード」を検知する。
論理回路45が上記各モードを判定する判定表と、その場合に論理回路45から各回路に出される指令を図4を参照して説明する。
【0025】
(通常動作モード)
論理回路45は、第1〜第4コンパレータ41、42、43、44の出力が全て「0」のとき、磁気検出IC10の回路が正常に動作しているとして、「通常動作モード」を検知する。このとき、論理回路45は、第1スイッチ31および第2スイッチ32をONし、第3スイッチ33および第4スイッチ34をOFFする。これにより、磁気検出素子11→A/D12→DSP13→F/F14→D/A16およびメモリ17、という信号の伝達経路が形成され、メモリ17は、F/F14から出力された信号をミラーして記憶する。
【0026】
(電源瞬断モード)
論理回路45は、第1コンパレータ41の出力が「1」、第2コンパレータ42の出力が「0」のとき、「電源瞬断モード」を検知する。電源瞬断時には、Vdd19の電圧は低下するが、Vdd19からローパスフィルタ50を経由した電圧は正常値を維持しているからである。このとき、論理回路45は、第1、第2、第4スイッチ31、32、34をOFFし、一定時間メモリ17の更新を止める。そして第3スイッチ33をONし、更新の止まったメモリ17の信号をD/A16へ出力する。このとき、メモリ17およびモニタ回路40には、キャパシタ22から電源が供給される。
その後、電源が復帰し、第1コンパレータ41および第2コンパレータ42の出力が「0」になると、論理回路45は、第1リセット回路61により、所定時間内にA/D12、DSP13およびF/F14をリセットする。そして電源復帰から所定時間が経過した後、第1スイッチ31および第2スイッチ32をONし、第3スイッチ33および第4スイッチ34をOFFすることで、通常動作モードに戻す。これにより、A/D12、DSP13、F/F14およびメモリ17が正常に動作する。なお、所定時間とは、A/D12、DSP13およびF/F14のリセットに必要な時間であり、時間カウンタまたは遅延回路18により計時される。
【0027】
(長時間電源落ち込みモード)
論理回路45は、第1コンパレータ41および第2コンパレータ42の出力が「1」のとき、「長時間電源落ち込みモード」を検知する。電源瞬断時には、Vdd19の電圧、および、Vdd19からローパスフィルタ50を経由した電圧がいずれも低下するからである。このとき、論理回路45は、第1、第2、第4スイッチ31、32、34をOFFし、メモリ17から出力される信号をHiまたはLoに固定する。そして第3スイッチ33をONし、その固定されたメモリ17の信号をD/A16へ出力する。長時間電源落ち込み開始時、メモリ17およびモニタ回路40には、キャパシタ22から電源が供給される。
その後、電源が復帰し、第1コンパレータ41および第2コンパレータ42の出力が「0」になると、論理回路45は、第1リセット回路61により、所定時間内にA/D12、DSP13およびF/F14をリセットする。そして電源復帰から所定時間が経過した後、第1スイッチ31および第2スイッチ32をONし、第3スイッチ33および第4スイッチ34をOFFすることで通常動作モードに戻し、第2リセット回路62によりメモリ17をリセットする。これにより、A/D12、DSP13、F/F14およびメモリ17が正常に動作する。
【0028】
ここで、「長時間電源落ち込みモード」のときに固定するメモリ17の信号について説明する。
図5(A)と図5(B)は、異なる出力特性を示す2つの磁気検出IC10に関し、バルブ開度と出力電圧との関係を示したグラフである。
図5(A)に記載の磁気検出IC10は、スロットルバルブ1の開度が大きくなるに従い出力電圧が高くなる右肩上がりの出力特性を有する。この磁気検出IC10の場合、「長時間電源落ち込みモード」が検知されると、論理回路45はメモリ17から出力される信号をHi側に固定する。つまり、出力電圧は、「通常動作モード」の電圧Aから「長時間電源落ち込みモード」の電圧Bとなる。すると、その磁気検出IC10の信号が入力されたECUは、スロットルバルブ1が目標とする開度より開いているものと判断する。このため、ECUは、スロットルバルブ1が目標とする開度となるようスロットルバルブ1を閉弁方向に動かす駆動信号をスロットルバルブ1を駆動するモータに出力する。したがって、スロットルバルブ1は、安全側に制御される。
【0029】
一方、図5(B)に記載の磁気検出IC10は、スロットルバルブ1の開度が大きくなるに従い出力電圧が低くなる右肩下がりの出力特性を有する。この磁気検出IC10の場合、「長時間電源落ち込みモード」が検知されると、論理回路45はメモリ17から出力される信号をLo側に固定する。つまり、出力電圧は、「通常動作モード」の電圧Cから「長時間電源落ち込みモード」の電圧Dとなる。すると、その磁気検出IC10の信号が入力されたECUは、スロットルバルブ1が目標とする開度より開いているものと判断する。このため、ECUは、スロットルバルブ1が目標とする開度となるようスロットルバルブ1を閉弁方向に動かす駆動信号をモータに出力する。したがって、スロットルバルブ1は安全側に制御される。
【0030】
(F/F故障モード)
図4に示すように、論理回路45は、第3コンパレータ43の出力が「1」および第4コンパレータ44の出力が「0」のとき、「F/F故障モード」を検知する。DSP13から出力されたセンサ信号がF/F14を経由することで、1クロック分遅れてメモリ17に入力されるため、F/F14が故障しても、メモリ17の出力値は1クロックの間は正常値を維持するからである。このとき、論理回路45は、第1、第2スイッチ31、32をOFFし、第3、第4スイッチ33、34をONする。これにより、論理回路45は、通常動作モードにおけるDSP13→F/F14→D/A16 から、F/F14故障モードにおけるDSP13→メモリ17→D/A16 に信号の伝達経路を切り替える。
【0031】
本実施形態では、以下の作用効果を奏する。
(1)本実施形態では、電源瞬断モードが検知されると、F/F14→D/A16およびF/F14→メモリ17の間の信号伝達経路を遮断し、更新を止めたメモリ17のデータをD/A16に出力するように、信号の伝達経路を変更する。このため、電源瞬断によりF/F14から出力できなくなった場合、または、電源瞬断によりF/F14のデータに異常が生じた場合にも、正常なメモリ17のデータがD/A16へ出力される。したがって、磁気検出IC10は、F/F14およびメモリ17から構成される記憶回路の冗長性を確保すると共に、Vdd19の電圧が低下した場合に正常出力を維持することができる。
(2)本実施形態では、長時間電源落ち込みモードが検出されたとき、メモリ17の信号をHiまたはLoに固定する。このときの信号は、車両を安全側に制御可能な信号に予め設定される。これにより、磁気検出IC10は、長時間電源落ち込みの際、車両を安全側に制御することができる。
(3)本実施形態では、電源瞬断または長時間電源落ち込みから電源復帰したとき、論理回路45は、第1リセット回路61が信号処理回路およびF/F14をリセットした後に信号の伝達経路を通常動作モードに戻す。これにより、リセット動作中のDSP13およびF/F14の信号が出力されることを防ぐことができる。
(4)本実施形態では、第2電源供給回路20をツェナーダイオード21とキャパシタ22とから構成することで、第2電源供給回路20の構成を簡素にすることができる。
(5)本実施形態では、F/F故障モードが検知されると、論理回路45は、DSP13→F/F14→D/A16 から、DSP13→メモリ17→D/A16 に信号の伝達経路を切り替える。これにより、メモリ17を使用して所望の出力挙動を維持することが可能となり、磁気検出IC10の耐用期間を長くすることができる。
【0032】
(他の実施形態)
上述した一実施形態では、車両に搭載される電子制御スロットルに用いられる回転角センサとしての磁気検出ICについて説明した。これに対し、本発明の位置検出装置は、アクセルペダルモジュールの備えるアクセルペダルの回転角度、タンブルコントロールバルブの回転角度、またはクラッチアクチュエータのストローク量を検出する種々のセンサに適用することが可能である。
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0033】
1 ・・・スロットルバルブ(被検出体)
3、4・・・永久磁石(磁気発生手段)
10 ・・・磁気検出IC(位置検出装置)
11 ・・・磁気検出素子
13 ・・・DSP(信号処理回路)
14 ・・・F/F(第1記憶回路)
15 ・・・出力回路
17 ・・・メモリ(第2記憶回路)
19 ・・・Vdd(第1電源供給回路)
20 ・・・第2電源供給回路
21 ・・・ツェナーダイオード
22 ・・・キャパシタ
40 ・・・モニタ回路(故障検知回路、信号経路変更回路)
41 ・・・第1コンパレータ(第1比較回路)
42 ・・・第2コンパレータ(第2比較回路)
43 ・・・第3コンパレータ(第3比較回路)
44 ・・・第4コンパレータ(第4比較回路)
45 ・・・論理回路(故障検知回路、信号経路変更回路)
50 ・・・ローパスフィルタ(遅延回路)
61 ・・・第1リセット回路
62 ・・・第2リセット回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検出体に設けられた磁気発生手段の発生する磁気に基づき前記被検出体の位置を検出する位置検出装置であって、
前記磁気発生手段の磁気に応じた信号を出力する磁気検出素子と、
前記磁気検出素子から出力された信号を処理する信号処理回路と、
前記信号処理回路によって処理された信号を記憶する第1記憶回路と、
通常動作モードのとき、前記第1記憶回路から出力された信号を外部へ出力する出力回路と、
通常動作モードのとき、前記第1記憶回路の出力値を記憶する第2記憶回路と、
前記信号処理回路および前記第1記憶回路に電源を供給する第1電源供給回路と、
前記第1電源供給回路の電源が瞬断する電源瞬断モードを検知する故障検知回路と、
前記第2記憶回路および前記故障検知回路に電源を供給する第2電源供給回路と、
前記故障検知回路により電源瞬断モードが検知されると、前記第1記憶回路と前記第2記憶回路との間の信号、および前記第1記憶回路と前記出力回路との間の信号を遮断すると共に、一定時間前記第2記憶回路の更新を止め、更新の止まった前記第2記憶回路の信号を前記出力回路へ出力する信号経路変更回路とを備えることを特徴とする位置検出装置。
【請求項2】
前記故障検知回路は、前記第1電源供給回路が前記信号処理回路および前記第1記憶回路に電源を供給しているとき通常動作モードを検知し、
信号経路変更回路は、前記故障検知回路が通常動作モードを検知しているとき、前記第1記憶回路と前記第2記憶回路との間の信号を導通し、前記第1記憶回路と前記出力回路との間の信号を導通し、前記信号処理回路と前記第2記憶回路との間の信号を遮断し、前記第2記憶回路と前記出力回路との間の信号を遮断することを特徴とする請求項1に記載の位置検出装置。
【請求項3】
前記第1電源供給回路に接続される遅延回路と、
前記第1電源供給回路から前記信号処理回路および前記第1記憶回路に供給される電圧と、前記信号処理回路および前記第1記憶回路が動作可能な電圧以上に設定されたリファレンス電圧とを比較する第1比較回路と、
前記第1電源供給回路から前記遅延回路を経由した電圧と、前記リファレンス電圧とを比較する第2比較回路と、を備え、
前記故障検知回路は、前記第1比較回路により前記第1電源供給回路から供給される電圧が前記リファレンス電圧よりも低いことが検出され、かつ、前記第2比較回路により前記第1電源供給回路から前記遅延回路を経由した電圧が前記リファレンス電圧よりも高いことが検出された場合、前記第1電源供給回路の電源が瞬断する電源瞬断モードを検知することを特徴とする請求項1または2に記載の位置検出装置。
【請求項4】
前記故障検知回路は、前記第1比較回路により前記第1電源供給回路から供給される電圧が前記リファレンス電圧よりも低いことが検出され、かつ、前記第2比較回路により前記第1電源供給回路から前記遅延回路を経由した電圧が前記リファレンス電圧よりも低いことが検出された場合、長時間電源落ち込みモードを検知し、
前記信号経路変更回路は、前記故障検知回路により長時間電源落ち込みモードが検知されると、前記第1記憶回路と前記第2記憶回路との間の信号、前記第1記憶回路と前記出力回路との間の信号、および前記信号処理回路と前記第2記憶回路との間の信号を遮断すると共に、前記第2記憶回路から出力される信号をHiまたはLoに固定し、その固定された前記第2記憶回路の信号を前記出力回路へ出力するように前記第2記憶回路と前記出力回路との間の信号を導通することを特徴とする請求項3に記載の位置検出装置。
【請求項5】
電源瞬断モードまたは長時間電源落ち込みモードから電源が復帰した後、所定時間内に前記信号処理回路および前記第1記憶回路をリセットする第1リセット回路を備え、
前記信号経路変更回路は、電源復帰から前記所定時間が経過した後、前記第1記憶回路と前記第2記憶回路との間の信号を導通し、前記第1記憶回路と前記出力回路との間の信号を導通し、前記第2記憶回路と前記出力回路との間の信号を遮断することで、信号の伝達経路を通常動作モードに戻すことを特徴とする請求項4に記載の位置検出装置。
【請求項6】
長時間電源落ち込みモードから電源が復帰してから前記所定時間が経過した後、前記第2記憶回路をリセットする第2リセット回路を備えることを特徴とする請求項5に記載の位置検出装置。
【請求項7】
前記第2電源供給回路は、前記第1電源供給回路に接続されるツェナーダイオードと、そのツェナーダイオードとグランドとの間に設けられるキャパシタとから構成され、
電源瞬断モードおよび長時間電源落ち込みモード開始時に前記キャパシタの電圧が前記第2記憶回路に供給される電源の供給源となることを特徴とする請求項4〜6のいずれか一項に記載の位置検出装置。
【請求項8】
前記信号処理回路の出力値と前記第1記憶回路の出力値とを比較する第3比較回路と、
前記信号処理回路の出力値と前記第2記憶回路の出力値とを比較する第4比較回路と、を備え、
前記故障検知回路は、前記第3比較回路により前記信号処理回路の出力値と前記第1記憶回路の出力値とが異なることが検出され、前記第4比較回路により前記信号処理回路の出力値と前記第2記憶回路の出力値とが同一であることが検出された場合、前記第1記憶回路の故障モードを検知し、
前記信号経路変更回路は、前記故障検知回路により前記第1記憶回路の故障モードが検知されると、前記第1記憶回路と前記第2記憶回路との間の信号、および前記第1記憶回路と前記出力回路との間の信号を遮断すると共に、前記信号処理回路と前記第2記憶回路との間の信号、および前記第2記憶回路と前記出力回路との間の信号を導通することで、前記信号処理回路の出力を前記第1記憶回路を経由することなく前記第2記憶回路に出力し、前記第2記憶回路から前記出力回路へ信号を出力するように信号の伝達経路を変えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の位置検出装置。
【請求項9】
被検出体に設けられた磁気発生手段の発生する磁気に基づき前記被検出体の位置を検出する位置検出装置であって、
前記磁気発生手段の磁気に応じた信号を出力する磁気検出素子と、
前記磁気検出素子から出力された信号を処理する信号処理回路と、
前記信号処理回路によって処理された信号を記憶する第1記憶回路と、
通常動作モードのとき、前記第1記憶回路から出力された信号を外部へ出力する出力回路と、
通常動作モードのとき、前記第1記憶回路の出力値を記憶する第2記憶回路と、
前記第1記憶回路の故障モードを検知する故障検知回路と、
前記故障検知回路により前記第1記憶回路の故障モードが検知されると、前記第1記憶回路と前記第2記憶回路との間の信号、および前記第1記憶回路と前記出力回路との間の信号を遮断すると共に、前記信号処理回路と前記第2記憶回路との間の信号、および前記第2記憶回路と前記出力回路との間の信号を導通することで、前記信号処理回路の出力を前記第1記憶回路を経由することなく前記第2記憶回路に出力し、前記第2記憶回路から前記出力回路へ信号を出力するように信号の伝達経路を変える信号経路変更回路とを備えることを特徴とする位置検出装置。
【請求項10】
前記信号処理回路の出力値と前記第1記憶回路の出力値とを比較する第3比較回路と、
前記信号処理回路の出力値と前記第2記憶回路の出力値とを比較する第4比較回路と、を備え、
前記故障検知回路は、前記第3比較回路により前記信号処理回路の出力値と前記第1記憶回路の出力値とが異なることが検出され、前記第4比較回路により前記信号処理回路の出力値と前記第2記憶回路の出力値とが同一であることが検出された場合、前記第1記憶回路の故障モードを検知することを特徴とする請求項9に記載の位置検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−108884(P2013−108884A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254956(P2011−254956)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】