説明

位置標定システム、及び位置標定方法

【課題】定在波の存在により生じる位置標定信号の受信信号強度の低下を防ぎ、位置標定を確実に行えるようにする。
【解決手段】位置標定を行う基地局200に、位置標定信号を受信するための複数のアンテナ2151を、夫々の指向方向を同一の方向に向けて隣接して平面配置し、アンテナ2151の夫々によって受信された位置標定信号の位相差に基づき、被標定装置300の位置標定を行う位置標定部263、複数のアンテナ2151を指向方向に沿って同時に移動させるアンテナ位置制御機構217、及び、位置標定信号の受信信号強度を取得するRSSI回路216、を設ける。基地局200が、位置標定に先立ち、位置標定信号の受信信号強度を取得しつつ、複数のアンテナ2151を指向方向に沿って移動させることにより、受信信号強度が最大となる位置を特定し、その位置に複数のアンテナ2151を位置決めする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置標定システム、及び位置標定方法に関し、とくに定在波の存在によって生じる位置標定信号の受信信号強度の低下を防ぎ、位置標定を確実に行えるようにするための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、自律移動システムの研究/開発が盛んに行われている。自律移動システムに関し、例えば非特許文献1には、その要素技術として、基地局に設置した複数のアンテナから歩行者が携帯する携帯端末に無線信号を送信し、各アンテナから送信されてくる無線信号の位相差によって携帯端末とアンテナとの相対位置を求め、求めた相対位置(方向、距離)と基地局の絶対位置とから歩行者の現在位置を取得するようにした位置標定システムが開示されている。
【0003】
上記位置標定システムでは、基地局のアンテナから携帯端末に到達する直接波によって上記相対位置を標定することを前提としているため、マルチパスなどによって基地局から携帯端末に到達する直接波以外の無線信号により位置標定が行われてしまうと、標定精度が著しく低下することがある。
【0004】
そこで例えば特許文献1には、位置標定信号を受信して自身の現在位置を標定する携帯端末において、位置標定信号の受信信号強度履歴を記録し、加速度センサ等の検知値から求めた移動履歴を記録し、受信した位置標定信号の受信信号強度から第1自由空間損失を求め、受信信号強度履歴から位置標定信号の受信信号強度が最大となった位置である起点位置を求め、起点位置と移動距離/方向履歴とに基づいて、起点位置から現在位置までの距離を求め、求めた距離から位置標定信号の第2自由空間損失を求め、第1自由空間損失と第2自由空間損失とを比較することにより受信した位置標定信号が直接波であるか否かを判定し、直接波でないと判定した場合に受信した位置標定信号による位置標定を行わないようにすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−256559号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】武内 保憲,河野 公則,河野 実則、” 2.4GHz帯を用いた場所検知システムの開発”、平成17年度 電気・情報関連学会中国支部第56回連合大会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記位置標定システムにおいては、位置標定信号を送受信するためのアンテナ構成として、4つのアンテナ素子を同一平面上に配置するようにしているが、このような平面配置とした場合、同一平面内ではダイバシティ効果が期待できるが、電波伝搬方向、即ちアンテナ配置面に対して垂直な方向についてはダイバシティ効果は期待できない。
【0008】
このため、例えば、図12に示すように、アンテナ素子又は携帯端末から送信された位置標定信号の直接波と、この直接波が反射係数の大きな反射面で反射して生じた反射波とが合成されて定在波が生じ、アンテナ素子又は携帯端末が定在波の節の部分(振幅が殆どゼロとなる部分)に位置していると、位置標定信号の受信信号強度が極端に弱くなり、位置標定機能に支障が生じる場合がある。
【0009】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたもので、定在波の存在により生じる位置標定信号の受信信号強度の低下を防ぎ、位置標定を確実に行うことが可能な、位置標定システム、及び位置標定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための主たる発明は、位置標定システムであって、被標定装置から送られてくる位置標定のための無線信号を受信する、夫々の指向方向を同一の方向に向けて隣接して平面配置された複数のアンテナと、前記アンテナの夫々によって受信された前記無線信号の位相差に基づき、前記被標定装置の位置標定を行う回路を含む位置標定部と、前記複数のアンテナを前記指向方向に沿って同時に移動させるアンテナ位置制御機構と、前記無線信号の受信信号強度を取得する回路と、前記位置標定に先立ち、前記無線信号の受信信号強度を取得しつつ、前記複数のアンテナを前記指向方向に沿って移動させることにより、前記受信信号強度が最大となる位置を特定し、特定した位置に前記複数のアンテナを位置決めする、アンテナ位置制御部とを備えることとする。
【0011】
本発明によれば、定在波の存在により複数のアンテナが被標定装置に対して受信信号強度の弱い位置に存在している場合でも、被標定装置の位置標定に先立ち、無線信号の受信信号強度が最大となる位置に複数のアンテナが自動的に位置決めされる。そのため、定在波の存在によって生じる位置標定信号の受信信号強度の低下を防ぎ、位置標定を確実に行うことができる。
【0012】
本発明のうちの他の発明の一つは、位置標定システムであって、前記アンテナ位置制御部は、前記位置標定に先立ち、前記無線信号の受信信号強度を取得しつつ、前記複数のアンテナを前記指向方向に沿って前記無線信号の半波長以上の距離を移動させることにより、前記受信信号強度が最大となる位置を特定し、特定した位置に前記複数のアンテナを位置決めすることとする。
【0013】
このように複数のアンテナを指向方向に沿って無線信号の半波長以上を移動させることで、複数のアンテナの移動範囲内に必ず定在波の腹の部分(振幅が最大の部分)が含まれることになり、複数のアンテナを定在波の腹の部分に確実に位置決めすることができる。これによれば、位置標定を確実に行うことができる。
【0014】
また本発明のうちの他の発明の一つは、位置標定システムであって、前記無線信号は、その直接波とその反射波とが合成されることにより定在波を生じ、前記定在波により前記指向方向に沿って前記受信信号強度の強い場所と弱い場所とが生じることとする。
【0015】
その他、本願が開示する課題、及びその解決方法は、発明を実施するための形態の欄、及び図面により明らかにされる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、定在波の存在により生じる位置標定信号の受信信号強度の低下を防ぎ、位置標定を確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態として説明する自律移動支援システム1の概略的な構成を示す図である。
【図2A】本発明の一実施形態として説明するサーバ装置100のハードウエア構成を示す図である。
【図2B】本発明の一実施形態として説明するサーバ装置100の機能を説明する図である。
【図3A】本発明の一実施形態として説明する基地局200のハードウエア構成を示す図である。
【図3B】本発明の一実施形態として説明する基地局200の機能を説明する図である。
【図4A】本発明の一実施形態として説明する携帯端末300のハードウエア構成を示す図である。
【図4B】本発明の一実施形態として説明する携帯端末300の機能を説明する図である。
【図5】本発明の一実施形態として説明する位置標定信号のデータフォーマットを示す図である。
【図6】本発明の一実施形態として説明する、歩道等の現場における基地局200と携帯端末300の設置例を示す図である。
【図7】本発明の一実施形態として説明するアンテナ群215を構成しているアンテナ2151と携帯端末300との位置関係を説明する図である。
【図8】本発明の一実施形態として説明する現場における基地局200と携帯端末300の位置関係を示す図である。
【図9A】基地局200を上方(+Z方向)から眺めた透過側面図である。
【図9B】基地局200を水平方向(+X方向)から眺めた透過平面図である。
【図9C】基地局200を水平方向(+Y方向)から眺めた透過側面図である。
【図9D】基地局200を下方(−Z方向)から眺めた透過側面図である。
【図10】位置標定処理S1000を説明するフローチャートである。
【図11】基準位置81から移動完了位置82までのアンテナ群215を移動させた例(実線で示した軌跡)を示す図である。
【図12】直接波と反射波によって生じる定在波を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態につき詳細に説明する。図1に本発明の一実施形態として説明する自律移動支援システム1の概略的な構成を示している。自律移動支援システム1は、歩行者等の支援対象者(移動者)に対する道案内や目的地までの誘導、支援対象者への地域情報の提供、支援対象者の現在位置や移動方向等の地理的情報の第三者による監視、支援対象者の安全確保等の各種サービスを提供する。
【0019】
自律移動支援システム1は、データセンタ2などに設置されるサーバ装置100、自律移動支援システム1が展開される地域各所(電柱等)に設置される複数の基地局200、及び支援対象者3によって携帯される携帯端末300(被標定装置)を含んで構成される。基地局200は、専用線やインターネットなどの有線又は無線による通信網50を介してサーバ装置100に通信可能に接続している。通信網50を介して行われる通信のプロトコルは、例えばTCP/IPであり、サーバ装置100及び基地局200には、通信網50を介して通信を行うためのネットワークアドレス(例えばIPアドレス)が付与されている。
【0020】
図2Aにサーバ装置100のハードウエア構成を示している。同図に示すように、サーバ装置100は、CPU111、メモリ112、外部記憶装置113、入力装置114、液晶ディスプレイ等の表示装置115、通信網50に接続して基地局200と通信するための通信I/F116(I/F:Interface)を有している。
【0021】
このうちCPU111は、メモリ112に記憶されているプログラムを実行することによりサーバ装置100の各種の機能を実現する。外部記憶装置113は、不揮発性かつ大容量の記憶装置であり、例えば、ハードディスクドライブ、SSD(Solid State Drive)、光磁気記録装置等である。入力装置114は、ユーザの操作入力を受け付けるユーザインタフェースであり、キーボードやマウス等である。表示装置115は、液晶ディスプレイ等の表示装置115であり、例えば、支援対象者3の現在位置や移動方向などの情報を地図画面に重ねてリアルタイムに表示する。通信I/F116は、サーバ装置100や他の基地局200との間で通信網50介して各種情報の送受信を行う。
【0022】
図2Bにサーバ装置100の機能を示している。サーバ装置100は、基地局200から携帯端末300の現在位置等の情報を収集する。またサーバ装置100は、支援対象者3への道案内情報の提供や目的地までの誘導、現在位置周辺についての地理情報の提供、支援対象者を監視している第三者に提供される支援対象者の現在位置や移動方向、支援対象者の安全確保に関する情報等を適宜基地局200に提供する。
【0023】
図2Bにおいて、情報提供収集部121は、通信網50を介した基地局200への情報提供(ダウンロード)、及び通信網50を介した基地局200からの情報収集(アップロード)を行う。設定情報記憶部123は、基地局200が後述する位置標定機能等の機能を提供する際に利用する情報(以下、設定情報と称する)を記憶する。設定情報の一例として、携帯端末300の絶対位置を特定するために必要な情報である、基地局200の緯度、経度、設置高さがある。
【0024】
図3Aに基地局200のハードウエア構成を示している。同図に示すように、基地局200は、CPU211、メモリ212、通信I/F213、無線通信I/F214、アンテナ群215、切替スイッチ2152、RSSI回路216(RSSI : Radio Signal Strength Indicator)、及びアンテナ位置制御機構217を有している。
【0025】
このうちCPU211は、メモリ212に記憶されているプログラムを実行し、基地局200が備える各種の機能を実現する。通信I/F213は、サーバ装置100との間で通信網50を介した通信を行う。
【0026】
無線通信I/F214は、後述する位置標定に際し、携帯端末300との間で位置標定に用いる無線信号の送受信を行うインタフェースであり、例えば、携帯端末300から送られてくる、後述の位置標定信号を受信する。
【0027】
アンテナ群215には、複数の円偏波指向性アンテナ2151が含まれる。アンテナ群215の具体的な構成については後述する。また切替スイッチ2152は、アンテナ群215を構成しているいずれかのアンテナ2151を選択し、選択したアンテナ2151によって受信された無線信号を無線通信I/F214に供給する。
【0028】
RSSI回路216は、無線通信I/F214によって受信される、携帯端末300から送られてくる、後述の位置標定信号の受信信号強度(受信電界強度)を示す信号を生成/出力する。
【0029】
アンテナ位置制御機構217は、アンテナ群215と携帯端末300との間の距離(電波伝搬距離)を制御するための機構である。アンテナ位置制御機構217は、アンテナ群215が取り付けられる可動部を有し、CPU211からの指示に応じて機械制御(例えば、ステッピングモータを用いた制御)もしくは油空圧制御によって可動部を移動させることにより、アンテナ群215と携帯端末300との間の距離(伝搬路長)を変化させる。
【0030】
図3Bに基地局200の機能を示している。同図に示すように、基地局200は、通信部261、位置標定信号受信部262、位置標定部263、設定情報記憶部264、及びアンテナ位置制御部265の各機能を備える。尚、同図に示す機能は、基地局200が備えるハードウエアによって、もしくは、CPU211がメモリ212に格納されているプログラムを読み出して実行することにより実現される。
【0031】
このうち通信部261は、通信I/F213を制御してサーバ装置100との間で各種情報の送受信を行う。
【0032】
位置標定信号受信部262は、携帯端末300から送られてくる、後述の位置標定信号を受信する。
【0033】
位置標定部263は、位置標定信号受信部262によって受信された位置標定信号に基づき、携帯端末300の現在位置の標定を行う。また位置標定部263は、標定した携帯端末300の現在位置を、通信網50を介してサーバ装置100に随時送信する。
【0034】
設定情報記憶部264は、前述した設定情報を記憶する。
【0035】
アンテナ位置制御部265は、RSSI回路216から出力される位置標定信号の受信信号強度に応じてアンテナ位置制御機構217を制御し、アンテナ群215と携帯端末300との間の距離(伝搬路長)を制御する。より具体的には、アンテナ位置制御部265は、位置標定信号の受信信号強度を随時取得しつつ、アンテナ群215を構成している複数のアンテナ2151を指向方向に沿って移動させることにより、受信信号強度が最大となる位置を特定し、特定した位置にアンテナ群215を位置決めする。
【0036】
図4Aに携帯端末300のハードウエア構成を示している。同図に示すように、携帯端末300は、CPU311、メモリ312、無線通信I/F313、アンテナ314、入力装置315、及び表示装置316を有している。尚、携帯端末300は、例えば、携帯電話機等の既存のハードウエアを利用して構成することができる。
【0037】
CPU311は、メモリ312に記憶されているプログラムを実行することにより携帯端末300の各種の機能を実現する。入力装置315は、ユーザの操作入力を受け付けるインタフェースであり、例えば、タッチパネルや操作ボタンなどである。表示装置316は、文字情報、図形情報、映像情報等を表示するインタフェースであり、例えば、液晶ディスプレイなどである。
【0038】
図4Bに携帯端末300の機能を示している。同図に示すように、携帯端末300は、位置標定信号送信部331、情報送受信部332、及び情報表示部333の各機能を有する。尚、同図に示す機能は、携帯端末300が備えるハードウエアによって、もしくは、CPU311がメモリ312に格納されているプログラムを読み出して実行することにより実現される。
【0039】
携帯端末300が備える機能のうち、位置標定信号受信部331は、無線通信I/F313を制御して後述の位置標定信号を送信する。情報送受信部332は、通信網50を介してサーバ装置100と通信し、支援対象者3に提示するための情報の受信(ダウンロード)や、サーバ装置100において用いられる各種情報の送信(アップロード)を行う。情報表示部333は、支援対象者3に提示する情報を表示装置316に出力する。
<位置標定システム>
【0040】
自律移動支援システム1における携帯端末300の位置標定の仕組みは、基地局200と当該基地局200の周辺に存在する携帯端末300とを含んで構成される位置標定システム10によって実現される。以下、この位置標定システム10について詳細に説明する。
【0041】
携帯端末300の位置標定信号送信部331は、アンテナ314から基地局200のアンテナ群215に向けて位置標定の為の無線信号(以下、位置標定信号と称する。)を送信する。基地局200の無線通信I/F214は、アンテナ群215を構成している複数のアンテナ2151を周期的に切り換えながら、携帯端末300から送られてくる位置標定信号を受信する。
【0042】
図5に携帯端末300から基地局200に送信される位置標定信号のデータフォーマットを示している。同図に示すように、位置標定信号は、端末ID511及び測定信号512を含んで構成されている。このうち端末ID511には、携帯端末300ごとに付与される識別子が設定される。測定信号512は、携帯端末300の存在する方向と携帯端末300までの相対距離を検出するための情報が含まれる。
【0043】
図6に歩道等の現場における基地局200と携帯端末300の設置例を示している。同図において、携帯端末300は地上高1(m)に高さに存在し、基地局200は地上高H(m)の位置に設置されている。また基地局200の直下から携帯端末300までの距離はL(m)である。
【0044】
図7に基地局200のアンテナ群215を構成している各アンテナ2151と携帯端末300との位置関係を示している。基地局200のアンテナ群215を構成している各アンテナ2151は、夫々の指向方向を同一の方向(斜め下方向)に向けて隣接して設置される。同図に示すように、アンテナ群215は、3cm間隔(この間隔は、携帯端末300から送信される位置標定信号が2.4GHz帯の電波である場合における1/4波長(λ/4)に相当する。)で略正方形状に隣接させて配置された4つの円偏波指向性アンテナを有している。
【0045】
同図に示すように、アンテナ群215の高さ位置における水平方向とアンテナ群215に対する携帯端末300の方向とのなす角をαとすれば、
α=arcTan(D(m)/L(m))=arcSin(ΔL(cm)/3(cm))
となる。ここでΔL(cm)は、アンテナ群215を構成しているアンテナ2151のうちの特定の2基と携帯端末300との間の伝搬路長差である。
【0046】
アンテナ群215を構成している特定の2基のアンテナ2151から送信される位置標定信号の位相差をΔθとすれば、上記ΔLは、
ΔL(cm)=Δθ/2π/λ(cm)
となる。携帯端末300から送信される位置標定信号が、例えば、2.4GHz帯の電波である場合には、λ≒12(cm)であるので、
α=arcSin(2Δθ/π)
となる。
【0047】
また測定可能範囲(−π/2<Δθ<π/2)ではα=Δθ(ラジアン)であるので、上式から基地局200が存在する方向を特定することができる。
【0048】
次に上記結果を利用して携帯端末300の位置を標定する方法について説明する。
【0049】
図8に図6に例示したような現場における、基地局200と携帯端末300の位置関係を例示している。同図に示すように、基地局200のアンテナ群215の地上高をH(m)、携帯端末300の地上高をh(m)、基地局200の直下の地表面の位置を原点として直交座標軸(X軸、Y軸)を設定した場合における、基地局200から携帯端末300の方向とX軸とがなす角をΔΦ(x)、基地局200から携帯端末300の方向とY軸とがなす角をΔΦ(y)とすると、原点に対する携帯端末300の位置は次式から求められる。
Δd(x)=(H−h)×Tan(ΔΦ(x))
Δd(y)=(H−h)×Tan(ΔΦ(y))
【0050】
ここで原点の位置を(X1,Y1)とすれば、携帯端末300の現在位置(Xx,Yy)は、
Xx=X1+Δd(x)
Yy=Y1+Δd(y)として求められる。
【0051】
尚、以上に説明した位置標定の基本原理や仕組みについては、例えば、特開2004−184078号公報、特開2005−351877号公報、特開2005−351878号公報、及び特開2006−23261号公報等に詳述されている。
【0052】
図9A乃至図9Dに基地局200の具体的な構成を示している。このうち図9Aは、所定位置に設置されている基地局200を上方(+Z方向)から眺めた透過側面図であり、図9Bは、基地局200を水平方向(+X方向)から眺めた透過平面図である。また図9Cは、基地局200を水平方向(+Y方向)から眺めた透過側面図であり、図9Dは、基地局200を下方(−Z方向)から眺めた透過側面図である。尚、これらの図では構成の一部を省略して描いている場合がある。
【0053】
図9Cに示すように、基地局200の各構成要素は、アルミなどの導体の素材からなる筐体411に収容されている。筐体411は、図示しない構造物(例えば電柱)に適宜な固定部材412(固定板、やり出し部材、ネジ、ボルト等)を介して固定されている。
【0054】
図9A乃至図9Dに示すように、筐体411内には、アンテナ群215、アンテナ位置制御機構217、本体ユニット413、電源部414などが設けられている。
【0055】
このうち本体ユニット413には、前述したCPU211、メモリ212、通信I/F213、無線通信I/F214、切替スイッチ2152、RSSI回路216などが収容されている。また電源部414には、基地局200のハードウエアを動作させるために必要な電力を供給する、AC/DCコンバータや電池などの電源が収容されている。尚、本体ユニット413や電源部414は必ずしもアンテナ群215と同じ位置に設ける必要はなく、遠隔した位置に設置してもよい。
【0056】
アンテナ群215を構成している各アンテナ2151は、例えば、図7に示す位置関係で夫々の指向方向を同一の方向に向けて隣接配置されており、これらはアンテナ位置制御機構217の構成要素である図示しない台座に固定されている。アンテナ位置制御機構217は、ステッピングモータ等の制御機構により上記台座を移動させることにより、アンテナ群215を構成している複数のアンテナ2151を指向方向に沿って同時に移動させる。
【0057】
次に、基地局200において行われる、携帯端末300の現在位置を標定する処理(以下、位置標定処理S1000と称する。)について説明する。
【0058】
図10は、位置標定処理S1000を説明するフローチャートである。位置標定処理S1000は、例えば、基地局200が携帯端末300から送信される位置標定信号を受信した場合(受信信号強度が所定の閾値以上である位置標定信号を受信した場合)、基地局200がサーバ装置100から携帯端末300の位置の報告要求を受信した場合、などを契機として開始される。以下、同図とともに説明する。
【0059】
まず基地局200は、アンテナ位置制御機構217を制御し、予め設定された基準位置にアンテナ群215の位置を移動させる(S1011)。ここでこの基準位置は、例えば、アンテナ位置制御機構217によって制御可能なアンテナ群215の可変域の一端や、後述する、予め設定されたアンテナ群215の移動範囲の中点などに設定される。
【0060】
次に基地局200は、基準位置を始点として、アンテナ位置制御機構217によるアンテナ群215の移動制御(スキャン)を開始する(S1012)。基地局200は、アンテナ群215を移動させている間、携帯端末300から送られてくる位置標定信号の受信信号強度を随時(例えば、周期的、リアルタイム等)取得する(S1013)。そして基地局200は、取得した受信信号強度を、その取得時におけるアンテナ群215の位置を示す情報(例えば、基準位置からの相対位置で示される。)と対応づけてメモリ212に記憶する(S1014)。
【0061】
基地局200は、受信信号強度と対応づけて記憶する、移動中のアンテナ群215の上記位置を、例えば、アンテナ位置制御機構217の制御量(例えば、ステッピングモータの制御量)に基づき取得する。尚、例えば、位置検知センサ、加速度センサ、ポテンショメータなどの他の位置測定手段を利用してアンテナ群215の位置を取得するようにしてもよい。
【0062】
アンテナ群215を移動させている間、基地局200は、アンテナ群215が基準位置を始点として移動を開始してから、予め設定されているアンテナ群215の移動範囲(以下、スキャン範囲と称する。)の全てについて移動が完了したか否かを随時判断する(S1015)。
【0063】
ここでスキャン範囲は、好ましくは位置標定信号の半波長(λ/2)以上の長さに設定する。スキャン範囲をそのような長さに設定することで、基準位置が定在波のどのよう位置に存在していても、定在波の腹の部分が必ずスキャン範囲に含まれることとなり、後述するアンテナ群215の位置設定処理S1016において、アンテナ群215の位置を定在波の腹の位置に設定することが可能となる。尚、定在波の波長は直接波の波長と同じである。
【0064】
スキャン範囲の全てについて移動を完了していなければ(S1015:NO)、S1013に戻り処理を継続する。一方、スキャン範囲の全てについて移動を完了した場合には(S1015:YES)、S1016に進む。図11にアンテナ群215を基準位置81から移動完了位置82まで移動させた例(実線で示した軌跡)を示す。
【0065】
S1016では、基地局200は、メモリ212に記憶している、アンテナ群215の位置を示す情報と位置標定信号の受信信号強度との対応に基づき、スキャン範囲内において、携帯端末300から送られてくる位置標定信号の受信信号強度が最大の位置を特定する。
【0066】
次に基地局200は、S1016にて特定した、位置標定信号の受信信号強度が最大となる位置(定在波の腹の位置)に、アンテナ群215を移動させ(S1017)、位置標定信号に基づく携帯端末300の現在位置の標定を行う(S1018)。そして基地局200は、標定の結果(携帯端末300の現在位置を示す情報)を、通信網50を介してサーバ装置100に送信する(S1019)。
【0067】
以上に説明したように、本実施形態の仕組みによれば、定在波の存在によりアンテナ群215が携帯端末300に対して位置標定信号の受信信号強度の弱い位置に存在している場合でも、携帯端末300の位置標定に先立ち、位置標定信号の受信信号強度が最大となる位置にアンテナ群215が自動的に位置決めされる。このため、位置標定を確実に行うことができる。
【0068】
またアンテナ群215を指向方向に沿って位置標定信号の半波長以上を移動させるようにする(スキャン範囲を位置標定信号の半波長以上に設定する。)ことで、アンテナ群215の移動範囲内に必ず定在波の腹(振幅が最大の部分)が含まれることとなり、アンテナ群215を定在波の腹の部分に確実に位置決めすることができる。
【0069】
また例えば、位置標定信号が2.4GHz帯の電波である場合、その半波長は6cm程度であるので、アンテナ位置制御機構217として小型のものを採用することができ、本実施形態の仕組みを導入しても、システム構成を肥大化させることはない。
【0070】
尚、位置標定は、携帯端末300と各アンテナ2151との相対的な位置の差に基づく位置標定信号の位相差の違いを利用して行われるので、複数のアンテナ2151をアンテナ群215として一体的に移動させている限り、アンテナ群215を移動させることによる誤差は基本的に生じない。
【0071】
ところで、以上の実施形態の説明は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
【0072】
例えば、以上に説明した仕組みは、自律移動支援システム1に適用する場合に限られず、携帯端末300や基地局200の周囲に位置標定信号の反射率が高い物体が存在する環境(鉄筋コンクリート製の建造物の側や内部、床面に高反射率の素材が用いられている場所等)で位置標定システムを利用する様々な場合に適用することができる。例えば物流業務等において、キャスターやパレット等に搭載される、(携帯端末300の位置標定信号送信部331に相当する機能を搭載した)積荷の現在位置の標定を屋内で行うような場合には、位置標定信号が、床面や壁面、積荷等で反射し定在波を生じやすいが、本発明を適用することで積荷の現在位置を安定して確実に標定することができる。
【0073】
受信信号強度が最大となる位置を求める方法は、必ずしも前述した方法に限られない。またアンテナ群215は必ずしも受信信号強度が最大となる位置に位置決めしなくてもよく、少なくとも受信信号強度が現在よりも強くなる位置にアンテナ群215を移動させる構成であってもよい。また位置標定を迅速に行う必要がある場合には、位置標定が可能な閾値以上の受信信号強度が得られる位置を見つけると直ちにその位置に位置決めして位置標定を開始するようにしてもよい。
【0074】
アンテナ群215は必ずしも連続的に移動させなくてもよい。例えば所定の範囲をランダムに移動させ、その結果、現在よりも受信信号強度が強くなる位置が見つかれば直ちにその位置に位置決めして位置標定を開始するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0075】
10 位置標定システム
200 基地局
216 RSSI回路
217 アンテナ位置制御機構
262 位置標定信号受信部
263 位置標定部
265 アンテナ位置制御部
300 携帯端末
331 位置標定信号送信部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被標定装置から送られてくる位置標定のための無線信号を受信する、夫々の指向方向を同一の方向に向けて隣接して平面配置される複数のアンテナと、
前記アンテナの夫々によって受信された前記無線信号の位相差に基づき、前記被標定装置の位置標定を行う回路を含む位置標定部と、
前記複数のアンテナを前記指向方向に沿って同時に移動させるアンテナ位置制御機構と、
前記無線信号の受信信号強度を取得する回路と、
前記位置標定に先立ち、前記無線信号の受信信号強度を取得しつつ、前記複数のアンテナを前記指向方向に沿って移動させることにより、前記受信信号強度が最大となる位置を特定し、特定した位置に前記複数のアンテナを位置決めする、アンテナ位置制御部と
を備えることを特徴とする位置標定システム。
【請求項2】
請求項1に記載の位置標定システムであって、
前記アンテナ位置制御部は、前記位置標定に先立ち、前記無線信号の受信信号強度を取得しつつ、前記複数のアンテナを前記指向方向に沿って前記無線信号の半波長以上の距離を移動させることにより、前記受信信号強度が最大となる位置を特定し、特定した位置に前記複数のアンテナを位置決めする
ことを特徴とする位置標定システム。
【請求項3】
請求項1に記載の位置標定システムであって、
前記無線信号は、その直接波とその反射波とが合成されることにより定在波を生じ、前記定在波により前記指向方向に沿って前記受信信号強度の強い場所と弱い場所とが生じる
ことを特徴とする位置標定システム。
【請求項4】
被標定装置の位置標定を行う基地局に、
前記位置標定のための無線信号を受信するための複数のアンテナを、夫々の指向方向を同一の方向に向けて隣接して平面配置し、
前記アンテナの夫々によって受信された前記無線信号の位相差に基づき、前記被標定装置の位置標定を行う回路、前記複数のアンテナを前記指向方向に沿って同時に移動させるアンテナ位置制御機構、及び、前記無線信号の受信信号強度を取得する回路を設け、
前記基地局が、前記位置標定に先立ち、前記無線信号の受信信号強度を取得しつつ、前記複数のアンテナを前記指向方向に沿って移動させることにより、前記受信信号強度が最大となる位置を特定し、特定した位置に前記複数のアンテナを位置決めする
ことを特徴とする位置標定方法。
【請求項5】
請求項4に記載の位置標定方法であって、
前記基地局は、前記位置標定に先立ち、前記無線信号の受信信号強度を取得しつつ、前記複数のアンテナを前記指向方向に沿って前記無線信号の半波長以上の距離を移動させることにより、前記受信信号強度が最大となる位置を特定し、特定した位置に前記複数のアンテナを位置決めする
ことを特徴とする位置標定方法。
【請求項6】
請求項4に記載の位置標定方法であって、
前記無線信号は、その直接波とその反射波とが合成されることにより定在波を生じ、前記定在波により前記指向方向に沿って前記受信信号強度の強い場所と弱い場所とが生じる
ことを特徴とする位置標定方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図9D】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−42386(P2012−42386A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185212(P2010−185212)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】