説明

位置決め制御装置および位置決め制御方法

【課題】超音波モータを用いた位置決め装置に用いられ、移動体を移動プロファイルにしたがって精度よく移動させる位置決め制御装置を提供する。
【解決手段】位置決め装置100において、スライダ50を超音波モータ10による摩擦駆動によって目標位置へ移動させて位置決めするために、位置センサ30bにより測定されるスライダ50の位置データを用いて超音波モータ10を制御する制御装置20は、超音波モータ10の駆動周波数と位置センサ30bによる位置データのサンプリング周波数とのエリアシング周波数の成分を、位置センサ30bにより測定されるスライダ50の位置データからカットするためのフィルタ25を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波モータを用いて移動体を目標位置へ移動させる位置決め装置等に用いられる位置決め制御装置および位置決め制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
X−Yステージ等の移動体を所定位置へ移動させて位置決めするシステムとして、移動体との間に作用する摩擦力を利用して移動体を移動させる超音波モータを用いたものが知られている。
【0003】
図5に、超音波モータを用いた従来の移動ステージ装置の概略構成と制御ブロックを示す。この移動ステージ装置は、ステージ91と、ステージ91を移動させる超音波モータ99と、ステージ91の実位置を検出する位置センサ(エンコーダ)92と、ステージ91を移動させる目標位置を入力するための操作盤94と、操作盤94に入力された目標位置にしたがって超音波モータ99を駆動するための制御装置93とを備えている。
【0004】
この制御装置93は、移動体を目標位置へ一定時間で移動させるための位置指示量を含む移動プロファイルを作成する指示値発生部97と、位置センサ92によって検出されたステージ91の位置データと指示値発生部97から送信された位置指示値との偏差を基にしてPID演算処理を行うことによって超音波モータ99の制御信号を計算する制御量計算部98と、を有する信号発生部95を備えている。また、制御装置93は、制御量計算部98により得られた制御信号を超音波モータ99の駆動信号(すなわち、電圧信号)に変換する信号調整部96を備えている。
【0005】
超音波モータ99としては、ステージ91に所定の力で押圧されたヘッドに楕円振動を生じさせるものが用いられる(例えば、特許文献1参照)。この楕円振動とは、ステージ91を押圧する方向の成分とステージ91の移動方向の成分とが周期的に変化することにより、ヘッドが一定の楕円軌跡を描くように振動(運動)ことを指す。
【0006】
特許文献1に開示された超音波モータは、ここでの図示は省略するが、ステージ91に当接させるためのヘッドと、このヘッドにその伸縮方向が一定角度で交差するように取り付けられた2個の圧電素子と、これら2個の圧電素子を保持する保持部材と、ヘッドをステージ91に押し付ける予圧機構とを備えており、2個の圧電素子に、例えば、位相が90°ずれた共振周波数の電圧を印加することにより、ヘッドに楕円運動を生じさせる。
【0007】
この超音波モータ99では、ヘッドが楕円軌道のステージ側を通るときに、ヘッドとステージ91との間の摩擦力によって、ステージ91はヘッドが楕円軌道の上側を移動する方向へ移動する。一方、ヘッドがその反対側を通るときには、予圧機構がヘッドの動きに追従できずにヘッドとステージ91との間に作用する摩擦力がなくなるために、ステージ91は逆戻りしない。
【0008】
こうして超音波モータ99がステージ91を移動させる際には、ヘッドの振動がステージ91に少なからず伝播される。そのため、例えば、ステージ91の固有値が100Hz付近にあるのに対し、超音波モータ99の振動周波数(駆動周波数)が数十kHzであり、これらの間に大きな差がある場合でも、わずかながら超音波モータの駆動周波数でステージが振動し、その振動がステージ91の位置情報の変動として位置センサ92によって測定される位置データに乗ることがある。
【0009】
このようにして位置データに超音波モータ99の振動に伴う変動成分が乗ってしまうと、ステージ91の移動制御に悪影響を及ぼすおそれがある。特に、超音波モータの振動による変動成分は、他の振動等の変動成分と比べて周波数が高い為に、位置センサ92が測定した位置データから速度データや加速度データを計算して超音波モータ99の制御に用いる場合には、超音波モータ99の振動による変動成分が増幅され、本来の速度データや加速度データが増幅された変動成分(つまり、ノイズ)に埋もれてしまうおそれがある。
【0010】
そのようになってしまうと、ステージ91を作成した移動プロファイルに従って精度よく移動させることができなくなり、位置決め精度も低下する。このような位置決め精度の低下は、ナノメールオーダーでの位置決め制御が要求される移動ステージ、例えば、半導体製造装置に用いられるステージ装置では、特に深刻な問題となる。
【特許文献1】特開2000−152671号公報(第1図等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、超音波モータを用いた位置決め装置に用いられ、移動体を移動プロファイルにしたがって精度よく移動させ、また、精密な位置決めを可能とする位置決め制御装置および位置決め制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の観点によれば、移動体を超音波モータによる摩擦駆動によって所定位置へ移動させて位置決めするために、位置センサにより測定される移動体の位置データを用いて前記超音波モータを制御する位置決め制御装置であって、
超音波モータの駆動周波数と位置センサによる位置データのサンプリング周波数とのエリアシング周波数の成分を、前記位置センサにより測定される移動体の位置データからカットするためのフィルタを具備することを特徴とする位置決め制御装置が提供される。
【0013】
本発明の第2の観点によれば、移動体を超音波モータによる摩擦駆動によって所定位置へ移動させて位置決めするために、位置センサにより測定される移動体の位置データを用いて前記超音波モータを制御する位置決め制御装置であって、
移動体を目標位置へ一定の時間で移動させるための位置指示値を生成する指示値発生部と、
超音波モータの駆動周波数と位置センサによる位置データのサンプリング周波数とのエリアシング周波数の成分を、前記位置センサにより測定される移動体の位置データと前記指示値発生部で生成された位置指示値とから求められた超音波モータの制御量からカットするためのフィルタと、を具備することを特徴とする位置決め制御装置が提供される。
【0014】
これらの位置決め制御装置において、フィルタとしては、超音波モータの駆動周波数と位置センサによる位置データのサンプリング周波数とのエリアシング周波数を中心周波数とするノッチフィルタが好適に用いられる。または、超音波モータの駆動周波数と位置センサによる位置データのサンプリング周波数とのエリアシング周波数を算出し、フィルタの周波数カット特性を決めるフィルタ定数算出部をさらに具備する構成とすることも好ましい。
【0015】
本発明の第3の観点によれば、上記第1の観点に係る位置決め制御装置により実行され位置決め制御方法であり、逆に言えば、その位置決め制御装置の構成を得るための位置決め制御方法、すなわち、移動体を超音波モータによる摩擦駆動によって所定位置へ移動させて位置決めする位置決め制御方法であって、
移動体を目標位置へ移動させる位置指示値を作成し、
移動体の実際の位置を一定のサンプリング周波数で測定し、
測定された実際の移動体の位置データから、超音波モータの駆動周波数と前記位置データのサンプリング周波数とのエリアシング周波数の成分をカットし、
こうして得られた位置データと前記位置指示値とから超音波モータを駆動するための制御量を求め、
その制御量を電圧値に変換して超音波モータに印加することを特徴とする位置決め制御方法が提供される。
【0016】
本発明の第4の観点によれば、上記第2の観点に係る位置決め制御装置により実行され位置決め制御方法であり、逆に言えば、その位置決め制御装置の構成を得るための位置決め制御方法、すなわち、移動体を超音波モータによる摩擦駆動によって所定位置へ移動させて位置決めする位置決め制御方法であって、
移動体を目標位置へ移動させる位置指示値を作成し、
移動体の実際の位置を一定のサンプリング周波数で測定し、
測定された実際の移動体の位置データと前記位置指示値とから超音波モータの制御量を求め、
こうして求めた超音波モータの制御量から、超音波モータの駆動周波数と前記位置データのサンプリング周波数とのエリアシング周波数の成分をカットすることにより、超音波モータを駆動するための新たな制御量を求め、
この新たな制御量を電圧値に変換して超音波モータに印加することを特徴とする位置決め制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る位置決め制御装置および位置決め制御方法では、移動体が超音波モータから振動を受けることによって移動体に位置変動が生じても、その位置変動が制御へ与える悪影響を排除することができる。これにより、移動体を、移動プロファイルにしたがって精度よく移動させ、精密に位置決めすることができるようになるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。図1に位置決め装置100の概略構成を示す。この位置決め装置100は、移動体たるスライダ50と、スライダ50を移動させるための超音波モータ10と、スライダ50の移動/位置決めの制御のために超音波モータ10の駆動制御を行う位置決め制御装置(以下「制御装置」という)20と、スライダ50をX方向にスライド自在に保持するガイド30aと、スライダ50の位置を検出する位置センサ30bと、スライダ50の移動位置等を指令するための操作盤40とを備えている。
【0019】
ここでは、超音波モータ10として、スライダ50に当接するヘッド11と、ヘッド11を駆動するための圧電素子12a,12bと、圧電素子12a,12bを保持するための保持部材13とを備えた構造のものを示している。なお、図1に示す符号14aはバネ等の付勢部材であり、この付勢部材14aは、ヘッド11とスライダ50との間にスライダ50を移動させるために必要な摩擦力が生じるようにヘッド11を一定の力でスライダ50に押し付けている。また、図1に示す符号14bもまたバネ等の付勢部材であり、2個の付勢部材14bは保持部材13のX方向でのぶれやずれを防止している。
【0020】
ヘッド11は、耐摩耗性に優れるエンジニアリングセラミックス(例えば、アルミナ、窒化珪素等)からなる。圧電素子12a,12bには、所謂、積層型圧電アクチュエータであり、電圧の印加によって生じる伸縮方向が一定角度(例えば、30度〜90度)で交差するように、伸縮方向端の一方がヘッド11に取り付けられ、伸縮方向端の他方が保持部材13の側壁部内面に取り付けられている。保持部材13は、例えば、エンジニアプラスチックや金属からなる。
【0021】
超音波モータ10の駆動は、圧電素子12a,12bに位相が90度ずれた共振周波数電圧を印加することにより行われ、これによりヘッド11に楕円振動を生じさせて、スライダ50を摩擦駆動する。スライダ50はガイド30aに沿ってX方向に移動自在である。
【0022】
位置センサ30bは、例えば、スライダ50のX方向位置(座標)を測定するための光学式センサヘッドと、光学式センサヘッドの検出信号をデジタル信号からなる位置データを得るエンコーダとを備えている。例えば、光学式センサヘッドからは一定周波数のパルスレーザが発射され、その反射光を一定の周波数でサンプリングすることによって、位置データが得られる。この位置データはデジタデータであり、エンコーダから制御装置20へと出力される。
【0023】
操作盤40から制御装置20へは、オペレータがスライダ50を移動させる目標位置を入力することによりあるいは所定の作業プログラムの進行にしたがって自動的に、スライダ50を目標位置へ移動させる移動指示値が送信される。
【0024】
制御装置20のより詳細な構成を図2に示す。制御装置20は、超音波モータ10を駆動するための信号を作成する信号発生部21と、信号発生部21で作成した駆動信号を、実際に超音波モータ10を駆動するための電圧信号に変換するアンプたる信号調整部22を備えている。
【0025】
信号発生部21は、1または複数の演算素子(プロセッサ;CPU)と、種々の処理を実行するための制御・計算プログラムが記憶された不揮発性半導体メモリ(ROM)と、操作盤40,位置センサ30bから入力された各種データや制御・計算プログラムにより計算されたデータ等を一時的に記憶する揮発性半導体メモリ(RAM)等を備えており、所定のプログラムの実行により、以下に説明する指示値発生部23,制御量計算部24,フィルタ25としてのそれぞれの処理機能が発現する。
【0026】
信号発生部21は、スライダ50を目標位置へ移動させるという操作盤40からの移動指示値に基づいて、スライダ50を目標位置へ移動させるための移動プロファイルを作成する指示値発生部23を有している。この移動プロファイルは、超音波モータ10の動作能力に基づいて、スライダ50を目標位置へ到達させるまでに必要な時間を定め、その時間内において、一定時間ごとにスライダ50をどの位置にまで移動させるのかを示す位置指示値を含んでいる。
【0027】
信号発生部21はまた、超音波モータ10の駆動周波数と位置センサ30bによる位置データのサンプリング周波数とのエリアシング周波数の成分(すなわち、位置センサ30bによって得られるスライダ50の位置データに含まれる超音波モータ10の振動による変動成分)を、位置センサ30bにより測定されるスライダ50の位置データからカットするためのフィルタ25、すなわちノッチフィルタを有している。このフィルタ25としては、このエリアシング周波数のみでなく、エリアシング周波数を中心とした一定範囲の周波数成分をカットするものが好適である。超音波モータ10の駆動周波数(共振周波数)と位置センサ30bにおける位置データのサンプリング周波数は既知であるので、エリアシング周波数は計算により求めることができる。
【0028】
信号発生部21はさらに、指示値発生部23で作成した位置指示値と、フィルタ25を通して得られた位置データ(以下「補正位置データ」という)とから、超音波モータ10を駆動するための制御量を計算する制御量計算部24を備えている。
【0029】
例えば、スライダ50の移動制御には、位置制御と速度制御とが組み合わせて用いられる。このため、制御量計算部24は、指示値発生部23で作成した位置指示値と補正位置データとを用いて位置偏差に基づく制御量を求め、指示値発生部23で作成した位置指示値の時間微分により求められる速度指示値と、補正位置データの時間微分により求められる速度データとを用いて速度偏差に基づく制御量を求め、これら位置偏差と速度偏差に基づく制御量をPID演算することにより、超音波モータ10の駆動信号を計算する。
【0030】
このように構成された位置決め装置100では、スライダ50を移動させる目標位置が操作盤40から指示値発生部23に入力されると、指示値発生部23で位置指示値を含む移動プロファイルが作成され、この位置指示値に基づいて制御量計算部24は速度指示値を計算する。一方、スライダ50の実際の位置を位置センサ30bが一定のサンプリング周波数で測定する。こうして測定されたスライダ50の位置データから、超音波モータ10の駆動周波数と位置データのサンプリング周波数とのエリアシング周波数の成分が、フィルタ25によりカットされる。
【0031】
このようにして得られた補正位置データに基づいて制御量計算部24は速度データを計算する。制御量計算部24はさらに、位置指示値と補正位置データとから位置偏差に基づく制御量を求め、また、速度指示値と速度データとから速度偏差に基づく制御量を求め、これらの制御量のPID演算により超音波モータ10の駆動信号を求める。
【0032】
この駆動信号は、信号調整部22により電圧信号に変換されて超音波モータ10の圧電素子12a,12bに印加される。圧電素子12a,12bの駆動によりヘッド11に楕円振動が発生し、スライダ50をX方向の所定の向きに移動させる。
【0033】
このような制御におけるフィルタ25の役割についてより詳細に説明する。図3Aに、先に従来技術として説明した図5の制御装置(つまり、図2の制御装置20からフィルタ25を除外した構造を有するもの)を用いて、スライダ50の速度を、初速0mm/secの状態から200msec後に速度80mm/secへと直線的に増加させる移動プロファイル(図3A中の直線)にしたがって、スライダ50を加速させたときのスライダ50の位置データを位置センサ30bによって測定し、得られた位置データから速度データを求めた結果を示す。ここで、超音波モータ10の駆動周波数は38.314kHzであり、位置センサ30bのサンプリング周波数は10kHzである。
【0034】
この図3Aからスライダ50の速度変動が大きいことがわかる。そこで、この速度変動を小さく抑えるには、一般的に加速度制御が用いられる。そこで、この速度データの時間微分により加速度データを求めると、図3Bに示されるように、超音波モータ10の振動による大きな変動成分が含まれており、実際の加速度(後に示す図3Dに記載されたものと同等のもの)は、この変動成分に埋もれてしまっている。
【0035】
図3Cは、この加速度データのFFT(高速フーリエ変換)アナライザによる周波数分析結果を示すチャートである。図3Cより、図3Bの加速度データに含まれる大きな変動は1.685kHzであり、これは超音波モータ10の駆動周波数と位置センサ30bのサンプリング周波数によるエリアシングによって生じた周波数成分であることが、10kHz×4−38.314=1.686kHz≒1.685kHz、よりわかる。
【0036】
そこで、位置センサ30bが測定した位置データからエリアシング周波数の成分をカットし、こうして得られた補正位置データから速度データを求め、さらに速度データから加速度データを求めた結果を図3D,3Eに示す。これら図3D,3Eに示すように、抽出したい加速度データが得られることが確認された。なお、図3Eは時間20msec〜40msecの範囲の拡大図であり、エリアシング周波数の成分カット前後での加速度データを重ねて示している。
【0037】
そこで次に、図2の制御装置20であって、1.686kHzを中心とする成分、例えば、1.602kHz〜1.770kHzの成分をカットするフィルタ25を有するものを用いて、スライダ50を図3Aに示す移動プロファイルで移動させたときに得られた速度データを、図3Fに示す。この図3Fに示されるように、位置データからエリアシング周波数の成分を除去した制御を行うことにより、速度変動が小さく抑えられていることがわかる。このことは、ひいては、スライダ50を停止させる際の位置決め精度を高めることにつながる。
【0038】
次に、別の実施形態に係る,信号発生部21Aを有する制御装置20Aについて図4を参照しながら説明する。この制御装置20Aが先に説明した図2の制御装置20と異なる点は、超音波モータ10の駆動制御が位置偏差に基づく制御のみにより行われることと、フィルタ25で除去するエリアシング周波数の決定がフィルタ定数算出部26により行われることと、フィルタ25の挿入位置である。以下、これらについて説明する。
【0039】
フィルタ定数算出部26は、位置センサ30bのサンプリング周波数と超音波モータ10の駆動周波数とから、エリアシング周波数を、例えば、先に示した数式(エリアシング周波数=サンプリング周波数×n−駆動周波数(n:自然数))により求める。
【0040】
制御装置20Aでは、位置センサ30bにより測定された実際のスライダ50の位置データと指示値発生部23で作成した位置指示値とに基づいて超音波モータ10の制御量を求めた後に、この制御量からエリアシング周波数の成分を除去する位置にフィルタ25が挿入されている。
【0041】
先に図2を参照して説明した制御装置20では、フィルタ25を位置センサ30bと制御量計算部24との間に設けたが、位置偏差に基づく制御量により超音波モータ10を駆動する場合には、このような位置にフィルタ25を設けることが可能である。この場合、フィルタ25は、デジタル信号処理により、超音波モータの制御量からエリアシング周波数の成分を除去する。
【0042】
図4に示す制御装置20Aを用いてスライダ50を目標位置に移動させる場合、最初に目標位置が操作盤40から指示値発生部23に入力されると、指示値発生部23で位置指示値を含む移動プロファイルが作成され、この位置指示値が制御量計算部24に入力される。一方、スライダ50の実際の位置を位置センサ30bが一定のサンプリング周波数で測定し、その位置データが制御量計算部24に入力される。
【0043】
制御量計算部24は位置指示値と位置データとから位置偏差に基づく制御量を求め、これをPID演算することにより、超音波モータ10の制御量を求めた後、これをフィルタ25に通すことにより、超音波モータ10の制御量からエリアシング周波数の成分がカットされ、超音波モータ10の新たな制御量が得られる。なお、フィルタ25においてカットされるエリアシング周波数は、超音波モータ10の駆動周波数と位置センサ30bのサンプリング周波数とから予め求められている。
【0044】
この新たな制御量は、信号調整部22において電圧信号に変換されて超音波モータ10を構成する圧電素子12a,12bに印加される。このような処理によっても、位置偏差による制御量を正確に計算することができるので、スライダ50を位置精度よく移動させることができる。
【0045】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこのような形態に限定されるものではない。例えば、エリアシング周波数が既知の場合に、一定の回路構成によりそのエリアシング周波数の成分をカットするように動作するフィルタ(回路)を、位置センサから制御装置への信号伝達路の中間(制御装置20外であってもよい)、または、制御量算出部24から信号調整部22への信号伝達路の中間に設けることができる。
【0046】
超音波モータは、図1に示される構造のものに限定されるものはなく、スライダ等の移動体との接触部が楕円軌道を描くように運動することで移動体を所定方向へ移動させる超音波モータであれば、その構造は問わない。
【0047】
具体的には、矩形圧電板と、この矩形圧電板の短辺に設けられたヘッドと、矩形圧電板の一方の主面に2行2列に形成されて対角にあるものどうしが接続されて形成された2組の駆動電極と、矩形電極板の他方の主面に形成された共通電極と、ヘッドをステージ91に押し付ける予圧機構と有しており、これら2組の駆動電極に、例えば、位相が90°ずれた共振周波数の電圧を印加することにより、ヘッドに楕円運動を生じさせる超音波モータを用いることもできる。
【0048】
さらに本発明は、円盤等の回転体の駆動に超音波モータを用いた位置決め装置にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】位置決め装置の概略構造を示す平面図。
【図2】超音波モータの制御形態を示すブロック図。
【図3A】図5に示す制御装置によるスライダの速度データグラフ。
【図3B】図3Aの速度データから求めた加速度データグラフ。
【図3C】図3Bの加速度データのFFT周波数分析結果を示すチャート。
【図3D】位置センサによる位置データからエリアシング周波数の成分をカットして得られた補正位置データから求めた加速度データグラフ。
【図3E】図3Dの部分拡大図。
【図3F】図2に示す制御装置によるスライダの速度データグラフ。
【図4】超音波モータの別の制御形態を示すブロック図。
【図5】超音波モータの従来の制御形態を示すブロック図。
【符号の説明】
【0050】
10…超音波モータ、11…ヘッド、12a・12b…圧電素子、13…保持部材、14a・14b…付勢部材、20…制御装置、21・21A…信号発生部、22…信号調整部、23…指示値発生部、24…制御量計算部、25…フィルタ、26…フィルタ定数算出部、30a…ガイド、30b…位置センサ、40…操作盤、50…スライダ、100…位置決め装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体を超音波モータによる摩擦駆動によって所定位置へ移動させて位置決めするために、位置センサにより測定される移動体の位置データを用いて前記超音波モータを制御する位置決め制御装置であって、
超音波モータの駆動周波数と位置センサによる位置データのサンプリング周波数とのエリアシング周波数の成分を、前記位置センサにより測定される移動体の位置データからカットするためのフィルタを具備することを特徴とする位置決め制御装置。
【請求項2】
移動体を超音波モータによる摩擦駆動によって所定位置へ移動させて位置決めするために、位置センサにより測定される移動体の位置データを用いて前記超音波モータを制御する位置決め制御装置であって、
移動体を目標位置へ一定の時間で移動させるための位置指示値を生成する指示値発生部と、
超音波モータの駆動周波数と位置センサによる位置データのサンプリング周波数とのエリアシング周波数の成分を、前記位置センサにより測定される移動体の位置データと前記指示値発生部で生成された位置指示値とから求められた超音波モータの制御量からカットするためのフィルタと、を具備することを特徴とする位置決め制御装置。
【請求項3】
前記フィルタは、超音波モータの駆動周波数と位置センサによる位置データのサンプリング周波数とのエリアシング周波数を中心周波数とするノッチフィルタであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の位置決め制御装置。
【請求項4】
超音波モータの駆動周波数と位置センサによる位置データのサンプリング周波数とのエリアシング周波数を算出し、前記フィルタの周波数カット特性を決めるフィルタ定数算出部をさらに具備することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の位置決め制御装置。
【請求項5】
移動体を超音波モータによる摩擦駆動によって所定位置へ移動させて位置決めする位置決め制御方法であって、
移動体を目標位置へ移動させる位置指示値を作成し、
移動体の実際の位置を一定のサンプリング周波数で測定し、
測定された実際の移動体の位置データから、超音波モータの駆動周波数と前記位置データのサンプリング周波数とのエリアシング周波数の成分をカットし、
こうして得られた位置データと前記位置指示値とから超音波モータを駆動するための制御量を求め、
その制御量を電圧値に変換して超音波モータに印加することを特徴とする位置決め制御方法。
【請求項6】
移動体を超音波モータによる摩擦駆動によって所定位置へ移動させて位置決めする位置決め制御方法であって、
移動体を目標位置へ移動させる位置指示値を作成し、
移動体の実際の位置を一定のサンプリング周波数で測定し、
測定された実際の移動体の位置データと前記位置指示値とから超音波モータの制御量を求め、
こうして求めた超音波モータの制御量から、超音波モータの駆動周波数と前記位置データのサンプリング周波数とのエリアシング周波数の成分をカットすることにより、超音波モータを駆動するための新たな制御量を求め、
この新たな制御量を電圧値に変換して超音波モータに印加することを特徴とする位置決め制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図3F】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−252959(P2008−252959A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−87064(P2007−87064)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】