説明

低い免疫原性を有する結合分子

本発明は、少なくとも2つのドメインを含む、または、少なくとも2つのドメインからなる二重特異性を有する結合分子を提供し、前記少なくとも2つのドメインの一方は、ヒトCD3複合体と特異的に結合/相互作用し、および、前記ドメインは、抗体由来の軽鎖のアミノ酸配列を含み、ここで、前記アミノ酸配列は、特異的なアミノ酸置換を含む特に同定されたアミノ酸配列であり、第二のドメインは、少なくとも1つのさらなる抗原相互作用部位、および/または、少なくとも1つのさらなるエフェクタードメインであるか、または、それらを含む。本発明はさらに、本発明の二重特異性を有する結合分子をコードする核酸分子、前記核酸分子を含むベクター、および、前記ベクターで形質転換またはトランスフェクションされた宿主細胞を提供する。その上、本発明は、本発明の二重特異性を有する結合分子の製造方法、および、本発明の二重特異性を有する結合分子を含む組成物、本発明の核酸分子、または、本発明の宿主細胞に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも2つのドメインを含む、または、少なくとも2つのドメインからなる二重特異性を有する結合分子を提供し、本結合分子において、前記少なくとも2つのドメインの一方は、ヒトCD3複合体と特異的に結合/相互作用し、さらに、前記ドメインは、抗体由来の軽鎖のアミノ酸配列を含み、ここで、前記アミノ酸配列は、特異的なアミノ酸置換を含む特に同定されたアミノ酸配列であり、さらに、第二のドメインは、少なくとも1つのさらなる抗原相互作用部位、および/または、少なくとも1つのさらなるエフェクタードメインであるか、または、それらを含む。本発明はさらに、本発明の二重特異性を有する結合分子をコードする核酸分子、前記核酸分子を含むベクター、および、前記ベクターで形質転換またはトランスフェクションされた宿主細胞を提供する。その上、本発明は、本発明の二重特異性を有する結合分子の製造方法、および、本発明の二重特異性を有する結合分子を含む組成物、本発明の核酸分子、または、本発明の宿主細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書本文中に、数々の文書が引用されている。本明細書で引用されたそれぞれの文書(あらゆる製造元の仕様書、説明書などを含む)は、参照により本発明に含まれる。
遺伝子工学が開発されてから、免疫療法は、多数の重篤な病気(例えば腫瘍性の疾患)の治療に用いられてきた。しかしながら、非ヒト源由来の抗体の使用は、ヒトの治療計画の一環としてを用いられる場合、数々の問題を引き起こす。
【0003】
まず第一に、非ヒト源の抗体は、「サイトカイン放出症候群(CRS)」を引き起こす可能性がある。CRSは、最初の少量の抗CD3抗体の投与の後に観察される臨床症候群であり、さらに、多くのCD3に対して向けられた抗体は分裂促進性であるということに関連している。CD3に対して向けられたインビトロの分裂促進性の抗体は、T細胞増殖とサイトカイン生産を誘導する。インビボでのこの分裂促進性の活性により、最初の抗体注射後の数時間以内に大規模なサイトカイン(多くのT細胞由来のサイトカインなど)放出が引き起こされる。CD3特異的抗体の分裂促進能は、単球/マクロファージ依存性であり、さらに、これらの細胞によるIL−6およびIL−1β生産に関与する。CRSの症状は、頻繁に報告されている軽度の「インフルエンザ様の」症状から、それほど頻繁に報告されていない重度の「ショック様の」反応(これは、心血管症状および中枢神経症状を含み得る)にまで及ぶ。症状としては、特に、頭痛、震え、吐き気/嘔吐、下痢、腹痛、倦怠感、および、筋肉/関節の痛み、ならびに、疼痛、全身衰弱、呼吸循環系の現象、同様に、神経精神病学的な現象が挙げられる。重度の肺水腫は、体液過剰の患者に起こり、さらに体液過剰ではないようにみえる患者にも起こる。(Chatenoud,2003年 Nat.Rev.Immunol.3:123〜132)。
【0004】
第二に、マウス抗体は、ヒト抗マウス抗体の体液性免疫応答(HAMAs)によって認識されており、小さい治療域を得ることになる(Schroff(1985年)Cancer Res.45:879〜885,Shawler(1985年)J.Immunol.135:1530〜1535)。HAMAsは、典型的には、マウス治療抗体での処理の第二週中に発生し、それらの目的とする標的への結合をブロックすることによってマウス抗体を中和する。HAMA応答は、マウスの定常(「Fc」)抗体領域、または/および、マウスの可変(「V」)領域の性質によって様々であり得る。この宿主反応は、抗体の薬物動態学的な特徴を劇的に変化させ、それにより迅速に抗体が除去され、繰り返しの投与を妨げる(Reff,2002年 Cancer Control 9:152〜166)。
【0005】
治療抗体の免疫原性に対処するために、4種の基礎的な抗体方法;キメラ化、完全ヒトV領域の提供、脱免疫化(deimmunization)、および、ヒト化が適用されてきた。キメラ抗体では、定常領域は免疫原性に重要な成分に寄与するということに基づいて、マウス定常領域がヒト定常領域で置換される。完全ヒトV領域を作製するアプローチが2つあり、それは、ファージライブラリーからヒト抗体のV領域を選択すること、および、それら自身の免疫グロブリン遺伝子がヒト免疫グロブリン遺伝子で置換されたトランスジェニックマウスを提供すること、である。脱免疫化(deimmunization)では、特異的な免疫原性ペプチドが、特定のアルゴリズムに従って、免疫原性が減少した、または、免疫原性ではないペプチドによって変化する。
【0006】
一般的に、ヒト化は、例えばCDRグラフティングを用いた場合のように、可変領域中の非ヒト抗体フレームワーク配列を対応するヒト配列で置換することを必然的に伴う。従来技術では、抗体をヒト化する数種のアプローチが説明されている。これらの方法の1つは、外来のフレームワークへのCDRグラフティングであり、この方法では、ある種由来のCDRがヒトのフレームワークにグラフティングされる(EP239400)。しかしながら、このようなヒト化抗体は、結合親和性が不十分であるという問題を有することが多い(Riechmann,1988年,Nature 332:323〜327)。これは、ヒトのフレームワークに追加の突然変異を導入して上述のアプローチを改変することによって克服することができる。このような方法が用いられている例は、EP469167、EP971959、EP940468で説明されている。抗体をヒト化するその他のアプローチは、ファージディスプレイによるヒト化(US5,565,322)、および、表面の改変(resurfacing)/表面の修飾(veneering)によるヒト化であり、この場合、抗体の表面に露出したアミノ酸を同定し、ヒトのフレームワークに類似した、または同一なアミノ酸で置換する(例えばEP519596、EP592106を参照)。
【0007】
ヒトCD3は、多分子のT細胞複合体の一部としてT細胞で発現される抗原を意味し、3種の異なる鎖:CD3−ε、CD3−δおよびCD3−γからなる。例えば固定化抗CD3抗体によるT細胞でのCD3のクラスター化は、T細胞受容体の関与と同様のT細胞の活性化を引き起こすが、そのクローンに典型的な特異性とは無関係である;(WO99/54440、または、Hoffman(1985年)J.Immunol.135:5〜8を参照)。
【0008】
従来技術において、CD3抗原を特異的に認識する抗体が説明されており、例えばTraunecker,EMBO J10(1991年),3655〜9、および、Kipriyanov,Int.J.Cancer 77(1998年),763〜772で説明されている。最近、多種多様な病気の治療において、CD3に対して向けられた抗体が提唱されている。これらの抗体または抗体コンストラクトは、EP1025854で開示されたような、T細胞除去物質または分裂促進性の物質のいずれかとして作用する。WO00/05268には、ヒトCD3抗原複合体に特異的に結合するヒト/げっ歯類ハイブリッド抗体が開示されており、例えば腎臓移植後の拒絶反応の出現の治療、敗血症および心臓同種移植片のための免疫抑制剤として提唱されている。WO03/04648は、CD3と卵巣ガン抗原に対して向けられた二重特異性抗体を開示している。その上、Kufer(1997年)Cancer Immunol Immunother 45:193〜7は、わずかに残留したガンを処理するためのCD3とEpCAMに特異的な二重特異性抗体に関する。
【0009】
CD3に結合する抗体をヒト化する数々の試みが行われてきた。US5,929,212、US5,859,205、WO91/09968、WO91/09967、および、Adair,1994年 Hum.Antibod.Hybridomas,5:41〜48は、マウス抗ヒトCD3モノクローナル抗体OKT3のためのヒト化方法を説明しており、ここで、マウス(ドナー)CDRは、ヒト(アクセプター)フレームワークにグラフティングされ、そのフレームワークにドナーアミノ酸残基が導入される。US6,407,213、および、WO92/22653は、ヒト化UCHT1抗体を説明しており、ここで、最小数のマウスCDRとFR残基が、マウスの親抗体と同等の抗原結合親和性と生物学的な特性を達成するために、必要に応じてコンセンサスヒト可変ドメイン配列のなかに導入される。ヒト化CD3抗体のさらなる例は、EP0626390(OKT3)、US5,885,573(OKT3)、US5,834,597(OKT3)、US5,585,097(YTH12.5)、および、US2002131968(YTH12.5)である。
【0010】
しかしながら、二重特異性を有する結合分子型のOKT3から誘導されたヒト化抗体コンストラクトは、CD3への結合/CD3との相互作用を介してシグナルを誘導する能力などの特異的な活性を減少させることが観察されている。
【発明の開示】
【0011】
従って、本発明の根底にある技術的課題は、極めて効率的な抗体由来の化合物を提供するための手段および方法を提供することであり、これは、ヒトの病気の治療に有用である可能性があり、副作用が低いものである。副作用は化合物の免疫原性により誘導され、その結果化合物の活性が減少するが、本発明では特に、副作用の減少を目的とする。
【0012】
前記技術的な問題に対する解決は、特許請求の範囲で特徴を示された実施形態を提供することによって達成される。
従って、本発明は、少なくとも2つのドメインを含む、または、少なくとも2つのドメインからなる二重特異性を有する結合分子に関し、ここで、
(a)前記少なくとも2つのドメインの一方は、ヒトCD3複合体と特異的に結合/相互作用し、ここで、前記ドメインは、抗体由来の軽鎖のアミノ酸配列を含み、ここで、前記アミノ酸配列は:
(i)配列番号2のアミノ酸配列;
(ii)配列番号1に対応する核酸配列によってコードされたアミノ酸配列;
(iii)ストリンジェントな条件下で(ii)で定義された核酸配列の相補鎖とハイブリダイゼーションするヌクレオチド配列によってコードされたアミノ酸配列;および、
(iv)(ii)および(iii)のいずれか一種のヌクレオチドの配列に相当する遺伝子コードの縮重により得られた核酸配列によってコードされたアミノ酸配列、
であり、ただし、(i)〜(iv)に記載のアミノ酸配列は、カバット(Kabat)システムに従って、軽鎖のCDR領域のL24位、L54位およびL96位にアミノ酸置換を含み;および、
(b)第二のドメインは、少なくとも1つのさらなる抗原相互作用部位、および/または、少なくとも1つのさらなるエフェクタードメインであるか、または、それらを含む。
【0013】
本明細書で用いられる用語「〜との結合/相互作用」は、少なくとも2つの「抗原相互作用部位」が互いに結合/相互作用することを定義する。本発明に係る用語「抗原相互作用部位」は、特異的な抗原または抗原の特異的な基と特異的な相互作用をする能力を示すポリペプチドのモチーフを意味する。前記結合/相互作用はまた、「特異的な認識」を意味するものとしても理解される。本発明に係る用語「〜を特異的に認識する」は、抗体分子が、ここで定義されるヒト標的分子それぞれのアミノ酸のうち少なくとも2つと特異的に相互作用する、および/または、それらに特異的に結合することができることを意味する。抗体は、同じ標的分子上の異なるエピトープを認識し、それらと相互作用すること、および/または、それらに結合することができる。前記用語は、抗体分子の特異性に関し、すなわち、それらのここで定義されるヒト標的分子の特異的な領域を区別する能力に関する。抗原相互作用部位とその特異的な抗原との特異的な相互作用により、例えば抗原のコンフォメーション変化の誘導、抗原のオリゴマー化等によってシグナルの開始が起こる可能性がある。従って、抗原相互作用部位のアミノ酸配列中の特異的なモチーフは、それらの一次、二次または三次構造の結果、同様に、前記構造の二次的な改変の結果である。
【0014】
本発明で用いられる用語「特異的な相互作用」は、本発明の二重特異性を有する結合分子のCD3特異的ドメインが、類似構造を有する(ポリ)ペプチドと交叉反応しない、または、実質的に交叉反応しないことを意味するものと理解される。調査中の結合分子のパネルの交叉反応性は、例えば、従来の条件下での、対象の(ポリ)ペプチド、同様に、多数の、程度の差はあるが(構造的および/または機能的に)密接に関連した(ポリ)ペプチドへの、単鎖結合分子の前記パネルの結合を評価することによって試験してもよい(例えば、HarlowおよびLane,Antibodies:A Laboratory Manual,コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス(Cold Spring Harbor Laboratory Press),1988年、および、Using Antibodies:A Laboratory Manual,コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス,1999年を参照)。これらの方法は、特に、構造的および/または機能的に密接に関連した分子との結合研究、ブロックおよび競合研究を含んでいてもよい。また、これらの結合研究は、FACS 解析、表面プラズモン共鳴(SPR,例えばビアコア(R)(BIAcore(R))を使用)、分析用の超遠心分離法、等温滴定熱量計、蛍光異方性、蛍光分光分析も含み、または、放射標識したリガンド結合分析による。従って、抗原相互作用部位と特異的な抗原と特異的な相互作用に関する例には、その受容体のためのリガンドの特異性が含まれていてもよい。前記定義は特に、その特異的な受容体に結合する際にシグナルを誘導するリガンドの相互作用を含む。対応するリガンドの例には、その特異的なサイトカイン受容体と相互作用/結合するサイトカインが含まれる。前記相互作用のその他の例(特に前記定義にも含まれる)は、抗原決定基(エピトープ)と、抗原性の抗体結合部位との相互作用である。また、前記相互作用は、抗原性の抗体結合部位の類似の構造を有するその他のエピトープとの交叉反応性がない、または、実質的にないことも特徴とする。
【0015】
当然ながら、用語「〜との結合/相互作用」の定義には、結合ドメインと、直鎖状エピトープとの結合/相互作用、同様に、立体配座的なエピトープ(構造的なエピトープ、または、不連続エピトープともいう)との結合/相互作用が含まれるものとする。対応するエピトープの定義は、当業界既知である。例えば、前記エピトープは、ヒト標的分子の2つの領域、またはそれらの部分からなる可能性がある。本明細書によれば、立体配座的なエピトープは、ポリペプチドが天然型タンパク質に折り畳まれる際に分子表面上に集まった一次配列中の、分離された2またはそれ以上の別々のアミノ酸配列によって定義される(Sela,(1969年)Science 166,1365、および、Laver,(1990年)Cell 61,553〜6)。
【0016】
用語「不連続エピトープ」は特に、本明細書によれば、ポリペプチド鎖の遠い部分からの残基で構築される非直鎖状エピトープを定義するものとする。これらの残基は、ポリペプチド鎖が、立体配座的/構造的なエピトープが構成されるように三次元構造に折り畳まれる際に表面上に集まる。
【0017】
また、本発明の結合分子は、立体配座的なエピトープを含む少なくとも1つの結合ドメインと、特異的に結合/特異的に相互作用することも想定しており、これは、ヒトCD3複合体の少なくとも2つの領域で構成される、および/または、それらを含む、または、CD3−ε、CD3−δ、および、CD3−γのような個々の成分および/または前記成分の組み合わせ、例えばCD3−ε/CD3−δ、または、CD3−ε/CD3γで構成される、または、それらを含む。その上、本明細書で説明される前記立体配座的/構造的なエピトープは、ヒトCD3複合体の単一の成分の少なくとも2つの領域の個々の部位/領域/伸長、好ましくは、CD3−ε(さらにより好ましくはCD3−ε)の細胞外ドメイン少なくとも2つの部位/領域/伸長を含むことを想定している。
【0018】
ここで定義されるように、本発明の二重特異性を有する結合分子のの第二のドメインは、少なくとも1つのさらなる抗原相互作用部位、および/または、少なくとも1つのさらなるエフェクタードメインに結合する。用語「エフェクタードメイン」は、本発明によれば、一次または二次刺激シグナルの誘導、細胞傷害効果の誘導(例えば、アポトーシスを誘導するシグナルなど)、または、単に特異的な抗原相互作用部位と特異的に結合/特異的に相互作用する能力を有することのような生物学的作用を開始させる本発明の分子のドメインを特徴とする。また、「細胞傷害効果」は、T細胞によって発生する細胞性の細胞毒性も含む。従って、本発明の二重特異性を有する結合分子は、少なくとも2種の異なる特異性を特徴とする。
【0019】
特異性は、当業界既知の方法、および、本明細書で開示および説明されている方法によって実験的に決定することができる。このような方法としては、これらに限定されないが、ウェスタンブロット、ELISA試験、RIA試験、ECL試験、IRMA試験、および、ペプチドスキャンが挙げられる。
【0020】
本明細書で用いられる用語「CDR」は、「相補性決定領域」に関し、これは当業界周知である。CDRは、前記分子の特異性を決定する免疫グロブリンの一部であり、および、特異的なリガンドと接触する。CDRは、上記分子の最も可変的な部分であり、これらの分子の多様性に寄与する。各Vドメインには、3つのCDR領域、CDR1、CDR2およびCDR3がある。CDR−Hは、可変重鎖のCDR領域を特徴とし、CDR−Lは、可変軽鎖のCDR領域に関する。Hは可変重鎖を意味し、Lは可変軽鎖を意味する。Ig由来領域のCDR領域は、Kabat(1991年;Sequences of Proteins of Immunological Interest,第5版,NIH Publication no.91〜3242 米国保健社会福祉省(U.S.Department of Health and Human Services)),Chothia(1987年;J.Mol.Biol.196,901〜917)、および、Chothia(1989年;Nature,342,877〜883)で説明されているようにして決定してもよい。
【0021】
「カバットシステム」は、本発明によれば、カバット(1991年;Sequences of Proteins of Immunological Interest,第5版,NIH publication no.91〜3242 米国保健社会福祉省)、および、Chothia(1987年;J.Mol.Biol.196,901〜917)に従い一貫した方法で残基を番号付ける基準を意味する。この番号付けは、当業者に広く用いられており、抗原結合活性に重要な可変ドメイン領域の配列の変異性および3次元ループに基づく。軽鎖または重鎖の残基は全て、別個のカバットの位置を有する;すなわち、カバットの番号付けは、CDR、同様に、フレームワークに適用される。あらゆる抗体の特異的な残基の位置は、カバットに従って番号付けすることができる。抗体の特異的な残基の番号付け、およびカバットの位置は、http://www.bioinf.org.uk/absで示されている。例えば、本発明で言及されるL24位は、カバットシステムによる軽鎖中の24番目の残基を意味する。従って、L54、および、L96は、カバットシステムに従って、抗体の軽鎖中の54位および96位を意味する。
【0022】
カバットによるVHおよびVL鎖のCDR領域を同定するための規則は、www.bioinf.org.uk/abs、および、表1に示されている。
【0023】
【表1】

【0024】
本発明によれば、フレームワーク領域は、免疫グロブリンのVドメイン(VHまたはVLドメイン)、および、抗原と接触する超可変相補性決定領域(CDR)のためのタンパク質の足場を提供するT細胞受容体中の領域に関する。各Vドメインには、FR1、FR2、FR3、および、FR4と名付けられた4つのフレームワーク領域がある。フレームワーク1は、VドメインのN末端からCDR1の始点までの領域を包含し、フレームワーク2は、CDR1とCDR2都の間の領域に関し、フレームワーク3は、CDR2とCDR3との間の領域を包含し、および、フレームワーク4は、CDR3の終点からVドメインのC末端までの領域を意味する;特に、Janeway,Immunobiology,Garland Publishing,2001年,第5版を参照。従って、上記フレームワーク領域は、VHまたはVLドメイン中のCDR領域の外側の全ての領域を包含する。
【0025】
当業者であれば、所定の配列からフレームワーク領域とCDRを容易に推測することができる;Kabat(1991年)Sequences of Proteins of Immunological Interest,第5版,NIH Publication no.91〜3242 米国保健社会福祉省,Chothia(1987年).J.Mol.Biol.196,901〜917、および、Chothia(1989年)Nature,342,877〜883を参照。
【0026】
本発明に係る「二重特異性を有する結合分子」は、必然的に、1つのドメインによってヒトCD3複合体および/またはその個々の成分に特異的に結合する(ポリ)ペプチドである。本明細書で用いられる用語「(ポリ)ペプチド」は、ペプチドのグループ、同様に、ポリペプチドのグループを含む、分子のグループを説明している。ペプチドのグループは、30個までのアミノ酸を有する分子で構成され、ポリペプチドのグループは、30個より多いアミノ酸からなる分子で構成される。最も好ましくは、前記「二重特異性を有する結合分子」は、抗体、抗体フラグメント、抗体の誘導体、特異的に結合するペプチド、および、特異的に結合するタンパク質からなる群より選択される。前記抗体フラグメントは当業界既知であり、例えば、これらに限定されないが、Fab−フラグメント、F(ab’)フラグメント、Fvフラグメントなどが挙げられる。抗体の誘導体としては、これらに限定されないが、標識された抗体/抗体フラグメント、同様に、化学修飾された抗体分子/抗体フラグメントが挙げられる。以下で詳細に述べるように、特に好ましい本発明に係る抗体の誘導体は、scFvである。
【0027】
本発明の二重特異性を有する結合分子の1つのドメインは、ヒト化されたCDRグラフティングされたCD3−抗体から誘導される。本明細書において抗体と抗体コンストラクトの文脈で用いられる用語「ヒト化」は、非ヒト配列の対応するヒト配列での置換と定義することができる。これは、マウスCDRをヒトのフレームワークにグラフティングすること、または、マウスのフレームワーク中の一つのアミノ酸を対応する位置の一つのヒトアミノ酸でを置換することによって達成できる。加えて、本発明で用いられる用語ヒト化は、タンパク質の結合または細胞毒性活性を改善するために、さらなる突然変異を導入することも包含する。これらのさらなる突然変異は、必ずしもマウス残基のヒト残基への置換でなくてもよい。
【0028】
所定のアミノ酸配列中の、アミノ酸、特に特定の位置のアミノ酸を、特別に選択されたアミノ酸で置換する方法は当業者既知であり、標準的な実験方法の代表である。このような方法の例は、プライマー変異誘発である(Sambrook等.1989年)。
【0029】
驚くべきことに、上記で二重特異性を有する結合分子に関して説明されているように、軽鎖のCDRに追加のアミノ酸置換を含むヒト化CD3の特異的な抗体コンストラクトは、細胞毒性活性を有することが見出された。これらの分子は、標的細胞において細胞死を誘導するする能力を有する。それに対して、ヒト化CD3の特異的な抗体コンストラクト(当業界で、例えばAdair,1994年 Hum.Antibod.Hybridomas,5:41〜48で説明されている)は、前記コンストラクトが上記で定義された二重特異性を有する結合分子と一緒に発現されると、標的細胞において細胞死を誘導するする能力が著しく機能が損なわれていることが示される。
【0030】
特に、本発明の二重特異性を有する分子は、その特異的なエピトープへの顕著な結合(実施例4,図2を参照)、および、高い細胞毒性活性(実施例6,図6)を示す。本発明の、CD3結合部分の軽鎖のCDRに置換を有する二重特異性を有するヒト化CD3は、50pg/mlのEC50値示すが、それに対して、ヒト化OKT3を含む二重特異性抗体コンストラクト(Adair,1994年 Hum.Antibod.Hybridomas,5:41〜48で説明されている)のEC50値は、195pg/mlである。細胞毒性活性が4倍も高いため、本発明の二重特異性を有する分子は、治療活動に効果的に用いることができる。その上、患者に必要な治療効果を得るのに、本発明の二重特異性を有する分子は少量のでよいため、高い細胞毒性活性を有するヒト化二重特異性を有する分子を提供することは、医療分野では主要な利点を示す。従って、本発明の二重特異性を有する分子は、高い細胞毒性活性と、ヒト化されているためより低い免疫原性とを同時に示すため、患者を治療する場合、従来技術の抗体を超える重要な利点を提供する。それゆえに、これらは医療分野において明確な改善を提供する。
【0031】
本発明の二重特異性を有する結合分子は、上述の軽鎖のCDRにおける3個のアミノ酸置換により、当業界で説明されているヒト化分子とは異なる。
抗体は、CDRの特定のアミノ酸配列の影響を受ける分子内力を介して、その特異的な抗原と結合/相互作用するため、当業者は、抗体の生物活性を高めるためにCDR領域のアミノ酸配列中のアミノ酸は置換しないと予想される。その代わりに、当業者は、元のマウスCDR配列を保持すると予想される。従って、驚くべきことに、本発明の二重特異性を有する結合分子は、このように高い細胞毒性活性を有する。
【0032】
特に好ましくは、ヒトCD3複合体と結合/相互作用するドメインは、L24位のセリン、L54位のバリン、および、L96位のロイシンを有することを特徴とする。L24位は、カバット(1991年;Sequences of Proteins of Immunological Interest,第5版,NIH publication no.91〜3242 米国保健社会福祉省)、および、Chothia(1987年;J.Mol.Biol.196,901〜917)、および、http://www.bioinf.org.uk/absで説明されている通りに、軽鎖の24位を意味する。同様に、L54位およびL96位はそれぞれ、カバットおよびChothiaによって説明されている通りに、軽鎖の残基54および96を示す。
【0033】
一実施形態において、本発明の二重特異性を有する結合分子はさらに、軽鎖の前記CDR領域は、配列番号4、6または8のアミノ酸配列、または、配列番号3、5または7の核酸配列によってコードされたアミノ酸配列を含むことを特徴とする。
【0034】
本発明は、ヒトCD3複合体と結合/相互作用するドメインは、scFvであることを想定している。
用語「scFv」(単鎖Fv)は、当業界では十分に理解されている。本明細書によれば、scFvが、サイズが小さく、これらの抗体の誘導体を組換えによって生産できる可能性があるために、好ましい。
【0035】
さらに、ヒトCD3複合体に結合する/ヒトCD3複合体と相互作用する本発明の二重特異性を有する結合分子のドメインは、配列番号10のアミノ酸配列(本発明のヒト化CD3結合分子の軽鎖)を含む、もしくは、それらからなる、または、配列番号9の核酸配列によってコードされていることを想定している。
【0036】
好ましくは、本発明の結合分子は、ヒトCD3複合体と結合/相互作用するドメインが、配列番号14で示されたアミノ酸配列を含む、もしくは、それらからなる結合分子であるか、または、配列番号13の核酸配列によってコードされている結合分子である。
【0037】
本発明はさらに、二重特異性を有する結合分子は、前記第二のドメインが、1またはそれ以上の細胞表面分子に特異的な少なくとも1つのさらなる抗原相互作用部位である結合分子であることを想定している。
【0038】
本明細書で用いられる用語「細胞表面分子」は、細胞表面に存在する、または/および、それらに結合している分子を意味する。前記細胞表面分子の例は、膜タンパク質および膜貫通タンパク質(改変された変異体が挙げられ、例えばグリコシル化された変異体である)、前記タンパク質または細胞表面に結合した分子、同様に、例えば糖脂質のようなグリコシル化された成分である。付着は、好ましくは、内在性膜タンパク質、GPI結合型(グリコシルホスファチジルイノシトール結合型)のタンパク質、その他のキャリアー分子(例えば糖成分、または、ガングリオシド成分)に共有結合または非共有結合で結合したタンパク質様または非タンパク質様の成分によってなされるものと理解される。好ましくは、前記細胞表面分子は、腫瘍特異的な分子である。腫瘍特異的な分子は、腫瘍関連の細胞表面抗原であり、これは、腫瘍細胞で独占的に見出されるか、または、良性細胞と比較して腫瘍細胞で過剰発現しているかののいずれかである。腫瘍関連の細胞表面抗原は、腫瘍細胞だけでなく、生存に必須ではない細胞/組織、または、腫瘍関連の細胞表面抗原を発現しない幹細胞で補充することができる細胞/組織でも発現させることができる。その上、腫瘍関連の細胞表面抗原は、悪性細胞でも良性細胞でも発現させることができるが、悪性細胞において対象の治療剤がよりよく利用することができる。過剰発現される腫瘍関連の細胞表面抗原の例は、HER−2/neu、EGF受容体、HER−3、および、HER−4である。腫瘍特異的な腫瘍関連の細胞表面抗原の例は、EGFRV−IIIである。生存に必須ではない細胞に存在する腫瘍関連の細胞表面抗原の例は、PSMAである。補充される細胞に存在する腫瘍関連の細胞表面抗原の例は、CD19、CD20、および、CD33である。良性の状態よりも悪性の状態でよく利用できる腫瘍関連の細胞表面抗原の例は、EpCAMである。
【0039】
好ましくは、少なくとも1つのさらなる抗原相互作用部位である前記第二のドメインは、抗体由来の領域であり、これは、抗体の少なくとも1つの可変領域に対応するポリペプチド配列を含む。より好ましくは、前記第二のドメインは、追加のscFvである。特に好ましい本発明の分子の形態は、二重特異性を有する単鎖抗体コンストラクトの形態のポリペプチドコンストラクトを提供し、ここで、抗体由来の領域は、1つのVHと、1つのVL領域とを含む。VHおよびVL領域は、どのような配列で並んでいてもよい。
【0040】
用語「二重特異性を有する単鎖抗体コンストラクト」は、上記で定義された、ヒトCD3/ヒトCD3複合体と特異的に相互作用/結合することができる(少なくとも1つの)可変軽鎖からなる1つのドメインを含み、さらに、上記で定義された、さらなる抗原と特異的に相互作用/結合することができる(少なくとも1つの)可変領域(またはそれらの部分)からなる第二のドメインを含むコンストラクトに関する。可変領域の一部は、少なくとも1種のCDR(「相補性決定領域」)であってもよく、最も好ましくは、少なくともCDR3領域である。前記単鎖抗体コンストラクト中の2つのドメイン/領域は、好ましくは、単鎖として互いに共有結合している。この結合は、直接(CD3と相互作用するドメイン1−さらなる抗原と相互作用するドメイン2、または、さらなる抗原と相互作用するドメイン1−CD3と相互作用するドメイン2)、または、追加のポリペプチドリンカー配列を介して(ドメイン1−リンカー配列−ドメイン2、または、ドメイン2−リンカー配列−ドメイン1)のいずれかによって形成することができる。リンカーが用いられる場合、このリンカーは、好ましくは、第一および第二のドメインがそれぞれ独立して、それらの異なる結合特異性を互いに保持するのに十分な長さと配列を有する。最も好ましくは、さらに、添付の実施例で示されたように、「二重特異性を有する単鎖抗体コンストラクト」は、二重特異性を有する単鎖Fv(bscFv)である。二重特異性を有する単鎖分子の分子形態は、当業界既知であり、例えばWO99/54440、Mack,J.Immunol.(1997年),158,3965〜3970,Mack,PNAS,(1995年),92,7021〜7025;Kufer,Cancer Immunol.Immunother.,(1997年),45,193〜197;Loffler,Blood,(2000年),95,6,2098〜2103;Bruhl,Immunol.,(2001年),166,2420〜2426で説明されている。このような本発明の二重特異性を有する単鎖抗体コンストラクトの具体例は、以下で示し、添付の実施例で説明する。
【0041】
本発明によれば、二重特異性を有する結合分子であり、ここで、前記第二のドメインは、EpCAM、CCR5、CD19、HER−2、HER−3、HER−4、EGFR、PSMA、CEA、MUC−1(ムチン)、MUC2、MUC3、MUC4、MUC5AC、MUC5B、MUC7、bhCG、ルイスY、CD20、CD33、CD30、ガングリオシドGD3、9−O−アセチル−GD3、GM2、GloboH、フコシルGM1、ポリSA、GD2、炭酸脱水酵素IX(MN/CA IX)、CD44v6、ソニックヘッジホッグ(Shh)、Wue−1、血漿細胞抗原(膜結合型)IgE、黒色腫のコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(MCSP)、CCR8、TNF−アルファ前駆体、STEAP、メソテリン、A33抗原、前立腺幹細胞抗原(PSCA)、Ly−6デスモグレイン4、E−カドヘリンネオエピトープ、胎児アセチルコリン受容体、CD25、CA19−9マーカー、CA−125マーカー、および、ミュラー管抑制因子(MIS)受容体タイプII、sTn(シアル化Tn抗原;TAG−72)、FAP(線維芽細胞活性化抗原)、エンドシアリン(endosialin)、EGFRvIII、L6、SAS、CD63、TF抗原、Cora抗原、CD7、CD22、Igα、Igβ、gp100、MT−MMP、F19抗原、および、CO−29からなる群より選択される抗原と特異的に結合/相互作用する。
【0042】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記第二のドメインは、CD19分子と特異的に結合/相互作用する。
特に、本発明の、CD3およびCD19分子と特異的に結合/相互作用する二重特異性を有する結合分子は、前記第二のドメインが、以下からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、または、以下からなる群より選択されるアミノ酸配列からなることを特徴とすることを想定している:
(a)配列番号16または18に対応するアミノ酸配列;
(b)配列番号15または17に対応する核酸配列によってコードされたアミノ酸配列;
(c)ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、(b)で定義された核酸配列の相補鎖とハイブリダイゼーションする核酸配列によってコードされたアミノ酸配列;および、
(d)(b)および(c)のいずれか一種のヌクレオチドの配列に相当する遺伝子コードの縮重により得られた核酸配列によってコードされたアミノ酸配列。
【0043】
より好ましくは、二重特異性を有する結合分子は、以下からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、または、以下からなる群より選択されるアミノ酸配列からなる:
(a)配列番号20に対応するアミノ酸配列;
(b)配列番号19に対応する核酸配列によってコードされたアミノ酸配列;
(c)ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、(b)で定義された核酸配列の相補鎖とハイブリダイゼーションする核酸配列によってコードされたアミノ酸配列;および、
(d)(b)および(c)のいずれか一種のヌクレオチドの配列に相当する遺伝子コードの縮重により得られた核酸配列によってコードされたアミノ酸配列。
【0044】
前記二重特異性を有する結合分子は、好ましくは、二重特異性を有するscFvコンストラクト(それによって、第一のscFvは、CD3と特異的に結合/相互作用し、第二のscFvは、CD19と特異的に結合/相互作用する)である。
【0045】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記第二のドメインは、EpCAM分子と特異的に結合/相互作用する。
特に、本発明の、CD3およびEpCAM分子と特異的に結合/相互作用する二重特異性を有する結合分子は、前記第二のドメインは、以下からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、または、以下からなる群より選択されるアミノ酸配列からなることを特徴とすることを想定している:
(a)配列番号22、24、26、28、30、または、32に対応するアミノ酸配列;
(b)配列番号21、23、25、27、29、または、31に対応する核酸配列によってコードされたアミノ酸配列;
(c)ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、(b)で定義された核酸配列の相補鎖とハイブリダイゼーションする核酸配列によってコードされたアミノ酸配列;および、
(d)(b)および(c)のいずれか一種のヌクレオチドの配列に相当する遺伝子コードの縮重により得られた核酸配列によってコードされたアミノ酸配列。
【0046】
より好ましくは、二重特異性を有する結合分子は、以下からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、または、以下からなる群より選択されるアミノ酸配列からなる:
(a)配列番号34または36に対応するアミノ酸配列;
(b)配列番号33または35に対応する核酸配列によってコードされたアミノ酸配列;
(c)ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、(b)で定義された核酸配列の相補鎖とハイブリダイゼーションする核酸配列によってコードされたアミノ酸配列;および、
(d)(b)および(c)のいずれか一種のヌクレオチドの配列に相当する遺伝子コードの縮重により得られた核酸配列によってコードされたアミノ酸配列。
【0047】
前記二重特異性を有する結合分子は、好ましくは、二重特異性を有するscFvコンストラクト(それによって第一のscFvは、CD3と特異的に結合/相互作用し、第二のscFvは、EpCAMと特異的に結合/相互作用する)である。
【0048】
さらに好ましくは、本発明の二重特異性を有する結合分子の、前記少なくとも1つのさらなる抗原相互作用部位は、ヒト化されている。
さらなる実施形態において、本発明は、上記で定義された本発明の二重特異性を有する結合分子をコードする核酸配列を包含する。
【0049】
好ましくは、前記核酸配列は、以下からなる群より選択される:
(a)配列番号20、34、または、36からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むタンパク質の成熟型をコードするヌクレオチド配列;
(b)配列番号19、33、または、35からなる群より選択されるDNA配列を含む、または、からなるヌクレオチド配列;
(c)ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、(b)で定義されたヌクレオチド配列の相補鎖とハイブリダイゼーションするヌクレオチド配列;
(d)(a)または(b)のヌクレオチドの配列によってコードされたアミノ酸配列の1個または数個のアミノ酸の置換、欠失および/または付加によって、(a)または(b)のヌクレオチドの配列によってコードされたタンパク質から誘導されたタンパク質をコードするヌクレオチド配列;
(e)(a)または(b)のヌクレオチドの配列によってコードされたアミノ酸配列に、少なくとも60%、好ましくは70%、より好ましくは80%、特に好ましくは90%、さらにより好ましくは95%、および、最も好ましくは99%同一なアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列;
(f)遺伝子コードの縮重により得られた(a)〜(e)のいずれか一つのヌクレオチドの配列に相当するヌクレオチド配列。
【0050】
用語「ハイブリダイゼーション(すること)」は、本明細書で用いられる場合、列挙された核酸配列もしくはそれらの部分の相補鎖、または、列挙された核酸配列もしくはそれらの部分にハイブリダイゼーションできるポリヌクレオチドを意味する。それゆえに、前記核酸配列は、RNAまたはDNA標本それぞれのノーザンまたはサザンブロット解析のプローブとして有用な可能性があり、または、それらそれぞれのサイズに応じたPCR解析でオリゴヌクレオチドプライマーとして用いることができる。好ましくは、前記ハイブリダイゼーションするポリヌクレオチドは、少なくとも10個、より好ましくは少なくとも15個のヌクレオチドを含み、一方で、プローブとしてとして用いることができる本発明のハイブリダイゼーションするポリヌクレオチドは、好ましくは、少なくとも100個、より好ましくは少なくとも200個、または、最も好ましくは少なくとも500個のヌクレオチドを含む。
【0051】
核酸分子を用いたハイブリダイゼーション実験をどのように実施するかは当業界周知であり、すなわち当業者は、本発明に従って使用すべきハイブリダイゼーション条件についてわかっている。このようなハイブリダイゼーション条件は、Sambrook等(上記引用文中)のような標準的な教本や、当業者既知の、または、上記で列挙したその他の標準的な実験マニュアルに記載されている。本発明において好ましくは、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、本発明のポリヌクレオチド、またはそれらの部分にハイブリダイゼーションできるポリヌクレオチドである。
【0052】
「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」はすなわち、50%ホルムアミド、5×SSC(750mMのNaCl、75mMのクエン酸ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハルト溶液、10%硫酸デキストラン、および、20μg/mlの変性断片化サケ精子DNAを含む溶液中で、42℃で一晩インキュベートし、続いて、フィルターを0.1×SSC中で約65℃で洗浄することを意味する。また、より低いストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件で本発明のポリヌクレオチドにハイブリダイゼーションする核酸分子も考慮される。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーにおける変更、および、シグナル検出は、主として、ホルムアミド濃度の操作(ホルムアミドをより低いパーセンテージにすると、低いストリンジェンシーが得られる);塩の状態、または、温度によって達成される。例えば、より低いストリンジェンシーの条件には、6×SSPE(20×SSPE=3MのNaCl;0.2MのNaH2po4;0.02MのEDTA、pH7.4)、0.5%SDS、30%ホルムアミド、100μg/mlのサケ精子ブロッキングDNAを含む溶液中で、37℃で一晩インキュベート;それに続いて、1×SSPE、0.1%SDSで50℃で洗浄が含まれる。加えて、さらに低いストリンジェンシーを達成するために、ストリンジェントなハイブリダイゼーションに続いて行われる洗浄は、より高い塩濃度(例えば5×SSC)で行ってもよい。注目すべきことに、ハイブリダイゼーション実験におけるバックグラウンドを抑制するために用いられる代わりのブロッキング試薬を含ませたり、および/または、交換したりすることによって、上記の条件の変化形を得ることができる。典型的なブロッキング試薬としては、デンハルト試薬、BLOTTO、ヘパリン、変性サケ精子DNA、および、市販の商標登録された調合物が挙げられる。特定のブロッキング試薬を含ませることは、相溶性の問題により上述のハイブリダイゼーション条件の改変が必要な場合がある。
【0053】
列挙された核酸分子としては、例えば、DNA、cDNA、RNA、または、合成で生産されたDNAもしくはRNA、または、組換えによって生産されたキメラ核酸分子、または、それらのキメラの混合物(上記ポリヌクレオチドのいずれかを単独または組み合わせのいずれかで含む)が可能である。
【0054】
当業者には当然であるが、本発明の核酸分子に調節配列を付加してもよい。例えば、プロモーター、転写エンハンサー、および/または、本発明のポリヌクレオチドの誘導性の発現を可能にする配列を用いてもよい。適切な誘導性システムは、例えば、テトラサイクリンで調節された遺伝子発現[例えばGossenおよびBujard(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89(1992年),5547〜5551)、および、Gossen等(Trends Biotech.12(1994年),58〜62)で説明されている]、または、デキサメタゾン誘導性の遺伝子発現系[例えばCrook(1989年)EMBO J.8,513〜519で説明されている]である。
【0055】
その上、さらなる目的のために、核酸分子に、例えば、チオエステル結合、および/または、ヌクレオチド類似体を含ませる可能性も考慮される。前記改変は、細胞中のエンドおよび/またはエキソヌクレアーゼにする核酸分子の安定化に有用な場合がある。前記核酸分子は、細胞中の前記核酸分子の転写を可能にするキメラ遺伝子を含む適切なベクターによって転写することもできる。また当然ながら、この点において、このようなポリヌクレオチドは、「遺伝子ターゲティング」、または、「遺伝子治療」アプローチのために用いることができる。その他の実施形態において、前記核酸分子は、標識されている。核酸の検出方法は当業界周知であり、例えば、サザンおよびノーザンブロッティング、PCR、または、プライマー伸長である。この実施形態は、遺伝子治療アプローチの際の上述の核酸分子の導入を確実に成功させるためのスクリーニング方法に有用である可能性がある。
【0056】
前記核酸分子は、上述の核酸分子のいずれかを単独または組み合わせのいずれかで含む、組換えによって生産されたキメラ核酸分子であり得る。好ましくは、上記核酸分子は、ベクターの一部である。
【0057】
それゆえに、本発明はまた、本発明の核酸分子を含むベクターにも関する。
多くの適切なベクターが分子生物学の当業者に既知であり、それらの選択は、所望の機能に依存すると予想され、例えば、プラスミド、コスミド、ウイルス、バクテリオファージ、および、遺伝子工学で慣習的に用いられるその他のベクターが挙げられる。様々なプラスミドおよびベクターを構築するために、当業者既知の方法を用いることができる;例えば、Sambrook等(上記引用文中)およびAusubel,Current Protocols in Molecular Biology,グリーン・パブリッシング・アソシエイツ(Green Publishing Associates)およびワイリー・インターサイエンス(Wiley Interscience),N.Y.(1989年),(1994年)で説明されている技術を参照。あるいは、本発明のポリヌクレオチドおよびベクターは、標的細胞へ運搬するためのリポソームに、再構成してもよい。以下でさらに詳細に考察するように、個々のDNA配列を単離するためにクローニングベクターが用いられた。関連配列を、特定のポリペプチドの発現が必要な発現ベクターに移行させることができる。典型的なクローニングベクターとしては、pBluescript SK、pGEM、pUC9、pBR322、および、pGBT9が挙げられる。典型的な発現ベクターとしては、pTRE、pCAL−n−EK、pESP−1、pOP13CATが挙げられる。
【0058】
好ましくは、前記ベクターは、本明細書で定義された単鎖抗体コンストラクトをコードする前記核酸配列に作動可能に連結した調節配列である核酸配列を含む。
このような調節配列(調節要素)は、技術者に既知であり、プロモーター、スプライスカセット、翻訳開始コドン、翻訳部位、および、ベクターにインサートを導入するための挿入部位を含んでいてもよい。好ましくは、前記核酸分子は、真核または原核細胞で発現させることができる前記発現制御配列に作動可能に結合している。
【0059】
前記ベクターは、本発明の二重特異性を有する結合分子をコードする核酸分子を含む発現ベクターであることを想定している。
用語「調節配列」は、それらがライゲーションしたコード配列の発現を行うのに必要なDNA配列を意味する。このような制御配列の性質は、宿主生物に応じて様々である。原核生物において、制御配列は、一般的に、プロモーター、リボゾーム結合部位、および、ターミネーターを含む。真核生物において、制御配列は、一般的に、プロモーター、ターミネーターを含み、さらに、いくつかの例では、エンハンサー、トランス転写活性化因子、または、転写因子も含む。用語「制御配列」は、最小限の全ての成分を含むものとし、その存在は発現に必要であり、さらに追加の有利な成分を含んでいてもよい。
【0060】
用語「作動可能に連結した(operably linked)」は、これまでに説明したような成分が、それらの目的とする様式でそれらを作動させるような関係で並置されていることを意味する。コード配列に「作動可能に連結された」制御配列は、コード配列の発現が制御配列に適合する条件下で達成されるような方法でライゲーションされる。制御配列がプロモーターの場合、当業者には当然であるが、好ましくは二本鎖核酸が用いられる。
【0061】
従って、列挙されたベクターは、好ましくは、発現ベクターである。「発現ベクター」は、選択された宿主を形質転換させるのに用いることができ、さらに、選択された宿主中でコード配列の発現を提供するコンストラクトである。発現ベクターは、例えば、クローニングベクター、バイナリーベクター、または、組み込み型ベクターが可能である。発現は、好ましくは、翻訳可能なmRNAへの核酸分子の転写を含む。原核生物および/または真核細胞において発現を確実にする調節因子は当業者周知である。真核細胞の場合、このような調節因子は通常、転写の開始を確実にするプロモーター、および、場合により、転写の終結と転写の安定化を確実にするポリAシグナルを含む。原核宿主細胞において発現を可能にする考えられる調節因子としては、例えば、大腸菌(E.coli)におけるP、lac、trp、または、tacプロモーターが挙げられ、さらに、真核宿主細胞において発現を可能にする調節因子の例は、酵母におけるAOX1もしくはGAL1プロモーター、または、哺乳動物およびその他の動物細胞におけるCMV−、SV40−、RSV−プロモーター(ラウス肉腫ウイルス)、CMV−エンハンサー、SV40−エンハンサーもしくはグロビンイントロンである。
【0062】
転写開始に関与する要素の近傍に、このような調節因子は転写停止シグナルを含んでいてもよく、例えば、ポリヌクレオチド下流に、SV40−ポリA部位、または、tk−ポリA部位である。さらに、用いられる発現系に応じて、ポリペプチドを細胞の区画に方向付ける、または、それらを培地に分泌させることができるリーダー配列が、列挙された核酸配列のコード配列に付加されていてもよく、これらは当業界周知である;また、例えば添付の実施例3も参照。リーダー配列は、適切な段階で、翻訳、開始および終結配列、および、好ましくは、翻訳されたタンパク質またはそれらの部分がペリプラスム間隙または細胞外の培地に分泌されるように仕向けることができるリーダー配列と統合される。場合により、異種配列は、望ましい特徴(例えば安定化、または、発現された組換え産物の簡単な精製)を付与するN末端の同定ペプチドを含む融合タンパク質をコードすることができる;上記参照。この文脈において、適切な発現ベクターは当業界既知であり、例えばOkayama−Berg cDNA発現ベクターpcDV1(ファルマシア(Pharmacia))、pCDM8、pRc/CMV、pcDNA1、pcDNA3(インビトロジェン(In−vitrogene))、pEF−DHFR、pEF−ADA、または、pEF−neo(Mack等.PNAS(1995年)92,7021〜7025、および、Raum等.Cancer Immunol Immunother(2001年)50(3),141〜150)、または、pSPORT1(ギブコBRL(GIBCO))である。
【0063】
好ましくは、発現制御配列は、トランスフェクトする真核宿主細胞を形質転換することができるベクター中の真核生物プロモーター系と予想されるが、原核生物宿主のための制御配列も使用可能である。ベクターが適切な宿主に包含されると、宿主は、ヌクレオチド配列の高レベルの発現に適した条件下で維持され、要望に応じて、本発明の二重特異性を有する結合分子の回収および精製が続いて行われる;例えば、添付の実施例を参照。
【0064】
細胞周期と相互作用するタンパク質を発現させるのに用いることができるその代わりの発現系は、昆虫系である。このようなシステムの一つに、アウトグラファ・カリフォルニカ核多角体病ウイルス(AcNPV)が、スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)細胞またはトリコプルシア(Trichoplusia)幼虫で外来遺伝子を発現させるためのベクターとして用いられる。列挙された核酸分子のコードの配列は、ポリヘドリン遺伝子のようなウイルスの非必須領域にクローニングしてもよく、ポリヘドリンプロモーターの制御下に置かれる。前記コード配列をうまく挿入することは、ポリヘドリン遺伝子を不活性にし、コートタンパク質のコートが欠失した組換えウイルスを生産することと予想される。次に、この組換えウイルスは、本発明のタンパク質が発現されるS.フルギペルダ(S.frugiperda)細胞、または、トリコプルシア幼虫に感染させるのに用いられる(Smith,J.Virol.46(1983年),584;Engelhard,Proc.Nat.Acad.Sci.USA 91(1994年),3224〜3227)。
【0065】
追加の調節因子は、転写エンハンサー、同様に、翻訳エンハンサーを含んでいてもよい。有利には、上述の本発明のベクターは、選択可能な、および/または、得点を付けることができる(scorable)マーカーを含む。
【0066】
形質転換された細胞、例えば植物組織および植物の選択に有用な選択マーカー遺伝子は当業者周知であり、例えば、メトトレキセート耐性を付与するdhfr(Reiss,Plant Physiol.(Life Sci.Adv.)13(1994年),143〜149);アミノグルコシド系ネオマイシン、カナマイシンおよびパロマイシン耐性を付与するnp(Herrera−Estrella,EMBO J.2(1983年),987〜995)、および、ハイグロマイシン耐性を付与するhygro(Marsh,Gene 32(1984年),481〜485)のための選択の基礎としての代謝拮抗物質耐性が挙げられる。追加の選択可能な遺伝子が説明されており、すなわち、細胞がトリプトファンの代わりにインドールを利用することを可能にするtrpB;細胞がヒスチジンの代わりにヒスチノールを利用することを可能にするhisD(Hartman,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85(1988年),8047);細胞がマンノースを利用することを可能にするマンノース−6−リン酸イソメラーゼ(WO94/20627)、および、オルニチンデカルボキシラーゼ阻害剤、2−(ジフルオロメチル)−DL−オルニチン、DFMOに対する耐性を付与するODC(オルニチンデカルボキシラーゼ)(McConlogue,1987年,In:Current Communications in Molecular Biology,コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー編)、または、ブラストサイジンS耐性を付与するアスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)由来のデアミナーゼ(Tamura,Biosci.Biotechnol.Biochem.59(1995年),2336〜2338)が挙げられる。
【0067】
また、有用な得点を付けることができるマーカーも当業者既知のであり、市販されている。有利には、前記マーカーは、ルシフェラーゼ(Giacomin,Pl.Sci.116(1996年),59〜72;Scikantha,J.Bact.178(1996年),121)、緑色蛍光タンパク質(Gerdes,FEBS Lett.389(1996年),44〜47)、または、β−グルクロニダーゼ(Jefferson,EMBO J.6(1987年),3901〜3907)をコードする遺伝子である。この実施形態は、列挙されたベクターを含む細胞、組織、および、生物の簡単かつ迅速なスクリーニングに特に有用である。
【0068】
上述したように、列挙された核酸分子は、細胞中で本発明の二重特異性を有する結合分子を発現させるために、単独で用いてもよいし、または、例えば精製のために、さらに遺伝子治療目的でもベクターの一部として用いてもよい。上述の本発明の二重特異性を有する結合分子のいずれか一方をコードするDNA配列を含む核酸分子またはベクターは、細胞に導入され、続いて、対象のポリペプチドがを生産される。遺伝子治療は、治療遺伝子をエクスビボまたはインビボ技術で細胞に導入することに基づいており、これは、遺伝子移入最も重要な応用の1つである。インビトロまたはインビボの遺伝子治療に適したベクター、方法または遺伝子運搬システムは、文献で説明されており、当業者既知である;例えば、Giordano,Nature Medicine 2(1996年),534〜539;Schaper,Circ.Res.79(1996年),911〜919;Anderson,Science 256(1992年),808〜813;Verma,Nature 389(1994年),239;Isner,Lancet 348(1996年),370〜374;Muhlhauser,Circ.Res.77(1995年),1077〜1086;Onodera,Blood 91(1998年),30〜36;Verma,Gene Ther.5(1998年),692〜699;Nabel,Ann.N.Y.Acad.Sci.811(1997年),289〜292;Verzeletti,Hum.Gene Ther.9(1998年),2243〜51;Wang,Nature Medicine 2(1996年),714〜716;WO94/29469;WO97/00957,US5,580,859;US5,589,466;or Schaper,Current Opinion in Biotechnology 7(1996年),635〜640を参照。列挙された核酸分子およびベクターは、細胞への直接的な導入、または、リポソームまたはウイルスベクター(例えばアデノウイルス、レトロウイルスベクター)を介した導入のために設計してもよい。好ましくは、前記細胞は、生殖細胞系細胞、胚細胞もしくは卵細胞、または、それらから誘導されたものであり、最も好ましくは、前記細胞は幹細胞である。胚幹細胞の例は、特に、Nagy,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90(1993年),8424〜8428で説明されているような幹細胞が挙げられる。
【0069】
本発明はまた、本発明のベクターで形質転換またはトランスフェクションされた宿主を提供する。前記宿主は、上述した少なくとも1種の本発明の前記ベクター、または、上述の本発明の核酸分子の少なくとも1種を宿主に導入することによって生産してもよい。宿主における前記少なくとも1種のベクターまたは少なくとも1種の核酸分子の存在が、上述の単鎖抗体コンストラクトをコードする遺伝子発現を媒介する可能性がある。
【0070】
上述した宿主に導入される本発明の核酸分子またはベクターは、宿主のゲノムに統合されてもよいし、または、染色体外で維持されてもよい。
宿主は、あらゆる原核生物または真核細胞が可能である。
【0071】
用語「原核生物」は、本発明のタンパク質の発現のためにDNAまたはRNA分子で形質転換またはトランスフェクションが可能な全ての細菌を含むことを意味する。原核生物宿主としては、グラム陰性細菌、同様に、グラム陽性細菌が挙げられ、例えば大腸菌、S.チフィムリウム(S.typhimurium)、セラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)、および、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)である。用語「真核性の」は、酵母、高等植物、昆虫を含むものを意味し、好ましくは、哺乳動物細胞である。組換え生産法で用いられる宿主に応じて、本発明のポリヌクレオチドによってコードされたタンパク質は、グリコシル化されていてもよいし、または、グリコシル化されていなくてもよい。特に好ましくは、本発明のポリペプチドのコード配列を含み、それらにN末端FLAG−タグおよび/またはC末端のHis−タグが遺伝学的に融合したプラスミドまたはウイルスの使用である。好ましくは、前記FLAG−タグの長さは、約4〜8個のアミノ酸、最も好ましくは8個のアミノ酸である。上述したように、ポリヌクレオチドは、一般的に当業者既知の技術のいずれかを用いて、宿主を形質転換またはトランスフェクションさせるのに用いることができる。その上、融合した、作動可能に連結した遺伝子を製造し、それらを例えば哺乳動物細胞および細菌中で発現させる方法は当業界周知である(Sambrook,上記引用文中)。
【0072】
好ましくは、前記宿主は、細菌もしくは昆虫の細胞、真菌細胞、植物細胞または動物細胞である。
特に、列挙された宿主が哺乳動物細胞であることを想定している。特に好ましい宿主細胞としては、CHO細胞、COS細胞、SP2/0様の骨髄腫細胞系、または、NS/0が挙げられる。添付の実施例で説明されているように、宿主として特に好ましくは、CHO細胞である。
【0073】
より好ましくは、前記宿主細胞は、ヒト細胞またはヒト細胞系であり、例えばper.c6である(Kroos,Biotechnol.Prog.,2003年,19:163〜168)。
【0074】
従って、さらなる実施形態において、本発明は、本発明の二重特異性を有する結合分子の製造プロセスに関し、本プロセスは、本発明の細胞および/または宿主を、二重特異性を有する結合分子の発現に適した条件下/それらを発現させるような条件下で培養すること、および、細胞または培養物/培地から二重特異性を有する結合分子を単離/回収することを含む。
【0075】
形質転換された宿主は、最適な細胞成長を達成するための当業界既知の技術に従って、発酵槽で成長させ、培養することができる。次に、本発明のポリペプチドは、増殖培地、細胞の溶解産物、または、細胞膜分画から単離することができる。例えば微生物により発現された本発明のポリペプチドの単離および精製は、例えば分取クロマトグラフィーによる分離、および、免疫学的な分離、例えば本発明のポリペプチドのタグに対して向けられたモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体の使用を含む分離のようなあらゆる従来の手段によって行われてもよいし、または、添付の実施例で説明されているようにして行われてもよい。
【0076】
発現を可能にする宿主の培養条件は、このようなプロセスで用いられる宿主系および発現系/ベクターに依存することは当業界既知である。組換えポリペプチドの発現を可能にする条件を達成するために改変され得るパラメーターは、当業界既知である。従って、適切な条件は、さらに発明の進歩性を要する情報を要さず、当業者によって決定することができる。
【0077】
発現されれば、本発明の二重特異性を有する結合分子は、硫酸アンモニウム沈殿、アフィニティカラム、カラムクロマトグラフィー、ゲル電気泳動などの当業界で標準的な手法に従って精製することができる;Scopes,“Protein Purification”,Springer−Verlag,N.Y.(1982年)を参照。少なくとも約90〜95%の均一性を有する実質的に純粋なポリペプチドが好ましく、製薬で使用するためには、98〜99%またはそれを超える均一性が最も好ましい。部分的に、または、要望に応じて均一性になるまで精製したら、本発明の二重特異性を有する結合分子は、治療的に(例えば体外で)用いてもよいし、または、分析手法の開発や実施で用いてもよい。さらに、本発明の二重特異性を有する結合分子を培養物から回収する方法の例は、添付の実施例で詳細に説明される。
【0078】
その上、本発明は、本発明の二重特異性を有する結合分子、または、上記で開示されたプロセスによって生産された二重特異性を有する結合分子、本発明の核酸分子、本発明のベクターもしくは宿主を含む組成物を提供する。また、前記組成物は、場合により、免疫エフェクター細胞の活性化シグナルを提供することができるタンパク質様化合物を含んでいてもよい。最も好ましくは、前記組成物は、必要に応じて、キャリアー、安定剤および/または賦形剤の適切な調合物をさらに含む医薬組成物である。
【0079】
本発明の観点において、免疫エフェクター細胞の活性化シグナルを提供する前記「タンパク質様化合物」は、例えばT細胞のための活性化シグナルであり得る。タンパク質様化合物の好ましい形態としては、二重特異性抗体、および、それらのフラグメントまたは誘導体、例えば二重特異性を有するscFvが挙げられる。好ましくは、T細胞のための前記活性化シグナルは、T細胞受容体(TCR)を介して、より好ましくは、TCRのCD3分子を介して提供され得る。タンパク質様化合物としては、これらに限定されないが、CD3に特異的なscFv、T細胞受容体に特異的なscFv、または、超抗原が挙げられる。超抗原は、T細胞受容体の可変領域の所定のサブファミリーにMHC非依存性の形態で直接結合し、従って、一次的なT細胞活性化シグナルが仲介する。また、このようなタンパク質様化合物は、T細胞ではない免疫エフェクター細胞のための活性化シグナルを提供することもできる。T細胞ではない免疫エフェクター細胞の例としては、特に、B細胞、および、NK細胞が挙げられる。
【0080】
本発明によれば、用語「医薬組成物」は、患者、好ましくは人間の患者へ投与するための組成物に関する。好ましい実施形態において、本医薬組成物としては、非経口、経皮、腔内、動脈内、髄腔内投与のための、または、組織または腫瘍への直接の注射による投与のための組成物が挙げられる。特に、前記医薬組成物は、輸液または注射を介して患者に投与されることを想定している。適切な本組成物の投与は、様々な方法で、例えば、静脈内、腹膜内、皮下、筋肉内、局所的または皮内投与で実行されてもよい。本発明の医薬組成物は、製薬上許容できるキャリアーをさらに含んでいてもよい。適切な製薬キャリアーの例は当業界周知であり、例えば、リン酸緩衝生理食塩水、水、乳濁液、例えば油/水乳濁液、様々なタイプの湿潤剤、滅菌溶液などが挙げられる。このようなキャリアーを含む組成物は、周知の従来の方法によって製剤化することができる。これらの医薬組成物は、適切な用量で被検体に投与することができる。用量の処方計画は、担当医と臨床的な因子によって決定されると予想される。医療業界では周知の通り、どの患者に対する投与量でも、患者の大きさ、体表面領域、年齢、投与しようとする具体的な化合物、性別、時間および投与経路、一般的な健康状態、および、同時に投与されるその他の薬物などの多くの因子に依存する。一般的に、本医薬組成物の規則的な投与としての処方計画は、1日あたり1μg〜5g単位の範囲と予想される。しかしながら、連続的な輸液により好ましい用量は、1時間あたり、0.01μg〜2mg、好ましくは0.01μg〜1mg、より好ましくは0.01μg〜100μg、さらにより好ましくは0.01μg〜50μg、最も好ましくは0.01μg〜10μg単位/体重キログラムの範囲であり得る。特に好ましい投与量を以下で列挙する。定期的な評価によって進行をモニターすることができる。投与量は様々であると予想されるが、DNAの静脈内投与に好ましい用量は、DNA分子の約10〜1012コピーである。本発明の組成物は、局所投与してもよいし、または、全身投与してもよい。投与は通常、非経口と予想され、例えば静脈内である;DNAはまた、標的部位を目標として投与してもよく、例えば、内部または外部標的部位への遺伝子銃の運搬によって、または、動脈内の部位へのカテーテルによって投与される。非経口投与のための調合物としては、滅菌水溶液、または、非水性の溶液、懸濁液および乳濁液が挙げられる。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、例えばオリーブ油、および、注射用有機エステル、例えばオレイン酸エチルである。水性キャリアーとしては、水、アルコール性溶液/水溶液、乳濁液または懸濁液、例えば食塩水および緩衝化培地などが挙げられる。非経口の媒体としては、塩化ナトリウム溶液、リンガーデキストロース、デキストロース、および、塩化ナトリウム、乳酸加リンガー、または、不揮発性油が挙げられる。静脈内の媒体としては、流体および栄養素の補給液、電解質補給液(例えば、リンガーデキストロースベースのもの)などが挙げられる。また、保存剤およびその他の添加剤、例えば、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤および不活性ガスなどが存在してもよい。加えて、本発明の医薬組成物は、例えば、血清アルブミンまたは免疫グロブリン(好ましくはヒト由来)のようなタンパク質様のキャリアーを含んでいてもよい。本発明の医薬組成物は、タンパク質様のCD3結合分子、または、同じものをコードする核酸分子もしくはベクター(本発明で説明されているような)に加えて、本医薬組成物の目的とする使用に応じてさらなる生物学的に活性な物質を含んでいてもよいということを想定している。このような物質としては、胃腸系に作用する薬物、細胞増殖抑制剤として作用する薬物、高尿酸血症を予防する薬物、免疫反応を阻害する薬物(例えばコルチコステロイド)、循環系に作用する薬物、および/または、T細胞副刺激分子のような物質、または、当業界既知のサイトカインが挙げられる。
【0081】
本発明の組成物の投与の可能な適用は、腫瘍性の疾患、ガン、特に上皮癌/癌腫、例えば乳ガン、結腸ガン、前立腺ガン、頭頚部ガン、非黒色皮膚ガン、尿生殖路のガン、例えば卵巣ガン、子宮内膜ガン、子宮頚ガン、および、腎臓ガン、肺ガン、胃ガン、小腸ガン、肝臓ガン、膵臓ガン、胆嚢ガン、胆管ガン、食道ガン、唾液腺ガン、および、甲状腺ガン、または、その他の腫瘍性の疾患、例えば血液ガン、黒色腫、神経膠腫、肉腫、例えば骨肉種である。本発明の組成物の投与のさらなる適用は、増殖疾患、炎症性疾患、免疫疾患、自己免疫疾患、感染症、ウイルス性疾患、アレルギー反応、寄生虫性の反応、移植片対宿主疾患、または、宿主対移植片疾患である。
【0082】
また、上述したような本発明の組成物は、診断用組成物であってもよく、本組成物は、場合により、増殖疾患、腫瘍性の疾患、炎症性疾患、免疫疾患、自己免疫疾患、感染症、ウイルス性疾患、アレルギー反応、寄生虫性の反応、移植片対宿主疾患、または、宿主対移植片疾患を検出するための手段および方法をさらに含む。
【0083】
また、本発明の二重特異性を有する特異的な結合分子は、イムノアッセイでの使用にも適しており、この場合、本結合分子は、液相で、または、固相キャリアーに結合させて利用することができる。例えば診断目的で、本発明のポリペプチドを利用することができるイムノアッセイの例は、直接的または間接的な様式のいずれかでの、競合的および非競合的イムノアッセイである。このようなイムノアッセイの例は、酵素様免疫吸着検査法(ELISA)、酵素免疫検査法(EIA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、サンドイッチ(イムノメトリック分析)、ドットブロット、および、ウェスタンブロット分析である。例えば診断分析で二重特異性を有する結合分子を検出するのに用いることができる追加の分析は、FACSに基づく分析、細胞毒性分析(Cr51,蛍光放出)、または、色素放出分析である。
【0084】
本発明の二重特異性を有する特異的な結合分子を多くの様々なキャリアーに結合させて、さらに、前記ポリペプチドに特異的に結合した細胞を単離するのに用いることができる。周知のキャリアーの例としては、ガラス、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、デキストラン、ナイロン、アミロース、天然および変性セルロース、ポリアクリルアミド、アガロース、および、磁鉄鉱が挙げられる。キャリアーの性質は、本発明の目的に応じて可溶性または不溶性のいずれでもよく、例えばビーズである。
【0085】
前記診断用組成物は、1またはそれ以上の容器に入れてもよく、この容器には、必要に応じて緩衝液、貯蔵溶液、および/または、医療目的または科学的な目的の実施に必要なその他の試薬または材料が含まれる。その上、本発明の診断用組成物の一部は、バイアルまたはボトルに個別に包装してもよいし、または、容器またはマルチコンテナーユニット中で組み合わせてもよい。
【0086】
当業者既知の多くの様々な標識および標識方法がある。本発明で用いることができる標識のタイプの例としては、酵素、放射性同位体、コロイド金属、蛍光化合物、化学発光化合物、および、生物発光化合物が挙げられる。
【0087】
本発明の最も好ましい実施形態において、医薬組成物を製造するための、本発明の二重特異性を有する結合分子、または、本発明のプロセスによって生産された結合分子、本発明のベクターもしくは宿主の使用が考慮される。前記医薬組成物は、増殖疾患、腫瘍性の疾患、炎症性疾患、免疫疾患、自己免疫疾患、感染症、ウイルス性疾患、アレルギー反応、寄生虫性の反応、移植片対宿主疾患、または、宿主対移植片疾患の予防、治療または改善に用いてもよい。
【0088】
本発明はまた、増殖疾患、腫瘍性の疾患、炎症性疾患、免疫疾患、自己免疫疾患、感染症、ウイルス性疾患、アレルギー反応、寄生虫性の反応、移植片対宿主疾患、または、宿主対移植片疾患を予防、治療または改善する方法に関し、本方法は、このような予防、治療または改善が必要な被検体に、有効量の本発明の二重特異性を有する結合分子、または、本発明のプロセスによって生産された結合分子、本発明のベクターもしくは宿主を投与することを含む。好ましくは、前記被検体はヒトである。
【0089】
さらに、上記治療方法は、有効量の免疫エフェクター細胞の活性化シグナルを提供することができるタンパク質様化合物の投与をさらに含むことも考慮される。好ましくは、前記タンパク質様化合物は、本発明の二重特異性を有する結合分子、または、本発明のプロセスによって生産された二重特異性を有する結合分子、本発明の核酸分子、ベクターもしくは宿主と同時に、または異なる時期に投与される。
【0090】
最終的に、本発明は、本発明の二重特異性を有する結合分子、または、本発明のプロセスによって生産された二重特異性を有する結合分子、本発明の核酸分子、ベクターもしくは宿主を含むキットを提供する。
【0091】
前記キットは、本発明の医薬組成物の製造において特に有用であり、特に、注射または輸液に有用な容器で構成されてもよい。有利には、本発明のキットは、必要に応じて緩衝液、貯蔵溶液、および/または、医療目的または科学的な目的の実施に必要なその他の試薬または材料をさらに含む。その上、本発明のキットの一部は、バイアルまたはボトルに個別に包装してもよいし、または、容器またはマルチコンテナーユニット中で組み合わせてもよい。本発明のキットは、特に本発明の方法を行うのに有利に用いることができ、さらに、例えば調査手段または医療的な手段として、本明細書で述べられた多種多様な適用で用いることができる。本キットの製造は、好ましくは、当業者既知の標準的な手法に従う。
【0092】
これらのおよびその他の実施形態が開示されており、本発明の説明および実施例に包含される。本発明に従って用いることができる抗体、方法、使用および化合物のいずれかに関するさらなる文献は、例えば電子装置を用いて、公共のライブラリーおよびデータベースから収集することもできる。例えば、インターネットで利用可能な公共データベース「メドライン(Medline)」が、例えばhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/PubMed/medline.htmlで利用可能である。http://www.ncbi.nlm.nih.gov/http://www.infobiogen.fr/http://www.fmi.ch/biology/research_tools.htmlhttp://www.tigr.org/などのさらなるデータベースおよびアドレスが当業者既知であり、これもまた、例えば、http://www.lycos.com、または、http://www.google.comを利用して入手可能である。
【実施例】
【0093】
以下、以下の生物学的な実施例を参照しながら本発明を説明するが、これらは単に説明のためのものであり、本発明の範囲を限定するものとして解釈されない。
実施例1.
CD3抗原に特異的なヒト化抗体の生成
CD3の特異的な抗体OKT3のCDRの位置は、Kabat,EA,等.Sequences of Proteins of Immunological Interest.第5版.第3巻.ベセスダ,メリーランド州:National Institutes of Health.National Center for Biotechnology Information,1991年;2597.NIH publication no.91〜3242を参照して決定された。
【0094】
移植されたCDRを受け入れるように選択されたヒトのフレームワーク領域は、重鎖および軽鎖それぞれに対してKOLおよびREIであった。これらのタンパク質の構造は、結晶学的に解析された(REI:Palm(1975年)Hoppe Seylers Z Physiol Chem 356,167〜191,KOL:Schmidt(1983年)Hoppe Seylers Z Physiol Chem 364,713〜747)。
【0095】
多数の追加のマウスの残基を、Adair 1994年 Hum.Antibod.Hybridomas,5:41〜48に従って、ヒト可変領域フレームワークに導入した。改変されたこれらの残基は、元の抗原特異性の保持に重要である。軽鎖のCDR1、CDR2およびCDR3に追加の突然変異を導入した。表2に、本発明のヒト化OKTおよび改善されたヒト化CD3のCDR配列を示す。図1Aに、改善されたヒト化CD3結合分子の配列を示す;配列番号9〜12。
【0096】
【表2】

【0097】
実施例2.
ヒト化抗CD3部分を含む二重特異性を有する単鎖抗体の構築
実施例2.1
ヒト化抗CD3部分を含む二重特異性を有する単鎖抗CD19x抗CD3抗体の構築
得られたヒト化抗体のscFvをコードするDNAを、遺伝子合成により得て、さらにCD19に特異的なscFvとの遺伝学的な融合で処理し、二重特異性を有する単鎖抗体を得た(図1B,配列番号19,20)。二重特異性を有する単鎖抗体を、制限酵素EcoRIおよびSalIを用いて、哺乳動物発現ベクターpEF−DHFRにサブクローニングした。
【0098】
実施例2.2
ヒト化抗CD3部分を含む二重特異性を有する単鎖抗EpCAMx抗CD3抗体の構築
実施例1.1に記載の二重特異性を有するコンストラクトに加えて、異なる腫瘍特異性を有する、2種のさらなる二重特異性を有する単鎖抗体を構築した。二重特異性を有する抗CD19xhum.抗CD3のCD19特異性を、2種の選択されたEpCAM抗体5−10、および、3−1で置き換えた。このようにして、2つのEpCAM−特異的な二重特異性を有する単鎖抗体コンストラクトの抗EpCAM(5−10)xhum.抗CD3(配列番号35,36)、および、抗EpCAM(3−1)xhum.抗CD3(配列番号33,34)を得た。
【0099】
実施例3.
ヒト化抗CD3部分を含む二重特異性を有する単鎖抗体の発現
抗CD19xhum.抗CD3、および、抗EpCAMxhum.抗CD3コンストラクト(配列番号19,20,33,34,35,36)を、Mack,M.等(1995年)Proc Natl Acad Sci USA 92,7021〜7025で説明されているように、DHFR欠損チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞への安定なトランスフェクションによって発現させた。細胞をリン酸カルシウム処理した後に、発現ベクターのトランスフェクションを行った(Sambrook等.1989年)。
【0100】
実施例4.
ヒト化抗CD3部分を含む単鎖二重特異性抗体の結合活性のFACS解析
結合能力に関する機能性を試験するために、FACS 解析を行った。
【0101】
実施例4.1
抗CD19xhum.抗CD3二重特異性抗体のフローサイトメトリーによる結合解析
CD19陽性Nalm6細胞(ヒト前駆B細胞白血病)、および、CD3陽性Jurkat細胞(ヒトT細胞性白血病)を用いた。200,000個のNalm6細胞、および、200,000個のJurkat細胞を、抗CD19xhum.抗CD3の特異的なポリペプチドでトランスフェクションされたCHO細胞の純粋な細胞培養上清(50μl)と、氷上で30分間インキュベートした。細胞をPBSで2回洗浄した。次に、このコンストラクトの結合を、マウスのペンタHis(Penta His)抗体(2%FCSを含むPBS50μlで1:20に希釈;キアゲン(Qiagen))を用いて、そのC末端のヒスチジンタグを介して検出し、続いて洗浄工程を行い、フィコエリトリン結合Fcガンマ特異的抗体(ダイアノバ(Dianova))を、2%FCSを含むPBS(50μl)で1:100に希釈した(図2A,太線)。ネガティブコントロールとして、細胞培養上清の代わりに新しい細胞培地を用いた(図2,細線)。
【0102】
細胞を、FACS−キャリバー(FACS−Calibur,ベクトン・ディッキンソン(Becton Dickinson),ハイデルベルグ)でフローサイトメトリーによって解析した。FACS染色および蛍光強度の測定は、Current Protocols in Immunology(Coligan,Kruisbeek,Margulies,ShevachおよびStrober,Wiley−Interscience,2002年)で説明されているようにして行われた。二重特異性を有する結合分子の結合活性を、従来技術で説明されている通りに、ヒト化OKT3部分を含む対応するコントロール二重特異性抗体の結合活性と比較した。
【0103】
図2で示されるように、抗CD19xhum.OKT3、および、抗CD19xhum.抗CD3(改善されたhum.OKT3)はいずれも、CD19およびCD3によく結合した。
【0104】
実施例4.2
抗EpCAMxhum.抗CD3二重特異性抗体のフローサイトメトリーによる結合解析
EpCAM特異的な二重特異性抗体の結合能力を試験するために、実施例4.1で説明されているような分析を、以下の改変を施して繰り返した:Nalm6細胞の代わりに、EpCAM陽性KatoIII細胞を用い(胃ガン細胞系;ATCC HTB−103)、EpCAM二重特異性抗体でトランスフェクトされたCHO細胞の上清を用いた。図2Bおよび2Cに、EpCAM結合分析の結果を示す。コントロールとして、従来技術で説明されているようなヒト化OKT3を含む対応する二重特異性抗体を用いた。
【0105】
図2Bおよび2Cで示されるように、本発明のヒト化抗CD3を含む二重特異性を有するコンストラクト(配列番号34,36)は、ヒト化OKT3を含むコンストラクトよりも極めて優れた結合を示す。
【0106】
実施例5.
改善されたヒト化抗CD3部分を含む二重特異性を有するコンストラクトの精製
二重特異性を有する単鎖コンストラクトを精製するために、CHO細胞を安定してトランスフェクションした抗CD19xhum.抗CD3を、回収の前の7日間、ローラーボトル中でハイクローン(R)(HiClone(R))CHO改変DMEM培地(HiQ)を用いて成長させた。この細胞を遠心分離によって分離し、発現されたタンパク質を含む上清を−20℃で保存した。
【0107】
クロマトグラフィーには、Akta FPLCシステム(R)(ファルマシア)、および、ユニコーン(Unicorn)ソフトウェアを用いた。全ての化学物質は、研究グレードのものであり、シグマ(Sigma,ダイゼンホーフェン,ドイツ)、または、メルク(Merck,ダルムシュタット,ドイツ)から購入した。
【0108】
固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)、および、ゲルろ過を含む二工程精製プロセスで、ヒト化二重特異性を有する単鎖コンストラクトタンパク質を単離した。
【0109】
IMAC(固定化金属アフィニティークロマトグラフィー)は、製造元のプロトコールに従ってZnClでローデングされたフラクトゲルカラム(R)(Fractogel column(R))(ファルマシア)を用いて行なわれた。このカラムを、緩衝液A2(20mMのリン酸ナトリウムpH7.5,0.4MのNaCl)で平衡化させ、細胞培養上清(500ml)を、流速3ml/分でカラム(10ml)に入れた。このカラムを緩衝液A2で洗浄し、未結合のサンプルを除去した。結合したタンパク質は、緩衝液B2(20mMのリン酸ナトリウムpH7.5,0.4MのNaCl,0.5Mのイミダゾール)の二工程の勾配を用いて、すなわち工程1:カラム体積の10倍量の20%緩衝液B2;工程2:カラム体積の10倍量の100%緩衝液B2を用いて溶出させた。100%工程から溶出したタンパク質分画をさらなる精製のためにプールした(図3)。
【0110】
PBS(ギブコ)で平衡化させたセファデックスS200ハイプレップカラム(R)(HiPrep column(R),ファルマシア)で、ゲルろ過クロマトグラフィーを行った。溶出したタンパク質サンプル(流速1ml/分)を、検出のためにSDS−PAGE、および、ウェスタンブロットで処理した。このカラムは、分子量決定(分子量マーカーキット,シグマMW GF−200)のために予め較正されていた(図4)。
【0111】
タンパク質分析用色素(マイクロBCA(Micro BCA,ピアース(Pierce))、および、標準タンパク質としてIgG(バイオ・ラッド(BioRad))を用いて、精製されたコンストラクトのタンパク質の濃度を決定した。表2に、タンパク質の収率を示す。全てのコンストラクトが、細胞培養上清から精製することができた。抗CD19xhum.抗CD3(16μg/ml)、および、抗CD19xhum.OKT3(13,6μg/ml)について、匹敵する量の精製タンパク質が得られた。
【0112】
精製産物の分子量は、PBS中のゲルろ過によって測定したところ、天然型の状態で52kDaであった。
既製の4〜12%ビストリスゲル(インビトロジェン(Invitrogen))で、精製された二重特異性を有するタンパク質のSDS−PAGEを行った。サンプル調整および適用は、製造元のプロトコールに従った。マルチマークタンパク質標準(R)(MultiMark protein standard(R),インビトロジェン)を用いて分子量を決定した。ゲルをコロイド状のクーマシー(インビトロジェンのプロトコール)で染色したところ、52kDaでバンドが示された。単離したタンパク質の純度は、95%を超えることが示された。
【0113】
オプティトランBA−S83メンブレン(Optitran BA−S83membrane(R))、および、インビトロジェンのブロット・モジュール(R)(Blot Module(R))を製造元のプロトコールに従って用いて、ウェスタンブロットを行った。用いられた抗体は、ペンタHis(キアゲン(Quiagen))、および、ヤギ抗マウスアルカリホスファターゼ(AP)(シグマ)であり、染色溶液は、BCIP/NBT(シグマ)であった。ヒト化二重特異性を有するタンパク質をウェスタンブロットで検出したところ、52kDのバンドが示され(図5B)、これは、クーマシー染色されたSDS−ゲルでは、精製された二重特異性を有するタンパク質に相当する(図5A)。
【0114】
実施例6.
ヒト化抗CD3部分を含む二重特異性抗体の生物活性
構築された二重特異性抗体の高い細胞毒性活性を照明するために、以下の分析を行った。
【0115】
実施例6.1
抗CD19xhum.抗CD3二重特異性抗体(配列番号20)
標的のNALM−6細胞(1.5×10)を、細胞培地中で37℃で30分間、10μMカルセインAM(モレキュラープローブス(Molecular Probes))で標識した。細胞培地中で2回洗浄した後、細胞を計数し、CD4陽性CB15T細胞と混合した。得られたエフェクター標的細胞の混合物には、1mlあたり、2×10のNalm6細胞、および、2×10のCB15細胞(E:Tの比率は1:10)が含まれていた。抗体をRPMI/10%FCSで必要な濃度に希釈した。この溶液50μlを、細胞懸濁液に添加し、37℃/5%COで2時間インキュベートした。細胞毒性反応の後に、インキュベート培地中に放出された色素を蛍光リーダーで定量し、細胞毒性化合物が含まれていないコントロール反応(ネガティブコントロール)と、完全に溶解させた細胞(1%サポニン中で10分間)で蛍光シグナルが測定された反応(ポジティブコントロール)とからの蛍光シグナルと比較した。これらの測定値に基づき、以下の式に従って具体的な細胞毒性を計算した:[蛍光(サンプル)−蛍光(コントロール)]:[蛍光(完全な溶解物)−蛍光(コントロール)]×100。
【0116】
典型的には、S字状の用量反応曲線は、プリズム(Prism)ソフトウェア(グラフパッド・ソフトウェア社(GraphPad Software Inc.),サンディエゴ,米国)によって決定されたように、0.97を超えるR2値を有していた。生物活性を比較するために、解析プログラムによって計算されたあEC50値を用いた。図6に、ヒト化CD3部分を含むCD19およびCD3に対する二重特異性抗体の細胞毒性を示す。従来技術で説明されているような、対応するヒト化OKT3を含む二重特異性抗体を、コントロールとして用いた。
【0117】
二重特異性を有する形態では、二重特異性を有するヒト化改変CD3(hum.抗CD3)(配列番号20)は、Adairで説明されているようなヒト化OKT3(EC50値は、195pg/ml)と比較して、細胞毒性活性が明らかに増加していた(EC50値=50pg/ml)。従って、これらの結果より、本発明の、改善されたヒト化抗体CD3への結合の主な利点が実証される。二重特異性を有する形態の改変ヒト化CD3の細胞毒性活性が約4倍増加していることにより、この分子は、治療用途において極めて有利である。より強い細胞毒性活性に基づき、治療に必要なタンパク質は、従来技術の分子よりも少量でよい。従って、本発明の二重特異性を有する分子は、高い細胞毒性活性と、ヒト化されているためより低い免疫原性とを同時に示すため、患者を治療する場合に、従来技術の抗体を超える重要な利点を提供する。それゆえに、これらは、医療分野において明らかな改善を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1A】ヒト化抗CD3抗体軽鎖および重鎖のヌクレオチドおよびアミノ酸配列(配列番号9〜12)
【図1B】二重特異性を有する抗CD19xhum.抗CD3抗体のヌクレオチドおよびアミノ酸配列(配列番号19,20)
【図1C】二重特異性を有する抗EpCAM(5−10)xhum.抗CD3抗体のヌクレオチドおよびアミノ酸配列(配列番号35,36)
【図1D】二重特異性を有する抗EpCAM(3−1)xhum.抗CD3抗体のヌクレオチドおよびアミノ酸配列(配列番号33,34)である。
【図2A】様々なコンストラクトの、CD3およびCD19、または、EpCAMに対する結合親和性のFACS解析である。CD3陽性Jurkat細胞を用いてCD3結合のFACS解析を行った。二重特異性を有する抗CD19xhum.抗CD3抗体コンストラクト(配列番号20)。CD19への結合を、CD19陽性Nalm6細胞を用いて示す。
【図2B】二重特異性を有する抗EpCAM(3−1)xhum.抗CD3抗体コンストラクト(配列番号34)。EpCAMへの結合を、EpCAM陽性KatoIII細胞を用いて示す。
【図2C】二重特異性を有する抗EpCAM(5−10)xhum.抗CD3抗体コンストラクト(配列番号36)。EpCAMへの結合を、EpCAM陽性KatoIII細胞を用いて示す。右側へのシフトは、結合を示す。
【図3】二重特異性を有する抗CD19xhum.抗CD3抗体の溶出パターンであり、Zn−キレーティング・フラクトゲル(R)(Zn−Chelating Fractogel(R))カラムからのタンパク質分画を含む。50〜530mlの保持時間の280nmでの高い吸着は、カラム流出液中の非結合タンパク質によるものであった。617.44mlでのピークにおける矢印は、用いられた、またはさらに精製された二重特異性を有するヒト化コンストラクトを含むタンパク質分画を示す。
【図4】セファデックスS200(R)(Sephadex S200(R))ゲルろ過カラムからのタンパク質溶出パターンである。82.42mlにおける抗CD19xhum.抗CD3に対する二重特異性抗体を含むタンパク質ピークは、約52kDの分子量に相当する。40〜120mlの保持時間で分画を回収した。
【図5】A)二重特異性を有する抗CD19xhum.抗CD3抗体の、SDS−PAGE解析タンパク質分画である。レーンM:分子量マーカー、レーン1:細胞培養上清;レーン2:IMAC溶出液;レーン3:ゲルろ過凝集ピーク;レーン4:精製された二重特異性抗体の抗CD19xhum.抗CD3; B)精製された二重特異性を有する抗CD19xhum.抗CD3抗体の、ウェスタンブロット解析である。レーンM:分子量マーカー、レーン1:細胞培養上清;レーン2:IMAC溶出液;レーン3:ゲルろ過凝集ピーク;レーン4:ゲルろ過から得られた、精製された二重特異性抗体抗CD19xhum.抗CD3である。
【図6】二重特異性を有する抗CD19xhum.抗CD3抗体(配列番号20)の細胞毒性分析である。NALM−6細胞を標的細胞として用い、CD4陽性CB15T細胞をエフェクター細胞として用いた(E:Tの比率は1:10)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つのドメインを含む、または、少なくとも2つのドメインからなる二重特異性を有する結合分子であって、ここで、
(a)前記少なくとも2つのドメインの一方は、ヒトCD3複合体と特異的に結合/相互作用し、ここで、前記ドメインは、抗体由来の軽鎖のアミノ酸配列を含み、ここで、前記アミノ酸配列は:
(i)配列番号2のアミノ酸配列;
(ii)配列番号1に対応する核酸配列によってコードされたアミノ酸配列;
(iii)ストリンジェントな条件下で(ii)で定義された核酸配列の相補鎖とハイブリダイゼーションするヌクレオチド配列によってコードされたアミノ酸配列;および、
(iv)(ii)および(iii)のいずれか一種のヌクレオチドの配列に相当する遺伝子コードの縮重により得られた核酸配列によってコードされたアミノ酸配列、
であり、ただし、(i)〜(iv)に記載のアミノ酸配列は、カバット(Kabat)システムに従って、軽鎖のCDR領域のL24位、L54位およびL96位にアミノ酸置換を含み;および、
(b)第二のドメインは、少なくとも1つのさらなる抗原相互作用部位、および/または、少なくとも1つのさらなるエフェクタードメインであるか、または、それらを含む、上記分子。
【請求項2】
前記ヒトCD3複合体と結合/相互作用するドメインは、L24位のセリン、L54位のバリン、および、L96位のロイシンを有することを特徴とする、請求項1に記載の二重特異性を有する結合分子。
【請求項3】
前記軽鎖のCDR領域は、配列番号4、6または8のアミノ酸配列、または、配列番号3、5または7の核酸配列によってコードされたアミノ酸配列を含む、または、からなる、請求項1または2に記載の二重特異性を有する結合分子。
【請求項4】
前記ヒトCD3複合体と結合/相互作用するドメインは、scFvである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の二重特異性を有する結合分子。
【請求項5】
前記ヒトCD3複合体と結合/相互作用するドメインは、配列番号10のアミノ酸配列を含む、もしくは、配列番号10のアミノ酸配列からなる、または、配列番号9の核酸配列によってコードされている、請求項1〜4のいずれか一項に記載の二重特異性を有する結合分子。
【請求項6】
前記ヒトCD3複合体と結合/相互作用するドメインは、配列番号14で示されたアミノ酸配列を含む、もしくは、配列番号14で示されたアミノ酸配列からなる、または、配列番号13の核酸配列によってコードされている、請求項1〜5のいずれか一項に記載の二重特異性を有する結合分子。
【請求項7】
前記第二のドメインは、1またはそれ以上の細胞表面分子に特異的な少なくとも1つのさらなる抗原相互作用部位である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の二重特異性を有する結合分子。
【請求項8】
前記1またはそれ以上の細胞表面分子は腫瘍特異的な分子である、請求項7に記載の二重特異性を有する結合分子。
【請求項9】
前記第二のドメインは、追加のscFvである、請求項7または8に記載の二重特異性を有する結合分子。
【請求項10】
前記第二のドメインは、EpCAM、CCR5、CD19、HER−2、HER−3、HER−4、EGFR、PSMA、CEA、MUC−1(ムチン)、MUC2、MUC3、MUC4、MUC5AC、MUC5B、MUC7、bhCG、ルイスY、CD20、CD33、CD30、ガングリオシドGD3、9−O−アセチル−GD3、GM2、GloboH、フコシルGM1、ポリSA、GD2、炭酸脱水酵素IX(MN/CA IX)、CD44v6、ソニックヘッジホッグ(Shh)、Wue−1、血漿細胞抗原(膜結合型)IgE、黒色腫のコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(MCSP)、CCR8、TNF−アルファ前駆体、STEAP、メソテリン、A33抗原、前立腺幹細胞抗原(PSCA)、Ly−6デスモグレイン4、E−カドヘリンネオエピトープ、胎児アセチルコリン受容体、CD25、CA19−9マーカー、CA−125マーカー、および、ミュラー管抑制因子(MIS)受容体タイプII、sTn(シアル化Tn抗原;TAG−72)、FAP(線維芽細胞活性化抗原)、エンドシアリン(endosialin)、EGFRvIII、L6、SAS、CD63、TF抗原、Cora抗原、CD7、CD22、Igα、Igβ、gp100、MT−MMP、F19抗原、および、CO−29からなる群より選択される抗原と特異的に結合/相互作用する、請求項7〜9のいずれか一項に記載の二重特異性を有する結合分子。
【請求項11】
前記第二のドメインは、以下からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、または、以下からなる群より選択されるアミノ酸配列からなる、請求項10に記載の二重特異性を有する結合分子:
(a)配列番号16または18に対応するアミノ酸配列;
(b)配列番号15または17に対応する核酸配列によってコードされたアミノ酸配列;
(c)ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、(b)で定義された核酸配列の相補鎖とハイブリダイゼーションする核酸配列によってコードされたアミノ酸配列;および、
(d)(b)および(c)のいずれか一種のヌクレオチドの配列に相当する遺伝子コードの縮重により得られた核酸配列によってコードされたアミノ酸配列。
【請求項12】
前記分子は、以下からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、または、以下からなる群より選択されるアミノ酸配列からなる、請求項11に記載の二重特異性を有する結合分子:
(a)配列番号20に対応するアミノ酸配列;
(b)配列番号21に対応する核酸配列によってコードされたアミノ酸配列;
(c)ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、(b)で定義された核酸配列の相補鎖とハイブリダイゼーションする核酸配列によってコードされたアミノ酸配列;および、
(d)(b)および(c)のいずれか一種のヌクレオチドの配列に相当する遺伝子コードの縮重により得られた核酸配列によってコードされたアミノ酸配列。
【請求項13】
前記第二のドメインは、以下からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、または、以下からなる群より選択されるアミノ酸配列からなる、請求項10に記載の二重特異性を有する結合分子:
(a)配列番号22、24、26、28、30、32に対応するアミノ酸配列;
(b)配列番号21、23、25、27、29、31に対応する核酸配列によってコードされたアミノ酸配列;
(c)ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、(b)で定義された核酸配列の相補鎖とハイブリダイゼーションする核酸配列によってコードされたアミノ酸配列;および、
(d)(b)および(c)のいずれか一種のヌクレオチドの配列に相当する遺伝子コードの縮重により得られた核酸配列によってコードされたアミノ酸配列。
【請求項14】
前記分子は、以下からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、または、以下からなる群より選択されるアミノ酸配列からなる、請求項13に記載の二重特異性を有する結合分子:
(a)配列番号34、36に対応するアミノ酸配列;
(b)配列番号33、35に対応する核酸配列によってコードされたアミノ酸配列;
(c)ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、(b)で定義された核酸配列の相補鎖とハイブリダイゼーションする核酸配列によってコードされたアミノ酸配列;および、
(d)(b)および(c)のいずれか一種のヌクレオチドの配列に相当する遺伝子コードの縮重により得られた核酸配列によってコードされたアミノ酸配列。
【請求項15】
前記少なくとも1つのさらなる抗原相互作用部位は、ヒト化されている、請求項7〜11または13のいずれか一項に記載の二重特異性を有する結合分子。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか一項に記載の二重特異性を有する結合分子をコードする核酸配列。
【請求項17】
以下からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含む、請求項16に記載の核酸分子:
(a)配列番号20、34、36からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、タンパク質の成熟型をコードするヌクレオチド配列;
(b)配列番号19、33、35からなる群より選択されるDNA配列を含む、または、からなるヌクレオチド配列;
(c)ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、(b)で定義されたヌクレオチド配列の相補鎖とハイブリダイゼーションするヌクレオチド配列;
(d)(a)または(b)のヌクレオチドの配列によってコードされたアミノ酸配列の1個または数個のアミノ酸の置換、欠失および/または付加によって、(a)または(b)のヌクレオチドの配列によってコードされたタンパク質から誘導されたタンパク質をコードするヌクレオチド配列;
(e)(a)または(b)のヌクレオチドの配列によってコードされたアミノ酸配列に少なくとも60%同一なアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするヌクレオチド配列;
(f)遺伝子コードの縮重により得られた(a)〜(e)のいずれか一つのヌクレオチドの配列に相当するヌクレオチド配列。
【請求項18】
請求項16または17に記載の核酸配列を含むベクター。
【請求項19】
請求項16または17に記載の核酸配列に作動可能に連結した調節配列である核酸配列をさらに含む、請求項18に記載のベクター。
【請求項20】
発現ベクターである、請求項18または19に記載のベクター。
【請求項21】
請求項18〜20のいずれか一項に記載のベクターで形質転換またはトランスフェクションされた宿主。
【請求項22】
請求項1〜15のいずれか一項に記載の二重特異性を有する結合分子の製造プロセスであって、前記二重特異性を有する結合分子が発現されるような条件下で請求項21に記載の宿主を培養すること、および、該培養から生産された二重特異性を有する結合分子を回収することを含む、上記プロセス。
【請求項23】
請求項1〜15のいずれか一項に記載の二重特異性を有する結合分子、または、請求項22に記載のプロセスによって生産された二重特異性を有する結合分子、請求項16または17に記載の核酸分子、請求項18〜20のいずれか一項に記載のベクター、または、請求項21に記載の宿主、および、場合により、免疫エフェクター細胞の活性化シグナルを提供することができるタンパク質様化合物を含む組成物。
【請求項24】
キャリアー、安定剤、および/または、賦形剤の適切な調合物をさらに含む医薬組成物である、請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
増殖疾患、腫瘍性の疾患、炎症性疾患、免疫疾患、自己免疫疾患、感染症、ウイルス性疾患、アレルギー反応、寄生虫性の反応、移植片対宿主疾患、または、宿主対移植片疾患を検出するための手段および方法をさらに含む診断用組成物である、請求項23に記載の組成物。
【請求項26】
増殖疾患、腫瘍性の疾患、炎症性疾患、免疫疾患、自己免疫疾患、感染症、ウイルス性疾患、アレルギー反応、寄生虫性の反応、移植片対宿主疾患、または、宿主対移植片疾患の予防、治療または改善のための医薬組成物を製造するための、請求項1〜15のいずれか一項に記載の二重特異性を有する結合分子、または、請求項22に記載のプロセスによって生産された二重特異性を有する結合分子、請求項16または17に記載の核酸分子、請求項18〜20のいずれか一項に記載のベクター、または、請求項21に記載の宿主の使用。
【請求項27】
増殖疾患、腫瘍性の疾患、炎症性疾患、免疫疾患、自己免疫疾患、感染症、ウイルス性疾患、アレルギー反応、寄生虫性の反応、移植片対宿主疾患、または、宿主対移植片疾患を、それらの予防、治療または改善が必要な被検体において、予防、治療または改善する方法であって、有効量の請求項1〜15のいずれか一項に記載の二重特異性を有する結合分子、または、請求項22に記載のプロセスによって生産された二重特異性を有する結合分子、請求項16または17に記載の核酸分子、請求項18〜20のいずれか一項に記載のベクター、または、請求項21に記載の宿主を投与する工程を含む、上記方法。
【請求項28】
前記被検体はヒトである、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
免疫エフェクター細胞の活性化シグナルを提供することができるタンパク質様化合物の投与をさらに含む、請求項27または28に記載の方法。
【請求項30】
前記タンパク質様化合物は、請求項1〜15のいずれか一項に記載の二重特異性を有する結合分子、または、請求項22に記載のプロセスによって生産された二重特異性を有する結合分子、請求項16または17に記載の核酸分子、請求項18〜20のいずれか一項に記載のベクター、または、請求項21に記載の宿主と同時に、または異なる時期に投与される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
請求項1〜15のいずれか一項に記載の二重特異性を有する結合分子、または、請求項22に記載のプロセスによって生産された二重特異性を有する結合分子、請求項16または17に記載の核酸分子、請求項18〜20のいずれか一項に記載のベクター、または、請求項21に記載の宿主を含むキット。

【図1A】
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【図1B】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1C】
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【図1D】
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【図1D】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−506353(P2008−506353A)
【公表日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−552576(P2006−552576)
【出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【国際出願番号】PCT/EP2005/001573
【国際公開番号】WO2005/077982
【国際公開日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(500522714)ミクロメット・アクチェンゲゼルシャフト (5)
【氏名又は名称原語表記】MICROMET AG
【Fターム(参考)】