説明

低反応性シリカ粉体、それを用いたエポキシ樹脂組成物、およびエポキシ樹脂成形体

【課題】 エポキシ樹脂に配合しても凝集し難く、エポキシ樹脂組成物の粘度の上昇を抑制することのできる低反応性シリカ粉体を提供する。
【解決手段】 低反応性シリカ粉体を、エポキシ樹脂との反応試験において、次式(a)により算出されるエポキシ樹脂との反応性(ΔE)が100μmol/m2以下であるものとする。ΔE=[We×{(1/Rb)−(1/Rw)}]/(Ws×SSA)・・・(a)We:反応試験に用いたエポキシ樹脂の質量(g)、Rb:シリカ粉体を配合せずに反応試験を行った場合のエポキシ樹脂の反応試験後エポキシ当量(g/mol)、Rw:シリカ粉体を配合して反応試験を行った場合のエポキシ樹脂の反応試験後エポキシ当量(g/mol)、Ws:反応試験に用いたシリカ粉体の質量(g)、SSA:反応試験に用いたシリカ粉体の比表面積(m2/g)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂との反応が抑制された低反応性シリカ粉体、それを用いたエポキシ樹脂組成物、およびエポキシ樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の高性能化、高機能化、小型軽量化に伴い、搭載される半導体パッケージの形態も、高集積化、小型化、薄型化が進んでいる。このような半導体パッケージの実用化には、ICチップの開発とともに、封止材の開発が必要不可欠となる。現在では、封止材として、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が多く用いられている。封止材には、半導体素子の各種信頼性を確保するため、接着性、耐熱性、耐湿性等が要求される。このため、これらの特性をさらに向上させるべく、エポキシ樹脂にシリカ粉体を配合したエポキシ樹脂組成物が開発されている(例えば、特許文献1参照。)。また、配合するシリカ粉体の表面をシランカップリング剤で処理することで、エポキシ樹脂組成物の成形性等を向上させる試みも提案されている(例えば、特許文献2、3参照。)。
【特許文献1】特開2000−063630号公報
【特許文献2】特開2001−189407号公報
【特許文献3】特開2002−114837号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
例えば、フリップチップ実装では、ICチップと基板との隙間等に液状の封止材(アンダーフィル材)が充填される。このように、極めて小さな隙間に封止材を浸入させなければならないため、封止材には高い流動性が要求される。一方、封止材の熱膨張係数や吸湿率を低下させ、耐熱性、耐吸湿性を向上させるためには、マトリックスとなる樹脂にシリカ粉体をできるだけ多量に配合することが望ましい。しかし、シリカ粉体は樹脂中で凝集し易いため、シリカ粉体の配合量を増加させるほど樹脂組成物の粘度は高くなり、流動性が低下してしまう。シリカ粉体の表面をシランカップリング剤で処理しても、凝集を抑制することは難しい。
【0004】
本発明は、このような実状を鑑みてなされたものであり、エポキシ樹脂に配合しても凝集し難く、エポキシ樹脂組成物の粘度の上昇を抑制することのできる低反応性シリカ粉体を提供することを課題とする。また、その低反応性シリカ粉体を用いて、流動性が高く、耐熱性、耐吸湿性に優れたエポキシ樹脂組成物、およびそれを硬化させたエポキシ樹脂成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)シリカ粒子の表面には、結合状態の異なる種々のOH基(シラノール:Si−OH)がある。これらのOH基の中には、エポキシ樹脂と反応し易い活性なOH基がある。例えば、シリカ粉体をエポキシ樹脂に配合した場合、活性なOH基とエポキシ基とが反応することで、エポキシ樹脂の分子量が増加してエポキシ当量が大きくなる。このため、シリカ粉体とエポキシ樹脂との反応性を、エポキシ当量の増加で規定することができる。本発明者は、シリカ粉体とエポキシ樹脂との反応性を、シリカ粉体の表面積1m2当たりに反応したエポキシ基のモル数で定義することとし、エポキシ樹脂との反応が抑制された低反応性シリカ粉体を発明するに至った。
【0006】
すなわち、本発明の低反応性シリカ粉体は、エポキシ樹脂との反応試験において、次式(a)により算出されるエポキシ樹脂との反応性(ΔE)が100μmol/m2以下であることを特徴とする。
ΔE=[We×{(1/Rb)−(1/Rw)}]/(Ws×SSA)・・・(a)
ここで、Weは反応試験に用いたエポキシ樹脂の質量(g)、Rbはシリカ粉体を配合せずに反応試験を行った場合のエポキシ樹脂の反応試験後エポキシ当量(g/mol)、Rwはシリカ粉体を配合して反応試験を行った場合のエポキシ樹脂の反応試験後エポキシ当量(g/mol)、Wsは反応試験に用いたシリカ粉体の質量(g)、SSAは反応試験に用いたシリカ粉体の比表面積(m2/g)である。なお、シリカ粉体とエポキシ樹脂との反応試験については後述する。
【0007】
上記式(a)より、反応試験において、エポキシ樹脂のエポキシ当量(Rw)が増加しなければ、ΔEは小さい値となる。つまり、ΔEの値が小さいほど、シリカ粉体とエポキシ樹脂との反応が抑制されたことになる。本発明の低反応性シリカ粉体では、ΔEの値が100μmol/m2以下と小さい。したがって、エポキシ樹脂に配合しても、エポキシ樹脂と反応し難く、エポキシ樹脂中での分散性に優れる。このため、本発明の低反応性シリカ粉体を用いれば、エポキシ樹脂組成物の粘性を低く抑えることができる。
【0008】
(2)本発明のエポキシ樹脂組成物は、上記本発明の低反応性シリカ粉体がエポキシ樹脂に配合されてなることを特徴とする。
【0009】
本発明のエポキシ樹脂組成物では、エポキシ樹脂中でのシリカ粉体の凝集が抑制されるため、粘度が上昇し難い。このため、本発明のエポキシ樹脂組成物の流動性は高い。したがって、本発明のエポキシ樹脂組成物は、半導体装置等の電子部品の封止材等として好適である。
【0010】
(3)本発明のエポキシ樹脂成形体は、上記本発明のエポキシ樹脂組成物を加熱硬化させて得られたことを特徴とする。
【0011】
上述したように、本発明のエポキシ樹脂組成物の流動性は高いため、硬化剤等との混合も容易である。よって、本発明のエポキシ樹脂組成物を加熱硬化させることにより、エポキシ樹脂中にシリカ粉体が均一に分散し、耐熱性、耐吸湿性に優れた硬化物(エポキシ樹脂成形体)を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の低反応性シリカ粉体、エポキシ樹脂組成物、およびエポキシ樹脂成形体の実施形態について詳しく説明する。なお、本発明の低反応性シリカ粉体、エポキシ樹脂組成物、およびエポキシ樹脂成形体は、下記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【0013】
〈低反応性シリカ粉体〉
本発明の低反応性シリカ粉体は、エポキシ樹脂との反応試験において、次式(a)により算出されるエポキシ樹脂との反応性(ΔE)が100μmol/m2(0.0001mol/m2)以下となる。
ΔE=[We×{(1/Rb)−(1/Rw)}]/(Ws×SSA)・・・(a)
シリカ粉体とエポキシ樹脂との反応試験は、次の方法で行う。まず、所定量(Ws)のシリカ粉体(比表面積:SSA)と、所定量(We)のエポキシ樹脂と、を混合し、樹脂組成物を調製する。次に、調製した樹脂組成物を110℃で24時間加熱保持する。加熱後、樹脂組成物中のエポキシ樹脂のエポキシ当量(Rw)を、塩酸ジオキサン法[JIS C 2105 10.3]に準じた方法で測定する。一方、シリカ粉体を配合しないエポキシ樹脂を、同様に110℃で24時間加熱保持する。加熱後、シリカ粉体を配合しないエポキシ樹脂(ブランク)のエポキシ当量(Rb)を、上記同様の塩酸ジオキサン法に準じた方法で測定する。測定されたRb、Rwの値等を上記式(a)に代入して、ΔEを算出する。ΔEの値が小さいほど、エポキシ樹脂との反応性が低くなる。よって、本発明の低反応性シリカ粉体のΔEは、70μmol/m2以下であるとより好適である。
【0014】
本発明の低反応性シリカ粉体の製造方法は、特に限定されるものではない。以下に示す、シリカ粉体を活性抑制剤で処理する方法によれば、本発明の低反応性シリカ粉体を簡便に製造することができる。
【0015】
まず、シリカ粉体の製造方法について説明する。シリカ粉体は、天然シリカ、溶融シリカ、あるいは水ガラスを原料として製造すればよい。例えば、破砕シリカ粉体や、シリカ破砕物を溶融して得られる溶融シリカ粉体が挙げられる。また、VMC(Vaperized Metal Combustion)法により、シリコン粉末を燃焼して製造してもよい。VMC法は、酸素を含む雰囲気中でバーナーにより化学炎を形成し、この化学炎中に目的とする酸化物粒子の一部を構成する金属粉末を粉塵雲が形成される程度の量投入し、爆燃を起こさせて酸化物粒子を得る方法である。VMC法は粉塵爆発の原理を利用しており、VMC法によれば、瞬時に大量のシリカ粒子が得られる。VMC法により得られたシリカ粒子は、略真球状の形状をなす。また、投入するシリコン粉末の粒子径、投入量、火炎温度等を調整することにより、得られるシリカ粒子の粒子径を調整することが可能である。なお、本明細書における「シリカ粉体」は、シリカを主成分とする金属酸化物粒子からなる粉体を意味する。
【0016】
シリカ粉体の平均粒子径は、0.1μm以上50μm以下とすることが望ましい。また、封止材等の用途を考慮すれば、粒子径の大きな粗粒が少ない方が望ましい。この場合には、種々の用途に応じて、45μm、20μm、5μm、3μm以上の粗粒を除去すればよい。こうすることで、半導体回路のような極めて小さな隙間に充填した場合でも、不具合を生じ難い。粗粒を少なくするという観点から、平均粒子径が2μm以下のシリカ粉体を用いるとよい。また、粗粒とそれより粒子径の小さな粒子とを組み合わせて配合し、最密充填すれば、エポキシ樹脂中により多量のシリカ粉体を配合することが可能となる。
【0017】
また、エポキシ樹脂中のシリカ粉体の分散性、エポキシ樹脂組成物の流動性をより向上させるため、シリカ粒子の真球度は0.8以上とすることが望ましい。真球度を0.9以上とするとより好適である。
【0018】
次に、活性抑制剤による処理を説明する。上述したように、シリカ粒子の表面には、OH基がある。このOH基は、エポキシ樹脂と反応し易い活性なOH基と、反応し難い安定なOH基とに大別される。シリカ粉体を所定の活性抑制剤で処理すると、活性抑制剤が活性なOH基に作用して、その活性を低減させる。これにより、シリカ粉体のエポキシ樹脂に対する反応性が低下する。
【0019】
活性抑制剤としては、有機フォスフィン化合物、スルフィド化合物、メルカプタン化合物、ケトン化合物、およびアミド化合物から選ばれる一種以上を用いればよい。有機フォスフィン化合物としては、例えば、トリフェニルホスフィン等が挙げられる。スルフィド化合物としては、例えば、ビス[(トリエトキシシリル)プロピル]テトラスルフィド等が挙げられる。メルカプタン化合物としては、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。ケトン化合物としては、2,4−ペンタジオン(アセチルアセトン)等が挙げられる。アミド化合物としては、N,N−ジメチルホルムアミド等が挙げられる。これら活性抑制剤をシリカ粉体と混合し、90〜180℃の温度で、4〜24時間加熱すればよい。
【0020】
活性抑制剤の混合割合は、シリカ粉体の表面積1m2に対して0.01μmol以上5μmol以下とすることが望ましい。活性低減効果を充分に発揮させるためには、0.05μmol以上とするとよい。また、5μmolを超えると、活性抑制剤がシリカ粒子表面の安定なOH基に作用し、シリカ粒子の性質に影響を及ぼすおそれがある。このため、活性抑制剤の混合割合を1.5μmol以下とするとより好適である。
【0021】
シリカ粒子表面の安定なOH基の有無は、赤外線分光分析により確認することができる。具体的には、シリカ粉末を有機溶剤で洗浄した後、赤外線分光分析し、赤外吸収スペクトルにおいて3740cm-1付近のシラノール吸収が検出されれば、安定なOH基が存在していると判断してよい。安定なOH基が存在することで、シリカとしての性質が維持される。したがって、本発明の低反応性シリカ粉体は、赤外線分光分析により3740cm-1付近のシラノール吸収が検出される態様が望ましい。
【0022】
〈エポキシ樹脂組成物〉
本発明のエポキシ樹脂組成物は、上記本発明の低反応性シリカ粉体がエポキシ樹脂に配合されてなる。エポキシ樹脂としては、1分子中にエポキシ基を2個以上有するオリゴマー、ポリマーが好適である。例えば、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、トリアジン核含有エポキシ樹脂等が挙げられる。これらのうち一つを単独で、あるいは複数を混合して用いればよい。
【0023】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、低反応性シリカ粉体およびエポキシ樹脂に加え、さらに硬化剤、硬化触媒を含んでいてもよい。硬化剤には、既に公知の硬化剤を用いればよく、例えば、脂肪族ポリアミン、ポリアミドポリアミン、脂環族ポリアミン、芳香族ポリアミン等のアミン系硬化剤、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等の無水物系硬化剤、ο−クレゾール、p−クレゾール、t−ブチルフェノール、クミルフェノール等のフェノール系硬化剤等が挙げられる。硬化触媒も、既に公知の硬化触媒を用いればよく、例えば、三級アミン、四級アンモニウム塩、イミゾダール化合物、ホウ素化合物、有機金属錯塩等が挙げられる。
【0024】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物は、必要に応じて、カーボンブラック、ベンガラ等の着色剤、天然ワックス、合成ワックス等の離型剤、シリコーンオイル、イオン補足剤、難燃剤、反応性希釈剤、ゴム等の低応力添加剤等の種々の添加剤を含んでいてもよい。
【0025】
本発明のエポキシ樹脂組成物における低反応性シリカ粉体の配合量は、耐熱性、耐吸湿性を向上させるという観点から多い方が望ましい。例えば、低反応性シリカ粉体の配合量を、エポキシ樹脂組成物の全体質量を100質量%とした場合の60質量%以上、さらには80質量%以上とするとよい。
【0026】
〈エポキシ樹脂成形体〉
本発明のエポキシ樹脂成形体は、上記本発明のエポキシ樹脂組成物を加熱硬化させて得られる。例えば、エポキシ樹脂に、本発明の低反応性シリカ粉体を配合してミキサー等により常温で混合した後、硬化剤等を添加して加熱硬化させればよい。本発明のエポキシ樹脂組成物により、半導体素子等の電子部品を封止する場合には、トランスファーモールド、コンプレッションモールド、インジェクションモールド等の方法で加熱硬化すればよい。
【実施例】
【0027】
上記実施形態に基づいて、本発明の低反応性シリカ粉体を種々製造した。製造した低反応性シリカ粉体に対してエポキシ樹脂との反応試験を行い、その反応性を求めた。この際、低反応性シリカ粉体が配合されたエポキシ樹脂の流動性も評価した(実施例1)。また、製造した低反応性シリカ粉体をエポキシ樹脂に配合してエポキシ樹脂組成物を調製し、それを加熱硬化させて成形体を製造した(実施例2)。以下、これらについて順に説明する。
【0028】
〈実施例1〉
(1)低反応性シリカ粉体の製造
(1−1)粉体A
まず、VMC法で製造されたシリカ粉体(株式会社アドマテックス製「アドマファインSO−25R」、平均粒子径0.5μm、比表面積6m2/g)100質量部をミキサーに入れ、攪拌しながらN,N−ジメチルホルムアミド(DMF:活性抑制剤)を添加して、さらに15分間攪拌した。DMFの混合割合は、シリカ粉体の質量の0.06%(シリカ粉体の表面積1m2に対して1.4μmol)とした。次に、このDMF混合シリカ粉体を、耐圧密閉容器に入れ、150℃で8時間加熱した。得られた粉体を粉体Aとした。
【0029】
(1−2)粉体B
上記粉体Aの製造において、活性抑制剤の種類および混合割合のみを変更した。すなわち、活性抑制剤にメルカプトシランを用い、その混合割合を、シリカ粉体の質量の0.03%(シリカ粉体の表面積1m2に対して0.3μmol)とした。得られた粉体を粉体Bとした。
【0030】
(1−3)粉体C
上記粉体Aの製造において、活性抑制剤の種類および混合割合のみを変更した。すなわち、活性抑制剤に2,4−ペンタジオン(アセチルアセトン)を用い、その混合割合を、シリカ粉体の質量の0.02%(シリカ粉体の表面積1m2に対して0.5μmol)とした。得られた粉体を粉体Cとした。
【0031】
(1−4)粉体D
上記粉体Aの製造において、活性抑制剤の種類および混合割合のみを変更した。すなわち、活性抑制剤にトリフェニルホスフィン(TPP)を用い、その混合割合を、シリカ粉体の質量の0.015%(シリカ粉体の表面積1m2に対して0.1μmol)とした。得られた粉体を粉体Dとした。
【0032】
(2)エポキシ樹脂との反応試験および反応性の算出
製造した粉体A〜Dの60gと、液状エポキシ樹脂(東都化成株式会社製「ZX−1059」の40gとを、それぞれ遊星型攪拌器(株式会社シンキー製「ARV−2000」)にて混合し(回転速度2000rpm、混合時間:5分間)、4種類の樹脂組成物を調製した。調製した樹脂組成物を、混合した粉体名に対応させて樹脂組成物A〜Dとした。また、比較のため、粉体A〜Dの製造で用いたシリカ粉体(株式会社アドマテックス製「アドマファインSO−25R」)を、そのまま上記エポキシ樹脂に同様の方法で混合して、樹脂組成物Eを調製した。さらに、溶融シリカ粉体(株式会社東海ミネラル製「ES353」、平均粒子径31.6μm、比表面積1.7m2/g)を、そのまま上記エポキシ樹脂に同様の方法で混合して、樹脂組成物Fを調製した。
【0033】
調製した樹脂組成物A〜Fを、110℃で24時間加熱保持した。加熱後、再度、遊星型攪拌器にて混合した(回転速度2000rpm、混合時間:5分間)。
【0034】
各々の樹脂組成物を所定量[W(g)]三角フラスコに秤量し、2%の塩酸ジオキサン溶液を10ml添加して樹脂組成物を溶解した。さらにエタノールを30ml添加して、フェノールフタレインを指示薬として2、3滴加えて、0.1Nの水酸化ナトリウム(NaOH)溶液で滴定した[NaOH体積:Vs(ml)]。
【0035】
一方、被測定物無しの状態で、三角フラスコに2%の塩酸ジオキサン溶液の10mlと、エタノールの30mlとを混合してブランクとし、フェノールフタレインを2、3滴加えて、0.1NのNaOH溶液で滴定した[NaOH体積:Vb(ml)]。
【0036】
これらの滴定により得られたNaOHの体積値(Vs、Vb)を、次式(b)、(c)に代入して、樹脂組成物中のエポキシ樹脂のエポキシ当量[Rw(g/mol)]を求めた。
MB=10000W/f(Vb−Vs)・・・(b)
w =MB×C・・・(c)
MB:樹脂組成物全体のエポキシ当量(g/mol)
f:NaOH固有の定数
C:樹脂組成物中のエポキシ樹脂の含有割合(本実施例では0.4)
求めた各樹脂組成物中のエポキシ樹脂のエポキシ当量[Rw(g/mol)]と、別途求めたブランクのエポキシ当量[Rb(g/mol)]とを、前述した式(a)に代入して、樹脂組成物A〜Fにおけるエポキシ樹脂との反応性(ΔE)を算出した。樹脂組成物A〜FのΔEの値、および110℃で加熱する前後の流動性の変化を目視で観察した結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1に示すように、本発明の低反応性シリカ粉体である粉体A〜Dを混合した樹脂組成物A〜DのΔEは、50〜90μmol/m2と小さくなった。これより、粉体A〜Dとエポキシ樹脂との反応性は低いといえる。このことは、加熱前後で樹脂組成物A〜Dの流動性が変化していない、つまり、樹脂組成物A〜Dの増粘が抑制されたことから確認できる。これに対して、活性抑制剤で処理を行っていない粉体E、Fを混合した樹脂組成物E、FのΔEは、それぞれ800μmol/m2、1000μmol/m2と非常に大きくなった。また、樹脂組成物E、Fは、加熱により著しく増粘し、流動性が悪化した。
【0039】
〈実施例2〉
(1)エポキシ樹脂組成物の調製
(1−1)低反応性シリカ粉体を配合したエポキシ樹脂組成物
上記実施例1の(1−1)で製造した粉体Aを用いて、エポキシ樹脂組成物を調製した。粉体Aの60質量部と、液状エポキシ樹脂(東都化成株式会社製「ZX−1059」の40質量部とを、それぞれ遊星型攪拌器(株式会社シンキー製「ARV−2000」)にて混合し(回転速度2000rpm、混合時間:5分間)、G液とした。また、同エポキシ樹脂と硬化触媒の2−PHZ(2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール)とを1:15の質量比で混合し、H液とした。G液の50質量部とH液の5質量部とを混合し、樹脂組成物Iを調製した。
【0040】
(1−2)従来のシリカ粉体を配合したエポキシ樹脂組成物
粉体Aの製造で用いたシリカ粉体(株式会社アドマテックス製「アドマファインSO−25R」)の60質量部を、そのまま上記エポキシ樹脂に同様の方法で混合して、J液とした。J液の50質量部と上記H液の5質量部とを混合し、樹脂組成物Kを調製した。
【0041】
(2)エポキシ樹脂成形体の製造
粉体A(低反応性シリカ粉体)を配合した樹脂組成物Iの粘度は低く、流動性も良好であった。このため、樹脂組成物Iを容易に成形金型へ充填することができ、120℃で3時間、さらに150℃で1時間加熱することにより、良好な硬化物(エポキシ樹脂成形体)が得られた。一方、従来のシリカ粉体を配合した樹脂組成物Kは増粘し、充分に混合することができなかった。このため、樹脂組成物Kからは、良好な硬化物(エポキシ樹脂成形体)を製造することができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂との反応試験において、次式(a)により算出されるエポキシ樹脂との反応性(ΔE)が100μmol/m2以下である低反応性シリカ粉体。
ΔE=[We×{(1/Rb)−(1/Rw)}]/(Ws×SSA)・・・(a)
e:反応試験に用いたエポキシ樹脂の質量(g)
b:シリカ粉体を配合せずに反応試験を行った場合のエポキシ樹脂の反応試験後エポキシ当量(g/mol)
w:シリカ粉体を配合して反応試験を行った場合のエポキシ樹脂の反応試験後エポキシ当量(g/mol)
s:反応試験に用いたシリカ粉体の質量(g)
SSA:反応試験に用いたシリカ粉体の比表面積(m2/g)
【請求項2】
シリカ粉体に、有機フォスフィン化合物、スルフィド化合物、メルカプタン化合物、ケトン化合物、およびアミド化合物から選ばれる一種以上の活性抑制剤を混合、加熱して得られた請求項1に記載の低反応性シリカ粉体。
【請求項3】
前記活性抑制剤は、前記シリカ粉体の表面積1m2に対して0.01μmol以上5μmol以下の割合で混合される請求項2に記載の低反応性シリカ粉体。
【請求項4】
赤外線分光分析により3740cm-1付近のシラノール吸収が検出される請求項1に記載の低反応性シリカ粉体。
【請求項5】
請求項1に記載の低反応性シリカ粉体がエポキシ樹脂に配合されてなるエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
さらに、硬化剤、硬化触媒を含む請求項5に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
請求項6に記載のエポキシ樹脂組成物を加熱硬化させて得られたエポキシ樹脂成形体。

【公開番号】特開2006−206722(P2006−206722A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−19894(P2005−19894)
【出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(501402730)株式会社アドマテックス (82)
【Fターム(参考)】