説明

低域通過フィルタ

【課題】 通過帯域の挿入損失の増加を低減しつつスプリアス応答を改善した低域通過フィルタを得る。
【解決手段】 誘電体基板10の下層には接地導体11が全面に設けられており、誘電体基板10の上層には入出力端子を形成する入出力伝送線路用信号線導体21、22、直列伝送線路用信号線導体31、並列伝送線路用信号線導体41、42が形成され、また、誘電体基板10の上層には、直列伝送線路用信号線導体31と電磁界結合する副伝送線路用信号線導体51、52が形成されており、副伝送線路用信号線導体51の一端は柱状導体61を介して接地導体11と電気的に接続され、副伝送線路用信号線導体51の他端と副伝送線路用信号線導体52の一端は損失性シート71を介して電気的に接続され、副伝送線路用信号線導体52の他端は開放されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低域通過フィルタに関し、より詳細には、分布定数線路を用いた低域通過フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の分布定数線路を用いた低域通過フィルタは、直列伝送線路部の特性インピーダンスを高くすることにより、阻止帯域に発生するスプリアス応答をより高い方向へ移動させ、阻止帯域を広帯域化することが可能である(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。また、並列容量を構成する分布定数線路の途中に抵抗素子を接続することにより、スプリアス応答のレベルを低減し、広い帯域に亘って阻止帯域を構成することが可能である(例えば、特許文献3、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−276006
【特許文献2】特開2009−17104
【特許文献3】US6590476B2
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Moon-QueLee,etal,“NovelLow-PassFilterforBroad-bandSpuriousSuppression”,2002IEEEInternationalMicrowaveSymposium,pp.1797-1800,Jun.2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、特許文献2に開示されている構成では、直列伝送線路のグラウンド導体を遠ざけることで、高い特性インピーダンスを実現し、ある直列インダクタンスを実現するための線路長を短縮し、同線路長に起因するスプリアス応答発生周波数を高くすることができる。しかしながら、実現可能な特性インピーダンスには上限があり、即ち阻止帯域の広帯域化にも限度がある。このため、上記スプリアス応答発生周波数近傍において生じる阻止特性の劣化を回避できない問題点がある。
上記の問題点を解決する構成として、特許文献3、非特許文献1が開示されている。本構成では、並列容量を構成する分布定数線路の途中に抵抗素子を接続することで、直列伝送線路部が共振しスプリアス応答が発生する周波数において、同共振のQ値を低下させることができるため、効果的にスプリアス応答の振幅を低減し、広い帯域に亘って良好な阻止特性を得ることができる。しかしながら、本構成では、主線路を構成する分布定数線路部に損失性材料である抵抗素子を配置しているため、通過帯域の損失劣化が大きい点が課題である。非特許文献1によれば、抵抗素子有無による挿入損失はシミュレーション値で-0.2dBから-0.6dBへ、実測値で-0.37dBから-0.87dBへそれぞれ劣化しており、スプリアス応答を改善するため、通過帯域の挿入損失を犠牲にしなければならないという問題点がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、低域通過フィルタを構成する直列伝送線路と電磁界結合する副伝送線路群を設け、同副伝送線路群の途中に損失性材料を接続する構成を採用している。
上記構成を用いることにより、スプリアス発生周波数での直列伝送線路の共振エネルギーの一部が副伝送線路群に結合し、上記損失性材料により消費されることにより、スプリアス応答の低減が可能である。一方、上記スプリアス発生周波数より低い通過帯域においては、副伝送線路群の線路長は波長に比べて短くなるため、副伝送線路群への結合量を小さくすることができるため、上記損失性材料における消費を抑え、通過帯域における挿入損失劣化を低減することができる。
【発明の効果】
【0007】
この発明は、従来困難であった、スプリアス応答の抑圧と、通過帯域の挿入損失劣化の低減の両立を実現する低域通過フィルタを得られる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態1に係わる低域通過フィルタの構造を例示する構成説明図である。
【図2】図1に示した低域通過フィルタに関する等価回路を示す図である。
【図3】3次元電磁界シミュレーションによる計算結果を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態2に係わる低域通過フィルタの構造を例示する構成説明図である。
【図5】本発明の実施の形態3に係わる低域通過フィルタの構造を例示する構成説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
実施の形態1に係わる低域通過フィルタは、分布定数線路を用いた低域通過フィルタを構成する直列伝送線路と、この直列伝送線路と電磁界結合する一端接地の副伝送線路群とを備え、副伝送線路群に損失性材料を挿入接続する構成である。
図1は、本発明の実施の形態1に係わる低域通過フィルタの構造を例示する構成説明図であり、図1(a)は上面図、図1(b)は図1(a)におけるA1−A1’面についての断面図である。
図1に示すように、誘電体基板10の下層には接地導体11が全面に設けられており、誘電体基板10の上層には入出力端子を形成する入出力伝送線路用信号線導体21、22、直列伝送線路用信号線導体31、並列伝送線路用信号線導体41、42が形成され、3段のマイクロストリップ線路型のフィルタを構成している場合を例示する。また、誘電体基板10の上層には、直列伝送線路用信号線導体31と電磁界結合する副伝送線路用信号線導体51、52が形成されており、副伝送線路用信号線導体51の一端は柱状導体61を介して接地導体11と電気的に接続され、副伝送線路用信号線導体51の他端と副伝送線路用信号線導体52の一端は損失性シート71を介して電気的に接続され、副伝送線路用信号線導体52の他端は開放されている。上記副伝送線路用信号線導体51、52、柱状導体61、損失性シート71、および接地導体11により副伝送線路群81を構成している。
【0010】
図1の低域通過フィルタに対応する等価回路を図2に示す。図2において直列伝送線路モデル131は、図1における直列伝送線路用信号線導体31と接地導体11で構成される伝送線路であり、並列伝送線路モデル141は、図1における並列伝送線路用信号線導体41と接地導体11で構成される伝送線路であり、並列伝送線路モデル142は、図1における並列伝送線路用信号線導体42と接地導体11で構成される伝送線路であり、入出力端子はPort1、Port2と表記した。また、図1における副伝送線路群81は副伝送線路群モデル181で表され、図2において副伝送線路モデル151は、図1における副伝送線路用信号線導体51と接地導体11で構成される伝送線路であり、副伝送線路モデル152は、図1における副伝送線路用信号線導体52と接地導体11で構成される伝送線路であり、抵抗モデル171は図1における損失性シート71に対応するものである。図2に示すように、副伝送線路モデル151は一端が接地され、他端が抵抗モデル171に接続されている。また、副伝送線路モデル152は一端が抵抗モデル171に接続され、他端が開放されている。さらに、副伝送線路151、152は直列伝送線路131と電磁的に結合している。
【0011】
図2において、直列伝送線路モデル131の特性インピーダンスはPort1、Port2の特性インピーダンスに比べて高く選ぶことにより直列インダクタンスと等価となり、並列伝送線路モデル141、142の特性インピーダンスはPort1、Port2の特性インピーダンスに比べて低く選ぶことにより先端接地の並列キャパシタンスと等価となるため、図2に示した回路は低域通過フィルタとして動作する。
【0012】
図2において、直列伝送線路モデル131、並列伝送線路モデル141、142のみで構成される通常の低域通過フィルタにおいては、直列伝送線路モデル131の線路長が約1/2波長となる周波数帯域において共振し、阻止帯域においてスプリアス応答を生じる。しかし、図2に示した回路においては、上記共振エネルギーの一部が副伝送線路群モデル181に結合し、抵抗モデル171により消費されることにより、スプリアス応答の低減が可能である。一方、上記スプリアス発生周波数より低い通過帯域においては、副伝送線路群モデル181の線路長は波長に比べて短くなるため、副伝送線路群モデル181への結合量を小さくすることができるため、抵抗モデル171における消費を抑え、従来課題であった通過帯域における挿入損失劣化を低減することができる。
【0013】
図3は上記効果を確認するために行った3次元電磁界シミュレーション(参照:Ansoft社HFSS:http://www.ansoft.com/products/hf/hfss/)による計算結果を示している。図3(a)は、通過特性を広い周波数範囲について示したもので、阻止帯域におけるスプリアス応答改善効果を確認できる広帯域な通過特性が得られることを示している。また、図3(b)は、図3(a)の通過特性の通過帯域近傍を拡大して示したもので、通過帯域における挿入損失劣化低減を確認できる通過特性が得られていることを示している。なお、図3(a)、図3(b)において横軸は規格化周波数(NormalizedFreq)であり、NormalizedFreq=1を所望通過帯域とした。図3(a)、図3(b)の縦軸は通過振幅レベルをデシベル表記で示したものである。計算に用いた回路は、図2に示した直列伝送線路モデル131を5段と、この直列伝送線路モデル131の4つの境を接続部位とする並列伝送線路モデル141、142を計4段の9段構成の低域通過フィルタである。図3(a)、図3(b)において、実線は、図1、図2に示した副伝送線路群81を適用した回路構成による計算結果を、点線は、副伝送線路群81を削除した通常の回路構成における計算結果を示している。また、図3(b)には、非特許文献1において開示されている従来技術の抵抗有無による挿入損失値を比較のために示しており、抵抗無し時の挿入損失を△で、抵抗有り時の挿入損失を▲でそれぞれ示した。
【0014】
図3(a)において、副伝送線路群81が無い回路においては、NormalizedFreq=4付近に鋭いピークを有するスプリアス応答があり、良好な阻止特性が得られる周波数帯域は、所望通過帯域の4倍程度までに限られるが、副伝送線路群81を適用した回路においては阻止特性の劣化を低減し、所望通過帯域の10倍程度の帯域まで−20dB以下の阻止特性が確保でき、図1、図2に示した回路はスプリアス特性改善に有効であることが確認できる。
図3(b)において、所望通過帯域(NormalizedFreq=1)における挿入損失は、副伝送線路群81を適用した回路は、副伝送線路群81が無い回路に比べて0.05dB程劣化するが、非特許文献1において開示されている抵抗有無による挿入損失劣化量0.4dB(△:-0.2dB、▲:-0.6dB)に比べて十分小さく、図1、図2に示した回路は、従来スプリアス特性改善のために犠牲にされていた挿入損失劣化の低減が可能であることが確認できる。
図3(b)に示したように、通過帯域においては副伝送線路群81への電磁結合は小さいものの微弱に結合した電流が損失性シート71に流れることから挿入損失が若干劣化する。この影響を小さく抑えるためには、損失性シート71の配置位置を損失性シート71に流れる電流値が小さくなるために損失が低下する副伝送線路群81の開放端に近い領域にすることが望ましく、図1に示したL1とL2の関係を、L1>L2に設定することで、挿入損失劣化量をさらに低減する効果が得られる。当然のことながら、図1において、L2=0すなわち副伝送線路用信号線導体52を削除した構成を採用しても構わない。
【0015】
ここで、直列伝送線路用信号線導体31の長さL0と副伝送線路群81の全長L3の関係については、L0が約1/2波長になる周波数において最低次のスプリアス応答が生じることから、同周波数において副伝送線路群81の全長L3が1/4波長となる場合、即ち2*L3=L0となる場合、副伝送線路群81への結合量が最も大きくなり、最低次スプリアス応答の抑圧効果が最も高くなる。しかしながら、スプリアス抑圧には上記結合量が最大である必要は無く、また、通過帯域の挿入損失劣化を小さく抑えるためには、通過帯域における結合量が小さい方が望ましく、L3が短いほど、挿入損失劣化を低減することが可能である。また、最低次のみでなく、さらに高次のスプリアス応答にも対応させるためにもL3は短い方が望ましい。このため、L0とL3の関係については、2*L3≦L0の関係に選ぶことにより、阻止域におけるスプリアス応答を抑圧し、かつ、通過帯域の挿入損失劣化をより低減することが可能である。
【0016】
以上のように、本例では便宜上マイクロストリップ線路形式について説明したが、ストリップ線路、コプレーナ線路、サスペンデッド線路等他の線路形式を用いても良い。本例では、直列伝送線路1段、並列伝送線路2段の3段構成の低域通過フィルタについて説明したが、これに限るものではなく、段数は任意に選択しても良く、また、副伝送線路群81を複数配置しても良い。副伝送線路群81の構成として、損失性シート71を1箇所に配置した例について説明したが、2箇所以上配置しても良い。また、損失性シートの代わりにチップ抵抗等を用いても良い。
【0017】
本例では先端接地の並列キャパシタンスを構成する要素として並列伝送線路を用いたが、チップキャパシタを用いても良い。並列伝送線路部をチップキャパシタとチップインダクタを直列に接続し、減衰域に零点を設けることが可能な楕円関数型低域通過フィルタを採用しても良く、上記チップキャパシタを、Port1、Port2の特性インピーダンスに比べて低い特性インピーダンスを有する伝送線路で置換しても良く、上記チップインダクタを、Port1、Port2の特性インピーダンスに比べて高い特性インピーダンスを有する伝送線路で置換しても良く、上記チップキャパシタ、チップインダクタ双方を伝送線路で置換しても良い。
【0018】
以上より、実施の形態1に係わる低域通過フィルタは、阻止帯域において生じるスプリアス応答の抑圧と、通過帯域の挿入損失劣化の低減の両立を実現することが可能である。
【0019】
実施の形態2.
実施の形態2に係わる低域通過フィルタは、分布定数線路を用いた低域通過フィルタを構成する直列伝送線路と、この直列伝送線路と電磁界結合する両端開放の副伝送線路群とを備え、副伝送線路群に損失性材料を挿入接続する構成である。
図4は、本発明の実施の形態2に係わる低域通過フィルタの構造を例示する構成説明図であり、図4(a)は上面図、図4(b)は図4(a)におけるA1−A1’面についての断面図である。
実施の形態2に係わる低域通過フィルタは、図1で示した柱状導体61による副伝送線路群81の接地を要せずに低域通過フィルタを構成した場合であり、副伝送線路群81の構成以外は図1の低域通過フィルタと同様の構成とした構造を例示して説明する。
ここで、誘電体基板10の下層には接地導体11が全面に設けられており、誘電体基板10の上層には入出力端子を形成する入出力伝送線路用信号線導体21、22、直列伝送線路用信号線導体31、並列伝送線路用信号線導体41、42が形成され、3段のマイクロストリップ線路型のフィルタを構成している場合を例示する。また、誘電体基板10の上層には、直列伝送線路用信号線導体31と電磁界結合する副伝送線路用信号線導体51、52が形成されており、副伝送線路用信号線導体51の一端と副伝送線路用信号線導体52の一端は損失性シート71を介して電気的に接続され、副伝送線路用信号線導体51の他端と副伝送線路用信号線導体52の他端はそれぞれ開放されている。上記副伝送線路用信号線導体51、52、損失性シート71、および接地導体11により副伝送線路群81を構成している。
【0020】
図4に示す構成は、実施の形態1で述べたものと同様に、直列伝送線路用信号線導体31において生じる共振エネルギーの一部を副伝送線路群81に結合させることができるため、実施の形態1で述べた効果と同様な効果を得ることができ、また、短絡手段が不要となるため、基板の製造性が簡略化される効果が得られる。
【0021】
図4において、副伝送線路群81の全長をL3、副伝送線路用信号線導体51の線路長において、副伝送線路群81の中点から損失性シート71までの長さをL1、副伝送線路用信号線導体52の長さをL2とした。実施の形態1で述べたように、損失性シート71の配置位置を損失性シート71に流れる電流値が小さくなるために損失が低下する副伝送線路群81の開放端に近い領域にすることで通過帯域の挿入損失をさらに低減することが可能であるため、図4に示したL1とL2の関係を、L1>L2に設定することで、挿入損失劣化量をさらに低減する効果が得られる。
【0022】
なお、当然のことながら、図4において、L2=0すなわち副伝送線路用信号線導体52を削除した構成を採用しても構わない。
また、図4においては、損失性シート71を1箇所のみに配置しているが、損失性シート71を2箇所以上に配置しても良く、副伝送線路群81の両端の開放端近傍に2箇所配置しても良い。
【0023】
ここで、直列伝送線路用信号線導体31の長さL0と副伝送線路群81の全長L3の関係については、L0が約1/2波長になる周波数において最低次のスプリアス応答が生じることから、同周波数において副伝送線路群81の全長L3が1/2波長となる場合、即ちL3=L0となる場合、副伝送線路群81への結合量が最も大きくなる。しかしながら、スプリアス抑圧には上記結合量が最大である必要は無く、実施の形態1で述べたように、L3を短くすることで通過帯域における挿入損失を低減する効果が得られることから、L3≦L0の関係に選ぶことにより、阻止域におけるスプリアス応答を抑圧し、かつ、通過帯域の挿入損失劣化をより低減することが可能である。
【0024】
以上のように、本例では便宜上マイクロストリップ線路形式について説明したが、ストリップ線路、コプレーナ線路、サスペンデッド線路等他の線路形式を用いても良い。本例では、直列伝送線路1段、並列伝送線路2段の3段構成の低域通過フィルタについて説明したが、これに限るものではなく、段数は任意に選択しても良く、また、副伝送線路群81を複数配置しても良い。副伝送線路群81の構成として、損失性シート71を1箇所に配置した例について説明したが、2箇所以上配置しても良い。また、損失性シートの代わりにチップ抵抗等を用いても良い。
【0025】
本例では先端接地の並列キャパシタンスを構成する要素として並列伝送線路を用いたが、チップキャパシタを用いても良い。並列伝送線路部をチップキャパシタとチップインダクタを直列に接続し、減衰域に零点を設けることが可能な楕円関数型低域通過フィルタを採用しても良く、上記チップキャパシタを、Port1、Port2の特性インピーダンスに比べて低い特性インピーダンスを有する伝送線路で置換しても良く、上記チップインダクタを、Port1、Port2の特性インピーダンスに比べて高い特性インピーダンスを有する伝送線路で置換しても良く、上記チップキャパシタ、チップインダクタ双方を伝送線路で置換しても良い。
【0026】
以上より、実施の形態2に係わる低域通過フィルタは、実施の形態1で述べた効果と同様な効果を得ることができるのに加え、短絡手段が不要となるため、基板の製造性が簡略化される効果が得られる。
【0027】
実施の形態3.
図5は、本発明の実施の形態3に係わる低域通過フィルタの構造を例示する構成説明図であり、図5(a)は上面図、図5(b)は図5(a)におけるA1−A1’面についての断面図、図5(c)は図5(a)におけるB1−B1’面についての断面図である。
ここで、実施の形態3に係わる低域通過フィルタは、図1または図4で示した副伝送線路群81を接地導体11を除去した誘電体基板10の下層に設け、金属キャリア91を有する低域通過フィルタを構成した場合であり、図5では副伝送線路群81が副伝送線路用信号線導体51、52、損失性シート71で構成され、副伝送線路用信号線導体51の一端が接地された低域通過フィルタの構成とした構造を例示して説明する。
【0028】
図5に示した低域通過フィルタは、誘電体基板10の下層に接地導体11の一部を除去したくり貫き部12を設け、副伝送線路用信号線導体51、52、損失性シート71で構成される副伝送線路群81を誘電体基板10の下層のくり貫き部12内に配置している構成であり、副伝送線路用信号線導体51の一端は接地導体11に直接電気的に接続される構成である。また、誘電体基板10の下層側に設けられた金属キャリア91は、くり貫き部12に対向する部位を含む範囲に空間を形成する掘り込み部92を有する。なお、誘電体基板10の上層には入出力端子を形成する入出力伝送線路用信号線導体21、22、直列伝送線路用信号線導体31、並列伝送線路用信号線導体41、42が形成され、マイクロストリップ線路型のフィルタを構成している。また、副伝送線路用信号線導体51、52は誘電体基板10の上層に形成されている直列伝送線路用信号線導体31と電磁界結合する。
【0029】
図5に示した構成では、副伝送線路群81を構成する副伝送線路用信号線導体51、52と直列伝送線路用信号線導体31が別の層に配置でき、副伝送線路用信号線導体51または52と直列伝送線路用信号線導体31の間に発生する静電容量を増加させることができるため、直列伝送線路用信号線導体31と副伝送線路群81の電界結合を上昇させる効果が得られる。また、掘り込み部92の深さを深くすることで副伝送線路群81の特性インピーダンスを上昇させる効果が得られ、これに伴い、直列伝送線路用信号線導体31と副伝送線路群81の磁界結合を上昇させる効果が得られる。従って、直列伝送線路用信号線導体31から副伝送線路群81への電磁界結合量を上昇させることができ、スプリアス応答の低減効果を高めることができる。
【0030】
また、図5に示した構成では、副伝送線路群81と接地導体11を同一層に配置することができるため、図1における柱状導体61が不要になり、基板の製造性が簡略化される効果が得られる。
【0031】
本例では、図5に示すようなマイクロストリップ線路形式の基板を金属キャリア上に搭載した例について説明したが、他の線路形式を用いても良く、誘電体基板部と金属キャリア部の構造を単一の多層基板で代用しても良い。
【0032】
以上より、実施の形態3に係わる低域通過フィルタの構造は、実施の形態1で述べた構成に比べ、スプリアス応答の抑圧効果をさらに上昇させることができるとともに、短絡手段が不要となるため、基板の製造性が簡略化される効果が得られる。
【0033】
なお、以上では、副伝送線路用信号線導体51の一端が接地された低域通過フィルタの構成とした構造を例示して説明したが、図5の副伝送線路群81として図4に示した両端開放の構成としても上記同様に作用し、直列伝送線路用信号線導体31と副伝送線路群81の電界結合を上昇させる効果が得られる。また、掘り込み部92の深さを深くすることで副伝送線路群81の特性インピーダンスを上昇させる効果が得られ、これに伴い、直列伝送線路用信号線導体31と副伝送線路群81の磁界結合を上昇させる効果が得られる。従って、直列伝送線路用信号線導体31から副伝送線路群81への電磁界結合量を上昇させることができ、スプリアス応答の低減効果を高めることができる。
【符号の説明】
【0034】
10 誘電体基板、11 接地導体、21、22 入出力伝送線路用信号線導体、31 直列伝送線路用信号線導体、41、42 並列伝送線路用信号線導体、51、52 副伝送線路用信号線導体、61 柱状導体、71 損失性シート、81 副伝送線路群、91 金属キャリア、92 掘り込み部、131 直列伝送線路モデル、141、142 並列伝送線路モデル、151、152 副伝送線路モデル、171 抵抗モデル、181 副伝送線路群モデル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力端子と、出力端子と、前記入力端子から前記出力端子に至る経路に延在する伝送線路と、前記伝送線路に所定の間隔で設けられた複数の並列容量素子と、前記複数の並列容量素子それぞれの前記伝送線路への接続部位を境として区切られた前記伝送線路の一区間で成る直列伝送線路の少なくとも一つに対して設けられ、対応する前記直列伝送線路と電磁的に結合するよう配置した一つ以上の伝送線路が第1端から第2端に至る経路に延在する副伝送線路群と、を備えた分布定数線路を用いた低域通過フィルタであって、前記副伝送線路群は、前記第1端側の端部に第1の副伝送線路、前記第2端側の端部に第2の副伝送線路を有し、前記第1の副伝送線路から前記第2の副伝送線路への経路の少なくとも一箇所に損失性材料が挿入接続され、前記第1の副伝送線路の前記第1端側の端部が接地され、前記第2の副伝送線路の前記第2端側の端部が開放されていることを特徴とする低域通過フィルタ。
【請求項2】
入力端子と、出力端子と、前記入力端子から前記出力端子に至る経路に延在する伝送線路と、前記伝送線路に所定の間隔で設けられた複数の並列容量素子と、前記複数の並列容量素子それぞれの前記伝送線路への接続部位を境として区切られた前記伝送線路の一区間で成る直列伝送線路の少なくとも一つに対して設けられ、対応する前記直列伝送線路と電磁的に結合するよう配置した一つ以上の伝送線路が第1端から第2端に至る経路に延在する副伝送線路群と、を備えた分布定数線路を用いた低域通過フィルタであって、前記副伝送線路群は、前記第1端側の端部に第1の副伝送線路、前記第2端側の端部に第2の副伝送線路を有し、前記第1の副伝送線路から前記第2の副伝送線路への経路の少なくとも一箇所に損失性材料が挿入接続され、前記第1の副伝送線路の前記第1端側の端部が開放され、前記第2の副伝送線路の前記第2端側の端部が開放されていることを特徴とする低域通過フィルタ。
【請求項3】
入力端子と、出力端子と、前記入力端子から前記出力端子に至る経路に延在する伝送線路と、前記伝送線路に所定の間隔で設けられた複数の並列容量素子と、前記複数の並列容量素子それぞれの前記伝送線路への接続部位を境として区切られた前記伝送線路の一区間で成る直列伝送線路の少なくとも一つに対して設けられ、対応する前記直列伝送線路と電磁的に結合するよう配置した一つ以上の伝送線路が第1端から第2端に至る経路に延在する副伝送線路群と、を備えた分布定数線路を用いた低域通過フィルタであって、前記副伝送線路群は、前記第1端側の端部に第1の副伝送線路、前記第2端側の端部に前記第1の副伝送線路の線路長以下の長さの線路長の第2の副伝送線路を有し、前記第1の副伝送線路の前記第1端側の端部が接地され、前記第2の副伝送線路の前記第2端側の端部が開放され、前記第1の副伝送線路から前記第2の副伝送線路への経路の少なくとも一箇所に損失性材料が挿入接続され、前記第1端からの距離が最短の位置に接続された損失性材料の前記第1端までの距離が前記第2端までの距離以上であることを特徴とする低域通過フィルタ。
【請求項4】
入力端子と、出力端子と、前記入力端子から前記出力端子に至る経路に延在する伝送線路と、前記伝送線路に所定の間隔で設けられた複数の並列容量素子と、前記複数の並列容量素子それぞれの前記伝送線路への接続部位を境として区切られた前記伝送線路の一区間で成る直列伝送線路の少なくとも一つに対して設けられ、対応する前記直列伝送線路と電磁的に結合するよう配置した一つ以上の伝送線路が第1端から第2端に至る経路に延在する副伝送線路群と、を備えた分布定数線路を用いた低域通過フィルタであって、前記副伝送線路群は、前記第1端側の端部に第1の副伝送線路、前記第2端側の端部に前記第1の副伝送線路の線路長以下の長さの線路長の第2の副伝送線路を有し、前記第1の副伝送線路の前記第1端側の端部が開放され、前記第2の副伝送線路の前記第2端側の端部が開放され、前記第1の副伝送線路から前記第2の副伝送線路への経路の少なくとも一箇所に損失性材料が挿入接続され、前記第1端から前記第2端までの経路の中点からの距離が最短の位置に接続された損失性材料の前記中点までの距離が前記第1端または前記第2端のいずれか近い方までの距離以上であることを特徴とする低域通過フィルタ。
【請求項5】
入力端子と、出力端子と、前記入力端子から前記出力端子に至る経路に延在する伝送線路と、前記伝送線路に所定の間隔で設けられた複数の並列容量素子と、前記複数の並列容量素子それぞれの前記伝送線路への接続部位を境として区切られた前記伝送線路の一区間で成る直列伝送線路の少なくとも一つに対して設けられ、対応する前記直列伝送線路と電磁的に結合するよう配置した一つ以上の伝送線路が第1端から第2端に至る経路に延在する副伝送線路群と、を備えた分布定数線路を用いた低域通過フィルタであって、前記副伝送線路群は、前記第1端側の端部に第1の副伝送線路を有し、前記第1の副伝送線路から前記第2端側の端部への経路の前記第2端側の端部を含む少なくとも一箇所に損失性材料が接続され、前記第1の副伝送線路の前記第1端側の端部が接地され、前記第2端側の端部が開放されていることを特徴とする低域通過フィルタ。
【請求項6】
入力端子と、出力端子と、前記入力端子から前記出力端子に至る経路に延在する伝送線路と、前記伝送線路に所定の間隔で設けられた複数の並列容量素子と、前記複数の並列容量素子それぞれの前記伝送線路への接続部位を境として区切られた前記伝送線路の一区間で成る直列伝送線路の少なくとも一つに対して設けられ、対応する前記直列伝送線路と電磁的に結合するよう配置した一つ以上の伝送線路が第1端から第2端に至る経路に延在する副伝送線路群と、を備えた分布定数線路を用いた低域通過フィルタであって、前記副伝送線路群は、前記第1端側の端部に第1の副伝送線路を有し、前記第1の副伝送線路から前記第2端側の端部への経路の前記第2端側の端部を含む少なくとも一箇所に損失性材料が接続され、前記第1の副伝送線路の前記第1端側の端部が開放され、前記第2端側の端部が開放されていることを特徴とする低域通過フィルタ。
【請求項7】
入力端子と、出力端子と、前記入力端子から前記出力端子に至る経路に延在する伝送線路と、前記伝送線路に所定の間隔で設けられた複数の並列容量素子と、前記複数の並列容量素子それぞれの前記伝送線路への接続部位を境として区切られた前記伝送線路の一区間で成る直列伝送線路の少なくとも一つに対して設けられ、対応する前記直列伝送線路と電磁的に結合するよう配置した一つ以上の伝送線路が第1端から第2端に至る経路に延在する副伝送線路群と、を備えた分布定数線路を用いた低域通過フィルタであって、前記副伝送線路群は、前記第1端から前記第2端への経路に少なくとも第1の副伝送線路を有し、前記第1端から前記第2端への経路の前記第1端側の端部と前記第2端側の端部を含む少なくとも二箇所に損失性材料が接続され、前記第1端側の端部が開放され、前記第2端側の端部が開放されていることを特徴とする低域通過フィルタ。
【請求項8】
入力端子と、出力端子と、前記入力端子から前記出力端子に至る経路に延在する伝送線路と、前記伝送線路に所定の間隔で設けられた複数の並列容量素子と、前記複数の並列容量素子それぞれの前記伝送線路への接続部位を境として区切られた前記伝送線路の一区間で成る直列伝送線路の少なくとも一つに対して設けられ、対応する前記直列伝送線路と電磁的に結合するよう配置した一つ以上の伝送線路が第1端から第2端に至る経路に延在する副伝送線路群と、を備えた分布定数線路を用いた低域通過フィルタであって、前記副伝送線路群は、前記第1端側の端部に第1の副伝送線路を有し、前記第1の副伝送線路から前記第2端側の端部への経路の少なくとも一箇所に損失性材料が接続され、前記第1の副伝送線路の前記第1端側の端部が接地され、前記第2端側の端部が開放され、前記第1端から前記第2端までの線路長が前記対応する直列伝送線路の線路長の半分以下であることを特徴とする低域通過フィルタ。
【請求項9】
入力端子と、出力端子と、前記入力端子から前記出力端子に至る経路に延在する伝送線路と、前記伝送線路に所定の間隔で設けられた複数の並列容量素子と、前記複数の並列容量素子それぞれの前記伝送線路への接続部位を境として区切られた前記伝送線路の一区間で成る直列伝送線路の少なくとも一つに対して設けられ、対応する前記直列伝送線路と電磁的に結合するよう配置した一つ以上の伝送線路が第1端から第2端に至る経路に延在する副伝送線路群と、を備えた分布定数線路を用いた低域通過フィルタであって、前記副伝送線路群は、前記第1端側の端部に第1の副伝送線路を有し、前記第1の副伝送線路から前記第2端側の端部への経路の少なくとも一箇所に損失性材料が接続され、前記第1の副伝送線路の前記第1端側の端部が開放され、前記第2端側の端部が開放され、前記第1端から前記第2端までの線路長が前記対応する直列伝送線路の線路長以下であることを特徴とする低域通過フィルタ。
【請求項10】
前記第1端から前記第2端までの線路長が前記対応する前記直列伝送線路の線路長以下であることを特徴とする請求項7記載の低域通過フィルタ。
【請求項11】
前記直列伝送線路は、互いに表裏を成す第1面と第2面を有する誘電体層の前記第1面に形成したストリップ導体と、前記第2面に形成した接地導体となる導体層から構成した分布定数線路で形成され、前記副伝送線路群の少なくとも一つの伝送線路は、前記第2面の前記接地導体が除かれている部位に形成したストリップ導体と、前記第2面に対向して設けられ、前記接地導体が除かれている部位に対面する凹部空間を有する接地導体となる導体層から構成した分布定数線路で形成されていることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の低域通過フィルタ。
【請求項12】
前記直列伝送線路は、互いに表裏を成す第1面と第2面を有する誘電体層の前記第1面に形成したストリップ導体と、前記第2面に形成した接地導体となる導体層から構成した分布定数線路で形成され、前記副伝送線路群の少なくとも第1の副伝送線路は、前記第2面の前記接地導体が除かれている部位に形成したストリップ導体と、前記第2面に対向して設けられ、前記接地導体が除かれている部位に対面する凹部空間を有する接地導体となる導体層から構成した分布定数線路で形成され、前記副伝送線路群の前記第1の副伝送線路を形成するストリップ導体の前記第1端側の端部が前記第2面に形成した接地導体となる導体層に接続されていることを特徴とする請求項1、3、5、又は8記載の低域通過フィルタ。
【請求項13】
前記第2面に対向して設けられ、前記接地導体が除かれている部位に対面する凹部空間を有する接地導体となる導体層が金属キャリアであることを特徴とする請求項11又は12記載の低域通過フィルタ。
【請求項14】
前記互いに表裏を成す第1面と第2面を有する誘電体層と前記第2面に対向して設けられる導体層を含む多層基板で形成したことを特徴とする請求項11又は12記載の低域通過フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−176694(P2011−176694A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−40157(P2010−40157)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】