低太陽熱取得係数、優れた化学的及び機械的特性を有する低放射率コーティング及びその製造方法
本発明は、低太陽熱取得係数(SHGC)、改善された美しさ、機械的及び化学的耐久性、並びに、焼戻し又は熱強化耐性を特徴とする低放射率積層を提供する。本発明は、更に、基板から外側に向かって順に、第1の誘電体層と、第1の核生成層と、第1のAg層と、第1のバリア層と、第2の誘電体層と、第2の核生成層と、第2のAg層と、第2のバリア層と、第3の誘電体層と、任意にトップコート層とを含む低放射率コーティング、並びに、かかるコーティングを基板上に付着する方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全般的には低放射率(「low−e」)コーティングに関し、特に、低太陽熱取得係数(SHGC)(「low−g」)を有するコーティング、さらに、維持されたあるいは優れた機械的及び化学的耐久性を有するコーティングに関する。
【背景技術】
【0002】
同時係属中の米国特許出願第11/648,913号、米国特許出願第11/431,915号、米国仮特許出願第60/680,008号、米国仮特許出願第60/736,876号、及び米国仮特許出願第60/750,782号を含め、本願において参照する全ての米国特許及び米国特許出願の全体を参照によって本願に援用する。矛盾がある場合は、定義を含め、本願の内容が優先する。
【0003】
透明パネルまたは基板上の日射制御コーティングは、赤外線(IR)を阻止しつつ可視光が透過するように設計されている。例えば、建築用ガラス及び自動車の窓に、高可視透過率、低放射率のコーティングを適用することによって、冷暖房費等の環境管理関連コストの大幅な削減がもたらされうる。
【0004】
一般に、高い可視透過率及び低放射率を提供するコーティングは、概して透明な基板と光学コーティングを含む積層から成る。積層は、反射防止誘電体層間に配置された、高い赤外線反射率及び低透過率を有する1つ以上の金属薄層を含む。これらの仕組みは輻射熱を反射し、太陽熱だけでなく冷気も遮断する。今日使用されているほとんどの低放射率積層は、透明な誘電体を基礎にしている。一般に誘電体層の厚さは、光透過率が高く(>60%)なるように内側及び外側の反射率を減らすべく調整されている。赤外線反射金属層は、例えば、銀、銅あるいは金など事実上どのような反射金属であってもよい。銀(Ag)はどちらかといえば中間色であるため、本用途に最もよく使用される。反射防止誘電体層は、可視透過率を向上させるために選ばれる一般的には透明な材料である。
【0005】
従来の低放射率コーティングは、通常、コーティングが「中間」色を有するよう、つまり、実質的に無色となるように、可視スペクトル全体にわたって比較的一定の反射を維持しようとする。しかしながら、従来の低放射率コーティングは、特定の用途において美しさ及び他の理由のために必要とされている反射色の極限をもたらすことができない。
【0006】
コーティングした基板で所望の特性を得るためには、多層コーティングの各層の組成及び厚さを慎重に選ばなければならない。例えば、Ag等の赤外線反射層の厚さを慎重に選ばなければならない。Ag層の放射率は、Agシート抵抗の低下と共に減少する傾向があることはよく知られている。このため、低放射率のAg層を得るためには、Ag層のシート抵抗はなるべく小さい方がよい。しかしながら、Ag層の厚さを増やすことは可視透過率をも低下させ、結果として、一般に好ましくない色となりうる。シート抵抗及び放射率を増やすことなくAg層厚を減らして可視透過率を上昇させ得ることが望ましい。
【0007】
Agから成る薄くて透明な金属層は、湿潤な条件下において、例えば、大気によって運ばれる塩化物、硫化物、二酸化硫黄等、種々の腐食性物質と接すると腐食しやすい。Ag層を保護するために種々のバリア層をAg上に付着できる。しかしながら、従来のバリア層による保護では不十分なことが多い。
【0008】
コーティングされたガラスは、コーティングが高い温度に曝される多くの用途に使用される。例えば、自浄式調理用オーブンのガラス窓のコーティングは、洗浄サイクル中に例えば480℃に頻繁に急上昇することを伴って、120から230℃の調理温度まで繰り返し上昇される。さらに、コーティングされたガラスを焼き戻しする際あるいは曲げる際には、コーティングもガラスと共に最長で数分間、約600℃以上程度の温度まで加熱される。これらの熱処理はAgコーティングの光学特性を不可逆的に劣化させる可能性がある。この劣化は、Agの上下層にわたって拡散する酸素によるAgの酸化によって生じることがある。劣化は、Agと、ガラスから移動する例えばナトリウム(Na+)等のアルカリイオンとの反応によっても生じることがある。酸素又はアルカリイオンの拡散は、Agの上下の誘電体層の劣化又は構造的変化によって促進及び拡大することがある。コーティングはこれらの高い温度に耐えることができなくてはならない。しかしながら、これまで知られているAgを赤外線反射薄膜として採用している多層コーティングは、多くの場合、Ag薄膜の劣化なしにこのような温度に耐えることができない。
【0009】
低放射率コーティングについては、特許文献1及び特許文献2に開示されている。真空蒸着された銀を含む低放射率コーティングは、開口部用建材市場において現在市販されている。
【0010】
特許文献2には易酸化性金属を、焼戻し可能(temperable)な低放射率コーティングの保護に有用な、ヘーズ低減トップコートとして使用することが記載されている。この特許は600℃を超える温度に曝した場合に生じるヘーズを低減する方法に関する。
【0011】
コーティングされた物品の特性を向上させるために金属膜、金属合金膜、及び金属酸化物コーティングが低放射率銀コーティング上に施されてきた。特許文献2は、ガラス基板上に施された全層のうちの最外層として付着された金属又は金属合金層を開示している。この金属又は金属合金層は、酸化して反射防止コーティングとして作用する。特許文献1は、金属酸化物層を反射防止層として付着させる方法を開示している。銀層を反射防止層の間に挟むことで、光の透過率を最適化する。
【0012】
都合の悪いことに、光学膜は、輸送及び取扱い中に引っかき及び腐食環境への露出によりしばしば損傷を受ける。金属薄膜層は、特に引っかき損傷を受け易いことは周知である。銀を基とした低放射率コーティングは、腐食による不具合の影響を特に受けやすい。今日使用されているほとんどの低放射率積層は、これらの不具合を軽減するために低放射率薄積層の中あるいは上のどこかにバリア層を利用する。薄いバリアは、一般的には、銀層の、水蒸気、酸素又は他の液体による腐食を低減するように機能する。中には、低放射率積層の硬度により、あるいは、外層を形成する場合は摩擦を減らすことにより、物理的な引っかきによる損傷を緩和するものもある。
【0013】
強烈な太陽光の負荷を受ける地域だけでなく準砂漠地帯でも、現在の高透過低放射率製品は既に利益をもたらしているが、これらの低放射率製品を使用している家屋及び建物内での温度的な及び視覚的な快適性を最大限に高めるには、熱及び光の負荷は未だに大きすぎる。
【0014】
少数の低光透過率を有する低放射率積層を入手できるが、通常、これらの製品は以下の欠点、すなわち、美的な魅力を損ねる高反射率、又は熱負荷の制御に不適当とする高い日射遮蔽係数、の少なくとも1つを持つ。
【0015】
ごく少数の市販の低放射率製品が、所望の光学的特性及び日射遮蔽係数を合わせ持つ。これらの特性を有する製品を、加工及び製造にふさわしくするためには、依然としてさらなる改良を必要とする。さらに、これらの低放射率コーティングは、保管及び断熱ガラスユニットへ加工する際に特別な注意を必要とする軟質コーティングである。このようなコーティングの現在の機械的及び化学的耐久性を向上させることが望ましい。
【0016】
異なる設計の積層を一つの塗工機で製造する時、これら異なる設計における設定条件は必ずしも共通しているわけではないためにしばしば問題となる。中断時間及び塗工機の配置を変更することなく、1台の塗工機で同時に製造できる異なるコーティングを提供することが望ましい。
【0017】
さらに、安全上の理由で、機械的な強度を高め、破損の際に裂傷を負わないように、今ではより多くのガラスが熱処理されている。これは特に低SHGC製品について言える。コーティングによるエネルギー吸収が増加すると、その一部が太陽の放射に曝されて、もう一部が陰にあるとき、採光窓の潜在熱応力が増加する。通常の低放射率コーティングは熱強化あるいは焼き戻しに耐えるようには設計されていない。このような条件は、コーティングを完全に破損し、美的な魅力を台無しにし、これを使用不能とすることがある。
【0018】
このように、先行技術で見られる種々の問題を克服する低放射率コーティング積層(及びその製造方法)の必要性が依然として残る。特に、維持されたあるいは高められた魅力的な外観、機械的及び/又は化学的耐久性を示し、また、所望であれば焼き戻し又は熱強化されうる、低太陽熱取得係数を有する低放射率積層が必要とされている。さらに、専用の非標準型塗工機が無くても施すことのできる積層が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】米国特許第4,749,397号明細書
【特許文献2】米国特許第4,995,895号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、従来の低放射率コーティングに関連した問題を解決するために、低太陽熱取得係数(つまり、low−g積層)を有し、魅力的な外観の、さらに通常の低放射率積層と同等あるいはより優れた化学的及び機械的耐久性を有する積層をもたらす改良されたコーティングを提供する。さらに、本発明は、標準的な製造方法に対応した製品を提供する。具体的には、例えば、標準塗工機からlow−g塗工機への移行の際には、塗工機のガス抜きあるいは配置変更を必要としない。さらに、驚くことに、本発明の実施形態によってコーティングされたガラス基板は、焼き戻しあるいは熱処理により積層の層又はコーティングされた基板の光学的な質の劣化を生じることなく、また、低放射率コーティングに関連してかかる処理が用いられる場合において通常見られる他の不都合を生じることなく、焼き戻しあるいは熱処理されうる。
【0021】
本発明は、本技術分野において知られている低放射率積層に見られる不都合を、少なくとも1つの薄い吸収層を導入してかかる積層の吸収を増加させることによって、又は、バリア層といった他の層の吸収を増加させることによって取り除く。積層の吸収を増加させるためのこのような技術は、光反射率を増加させることなく総光透過率を低減させる。このような光反射率の増加は、特に建物の内側を向いている窓ガラスで生ずる場合にしばしば問題となる。
【課題を解決するための手段】
【0022】
吸収材の適切な選択によりコーティングされたガラスの透過色を制御できる。実施形態では、吸収層は、赤外線反射層を保護するバリア層と、覆っている誘電体との間に挿入されうる。他の実施形態では、同様の結果を得るために、バリア層自体をより吸収性の高いものにすることができる。かかる実施形態では、バリア層は、従って、バリア層と吸収層のいずれとしても機能を果たし、本願では「吸収バリア」層と称するものとする。赤外線反射層は、好ましくは銀(Ag)であるが、例えば銅又は金であるがこれらに限定されるものではない任意の反射材でありうる。従って、本発明の一態様は、基板上に低放射率コーティングを提供し、コーティングは基板から外向きに順に、第1の誘電体層、第1の赤外線反射層、第1の吸収バリア層、第2の誘電体層、第2の赤外線反射層、第2の吸収バリア層、第3の誘電体層、及び、任意にトップコート層を含む。任意のトップコート層は、焼き戻し又は熱処理を受ける実施形態において使用される。好ましい実施形態では、一方又は双方の赤外線反射層の下に核生成層がある。好ましい実施形態は上述の積層形態を含むが、本発明はまた、2層以上ではなく、単一の赤外線反射層を有するコーティングを提供する。従って、かかる実施形態は、第1の誘電体層、任意に核生成層、赤外線反射層、吸収バリア層、第2の誘電体層、及び、任意にトップコート層を含む。本発明によるコーティングは、基板上に層を付着させることによって形成される。好適な製造方法は、マグネトロン・スパッタリングによる付着を含む。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明による、低SHGC、および、優れた機械的及び/又は化学的耐久性を示し、美的に魅力のある低放射率積層の実施形態を示す図である。
【図2】本発明による、低SHGC、および、優れた機械的及び/又は化学的耐久性を示し、美的に魅力のある、Ag層の特性を改善するための核生成層を含む低放射率積層の別の実施形態を示す図である。
【図3】本発明による、低SHGC、および、優れた機械的及び/又は化学的耐久性を示し、美的に魅力のある低放射率積層のさらに別の実施形態を示す図である。
【図4】本発明による、低SHGC、および、優れた機械的及び/又は化学的耐久性を示し、美的に魅力のある低放射率積層のさらなる実施形態を示す図である。
【図5】2枚のガラス基板、ポリビニルブチラール層(PVB)及び本発明によるコーティングを含む自動車又は他の車両に使用するための低放射率積層の実施形態を示す図である。
【図6A】本発明によるlow-g吸収材としての使用に適している典型的な材料についての光学定数データを示す。図6Aは、屈折率(n)に関するデータを示す図である。
【図6B】本発明によるlow-g吸収材としての使用に適している典型的な材料についての光学定数データを示す。図6Bは、吸光係数(k)に関するデータを示す図である。
【図7】SiAlOxNyの2つの化学量論状態について、屈折率及び吸光係数のデータをグラフ化して示す図である。
【図8】本発明によるlow-g積層内のSiAlOxNyについての好適なn及びk値データをグラフ化して示す図である。
【図9】本発明による、低SHGC、および、優れた機械的及び/又は化学的耐久性を示し、美的に魅力のある低放射率積層の他の実施形態を示す図である。
【図10】本発明による低SHGC、および、優れた機械的及び/又は化学的耐久性を示し、美的に魅力のある低放射率積層のさらなる実施形態を示す図である。
【図11】本発明による低SHGC、および、優れた機械的及び/又は化学的耐久性を示し、美的に魅力のある低放射率積層の実施形態を示す図である。
【図12】本発明による低SHGC、および、優れた機械的及び/又は化学的耐久性を示し、美的に魅力のある、Ag層の特性を改善するための核生成層を含む低放射率積層の他の実施形態を示す図である。
【図13】本発明による低SHGC、および、優れた機械的及び/又は化学的耐久性を示し、美的に魅力のある低放射率積層のさらなる実施形態を示す図である。
【図14】本発明による低SHGC、および、優れた機械的及び/又は化学的耐久性を示し、美的に魅力のある低放射率積層のさらに他の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
下記の詳細な説明において、本発明を実施することもできる種々の具体的な実施形態に言及している。これらの実施形態は、当業者が本発明を実施できるように十分詳細に記載されており、他の実施形態を採用する場合もあると理解され、本発明の精神または範囲から逸脱することなく構造的及び当然の変更もできる。
【0025】
本発明は、低太陽熱取得係数(SHGC)を有し、美的に魅力のある、一般的な低放射率積層と同等あるいはより優れた化学的及び機械的耐久性を有する低放射率積層をもたらす改良されたコーティングを提供する。さらに、本発明は標準的な製造方法に対応した製品を提供する。具体的には、特に、標準塗工機からlow−g塗工機への移行の際には、塗工機のガス抜きあるいは他の配置変更を必要としない。さらに、驚くことに、本発明の実施形態によってコーティングされたガラス基板は、低放射率コーティングに関連して使用されている場合において通常見られるような不都合がなく、焼き戻しあるいは熱処理できる。
【0026】
実施形態では、本発明は、低放射率積層の所望の性質を、少なくとも1つの薄い吸収層を導入してかかる積層の吸収を増加させることによって、又は、バリア層といった他の層の吸収を増加させること(それによって「吸収バリア」層を生じさせること)によって達成する。積層の吸収を増加させるためのこのような技術は、光反射率を増加させることなく、総光透過率を減らす。増加した反射率は、特に建物の内側を向いている窓ガラスでの場合にはしばしば問題となる。焼き戻しに対する耐性は、誘電体又は吸収バリア層の厚さを、または吸収バリア層の性質を調整することによって向上させることができる。
【0027】
本発明の一態様は、少なくとも1つの吸収層を備えているコーティングを基板上に含んでいる低放射率積層を提供する。吸収層は、バリア層に加えて存在する層でありうる。或いは、バリア層は、吸収層としても動作するよう変更されてもよく、それにより吸収バリア層となり、別個の吸収層とバリア層の必要性がなくなる。低放射率積層は、約0.34より小さい、好適には約0.31より小さい、太陽熱取得係数(SHGC)を特徴とする。いくつかの実施形態において、低放射率積層は、約0.22から約0.25のSHGCを特徴とする。種々の実施形態において、積層は約42%から約46%の光透過率を有する。本願に記載するいくつかの実施形態では、光透過率は、最大で約62%程度でありうる。焼き戻しの際に、透過率は約1%から8%上昇する。幾つかの実施形態において、積層は負のa*及び負のb*で有する透過色を有する。他の実施形態では、積層は負のa*及び正のb*を有する透過色を有する。
【0028】
一態様によれば、本発明は基板上に低放射率コーティングを提供し、コーティングは、基板から外向きに順に、第1の誘電体層、第1の赤外線反射層、第1の吸収バリア層、第2の誘電体層、第2の赤外線反射層、第2の吸収バリア層、第3の誘電体層、及び任意のトップコートを含む。第1の吸収バリア層または第2の吸収バリア層のいずれかは任意である。つまりこのような層を2つは必要としない。任意のトップコート層は、焼き戻し又は熱処理を受ける実施形態において使用される。好ましい実施形態では、一つ以上の赤外線反射層の下に核生成層がある。
【0029】
基板はガラス製であることが好ましい。好適な実施形態では、2つの赤外線反射層はAg層であり、約80%以上のAg1/Ag2比を有し、バランスが取れている。しかしながら、別の実施形態では、比は50%まで低い場合がある。偏りのないAg層を有することは、特に製造の観点において、あらゆる利点をもたらす。2つのターゲットがほぼ同じ割合で腐食するため、キャンペーン期間を最長にできる。第2のAg層(Ag2)が第1のそれ(Ag1)より厚い場合、例えば、塗工機はキャンペーン期間の早い時期にガス抜きを必要とし、これは製造費にかなり悪い影響を及ぼす。上述のように、本発明は、2つ以上のAg層ではなく、1つのAg層を有するコーティングを提供する。
【0030】
吸収層は、別の層として存在するときは、Ag層を保護するバリアと、覆っている誘電体との間に挿入されることが望ましい。吸収材は、金属、合金、ケイ化物、吸収酸化物、吸収性灰色金属、窒化物、又はその他所望の効果が得られる適切な材料を含むことができる。好適な材料には、Ti、TiN、Si、NiCr、NiCrOx、Cr、Zr、Mo、W及びZrSi、ニッケル又はクロム合金、並びに、遷移金属、これらの窒化物、亜窒化物及び亜酸化物、並びに、ケイ化物及びアルミニウム化合物を含みうるがこれらに限定されない。好適な焼戻し可能及び焼戻し可能でない実施形態では、吸収材はNiCrを含む。焼き戻しを行わない実施形態においては、Tiもまた吸収材として効果がある。
【0031】
当業者は、吸収材の適切な選択によりコーティングされたガラスの透過色を制御できる。中間色(a*及びb*が負であり、バランスの取れたものが好ましい。最低必要条件は、透過率及びガラス側反射率のため、負のa*値、及び、b*値が+2よりも小さいことである)は、より濃い緑がかったあるいは黄色がかった色合いよりも美的に魅力がある。中間透過色は、ガラスを収容している断熱ガラスユニット(IGU)の正しい演色を最高にするために非常に好ましい。本発明は、所望であれば、青色がかった色合いを得ることを可能とする。
【0032】
従って、low−g設計における特定の材料は、低放射率コーティングの透過率を下げること及び積層の色を所望の色に調整できることがわかっている。焼戻し可能なコーティングの場合、好適な材料はまた薄膜積層内で熱的に安定している。上述の吸収材の代わりに、その他多くの材料を使用できる。このような材料は、この透過率低下機能を実現するのに適した屈折率(n)及び吸光係数(k)の範囲で特定できるものである。焼戻し可能なlow−g設計において、吸収層はさらなる熱安定性のみならず、適切な光学特性を有するであろう。
【0033】
別個の吸収層が使用されない場合、1つ以上のバリア層を変更することで、吸収を高め、それにより上述と同じ所望の光学特性を得ることができる。かかる変更は、以下のグラフに示すように、これらの層において変化するガスレベルを含むことが望ましい。これらのグラフは、NiCrOx酸素流対スパッタ電力(キロワット)とNiCrOx吸光係数(k)の関係を示す。第2のy目盛りはまた、所与のNiCrOxが本願に記載の二重銀低放射率積層において使用されるときのTY又はSHGC値を示す。
【0034】
NiCrOx比は、直流電力で実行される2879mm長さのスパッタリングターゲットに基づくことが望ましい。電力は、一般的には、15乃至45kWの範囲である。アルゴン流は、300sccmである。
【表1】
【表2】
【0035】
参照によってその全体を本出願に援用する米国特許第6,416,872号明細書は、ファブリ・ペロー型の薄膜積層(金属/誘電体/金属)を含む日射制御構造の使用に関する。これら金属の1つは、赤外線反射材(銀)であり、1つは光学的吸収材である。光学的吸収材は、好適な光定数の範囲で表されている。本発明の実施形態は、ファブリ・ペロー積層を同様に含むが、金属/金属/誘電体/金属/金属又は、より具体的に、金属/亜酸化吸収薄層(バリア)/金属/誘電体/金属/亜酸化吸収薄層(バリア)/金属から成る基本的な積層構造を備える。これらのいずれの場合においても、一対の金属/金属の片方の金属は、赤外線反射金属であることが望ましく、他方は吸収金属材であることが望ましい。low−g吸収金属材は、米国特許第6,416,872号明細書の記載と同様に光定数の範囲を用いて表すことができる。low−g吸収材として光学的にふさわしい典型的な材料の光定数を、図6A及び図6Bにグラフ化している。図6Aに示すデータに基づき、図に示す金属吸収材について、波長が550nmにおける好適な屈折率の範囲は、約1から約5.5の間である。図6Bに示すデータに基づき、図に示す金属吸収材について、波長が550nmにおける吸光係数の範囲は、約1.75から約4.5の間である。好適な材料の範囲を限定するために役立つことがある別のパラメータは、550nmにおいて正の勾配を有する屈折率のプロットである。この特性により、金属材料は、同じようにプロットした場合に通常は550nmで負の勾配を有する亜酸化物及び窒化物から区別される。
【0036】
本発明の好適な実施形態において、吸収層は、別個の層として存在するとき、積層内の極めて特定された位置に挿入される。これは、コーティングされたガラスの製造及び処理に重要な他の特性、特に、全体的な耐久性及び製造の容易性を最適化するためである。
【0037】
各吸収層は、存在する場合は、約0.1nmから約8nmの厚さであることが望ましい。2つの吸収層が含まれている場合、第1の吸収層が第2の吸収層より厚いことが望ましい。第1の吸収層は、約1nmから約6nmの厚さであることが望ましく、1.5nmから約5nmの厚さであることがより望ましい。第2の吸収層は約0.1nmから約5nmの厚さであることが望ましく、約0.1nmから約4nmの厚さであることがより望ましい。別の実施形態では、第1の吸収層は約3nmの厚さを有する。さらに別の実施形態では、第2の吸収層は約0.5nmの厚さを有する。他の実施形態では、第1の吸収層は約3.6nmの厚さを有する。さらに他の実施形態では、第2の吸収層は約0.1nmの厚さを有する。上述の厚さ範囲は、別個の吸収層及びバリア層の代わりに吸収バリア層が用いられるときは、同様に吸収バリア層にも適している。
【0038】
バリア層は(別個であると吸収バリア層であるとを問わず)、Ag層を、その上に誘電体をスパッタリングするときに、プラズマによる腐食から保護する。また、O2、O、H2O、Na+等の攻撃的な種の拡散を制御することにより化学的な耐久性を高めることが可能である。好ましい実施形態では、バリアは透明である。バリアは、NiCr、NiCrOx、TiOx、NiCrNxOy、NiCrNx、Ti、又は他の1つ又は複数の金属、それらの亜窒化物及び亜酸化物を含みうるがこれらに限定されない。好適なバリアはNiCrOxである。かかる層では、特に第1の(即ち一番下の)NiCrOx層では、約15乃至60原子パーセントの酸素を含みうる。望ましくは、酸素の原子パーセントは
20%乃至55%である。本発明の焼戻し可能なバージョンの熱耐久性は、第1のNiCrOx層が約20原子パーセントの酸素を含むときに改善した。望ましい実施形態では(特に、バリアがより高い吸収性を有するよう変更されたときは)、バリアはNiCrOxを含み、銀の上にスパッタリングされ、平坦なターゲットから付着された薄い保護層である。望ましくは、アルゴンと酸素の混合物の中でスパッタリングされることが望ましい。酸素流(sccm)に対する電力は、スパッタリングされたNiCrOx中の酸化を推定するために使用される望ましい方法である。完全に酸化したNiCrOxについて用いられる比は、10:1である。本発明によるいくつかのコーティングにおいて用いられる比は、望ましくは、7.5:1から8.0:1で変化する。
【0039】
他の望ましい実施形態では、NiCrの吸収バリアが用いられる。同様に、この保護バリア薄層は、望ましくは銀の上にスパッタリングされ、DCの平坦なターゲットから付着される。かかる実施形態では、NiCr層(又は複数の層)は、アルゴンのみの中においてスパッタリングされる。かかるNiCr層は、近傍のカソードからのガスのクロストークによって生じうる予期せぬ不純物を除き、完全に金属でありうる。
【0040】
好適な実施形態において、各誘電体層は個々に酸化物、窒化物又はオキシ窒化物を含む。誘電体層が酸化物を含む場合、酸化物はTi、Zn、Sn、ZnSn合金又はBiターゲットからスパッタリングされる。酸化物はNb2O5を含む場合もある。酸化物は、例えば、Al又はBといった元素、あるいは類似の元素を約20重量%まで、好適には約10重量%まで含む場合もある。通常、これらのドーパントは、シリコン塗工機のターゲットに伝導性を与えるために使用されている。誘電体層が窒化物又はオキシ窒化物を含む場合、該窒化物又はオキシ窒化物は、Si、SiAl、SiB、SiZrの窒化物又はオキシ窒化物、あるいは所望の効果を達成する他の好適な窒化物又はオキシ窒化物であってもよい。同様に、該窒化物又はオキシ窒化物は、塗工機のターゲットに伝導性を与えるために、例えば、Al又はBといった元素、あるいは類似の元素を約20重量%まで、好適には約10重量%まで含む場合もある。望ましい実施形態では、誘電体はSiAlOxNyであり、シリコン/10重量パーセントアルミニウムの回転可能なカソードから反応性スパッタリングされる。反応性ガスは、好ましくは、約90%窒素流及び10%酸素である。化学量論的な変化は、層ごとに、また、連続生産量(production run)ごとに生ずるが、材料は、望ましくは半化学量論的である。望ましい実施形態では、スパッタリング用ガスには、SiAlが完全に反応したオキシ窒化物に達するには不十分な窒素及び酸素が存在する。いくつかの実施形態では、層における原子比は、ほぼSi4O0.4N5である。
【0041】
3つの一次誘電体を採用する好適な実施形態において、少なくとも1つの誘電体層が半化学量論の状態にある。より好適には、これら3つの誘電体(例えば、SiAlOxNy)が全て半化学量論の状態にある。このような半化学量論層を使用することにより、種々の利点が得られる。例えば:
1.ターゲット面の化学的性質が半化学量論的であればSiAlスパッタターゲットからの付着率はより高い。シリコンを多く含んだ表面のスパッタ収率は、より多くの窒化シリコンを含む表面のそれより高い。より高い付着率は、塗工機をより高速で運転する際に有利となり、そしてより経済的である。
2.半化学量論窒化物のインデックスが大きいほど、同じ光学的厚さに対してより小なる物理的厚さを有する誘電体層が可能となる。半化学量論層が付着される際に、より少ないターゲット材が消費され、また、これは塗工機のより効率的な運転を可能にする。
3.インデックスがより大きい誘電体は、低放射率積層設計の光学特性の自由度を高めることができる。透過及び反射に好適な色は、より小さいインデックスの化学量論材料と比べてより大きいインデックスの誘電体を用いてより容易に得ることもできる。
4.半化学量論層は、化学量論誘電体より良好な化学バリア特性を有する傾向にある。これは、より化学的に安定した、耐食性のある低放射率積層を可能にする。腐食性化学物質は、脆弱な銀層に到達しにくくなる。
5.半化学量論誘電体の光学的吸収は、low−g積層の透過率を低減し、太陽熱取得係数を上げることに役立つ。半化学量論誘電体は、可視領域では光学的に吸収性があり、赤外線領域ではより透明になる傾向にある。したがって、これらの材料は、可視透過率を低減するが、銀層の赤外線反射率特性を妨げる傾向にはない。
【0042】
金属吸収層は、可視及び赤外線の両領域で光学的に吸収性がある。low−g製品において、透過率を低減すべく金属材が使用されると、可視透過率及び赤外線反射率の両方が低減される。Low−e製品は、なるべく高い赤外線反射率を有することが望ましい。
これらの利点は、low−e積層に使用されるかもしれない半化学量論酸化物、オキシ窒化物及び窒化物に見られる傾向がある。
【0043】
本発明による積層における好適な誘電体に使用されている、シリコン対アルミニウムの比は10重量%Alである。他のSi:Al比を使用してもよい。いくつかの実施形態においては、Si、O及びNの原子比率は約Si4O0.4N5である。一番上のシリコン・オキシ窒化誘電体は、光学干渉層としての主機能を果たし、銀の反射防止機能に寄与する。しかしながら、材料は、一つにはそのバリア特性及び硬度を目的として選ばれ、この材料は、銀の機械的及び化学的な保護に役立つ。
【0044】
図7はシリコン・オキシ窒化物の屈折率及び吸光係数を図示する。グラフ上の指数及び吸光係数は、SiAlOXNYの2通りの化学量論状態を示す。これらは、low−gコーティングに適しているであろう化学量論のSiAlOxNyのおおよその上限及び下限を表す。通常、好適な実施形態における化学量論は、これら2つの極値間にある。図8は、Low−g積層内のSiAlOxNyについての好適なおおよそのn及びk値を示す。
【0045】
好適な実施形態において、誘電体は、550nmで約1.8と約2.5の間の、より好ましくは約2.1と約2.3の間の屈折率を有する。特に、好適な実施形態において、一番上の誘電体は、一番下又は中間の誘電体よりも低い屈折率を有しうる。かかる実施形態において、一番上の誘電体は、約1.8と約2.3との間の屈折率を有し、一番下又は中間の誘電体は、約2.0と約2.5との間の屈折率を有する。好適な実施形態において、誘電体は、550nmで約0と約0.05との間の、より好ましくは約0.01と約0.02との間の吸光係数を有する。
【0046】
好適な実施形態において、コーティングは、第1の誘電体層と第1のAg層との間に核生成層をさらに含む。別の好適な実施形態において、コーティングは、第2の誘電体層と第2のAg層との間に第2の核生成層をさらに含む。核生成層は、Ag層の特性を改善し、通常、酸化亜鉛を基に、例えば、Al、Sn、又はこれらの組み合わせの、但しこれらに限らない、約15重量%までの他の元素を加えたものである。好適な実施形態において、ZnOの付着に使用されるスパッタリング・ターゲットは、約1.5%のAlを含み、ZnAlOXの層を生ずる。この材料は、望ましくは、亜鉛/1.5重量パーセントアルミニウムの回転可能な又はプレーナ型のカソードから反応性スパッタリングされる。スパッタリングガスは、望ましくは、アルゴンと、酸化物が完全に酸化した状態で付着するのに十分な酸素とからなる。例えば本願に記載するような銀のための核生成層は、低放射率に関する特許文献に共通に記載されている。本発明の実施形態における核生成層は、望ましくは厚さが約2nm乃至12nmである。好適な実施形態において、一番下の核生成層は一番上の核生成層よりも厚く、これらの間の比は、約1.2乃至約2.0である。この形態は、特に熱処理又は焼戻しの後の耐久性を改善する。
【0047】
好適な実施形態において、赤外線反射層は、Agを含み、純粋なアルゴン中でスパッタリングされる。或いは、少量の酸素が加えられてもよい。酸素は、特に熱処理又は焼戻しを受ける実施形態において、機械的な耐久性に役立つ。
【0048】
任意のトップコートが含まれている場合、化学的及び/又は機械的な安定性にプラスの効果を与えることができる。トップコートは、C、SiSn、ZrSi、SiSnO2又はケイ化物を含むことができるが、これらに限らない。この呼び方は、異なる元素の化学量論あるいは原子比率に言及することを意図したものではないことに注意されたい。例えば、ZrSiは、Zrの原子百分率が0から100%の間で変化して層を漸変できる、スパッタリングされた材料である。この層は、加熱によって酸化できる。通常、トップコートは、下に横たわる誘電体と比較して対照的な性質を有する。誘電体が酸化物の場合、トップコートは上記材料のいずれか、又は、SiN若しくはSixAlyNzOc等の窒化物若しくはオキシ窒化物であることが望ましい。あるいは、誘電体が窒化物又はオキシ窒化物の場合、トップコートは上記リストから選択されるか、酸化物(例えば、ZrO2、ZrSiO2、SnO2、又はZrOxNy、TiO2又は他の類似の物質、しかし本願明細書に記載の特定の化学量論比に限定されない)であってもよい。好適なトップコートは、炭素であり、望ましくは、焼戻し可能な製品の製造中に使用される。通常はスパッタリングされるこのようなコーティングは、厚さが約4−8nmであることが好ましく、焼き戻し処理の際に焼いて除去される。好ましい実施形態は、最も外側の層として約3−5nmの厚さのスパッタリングされた炭素トップコートを利用する。この材料は、望ましくは、アルゴン中でDCマグネトロン・スパッタリングされる。
【0049】
好ましい実施形態において、本発明は基板上に低放射率コーティングを提供し、該コーティングは基板から外向きに順に、約25nmまでの、好ましくは約23nmまでの厚さを有する第1の誘電体層、約8nmから約15nmの厚さを有する第1のAg層、約0.1nmから約4nmの厚さを有する第1の吸収バリア層、約40nmから約75nmの厚さを有する第2の誘電体層、約8nmから約15nmの厚さを有する第2のAg層、約0.1nmから約4nmの厚さを有する第2の吸収バリア層、約10nmから約40nmの厚さを有する第3の誘電体層、そして任意に、トップコート層、を含む。さらに別の実施形態において、コーティングは、第1の誘電体層と第1のAg層との間に核生成層を含み、この核生成層は、約4nmから約12nmの厚さを有する。また、さらに別の実施形態において、コーティングは、第2の誘電体層と第2のAg層との間に第2の核生成層を含み、第2の核生成層は約2nmから約8nmの厚さを有する。厚さが約23nmの第1の誘電体層を有する積層は、特に焼き戻しに適している。
【0050】
他の好ましい実施形態において、本発明は基板上に低放射率コーティングを提供し、該コーティングは基板から外向きに順に、SiAlOxNyを含む第1の誘電体層、ZnAlOxを含む第1の核生成層、Agを含む第1の赤外線反射層、NiCrを含む第1の吸収バリア層、SiAlOxNyを含む第2の誘電体層、ZnAlOxを含む第2の核生成層、Agを含む第2の赤外線反射層、NiCrを含む第2の吸収バリア層、SiAlOxNyを含む第3の誘電体層、そして任意に、トップコート層を含む。他の実施形態では、吸収バリア層はNiCrOxを含む。
【0051】
他の好ましい実施形態において、本発明は基板上に低放射率コーティングを提供し、該コーティングは基板から外向きに順に、SiAlOxNyを含み、約25nmまでの、好ましくは約23nmまでの厚さを有する第1の誘電体層、ZnAlOxを含み、約4nmから約12nmの厚さを有する第1の核生成層、約8nmから約15nmの厚さを有する第1のAg層、NiCrを含み、約0.1nmから約4nmの厚さを有する第1の吸収バリア層、SiAlOxNyを含み、約40nmから約80nmの厚さを有する第2の誘電体層、ZnAlOxを含み、約2nmから約8nmの厚さを有する第2の核生成層、約8nmから約15nmの厚さを有する第2のAg層、NiCrを含み、約0.1nmから約4nmの厚さを有する第2の吸収バリア層、SiAlOxNyを含み、約10nmから約40nmの厚さを有する第3の誘電体層、そして任意に、トップコート層、を含む。他の実施形態では、吸収バリア層はNiCrOxを含む。厚さが約23nmの第1の誘電体層を有する積層は、特に焼き戻しに適している。
【0052】
他の好ましい実施形態において、本発明は基板上に低放射率コーティングを提供し、該コーティングは基板から外向きに順に、SiAlxNyOwを含む、約3nmから約25nmの厚さを有する第1の誘電体層、ZnAlyOxを含む、約4nmから約12nmの厚さを有する第1の核生成層、約8nmから約12nmの厚さを有する第1のAg層、NiCrOxを含む、約1nmから約4nmの厚さを有する第1のバリア層、NiCrを含む、約1.5nmから約4nmの厚さを有する第1の吸収層、SiAlxNyOwを含む、約55nmから約75nmの厚さを有する第2の誘電体層、ZnAlOxを含む、約3nmから約10nmの厚さを有する第2の核生成層、約10nmから約15nmの厚さを有する第2のAg層、任意に、NiCrOxを含む、約2nmから約4nmの厚さを有する第2のバリア層;NiCrを含む、約0.7nmから約2.2nmの厚さを有する第2の吸収層、SiAlxNyOwを含む、約24nmから約40nmの厚さを有する第3の誘電体層、そして任意に、トップコート層を含む。実施形態において、NiCrOxを含む第2のバリア層が不在であるため、第2の吸収層が第2のAg層の上に直接付着されている。本実施形態における第2吸収層のNiCr金属の代わりに、同時スパッタリング(co-sputter)されたNiCr及びクロム、NiCr/Cr二層、又はいかなる灰色金属又は合金を使用してもよい。さらに別の選択肢として、任意のNi:Cr比率を有するニクロム合金、Ni:Cr比率が漸変するようになっているNiCr層、NiCrNxを形成すべく窒素と反応させたNiCr層、及びいずれの金属もNiとCrの比率がいくつであってもよいNiCr/NiCrを含む二層光学吸収体を含むがこれらに限定されない。
【0053】
さらに他の実施形態において、例えば図9に示すように、本発明は基板上に低放射率コーティングを提供し、該コーティングは基板から外向きに順に、第1の誘電体層、第1の核生成層、第1のAg層、;第1のバリア層、第1の光学吸収層、第2の誘電体層、第2の核生成層、第2のAg層、第2の光学吸収層、第3の誘電体層、及び、任意の、好ましくは引っかき耐性を有するトップコート層、を含む。層厚は本明細書に記載している。例えば図10に示すように、他の実施形態において、該コーティングは基板から外向きに順に、SiAlOxNy/ZnO/Ag/NiCrOx/NiCr金属/SiAlOxNy/ZnO/Ag/NiCr金属/SiAlOxNy/任意のトップコート層、を含む。このため、本実施形態において、第2のNiCr金属吸収層は、第2のAg層の上に直接付着されている。この実施形態においては、焼き戻しあるいは熱強化により、積層又はコーティングされた基板の光学的品質の劣化を生じることなく、又、低放射率コーティングに関連してこれらのような処理が行われる際にしばしば見られる他の不都合を生じることなく、焼き戻しあるいは熱強化ができる。この構成(第2の吸収層が第2のAg層の上に直接付着されている)は、改良された焼戻し可能性に加え、優れた機械的耐久性を示す。この実施形態では、色調を所望の目標値に合わせることがより容易と思われる点も注目されている。第2の吸収層において、NiCr金属の代わりに、同時スパッタリングされたNiCr及びクロム、NiCr/Cr二層、又はいかなる灰色金属又は合金を使用してもよい。さらに別の選択肢として、任意のNi:Cr比を有するニクロム合金、Ni:Cr比が漸変するようになっているNiCr層、NiCrNxを形成すべく窒素と反応させたNiCr層、及びいずれの金属のNiとCrとの比がいくつであってもよいNiCr/NiCrを含む二層の光学吸収体を含むがこれらに限定されない。
【0054】
さらに本発明は、少なくとも1つの吸収層を含む低放射率積層(上述のように、別個の層であってもよく、高められた吸収性を有するよう変更されたバリア層であってもよい)を提供し、該低放射率積層は約0.34より小さい、好ましくは約0.31より小さい、幾つかの好ましい実施形態では約0.22乃至約0.25である太陽熱取得係数(SHGC)を特徴とする。実施形態において、積層は、約1/8インチ(約0.32cm)の厚さを有し、光透過率が約42%から約46%であるガラス基板を含む。また、約50%から約62%の光透過率を示す実施形態が提供される。幾つかの実施形態において、該積層は、負のa*及び負のb*で透過色を有する。他の実施形態において、積層は負のa*及び正のb*で透過色を有する。
【0055】
さらに本発明は上述の低SHGCを有する低放射率積層を作る方法を提供し、該方法は本明細書に記載のコーティングを基板上に付着することを含んでいる。本発明の多層コーティング内の層は、従来の物理的及び化学的蒸着手法で付着できる。これらの手法の詳細は当技術分野においてよく知られているため、ここでは繰り返して述べない。好適な付着手法には、スパッタリング法を含む。好適なスパッタリング法は、金属ターゲットを使用するDCスパッタリング、及び、金属及び非金属ターゲットを使用するACおよびRFスパッタリングを含む。全ての場合において、マグネトロン・スパッタリングを用いることができる。スパッタリングは不活性ガスの中で実施でき、又は反応性ガスの中で反応的に実施できる。全ガス圧力は、5x10−2から8N/m2(5x10−4から8x10−2mbar)、好適には、1x10−1から1N/m2(1x10−3から1x10−2mbar)の範囲内に維持できる。スパッタリング電圧は、200から1200V、好適には250から1000Vの範囲内にあってもよい。ダイナミック(dynamic)付着比は、25から4000nm-mm2/W-sec、好適には30から700nm-mm2/W-secの範囲にあってもよい。レイボルドシステム(Leybold Systems GmbH)によって製造されている型番Typ A 2540 Z 5 H/13-22及びTyp A 2540 Z 5 H/20-29塗工機は、本発明の多層コーティングをスパッタ付着するのに適している。
【0056】
前述のように、本発明の低放射率コーティング内の多層の銀は、単層の銀の場合よりも、より効率的に赤外線放射を反射し、また、透過波長と反射波長とを厳密に分けて遮断できる。
【0057】
本発明の多層コーティングは、基板上に付着されて、基板に機械的に支持されている。基板表面は、コーティング用のテンプレートとしての役割を果たし、コーティングの表面形状に影響を与える。可視光線の透過を最大にするためには、基板の表面が光線の波長よりも小さい起伏を有することが望ましい。このような平滑面は、例えば、基板の溶融物を凝固させることによって形成できる。基板は、本発明の多層コーティングによって低減可能な放射率を有するどのような材料であってもよい。建築及び自動車の用途では、基板は、優れた構造特性を有し、また、太陽エネルギーが集中する可視及び近赤外線スペクトル領域での吸収作用が最小となる材料が望ましい。結晶水晶、石英ガラス、ソーダ石灰ケイ酸塩ガラス及びプラスティック、例えば、ポリカーボネート及びアクリラートは、全て好適な基板材料である。
【0058】
本明細書の実施形態において使用されているように、「の上へ付着」又は「の上に付着」とは、物質が基準となる層の上に直接又は間接的に施されること意味する。間接的に適用されている場合には、1つ以上の層が介在する場合もある。さらに、特記事項がない限り、「[物質1]/[物質2]/[物質3]/‥‥」又は「第1の[物質1]層;第1の[物質2]層;第2の[物質1]層;第2の[物質2]層;‥‥」などの形を用いて本発明のコーティングを表す際、連続する各物質は、先の物質の上に直接又は間接的に付着されていることを意味する。
【0059】
本発明の異なる実施形態におけるコーティングされた物品は、建築用窓(例えば、断熱ガラスユニット)、自動車用窓又は他のあらゆる好適な用途に関連して使用する場合もある。本明細書に記載のコーティングされた物品は、本発明の異なる実施形態において、熱処理されても、されていなくてもよい。図5は、自動車又は他の乗り物での用途(例えば、風防ガラス又は同様の積層板)に適した、本発明の一実施形態を示す。図示の実施形態において、本発明によるコーティングは積層の中に含まれており、該積層は2つのガラス基板及びポリビニルブチラール(PVB)層をも含む。コーティングは、PVBと面している限り第1のシート上にあっても、第2のシート上にあってもよい。
【0060】
ガラスコーティング分野において、特に、コーティングされたガラスの性質及び日射調整特性を定義する際に特定の用語が広く使用されている。本明細書内ではこれらの用語を周知の意味で使用している。例えば、下記のとおりである。
【0061】
反射された可視波長光の強度、即ち「反射率」は、その割合によって定義され、RXYまたはRXと表される(即ちRY値は明所視の反射率を、TY値は明所視の透過率を表す)。ここで、「X」は、ガラス側の場合は「G」、膜側の場合は「F」である。「ガラス側」(即ち「G」)は、ガラス基板のコーティングがある側とは反対の側から見た場合を意味し、一方、「膜側」(即ち「F」)は、ガラス基板のコーティングがある側から見た場合を意味する。
【0062】
色特性は測定して、CIE LAB 1976 a*,b*座標及びスケール(即ち、CIE 1976 a*b*図、III. D65 10度観察者)を用いて表される。ここで、
L*は(CIE 1976)明度単位、
a*は(CIE 1976)赤‐緑単位、
b*は(CIE 1976)黄‐青単位
である。
【0063】
ハンターメソッド(Hunter method)(又は、単位)I11.C,100観測者、又は、CIE LUV u*v*座標の通常の使用を示すために、例えば、添え字「h」等によって他の類似の座標を同等に使用することもできる。これらのスケールは、1993年9月15日発行のASTM規格 D-2244-93「機器を用いた測定色座標から色差を計算するための標準試験方法(Standard Test Method for Calculation of Color Differences From Instrumentally Measured Color Coordinates)」、その増補であるASTM規格 E-308-95,ASTM規格年次本,Vol. 06.01「CIEシステムを使用して物体の色彩を計算するための標準方法(Standard Method for Computing the Colors of Objects by 10 Using the CIE System)」及び/又は1981年発行のアメリカ照明学会ライティング・ハンドブック(IES LIGHTING HANDBOOK)参考本に基づいて本明細書に定義されている。
【0064】
「放射率(emissivity)」(あるいは、エミッタンス(emittance))と「透過率」とは、当該分野において周知であり、本明細書ではその周知の意味で使用されている。従って、例えば、「透過率」は、日射透過率を意味し、これは可視光透過率(TvisのTY)と、赤外線透過率(TIR)と、紫外線透過率(TUV)とから成る。全太陽エネルギー透過率(TSまたはTsolar)は、これらの値の加重平均として表される。これらの透過率に関して、可視光透過率は、建築分野の場合では、標準光源I11.D65 10度技法に従って表現してもよい。一方、可視光透過率は、自動車分野の場合では、標準I11. A2度技法に従って表現してもよい(これらの技法については、例えばASTM E-308-95を参照。これらは参照によって本願に援用する)。放射率を目的として、特定の赤外域(即ち2,500〜40,000nm)が使用される。
【0065】
「放射率」(またはエミッタンス)(「E」又は「e」)とは、所与の波長の光の吸収と反射の両方の尺度又は特性である。通常、式:E=1−反射率filmにより表される。建築分野で使用する場合、例えば、下記にて参照する、Lawrence Berkeley Laboratories製のWINDOW 4.1プログラム、LBL-35298 (1994)によって規定されているように、放射率値は、赤外スペクトルの「遠赤外域」(即ち、約2,500〜40,000nm)とも呼ばれるいわゆる「中間帯域」においてかなり重要である。本明細書において使用している「放射率」とは、「建築用板ガラス製品の放射率測定及び計算用の放射測定値を用いた標準試験方法(Standard Test Method for Measuring and Calculating Emittance of Architectural Flat Glass Products Using Radiometric Measurements)」と題されるASTM規格 E 1585-93で規定され、この赤外域で測定された放射率値を示すために使用される。参照によってこの規格とその規定を本願に援用する。この規格において、放射率は半球放射率(Eh)と垂直放射率(En)として表される。
【0066】
このような放射率値を測定するための実際のデータ蓄積は、従来どおりであり、例えば「VW」アタッチメントを有するBeckman Model 4260分光光度計(Beckman Scientific Inst. 社製)を使用して行うこともできる。この分光光度計は、波長に対する反射率を測定し、その結果から、上記ASTM規格E 1585-93を使用して放射率を算出する。
【0067】
Rsolarとは、全太陽エネルギー反射率(明細書においてはガラス側)を意味し、赤外線反射率、可視反射率及び紫外線反射率の加重平均である。Rsolarは、いずれも参照によって本明細書に援用する、自動車分野では既知のDIN 410及びISO 13837(1998年12月)22頁の表1に、建築分野では既知のASHRAE 142規準に従って計算することもできる。
【0068】
「ヘーズ(Haze)」は次のように定義される。多方向に拡散される光は、コントラストを失わせる。本明細書では「ヘーズ」を、光が通過する際に、入射ビームから平均して2.5度を超えてそれる光の割合、としてヘーズを定義するASTM D 1003に従って定義している。「ヘーズ」はByk Gardnerヘーズメータを用いて測定してもよい(本明細書では、全てのヘーズ値はこのようなヘーズメータで測定され、散乱光の割合として与えられる)。本明細書で使用している別の用語に「シート抵抗」がある。シート抵抗(RS)は、当技術分野においてよく知られている用語であり、本明細書内ではその周知の意味で使用されている。ここでは、単位面積当たりのオーム数として報告している。一般にこの用語は、層構造を流れる電流に対する、ガラス基板上の層構造の任意の単位面積当たりの抵抗を意味し、オーム単位で表す。シート抵抗は、層あるいは層構造が赤外線エネルギーをどれだけ反射しているかを示し、従って、この特性を測るための尺度として放射率とともに頻繁に使用されている。「シート抵抗」は、例として、4端子プローブオーム計、例えば、カリフォルニア州サンタクララのシグネトーン社(Signatone Corp.)製のモデルM−800にマグネトロン・インスツルメンツ社(Magnetron Instruments Corp.)のヘッドを付けた可欠4点端子抵抗率プローブを使用して簡便に測定することもできる。
【0069】
本明細書において「化学的耐久性」又は「化学的に耐久性のある」とは、当技術分野における「化学的耐性のある」又は「化学安定性」と同じ意味に用いられている。化学的耐久性は、コーティングした2インチx5インチ(約5.08cmx約12.7cm)又は2インチx2インチ(約5.08cmx約5.08cm)のガラス基板の試料を約36℃の4.05%のNaClと1.5%のH2O2を含んだ約500mlの溶液に20分間浸して測定されている。化学的耐久性は、下記のクリーブランドテスト(Cleveland test)又は気候室でも測定できる。
【0070】
[クリーブランド室の準備]
試料は、この実験用に4インチx12インチ(約10.16cmx約30.48cm)又は6インチx12インチ(約15.24cmx約30.48cm)に切断される。水は50℃±2℃に加熱され、室温は23℃±3℃(華氏73度±5度)に維持される。試料は、薄膜側を下に向けて温水槽の上に置かれる。試料は露出してから数分で濃縮水の厚い層で覆われる。時間の経過とともに、水は試料の表面を流れ落ちて試料上に新しい縮合物が形成される。試験の最初から最後まで試料の上に濃縮水が存在する。
【0071】
[気候室の準備]
試料は、この実験用に4インチx6インチ(約10.16cmx約15.24cm)に切断される。静的湿度試験のため、湿度は98%の相対湿度(RH)に保たれ、温度は1時間で45℃と55℃の間を周期的に変化する。
【0072】
[測定の実施]
試料は、1,3及び7日の露出の後に測定のために取り出される。ヘーズ、放射率及び薄膜側の反射率が測定される。
デルタヘーズは次式によって計算される:
デルタヘーズ = 試験後ヘーズ − 試験前ヘーズ
デルタEは次式によって計算される:
デルタE = (デルタL*^2+デルタa*^2+デルタb*^2)^1/2
ここで、デルタL,a*,b*は試験前測定値から試験後測定値を引いた値である。
放射率の変化の割合を計算するためには次式を使用されたい:
放射率の変化=(試験後E−試験前E)/(ガラスE−試験前E)
【0073】
本明細書において使用されている「引っかき耐久性」は次の試験により定義されている。この試験では、エリクセン494型ブラシ試験機及びスコッチブライト7448研磨材(SiC粒子を長方形パッドの繊維に接着して作られる)を使用し、試料に研磨材を押し付けるべく標準重量ブラシ又は改良ブラシ保持器が使用される。ブラシ又はブラシ保持器を用いて100から500回の乾燥あるいは湿潤行程を実施する。引っかきによる損傷は3つの方法、すなわち、放射率、膜側反射率のヘーズ及びEの変化によって測定される。この試験は、傷をよりはっきりさせるように浸漬試験又は熱処理と組合せることができる。試料に135グラムの荷重を加えた200回の乾燥行程により、良い結果が得られる。必要であれば、行程数を減らすこと、又はより細かい研磨剤を使用することができる。これはこの試験の利点の1つであり、試料間に必要な識別のレベルによって、荷重及び/又は行程数を調整できる。より良いランク付けのためにより厳しい試験を行うことができる。試験の再現性は、指定期間に亘って同じ膜の多くの試料について試験することによって調べることができる。
【0074】
本明細書における「熱処理」、「熱処理された」、及び「熱処理する」とは、ガラスを含有する物品の焼戻し、曲げ、又は熱処理を可能にするのに十分な温度までその物品を加熱することを意味する。この定義は、例えばコーティングされた物品を華氏約1100度(摂氏約593度)以上の温度(例えば、約550℃〜700℃の温度)に十分な期間加熱して、焼戻し、熱処理、又は曲げを可能にすることを含む。
【0075】
「太陽熱取得係数(又はSHGC)」(「g」)は、当技術分野においてよく知られており、入射日射量に対する窓機構を通る全太陽熱取得の尺度を意味する。
【0076】
別途記載がなければ、下記の用語は、本明細書において次の意味を持つものとする。
「Ag」 銀
「TiO2」 二酸化チタン
「NiCrOx」 酸化ニッケルと酸化クロムとを含む合金又は混合物。酸化状態は化学量論の状態(stoichiometric)から半化学量論の状態(substoichiometric)間で変動しうる。
「NiCr」 ニッケルとクロムとを含む合金又は混合物。
「SiAlNx」又は「SiNx」 反応性スパッタリングされた窒化ケイ素アルミニウム。通常、スパッタリング・ターゲットは1から20重量%のAlを含む。スパッタリング・ガスはAr、N2とO2の混合気体である。気体の混合状態及びスパッタリング力により、材料はより多くあるいはより少なく吸収する。
「SiAlNxOy」又は「SiNxOy」 反応性スパッタリングされたオキシ窒化ケイ素アルミニウム。通常、スパッタリング・ターゲットは1から20重量%のAlを含む。スパッタリング・ガスはAr、N2とO2の混合気体である。気体の混合状態及びスパッタリング力により、材料はより多くあるいはより少なく吸収する。
「ZnAlyOx」 反応性スパッタリングされたZn酸化アルミニウム。通常、スパッタリング・ターゲットは1から20重量%のAlを含む。スパッタリング・ガスはArとO2の混合気体である。
「ZnxSnyAlzOw」 反応性スパッタリングされた錫(アルミニウム)亜鉛酸化物。一般に、スパッタリング・ターゲットはAlドーピングを任意に加えた錫亜鉛合金である。錫亜鉛合金には、亜鉛を多く含んだものから錫を多く含んだものまで幅広く含まれる。スパッタリング・ガスはArとO2の混合気体である。
「Zr」 ジルコニウム
「光学膜(optical coating)」 基板に施された1つ以上のコーティングで、これらが合わさって該基板の光学特性に影響するコーティング
「低放射率積層」 1つ以上の層から成る低熱放射率光学コーティングが施された透明基板
「バリア」 プロセス中に他の層、特に熱反射銀層を保護するために付着された層である。上の層の接着を改善する場合があり、プロセス後、存在する場合も存在しない場合もある。
「層」 ある機能と化学組成を有する厚みを持った物質であり、該物質の各面において異なる機能及び/又は化学組成を有する別の厚みを持った物質と境界をなしている。付着された層は、プロセス中の反応によりそのプロセス後、存在する場合も存在しない場合もある。「層」は、本明細書で用いる場合、片面が空気又は大気との境界をなす厚みを持った物質(例えば、コーティング積層の一番上の層又は保護オーバーコート層、又は積層中の他の層の上にあるもの)を含むものとする。
「同時スパッタリング」 2つ以上の異なる物質から成る2つ以上の別のスパッタリング・ターゲットから基板に同時にスパッタリングすること。結果として付着されたコーティングは、該異なる物質の反応生成物又は該ターゲット物質の未反応混合物又はその両方から成る場合もある。
「金属間化合物(Intermetallic compound)」 特定の化学量論的分量の2つ以上の金属元素から成る合金系の特定相。金属元素は、電子又は格子間結合されて、どちらかといえば標準的な合金に典型的な固溶体として存在している。金属間化合物は、しばしば、元素成分とは明らかに異なる性質を有し、特に硬さ又はもろさが増す。増加した硬さにより、ほとんどの標準的な金属又は合金に勝る引っかき耐性を持つ。
「機械的耐久性」 この用語は、(別途記載がない限り)ナイロンブラシ(注文番号0068.02.32、ブラシ重量は450グラム、一本一本の毛の直径は0.3mm、毛は直径4mmのまとまりにして配置されている)を使用してエリクセンブラシ試験機(494型)で実施される湿潤ブラシ耐久性試験を意味する。この試験では1000行程(ここでの1行程はブラシの1往復動から成る1周期と等しい)実施される。試料のコーティング側をブラシがけ処理し、このブラシがけ処理の際に脱イオン水に浸漬させる。
【0077】
種々の実施形態において、本発明による低放射率積層は、以下の独立した特性を示す。透過Yは約30から約62、好適には約35から約55、最も好適には約40から約50、負の透過a*値、最も好適には約−1から約−6、望ましくは負のb*値、最も好適には約0から約−6、RgYは約8から約20、より好適には約10から約18、最も好適には約11から約17、負のRga*値、最も好適には約−1から約−7、望ましくは負のRgb*値、最も好適には約−1から約−7、RfYは約2と約12の間、より好適には約2から約10、そして最も好適には約2から約8の間、負のRfa*、最も好適には約−2から約−20、望ましくはRfb*は約−10から約+10、最も好適には約−6から約+6、さらに、SHGCは約0.10から0.30、最大で0.34、より好適には約0.15から約0.28、最も好適には約0.20から約0.25である。
【0078】
本発明を詳細に説明するために、以下の非限定的な実施例を示す。
【0079】
<実施例1>
図4に示すように、本実施例において:ガラス/12nmの酸化物/10nmのAg/2nmのNiCrOX/4nmのNiCr/72nmの酸化物/13nmのAg/2nmのNiCrOX/3nmのNiCr/23nmの酸化物/7nmのSiN、の構成を有する積層を形成すべく、ガラス基板上に低放射率コーティングが付着されている。酸化物は、Ti、Zn、Sn、ZnSn合金、またはBiターゲットからスパッタリングできる。酸化物はNb2O5を含むこともできる。塗工機ターゲットに伝導性を与えるように、酸化物は20重量%までの、好適には10重量%までの、例えば、Al又はBといった元素、あるいは類似の元素を含む場合もある。SiNトップコートは任意である。この例示的なコーティングは、a*及びb*が負で魅力的な透過色を有する。SHGCは0.30より小さい。コーティングは、良好な機械的及び化学的耐久性を有する。
【0080】
<実施例2>
本実施例において:約1/8インチ(約0.32cm)のガラス/0から15nmの誘電体/2から10nmの核生成層/8から15nmのAg/0.1から4nmのバリア/0.2から8nmの吸収層/40から75nmの誘電体/2から10nmの核生成層/8から18nmのAg/0.1から4nmのバリア/0.2から8nmの吸収層/10から40nmの誘電体/トップコート、の構成を有する積層を形成すべく、ガラス基板上に低放射率コーティングが付着されている。誘電体は、Si、SiAl、SiB又はSiZrの酸化物(実施例1と同様に)又は窒化物又はオキシ窒化物であってもよく、塗工機ターゲットに伝導性を与えるように、20重量%までの、好適には10重量%までの、例えば、Al又はB等の元素を含む場合もある。核生成層は、Ag層の性質を改善し、一般的には、亜鉛酸化物をベースにして15重量%までの、例えば、Al又はSnといった他の元素、又はこれらの組み合わせを含む場合もある。
【0081】
バリアは、誘電体をその上にスパッタリングする際にAgをプラズマの腐食から保護する。またバリアは、O2、O、H2O及びNa+等攻撃的な化学種の拡散を制御することによって化学的耐久性を向上させる。好適なバリアには、NiCr、NiCrOx、NiCrNxOy、TiOx、Ti及び他の金属を含むがこれらに限定されない。
【0082】
前述のように、トップコートは任意である。トップコートが含まれている場合、化学的及び機械的安定性に良い影響を与えることができる。好適なトップコートには、C、ZrSi又はケイ化物が含まれるがこれらに限定されない。通常、トップコートは下にある誘電体と比べて対照的な性質を有する。誘電体が酸化物の場合、トップコートは上述の材料の一つ又は窒化物又はオキシ窒化物(例えば、SiN又はSiXAlyNzOc)であろう。別の場合では、誘電体が窒化物又はオキシ窒化物のとき、トップコートは有利には、例えば、ZrO2、ZrSiO2、SnO2、ZrOxNy又はTiO2等の酸化物であってもよいが、これらに限定されない。
【0083】
<実施例3>
本実施例において:約1/8インチ(約0.32cm)厚のガラス/3から15nmのSiAlxNyOw/3から10nmのZnAlyOx/8から12nmのAg/1から4nmのNiCrOX/1.5から3.0nmのNiCr/55から65nmのSiAlxNyOw/3から10nmのZnAlyOx/10から15nmのAg/1から4nmのNiCrOX/0.7から2.2nmのNiCr/24から32nmのSiAlxNyOw/任意のトップコート、の構成を有する積層を形成すべく、ガラス基板上に低放射率コーティングが付着されている。トップコートが含まれている場合、トップコートは1から5nmのC、1から10nmのZrO2又はZrSiO2から選択できるが、これらに限定されない。本実施例におけるコーティングは、断熱ガラスユニット上で測定したとき、約42%から約46%の光透過率、約0.30より小さいSHGCを示し、透過色は灰色で緑から青い色合いに調整可能となっている。断熱ガラスユニットは、2の位置にコーティングのある1/8インチ(約0.32cm)のコーティングされたガラスと、1/2インチ(約1.27cm)の間隔をあけて1/8インチ(約0.32cm)の透明ガラスを含む。コーティングは、改良された化学的及び機械的耐久性を有する。本実施例の二層NiCrOX/NiCrは、求められている性質を得るために有益である。NiCrが特定の位置にあるため、低放射率コーティングへの用途を主たる目的とした既存の塗工機でコーティングを製造できる。該塗工機では、NiCrスパッタリング・ターゲットを特別に隔離する必要がない。上記にて例示した積層に見られる性質の一覧を下記の表に示す。
【表3】
【0084】
<実施例4>
本実施例は、本発明による、厚さデータを伴う、焼き戻しされていない好適なコーティングの代表例である。厚さは、デックタック・プロフィルメータ(DekTak Profilometer)を用いて測定した。厚さを測定する際に、積層全体の初期厚さを測定した。続いて、最上層を塗工機内で施削して、一番上のSiAlOyNx層を差し引いた積層の厚さを測定した。各層を1層ずつ施削して、最後に一番下のSiAlOyNxだけを測定するまで、これを繰り返した。測定値の誤差は約±0.5nmである。
【表4】
【0085】
<実施例5>
本実施例は、本発明の実施形態による炭素トップコートを含む、焼戻し可能な好適なコーティングの代表例である。厚さは上記実施例4と同様にデックタック・プロフィルメータを用いて測定した。これらの測定では、一番上のSiAlOxNyと炭素トップコートの厚さを分けなかった。炭素の厚さは約5nmと推定されており、このため一番上のSiAlOxNy層の厚さは約33nmとなる。
【表5】
【0086】
<実施例6>
下記の表は、本発明の実施形態によるコーティングの光学的及び電気的測定値の代表例である。「low−g A」製品は、加熱処理されていない焼きなましされた製品である。「low−g T」製品は焼戻し可能な製品であり、本発明によるトップコートを含む。「BB」とは、焼き戻し前の測定値を表し、「AB」とは、焼き戻し後の測定値を表す。「N/A」とは、この特定の実施例の生成の際に測定値が得られなかったことを意味する。
【表6】
【0087】
<実施例7>
本実施例は、本発明による様々なコーティングの仕様の概要を示す。本発明による好適な、焼き戻しされていない及び焼戻し可能なコーティングの光学的及び電気的な性質は、以下の表に示す仕様の範囲に含まれる。
【表7】
【0088】
<実施例8>
本実施例は本発明によるコーティングを有する基板を示す。前述のように、任意の炭素トップコート(図示せず)は、焼き戻し又は熱処理を受けることを意図した実施形態において使用されることができ、望ましくは厚さが約3nm乃至約5nmである。任意のトップコートは、望ましくは焼き戻し又は熱処理を受けることを意図しない実施形態には含まれない。かかる実施形態を、本願では「焼きなましされた」と呼ぶものとする。以下に示す例示的な実施形態の層厚はおおよそのものである。誘電体層及びAg層に関する精度は、約±20%の範囲である。NiCr層の厚さは、プラス200%、マイナス20%でありうる。焼きなましされたコーティングでは、ZnAlOx層は、一般的にはより薄く、以下の表に示す値の60%程度の低さでありうる。
【表8】
【0089】
表に示す材料の説明は以下の通りである。
SiAlOxNy − 本実施例により表される実施形態では、この材料は、シリコン/10重量パーセントアルミニウムの回転可能なカソードから反応性スパッタリングされる。反応性ガスは、約90%窒素流及び10%酸素である。この材料は、一番下、中央、及び一番上の一次誘電層に使用される。化学量論変化は、層ごとに、また連続生産量(production run)ごとに生じうるが、本実施例におけるSiAlOxNyは全て半化学量論的である。スパッタリング・ガス中には、SiAlが完全に反応したオキシ窒化物に達するには不十分な窒素及び酸素が存在する。層における原子比率は、約Si4O0.4N5である。
ZnAlOx − 本実施例により表される実施形態では、この材料は、亜鉛/1.5重量パーセントアルミニウムの回転可能な又はプレーナ型のカソードから反応性スパッタリングされる。スパッタリング・ガスは、アルゴンと、酸化物が完全に酸化した状態で付着するのに十分な酸素とからなる。この層は、銀のための核生成層として機能し、低放射率に関する特許文献に共通に記載されたかかる層と一致している。
Ag − 本実施例により表される実施形態では、銀の層は、純粋なアルゴン中でスパッタリングされてもよく、あるいは少量の酸素が加えられてもよい。酸素は、焼き戻しする場合には機械的な耐久性を高めるが、必ずしも必要ではない。
NiCr − 本実施例により表される実施形態では、この薄い、銀の上にスパッタリングされた保護又はバリア層は、DCプレーナ型ターゲットから付着し、アルゴンのみの中においてスパッタリングされる。本実施例では、これらの層は、近傍のカソードからのガス・クロストークといった意図しない不純物を除き、完全に金属である。
炭素 − 例示的な実施形態の焼戻し可能な例は、3乃至5nmの厚さのスパッタリングされた炭素トップコートを、アルゴン中でDCマグネトロン・スパッタリングされる一番外側の層として利用する。
【0090】
本例では、全ての材料についてのガス分布は機械の方向において対称である。機械を横切る方向では、反応性の材料のためのガス流は、機械を横切る方向の不均一性を調整するよう変更されうる。
【0091】
本願に記載の様々な実施形態においては、一番上のAg層が一番下のAg層よりも厚く、一番下の吸収バリア層が一番上の吸収バリア層よりも厚いことが望ましい。(本実施例では、吸収バリア層は、NiCrであるが、上述のように、他の実施形態ではそのような層にNiCrOxを利用する)。このような逆転した厚さ比は、積層の好ましい色を達成する上で有利である。一番下の誘電体層(本実施例ではSiAlOxNy)は、中央の誘電体層及び一番下の誘電体層よりも厚いことが望ましい。このような形態は同様に、好ましい色を実現する上で有利である。更に、一番下の核生成層(本実施例ではZnAlOx)が一番上の核生成層よりも厚いことが望ましい。このような形態は、改善された機械的及び化学的な耐久性を提供する。好適な実施形態では、積層の層の比率は、一般的に以下の範囲内となる。
一番下のAg/一番上のAg:約0.8乃至約1.0
一番下のNiCr/一番上のNiCr:約1.2乃至約2.0
一番下のZnAlOx/一番上のZnAlOx:約1.2乃至約2.0
一番下のSiAlOxNy/一番上のSiAlOxNy:約0.4乃至約0.8
中間のSiAlOxNy/一番上のSiAlOxNy:約1.5乃至約2.5。
【0092】
一番上の誘電体が、一番下又は中間の誘電体のいずれかよりも低い屈折率を有することが更に有利である。好ましい範囲は、以下のものを含む。
一番上の屈折率:約1.8乃至約2.3
一番下又は中間:約2.0乃至2.5。
【0093】
本実施例は、以下の色及び日射性能を示す。
【表9】
【0094】
「NC Rs」は、非接触表面抵抗を表し、オーム/スクエアの単位で測定される。焼き戻しされる実施形態では、焼戻し色ずれ、即ち、ΔEは、ガラス側反射色については3よりも大きい。これは、炭素層が焼けてなくなったことによる。
【0095】
<実施例9>
【表10】
【0096】
本実施例は、本発明によるコーティングを有する基板を表す。上述のように、任意の炭素トップコート(図示せず)は、焼き戻し又は熱処理を受けることを意図した実施形態において使用されることができ、望ましくは厚さが約3nm乃至約5nmである。任意のトップコートは、望ましくは焼き戻し又は熱処理を受けることを意図しない実施形態には含まれない。かかる実施形態を、本願では「焼きなましされた」と呼ぶものとする。以下の表に示す実施形態についての層厚はおおよそのものである。
【0097】
例示された実施形態について、厚さの測定は、デックタック・プロフィルメータ(DekTak Profilometer)を用いて行われた。全積層厚さを得るため、インクの線を伴うスライドを積層全体で覆った。一番下のSiAlOyNxだけが存在するまで1層ずつ一番上の材料のカソードを施削することにより、追加的な試料が調製された。インクの線は、イソプロピル・アルコールによって除去され、結果として得られるステップをデックタックで測定した。個々の層厚を、下にある残る積層の厚さを差し引くことにより計算した。従って、個々の層は、それらの下にある層の精度により影響を受ける。誘電体(SiAlOxNy)及び銀(Ag)の精度は、±20%の範囲にある。NiCrOx層の厚さの範囲は、±100%である。本発明による焼きなましされた実施形態は、焼き戻しされるものよりも薄い一番下のZnAlOxを有する傾向がある。
【0098】
例示される実施形態において示された材料の説明は、以下の通りである。
SiAlOxNy − 本実施例により表される実施形態では、この材料は、シリコン/10重量パーセントアルミニウムの回転可能なカソードから反応性スパッタリングされる。反応ガスは、約90%窒素流及び10%酸素である。この材料は、一番下、中央、及び一番上の一次誘電層に使用される。
ZnAlOx − 本実施例により表される実施形態では、この材料は、亜鉛/1.5重量パーセントアルミニウムの回転可能な又はプレーナ型のカソードから反応性スパッタリングされる。スパッタリング・ガスは、アルゴンと、酸化物が完全に酸化した状態で付着するのに十分な酸素とからなる。この層は、銀のための核生成層として機能し、低放射率に関する特許文献に共通に記載されたかかる層と一致している。
Ag − 本実施例により表される実施形態では、銀の層は、純粋なアルゴン中でスパッタリングされてもよく、あるいは少量の酸素が加えられてもよい。酸素は、焼き戻しする場合に機械的な耐久性に役立つ。
NiCrOx − 本実施例により表される実施形態では、この薄い、銀の上にスパッタリングされた保護又はバリア層は、プレーナ型ターゲットから付着し、アルゴンと酸素の混合の中においてスパッタリングされる。酸素流に対する電力(sccm)は、スパッタリングされたNiCrOxにおける酸化を推定するのに使用される方法である。完全に酸化したNiCrOxに用いられる比率は、10:1である。ここで例示されている実施形態による好適なコーティングに用いられる比率は、7.5:1乃至8.0:1である。
炭素 − 例示的な実施形態の焼戻し可能な例は、3乃至5nmの厚さのスパッタリングされた炭素トップコートを一番外側の層として利用する。この材料は、アルゴン中でDCマグネトロン・スパッタリングされる。
【0099】
本実施例では、全ての材料についてのガス分布は機械の方向において対称である。機械を横切る方向では、反応性の材料についてのガス流は、機械を横切る方向の不均一性を調整するよう変更されうる。
【0100】
本実施例は、以下の光学的特徴を示す。
【表11】
【0101】
本実施例は、以下の色及び日射性能を示す。
【表12】
【0102】
「NC Rs」は、非接触表面抵抗を表し、オーム/スクエアの単位で測定される。
【0103】
焼き戻しされる実施形態では、ΔEは、以下の通りである。
・透過について6色単位
・ガラス側反射について10色単位
・膜側反射について14色単位
色ずれは、炭素層が焼けてなくなったことによる。
【0104】
<実施例10>
本実施例は、以下の構造を有するコーティングを含み、NiCr層において2:1の酸素:kw比を用いる。
【表13】
【0105】
連続生産量データは、以下の表によって与えられる。
【表14】
【0106】
<実施例11>
本実施例では、本発明によるコーティングの焼きなまししたものが提供される。積層構造と特性の説明は、以下の表に含まれている。例示的な実施形態では、NiCrOxを含む吸収バリア層が用いられる。
【表15】
【表16】
【表17】
【表18】
【0107】
<実施例12>
本実施例では、本発明によるコーティングの焼戻し可能なものが提供される。積層構造と特性の説明は、以下の表に含まれている。例示的な実施形態では、NiCrOxを含む吸収バリア層が用いられる。
【表19】
【表20】
【表21】
【表22】
【0108】
本発明は特定の実施形態について説明されているが、本明細書内に記載の特定の詳細に限定されるものではなく、むしろ当業者に種々の変更および改良を示唆するものも含み、これらはすべて特許請求の範囲に規定する本発明の範囲に含まれる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、全般的には低放射率(「low−e」)コーティングに関し、特に、低太陽熱取得係数(SHGC)(「low−g」)を有するコーティング、さらに、維持されたあるいは優れた機械的及び化学的耐久性を有するコーティングに関する。
【背景技術】
【0002】
同時係属中の米国特許出願第11/648,913号、米国特許出願第11/431,915号、米国仮特許出願第60/680,008号、米国仮特許出願第60/736,876号、及び米国仮特許出願第60/750,782号を含め、本願において参照する全ての米国特許及び米国特許出願の全体を参照によって本願に援用する。矛盾がある場合は、定義を含め、本願の内容が優先する。
【0003】
透明パネルまたは基板上の日射制御コーティングは、赤外線(IR)を阻止しつつ可視光が透過するように設計されている。例えば、建築用ガラス及び自動車の窓に、高可視透過率、低放射率のコーティングを適用することによって、冷暖房費等の環境管理関連コストの大幅な削減がもたらされうる。
【0004】
一般に、高い可視透過率及び低放射率を提供するコーティングは、概して透明な基板と光学コーティングを含む積層から成る。積層は、反射防止誘電体層間に配置された、高い赤外線反射率及び低透過率を有する1つ以上の金属薄層を含む。これらの仕組みは輻射熱を反射し、太陽熱だけでなく冷気も遮断する。今日使用されているほとんどの低放射率積層は、透明な誘電体を基礎にしている。一般に誘電体層の厚さは、光透過率が高く(>60%)なるように内側及び外側の反射率を減らすべく調整されている。赤外線反射金属層は、例えば、銀、銅あるいは金など事実上どのような反射金属であってもよい。銀(Ag)はどちらかといえば中間色であるため、本用途に最もよく使用される。反射防止誘電体層は、可視透過率を向上させるために選ばれる一般的には透明な材料である。
【0005】
従来の低放射率コーティングは、通常、コーティングが「中間」色を有するよう、つまり、実質的に無色となるように、可視スペクトル全体にわたって比較的一定の反射を維持しようとする。しかしながら、従来の低放射率コーティングは、特定の用途において美しさ及び他の理由のために必要とされている反射色の極限をもたらすことができない。
【0006】
コーティングした基板で所望の特性を得るためには、多層コーティングの各層の組成及び厚さを慎重に選ばなければならない。例えば、Ag等の赤外線反射層の厚さを慎重に選ばなければならない。Ag層の放射率は、Agシート抵抗の低下と共に減少する傾向があることはよく知られている。このため、低放射率のAg層を得るためには、Ag層のシート抵抗はなるべく小さい方がよい。しかしながら、Ag層の厚さを増やすことは可視透過率をも低下させ、結果として、一般に好ましくない色となりうる。シート抵抗及び放射率を増やすことなくAg層厚を減らして可視透過率を上昇させ得ることが望ましい。
【0007】
Agから成る薄くて透明な金属層は、湿潤な条件下において、例えば、大気によって運ばれる塩化物、硫化物、二酸化硫黄等、種々の腐食性物質と接すると腐食しやすい。Ag層を保護するために種々のバリア層をAg上に付着できる。しかしながら、従来のバリア層による保護では不十分なことが多い。
【0008】
コーティングされたガラスは、コーティングが高い温度に曝される多くの用途に使用される。例えば、自浄式調理用オーブンのガラス窓のコーティングは、洗浄サイクル中に例えば480℃に頻繁に急上昇することを伴って、120から230℃の調理温度まで繰り返し上昇される。さらに、コーティングされたガラスを焼き戻しする際あるいは曲げる際には、コーティングもガラスと共に最長で数分間、約600℃以上程度の温度まで加熱される。これらの熱処理はAgコーティングの光学特性を不可逆的に劣化させる可能性がある。この劣化は、Agの上下層にわたって拡散する酸素によるAgの酸化によって生じることがある。劣化は、Agと、ガラスから移動する例えばナトリウム(Na+)等のアルカリイオンとの反応によっても生じることがある。酸素又はアルカリイオンの拡散は、Agの上下の誘電体層の劣化又は構造的変化によって促進及び拡大することがある。コーティングはこれらの高い温度に耐えることができなくてはならない。しかしながら、これまで知られているAgを赤外線反射薄膜として採用している多層コーティングは、多くの場合、Ag薄膜の劣化なしにこのような温度に耐えることができない。
【0009】
低放射率コーティングについては、特許文献1及び特許文献2に開示されている。真空蒸着された銀を含む低放射率コーティングは、開口部用建材市場において現在市販されている。
【0010】
特許文献2には易酸化性金属を、焼戻し可能(temperable)な低放射率コーティングの保護に有用な、ヘーズ低減トップコートとして使用することが記載されている。この特許は600℃を超える温度に曝した場合に生じるヘーズを低減する方法に関する。
【0011】
コーティングされた物品の特性を向上させるために金属膜、金属合金膜、及び金属酸化物コーティングが低放射率銀コーティング上に施されてきた。特許文献2は、ガラス基板上に施された全層のうちの最外層として付着された金属又は金属合金層を開示している。この金属又は金属合金層は、酸化して反射防止コーティングとして作用する。特許文献1は、金属酸化物層を反射防止層として付着させる方法を開示している。銀層を反射防止層の間に挟むことで、光の透過率を最適化する。
【0012】
都合の悪いことに、光学膜は、輸送及び取扱い中に引っかき及び腐食環境への露出によりしばしば損傷を受ける。金属薄膜層は、特に引っかき損傷を受け易いことは周知である。銀を基とした低放射率コーティングは、腐食による不具合の影響を特に受けやすい。今日使用されているほとんどの低放射率積層は、これらの不具合を軽減するために低放射率薄積層の中あるいは上のどこかにバリア層を利用する。薄いバリアは、一般的には、銀層の、水蒸気、酸素又は他の液体による腐食を低減するように機能する。中には、低放射率積層の硬度により、あるいは、外層を形成する場合は摩擦を減らすことにより、物理的な引っかきによる損傷を緩和するものもある。
【0013】
強烈な太陽光の負荷を受ける地域だけでなく準砂漠地帯でも、現在の高透過低放射率製品は既に利益をもたらしているが、これらの低放射率製品を使用している家屋及び建物内での温度的な及び視覚的な快適性を最大限に高めるには、熱及び光の負荷は未だに大きすぎる。
【0014】
少数の低光透過率を有する低放射率積層を入手できるが、通常、これらの製品は以下の欠点、すなわち、美的な魅力を損ねる高反射率、又は熱負荷の制御に不適当とする高い日射遮蔽係数、の少なくとも1つを持つ。
【0015】
ごく少数の市販の低放射率製品が、所望の光学的特性及び日射遮蔽係数を合わせ持つ。これらの特性を有する製品を、加工及び製造にふさわしくするためには、依然としてさらなる改良を必要とする。さらに、これらの低放射率コーティングは、保管及び断熱ガラスユニットへ加工する際に特別な注意を必要とする軟質コーティングである。このようなコーティングの現在の機械的及び化学的耐久性を向上させることが望ましい。
【0016】
異なる設計の積層を一つの塗工機で製造する時、これら異なる設計における設定条件は必ずしも共通しているわけではないためにしばしば問題となる。中断時間及び塗工機の配置を変更することなく、1台の塗工機で同時に製造できる異なるコーティングを提供することが望ましい。
【0017】
さらに、安全上の理由で、機械的な強度を高め、破損の際に裂傷を負わないように、今ではより多くのガラスが熱処理されている。これは特に低SHGC製品について言える。コーティングによるエネルギー吸収が増加すると、その一部が太陽の放射に曝されて、もう一部が陰にあるとき、採光窓の潜在熱応力が増加する。通常の低放射率コーティングは熱強化あるいは焼き戻しに耐えるようには設計されていない。このような条件は、コーティングを完全に破損し、美的な魅力を台無しにし、これを使用不能とすることがある。
【0018】
このように、先行技術で見られる種々の問題を克服する低放射率コーティング積層(及びその製造方法)の必要性が依然として残る。特に、維持されたあるいは高められた魅力的な外観、機械的及び/又は化学的耐久性を示し、また、所望であれば焼き戻し又は熱強化されうる、低太陽熱取得係数を有する低放射率積層が必要とされている。さらに、専用の非標準型塗工機が無くても施すことのできる積層が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】米国特許第4,749,397号明細書
【特許文献2】米国特許第4,995,895号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、従来の低放射率コーティングに関連した問題を解決するために、低太陽熱取得係数(つまり、low−g積層)を有し、魅力的な外観の、さらに通常の低放射率積層と同等あるいはより優れた化学的及び機械的耐久性を有する積層をもたらす改良されたコーティングを提供する。さらに、本発明は、標準的な製造方法に対応した製品を提供する。具体的には、例えば、標準塗工機からlow−g塗工機への移行の際には、塗工機のガス抜きあるいは配置変更を必要としない。さらに、驚くことに、本発明の実施形態によってコーティングされたガラス基板は、焼き戻しあるいは熱処理により積層の層又はコーティングされた基板の光学的な質の劣化を生じることなく、また、低放射率コーティングに関連してかかる処理が用いられる場合において通常見られる他の不都合を生じることなく、焼き戻しあるいは熱処理されうる。
【0021】
本発明は、本技術分野において知られている低放射率積層に見られる不都合を、少なくとも1つの薄い吸収層を導入してかかる積層の吸収を増加させることによって、又は、バリア層といった他の層の吸収を増加させることによって取り除く。積層の吸収を増加させるためのこのような技術は、光反射率を増加させることなく総光透過率を低減させる。このような光反射率の増加は、特に建物の内側を向いている窓ガラスで生ずる場合にしばしば問題となる。
【課題を解決するための手段】
【0022】
吸収材の適切な選択によりコーティングされたガラスの透過色を制御できる。実施形態では、吸収層は、赤外線反射層を保護するバリア層と、覆っている誘電体との間に挿入されうる。他の実施形態では、同様の結果を得るために、バリア層自体をより吸収性の高いものにすることができる。かかる実施形態では、バリア層は、従って、バリア層と吸収層のいずれとしても機能を果たし、本願では「吸収バリア」層と称するものとする。赤外線反射層は、好ましくは銀(Ag)であるが、例えば銅又は金であるがこれらに限定されるものではない任意の反射材でありうる。従って、本発明の一態様は、基板上に低放射率コーティングを提供し、コーティングは基板から外向きに順に、第1の誘電体層、第1の赤外線反射層、第1の吸収バリア層、第2の誘電体層、第2の赤外線反射層、第2の吸収バリア層、第3の誘電体層、及び、任意にトップコート層を含む。任意のトップコート層は、焼き戻し又は熱処理を受ける実施形態において使用される。好ましい実施形態では、一方又は双方の赤外線反射層の下に核生成層がある。好ましい実施形態は上述の積層形態を含むが、本発明はまた、2層以上ではなく、単一の赤外線反射層を有するコーティングを提供する。従って、かかる実施形態は、第1の誘電体層、任意に核生成層、赤外線反射層、吸収バリア層、第2の誘電体層、及び、任意にトップコート層を含む。本発明によるコーティングは、基板上に層を付着させることによって形成される。好適な製造方法は、マグネトロン・スパッタリングによる付着を含む。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明による、低SHGC、および、優れた機械的及び/又は化学的耐久性を示し、美的に魅力のある低放射率積層の実施形態を示す図である。
【図2】本発明による、低SHGC、および、優れた機械的及び/又は化学的耐久性を示し、美的に魅力のある、Ag層の特性を改善するための核生成層を含む低放射率積層の別の実施形態を示す図である。
【図3】本発明による、低SHGC、および、優れた機械的及び/又は化学的耐久性を示し、美的に魅力のある低放射率積層のさらに別の実施形態を示す図である。
【図4】本発明による、低SHGC、および、優れた機械的及び/又は化学的耐久性を示し、美的に魅力のある低放射率積層のさらなる実施形態を示す図である。
【図5】2枚のガラス基板、ポリビニルブチラール層(PVB)及び本発明によるコーティングを含む自動車又は他の車両に使用するための低放射率積層の実施形態を示す図である。
【図6A】本発明によるlow-g吸収材としての使用に適している典型的な材料についての光学定数データを示す。図6Aは、屈折率(n)に関するデータを示す図である。
【図6B】本発明によるlow-g吸収材としての使用に適している典型的な材料についての光学定数データを示す。図6Bは、吸光係数(k)に関するデータを示す図である。
【図7】SiAlOxNyの2つの化学量論状態について、屈折率及び吸光係数のデータをグラフ化して示す図である。
【図8】本発明によるlow-g積層内のSiAlOxNyについての好適なn及びk値データをグラフ化して示す図である。
【図9】本発明による、低SHGC、および、優れた機械的及び/又は化学的耐久性を示し、美的に魅力のある低放射率積層の他の実施形態を示す図である。
【図10】本発明による低SHGC、および、優れた機械的及び/又は化学的耐久性を示し、美的に魅力のある低放射率積層のさらなる実施形態を示す図である。
【図11】本発明による低SHGC、および、優れた機械的及び/又は化学的耐久性を示し、美的に魅力のある低放射率積層の実施形態を示す図である。
【図12】本発明による低SHGC、および、優れた機械的及び/又は化学的耐久性を示し、美的に魅力のある、Ag層の特性を改善するための核生成層を含む低放射率積層の他の実施形態を示す図である。
【図13】本発明による低SHGC、および、優れた機械的及び/又は化学的耐久性を示し、美的に魅力のある低放射率積層のさらなる実施形態を示す図である。
【図14】本発明による低SHGC、および、優れた機械的及び/又は化学的耐久性を示し、美的に魅力のある低放射率積層のさらに他の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
下記の詳細な説明において、本発明を実施することもできる種々の具体的な実施形態に言及している。これらの実施形態は、当業者が本発明を実施できるように十分詳細に記載されており、他の実施形態を採用する場合もあると理解され、本発明の精神または範囲から逸脱することなく構造的及び当然の変更もできる。
【0025】
本発明は、低太陽熱取得係数(SHGC)を有し、美的に魅力のある、一般的な低放射率積層と同等あるいはより優れた化学的及び機械的耐久性を有する低放射率積層をもたらす改良されたコーティングを提供する。さらに、本発明は標準的な製造方法に対応した製品を提供する。具体的には、特に、標準塗工機からlow−g塗工機への移行の際には、塗工機のガス抜きあるいは他の配置変更を必要としない。さらに、驚くことに、本発明の実施形態によってコーティングされたガラス基板は、低放射率コーティングに関連して使用されている場合において通常見られるような不都合がなく、焼き戻しあるいは熱処理できる。
【0026】
実施形態では、本発明は、低放射率積層の所望の性質を、少なくとも1つの薄い吸収層を導入してかかる積層の吸収を増加させることによって、又は、バリア層といった他の層の吸収を増加させること(それによって「吸収バリア」層を生じさせること)によって達成する。積層の吸収を増加させるためのこのような技術は、光反射率を増加させることなく、総光透過率を減らす。増加した反射率は、特に建物の内側を向いている窓ガラスでの場合にはしばしば問題となる。焼き戻しに対する耐性は、誘電体又は吸収バリア層の厚さを、または吸収バリア層の性質を調整することによって向上させることができる。
【0027】
本発明の一態様は、少なくとも1つの吸収層を備えているコーティングを基板上に含んでいる低放射率積層を提供する。吸収層は、バリア層に加えて存在する層でありうる。或いは、バリア層は、吸収層としても動作するよう変更されてもよく、それにより吸収バリア層となり、別個の吸収層とバリア層の必要性がなくなる。低放射率積層は、約0.34より小さい、好適には約0.31より小さい、太陽熱取得係数(SHGC)を特徴とする。いくつかの実施形態において、低放射率積層は、約0.22から約0.25のSHGCを特徴とする。種々の実施形態において、積層は約42%から約46%の光透過率を有する。本願に記載するいくつかの実施形態では、光透過率は、最大で約62%程度でありうる。焼き戻しの際に、透過率は約1%から8%上昇する。幾つかの実施形態において、積層は負のa*及び負のb*で有する透過色を有する。他の実施形態では、積層は負のa*及び正のb*を有する透過色を有する。
【0028】
一態様によれば、本発明は基板上に低放射率コーティングを提供し、コーティングは、基板から外向きに順に、第1の誘電体層、第1の赤外線反射層、第1の吸収バリア層、第2の誘電体層、第2の赤外線反射層、第2の吸収バリア層、第3の誘電体層、及び任意のトップコートを含む。第1の吸収バリア層または第2の吸収バリア層のいずれかは任意である。つまりこのような層を2つは必要としない。任意のトップコート層は、焼き戻し又は熱処理を受ける実施形態において使用される。好ましい実施形態では、一つ以上の赤外線反射層の下に核生成層がある。
【0029】
基板はガラス製であることが好ましい。好適な実施形態では、2つの赤外線反射層はAg層であり、約80%以上のAg1/Ag2比を有し、バランスが取れている。しかしながら、別の実施形態では、比は50%まで低い場合がある。偏りのないAg層を有することは、特に製造の観点において、あらゆる利点をもたらす。2つのターゲットがほぼ同じ割合で腐食するため、キャンペーン期間を最長にできる。第2のAg層(Ag2)が第1のそれ(Ag1)より厚い場合、例えば、塗工機はキャンペーン期間の早い時期にガス抜きを必要とし、これは製造費にかなり悪い影響を及ぼす。上述のように、本発明は、2つ以上のAg層ではなく、1つのAg層を有するコーティングを提供する。
【0030】
吸収層は、別の層として存在するときは、Ag層を保護するバリアと、覆っている誘電体との間に挿入されることが望ましい。吸収材は、金属、合金、ケイ化物、吸収酸化物、吸収性灰色金属、窒化物、又はその他所望の効果が得られる適切な材料を含むことができる。好適な材料には、Ti、TiN、Si、NiCr、NiCrOx、Cr、Zr、Mo、W及びZrSi、ニッケル又はクロム合金、並びに、遷移金属、これらの窒化物、亜窒化物及び亜酸化物、並びに、ケイ化物及びアルミニウム化合物を含みうるがこれらに限定されない。好適な焼戻し可能及び焼戻し可能でない実施形態では、吸収材はNiCrを含む。焼き戻しを行わない実施形態においては、Tiもまた吸収材として効果がある。
【0031】
当業者は、吸収材の適切な選択によりコーティングされたガラスの透過色を制御できる。中間色(a*及びb*が負であり、バランスの取れたものが好ましい。最低必要条件は、透過率及びガラス側反射率のため、負のa*値、及び、b*値が+2よりも小さいことである)は、より濃い緑がかったあるいは黄色がかった色合いよりも美的に魅力がある。中間透過色は、ガラスを収容している断熱ガラスユニット(IGU)の正しい演色を最高にするために非常に好ましい。本発明は、所望であれば、青色がかった色合いを得ることを可能とする。
【0032】
従って、low−g設計における特定の材料は、低放射率コーティングの透過率を下げること及び積層の色を所望の色に調整できることがわかっている。焼戻し可能なコーティングの場合、好適な材料はまた薄膜積層内で熱的に安定している。上述の吸収材の代わりに、その他多くの材料を使用できる。このような材料は、この透過率低下機能を実現するのに適した屈折率(n)及び吸光係数(k)の範囲で特定できるものである。焼戻し可能なlow−g設計において、吸収層はさらなる熱安定性のみならず、適切な光学特性を有するであろう。
【0033】
別個の吸収層が使用されない場合、1つ以上のバリア層を変更することで、吸収を高め、それにより上述と同じ所望の光学特性を得ることができる。かかる変更は、以下のグラフに示すように、これらの層において変化するガスレベルを含むことが望ましい。これらのグラフは、NiCrOx酸素流対スパッタ電力(キロワット)とNiCrOx吸光係数(k)の関係を示す。第2のy目盛りはまた、所与のNiCrOxが本願に記載の二重銀低放射率積層において使用されるときのTY又はSHGC値を示す。
【0034】
NiCrOx比は、直流電力で実行される2879mm長さのスパッタリングターゲットに基づくことが望ましい。電力は、一般的には、15乃至45kWの範囲である。アルゴン流は、300sccmである。
【表1】
【表2】
【0035】
参照によってその全体を本出願に援用する米国特許第6,416,872号明細書は、ファブリ・ペロー型の薄膜積層(金属/誘電体/金属)を含む日射制御構造の使用に関する。これら金属の1つは、赤外線反射材(銀)であり、1つは光学的吸収材である。光学的吸収材は、好適な光定数の範囲で表されている。本発明の実施形態は、ファブリ・ペロー積層を同様に含むが、金属/金属/誘電体/金属/金属又は、より具体的に、金属/亜酸化吸収薄層(バリア)/金属/誘電体/金属/亜酸化吸収薄層(バリア)/金属から成る基本的な積層構造を備える。これらのいずれの場合においても、一対の金属/金属の片方の金属は、赤外線反射金属であることが望ましく、他方は吸収金属材であることが望ましい。low−g吸収金属材は、米国特許第6,416,872号明細書の記載と同様に光定数の範囲を用いて表すことができる。low−g吸収材として光学的にふさわしい典型的な材料の光定数を、図6A及び図6Bにグラフ化している。図6Aに示すデータに基づき、図に示す金属吸収材について、波長が550nmにおける好適な屈折率の範囲は、約1から約5.5の間である。図6Bに示すデータに基づき、図に示す金属吸収材について、波長が550nmにおける吸光係数の範囲は、約1.75から約4.5の間である。好適な材料の範囲を限定するために役立つことがある別のパラメータは、550nmにおいて正の勾配を有する屈折率のプロットである。この特性により、金属材料は、同じようにプロットした場合に通常は550nmで負の勾配を有する亜酸化物及び窒化物から区別される。
【0036】
本発明の好適な実施形態において、吸収層は、別個の層として存在するとき、積層内の極めて特定された位置に挿入される。これは、コーティングされたガラスの製造及び処理に重要な他の特性、特に、全体的な耐久性及び製造の容易性を最適化するためである。
【0037】
各吸収層は、存在する場合は、約0.1nmから約8nmの厚さであることが望ましい。2つの吸収層が含まれている場合、第1の吸収層が第2の吸収層より厚いことが望ましい。第1の吸収層は、約1nmから約6nmの厚さであることが望ましく、1.5nmから約5nmの厚さであることがより望ましい。第2の吸収層は約0.1nmから約5nmの厚さであることが望ましく、約0.1nmから約4nmの厚さであることがより望ましい。別の実施形態では、第1の吸収層は約3nmの厚さを有する。さらに別の実施形態では、第2の吸収層は約0.5nmの厚さを有する。他の実施形態では、第1の吸収層は約3.6nmの厚さを有する。さらに他の実施形態では、第2の吸収層は約0.1nmの厚さを有する。上述の厚さ範囲は、別個の吸収層及びバリア層の代わりに吸収バリア層が用いられるときは、同様に吸収バリア層にも適している。
【0038】
バリア層は(別個であると吸収バリア層であるとを問わず)、Ag層を、その上に誘電体をスパッタリングするときに、プラズマによる腐食から保護する。また、O2、O、H2O、Na+等の攻撃的な種の拡散を制御することにより化学的な耐久性を高めることが可能である。好ましい実施形態では、バリアは透明である。バリアは、NiCr、NiCrOx、TiOx、NiCrNxOy、NiCrNx、Ti、又は他の1つ又は複数の金属、それらの亜窒化物及び亜酸化物を含みうるがこれらに限定されない。好適なバリアはNiCrOxである。かかる層では、特に第1の(即ち一番下の)NiCrOx層では、約15乃至60原子パーセントの酸素を含みうる。望ましくは、酸素の原子パーセントは
20%乃至55%である。本発明の焼戻し可能なバージョンの熱耐久性は、第1のNiCrOx層が約20原子パーセントの酸素を含むときに改善した。望ましい実施形態では(特に、バリアがより高い吸収性を有するよう変更されたときは)、バリアはNiCrOxを含み、銀の上にスパッタリングされ、平坦なターゲットから付着された薄い保護層である。望ましくは、アルゴンと酸素の混合物の中でスパッタリングされることが望ましい。酸素流(sccm)に対する電力は、スパッタリングされたNiCrOx中の酸化を推定するために使用される望ましい方法である。完全に酸化したNiCrOxについて用いられる比は、10:1である。本発明によるいくつかのコーティングにおいて用いられる比は、望ましくは、7.5:1から8.0:1で変化する。
【0039】
他の望ましい実施形態では、NiCrの吸収バリアが用いられる。同様に、この保護バリア薄層は、望ましくは銀の上にスパッタリングされ、DCの平坦なターゲットから付着される。かかる実施形態では、NiCr層(又は複数の層)は、アルゴンのみの中においてスパッタリングされる。かかるNiCr層は、近傍のカソードからのガスのクロストークによって生じうる予期せぬ不純物を除き、完全に金属でありうる。
【0040】
好適な実施形態において、各誘電体層は個々に酸化物、窒化物又はオキシ窒化物を含む。誘電体層が酸化物を含む場合、酸化物はTi、Zn、Sn、ZnSn合金又はBiターゲットからスパッタリングされる。酸化物はNb2O5を含む場合もある。酸化物は、例えば、Al又はBといった元素、あるいは類似の元素を約20重量%まで、好適には約10重量%まで含む場合もある。通常、これらのドーパントは、シリコン塗工機のターゲットに伝導性を与えるために使用されている。誘電体層が窒化物又はオキシ窒化物を含む場合、該窒化物又はオキシ窒化物は、Si、SiAl、SiB、SiZrの窒化物又はオキシ窒化物、あるいは所望の効果を達成する他の好適な窒化物又はオキシ窒化物であってもよい。同様に、該窒化物又はオキシ窒化物は、塗工機のターゲットに伝導性を与えるために、例えば、Al又はBといった元素、あるいは類似の元素を約20重量%まで、好適には約10重量%まで含む場合もある。望ましい実施形態では、誘電体はSiAlOxNyであり、シリコン/10重量パーセントアルミニウムの回転可能なカソードから反応性スパッタリングされる。反応性ガスは、好ましくは、約90%窒素流及び10%酸素である。化学量論的な変化は、層ごとに、また、連続生産量(production run)ごとに生ずるが、材料は、望ましくは半化学量論的である。望ましい実施形態では、スパッタリング用ガスには、SiAlが完全に反応したオキシ窒化物に達するには不十分な窒素及び酸素が存在する。いくつかの実施形態では、層における原子比は、ほぼSi4O0.4N5である。
【0041】
3つの一次誘電体を採用する好適な実施形態において、少なくとも1つの誘電体層が半化学量論の状態にある。より好適には、これら3つの誘電体(例えば、SiAlOxNy)が全て半化学量論の状態にある。このような半化学量論層を使用することにより、種々の利点が得られる。例えば:
1.ターゲット面の化学的性質が半化学量論的であればSiAlスパッタターゲットからの付着率はより高い。シリコンを多く含んだ表面のスパッタ収率は、より多くの窒化シリコンを含む表面のそれより高い。より高い付着率は、塗工機をより高速で運転する際に有利となり、そしてより経済的である。
2.半化学量論窒化物のインデックスが大きいほど、同じ光学的厚さに対してより小なる物理的厚さを有する誘電体層が可能となる。半化学量論層が付着される際に、より少ないターゲット材が消費され、また、これは塗工機のより効率的な運転を可能にする。
3.インデックスがより大きい誘電体は、低放射率積層設計の光学特性の自由度を高めることができる。透過及び反射に好適な色は、より小さいインデックスの化学量論材料と比べてより大きいインデックスの誘電体を用いてより容易に得ることもできる。
4.半化学量論層は、化学量論誘電体より良好な化学バリア特性を有する傾向にある。これは、より化学的に安定した、耐食性のある低放射率積層を可能にする。腐食性化学物質は、脆弱な銀層に到達しにくくなる。
5.半化学量論誘電体の光学的吸収は、low−g積層の透過率を低減し、太陽熱取得係数を上げることに役立つ。半化学量論誘電体は、可視領域では光学的に吸収性があり、赤外線領域ではより透明になる傾向にある。したがって、これらの材料は、可視透過率を低減するが、銀層の赤外線反射率特性を妨げる傾向にはない。
【0042】
金属吸収層は、可視及び赤外線の両領域で光学的に吸収性がある。low−g製品において、透過率を低減すべく金属材が使用されると、可視透過率及び赤外線反射率の両方が低減される。Low−e製品は、なるべく高い赤外線反射率を有することが望ましい。
これらの利点は、low−e積層に使用されるかもしれない半化学量論酸化物、オキシ窒化物及び窒化物に見られる傾向がある。
【0043】
本発明による積層における好適な誘電体に使用されている、シリコン対アルミニウムの比は10重量%Alである。他のSi:Al比を使用してもよい。いくつかの実施形態においては、Si、O及びNの原子比率は約Si4O0.4N5である。一番上のシリコン・オキシ窒化誘電体は、光学干渉層としての主機能を果たし、銀の反射防止機能に寄与する。しかしながら、材料は、一つにはそのバリア特性及び硬度を目的として選ばれ、この材料は、銀の機械的及び化学的な保護に役立つ。
【0044】
図7はシリコン・オキシ窒化物の屈折率及び吸光係数を図示する。グラフ上の指数及び吸光係数は、SiAlOXNYの2通りの化学量論状態を示す。これらは、low−gコーティングに適しているであろう化学量論のSiAlOxNyのおおよその上限及び下限を表す。通常、好適な実施形態における化学量論は、これら2つの極値間にある。図8は、Low−g積層内のSiAlOxNyについての好適なおおよそのn及びk値を示す。
【0045】
好適な実施形態において、誘電体は、550nmで約1.8と約2.5の間の、より好ましくは約2.1と約2.3の間の屈折率を有する。特に、好適な実施形態において、一番上の誘電体は、一番下又は中間の誘電体よりも低い屈折率を有しうる。かかる実施形態において、一番上の誘電体は、約1.8と約2.3との間の屈折率を有し、一番下又は中間の誘電体は、約2.0と約2.5との間の屈折率を有する。好適な実施形態において、誘電体は、550nmで約0と約0.05との間の、より好ましくは約0.01と約0.02との間の吸光係数を有する。
【0046】
好適な実施形態において、コーティングは、第1の誘電体層と第1のAg層との間に核生成層をさらに含む。別の好適な実施形態において、コーティングは、第2の誘電体層と第2のAg層との間に第2の核生成層をさらに含む。核生成層は、Ag層の特性を改善し、通常、酸化亜鉛を基に、例えば、Al、Sn、又はこれらの組み合わせの、但しこれらに限らない、約15重量%までの他の元素を加えたものである。好適な実施形態において、ZnOの付着に使用されるスパッタリング・ターゲットは、約1.5%のAlを含み、ZnAlOXの層を生ずる。この材料は、望ましくは、亜鉛/1.5重量パーセントアルミニウムの回転可能な又はプレーナ型のカソードから反応性スパッタリングされる。スパッタリングガスは、望ましくは、アルゴンと、酸化物が完全に酸化した状態で付着するのに十分な酸素とからなる。例えば本願に記載するような銀のための核生成層は、低放射率に関する特許文献に共通に記載されている。本発明の実施形態における核生成層は、望ましくは厚さが約2nm乃至12nmである。好適な実施形態において、一番下の核生成層は一番上の核生成層よりも厚く、これらの間の比は、約1.2乃至約2.0である。この形態は、特に熱処理又は焼戻しの後の耐久性を改善する。
【0047】
好適な実施形態において、赤外線反射層は、Agを含み、純粋なアルゴン中でスパッタリングされる。或いは、少量の酸素が加えられてもよい。酸素は、特に熱処理又は焼戻しを受ける実施形態において、機械的な耐久性に役立つ。
【0048】
任意のトップコートが含まれている場合、化学的及び/又は機械的な安定性にプラスの効果を与えることができる。トップコートは、C、SiSn、ZrSi、SiSnO2又はケイ化物を含むことができるが、これらに限らない。この呼び方は、異なる元素の化学量論あるいは原子比率に言及することを意図したものではないことに注意されたい。例えば、ZrSiは、Zrの原子百分率が0から100%の間で変化して層を漸変できる、スパッタリングされた材料である。この層は、加熱によって酸化できる。通常、トップコートは、下に横たわる誘電体と比較して対照的な性質を有する。誘電体が酸化物の場合、トップコートは上記材料のいずれか、又は、SiN若しくはSixAlyNzOc等の窒化物若しくはオキシ窒化物であることが望ましい。あるいは、誘電体が窒化物又はオキシ窒化物の場合、トップコートは上記リストから選択されるか、酸化物(例えば、ZrO2、ZrSiO2、SnO2、又はZrOxNy、TiO2又は他の類似の物質、しかし本願明細書に記載の特定の化学量論比に限定されない)であってもよい。好適なトップコートは、炭素であり、望ましくは、焼戻し可能な製品の製造中に使用される。通常はスパッタリングされるこのようなコーティングは、厚さが約4−8nmであることが好ましく、焼き戻し処理の際に焼いて除去される。好ましい実施形態は、最も外側の層として約3−5nmの厚さのスパッタリングされた炭素トップコートを利用する。この材料は、望ましくは、アルゴン中でDCマグネトロン・スパッタリングされる。
【0049】
好ましい実施形態において、本発明は基板上に低放射率コーティングを提供し、該コーティングは基板から外向きに順に、約25nmまでの、好ましくは約23nmまでの厚さを有する第1の誘電体層、約8nmから約15nmの厚さを有する第1のAg層、約0.1nmから約4nmの厚さを有する第1の吸収バリア層、約40nmから約75nmの厚さを有する第2の誘電体層、約8nmから約15nmの厚さを有する第2のAg層、約0.1nmから約4nmの厚さを有する第2の吸収バリア層、約10nmから約40nmの厚さを有する第3の誘電体層、そして任意に、トップコート層、を含む。さらに別の実施形態において、コーティングは、第1の誘電体層と第1のAg層との間に核生成層を含み、この核生成層は、約4nmから約12nmの厚さを有する。また、さらに別の実施形態において、コーティングは、第2の誘電体層と第2のAg層との間に第2の核生成層を含み、第2の核生成層は約2nmから約8nmの厚さを有する。厚さが約23nmの第1の誘電体層を有する積層は、特に焼き戻しに適している。
【0050】
他の好ましい実施形態において、本発明は基板上に低放射率コーティングを提供し、該コーティングは基板から外向きに順に、SiAlOxNyを含む第1の誘電体層、ZnAlOxを含む第1の核生成層、Agを含む第1の赤外線反射層、NiCrを含む第1の吸収バリア層、SiAlOxNyを含む第2の誘電体層、ZnAlOxを含む第2の核生成層、Agを含む第2の赤外線反射層、NiCrを含む第2の吸収バリア層、SiAlOxNyを含む第3の誘電体層、そして任意に、トップコート層を含む。他の実施形態では、吸収バリア層はNiCrOxを含む。
【0051】
他の好ましい実施形態において、本発明は基板上に低放射率コーティングを提供し、該コーティングは基板から外向きに順に、SiAlOxNyを含み、約25nmまでの、好ましくは約23nmまでの厚さを有する第1の誘電体層、ZnAlOxを含み、約4nmから約12nmの厚さを有する第1の核生成層、約8nmから約15nmの厚さを有する第1のAg層、NiCrを含み、約0.1nmから約4nmの厚さを有する第1の吸収バリア層、SiAlOxNyを含み、約40nmから約80nmの厚さを有する第2の誘電体層、ZnAlOxを含み、約2nmから約8nmの厚さを有する第2の核生成層、約8nmから約15nmの厚さを有する第2のAg層、NiCrを含み、約0.1nmから約4nmの厚さを有する第2の吸収バリア層、SiAlOxNyを含み、約10nmから約40nmの厚さを有する第3の誘電体層、そして任意に、トップコート層、を含む。他の実施形態では、吸収バリア層はNiCrOxを含む。厚さが約23nmの第1の誘電体層を有する積層は、特に焼き戻しに適している。
【0052】
他の好ましい実施形態において、本発明は基板上に低放射率コーティングを提供し、該コーティングは基板から外向きに順に、SiAlxNyOwを含む、約3nmから約25nmの厚さを有する第1の誘電体層、ZnAlyOxを含む、約4nmから約12nmの厚さを有する第1の核生成層、約8nmから約12nmの厚さを有する第1のAg層、NiCrOxを含む、約1nmから約4nmの厚さを有する第1のバリア層、NiCrを含む、約1.5nmから約4nmの厚さを有する第1の吸収層、SiAlxNyOwを含む、約55nmから約75nmの厚さを有する第2の誘電体層、ZnAlOxを含む、約3nmから約10nmの厚さを有する第2の核生成層、約10nmから約15nmの厚さを有する第2のAg層、任意に、NiCrOxを含む、約2nmから約4nmの厚さを有する第2のバリア層;NiCrを含む、約0.7nmから約2.2nmの厚さを有する第2の吸収層、SiAlxNyOwを含む、約24nmから約40nmの厚さを有する第3の誘電体層、そして任意に、トップコート層を含む。実施形態において、NiCrOxを含む第2のバリア層が不在であるため、第2の吸収層が第2のAg層の上に直接付着されている。本実施形態における第2吸収層のNiCr金属の代わりに、同時スパッタリング(co-sputter)されたNiCr及びクロム、NiCr/Cr二層、又はいかなる灰色金属又は合金を使用してもよい。さらに別の選択肢として、任意のNi:Cr比率を有するニクロム合金、Ni:Cr比率が漸変するようになっているNiCr層、NiCrNxを形成すべく窒素と反応させたNiCr層、及びいずれの金属もNiとCrの比率がいくつであってもよいNiCr/NiCrを含む二層光学吸収体を含むがこれらに限定されない。
【0053】
さらに他の実施形態において、例えば図9に示すように、本発明は基板上に低放射率コーティングを提供し、該コーティングは基板から外向きに順に、第1の誘電体層、第1の核生成層、第1のAg層、;第1のバリア層、第1の光学吸収層、第2の誘電体層、第2の核生成層、第2のAg層、第2の光学吸収層、第3の誘電体層、及び、任意の、好ましくは引っかき耐性を有するトップコート層、を含む。層厚は本明細書に記載している。例えば図10に示すように、他の実施形態において、該コーティングは基板から外向きに順に、SiAlOxNy/ZnO/Ag/NiCrOx/NiCr金属/SiAlOxNy/ZnO/Ag/NiCr金属/SiAlOxNy/任意のトップコート層、を含む。このため、本実施形態において、第2のNiCr金属吸収層は、第2のAg層の上に直接付着されている。この実施形態においては、焼き戻しあるいは熱強化により、積層又はコーティングされた基板の光学的品質の劣化を生じることなく、又、低放射率コーティングに関連してこれらのような処理が行われる際にしばしば見られる他の不都合を生じることなく、焼き戻しあるいは熱強化ができる。この構成(第2の吸収層が第2のAg層の上に直接付着されている)は、改良された焼戻し可能性に加え、優れた機械的耐久性を示す。この実施形態では、色調を所望の目標値に合わせることがより容易と思われる点も注目されている。第2の吸収層において、NiCr金属の代わりに、同時スパッタリングされたNiCr及びクロム、NiCr/Cr二層、又はいかなる灰色金属又は合金を使用してもよい。さらに別の選択肢として、任意のNi:Cr比を有するニクロム合金、Ni:Cr比が漸変するようになっているNiCr層、NiCrNxを形成すべく窒素と反応させたNiCr層、及びいずれの金属のNiとCrとの比がいくつであってもよいNiCr/NiCrを含む二層の光学吸収体を含むがこれらに限定されない。
【0054】
さらに本発明は、少なくとも1つの吸収層を含む低放射率積層(上述のように、別個の層であってもよく、高められた吸収性を有するよう変更されたバリア層であってもよい)を提供し、該低放射率積層は約0.34より小さい、好ましくは約0.31より小さい、幾つかの好ましい実施形態では約0.22乃至約0.25である太陽熱取得係数(SHGC)を特徴とする。実施形態において、積層は、約1/8インチ(約0.32cm)の厚さを有し、光透過率が約42%から約46%であるガラス基板を含む。また、約50%から約62%の光透過率を示す実施形態が提供される。幾つかの実施形態において、該積層は、負のa*及び負のb*で透過色を有する。他の実施形態において、積層は負のa*及び正のb*で透過色を有する。
【0055】
さらに本発明は上述の低SHGCを有する低放射率積層を作る方法を提供し、該方法は本明細書に記載のコーティングを基板上に付着することを含んでいる。本発明の多層コーティング内の層は、従来の物理的及び化学的蒸着手法で付着できる。これらの手法の詳細は当技術分野においてよく知られているため、ここでは繰り返して述べない。好適な付着手法には、スパッタリング法を含む。好適なスパッタリング法は、金属ターゲットを使用するDCスパッタリング、及び、金属及び非金属ターゲットを使用するACおよびRFスパッタリングを含む。全ての場合において、マグネトロン・スパッタリングを用いることができる。スパッタリングは不活性ガスの中で実施でき、又は反応性ガスの中で反応的に実施できる。全ガス圧力は、5x10−2から8N/m2(5x10−4から8x10−2mbar)、好適には、1x10−1から1N/m2(1x10−3から1x10−2mbar)の範囲内に維持できる。スパッタリング電圧は、200から1200V、好適には250から1000Vの範囲内にあってもよい。ダイナミック(dynamic)付着比は、25から4000nm-mm2/W-sec、好適には30から700nm-mm2/W-secの範囲にあってもよい。レイボルドシステム(Leybold Systems GmbH)によって製造されている型番Typ A 2540 Z 5 H/13-22及びTyp A 2540 Z 5 H/20-29塗工機は、本発明の多層コーティングをスパッタ付着するのに適している。
【0056】
前述のように、本発明の低放射率コーティング内の多層の銀は、単層の銀の場合よりも、より効率的に赤外線放射を反射し、また、透過波長と反射波長とを厳密に分けて遮断できる。
【0057】
本発明の多層コーティングは、基板上に付着されて、基板に機械的に支持されている。基板表面は、コーティング用のテンプレートとしての役割を果たし、コーティングの表面形状に影響を与える。可視光線の透過を最大にするためには、基板の表面が光線の波長よりも小さい起伏を有することが望ましい。このような平滑面は、例えば、基板の溶融物を凝固させることによって形成できる。基板は、本発明の多層コーティングによって低減可能な放射率を有するどのような材料であってもよい。建築及び自動車の用途では、基板は、優れた構造特性を有し、また、太陽エネルギーが集中する可視及び近赤外線スペクトル領域での吸収作用が最小となる材料が望ましい。結晶水晶、石英ガラス、ソーダ石灰ケイ酸塩ガラス及びプラスティック、例えば、ポリカーボネート及びアクリラートは、全て好適な基板材料である。
【0058】
本明細書の実施形態において使用されているように、「の上へ付着」又は「の上に付着」とは、物質が基準となる層の上に直接又は間接的に施されること意味する。間接的に適用されている場合には、1つ以上の層が介在する場合もある。さらに、特記事項がない限り、「[物質1]/[物質2]/[物質3]/‥‥」又は「第1の[物質1]層;第1の[物質2]層;第2の[物質1]層;第2の[物質2]層;‥‥」などの形を用いて本発明のコーティングを表す際、連続する各物質は、先の物質の上に直接又は間接的に付着されていることを意味する。
【0059】
本発明の異なる実施形態におけるコーティングされた物品は、建築用窓(例えば、断熱ガラスユニット)、自動車用窓又は他のあらゆる好適な用途に関連して使用する場合もある。本明細書に記載のコーティングされた物品は、本発明の異なる実施形態において、熱処理されても、されていなくてもよい。図5は、自動車又は他の乗り物での用途(例えば、風防ガラス又は同様の積層板)に適した、本発明の一実施形態を示す。図示の実施形態において、本発明によるコーティングは積層の中に含まれており、該積層は2つのガラス基板及びポリビニルブチラール(PVB)層をも含む。コーティングは、PVBと面している限り第1のシート上にあっても、第2のシート上にあってもよい。
【0060】
ガラスコーティング分野において、特に、コーティングされたガラスの性質及び日射調整特性を定義する際に特定の用語が広く使用されている。本明細書内ではこれらの用語を周知の意味で使用している。例えば、下記のとおりである。
【0061】
反射された可視波長光の強度、即ち「反射率」は、その割合によって定義され、RXYまたはRXと表される(即ちRY値は明所視の反射率を、TY値は明所視の透過率を表す)。ここで、「X」は、ガラス側の場合は「G」、膜側の場合は「F」である。「ガラス側」(即ち「G」)は、ガラス基板のコーティングがある側とは反対の側から見た場合を意味し、一方、「膜側」(即ち「F」)は、ガラス基板のコーティングがある側から見た場合を意味する。
【0062】
色特性は測定して、CIE LAB 1976 a*,b*座標及びスケール(即ち、CIE 1976 a*b*図、III. D65 10度観察者)を用いて表される。ここで、
L*は(CIE 1976)明度単位、
a*は(CIE 1976)赤‐緑単位、
b*は(CIE 1976)黄‐青単位
である。
【0063】
ハンターメソッド(Hunter method)(又は、単位)I11.C,100観測者、又は、CIE LUV u*v*座標の通常の使用を示すために、例えば、添え字「h」等によって他の類似の座標を同等に使用することもできる。これらのスケールは、1993年9月15日発行のASTM規格 D-2244-93「機器を用いた測定色座標から色差を計算するための標準試験方法(Standard Test Method for Calculation of Color Differences From Instrumentally Measured Color Coordinates)」、その増補であるASTM規格 E-308-95,ASTM規格年次本,Vol. 06.01「CIEシステムを使用して物体の色彩を計算するための標準方法(Standard Method for Computing the Colors of Objects by 10 Using the CIE System)」及び/又は1981年発行のアメリカ照明学会ライティング・ハンドブック(IES LIGHTING HANDBOOK)参考本に基づいて本明細書に定義されている。
【0064】
「放射率(emissivity)」(あるいは、エミッタンス(emittance))と「透過率」とは、当該分野において周知であり、本明細書ではその周知の意味で使用されている。従って、例えば、「透過率」は、日射透過率を意味し、これは可視光透過率(TvisのTY)と、赤外線透過率(TIR)と、紫外線透過率(TUV)とから成る。全太陽エネルギー透過率(TSまたはTsolar)は、これらの値の加重平均として表される。これらの透過率に関して、可視光透過率は、建築分野の場合では、標準光源I11.D65 10度技法に従って表現してもよい。一方、可視光透過率は、自動車分野の場合では、標準I11. A2度技法に従って表現してもよい(これらの技法については、例えばASTM E-308-95を参照。これらは参照によって本願に援用する)。放射率を目的として、特定の赤外域(即ち2,500〜40,000nm)が使用される。
【0065】
「放射率」(またはエミッタンス)(「E」又は「e」)とは、所与の波長の光の吸収と反射の両方の尺度又は特性である。通常、式:E=1−反射率filmにより表される。建築分野で使用する場合、例えば、下記にて参照する、Lawrence Berkeley Laboratories製のWINDOW 4.1プログラム、LBL-35298 (1994)によって規定されているように、放射率値は、赤外スペクトルの「遠赤外域」(即ち、約2,500〜40,000nm)とも呼ばれるいわゆる「中間帯域」においてかなり重要である。本明細書において使用している「放射率」とは、「建築用板ガラス製品の放射率測定及び計算用の放射測定値を用いた標準試験方法(Standard Test Method for Measuring and Calculating Emittance of Architectural Flat Glass Products Using Radiometric Measurements)」と題されるASTM規格 E 1585-93で規定され、この赤外域で測定された放射率値を示すために使用される。参照によってこの規格とその規定を本願に援用する。この規格において、放射率は半球放射率(Eh)と垂直放射率(En)として表される。
【0066】
このような放射率値を測定するための実際のデータ蓄積は、従来どおりであり、例えば「VW」アタッチメントを有するBeckman Model 4260分光光度計(Beckman Scientific Inst. 社製)を使用して行うこともできる。この分光光度計は、波長に対する反射率を測定し、その結果から、上記ASTM規格E 1585-93を使用して放射率を算出する。
【0067】
Rsolarとは、全太陽エネルギー反射率(明細書においてはガラス側)を意味し、赤外線反射率、可視反射率及び紫外線反射率の加重平均である。Rsolarは、いずれも参照によって本明細書に援用する、自動車分野では既知のDIN 410及びISO 13837(1998年12月)22頁の表1に、建築分野では既知のASHRAE 142規準に従って計算することもできる。
【0068】
「ヘーズ(Haze)」は次のように定義される。多方向に拡散される光は、コントラストを失わせる。本明細書では「ヘーズ」を、光が通過する際に、入射ビームから平均して2.5度を超えてそれる光の割合、としてヘーズを定義するASTM D 1003に従って定義している。「ヘーズ」はByk Gardnerヘーズメータを用いて測定してもよい(本明細書では、全てのヘーズ値はこのようなヘーズメータで測定され、散乱光の割合として与えられる)。本明細書で使用している別の用語に「シート抵抗」がある。シート抵抗(RS)は、当技術分野においてよく知られている用語であり、本明細書内ではその周知の意味で使用されている。ここでは、単位面積当たりのオーム数として報告している。一般にこの用語は、層構造を流れる電流に対する、ガラス基板上の層構造の任意の単位面積当たりの抵抗を意味し、オーム単位で表す。シート抵抗は、層あるいは層構造が赤外線エネルギーをどれだけ反射しているかを示し、従って、この特性を測るための尺度として放射率とともに頻繁に使用されている。「シート抵抗」は、例として、4端子プローブオーム計、例えば、カリフォルニア州サンタクララのシグネトーン社(Signatone Corp.)製のモデルM−800にマグネトロン・インスツルメンツ社(Magnetron Instruments Corp.)のヘッドを付けた可欠4点端子抵抗率プローブを使用して簡便に測定することもできる。
【0069】
本明細書において「化学的耐久性」又は「化学的に耐久性のある」とは、当技術分野における「化学的耐性のある」又は「化学安定性」と同じ意味に用いられている。化学的耐久性は、コーティングした2インチx5インチ(約5.08cmx約12.7cm)又は2インチx2インチ(約5.08cmx約5.08cm)のガラス基板の試料を約36℃の4.05%のNaClと1.5%のH2O2を含んだ約500mlの溶液に20分間浸して測定されている。化学的耐久性は、下記のクリーブランドテスト(Cleveland test)又は気候室でも測定できる。
【0070】
[クリーブランド室の準備]
試料は、この実験用に4インチx12インチ(約10.16cmx約30.48cm)又は6インチx12インチ(約15.24cmx約30.48cm)に切断される。水は50℃±2℃に加熱され、室温は23℃±3℃(華氏73度±5度)に維持される。試料は、薄膜側を下に向けて温水槽の上に置かれる。試料は露出してから数分で濃縮水の厚い層で覆われる。時間の経過とともに、水は試料の表面を流れ落ちて試料上に新しい縮合物が形成される。試験の最初から最後まで試料の上に濃縮水が存在する。
【0071】
[気候室の準備]
試料は、この実験用に4インチx6インチ(約10.16cmx約15.24cm)に切断される。静的湿度試験のため、湿度は98%の相対湿度(RH)に保たれ、温度は1時間で45℃と55℃の間を周期的に変化する。
【0072】
[測定の実施]
試料は、1,3及び7日の露出の後に測定のために取り出される。ヘーズ、放射率及び薄膜側の反射率が測定される。
デルタヘーズは次式によって計算される:
デルタヘーズ = 試験後ヘーズ − 試験前ヘーズ
デルタEは次式によって計算される:
デルタE = (デルタL*^2+デルタa*^2+デルタb*^2)^1/2
ここで、デルタL,a*,b*は試験前測定値から試験後測定値を引いた値である。
放射率の変化の割合を計算するためには次式を使用されたい:
放射率の変化=(試験後E−試験前E)/(ガラスE−試験前E)
【0073】
本明細書において使用されている「引っかき耐久性」は次の試験により定義されている。この試験では、エリクセン494型ブラシ試験機及びスコッチブライト7448研磨材(SiC粒子を長方形パッドの繊維に接着して作られる)を使用し、試料に研磨材を押し付けるべく標準重量ブラシ又は改良ブラシ保持器が使用される。ブラシ又はブラシ保持器を用いて100から500回の乾燥あるいは湿潤行程を実施する。引っかきによる損傷は3つの方法、すなわち、放射率、膜側反射率のヘーズ及びEの変化によって測定される。この試験は、傷をよりはっきりさせるように浸漬試験又は熱処理と組合せることができる。試料に135グラムの荷重を加えた200回の乾燥行程により、良い結果が得られる。必要であれば、行程数を減らすこと、又はより細かい研磨剤を使用することができる。これはこの試験の利点の1つであり、試料間に必要な識別のレベルによって、荷重及び/又は行程数を調整できる。より良いランク付けのためにより厳しい試験を行うことができる。試験の再現性は、指定期間に亘って同じ膜の多くの試料について試験することによって調べることができる。
【0074】
本明細書における「熱処理」、「熱処理された」、及び「熱処理する」とは、ガラスを含有する物品の焼戻し、曲げ、又は熱処理を可能にするのに十分な温度までその物品を加熱することを意味する。この定義は、例えばコーティングされた物品を華氏約1100度(摂氏約593度)以上の温度(例えば、約550℃〜700℃の温度)に十分な期間加熱して、焼戻し、熱処理、又は曲げを可能にすることを含む。
【0075】
「太陽熱取得係数(又はSHGC)」(「g」)は、当技術分野においてよく知られており、入射日射量に対する窓機構を通る全太陽熱取得の尺度を意味する。
【0076】
別途記載がなければ、下記の用語は、本明細書において次の意味を持つものとする。
「Ag」 銀
「TiO2」 二酸化チタン
「NiCrOx」 酸化ニッケルと酸化クロムとを含む合金又は混合物。酸化状態は化学量論の状態(stoichiometric)から半化学量論の状態(substoichiometric)間で変動しうる。
「NiCr」 ニッケルとクロムとを含む合金又は混合物。
「SiAlNx」又は「SiNx」 反応性スパッタリングされた窒化ケイ素アルミニウム。通常、スパッタリング・ターゲットは1から20重量%のAlを含む。スパッタリング・ガスはAr、N2とO2の混合気体である。気体の混合状態及びスパッタリング力により、材料はより多くあるいはより少なく吸収する。
「SiAlNxOy」又は「SiNxOy」 反応性スパッタリングされたオキシ窒化ケイ素アルミニウム。通常、スパッタリング・ターゲットは1から20重量%のAlを含む。スパッタリング・ガスはAr、N2とO2の混合気体である。気体の混合状態及びスパッタリング力により、材料はより多くあるいはより少なく吸収する。
「ZnAlyOx」 反応性スパッタリングされたZn酸化アルミニウム。通常、スパッタリング・ターゲットは1から20重量%のAlを含む。スパッタリング・ガスはArとO2の混合気体である。
「ZnxSnyAlzOw」 反応性スパッタリングされた錫(アルミニウム)亜鉛酸化物。一般に、スパッタリング・ターゲットはAlドーピングを任意に加えた錫亜鉛合金である。錫亜鉛合金には、亜鉛を多く含んだものから錫を多く含んだものまで幅広く含まれる。スパッタリング・ガスはArとO2の混合気体である。
「Zr」 ジルコニウム
「光学膜(optical coating)」 基板に施された1つ以上のコーティングで、これらが合わさって該基板の光学特性に影響するコーティング
「低放射率積層」 1つ以上の層から成る低熱放射率光学コーティングが施された透明基板
「バリア」 プロセス中に他の層、特に熱反射銀層を保護するために付着された層である。上の層の接着を改善する場合があり、プロセス後、存在する場合も存在しない場合もある。
「層」 ある機能と化学組成を有する厚みを持った物質であり、該物質の各面において異なる機能及び/又は化学組成を有する別の厚みを持った物質と境界をなしている。付着された層は、プロセス中の反応によりそのプロセス後、存在する場合も存在しない場合もある。「層」は、本明細書で用いる場合、片面が空気又は大気との境界をなす厚みを持った物質(例えば、コーティング積層の一番上の層又は保護オーバーコート層、又は積層中の他の層の上にあるもの)を含むものとする。
「同時スパッタリング」 2つ以上の異なる物質から成る2つ以上の別のスパッタリング・ターゲットから基板に同時にスパッタリングすること。結果として付着されたコーティングは、該異なる物質の反応生成物又は該ターゲット物質の未反応混合物又はその両方から成る場合もある。
「金属間化合物(Intermetallic compound)」 特定の化学量論的分量の2つ以上の金属元素から成る合金系の特定相。金属元素は、電子又は格子間結合されて、どちらかといえば標準的な合金に典型的な固溶体として存在している。金属間化合物は、しばしば、元素成分とは明らかに異なる性質を有し、特に硬さ又はもろさが増す。増加した硬さにより、ほとんどの標準的な金属又は合金に勝る引っかき耐性を持つ。
「機械的耐久性」 この用語は、(別途記載がない限り)ナイロンブラシ(注文番号0068.02.32、ブラシ重量は450グラム、一本一本の毛の直径は0.3mm、毛は直径4mmのまとまりにして配置されている)を使用してエリクセンブラシ試験機(494型)で実施される湿潤ブラシ耐久性試験を意味する。この試験では1000行程(ここでの1行程はブラシの1往復動から成る1周期と等しい)実施される。試料のコーティング側をブラシがけ処理し、このブラシがけ処理の際に脱イオン水に浸漬させる。
【0077】
種々の実施形態において、本発明による低放射率積層は、以下の独立した特性を示す。透過Yは約30から約62、好適には約35から約55、最も好適には約40から約50、負の透過a*値、最も好適には約−1から約−6、望ましくは負のb*値、最も好適には約0から約−6、RgYは約8から約20、より好適には約10から約18、最も好適には約11から約17、負のRga*値、最も好適には約−1から約−7、望ましくは負のRgb*値、最も好適には約−1から約−7、RfYは約2と約12の間、より好適には約2から約10、そして最も好適には約2から約8の間、負のRfa*、最も好適には約−2から約−20、望ましくはRfb*は約−10から約+10、最も好適には約−6から約+6、さらに、SHGCは約0.10から0.30、最大で0.34、より好適には約0.15から約0.28、最も好適には約0.20から約0.25である。
【0078】
本発明を詳細に説明するために、以下の非限定的な実施例を示す。
【0079】
<実施例1>
図4に示すように、本実施例において:ガラス/12nmの酸化物/10nmのAg/2nmのNiCrOX/4nmのNiCr/72nmの酸化物/13nmのAg/2nmのNiCrOX/3nmのNiCr/23nmの酸化物/7nmのSiN、の構成を有する積層を形成すべく、ガラス基板上に低放射率コーティングが付着されている。酸化物は、Ti、Zn、Sn、ZnSn合金、またはBiターゲットからスパッタリングできる。酸化物はNb2O5を含むこともできる。塗工機ターゲットに伝導性を与えるように、酸化物は20重量%までの、好適には10重量%までの、例えば、Al又はBといった元素、あるいは類似の元素を含む場合もある。SiNトップコートは任意である。この例示的なコーティングは、a*及びb*が負で魅力的な透過色を有する。SHGCは0.30より小さい。コーティングは、良好な機械的及び化学的耐久性を有する。
【0080】
<実施例2>
本実施例において:約1/8インチ(約0.32cm)のガラス/0から15nmの誘電体/2から10nmの核生成層/8から15nmのAg/0.1から4nmのバリア/0.2から8nmの吸収層/40から75nmの誘電体/2から10nmの核生成層/8から18nmのAg/0.1から4nmのバリア/0.2から8nmの吸収層/10から40nmの誘電体/トップコート、の構成を有する積層を形成すべく、ガラス基板上に低放射率コーティングが付着されている。誘電体は、Si、SiAl、SiB又はSiZrの酸化物(実施例1と同様に)又は窒化物又はオキシ窒化物であってもよく、塗工機ターゲットに伝導性を与えるように、20重量%までの、好適には10重量%までの、例えば、Al又はB等の元素を含む場合もある。核生成層は、Ag層の性質を改善し、一般的には、亜鉛酸化物をベースにして15重量%までの、例えば、Al又はSnといった他の元素、又はこれらの組み合わせを含む場合もある。
【0081】
バリアは、誘電体をその上にスパッタリングする際にAgをプラズマの腐食から保護する。またバリアは、O2、O、H2O及びNa+等攻撃的な化学種の拡散を制御することによって化学的耐久性を向上させる。好適なバリアには、NiCr、NiCrOx、NiCrNxOy、TiOx、Ti及び他の金属を含むがこれらに限定されない。
【0082】
前述のように、トップコートは任意である。トップコートが含まれている場合、化学的及び機械的安定性に良い影響を与えることができる。好適なトップコートには、C、ZrSi又はケイ化物が含まれるがこれらに限定されない。通常、トップコートは下にある誘電体と比べて対照的な性質を有する。誘電体が酸化物の場合、トップコートは上述の材料の一つ又は窒化物又はオキシ窒化物(例えば、SiN又はSiXAlyNzOc)であろう。別の場合では、誘電体が窒化物又はオキシ窒化物のとき、トップコートは有利には、例えば、ZrO2、ZrSiO2、SnO2、ZrOxNy又はTiO2等の酸化物であってもよいが、これらに限定されない。
【0083】
<実施例3>
本実施例において:約1/8インチ(約0.32cm)厚のガラス/3から15nmのSiAlxNyOw/3から10nmのZnAlyOx/8から12nmのAg/1から4nmのNiCrOX/1.5から3.0nmのNiCr/55から65nmのSiAlxNyOw/3から10nmのZnAlyOx/10から15nmのAg/1から4nmのNiCrOX/0.7から2.2nmのNiCr/24から32nmのSiAlxNyOw/任意のトップコート、の構成を有する積層を形成すべく、ガラス基板上に低放射率コーティングが付着されている。トップコートが含まれている場合、トップコートは1から5nmのC、1から10nmのZrO2又はZrSiO2から選択できるが、これらに限定されない。本実施例におけるコーティングは、断熱ガラスユニット上で測定したとき、約42%から約46%の光透過率、約0.30より小さいSHGCを示し、透過色は灰色で緑から青い色合いに調整可能となっている。断熱ガラスユニットは、2の位置にコーティングのある1/8インチ(約0.32cm)のコーティングされたガラスと、1/2インチ(約1.27cm)の間隔をあけて1/8インチ(約0.32cm)の透明ガラスを含む。コーティングは、改良された化学的及び機械的耐久性を有する。本実施例の二層NiCrOX/NiCrは、求められている性質を得るために有益である。NiCrが特定の位置にあるため、低放射率コーティングへの用途を主たる目的とした既存の塗工機でコーティングを製造できる。該塗工機では、NiCrスパッタリング・ターゲットを特別に隔離する必要がない。上記にて例示した積層に見られる性質の一覧を下記の表に示す。
【表3】
【0084】
<実施例4>
本実施例は、本発明による、厚さデータを伴う、焼き戻しされていない好適なコーティングの代表例である。厚さは、デックタック・プロフィルメータ(DekTak Profilometer)を用いて測定した。厚さを測定する際に、積層全体の初期厚さを測定した。続いて、最上層を塗工機内で施削して、一番上のSiAlOyNx層を差し引いた積層の厚さを測定した。各層を1層ずつ施削して、最後に一番下のSiAlOyNxだけを測定するまで、これを繰り返した。測定値の誤差は約±0.5nmである。
【表4】
【0085】
<実施例5>
本実施例は、本発明の実施形態による炭素トップコートを含む、焼戻し可能な好適なコーティングの代表例である。厚さは上記実施例4と同様にデックタック・プロフィルメータを用いて測定した。これらの測定では、一番上のSiAlOxNyと炭素トップコートの厚さを分けなかった。炭素の厚さは約5nmと推定されており、このため一番上のSiAlOxNy層の厚さは約33nmとなる。
【表5】
【0086】
<実施例6>
下記の表は、本発明の実施形態によるコーティングの光学的及び電気的測定値の代表例である。「low−g A」製品は、加熱処理されていない焼きなましされた製品である。「low−g T」製品は焼戻し可能な製品であり、本発明によるトップコートを含む。「BB」とは、焼き戻し前の測定値を表し、「AB」とは、焼き戻し後の測定値を表す。「N/A」とは、この特定の実施例の生成の際に測定値が得られなかったことを意味する。
【表6】
【0087】
<実施例7>
本実施例は、本発明による様々なコーティングの仕様の概要を示す。本発明による好適な、焼き戻しされていない及び焼戻し可能なコーティングの光学的及び電気的な性質は、以下の表に示す仕様の範囲に含まれる。
【表7】
【0088】
<実施例8>
本実施例は本発明によるコーティングを有する基板を示す。前述のように、任意の炭素トップコート(図示せず)は、焼き戻し又は熱処理を受けることを意図した実施形態において使用されることができ、望ましくは厚さが約3nm乃至約5nmである。任意のトップコートは、望ましくは焼き戻し又は熱処理を受けることを意図しない実施形態には含まれない。かかる実施形態を、本願では「焼きなましされた」と呼ぶものとする。以下に示す例示的な実施形態の層厚はおおよそのものである。誘電体層及びAg層に関する精度は、約±20%の範囲である。NiCr層の厚さは、プラス200%、マイナス20%でありうる。焼きなましされたコーティングでは、ZnAlOx層は、一般的にはより薄く、以下の表に示す値の60%程度の低さでありうる。
【表8】
【0089】
表に示す材料の説明は以下の通りである。
SiAlOxNy − 本実施例により表される実施形態では、この材料は、シリコン/10重量パーセントアルミニウムの回転可能なカソードから反応性スパッタリングされる。反応性ガスは、約90%窒素流及び10%酸素である。この材料は、一番下、中央、及び一番上の一次誘電層に使用される。化学量論変化は、層ごとに、また連続生産量(production run)ごとに生じうるが、本実施例におけるSiAlOxNyは全て半化学量論的である。スパッタリング・ガス中には、SiAlが完全に反応したオキシ窒化物に達するには不十分な窒素及び酸素が存在する。層における原子比率は、約Si4O0.4N5である。
ZnAlOx − 本実施例により表される実施形態では、この材料は、亜鉛/1.5重量パーセントアルミニウムの回転可能な又はプレーナ型のカソードから反応性スパッタリングされる。スパッタリング・ガスは、アルゴンと、酸化物が完全に酸化した状態で付着するのに十分な酸素とからなる。この層は、銀のための核生成層として機能し、低放射率に関する特許文献に共通に記載されたかかる層と一致している。
Ag − 本実施例により表される実施形態では、銀の層は、純粋なアルゴン中でスパッタリングされてもよく、あるいは少量の酸素が加えられてもよい。酸素は、焼き戻しする場合には機械的な耐久性を高めるが、必ずしも必要ではない。
NiCr − 本実施例により表される実施形態では、この薄い、銀の上にスパッタリングされた保護又はバリア層は、DCプレーナ型ターゲットから付着し、アルゴンのみの中においてスパッタリングされる。本実施例では、これらの層は、近傍のカソードからのガス・クロストークといった意図しない不純物を除き、完全に金属である。
炭素 − 例示的な実施形態の焼戻し可能な例は、3乃至5nmの厚さのスパッタリングされた炭素トップコートを、アルゴン中でDCマグネトロン・スパッタリングされる一番外側の層として利用する。
【0090】
本例では、全ての材料についてのガス分布は機械の方向において対称である。機械を横切る方向では、反応性の材料のためのガス流は、機械を横切る方向の不均一性を調整するよう変更されうる。
【0091】
本願に記載の様々な実施形態においては、一番上のAg層が一番下のAg層よりも厚く、一番下の吸収バリア層が一番上の吸収バリア層よりも厚いことが望ましい。(本実施例では、吸収バリア層は、NiCrであるが、上述のように、他の実施形態ではそのような層にNiCrOxを利用する)。このような逆転した厚さ比は、積層の好ましい色を達成する上で有利である。一番下の誘電体層(本実施例ではSiAlOxNy)は、中央の誘電体層及び一番下の誘電体層よりも厚いことが望ましい。このような形態は同様に、好ましい色を実現する上で有利である。更に、一番下の核生成層(本実施例ではZnAlOx)が一番上の核生成層よりも厚いことが望ましい。このような形態は、改善された機械的及び化学的な耐久性を提供する。好適な実施形態では、積層の層の比率は、一般的に以下の範囲内となる。
一番下のAg/一番上のAg:約0.8乃至約1.0
一番下のNiCr/一番上のNiCr:約1.2乃至約2.0
一番下のZnAlOx/一番上のZnAlOx:約1.2乃至約2.0
一番下のSiAlOxNy/一番上のSiAlOxNy:約0.4乃至約0.8
中間のSiAlOxNy/一番上のSiAlOxNy:約1.5乃至約2.5。
【0092】
一番上の誘電体が、一番下又は中間の誘電体のいずれかよりも低い屈折率を有することが更に有利である。好ましい範囲は、以下のものを含む。
一番上の屈折率:約1.8乃至約2.3
一番下又は中間:約2.0乃至2.5。
【0093】
本実施例は、以下の色及び日射性能を示す。
【表9】
【0094】
「NC Rs」は、非接触表面抵抗を表し、オーム/スクエアの単位で測定される。焼き戻しされる実施形態では、焼戻し色ずれ、即ち、ΔEは、ガラス側反射色については3よりも大きい。これは、炭素層が焼けてなくなったことによる。
【0095】
<実施例9>
【表10】
【0096】
本実施例は、本発明によるコーティングを有する基板を表す。上述のように、任意の炭素トップコート(図示せず)は、焼き戻し又は熱処理を受けることを意図した実施形態において使用されることができ、望ましくは厚さが約3nm乃至約5nmである。任意のトップコートは、望ましくは焼き戻し又は熱処理を受けることを意図しない実施形態には含まれない。かかる実施形態を、本願では「焼きなましされた」と呼ぶものとする。以下の表に示す実施形態についての層厚はおおよそのものである。
【0097】
例示された実施形態について、厚さの測定は、デックタック・プロフィルメータ(DekTak Profilometer)を用いて行われた。全積層厚さを得るため、インクの線を伴うスライドを積層全体で覆った。一番下のSiAlOyNxだけが存在するまで1層ずつ一番上の材料のカソードを施削することにより、追加的な試料が調製された。インクの線は、イソプロピル・アルコールによって除去され、結果として得られるステップをデックタックで測定した。個々の層厚を、下にある残る積層の厚さを差し引くことにより計算した。従って、個々の層は、それらの下にある層の精度により影響を受ける。誘電体(SiAlOxNy)及び銀(Ag)の精度は、±20%の範囲にある。NiCrOx層の厚さの範囲は、±100%である。本発明による焼きなましされた実施形態は、焼き戻しされるものよりも薄い一番下のZnAlOxを有する傾向がある。
【0098】
例示される実施形態において示された材料の説明は、以下の通りである。
SiAlOxNy − 本実施例により表される実施形態では、この材料は、シリコン/10重量パーセントアルミニウムの回転可能なカソードから反応性スパッタリングされる。反応ガスは、約90%窒素流及び10%酸素である。この材料は、一番下、中央、及び一番上の一次誘電層に使用される。
ZnAlOx − 本実施例により表される実施形態では、この材料は、亜鉛/1.5重量パーセントアルミニウムの回転可能な又はプレーナ型のカソードから反応性スパッタリングされる。スパッタリング・ガスは、アルゴンと、酸化物が完全に酸化した状態で付着するのに十分な酸素とからなる。この層は、銀のための核生成層として機能し、低放射率に関する特許文献に共通に記載されたかかる層と一致している。
Ag − 本実施例により表される実施形態では、銀の層は、純粋なアルゴン中でスパッタリングされてもよく、あるいは少量の酸素が加えられてもよい。酸素は、焼き戻しする場合に機械的な耐久性に役立つ。
NiCrOx − 本実施例により表される実施形態では、この薄い、銀の上にスパッタリングされた保護又はバリア層は、プレーナ型ターゲットから付着し、アルゴンと酸素の混合の中においてスパッタリングされる。酸素流に対する電力(sccm)は、スパッタリングされたNiCrOxにおける酸化を推定するのに使用される方法である。完全に酸化したNiCrOxに用いられる比率は、10:1である。ここで例示されている実施形態による好適なコーティングに用いられる比率は、7.5:1乃至8.0:1である。
炭素 − 例示的な実施形態の焼戻し可能な例は、3乃至5nmの厚さのスパッタリングされた炭素トップコートを一番外側の層として利用する。この材料は、アルゴン中でDCマグネトロン・スパッタリングされる。
【0099】
本実施例では、全ての材料についてのガス分布は機械の方向において対称である。機械を横切る方向では、反応性の材料についてのガス流は、機械を横切る方向の不均一性を調整するよう変更されうる。
【0100】
本実施例は、以下の光学的特徴を示す。
【表11】
【0101】
本実施例は、以下の色及び日射性能を示す。
【表12】
【0102】
「NC Rs」は、非接触表面抵抗を表し、オーム/スクエアの単位で測定される。
【0103】
焼き戻しされる実施形態では、ΔEは、以下の通りである。
・透過について6色単位
・ガラス側反射について10色単位
・膜側反射について14色単位
色ずれは、炭素層が焼けてなくなったことによる。
【0104】
<実施例10>
本実施例は、以下の構造を有するコーティングを含み、NiCr層において2:1の酸素:kw比を用いる。
【表13】
【0105】
連続生産量データは、以下の表によって与えられる。
【表14】
【0106】
<実施例11>
本実施例では、本発明によるコーティングの焼きなまししたものが提供される。積層構造と特性の説明は、以下の表に含まれている。例示的な実施形態では、NiCrOxを含む吸収バリア層が用いられる。
【表15】
【表16】
【表17】
【表18】
【0107】
<実施例12>
本実施例では、本発明によるコーティングの焼戻し可能なものが提供される。積層構造と特性の説明は、以下の表に含まれている。例示的な実施形態では、NiCrOxを含む吸収バリア層が用いられる。
【表19】
【表20】
【表21】
【表22】
【0108】
本発明は特定の実施形態について説明されているが、本明細書内に記載の特定の詳細に限定されるものではなく、むしろ当業者に種々の変更および改良を示唆するものも含み、これらはすべて特許請求の範囲に規定する本発明の範囲に含まれる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上の低放射率コーティングであって、前記コーティングは、前記基板から外側に向かって順に、
第1の誘電体層と、
第1の核生成層と、
第1のAg層と、
第1のバリア層と、
第2の誘電体層と、
第2の核生成層と、
第2のAg層と、
第2のバリア層と、
第3の誘電体層と
任意にトップコート層と
を含む、低放射率コーティング。
【請求項2】
前記第1の誘電体層、前記第2の誘電体層または前記第3の誘電体層のうち少なくとも1つは半化学量論(sub-stoichiometric)状態にある、請求項1に記載の低放射率コーティング。
【請求項3】
前記第1のバリア層又は前記第2のバリア層のうち少なくとも一方は、吸収バリア層である、請求項1に記載の低放射率コーティング。
【請求項4】
前記第1のバリア層及び前記第2のバリア層は、夫々が別に、金属、合金、ケイ化物、吸収酸化物及び窒化物から成る群から選択される材料を含む、請求項1に記載の低放射率コーティング。
【請求項5】
前記第1のバリア層及び前記第2のバリア層は、夫々が別に、Ti、TiN、Si、NiCr、NiCrOx、Cr、Zr、Mo、W及びZrSiから成る群から選択される材料を含む、請求項4に記載の低放射率コーティング。
【請求項6】
前記第1のバリア層及び前記第2のバリア層のうち少なくとも一方はNiCrを含む、請求項5に記載の低放射率コーティング。
【請求項7】
前記第1のバリア層及び前記第2のバリア層のうち少なくとも一方はNiCrOxを含む、請求項5に記載の低放射率コーティング。
【請求項8】
前記第1のバリア層及び前記第2のバリア層のうち少なくとも一方は前記コーティングの透過率を低下させることができる、請求項1に記載の低放射率コーティング。
【請求項9】
前記第1のバリア層及び前記第2のバリア層のうち少なくとも一方は前記コーティングの吸収を高めることができる、請求項1に記載の低放射率コーティング。
【請求項10】
前記第2の銀層は前記第1の銀層よりも厚い、請求項1に記載の低放射率コーティング。
【請求項11】
前記第1のバリア層は前記第2のバリア層よりも厚い、請求項1に記載の低放射率コーティング。
【請求項12】
前記第2の銀層の厚さに対する前記第1の銀層の厚さの比は、約0.8乃至約1.2である、請求項10に記載の低放射率コーティング。
【請求項13】
前記第2の銀バリアの厚さに対する前記第1のバリア層の厚さの比は、約1.2乃至約2.0である、請求項11に記載の低放射率コーティング。
【請求項14】
前記第1の核生成層は前記第2の核生成層よりも厚い、請求項1に記載の低放射率コーティング。
【請求項15】
前記第2の核生成層の厚さに対する前記第1の核生成層の厚さの比は約1.2乃至約2.0である、請求項14に記載の低放射率コーティング。
【請求項16】
前記第3の誘電体層は、前記第2の誘電体層の屈折率及び前記第1の誘電体層の屈折率のいずれよりも低い屈折率を有する、請求項1に記載の低放射率コーティング。
【請求項17】
前記各バリア層は、2:1の酸素:kw比を有する、請求項7に記載の低放射率コーティング。
【請求項18】
前記第1の誘電体層、前記第2の誘電体層、及び前記第3の誘電体層はそれぞれ別個に、酸化物、窒化物、及びオキシ窒化物、又はそれらの組合せから選択される材料を含む、請求項1に記載の低放射率コーティング。
【請求項19】
前記第1の誘電体層、前記第2の誘電体層及び前記第3の誘電体層のうち少なくとも1つは酸化物を含む、請求項18に記載の低放射率コーティング。
【請求項20】
前記酸化物はAl及びBから成る群から選択される元素を約20重量%まで含む請求項19に記載の低放射率コーティング。
【請求項21】
前記酸化物はAl及びBから成る群から選択される元素を約10重量%まで含む請求項20に記載の低放射率コーティング。
【請求項22】
前記第1の誘電体層、前記第2の誘電体層及び前記第3の誘電体層のうち少なくとも1つは窒化物又はオキシ窒化物を含む、請求項15に記載の低放射率コーティング。
【請求項23】
前記核生成層のうちの少なくとも1つはZnAlOxを含む、請求項1に記載の低放射率コーティング。
【請求項24】
基板上の低放射率コーティングであって、前記コーティングは前記基板から外側に向かって順に、
SiAlOxNyを含む第1の誘電体層と、
ZnAlOxを含む第1の核生成層と、
Agを含む第1の赤外線反射層と、
NiCrを含む第1の吸収バリア層と、
SiAlOxNyを含む第2の誘電体層と、
ZnAlOxを含む第2の核生成層と、
Agを含む第2の赤外線反射層と、
NiCrを含む第2の吸収バリア層と、
SiAlOxNyを含む第3の誘電体層と、
任意にトップコート層と
を含む、低放射率コーティング。
【請求項25】
基板上の低放射率コーティングであって、前記コーティングは前記基板から外側に向かって順に、
SiAlOxNyを含む第1の誘電体層と、
ZnAlOxを含む第1の核生成層と、
Agを含む第1の赤外線反射層と、
NiCrOxを含む第1の吸収バリア層と、
SiAlOxNyを含む第2の誘電体層と、
ZnAlOxを含む第2の核生成層と、
Agを含む第2の赤外線反射層と、
NiCrOxを含む第2の吸収バリア層と、
SiAlOxNyを含む第3の誘電体層と、
任意にトップコート層と
を含む、低放射率コーティング。
【請求項26】
基板はガラスである、請求項1に記載の低放射率コーティング。
【請求項27】
少なくとも1つの吸収バリア層を含む低放射率積層であって、約0.31より小さい太陽熱取得係数(SHGC)を有することを特徴とする低放射率積層。
【請求項28】
前記積層は、約0.22乃至約0.25の太陽熱取得係数(SHGC)を有することを特徴とする、請求項27に記載の低放射率積層。
【請求項29】
前記積層は、断熱ガラスユニット上で測定したとき、約42%乃至約46%の光透過率を有する、請求項27に記載の低放射率積層。
【請求項30】
前記積層は、断熱ガラスユニット上で測定したとき、約58%乃至約62%の光透過率を有する、請求項27に記載の低放射率積層。
【請求項31】
優れた機械的な又は化学的な安定性を特徴とする、請求項27に記載の低放射率積層。
【請求項32】
請求項1に記載のコーティングを基板上に付着することを含む、低太陽熱取得係数(SHGC)を有する低放射率積層の製造方法。
【請求項33】
前記付着することは、マグネトロン・スパッタリングを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項34】
焼き戻し又は熱強化に対する耐性を特徴とする、請求項1に記載の低放射率積層。
【請求項35】
前記積層の前記光学的な質は、焼き戻し又は熱強化の後に低下しない、請求項34に記載の低放射率積層。
【請求項36】
前記積層は、負のa*及び負のb*の透過色を有する、請求項27に記載の低放射率積層。
【請求項37】
前記積層は、負のa*及び正のb*の透過色を有する、請求項27に記載の低放射率積層。
【請求項38】
請求項1に記載の低放射率積層を含む、自動車の窓。
【請求項1】
基板上の低放射率コーティングであって、前記コーティングは、前記基板から外側に向かって順に、
第1の誘電体層と、
第1の核生成層と、
第1のAg層と、
第1のバリア層と、
第2の誘電体層と、
第2の核生成層と、
第2のAg層と、
第2のバリア層と、
第3の誘電体層と
任意にトップコート層と
を含む、低放射率コーティング。
【請求項2】
前記第1の誘電体層、前記第2の誘電体層または前記第3の誘電体層のうち少なくとも1つは半化学量論(sub-stoichiometric)状態にある、請求項1に記載の低放射率コーティング。
【請求項3】
前記第1のバリア層又は前記第2のバリア層のうち少なくとも一方は、吸収バリア層である、請求項1に記載の低放射率コーティング。
【請求項4】
前記第1のバリア層及び前記第2のバリア層は、夫々が別に、金属、合金、ケイ化物、吸収酸化物及び窒化物から成る群から選択される材料を含む、請求項1に記載の低放射率コーティング。
【請求項5】
前記第1のバリア層及び前記第2のバリア層は、夫々が別に、Ti、TiN、Si、NiCr、NiCrOx、Cr、Zr、Mo、W及びZrSiから成る群から選択される材料を含む、請求項4に記載の低放射率コーティング。
【請求項6】
前記第1のバリア層及び前記第2のバリア層のうち少なくとも一方はNiCrを含む、請求項5に記載の低放射率コーティング。
【請求項7】
前記第1のバリア層及び前記第2のバリア層のうち少なくとも一方はNiCrOxを含む、請求項5に記載の低放射率コーティング。
【請求項8】
前記第1のバリア層及び前記第2のバリア層のうち少なくとも一方は前記コーティングの透過率を低下させることができる、請求項1に記載の低放射率コーティング。
【請求項9】
前記第1のバリア層及び前記第2のバリア層のうち少なくとも一方は前記コーティングの吸収を高めることができる、請求項1に記載の低放射率コーティング。
【請求項10】
前記第2の銀層は前記第1の銀層よりも厚い、請求項1に記載の低放射率コーティング。
【請求項11】
前記第1のバリア層は前記第2のバリア層よりも厚い、請求項1に記載の低放射率コーティング。
【請求項12】
前記第2の銀層の厚さに対する前記第1の銀層の厚さの比は、約0.8乃至約1.2である、請求項10に記載の低放射率コーティング。
【請求項13】
前記第2の銀バリアの厚さに対する前記第1のバリア層の厚さの比は、約1.2乃至約2.0である、請求項11に記載の低放射率コーティング。
【請求項14】
前記第1の核生成層は前記第2の核生成層よりも厚い、請求項1に記載の低放射率コーティング。
【請求項15】
前記第2の核生成層の厚さに対する前記第1の核生成層の厚さの比は約1.2乃至約2.0である、請求項14に記載の低放射率コーティング。
【請求項16】
前記第3の誘電体層は、前記第2の誘電体層の屈折率及び前記第1の誘電体層の屈折率のいずれよりも低い屈折率を有する、請求項1に記載の低放射率コーティング。
【請求項17】
前記各バリア層は、2:1の酸素:kw比を有する、請求項7に記載の低放射率コーティング。
【請求項18】
前記第1の誘電体層、前記第2の誘電体層、及び前記第3の誘電体層はそれぞれ別個に、酸化物、窒化物、及びオキシ窒化物、又はそれらの組合せから選択される材料を含む、請求項1に記載の低放射率コーティング。
【請求項19】
前記第1の誘電体層、前記第2の誘電体層及び前記第3の誘電体層のうち少なくとも1つは酸化物を含む、請求項18に記載の低放射率コーティング。
【請求項20】
前記酸化物はAl及びBから成る群から選択される元素を約20重量%まで含む請求項19に記載の低放射率コーティング。
【請求項21】
前記酸化物はAl及びBから成る群から選択される元素を約10重量%まで含む請求項20に記載の低放射率コーティング。
【請求項22】
前記第1の誘電体層、前記第2の誘電体層及び前記第3の誘電体層のうち少なくとも1つは窒化物又はオキシ窒化物を含む、請求項15に記載の低放射率コーティング。
【請求項23】
前記核生成層のうちの少なくとも1つはZnAlOxを含む、請求項1に記載の低放射率コーティング。
【請求項24】
基板上の低放射率コーティングであって、前記コーティングは前記基板から外側に向かって順に、
SiAlOxNyを含む第1の誘電体層と、
ZnAlOxを含む第1の核生成層と、
Agを含む第1の赤外線反射層と、
NiCrを含む第1の吸収バリア層と、
SiAlOxNyを含む第2の誘電体層と、
ZnAlOxを含む第2の核生成層と、
Agを含む第2の赤外線反射層と、
NiCrを含む第2の吸収バリア層と、
SiAlOxNyを含む第3の誘電体層と、
任意にトップコート層と
を含む、低放射率コーティング。
【請求項25】
基板上の低放射率コーティングであって、前記コーティングは前記基板から外側に向かって順に、
SiAlOxNyを含む第1の誘電体層と、
ZnAlOxを含む第1の核生成層と、
Agを含む第1の赤外線反射層と、
NiCrOxを含む第1の吸収バリア層と、
SiAlOxNyを含む第2の誘電体層と、
ZnAlOxを含む第2の核生成層と、
Agを含む第2の赤外線反射層と、
NiCrOxを含む第2の吸収バリア層と、
SiAlOxNyを含む第3の誘電体層と、
任意にトップコート層と
を含む、低放射率コーティング。
【請求項26】
基板はガラスである、請求項1に記載の低放射率コーティング。
【請求項27】
少なくとも1つの吸収バリア層を含む低放射率積層であって、約0.31より小さい太陽熱取得係数(SHGC)を有することを特徴とする低放射率積層。
【請求項28】
前記積層は、約0.22乃至約0.25の太陽熱取得係数(SHGC)を有することを特徴とする、請求項27に記載の低放射率積層。
【請求項29】
前記積層は、断熱ガラスユニット上で測定したとき、約42%乃至約46%の光透過率を有する、請求項27に記載の低放射率積層。
【請求項30】
前記積層は、断熱ガラスユニット上で測定したとき、約58%乃至約62%の光透過率を有する、請求項27に記載の低放射率積層。
【請求項31】
優れた機械的な又は化学的な安定性を特徴とする、請求項27に記載の低放射率積層。
【請求項32】
請求項1に記載のコーティングを基板上に付着することを含む、低太陽熱取得係数(SHGC)を有する低放射率積層の製造方法。
【請求項33】
前記付着することは、マグネトロン・スパッタリングを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項34】
焼き戻し又は熱強化に対する耐性を特徴とする、請求項1に記載の低放射率積層。
【請求項35】
前記積層の前記光学的な質は、焼き戻し又は熱強化の後に低下しない、請求項34に記載の低放射率積層。
【請求項36】
前記積層は、負のa*及び負のb*の透過色を有する、請求項27に記載の低放射率積層。
【請求項37】
前記積層は、負のa*及び正のb*の透過色を有する、請求項27に記載の低放射率積層。
【請求項38】
請求項1に記載の低放射率積層を含む、自動車の窓。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2011−504450(P2011−504450A)
【公表日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−534975(P2010−534975)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【国際出願番号】PCT/US2008/013033
【国際公開番号】WO2009/067263
【国際公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(507090421)エージーシー フラット グラス ノース アメリカ,インコーポレイテッド (12)
【氏名又は名称原語表記】AGC FLAT GLASS NORTH AMERICA,INC.
【住所又は居所原語表記】11175 Cicero Dr.,Suite 400,Alpharetta,GA 30022,U.S.A.
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【国際出願番号】PCT/US2008/013033
【国際公開番号】WO2009/067263
【国際公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(507090421)エージーシー フラット グラス ノース アメリカ,インコーポレイテッド (12)
【氏名又は名称原語表記】AGC FLAT GLASS NORTH AMERICA,INC.
【住所又は居所原語表記】11175 Cicero Dr.,Suite 400,Alpharetta,GA 30022,U.S.A.
【Fターム(参考)】
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