説明

低屈折材料の作製方法及びその方法で作製された低屈折材料

【課題】 液体状の硬化型材料に物理的に気泡を混入することで、安価に大量に作製でき、大面積化が容易な低屈折材料の作製方法。
【解決手段】 液体の状態から固体に硬化させて用いる硬化型材料2が液体の状態において、気泡1を混入させ、それを粉砕して物理的に微小な気泡1’を混入させることで屈折率を低くした低屈折率材料の作製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低屈折材料の作製方法及びその方法で作製された低屈折材料に関し、特に、光学素子等の分野において反射防止、レリーフ型回折格子、交互多層膜等に用いる低屈折材料の作製方法と作製された低屈折材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガラス等の透明体の反射防止手段として、従来、(1)透明体表面に低屈折材料1層の薄膜を形成して反射防止膜とすること、(2)透明体表面に低屈折材料を含む複数層の薄膜を形成して反射防止膜とすること、(3)透明体表面に周期が波長オーダー以下の周期構造の反射防止体(いわゆるモスアイ)を形成すること等が知られている。
【0003】
また、レリーフ型回折格子は、微細な凹凸形状で、表面方向に周期的な(あるいは非周期的な)構造であって、透過回折又は反射回折を利用する、例えば、偏向、分光、偏光等の機能に用いられる。
【0004】
また、低屈折率、高屈折率の交互多層膜は、高屈折材料と低屈折率材料を交互に積層した構造であって、反射回折を利用する、例えば、偏光分離機能に用いている。
【0005】
このような光学素子に用いる低屈折材料は作製方法が難しく、大面積化が難しく、稀少で高価である。また、レリーフ型回折格子材料として凹凸の加工の難易度から向き不向きがあり、一般的な低屈折材料が必ずしも向いているとは言えない。
【0006】
ところで、従来、低屈折材料として透明材料中に微小空孔を分散させるものが種々知られている(特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8等)。
【特許文献1】特開平6−3501号公報
【特許文献2】特開平10−282305号公報
【特許文献3】特開2002−311210号公報
【特許文献4】特開2004−171023号公報
【特許文献5】国際公開WO00/37359号明細書
【特許文献6】特開2003−261797号公報
【特許文献7】特開平7−306529公報
【特許文献8】特開2003−334548号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、透明材料中に微小空孔を分散させた低屈折材料の作製方法として、安価に大量に作製でき、大面積化が容易な方法は知られていなかった。
【0008】
本発明は従来技術のこのような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、液体状の硬化型材料に物理的に気泡を混入することで、安価に大量に作製でき、大面積化が容易な低屈折材料の作製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明の低屈折率材料の作製方法は、液体の状態から固体に硬化させて用いる硬化型材料が液体の状態において、物理的に微小な気泡を混入させて屈折率を低くしたことを特徴とする方法である。
【0010】
この場合に、液体の状態の硬化型材料中で、回転運動や往復運動等の運動により気泡を粉砕して小さくする工程と、その工程前あるいはその工程と同時に粉砕前の気泡を混入させる工程を含むことが望ましい。
【0011】
また、気泡を粉砕して小さくする工程前あるいはその工程と同時に気泡を混入させる工程において、微細開口を通して気体を連続的又は断続的に液体の状態の硬化型材料中に送り込むことで粉砕前の気泡を混入させることができる。
【0012】
また、硬化型材料に混入させた微小な気泡の平均的大きさが使用波長オーダー以下であることが望ましい。
【0013】
また、硬化型材料に混入させた微小な気泡の材料硬化後の平均的大きさが使用波長オーダー以下であることが望ましい。
【0014】
なお、硬化型材料としては、紫外線硬化型樹脂、熱硬化型樹脂がある。
【0015】
本発明は、以上のような低屈折率材料の作製方法により作製された液体状若しくは固体化状の低屈折率材料を含むものである。
【発明の効果】
【0016】
以上の本発明の低屈折率材料の作製方法により、低屈折材料を安価に大量に作製することができる。また、低屈折材料からなる板状透明体等の大面積化も容易となる。
【0017】
本発明の低屈折率材料の作製方法により作製した低屈折材料を用いることで、反射防止膜を始めとする光学素子を安価に実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の低屈折材料の作製方法は、液体状の硬化型材料に物理的に気泡を混入することで屈折率を低くする方法であり、特に、気泡の平均径を使用波長オーダー以下にすることで散乱等の光学的ノイズをほとんどなくすことができるものである。
【0019】
以下に、実施例に基づいて本発明の低屈折材料の作製方法及びその方法で作製された低屈折材料を説明する。
【0020】
液体状の紫外線硬化型樹脂に、10μm径の管状の穴がアレイ状になった物体を挿入し、樹脂を流動させながら空気を反対側から断続的に送り込んだ。これにより、10μmオーダーの気泡群が該樹脂に含まれることになる。そして、この10μmオーダーの気泡群が混入された紫外線硬化型樹脂を泡立て装置に入れて、空気の泡を細かく粉砕することにより、混入している気泡の平均径が200nm程度の樹脂ができた。
【0021】
用いた気泡の泡立て装置として、一般的なナノ粒子の粉砕装置を利用した。具体的には、ビーズミルと呼ばれる湿式微粉砕装置(例えば、アシザワ・ファインテック(株)製)であり、この粉砕装置では、図1(a)に装置の模式図を、図1(b)に粉砕の様子を示す模式図を示すように、粉砕してナノ粒子にする対象となる気体の泡1が未硬化の紫外線硬化型樹脂2中に浮いたスラリー3を入口5から容器4内に供給して、容器4内でスラリー3中にビーズ6を混入させ、回転体7によってビーズ6が混入したスラリー3を容器4内で回転運動させ、その回転運動中に泡1がビーズ6間に挟まれることでより細かい泡1’に粉砕されていく。
【0022】
ビーズ6の大きさは数十〜数百μm程度、気体の泡1の大きさは粉砕後の最終的な大きさを小さくするためにはやはり数十〜数百μmから始めるのが望ましい。なお、気体の泡1’が所望のナノ気泡(ナノ粒子)になった後、ビーズ6は出口8に配置された分離機構で分離される。
【0023】
このように、粉砕装置を泡立て装置として用いて、気泡1の大きさが数十〜数百μmのものが含まれる紫外線硬化型樹脂2にビーズ6を混入して、回転運動により細かい泡1’に粉砕することで、さらに小さい気泡1’の混入した紫外線硬化型樹脂2を作製した。
【0024】
ここで、紫外線硬化型樹脂2について、モノマーに数%の重合開始剤を添加したものを用いた。その屈折率、粘度等は、重合開始剤が少ないため、モノマーの特性近い。具体的に、モノマー:日本化薬(株)のSR−213(屈折率1.454、粘度8mPaS(25℃)、透明液体)、重合開始剤:チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)のイルカキュア907を用いた。
【0025】
次に、2枚のガラスの各片面に離型剤を塗布し、これらを内側にしてスペーサで3mm厚に保ち、その間に気泡1’の混入した紫外線硬化型樹脂2を挟み、その樹脂2を紫外線で硬化させた。その結果、板状の樹脂の透明体が作製された。硬化後の気泡の平均径は硬化前とほとんど変わらず200nm程度であって、可視光域の波長400〜700nmに対して散乱等の光学的ノイズはほとんど見られなかった。
【0026】
屈折率は、(1)樹脂に気泡を混入させずに硬化した場合は1.454であったのに対して、(2)混入させて硬化した板状の透明体では1.345であった。その光学特性は垂直入射に対して、以下の表1の通りとなった。ここでは以上の2通りの他に、(3)屈折率1.454の基板の片面に上記の気泡を混入した樹脂を均一膜厚(μmオーダー)で塗布して硬化させ、さらにもう片面にも同様に塗布した基板も(3)として載せてある。
【0027】
通常のガラス板等に相当する(1)に対して、透過率は(2)>(3)>(1)と改善していることが分かる。
〔表1〕
屈折率 透過率[%](両面の反射を考慮;吸収なし)
(1)1.454 93.4
(2)1.345 95.8
(3)1.454 (両面に1.345 の薄膜) 95.1
本発明において、硬化型樹脂中に混入した気泡を使用波長オーダー以下の径に物理的に粉砕するために、以上のビーズミルに限定されず、回転運動や往復運動等の運動により気泡を粉砕する種々の方法が利用できる。
【0028】
また、気泡の泡立て装置(粉砕装置)から取り出された液体状の硬化型樹脂中に径の大きな気泡が残っている場合には、それを取り除くフィルター処理等をすることが望ましい。
【0029】
また、硬化型樹脂も紫外線硬化型樹脂に限定されず、熱硬化型樹脂、電子線硬化型樹脂等の他の硬化型樹脂を用いることができる。
【0030】
さらに、泡立て装置(粉砕装置)で気泡を使用波長オーダー以下の径に粉砕する前に硬化型樹脂中に大きな径の気泡を混入する方法としては、微細開口を通して気体を連続的又は断続的に送り込む方法以外に、通常の食品加工用に用いる泡立て器(細いU次状のワイヤを高速で回転させる装置)を用いて気泡を混入させる方法等を利用してもよい。
【0031】
なお、本発明による低屈折材料は、以上のような単体の光学素子用低屈折材料以外にも、反射防止膜、多層膜等に用いる低屈折材料として使用可能である。また、他の例として、レリーフ型回折格子の微細な凹凸が空気等の雰囲気に剥き出しになっているためにその凹凸が埋まり性能低下を来す問題に対して、その凹凸を本発明による低屈折材料で覆うことでその埋まりの問題を解消することができる。
【0032】
以上、本発明の低屈折材料の作製方法及びその方法で作製された低屈折材料を実施例に基づいて説明してきたが、これら実施例に限定されず種々の変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の1実施例の低屈折率材料の作製方法に用いる湿式微粉砕装置の模式図(a)とその装置を用いて気泡を粉砕する様子を示す模式図(b)である。
【符号の説明】
【0034】
1…気体の泡
1’…粉砕された細かい泡
2…未硬化の紫外線硬化型樹脂
3…スラリー
4…容器
5…入口
6…ビーズ
7…回転体
8…出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体の状態から固体に硬化させて用いる硬化型材料が液体の状態において、物理的に微小な気泡を混入させて屈折率を低くしたことを特徴とする低屈折率材料の作製方法。
【請求項2】
液体の状態の硬化型材料中で、回転運動や往復運動等の運動により気泡を粉砕して小さくする工程と、その工程前あるいはその工程と同時に粉砕前の気泡を混入させる工程を含むことを特徴とする請求項1記載の低屈折率材料の作製方法。
【請求項3】
気泡を粉砕して小さくする工程前あるいはその工程と同時に気泡を混入させる工程において、微細開口を通して気体を連続的又は断続的に液体の状態の硬化型材料中に送り込むことで粉砕前の気泡を混入させることを特徴とする請求項1又は2記載の低屈折率材料の作製方法。
【請求項4】
硬化型材料に混入させた微小な気泡の平均的大きさが使用波長オーダー以下であることを特徴とする請求項1から3の何れか1項記載の低屈折率材料の作製方法。
【請求項5】
硬化型材料に混入させた微小な気泡の材料硬化後の平均的大きさが使用波長オーダー以下であることを特徴とする請求項1から4の何れか1項記載の低屈折率材料の作製方法。
【請求項6】
硬化型材料が紫外線硬化型樹脂であることを特徴とする請求項1から5の何れか1項記載の低屈折率材料の作製方法。
【請求項7】
硬化型材料が熱硬化型樹脂であることを特徴とする請求項1から5の何れか1項記載の低屈折率材料の作製方法。
【請求項8】
請求項1から7の何れか1項記載の低屈折率材料の作製方法により作製された液体状若しくは固体化状の低屈折率材料。

【図1】
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【公開番号】特開2006−349829(P2006−349829A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−173761(P2005−173761)
【出願日】平成17年6月14日(2005.6.14)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】