説明

低屈折率コーティング剤、反射防止フィルム、偏光板、透過型液晶ディスプレイ

【課題】本発明にあっては、ムラのない平滑性に優れた面を得るために、高い固形分濃度においても低い表面張力を維持し、レベリング性に優れた低屈折コーティング剤を塗液として提供することを課題とする。
【解決手段】電離放射線硬化型材料と溶媒を含む低屈折率コーティング剤であって、反応基を持たないポリエーテル変性ポリシロキサンを含み、且つ、固形分濃度3.5wt%の表面張力(A)を基準とした際の固形分濃度70wt%における表面張力(B)の変化率((B−A)/A×100)が0%以上7%以下の範囲内であり、且つ、固形分濃度70wt%の表面張力(B)を基準とした際の最も高い固形分濃度における表面張力(C)の変化率((B−C)/B×100)の最大値が15%以上30%以下の範囲内であることを特徴とする低屈折率コーティング剤とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低屈折率コーティング剤及び低屈折率コーティング剤から形成される低屈折率層を透明基材上に設けたディスプレイ(液晶ディスプレイ、CRTディスプレイ、プロジェクションディスプレイ、プラズマディスプレイ、ELディスプレイ等)の表示画面表面に適用される反射防止フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
多くのディスプレイは、室内外を問わず外光などが入射するような環境下で使用される。この外光などの入射光は、ディスプレイ表面等において正反射され、反射像が表示光と混合し表示品質を低下させ、表示画像を見えにくくしている。特に、最近のオフィスのOA化に伴い、コンピューターを使用する頻度が増し、ディスプレイと相対していることが長時間化した。これにより反射像等による表示品質の低下は、目の疲労など健康障害等を引き起こす要因とも考えられている。更には、近年ではアウトドアライフの普及に伴い、各種ディスプレイを室外で使用する機会が益々増える傾向にあり、表示品質をより向上して表示画像を明確に認識できるような要求が出てきている。これらの要求を満たす為の例として、透明プラスチックフィルム基材の表面に透明な微粒子を含むコーティング層を形成し、凹凸状の表面により外光を乱反射させることが知られている。
【0003】
これとは別に、透明プラスチックフィルム基材の表面に、金属酸化物などから成る高屈折率層と低屈折率層を積層した、あるいは無機化合物や有機フッ素化合物などの低屈折率層を単層で形成した可視光の広範囲にわたり反射防止効果を有する反射防止フィルムをディスプレイ表面に貼り合わせる等して利用することが知られている。
【0004】
上記の金属化合物などから成る高屈折率層と低屈折率層を積層した、あるいは無機化合物や有機フッ素化合物などの低屈折率層を単層で形成した反射防止層は、一般的に、PVD(Physical Vapor Deposition)法(真空蒸着法、反応性蒸着法、イオンビームアシスト法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等)、CVD(Chemical Vapor Deposition)法等のドライコーティング法により形成される。このようなドライコーティング法は、基材の大きさが限定され、又、連続生産には適さなく、生産コストが高いという欠点が有る。
【0005】
そこで、大面積化、および連続生産ができ、低コスト化が可能なウエットコーティング法による反射防止フィルムの生産が注目されている。ウエットコーティング法による低屈折率層を得る手段としては、屈折率の低いフッ素元素を含有する材料を用いる手法と、層中に空孔を設け、空気の混入により屈折率を低くする手法とに大別される。
【0006】
上記の手法により、低屈折率層を構成する具体的な材料としては、フッ素含有有機材料、低屈折率の微粒子等が挙げられ、これらの材料を単独に、あるいは組み合わせることが提案されている。例えば、特許文献1には、フッ素含有有機材料を用いることが提案されている。特許文献2には、フッ素含有有機材料と低屈折率微粒子を用いることが提案されている。特許文献3には、フッ素含有有機材料とアルコキシシランを用いることが提案されている。特許文献4には、アルコキシシランと低屈折率微粒子を用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2−19801号公報
【特許文献2】特開平6−230201号公報
【特許文献3】特開平7−331115号公報
【特許文献4】特開平8−211202号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】コーティング用添加剤の最新技術、桐生春雄監修、シーエムシー、2001年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、プラズマディスプレイパネルなどの光学フィルムがその一部に用いられているディプレイを有する薄型テレビジョンなどの価格競争は極めて熾烈であり、これらに用いられる光学用フィルムのコストダウンの要求も極めて高くなってきている。しかしながら、塗液を用いたオールウェット塗布は生産性の観点からは非常に有利である反面、塗布直後の溶剤乾燥を一定に保つことが非常に困難で、面状ムラが生じやすい。ここでいう面状ムラの代表的なものとしては溶剤乾燥速度差に起因する乾燥ムラや乾燥風で引き起こされる厚みムラである風ムラが挙げられる。オールウェット塗布においてより生産性を向上させるために、塗布速度を高くすることは必須の技術である。だが単純に、塗布速度を高くすると相対的に乾燥風の風速も高くなり、また支持体の高速移動に伴う同伴風の影響も受け、風ムラは悪化することになる。こうして従来では光学性能、膜物性のバラツキを抑えた反射防止膜を得るためには、塗布速度をあまり高くすることはできなかった。
【0010】
一方、乾燥時のムラを低減させるためにはレベリング性を向上させることが有効であることが知られている。レベリング性を向上させる一つの手段として、塗液中にレベリング剤を添加する方法が提案されている。塗液にレベリング剤を添加すると塗膜形成過程での表面張力変化を小さく、または低下させて熱対流を防止して膜の均一性を改良するという機構に基づいている(非特許文献1)。物質の濡れ性は、主に塗料の表面張力と被塗物の表面張力による。一般的には、塗液の表面張力は被塗物の表面張力よりも低いか少なくとも同程度でなくてはならない。塗液の表面張力が被塗膜の表面張力よりも高い時には、濡れ不良(塗液の「めくれ」や「球状化」)が予想される。表面張力の低い素地(プラスチックや石化品等)は濡らすのが容易ではない。目的とする塗布組成物中の溶剤、樹脂、各種添加剤との相溶性などにより最適なレベリング剤種は異なるが、塗液を用いて塗布する場合にはシリコン系レベリング剤を用いるのが有効である。シリコン系レベリング剤の主な特徴は、塗液の表面張力を低下させる能力にある。表面欠陥は表面張力に由来し、これらの添加剤によりこのように克服することができるので非常に有益である。
【0011】
しかしながら、シリコン系レベリング剤を用いると乾燥ムラや風ムラは良化するものの、膜物性が悪化する問題が発生する。特にシリコン系レベリング剤を添加した塗液を塗布した場合に、形成される層表面の耐擦傷性が低下する問題が顕著に発生する。
【0012】
本発明にあっては、ムラのない平滑性に優れた面を得るために、高い固形分濃度においても低い表面張力を維持し、レベリング性に優れた低屈折コーティング剤を塗液として提供することを課題とする。また得られた低屈折率コーティング剤を塗布し、優れた密着性、耐擦傷性を持ち合わせた、外観ムラの少ない低屈折率層を形成し、光学用途に適した反射防止フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、固形分濃度3.5wt%の表面張力(A)を基準とした際に、70wt%の表面張力(B)の変化率((B−A)/A×100)が0%以上7.0%以下の範囲内とある程度一定の表面張力を示し、かつ、固形分濃度70wt%の表面張力(B)を基準とした際の固形分濃度70wt%より大きい領域における表面張力(C)の変化率((B−C)/B×100)の最大値が15%以上30%以下の範囲内であるシリコン系レベリング剤を含む低屈折率コーティング剤が、ムラのない優れた面を形成することを見いだいした。また、シリコン系レベリング剤と形成される低屈折率層の特性との関係について精査した結果、反応性基を有するシリコン系レベリング剤を添加したものは、乾燥ムラに対する効力が出る濃度以下において耐擦傷性が悪化することが確認された。これは反応性基を持つシリコン系レベリング剤のほうが、塗膜表面に固定されるため、塗液中の耐擦傷性に寄与する撥水剤成分の塗膜表面存在量が低下し、擦傷性に影響をもたらすものと考えられる。一方、反応性基を持たないシリコン系レベリング剤にあっては、乾燥ムラに対する効力が出る濃度以下において耐擦傷性が悪化しないことが確認された。
【0014】
上記課題を解決するために請求項1に係る発明としては、電離放射線硬化型材料と溶媒を含む低屈折率コーティング剤であって、反応基を持たないポリエーテル変性ポリシロキサンを含み、且つ、固形分濃度3.5wt%の表面張力(A)を基準とした際の固形分濃度70wt%における表面張力(B)の変化率((B−A)/A×100)が0%以上7%以下の範囲内であり、且つ、固形分濃度70wt%の表面張力(B)を基準とした際の最も高い固形分濃度における表面張力(C)の変化率((B−C)/B×100)の最大値が15%以上30%以下の範囲内であることを特徴とする低屈折率コーティング剤とした。
【0015】
また、請求項2に係る発明としては、前記反応基を持たないポリエーテル変性ポリシロキサンが前記低屈折率コーティング剤の固形分に対して0.01wt%以上2.7wt%以下の範囲内で含有していることを特徴とする請求項1記載の低屈折率コーティング剤とした。
【0016】
また、請求項3に係る発明としては、前記低屈折率コーティング剤の固形分に対して50wt%以上60wt%以下の範囲内で内部に空隙を有するシリカ粒子を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の低屈折率コーティング剤とした。
【0017】
また、請求項4に係る発明としては、透明基材上に、請求項1乃至3のいずれかに記載の低屈折率コーティング剤を塗布し、電離放射線を照射することにより形成される低屈折率層を備えることを特徴とする反射防止フィルムとした。
【0018】
また、請求項5に係る発明としては、前記透明基材と前記低屈折率層の間にハードコート層を備えることを特徴とする請求項4記載の反射防止フィルムとした。
【0019】
また、請求項6に係る発明としては、請求項4または請求項5記載の反射防止フィルムの低屈折率層が設けられている側と反対側の面に偏光層、透明基材を備える偏光板とした。
【0020】
また、請求項7に係る発明としては、請求項6記載の偏光板、液晶セル、偏光板、バックライトユニットをこの順に備えることを特徴とする透過型液晶ディスプレイとした。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、乾燥ムラに対する効力を示す指標として、固形分濃度3.5wt%の表面張力(A)を基準とした際に、70wt%の表面張力(B)の変化率((B−A)/A×100)が0%以上7.0%以下の範囲内とある程度一定の表面張力を示し、かつ、固形分濃度70wt%の表面張力(B)を基準とした際の最も高い固形分濃度における表面張力(C)の変化率((B−C)/B×100)の最大値が15%以上30%以下の範囲内であるシリコン系レベリング剤として反応基を持たないポリエーテル変性ポリシロキサンを含む塗液が、ムラのない優れた面を形成することを見出しだすことができた。またその低屈折率コーティング剤を塗工し、優れた密着性、耐擦傷性を持ち合わせた、外観ムラの少ない光学用途に適した反射防止フィルムを提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】(図1)は本発明の反射防止フィルムの断面模式図である。
【図2】(図2)は本発明の反射防止フィルムを用いた偏光板の断面模式図である。
【図3】(図3)は本発明の反射防止フィルムを備える透過型液晶ディスプレイの断面模式図である。
【図4】図4は(実施例)において各低屈折率コーティング剤(LR−1、LR−2、LR−3、LR−7)の各固形分における表面張力変化の測定結果を示した図である。
【図5】図5は(実施例)において各低屈折率コーティング剤(LR−1、LR−2、LR−3、LR−7)の各固形分における粘度変化の測定結果を示した図である。
【図6】図6は(実施例)において各低屈折率コーティング剤(LR−1、LR−2、LR−3、LR−7)の各固形分におけるレベリング性変化の測定結果を示した図である。
【図7】図7は(実施例)において各低屈折率コーティング剤(LR−4、LR−5、LR−6、LR−7)の各固形分における表面張力変化の測定結果を示した図である。
【図8】図8は(実施例)において各低屈折率コーティング剤(LR−4、LR−5、LR−6、LR−7)の各固形分における粘度変化の測定結果を示した図である。
【図9】図9は(実施例)において各低屈折率コーティング剤(LR−4、LR−5、LR−6、LR−7)の各固形分におけるレベリング性変化の測定結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の低屈折率コーティング剤について説明する。
【0024】
本発明の低屈折率コーティング剤は、低屈折率層形成材料と溶媒を含む。また、本発明の低屈折率コーテイング剤は、シリコン系レベリング剤として反応基を持たないポリエーテル変性ポリシロキサンを含むことを特徴とする。・
【0025】
低屈折率コーティング剤中に反応基を持たないポリエーテル変性ポリシロキサンを添加することにより、レベリング性を向上させ、ムラの少ない反射防止フィルムとすることができる。具体的には、、固形分濃度3.5wt%の表面張力(A)を基準とした際の固形分濃度70wt%における表面張力(B)の変化率((B−A)/A×100)が0%以上7%以下の範囲内であり、且つ、固形分濃度70wt%の表面張力(B)を基準とした際の固形分濃度70wt%より大きい領域における表面張力(C)の変化率((B−C)/B×100)の最大値が15%以上30%以下の範囲内の低屈折率コーティング剤とすることができる。
【0026】
なお、本発明において「反応基を持たない」とは、低屈折率層形成材料と反応する基を持たないという意味である。具体的には、本発明の低屈折率コーティング剤は低屈折率層形成材料として電離放射線硬化型材料を含むためこの電離放射線硬化型材料と反応する反応基を持たないという意味であり、具体的には炭素−炭素不飽和二重結合もしくは三重結合を持たないという意味である。
【0027】
本発明者は、シリコン系レベリング剤を添加した低屈折率コーティング剤によって形成される低屈折率層の特性との関係について精査した結果、様々なシリコン系レベリング剤の中でも反応性基を持たないシリコン系レベリング剤の方が形成される低屈折率層の耐擦傷性に影響が少ないことを見出した。反応性基を有するシリコン系レベリング剤を添加したものは、乾燥ムラに対する効力が出る濃度以下において耐擦傷性が悪化した。これは反応性基を持つシリコン系レベリング剤のほうが、低屈折率層内部に固定されるため、低屈折率層中の耐擦傷性に寄与する撥水剤成分の表面存在量が低下し、耐擦傷性に影響をもたらすものと考えられる。
【0028】
本発明の低屈折率コーティング剤は、固形分濃度3.5wt%の表面張力(A)を基準とした際の固形分濃度70wt%における表面張力(B)の変化率((B−A)/A×100)が0%以上7%以下の範囲内であり、且つ、固形分濃度70wt%の表面張力(B)を基準とした際の最も高い固形分濃度における表面張力(C)の変化率((B−C)/B×100)の最大値が15%以上30%以下の範囲内であることを特徴とする。
【0029】
本発明者は、低屈折率コーティング剤の固形分濃度3.5wt%の表面張力(A)を基準とした際の固形分濃度70wt%における表面張力(B)の変化率((B−A)/A×100)が0%以上7%以下の範囲内であり、且つ、固形分濃度70wt%の表面張力(B)を基準とした際の固形分濃度70wt%より大きい領域における表面張力(C)の変化率((B−C)/B×100)の最大値が15%以上30%以下の範囲内とすることにより、形成される低屈折率層がムラのない優れた面を有することを見出した。
【0030】
固形分濃度3.5wt%の表面張力(A)を基準とした際の固形分濃度70wt%における表面張力(B)の変化率((B−A)/A×100)が7.0%を超える場合にあっては、形成される低屈折率層にムラが発生してしまう。ここで、変化率((B−A)/A×100)は小さければ小さいほど好ましいが、0%を下回るような低屈折率コーティング剤を作製することは困難である。本発明にあっては、変化率((B−A)/A×100)を0%以上7.0%以下の範囲内を満たす低屈折率コーティング剤とすることにより、形成される低屈折率層をムラのないものとすることができる。
【0031】
また、固形分濃度70wt%の表面張力(B)を基準とした際の最も高い固形分濃度における表面張力(C)の変化率((B−C)/B×100)が15%に満たない場合にあっては、形成される低屈折率層にムラが発生してしまう。変化率((B−C)/B×100)は大きければ大きいほど好ましいが、変化率((B−C)/B×100)が30%を超えるような低屈折率コーティング剤を作製することは困難である。本発明にあっては、変化率((B−C)/B×100)を15%以上30%以下の範囲内を満たす低屈折率コーティング剤とすることにより、形成される低屈折率層をムラのないものとすることができる。
【0032】
本発明の低屈折率コーティング剤において、固形分濃度3.5wt%の表面張力(A)、固形分濃度70wt%における表面張力(B)、最も高い固形分濃度における表面張力(C)は白金プレート法により測定される。また、本発明の低屈折率コーティング剤の各固形分濃度における表面張力は、低屈折率コーティング剤に含まれるオーブン等で徐々に蒸発させて測定することができる。各固形分濃度における低屈折率コーティング剤の表面張力の測定にあっては液温は30℃以下にまで冷却した上で測定される。
【0033】
なお本発明において、低屈折率コーティング剤の最も高い固形分濃度における表面張力(C)とは、低屈折率コーティング剤の固形分濃度を徐々に上昇させて表面張力を測定させていった際に、白金プレート法により表面張力を測定できる固形分濃度の最大値における表面張力をさす。具体的には、低屈折率コーティング剤の固形分濃度を徐々に上昇させて表面張力を測定させていった際の表面張力が10mN/m以下を示した場合には測定不能とし、その直前の固形分濃度における表面張力値を最も高い固形分濃度における表面張力(C)としている。
【0034】
また、本発明の低屈折率コーティング剤にあっては、反応基を持たないポリエーテル変性ポリシロキサンが低屈折率コーティング剤の固形分に対して0.01wt%以上2.7wt%以下の範囲内で含有していることが好ましい。反応基を持たないポリエーテル変性ポリシロキサンの含有量を低屈折率コーティング剤の固形分に対して0.01wt%以上2.7wt%以下の範囲内とすることにより、容易に、変化率((B−A)/A×100)を0%以上7%以下の範囲内とし、且つ、変化率((B−C)/B×100)の最大値を15%以上30%以下の範囲内の低屈折率コーティング剤とすることができ、また、低屈折率コーティング剤によって形成される低屈折率層を耐擦傷性に優れたものとすることができる。反応基を持たないポリエーテル変性ポリシロキサンが低屈折率コーティング剤の固形分に対して0.01wt%に満たない場合には、形成される低屈折率層にムラが発生してしまうことがある。一方、反応基を持たないポリエーテル変性ポリシロキサンが低屈折率コーティング剤の固形分に対して2.7wt%を超える場合にはポリエーテル変性ポリシロキサンがブリードアウトしてしまい低屈折率層表面が粉化してしまうことがある。
【0035】
また、本発明の低屈折率コーティング剤にあっては、低屈折率コーティング剤の固形分に対して50wt%以上60wt%以下の範囲内で内部に空隙を有するシリカ粒子を含むことが好ましい。内部に空隙を有するシリカ粒子にあっては、空隙の部分を空気の屈折率(≒1)とすることができるため、非常に低い屈折率を備える低屈折率粒子とすることができ、内部に空隙を有するシリカ粒子を含む低屈折率コーティング剤を用いることにより、低い屈折率を備え、優れた反射防止性能を備える低屈折率層を形成することができる。内部に空隙を有するシリカ粒子の含有量が固形分に対して50wt%に満たない場合にあっては、形成される低屈折率層の屈折率を十分に低くすることができなくなってしまうことがある。また、内部に空隙を有するシリカ粒子の含有量が固形分に対して60wt%を超える場合にあっては、形成される低屈折率層の耐擦傷性が低下してしまうことがある。
【0036】
本発明の低屈折率コーティング剤にあっては低屈折率層形成材料と溶媒と内部に空隙を有するシリカ粒子と反応基を持たないポリエーテル変性ポリシロキサンを含むことを特徴とし、低屈折率コーティング剤を塗布することにより低屈折率層を形成することができる。さらには、本発明の低屈折率コーティング剤にあっては低屈折率層形成材料が電離放射線硬化型材料を含み、低屈折率コーティング剤を塗布し塗膜を形成し、該塗膜を乾燥させ溶媒を除去した後、電離放射線を照射することにより塗膜を硬化させ低屈折率層を形成することができる。
【0037】
図1に本発明の反射防止フィルムの断面模式図を示した。本発明の反射防止フィルムにあっては透明基材11の少なくとも一方の面にハードコート層12と低屈折率層13を順に備える。透明基材11にハードコート層12を設けることにより、反射防止フィルム1表面に高い表面硬度を付与することができ、耐擦傷性に優れた反射防止フィルムとすることができる。また、ハードコート層12上には低屈折率層13が設けられる。可視光領域において波長の1/4となるような光学膜厚を有する層厚の低屈折率層を設けることにより、反射防止フィルム表面に入射する外光の反射を抑制することができる。
【0038】
本発明の反射防止フィルムにあっては図1に示した構成の反射防止フィルムに限定されるものではない。例えば、透明基材11とハードコート層12の間、ハードコート層12と低屈折率層13の間に帯電防止層を設けることができる。帯電防止層を設けることにより、反射防止フィルムに帯電防止性能を付与することができる。
【0039】
図2に本発明の反射防止フィルムを用いた偏光板の断面模式図を示した。偏光板2は2つの透明基材間に偏光層が狭持された構造をとる。本発明の偏光板2にあっては、反射防止フィルム1の透明基材11の低屈折率層13が設けられている反対側の面に、偏光層23、透明基材22を順に備える。すなわち、反射防止フィルム1の透明基材11が、偏光層を狭持するための透明基材を兼ねる構造となっている。
【0040】
次に、本発明の反射防止フィルムを用いた透過型液晶ディスプレイについて説明する。
【0041】
図3に本発明の反射防止フィルムを備える透過型液晶ディスプレイの断面模式図を示した。図3の透過型液晶ディスプレイにおいては、バックライトユニット5、偏光板4、液晶セル3、反射防止フィルム1を含む偏光板2をこの順に備えている。このとき、反射防止フィルム側が観察側すなわちディスプレイ表面となる。
【0042】
バックライトユニットは、光源と光拡散板を備える。液晶セルは、一方の透明基材に電極が設けられ、もう一方の透明基材に電極及びカラーフィルターを備えており、両電極間に液晶が封入された構造となっている。2つの偏光板は液晶セルを挟むように設けられる。
【0043】
また、本発明の透過型液晶ディスプレイにあっては、他の機能性部材を備えても良い。他の機能性部材としては、例えば、バックライトから発せられる光を有効に使うための、拡散フィルム、プリズムシート、輝度向上フィルムや、液晶セルや偏光板の位相差を補償するための位相差フィルムが挙げられるが、本発明の透過型液晶ディスプレイはこれらに限定されるものではない。
【0044】
本発明の低屈折率コーティング剤についてさらに詳細に説明する。
【0045】
本発明の低屈折率コーティング剤にあっては、低屈折率層形成材料と溶媒とシリコン系レベリング剤として反応基を持たないポリエーテル変性ポリシロキサンを含む。低屈折率層形成材料としては、電離放射線硬化型材料を含む。本発明にあっては、電離放射線硬化型材料を含む低屈折率層形成材料を備える低屈折率コーティング剤を用い、低屈折率コーティング剤を塗布し塗膜を形成し、該塗膜を乾燥させ溶媒を除去した後、電離放射線を照射することにより塗膜を硬化させ低屈折率層を形成することができる。
【0046】
電離放射線硬化型材料としては、アクリル系材料を用いることができる。アクリル系材料としては、多価アルコールのアクリル酸またはメタクリル酸エステルのような多官能または多官能の(メタ)アクリレート化合物、ジイソシアネートと多価アルコール及びアクリル酸またはメタクリル酸のヒドロキシエステル等から合成されるような多官能のウレタン(メタ)アクリレート化合物を使用することができる。またこれらの他にも、電離放射線型材料として、アクリレート系の官能基を有するポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂等を使用することができる。
【0047】
なお、本発明において「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート」と「メタクリレート」の両方を示している。たとえば、「ウレタン(メタ)アクリレート」は「ウレタンアクリレート」と「ウレタンメタアクリレート」の両方を示している。
【0048】
単官能の(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルフォリン、N−ビニルピロリドン、テトラヒドロフルフリールアクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、リン酸(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性リン酸(メタ)アクリレート、フェノキシ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性フェノキシ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性フェノキシ(メタ)アクリレート、ノニルフェノール(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロゲンフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルハイドロゲンフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロハイドロゲンフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルテトラヒドロハイドロゲンフタレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2−アダマンタンおよびアダマンタンジオールから誘導される1価のモノ(メタ)アクリレートを有するアダマンチルアクリレートなどのアダマンタン誘導体モノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0049】
前記2官能の(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートなどのジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0050】
前記3官能以上の(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス2−ヒドロキシエチルイソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の3官能の(メタ)アクリレート化合物や、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンヘキサ(メタ)アクリレート等の3官能以上の多官能(メタ)アクリレート化合物や、これら(メタ)アクリレートの一部をアルキル基やε−カプロラクトンで置換した多官能(メタ)アクリレート化合物等が挙げられる。
【0051】
アクリル系材料の中でも、所望する分子量、分子構造を設計でき、形成されるハードコート層の物性のバランスを容易にとることが可能であるといった理由から、多官能ウレタンアクリレートを好適に用いることができる。ウレタンアクリレートは、多価アルコール、多価イソシアネート及び水酸基含有アクリレートを反応させることによって得られる。具体的には、共栄社化学社製、UA−306H、UA−306T、UA−306l等、日本合成化学社製、UV−1700B、UV−6300B、UV−7600B、UV−7605B、UV−7640B、UV−7650B等、新中村化学社製、U−4HA、U−6HA、UA−100H、U−6LPA、U−15HA、UA−32P、U−324A等、ダイセルユーシービー社製、Ebecryl−1290、Ebecryl−1290K、Ebecryl−5129等、根上工業社製、UN−3220HA、UN−3220HB、UN−3220HC、UN−3220HS等を挙げることができるがこの限りではない。
【0052】
またこれらの他にも、電離放射線型材料として、アクリレート系の官能基を有するポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂等を使用することができる。
【0053】
また、低屈折率コーティング剤を塗布後紫外線により硬化させる場合にあっては、低屈折率層コーティング剤に光重合開始剤を添加する。光重合開始剤としては、紫外線が照射された際にラジカルを発生するものであれば良く、例えば、アセトフェノン類、ベンゾイン類、ベンゾフェノン類、ホスフィンオキシド類、ケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類を用いることができる。
【0054】
低屈折率コーティング剤に加えられる溶媒としては、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、シクロヘキシルベンゼンなどの芳香族炭化水素類、n−ヘキサンなどの炭化水素類、ジブチルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、プロピレンオキシド、ジオキサン、ジオキソラン、トリオキサン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトール等のエーテル類、また、メチルイソブチルケトン、メチルブチルケトン、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、およびメチルシクロヘキサノン等のケトン類、また蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸n−ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酢酸n−ペンチル、およびγ−プチロラクトン等のエステル類、さらには、メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、セロソルブアセテート等のセロソルブ類、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、水等の中から塗工適正等を考慮して適宜選択される。
【0055】
本発明の低屈折率コーティング剤にあっては、反応性基を持たないポリエーテル変性ポリシロキサンを含む。一般に、シリコン系レベリング剤はポリメチルシロキサンを基本構造とする誘導体である。現在使用されているシリコン系添加剤の多くは有機変性ポリシロキサンであり、ほとんどの場合、最も重要な特徴はポリエーテル変性による側鎖の付加である。(化1)にポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンの構造式を示す。
【0056】
【化1】

【0057】
ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンにあっては、ポリエーテルの種類及びその付加数により、相溶性が変化し、ジメチル基とポリエーテル変性基の関係あるいは割合により相溶性の度合いがコントロールできる。これは同時に表面張力にも影響し、構成成分の極性によって変化する。例えば、経験的にジメチル基の多い方が、表面張力は低くなる。更に、ポリエーテル鎖の構造自体も様々考えられる。ここで、非常に重要なファクターは、構成成分の極性である。ポリエーテル鎖はエチレンオキサイド(EO)、プロピレンオキサイド(PO)で構成される。ポリエチレンオキサイドは、親水性(高極性)だが、ポリプロピレンオキサイドは疎水性(非極性)である。EOとPOの割合を変化させると、シリコン系レベリング剤全体の極性をコントロールあるいは変化させることができる。例えば、EOの割合が高ければ、極性は高くなり、水溶性を示すので、極性の高い塗料との相溶性が良くなる。このため、泡の安定化傾向は強くなる。一方、POの割合が高くなると、水への溶解性が低下し、泡の安定化傾向も低下する。
【0058】
また反応基を有するシリコン系レベリング剤は、あえて積極的に官能基を導入し、膜に固定することで、効果の永続性を意図したものである。官能基にはOH基のタイプや二重結合タイプなどがある。OH基はメラミン架橋やイソシアネ−ト(NCO)架橋系と反応する。二重結合はUV架橋系で用いられる。いずれも、液が塗工され、セッティング時に気液界面に配向し、成膜、架橋過程で、基体樹脂と反応することで、膜表面に固定される。(化2)に二重結合タイプのポリエーテル変性アクリル基を有するポリジメチルシロキサンの構造式を示す。
【0059】
【化2】

【0060】
本発明の低屈折率コーティング剤にあっては、(化2)に示すような反応基を有するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンではなく、(化1)に示すような反応基を持たないポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンを含むことを特徴とする。
【0061】
また、低屈折率コーティング剤にあっては低屈折率粒子を含むことが好ましい。低屈折粒子を含むことにより、低屈折率化が可能となる。低屈折粒子としては、LiF、MgF、3NaF・AlFまたはAlF(いずれも、屈折率1.4)、または、NaAlF(氷晶石、屈折率1.33)等の低屈折材料からなる低屈折率粒子を用いることができる。また、粒子内部に空隙を有する粒子を好適に用いることができる。粒子内部に空隙を有する粒子にあっては、空隙の部分を空気の屈折率(≒1)とすることができるため、非常に低い屈折率を備える低屈折率粒子とすることができる。具体的には、内部に空隙を有する低屈折率シリカ粒子を用いることができる。
【0062】
本発明の低屈折率コーティング剤に用いられる低屈折率粒子としては、粒径が1nm以上100nm以下であることが好ましい。粒径が100nmを超える場合、レイリー散乱によって光が著しく反射され、形成される低屈折率層が白化して反射防止フィルムの透明性が低下する傾向にある。一方、粒径が1nm未満の場合、粒子の凝集による粒子の不均一性等の問題が生じる。
【0063】
次に、本発明の反射防止フィルムの製造方法について説明する。
【0064】
本発明の反射防止フィルムにおける透明基材としては、種々の有機高分子からなるフィルムまたはシートを用いることができる。例えば、ディスプレイ等の光学部材に通常使用される基材が挙げられ、透明性や光の屈折率等の光学特性、さらには耐衝撃性、耐熱性、耐久性などの諸物性を考慮して、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、セロファン等のセルロース系、6−ナイロン、6,6−ナイロン等のポリアミド系、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、エチレンビニルアルコール等の有機高分子からなるものが用いられる。特に、ポリエチレンテレフタレート、トリアセチルセルロース、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレートが好ましい。中でも、トリアセチルセルロースにあっては、複屈折率が小さく、透明性が良好であることから液晶ディスプレイに対し好適に用いることができる。
【0065】
なお、透明基材の厚みは25μm以上200μm以下の範囲内にあることが好ましく、さらには、40μm以上80μm以下の範囲内にあることが好ましい。
【0066】
透明基材上にはハードコート層が形成される。ハードコート層を形成するにあっては、電離放射線硬化型材料を含むハードコート剤を透明基材上に塗布し塗膜を形成し、該塗膜を乾燥させ溶媒を除去した後、電離放射線を照射することにより塗膜を硬化させハードコート層を形成することができる。
【0067】
このとき、ハードコート剤に含まれる電離放射線硬化型材料としては低屈折率コーティング剤に使用可能な電離放射線硬化型材料を用いることができる。また、ハードコート剤には必要に応じて溶媒、光重合開始剤等を含有させることができる。また、ハードコート剤に導電性材料を含有させることにより、反射防止フィルムに帯電防止性を付与することもできる。また、ハードコート剤を用いたハードコート層の形成方法については、後述する低屈折率コーティング剤を用いた低屈折率層の形成方法で例示する方法を用いることができる。
【0068】
ハードコート層上には低屈折率コーティング剤を用いて低屈折率層が形成される。ハードコート層上に低屈折率コーティング剤を塗布し塗膜を形成し、該塗膜を乾燥させ溶媒を除去した後、電離放射線を照射することにより塗膜を硬化させ低屈折率層を形成することができる。
【0069】
塗布方法としては、ディップコーティング法、スピンコーティング法、フローコーティング法、スプレーコーティング法、ロールコーティング法、グラビアロールコーティング法、エアドクターコーティング法、ブレードコーティング法、ワイヤドクタアーコーティング法、ナイフコーティング法、リバースコーティング法、トタンスファロールコーティング法、マイクログラビアコーティング法、キスコーティング法、キャストコーティング法、スロットオリフィスコーティング法、カレンダーコーティング法、ダイコーティング法等を用いることができる。
【0070】
次に、ハードコート層上に形成された塗膜は乾燥することにより、塗膜中の溶媒は除去される。このとき乾燥手段としては、加熱、送風、熱風等を用いることができる。
【0071】
次に、電離放射線を照射することにより塗膜は硬化し低屈折率層が形成される。電離放射線としては、紫外線、電子線を用いることができる。紫外線硬化の場合は、高圧水銀灯、低圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、カーボンアーク、キセノンアーク等の光源が利用できる。また、電子線硬化の場合はコックロフトワルト型、バンデグラフ型、共振変圧型、絶縁コア変圧器型、直線型、ダイナミトロン型、高周波型等の各種電子線加速器から放出される電子線が利用できる。以上により低屈折率層は形成される。
【0072】
本発明の反射防止フィルムにあっては、反射防止層が形成されている側の反対側の透明基材側の面に偏光層、透明基材を設けることにより、偏光板とすることができる。偏光層としては、例えば、ヨウ素を加えた延伸ポリビニルアルコール(PVA)を用いることができる。また、もう一方の透明基材としては、反射防止フィルムに用いる透明基材を用いることができ、トリアセチルセルロースからなるフィルムを好適に用いることができる。
【0073】
また、本発明の反射防止フィルムは、偏光板化され、更に、透過型液晶ディスプレイの前面、すなわち、観察側に反射防止層が最表面となるように設けられる。本発明の反射防止フィルムを液晶ディスプレイ表面に設けることにより、優れた反射防止機能を有する透過型液晶ディスプレイとすることができる。
【実施例】
【0074】
本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0075】
(ハードコート剤の調整)
電離放射線硬化型材料としてジペンタエリスリトールトリアクリレート10重量部、ペンタエリスリトールテトラアクリレート10重量部、ウレタンアクリレート(共栄社化学株式会社製UA−306T)30重量部、光重合開始剤としてイルガキュア184(チバジャパン株式会社製)2.5重量部、溶媒としてメチルエチルケトン25重量部、酢酸ブチル25重量部を混合したハードコート剤を用いた。
【0076】
(低屈折率コーティング剤の調整(LR−7))
内部に空隙を有する低屈折率シリカ粒子分散液(平均粒子径30nm/固形分20重量%)12重量部、電離放射線硬化型材料としてジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)1.6重量部を用意し、シリコーン系添加剤としてTSF44(東芝GEシリコーン社製)0.2重量部を用意し、光重合開始剤としてイルガキュア184(チバジャパン株式会社製)0.2重量部を用意し、溶媒としてメチルイソブチルケトン86.4重量部を用意し、これらを混合し低屈折率コーティング剤(LR−7)を調整した。
【0077】
(低屈折率コーティング剤の調整(LR−1))
低屈折率コーティング剤(LR−7)に、(化1)に示す構造式を有する反応性基を持たないポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンを主成分とするBYK330(ビック・ケミー社製)を1.8wt%添加した。
【0078】
(低屈折率コーティング剤の調整(LR−2))
低屈折率コーティング剤(LR−7)に、(化1)に示す構造式を有する反応性基を持たないポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンを主成分とするBYK330(ビック・ケミー社製)を0.5wt%添加した。
【0079】
(低屈折率コーティング剤の調整(LR−3))
低屈折率コーティング剤(LR−7)に、(化1)に示す構造式を有する反応性基を持たないポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンを主成分とするBYK330(ビック・ケミー社製)を1.3wt%添加した。
【0080】
(低屈折率コーティング剤の調整(LR−4))
低屈折率コーティング剤(LR−7)に、(化2)に示す構造式を有するポリエーテル変性アクリル基を有するポリジメチルシロキサンを主成分とするBYK−UV3500(ビック・ケミー社製)を0.01wt%添加した。
【0081】
(低屈折率コーティング剤の調整(LR−5))
低屈折率コーティング剤(LR−7)に、(化2)に示す構造式を有するポリエーテル変性アクリル基を有するポリジメチルシロキサンを主成分とするBYK−UV3500(ビック・ケミー社製)を0.5wt%添加した
【0082】
(低屈折率コーティング剤の調整(LR−6))
低屈折率コーティング剤(LR−7)に、(化2)に示す構造式を有するポリエーテル変性アクリル基を有するポリジメチルシロキサンを主成分とするBYK−UV3500(ビック・ケミー社製)を1.0wt%添加した
【0083】
(ハードコート層の形成)
得られたハードコート剤をトリアセチルセルロースフィルム(TACフィルム/厚さ80μm)上にマイクログラビア法により塗布し塗膜を形成した。塗布後、乾燥をおこない、さらに、メタルハイドランプを用い紫外線照射をおこなうことによりハードコート層を形成した。形成されたハードコート層の膜厚は6μmであった。
【0084】
(低屈折率層の形成)
ハードコート層を備えるTACフィルムのハードコート層上に低屈折率コーティング剤(LR−1〜7)をマイクログラビア法により塗布し塗膜を形成した。塗布後、乾燥をおこない、さらに、メタルハイドランプを用い紫外線照射をおこなうことにより低屈折率層を形成した。形成された低屈折層の膜厚は0.1μmであった。
【0085】
以上により、7種類の低屈折率コーティング剤(LR−1〜7)で低屈折率層を形成した反射防止フィルムを得た。
【0086】
(低屈折コーティング剤の表面張力測定、レベリング性の評価)
7種類の低屈折率コーティング剤(LR−1〜7)をメチルイソブチルケトンで一旦希釈し、80℃のオーブンにいれ、少しずつ溶媒を蒸発させ、固形分濃度3.5%〜85%の表面張力変化を測定した。液温は30度以下まで冷やしてから測定を行った。協和界面科学製自動表面張力計(CBVP−Z)、白金プレート法を用いて測定をおこなった。同様にYAMCO社製粘度測定計(VISCOMATE VM−1A)で粘度測定をおこなった。
【0087】
また、低屈折率コーティング剤のレベリング性を粘度/表面張力の比で求めた。これは、
T.C.Pattonによって求められた、ニュートン流体の塗料において刷毛目がレベリングによってある一定の状態に到達するに要する時間tが以下の式で表されることに基づく。
(式1) t=Gη/σX G=0.036λlog(Z/Z
(η:粘度、σ:表面張力、X:塗布厚、λ:波長)

本発明でのレベリング性は、(式1)に基づき、粘度/表面張力の比が低いほどレベリング性が良好であると判断した。
【0088】
図4〜図9に各低屈折率コーティング剤(LR−1〜7)の各固形分における表面張力変化、各固形分における粘度変化、各固形分におけるレベリング性(粘度/表面張力)の変化を示す。
【0089】
表1に固形分濃度3.5wt%の表面張力(A)を基準とした際の固形分濃度70wt%における表面張力(B)の変化率((B−A)/A×100)、固形分濃度70wt%の表面張力(B)を基準とした際の最も高い固形分濃度における表面張力(C)の変化率((B−C)/B×100)を示した。
【0090】
図4〜図9、表1に示す通り、シリコン系レベリング剤を含む低屈折率コーティング剤が、固形分濃度3.5wt%の表面張力(A)を基準とした際の固形分濃度70wt%における表面張力(B)の変化率((B−A)/A×100)が0%以上7%以下の範囲内であり、且つ、固形分濃度70wt%の表面張力(B)を基準とした際の最も高い固形分濃度における表面張力(C)の変化率((B−C)/B×100)の最大値が15%以上30%以下の範囲内である低屈折率コーティング剤(LR−1、LR−6)がムラのない良好な面を形成することがわかった。
【0091】
(面状評価)
各低屈折率コーティング剤(LR−1〜7)で低屈折率層を形成した反射防止フィルムの裏面を黒く塗りつぶし、タングステン灯下で反射防止フィルム表面の状態を目視観察した結果を(表1)に示す。面内のムラが均一な場合は○、ムラの改善がみられるものの十分でないものは△、ムラがひどい場合には×とした。本発明で、固形分濃度3.5wt%の表面張力(A)を基準とした際の固形分濃度70wt%における表面張力(B)の変化率((B−A)/A×100)が0%以上7%以下の範囲内であり、且つ、固形分濃度70wt%の表面張力(B)を基準とした際の最も高い固形分濃度における表面張力(C)の変化率((B−C)/B×100)の最大値が15%以上30%以下の範囲内である低屈折率コーティング剤(LR−1、LR−6)で作製した低屈折層は面状が特に良好であった。一方、LR−7で作製した低屈折率層はシリコン系レベリング剤を含有しなかったため、ムラが発生していた。LR−2,LR−3、LR−4、LR−5の面状はLR−7よりはムラの改善が見られるものの、十分なものではなかった。
【0092】
(耐擦傷性評価)
各低屈折率コーティング剤(LR−1〜7)で低屈折率層を形成した反射防止フィルム反射防止フィルムを、ラビングテスターを用いて以下の条件で試料表面のこすりテストをおこない耐擦傷性を評価した。評価結果は(表1)に示した。
【0093】
評価環境条件:25℃、60%RH
こすり材:スリールウール
(低屈折率層表面と接触するテスターのこすり先端部(1cm×1cm)に、スチールウールを巻いて、動かないようバンド固定)
移動距離(片道):13cm
こすり速度:13cm/秒
荷重:200g/cm、300g/cm、400g/cm、500g/cm
1000g/cm
先端部接触面積:1cm×1cm、こすり回数:10往復。
【0094】
こすり終えた試料の裏側に油性黒インキを塗り、反射光で目視観察して、こすり部分の傷を、以下の基準で評価した。表1に結果を示す。
◎:非常に注意深く見ても、全く傷が見えない。
○:非常に注意深く見ると僅かに弱い傷が見える。
○△:弱い傷が見える。
△:中程度の傷が見える。
△×〜×:一目見ただけで分かる傷がある。
【0095】
【表1】

【0096】
表1に示す通り、反応性基を持たないシリコン系レベリング剤(BYK−330)の方が耐擦傷性に影響が少ないことがわかる。反応性基を有するシリコン系レベリング剤を添加したものは、乾燥ムラに対する効力が出る濃度以下において耐擦傷性が悪化した。これは反応性基を持つシリコン系レベリング剤の方が、塗膜表面に固定されるため、低屈折率コーティング剤中の耐擦傷性に寄与する撥水剤成分の塗膜表面存在量が低下し、耐擦傷性に影響をもたらすことによるものと考えられる。
【符号の説明】
【0097】
1 反射防止フィルム
11 透明基材
12 ハードコート層
13 低屈折率層
2 偏光板
22 透明基材
23 偏光層
3 液晶セル
4 偏光板
41 透明基材
42 透明基材
43 偏光層
5 バックライトユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電離放射線硬化型材料と溶媒を含む低屈折率コーティング剤であって、
反応基を持たないポリエーテル変性ポリシロキサンを含み、且つ、
固形分濃度3.5wt%の表面張力(A)を基準とした際の固形分濃度70wt%における表面張力(B)の変化率((B−A)/A×100)が0%以上7%以下の範囲内であり、且つ、
固形分濃度70wt%の表面張力(B)を基準とした際の最も高い固形分濃度における表面張力(C)の変化率((B−C)/B×100)の最大値が15%以上30%以下の範囲内である
ことを特徴とする低屈折率コーティング剤。
【請求項2】
前記反応基を持たないポリエーテル変性ポリシロキサンが前記低屈折率コーティング剤の固形分に対して0.01wt%以上2.7wt%以下の範囲内で含有していることを特徴とする請求項1記載の低屈折率コーティング剤。
【請求項3】
前記低屈折率コーティング剤の固形分に対して50wt%以上60wt%以下の範囲内で内部に空隙を有するシリカ粒子を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の低屈折率コーティング剤。
【請求項4】
透明基材上に、請求項1乃至3のいずれかに記載の低屈折率コーティング剤を塗布し、電離放射線を照射することにより形成される低屈折率層を備えることを特徴とする反射防止フィルム。
【請求項5】
前記透明基材と前記低屈折率層の間にハードコート層を備えることを特徴とする請求項4記載の反射防止フィルム。
【請求項6】
請求項4または請求項5記載の反射防止フィルムの低屈折率層が設けられている側と反対側の面に偏光層、透明基材を備える偏光板。
【請求項7】
請求項6記載の偏光板、液晶セル、偏光板、バックライトユニットをこの順に備えることを特徴とする透過型液晶ディスプレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−204423(P2010−204423A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−50422(P2009−50422)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】