説明

低屈折率膜、反射防止膜、透明部材、蛍光ランプ

【課題】透明性に優れた低屈折率膜、透明性に優れ反射防止効果を有する反射防止膜を提供する。また、上記低屈折率膜または反射防止膜を有し、透明性に優れた透明部材、蛍光ランプを提供する。
【解決手段】酸化物微粒子とシリケート成分とを含み、酸化物微粒子同士がシリケート成分を介して連結されてなる3次元網目構造を有する低屈折率膜、該低屈折率膜を有する反射防止膜、これらのいずれかを有する透明部材及び蛍光ランプである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低屈折率膜、反射防止膜、透明部材、蛍光ランプに関し、特に、透明性に優れた低屈折率膜及びこれを備えた反射防止膜、透明部材、蛍光ランプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、反射防止膜は、陰極線管(CRT)、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)等の表示素子、光学レンズ、光学フィルタ等の光学部材、自動車やショーウインドー等のガラス部材等に広く使用されている。
【0003】
例えば、光学フィルタにおいては、透明ガラス基板の表面に、蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の成膜方法により高屈折率層と低屈折率層とが交互に積層され、多層構造の反射防止膜が形成されている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、この方法で得られた反射防止膜は、反射防止性能は優れているものの、高コストとなってしまう。特に、大面積の透明ガラス基板に反射防止膜を形成する場合には、製造コストが非常に高くなってしまい、低価格かつ高品質という要求に対応することができない。
【0004】
そこで、製造コストを低く抑え、しかも高品質を維持するために、ゾル−ゲル法等の塗布法を用いて、透明ガラス基板上や透明基材上に反射防止膜を形成することが提案されている。
例えば、ジルコニア、セリア、酸化錫等の屈折率の高い微粒子を含む高屈折率層と、フッ化マグネシウム、シリカ等の相対的に屈折率の低い微粒子を含む低屈折率層とを積層した2層構造の反射防止膜が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
また、膜の作製時に微粒子間に空隙を形成させることにより、膜の屈折率低下を図ること、微粒子内にも微細孔を有する多孔質シリカ構造とすることにより、更なる屈折率低下を図るという方法も提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平09−281327
【特許文献2】特開平01−154445
【特許文献3】特開平11−326601
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献2の2層構造の反射防止膜では、低屈折率層にシリカ(屈折率:1.44〜1.46)やアルミナ等の微粒子を含有させた場合、高屈折率層と低屈折率層との屈折率の差が小さくなるために、反射防止効果が不十分なものとなる問題点があった。
【0007】
また、特許文献3のように、多孔質シリカ微粒子を用い、微粒子間に空隙をもたせる構造の低屈折率層の場合、微粒子間相互を結合し微粒子間に空隙を有する構造を維持し膜としての強度を維持するための結合剤としては、有機ポリマーが用いられている。しかしながら、有機ポリマーを用いた場合には、耐熱性や耐薬品性・耐溶剤性の低下が避けられないという問題点を有するほか、シリカ微粒子と有機ポリマーの親和性を向上させるために、シリカ粒子表面を予め処理しておく必要があり、工数が増加するという問題点もあった。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、透明性に優れた低屈折率膜を提供することを目的とする。また、当該低屈折率膜を有し、高い透明性と優れた反射防止効果とを有する反射防止膜を提供することを目的とする。さらに、上記低屈折率膜または反射防止膜を有し、透明性に優れた透明部材、蛍光ランプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明者らは、低屈折率膜の構成について検討を行い、当該低屈折率膜を、シリケート成分により酸化物微粒子間を相互に連結し微粒子間に空隙を形成した3次元網目構造とすると、透明性に優れた低屈折率膜が得られることを見出し、本発明に想到した。
また、本発明者らは、酸化物微粒子の粒子径を制御したり、酸化物微粒子と結合剤(シリケート成分)との比率を制御したりすることにより、優れた透明性を維持しながら、機械的強度や耐擦傷性にも優れた低屈折率膜が得られることを見出した。
【0010】
さらに、本発明者らは、このような低屈折率膜を反射防止膜に用いることで、高い透明性、優れた反射防止効果が得られることを見出した。そして、当該反射防止膜についても種々の改良を加えることで膜強度を向上させることできることを見出した。
【0011】
本発明は下記の通りである。
[1]酸化物微粒子とシリケート成分とを含み、前記酸化物微粒子同士が前記シリケート成分を介して連結されてなる3次元網目構造を有する低屈折率膜。
[2]前記酸化物微粒子の屈折率がシリカよりも高い[1]に記載の低屈折率膜。
[3]前記酸化物微粒子が、アルミナ及びイットリアの少なくともいずれかである[2]に記載の低屈折率膜。
[4]前記3次元網目構造により形成されてなる空隙の割合(空隙率)が38〜70体積%である[1]〜[3]のいずれかに記載の低屈折率膜。
[5]前記酸化物微粒子の平均1次粒子径が0.01〜0.10μmである[1]〜[4]のいずれかに記載の低屈折率膜。
[6]前記酸化物微粒子と前記シリケート成分との合計に対する前記酸化物微粒子の配合比率が30〜80体積%である[1]〜[5]のいずれかに記載の低屈折率膜。
【0012】
[7]上記[1]〜[6]のいずれかに記載の低屈折率膜を有する反射防止膜。
[8]前記反射防止膜中における屈折率が、当該反射防止膜が透明部材に接する側で高く、接しない側で低い[7]に記載の反射防止膜。
[9]上記[1]〜[6]のいずれかに記載の低屈折率膜または[7]もしくは[8]に記載の反射防止膜のいずれかを有する透明部材。
[10]上記[9]に記載の透明部材を有する蛍光ランプ。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、透明性に優れた低屈折率膜を提供することができる。また、当該低屈折率膜を有し、高い透明性と優れた反射防止効果とを有する反射防止膜を提供することができる。さらに、上記低屈折率膜または反射防止膜を有し、透明性に優れた透明部材、蛍光ランプを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
[低屈折率膜]
本発明の低屈折率膜は、図1に示すように酸化物微粒子10とシリケート成分12とを含み、酸化物微粒子10同士がシリケート成分12を介して連結されてなる3次元網目構造を有している。シリケート成分12は酸化物微粒子10相互を結合して膜体を形成するが、酸化物微粒子10間全体にはシリケート成分が充填されることなく、粒子間には空隙が存在する。この空隙を有する3次元網目構造により、本発明の低屈折率膜は、構成する酸化物微粒子およびシリケート成分のそれぞれに比べて、屈折率の低下が図られ優れた透明性を発揮することができる。
【0015】
粒子間に形成された空隙は、それぞれが独立して閉じた状態でも良く、あるいは互いに連通していてもよい。
空隙が独立して閉じた状態の場合には、膜外の雰囲気(例えば湿度)の変化により低屈折率膜の特性が変化することは無いが、空隙率を一定値以上に上げることが難しいため、膜の屈折率を小さくすることに限界が生じることがある。一方、空隙が連通している場合には、空隙率を増し膜の屈折率を十分に小さくすることが可能となるが、雰囲気の変化が膜特性に影響する可能性が高まる。
従って、これらは低屈折率膜に必要とされる条件により選択される。
【0016】
低屈折率膜の空隙率は、38〜70体積%であることが好ましく、38〜55体積%であることがより好ましい。空隙率が38体積%以上であると、空隙の効果が発揮されやすく膜の屈折率を十分に小さくすることができる。そのため、この膜を用いて反射防止膜を構成しても十分な反射防止効果が得られる。一方、70体積%以下であると、膜自体の強度が低下するのを防止し、実用に耐える低屈折率膜とすることができる。
【0017】
ここで、低屈折率膜中の3次元網目構造の有無は、当該膜を集束イオンビーム加工(SII社製、SMI 2050)により膜の断面を切り出し、その断面を電界放射形走査電子顕微鏡(日立製作所社製、FE−SEM(S−4000))で観察することで確認することができる。
また、空隙率は、次のようにして求めることができる。始めに、一定寸法に切り出した低屈折率膜について、膜の厚さをFE−SEM等で測定して膜の体積を求めるとともに膜の質量を測定し、体積と質量から当該低屈折率膜の比重を算出する。次に、膜の組成と各材料成分の比重から、膜を構成する材料の真比重(膜中に空隙が存在しない場合の比重)を算出する。膜の実際の比重と真比重の比が膜の充填率となるので、1からこの充填率を引いた残余値を求めれば空隙率となる。
【0018】
酸化物微粒子の平均1次粒子径は、0.01〜0.10μmであることが好ましく、0.01〜0.08μmであることがより好ましい。1次粒子の平均粒子径が0.01μm以上であると、微細粒子相互の間隔が狭くなりすぎることがなくなって空隙を形成することが容易になり、膜の屈折率を十分に小さくすることが可能となる。一方、0.10μm以下であると、散乱による光の乱反射を防ぐことが可能となり、低屈折率膜のヘーズ値が上昇して高い透明性が得られなくなるのを防ぐことができる。また、その結果、反射防止膜とした場合、良好な反射防止効果が発揮されやすくなる。
なお、平均1次粒子径は、日機装社製のマイクロトラック粒度分布測定装置MT3000IIシリーズ、HORIBA社製レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置LA−950などにより測定することができる。
【0019】
酸化物微粒子とシリケート成分との合計に対する酸化物微粒子の配合比率は30〜80体積%であることが好ましく、50〜65体積%であることがより好ましい。酸化物微粒子が30%体積未満であると、シリケート成分が酸化物微粒子に対して過剰となり、過剰なシリケート成分が酸化物微粒子間の空隙を埋めてしまうため空隙率が保てないが、酸化物微粒子が30体積%以上であれば過剰なシリケート成分がなくなるのでこのようなことがなくなり、空隙率を40体積%以上としやすくなる。一方、酸化物微粒子が80体積%以下であれば、シリケート成分による酸化物微粒子間の結合力が良好となり、強度的に実用に耐える低屈折率膜を形成することができる。
【0020】
本発明は低屈折率膜であるから、膜を構成する酸化物微粒子自体の屈折率は低いことが好ましく、また膜の特性は酸化物微粒子の特性に左右されるから、酸化物微粒子の特性も安定であることが好ましい。
これらを満たす材料としては、シリカ(石英ガラスとしての屈折率:1.44〜1.46)、アルミナ(単結晶の屈折率:1.76〜1.77)、イットリア(屈折率:1.91)を挙げることができる。これらの酸化物微粒子は、単独で用いても良いし、あるいは2種以上を混合して使用してもよい。特に後述の屈折率傾斜膜を作製するためには、2種以上の酸化物微粒子を、混合比を変えて使用することは有効である。
なお、屈折率が2.0を超える酸化物微粒子を用いることは、膜の屈折率の上昇を招くので好ましくない。
【0021】
上記例示した酸化物微粒子のなかでも、シリカよりも屈折率が高い酸化物微粒子、すなわちアルミナ及びイットリアの少なくともいずれかであることが好ましい。これは、シリカを用いた場合に比べ、アルミナ及びイットリアを用いた場合の方が、平均1次粒子径が同じ場合、得られる膜の屈折率が低くなるためである。この理由としては、酸化物微粒子とシリケート成分との結合状態との関係から、アルミナ及びイットリアを用いた場合の方が空隙率が高くなるためと考えられる。また、アルミナ及びイットリアは、耐水銀性や紫外線反射特性の点から蛍光ランプへの適用を考慮した場合特に好ましい。
【0022】
酸化物微粒子の形状は特に限定されないが、球状よりは多角形状あるいは不定形状の方が好ましく、さらに不定形多角形状であればより好ましい。これは、粒子が球状の場合には、粒子の充填性がよいために空隙率が高くなりにくいのに対し、粒子が多角形状や不定形状であれば、各粒子がランダムな方向を向くことにより空隙率を高めることができるからである。また、粒子が不定形多角形状であれば、各粒子が形状や大きさを揃えて配列することが起こりえないため、空隙率をより高めることができる。
【0023】
さらに、酸化物微粒子として凹部や空孔を有するものを用い、低屈折率膜の形成時にこの凹部や空孔にシリケート成分が充填されて埋まらないようにすれば、空隙率をより高めることができるので好ましい。
【0024】
シリケート成分は、有機ケイ素化合物またはその重合体(ポリマー)から構成される。ここで、有機ケイ素化合物としては、アルコキシシラン化合物、ハロゲン化シラン化合物、アシロキシシラン化合物、シラザン化合物などが挙げられる。かかる有機ケイ素化合物は、その分子中にアルキル基、アリール基、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基などの置換基を有していてもよい。
【0025】
有機ケイ素化合物としては、例えばテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラクロロシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリクロロシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ―アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ―アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランなどのアルコキシシラン化合物、ヘキサメチルジシラザンなどのシラザン化合物などが挙げられ、これらはそれぞれ単独または2種以上を混合して用いられる。
【0026】
シリケート成分は、かかる有機ケイ素化合物の単量体であってもよいし、2量体〜10量体程度のオリゴマーまたは重合度が10を超えるポリマーなどのような重合体であってもよい。また、シリケート成分は、上記有機ケイ素化合物が加水分解された加水分解生成物あってもよい。加水分解生成物は、上記有機ケイ素化合物に塩酸、リン酸、酢酸などの酸または水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウムなどの塩基を加えることにより生成させることができる。
【0027】
低屈折率膜を形成するには、例えば、基材上に上記有機ケイ素化合物と酸化物微粒子と溶剤と含有する組成物を塗布し、硬化させればよい。
【0028】
組成物に用いられる溶剤としては、有機ケイ素化合物を溶解し、塗布後揮発し、酸化物微粒子を用いる場合にはこれを分散し得るものであれば特に限定されるものではなく、基材の材質、形状、塗布方法などに応じて適宜選択される。
【0029】
上記組成物は、反応促進剤、安定化剤、酸化防止剤、着色剤などの添加剤を含有していてもよい。また、有機ケイ素化合物として、その加水分解生成物を用いる場合には、塩酸、リン酸、酢酸などの酸または水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウムなどの塩基などを組成物に加えてもよい。
【0030】
塗布方法は、通常と同様の方法、例えばマイクログラビアコート法、ロールコート法、ディッピングコート法、スピンコート法、ダイコート法、キャスト転写法、スプレーコート法などの方法が挙げられる。
【0031】
基材としては、例えばアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン、スチレン−アクリル共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、トリアセチルセルロース樹脂などからなる樹脂基材、無機ガラスなどの無機基材などが挙げられる。
【0032】
基材は、板(シート)、フィルムなどのように表面が平面である基材あってもよいし、凸レンズ、凹レンズなどのように表面が曲面である基材であってもよい。また、表面に細かな凹凸が設けられていてもよい。
【0033】
塗布後の塗膜を硬化させるには、例えば加熱を行えばよい。加熱温度、加熱時間は用いる有機ケイ素化合物の種類、使用量などに応じて適宜選択される。低屈折率層の厚みは、基材の屈折率や低屈折率層の屈折率などに応じて適宜選択されるが、0.01〜0.5μmであることが好ましい。
このようにして基材の表面に本発明の低屈折率膜が設けられた部材(例えば、後述する透明部材)が得られる。
なお、酸化物微粒子同士がシリケート成分を介して連結されてなる3次元網目構造とするための好ましい方法としては、あらかじめ分散液中で酸化物微粒子の粒子表面にシリケート成分を結合させておく、といった方法が挙げられる。すなわち、酸化物微粒子を分散させた分散液中にシリケート成分を添加し、分散液中で酸化物微粒子の粒子表面にシリケート成分の反応基である水酸基を結合させた後、当該塗料を用いて膜を形成することにより、酸化物微粒子同士がシリケート成分を介して連結されてなる3次元網目構造を持つ低屈折率膜を形成することができる。
【0034】
[反射防止膜]
本発明の反射防止膜は、本発明の低屈折率膜を有する。
透明部材の表面に設けられる反射防止膜の屈折率は、透明部材の屈折率と空気の屈折率(1.0)の間である必要があるので、本発明の低屈折率膜を反射防止膜として用いることは非常に有効である。
【0035】
さらに、反射防止膜における透明部材側の屈折率を高くして透明部材の屈折率に近づけ、空気側の屈折率を低くして空気の屈折率に近づけた屈折率傾斜膜とすることにより、反射防止効果をより高めることができる。
【0036】
このような屈折率傾斜膜を形成する方法としては、従来知られた技術を用いることができる。例えば、はじめに屈折率が透明部材に近い層を透明部材表面に形成し、その上に始めの層よりも屈折率を下げた層(本発明の低屈折率膜)を形成する多層膜構造とすればよい。この場合、各層の屈折率制御は、含有する酸化物微粒子の種類や混合量を変えることで各層を構成する材料自体の屈折率を変えても良いし、または酸化物微粒子の粒子径を変えたり酸化物微粒子とシリケート成分の混合比を変えたりなどにより空隙率を変えることにより行ってもよく、これらの方法を組み合わせてもよい。
また、反射防止膜の形成時に酸化物微粒子成分が透明部材側に凝集するような作用を膜形成材料に持たせることにより、反射防止膜の透明部材側は酸化物微粒子が密に詰まった空隙が少ない状態となり、空気側は酸化物微粒子が疎な空隙が多い状態になるようにしてもよい。
【0037】
[透明部材]
本発明の透明部材は、基材状に本発明の低屈折率膜または反射防止膜を有する。このような膜が形成された透明部材としては、例えば、陰極線管(CRT)、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、光学レンズ、光学フィルタ等の光学部材や自動車やショーウインドー等のガラス部材が挙げられる。
【0038】
[蛍光ランプ]
本発明の蛍光ランプは本発明の透明部材を有する。すなわち、本発明の膜(本発明の低屈折率膜または反射防止膜)を透光性封止管の内部に形成することにより、可視光線領域での透過性を良好に保持・向上させることが可能となる。
図2は、本発明の一実施形態の蛍光ランプを示す縦断面図、図3は同横断面図であり、図において、1は両端が封止されたガラス管からなる透光性封止管、2は本発明の膜であり透光性封止管1の内壁全体(内面)に形成されている。3は赤色系発光蛍光体、緑色系発光蛍光体及び青色系発光蛍光体の混合物からなる蛍光体層、4は透光性封止管1内の両端部側にそれぞれ設けられた電極、5は電極4に電気的に接続されたリード線である。
また、Gは透光性封止管1内に封入された封入ガスであり、この封入ガスGは、水銀、及びアルゴン等の希ガスや窒素等の不活性ガスにより構成されている。
【0039】
蛍光ランプは、点灯用電気回路を介して通電して点灯させると、透光性封止管1内の放電空間から発生する水銀の輝線である254nmの波長の光を蛍光体層3が吸収・励起しバルブを通して放射する。このとき変換された可視光線バルブを透過する。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
テトラエトキシシラン(シリケート成分換算で0.9質量部)、平均1次粒子径0.02μmであるアルミナ粒子(4.1質量部)およびイソブチルアルコール(溶剤:95質量部)を混合して得たコーティング用組成物(酸化物微粒子の配合比率:70体積%)を作製した。
【0042】
このコーティング用組成物を、厚み50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱ポリエステル社製;ダイアホイル0−300E)の一方の面に、ディップコート法(引上げ速度20cm/分)により塗布し、室温で5分間乾燥した後、80℃で20分間加熱して低屈折率膜を設けた。
【0043】
この低屈折率膜について、集束イオンビーム加工(SII社製、SMI 2050)により膜の断面を切り出し、その断面を電界放射形走査電子顕微鏡(日立製作所社製、FE−SEM(S−4000))により観察したところ、図4に示すように、アルミナ粒子同士がシリケート成分を介して連結されてなる3次元網目構造が確認された。
【0044】
この低屈折率膜について膜厚と質量を測定し、膜の実際の比重と真比重の比から空隙率を求めた。具体的な計算方法は、次のとおりである。
まず、この低屈折率膜を10cm角に切り出し膜厚と質量を測定したところ、膜厚は0.105μm(0.0000105cm)、質量は0.00173gであった。この膜の体積は10×10×0.0000105=0.00105cm3 であるから、この膜の比重は0.00173g/0.00105cm3=1.65g/cm3となる。
次に、この低屈折率膜の組成はAl23:70体積%、SiO2:30体積%であり、またAl23の比重は3.9g/cm3、SiO2の比重は2.2g/cm3であるから、この低屈折率膜と同一組成で空隙を有さない材料の比重、すなわち低屈折率膜の真比重は3.9×0.7+2.2×0.3=3.39g/cm3となる。
低屈折率膜の充填率(%)は膜の実際の比重を真比重で割った値であり、空隙率は1からこの充填率を引いた残余値であるから、上記の各値より、空隙率は[1−(1.65/3.39)]×100=51.4%となった。
【0045】
(実施例2,3)
コーティング用組成物中のアルミナ粒子の配合比率を下記表1に示すようにした以外は、実施例1と同様にポリエチレンテレフタレートフィルム上に低屈折率膜を設けた。
【0046】
これらの低屈折率膜について、実施例1と同様に断面を観察したところ、アルミナ粒子同士がシリケート成分を介して連結されてなる3次元網目構造が確認された。また、実施例1と同様に膜厚と質量を測定し、空隙率を求めた。
【0047】
(実施例4)
コーティング用組成物中の酸化物微粒子を平均1次粒子径0.05μmであるイットリア粒子に代えた以外は、実施例1と同様にポリエチレンテレフタレートフィルム上に低屈折率膜を設けた。
【0048】
この低屈折率膜について、実施例1と同様に断面を観察したところ、イットリア粒子同士がシリケート成分を介して連結されてなる3次元網目構造が確認された。また、実施例1と同様に膜厚と質量を測定し、空隙率を求めた。
【0049】
(実施例5)
コーティング用組成物中の酸化物微粒子を平均1次粒子径0.02μmであるシリカ粒子に代えた以外は、実施例1と同様にポリエチレンテレフタレートフィルム上に低屈折率膜を設けた。
【0050】
この低屈折率膜について、実施例1と同様に断面を観察したところ、シリカ粒子同士がシリケート成分を介して連結されてなる3次元網目構造が確認された。
【0051】
(比較例1)
シリケート成分であるテトラエトキシシランを使用しなかった以外は実施例1と同様にポリエチレンテレフタレートフィルム上に低屈折率膜を設けた。
この低屈折率膜について、実施例1と同様に断面を観察したところ、アルミナ粒子同士が互いに接触しあって存在し、それらの間に空隙が確認されたが、空隙量は実施例に比べ少なかった。
【0052】
(比較例2)
アルミナ粒子を使用しなかった以外は実施例1と同様にポリエチレンテレフタレートフィルム上に低屈折率膜を設けた。
この低屈折率膜について、実施例1と同様に断面を観察したところ、空隙が全くない均質な膜であることが確認された。
【0053】
(実施例6)
アルミナ粒子として、平均1次粒子径が0.005μmであるものを使用した以外は実施例1と同様にポリエチレンテレフタレートフィルム上に低屈折率膜を設けた。
この低屈折率膜について、実施例1と同様に断面を観察したところ、実施例1と比較し非常に緻密な3次元網目構造であることが確認された。
【0054】
(実施例7)
アルミナ粒子として、平均1次粒子径が0.15μmであるものを使用した以外は実施例1と同様にポリエチレンテレフタレートフィルム上に低屈折率膜を設けた。
この低屈折率膜について、実施例1と同様に断面を観察したところ、実施例1と比較し網目部分の間隔が大きな3次元網目構造であることが確認された。
【0055】
実施例1〜7及び比較例1,2で得られた低屈折率膜について、下記評価1,2を行った。結果を下記表1に示す。また表1には、各実施例及び比較例の膜厚、並びに実施例1〜4及び比較例1の空隙率も併せて示す。
【0056】
(評価1)
分光光度計で反射率を測定し、その反射率から塗膜の屈折率を算出した。
波長550nmにおける反射率(%R550nm)及び塗膜の屈折率を下記表1に示す。
【0057】
(評価2)
膜の全光線透過率及びヘーズ値はヘーズメータ NDH2000(日本電色工業社製)を用いて測定した。なお、全光線透過率の測定では、対照として未塗布の石英ガラスを用い、この石英ガラスの全光線透過率を100%として各々の試料の測定値を補正した。
結果を下記表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
表1より、実施例1〜7では透明な低屈折率膜が形成されており、透明性に優れ、十分な反射防止効果を有する透明部材が作製されていることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の一実施形態の低屈折率膜の厚さ方向部分断面図である。
【図2】本発明の一実施形態の蛍光ランプを示す縦断面図である。
【図3】本発明の一実施形態の蛍光ランプを示す横断面図である。
【図4】実施例1の低屈折率膜の厚さ方向の断面写真である。
【符号の説明】
【0061】
1・・・透光性封止管
2・・・本発明の低屈折率膜または反射防止膜
3・・・蛍光体層
4・・・電極
5・・・リード線
10・・・酸化物微粒子
12・・・シリケート成分
G・・・封入ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物微粒子とシリケート成分とを含み、
前記酸化物微粒子同士が前記シリケート成分を介して連結されてなる3次元網目構造を有する低屈折率膜。
【請求項2】
前記酸化物微粒子の屈折率がシリカよりも高い請求項1に記載の低屈折率膜。
【請求項3】
前記酸化物微粒子が、アルミナ及びイットリアの少なくともいずれかである請求項2に記載の低屈折率膜。
【請求項4】
前記3次元網目構造により形成されてなる空隙の割合(空隙率)が38〜70体積%である請求項1〜3のいずれか1項に記載の低屈折率膜。
【請求項5】
前記酸化物微粒子の平均1次粒子径が0.01〜0.10μmである請求項1〜4のいずれか1項に記載の低屈折率膜。
【請求項6】
前記酸化物微粒子と前記シリケート成分との合計に対する前記酸化物微粒子の配合比率が30〜80体積%である請求項1〜5のいずれか1項に記載の低屈折率膜。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の低屈折率膜を有する反射防止膜。
【請求項8】
前記反射防止膜中における屈折率が、当該反射防止膜が透明部材に接する側で高く、接しない側で低い請求項7に記載の反射防止膜。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の低屈折率膜または請求項7もしくは8に記載の反射防止膜のいずれかを有する透明部材。
【請求項10】
請求項9に記載の透明部材を有する蛍光ランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−79053(P2010−79053A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−248626(P2008−248626)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】