説明

低温保存の処理において発生細胞を操作する細胞操作ツールおよび方法

【課題】 低温保存の処理において、卵母細胞や胚などの発生細胞のサンプルを操作するツールを提供する。
【解決手段】ツール(10)は、一方のロード端(20)に接続されるサンプルのロード部分(24)と、他方の操作端(22)とを有する細長いステム(18)含む。ツール(10)はまた、ステム(18)上に滑動自在に取り付けられたスリーブ(14)を含み、操作端(22)はスリーブ(14)からその第一の開放端の外へ延在し、ロード部分(24)はスリーブ(14)から第二の開放端の外へ引き出されることができる。ロード部分(24)上にロードされたサンプルは、ユーザがスリーブ(14)を保持しつつ操作端(22)を引くことで、保護のためにスリーブ(14)内に容易に引き込まれることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2004年12月21日出願の米国仮特許出願第60/637,466号明細書「生体サンプルのガラス化および保存のツール」の優先権を主張し、この内容は参照により本明細書に組み込まれる。
本発明は、低温保存の処理において、卵細胞、卵母細胞および胚などの発生細胞のサンプルを操作するのに用いられるツールの分野に関する。より具体的には、本発明のツールは、サンプルがさらなる操作および保存の間保護されるよう、保護スリーブ内に引き込み可能なサンプルロード部分を提供する。
【背景技術】
【0002】
卵細胞、精子、卵母細胞、胚盤胞、桑実胚、胚やその他の初期の未発達の細胞などの発生細胞の低温保存は、補助生殖技術における強力な手段である。たとえば、冷凍によるヒト卵細胞もしくは卵母細胞の保存は、骨盤疾患、外科手術もしくは放射線/化学療法によって卵巣機能を失う危険性のある女性にとって有用な治療法の選択肢であろうし、これはまた胚冷凍により提示される道徳的、倫理的問題のいくつかを回避するであろう。ヒト卵細胞の低温保存を用いた何例かの妊娠と出生が報告されているが、技術としての冷凍による卵細胞保存の処理は、依然として発展の初期段階にあると考えられる。したがって、冷凍および解凍の処理を通じての発生細胞の生存率を改善することは、本分野の主要な関心事であり続ける。
【0003】
緩慢凍結を用いて低温保存されたネズミの卵母細胞からの生きた子孫がもたらされたが、この方法は他の種には大した成果をもたらしていない。ほ乳類の卵母細胞は、卵割段階の胚よりも低温保存することが難しいことがわかっており、ネズミを除き、ほとんどの種の卵母細胞の低温保存の有効性は、依然として大変低い。
【0004】
卵母細胞の低温保存を制限する重要な問題は、冷凍および解凍後の低い生存率である。ガラス化を用いたヒト卵母細胞の低温保存後の妊娠および出生が報告され、ガラス化は有望な技術であることが示された。
【0005】
ガラス化は、冷却の間、溶液内に含まれる生体細胞の内側に氷晶を形成することなくガラス様の固化が起こる処理である。冷凍速度を上げることで、発生細胞のガラス化を誘発できる。冷凍速度は、サンプルを液体窒素などのガラス化に適した液体に漬けることで上げることができる。ほとんどのガラス化手順は、細胞もしくは胚を乾燥させて、サンプルの生存能力を増すことを目的として氷晶が作られることをさらに減少させる、抗凍結剤を用いる。
【0006】
低温保存された発生細胞の生存能力を減少させると考えられる他の要因は、これらの細胞が大変もろく、操作によって損傷される可能性があるということである。このことは、サンプルが操作され、次いでいくつかの異なる溶液に漬けられる冷凍手順において特に当てはまる。
【0007】
多様なツールが、低温保存処理のステップの間にサンプルを操作する技術において公知である。いくつかの技術は、サンプルが中空の管に吸い込まれ、次いで該中空の管が溶液もしくは液体窒素に漬けられる、ピペットスタイルのツールを提案する。これは米国特許出願公開第2004/0259072号明細書にあるとおりである。その他の技術は、ナイロンもしくは金属ワイヤの閉じたループがステムの端に取り付けられ、サンプルを取るのに用いられる、「ループ」スタイルのツールの使用を提案する。このようなツールの使用は、国際公開第00/21365号パンフレットに論じられている。これら両方のタイプのツールは、当該技術において周知である特性および制限を提示する。
【0008】
他のタイプのツールは、国際公開第02/085110号パンフレットに開示される。このツールは、ガラス化されるサンプルを取るため、そしてサンプルを有するツールを液体窒素に漬けるため、液体窒素に耐性のある材料から作られた柔軟なストリップが接続されたステムを有する。ストリップは、ツールを手でつかみ、低温保存手順の多様なステップのためにストリップを移動させるために操作することができるよう、ステムに取り付けられる。ストリップにサンプルをロードし、これを次いで、保護のため、薄く細長いキャップに挿入し、その基部はステムに固定される。キャップをサンプルに接触させることは、サンプルの損傷につながり、生存率の低下につながるため、ストリップをキャップに挿入することは、とりわけデリケートな手順であるとわかった。挿入手順は、糸を針の穴に通すことに似るが、ストリップはキャップの周囲に接触してはならないので、より難題である。この手順を試みながら、しばしば、ストリップおよびロードされたサンプルがキャップの周辺に接触し、サンプルが損傷するということがある。このことは、このツールを用いてガラス化されるサンプルの生存能力を低下させる。
【0009】
したがって、ロードストリップもしくはロード部分が、サンプルを損傷させるリスクを減少させ、取り扱いにおける器用さをより必要としないような方法で、保護位置に配置されることができるツールの技術的な必要性が依然としてある。このような進歩はより高い生存率をもたらし、したがって、発生細胞の低温保存および補助生殖技術の分野において大変有益であると考えられる。
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/0259072号明細書
【特許文献2】国際公開第00/21365号パンフレット
【特許文献3】国際公開第02/085110号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、概説した従来技術の少なくともいくつかの不足を克服する、低温保存の処理において発生細胞を操作するツールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一態様によると、本発明は、低温保存の処理において発生細胞のサンプルを操作するツールを提供する。該ツールは、細長いステムと、ステムの一方の端におけるサンプルロード部分とを有し、ロード部分がスリーブ内に引き込み可能であるような方法でステムに滑動自在に取り付けられたスリーブからさらに構成され、それによって、ロード部分がスリーブ内に引き込まれた時にサンプルロード部分上のサンプルがスリーブによって覆われることを特徴とする。
【0012】
他の態様によると、本発明は、発生細胞のサンプルをガラス化し、保存するツールを提供する。該ツールは、スリーブ部分を有する一つの保護部材と、サンプルを受けるロード部分を有する一つの操作部材とを含む、二つのスライド自在に係合可能な部材から構成される。操作部材は前記保護部材と係合され、スライド自在に操作可能であり、サンプルの露出および保護のために、ロード部分をスリーブ部分の外側に引き出し、ロード部分をスリーブ部分の内側に引き込む。
さらに他の態様によると、本発明は、低温保存の処理の間、発生細胞のサンプルを保護する方法を提供する。該方法は、サンプル操作ツールのロード部分にサンプルをロードし、ツールのロード部分を保護スリーブ内に引き込むこと、から構成される。
【0013】
本明細書において、「発生細胞」の用語は、独立した生存の能力がある新しい個別の生命体に発達する能力を有する生命体の生殖体に言及するものと意図される。発生細胞の用語は、単数を含む複数形で用いられ、精子、卵母細胞、胚、桑実胚、胚盤胞、およびその他の初期の未発達の細胞を含むが、これらに限定されるものではない。この定義は、国際公開第00/21365号パンフレットに提示された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のこれらおよびその他の特徴、態様、および利点は、以下の説明および添付の図面を参照してよりよく理解されるであろう。
図1は、本発明の一実施形態にしたがったツールの斜視図であり、ツールは引き出された位置で示され、任意のケーシングを伴っている。
図2は、図1のツールの斜視図であり、ツールは引き込まれた構成で示される。
図3は、引き込まれ、ケーシングに挿入された図1のツールの斜視図である。
図4は、図1のツールおよびケーシングの展開斜視図であり、ツールは分解して示される。
図5A、5B、5Cおよび5Dは、図1のツールの溝の代替実施形態の斜視図である。
【0015】
図面、より具体的には図1を参照して、低温保存処理において発生細胞を操作するツール10の一実施形態が説明される。ツール10は、スリーブ14内に滑動自在に取り付けられる操作部材12を含む。ツール10は、ツール全体が保護のために挿入されるところの任意のケーシング部材16を伴って示される。使用にあたり、操作部材12に発生細胞のサンプルをロードし、これを続いて、図2に示されるようにスリーブ14内に保護のため引き込む。そこで、引き込まれた構成のツール10全体が、図3に描写されるようにケーシング16内に挿入される。当業者は、以下の説明を踏まえて、本発明にしたがったツールの適用の多様な可能性を理解するであろう。しかし図面に描写される実施形態は、さらに説明されるガラス化処理においてヒト卵母細胞を操作する、ヒト補助生殖技術に用いるのにとりわけ適している。
【0016】
ここで図4を参照すると、ツール10(図1)の操作部材12とスリーブ14が、分解されて示される。操作部材12は、円筒状であることが好ましく、二つの対向する端を有する細長いステム18を含む。遠位端20はロード端20と称され、一方、近位端22は操作端22と称されることになる。ロード端20は、発生細胞のサンプルがロードされるロード部分24に接続され、一方、操作端22は、ケーシング16を係合するのに適合したキャップ26に接続されることが好ましい。説明のため、好ましい本実施形態のステム18は長さが約80mmであり、直径が1.5mmであり、一方、スリーブ14の長さは約60mmである。
【0017】
発生細胞は、ロード部分として働くストリップ24上にロードされる。ストリップ24は、ステム18のロード端20に接続され、ステム18から軸方向外側に約8mm延在する。ストリップ24は、細長く、平坦で、柔軟であることが好ましい。ストリップ24は、通常長方形であり、幅が約1mmであることが好ましく、顕微鏡のレンズの下にフィットするように大変薄く作られている。柔軟であることに加えて、該ストリップはまた、サンプルの容易な操作のために透明である必要がある。ストリップ24の薄さは0.15mmであることが好ましい。
【0018】
スリーブ14は、二つの開放端を有する円筒形の部材であり、したがってストローに似ている。図1および2に戻ると、操作部材12が操作のためにスリーブ14に挿入されることがわかる。ステム18とスリーブ14はしたがって、適合する外径および内径をそれぞれ有し、それにより、滑動運動が行われることを可能にする。スリーブ14は、引き込まれたロード部分24の保護部材として働く。好ましい実施形態において、ステム18の外径は、スリーブ14の内径よりもわずかに小さく、スリーブ14の内径とステム18の外径との間に充分なすき間を作り、ステム18がスリーブ14内で縦方向の動きで自由にスライドもしくは出たり入ったりすることを可能にする。スリーブ14の内径は2mmであることが好ましく、一方、ステム18の外径は1.5mmであることが好ましい。
【0019】
スリーブ14はステム18よりも短く、ロード端20がスリーブ14の対応する端にぴったり重なる時に、ステム18が操作端22から(もしくは任意のキャップ26で)操作されることを可能にすることが好ましい。操作部材12の操作端22をスリーブ14の一方の端から引いたり押したりすることで、ユーザは、ロード部分24をスリーブ14の他方の端内に引き込み、また該端から引き出すことが出来る。
【0020】
操作部材12が望ましくなく、もしくは自重により、移動することを防ぐため、滑動運動を制限する手段が提供される。隆起28と溝30(図1)が用いられるか、もしくはステム18の少なくとも一部分がスリーブ14の少なくとも内側部分と協働するようにされ、摩擦を起こすようにすることができる。実際、操作部材12の滑動運動は、ロード部分24を完全にスリーブ14内に引き込んだりスリーブ14から引き出すのに必要なずれを越える必要がない。ツール10は、スリーブ14内に縦方向に規定された溝30と、ステム18上に規定されて溝30にはまるよう配置された隆起28とを備えることが好ましい。隆起28は溝30のサイズに厳密に適合することが好ましい。一旦、操作部材12がスリーブ14に組み立てられると(図1および2を参照)、隆起28は溝30にぴったり収まり、したがって該溝は該隆起を閉じこめ、これと協働して操作部材12の軸方向移動を溝30のサイズや形状に制限する。隆起28と溝30との間の協働相互作用はしたがって、所定の範囲内で、操作部材12のスリーブ14に対するスライドもしくは出たり入ったりする運動を制限する。
【0021】
溝30の長さは、操作部材12のスリーブ14に対する総移動能力を規定し、したがって溝30の長さは少なくともストリップ24と同じだけあり、該ストリップが完全に引き出され、かつ引き込まれることを可能にする必要がある。隆起28と溝30との相対的な縦方向位置は、ストリップ24の引き出された位置と引き込まれた位置とを決定する。図5Aは、溝30が伸張端38と収縮端36とを含むことを示す。溝30がストリップ24よりもわずかだけ長い場合、隆起28と溝30の位置は、隆起28が溝の伸張端38に当接する時にストリップ24が完全に引き出され、隆起28が溝30の収縮端36に当接する時にストリップ24が完全に引き込まれるように選択される。代替的な構成において、伸張端38に当接する隆起28の位置決めは、スリーブ14の外に少なくとも部分的に引き出されるストリップ24に対応して、サンプルをロードすることを可能にする必要がある、また、収縮端36に当接する隆起28の位置決めは、スリーブ14内に少なくとも完全に引き込まれるストリップ24に対応して、サンプルが引き込まれた時にこれを潜在的な損傷から保護する必要がある。
【0022】
図5B、5Cおよび5Dは、図5Aの溝の代替を図解する。図5Bは、ラジアル方向の切欠140、140’から構成され、隆起28がステム18を回転することによりその中に配置される時に操作部材12の滑動運動をスリーブ14に対する所定の位置に阻止する、代替的な溝130を図解する。切欠140および140’は、溝130の対向する端136および138にそれぞれ配置される。切欠140は、引き込まれた操作部材(図2)が直立位置に配置された時にその自重で落ちることを防ぐのに特に有用であり、したがってロードされたサンプルへの損傷を防ぐ可能性がある。ラジアル方向の切欠140および140’は、「単純切欠」もしくは単に「切欠」と称されることができる。
【0023】
図5Cに描写される溝230は好ましい。溝230は、収縮端236の逆L字形状のロック切欠244と、伸張端238の逆L字形状のロック切欠244’とから構成される。ロック切欠244と244’は、操作部材12のラジアル方向移動に加えて軸方向移動を強制して、隆起28を収縮端236から伸張端238へ、またその反対に移動させることにより、所定の位置に操作部材12の滑動運動を固定する。このことは、ユーザがストリップ24(図4)を、ストリップがサンプルをロードするために露出される所望の引き出された位置に固定し、保存の間ストリップ24を所望の引き込まれた位置に安全に保護することを可能にする。ロック切欠244と244’は、単純切欠144および144’のラジアル方向成分を含むが、さらに縦方向成分も含む。図5Dに描写される実施形態は、二つではなくただ一つのロック切欠348が用いられて溝330の収縮端336に配置される代替的な溝330を図解する。このロック切欠348は、方形ではなく曲線であり、逆J字形状である。
【0024】
好ましい実施形態において、明瞭さの理由から図1から4には描写されなかったが、図5Cに示される溝230が用いられる。溝230の幅は0.8mmである。対応する隆起28の幅は0.6mmであり、ステム18からラジアル方向に0.5mm延在する。隆起28は、前記ステム18の端20、22のほぼ中間に配置される。
【0025】
図1に戻ると、ツール10がケーシング16と組み合わされて提供されることが好ましいことがわかる。ケーシング16は中空であり、開放端32と閉鎖端34とを有する。これはツール10と同じ断面形状、したがって円筒状であることが好ましい。ツール10は、さらなる保護のためにケーシング16に挿入されることができる(図3参照)。ツールがその中に挿入されると、キャップ26を用いてケーシング16の開放端32を閉じる。キャップ26は操作部材12の一部として提供され、ステム18の操作端22に接続されることが好ましい。このことは、ユーザが単独のステップでツール10をケーシング16に挿入してケーシング16を閉じることを可能にするため、またツール10のケーシングからの容易な引き出しを提供するため、好ましい。
【0026】
好ましくは、操作部材12はステム18、ストリップ24、隆起28およびキャップ26と一体の部分として成型されることが好ましい。ステムが成型される場合、型の入口は、成型作業の間に隆起28を形成するように設計されることができる。当業者は、構成要素24、28、26がステム18とは別に提供され、任意の適切な手段によりステム18に取り付けられるか、または接続されるであろうことを理解するであろう。操作部材12を一体の部分として成型することは、製作コストを削減し、製品の商業収益性を強化する可能性があると認められた。スリーブ14およびケーシング16もまた成型され、ツールの各構成要素は同じ材料から作られることができる。
【0027】
ツールを構成する多くの適切な材料がおそらく当業者に見て取れるであろう。わずかに柔軟性があり、若干透明である材料を用いることが、同じ作業で成型された場合にストリップ24がその薄さによって他の構成要素よりも柔軟性があり透明になる点において有利であると決定された。操作部材12およびスリーブ14の柔軟性はまた、操作部材12をスリーブ14に組み立てる時に、ステム18の部分の隆起28を溝30内に挿入するのに備える。このことは、隆起28を含むステム18の部分とスリーブ14との間のすき間が狭くされてツールが組み立てられた時に隆起28が溝30から自由に出ることを防いでいる場合にとりわけ有用である。さらに、好ましい材料は、低い膨張係数を有して、室温と氷点下の温度との間の急速かつ大きな温度変化によるツール構成要素の亀裂やクラッキングを防ぐことが好ましい。材料はさらに凍結過程に耐性があり、若干不透性である必要がある。材料は液体窒素に耐性がある必要がある。ポリプロピレンがツール10を作るのに適した材料であることがわかっている。添加剤、充填剤および強化材がポリプロピレンに加えられて所望の特徴を実現するであろう。ツールを作るのに用いられる好ましい材料は、Basell PolyolefinsのPro−fax(登録商標)PD626−H12樹脂である。
【0028】
操作の好ましい一形態は以下の通りである。サンプルをツール10で取るべく、操作端22を操作してストリップ24をスリーブ14から、図1に図解された構成まで完全に引き出す。ユーザは、スリーブ14を保持しながらステム18の操作端22(もしくはキャップ26)を用いて隆起28が逆「L」字形状244’(図5)内にあるようにステム18を操作することで、ストリップ24を引き出されたロード構成もしくは「露出」構成(図1)にロックすることができる。ユーザは、ストリップ24を溶液などの媒体内および顕微鏡のスライド上にあるであろうサンプルに近づけることでサンプルをロードする。一旦、サンプルが含まれるところの媒体のいくらかを含むサンプルがストリップ24上にロードされると、ユーザは、サンプルがスリーブ14によって保護されるように、ロードされたストリップ24をスリーブ14内に引き込む。このために、ユーザは操作端22を引き、ねじり、さらに引いて、隆起28を逆「L」字形状244’から出す。ストリップ24は、関連する隆起28が逆J字形状のスロット244に追い込まれるよう(図5)操作端22をねじって押すことで、引き込まれた保護位置でロックされることができる(図2)。サンプルが保存場所から動かされるとき、隆起28は逆J字形状のスロット244から取り出され、ロードされたストリップ24はスリーブ14から引き出されて露出構成に戻される。
【0029】
典型的なガラス化手順において、ヒト卵母細胞はまず、室温で3分から5分の間、平衡溶液に懸濁される。これらは次に、室温で45秒から60秒の間、ガラス化溶液に移され、すぐに液体窒素に漬けられる。一旦、液体窒素に入れられると、ロードされた卵母細胞を有するストリップ24は、上述のようにスリーブ14内に引き込まれ、ロードされた卵母細胞を液体窒素に依然保持しつつ、引き込まれた位置にあるツール10は、上述のように保存のために(少なくとも一週間)ケーシング16内に挿入される。ここで、ツール10の部分としてケーシング用キャップ26を形成することが有利であることがわかるであろう。所望の保存期間の後、ツール10はケーシング16から取り出され、ストリップ24がスリーブ14から突出され、液体窒素から引き出される。卵母細胞はその後、37℃で1分間解凍溶液に直接挿入される。温められた卵母細胞は次に3分間、希釈溶液に移動され、5分間、洗浄溶液で二度洗浄される。典型的な溶液組成については、“High Survival Rate of Bovine Oocytes Matured In Vitro Following Vitrification”(Ri−Cheng CHIAN他)、Journal of Reproduction and Development誌第50巻6号(2004年)を参照のこと。以下の表1は、本発明にしたがったツールを用いたガラス化および解凍手順の結果を示す。
【0030】
【表1】

【0031】
本発明のツールを用いた、表1に提示される結果をもたらしたこれらに対する次の実験は、ヒトの妊娠結果をもたらした。これらの結果は、以下の表2に簡潔に明らかにされる。
【0032】
【表2】

【0033】
本発明にしたがったツールがまた、他のタイプの発生細胞の低温保存においても用いられた。たとえば、ウシ胚のガラス化および解凍からの生存結果が、以下の表3および表4に提示される。
【0034】
【表3】

【0035】
【表4】

【0036】
ツールに関してここに与えられる寸法は、例示の目的で与えられたが、サイズおよび比率は、とりわけヒト卵母細胞を操作することを考慮して、操作を容易にするために適切であることがわかり、またこのような適用を考慮してツール10の通常の機能性を維持しつつわずかに変更されることもできる。たとえば、ストリップ24は幅が約1mmで厚さが0.15mmであるかもしれないが、8mmよりもわずかに長いか短いかもしれない。ストリップ24の幅およびステム18の幅のどちらも、ストリップ24をステム18よりも薄く維持しつつ変更されるかもしれない。スリーブ14の長さは、たとえば40mmから120mmの間で変更されるかもしれず、しかしステム18は、操作端22における操作を容易にし、ツール10が長期の保存の間過度に扱いにくくなることを避けるため、15mmから40mmの間だけスリーブより長いままである必要がある。提示された実施形態にいくつかの修正をすることで、他のタイプの発生細胞がより良く操作されるであろう。たとえば、他のタイプの発生細胞の寸法に適合するべく、寸法は適切に変更されるであろうし、ストリップ24は他のタイプのロード部分と交換されるであろうし、ツールは他の異なる構成で提供されるであろう。
【0037】
ここに開示された説明は、出願時における本発明の実現の好ましい態様の例示であるよう意図される。多くの代替および修正が、本発明の範囲から逸脱することなく本明細書に開示された例示的な実施例に行われることができる。本発明の範囲はしたがって、添付の請求の範囲の意図によってのみ決定されるよう意図されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施形態にしたがったツールの斜視図
【図2】図1のツールの一部の斜視図
【図3】図1のケーシングを組み合わせたツールの斜視図
【図4】図1のツールのスリーブを分解して示す斜視図
【図5A】図1のツールの溝の代替実施形態の斜視図
【図5B】図1のツールの溝の代替実施形態の斜視図
【図5C】図1のツールの溝の代替実施形態の斜視図
【図5D】図1のツールの溝の代替実施形態の斜視図
【符号の説明】
【0039】
10 ツール
12 操作部材
14 スリーブ
16 ケーシング
18 ステム
20 ロード端
22 操作端
24 ロード部分
26 キャップ
28 隆起
30 溝
32 開放端
34 閉鎖端
36 収縮端
38 伸張端
130 溝
136 端
138 端
230 溝
236 収縮端
238 伸張端
330 溝
336 収縮端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細長いステムと、ステムの一方の端のサンプルロード部分とを有する、低温保存処理において発生細胞のサンプルを操作するツールであって、ロード部分がスリーブ内に引き込み可能であるような方法でステム上に滑動自在に取り付けられたスリーブからさらに構成され、それによってロード部分がスリーブ内に引き込まれた時にサンプルロード部分上のサンプルが、スリーブによって覆われることを特徴とする細胞操作ツール。
【請求項2】
スリーブ部分を有する一つの保護部材と、
サンプルを受けるロード部分を有する一つの操作部材であって、前記保護部材に係合され、スライド自在に操作可能であり、サンプルの露出と保護のためにロード部分をスリーブ部分の外側に引き出し、ロード部分をスリーブ部分の内側に引き込む操作部材と、
を含む、スライド自在に係合可能な二つの部材、
から構成される、発生細胞のサンプルをガラス化し、保存するツール。
【請求項3】
ステムがそこから軸方向に延在する隆起を有し、スリーブが縦方向の溝を有し、該溝が、そこに挿入され閉じ込められる隆起に適合した幅を有し、スリーブの滑動運動の範囲はしたがって協働する隆起と溝によって限定されることを特徴とする、請求項1に記載のツール。
【請求項4】
ステムがそこから軸方向に延在する隆起を有し、スリーブが縦方向の溝を有し、該溝が、そこに挿入され溝と協働して滑動運動を案内する隆起に適した幅を有することを特徴とし、溝が溝に沿った所定の縦方向位置においてラジアル方向の切欠を規定することで、ステムを回転させることによってラジアル方向の切欠内に隆起を配置することが滑動運動を阻止し、したがってロード部分をスリーブに対する所定の位置にロックすることをさらに特徴とする、請求項1に記載のツール。
【請求項5】
ツールを挿入することができるケーシングと組み合わせて提供されることを特徴とし、ケーシング用のキャップがステムのロード部分と反対側の端において提供され、したがってツールのケーシング内への挿入とケーシングを閉じることとが単独のステップで行われることを可能とすることをさらに特徴とする、請求項1、3および4のいずれか一つに記載のツール。
【請求項6】
細長いステムが対向する操作端とロード端とを有することと、スリーブがステムよりも短いことと、ロード部分がステムのロード端にあり、前記発生細胞のサンプルをロードするためのものであることと、ツールのロード部分がサンプルの保護と露出のために、スリーブを保持しつつ操作端を操作することにより、スリーブ内に引き込み可能であり、スリーブから引き出し可能であることとを特徴とする、請求項1に記載のツール。
【請求項7】
前記ステムの前記スリーブに対する前記滑動運動を制限する手段からさらに構成される、請求項1および3から6のいずれか一つに記載のツール。
【請求項8】
前記滑動運動を制限する前記手段が、前記スリーブ内部に規定された内部通路の少なくとも一部分と協働してその間の摩擦を提供する前記ステムの少なくとも一部分の幅から構成されることを特徴とする、請求項7に記載のツール。
【請求項9】
前記滑動運動を制限する前記手段が、前記スリーブ内に規定される溝と、前記ステム上に規定されるはめ合い隆起であってツールの操作の間前記溝内に閉じ込められて溝と協働して滑動運動を制限する前記隆起と、から構成されることを特徴とする、請求項7に記載のツール。
【請求項10】
ステムがスリーブによって規定される内径よりもわずかに小さな外径を規定し、したがってステムがスリーブに対して自由に滑動することを可能にすることを特徴とする、請求項9に記載のツール。
【請求項11】
前記溝が少なくとも前記ロード部分と同じ長さに延在し、対向する収縮端および伸張端を規定し、溝の伸張端に隣接するような隆起の位置決めが、少なくとも部分的にスリーブから引き出されて配置される関連するロード部分に対応し、溝の収縮端に隣接するような隆起の位置決めが、少なくとも完全にスリーブ内に引き込まれたロード部分に対応することを特徴とする、請求項9または10に記載のツール。
【請求項12】
前記溝がその収縮端において逆J字形状を規定し、ステムの回転とその縦方向移動に続いて逆J字形状の端における隆起の係合を可能にし、J字形状の溝が、スリーブ内の前記少なくとも完全に引き込まれた位置におけるロード部分のロックを提供し、保存の間その位置にとどまるようにすることを特徴とする、請求項11に記載のツール。
【請求項13】
前記溝がその伸張端において逆L字形状を規定し、ステムの回転とその縦方向移動に続いて逆L字形状の端における隆起の係合を可能にし、L字形状の溝は、ロード部分がスリーブから前記少なくとも部分的に引き出された位置においてロックされ、サンプルのロードの間その位置にとどまるようにすることを可能にすることを特徴とする、請求項11または12に記載のツール。
【請求項14】
ケーシングと組み合わせて提供され、保護のためにケーシング内に挿入されるよう適合され、ステムの操作端に接続されたキャップであってツールの前記挿入時に単独のステップでケーシングを閉じるよう適合されたキャップからさらに構成される、請求項6から13のいずれか一つに記載のツール。
【請求項15】
前記サンプルロード部分が、柔軟で、卵母細胞のサンプルの操作に適したサイズである、平坦なストリップであることを特徴とする、請求項1から14のいずれか一つに記載のツール。
【請求項16】
ストリップが透明であることを特徴とする、請求項15に記載のツール。
【請求項17】
前記ステムがロード部材と一体化して成型されることを特徴とする、請求項1および3から16のいずれか一つに記載のツール。
【請求項18】
ツールが、液体窒素に耐性があり、低い熱膨張係数を有する材料から作られることを特徴とする、請求項1から17のいずれか一つに記載のツール。
【請求項19】
前記ロード部分が約1mmの幅、約0.15mmの厚さ、約8mmの長さを有する平坦なストリップであり、したがって卵母細胞のサンプルの操作に適したサイズであり、前記スリーブが約2mmの内径を有し、前記ステムが約1.5mmの外径を有し、したがってスリーブが自由に滑動することを可能とし、前記スリーブが40mmから120mmの間の長さであり、前記ステムが前記スリーブよりも15mmから40mm長いことを特徴とする、請求項1および3から17のいずれか一つに記載のツール。
【請求項20】
ツールの構成要素がポリプロピレンから作られることを特徴とする、請求項1から19のいずれか一つに記載のツール。
【請求項21】
サンプルをサンプル操作ツールのロード部分にロードすることと、ツールのロード部分を保護スリーブ内に引き込むことと、から構成される、低温保存の処理の間、発生細胞のサンプルを保護する方法。
【請求項22】
ロードされたサンプルを有するロード部分を、サンプルをガラス化するのに適合した液体に挿入することからさらに構成され、
引き込むステップが前記サンプルを前記液体内に保持しつつ行われることを特徴とする、
請求項21に記載の方法。
【請求項23】
少なくとも前記ロードされたサンプルを液体内に保持しつつ、前記ツールをケーシング内に挿入することと、
前記挿入するステップにおいて前記ケーシングにキャップをすることと、
からさらに構成される、請求項21に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【公表番号】特表2008−523824(P2008−523824A)
【公表日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−547113(P2007−547113)
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【国際出願番号】PCT/CA2005/001441
【国際公開番号】WO2006/066385
【国際公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(507205265)マギル ユニバーシティ (2)
【氏名又は名称原語表記】MCGILL UNIVERSITY
【Fターム(参考)】