説明

低温焼成フェライト

【課題】磁気特性が良好で、低温から高温まで透磁率の変動が少なく、コアロスも抑えられ、インダクタンスの応力特性が良好で、低温焼成が可能な積層磁性部品に好適なフェライト材料を得る。
【解決手段】Fe2 3 を45〜50モル%、ZnOを10〜32モル%、CuOを5〜15モル%、NiOを残部として含有するNi−Zn系フェライトにおいて、Niの一部がSnとSrとで同時置換され、その置換量がSnO2 換算で0.2〜0.6wt%、SrCO3 換算で0.2〜0.4wt%であり、950℃以下で焼成可能とした低温焼成フェライトである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ni−Zn系の低温焼成フェライトに関し、更に詳しく述べると、Niの一部を適量のSnとSrとで同時置換した低温焼成フェライトに関するものである。このフェライト材料(酸化物磁性材料)は、例えば積層インダクタや積層コモンモードチョーク等の積層磁性部品に好適である。
【背景技術】
【0002】
積層磁性部品は、内部に所望の導体パターンが埋設されるようにフェライト材料を積層し、その積層体を焼成することにより製造される。内部導体としては、特に電気抵抗面から銀ペーストを使用することが望ましい。そこで、内部導体として銀が使用できる(銀と反応しない)という条件から、積層体を構成するフェライト材料は950℃以下の低温で焼成可能であることが要請される。
【0003】
この種の低温焼成可能なフェライト材料として、通常、Ni−Zn系フェライトが用いられている。典型的な例としては、Fe2 3 を45〜50モル%、ZnOを10〜32モル%、CuOを5〜15モル%、NiOを残部として含有する組成がある。そして、磁気特性や温度特性、焼成特性などを改善するため、そのような主成分に対して様々な副成分を添加することが行われている。例えば、特許文献1には、主成分100重量部に対して、Sn酸化物をSnO2 に換算して1.5〜3.0重量部、Co酸化物をCo3 4 に換算して0.02〜0.2重量部、Bi酸化物をBi2 3 に換算して0.45重量部以下含有させることが開示されている。その他、特許文献2には、Ni−Cu−Zn系フェライトに、SnO2 を0.4〜1.8wt%含有させることが開示されている。
【0004】
しかし、これら従来の低温焼成可能なフェライト材料は、様々な副成分(添加物)を含有させることによって必要な磁気特性を発現させることができても、使用環境(温度や外部応力)の変動に対する磁気特性の変化が大きかったり、高周波電流供給時におけるコアロスが大きいなどの問題を有していた。そこで、使用環境が変動しても要求特性を確保できるようにするため、積層磁性部品の構造を工夫するなどの対策を施しており、小型化、高性能化が難しくなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−255637号公報
【特許文献2】特開2002−124408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、磁気特性が良好で、低温から高温まで透磁率の変動が少なく、コアロスも抑えられ、インダクタンスの応力特性が良好で、低温焼成が可能な積層磁性部品に好適なフェライト材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、一般的な低温焼成用Ni−Zn系フェライトの組成に対して、Niの一部を適量のSnとSrとで同時置換したものであり、その点に主要な特徴がある。Snの多量置換のみでは磁気特性が大きく悪化するが、Snの一部を更にSrにて置換することで、温度特性が改善され、応力特性も改善される。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る低温焼成フェライトは、Ni−Zn系フェライトのNiの一部を、適量のSnとSrとで同時置換したことによって、透磁率の温度特性に優れ、インダクタンスの応力特性が良好で、しかもコアロスも抑えることができ、950℃以下の低温焼成が可能なため、内部に銀の導体パターンが埋設され一体焼成される積層磁性部品に好適なフェライト材料が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、Fe2 3 を45〜50モル%、ZnOを10〜32モル%、CuOを5〜15モル%、NiOを残部として含有するNi−Zn系フェライトにおいて、Niの一部がSnとSrとで同時置換され、その置換量がSnO2 換算で0.2〜0.6wt%、SrCO3 換算で0.2〜0.4wt%であり、950℃以下で焼成可能とした低温焼成フェライトである。なお、ベースとなるNi−Zn系フェライトの組成自体は、この種の磁性部品として一般的な範囲内のものである。
【0010】
Ni−Zn系フェライトでは、Niの一部をSnで置換することで、透磁率の温度特性を改善でき、応力特性も良好となる。しかしながら、Snの多量置換では透磁率が著しく低下してしまい、インダクタとしての使用は困難となる。そこでSnの一部を更にSrにて置換すると、透磁率の低下が抑制され且つその温度特性が改善され、応力特性も良好となることが見出された。本発明は、かかる現象の知得に基づくものである。Srは、Srフェライトとしてハードフェライト材料に用いられるが、ソフトフェライト材に組み込まれることはあまりない。Srフェライトは結晶磁気異方性Ku1が正であることから、上記のような特性改善に効果があるものと考えられる。なお、従来技術として、特許文献1記載のようにCo添加の例があるが、Co添加は透磁率を下げる作用が大きく、それに対して本発明のようなSr置換は透磁率を下げる作用が小さく、Sr置換の効果は非常に大きい。
【0011】
本発明におけるSnとSrによる置換量は、特性改善上、特にSnO2 換算で0.2〜0.4wt%、SrCO3 換算で0.2〜0.4wt%とするのが好ましい。この置換範囲の場合は、必ずしも焼結助剤を添加する必要がないことから、その点でも好ましい。
【0012】
なお、Sn及びSrの多量置換は、焼結性を悪化させる傾向があるが、この点については、必要に応じて、Li,Mo,B,V,Biから選ばれる1種もしくは2種以上の酸化物からなる焼結助剤を0.2wt%以下添加することで解決できる。特に、SnもしくはSrの置換量がSnO2 換算もしくはSrCO3 換算で0.4wt%を超えるような場合には、焼結助剤を添加することで、焼結性を改善し、磁気特性などを改善できる。
【実施例】
【0013】
ベースとなるNi−Zn系フェライトとして、Fe2 3 を49.5モル%、ZnOを28モル%、CuOを9モル%、NiOを残部として含有するように各成文を秤量し、700℃で仮焼成を行い、その仮焼品をボールミルにて粉砕した。その粉砕品に対して、Niの一部がSnとSrとで同時置換されるように、Snの置換量がSnO2 換算で0.04〜0.65wt%、Srの置換量がSrCO3 換算で0.04〜0.55wt%となるように試料粉体を調整した。更に、必要に応じてBi、B等の酸化物からなる焼結助剤を添加して、試料粉体を調整した。得られた試料粉体を、外径25mm、内径15mmのリングに成形し、950℃にて焼成し、得られたリング試料について各種特性を評価した。
【0014】
測定項目は、透磁率μ、最大磁束密度Bm、コアロス、及びインダクタンスLの変化量である。透磁率μは、温度−35℃、室温、+85℃、周波数1MHzで測定した値であり、それらに基づき−35℃及び+85℃での透磁率μの室温での値に対する変化率も算出した。コアロスは、1MHz、30mT、80℃での値である。インダクタンスLの変化量は、20kg荷重時の値である。測定結果を表1〜表4に分けて示す。なお、各表中において、試料STDはSn及びSrで置換していないNi−Zn系フェライトの特性である。
【0015】
【表1】

【0016】
表1は、Snの置換効果を示すものである。なお、試料1〜2は、SrCO3 を含まずにSnのみで置換した参考例である。試料3〜7では、Sr置換量を一定(SrCO3 :0.3wt%)にしている。Sn置換量が増えると、透磁率μが低下する傾向がある。SrCO3 を含有させた場合も同様である。Srを同時置換することで、SnO2 量がある程度以上大きくなると、インダクタンスLの変化量は急激に小さくなる。また、コアロスについては、Sn置換量が少なすぎても多すぎても大きくなる傾向がある。つまり、ある程度の量のSrCO3 を含有させることを前提とした上で、Snの置換量には、SnO2 換算で0.3wt%程度を中心として好ましい範囲(0.2〜0.6wt%)が存在することが分かる。
【0017】
【表2】

【0018】
表2は、Srの置換効果を示すものである。試料8〜9,5,10〜11では、Snの置換量を一定(SnO2 換算で0.3wt%)にしている。Srの置換量が増えると透磁率μが増加し、インダクタンスLの変化量が減少するが、コアロスは増加する。それ故、ある程度の量のSnO2 を含有させることを前提とした上で、Srの置換量には、SrCO3 換算で0.3wt%程度を中心として好ましい範囲(0.2〜0.4wt%)が存在することが分かる。
【0019】
【表3】

【0020】
表3は、試料5(SnO2 :0.3wt%、SrCO3 :0.3wt%)を中心とし、それぞれ含有量を±0.1wt%変えた試料12〜15についての測定結果である。いずれの試料も、透磁率μ、コアロス、インダクタンスLの変化量について、良好な値が得られている。これらの結果から、SnO2 :0.2〜0.4wt%、SrCO3 :0.2〜0.4wt%が最適範囲であることが分かる。
【0021】
【表4】

【0022】
表4は、焼結助剤の添加効果を示している。試料16ではBi2 3 を、試料17ではB2 3 を、それぞれ0.1wt%添加している。これらではSnO2 量がやや多めであるが、焼結性が改善されるため、透磁率μの低下は抑えられ、コアロスは小さく、且つインダクタンスの変化率も小さくなり、良好な特性が得られることが判る。なお、表4にはBi及びBしか記載していないが、他の焼結助剤、例えばLi,Mo,Vでも同様の効果が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe2 3 を45〜50モル%、ZnOを10〜32モル%、CuOを5〜15モル%、NiOを残部として含有するNi−Zn系フェライトにおいて、
Niの一部がSnとSrとで同時置換され、それらの置換量がSnO2 換算で0.2〜0.6wt%、SrCO3 換算で0.2〜0.4wt%であり、950℃以下で焼成可能とした低温焼成フェライト。
【請求項2】
SnとSrによる置換量が、SnO2 換算で0.2〜0.4wt%、SrCO3 換算で0.2〜0.4wt%である請求項1記載の低温焼成フェライト。
【請求項3】
Li,Mo,B,V,Biから選ばれる1種もしくは2種以上の酸化物からなる焼結助剤が0.2wt%以下添加されている請求項1記載の低温焼成フェライト。

【公開番号】特開2010−222218(P2010−222218A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−73768(P2009−73768)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000237721)FDK株式会社 (449)
【Fターム(参考)】