説明

低温焼成高強度低熱膨張性磁器及びその製造方法

【課題】Ag、Au、Cu等の低抵抗金属と同時焼成が可能であり、しかも高い機械的強度と低熱膨張性を実現する、高強度低熱膨張性磁器及びその製造方法の提供。
【解決手段】式(1)


(式中、aは質量比で0.04〜0.25であり、α、β、γ及びδは質量%比でα:β:γ:δ=7.6〜13.2:4.0〜10.3:13.0〜30.4:53.7〜72.8である。)で示される組成を有する複合酸化物を含む高強度低熱膨張性磁器及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温焼成高強度低熱膨張性磁器及びその製造方法に関する。さらに詳しく言えば、本発明は、多層基板用材料、構造材料として信頼性が高く、Ag、Au、Cu等の低抵抗金属と同時焼成できる、低温焼成可能な高強度低熱膨張性磁器用組成物、その組成物から得られる磁器及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高度情報化時代を迎え、半導体素子には、高速化と共に、高集積化、及び実装の高密度化が求められている。高集積化や実装の高密度化のためには抵抗率の低い配線材料(Ag、Au、Cu等)の使用が求められるが、これらの金属は融点が低いため、配線パターンの印刷後に基板を焼成する多層配線基板等では、低温焼成可能な基板材料を用いる必要がある。このため、電子機器用基板材料として従来広く用いられてきたアルミナ基板に代わる、低温焼成可能な材料が必要とされている。
【0003】
最近では、ガラスと無機質フィラーとからなるガラスセラミックス材料が検討されている。例えば、特開2000−188017号公報(特許文献1)には、ディオプサイド(CaMgSi26)型結晶相を析出可能なガラス相と、フィラーとしてMg及び/またはZnとTiとを含有する酸化物を含む1000℃以下で焼成可能な磁器用組成物が開示されている。この種のガラスセラミックス材料は、800〜1000℃の温度で焼成することができるため、導体抵抗の低いAg、Au、Cu等と同時焼成できるという特長がある。
【0004】
高集積化に伴う半導体電子回路線幅の微細化が進み、シリコンウエハに電子回路を形成する露光装置用のX−Yステージには高精度で高い位置精度が要求され、露光装置用のX−Yステージ用のセラミックス材料や、シリコンウエハを載置する静電チャック用のセラミックス材料として、アルミナセラミックスや窒化珪素セラミックスが、従来、広く用いられてきた。前記静電チャック用のセラミックス材料としてコージェライトセラミックスが提案されている。
【0005】
露光時の熱変形を軽減するためには、露光装置の使用温度での熱膨張性は低い方がよく、低熱膨張性のものが求められている。コージェライトセラミックスは、アルミナセラミックスや窒化珪素セラミックスと比較して、熱膨張性が低いが、剛性が小さいことが知られている。β−スポジュメンも剛性が小さい。
【0006】
雰囲気温度での熱膨張性が高いと、温度変化による変形により、シリコンウエハ回路形成時や検査時のウエハ支持体の位置決め精度に影響を与え、製品品質及び歩留りに問題が発生する。また、シリコンウエハ支持体に外部衝撃が加わると、支持体が振動し、振動した状態で回路形成や検査を行うと、精度が低下する。振動は、支持体の剛性が低いことに起因するので、支持体には高い強度が要求される。しかし、高強度化を進めると、逆に熱膨張性が大きくなる傾向があった。
【0007】
従来、コージェライトセラミックスやリチウムアルミノシリケートセラミックスは、低熱膨張性セラミックスとして知られている。しかし、コージェライトセラミックスは、原料粉末に焼結助剤を添加し、所定形状に成形後、1000〜1400℃の温度で焼成することによって製造する(特開平2−229760号公報:特許文献2)。また、リチウムアルミノシリケートセラミックスについては、β−スポジュメンは、原料を所定形状に成形後、1100〜1400℃の温度で焼成して製造する(特公昭53−9605号公報:特許文献3)。
【0008】
このように、低温焼成可能で、使用温度での熱膨張性が低く、剛性が大きい低熱膨張性磁器が求められているが、熱膨張性が低いものは剛性が小さく、高強度化を進めると熱膨張性が大きくなる傾向があり、熱膨張性が低いものは焼成温度が高いといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−188017号公報
【特許文献2】特開平2−229760号公報
【特許文献3】特公昭53−9605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、多層基板用材料、構造材料として信頼性の高い磁器であって、Ag、Au、Cu等の低抵抗金属と同時焼成が可能であり、しかも高い機械的強度と低熱膨張性を実現する、低温焼成可能な高強度低熱膨張性磁器用組成物、その組成物から得られる磁器及びその製造方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、LiとMgとAlとSiとを特定の比率で含有する酸化物(焼成して前記酸化物を形成し得るLi、Mg、Al、及びSiの化合物及び/または複合酸化物を含む。)を所定温度で仮焼し、粉砕した原料にBi23を添加した組成物は、850〜900℃程度の低温で焼成可能であり、かかる組成物を低温焼成して得られる磁器は、低熱膨張性と高強度を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、下記の低温焼成可能な高強度低熱膨張性磁器用組成物、前記組成物を低温焼成した高強度低熱膨張性磁器及びその製造方法を提供する。
[1](A)Li2Oまたは焼成したときにLi2Oとなるリチウム化合物(a1)とMgOまたは焼成したときにMgOとなるマグネシウム化合物(a2)とAl23(a3)とSiO2(a4)との混合物であって、a1とa2とa3とa4の割合(質量%比)α:β:γ:δ=7.6〜13.2:4.0〜10.3:13.0〜30.4:53.7〜72.8の範囲にある仮焼物75〜96質量%と
(B)Bi234〜25質量%を含有し、850〜900℃の温度で焼成して式(1)
【化1】

(式中、aは質量比で0.04〜0.25であり、α、β、γ及びδは質量%比でα:β:γ:δ=7.6〜13.2:4.0〜10.3:13.0〜30.4:53.7〜72.8である。)
で示される高強度低熱膨張性磁器を生成する高強度低熱膨張性磁器用組成物。
[2]Li2Oまたは焼成したときにLi2Oとなるリチウム化合物(a1)とMgOまたは焼成したときにMgOとなるマグネシウム化合物(a2)とAl23(a3)とSiO2(a4)との混合物を750〜1000℃の温度で焼成した仮焼物を0.2〜5μmに微粉砕して、これにBi23を所定量混合して850〜900℃で焼結させた前項1に記載の高強度低熱膨張性磁器用組成物。
[3]前記a1、a2、a3及びa4の混合物の一部として、Li2OとAl23とSiO2との複合酸化物であるβ−スポジュメンを含む前項1または2に記載の高強度低熱膨張性磁器用組成物。
[4]式(1)
【化2】

(式中の記号は前項1の記載と同じ意味を表す。)
で示される組成を有する複合酸化物を含む高強度低熱膨張性磁器。
[5]前記複合酸化物が、β−スポジュメン系結晶相及び/またはLi2O・Al23・SiO2系結晶相、Li2O・SiO2系結晶相、及びMgO・SiO2系結晶相を含む前項4に記載の高強度低熱膨張性磁器。
[6]β−スポジュメン系結晶相及び/またはLi2O・Al23・SiO2系結晶相、Li2O・SiO2系結晶相、及びMgO・SiO2系結晶相を前記磁器の全体積の80%以上含む前項5に記載の高強度低熱膨張性磁器。
[7]抗折強度が150MPa以上である前項4〜6のいずれか1項記載の高強度低熱膨張性磁器。
[8]25〜400℃における線熱膨張係数が0〜5×10-6/℃である前項4〜7のいずれか1項記載の高強度低熱膨張性磁器。
[9]陽極接合時の伝導イオンをLiイオンとし、300〜350℃の温度で陽極接合可能な、式(1)
【化3】

(式中の記号は前項1の記載と同じ意味を表す。)
で示される組成を有する複合酸化物を含む高強度低熱膨張性磁器。
[10]
シリコン、GaAs、コバール、Al、またはTiと陽極接合可能な前項9に記載の高強度低熱膨張性磁器。
[11](A)Li2Oまたは焼成したときにLi2Oとなるリチウム化合物(a1)とMgOまたは焼成したときにMgOとなるマグネシウム化合物(a2)とAl23(a3)とSiO2(a4)との混合物であって、a1とa2とa3とa4の質量%比α:β:γ:δ=7.6〜13.2:4.0〜10.3:13.0〜30.4:53.7〜72.8の範囲にある混合物を750〜1000℃の温度で焼成粉砕した仮焼物75〜96質量%に
(B)Bi234〜25質量%を添加混合して、バインダーを含む成形助剤を加え所定形状に成形後、850〜900℃で焼成して、式(1)
【化4】

(式中の記号は前項1の記載と同じ意味を表す。)
で示される組成を有する複合酸化物を形成することを特徴とする高強度低熱膨張性磁器の製造方法。
[12]テープ成形法により成形した絶縁層形成用のグリーンシートを焼成する前項11記載の高強度低熱膨張性磁器の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の低温焼成可能な高強度低熱膨張性磁器用組成物は、液相形成成分としてBi23を用いることにより、β−スポジュメン系結晶相及び/またはLi2O・Al23・SiO2系結晶相、Li2O・SiO2系結晶相、MgO・SiO2系結晶相を主相とする磁器において低温焼結性を実現した。従って、本発明の高強度低熱膨張性磁器用組成物は、850〜900℃の低温で焼結でき、Cu、Au、Ag等による配線を同時焼成により形成することができるため、低熱膨張性LTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics ;低温同時焼成セラミック)基板として有用である。また、非常に高い機械的強度も有していることから、半導体製造工程等で使用される、露光装置用のX−Yステージ、静電チャック及びその構造部品、ミラー等の部材に適した高強度低熱膨張性セラミックスとしても有用である。さらに、300〜350℃の温度でシリコン等に陽極接合が可能であるためMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)実装用基板としても有用である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[磁器用組成物及び磁器]
本発明の低温焼成可能な高強度低熱膨張性磁器用組成物は、
(A)Li2Oまたは焼成したときにLi2Oとなるリチウム化合物(a1)とMgOまたは焼成したときにMgOとなるマグネシウム化合物(a2)とAl23(a3)とSiO2(a4)との混合物であって、a1とa2とa3とa4の割合(質量%比)α:β:γ:δ=7.6〜13.2:4.0〜10.3:13.0〜30.4:53.7〜72.8の範囲にある仮焼物75〜96質量%と
(B)Bi234〜25質量%を含有し、850〜900℃の温度で焼成して式(1)
【化5】

(式中、aは質量比で0.04〜0.25であり、α、β、γ及びδは質量%比でα:β:γ:δ=7.6〜13.2:4.0〜10.3:13.0〜30.4:53.7〜72.8である。)で示される高強度低熱膨張性磁器を生成する高強度低熱膨張性磁器用組成物である。
【0015】
Li、Mg、Al、及びSiを含有する混合物(a1とa2とa3とa4との混合物)に対してBi23を含有させることにより、850〜900℃程度の低温で焼結(焼成緻密化)できる。
【0016】
一般式(1)において、Bi23の割合a(質量比)は0.04〜0.25である。xが0.04より不足すると焼結せず、0.25より過剰だと強度が低下してしまう。
【0017】
一般式(1)において、Li2Oの割合α(質量%)は7.6〜13.2であり、MgOの割合β(質量%)は4.0〜10.3であり、Al23の割合γ(質量%)は13.0〜30.4であり、SiO2の割合δ(質量%)は53.7〜72.8である。
【0018】
αは7.6%より不足すると焼結せず、13.2%より過剰だと熱膨張係数が大きくなってしまう。βは4.0%より不足だと焼結せず、10.3%より過剰になると熱膨張が大きくなる。γは13.0%より不足だと熱膨張が大きくなり、30.4%より過剰だと焼結しない。δは53.7〜72.8%の範囲を外れると焼結しない。
【0019】
前記組成物からなる原料粉を仮焼して複合酸化物を形成し、これにBi23を加え焼結させることにより、本発明の高強度低熱膨張性磁器を得ることができる。
【0020】
本発明の高強度低熱膨張性磁器は、式(1)
【化6】

(式中の記号は前記と同じ意味を表す。)
で示される組成を有する複合酸化物を含む。
【0021】
本発明の高強度低熱膨張性磁器は、β−スポジュメン系結晶相及び/またはLi2O・Al23・SiO2系結晶相、Li2O・SiO2系結晶相、及びMgO・SiO2系結晶相を主体とし、さらにBi23・SiO2系結晶相乃至/及びガラス相から主として構成されるものである。
【0022】
ここで、「β−スポジュメン系結晶相」とは、β−スポジュメン結晶及びこれに類する組成及び結晶構造の結晶相、「Li2O・Al23・SiO2系結晶相」とは、Li2O・Al23・SiO2結晶及びこれに類する組成及び結晶構造の結晶相、「Li2O・SiO2系結晶相」とは、Li2O・SiO2結晶及びこれに類する組成及び結晶構造の結晶相であり、その各々の結晶相には、前記各結晶を構成する主構成元素以外の他の元素を含む同型の結晶構造の結晶を含んでもよい。
【0023】
MgO・SiO2系結晶相、及びBi23・SiO2系結晶相についても同様であり、「MgO・SiO2系結晶相」とは、MgO・SiO2結晶及びこれに類する組成及び結晶構造の結晶相であり、「Bi23・SiO2系結晶相」とは、Bi23・SiO2結晶及び結晶構造の結晶相であり、その各々の結晶相には、前記各結晶を構成する主構成元素以外の他の元素を含む同型の結晶構造の結晶を含んでもよい。
【0024】
各結晶相の具体的な含有比は、目標とする物性値を実現するものであれば特に限定されないが、通常は、β−スポジュメン系結晶相及び/またはLi2O・Al23・SiO2系結晶相、Li2O・SiO2系結晶相、及びMgO・SiO2系結晶相を磁器の全体積の90%以上含み、好ましくは95%以上含む。
【0025】
本発明の高強度低熱膨張性磁器は、線熱膨張係数が0〜5×10-6/℃、抗折強度が150MPa以上であり、850〜900℃の温度範囲での低温焼成によって相対密度95%以上まで緻密化されたものである。
【0026】
[磁器の製造方法]
本発明の高強度低熱膨張性磁器は、前記組成物からなる原料粉を750〜1000℃で仮焼後粉砕して粉末とし、これにBi23を加え、バインダーを含む成形助剤を加え所定形状に成形後、850〜900℃の温度で焼成して複合酸化物を形成することにより製造できる。
【0027】
主原料である、Li2Oまたは焼成したときにLi2Oとなるリチウム化合物と、MgOまたは焼成したときにMgOとなるマグネシウム化合物と、Al23と、SiO2とは、各金属酸化物の混合物でもよいが、β−スポジュメン等の複合酸化物にMgOを必要量混合したものでもよい。出発原料として用い得る、Li2Oまたは焼成したときにLi2Oとなるリチウム化合物と、MgOまたは焼成したときにMgOとなるマグネシウム化合物と、Al23と、SiO2とは、前記各金属の酸化物粉末のほかに、焼結過程で酸化物を形成し得る塩、例えば炭酸塩、酢酸塩、硝酸塩や水酸化物等の形態、例えば炭酸リチウム(Li2CO3)、炭酸マグネシウム(MgCO3)や水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)等の形態で添加できる。
【0028】
前記主原料に対して、焼結助剤としてBi23粉末を、好ましくは前記主原料が75〜96質量%、Bi23が4〜25質量%の範囲となるように添加混合する。
【0029】
Li2CO3、MgO、Al23、SiO2、Bi23等の原料粉末は、分散性を高め、望ましい強度や低熱膨張性を得るために、2.0μm以下、特に1.0μm以下の微粉末とすることが望ましい。
【0030】
上記の割合で添加混合、750〜1000℃で仮焼後粉砕した混合粉末にBi23を加え、適宜バインダー、好ましくは有機バインダー、例えば、アクリル樹脂バインダー等や、可塑剤、例えば、ジブチルフタレート(DBP)等のポリエステル樹脂など、必要に応じて、トルエン、メチルエチルケトン(MEK)等の有機溶剤を添加した後、例えば、金型プレス、押し出し成形、ドクターブレード法、圧延法等により任意の形状に成形後、酸化雰囲気中、または窒素ガス、アルゴンガス等の非酸化性雰囲気中において、850〜900℃の温度で、1〜3時間焼成することにより、相対密度95%以上に緻密化することができる。
【0031】
この時の焼成温度が850℃より低いと、磁器が十分に緻密化せず、900℃を越えると緻密化は可能であるが、Ag、Au、Cu等の低融点導体を配線材料として用いることが難しくなる。
【0032】
本発明によれば、Li、Mg、Al、及びSiの複合酸化物である固相とBi23・SiO2系液相の活性な固液反応が生じる結果、少ない焼結助剤量で磁器を緻密化することができる。そのため非晶質相の量を最小限に抑えることができる。
【0033】
このように本発明によれば、低温焼成した磁器中に、少なくともLi、Al、及びSiを含むスポジュメン系結晶相及び/またはLi2O・Al23・SiO2系結晶相、Li2O・SiO2系結晶相、MgO・SiO2系結晶相、及びBi23・SiO2系結晶相を析出させることにより、強度が高い低熱膨張性磁器を得ることができる。
【0034】
[磁器用組成物及び磁器の用途]
本発明の磁器用組成物によれば850〜900℃の低温焼成可能で、Ag、Au、Cu等の低融点・低抵抗な導体との同時焼成が可能であり、本発明の磁器用組成物を焼結した磁器は、室温(RT=25℃)〜400℃での線熱膨張係数が0〜5×10-6/℃と小さく、かつ抗折強度が150MPa以上の高強度を有する。
【0035】
すなわち、本発明磁器用組成物は、850〜900℃で低温焼成可能であることから、特にAg、Au、Cuなどを配線する配線基板の絶縁基板として用いることができる。
【0036】
かかる本発明磁器用組成物を用いて配線基板を作製する場合には、例えば、前記のようにして調合した混合粉末とBi23を公知のテープ成形法、例えばドクターブレード法、押し出し成形法等に従い、絶縁層形成用のグリーンシートを作製した後、そのシートの表面に配線回路層用として、Ag、Au及びCuのうちの少なくとも1種の金属、特に、Ag粉末を含む導体ペーストを用いて、グリーンシート表面にスクリーン印刷法等によって配線パターンを回路パターン状に印刷し、場合によってはシートにスルーホールやビアホール形成後、上記導体ペーストを充填する。その後、複数のグリーンシートを積層圧着した後、前記条件で焼成することにより、配線層と絶縁層とを同時に焼成することができる。
【0037】
さらに、本発明磁器によれば、雰囲気温度での熱膨張性が十分低いため、温度変化による変形が改善され、露光装置のX−Yステージやシリコンウエハ支持体の位置決め精度に付随する製品品質及び歩留りの問題も改善される。また、本発明磁器は剛性が高いので、これを適用することにより、外部衝撃が加わった場合の振動による精度低下の問題を改善することができる。
【0038】
このように、本発明磁器は、低温焼成が可能なばかりでなく、緻密で高強度を有し、かつ熱膨張性が低い。従って、本発明に係る磁器用組成物及び磁器は、半導体製造工程等で使用される、露光装置用のX−Yステージ、静電チャック及びその構造部品、ミラー等の部材に適した低熱膨張性セラミックスとしても最適である。
【0039】
[陽極接合]
本発明の高強度低熱膨張性磁器は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)実装用基板の作成に必須な接合技術である陽極接合が可能である。
【0040】
陽極接合は、アルカリ金属を含むガラスとシリコンを接触させた状態で、ガラス中のナトリウムなどのアリカリ金属イオンが動き易い温度まで加熱し、シリコン側を正、ガラス側を負の電極に接続して数百〜千ボルト程度の直流電圧を印加することにより、ガラスとシリコンを接合する方法である。アルカリ金属イオンが負極側に移動した際に生じる非架橋酸素イオンとシリコンが静電的に引き合い、磁器−シリコン界面で化学結合を生じることにより、強固で信頼性の高い接合が得られる。
【0041】
陽極接合する温度は、MEMSに与える影響が少ないため350℃以下の低温が好適であり、例えば300〜330℃またはそれ以下の低い接合温度が特に好適である。
本発明の高強度低熱膨張性磁器は、陽極接合時の伝導イオンを従来のNaから、よりイオン半径の小さいLiに変えたことによって、MEMSに与える影響の少ない好適な温度範囲(300〜350℃)での陽極接合が可能である。
【0042】
陽極接合はシリコンだけでなく、GaAs、コバール、Al、Tiなども接合可能であり、本発明の磁器においても特に制限されるものではない。
【0043】
陽極接合においては、相手材との熱膨張による位置ずれ等が問題になることから、基板材料の線熱膨張係数は、相手材の線熱膨張係数と近似することが求められ、成形焼成後の材料の線熱膨張係数は相手材の線熱膨張係数の0.5%以内であることが好ましい。相手材がシリコンの場合には、本発明の磁器の線熱膨張係数は、0〜5.0×10-6/℃、好ましくは3.0〜4.0×10-6/℃、さらに好ましくは3.2〜3.8×10-6/℃、特に好ましくは3.2〜3.5×10-6/℃である。
【実施例】
【0044】
以下に実施例及び比較例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0045】
実施例1〜8及び比較例1〜9
平均粒径が1μm以下の、Li2CO3、MgO、Al23、SiO2を酸化物換算の含有比が表1の割合となるようにボールミル中で混合し、750〜1000℃で仮焼後、0.2〜5μmまで微粉砕して粉末とした。これらの仮焼物に表1の割合でBi23を添加し、有機バインダー(ポリビニルアルコール)、可塑剤(ジブチルフタレート)、トルエンを添加混合して、ドクターブレード法により厚さ150μmのグリーンシートを作成した。このグリーンシートを5枚積層し、70℃の温度で150kg/cm2の圧力を加えて熱圧着した。得られた積層体を大気中で、500℃で脱バインダーした後、大気中で表1の温度条件下で焼成して多層基板用磁器を得た。
【0046】
得られた焼結体について嵩密度をアルキメデス法にて測定した。また、JISR1601に基づき、磁器の3点曲げ強度(抗折強度)を測定した。TMA(熱機械的分析)法にて室温(RT=25℃)から400℃における線熱膨張係数を測定した。また、各試料についてX線回折測定を行い、標準試料のX線回折ピークとの比較によって磁器の構成相を同定した。これらの測定結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
表1中、Lithium Silicate、Lithium Aluminum Silicate、Enstatite、Bismus Silicate、及びForsteriteは、各々下記結晶相を表す。
Lithium Silicate:Li2SiO3、Li2Si25など、
Lithium Aluminum Silicate :スポジュメン(LiAlSi26)など、
Enstatite :MgSiO3
Bismus Silicate:Eulytite、Bi22・SiO3など、
Forsterite:Mg2SiO4
【0049】
表1の結晶相の欄に記載したように、実施例の磁器については、β−スポジュメン系結晶相及び/またはLi2O・Al23・SiO2系結晶相、Li2O・SiO2系結晶相、MgO・SiO2系結晶相の各相の存在が確認された。
【0050】
表1に示す結果から明らかなように、Li2O、MgO、Al23、SiO2を本発明の組成範囲で含み、結晶相として、β−スポジュメン系結晶相及び/またはLi2O・Al23・SiO2系結晶相、Li2O・SiO2系結晶相、MgO・SiO2系結晶相が主として析出した本発明の低温焼成磁器は、いずれも線熱膨張係数が0〜5×10-6/℃、抗折強度が150MPa以上の優れた値を示す高強度低熱膨張性磁器である。
これに対して、Li2Oの含有量が過少の場合には焼結せず(比較例1)、過多の場合には線熱膨張係数が5×10-6/℃を超え(比較例2)、MgOを含まない場合には焼結せず(比較例9)、MgOの含有量が過多の場合には線熱膨張係数が5×10-6/℃を超え(比較例5〜6)、Al23の含有量が過多の場合には焼結しない(比較例7)。またBi23の含有量が過少の場合には焼結せず(比較例3)、過多の場合には抗折強度が低くなる(比較例4)。
【0051】
[陽極接合の確認]
実施例で焼結した基板8水準を準備し、陽極接合性能を評価した。前記基板8水準、各1枚を20mm□にダイシングし、板厚み0.3mmに鏡面研磨した。この基板とシリコンとを加熱したホットプレート上でシリコンが正極、基板が負極になるように直流電圧(600VDC)を印加して陽極接合を行った。陽極接合回路上に電圧検出用の抵抗素子を挿入し、その抵抗素子にかかる電圧をモニタリングし、接合電流が接合時間とともにどのように変化するかをチェックした。
なお、焼き上がった状態の基板の表面粗さ(Ra:中心線平均粗さ)は200nm程度であったが、本発明では、鏡面研磨加工レベルを上げることにより、パイレックス(登録商標)ガラス(商品名;コーニング社製のホウケイ酸ガラス)と同等の表面粗さ(数nmRa)にまで仕上げた。この鏡面研磨した基板を用いて、300℃、330℃、及び360℃で陽極接合を行った。
得られた陽極接合体にガラス切りで傷をつけて手で分割し、破断面をSEMで観察した。結果は表2に示す通り、全水準でシリコンと低温焼結基板が連続した破断面になっており、不連続点(デラミネーション)はなく、強固に接合できている(OK)ことが観察された。
【0052】
比較のため、Naを陽極接合時の伝導イオンとする低温焼成セラミックスとシリコンとを陽極接合した接合体についてデラミネーションの確認を行った。なお、比較のためのLTCCは次のようにして作製した。
すなわち、陽極接合できるガラスとして市販されているガラス粉末(SiO2:81.9〜82.4質量%、Al23:2.9〜3.2質量%、B23:10.5〜11.0質量%、Na2O:3.9〜4.7質量%、K2O、Fe23、CaO、MgOはいずれも0.1%以下)55〜60質量%を平均粒径(D50)で0.6〜2.5μmに粉砕し、平均粒径1〜3μmのアルミナ粉末8〜25質量%および平均粒径1〜3μmのコージェライト粉末(ガラス再結晶タイプ)18〜34質量%と混合した。この混合物に溶剤としてトルエンを加えてボールミル中で分散したあと、バインダーとしてポリビニルアルコール、可塑剤としてジブチルフタレート(DBP)を加えスラリーを作製した。得られたスラリーをドクターブレード法でシート状に成形し、乾燥し、厚み125μmのグリーンシートを得た。これを所定の大きさに切断し、8層に積層後、大気中、835℃または850℃で1時間焼成を行い、Naを陽極接合時の伝導イオンとするガラス・フィラー複合LTCC(BSW)を作製した。この基板(BSW)は、330℃で陽極接合できなかった(NG)。
【0053】
【表2】

【0054】
以上のように、従来のNaイオンを陽極接合時の伝導イオンとする低温焼成セラミックス(LTCC)と比較して、陽極接合時の伝導イオンをLiイオンとした本発明の磁器によれば350℃以下の低温でも陽極接合できる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の磁器用組成物によれば、850〜900℃の温度で焼結でき、Ag、Au、Cu等の低融点・低抵抗な導体との同時焼成が可能であり、これを焼結することにより、室温(RT=25℃)〜400℃での線熱膨張係数が0〜5×10-6/℃と小さく、かつ抗折強度が150MPa以上と高い強度を有する本発明の高強度低熱膨張性磁器を提供できる。すなわち、本発明の磁器用組成物は、850〜900℃の温度で焼結可能であることから、特にAg、Au、Cuなどを配線する配線基板の絶縁基板として用いることができるばかりでなく、焼結された高強度低熱膨張性磁器は、半導体製造工程等で使用される、露光装置用のX−Yステージ、静電チャック及びその構造部品、ミラー等の部材に適した高強度低熱膨張性セラミックスとして有用である。また300〜350℃の温度で陽極接合が可能であり、MEMS実装用基板としても有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)Li2Oまたは焼成したときにLi2Oとなるリチウム化合物(a1)とMgOまたは焼成したときにMgOとなるマグネシウム化合物(a2)とAl23(a3)とSiO2(a4)との混合物であって、a1とa2とa3とa4の割合(質量%比)α:β:γ:δ=7.6〜13.2:4.0〜10.3:13.0〜30.4:53.7〜72.8の範囲にある仮焼物75〜96質量%と
(B)Bi234〜25質量%を含有し、850〜900℃の温度で焼成して式(1)
【化1】

(式中、aは質量比で0.04〜0.25であり、α、β、γ及びδは質量%比でα:β:γ:δ=7.6〜13.2:4.0〜10.3:13.0〜30.4:53.7〜72.8である。)
で示される高強度低熱膨張性磁器を生成する高強度低熱膨張性磁器用組成物。
【請求項2】
Li2Oまたは焼成したときにLi2Oとなるリチウム化合物(a1)とMgOまたは焼成したときにMgOとなるマグネシウム化合物(a2)とAl23(a3)とSiO2(a4)との混合物を750〜1000℃の温度で焼成した仮焼物を0.2〜5μmに微粉砕して、これにBi23を所定量混合して850〜900℃で焼結させた請求項1に記載の高強度低熱膨張性磁器用組成物。
【請求項3】
前記a1、a2、a3及びa4の混合物の一部として、Li2OとAl23とSiO2との複合酸化物であるβ−スポジュメンを含む請求項1または2に記載の高強度低熱膨張性磁器用組成物。
【請求項4】
式(1)
【化2】

(式中の記号は請求項1の記載と同じ意味を表す。)
で示される組成を有する複合酸化物を含む高強度低熱膨張性磁器。
【請求項5】
前記複合酸化物が、β−スポジュメン系結晶相及び/またはLi2O・Al23・SiO2系結晶相、Li2O・SiO2系結晶相、及びMgO・SiO2系結晶相を含む請求項4に記載の高強度低熱膨張性磁器。
【請求項6】
β−スポジュメン系結晶相及び/またはLi2O・Al23・SiO2系結晶相、Li2O・SiO2系結晶相、及びMgO・SiO2系結晶相を前記磁器の全体積の80%以上含む請求項5に記載の高強度低熱膨張性磁器。
【請求項7】
抗折強度が150MPa以上である請求項4〜6のいずれか1項記載の高強度低熱膨張性磁器。
【請求項8】
25〜400℃における線熱膨張係数が0〜5×10-6/℃である請求項4〜7のいずれか1項記載の高強度低熱膨張性磁器。
【請求項9】
陽極接合時の伝導イオンをLiイオンとし、300〜350℃の温度で陽極接合可能な、式(1)
【化3】

(式中の記号は請求項1の記載と同じ意味を表す。)
で示される組成を有する複合酸化物を含む高強度低熱膨張性磁器。
【請求項10】
シリコン、GaAs、コバール、Al、またはTiと陽極接合可能な請求項9に記載の高強度低熱膨張性磁器。
【請求項11】
(A)Li2Oまたは焼成したときにLi2Oとなるリチウム化合物(a1)とMgOまたは焼成したときにMgOとなるマグネシウム化合物(a2)とAl23(a3)とSiO2(a4)との混合物であって、a1とa2とa3とa4の質量%比α:β:γ:δ=7.6〜13.2:4.0〜10.3:13.0〜30.4:53.7〜72.8の範囲にある混合物を750〜1000℃の温度で焼成粉砕した仮焼物75〜96質量%に
(B)Bi234〜25質量%を添加混合して、バインダーを含む成形助剤を加え所定形状に成形後、850〜900℃で焼成して、式(1)
【化4】

(式中の記号は請求項1の記載と同じ意味を表す。)
で示される組成を有する複合酸化物を形成することを特徴とする高強度低熱膨張性磁器の製造方法。
【請求項12】
テープ成形法により成形した絶縁層形成用のグリーンシートを焼成する請求項11記載の高強度低熱膨張性磁器の製造方法。

【公開番号】特開2010−254505(P2010−254505A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−104760(P2009−104760)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(390010216)ニッコー株式会社 (49)
【Fターム(参考)】