説明

低温熱硬化型導電性コーティング用組成物

【課題】被膜外観、透明性、導電性、基材への密着性、耐擦傷性、耐溶剤性に優れた導電性被膜を、低温で基材に形成し得る導電性コーティング用組成物、およびそれを用いた導電性被覆基材を提供すること。
【解決手段】導電性ポリマー、フルエーテル型メラミン樹脂、スルホン酸の酸触媒、水と混和する有機溶剤と水を含有し、さらには安定化剤を含有する導電性コーティング用組成物が提供される。この組成物を樹脂基材に付与して乾燥硬化させることにより、導電性被膜が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温での熱硬化性を有する導電性コーティング用組成物とそれを用いた導電性被覆基材に関する。このような被覆基材は、液晶ディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、プラズマディスプレイ、エレクトロクロミックディスプレイ、太陽電池、タッチパネル、ならびにソフトトレイ、ハードトレイ、キャリアテープ、カバーテープ、スペーサーテープ等の電子部品包装材料などの各種フィルムやシートに、帯電防止機能および/または透明電極機能を付与するために用いることができる。
【背景技術】
【0002】
樹脂基材に導電性を付与するために、導電性ポリマーを含有する塗布液が用いられている。導電性ポリマーとして、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリンおよびこれらの誘導体などが知られており、中でもポリチオフェン誘導体とドーパントからなる複合体の分散体は、化学的安定性や得られる導電性被膜が高い導電性と透明性に優れている点から、広く実用化されている。このポリチオフェン系導電性ポリマーにバインダー樹脂や界面活性剤を配合することにより、成膜性、基材に対する密着性に優れた導電性被膜を形成可能であるが、一般的に、このような導電性コーティング用組成物は低温での熱硬化性を有しておらず、特に、耐熱性が高くないポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、トリアセチルセルロース、シクロオレフィン系ポリマー、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアクリル系ポリマーなどの基材を用いる場合、十分な熱を掛けることができず、熱硬化が不十分となり、導電性被膜の高い耐擦傷性、耐水性、耐有機溶剤性が得られない。特に、コーティングに於いて、高い生産性を有するロールコーティングを適用する場合、プロセス上、長時間熱を掛けることができず、比較的低い温度で、且つ短時間で熱硬化できる導電性コーティング用組成物が求められている。
【0003】
塗布液に低温での熱硬化性を付与する架橋剤として、メラミン樹脂が産業用塗料で用いられており、メラミン樹脂の架橋により樹脂被膜の強度が向上し、耐擦傷性、耐水性、耐溶剤性が被膜に付与されることが知られている。
例えば、特許文献1では、「溶剤系塗料において、イミノ基含有量とオリゴマー量が少ないメラミン樹脂ほど架橋性に優れ、水酸基含有樹脂の硬化を低温で促進する」ことが示されており、酸触媒との併用により、低い硬化温度でも十分な耐溶剤性を有する被膜の形成が可能になることが記載されている。
【0004】
ポリチオフェン系導電性ポリマー組成物にメラミン樹脂を配合した例として、特許文献2では、「メラミン樹脂と少なくとも1種のカルボニル化合物の縮合物をポリチオフェン系導電性ポリマー分散体と配合することにより、ポリウレタン樹脂を含む導電性被膜の耐水性および耐溶剤性が向上し、液の保存安定性も良い」ことが示されている。本文献では、分散溶媒を添加することにより、メラミン樹脂の水溶液への添加を可能にし、被膜の耐溶剤性が改善されているが、130℃×5分の硬化条件を要している。
【特許文献1】特表2003−523424号公報
【特許文献2】特開2007−131849号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1において、メラミン樹脂と酸触媒を組成物に添加することにより、低温硬化性と得られた被膜の耐溶剤性が改善されることが示されているが、当該文献は溶剤系塗料が対象であり、水系の導電性ポリマーを配合するとすぐにゲル化するため使用できない。一方、特許文献2では、メラミン樹脂の添加により導電性被膜の耐溶剤性が向上することが示されているが、硬化条件が130℃×5分と比較的厳しく、耐熱性の低い基材への利用は難しい。より穏やかな硬化温度および時間条件を有し、上記性能を満足する実用可能な導電性コーティング用組成物は、未だ開発されていない。
【0006】
本発明は、上記従来の課題を解決するためになされ、その目的とするところは、被膜外観、導電性、透明性、耐擦傷性、耐溶剤性、ならびに基材への密着性に優れた導電性被膜を低温にて形成可能な熱硬化性を有し、さらにはポットライフが実用可能範囲内で維持されうる導電性コーティング用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、導電性ポリマー(a)と、フルエーテル型メラミン樹脂誘導体の熱架橋剤(b)と、重量平均分子量20000以下の脂肪族および/または芳香族スルホン酸の酸触媒(c)と、水と混和する有機溶剤(d)と水(e)を混合することで、低温での熱硬化において、外観、導電性、透明性、耐擦傷性、耐溶剤性、基材への密着性に優れた被膜を形成可能な熱硬化型導電性コーティング用組成物が得られることを見出した。
さらに、分子内にケイ素又はフッ素の少なくとも一方を含有する有機化合物の安定化剤(f)を、導電性ポリマー(a)の固形分100重量部に対し、250重量部以下含有するか、および/または、カルボニル基、ヒドロキシル基及びスルホニル基からなる群から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する化合物の安定化剤(g)を、導電性ポリマー(a)の固形分100重量部に対して、10000重量部以下含有することにより、実用可能な範囲で、導電性コーティング用組成物のポットライフが改善される。
また、熱架橋剤(b)の重合度が1.0〜1.5、さらに好ましくは1.0〜1.1であり、導電性ポリマー(a)の固形分100重量部に対して30〜5400重量部の範囲で含有されること、酸触媒(c)の重量平均分子量が173〜20000であり、導電性ポリマー(a)の固形分100重量部に対して、500重量部以下含有されること、水と混和する有機溶剤(d)が、水(e)100重量部に対して20重量部以上含有されること、および/または、導電性コーティング用組成物の温度を−20℃〜20℃、より好ましくは−5℃〜10℃に維持することによっても、ポットライフが実用可能な範囲で改善されうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
1つの実施態様によれば、導電性ポリマー(a)は以下の式(I)
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、RおよびRは相互に独立して水素原子またはC1−4のアルキル基を表すか、あるいは一緒になって置換されていてもよいC1−4のアルキレン基を表す)の反復構造を有するポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)又はポリ(3,4−アルキレンジオキシチオフェン)とドーパントとの複合体である。
【0011】
本発明は、また、上記導電性コーティング用組成物を用いた導電性被覆基材の製造方法を包含する。
本発明は、また、上記導電性コーティング用組成物を基材に塗布し、乾燥、硬化することにより得られる導電性被覆基材を包含する。
【0012】
以下、本発明の熱硬化型導電性コーティング用組成物に含まれる成分および該組成物を用いた導電性被膜基材の形成方法を順次説明する。
本発明の熱硬化型導電性コーティング用組成物(以下、「導電性コーティング用組成物」「組成物」という場合がある)は、導電性ポリマー、フルエーテル型メラミン樹脂誘導体、スルホン酸触媒、水と混和する有機溶剤と水からなり、より好ましくは、すくなくとも1種の安定化剤を含有する。
【0013】
1.導電性ポリマー(a)
本発明の導電性コーティング用組成物に含有される導電性ポリマー(a)は、基材表面に導電性を付与するための材料であり、このような導電性ポリマーとしてはポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリンおよびこれらの誘導体などがあるが、中でも、ポリチオフェンとドーパントとの複合体からなるポリチオフェン系導電性ポリマーが好適に用いられる。ポリチオフェン系導電性ポリマーは、より詳しくはポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)又はポリ(3,4−アルキレンジオキシチオフェン)とドーパントからなる複合体である。
【0014】
ポリチオフェン系導電性ポリマーを構成する、ポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)又はポリ(3,4−アルキレンジオキシチオフェン)は以下の式(I):
【0015】
【化2】

【0016】
で示される反復構造単位からなる陽イオン形態のポリチオフェンであり、RおよびRは相互に独立して水素原子またはC1−4のアルキル基を表すか、あるいは一緒になって置換されていてもよいC1−4のアルキレン基を表す。
上記C1−4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基などが挙げられる。RおよびRが一緒になって形成される、置換されていてもよいC1−4のアルキレン基の代表例は、メチレン基、1,2−エチレン基、1,3−プロピレン基、1,4−ブチレン基、1−メチル−1,2−エチレン基、1−エチル−1,2−エチレン基、1−メチル−1,3−プロピレン基、2−メチル−1,3−プロピレン基などである。好適には、メチレン基、1,2−エチレン基、1,3−プロピレン基であり、1,2−エチレン基が特に好適である。上記のアルキレン基を持つポリチオフェンとして、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
【0017】
ポリチオフェン系導電性ポリマーを構成するドーパントは、上述のポリチオフェンとイオン対をなすことにより複合体を形成し、ポリチオフェンを水中に安定に分散させることができる陰イオン形態のポリマーである。このようなドーパントとしては、カルボン酸ポリマー類(例えば、ポリアクリル酸、ポリマレイン酸、ポリメタクリル酸など)、スルホン酸ポリマー類(例えば、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸など)などが挙げられる。これらのカルボン酸ポリマー類およびスルホン酸ポリマー類はまた、ビニルカルボン酸類およびビニルスルホン酸類と他の重合可能なモノマー類、例えば、アクリレート類、スチレンなどとの共重合体であっても良い。中でも、ポリスチレンスルホン酸が特に好ましい。
【0018】
上記のポリスチレンスルホン酸は、重量平均分子量が20000より大きく、500000以下であることが好ましい。より好ましくは40000〜200000である。分子量がこの範囲外のポリスチレンスルホン酸を使用すると、ポリチオフェン系導電性ポリマーの水に対する分散安定性が低下する場合がある。尚、上記ポリマーの重量平均分子量はゲル透過クロマトグラフィー(GPC)にて測定した値である。測定にはウォーターズ社製ultrahydrogel500カラムを使用した。
【0019】
上記の導電性ポリマーの含有量は、組成物全体に対し、固形分として0.01〜1.2重量%であることが好ましい。より好ましくは0.03〜0.5重量%である。0.01重量%より少ないと導電性が発現しにくく、1.2重量%より多いと、他成分との混合により沈殿が発生する場合がある。
【0020】
2.熱架橋剤(b)
本発明の組成物に含有される熱架橋剤であるフルエーテル型メラミン樹脂誘導体は、組成物に低温での熱硬化性を付与し、被膜外観、透明性(例えば、全光線透過率;Ttおよびヘイズ値;Haze)、導電性(例えば、表面抵抗率;SR)、耐擦傷性、耐溶剤性、基材への密着性に優れた導電性被膜を形成することが可能なものである。フルエーテル型メラミン樹脂誘導体とは、メラミンが有する3つアミノ基の窒素原子に結合している6個の水素原子がすべてアルコキシアルキル基に置換された構造のメラミンであり、そのオリゴマーも含まれる。ポットライフを考慮すると、重合度は低い方が望ましく、具体的には1.0〜1.5のものが良く、さらに好ましくは1.0〜1.1が用いられる。本明細書において、組成物のポットライフとは、組成物(塗布液)の外観、導電性被膜の外観、透明性、導電性、耐擦傷性、耐溶剤性などの諸性能が、組成物を調製して時間を経た後も実用可能範囲内で維持されうることを示す。
【0021】
上記のフルエーテル型メラミン樹脂誘導体は、例えば以下の式(II):
【0022】
【化3】

【0023】
(式中、R〜RはCHORで表されるアルコキシメチル基であり、RはC1−4のアルキル基を表す)で示される。C1−4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などがあるが、低温硬化性を考慮すると、メチル基が好ましい。上記メラミン樹脂誘導体は、式(II)を基本骨格として自己縮合したオリゴマーであっても良い。ポットライフを考慮すると、ヘキサメトキシメチルメラミンの単量体が特に好ましい。
【0024】
本発明の組成物に含有されるメラミン樹脂誘導体はすべて上記のフルエーテル型であることが望ましいが、フルエーテル型メラミン樹脂誘導体を含んでいれば、6個の水素原子が完全に置換されていないメラミン樹脂を含んでいても良く、置換基Rが水素原子であるメチロール基、置換基R〜Rが水素原子であるイミノ基を有するメラミン樹脂を含んでいてもよい。なお、メチロール型メラミン樹脂とは、置換基Rがすべてメチロール基であるメラミン樹脂を表し、メチロールイミノ型メラミン樹脂は、置換基R〜Rの一部が水素原子で(イミノ基を有する)、置換基Rがすべてメチロール基であるメラミン樹脂を有し、イミノ型メラミン樹脂は置換基R〜Rがすべて水素原子である(イミノ基を有する)メラミン樹脂を表す。低温硬化性とポットライフを考慮すると、フルエーテル型以外のメラミン樹脂誘導体の含有量は、メラミン樹脂誘導体全量に対して10重量%以下であることが好ましい。
【0025】
低温で硬化させた導電性被膜が耐擦傷性、耐溶剤性を有するための、上記熱架橋剤(b)の含有量に特に制限はないが、ポットライフを考慮すると、導電性ポリマー(a)の固形分100重量部に対して、30〜5400重量部であることが好ましい。より好ましくは、270〜1650重量部である。含有量が5400重量部を超えると、導電性被膜の白化により透明性および導電性が低下する場合がある。逆に、30重量部より少ない場合は、低温での熱硬化性が低下し、十分な耐擦傷性や耐溶剤性が導電性被膜に付与されにくくなる。
【0026】
3.酸触媒(c)
本発明の組成物に含有される酸触媒(c)は、熱架橋剤(b)であるメラミン樹脂誘導体の架橋を促進し、かつ組成物のポットライフを維持可能なものであり、このような触媒としては、脂肪族および/または芳香族スルホン酸がある。
【0027】
酸触媒は、低温架橋性を考慮すると、重量平均分子量が20000以下である必要があり、具体的には、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ブタンスルホン酸、ヘキサンスルホン酸、オクタンスルホン酸、ノナンスルホン酸、デカンスルホン酸、ヘキサデカンスルホン酸、しょうのうスルホン酸などの脂肪族スルホン酸;ベンゼンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸などの芳香族スルホン酸が用いられる。分子量が低いp−トルエンスルホン酸やベンゼンスルホン酸は、メラミン樹脂誘導体の低温での熱硬化性を向上させるが、一方でポットライフが短くなるため、分子量は173以上であることが望ましい。分子量は、より好ましくは230〜327である。低温での熱硬化性とポットライフを両立する酸触媒として、ドデシルベンゼンスルホン酸が特に好ましい。尚、重量平均分子量はゲル透過クロマトグラフィー(GPC)にて測定した値である。
【0028】
低温で硬化させた導電性被膜が耐擦傷性、耐溶剤性を有するための、上記酸触媒の含有量に制限はないが、液のポットライフを考慮すると、導電性ポリマー(a)の固形分100重量部に対して、500重量部以下であることが好ましい。より好ましくは、50〜280重量部である。含有量が多いほど低温での熱硬化性が向上するが、500重量部を超えると組成物のポットライフが短くなり、25℃程度の環境下での実用が困難となる。有機スルホン酸触媒はポリチオフェン系導電性ポリマーの構成成分のドーパントであるポリスチレンスルホン酸とは異なり、ポリチオフェンの化学的安定性を低下させ、凝集物を発生させるため、その添加量には注意する必要がある。
【0029】
本発明の組成物は、水溶液のpHが1〜14の範囲であることが好ましく、より好ましくは2〜4のpHを有する。pHは必要に応じて、塩基などのpH調整剤により調整されうるが、塩基は酸触媒を失活させるため、加え過ぎない方がよい。このようなpH調製剤としてアンモニアやエタノールアミン、イソプロパノールアミンなどのアルカノールアミン類がある。
【0030】
4.水と混和する有機溶剤(d)
本発明に用いられる水に混和可能な有機溶剤(d)は特に制限はなく、熱硬化型導電性コーティング用組成物に通常含まれる有機溶剤を利用することができる。例えば、次の溶剤が挙げられる:メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−プロパノール、n−ブタノールなどのアルコール類;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのグリコールエーテル類;エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどのグリコールエーテルアセテート類;プロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテルなどのプロピレングリコールエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのプロピレングリコールエーテルアセテート類;アセトニトリルおよびそれらの混和物など。
【0031】
上記溶剤(d)の含有量は、後述の水(e)100重量部に対して、20重量部以上であることが好ましい。より好ましくは100〜400重量部である。20重量部未満では、ポリチオフェン系導電性ポリマーおよび/またはメラミン樹脂の沈殿が発生するなど、ポットライフが維持されない。
【0032】
5.水(e)
本発明に用いられる水としては、蒸留水、イオン交換水及びイオン交換蒸留水等が挙げられ、導電性ポリマーの水分散体および他薬剤に含有される水分も含まれる。
上記水(e)の含有量は、組成物全体に対して、1重量%以上であることが好ましい。
【0033】
6.安定化剤
本発明の組成物に含有される安定化剤は、組成物のポットライフを改善可能なものであり、ケイ素又はフッ素の少なくとも一方を含有する有機化合物(f)、カルボニル基、ヒドロキシル基及びスルホニル基からなる群から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する化合物(g)が用いられる。カルボニル基には、アルデヒド、ケトン、カルボン酸とそこから誘導されるエステルやアミド、ケテンなども含まれる。
ケイ素又はフッ素を含有する化合物は、被膜の外観および透明性、導電性、耐擦傷性、耐溶剤性の維持に効果があり、カルボニル基、ヒドロキシル基又はスルホニル基を含有する化合物にはSRを維持する効果がある。
【0034】
上記の特性を有する化合物に特に制限はないが、次のような化合物が挙げられる:N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトン、N−メチルピロリドンなどのアミド化合物;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、カテコール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのヒドロキシル基含有化合物;イソホロン、プロピレンカーボネート、シクロヘキサノン、アセチルアセトン、酢酸エチル、アセト酢酸エチル、オルト酢酸メチル、オルトギ酸エチルなどのカルボニル基含有化合物;ジメチルスルホキシドなどのスルホニル基含有化合物;ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性シロキサン、ポリエーテル変性水酸基含有ポリジメチルシロキサン、γ−グリシドキシトリメトキシシランなどのケイ素化合物;パーフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルポリオキシエチレンエタノールなどのフッ素化合物;これらの中でも、N−メチルホルムアミド、γ−ブチロラクトン、アセト酢酸エチル、アセチルアセトン、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンが好ましい。これらは、単独で使用してもよいが、上述の官能基を含有する化合物(f)と上述の元素を含有する化合物(g)をそれぞれ2種以上併用することにより、ポットライフの向上について、より効果が高くなる。
【0035】
上記ケイ素又はフッ素含有有機化合物の安定化剤(f)の含有量は、導電性ポリマー(a)の固形分100重量部に対し、250重量部以下であることが好ましい。含有量が250重量部より多くなると、導電性被膜の耐溶剤性が低下するため、好ましくない。より好ましくは55〜220重量部である。
カルボニル基、ヒドロキシル基、スルホニル基などの官能基を含有する化合物の安定化剤(g)の含有量は、導電性ポリマー(a)の固形分100重量部に対して、10000重量部以下であることが好ましい。10000重量部より多くなると、Hazeが上昇して透明性が低下するおそれがあり、更にポットライフが短くなる。より好ましくは500〜5500重量部である。
【0036】
7.その他成分
7.1 バインダー
本発明の組成物の成膜性を向上する目的で、樹脂バインダーを用いても良い。このようなバインダー樹脂としては、例えば、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリウレタン、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリルポリオール、ポリエステルポリオールなどの単独重合体;スチレン、塩化ビニリデン、塩化ビニル、およびアルキル(メタ)アクリレートからなる群より選択される共重合成分を有する共重合体;3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのアルコキシシラン化合物などが挙げられる。その量は特に限定されないが、通常、組成物中に60重量%以下の割合で含有される。
【0037】
フルエーテル型メラミン樹脂誘導体による熱硬化は、メラミン樹脂の自己架橋反応でも、メラミン樹脂とバインダー樹脂に含まれるカルボニル基およびヒドロキシル基などの官能基との架橋反応でも良い。本発明の組成物においては、メラミン樹脂以外にバインダー樹脂を使用しなくても、メラミン樹脂による自己架橋膜だけでもバインダー機能を有する。
【0038】
メラミン樹脂の架橋に関して、バインダー樹脂との架橋より、自己架橋の方が、低温熱硬化性において有利である。一方、メラミン樹脂とバインダー樹脂との架橋の方が、成膜性、硬化被膜の可撓性および密着性において有利な場合がある。
【0039】
7.2 増粘剤
本発明の組成物には、粘度を向上させる目的で増粘剤を添加してもよい。このような増粘剤としては、アルギナン酸誘導体、キサンタンガム誘導体、カラギーナンやセルロースなどの糖類化合物などの水溶性高分子などが挙げられる。その量は特に限定されないが、通常、組成物中に60重量%以下の割合で含有される。
【0040】
7.3 界面活性剤
本発明の組成物には、レベリング性の改善を目的として、界面活性剤を添加してもよい。このような界面活性剤としては、非イオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、プロピレンオキシド重合体、エチレンオキシド重合体、ソルビタン脂肪酸エステル、ヤシ油脂肪酸エタノールアマイド等)、アニオン系界面活性剤(スルホン酸エステル、リン酸エステル、コハク酸エステル)などが挙げられる。その量は特に限定されないが、通常、組成物中に60重量%以下の割合で含有される。
【0041】
次に、導電性コーティング用組成物を用いた導電性被覆基材の製造方法について説明する。
本発明の導電性被覆基材の製造方法は、上述の導電性コーティング用組成物を基材に塗布し、硬化することによりなる。
本発明の組成物は、上述のように、導電性ポリマー、フルエーテル型メラミン樹脂誘導体、有機スルホン酸触媒、水、水と混和する有機溶剤、および必要に応じて安定化剤、バインダー、増粘剤、界面活性剤などを含有する。これらの組成物は通常、ポリチオフェン系導電性ポリマーおよびメラミン樹脂が有機スルホン酸触媒によりゲル化または沈殿物が生成するため、有機スルホン酸触媒を含む成分((d)、(e)、(f)、(g)成分などが含まれていても良い)を分離した状態で供給される。場合によっては、フルエーテル型メラミン樹脂誘導体を含む成分((d)、(e)、(f)、(g)成分などが含まれていても良い)も分離して供給される場合がある。上記の分離液を使用前に所定の割合で混合し、すべての成分が混合された状態で利用される。
【0042】
導電性コーティング用組成物の調製方法は、特に制限されないが、有機スルホン酸触媒を含む成分以外の成分をメカミカルスターラーやマグネティックスターラーなどの撹拌機で撹拌しながら混合して約1〜60分間撹拌を続け、次いで有機スルホン酸触媒を含む成分を添加し、均一になるまで約1〜10分撹拌するのが好ましい。
【0043】
導電性コーティング用組成物は、−20℃〜20℃の温度を維持したまま、より好ましくは、−5℃〜10℃の温度を維持したまま基材に塗布することにより、ポットライフをより長く維持させることが可能になる。温度を低く保つほどポットライフは改善されるが、−20℃より低い温度では組成物が氷結するため、使用できなくなる。尚、安定化剤を含有する場合であっても、当該温度範囲に維持することは、ポットライフをより改善する上で有効な手段である。導電性コーティング用組成物を調製した時から、酸触媒によるメラミン樹脂誘導体の架橋が促進されるので、組成物の調製時から−20℃〜20℃、好ましくは−5℃〜10℃の温度を維持することが好ましい。
【0044】
本発明の方法により基材表面に導電性被膜を形成するにはまず、所望の種類の樹脂でなり、所望の形状を有する基材を準備する。
本発明の組成物により導電性被膜を形成する基材としては樹脂基材が挙げられ、樹脂としては以下のものが挙げられる;ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、アイオノマー共重合体、シクロオレフィン系樹脂などのポリオレフィン樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリオキシエチレン、変性ポリフェニレン、ポリフェニレンスルフィドなどのポリエステル樹脂;ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン9、半芳香族ポリアミド6T6、半芳香族ポリアミド6T66、半芳香族ポリアミド9Tなどのポリアミド樹脂;アクリル樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、塩化ビニル樹脂などのその他の樹脂を挙げることができる。基材の形状も特に限定されず、フィルム状の基材、板状の基材、その他所望の形状を有する基材が用いられ得る。
また、塗布性を向上させるための予備処理として、基材表面にコロナ処理、火炎処理、プラズマ処理などの物理処理を施しても良い。
【0045】
この樹脂基材表面に、上記の導電性コーティング用組成物(塗布液)を付与し、被膜を形成する。基材表面への塗布液の塗布方法は特に限定されず、当該分野で汎用の方法の中から適宜選択することができる。例えば、スピンコーティング、グラビアコーティング、バーコーティング、ディップコーティング、カーテンコーティング、ダイコーティング、スプレーコーティングなどが挙げられる。さらに、スクリーン印刷、スプレー印刷、インクジェット印刷、凸版印刷、凹版印刷、平版印刷などの印刷法も採用することが可能である。
【0046】
基材上に形成される被膜の厚みは特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。通常、加熱乾燥後の厚みが0.01〜300μmであることが好ましく、0.03〜100μmがより好ましい。0.01μm未満であると導電性を発現し難くなり、300μmを超えてもそれに比例した導電性、耐擦傷性、耐溶剤性が得られない。
【0047】
上記被膜の乾燥には、通常の通風乾燥機、熱風乾燥機、赤外線乾燥機などの乾燥機などが用いられる。これらのうち加熱手段を有する乾燥機(熱風乾燥機、赤外線乾燥機など)を用いると、乾燥および加熱を同時に行うことが可能である。加熱手段としては、上記乾燥機の他、加熱機能を具備する加熱・加圧ロール、プレス機などが用いられ得る。
【0048】
上記樹脂基材表面を被覆する被膜は、導電性コーティング用組成物を、水と混和する有機溶剤および水を気化させると同時かまたはその後に硬化させることによって、耐擦傷性、耐溶剤性、透明性、基材への密着性に優れた導電性被膜を形成しうる。導電性被膜に十分な耐擦傷性と耐溶剤性が付与される硬化条件として、例えば、25℃〜170℃で10秒〜17時間程度が必要であり、具体的には以下の条件が挙げられる。170℃×10秒程度、150℃×30秒程度、130℃×30秒程度、120℃×30秒程度、100℃×1分程度、80℃×2分程度、60℃×20分程度、40℃×1時間程度、25℃×17時間程度である。より高い温度では、更に短時間で硬化させることが可能である。なお、生産性の高いロールコーターを用いる場合、そのライン速度と乾燥機の長さにも依るが、通常、乾燥および硬化の条件は、60〜130℃で数秒〜数分であり、この条件で硬化が不十分な場合は、ロールコーティング後のロールフィルムの状態で、25℃〜70℃の乾燥機で、1時間〜数週間ポストキュアする事ができる。
【発明の効果】
【0049】
本発明によれば、被膜外観、導電性、透明性、耐溶剤性、耐擦傷性、基材への密着性に優れた導電性被膜を、低い硬化温度にて基材上に形成し得る熱硬化型導電性コーティング用組成物が提供され、さらには組成物のポットライフが実用可能な範囲で維持されうるものである。本発明の組成物を用いて得られた導電性被膜を有する基材は、導電性を有し、光学フィルムや電子部品包装材料などの広い分野で好適に利用され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0051】
I.使用原料
I.1 導電性ポリマー
導電性材料を含む水分散液として、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との複合体からなる導電性ポリマーの水分散液である、H.C.スタルク社製のBaytron P(商品名)(1.3重量%ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸(重量平均分子量=150000)の複合体分散水溶液)を用いた。本材料は固形分が1.3重量%の水分散体であり、残り98.7重量%は水である。
【0052】
I.2 メラミン樹脂
メラミン樹脂として、日本カーバイド工業社製のニカラックMW−390(フルエーテル型、重合度:1.00)、ニカラックMW−12LS(メチロール型、重合度;1.80)、ニカラックMX−750LM(90重量%品、メチロールイミノ型、重合度;2.00〜3.00)、ニカラックMX−730(80重量%品、イミノ型、重合度;2.40)、および日本サイテックインダストリーズ社製のサイメル301(フルエーテル型、重合度1.50)、サイメル303(フルエーテル型、重合度1.70)を使用した(上記の名称は全て商品名である)。
【0053】
I.3 酸触媒
スルホン酸触媒として、和光純薬工業社製の、p−トルエンスルホン酸(分子量172.2;以下、PTS)、ナフタレンスルホン酸(分子量207.2;以下、NFS)、ドデシルベンゼンスルホン酸(分子量326.8;以下、DBS)、ポリスチレンスルホン酸(分子量40000;以下、PSS)を使用した。無機酸触媒として、和光純薬工業社製の硫酸、リン酸、塩酸を使用した。
【0054】
I.4 水と混和する有機溶剤
日本アルコール販売社製ソルミックスAP−7(商品名、エチルアルコール:85.5重量%、ノルマルプロパノール:9.6重量%、イソプロピルアルコール:4.9重量%)、和光純薬工業社製のメタノール(MeOH)を使用した。
【0055】
I.5 水
水の大半は、Baytron Pに含まれる水であるが、新たに加える水はイオン交換処理をして用いた。実施例の表1、3、5に記載の水は、新たに添加した水である。
【0056】
I.6 安定化剤
安定化剤として、ナカライテスク社製のN−メチルピロリドン(以下、NMP)、和光純薬工業社製のプロピレングリコール(以下、PG)、N−メチルホルムアミド(以下、NMF)、互応化学工業社製のプラスコートRY−2conc.(商品名、α−パーフルオロノネニルオキシ‐ω‐メチルポリエチレンオキシド)、大日本インキ社製のメガファックR−08(商品名、パーフルオロアルキルオリゴマー)、BYK−Chemie社製のBYK−348(商品名、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン)、和光純薬工業社製のジメチルスルホキシド(以下、DMSO)を使用した。
【0057】
I.7 バインダー成分
バインダーとして、クラレ社製のポバールKL−506(商品名、ポリビニルアルコール)を用いた。
【0058】
I.8 基材
基材として、東レ社製ルミラーT−60(商品名)(ポリエチレンテレフタレートフィルム)を使用した。
【0059】
II.評価方法
得られた組成物の液外観、組成物を用いて得た導電性被覆基材の被膜外観、密着性、耐擦傷性、耐溶剤性、同様の評価方法にて3段階評価し、Haze、SR、Ttは値を測定した。
実施例7〜51については、初期値とポットライフの評価を行った。ポットライフは、液調製時から「8時間後」に塗工した被膜の測定値を初期値比較することにより、その変化を評価した。液外観、被膜外観、Haze、密着性、耐擦傷性、耐溶剤性は、同様の評価方法にて3段階評価し、SRとTtは初期値からの変動を3段階で評価した。
【0060】
II.1 導電性コーティング用組成物外観
組成物調製後の液外観を目視にて3段階で評価した。ポットライフも同様に評価した。
◎:沈殿物の発生なし
○:少量の沈殿物が発生
×:ゲル化
【0061】
II.2 被膜外観
塗工後の導電性被膜の外観(均一性)を目視にて次の3段階で評価した。ポットライフも同様に評価した。
◎:被膜が均一に塗工されている
○:被膜が部分的に不均一
×:被膜が形成されない
【0062】
II.3 表面抵抗率(SR:Ω/□)
表面抵抗率は、JIS K7194に従い、三菱化学社製ロレスタGP(MCP−T600、商品名)を用いて測定した。表2では、測定値を記載した。表4では初期値を「0h」に記載し、ポットライフを次の3段階で評価した。
◎:初期値から100倍以下
○:初期値から100倍を超えて10000倍未満
×:初期値から10000倍以上
【0063】
II.4 全光線透過率(Tt:%)
全光線透過率は、JIS K7150に従い、スガ試験機社製ヘイズコンピュータHGM−2B(商品名)を用いて測定した。表2では、測定値を記載した。表4では初期値を「0h」に記載し、ポットライフを次の3段階で評価した。
◎:初期値から±0.5以内
○:初期値から−1.0〜−0.5および+0.5〜+1.0
×:初期値から−1.0以下、+1.0以上
【0064】
II.5 Haze(%)
Hazeは、JIS K7150に従い、スガ試験機社製ヘイズコンピュータHGM−2B(商品名)を用いて測定した。表2では、測定値を記載した。表4では初期値を「0h」に記載し、ポットライフを次の3段階で評価した。
◎:3.0未満
○:3.0以上〜4.0以下
×:4.0を超える
【0065】
II.6 密着性
被膜の基材への密着性は、JIS K5400の碁盤目剥離試験に従って評価した。評価は次の3段階で行い、ポットライフも同様に評価した。
◎:10点
○:8点
×:6点以下
【0066】
II.7 耐擦傷性、耐溶剤性試験
基材上に形成された導電性被膜について、乾拭き試験、アセトン拭き試験を行った。乾拭き試験においては、乾燥した綿棒を準備し、これを用いて被膜表面を、筆圧の高い字を書く程度の力を加えて3cm長さを5往復擦った。アセトン拭き試験においてはアセトンを染み込ませた綿棒を用いて、同様の操作を行った。
【0067】
基材表面の目視観察を行い、次の3段階の評価を行った。ポットライフも同様に3段階で評価した。
◎:剥がれ無し
○:剥がれ部分が10%未満
×:剥がれ部分が10%以上
【0068】
以下の実施例および比較例で調製した塗布液の各成分を併せて表1、3、5に、そして各実施例および比較例で得られた塗液の外観および導電性被覆基材の評価結果を併せてそれぞれ表2、4、図1に示す。
表2、4に記載の評価結果は、塗布液調整直後に塗布することにより作成した導電性被覆基材のものである。表4において、「0h」とは、液調製後すぐの塗液の外観と液調製後すぐに塗工した被膜を上記の条件で乾燥硬化させた際の評価結果であり、「8h」は液調製後8時間後の塗液の外観と塗布液調製後8時間後に塗工した被膜の評価結果である。
【0069】
(実施例1〜6)
表1に示す各成分を混合して、分散液の状態の導電性コーティング用組成物(塗布液)を調製した。この塗布液を調整後すぐに、基材のポリエチレンテレフタレートフィルム上に、No.4のワイヤーバー(ウェット膜厚9μm)で塗布し、120℃×1分、100℃×1分、80℃×1分、80℃×1分後40℃×24時間、25℃×98時間の各条件で乾燥、硬化させ、導電性被覆基材を得た。得られた導電性被覆基材の性能を評価した。その結果を表2に示す。
【0070】
(比較例1〜9)
表1に示す各成分を混合して塗布液を調製し、これを用いて実施例1〜6と同様に導電性被覆基材を得、その評価を行った。その結果を表2に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
実施例1〜6および比較例1〜9の結果を参照すると、フルエーテル型メラミン樹脂誘導体とドデシルベンゼンスルホン酸を添加することにより、低温での熱硬化性に優れた導電性コーティング用組成物が得られることがわかる。比較例1〜6の結果から、メラミン樹脂誘導体の架橋は、硫酸などの無機酸やポリチオフェン系導電性ポリマーのドーパントであるポリスチレンスルホン酸によって促進されることはなく、有機スルホン酸によって促進されることが分かった。また、比較例7〜9の結果から、フルエーテル型メラミン樹脂以外のメラミン樹脂では架橋が進行せず、低温硬化では十分な耐擦傷性、耐溶剤性が得られないことが分かった。
【0074】
(実施例7、10〜47、49〜51)
表3に示す各成分を混合して、分散液の状態の導電性コーティング用組成物を調製した。この塗布液を25℃に維持したまま、基材のポリエチレンテレフタレートフィルム上に、No.4のワイヤーバー(ウェット膜厚9μm)で塗布し、熱風乾燥機にて120℃で1分間乾燥、硬化させて、導電性被膜被覆フィルムを得た。得られた導電性被覆基材の性能を評価した。その結果を表4に示す。
【0075】
(実施例8、48)
表3に示す各成分を混合して、分散液の状態の導電性コーティング用組成物(塗布液)を調製した。この塗布液を5℃に維持したまま、基材のポリエチレンテレフタレートフィルム上に、No.4のワイヤーバー(ウェット膜厚9μm)で塗布し、熱風乾燥機にて120℃で1分間乾燥、硬化させて、導電性被覆基材を得た。得られた導電性被覆基材の性能を評価した。その結果を表4に示す。
【0076】
(実施例9)
表3に示す各成分を混合して、分散液の状態の導電性コーティング用組成物(塗布液)を調製した。この塗布液を15℃に維持したまま、基材のポリエチレンテレフタレートフィルム上に、No.4のワイヤーバー(ウェット膜厚9μm)で塗布し、熱風乾燥機にて120℃で1分間乾燥、硬化させて、導電性被覆基材を得た。得られた導電性被覆基材の性能を評価した。その結果を表4に示す。
【0077】
【表3】

【0078】
【表4】

【0079】
実施例7を見ると、低温架橋性は付与されるが、ポットライフが短く、被膜の均一性が悪化して実用できなくなる。一方で実施例8と9は実施例7と同様の配合組成物であるが、液温を5℃、15℃で維持することにより、ポットライフが改善されている。ポットライフが短くなる原因として、酸触媒によるポリチオフェン系導電性ポリマーのゲル化、およびメラミン樹脂の液中での自己架橋反応による沈殿物の発生が考えられ、組成物の温度が低いことによりこれらの反応速度が低下するため、ポットライフが向上すると考えられる。
【0080】
実施例10〜14、16〜51から、安定化剤(f)を添加することにより、ポットライフが改善されることが分かった。BYK−348やプラスコートRY−2conc.を添加することにより、調製から8時間経過した導電性コーティング用組成物を用いても、被膜外観が悪化しなくなる。中でも、BYK−348の効果がよい。その添加量は、ポリチオフェン系導電性ポリマー100重量部に対して250重量部以下であることが好ましく、250重量部を超えると、耐溶剤性が低下した(実施例18)。
フルエーテル型メラミン樹脂の重合度は1.0〜1.5が良く、特に1.0が良いが、重合度が1.7以上のメラミン樹脂は、組成物のポットライフが25℃の室温では維持されないことが分かった(実施例12)。
スルホン酸触媒はドデシルベンゼンスルホン酸やナフタレンスルホン酸が良く、分子量173以下のp−トルエンスルホン酸では、ポットライフが短いことが分かった(実施例19)。また、ドデシルベンゼンスルホン酸の添加量がポリチオフェン系導電性ポリマーに対して549重量部以上になるとポットライフが悪化することが分かった(実施例39)。
溶剤の量は水に対して20重量部以上であれば良いが、それより少ないと、沈殿が発生するなど、液の安定性が低下することが分かった。
NMP等の安定化剤(g)により、SRがさらに維持されるようになるが、ポリチオフェン系導電性ポリマーに対して10000重量部以上になると、初期のHazeが上昇し、ポットライフも悪化することが分かった(実施例38)。これらの安定化剤には、酸触媒の溶液中でのポットライフを向上させることができると考えられる。
バインダー樹脂として、水酸基を含有するポリビニルアルコールを配合することにより、80℃×1分の硬化条件における熱硬化性が低下していることがわかる(実施例50)。120℃×1分の硬化条件では同様の性能が得られていることから、メラミン樹脂の自己架橋の方が、低温での熱硬化性に優れる傾向にあることがわかる。
【0081】
(実施例52〜60、比較例10〜14)
表5に示す各成分を混合して、実施例7、10〜47、49〜51と同様に分散液の状態の導電性コーティング用組成物を調製した。この塗布液を調製後すぐに、基材のポリエチレンテレフタレートフィルム上に、No.4のワイヤーバー(ウェット膜厚9μm)で塗布し、表5に記載の温度と時間で乾燥硬化し、得られた導電性被覆基材の耐擦傷性と耐溶剤性について表5にまとめた。記載の条件は、耐擦傷性と耐溶剤性が○以上となるために必要な硬化温度と硬化時間を示している。各実施例52〜60、比較例10〜14に関して、硬化条件(温度、時間)をプロットして得られた近似曲線を図1に示した。酸触媒を含有する実施例52〜60では、酸触媒を含有しない比較例10〜14と比べて、穏やかな硬化条件で十分な性能が付与されることが分かった。
【0082】
【表5】

【0083】
図1を見ると、本発明の組成物(実施例52〜60)および本発明の組成物から酸触媒を除いた組成物(比較例10〜14)に関して、十分な性能を有する導電性被覆基材を作製するための硬化温度および時間の条件がわかる。本発明の組成物は、非常に温和な条件でも各種特性に優れた被膜が得られることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明によれば、被膜外観、透明性、導電性、耐擦傷性、基材に対する密着性などの性質を有する導電性被覆基材を作成するための組成物、および、該組成物を用いて導電性被覆基材を作製する方法と導電性被覆基材が提供される。本発明によれば、従来、その表面に導電性被膜を形成することが困難であった、耐熱性が高くない樹脂基材に対して、低温での硬化条件にて導電性被膜を形成することが可能となる。このような導電性被膜を有する基材は広い分野で利用可能であり、各種フィルムやシートに、帯電防止機能および/または透明電極機能を付与するために用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】実施例52〜60、比較例10〜14において、導電性被覆基材に十分な性能が付与されうる硬化温度(y)と時間(x)の関係を示すグラフである。近似曲線は累乗近似法を用いて作成した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)導電性ポリマー、
(b)フルエーテル型メラミン樹脂誘導体の熱架橋剤、
(c)重量平均分子量が20000以下の脂肪族および/または芳香族スルホン酸の酸触媒、
(d)水と混和する有機溶剤、及び、
(e)水
を含有することを特徴とする熱硬化型導電性コーティング用組成物。
【請求項2】
更に、(f)分子内にケイ素又はフッ素の少なくとも一方を含有する有機化合物の安定化剤を、導電性ポリマー(a)の固形分100重量部に対し、250重量部以下含有するか、および/または、(g)カルボニル基、ヒドロキシル基及びスルホニル基からなる群から選ばれる少なくとも一種の官能基を有する化合物の安定化剤を、導電性ポリマー(a)の固形分100重量部に対して、10000重量部以下含有することを特徴とする請求項1に記載の導電性コーティング用組成物。
【請求項3】
導電性ポリマー(a)が、以下の式(I):
【化1】

(式中、RおよびRは相互に独立して水素原子またはC1−4のアルキル基を表すか、あるいは一緒になって置換されていてもよいC1−4のアルキレン基を表す)の反復構造を有するポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)又はポリ(3,4−アルキレンジオキシチオフェン)と、ドーパントからなる複合体であることを特徴とする請求項1又は2に記載の導電性コーティング用組成物。
【請求項4】
熱架橋剤(b)の重合度が1.0〜1.5であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の導電性コーティング用組成物。
【請求項5】
熱架橋剤(b)の重合度が1.0〜1.1であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の導電性コーティング用組成物。
【請求項6】
熱架橋剤(b)が、導電性ポリマー(a)の固形分100重量部に対して30〜5400重量部含有されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の導電性コーティング用組成物。
【請求項7】
酸触媒(c)の分子量が173〜20000であり、酸触媒(c)が導電性ポリマー(a)の固形分100重量部に対して500重量部以下含有されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の導電性コーティング用組成物。
【請求項8】
水と混和する有機溶剤(d)が、水(e)100重量部に対し20重量部以上含有されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の導電性コーティング用組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の導電性コーティング用組成物を、−20℃〜20℃の温度で維持したまま基材に塗布することからなる、導電性被覆基材の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の導電性コーティング用組成物を、−5℃〜10℃の温度で維持したまま基材に塗布することからなる、導電性被覆基材の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の導電性コーティング用組成物を基材に塗布し、乾燥、硬化することにより形成された導電層を有する導電性被覆基材。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−138042(P2009−138042A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−313202(P2007−313202)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【出願人】(000214250)ナガセケムテックス株式会社 (173)
【Fターム(参考)】