説明

低熱ポルトランドセメントの製造方法

【課題】混合材等の添加物が不要で、長期強度を維持しつつ初期強度を向上させた低熱ポルトランドセメントを製造することを目的とする。
【解決手段】低熱ポルトランドセメント用の原料を調合し、調合した原料を焼成することによって得られる低熱ポルトランドセメントクリンカを用いて、低熱ポルトランドセメントを製造する低熱ポルトランドセメントの製造方法において、上記低熱ポルトランドセメントクリンカ中の少量成分の含有量を調整することにより、この低熱ポルトランドセメントクリンカの粉末X線回折プロファイルをリートベルト法で解析して判明する鉱物組成を管理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期強度を維持しつつ初期強度を向上させた低熱ポルトランドセメントの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポルトランドセメントの主成分はCaO、SiO、Al、Feであり、その他に少量のSO、MgO、固溶アルカリ等を含んでいる。このポルトランドセメントの製造時には、目的の品質が得られるようにCaO、SiO、Al、Feの4成分を調整する。具体的には、クリンカモジュラス、すなわち水硬率、ケイ酸率、鉄率、石灰飽和度の4つの係数で管理し、ボーグ式で算出されるエーライト、ビーライト、アルミネート、フェライトの含有量が所定範囲内になるように調整する。
【0003】
しかしながら、発熱量を考慮して低熱ポルトランドセメントの鉱物組成を調整すると、初期強度が不足する場合がある。初期強度を向上させるために、当初は粉末度を上げるなどの対策がとられたが、発熱量が目的の品質に適合しなくなるなどの問題があった。この問題の対策として、高炉スラグや早強ポルトランドセメント等を混合する方法が知られているが、混合工程が追加されることにより、製造コストが上昇する。
【0004】
一方、省エネルギーやリサイクルの観点から、近年ではセメント製造の原料及び燃料として産業廃棄物等を積極的に利用している。この原料及び燃料にはCaO、SiO、Al、Feの4成分の他に少量成分が含まれているが、その含有量は原料・燃料の採取場所や採取時期によって変動する。そのため、最終製品であるポルトランドセメントの成分組成は変動する。このポルトランドセメントの成分組成、特に少量成分の含有量によりポルトランドセメントの品質は大きく影響される。このため、特許文献1、特許文献2のようなセメントの品質を予測・管理する方法がある。
【特許文献1】特開2005−214891号公報
【特許文献2】特開2007−271448号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、特許文献2においては、リートベルト法を用いてポルトランドセメント全般の品質を予測、管理する方法が開示されているに過ぎず、低熱ポルトランドセメントの品質を保持するための製造方法については開示されていない。
【0006】
そこで、本発明は、混合材等の添加物が不要で、長期強度を維持しつつ、初期強度を向上させた低熱ポルトランドセメントを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、低熱ポルトランドセメント用の原料を調合し、調合した原料を焼成することにより得られる低熱ポルトランドセメントクリンカを用いて低熱ポルトランドセメントを製造する低熱ポルトランドセメントの製造方法において、上記低熱ポルトランドセメントクリンカ中の少量成分の含有量を調整することにより、この低熱ポルトランドセメントクリンカの粉末X線回折プロファイルをリートベルト法で解析して判明する鉱物組成を管理する低熱ポルトランドセメントの製造方法である。
【0008】
請求項2に記載の発明は、上記少量成分が、固溶アルカリ、SO、MgOであり、上記低熱ポルトランドセメントクリンカの固溶アルカリ含有量が0.2重量%以上、0.75重量%以下であり、上記低熱ポルトランドセメントクリンカのSO含有量が1.2重量%以下であり、上記低熱ポルトランドセメントクリンカのMgO含有量が1.0重量%以下である請求項1に記載の低熱ポルトランドセメントの製造方法である。
【0009】
請求項2に記載の発明では、低熱ポルトランドセメントクリンカの少量成分のうち、固溶アルカリ、SO、MgOの3成分に着目して管理する。
【0010】
固溶アルカリの含有量は、全アルカリの含有量から水溶性アルカリの含有量を差し引くことによって求めることができる。例えば、JIS R 5202:1999「セメントの化学分析方法」に準じて定量した全アルカリの含有量から、JCAS I−04−2004「セメントの水溶性成分の分析方法」に準じて定量した水溶性アルカリの含有量を差し引くことによって求めることが可能であるが、この方法に限定されるものではない。
低熱ポルトランドセメントクリンカの固溶アルカリの含有量を0.2重量%以上、0.75重量%以下になるように調整する。好ましくは0.3重量%以上、、0.75重量%以下になるように調整する。0.2重量%未満では、エーライトが減少して初期強度の発現性が不十分となる。0.75重量%を超えると、全アルカリの含有量が低熱ポルトランドセメントのJIS規格値を超えるため、コンクリート製品にした場合、アルカリ骨材反応を生じさせて、構造物の耐久性を損なう可能性がある。
【0011】
SOの含有量は、蛍光X線分析のほか、JIS R 5202:1999「セメントの化学分析方法」に準じて定量することが可能であるが、これらの方法に限定されるものではない。
低熱ポルトランドセメントクリンカのSOの含有量が1.2重量%以下になるように調整する。好ましくは0.8重量%以下になるように調整する。1.2重量%を超えると、エーライトが減少して初期強度の発現性が不十分となる。
【0012】
MgOの含有量は、蛍光X線分析のほか、JIS R 5202:1999「セメントの化学分析方法」に準じて定量することが可能であるが、これらの方法に限定されるものではない。
低熱ポルトランドセメントクリンカのMgO含有量が1.0重量%以下になるように調整する。好ましくは0.8重量%以下になるように調整する。1.0重量%を超えると、強度発現性に寄与しないフェライトが増え、長期強度が低下する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、低熱ポルトランドセメントクリンカに含まれる固溶アルカリ、SO、MgOのそれぞれの含有量を一定の範囲に調整することによって、主要成分の調整だけでは不可能であった長期強度を維持しつつ、初期強度を向上させた低熱ポルトランドセメントを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に係る低熱ポルトランドセメントの製造方法にあっては、その原料である石灰石、けい石、粘土、鉄原料、成分調整用原料を調合し、粉砕を行い、これをキルンで焼成することにより、低熱ポルトランドセメントクリンカが製造される。この低熱ポルトランドセメントクリンカの少量成分を予め測定し、この少量成分が所定の含有量となるように管理して、低熱ポルトランドセメント製造する製造方法が、本発明である。以下に本発明の実験室的な実施方法を示すが、ロータリーキルンを用いた実機製造の場合においても、同様な方法で実施可能である。
【0015】
1.原料調整物作製工程
低熱ポルトランドセメントクリンカの原料は、三菱マテリアル株式会社九州工場の低熱ポルトランドセメント製造用調合原料(含有物は石灰石、けい石、粘土、鉄原料である。)を使用した。この低熱ポルトランドセメントセメント製造用調合原料に和光純薬工業株式会社製試薬の、炭酸カルシウム、二酸化けい素、酸化アルミニウム、酸化第二鉄、酸化マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、硫酸を配合し、クリンカモジュラス及び少量成分の含有量を調整した原料調整物を作製した。
【0016】
2.低熱ポルトランドセメントクリンカ作製工程
上記原料調整物に適量の水を加え、混合を行った。混合後成型し、成型物を乾燥させた。その後、電気炉を使用して、1000℃にて90分間仮焼成を行った後、1450℃にて90分間本焼成して低熱ポルトランドセメントクリンカを得た。本焼成後の低熱ポルトランドセメントクリンカは、直ちに空冷した。
【0017】
3.鉱物組成測定工程
その後、上記低熱ポルトランドセメントクリンカをリートベルト法により、鉱物組成であるエーライト、ビーライト、フェライトの含有量を定量した。
リートベルト法による定量方法は次の通りである。
まず、このサンプルを縮分し、振動ミルによって細かく粉砕する。その後、粉砕されたサンプルを用いて粉末X線回折測定用サンプルを作製する。
この粉末X線回折測定用サンプルを、粉末X線回折装置(リガク社製、RINT2500)にセットし、ステップスキャン法によりX線回折を行う。測定範囲2θを、10〜60°、固定時間を2秒とする。
このX線回折によって得られたX線回折プロファイルを、粉末X線回折パターン総合解析プログラム(Materials Data Inc.製JADE6.0)にて解析する。この解析結果から鉱物組成を求めることができる。
【0018】
4.少量成分分析工程
次に上記低熱ポルトランドセメントクリンカの固溶アルカリ、SO、MgOの含有量をそれぞれ定量した。
固溶アルカリの含有量は、全アルカリの含有量から水溶性アルカリの含有量を差し引くことによって求めた。全アルカリの含有量はJIS R 5202:1999「セメントの化学分析方法」に準じて定量した。水溶性アルカリの含有量はJCAS I−04−2004「セメントの水溶性成分の分析方法」に準じて定量した。
SO、MgOの含有量は、蛍光X線分析にて定量した。
【0019】
5.低熱ポルトランドセメント作製工程
上記低熱ポルトランドセメントクリンカと石膏とを調合し、粉砕することにより低熱ポルトランドセメントを作製した。
【実施例】
【0020】
本発明の実施例として、固溶アルカリ、SO、MgOの含有量が、それぞれ所定の値となるように調合された原料調整物を用いて、低熱ポルトランドセメントクリンカを作製した。このときの鉱物組成をリートベルト法にて算出した。この低熱ポルトランドセメントクリンカ及びこれを用いて作製した低熱ポルトランドセメントについて、各種評価を行った。
【0021】
まず、上記低熱ポルトランドセメントクリンカの固溶アルカリの含有量と、エーライトの含有量との関係を図1に示す。
図1によれば、固溶アルカリの含有量が0.1重量%増加すると、エーライトの含有量は3重量%増加する。これは固溶アルカリがエーライト中に置換固溶することによって生じるものである。
【0022】
上記低熱ポルトランドセメントクリンカのSOの含有量と、エーライトの含有量との関係を図2に示す。
図2によれば、SOの含有量が0.1重量%増加すると、エーライトの含有量が約1重量%減少する。これは、SOがビーライト中に置換固溶することによって、間接的にエーライトの含有量が減少することを示唆している。
【0023】
上記低熱ポルトランドセメントクリンカのMgOの含有量とフェライトの含有量との関係を図3に示す。
図3によれば、MgOの含有量が0.1重量%増加すると、フェライトの含有量が約0.2重量%増加する。強度発現性に寄与しないフェライトが増えると、長期強度が低下するので好ましくない。
【0024】
上記低熱ポルトランドセメントクリンカの鉱物組成を、さらにリートベルト法により算出した。
その後、この低熱ポルトランドセメントクリンカと二水石膏とをテストミルで混合粉砕してモルタル強さ用セメントを作製した。このとき、セメントのSOの含有量は2.5重量%、粉末度はブレーン比表面積値で3600±100cm/gになるように調整した。
このセメントを用いて、モルタル強さ試験を行った。モルタル強さ試験はJIS R 5201:1997「セメントの物理試験方法」に準じて試験した。
低熱ポルトランドセメントクリンカの少量成分含有量、鉱物組成及びこの低熱ポルトランドセメントクリンカから作製されたモルタル強さ試験用セメントのモルタル強さの関係を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
表1によれば、実施例1は長期強度を維持しつつ、初期強度が大幅に向上している。同様に、実施例2〜6は、主要成分を変動させることなく、固溶アルカリ、SO、MgOのそれぞれの含有量を調整することによって、長期強度を維持しつつ初期強度が大幅に向上することが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施例及び比較例における固溶アルカリの含有量と、エーライトの含有量との関係を示すグラフである。
【図2】本発明の実施例及び比較例におけるSOの含有量と、エーライトの含有量との関係を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例及び比較例におけるMgOの含有量と、フェライトの含有量との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低熱ポルトランドセメント用の原料を調合し、調合した原料を焼成することにより得られる低熱ポルトランドセメントクリンカを用いて低熱ポルトランドセメントを製造する低熱ポルトランドセメントの製造方法において、
上記低熱ポルトランドセメントクリンカ中の少量成分の含有量を調整することにより、この低熱ポルトランドセメントクリンカの粉末X線回折プロファイルをリートベルト法で解析して判明する鉱物組成を管理する低熱ポルトランドセメントの製造方法。
【請求項2】
上記少量成分が、固溶アルカリ、SO、MgOであり、
上記低熱ポルトランドセメントクリンカの固溶アルカリ含有量が0.2重量%以上、0.75重量%以下であり、
上記低熱ポルトランドセメントクリンカのSO含有量が1.2重量%以下であり、
上記低熱ポルトランドセメントクリンカのMgO含有量が1.0重量%以下である低熱ポルトランドセメントの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−120787(P2010−120787A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−293858(P2008−293858)
【出願日】平成20年11月17日(2008.11.17)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】