説明

低脂肪ベーカリー用エマルションおよびこのようなエマルションのパフペストリー生地の調製における使用

本発明は、39-65wt%の連続脂肪相と35-61wt%の分散水性相とを含み、水性相は以下の組成:60-80wt%の水;DEが1-5の範囲の18-40wt%%のマルトデキストリン;0-5wt%の他の親水コロイド;酸、塩およびこれらの組み合わせから選択される0-6wt%の溶存成分;0-2wt%の他の可食成分を有し、連続脂肪相は以下の組成:94-99.5wt%のトリグリセリド;モノグリセリド;ジグリセリド;リン脂質;モノグリセリドおよび/またはジグリセリドと酢酸、乳酸、クエン酸、酒石酸およびジアセチル酒石酸から選択される酸とのエステル、脂肪酸の糖エステル、脂肪酸のポリグリセロールエステル、ポリグリセロールポリリシノレアート、脂肪酸のプロピレングリコールエステル、脂肪酸のソルビタンエステル、ステアロイルラクタートおよびこれらの組み合わせから選択される、0.5-5wt%の乳化剤;0-2wt%の他の可食成分を有し、脂肪相は以下の固形脂肪プロファイル:25%≦N20≦50;15%≦N30≦35%;5%≦N35≦30%を特徴とするベーカリー用エマルションに関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、低脂肪ベーカリー用エマルションに関する。より詳細には、本発明は、例えばパフペストリーの調製において好適に使用できる低脂肪ベーカリー用マーガリンを提供する。さらに、本発明は、上記ベーカリー用エマルションを使用するパフペストリー生地の調製方法に関する。
【0002】
発明の背景
パフペストリーは、軽いパイ状の発酵していないペストリーであり、20℃で固体状態にある脂肪のいくつかの層を含んでいる。パフペストリーは典型的には生地から調製され、この生地を、脂肪と共に積層し、繰り返し折り重ねて巻くことによって、交互に重なった生地の層を含む層状の生地を形成する(フレンチ法)。パフペストリーの従来の調製では、脂肪を有する生地は729の理論層を生み出すように6回調整(tune)される。
【0003】
パフペストリー生地を調製するのに採用される手順に応じて、シート内の脂肪と生地との層は、この調製において使用される生地シートの表面積全体にわたって、または全体の一部のみに広がりうる。従来の手順の変更が為されてきており、これも好結果のパフペストリー生地を作り出すことができる。パフペストリーを調製するための1つのこのような代替法は、ダッチ法またはスコティッシュ法と呼ばれ、脂肪の小さな角片を小麦粉に加えることと、それに続いて、水および可能であれば他のベーカリー原料を加えながら生地を練ることとを含む。次に、このようにして得られた生地を繰り返し折り重ねて巻くことによって、パフペストリー生地を作る。
【0004】
クロワッサンまたはデニッシュペストリーを作るために、パフペストリーをパン酵母で発酵させることもできるが、このような生地は一般にパフペストリーとしては知られていない。
【0005】
ベーキングの最中、パフペストリーは高さが著しく増し得て、典型的には8倍となりうる。ベーキング中に、パフペストリー中の水成分から水蒸気が生じる。水が蒸発する際、生地層が膨張する。生地層は脂肪層によって断熱されている。パフペストリー生地のこのような積層構造は生地層および脂肪層の各々を別々に加熱処理し、それによりペストリーを膨らませることを可能にする。さらに、小麦粉材料中のグルテンは調製過程で凝固するので、それは焼かれたパフペストリーが上等な層を有する軽く開放的な構造を形成すること許可する。
【0006】
パフペストリー中で達成される発酵およびフレーキングは、水分の蒸発および封入空気の膨張を利用して複数の独立した層を作り出すのに適した機能がある脂肪に依存する。脂肪は、適切に巻かれることと、層の独立を維持することとが可能でなければならない。脂肪が柔らか過ぎると、それは生地に吸収されて、複数の層が融着するであろう。脂肪が固過ぎると、それを巻く際に生地が裂けるであろう。言い換えると、脂肪は、複数の独立した層の形成を許容しかつベーキング中にそれらを維持するために、高機能でなければならない。
【0007】
パフペストリーで使用される普通のタイプの脂肪(すなわち脂肪製品)としては、バター、ショートニングおよびベーカリー用マーガリンが挙げられる。これらの脂肪製品は典型的には少なくとも80重量%の脂肪を含み、典型的には小麦粉の50重量%を超える量でパフペストリーに塗布される。したがって、パフペストリーの脂肪含有量はかなり高くなりがちである。
【0008】
肥満および過体重がますます増えているという事実を考慮して、食料品のカロリー量を減らすことが一般的に必要となっている。したがって、パフペストリーの脂肪含流量を減らすことが望ましい。しかしながら、脂肪は、パフペストリーの食味に悪影響を与えるだけでなく、ここで先に説明したように、脂肪は積層プロセス中の生地の取り扱い特性とベーキング中の生地の体積増加とを大きく左右するので、パフペストリーでは、脂肪含有量の減少は特定の問題が伴う。
【0009】
US6,025,010は、脂肪連続低脂肪スプレッドであって:
a)約30〜60%の範囲にある脂肪と;
b)組成物の40〜70%である水性相と
を含み、前記水性相は、スプレッドの約15〜40%の範囲にある非ゲル化親水コロイドを含有し、前記非ゲル化親水コロイドは、塩酸および酵素を使用してコーンスターチから作られるDE6−10のマルトデキストリンであり、前記マルトデキストリンは約15から約40%までの範囲にわたるレベルにあり、前記マルトデキストリンは部分的に消化可能であり、前記マルトデキストリンのマルトデキストリンベータ1−2、ベータ1−3およびベータ1−6結合は消化されないスプレッドを記載している。このUS特許では、低含水量が、スプレッドを低温で、例えばスプレッド用途で使用する際に官能的性質に悪影響を与えることなしに、スプレッドをベーキングで使用できるようにする。
【0010】
EP-A 1 611 794は、積層状生地のためのマーガリン状組成物であって、植物性脂肪を含有した35〜80重量%の脂肪と、イヌリンおよびペクチンを含む20〜65重量%の水性相と、少なくとも1種の乳化剤とを含む組成物を記載している。
【0011】
EP-A 2 153 725は、積層状生地のための組成物であって、脂肪および少なくとも1種の乳化剤の混合物を含有する45〜65重量%の脂肪相と、水および少なくとも1種の増粘剤を含有する35〜55重量%の水性相とを含む組成物を記載している。このベルギー特許の例は、油および水のエマルションであって、55重量%の脂肪相と45重量%の水性相とを含み、前記水性相がエマルションの重量の6〜7%のマルトデキストリンを含有するエマルションを記載している。脂肪相のトリグリセリド成分は、40%のパーム油と40%のパームステアリンと20%の菜種油とからなる。
【0012】
発明の概要
本発明者らは、従来のパフペストリーマーガリンまたはショートニングを用いて作られる高脂肪ペストリーに匹敵する低脂肪パフペストリーの調製を可能にする、低脂肪ベーカリー用エマルションを開発した。本発明のベーカリー用エマルションは、39〜65重量%の連続脂肪相と35〜61重量%の分散水性相とを含み、前記水性相は以下の組成:
・60〜80重量%の水;
・DEが1〜5の範囲にある18〜40重量%のマルトデキストリン;
・0〜5重量%の他の親水コロイド;
・酸、塩およびこれらの組み合わせから選択される0〜6重量%の溶存成分;
・0〜2重量%の他の可食成分
を有し、前記連続脂肪相は以下の組成:
・94〜99.5重量%のトリグリセリド;
・モノグリセリド;ジグリセリド;リン脂質;モノグリセリドおよび/またはジグリセリドと酢酸、乳酸、クエン酸、酒石酸およびジアセチル酒石酸から選択される酸とのエステル、脂肪酸の糖エステル、脂肪酸のポリグリセロールエステル、ポリグリセロールポリリシノレアート、脂肪酸のプロピレングリコールエステル、脂肪酸のソルビタンエステル、ステアロイルラクタートおよびこれらの組み合わせから選択される0.5〜5重量%の乳化剤;
・0〜2重量%の他の可食成分
を有し、前記脂肪相は以下の固形脂肪プロファイル:
・25%≦N20≦50;
・15%≦N30≦35%;
・5%≦N35≦30%
をさらに特徴とする。
【0013】
本発明の低脂肪ベーカリー用エマルションは、従来からパフペストリーの調製において使用されている脂肪製品よりも実質的に脂肪含有量が低いという事実にもかかわらず、重量/重量ベースでパフペストリーレシピにおいてこれらの製品の代わりに好適に使用することができる。したがって、従来のパフペストリーマーガリンの代わりに本発明によるベーカリー用エマルションを使用すると、最終的なパフペストリー中の脂肪含有量は典型的には20〜50%減少する。
【0014】
本発明によるベーカリー用エマルションは、優れた取り扱い特性を有し且つベーキング中の優れた体積増加を示す低脂肪含有量のパフペストリー生地の調製を可能にする。さらに、本発明のベーカリー用エマルションで製造される低脂肪パフペストリーは優れた食味を有することがわかった。
【0015】
本発明者らは、理論に拘束されることを望まないが、本発明のベーカリー用エマルションの有利な特性は、(i)水性相の18〜40重量%の濃度にある低DEマルトデキストリンと、(ii)脂肪相の0.5〜5重量%の濃度にある好適な乳化剤と、(iii)上記の特定の固形脂肪プロファイルを有する脂肪相との併用に関連づけられると考えられる。
【0016】
上記のベーカリー用エマルションに加えて、本発明はパフペストリー生地の調製方法にも関し、前記方法は前記生地またはバッター中に小麦粉の50〜120重量%のこのようなベーカリー用エマルションを取り入れることを採用することを含む。
【0017】
発明の詳細な説明
したがって、本発明の一態様は、低脂肪ベーカリー用エマルションであって、39〜65重量%の連続脂肪相と35〜61重量%の分散水性相とを含み、前記水性相は以下の組成:
・60〜80重量%の水;
・DEが1〜5の範囲にある18〜40重量%のマルトデキストリン;
・0〜5重量%の他の親水コロイド;
・酸、塩およびこれらの組み合わせから選択される0〜6重量%の溶存成分;
・0〜2重量%の他の可食成分
を有し、前記連続脂肪相は以下の組成:
・94〜99.5重量%のトリグリセリド;
・モノグリセリド;ジグリセリド;リン脂質;モノグリセリドおよび/またはジグリセリドと酢酸、乳酸、クエン酸、酒石酸およびジアセチル酒石酸から選択される酸とのエステル、脂肪酸の糖エステル、脂肪酸のポリグリセロールエステル、ポリグリセロールポリリシノレアート、脂肪酸のプロピレングリコールエステル、脂肪酸のソルビタンエステル、ステアロイルラクタートおよびこれらの組み合わせから選択される、0.5〜5重量%の乳化剤;
・0〜2重量%の他の可食成分
を有し、前記脂肪相は以下の固形脂肪プロファイル:
・25%≦N20≦50;
・15%≦N30≦35%;
・5%≦N35≦30%
を特徴とするベーカリー用エマルションに関する。
【0018】
この文書の全体にわたって、用語脂肪および油はほとんど同じ意味で使用される。両方の用語はトリグリセリド、ジグリセリド、およびモノグリセリドなどのグリセリン脂肪酸エステルを指す。
【0019】
脂肪相の固形脂肪プロファイルは、様々な温度でN値を測定することによって決定される。温度x℃におけるN値をここではNxと呼ぶ。これらのN値はNMR測定に基づく一般に認められた分析法を用いて好適に測定できる。試料の前処理は、80℃まで15分、60℃で15分、0℃で60分、および測定温度で30分加熱することを含む。
【0020】
ここで使用する限りにおいて、用語「親水コロイド」は、増粘剤およびゲル化剤を包含する。本発明のエマルションに採用することができる親水コロイドの例としては、ゼラチン、カラギーナン、ペクチン、イヌリン、アルギン酸塩、寒天、ローカストビーンガム、キサンタンガム、グアーガムおよびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0021】
ここで使用する限りにおいて、用語「パフペストリー」および「ペストリー」は、固形脂肪の不連続な層を含有する軽いパイ状のペストリーを指し、発酵生地から(例えばデニッシュペストリーまたはクロワッサン)または発酵していない生地から作られる。
【0022】
用語「wt.%」と「重量%」は、両方ともに、重量/重量(%(w/w))ベースで表される濃度を指す。
【0023】
脂肪相中に含有されるトリグリセリドは、植物油、乳脂肪、動物性脂肪、魚油およびこれらの組み合わせによって好適に供給され得る。これらの油および脂肪ならびにこれらの油および脂肪の水素化した型の断片を用いることもできる。トリグリセリドはさらに、エステル交換した油および脂肪によって、および/または、油および/または脂肪のエステル交換したブレンドによって供給されてもよい。
【0024】
本発明のベーカリー用エマルションの水性相および脂肪相は、共に、好ましくはベーカリー用エマルションの少なくとも95重量%、より好ましくは少なくとも99重量%を占める。最も好ましくは、水性相および脂肪相の組み合わせがベーカリー用エマルションを構成する。
【0025】
ベーカリー用エマルションの水性相は、マルトデキストリン、他の親水コロイド、溶存成分、および水に加えて2重量%までの他の可食成分を含有してもよい。分散水性相に含まれ得る可食成分の例としては、非親水コロイドタンパク質、脂肪、香味料、および防腐剤が挙げられる。非親水コロイドタンパク質の一例は乳タンパク質である。
【0026】
エマルションの脂肪相は、トリグリセリドおよび乳化剤に加えて2重量%までの他の可食成分を含有することができる。そのような可食成分の例としては、着色料、香味料、および抗酸化剤が挙げられる。
【0027】
本発明者らは、高濃度のマルトデキストリンの使用が本発明の利益の実現にとって決定的に重要であることを見いだした。有利には、ベーカリー用エマルションは水性相の重量の少なくとも20%、より好ましくは少なくとも22%のマルトデキストリンを含有する。好ましくは、マルトデキストリン濃度は水性相の重量の36%を超えない。さらにより好ましくは、後者の濃度は水性相の重量の35%を超えない。
【0028】
別の表現をすると、ベーカリー用エマルションのマルトデキストリンは好ましくは全エマルションの重量の10%を超える。最も好ましくは、ベーカリー用エマルション中に含有されるマルトデキストリンは11〜23重量%の濃度にある。
【0029】
用語「デキストロース当量(DE)」は専門用語であり、デンプンの加水分解の程度を示すのに使用される。これは全量のデンプン上に存在する還元糖の百分率である。天然デンプンからグルコースシロップまで、あらゆるグルコースポリマーは、分子が還元糖から始まりフリーなアルデヒドを含有するという共通点を有する。デンプンが多く加水分解されるほど、還元糖は多く存在する。完全な加水分解はすべてのデンプンをグルコースへ転化させる(DE 100)。グルコースシロップは少なくとも20のDEを有するが、一方マルトデキストリンは20未満のDEを有する。還元糖の量を測定しデキストロース当量(DE)を計算する標準的な方法は、ベネディクト液およびフェーリング試験である。
【0030】
別の好ましい実施形態によれば、ベーカリー用エマルション中に含有されるマルトデキストリンは1.5〜4の範囲内、最も好ましくは1.8〜3の範囲内のDEを有する。1〜4のDEを有するマルトデキストリンは多くの場合「デキストリン」と呼ばれることに留意されたい。
【0031】
本発明に従って用いられるマルトデキストリンは、ジャガイモ、タピオカ、またはコーン(例えばトウモロコシまたはコムギ)などの様々なデンプン源に由来するものであってもよい。好ましくは、ベーカリー用エマルションにおいて使用されるマルトデキストリンは加水分解されたジャガイモデンプンである。
【0032】
ベーカリー用エマルションの脂肪相の固形プロファイルは、それが使用される生地の取り扱い特性ならびに最終的なパフペストリーの食味をかなりの程度まで左右する。20℃(N20)での固形脂肪含有量は好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも35%である。典型的にはN20は50%を超えず、より好ましくはN20は48%を超えない。30℃での固形脂肪含有量(N30)は好ましくは少なくとも18%、より好ましくは少なくとも20%である。有利には、N30は35%を超えず、より好ましくはN30は32%を超えない。35℃での固形脂肪含有量(N35)は有利には少なくとも8%、特に少なくとも10%である。典型的には、N35は30%を超えず、より好ましくはN35は28%を超えない。
【0033】
ベーカリー用エマルションの脂肪相は典型的には1.5:1〜3.0:1、より好ましくは1.7:1〜2.5:1の範囲にあるN20:N35比を有する。
【0034】
本発明の特に好ましい実施形態によれば、ベーカリー用エマルションにおいて用いられる乳化剤としてはグリセリド乳化剤が挙げられる。さらにより好ましくは、エマルションは脂肪相の重量の0.3〜2.0%のグリセリドを含有し、このグリセリドはモノグリセリド、ジグリセリド、およびこれらの組み合わせから選択される。
【0035】
別の有利な実施形態によれば、ベーカリー用エマルションはリン脂質乳化剤を含有する。好ましくは、エマルションは脂肪相の重量の0.2〜1.5%のリン脂質を含有する。
【0036】
本発明によるベーカリー用エマルションは、好ましくは水性相の重量の少なくとも0.5%、より好ましくは少なくとも1%の塩を含有する。好ましくは、水性相の塩含有量は5重量%を超えず、最も好ましくは前記含有量は3重量%を超えない。
【0037】
ベーカリー用エマルションの水性相は好ましくは酸性化されている。有利には、前記水性相は2.5〜5.5の範囲にあるpHを有する。さらにより好ましくは、水性相のpHは5.0を超えない。
【0038】
本発明のベーカリー用エマルションの脂肪含有量は、好ましくは、パフペストリーの調製において通常用いられる脂肪製品の脂肪含有量よりも実質的に低い。したがって、本発明の特に有利な実施形態によれば、ベーカリー用エマルションは50〜62重量%の連続脂肪相と38〜50重量%の分散水性相とを含有する。
【0039】
ここで先に説明したように、本発明のエマルションの水性相はマルトデキストリンに加えて他の親水コロイドを含有してもよい。そのような親水コロイドの例としては、多糖類増粘剤、多糖類ゲル化剤およびタンパク質(ゼラチンなどの増粘タンパク質およびゲル化タンパク質を含める)が挙げられる。好ましくは、他の親水コロイドの量は水性相の重量の2.0%を超えない。
【0040】
有利には、本発明のベーカリー用エマルションはマルトデキストリン以外に限られた量の多糖類を含有する。したがって、エマルションは、マルトデキストリン以外に、好ましくは水性相の重量の0.5%未満、より好ましくは水性相の0.1重量%未満の多糖類を含有する。
【0041】
ベーカリー用エマルションはタンパク質親水コロイドなどの非多糖類親水コロイドを好適に含有してもよい。好ましくは、水性相に含有されるタンパク質親水コロイドの量も限定される。したがって、別の好ましい実施形態では、水性相は水性相の重量の2.0%未満、好ましくは1.0%未満のタンパク質親水コロイドを含有する。
【0042】
本発明のベーカリー用エマルションの硬さは、前記エマルションを用いて調製されるパフペストリー生地の取り扱いと強い相関がある。特に好ましい実施形態によれば、エマルションは20℃で200〜900g、より好ましくは350〜700gの硬さを有し、前記硬さは、ベーカリー用エマルションに4.4mmの径を有するプローブシリンダーが10mmの侵入深さまで2mm/sの侵入スピードで侵入するのに必要な最大の力(g)を測定することによって決定される。
【0043】
本発明の別の態様は、パフペストリー生地の調製方法であって、前記生地またはバッターに、小麦粉の重量の50〜120%の、ここで先に規定されたベーカリー用エマルションを組み込むことを採用することを含む方法に関する。
【0044】
ここで先に説明したように、ベーカリー用エマルションは、いわゆるフランス法およびいわゆるオランダ法などの、パフペストリーを調製する様々な方法で用いることができる。したがって、本発明の一態様は、生地を、フランス法に従って:
a)デンプン質生地のシートを供給することと;
b)ベーカリー用エマルションを前記シート上に塗布することと;
c)ベーカリー用エマルションを担持したシートを折り重ねることと;
d)折り重ねた層をシート状にすることと;
e)工程b)からd)を少なくとも1回、好ましくは少なくとも2回繰り返すことと
によって調製する方法である。
【0045】
別の態様は、生地を、オランダ法に従って:
a)生地の乾燥成分をベーカリー用エマルションの複数の別々の一部分(discrete pieces)と組み合わせることと;
b)液体成分を添加し、得られたブレンドを、ベーカリー用エマルションの不連続な塊(discrete lumps)を含有する生地に加工することと;
c)このようにして得られる生地を折り重ねかつシート状にすることを少なくとも1回、好ましくは少なくとも2回、さらにより好ましくは少なくとも3回行うことと
によって調製する方法である。
【0046】
本発明のさらに別の態様は、ここで先に規定した生地の調製方法によって得られるパフペストリー生地に関する。
【0047】
ここで先に記載の方法によって得られるパフペストリー生地は、170〜270℃まで、好ましくは180〜255℃まで加熱されたオーブンで好適に焼かれる。焼き時間は典型的には10〜30分の範囲内、より好ましくは15〜25分の範囲内にある。
【0048】
本発明は、ここで先に規定した生地調製およびベーキング方法によって得られるパフペストリーも包含する。
【0049】
本発明を、以下の非限定的な実施例によってさらに説明する。
【0050】

例1
低脂肪ベーカリー用エマルションを表1に記載のレシピに基づいて調製した。
【表1】

【0051】
低脂肪ベーカリー用エマルションにおいて使用された脂肪は以下の固形脂肪プロファイルを有していた。
【0052】
20 40.2
30 24.8
35 20.2
ベーカリー用エマルションを以下の通りに調製した:
・脂肪を、それを60℃まで加熱することによって溶融させた;
・溶融した脂肪に、乳化剤、着色料、香味料、および抗酸化剤を加えた;
・強く撹拌しながら、マルトデキストリンを脂肪相に加えた;
・塩、香味料、ソルベート、および酸を55℃の温度の水道水に加えることによって、水性相を調製した。水性相のpHは3.8であった。
【0053】
・強く撹拌しながら、水性相を脂肪相に加えた。撹拌を20分間続けた;
・かきとり表面式熱交換器および晶析装置の組み合わせへ投入する前に、エマルションを平板熱交換器において加熱した;
・このようにして作った塑性の低脂肪ベーカリー用エマルションを包材で包装した。
【0054】
例2
マルトデキストリンを水で置き換えることによってマルトデキストリン濃度を9重量%(水性相の重量の20%)まで低下させた点を除き、例1で説明したのと同様の方法で低脂肪ベーカリー用マーガリンを作った。
【0055】
例3
マルトデキストリンを水で置き換えることによってマルトデキストリン濃度を5重量%(水性相の重量の11.1%)まで低下させた点を除き、例1で説明したのと同様の方法で低脂肪ベーカリー用マーガリンを作った。
【0056】
例4
マルトデキストリンを水で完全に置き換えた点を除き、例1で説明したのと同様の方法で低脂肪ベーカリー用マーガリンを作った。
【0057】
例5
例1〜4で説明した低脂肪ベーカリー用エマルションおよび高脂肪(80重量%脂肪)パフペストリーマーガリンを使用し、下記に記載のレシピ、装置、および手順を使用して、パティ・シェル(patty shells)を調製した。
【表2】

【0058】
装置
・Diosnaスパイラルニーダ SP-24F(生地容量24kg)
・ラミネート機(Fritsch、Roll-fix 60〜650 e)
・パティ・シェルカッター(Φ外側:8.5cm、φ内側:5.5cm)
手順
・小麦粉、塩、および水をスピード1で2分間、およびスピード2で2分間混合する。ビニール(plastic)で覆い、生地を20℃で30分間休ませる。
【0059】
・生地を7mmまで薄層状に伸ばす(roll−fixプログラム5)。
【0060】
・生地の中央にマーガリンを置き、折りこむ。90°回転させる(すきまがある方が上、テーブルと平行)
・以下の一連の手順を2回行う:
生地を7mmまで薄層状に伸ばす(roll-fixプログラム5)
4つ折りにする。90°回転させる。
【0061】
生地を7mmまで薄層状に伸ばす(roll-fixプログラム5)
3つ折りにする。90°回転させる。
【0062】
・ビニールシートで覆い、生地を20℃で30分間休ませる。
【0063】
・以下の一連の手順を2回行う:
生地を7mmまで薄層状に伸ばす(roll-fixプログラム5)
4つ折りにする。90°回転させる。
【0064】
生地を7mmまで薄層状に伸ばす(roll-fixプログラム5)
3つ折りにする。90°回転させる。
【0065】
・生地を4mmまで薄層状に伸ばす(roll-fixプログラム3)。
【0066】
・シートの2/3を切り取り、テーブルに置く。4mmの積層物を使用してシェルの上部を作る。
【0067】
・他方の1/3の部分を2.5mmまで薄層状に伸ばし、テーブルに置き、ピンで突き刺し(pin over)、はけで水を少し塗る。この部分を使用してシェルの底部を作る。
【0068】
・自動カッターを使用してパティ・シェルを作る。
【0069】
・12個のパティをトレーに並べる。
【0070】
・パティを1時間休ませる。
【0071】
・上側255℃、下側210℃で20分を超えて焼き、15分後に鍵を開ける。
【0072】
こうして得られたパティ・シェルを、重力指数、オーブンによる膨らみ、積層構造、サクサク感および食感に関して評価した。積層構造、サクサク感および食感を、専門家の審査団によって1〜5の評価スケールを用いて評価した。これらの評価の結果を以下の表に示す。
【表3】

【0073】
これらの結果から、9重量%または14重量%のマルトデキストリン(DE 2〜3)を含有する低脂肪ベーカリー用エマルションが5重量%の同じマルトデキストリンを含有するまたはマルトデキストリンを全く含有しない低脂肪ベーカリー用エマルションよりも実質的に性能が良好であったことが分かる。
【0074】
14重量%のマルトデキストリン(水性相の重量の31.1%)を含有した低脂肪ベーカリー用エマルションについて、最も良い結果が得られた。
【0075】
これらの結果から、14重量%のマルトデキストリンを含有する低脂肪ベーカリー用エマルションが標準的な高脂肪パフペストリーマーガリンと同様に性能が良好であったことがさらに分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低脂肪ベーカリー用エマルションであって、39〜65重量%の連続脂肪相と35〜61重量%の分散水性相とを含み、前記水性相は以下の組成:
・60〜80重量%の水;
・DEが1〜5の範囲にある18〜40重量%のマルトデキストリン;
・0〜5重量%の他の親水コロイド;
・酸、塩およびこれらの組み合わせから選択される0〜6重量%の溶存成分;
・0〜2重量%の他の可食成分
を有し、前記連続脂肪相は以下の組成:
・94〜99.5重量%のトリグリセリド;
・モノグリセリド;ジグリセリド;リン脂質;モノグリセリドおよび/またはジグリセリドと酢酸、乳酸、クエン酸、酒石酸およびジアセチル酒石酸から選択される酸とのエステル、脂肪酸の糖エステル、脂肪酸のポリグリセロールエステル、ポリグリセロールポリリシノレアート、脂肪酸のプロピレングリコールエステル、脂肪酸のソルビタンエステル、ステアロイルラクタートおよびこれらの組み合わせから選択される、0.5〜5重量%の乳化剤;
・0〜2重量%の他の可食成分
を有し、前記脂肪相は以下の固形脂肪プロファイル:
・25%≦N20≦50;
・15%≦N30≦35%;
・5%≦N35≦30%
を特徴とするベーカリー用エマルション。
【請求項2】
前記水性相の重量の20〜36重量%のマルトデキストリンを含有する請求項1に記載のベーカリー用エマルション。
【請求項3】
前記マルトデキストリンが1.5〜4の範囲内、好ましくは1.8〜3の範囲内のDEを有する請求項1または2に記載のベーカリー用エマルション。
【請求項4】
前記マルトデキストリンが加水分解したポテトスターチである請求項1〜3のいずれか1項に記載のベーカリー用エマルション。
【請求項5】
前記脂肪相は以下の固形脂肪プロファイル:
・35%≦N20≦50%;好ましくは35%≦N20≦48%
・18%≦N30≦35%;好ましくは20%≦N30≦32%
・8%≦N35≦30%;好ましくは10%≦N35≦28%
を特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のベーカリー用エマルション。
【請求項6】
前記脂肪相はN20:N35の比が1.5:1〜3.0:1、好ましくは1.7:1〜2.5:1の範囲にある請求項1〜5のいずれか1項に記載のベーカリー用エマルション。
【請求項7】
前記脂肪相の重量の0.3〜2.0%の、モノグリセリド、ジグリセリドおよびこれらの組み合わせから選択されるグリセリドを含有する請求項1〜6のいずれか1項に記載のベーカリー用エマルション。
【請求項8】
前記脂肪相の重量の0.2〜1.5%のリン脂質を含有する請求項1〜7のいずれか1項に記載のベーカリー用エマルション。
【請求項9】
50〜62重量%の連続脂肪相と、38〜50重量%の分散水性相とを含有する請求項1〜8のいずれか1項に記載のベーカリー用エマルション。
【請求項10】
前記水性相の重量の0.5%未満、好ましくは前記水性相の重量の0.1%未満の、マルトデキストリン以外の多糖類を含有する請求項1〜9のいずれか1項に記載のベーカリー用エマルション。
【請求項11】
前記水性相が該水性相の重量の2.0%未満、好ましくは1.0%未満のタンパク質を含有する請求項1〜10のいずれか1項に記載のベーカリー用エマルション。
【請求項12】
前記エマルションは20℃で350〜700gの硬さを有し、前記硬さは、径が4.4mmであり、侵入深さが10mmであり、侵入速度が2mm/sであるプローブシリンダーを使用して測定される請求項1〜11のいずれか1項に記載のベーカリー用エマルション。
【請求項13】
パフペストリー生地の調製方法であって、前記生地またはバッターに、小麦粉の重量の50〜120%の、請求項1〜12のいずれか1項に記載のベーカリー用エマルションを組み込むことを採用することを含む方法。
【請求項14】
a)デンプン質生地のシートを供給することと;
b)前記ベーカリー用エマルションを前記シート上に塗布することと;
c)前記ベーカリー用エマルションを担持した前記シートを折り重ねることと;
d)折り重ねた層をシート状にすることと;
e)工程b)〜d)を少なくとも1回繰り返すことと
によって前記生地を調製する請求項13に記載の方法。
【請求項15】
a)前記生地の乾燥成分を前記ベーカリー用エマルションの複数の別々の一部分と組み合わせることと;
b)液体成分を添加し、得られたブレンドを、前記ベーカリー用エマルションの不連続な塊を含有する生地に加工することと;
c)このようにして得られた生地を折り重ねかつシート状にすることを少なくとも1回行うことと
によって前記生地を調製する請求項13に記載の方法。

【公表番号】特表2013−520988(P2013−520988A)
【公表日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−556034(P2012−556034)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【国際出願番号】PCT/NL2010/050666
【国際公開番号】WO2011/108919
【国際公開日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(505152480)シーエスエム・ネーデルランド・ビー.ブイ. (9)
【Fターム(参考)】